日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(

日版王宮 王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~

(獎勵故事)

日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(

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【期間】2021/04/10~2021/04/25

 

 

日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(

 

栄光のギャップ王子No.1に輝くのはどの王子様…?!
あなたの1票が彼の力になる!ぜひたくさん投票してね★

 

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『実は怖いものが苦手そうな彼部門』

『実は大食いな部門』

『実はロマンチストな彼部門』

『実は不器用そうな彼部門』

 

吉琳碎念:

這4個項目,只有4可以先排除,
3應該是最熱門、最多人投的吧。
所以該投1嗎? 但我不知道吉爾怕不怕……

因為不想投錯部門,所以我打算等中期出來之後投,沒想到中期4個部門前4都沒有吉爾……最後我全部都投第2個,畢竟甜食是另外一個胃XDDD

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[故事]

 

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窓から差し込む眩しい日差しに、温かな陽気を感じる、とある日…―
私はジルに呼ばれて、執務室に向かっていた。

(話があるって言われたけれど、何だろう……急ぎの公務かな?)

考えながら歩いていた時、前方から見知った相手がやって来るのに気づく。
レオ 「こんにちは、吉琳ちゃん。これから公務?」
吉琳 「レオ……ううん、ジルに呼ばれて、向かっているところなの。……あれ?」
ふと目に留まったのは、レオが抱えているワインボトルだった。
吉琳 「それってワイン……? レオが飲むの?」
レオ 「違うよ。これは近々行われる催しで使うかもしれないから、運んできただけ」
レオ 「俺はお酒、苦手だしね」
あまり飲めないのだと以前聞いたことがあったので、納得して相槌を打つ。
吉琳 「そうだったよね。レオは顔が広いし、お酒を飲む機会も多そうだから……」
吉琳 「苦手なんて、何だか意外だと思ったな」
レオ 「よく言われるよ。でもそういう意外な一面って誰しも持ってるものじゃない?」
吉琳 「そうかも……あっ、引き留めてしまってごめんね」
レオ 「ううん、俺の方こそ。それじゃ、またね吉琳ちゃん」
手を振るレオに笑みを返してから、再び執務室に向かって歩き出す。

(意外な一面、か……皆にもあるのかな)

私の頭には知り合いの顔が次々と浮かんでは消えていった。

***

吉琳 「お祭り、ですか……?」
執務室で言われたことを聞き返すと、ジルは真面目な顔で頷いた。
ジル 「ええ。近々、シュタインをはじめとした友好国の方々を招いて祭事を開くことになりまして」
ジル 「ウィスタリアも親交のある国が増えましたからね……」
ジル 「国についてより深く理解してもらうのにも得策ではないかと、官僚の方々が発案したそうです」

(そういえば……)
(さっきレオと会った時、お酒について『近々行われる催しで使う』って言っていたけれど……)

吉琳 「もしかして、レオも関わっているんですか?」
ジル 「ええ、既に動き始めていると聞きましたよ」
吉琳 「やっぱり……」
そこで私はジルに呼ばれた理由に思い至る。
吉琳 「……もしかして、私を呼んだのは準備の相談ですか?」
しかしジルは、私の予想に反して首を左右に振った。
ジル 「いえ、貴女には祭事の件をお伝えしておきたかっただけです」
ジル 「今回プリンセスにしていただきたいのは、最初の挨拶のみになります」
ジル 「その後は、お客様として参加していただき、客観的にウィスタリアを見てどう感じるか……」
ジル 「率直な意見を聞かせていただくのも良いかもしれないという話になりまして」
吉琳 「意見、ですか……?」
思いもよらない言葉に目を瞬くと、ジルは柔らかく笑う。
ジル 「はい……とは言っても、そう身構えないでください。そちらは建前で、本音では……」
ジル 「お忙しかったプリンセスを、少しでも休ませてあげたいという官僚達の計らいですので」
ジル 「貴女の頑張りを多くの者が認めているということです」
掛けられた言葉に、胸の奥が温かくなっていく。
吉琳 「そうですか……それは、とても嬉しいです」
吉琳 「でしたら、今回はお客として参加させていただきますね」
微笑むジルに、私も自然と笑みを返す。
ジル 「プリンセスのことも、しっかりとおもてなしさせていただきます」
ジル 「私や、貴女と親しい方々も手伝うことになっていますので楽しみにしていてくださいね」
ジル 「お客様としてしか見えない一面を知る良い機会になるかと思いますので」
吉琳 「はい、楽しみにしています」

(新しい一面か……)

ふと、レオが廊下で言っていたことを思い出す。

(『意外な一面は誰しもが持っている』……)
(国のことだけじゃなくて、手伝いをしている皆のそんな部分も見られるかも)

少し先の未来に想いを馳せ、心が弾んだ…―

 

30枚特典
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柔らかな春風が庭の草木を揺らす、とある日…―

(城下はもう、お祭りで賑わっているみたい)

お祭り会場に向かおうと城内を歩いていると、
普段会議に使われている部屋の扉が開いた。
中から大勢の人が出て来る中、アルバートとレオを見つける。

(珍しい組み合わせだな)

硬い表情のアルバートと対象的な笑顔のレオに歩み寄ると、
私に気づいたレオが浮かべていた笑みをさらに深めてこちらへ向けた。
レオ 「吉琳ちゃん。今からお祭り会場に?」
吉琳 「うん。二人が一緒にいるなんて珍しいね」
レオは、他国の方たちに向けてお祭りの最終確認をしていたのだと教えてくれた。
レオ 「アルバートは、ゼノ様が回る場所をあらかじめ確認しておきたいみたいで」
レオ 「これから俺が案内する予定なんだ。ほんと真面目だよね」
アルバート 「ゼノ様の安全のために、入念な確認は当然のことだ」
眉を寄せるアルバートにくすりと笑みを漏らしたレオが、私の耳元に顔を寄せる。
レオ 「俺としては、アルバートにも祭りを楽しんで欲しいんだけどね」

(そっか、主催として他国のお客様を楽しませることがレオの仕事だから……)

その時、会議に参加していたらしい男性がレオに声を掛けて来る。
断りを入れたレオが男性と話し始めたものの、
すぐに私たちの元に戻って来て……。
レオ 「ごめん、アルバート。少し時間が掛かりそう」

(レオ、忙しそうだな。何か手伝ってあげたいけど……そうだ)

