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Cinderella Wedding~魅惑のハネムーン~[後編](ジル)

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――…外では企業コンサルタント、家ではちょっぴり意地悪なジル…?

吉琳:続き…してほしい
ジル:いい子ですね
ジル:…今夜も、貴女を愛させてください

 

 

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プロローグ:

 

――…もしも、あなたの国で王子様じゃない彼と夫婦だったら…?
これは、あなたと彼のとびきり甘いハネムーン・ストーリー…
…………
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クロード:それじゃ、ゼノ社長との打ち合わせは任せたからな
吉琳:はい、クロードさん
上司であるクロードさんに手渡された資料を、カバンに収める。
私はこれから、取引先の企業であるジェラルドホールディングスに向かう予定になっていた。
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レオ:吉琳ちゃん、もし逢ったらアランにもよろしくね

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――アランは同僚であるレオの双子の弟で、ゼノ社長のSPだ。

(打ち合わせ中はそばにいないことが多いから、今日会えるかわからないけど…)

吉琳:うん、逢えたら伝えておくね

***

会社を出て、午後からのスケジュールを頭に思い描く。
吉琳:えっと、この後の予定は…

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(まず最初に、ゼノ社長のところに行って…)
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(次は外でジルさんと打ち合わせ…)
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(最後はノアと企画書の相談…だよね)

吉琳:よし、午後も頑張ろう
旅行代理店の前を通りかかった、その時…
ふと、ショーウィンドウに飾られた写真が目に入った。
吉琳:わあ、素敵…!
ウェディングドレス姿の女性と、タキシードを着た男性が、白い砂浜で幸せそうに微笑んでいる。

(おすすめのハネムーン特集か…)
(お互いに仕事が忙しくて、新婚旅行にはまだ行けてないんだよね…)

魅入るようにパンフレットの表紙を眺めていると…
???:――吉琳?

(あっ……)

ショーウィンドウに、大好きな夫の姿が映る。
胸の高鳴りを感じながら、私はそっと振り向いた…――

 

>>>ジルと過ごす

 

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第1話:

 

――…ジルと結婚して、しばらく経った頃
…………
???:――吉琳?

(あっ……)

ショーウィンドウに映る夫の姿に、胸を高鳴らせながら振り向く。
吉琳:ジルさん!
名前を呼んだその瞬間、唇にそっと指を添えられた。
ジル:お仕置き一回、ですね
吉琳:あ……

(そうだった…)

――…ジルを『さん』付けで呼ばないこと。
入籍した時に決めた、私たち夫婦のルールだ。

ジル:結婚してしばらく経つというのに、まだ慣れないのですね?
吉琳:ジルだって敬語が抜けないのに…
ジル:私は誰に対してもこの話し方ですし、今さら変えられませんよ
可笑しそうに笑ったジルが、すっと私に顔を寄せる。
ジル:お仕置きのルールは覚えていますね?
吉琳:呼んだらキス一回…です
消え入りそうな声で呟くと、にっこりと笑みが返ってきた。
ジル:今晩を楽しみにしていますよ
長い人差し指が唇を撫でて、離れていく。
ジル:そういえば、貴女はなぜここにいるのですか?
吉琳:これから、ジェラルド・ホールディングスで打ち合わせがあって…
吉琳:そこに行く途中だったんだよ
ジル:なるほど
ジルが少しだけ、考えるような素振りを見せる。
ジル:私もこれから取引先の会社に向かう途中だったのですが…
ジル:よろしければ、車でお送りしましょうか?
吉琳:え、いいの?
ジル:もちろんですよ。それに…
ジル:少しでも長く、貴女と一緒にいたいので
吉琳:…私も
こんな些細な言葉一つで、胸に愛しい気持ちが込み上げる。

(夫婦になってしばらく経つけど…)
(ジルと過ごす時間は、いつも幸せだな)

顔を見合わせ、どちらからともなく笑みをこぼす。
胸の中は、幸せに満ちていた。

***

――…その日の夜

吉琳:んっ…
ジルのキスを受け止めながら、ソファーに沈む。
甘い音を刻んで離れた唇が、今度は首筋へと落ちた。
吉琳:…っ、お仕置きのキスは、もう終わりじゃないの…?
ジル:…そうですね。では、今日はこのくらいにしておきましょうか

(あ……)

私を組み敷いていた体が離れ、
遠ざかる温もりにふいに寂しさがこみ上げる。

(でも自分から言ったんだし、寂しいなんて…)

体を起こしてうつむくと、ジルがふっと口元を緩めた。
ジル:どうしました、吉琳?
吉琳:っ…
長い指に、顎をすくい上げられる。
ジル:まだ足りない…そんな顔をしているように見えますが
ジル:本当にこれでやめていいのですか?
妖艶な瞳にとらえられ、ひそかに胸が騒ぎだす。

