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Forever Love Story~運命の出会い~(ジル)

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これは、とある国の城下で暮らすあなたと、
隣国から来た彼とのシンデレラストーリー。
あなたが恋に落ちる、運命の相手は…―
……
あなたの世界を広げてくれる、宰相のジル=クリストフ…?
ジル:また、私の国へ来てください
ジル:これからは恋人として、貴女のことをもっと教えて頂けませんか?
……
王子様との偶然の出逢いは、永遠に続く恋の始まり…―

 

 

 

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プロローグ:

 

 

これは、とある国で綴られる、あなただけのシンデレラストーリー…―
よく晴れたある日、私は友人のユーリとアルバートに、ある相談をしていた。
テーブルを挟んで向かいに座るアルバートが、わずかに眉を寄せる。
アルバート:新しい生徒が心を開いてくれない…ですか
吉琳:はい…。ご両親に聞いたら恥ずかしがり屋な子みたいで
ユーリ:ただ勉強を教えるだけじゃないから、家庭教師って大変だよね
吉琳:うん。それが、やりがいでもあるんだけどね
アルバートの隣に座っているユーリへ、にこっと微笑んで答えた。

 

(二人とも、いつもこうして真剣に話を聞いてくれてありがたいな)

 

街の人々に手紙を届ける仕事をしているユーリと、
私と同じく家庭教師をしているアルバートとは、
家が近所なことから親しくなり、こうしてよく相談にのってもらっている。

 

(あの子が楽しく勉強してくれるようになったらいいんだけれど…)

 

そう思って小さく息をつくと、ユーリが楽しげに声をあげた。
ユーリ:そうだ。勉強の前に、何か楽しい話をしてあげるのはどう?
ユーリ:たとえば、今この国に来てる隣国の王子一行の話とか
吉琳:隣国の王子様…?
首を傾げる私とは対照的に、アルバートは呆れた様子で大きくため息をつく。
アルバート:貴様、その話がしたいだけだろう
ユーリ:えーそんなことないよ。いい話題でしょ
アルバート:…賛同するわけではないが、確かに話は弾むかもしれないな
吉琳:アルバートも知ってるんですか?
アルバート:…ええ。城下に広く知れ渡っている情報ではありませんが、
アルバート:俺は家庭教師先の貴族の屋敷で聞きました
アルバート:隣国の王子が、視察のため数名の要人と共にこの国を訪れている、と
吉琳:そうだったんですね

 

(全然知らなかった)

 

ユーリ:俺、いいもの持ってるよ
そう言ったユーリは、
ポケットから小さく折りたたんだ新聞を取り出し、テーブルの上に広げた。
吉琳:これは…?
ユーリ:その王子たちの情報
新聞に視線を落とすと、四人の名前と不鮮明な肖像画が載っている。

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アルバート:アラン=クロフォード、ルイ=ハワード、
アルバート:ジル=クリストフ、レイヴィス=ハルナイト
ユーリ:ルイ様が隣国の王子
ユーリ:公爵のアラン様とレイヴィス様は、ルイ様のご友人だって
ユーリ:ジル様は隣国の宰相らしいよ
すらすらと説明をしてくれたユーリに驚き、思わず顔を上げる。
吉琳:詳しいんだね
ユーリ:手紙を配達してると、色んな話を聞くから
ユーリ:この新聞も、隣国に行ったことがあるっていうおじいさんから貰ったんだ
楽しげにそう言ったユーリは、何故かむっとした表情で続けた。
ユーリ:でもこれ、けっこう古い新聞みたいで、
ユーリ:せっかく肖像画が載ってるのに、顔がよく分からないんだよねー
アルバート:顔を知ったところで、どうしようもないだろう
アルバート:視察をする時は大勢に囲まれてきっと見えないはずだ
ユーリ:えー

 

(隣国の王子様たちか…あの子と打ち解けるきっかけになる気がする)

 

吉琳:二人ともありがとうございます。この話、あの子にしてみます

 

***

 

その日の夜…―
私は、昼間ユーリとアルバートに相談した子に勉強を教え終わり、
自分の家へと向かっていた。

 

(少し遅くなってしまったけれど、あの子…笑ってくれてよかった)

 

話が弾み、すっかり打ち解けた教え子との会話を思い返していた、その時…
吉琳:っ……!
小石につまずき、足をくじいて転んでしまった。

 

(…痛みは強くないし何とか歩けそうかな……)

 

そう思って立ち上がろうとすると、目の前にある人物が近づいて…―

 

 

どの彼と物語を過ごす?

>>>ジルを選ぶ

 

 

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第1話:

 

 

 

(…痛みは強くないし何とか歩けそうかな……)

 

そう思って立ち上がろうとすると、目の前にある人物が近づいて…
???:大丈夫ですか?
紫の髪色をした男性が瞳を穏やかに細め、声をかけてくれた。
吉琳:はい…。大丈夫です

 

(転んだところを見られてしまったかな。…恥ずかしい)

 

ごく自然に差し出された手を、遠慮がちに取って立ち上がり、頭を下げる。
吉琳:助けて頂いて、ありがとうございました
???:私は手をお貸ししただけですよ
余裕のある笑みで告げる様子は、どこまでも物腰が柔らかだった。

 

(この辺りでは、お見かけしたことがないけれど紳士な方だな…)

 