吉琳 「それなら……私がアルバートを案内しようか?」
レオ 「いいの?」
アルバート 「いえ、プリンセスに案内していただくなど……」
恐縮するアルバートに私は首を横に振った。
吉琳 「気にしないでください。ちょうどお祭りに向かうところでしたから」
レオ 「今日は吉琳ちゃんもお客様なのにごめんね。でもありがとう、すごく助かる」
レオ 「話が終われば、俺も合流するから」
吉琳 「うん、わかった」
こうして私はレオと別れ、アルバートを案内することになった。

***

お祭り会場はたくさんの人で賑わっていた。
案内しながら会場を歩く間、アルバートはどこか険しい表情を浮かべている。

(賑やかな場所、あまり好きじゃないのかな……)

ふと、会場の一角にあるアイスクリーム店の前に、
行列ができていることに気づき足を止める。

(美味しそうだな……)

アルバート 「気になりますか? 俺はここにいるので、買ってきて構いませんよ」
吉琳 「はい。……あ、よかったらアルバートも食べてみませんか?」
アルバート 「お気遣い頂かなくて結構です。俺はゼノ様のために下見に来ただけですので」

(アルバートにもこのお祭りを少しでも楽しんで欲しいんだけどな……)

吉琳 「あの……人気店のものはゼノ様も召し上がるかもしれませんよ?」
アルバート 「それは……確かに」
吉琳 「……食べませんか?」
じっと瞳を見つめると、アルバートは観念したようにため息をつく。
アルバート 「わかりました、ご一緒します」
吉琳 「よかった! じゃあ、行ってみましょうか」
笑顔を浮かべる私に、アルバートが眼鏡の奥の瞳を揺らした。

(……アルバート?)

吉琳 「どうかしましたか? アイスクリーム、苦手でしたか……?」
アルバート 「いえ、そういうわけではなく……」
アルバートの綺麗な指が眼鏡を持ち上げる。
アルバート 「……あなたに申し訳ないと」
アルバート 「俺とではなく、他の人間と回った方が楽しいでしょうから」

(そんなことを気にしてくれていたんだ……)

不器用な優しさに、胸がくすぐられる。
私は頭を振ると、アルバートを見上げた。
吉琳 「そんなことありません。アルバートと回れて楽しいですよ」
吉琳 「あとは……アルバートがこのお祭りを楽しんでくれたらもっと楽しいです」
アルバート 「あなたという人は……恥ずかしげもなくそのようなことを言って……」
顔をしかめながらも、アルバートの瞳には微かな笑みがにじんでいた。

***

アイスクリームを買った後休めるところを探していたら、
幼い兄弟がアルバートにぶつかった。
吉琳 「あっ……」
その拍子にアルバートの服にアイスクリームがついてしまう。
アルバート 「……」
兄 「ごめんなさい……!」
慌てて謝る兄をよそに、弟が大粒の涙を流す。
弟 「うえーん、アイスクリームがぁ……!」
兄 「泣かないで。また今度買ってあげるから」
弟 「今食べたいの!」
兄 「だけどもうお金が……」

(どうしよう……この子たちもかわいそうだけど、アルバートの服が……)

その時、アルバートが泣き続ける弟の前にしゃがみ込んだ。
アルバート 「男がそんなことで泣くんじゃない」

(アルバート、子供相手にも厳しいな……)

怯える子どもたちを前に、どうにかフォローしようと口を開こうとした直後、
アルバートがぎこちない手つきでアイスクリームを差し出す。

(え?)

アルバート 「アイスクリームならこれを……だからもう泣くな」
弟 「え? あ……うん」
兄 「ありがとう、メガネのお兄ちゃん! 服も汚してしまってごめんなさい……」
アルバート 「……服のことは気にしなくていい」
兄弟が笑顔で立ち去り、私はしゃがみ込んだままのアルバートに目を向けた。
吉琳 「優しいですね」
アルバート 「……ただ泣き声が耳に障っただけです」
呟く彼の耳がほのかに赤く染まっている。

(アルバートって、普段は少し近寄りがたい雰囲気だけど……)
(本当はとっても優しい人なのかもしれないな)

立ち上がったアルバートの服についたアイスクリームを見て、ハッとする。
吉琳 「その服、着替えた方が……」
アルバート 「そうですね、着替えてきます。入れ違いになるかもしれないので……」
アルバート 「レオ=クロフォードが来たら、事情を伝えておいてもらえますか?」
吉琳 「わかりました」
背中を向けたアルバートがふと足を止め、私を振り返った。
アルバート 「……短い時間でしたが、あなたと二人で回ることができて楽しかったです」
アルバート 「ありがとうございました」
照れくさいのか早口で言うと、アルバートは城に向かって歩き出す。
私は瞳を瞬かせながら、その背中を見送った。

(アルバートが少しでも楽しんでくれたなら、よかったな)

脇道で待っていると、不意に肩をトントンと叩かれる。
レオ 「吉琳ちゃん」

 

70枚特典
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アルバートが着替えのために城へ戻っていった数分後…―
不意に、誰かが私の肩を叩いた。
レオ 「吉琳ちゃん」
レオ 「あれ? アルバートは?」
振り向くと、レオが立っていた。
事情を説明する私に、レオが屈託のない笑顔を浮かべる。
レオ 「そっか、じゃあアルバートが戻って来るまで俺とデートだね」
吉琳 「もう、そんなこと言って……」
冗談だと受け流すと、レオは小さく肩をすくめた。
レオ 「冗談ってわけでもないんだけどな……まあ、いいや」
レオ 「じゃあ行こっか」
自然な仕草でレオが私の手を取る。
鼓動が小さく跳ねるのを感じながら、私は一歩踏み出した。

***

会場を回っていると、レオは何度も女性たちから声を掛けられた。
レオ 「今はデート中なんだ、ごめんね」
その度にレオはそんな返事を返していて……
女性 「あら……プリンセスも一緒でしたのね! 申し訳ありません」
吉琳 「あ、いえ……」
女性は私に頭を下げると、そのまま去っていく。

(レオって、女性の知り合いが多いんだな)
(だから女性の扱いがスマートなのかも)

外国のアクセサリーを並べた出店で、レオがふと足を止める。
レオ 「これ、吉琳ちゃんに似合いそうだね。買ってあげる」
吉琳 「えっ……い、いいよ!」
レオ 「プレゼントさせてよ。いつも頑張ってるご褒美に」
笑顔のレオが店主に紙幣を渡す。

(こういうところもすごく自然だし……やっぱり女性と遊び慣れているのかな)