(…やめてほしく、ない)

吉琳:続き…してほしい
目を伏せて、ためらいがちに口を開くと……
ジル:いい子ですね
顎にそえられていた指が、首筋をつたって胸元へと下りた。
ぷつり…と、ブラウスのボタンが外される。
ジル:…吉琳
吉琳:ぁ…
はだけた胸元をなぞる指に、無意識に吐息がこぼれる。
ジル:…今夜も、貴女を愛させてください
再びソファーに組み敷かれて、ジルの体が重なる。
愛しい人の温もりを受け止めながら、蜜のように甘い夜が過ぎていった。

***

――…翌朝

目を覚ますと、ジルの寝顔が視界いっぱいに広がった。

(…私の方が早く起きたみたい)

こうして毎日、ジルの隣で目を覚ませることを、何より幸せだと思う。

(好きになった頃は、ジルが旦那様になるなんて夢にも思わなかった…)

ふいに、ジルと仕事の取引先で出逢った時のことを思い出す。

(確かあの時、乗っていたエレベーターが急に止まったんだよね…)

〝吉琳:どうしよう…〞
〝???:大丈夫ですよ〞
〝不安にかられた私に声をかけてくれたのが、ジルだった。〞
〝ジルは私をなだめつつ、手早くオペレーターへと連絡を繋いでくれて……〞
〝???:1時間以内には助けが来てくれるそうです〞
〝吉琳:よかった…ありがとうございます〞
〝???:いいえ、こういう時は助け合うものですから〞

〝(…初めて逢ったのに、どうしてだろう)〞
〝(この人の言葉を聞いていると、気持ちが落ち着く)〞
〝(頼りになる人が一緒にいてくれてよかった…)〞

(その数日後に、新しいプロジェクトの関係でジルを紹介されたんだよね)
(あの時は本当に驚いたな…)

懐かしい思い出に頬を綻ばせていると……
ジル:何を考えていたのです?

(あ、起きたんだ…)

うっすらと目を開いたジルが、私の髪を撫でた。
吉琳:…ジルと出逢った時のことを思い出してたんだよ
ジル:懐かしいですね。覚えていてくださったのですか
吉琳:もちろんだよ

(私にとっては、大切な思い出だから…)

ジルの背中にそっと手を回し、視線を上げる。
吉琳:…ねえ、笑わないで聞いてほしいんだけど…
ジル:なんです?
吉琳:再会した時に、もし運命が本当に存在するなら
吉琳:ジルと出逢ったことがそうなんじゃないかって…そう思ったんだ
ジルの顔に、優しい笑みが広がる。
ジル:私も、同じことを思ってました
吉琳:…ジルも?
ジル:ええ。初めて出逢ったあの時から、私は貴女を忘れられずにいましたからね

(私と、同じ気持ちだったんだ…)

吉琳:それじゃ、こうしてジルと一緒にいることも運命なのかな…?
ジル:そうかもしれませんね

(…だとしたら、嬉しいな)

お互いに笑い合って、顔を寄せる。
ジル:今日は買い物に行く約束でしたね。そろそろ起きましょうか
ジル:おはようございます、吉琳
吉琳:うん。おはよう、ジル
優しいキスが、一日の始まりを告げた。

***

ジル:吉琳、少しだけ私に付き合ってくださいませんか?
買い物が終わった後、ジルが私を連れて家とは違う方向に歩き出す。

(どこに行くんだろう?)

***

しばらく歩いて、たどり着いたのは旅行代理店の前だった。
吉琳:…どうしてここに?
ジル:昨日街で逢った時、ハネムーンのパンフレットを見ていたでしょう?
吉琳:あ…

(気づいてたんだ…)

ジル:仕事が忙しくてなかなか行けませんでしたが、今は落ち着いていますし
ジル:今度休みをとって、新婚旅行に行きませんか?
吉琳:…っ、行きたい…!
ジル:では、決まりですね

(ジルと新婚旅行に行けるだなんて思ってなかった)
(どうしよう…すごく嬉しい)

