◆シンデレラガチャ◆(レイヴィス◆ガチャシート)

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彼目線のサイドストーリー

 

【本編】

◆恋の予感(恋のよかん)《利用価値》

◇恋の芽生え(恋のめばえ)《予想外》

◆恋の行方(恋のゆくえ)〜Sugar〜《この先も永遠に》 

◇恋の行方(恋のゆくえ)〜Honey〜《引き返せないほどの愛》

◆恋の行方(恋のゆくえ)~secret〜《夢》

 

【続編】

◆愛の続き《狂おしいほどの愛》

◇愛のカタチ~プリティ〜《二人の望むもの》

◆愛のカタチ~ロイヤル〜《家族になっても》

 

 

【本編シート】

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恋の予感(恋のよかん)『利用価値』

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城下へ向かう馬車の中、
向かいに座るプリンセスは、こちらへ頭を下げる。
吉琳 「ありがとうございました。レイヴィス…様」
おずおずとお礼を言う彼女には戸惑いが窺えた。
レイヴィス 「レイヴィスでいい」
レイヴィス 「それにプリンセスが敬語なんて使う必要ないと思うけど」
吉琳 「う、うん…ありがとう」
名前を呼ぶだけでぎこちなく返す彼女は、
プリンセスとしての振る舞いにまだ慣れていないように思える。

(…それも当然か)

城下の出身だと言っていたことが頭を掠めた。

(まあそれにしたって、見ず知らずの男からの助けを受けるなんて、)
(プリンセスに選ばれた自覚も緊張感もない)

警戒心の薄い行動に呆れてしまう。

(それでもプリンセスなら、)
(利用するぐらいの価値はありそうかな)

そんなことを考えていると、不思議そうな様子で彼女が口を開いた。
吉琳 「あの、レイヴィスはどうして…」
そう訊ねられかけた瞬間…
吉琳 「きゃっ…」

(…っ……)

突然、馬車が大きく揺れて、レイヴィスの方へ彼女が倒れ込む。
レイヴィスはとっさに彼女の背中に腕を回し、間近に迫った身体を支えた。

(大きな石にでも乗り上げたのか)

彼女の様子を見ると、痛がっているそぶりもなく、
怪我はしていないように見える。

(…まったく隙がありすぎる)

レイヴィス 「ちゃんと掴まってないと危ない」
わずかに責めるようにそう言うと、彼女がぱっと顔を上げた。
吉琳 「っ…」

(ん…?)

首を小さく傾げたレイヴィスを見つめたまま、瞳を大きく瞬かせた彼女は、
間近で交わった視線に、徐々に頬を火照らせていく。

(こんな顔するのも、やっぱり…警戒心が足りない)

向けられた瞳は、純粋すぎるほど澄んでいて、
疑うことを知らないように思える。
そんな様子にため息をつき、レイヴィスは口を開いた。
レイヴィス 「…そろそろどいてくれる?」
吉琳 「え?」
レイヴィス 「これじゃ身動きとれないんだけど」
その言葉に、初めて自分の体勢を理解したらしく、
彼女は慌てて身体を起こした。
吉琳 「ご、ごめんなさいっ」
そうして向かいの席に座り直すと、
恥じらうように、スカートの裾を握る。

(抜けてる奴)

呆れながら、車窓の向こうの流れる景色に視線を投げた。
その時ふと、馬車が揺れる前に質問を投げかけられていたことを思い出す。
レイヴィス 「そういえば、さっき何か言いかけてた?」
吉琳 「どうして私がプリンセスだと知ってたのかなと思って」

(どうしてって…)

レイヴィス 「そのチョーカーの意味、知らないの?」
吉琳 「え…?」
首元のチョーカーに触れる彼女を見つめ、思わず眉を寄せる。
レイヴィス 「それ、プリンセスの証。付けてる本人が知らないなんてね」
ウィスタリアを訪れる前、レイヴィスは最低限この国のことを調べていた。
プリンセス制度について、そしてその証であるチョーカーについて、
文献に記されていた内容を思い返す。
吉琳 「知らない訳じゃなくて、焦っていたから忘れてて……」
レイヴィス 「別に、俺に言い訳しなくていい」

(チョーカーの意味なんて、どうでもいいことだけど、)
(こいつは…置かれた環境が変わったという認識が甘い)

心の中でそう呟いたと同時に、思わず口を開いた。
レイヴィス 「それにしても、就任して早々城を抜け出すなんて、」
レイヴィス 「お前、プリンセスとしての自覚足りないんじゃない?」
吉琳 「え…」
驚いたように瞳を瞬かせる彼女に構わず、レイヴィスは言葉を続ける。
レイヴィス 「プリンセスになるのは、国王の代わりになるってこと」
レイヴィス 「周りの見る目も変わる。今まで通り自由に過ごすわけにいかない」
レイヴィスの頭には、幼い日のある一場面がよぎった。

*****
老紳士は、ある部屋の扉を開けレイヴィスへ中に入るよう促す。
老紳士 「今日からここが君の部屋だ」
一歩部屋の中へと足を踏み入れると、老紳士はそのまま背を向けた。
レイヴィス 「あの…」
老紳士 「君はハルナイト家の人間として生きるんだ。私の言いつけには従ってもらう」
そうして幼いレイヴィスにとって大きく感じた扉が、
パタリと音を立てて閉まった。
*****

目の前のプリンセスを見ていると、何故か過去の自分を思い出した。

(環境が変わった分、他人との接し方や考えを変えるべきなのに…呑気すぎる)
(…だからってわざわざこいつに言う必要はないか)

けれど、冷静な想いとは裏腹に、言葉が勝手にこぼれていく。
レイヴィス 「だいたい、護衛に執事一人だけで夜、出歩こうとすること自体間違ってる」
日々、夜警団として領地を見廻っていて、それは常に感じることだった。
吉琳 「それで、私について来てくれたの?」
驚いたように訊ねる真っ直ぐな瞳とふいに視線が交わったその時、
普段しないような、踏み込んだ言い方をしていたと気付く。

(…何だか調子が狂った)

レイヴィスはいつも通りの淡々とした声で言葉を返した。
レイヴィス 「『プリンセス』に協力しただけ」
吉琳 「えっ…」
レイヴィス 「プリンセスなら目の前の感情だけでなく、今後の利害も考えた方がいい」

(利用するぐらいの価値があるなんて、)
(見込み違いかもしれないな)

その時、車輪の回る音がゆっくりになり、馬車が停まった…―

 