さらに先に進むと、言い争う声が聞こえた。
どうやら隣の店同士で喧嘩をしているらしく、レオが声を掛ける。
レオ 「どうしたの?」
店主1 「それが……あっちで売ってる外国製のショールがやけに安いんです」
店主1 「おまけにうちとそっくりだから、こちらの売り上げがさっぱりで」
レオ 「そう……」
店主の言う通り、両方の店先に並べられた外国のショールはとてもよく似ている。
なのに、値段は半額以下らしくて……。
レオ 「出店許可証を確認させてもらえるかな?」
店主2 「い、いえ……それは……」
レオ 「持ってない?」
店主2 「……持っています」
格安の商品を扱っていた店の店主が渋々出店許可証を差し出す。
確認したレオが小さく頷いた。
レオ 「この商品を販売する届けが出されてないね」
レオ 「ちゃんと届けを出さないと、販売を許可することはできないよ」
レオ 「許可のない商品は下げてもらえるかな?」
店主2 「……はい」
レオ 「ちゃんとルールは守って、皆が楽しめるお祭りにしよう」
レオが諫めたことで、言い争いは収まった。
お礼を言う店主と別れ、再びレオと歩き出す。
吉琳 「レオってお店の管理もしていたんだっけ?」
レオ 「そういうわけじゃないけど、祭りに関する書類には一通り目を通してるから」
レオ 「他国も招待している場で、変なトラブルは起こしたくないからね」
レオ 「早速起きちゃったわけだけど……アルバートがいなくて良かった」
そう言ってレオが明るく笑う。

(もしかして……一緒にお店を回っているのも見回りの意味があるのかも)

レオは遊び慣れていて、どこか掴みどころがないと思っていた。
けれど、今回のことでレオの真面目な一面を改めて知れた気がする。
吉琳 「レオって、実は真面目でしっかりしているよね」
レオ 「そんなことないよ。あれ? もしかして俺に惚れちゃった?」
吉琳 「そ、そういうわけじゃ……」
なんでもすぐに冗談めかしてしまうレオに、慌てて首を横に振る。
吉琳 「人知れずにちゃんと努力しているところ、すごいなって思ったの」
吉琳 「私も見習わなくちゃいけないなって」
レオ 「……君の、その思ったことを伝えるまっすぐなところ、好きだなぁ」
レオは私を見ると、眩しそうに瞳を細めた。

***

レオと会場を回っていると、アルバートが戻ってきた。
吉琳 「おかりなさい、アルバート」
アルバート 「遅くなりすみません。途中ユーリに絡まれまして……」
頭を下げるアルバートに、レオが笑顔を向ける。
レオ 「じゃあ、行こうか」
レオ 「アルバートにもこのお祭りを楽しんでもらえるよう、案内するよ」
アルバート 「ただの案内で結構です。それに……もう祭りは充分に楽しみましたので」
ちらりと私を見たアルバートと視線が交わる。

(アルバートが何を楽しいと思ったのかはわからないけど……)
(そう思ってもらえたなら良かった)

レオ 「ん? ……ああ、そういうことか」
レオは何かに気づいたように呟くと、
アルバートの視線を遮るように、私たちの間にすっと割って入った。
レオ 「吉琳ちゃん、ありがとう。ここからは俺がひとりで案内するよ」
レオ 「アルバートとは男同士、話したいこともできたしね」
吉琳 「え? あ、うん」
意味深な笑みを浮かべるレオに、頷きを返す。
アルバートは迷惑そうに眉を寄せた。
アルバート 「別に話すことなど……」
レオ 「まあ、そう言わずにさ」
レオ 「アルバートとは話が合う気がするんだ。……好きな子のタイプとかね」
アルバート 「は……?」
瞬間、ふたりの間にピリッとした空気が流れた気がした。
しかし、レオはすぐにいつもの笑顔を浮かべて私に向き直る。
レオ 「吉琳ちゃんはジルのところにでも行ってみるといいよ」
レオ 「おすすめのお店とか、教えてくれるはずだから」
吉琳 「わかった、ありがとうレオ」
レオが半ば無理やりアルバートの腕を引き、立ち去っていく。

(あの二人での恋愛話とか、想像できないな……)
(一体、何を話すんだろう?)

二人の背中が見えなくなるまで見送って、私は次の目的地へと歩き出した…―

 

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綻び始めた花々が、春風に揺れるある日の午後…―
先ほどまで見て回っていた賑やかな会場を抜け、
私は、祭りの設営本部がある広場に向かった。

(ジルはここに居ると聞いたけれど……)

本部として設置されたテントに入り、見慣れた姿を探して周囲を眺める。
少ししてジルを見つけた私は、安堵しながらそちらに歩み寄った。
吉琳 「ジル、こんにちは」
ジル 「プリンセス。いらしてたんですね」
吉琳 「はい。先ほどレオやアルバートと会場を少し見て回ったんですが、活気があってすごいですね」
ジル 「楽しんでいただけているようで何よりです」
真っ直ぐな眼差しを向けてきたジルが、満足そうに微笑む。
ジル 「そういえば、どうしてこちらに?」
吉琳 「ジルに聞きたいことがあって来たんです」
ジル 「何でしょう?」
吉琳 「次はどこに行こうか悩んでしまっていて……」
吉琳 「もし、おすすめの場所があれば教えてもらいたいんですが……」
ジルの答えを聞こうとしたその時、
後ろから伸びてきた手に肩を抱かれる。
驚いて振り返ると、シドが立っていた。
吉琳 「シド……!」
シド 「どこに行くか迷ってるなら、俺がアドバイスしてやろうか」
かすかに唇の端を持ち上げたシドが、私の腰を引き寄せる。
より距離が縮まったかと思うと、今度は顎を軽く掬われた。
シド 「ただし、それなりの対価をいただくがな」
熱い吐息が頬を撫で、鼓動が小さく音を立てる。
視界いっぱいに映ったシドが、ふっと笑みを深めた。
どうすれば良いか分からず固まってしまった私の耳に、ジルの溜め息が聞こえてくる。
ジル 「……シド、あまりプリンセスを困らせないでください」
ジル 「他国の方々も来ているのですから、行動を謹んでいただかないと」
真面目な顔をして諫めるジルに、シドは軽く肩を竦めると私から手を離す。
シド 「お堅い教育係がそう言うなら、今は仕方ねえな」
感じていた温もりがなくなり、私は緊張から詰めていた息を、そっと吐き出した。

(びっくりした……)
(シドって距離が近い時があるよね……何を考えているかわからないことも多いし)

鼓動を落ち着けながら、傍らに立つシドを見上げる。
吉琳 「シドはどうしてここに?」
ジル 「情報を買わせていただいたついでに、私が手伝いをお願いしました」
代わりに答えたジルを一瞥して、シドは読めない笑みを浮かべたまま頷いた。
シド 「ま、そういうわけだ」

(ジルはシドからよく情報を買っていると言っていたっけ……)
(二人って意外と付き合いが長いし、ジルも頼み事をしやすかったりするのかな?)