ジル:早速、予定を決めてしまいましょうか
吉琳:うん!
期待に胸を膨らませながら、私はジルと一緒にお店の中に入った。

***

――…新婚旅行出発、3日前

家に遊びに来たレオに、夕食を振る舞った夜
レオ:ごちそうさま。すごく美味しかったよ
吉琳:よかった…。ありがとう
レオ:毎日こんなに美味しいご飯が食べられるなんて、ジルは幸せ者だね
茶化すようにレオがいうと、ジルが私の方を見て……
ジル:ええ、毎日幸せを感じていますよ
吉琳:…っ…ジル
幸せに溢れた笑みを向けられ、かすかに頬が熱をもつ。
レオ:うわ、堂々とのろけられた
レオ:悔しいから、俺はそろそろ帰るよ
吉琳:え、もう?
レオ:うん、これから弟のところに実家からの届け物を渡しに行くんだ
レオ:それに、新婚夫婦の邪魔はできないしね
椅子から立ち上がったレオを、ジルと一緒に玄関まで見送る。
レオ:あ、そう言えば忘れてた
靴を履いたレオが、思い出したように、
カバンからラッピングされた袋を取り出し、私に手渡した。
吉琳:これは…?
レオ:新婚旅行に行く二人に、会社のみんなからプレゼントだよ

(わざわざ用意してくれたの…?)

吉琳:ありがとう、レオ…!
ジル:今度みんなにもお礼を伝えないといけませんね
レオ:どういたしまして。それ、新婚旅行の時に開けてね?
吉琳:え、どうして?
レオ:その方が盛り上がると思うから
意味深な笑みと言葉を残して、レオが去っていく。
吉琳:どういう意味だろう…?
ジル:わかりませんが、せっかくもらったのですし持って行きましょうか
吉琳:そうだね
それから3日後、私達はいよいよ新婚旅行へと旅立った…――

***

――…新婚旅行1日目

ホテルを出て、街の中心に足を踏み入れる。
吉琳:わあ…素敵な街並み!

(昨日は夜遅くに到着したから気づかなかったけど、こんなに可愛い街だったんだ)

夢中になって周囲を見渡していると、
隣からジルの小さな笑い声が聞こえる。
吉琳:あ…ごめん、一人ではしゃいじゃって
ジル:構いませんよ、嬉しく思っていただけですから
吉琳:嬉しい?
ジル:ええ。来てすぐに貴女のそんな楽しそうな顔が見られるとは、思っていなかったので
ジル:ですが、今の貴女を一人にしたら迷子になりそうですね
そう言うと、ジルが私の手を取って…――

 

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第2話:

 

吉琳:嬉しい?
ジル:ええ。来てすぐに貴女のそんな楽しそうな顔が見られるとは、思っていなかったので
ジル:ですが、今の貴女を一人にしたら迷子になりそうですね
そう言うと、ジルが私の手をとって、指を絡めた。
ジル:もし迷子になっても、必ず貴女を見つけ出しますが…
ジル:こうしておけば、その心配もないでしょう?
吉琳:…うん
一回り大きなジルの手を、握り返す。

(こうしてると、異国にいても安心できる)

優しい温もりに胸の奥に広がる熱を感じながら、
私たちは最初の目的地へと向かった。

***

吉琳:わあ…すごい
目の前に広がる壮大な庭園に、目を瞬かせる。

(ここって、皇帝一家が夏の離宮として使ってた場所なんだっけ)

吉琳:庭だけでこんな広さがあるなんて…この宮殿ってほんとに広いんだね
ジル:庭の中に、温室や動物園まで用意されているようですからね

(こんなところで夏の間ずっとジルと過ごせたら素敵だろうな…)

そんな思いを馳せながら、宮殿の中へと進んでいく。

***

しばらく歩くと、美しい装飾が目を惹くホールへとたどり着いた。
ジル:ここで、有名な作曲家が女王のための演奏をしたらしいですよ
吉琳:そうなんだ? ジル、よく知ってるね
ジル:好きな作曲家でしたので、昔調べたんです

(好きな作曲家さん…か)
(ジルの好きなものを知ることが出来て、嬉しいな)

***

そうしてゆっくりと宮殿を見回った後、私達は近くのカフェに入った。
吉琳:このザッハトルテ、美味しいね…!
ジル:ええ、好みの味です
クリームの乗った艶やかなコーティングのケーキを二人で並んで食べる。
本当に美味しそうに食べるジルを見て、自然と笑みがこぼれた。
吉琳:旦那様が甘いもの好きで嬉しいな
ジル:なぜです?
吉琳:こうして一緒にカフェに来ることもできるし…
吉琳:バレンタインや誕生日も、お菓子の作りがいがあるんだよ
ジル:それは…嬉しいですね
ジル:以前はそのような行事を好んではいませんでしたが、今は好きですよ
吉琳:どうして?
ケーキを口に運びながら、ジルがくすりと笑って…――
ジル:私のために…――楽しそうに作ってくれる妻の姿が見られるので
吉琳:……っ

(…そういうこと言われると、恥ずかしい)

微笑むジルから目を逸らし、照れをごまかすようにケーキを頬張る。
すると突然、隣に座っていたジルが私に顔を寄せて……
吉琳:ん…っ
口の端に、唇が触れた。
吉琳:…っ…ジル
ジル:クリームがついていましたよ
吉琳:だからって、こんなところで…
理由がわかっても、頬に集まった熱はなかなか冷めてくれない。
ジル:夫婦なのですから、恥ずかしがるほどのことではないでしょう?