そうして、目の前にある整った顔をつい見つめていると、
男性がふっと微笑んで口を開く。
???:家までお送りしましょう。
???:こんな時間に女性が一人で出歩くのは、危ないですから
吉琳:ですが、すぐ近くですし…

 

(それに、そこまでしてもらうのは申し訳ないよね)

 

遠慮する私に、男性は苦笑をこぼして続けた。
???:見ず知らずの男を警戒する気持ちは分かりますが、
???:このまま一人で帰す方が心配です

 


=====

 


遠慮する私に、男性は苦笑をこぼして続けた。
???:見ず知らずの男を警戒する気持ちは分かりますが、
???:このまま一人で帰す方が心配です
警戒していると誤解されてしまったようで、私は慌てて言い直す。
吉琳:い、いえ。そういうわけではないんです
吉琳:ただ、初めて逢った方にそこまでして頂くのは気が引けてしまって
???:なるほど
???:……
男性は、何かを考えるように口をつぐんだ。

 

(誤解はとけたみたいだけれど…急にどうしたのかな)

 

目の前の男性を不思議に思いながら見つめていると、
再び穏やかな笑みを口元にのせて、男性が話し始める。
ジル:私は、ジルと申します。貴女の名前を伺っても?
吉琳:吉琳、です…
ジル:では吉琳さん。交換条件、というのはいかがでしょう
吉琳:…え?
ジルと名乗ったその人が、唐突に提案したある条件に、
私は、戸惑いつつも承諾したのだった。

 

***

 

その翌日の夜…―

 


=====

 


その翌日の夜…―
昨夜、出逢ったジルさんと共に、
私は、大きな教会がそびえる広場にやって来ていた。
吉琳:この広場は、街の中心になっていて、
吉琳:市場が開かれたり、お祭りの会場になったりするんです
私の説明に、ジルさんはにこやかに頷いて広場を見渡す。
ジル:きっと昼間は大勢の人で賑わうのでしょうね
吉琳:はい
ジルさんの出した交換条件は、
私を家まで送る代わりに、この街を案内することだった。

 

(突然、言われた時は驚いたけれど……)

 

私は、昨夜に告げられたことを思い返す。

 

〝ジル:私は隣国から仕事で来ていて、この国を色々と見て回る予定でした〞
〝ジル:ただ一人で見るよりも、詳しい方に案内して頂きたいと思っていたんです〞

 

(実際に案内をしてみて思ったけれど、)
(自分の大好きな街を知ってもらうのは、何だか嬉しい)

 

そんな弾んだ気持ちで笑みをこぼした時、
時計台から真夜中を告げる鐘が鳴り響き…―
ジル:あれは…

 


=====

 


そんな弾んだ気持ちで笑みをこぼした時、
時計台から真夜中を告げる鐘が鳴り響き…
ジル:あれは…
ジルさんは、音に導かれるように時計台を見上げ、楽しげに目を細める。
私も同じように視線を送ると、猫がネズミを追うからくりが動き出していた。
ジル:可愛らしいからくりですね
ジル:あれはどうやって動いているんですか?
吉琳:…確か、時計台の整備師の方が、時間ごとに動かしていたような…
ジルさんの質問に、曖昧な記憶を探りながら自信のない声で答える。

 

(そこまで詳しく考えたことがなかったな)
(ジルさんに聞かれなかったら、ずっと知らないままだったかも)

 

そう思うと、だんだんと仕組みが気になってしまい、私はあることを告げた。
吉琳:ちゃんと調べて明日、説明してもいいでしょうか
ジル:え?
吉琳:家庭教師という仕事をしていますから、中途半端なことをお伝えしたくないんです
私からそうお願いしてみると…―

 


=====

 


吉琳:家庭教師という仕事をしていますから、中途半端なことをお伝えしたくないんです
私からそうお願いしてみると…
ジル:……
ジルさんは、少し驚いた様子で瞳を見開いたものの、
すぐに穏やかな眼差しで私を真っ直ぐに見つめた。
ジル:そういった考えで仕事に向き合っているとは、素敵な方ですね
ジル:貴女に勉強を教わる子どもたちは幸せでしょう
吉琳:そ、そんな…
優しい微笑みと共に褒められて、思わず胸の奥で鼓動が音を立てる。

 

(面と向かって、素敵だなんて言われたのは初めて……)
(嬉しいけれど、少し照れてしまう)

 

ほんのりと頬を熱くする私に、
ジルさんは、くすっと口の端を持ち上げてから告げた。
ジル:それでは明日、宜しくお願いします
吉琳:はい!

 

(見慣れた街なはずなのに、まだ知らないことが沢山あるんだな)
(ジルさんに話すことで、私も小さな発見が出来て、良かった)

 

それからも一緒に広場を歩いていると、
私が何気なく切り出した家庭教師の話の流れから、
ジルさんが、気遣うようにしながら問いかけた。
ジル:差し支えなければ、何故、家庭教師を目指したのかお聞きしても?
ジル:この国では、妙齢の女性は結婚して家庭に入ることが多いと聞いていたものですから、
ジル:縁談なども来るのではありませんか?
吉琳:はい。そうなんですが…お断りしているんです
笑顔で答えて、私はさらに言葉を重ねる。
吉琳:今は子どもたちが一番で、他のことが考えられなくて…
吉琳:ずっと夢だった仕事なので
素直な気持ちを伝えると、ジルさんはどこか嬉しそうに表情を緩めた。
ジル:そうですか
ジル:……私も同じです
吉琳:えっ

 

(同じ…?)