考えていると、真面目な表情のジルと目が合う。
ジル 「プリンセス、話が逸れてしまい申し訳ありません。先ほどの相談の件ですが……」
ジル 「ウィスタリアの歴史が展示されている場所があります」
ジル 「そこならばプリンセスとしての知見が広げられるかと思いますよ」
吉琳 「ありがとうございます。確かに、プリンセスとして必要なことを学べそうですね」
ジル 「それと……」
何か言いかけたジルの言葉を遮るように、男性が駆け寄ってくる。
男性 「ジル様、お話中のところ申し訳ありません。実は……」
男性の話によると、どうやら会場でトラブルがあり、対応の確認に来たらしい。
静かに耳を傾けていたジルは、厳しい表情で頷きを返した。
ジル 「わかりました。以後そのようなことのないようにお願いします」
ジル 「対応についてですが……」

(すぐに解決策を出せるなんて、すごいな)
(ジルは、どんな時でもしっかりした教育係って感じがする……シドとは対照的だよね……)

男性が立ち去り、ジルは再び私と向き合うけれど……
男性 「すみません、ジル様! 実は……」
また別の人に声を掛けられてしまい、ジルは慌ただしく応対する。
その様子を見ていたシドは、ジルに向かって問題が起きている方向を目で示した。
シド 「直接見に行った方が良いんじゃねえか」
シドの提案に一瞬のためらいを見せた後、ジルは小さく息を吐く。
ジル 「ええ、その方が良さそうですね……」
ジル 「すみません、プリンセス。先ほどの話の続きは、もう少し待っていただけますか」
吉琳 「はい、大丈夫ですよ。ジルはお仕事を優先してください」
ジル 「ありがとうございます……では、行ってきますね」
ジル 「シド、プリンセスにまたおかしな真似をしないでくださいよ」
シド 「さあな」
ジルが足早に立ち去っていくのを確認したシドは、
意味深に口端を上げて笑うと、私に目を向けた。
シド 「さて、と。お堅い教育係も居なくなったことだし……」
その時、突然テントに大勢の人が押しかけてくる。
その人達の険しい顔つきから只ならぬ雰囲気を感じて、胸が騒いだ。

(何かあったのかな……?)

思わずそちらに視線を向けていると、突然シドに手を取られる。
シド 「ここに居ても退屈だな。行くぞ」
吉琳 「え、シド?」
訳も分からないまま私はシドに引かれ、テントを後にした。

***

シドに連れてこられたのは、本部近くにある小屋だった。
中には祭りの備品らしきものが、雑然と置かれている。

(シド、何で急にここに連れて来たんだろう……?)

理由を聞こうとした時、ふいにシドが私の方を向いた。
無言のまま距離を詰めてきたシドに動揺して数歩下がると、背に壁がつく。
吉琳 「シド……?」
シド 「あんなに人が居たんじゃ、こういうこともできないだろ?」
シドは私の顔のすぐ側に両手をつくと、壁との間に私を閉じ込めた。
吐息が唇を撫でるほどの距離で見つめられ、思わず息を詰める。
シド 「そんな顔してると、襲われても文句言えねえぞ」
吉琳 「そんな顔って……」
耳元で囁かれる低い声に、鼓動が乱された。
シドがぐっと顔を寄せた直後、小屋の扉が開く。
ジル 「おかしな真似はしないよう言ったはずですが」
呆れた響きを含む声に目を向けると、ジルが扉から中に入ってきた。
シドは表情を変えることなく、あっさりと私から離れる。
シド 「約束はしてねえだろ」
ジル 「まったく……ですが、プリンセスを本部から連れ出してくれたのは助かりました」
吉琳 「助かった、って……どういうことですか?」
ジルの言葉が引っかかり尋ねると、
逡巡するように少しだけ黙ったジルが真剣な表情で話し出す。
ジル 「実は、プリンセス反対派の官僚達が本部にやってきまして……」
ジル 「シドが貴女を連れ出してくれたおかげで、鉢合わせにならずに済んだんです」
ジル 「先ほど私の方でお話しまして、どうにか穏便にお帰りいただけました」
吉琳 「そうだったんですか……」

(さっきやって来た人達は、反対派の官僚……)
(シドは、私を守るためにこの小屋に連れて来てくれたんだ)

シドの優しさに胸が熱くなりながら、顔を上げる。
けれどシドは、軽く頭を振った。
シド 「俺はただこいつと二人きりになりたかっただけだ」
笑みを浮かべながら冗談か本気か分からない言葉を残し、シドが小屋から出て行く。

(シドって本当は優しい人なんだな……)

口にせずとも伝わった優しさを感じながら閉まった扉を見つめていると、
ジルがそっと一枚の羊皮紙を差し出してきた。
ジル 「プリンセス、これをどうぞ」

 

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ジル 「プリンセス、これをどうぞ」
吉琳 「これは……?」
ジルが差し出した羊皮紙を開くと、中にはお祭り会場の地図が描かれていた。
ジル 「先ほどは、他の方達が来てしまって渡せませんでしたが……」
ジル 「催しの詳しい場所や時間も書かれているので、移動の際にあると便利かと思ったんです」
吉琳 「ありがとうございます、ジル。とても助かります」
地図に視線を落とすと、ジルも隣から覗き込んでくる。
ジル 「プリンセスが有益な情報を学べそうな場所には赤い印をつけてあります」
ジル 「まずはこちらですが……」
ひとつひとつ丁寧に説明してくれるジルの言葉を、相槌を打ちながら聞く。

(ジルの説明は分かりやすいな……)

改めて礼を言おうとふと隣を見ると、ジルの顔がすぐ側にあって、鼓動が跳ねた。
知らず知らずの内に近くなっていた距離に、緊張してしまう。

(公務の時もこんなに近くなることはないから……なんだか落ち着かないな)