(ジルが楽しそうに笑ってくれるのは嬉しいけど)

吉琳:恥ずかしいよ…
ジル:貴女のそういうところは結婚しても変わらないですね
愛おしそうに笑みを深めるジルに頬が火照って、再び顔を逸らす。

(ジルにすぐ翻弄されちゃうところは、結婚しても変わらない)
(もしかして、ジルとはずっとこうなのかもしれないな…)

こうして甘い余韻を残したまま、1日目は終わった。

***

――…翌日の午後

(オペラハウスの舞台裏って、こんな風になってるんだ)

オペラハウスの見学ツアーに参加した私とジルは、
たくさんの機材が置いてある中を見て回っていく。

(あ…楽器の演奏が聞こえる)

立ち止まって美しい音色に耳を傾けていると、
近くにいた男性が私に声をかけてきた。
吉琳:えっと…

(劇団員の人…だよね)
(でも、何を言ってるのかわからない…)

異国の言葉に戸惑っていると……
ジル:吉琳、どうしました?
離れた場所にいたジルが近づいてきて、男性と同じ言語で話しだす。

(ジルはこの国の言葉がわかるんだ)

しばらく会話を交わしていたジルが、ふいに私の腰を引き寄せた。

(え…?)

そのままの体勢でジルが男性に向かって何かを告げると、
驚いたような反応が返ってきた。

(何に驚いてるんだろう…)

苦笑を浮かべた男性が、ジルの肩を叩いて去っていく。
吉琳:ねえ、何を話してたの?
見上げると、ジルは少し困ったような顔をした。
ジル:彼は貴女を口説こうとしていたのですよ
吉琳:え…
ジル:私が夫だと伝えたら、謝っていましたが

(それで、劇団員の人はあんな反応をしてたんだ)

ジル:こんなに想い合っているのに、夫婦に見えないとは心外ですね
吉琳:…っ
腰に添えられていた手に力がこもり、ジルの胸に体が傾く。
顔を上げる間もなく、耳に吐息が触れて……
ジル:もっと絆を深めるために、今夜愛しあいましょうか…?
艶やかな囁きが、吹きこまれた。
吉琳:そ、それは…
ジル:冗談ですよ
ちゅ、と耳の縁にキスを残して、ジルが離れる。

(からかったの…?)

文句を言おうとしたけれど、
いつもより楽しそうなジルを見ていると何も言えなくなった。

(何だか、旅行に来てからいっぱいジルの笑顔を見てる気がする…)

からかわれたのは少し悔しいけど、
すぐにそれ以上の嬉しさで気持ちが覆われてしまう。
ジル:吉琳、そろそろ行きましょうか
吉琳:うん
ジルがさり気なく私の手をとって、歩き出す。
吉琳:そういえば、ジルってこの国の言葉を話せるんだね
ジル:学生の頃に必要で、少しだけ学んだことがあるのですよ
吉琳:そうだったんだ

(また一つ知らないジルを知れた)
(ここに来なかったら、知らないままだったかもしれないし…)
(ジルと一緒にこの国に来て、よかったな)

繋いだ手を握り返すと、ジルが私の顔を覗き込んだ。
ジル:吉琳、そんなに嬉しそうな顔をしてどうしたのですか?
吉琳:っ…何でもないよ
吉琳:それより、こうして舞台裏を見てると、今度のオペラが楽しみになってくるね
ジル:そうですね
ジル:私も、貴女の喜ぶ姿を見るのが楽しみです
そんな会話を交わしながら、私たちはまた微笑みあった。

***

――…数日後の夜

予定通り、野外で開かれる季節限定のオペラを見にやって来た。

(旅行の予定を決めた時に、すごく混むのは知ってたけど…)

会場は、想像以上に人で混み合っている。
吉琳:本当に、すごいたくさんの人だね
押し流されないように気をつけながら、隣に声をかけると……

(あれ…?)

ジルからの返事がなく、慌てて周囲を見渡す。
吉琳:ジル?

(うそ、はぐれた…?)

吉琳:…っ…ジル
名前を呼んだ瞬間、誰かと肩がぶつかって…――
吉琳:あっ…

 

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[プレミアEND]

もう一度彼と愛を誓い合うあなた。
そして刺激的な夜が訪れて…
ジルの手がワンピースの裾を割り、素肌を撫でていく…
『一生をかけて、貴女を大切にします』

 

[スウィートEND]

夫婦で過ごす、幸せな新婚旅行の時間は続き…
体を乗り出したジルが、唇の端にキスをする…
『貴女が妻で私は…幸せです』

 

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吉爾白金

第3話-プレミア(Premier)END:

 

ジルと野外のオペラを見に来たけれど、気づけば私一人になっていた。

(うそ、はぐれた…?)