 

どういうことかと聞き返した私に、ジルさんは小さく首を横に振る。
ジル:いえ、何でもありませんよ
ジル:次は、高台に行きたいのですが宜しいですか?
吉琳:はい…

 

(同じって、どういうことだったんだろう)

 

さらりと話を流され、私は疑問を胸の奥に引っ込めて案内を続けた。

 

***

 

それから三日後…―

 

 

 

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第2話:

 

 

 

それから三日後…―
この日、私とジルさんはお互いの時間が合い、昼間から街を散策していた。
ひと通り案内し終えて、私の家の近くまで戻って来た時、
ふと胸の内に、微かな寂しい気持ちが湧いてくる。

 

(今日でジルさんに街を案内するのも終わってしまうんだ…)
(何だか、あっという間だったな)

 

ジル:この数日間、ありがとうございました
お礼を告げられ、私は考えにふけって下げていた視線を、はっと持ち上げた。
吉琳:私も改めて街のことを学べて、楽しかったです
吉琳:ジルさんに説明していると、
吉琳:今まで何気なく見ていたものを、新しい目線で知ることが出来たので…
この数日間の思い出を頭に浮かべながら、にこっと笑みを向けると、
ジルさんも微笑みを返す。
ジル:貴女は、本当に勉強熱心な方ですね

 

(あ、また褒めてくれた)

 

ジルさんの言葉に、胸の奥が少し、くすぐったくなる。
ジル:もし宜しければ、他国のことも学んでみるのはいかがですか?
吉琳:え?
突然そう告げたジルさんは、胸元のポケットから一通の封筒を取り出し…―
ジル:今度は私の国を案内しましょう

 


=====

 


ジル:もし宜しければ、他国のことも学んでみるのはいかがですか?
吉琳:え?
突然そう告げたジルさんは、胸元のポケットから一通の封筒を取り出し…
ジル:今度は私の国を案内しましょう
吉琳:……!
ジル:案内して頂いたお礼です

 

(これは…?)

 

差し出された封筒を見て、瞬きを繰り返す私に、
ジルさんが、にっこりと微笑む。
ジル:そこに、私の仕事場所までの地図を入れておきました
吉琳:ですが、街の案内は、家まで送って頂いた交換条件なのに…
ジル:それにしては貰いすぎてしまいましたから
ジルさんの笑顔に、それ以上は何も言えなくなる。

 

(こんなことまでして頂いて、本当にいいのかな。……けれど、)
(異国のことを学ぶのも、いい勉強になりそう)

 

吉琳:ありがとうございます
迷いつつも、わずかに好奇心が勝って、私は封筒を受け取った。

 

***

 

それから二週間後、
ジルさんに手紙を書いて準備を整え、隣国へと向かって…―
吉琳:え……ここ…?
私は、ジルさんからもらった地図に記された場所を訪れていた。
しかし…

 

(ジルさんの仕事場所って…まさかこのお城?)

 

目の前にそびえる立派なお城に圧倒されていると、
ふいに後ろから声をかけられて…―
???:君が、吉琳ちゃん?

 


=====

 


(ジルさんの仕事場所って…まさかこのお城?)

 

目の前にそびえる立派な城に圧倒されていると、
ふいに後ろから声をかけられ…
???:君が、吉琳ちゃん?

 

(え…?)

 

振り返ると、背後に立っていた銀髪の男性が、笑顔で歩み寄ってくる。
???:今、ジルはちょっと手が離せなくて、代わりに出迎え頼まれててさ
吉琳:あなたは…
少し戸惑いつつ問いかけると、銀髪の男性が苦笑をこぼした。
レオ:俺はレオ=クロフォード
レオ:一応、この国の貴族だから警戒しないでほしいな

 

(貴族…!?)

 

レオさんの言葉に、はっとして訊ねる。
吉琳:もしかして…ジルさんも貴族の方なんですか?

 

(確かに、物腰が優雅だったけれど気さくに話してくださったから、)
(まさか貴族の方だとは、思わなかった)

 

そんな私の反応に気づいたのか、レオさんが少し驚いたように答えた。
レオ:あれ、聞いてなかったんだ
レオ:ジルは、この国の宰相だよ

 


=====

 


レオ:あれ、聞いてなかったんだ
レオ:ジルは、この国の宰相だよ

 

(え…宰相?)

 

さらに目を丸くした私の脳裏に、ユーリとアルバートの言葉がよみがえる。

 

〝アルバート:ジル=クリストフ〞
〝ユーリ:ジル様は隣国の宰相らしいよ〞

 

(名前も聞いていたのに、どうして気づかなかったんだろう)
(…街を案内している間、失礼なことを言わなかったかな)

 

今さら心配をしていると、レオさんが楽しげに笑う。
レオ:ジルも悪い男だね。こんな可愛い子に、自分の素性を隠しておくなんて
レオ:驚くことばかりだと思うけど、とりあえず中に入ろうか
吉琳:はい…ありがとうございます

 

(どんな顔をして逢えばいいのか、分からなくなってきた…)

 

レオさんに促され、私は妙に緊張した一歩を踏み出した。

 

***

 