ジルの吐息が頬を撫で、つい意識がそちらに向く。
落ちた髪を耳に掛ける仕草がやけに艶っぽくて、目を奪われた。
ジル 「ここなら、貴女も楽しめると思います」
ジルの声に意識を引き戻され、慌てて地図に視線を落とす。
ジルが指差していたのは、茶葉とアロマオイルを扱うお店だった。
吉琳 「ここ……ですか?」

(興味はあるけれど、プリンセスとしての知見を広げられる場所ではないような……)

戸惑う私の気持ちを見透かしたように、ジルはふっと笑みを深めた。
ジル 「教育係として、まずはプリンセスが見るべき場所を提案させていただきましたが……」
ジル 「今日は、純粋に貴女が楽しめる場所にも行っていただきたいですから」
吉琳 「ジル……」

(そんな風に考えてくれていたんだ……)

ジルの気遣いをありがたく思いながら、
ここまで信頼できる教育係は他に居ないと改めて思う。

(ジルが私の教育係で本当に良かった)

ジル 「それから、ここも貴女が楽しめる場所かと思いまして……それと……」
温かな気持ちになりながら、再び地図へ視線を落とす端整な横顔を見つめる。
指差して説明をする手元ではなく、思わずその表情に目を奪われていると、
私が見ているのに気づいたのか、こちらを向いたジルと再び視線が交わった。
ジル 「……どこを見ているんですか?」
吉琳 「すみません……!」

(説明してくれていたのに、地図の方を見ていなかったら失礼だよね……)

慌てて地図に視線を向けた私の耳元に、ジルが口を寄せる。
ジル 「そんなに私のことが気になりましたか?」
吉琳 「え……」
ジルの手が伸びてきて、私の頬に優しく触れた。
ジル 「貴女であれば、見つめられるのも悪くありません」
ジル 「……私も、シドのことは言えませんね」
触れた手に促されるように顔を上げると、熱をはらんだジルの瞳が目に入る。
その情熱的な表情に意識が奪われた、その時……
シド 「戻ってこねえと思ったら何してんだ」
シドの声が聞こえ、ジルが私からそっと離れた。
私達を見たシドが、意地悪な笑みを浮かべる。
シド 「教育係がいつまでも本部から離れてたら、いけねえだろ」
シド 「それに、おかしな真似はしたら駄目なんじゃなかったのか?」
シドの挑発めいた言葉に乗ることもなく、
ジルは柔らかな微笑みを瞳ににじませた。
ジル 「それは失礼しました」
シドから私に視線を戻したジルの口元がふわりと綻ぶ。
その優しい笑顔に、また胸が小さく音を立てた。

***

小屋を出ると、シドがゆっくりと私に歩み寄ってくる。
シド 「祭りを回るなら、俺もついて行ってやろうか」
ジル 「シドにはまだ頼んでいた仕事があるはずですよ」
慣れた様子で、ジルが淡々とシドを止めた。
二人はすっかり、私が良く知るいつもの顔に戻っている。

(この二人にも意外な一面があることが分かったけれど……)
(知らなかった一面を見るって、少し恥ずかしいような嬉しいような……不思議な気分)

感慨深く思っていると、肩を竦めたシドがわざとらしく溜め息を吐く。
シド 「仕方ねえ、今回は大人しく働いてやるか」
ジル 「ええ、お願いしますよ」
シド 「じゃあな、吉琳」
ジル 「引き続き、お祭りを楽しんでいってください」
吉琳 「はい……二人共、ありがとうございます」
見送ってくれる二人に手を振り、私は再び歩き出した…―


200枚特典
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青い空が広がる、気持ちの良い昼下がり…―
私は、ウィスタリアが主催するお祭りを回っていた。

(街全体が賑やかで、いい雰囲気だな)
(でも、特に賑やかなのは……)

私の視線の先にあるのは、一件の酒場だった。
妙に盛り上がっているようで、酒場の外にまで賑やかな声が聞こえてきている。

(なんだかすごく、楽しそう……)

??? 「気になる?」
吉琳 「えっ……!」
突然後ろからかけられた声に、私は肩を揺らして振り返る。
そこには柔らかく微笑むロベールさんの姿があった。
ロベール 「こんにちは。驚かせちゃったかな」
吉琳 「ロベールさん……! こんにちは、いらしてたんですね」
ロベール 「うん。息抜きにね」
ロベールさんは私の視線を辿り、酒場に目を向ける。
ロベール 「ここの酒場では、今回の祭に合わせて色々な国のお酒を揃えているらしいよ」
吉琳 「そうなんですか。ロベールさん、詳しいですね」
私の言葉に、ロベールさんがこちらを振り返って笑みを深めた。
ロベール 「俺の絵を観に来ていたお客さんが話していただけだよ」

(そういえば、ロベールさんは各国で描いた風景画を展示しているって聞いたな)

ジルから聞いたお祭りの企画を思い返していると、
不意にロベールさんがこちらを覗き込んでくる。
ロベール 「俺も気になってたから、吉琳ちゃんが迷惑でなければ一緒にどうかな」

(今日は夜にダンスパーティーもあるし……どうしようかな?)

先のことを考えて返事を言い淀んでいる私に、ロベールさんは穏やかな笑みを向けた。
ロベール 「雰囲気を味わうだけでも楽しいと思うよ」
その言葉を聞いて、楽しげな声が漏れてくる酒場とロベールさんを交互に見る。

(……ちょっとだけなら、いいよね)

吉琳 「ご一緒しても、いいですか?」
ロベール 「もちろん。じゃあ行こうか」
私が頷けば、ロベールさんが酒場のドアを開けてくれる。
そして、促される形で酒場へと足を踏み入れると…―
賑わう酒場の中心に、見慣れた顔があることに気が付いた。
吉琳 「レイヴィス……?」
レイヴィス 「吉琳?」
思わず零れた声音に、お酒を呷っていたレイヴィスが目を瞬く。

(こんなところでレイヴィスに会うなんて……)