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恋の芽生え(恋のめばえ)『予想外』

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自分の過去を語りながら、レイヴィスは胸に抱く複雑な想いを口にした。
レイヴィス 「…こんなこと話すのも、お前が初めて」
吉琳 「そうなの…?」
レイヴィス 「ああ。お前との交流は、ロベールを探すために利用するだけで、」
レイヴィス 「探している目的を細かく話すつもりも、」
レイヴィス 「不用意に貸しを作る気もなかったから」
憐れみの目を向けられたり、同情されたりするのは煩わしいとずっと感じていた。

(利害だけで繋がっていた方が、楽だった…はずだけど)

レイヴィス 「なのに…今こんなこと話してるなんてね」

(吉琳には不思議と…話したいと思える)
(『プリンセス』として利用しようとしただけなのに)

いつからか、利害関係だけではなくなっていたことに気付く。

(予想外なことばかり言うから、目が逸らせなかった)
(…あの時から)

*****
吉琳 「レイヴィスって、意外と熱いところもあるんだね」
*****

舞踏会の時、吉琳から輝くような瞳で言われ、
気にも留めていなかった自分の内面を、何気なく言い当てられたように感じた。

(あの言葉が嫌じゃなかったのも、今思えば不思議)

心の中で疑問を抱いたまま向かいに座る吉琳を見ると、
真剣な表情を向けられた。
吉琳 「話してくれてありがとう」
吉琳 「それから…ごめんなさい。そんな理由だったなんて思わなくて…」
レイヴィス 「別に」
そっけなくそう返して、レイヴィスは静かに続ける。
レイヴィス 「俺にはもう大切にしたいものはないけど、」
レイヴィス 「ただ知っておきたいだけ。…家族が死んだ本当の理由を」
両親の死だけが、心の奥底に長年引っかかっていた。

(過去は過去。知って、胸のつかえが取れればそれでいい)

淡々とそう告げると、吉琳の切なげな声が部屋に響く。
吉琳 「レイヴィスのことを想っている人、ちゃんといるよ」
レイヴィス 「え?」

(俺を想っている…?)

吉琳の言葉の意味が分からず、思わず目を瞬く。
吉琳 「執事さんが言ってたの。自分たちがレイヴィスに不信感を与えてしまったって」
吉琳 「後悔するほど、レイヴィスを想っているんじゃないかな…」

(…そんな風に思っていたなんて)

今まで知ろうとすらしなかった執事の言葉が胸に押し寄せ、
驚きに一瞬言葉を詰まらせてしまう。
その時、今まで切なげだった吉琳の声が一層震えて耳に届いた。
吉琳 「だから…そんな寂しいことを、何でもないことのように言わないで」

(何でそんな顔…)

レイヴィスを真っ直ぐ見つめる吉琳の瞳から、
雫がひと筋落ちていった。
レイヴィス 「…お前……」
涙を流す吉琳を見た瞬間、身体が勝手に動いて…
吉琳 「えっ…」
立ち上がり向かいの吉琳へと近付いたレイヴィスは、
指先でそっと涙をすくう。
レイヴィス 「何でお前が泣くの」
レイヴィス 「…変わった奴」

(他人のことで泣くなんて、理解出来ない。…それに)

とっさに涙を拭ってしまった自分の行動も理解出来なかった。

(…一緒にいると調子狂う)

わずかな戸惑いを感じていると、吉琳がぽつりと口を開く。
吉琳 「…これは、レイヴィスの代わり」

(代わり…?)

吉琳の言葉に瞳を見開いた。

(どこまでもお人好しな奴)
(俺の代わりに泣くなんて言うのは…きっと吉琳しかいないんだろうな)

胸に広がっていた驚きは、次第に温かいものへと変わり、
思わず笑みがこぼれる。
レイヴィス 「…本当、そんなこと言うのお前ぐらい」
吉琳 「…っ……」
その時、吉琳の頬がほんのりと赤く染まっていく。
その表情に、胸の奥が締め付けられるように甘く軋んだ。
レイヴィス 「…やっぱり、変わってる。お前」

(…でも変なのは俺も一緒か)
(吉琳のこんな顔見ると…落ち着かない)

その時、吉琳を腕の中へ抱き寄せたと同時に、
柔らかい髪の毛にそっと顔を寄せ…

(今…)

顔を離すと、吉琳の大きく見開かれた瞳と視線が交わり、
衝動的に口づけてしまったと気付く。

(何…してるんだろうな)

レイヴィスは吉琳を抱き寄せていた手を離し、
静かに視線を逸らした。
レイヴィス 「…もう泣きやんだな」
呟くようにそう言いながらも、
衝動的に触れたことへの驚きは、未だ胸に残っている。
吉琳 「う、うん…。ごめんね…ありがとう」
レイヴィス 「別に」
素っ気なく吉琳に返しながらも、
心の中ではある想いが胸を占めていた。

(答えはとっくに出てた。でもそれから目を逸らしてただけ)

*****
吉琳 「…レイヴィス。あなたを利用します」
*****

*****
吉琳 「努力の価値を知っているから、そういう風に言えるんだなって思って」
吉琳 「そういうのって、実際頑張った人しか言えない気がするから」
*****

*****
吉琳 「ありがとう。…優しいね」
*****

(…本当、予想外)

苦笑するように心の中でこぼし、改めて自分の気持ちに向き合う。

(吉琳が好きだ)

胸の奥底でくすぶっていた火は、引き返せないほどの恋となって、
レイヴィスの胸にすとんと落ちていった。

 

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恋の行方(恋のゆくえ)〜Sugar〜『この先も永遠に』 

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星が静かに瞬く中…―
離れていた間のことを話すと、
吉琳は嬉しそうに表情を綻ばせた。
吉琳 「本当に……ありがとう」
想いを募らせた様子で、声をわずかに震わせ告げる吉琳に、
胸の奥に愛しさが溢れていく。

(…やっと迎えに来られた)

吉琳を目の前にして今までの経緯を話し終えて、
改めて実感が湧いてくる。

(色々、言いたいこと沢山あるけど、まず…)

レイヴィスはふっと笑みを向けた。
レイヴィス 「お礼はさっき聞いた」
レイヴィス 「それより…」
扉を背にする吉琳へそっとかがみこんで…
吉琳 「…っ…」
レイヴィスは額をこつんと触れ合わせる。
レイヴィス 「勝手にいなくなるとか反則なんじゃない?」
そう告げると、間近で澄んだ瞳が切なげに伏せられた。
吉琳 「…あの時はああするしかないと思ったの」