その後、仕事がひと段落したというジルさんの部屋に、招かれたものの、
緊張しすぎて、机を挟んで向かいに座るジルさんの顔が直視出来ずにいた。
ジル:まずは、素性を黙っていてすみませんでした
ジル:本当のことを話しては、あのように街を案内して頂けないかと思ったので
少し申し訳なさそうに言ったジルさんに、私は慌てて首を横に振る。
吉琳:いえ…

 

(確かに、本当のことを知っていたら、)
(今みたいに緊張しすぎて、ちゃんと案内出来なかったかもしれない…)

 

わずかに汗ばむ手で膝のスカートを握っていると、
ジルさんがふっと微笑みを浮かべ…―
ジル:ですが、貴女の国でお約束したことはきちんと守りますよ

 


=====

 


わずかに汗ばむ手で膝のスカートを握っていると、
ジルさんがふっと微笑みを浮かべ…
ジル:ですが、貴女の国でお約束したことはきちんと守りますよ
ジル:今夜、お時間を頂けますか?
吉琳:えっ
ジルさんの問いかけに、思わず驚きの声が出る。

 

(約束したことってもしかして…)

 

吉琳:この国を、案内してくれるんですか?
ジル:ええ。もちろん
そう告げたジルさんの微笑みが、わずかに私の鼓動を震わせた。

 

***

 

その夜…―
私は、滞在する宿から近い港でジルさんを待っていた。

 

(お忙しそうだったし、やっぱり遠慮した方がよかったかな)

 

そう考えながら思い出すのは、城からの帰りのことだった。
城の外まで私を見送りに出てきてくれたジルさんが、
廊下を歩いている最中、何度も色々な方たちに呼び止められ、
その度、てきぱきと指示を出していた姿が印象に残っている。

 

(お城の方々に、凄く信頼されているみたいだったな…)

 

宰相として周りからの信頼が厚い姿を尊敬していると、聞き覚えのある声が響いた。
ジル:お待たせしました
吉琳:あ…ジル様
ジル:『様』…?
驚いた表情をするジルさんに、私は微かに目を伏せる。
吉琳:今まで通りお呼びするわけには……
そう言いかけると、ふいに唇へと人差し指をあてられ…―
吉琳:っ……
ジル:『様』付けは困りますね

 

 

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第3話:

 

 

 

吉琳:今まで通りお呼びするわけには……
そう言いかけると、ふいに唇へと人差し指をあてられ…
吉琳:っ……
ジル:『様』付けは困りますね
ジル:宰相だと気づかれては、ゆっくり案内出来ません
ジルさんの指が触れた唇が、ほんのりと熱を持つ。
吉琳:では、ジルさんと…
押し当てられた指先の温もりが気になって、たどたどしく唇を動かして提案すると、
ジルさんが納得したように、にこやかに頷き、そっと指先を離す。
ジル:それでは行きましょうか
吉琳:はい

 

(どうしよう…何だか、唇が熱いままだ)

 

私は火照り始めた顔を見られないように、さりげなく顔を背けて歩き始めた。

 

***

 

夜に出る市場や、行商人で賑わう港などをジルさんに案内してもらい、
その珍しい異国の風景に、私は自然と心が躍っていた。

 

(当たり前だけれど、私の国とは景色も雰囲気も、全然違う)

 

辺りをきょろきょろと見ながら笑みをこぼす私に、
ジルさんが目を細めて声をかけた。
ジル:どうやら、楽しんでもらえているようですね

 


=====

 


辺りをきょろきょろと見ながら笑みをこぼす私に、
ジルさんが目を細めて声をかけた。
ジル:どうやら、楽しんでもらえているようですね
吉琳:はい! とっても
そうしてしばらく、二人で楽しく話しながら歩いていると、
ふと一匹の猫が路地へ歩いていくのが目に入る。
吉琳:あっ
ジル:どうされました?
吉琳:路地裏へ猫が歩いていくのが見えて…
吉琳:ああいうところは、どの国も一緒なんだなと思ったんです
猫が消えて行った路地を、微笑ましい気持ちで見ていると、
ジルさんが思い出したように口を開く。
ジル:そういえば、貴女の国で見た時計台のからくりも、
ジル:猫がネズミを追いかけるものでしたね
吉琳:はい
一緒に回った街のことをよく覚えていてくれたのが嬉しくて、胸の中が温かくなる。
吉琳:裏の路地は近道になることが多いので、私の国でもよく猫に逢いますよ
ジル:近道ですか。あの狭くて一見、不便そうに見える路地も、
ジル:住人にとっては大事な通路なのでしょう
そう言って通路を見つめながら、真剣な表情で何かを考えているジルさんの様子が、
昼間、城ですれ違う方々にてきぱきと指示を出していた姿と重なった。

 

(とても忙しそうに見えたけれど、お仕事が好きなのかもしれない)
(あの路地についても、きっと宰相の立場で、色々考えているんだろうな…)

 

そんなジルさんの仕事熱心な様子がうかがえる横顔を見つめているうちに、
不思議と鼓動が、騒がしい音を立て始める。

 

(あれ? 私……)

 

思わず胸をきゅっと押さえる。

 

(この感覚…何だろう?)

 

ジル:どうされました?

 


=====

 


そんなジルさんの仕事熱心な様子がうかがえる横顔を見つめているうちに、
不思議と鼓動が、騒がしい音を立て始め…

 

(あれ? 私……)

 

思わず胸をきゅっと押さえる。

 

(この感覚…何だろう?)