レイヴィス 「久しぶり、吉琳。それからロベールも」
ロベール 「こんにちは、レイヴィス。楽しそうだね」
思わぬ出会いに頬を緩めると、レイヴィスも私とロベールさんを見比べて口角を上げた。
それぞれに挨拶を交わしながら、私たちはレイヴィスのいるテーブルへと歩み寄る。
吉琳 「レイヴィスはジルに招待されたの?」
レイヴィス 「ああ。せっかくだから、夜警団の奴らと休養がてら遊びに来た」
そんな話をしていると、店の奥からレイヴィスを呼ぶ声が聞こえてきた。
レイヴィスはそちらに返事をしつつ、
グラスを持って立ち上がる。
レイヴィス 「行ってくる。ここ、座っていいから」
吉琳 「ありがとう」
レイヴィスの言葉に甘え、空いた席に腰を下ろす。
対面に座ったロベールさんは、テーブルに置かれていたメニューを広げ、
こちらへと差し出してくれた。
ロベール 「吉琳ちゃんは何が飲みたい?」
吉琳 「うーん、色々気になるんですけど……」
吉琳 「強いお酒が多そうですね。飲めるかな……」
メニューにずらりと並ぶお酒の名前は、度数の強そうなものばかりだ。
どれを頼んだものかと悩んでいると、ロベールさんが小さく微笑む。
ロベール 「飲めないと思ったら俺が飲むから、気にせず好きなものを選んで大丈夫だよ」
吉琳 「いいんですか?」
ロベール 「うん。誘ったのは俺だから、それくらい気にしないで」
吉琳 「ありがとうございます! じゃあ、これで……」
メニューの一つを指差すと、頷いたロベールさんが手早く二人分のお酒を注文してくれる。
その横顔を眺めながら、私はそっと息をついた。

(いつも思うけど、ロベールさんって本当に優しいな)
(これが『大人の余裕』ってものなのかな……?)

それから程なくして、お酒が入ったグラスが運ばれてくる。
ロベール 「じゃあ、乾杯しようか」
吉琳 「はい」
グラスを軽く合わせると、涼やかな音が響いた。
ロベールさんに続いてグラスを傾けると、
甘く爽やかな味に混じって、アルコールの風味が口いっぱいに広がる。

(これは……)

ロベール 「ちょっと強かったかな」
ついつい眉根が寄ってしまっていたらしく、私を見たロベールさんが苦笑した。
吉琳 「はい……でも、半分ぐらいは飲めそうです」
ロベール 「分かった。じゃあ飲めなくなったら俺に渡してね」
吉琳 「ありがとうございます」
ロベールさんの優しい言葉にお礼を返しつつ、また一口お酒をあおる。
ロベール 「……こうやって吉琳ちゃんとお酒を飲めるようになるなんて、嬉しいな」
吉琳 「はい、私も嬉しいです」
本当に嬉しそうに目を細めるロベールさんに、私も微笑みを返すのだった。

***

そうして、お酒を飲み交わし始めて数十分後…―
私はロベールさんの顔色を伺い、思わず首を傾げた。

(ロベールさん、私の飲めなかった分も合わせると、)
(随分と飲んでいる気がするけど……)
(全然何ともなさそうだな……)

ロベール 「どうしたんだい、そんな見つめて」
ロベールさんがそう言って、不思議そうにこちらを覗き込んでくる。

(しまった、見つめすぎちゃったかな……)

吉琳 「いえ……お酒、強いんですね」
誤魔化すように笑ってみせると、ロベールさんはゆっくりと瞬きをして、
するりとこちらに手を伸ばしてくる。
ロベール 「そうかな。吉琳ちゃんは……ちょっと顔が赤いね」
吉琳 「え……」
伸ばされたロベールさんの人差し指の背が、私の頬を緩慢に撫でる。
触れられた箇所がじわじわと熱を持つ感覚に、私は慌てて声を上げた。
吉琳 「あ、あの、ロベールさん……」
ロベール 「ん? どうしたの?」
吉琳 「どうしたの、って……」
急に触れられた私が戸惑っていることには気づいているはずなのに、
ロベールさんは、いつもよりどこか意地悪な笑みを浮かべてみせた。
ロベール 「吉琳ちゃんは本当に可愛いね。……つい、意地悪しそうになるな」
吉琳 「っ……!」
その囁きにどきりと心臓が跳ね上がり、頬がまた一層赤みを増してしまう。

(ロベールさん、やっぱり酔ってる……!)

吉琳 「酔っているからって誰にでも可愛いなんて言っちゃ駄目ですよ! 私、お水貰ってきますね」
私は気恥ずかしさを紛らわせるように席を立ち、
ロベールさんの返事を待たないまま、慌ただしくカウンターへと向かう。
ロベール 「……誰にでも言うわけではないんだけどね」
背後でロベールさんが何か言ったような気がしたけれど、
その呟きは酒場の喧噪に紛れて、上手く聞き取れなかった。

(ロベールさんって、酔っぱらうと少し意地悪になるのかな……?)
(あんな一面もあるなんて、ちょっと意外……)

私は店内を進みつつ、少し熱くなってしまった頬を手で押さえる。

(……たぶんお水を飲んで酔いがさめたら、いつものロベールさんに戻るよね)

そんなことを考えながら、店内をぐるりと見渡すと…―
レイヴィス 「……あ」
一人で飲んでいたらしいレイヴィスと目が合った。

 

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日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(
お水を貰おうと、店内をぐるりと見渡すと…―
レイヴィス 「……あ」
一人で飲んでいたらしいレイヴィスの視線が合う。

(そういえば……レイヴィスもお酒、強そうだな)
(レイヴィスは酔っても普段のクールな感じは変わらないのかな……?)

先ほどのロベールさんのことがあったせいか、ついそんなことを考えてしまう。
私はレイヴィスのほうへと歩み寄った。
吉琳 「一人で飲んでたんだ。夜警団の人たちはどうしたの?」
レイヴィス 「もう解散して自由行動。祭りを回りに行ったり、宿で休んだりしてると思う」
周囲をもう一度見渡してみると、レイヴィスの言う通り、
夜警団の人達の姿は店内から消えていた。
吉琳 「レイヴィスもお祭り見てくればいいのに」
レイヴィス 「いい。騒がしいのはあまり好きじゃないから」
そう言ってレイヴィスはグラスの中に残っていたカクテルを飲み干した。
吉琳 「そっか」
レイヴィスらしい返答に、思わず笑みが溢れる。

(レイヴィスはどこに行っても自分を持っているな)

ついレイヴィスの顔を見つめてしまい、そんな私の視線に気付いたのか、
グラスをテーブルに戻したレイヴィスが、ぱっとこちらを見遣る。
レイヴィス 「何? 人の顔じっと見て」
吉琳 「ご、ごめん」
心の内まで見透かされそうなほどに真っ直ぐ見つめ返され、思わず目を逸らしてしまった。
レイヴィスの視線はしばらく私の横顔に突き刺さっていたけれど、
やがてふっと逸らされて、代わりに確認のような呟きが寄越される。
レイヴィス 「……というか、ロベールのところに戻らなくていいの」
吉琳 「あっ」
はっとしてロベールさんの方を見ると、いつの間にか他のお客さんに囲まれているようだった。
聞こえてくる会話から、彼らがロベールさんの展示を見た人達だということが分かる。
ロベールさんも視線に気付いたのか、ちらりとこちらを見ると、顔の前で手を合わせてみせた。
レイヴィス 「謝ってるけど」
吉琳 「そうだね……」