(あの時…)

*****
レイヴィス 「お前、変なこと考えてないよな」
吉琳 「…変なことなんて、考えてないよ」
*****

別れ際、微かな違和感を抱いていた。
しかし、思いつめた様子で口を閉ざす吉琳から、
強引に聞き出そうとは思えなかった。

(今思えば、強引にでも聞けば良かったって後悔してる)
(…だからこうして迎えに来た)
(もう、あんな辛い想いはさせないために)

レイヴィス 「お前らしくない考えだね」
吉琳 「私…らしい?」
瞳を瞬かせる吉琳に、思わずふっと笑ってしまう。

(吉琳の優しさと強さがそうさせたんだと思う。…でも)

レイヴィス 「一人でいることが強いんじゃなく、周りと協力することが強い」
レイヴィス 「お前が俺に教えたくせに、自分が忘れてるなんて」
レイヴィス 「そういうとこちょっと抜けてる」

(…そこが愛しいとも思うけど)

すると、はっと気付いたようにまつ毛を震わせた吉琳は、
レイヴィスの言葉を噛みしめるように、深く頷いた。
吉琳 「うん…でも今レイヴィスが思い出させてくれた」
吉琳 「…ありがとう」
その表情は柔らかく、輝く瞳は嬉しげに細められていて、
胸の奥が甘くくすぐられる。

(吉琳のこの顔が見たかった)

一気に募る自分の想いに小さく苦笑をこぼし、吉琳に語りかけた。
レイヴィス 「だから、ありがとうはもう聞いたって。それもいいけど、」
レイヴィス 「お前が俺のことどう思ってるか…聞かせて」
低く囁き、揺れる瞳を真っ直ぐに見据える。

(抱き締めて、顔を見るだけじゃ足りない)
(吉琳が…足りない)

焦がれる想いを視線に込めると、
吉琳は頬を赤く染めて、そっと口を開いた。
吉琳 「……愛してる」
こちらを見つめる瞳には、レイヴィスと同じような、
熱い想いが窺える。

(こんな顔で愛してる、なんて反則)

レイヴィスはそのまま吉琳を引き寄せ、
吐息を奪ってしまいそうなほど深く口づけた。
吉琳 「ん…っ…」
切ない声がこぼれたと同時に、
吉琳の身体の力が抜けたのを感じて、そっと顔を離す。
レイヴィス 「もういなくなったりするなよ。…お前は俺のものなんだから」
吉琳 「…うんっ」

(吉琳を側に感じられる、今この瞬間が、)
(きっと幸せってことなんだろう)

背中に吉琳の腕が回るのを感じ、ぎゅっと力強く抱き締めた…―

***

それから一週間が経ち…―
レイヴィスは吉琳に、
数日前、夜警団と共にルークが野盗を捕まえた出来事を話していた。
吉琳 「そんなことがあったんだ。じゃあルークはしばらく夜警団の一員?」
レイヴィス 「ああ」
あの後、二人で話し合い、
レイヴィスが決まった日に、この街で暮らす吉琳の元を訪れることになった。

(…でもやっぱり、心細い想いはさせてるんだろうな)

慣れ親しんだ土地を離れる苦しさは、レイヴィスもよく知っている。

(だからこそ、伝えよう)

胸の奥に秘めた意志を口にしようとすると…

(ん…?)

レイヴィス 「どうかした?」
吉琳の瞳が大きく揺れているように見えた。
吉琳 「ううん…何でもない」
そう言う声は微かに震えていて、涙を耐えていることが伝わる。

(嘘、下手だな)

吉琳 「あっ…紅茶、冷めちゃったよね。新しいの入れてくるよ」
吉琳が立ち上がろうとした、その時…
レイヴィス 「待って」
そっと腕を引き寄せ、唇を重ねた。
吉琳 「っレイヴィス……?」
レイヴィス 「そういう気分だったから」
レイヴィスはそっと吉琳の目元に指を滑らせる。
指先から透明な雫がひと筋、流れていった。

(…やっぱり。泣き虫な奴)
(でもこれは多分、悲しくて流している涙じゃない)

頬を赤らめ、照れたようにまつ毛を伏せる吉琳にそう確信する。
嬉しい時も、悲しい時も、素直に感情を表す吉琳を、
心から愛しいと改めて感じた。

(そんな一番大事な恋人を、このままでいさせるつもりはない)

レイヴィスは指先を離してから、改めて吉琳の手をぎゅっと握る。
レイヴィス 「…ほとぼりが冷めたら迎えに来る」
レイヴィス 「必ず、一緒に暮らそう」
今日伝えたかった想いを、真っ直ぐに告げた。
吉琳を見つめると、驚きに目を見開きながらも、
嬉しそうに頬を赤らめて…
吉琳 「…うん!」
頷いた吉琳をすっぽりと腕の中へと引き寄せた。

(どれだけ時間がかかっても、一緒に生きる道は絶対に諦めない)
(愛してる…この先も永遠に)

明るい陽射しがこぼれる窓の向こうには、
ウィスタリア、そしてシュタインへと続く空が広がっていた…―

 

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恋の行方(恋のゆくえ)〜Honey〜『引き返せないほどの愛』

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宣言式後のパーティーも無事に終わり、
レイヴィスは吉琳と共に次期国王のための部屋に足を踏み入れた。

(もう二人の部屋が用意されてるなんて、随分と準備がいいな)
(…多分、準備したのはあの人たちか)

ジルやレオ、ユーリの顔が浮かんで、思わず苦笑をこぼす。

(まあ、悪くないけど)

この先も、ずっと共に過ごしていくことを改めて感じ、
胸の奥にぽっと温かい明かりが灯った。
その時、ふと視線を感じて吉琳を見つめる。
レイヴィス 「どうかした?」
吉琳 「な、なんでもないよ…部屋の装飾に見とれちゃって」

(部屋に入ってからずっと黙ってたけど、照れてるのか)

発した言葉が、想いを誤魔化した言葉だということは、
真っ赤になった耳を見ればすぐに気付く。
慌てた様子の吉琳は、部屋の奥へ足を向けようとした。

(そんな顔してる吉琳、逃がす訳ない)

レイヴィス 「どこ行くの」
そっと吉琳の手を取り、腕の中に包みこむ。
吉琳 「…っ……」
一気に距離が縮まった吉琳は、
驚いた様子で息をのみ、まつ毛を伏せた。

(まだ隠すんだ)