 

ジル:どうされました?
吉琳:い、いえ。何でもありません
自分でもよく分からない気持ちを言葉に出来ず、首を振って誤魔化した。
ジル:…そうですか
ジルさんはわずかに首を傾げたものの、すぐに柔らかな微笑みを口元に浮かべる。
ジル:それにしても貴女といると、学ぶことが多いですね
吉琳:私こそ、ジルさんといると世界が広がったように思えて、
吉琳:色んなことを勉強出来ます
胸の奥の違和感に気づかないふりをして、私も笑みを返すと、
ジルさんが満足そうに頷いた。
ジル:それは良かった

 

(あ、でも…)

 

吉琳:あの…お聞きしてもいいですか
ジル:何でしょう
私は、ずっと気になっていたことを思いきって訊ねてみる。
吉琳:招待してくださったことも、こうして案内して頂けるのも、凄く嬉しいです
吉琳:ですが、今度は私が貰いすぎているような気がして…
吉琳:どうして、ここまでしてくれるんですか?

 

(ただの、親切心なのかもしれないけれど、やっぱり気になるから…)

 

すると、ジルさんはふと足を止め、腰を屈めて私の顔を覗き込んだ。
吉琳:っ…
互いの顔の距離の近さに、思わず鼓動を速くしていると、
ジルさんが意味ありげに微笑んで…―
ジル:…どうしてだと思いますか?

 


=====

 


互いの顔の距離の近さに、思わず鼓動を速くしていると、
ジルさんが意味ありげに微笑んで…
ジル:…どうしてだと思いますか?
吉琳:っ…質問に質問で返すのは、ずるいです…
思わず頬を熱くしていると、ジルさんが、くすっと笑みをこぼす。
ジル:私はずるい男なんですよ
そう告げて、ジルさんは顔を離したものの、私の胸は早鐘を打ち続けている。

 

(そんな言い方をされたら、変な期待をしてしまう)

 

さらに熱くなる顔を見られないように、私は俯きながら歩みを進めた。

 

***

 

翌日…―
私はお城の周辺を見せてもらうために、長い廊下を歩いていた。
そうして、ジルさんの部屋の前まで来た時、
薄く開いた扉の向こうから話し声が聞こえてくる。
ジル:今回も断ってください
レオ:はいはい

 

(立ち聞きは、よくないのかもしれないけれど…)

 

つい気になってしまい、そっと中をうかがう。
するとそこには、話をしているジルさんとレオさんの姿があった。
レオ:公務に専念したいって気持ちも分かるけど、
レオ:あんまり縁談断ってばかりだと、印象よくないんじゃない?
ジル:分かっていますよ

 

(個人的な話みたい)

 

思い直して、その場を離れようとすると…
レオ:もしかして、吉琳ちゃんは縁談よけ?

 


=====

 


思い直して、その場を離れようとすると…
レオ:もしかして、吉琳ちゃんは縁談よけ?
レオ:夜中にデートなんかしちゃって
吉琳:っ……
自分の名前が出たことにも、そのすぐ後に続いた衝撃的な言葉にも、
私は、ぎくっと肩を揺らした。
私は、ジルさんの部屋を覗いていた身体を慌てて扉から離す。
それと同時に、昨夜のジルさんの意味ありげな微笑みを思い出した。

 

〝吉琳:どうして、ここまでしてくれるんですか?〞
〝ジル:…どうしてだと思いますか?〞

 

(本当に、縁談よけのため…だったのかな)

 

吉琳:っ……
自分でも驚くほどに痛んだ胸を、手で押さえるようにして、
私は、静かに廊下を引き返していった。

 

***

 

その夜…―
あの後、私は体調が悪くなったと嘘の伝言を城のメイドさんに頼み、
一人で宿へと戻って来ていた。
ベッドに腰かけ、城での出来事を思い返して、ぎゅっと手を握る。

 

(あの時、『同じ』って言っていたのは、こういう意味だったんだ)

 

〝ジル:縁談なども来るのではありませんか?〞
〝吉琳:はい。そうなんですが…お断りしているんです〞
〝吉琳:今は子どもたちが一番なので、他のことが考えられなくて…〞
〝ジル:……私も同じです〞

 

(お仕事を大切にしている気持ちは私も分かる)
(…なのに何で、こんなに悲しくなるんだろう)

 

ジルさんが熱心に仕事へ向き合う姿を垣間見た分、
協力出来るならしたいと思うのに、何故か悲しい気持ちが増してくる。
どうしたらいいのか分からずにいると、ふいに扉がノックされて…―
ジル:吉琳さん、いらっしゃいますか?

 

 

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第4話-プレミア(Premier)END:

 

 

 

ジルさんが熱心に仕事へ向き合う姿を垣間見た分、
協力出来るならしたいと思うのに、何故か悲しい気持ちが増してくる。
どうしたらいいのか分からずにいると、ふいに扉がノックされて…
ジル:吉琳さん、いらっしゃいますか?