吉琳:…っ…ジル
名前を呼んだ瞬間、誰かと肩がぶつかって……
吉琳:あっ…
体が傾き、とっさに地面に手をつく。
吉琳:……っ
その瞬間、手首に鋭い痛みが走った。
ジル:吉琳…!
吉琳:あ…、ジル…っ

(よかった、見つけてくれたんだ…)

ジル:見失ってすみませんでした。大丈夫ですか?
吉琳:うん。ありがとう、ジル
差し出された手を取ろうとしたすると……
吉琳:…っ…
また痛みが走って顔をしかめると、ジルが険しい顔をした。
ジル:痛むのですね?
ジル:…すぐに手当てをしましょう
吉琳:…っ…大丈夫だよ
ジル:そうは見えません
吉琳:でも…

(もうすぐジルと見るのを楽しみにしてたオペラが始まるのに…)

ジル:…貴女がオペラを楽しみにしていたのはわかっています
ジル:ですが、今は手当を優先させてくれませんか…?

(ジル、すごく心配そうな顔…)

その表情を見ていると、怪我よりも胸の奥がずっと痛んで、私は小さく頷いた。

***

(まさか捻ってたなんて…)

病院に寄ってホテルに戻り、ジルと並んでソファーに腰を下ろす。
ジル:痛みは平気ですか…?
吉琳:うん。痛み止めも飲んだし、もう大丈夫だよ
吉琳:薬のせいで少し眠いけど
そう言って小さく笑うと、ジルが私の頭を引き寄せて…――
そっと肩に寄りかからせてくれた。

(ジル…?)

ジル:眠っていいですよ。寝たらベッドに運んであげますから
吉琳:……ありがとう
目をつぶると、堪えていた分の眠気が一気に押し寄せてくる。

(でも、伝えなきゃ…)

吉琳:ジル…オペラ、見れなくてごめんね……
ジル:気にしなくていいですから…ゆっくり眠ってください
優しい声をどこか遠くで聞きながら、
私はまどろみの中に落ちていった。

***

ジルは眠った吉琳をベッドに運び、起こさないよう髪を撫でる。
ジル:貴女が無事でよかったですが…
ジル:楽しみにしていたオペラを、見せて差し上げたかったですね
吉琳の額にキスを落として、顔を上げる。
その視線の先には、電話があった。
ジル:…連絡を取ってみましょうか

***

――…翌日の夜

ジルに連れられて、夜の街を進んでいく。

(連れて行きたいところがあるって言われたけど…)

吉琳:ジル、どこに向かってるの?
ジル:着くまで秘密です

(あれ…? 夜だから景色が違って見えたけど)
(この辺り、見覚えがあるような…)

既視感を覚えつつ、建物に挟まれた路地の中に足を踏み入れる。
しばらく進むと、裏口のようなところでジルの足が止まった。

(ここ、どこだろう…?)

ジルがドアをノックすると……
吉琳:え…
開いたドアから、見覚えのある男性が顔を出した。

(この人…)

〝ジル:彼は貴女を口説こうとしていたのですよ〞
〝ジル:私が夫だと伝えたら、謝っていましたが〞

(私に声をかけてきた劇団員の人だよね?)
(…ここ、もしかして、オペラハウスの裏口なの?)

吉琳:どういうこと…?
ジル:私たちが夫婦だと伝えた時に彼が言ったのですよ
ジル:奥さんを口説こうとして悪かった。
ジル:もし舞台を見たければ、特別に席を用意するから許してくれ…とね

(そうだったんだ…)

ジル:あれくらいのことで、ここまでさせるつもりはありませんでしたが
ジル:貴女にオペラを見せたかったのでお願いしたのですよ

(びっくりしたけど…)
(ジルの気持ちが、すごく嬉しい)

昨日の落ち込んでいた気持ちが、ジルの優しさで晴れていく。
ジル:予定していたものとは違いますが、つきあってくれますか?
吉琳:もちろん…!
ジルに頷き返した後、劇団員の男性と向き合った。
吉琳:あの…ありがとうございます

(言葉は伝わらないかもしれないけど、感謝の気持ちが伝わるといいな)

その思いが届いたのか、男性はにっこりと微笑んでくれた。

***

吉琳:オペラって初めて見たけど…すごかったね
ホテルに戻ってきてからも、興奮は全然さめなかった。

(オーケストラの音色も歌声も、全部胸に残ってる…)