髪の間からちらりと見える頬は、隠せないほど真っ赤にも関わらず、
それでも視線を逸らす吉琳に、意地悪な気持ちが湧いてくる。
レイヴィス 「やっとお前のこと独占出来るんだから、」
レイヴィス 「もっと顔、見せて」
わざと耳元で囁くように言うと、腕の中の小さな肩が揺れた。
レイヴィス 「嫌?」
そう思っていないことは分かっていながら、あえて訊ねる。
すると恥じらうようにしながら、ぽつりと吉琳の声が落ちた。
吉琳 「嫌じゃ…ない」
そう言って顔を上げた吉琳の瞳は、熱を持ちわずかに揺れていて、
胸がじんと熱くなる。

(自分でも、意地が悪いと思う)
(でも、吉琳がこんな可愛い顔するのが悪い)

うなじを引き寄せて、唇を重ねた。
ついばむように口づけながら、近くの壁へ吉琳を優しく押し付ける。
レイヴィス 「最初からそう言いなよ」
唇を離して間近で囁き、
レイヴィスは吉琳のドレスに指をかけた。
そして…
吉琳 「…ぁっ……」
鎖骨に顔を寄せ、甘い痕を残していく。
耳元で響く切ない声に、また熱が煽られた。

(宣言式を終えて、婚約したことを実感したせいか、)
(…今夜は抑えられそうもない)

身体を支えるように、吉琳の脚の間に脚を滑らせ、
レイヴィスはあらわになった肩へと口づける。
吉琳 「んっ……」
その時、吉琳がきゅっと唇を噛みしめたのが視界に入り、
レイヴィスはそっと顔を上げた。
レイヴィス 「見せてって言ったんだけど。だから今から、」
レイヴィス 「声も顔も…隠すの禁止」

(今夜の吉琳を、全て覚えておきたい)

未だ照れた様子で視線を逸らす吉琳に、強引な言葉をかけた。
レイヴィス 「まだ恥ずかしいって思ってるなら、」
レイヴィス 「そんな余裕ないぐらいにするだけだから」
意地悪に笑って、レイヴィスは吉琳の胸元へと唇を寄せた。
吉琳 「…ん……レイ…ヴィス…」
吐息と共にこぼれる自分の名前は、いつも以上に甘く響き、
想いは止まることなく膨らんでいく。
レイヴィスはそのまま手を下へとずらし、ドレスを落とした。
吉琳 「っ…待って……」
レイヴィス 「それは……無理」

(この状態で待つなんて…出来る訳ない)

のけぞった首筋に唇を押し当てながら、腰元へ指先を滑らせる。
すがるように伸ばされた手に、レイヴィスは思わず笑みをこぼした。

(ほんと、可愛い)

そうして、そっと指を絡めて引き寄せる。
レイヴィス 「…愛してる、吉琳」
吉琳 「私も…レイヴィスを、愛してる…」
レイヴィス 「…ああ」
囁きと共にレイヴィスも上着を落とし、互いの鼓動を重ね合った…―

***

まだわずかに熱のこもる部屋で…―
ベッドの中、隣に寄り添う吉琳を抱き寄せると、
ぽつりと優しい声が響く。
吉琳 「これから…宜しくね」
レイヴィス 「なに、いきなり」
唐突な言葉にふっと微笑むと、吉琳がはにかんで続けた。
吉琳 「改めて言いたくなって」

(…改めて、か)

そう心の中で呟いたと同時に、吉琳の言葉がよみがえる。

*****
吉琳 「レイヴィスって、意外と熱いところもあるんだね」
吉琳 「努力の価値を知っているから、そういう風に言えるんだなって思って」
吉琳 「そういうのって、実際頑張った人しか言えない気がするから」
*****

*****
吉琳 「レイヴィスの熱く見える部分は…もしかしたらご両親に似たのかな」
レイヴィス 「…両親に似た?」
吉琳 「熱意を持って真剣に取り組んでいたんだなって伝わってきて…」
吉琳 「そういうところ、レイヴィスにも感じるから」
*****

(今思い返してみても、吉琳はやっぱり、)
(人の心の中心に、自然と優しく触れられる奴だと思う)

今まで避けてきたそんな深い関わりも、不思議とわずらわしくなかった。
吉琳との思い出が頭を駆け巡り、
レイヴィスは、胸に湧き上がる想いをそのまま口にする。
レイヴィス 「じゃあ、俺も改めて言っておく」
レイヴィス 「…一生、側にいなよ」
吉琳 「…っ…!」
大きく見開かれ揺れた瞳は、今にも雫がこぼれそうなほど潤んでいく。
レイヴィス 「また泣きそうな顔」
優しくそう言うと、また潤んだ瞳が揺れた。

(まったく…)

レイヴィス 「…泣き虫」
優しく目元を拭いながら、レイヴィスは柔らかに笑う。
吉琳 「これは…いいの」
吉琳 「レイヴィスの言葉が嬉しいって涙だから」

(そんなの、知ってる)

涙を浮かべながらも、嬉しそうに微笑む吉琳の表情が、
幸せな想いを伝えているように感じた。
すると、吉琳がレイヴィスの手を取り、自分の頬にあてる。
吉琳 「…レイヴィスが好き」
吉琳 「一生…側にいさせて」

(ただの利害関係だった相手に、ここまで惹かれるなんて)

心地よい驚きを感じ、胸が満たされていく。

(もう引き返せないほど…愛してる)

二度と手離すことのない愛しい存在を、腕の中に包みこみ、
これから重ねていく幸せを思い描いた…―

 

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恋の行方(恋のゆくえ)~secret〜『夢』

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宣言式を終えてから一週間が経ち、
レイヴィスが次期国王としての公務に慣れてきたある日のこと…―
レオ 「はい、持ってきたよ」
レオが書類を手に、執務室の扉を叩く。
度々、公務を補佐してもらい、
レオとはいつしか、くだけた口調で話すようになっていた。
レイヴィス 「助かる」
官僚たちの意見をまとめた書類を受け取り、目を通していると、
ふと思い出したようにレオが声を上げた。
レオ 「あ、そういえばさっき気になることがあって」
レオ 「吉琳ちゃんのことで」
レイヴィス 「吉琳の?」
その名を出され、書類を確認していた手を止める。
レイヴィス 「何かあった?」
訊ねると、レオが思わせぶりに目を細める。
レオ 「レッスン中、いつもとちょっと様子が違ってさ」

(今朝、公務が始まる前までは、普通だったはず)

首を傾げると、レオがいたずらっぽく笑った。
レオ 「寝不足だったのかな、目がちょっと赤くて」
レオ 「レイヴィス、何か心当たりない?」
含みのある訊ね方に、レイヴィスは小さく息をつく。

(この言い方…からかってるな、レオ)

確かに、互いに眠りについたのは、
今朝うっすらと外が明るくなってからだった。

(まあ、わざわざ教えることないけど)

レイヴィス 「さあ。夢見でも悪かったんじゃない?」
レオ 「そう?」
素っ気なく告げるレイヴィスに、レオは楽しそうに笑っていた。

***

その夜遅くのこと…―
レイヴィスは、ふと隣にあるはずの温もりが消えていることに気付き目を覚ました。

(吉琳は…)

部屋を見回すと、バルコニーへと続く窓がわずかに開いている。

(…バルコニー?)