 

(あっ)

 

扉越しに聞こえたジルさんの声に、思わずびくりと肩が跳ねた。

 

(もしかして、様子を見に来てくれたのかな…)

 

今は上手く話せる自信がなくて、一瞬、返事をためらったものの、
ジルさんの優しい気持ちを無視するのは心が痛くて、私は扉をそっと開ける。
案の定、扉の向こうには心配そうな顔をしたジルさんが立っていた。
ジル:気分が優れないと聞きましたが、大丈夫ですか?
吉琳:はい…
ジル:…あまり、顔色がよくありませんね
嘘をついた後ろめたさから、わずかに顔を下に向けると、
ジルさんが私の頬に手を添えて顔を上げさせ、視線を合わせた。
吉琳:っ……
見つめられるだけで、うるさいぐらいに胸が騒いで、呼吸まで苦しくなる。

 

(何でこんな気持ちに…)

 

ジル:……
すると、私を見つめていたジルさんが、私の頬から手を離し、
いっそう柔らかく目を細め…―

 


=====

 


すると、私を見つめていたジルさんが、私の頬から手を離し、
いっそう柔らかく目を細め…
ジル:明日お帰りになるのでしょう?
ジル:……
ジル:…今夜は、ゆっくりと休んでください
ジルさんは、他にも何か言いたげにしていたものの、
ただ優しく、労わるような言葉をかけてくれた。
吉琳:…はい
そんなジルさんの様子が少し気になりながらも、小さく頷きを返すと、
ジルさんは微笑みを残して、扉を閉める。

 

(…そうだ。明日には、帰らないといけないんだよね)
(この気持ちの正体は…分からないままだけれど)

 

私は微かに痛む胸に手を添え、しばらくその場に立ちつくしていた。

 

***

 

翌日、私は自分の国へと帰り、それから数日が経って…―
私はいつも通り、ユーリが届けてくれる手紙を受け取っていた。

 

(あれから色々考えてみたけれど…答えが出ない)

 

ついジルさんのことばかりを考えて小さく息をつくと、ユーリが心配そうに言う。
ユーリ:最近、元気ないね。よかったら話聞くよ

 

(誰かに話してみたら、この気持ちの原因が分かるかもしれない)

 

吉琳:うん…ありがとう
ユーリを部屋に招き入れて、近くの椅子を勧める。
そして、隣国での出来事をぽつぽつと話すと…―
ユーリ:なーんだ。そんなことなら、もっと早く相談してくれたらよかったのに
吉琳:え?

 


=====

 


ユーリを部屋に招き入れて、近くの椅子を勧める。
そして、隣国での出来事をぽつぽつと話すと…
ユーリ:なーんだ。そんなことなら、もっと早く相談してくれたらよかったのに
吉琳:え?
ユーリ:それは、恋だよ
にっこりと放たれた言葉に、私は目を丸くした。
吉琳:……!

 

(恋…? 私が、ジルさんに…?)

 

ジルさんとの思い出が一気に頭の中を駆け巡り、頬が熱くなっていく。

 

(そっか…好きだから、あんなにドキドキして、)
(…私が誘われたのは、縁談よけだって知って、胸が痛くなったんだ)

 

ようやく自分の心を理解出来て、一人で頷いていた私に、ユーリが笑顔を向けた。
ユーリ:気づいたみたいだね
吉琳:うん、ありがとう

 

(でも…)

 

はにかみながらお礼を言った後に、
私はふと、ジルさんが仕事に専念するために縁談を断っていたことを思い出す。

 

(きっと、想いを告げたりしたら、ジルさんのお仕事の邪魔になってしまう)
(そんなことは、私も望まない)
(…この気持ちは諦めて、今まで通り暮らしていこう)

 

自覚したばかりの気持ちに無理やり蓋をして、
楽しい思い出にしようと心に決めた時、扉がノックされた。
吉琳:誰だろう…ちょっと出てみるね
ユーリ:うん
戸口に近づき、扉を開けると…―

 


=====

 


吉琳:誰だろう…ちょっと出てみるね
ユーリ:うん
戸口に近づき、扉を開けると…
ジル:元気そうですね
吉琳:ジルさん…!
そこには、思い出の中と同じ微笑みを浮かべたジルさんが立っていた。

 

(何でここに…)

 

突然の出来事に言葉を紡げずにいると、ジルさんがちらりと部屋の中を見て訊ねる。
ジル:来客中でしたか?
吉琳:は、はい…
頷きかけたところで、ユーリが玄関まで出てきて、にっこりと声をかけた。
ユーリ:俺はもう帰るところなので大丈夫です
ユーリ:頑張ってね
そう最後に、こっそり私に耳打ちをして帰っていく。
突然、ジルさんと二人きりになってしまい一気に緊張が押し寄せた。

 

(自分の気持ちに気づいてしまった後だから、余計に…)

 

緊張と混乱の中、私はジルさんを部屋に招き入れて扉を閉める。
つい表情を硬くしている私に、ジルさんが、ふっと微笑んだ。
ジル:今日は、あるお誘いのために伺いました

 

(誘いって…何のことだろう)

 

ジル:すぐにお誘いしても、貴女を混乱させてしまうと思って時間を置いたのですが…
ジルさんが胸ポケットから封筒を取り出すと、
ふいに真剣な目をしてこちらに差し出し…―
ジル:そこに、私の仕事場所までの地図を入れておきました
ジル:また、私の国へ来てください
ジル:これからは恋人として、貴女のことをもっと教えて頂けませんか?