吉琳:ジル…素敵な時間をありがとう
吉琳:来る前からずっと楽しみにしてたから、見れてすごく嬉しかった
ジル:貴女に喜んでいただけたなら、私も嬉しいですよ

(オペラだけじゃなくて…)
(この旅行は楽しいことだらけだったな)

吉琳:でも…この旅行も明日で最後なんだよね

(ちょっと寂しいな…)

ジルが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ふと旅行前のことを思い出した。

〝レオ:新婚旅行に行く二人に、会社のみんなからプレゼントだよ〞
〝レオ:それ、新婚旅行の時に開けてね?〞
〝レオ:その方が盛り上がると思うから〞

(そういえば…)

吉琳:ねえ、ジル。来る前にレオからプレゼントを受け取ったよね?
ジル:ええ。確かこのトランクの中に…ああ、これですね
吉琳:何が入ってるんだろう…?
ジルからラッピングされた袋を受け取り、中を開けると……
レオからもらったプレゼントを開けると、中から一枚のDVDが出てきた。
吉琳:これ、何だろう?
ジル:せっかくですし、パソコンを借りてきましょうか
ジルとホテルからパソコンを借りて、再生してみると……

108592
--クロード:吉琳、新婚旅行に行くんだってな。ジルにたくさん甘えて来いよ

108593
--ルイ:たまには、羽目を外していいと思う。…楽しんで来て

108594
--レオ:帰って来たら、幸せいっぱいの旅行話を聞かせてね

(これって……)

吉琳:もしかして、ビデオレター…?
ジル:そのようですね
画面から聞こえるみんなのメッセージに、胸の中が温かくなる。

(帰ったら、お礼を言わないと)

吉琳:こういうの、嬉しいね
ジル:ええ
クロードさんも、ルイ社長も、レオも、みんながそれぞれ一通り話し終えた後、
突然画面が切り替わって……

(え……?)

108596
--ジル:いつも隣にいてくれる貴女に改めて気持ちを伝えたくて
--ジル:このメッセージを撮らせてもらいました

(ジル…?)

隣を見ると、ジルは微かに笑みを浮かべて画面に視線を戻した。

(どういうこと…?)

戸惑う私をよそに、画面の中のジルが言葉を続ける。

--ジル:貴女と結婚してから、幸せなことばかりです
--ジル:貴女とおはようを言って始める朝が、すごく大切で…それを聞かないと1日が始まった気がしません
--ジル:もうずいぶん前から、私にとって貴女はいなくてはならない存在でした
--ジル:貴女が他の誰でもなく私を選んでくださったことを、本当に嬉しく思います
--ジル:吉琳…一生をかけて、貴女を大切にします。ですから…
--ジル:これからもずっとそばにいてください…ジル=クリストフの妻として

吉琳:……っ
幸せに息が詰まって、手で口を覆う。
視界が滲んで自然と涙がこぼれた瞬間、
隣にいたジルが私の肩を抱き寄せて…――
ジル:喜んでもらえましたか…?
優しい手つきで、涙を拭ってくれた。
吉琳:…っ…うん

(すごく嬉しい…それに、もっと伝えたいことがあるのに)
(息が詰まって、うまく言葉が出てこない)

それでも、なんとか声を絞り出す。
吉琳:ありがとう、ジル…
言葉にならない分、キスで気持ちを伝えようと顔を上げる。
吉琳:ん……
ジル:吉琳…?
吉琳:…ジルが私の旦那様で、本当に幸せだよ
吉琳:私も妻として…ジルを一生大切にするからね
ジル:…ありがとうございます
柔らかな笑みが広がって、互いの顔が近づく。
そっと触れた唇は、言葉以上の愛しさに溢れていた。

***

ベッドのスプリングが、軋んだ音を立てる。
吉琳:ん…っ、ぁ
深いキスが、シーツの上に沈んだ私をかき乱していった。

(ジル…)

角度を変えて、ついばむようなキスを繰り返した後、
私を組み敷いたジルが、包帯にくるまれた手首をそっと撫でた。
ジル:傷、痛みますか…?
心配そうな顔で、ジルが体を起こそうとする。
遠ざかる温もりが恋しくて、私はとっさにシャツを掴んでいた。
吉琳:やめないで…
ジル:吉琳…
吉琳:今はジルに、触れてほしい…

(…愛して、ほしい)

ジル:……わかりました
吉琳:…っ、ぁ…
ワンピースの裾を割って、大きな手が素肌を撫でる。
力が抜けて手を離すと、ジルは片手で器用にシャツを脱いでいった。
再び私に覆いかぶさったジルが、艶やかな眼差しを向けて…――
ジル:痛みを忘れるくらい…愛して差し上げますよ


fin.