レイヴィスはシャツを羽織り、バルコニーへと足を向けた。
バルコニーに出ると…

(いた)

予想通り、吉琳が柵に手をつき、
夜が深まり、灯りが淡く消えていく城下を見つめていた。

(…もしかして本当に悪い夢でも見た?)

昼間のレオとの会話を思い出しながら、そっと近付く。
そして吉琳を囲うように両手を柵についた。
レイヴィス 「吉琳」
すると、驚いた様子でこちらを見上げた吉琳の瞳と視線が絡む。
吉琳 「レイヴィスっ……」
レイヴィス 「夜中にこんなとこいたら、身体冷える」
吉琳 「うん…。ごめんね、起こした?」
レイヴィス 「別に」
微笑んで答えたその時、
月明かりで吉琳の濡れたまつ毛が光った。

(…まさか)

覗きこむと、吉琳が慌てたように視線を逸らす。

(やっぱりおかしい)

微かに胸がざわめくのを感じながら、じっと視線を注ぐ。
すると、近くで見れば見るほど、
涙でわずかに赤くなった目元に気付いてしまった。
レイヴィス 「…何かあった?」
吉琳 「そ、そんなたいしたことじゃないの…」
吉琳 「眠れなくて、ちょっと外の空気を吸おうと思って」

(…たいしたことないって顔じゃない)

レイヴィスは囲うように柵についていた両手で、
吉琳の身体をそっと抱き締める。

(恋人に悲しい顔をさせたままにしたくない)

レイヴィス 「お前が前に言ったように、」
レイヴィス 「俺も何かあったら頼ってほしいって思ってるんだけど?」

*****
吉琳 「私の前では…想いを隠さず全部見せてほしい」
吉琳 「何かあったら…頼ってほしい」
*****

(あの時伝えてくれた言葉、そっくりそのまま返す)

優しい気持ちを抱きながら目を細める。
すると、吉琳も思い出したように瞳を瞬かせてから、
ふっと表情を和らげた。
吉琳 「ありがとう」
そう告げた後、吉琳はぽつりとこぼす。
吉琳 「…夢を見てしまったの」
レイヴィス 「夢?」
吉琳 「馬車が襲われたあの日のこと」

(あの日のことか…)

*****
レイヴィス 「ここは夜警団とウィスタリアの騎士団に任せれば平気だから」
レイヴィス 「今はこの場を離れた方がいい」
*****

悪い噂が流れ始め、吉琳が馬車ごと襲われた時のことを思い出す。
吉琳の胸にもその時の光景がよぎっているのか、そっと眉が寄せられた。
吉琳 「もう、レイヴィスに会えなくなるのかもしれないと思っていたから、」
吉琳 「夢に見たら何だか涙が…」
か細く微かに震える声に、胸が締めつけられる。

(仕方なかったとはいえ…一度離れたのは事実)
(でも、この先同じ想いはさせないように…)

無意識に、吉琳を抱きしめる腕に力をこもる。

(もう何があっても、この手は離してやらない)

吉琳 「ごめんね、ただの夢なのに心配かけちゃって」
苦笑してからそっと視線を下げる吉琳に、小さく息をつく。

(謝らなくていいのに、変なとこで遠慮しすぎ)

俯く吉琳と視線を再び合わせるように、
身体を自分の方へと反転させ、額をこつんと合わせた。
吉琳 「っ…レイヴィス?」
暗い中でも赤くなっていることが分かるほど、
頬を染める吉琳に、愛しさを覚えながら想いを告げる。
レイヴィス 「心配するのは当たり前。恋人だから」
レイヴィス 「だから謝らなくていいし、俺には何でも言って」
レイヴィス 「分かった?」
すると、吉琳は恥ずかしそうにしながらもふわりと笑みをこぼした。
吉琳 「うん」
その表情にほっとすると共に愛しさが胸に広がる。

(…この笑顔を、誰より側で守りたい)

レイヴィス 「目、閉じて」
囁くように言うと、吉琳はまつ毛を揺らしながらそっと瞳を閉じる。
頬に手を滑らせてわずかに上を向かせると、優しく唇を重ねた。
吉琳 「ん……レイ、ヴィス……」
重なる吐息の合間に、自分の名前が囁かれ、
触れ合う唇にも、吉琳の吐息がかかるレイヴィスの頬にも熱が帯びていく。

(利害は関係なく、ただ愛しいと思える相手の側にいる)
(少し前の俺なら、夢だと思うかもしれない)

吉琳が自分の前でしか見せない、幸せそうな笑顔を浮かべる。
レイヴィスはそんな笑みが自分の顔にも浮かんでいくのを感じながら、
吉琳へ口づけを深めていった…―

 

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【続編シート】

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愛の続き『狂おしいほどの愛』

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アダムに攫われた吉琳を助け出した夜…―
吉琳 「私のことは気にしないで、仕事をしていて構わないよ?」
部屋の机の上に所狭しと積まれた書類を見て、
吉琳はレイヴィスを気遣うように言う。

(吉琳以上に気にかけるべきものなんてないのに……)

そう出来ない現状をもどかしく思いつつ、レイヴィスは書類に手を伸ばした。
レイヴィス 「ごめん、片づける時間が無くて……」

(なるべく早く仕事を終わらせよう)

そう思いレイヴィスが掴んだものは、アダムの除名手続きの書類だった。

(アダム……)

共に夜警団の見廻りをしたことや、自分を慕ってくれた姿が
一瞬、脳裏をよぎり、唇を噛みしめる。

(……こんなことを思い出して何になる)