 


=====

 


ジル:そこに、私の仕事場所までの地図を入れておきました
ジル:また、私の国へ来てください
ジル:これからは恋人として、貴女のことをもっと教えて頂けませんか?
吉琳:……!
予想もしなかった言葉にひたすら驚いて、きょとんとしてしまう。
吉琳:私は、縁談よけだったのでは…
ジル:…レオとの話を聞いていたのですね
吉琳:あ…
ジルさんの言葉がすぐに信じられず、思わず気になっていたことが声になってこぼれていた。
吉琳:す、すみません
ジル:いえ、構いませんよ
優しく言ってから、ジルさんは苦笑をこぼす。
ジル:それなら、縁談よけではないと言ったところまで聞いてほしかったですが
吉琳:えっ
ジル:貴女を国に招待したのは、純粋に喜んで頂きたかったからですよ
私を見つめるジルさんの眼差しは、真剣だった。

 

(縁談よけとして、利用したわけじゃなかったんだ)

 

胸の奥にあったつかえが取れて、自然と緩んでいた私の頬に、
ジルさんの手が、包み込むように伸ばされ…
ジル:恋に落ちるのに、時間は関係ないというのは本当だったようですね
ジル:何事にも興味を持って、真剣に向き合う吉琳を、愛しています
吉琳:っ……
真っ直ぐに想いを伝えられて、胸が高鳴っていく。
その一方で、ある懸念が胸をよぎった。

 

(でも、お仕事に専念するために縁談を断っていたのに…)

 

吉琳:私は…お仕事の邪魔にはなりませんか?
ジル:むしろ、はかどりそうです。愛する人が側にいるのですから
ジルさんの言葉からは、本当に私を想ってくれていることが伝わってくる。
ジル:お返事を頂けますか?
穏やかに微笑んで答えを待つジルさんを見つめると、心配や迷いが全て消えていった。

 

(想いは同じだった。だからもう、何も気にすることなんてない)

 

吉琳:必ず行きます。ですから…
吉琳:私にも、恋人としてのジルさんをもっと教えて下さい
吉琳:…愛しています
ジル:吉琳…
笑顔で答えると同時に、ふわりと引き寄せられて唇が重なる。

 

(ジルさんは声や笑顔だけじゃなく、口づけも優しいんだ…)
(こんな風に、ジルさんのことを沢山知っていくのかな)

 

これから始まる恋人同士の時間を思い描き、
私は口づけの合間に微笑みをこぼした…―

 

 

fin.

 

 

 

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第4話-スウィート(Sweet)END:

 

 

 

ジルさんが熱心に仕事へ向き合う姿を垣間見た分、
協力出来るならしたいと思うのに、何故か悲しい気持ちが増してくる。
どうしたらいいのか分からずにいると、ふいに扉がノックされて…
ジル:吉琳さん、いらっしゃいますか?
吉琳:っ……

 

(仮病を使ってしまったから、きっと心配して来てくれたんだよね…)

 

早く返事をしないといけないとは思うのに、自分の気持ちがぐるぐるとしている今、
ジルさんと逢ってどんな顔をしたらいいのかを考えると、身体が動かない。
そうして考えているうちに、やがてその場を去っていく足音が聞こえた。

 

(ジルさん…ごめんなさい)

 

足音が小さくなっていけばいくほど逆に胸の痛みが大きくなり、
頭の中にはジルさんの顔がよぎる。

 

〝ジル:貴女に勉強を教わる子どもたちは幸せでしょう〞

 

〝ジル:それにしても貴女といると、学ぶことが多いですね〞
〝吉琳:私こそ、ジルさんといると世界が広がったように思えて、〞
〝吉琳:色んなことを勉強出来ます〞
〝ジル:それは良かった〞

 

〝吉琳:っ…質問に質問で返すのは、ずるいです…〞
〝ジル:私はずるい男なんですよ〞

 

これまでのジルさんと過ごした時間が、一気に頭の中を駆け巡り、
胸が切なく締め上げられた。

 


=====

 


これまでのジルさんと過ごした時間が、一気に頭の中を駆け巡り、
胸が切なく締め上げられた。

 

(本当は、もっと話をしたい。ジルさんと色んな場所を見て回りたい)

 

吉琳:ジルさんと…離れたくない
思わず呟いた言葉にはっとして、私はようやく自分の想いに気づく。

 

(私…ジルさんが好きなんだ)
(だから、ジルさんの縁談のお話を聞いて、あんなに動揺して…)

 

もやもやとしていた気持ちの正体が分かったと同時に、
ジルさんとレオさんの会話を立ち聞きした時のことを思い出す。

 

〝レオ:公務に専念したいって気持ちも分かるけど、〞
〝レオ:あんまり縁談断ってばかりだと、印象よくないんじゃない?〞
〝ジル:分かっていますよ〞

 

(気づいてしまったこの気持ちを…伝えたいとも思ってしまうけれど、)
(そうしたら、この国を一番に思っているジルさんを困らせてしまうかもしれない)
(…想いは伝えずに、明日帰ろう)

 

私は静かに決意をして、荷物をまとめ始めた。

 

***

 

翌日…―
宿の前で馬車を待っていると、ふと足音が近づいてきて、すぐ後ろで止まる。
そして…―
???:もう帰ってしまうのですか?

 


=====

 


翌日…―
宿の前で馬車を待っていると、ふと足音が近づいてきて、すぐ後ろで止まる。
そして…
???:もう帰ってしまうのですか?
吉琳:……!