(流石に、あの中にはちょっと入りづらいな……)

私は、『大丈夫です』という思いを込めて、ロベールさんに笑みを返すと、
レイヴィスの方に改めて向き直る。
吉琳 「あの……もう少し、ここにいてもいい?」
レイヴィス 「別に、好きにすれば」
吉琳 「ありがとう」
素っ気なくも優しい言葉に、私はほっと胸を撫で下ろした。
そしてレイヴィスの対面へと腰を下ろすと、
ちょうどそれを見ていたらしい店員さんが、注文を取りに来てくれる。

(でも相変わらず、どのお酒がいいのかよく分からないな……)

悩んでいる私を見かねてか、店員さんがメニューの一番下にあるお酒を指し示した。
店員 「こちらのお酒は普段ウィスタリアにはあまり入ってこない種類なので、おすすめですよ」
吉琳 「へえ……」

(ちょっと気になるかも。でも、さっきのお酒も飲み切れなかったし……)

そうしてメニューとにらみ合いを続けていると、不意に視界の端から指が伸びてくる。
その指は、メニューに印字されたおすすめのお酒を指し示した。
レイヴィス 「なら、それを二杯」
吉琳 「えっ」
私の驚いた声に、レイヴィスがちらりとこちらを見遣る。
レイヴィス 「飲みたかったんだろ。……まあ、無理だったら飲んであげる」
吉琳 「……ありがとう、レイヴィス」
そのまましばらく待っていると、注文したお酒が二人分運ばれてきた。
吉琳 「ええと、じゃあ……」
レイヴィス 「乾杯」
かつん、と軽く触れ合わせたグラスを口元へ運び、そのまま一口飲んでみると……

(美味しい……けど、これも結構強いかも……)

濃厚なアルコールの味と香りに、くらりと頭が揺れるような感覚を味わう。
レイヴィス 「……俺が飲むから、貸して」
吉琳 「ごめんなさい……ありがとう」

(やっぱり、お水を貰ってこよう)

暴れ出す心臓を落ち着けるように息をついた私は、席を立って店員さんを追いかけた。

***

店員さんから二人分のお水を貰った私は、グラスを握り締めつつ席へと戻った。
吉琳 「はい、レイヴィスの分も」
レイヴィス 「……ありがとう」

(……あれ?)

こちらを見上げたレイヴィスが、目元を緩めて椅子を引いてくれる。
その声音が微かに甘く、いつもよりも優しいような気がして、私は軽い違和感を覚えた。

(でも、顔色はいつもと変わらないし……気のせいかな)

レイヴィス 「ほら、座って」
吉琳 「あ、うん……」
促されて席へと腰を落ち着けると、レイヴィスがじっと私の瞳を覗き込んでくる。
レイヴィス 「気分は悪くなってない?」
吉琳 「大丈夫だよ。お水も飲むし……」
レイヴィス 「ならいいけど」
まるで心配してくれているような言葉に、私の心臓が微かに波打つ。
レイヴィスは手元にあったメニューを再度開くと、その中のいくつかを指差した。
レイヴィス 「今言ったのが、お前でも飲めそうな酒だから」
レイヴィス 「次に頼むなら、この中のどれかにしなよ」
吉琳 「あ、ありがとう……」

(やっぱり、いつもより優しい気がする……)

その優しさに胸の奥をくすぐられ、じわりと頬が熱くなる。
吉琳 「……レイヴィスは、明日も夜警団の活動があるの?」
照れくささを誤魔化すように話の矛先を変えると、レイヴィスは緩慢に頷いた。
レイヴィス 「ああ。明日の朝には戻って、見回りに出るつもり」
吉琳 「そっか……頑張ってるんだね」
レイヴィス 「お前ほどじゃないよ。……お前は、慣れないプリンセスという立場で頑張ってるだろ」
こちらを真っ直ぐに見つめたレイヴィスが、
柔らかな微笑みを浮かべながら、私の頭にぽんと触れる。
レイヴィス 「俺はずっと……お前のそういうところ、尊敬してる」
吉琳 「レイヴィス……」

(レイヴィスって、酔うと少し優しくなったりするのかな……?)

戸惑いと一緒に湧き上がった小さなときめきが、胸をゆっくりと満たしていく。
レイヴィスの視線から逃げるように俯くと、視界の端に誰かの靴が映り込んだ。
ロベール 「吉琳ちゃん、ごめんね。展示会に来てたお客さんに声をかけられちゃって……」
吉琳 「あ……いえ! 大丈夫です」
ぱっと顔を上げると、申し訳なさそうに眉を下げたロベールさんの姿がある。
レイヴィス 「ロベールが連れの女性を放置するなんてな」
ロベール 「痛い所を突くね」
からかようなレイヴィスの言葉に、ロベールさんが困ったように笑い返す。
それを眺めていると、脳裏に二人のお酒を飲んだ際のギャップがよぎった。

(二人にも、意外な一面があったんだな……)

しみじみとそう考えていると、不意に二対の瞳が私を捉えた。
吉琳 「……どうかしましたか?」
ロベール 「いや、時間的にもう少し飲めそうかなと思ってね」
レイヴィス 「さっき教えた度数の低い酒でいいから、お前もどう?」
その誘いに、ちょうど思い返していた二人のギャップがもう一度浮かんできて……
吉琳 「……はい、ぜひ」
彼らの普段見られない新たな一面をもう少し見たくて、
気付けば、そう答えていたのだった…―

 

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日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(
白い陽射しが降り注ぐ、春の日の午後…―
酒場で少し飲んだ後、私は酔いを醒まそうと、行き先を決めずに歩いていた。
その途中、ウィスタリアでよく食べられている料理を作れる場所があると小耳に挟み、
参加するために必要な調理器具を取りに向かうことにする。
ユーリ 「吉琳様!」
ざわめきに紛れて聞こえた明るい声に振り向くと、ユーリとゼノ様が近づいてくる。
吉琳 「ユーリ……ゼノ様も。いらっしゃってたんですね」
ゼノ 「ああ、招待されてな」
並ぶ二人を前にして、私は大体の状況を把握した。
吉琳 「ユーリは、ゼノ様を案内しているところ?」
ユーリ 「うん。せっかく来てくださったし、楽しんでいただきたくて」
ユーリは頷いてから、ゼノ様の方を見やる。
ユーリ 「ゼノ様、今日は吉琳様もお客様としてお祭りに参加されているんですよ」
ゼノ 「そうだったのか」
微かに唇の端を持ち上げるゼノ様に、ユーリは無邪気に顔を綻ばせた。
その微笑ましい光景を見て、心が和む。