振り切るように作業を進めていると、ぽつりと吉琳の声が聞こえた。
吉琳 「辛くない……?」
レイヴィス 「何が?」
吉琳 「アダムさんのこと……」
その問いに湧き上がったのは、諦めに似た感情だった。
レイヴィス 「ああ……」
レイヴィスは除名届けの書類を見つめ、乾いた吐息をこぼす。
思い返せば、フレイ地区の領主になってから、上手くいったことばかりじゃない。

(裏切りに近い目に遭ったことも何度もあったし)
(そういうことに直面するたび、こんなものだと諦めて、人に心の内を見せないようにしてきた)
(今更、何を動揺してるんだか……)

レイヴィス 「まあ、こんなのよくあることだから」
レイヴィス 「いちいち気にしていても仕方ない」
淡々と作業を進めていくが、ふと吉琳のこぼした吐息が震えていることに気づき……
顔を上げると、その頬には涙が伝っていた。

(吉琳……?)

レイヴィス 「……どうしてお前が泣くの?」
涙のつたう頬に指先を伸ばす。
吉琳 「レイヴィスが泣かないからだよ……」

(っ……)

その言葉が、温かな記憶を揺らした…―

*****
レイヴィス 「何でお前が泣くの」
レイヴィス 「…変わった奴」
吉琳 「…これは、レイヴィスの代わり」
レイヴィス 「…本当、そんなこと言うのお前ぐらい」
*****

(……変わらないな)

レイヴィスは眉を下げると、綺麗な瞳からこぼれた涙の雫を指で拭う。
触れると、その雫は温かくて、吉琳の優しさそのもののように感じ、胸が詰まった。

(誘拐されて怖い目に遭って、今辛いのは吉琳の方のはずなのに……)
(吉琳は俺ばかり気にかけてくれている)

レイヴィス 「お前が俺の分の悲しみまで背負う必要ないのに」
思わずそうこぼすと、吉琳の瞳がさらに滲んでいく。
吉琳 「そんなの無理だよ」
吉琳 「私が背負いたいと思ってるの。レイヴィスのことが、誰より大切だから……」
真っ直ぐな言葉に、硬く強張っていた心が柔らかく溶かされていく気がした。

(……俺はお前の優しさに救われてばかりだな)
(数え切れないくらい、何度も)

自身の表情が和らいでいくのが、分かる。
レイヴィス 「優しいな、お前は」
レイヴィス 「あの頃から……ずっと変わらない」
吉琳 「レイヴィスだって……前も、同じように涙を拭ってくれたでしょ?」
ようやく笑った顔を見せてくれた吉琳に、レイヴィスも微かに笑みをこぼす。

(お前はいつも俺の心を癒してくれる)
(お前だけが……)

吉琳という存在に、狂おしいほどの愛しさを感じて、
まだ濡れたままの頬を両手で包み込んだ。
レイヴィス 「それは、吉琳の真っ直ぐな気持ちが届いたから」
レイヴィス 「あの時も今も、お前の優しさだけが俺を癒してくれる」
心の内をさらけ出すと、レイヴィスは吉琳の唇を塞ぐ。
吉琳 「……ん、……っ」
唇を重ねている間に、吉琳の身体をそっと押し倒し、
続けざまに吐息を奪いながら、覆いかぶさった。

(止められない……)
(吉琳があんな目に遭った後だっていうのに……)

裏切られたことに傷ついた気持ちと、吉琳を愛おしく思う気持ち、
自分を責める気持ちがない混ぜになる中で、
何かに縋るように、吉琳を強く抱き締める。
すると吉琳がわずかに身を起こして、レイヴィスの髪に指先を絡ませた。
吉琳 「レイヴィス……?」
結び合った糸のように、視線が間近で絡み合うと、胸の奥底に隠した感情が溢れ出す。

(こんな風にお前を求めるなんて、最低かもしれない)
(でもきっと……そんな最低な俺も、お前は受け入れてくれるんだろうな)

レイヴィス 「……お前が大変な目に遭ったばかりなのに、止められなくてごめん」
レイヴィス 「でも今夜は……お前に触れていたい」

(取り繕うことも出来ない……)

頼りなく揺れる眼差しに気付いた吉琳は、そっと癒すようにレイヴィスの頭を抱き締める。
吉琳 「言ったでしょ? どこも怪我してないし何ともないって」
吉琳 「だから……」
続きを求めるように、吉琳の方から唇を重ねられ、
ぐちゃぐちゃの心を掬い上げるように、温かな腕が背中に回される。

(今夜は……お前だけを感じていたい)

癒しと愛を求め、レイヴィスは熱い身体を重ねていった…―

 

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愛のカタチ~プリティ〜『二人の望むもの』

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レイヴィスはウィスタリア国王、そしてフレイ地区の領主として、
その責務を全うしながら、吉琳と共に公務に励み、多忙な毎日を送っていた。
そんなある日のこと…―
レイヴィス 「貧民街だった場所にも家が建って、マーケットで働く人たちが住み始めたって」
レイヴィス 「随分、暮らしが良くなったみたい」
アダムから届いた手紙に視線を落として微笑むと、吉琳も別の手紙を見て笑みを浮かべる。
吉琳 「こっちにはウィスタリア城下の人たちからの意見が届いてるよ」
吉琳 「新しく作った夜警団のおかげで、夜も安心して暮らせるって」
執務室には、そんな嬉しい報告が毎日のように届いている。

(少しずつだけど、吉琳と目指した理想に近づいている……)

吉琳と微笑み合っていると、手紙を届けてくれたジルが穏やかに二人を見つめた。
ジル 「国のためを想われる姿勢は、素晴らしいことです」
ジル 「ですが……少しはご自身の幸せをお考えになってもよろしいのでは?」
レイヴィス 「例えばどんなこと?」
聞き返されると思っていなかったのか、ジルは少し驚いたように目を瞬かせる。
ジル 「そうですね。たまには贅沢なことでもいかがでしょう?」
悪戯っぽく返され、思わず吉琳と顔を見合わせた。

(まさかジルからそんな提案が出るなんてな)
(贅沢をするなんて、考えてもいなかったけど……)
(何よりも大切な妻に、贅沢させるくらいの甲斐性はあるつもり)
(吉琳が望むならいくらでもさせてあげたい)