 

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吉爾甜蜜

第3話-スウィート(Sweet)END:

 

ジルと野外のオペラを見に来たけれど、気づけば私一人になっていた。

(うそ、はぐれた…?)

吉琳:…っ…ジル
名前を呼んだ瞬間、誰かと肩がぶつかって……
吉琳:あっ…
体が傾き、地面が近づく。
ぎゅっと目をつむると、誰かの手が私の体を支えてくれた。
???:大丈夫ですか?

(え…)

聞き慣れた声に、勢いよく顔を上げる。
吉琳:ジル…!
ジル:はぐれても必ず貴女を見つけ出す、そう言ったでしょう?
ジル:ですが、見失ってすみませんでした
吉琳:ううん。私の方こそごめんね

(…逢えてよかった)

ほっと胸をなで下ろすと、ジルが私の手を取った。
ジル:やっぱり、手はこうしておくのがよさそうですね
離れないように、指を絡めてしっかりと繋ぐ。
ジルの手の温もりが、それまでの不安を少しずつ溶かしてくれた。

(ジルとこうしてると安心する…)

二人で人混みの中を器用にすり抜け、先へと進む。
吉琳:それにしても…こんなにたくさんの人がいるのに、よく見つけてくれたね
ジル:どこにいてもきっとわかりますよ
ジル:私たちは運命で繋がっているようですから

(その言葉…)

〝吉琳:再会した時に、もし運命が本当に存在するなら〞
〝吉琳:ジルと出逢ったことがそうなんじゃないかって…そう思ったんだ〞
〝ジル:私も、同じことを思っていました〞

(どんなに離れても、必ず巡りあえる運命にあるなら…)

吉琳:じゃあ、私もジルがどこにいても見つけられるかな?
ジル:ええ、きっと
笑みを交わしながら人混みを抜け、屋外に用意された席に座る。
ちょうどその時、開演を告げる音が夜空に響いた。

(間に合ってよかった…)

観客の視線が舞台に集まる中、そっと隣の横顔を見上げる。
もうはぐれることはないのに、ジルは私と手を繋いだままだった。

(こうして、ジルと一緒にいられることが嬉しい…)

吉琳:…ジル
ジル:どうしまし…――
少しだけ腰を浮かして、ジルの頬にキスをする。
ジル:吉琳…?
吉琳:さっき見つけてくれたのが嬉しかったから…お礼

(本当はしたくなっただけなんだけど…)

ジル:いつもの貴女なら、こんなところでと言うのでは?
吉琳:…っ…今はみんなステージの方を見てるから、いいの
ジル:そうですか。では…
にこりと笑みを湛えたジルが、私の顔に影を落として…――
ジル:もう一度しても問題ありませんね?
吉琳:え…、……んっ
掠めるようなキスを、唇に落とした。
吉琳:ジル…っ
ジル:貴女が言ったのですよ、吉琳…?
吉琳:…っ…ぁ
下唇を柔く噛んで、もう一度キスが与えられる。
吉琳:で、でも…もうオペラ始まったよ
吉琳:私たちも見よう…?
ジル:もちろん見ます。ですが…それはもう少し後で
三度目のキスは、長く重なって……
オーケストラの音色が夜空に溶け込む中、私たちはひそかに熱を分けあった。

***

――…その日の夜

オペラを見てホテルに戻り、ジルとお土産の整理をしていく。
ジル:…ああ、そういえば
吉琳:どうしたの?
ジル:これを忘れていたと思いましてね
吉琳:あ……
ジルがトランクの中から、綺麗に包装された袋を私に手渡す。

(これって確か…レオがくれたものだよね)

〝レオ:新婚旅行に行く二人に、会社のみんなからプレゼントだよ〞
〝レオ:それ、新婚旅行の時に開けてね?〞
〝レオ:その方が盛り上がると思うから〞

(そういえば、レオは何をくれたんだろう…?)

ジル:中、開けてみましょうか
吉琳:うん
ジルと一緒にベッドに座り、リボンを解いていく。
中から出てきたのは……
吉琳:アルバム…?
小さなアルバムの表紙めくり、息を呑む。

(これ…――)

吉琳:私たちの結婚式の時の写真…?
ジル:いつの間にこんなものを用意していたのでしょうね
ジルも少しだけ驚いた様子で、アルバムの中を覗き込む。

(あ、写真にコメントがついてる…)

――…吉琳ちゃんとジルの初めての共同作業! 二人とも、甘いものはほどほどにね。

(これは…レオの字かな?)

ケーキカットの時の写真には、そんなメッセージが添えられていた。
次のページをめくると、フラワーシャワーの中で微笑む私とジルの写真が収められている。

――…いつまでも、お幸せに。

(この綺麗な字は…ルイ社長?)