 

(この声…)

 

途端に鼓動が胸の奥を叩き、少しぎこちなく振り返ると、
ジルさんが微笑みを浮かべて立っていた。
ジル:お帰りは、今日の午後の予定では?
吉琳:どうして、ここに…
ようやく絞り出した声が、わずかに震える。
ジル:お見舞いに…というのは建前で
ジル:本当は、このまま貴女が行ってしまうような気がしたので

 

(…ジルさんには、敵わないな)

 

私の行動などすっかりお見通しだったことに気づいて、素直に頷きを返す。
吉琳:はい…帰るつもりでした
吉琳:もし、今日ジルさんの顔を見たら…言ってはいけないことを言ってしまいそうで
震えそうになる唇を噛んでいると、ジルさんが穏やかに諭すような口調で告げた。
ジル:そんなもの、ありませんよ

 


=====

 


吉琳:もし、今日ジルさんの顔を見たら…言ってはいけないことを言ってしまいそうで
震えそうになる唇を噛んでいると、ジルさんが穏やかに諭すような口調で告げた。
ジル:そんなもの、ありませんよ
吉琳:え…?
ジル:聞かせて下さい。貴女が伝えたい言葉を
変わらず優しい表情を向けられ、ジルさんへの想いが溢れて、止められなくなる。

 

(…言わないでおこうと思ったのに、もう、隠しておけない)

 

私はわずかに残った迷う心を振り切り、想いの全てを打ち明けようと口を開く。
吉琳:ジルさんといると、本当に楽しくて…
吉琳:優しく丁寧に街を案内してくれたり、少し意地悪を言ったり、
吉琳:真剣にお仕事をしている姿も全部…大好きです
ジル:……
私の突然の告白に、ジルさんは驚いた様子で目を見開いている。

 

(やっぱり、迷惑だったよね)

 

吉琳:縁談よけのために呼ばれていたとは知らなくて、
吉琳:好きになってしまってごめんなさい…
目が潤みそうになるのをどうにか堪えて、小さく頭を下げた。
するとジルさんが、はっとしたように言う。
ジル:もしかして、昨日の話を聞いていたのですか?
こくりと頷くと、ジルさんがふっと微笑んでこちらへ手を伸ばし…―

 


=====

 


ジル:もしかして、昨日の話を聞いていたのですか?
こくりと頷くと、ジルさんがふっと微笑んでこちらへ手を伸ばし…
ジル:馬鹿な人ですね
ふわりと私を抱きしめた。
吉琳:っ……ジル、さん…?
ジルさんの温かな胸に顔を押しつけられ、
私は瞬時に頬を熱くしながら身をよじる。
ジル:縁談よけのために、わざわざ異国の女性を招いたりしませんよ
ジル:そんな手の込んだことをせずとも断る口実はいくらでもあります
吉琳:ですが昨日…
そう言って腕の中から顔を上げると、ジルさんの目が優しく細められる。
ジル:おそらく貴女は途中までしか聞かず、誤解したのでしょうが、
ジル:あの会話には続きがあるんです

 

〝レオ:もしかして、吉琳ちゃんは縁談よけ?〞
〝レオ:夜中にデートなんかしちゃって〞
〝ジル:まさか。ただ喜んで頂きたいと思っただけですよ〞
〝ジル:大切にしたい方ですから〞
〝レオ:へえ、ジルにそんなこと言わせるなんて凄いな、吉琳ちゃん〞

 

ジルさんが話してくれた、『続き』が、
胸を高鳴らせ、じわじわと顔が熱くなっていく。

 

(大切にしたい、って……)

 

ジル:出逢ったばかりだというのに、こんなにも心惹かれる人は、貴女だけです
ジル:好きですよ、吉琳
ジルさんの想いと共に、初めて呼ばれた自分の名前が、胸の奥に甘く刻まれる。
吉琳:ジルさん…

 

(ジルさんが、私と同じ想いだったなんて…奇跡みたい…)

 

予想外すぎた言葉に、最初は信じられない気持ちが胸に押し寄せる。
けれど、ジルさんの穏やかな笑みが私の中の疑いを押し流し、
告げられた想いは、真実なのだと信じさせてくれた。

 

(ジルさんの想いは本物だ。私と、同じ…)

 

ジルさんの想いを受け止め、喜びに胸を震わせながら、私は真っ直ぐに見つめ返す。
吉琳:改めて言わせて下さい
ジル:……?
吉琳:私も、ジルさんが大好きです
ジル:まったく、貴女という人は…素直すぎるのも、困りますね
ふっと苦笑をこぼしたジルさんは、私をさらに強く抱きしめる。

 

(私の想いや行動が素直になってしまうのは、ジルさんだから)
(ジルさんに真っ直ぐ、私の心が届いてほしいから)

 

私はそんな想いに笑みをこぼし、ジルさんの背中に、そっと腕を回した…―

 

 

fin.

 

 

 

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エピローグEpilogue:

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赤い糸をたぐりよせて結ばれた、彼との甘いその後は…―
ジル:愛する人の全てを見て、知りたいと思うのは、意地悪ではないでしょう
首筋を唇でくすぐられ、掠れた声がこぼれてしまい…
ジル:目を逸らしてはいけないと言ったでしょう
ジル:今夜はずっと、その瞳に私だけを映してください
ときめきと、微かな緊張が部屋を包みこむ初めての夜は、
あなたの胸を熱く焦がしていく…―

 

 

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