そんな想いを胸に、レイヴィスは吉琳に微笑みを向ける。
レイヴィス 「贅沢か……吉琳はどうする?」
吉琳 「そうだな、私は……」
吉琳はわずかに考え込むが、特にこれといったものが思いつかなかったのか、
冗談を言って朗らかに笑っていた。

(何か言ってくれたら、叶えてやるつもりだったのに)
(結局、お前は自分のことじゃなくて、いつも国民の幸せを考えてるんだよな)

吉琳の優しさに触れるたび、レイヴィスの胸は温かくなっていく。
ジル 「すぐでなくても構いませんので」
ジル 「何か思いつかれましたら仰ってください、手配いたしますよ。……では、失礼いたします」
ジルが退室してからも、レイヴィスの脳裏には『贅沢』という二文字がちらついた。
レイヴィス 「今、出来る贅沢、か……」

(改めて考えてみると、俺が強く願うのは……)
(吉琳を喜ばせたい、吉琳の笑顔を見たいってことなんだろうな)

レイヴィス 「……思いついた」
笑みを浮かべ、吉琳の手を取る。
吉琳 「え?」
レイヴィス 「少し息抜きしない?」

***

バルコニーへと誘うと、吉琳はウィスタリアの街を見ながら目を細める。
吉琳 「さっきの話だけど……」
吉琳 「今みたいな時間があれば、私は充分幸せだな」
今まさに思っていたことを言葉にされて、喜びが胸を満たした。
レイヴィス 「俺も同じ。お前と一緒に過ごす時間が何より大切で」
レイヴィス 「それ以上に望むものなんてない」
見つめる先には、穏やかな城下の街並みが広がっている。
吉琳 「こうして毎日をレイヴィスと過ごして、公務に取り組んで」
吉琳 「一緒に頭を悩ませたり、話し合って解決したり」
吉琳 「たまに二人でゆっくり過ごしたり……そういう日常が、すごく幸せだって思う」
吉琳が紡ぐ言葉のどれもが、レイヴィスの想いと同じで、胸を温かくしていく。
けれど、控えめな言葉に別の感情も湧いてくる。

(吉琳は、もっと欲張っても良いのに)
(お前ほど人に寄り添い、誰かの心を救ってる人間はいない)
(俺も、数え切れないほどお前に支えられてきた)

レイヴィス 「相変わらず、欲がないね」
吉琳らしいと思いつつも、そう伝えると、吉琳は眉を下げて笑ってみせた。
吉琳 「贅沢なことをしたいって考えたこともなくて……。レイヴィスは何か思いついた?」
盛大な舞踏会や世界中の騎士を集めた剣術トーナメントなど、戯れに案を挙げてみる。
けれど、どれもしっくりこなくて二人で笑い合った。

(何も思いつかないけど、お前の笑顔を見たら確信した。俺が欲しいのは……)

レイヴィス 「贅沢ってやっぱり、そういうものじゃなくて……」
吉琳を包むように抱き締め、その表情を覗き込む。
レイヴィス 「こうして、身近にあるものな気がする」

(贅沢について考えると、結局、同じ答えに辿り着く)
(『吉琳と、生涯を共に出来ること』……それが、これ以上ない贅沢だって思うから)

レイヴィス 「ジルには、今度ちゃんと訂正しておかないと」
レイヴィス 「吉琳と生涯を共に出来るのに、これ以上の贅沢なんかないって」

(昔の自分じゃ考えられないほどのこの幸福は、全て吉琳が運んできてくれたものだ)

そんな想いを胸に告げると、吉琳が幸せそうにはにかんだ。
吉琳 「私も、贅沢なんかいらない。こうして抱き合っているだけで幸せを感じるから……」
優しい吉琳の笑顔を見つめていると、愛おしさが溢れ、
こうしてバルコニーで寄り添っているだけじゃ足りなくなってくる。
レイヴィス 「そうだな。でも、ひとつだけ……」
レイヴィス 「前にも言ったけど、俺はお前ほど無欲になれない」
吉琳 「……っ、レイヴィス?」
囁いて身体を抱き上げると、吉琳は首に腕を回してくる。
レイヴィス 「もっとお前を可愛がらせて?」
その意味合いに気付いたのか、吉琳の頬が赤く染まって、
寄り添った胸からは、鼓動の高鳴りまでもが伝わってきた。
吉琳 「少し息抜きするだけじゃなかったの……?」

(恥ずかしそうな顔……)

くすりと、レイヴィスは唇に笑みを刻む。
レイヴィス 「吉琳は少しで足りるわけ?」
意地悪に聞き返すと、吉琳は赤面しつつも、甘えるように胸元に顔を埋める。
吉琳 「……足りないよ……」
可愛らしい言葉と仕草に、心の奥が甘く締め付けられた。

(贅沢させたいとか、喜ばせてやりたいとか思っているのに)
(結局、幸せを貰うのはいつも俺の方だな)

レイヴィス 「俺も同じ……」
レイヴィス 「たぶん、一生。どこまでお前を愛しても、全然足りないくらい……愛してる」

(豪華な料理も、大きな宝石も、世界を回る船旅だって、お前が望むなら何でもあげる)
(だから、ずっと俺の隣で笑っていて)
(この先ずっと……一生、俺の側にいて)

伝わる体温に、溢れるほどの愛と幸せを感じて微笑むと
レイヴィスは吉琳を抱いたまま、部屋の中へと入っていった…―

 

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愛のカタチ~ロイヤル〜『家族になっても』

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アンナ 「おとうさまー!」
花畑の中からひょっこりと小さな頭が覗き、小鳥のさえずりのように朗らかな声が響く。
レイヴィス 「ちょっと行ってくる」
吉琳を残して歩み寄ると、アンナは木の上を指さした。
アンナ 「おとうさま、あれがほしいの」
見上げると、レイヴィスが手を伸ばせば届くほどの高さに、純白の美しい花が咲いている。
レイヴィス 「あの白い花のこと?」
アンナ 「うん!」
ティオ 「吉琳のために花冠をつくりたいんだって」
ティオ 「オレじゃ、背が届かなくて」
隣に並んだティオが悔しそうに呟いた。

(自分でアンナを抱っこして、取らせてあげたかったんだろうな)

そんな優しい気持ちが伝わってきて、胸が温かくなる。

(アンナが生まれた時から、ティオは心からアンナを大事にしてくれている)