それぞれの写真に添えられた言葉を見て、胸の中が温かくなる。
込み上げてくるものをぐっと抑えながら、さらにアルバムをめくった。
ジル:これは…
吉琳:…?
次のページを開いた瞬間、ジルがぱたんと表紙を閉じる。
吉琳:え、どうして閉じちゃうの?

(よく見えなかった…)

ジル:この先は見ないでください
吉琳:そんなこと言われると、余計気になるよ
ジル:気になっても駄目です
吉琳:あ、ジル…!
すっとアルバムを取り上げられ、慌ててジルの手を掴む。
その瞬間、手からアルバムが滑り落ちてしまった。
吉琳:あ……
床に落ちたアルバムが、弾みで開いて……

(え…?)

視界に映った一枚の写真に、息を呑む。

――…すごく愛おしそうな顔で花嫁を見つめる花婿。愛されてるな、吉琳。

(見せたくなかった写真って…これ?)

ジル:こんな写真を入れるなんて…きっとクロードですね
ジルが珍しく照れた様子で目を伏せる。
吉琳:ジルって、いつもこんな顔で私を見てくれてるの…?
見ているだけで愛しさが伝わるような表情に、胸が甘く疼く。

(…こんな風に、愛してくれてるんだ)

ジル:貴女を見つめている時に自分の顔を見たことはありませんが…きっとそうなのでしょうね
写真からジルに視線を移すと、手のひらで頬を包まれた。
ジル:貴女を見ていると自然に…愛しいと思うので
優しく細められた瞳が近づいて…――
吉琳:…ん
唇にそっと、慈しむようなキスが落とされる。
吉琳:……私も、同じだよ

(ジルを見てると…いつも愛しくなる)

間近で視線を絡ませると、笑い混じりの吐息が鼻をくすぐった。
ジル:そのようですね
ジル:よく見ると、貴女の目も人のことは言えないようです
吉琳:うん…きっとそうだと思う
吉琳:ジルのことをすごく…愛してるから
ジル:それは…嬉しい言葉ですね
吉琳:ん…っ
再び唇を塞がれて、体中に甘い熱が広がり始める。
ジル:私も貴女を…誰より愛していますよ
もつれ合うようにベッドに倒れこみ、息が苦しくなるほどキスを深くしていく。
新婚旅行最後の夜は、愛しさを伝え合うように、体を重ねていった…――

***

――…新婚旅行最後の朝

ホテルの近くにあったカフェに入り、ジルと朝食を取る。
朝日が降り注ぐ席で、隣に座るジルをじっと見つめた。
ジル:…? どうしました?
吉琳:あのね…今すごく幸せだなって思ってたの
ジル:幸せ…?
吉琳:うん。いつも仕事の時間があわなくて、朝ごはんはあまり一緒に食べられないでしょ?
吉琳:だから、この時間にジルとご飯を食べられることが幸せだなあって
ジル:貴女はまたそんなことを言って…
頬を緩めたジルが、ふいに体を乗り出して……

(え……)

私の口の端に、触れるだけのキスをした。
吉琳:ま、また唇に何かついてた…?
ジル:…いいえ
ジル:今のは、キスをしたくなっただけです
ジル:私も貴女とこうしていられることを、幸せに思いますよ
目の前に広がる大好きな微笑みに、ぎゅっと胸が締めつけられる。

(好きな人と気持ちが重なるって、どうしてこんなに嬉しいのかな)

尽きることのない幸せが、心を…体を満たしていく。
吉琳:ジルと結婚できて…ジルの奥さんでいられて…
吉琳:本当に、幸せだよ
ジル:…ええ。私もですよ、吉琳
ジル:貴女が妻で私は…――幸せです
温かな陽ざしの中で、私たちは互いに寄り添って、
ハネムーンの最後に、かけがえのない時間を楽しんだ…――


fin.

 

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Epilogue:

 

――…大好きな彼と過ごす、幸せな新婚旅行
旦那様との甘い時間は、刺激的な夜に変わっていく……

吉琳:今はジルに、触れてほしい…
ジル:……わかりました
ジル:痛みを忘れるくらい…愛して差し上げますよ
敏感な場所を探りあてるように指が動き、瞬く間に視界が滲む。
吉琳:…っ、ジル…
吐息をこぼすと、唇を溶かしていた熱が今度は胸元を乱し始めて…――
ジル:…本当に、可愛いことばかりを言う唇ですね

絆を深めた後も、二人の甘い新婚生活は続いて……

ジル:ミケランジェロの相手をする前に、夫の相手もしてください
吉琳:もしかして、ミケランジェロに嫉妬したの?
ジル:いけませんか?

彼との甘すぎる新婚生活は、まだまだ終わらない…――

 

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