レイヴィスはティオの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。
レイヴィス 「もうすぐ届くようになるから」
気恥ずかしそうに目を逸らすティオに瞳を細めてから、レイヴィスはアンナに向き直る。
レイヴィス 「アンナ、おいで」
アンナ 「うん!」
抱き上げると、アンナは懸命に花に手を伸ばした。
ティオ 「つぶさないように気をつけて。花冠につかうんだからね」
レイヴィス 「もう少しで手が届きそう。頑張れ、アンナ」
アンナ 「……あっ、とれた! みてみて!」
アンナは嬉しそうに、両手で花をそっと包む。
アンナ 「このお花、おかあさまみたいにきれい」
レイヴィス 「アンナにも似合ってるよ、ほら」
もう一輪をとって、アンナの横髪にさしてあげると、花のような笑顔がほころんだ。
アンナ 「おかあさまみたい?」
ティオ 「確かに、似てるかも」
ティオは優しく笑うと、地面に降ろしたアンナと一緒に花冠を編み始める。

(二人とも、本当に優しく育った)
(きっと吉琳に似たんだろうな)

穏やかな景色に笑みをこぼすと、ふとアンナが花冠を編みながら聞いてくる。
アンナ 「おかあさまとふたりで、なにを話していたの?」

(何を、か……どう話したら良いんだろう)
(アンナにも分かるように伝えるには……)

レイヴィスは少し考えると、アンナと目線を合わせるようにその場に腰を下ろす。
レイヴィス 「そうだな。今までのことや出逢った時のこと、色んなことを話してたけど一番は……」
レイヴィス 「アンナが生まれる前も、これからも、」
レイヴィス 「お父様はお母様を変わらずに愛し続けるってことを伝えてたんだ」
ティオは呆れたような顔で肩をすくめるけれど、アンナは興味深々な様子で見上げてくる。
アンナ 「おとうさまは、どうしてそんなにおかあさまのことが好きなの?」
レイヴィス 「え……」
子どもらしい率直な問いに、レイヴィスは瞬いた。

(どうして、か…)
(改めて言われると、困るな。理由は山ほどあるから)
(出逢いから振り返ったら、本当にきりがない)

レイヴィス 「じゃあ、アンナがその花冠に花をひとつ付けるごとに、理由をひとつ教えてあげる」
悪戯に伝えると、アンナは明るい笑顔で花冠を掲げた。
アンナ 「……じゃあ、まずひとつ!」
『他人を思いやれる優しい心』、『人を信じることのできる強さ』、『可愛い笑顔』……
アンナが花冠を編むごとに、レイヴィスはひとつひとつ吉琳への想いを言葉にしていく。

(こうして言葉にすると、改めて分かる)
(俺が吉琳を好きになるのは、必然だったんだな)

やがて、理由を全部言い終えないうちに花冠が出来上がってしまった。
アンナ 「できた!」
アンナ 「おかあさまも、来てー!」
アンナの明るい声に誘われ、吉琳が三人の元へやってくる。
アンナ 「これ、あげる!」
アンナは嬉しそうに、草むらに膝をついた吉琳の頭に花冠を載せる。
吉琳 「ありがとう。綺麗だね」
アンナ 「ティオといっしょにつくったの」
ティオ 「まあね」
微笑み合うアンナとティオ、ルーク……そして吉琳の姿を見ていると、
今この瞬間がとてつもなく幸せだと感じた。

(こうして家族を見つめている自分が、時々不思議になる)
(幸せで満たされた毎日に、こんなに馴染んでいるなんて……)

焦がれていた『家族』を築き、その輪の中に自分もいる。

(今でもたまに、信じられない気持ちになるけど……)

子どもや吉琳の笑い声が、この幸せな日々が確かなものだと教えてくれる。

(一生、この幸せを守っていく)
(ずっとこの腕に抱き締めて離さない。もう失わないように……)

生涯を通して大切なものを守り抜くと、密かに誓いながら
家族との穏やかで愛おしい時間に、レイヴィスはその身を浸した…―

***

そうして、子どもたちの楽しそうな笑い声が青空の下で響き……
ティオ 「アンナ、駆けっこしよう!」
アンナ 「かけっこ!」
ティオ 「あの木に先に辿り着いた方が勝ち。行くよ!」
ティオの合図で、アンナとルークが駆け出すと、ティオがちらりとこちらを振り返る。
ティオ 「アンナの面倒見とくから、もう少し二人の時間を楽しんだら?」
ティオ 「オレたちの前でイチャイチャしなくて済むように、ね」
悪戯な笑顔を残して、ティオはアンナを追いかけていく。
吉琳 「もう……変な気を回すんだから」
吉琳 「レイヴィスが子どもたちの前でも色々するから、あんな風に言われちゃうんだよ……?」
抗議の意を含む言葉とは裏腹に、見つめてくる吉琳の瞳は潤んでいて、
レイヴィスの中の悪戯心がくすぐられる。

(そんなに可愛いと、からかいたくなる)

レイヴィス 「色々って?」
敢えて問うと、吉琳の頬がさらに赤く染まった。
吉琳 「その……キス、とか……」
その答えに、レイヴィスは悪びれずに笑ってみせる。
レイヴィス 「お前がいつまでも可愛いんだから仕方ないんじゃない?」
レイヴィス 「家族になっても、母親になっても変わらない。俺にとって、吉琳は愛する女性だから」
レイヴィス 「俺はただ、気持ちを伝えてるだけ」

(いつまでも、俺の心を掴んで離さない吉琳のせい)
(なんてね……本当は、俺がお前に触れたいだけなのかも)

ずるいと分かりつつも、吉琳の気持ちも知りたくて
レイヴィスは指先で吉琳の顎を掬った。
レイヴィス 「それとも、しない方が良い?」
吉琳 「……そんな風に聞くの、ずるいよ」
恥ずかしそうにこぼす吉琳に、胸が甘く疼く。
レイヴィス 「本当、可愛いね。お前って」

(二人きりにしてくれたティオに感謝しないといけないな)

レイヴィス 「ティオもああ言ってくれたことだし……せっかくだから、遠慮なく」
微かに色づいた頬に、唇を押し当てる。
その温もりに驚いた吉琳が、レイヴィスを見上げてきた瞬間……
レイヴィス 「……チェックメイト」
悪戯っぽい囁きと共に、愛する人の唇を奪った。

(家族になっても、子どもが出来ても……この先もずっと、変わらない)
(ただお前を、誰よりも愛してる)

胸を隙間なく埋め尽くすのは、愛しいという気持ちだけ……
色褪せない想いを抱き、レイヴィスは何度も吉琳にキスを落とした…―

 

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()