(ユーリ、すごく楽しそう。ゼノ様を案内出来て、嬉しいのかな)

吉琳 「ゼノ様、ユーリは本当に案内が上手ですよね」
吉琳 「私も一緒にシュタインに行く時は、よく助けられています」
ユーリ 「吉琳様……」
ユーリは一歩近づいてきて私の顔を覗き込むと、照れくさそうにまつ毛を揺らす。
ユーリ 「吉琳様にそんな風に褒められると、嬉しくなっちゃうな」
甘い吐息が鼻先をかすめ、鼓動が微かに波打った。

(ユーリって、やっぱり可愛いな……)

ゼノ 「確かにユーリの案内は要所を押さえている」
ユーリ 「ゼノ様まで……でも、そう言っていただけるなんて光栄です」
嬉しそうに笑うユーリに、私も自然と笑みがこぼれる。
吉琳 「そういえば、ゼノ様はどんなところを回られたのですか?」
ゼノ 「ウィスタリアの景色を描ける場所に行ってきたところだ」
ユーリ 「ゼノ様、すっごく絵が上手で褒められたんですよね!」
ゼノ 「ロベールに教えてもらったことがあるからな」
ユーリが声を弾ませると、ゼノ様が微笑みを返す。

(すごい、ゼノ様……やっぱり多才だな)

私は、憧憬の眼差しでゼノ様を見つめた。
吉琳 「絵も良いですね……私はこれから料理を作れる場所に行こうと思ってるんです」
ゼノ 「料理か……俺も興味がある」
吉琳 「でしたら、ぜひご一緒にどうですか?」
ゼノ 「ああ、同行させてもらおう」
柔らかな笑みを向けてくれたゼノ様に、私は頷きを返してから言葉を添える。
吉琳 「ただ、その前に必要なものがあるんです」
参加するためにはいくつかの調理器具を持参しなければならず、
取りに行く途中であることを伝える。
吉琳 「私がゼノ様とユーリの分もお持ちしますね」
ゼノ 「だが、ひとりでは大変だろう。ユーリ、吉琳について行ってくれ」
ユーリ 「分かりました」
吉琳 「でも、それだとゼノ様がおひとりになってしまいます」
ゼノ 「俺はこの後アルバートと合流することになっている。ひとりでも問題ない」
ユーリと案内を途中で交代することになっているアルバートは、
今、別行動で回る場所を調べてくれているらしい。
吉琳 「でしたら、良いのですが……」
ゼノ 「では頼む、ユーリ」
ユーリ 「はい、お任せください」

***

ゼノ様と一旦別れた後、ユーリと一緒に調理器具がしまわれた倉庫へと向かった。
中は広く、様々なものが置いてあるせいか直ぐには目当てのものを見つけられそうにない。
吉琳 「手分けして探す方が良さそうだね」
ユーリ 「うん。俺は向こうを見てくるよ」
見つけた方が相手に知らせることにして、私達は別々に探し始めた…―

***

(なかなかないな……)

しばらく見て回るけれど、視界に入るのは関係のないものばかりだった。
もう少し奥まった場所も探そうとした時、床が濡れていたのか足が取られる。

(あっ……!)

とっさに棚に手をつくけれどそのまま転んでしまい、
衝撃で揺れた棚から、置かれていたものが落ちてきた。
咄嗟に頭を両手で庇い、目を閉じる。

(……あれ?)

しかし、予想していた痛みも衝撃も感じず、恐る恐る瞼を持ち上げると、
庇うようにユーリが私に覆いかぶさっていた。
吉琳 「ユーリ……!?」
驚く私と視線を交えたユーリは、気遣わしげな眼差しを向けてくる。
ユーリ 「吉琳様、大丈夫?」
吉琳 「私は何ともないけど……ユーリこそ平気?」
ユーリ 「心配いらないよ。ちょっと背中に当たっただけだから」
吉琳 「良かった……」
ユーリの言葉に、安堵の息を吐く。
吉琳 「本当にありがとう。でも私を庇ってユーリに何かあったら大変だよ」
吉琳 「執事として守ってくれたのは嬉しいけど……無理はしてほしくないの」
ユーリ 「それは約束できないかな」
吉琳 「えっ?」
真正面から見据えてきたユーリは、両手で私の頬を優しく包み込む。
澄んだ眼差しに捉えられ、鼓動が乱された。
ユーリ 「吉琳様に何かあった時、俺は迷わず守るよ」
ユーリ 「執事としてじゃなくて……俺がそうしたいから」
吉琳 「ユーリ……」
いつのもの柔らかな笑みは消え、真摯な視線が射抜いてくる。

(こんな顔もするんだ……)

男らしさを感じるその表情から目を逸らせずにいると、ユーリがゆっくりと立ち上がった。
ユーリ 「とりあえず、散らばっちゃったものを片付けよっか」
吉琳 「うん、そうだね」
私も腰を上げて、落ちてしまったものをユーリと一緒に棚の上に戻していく。
手に取った小さな小瓶も片付けようとするけれど、
同じような瓶は高い位置にあって、手を伸ばしても届かず、背伸びする。

(あと、もう少しで届きそう……)

震える手で棚に届かせようとしていると、
後ろから私よりも大きな手が瓶を奪い取って、簡単に棚の上へと戻した。
振り返ると、笑みを浮かべたユーリがこちらを見ている。
ユーリ 「一生懸命置こうと頑張ってる吉琳様も可愛かったけど……」
ユーリ 「このくらい、無理せず俺を頼ってよ」
吉琳 「ユーリ……ありがとう」

(可愛いところもあるけれど、ユーリも男の人なんだよね)

先ほど自分を庇ってくれたことも思い出し、少しだけ鼓動が速くなった気がした。
順調に片づけを進め、散らばっていた床は綺麗になっていく。
ユーリ 「……よし。片づけも終わったし、そろそろゼノ様のところに戻ろうか」
ユーリ 「調理器具はあっちで見つけたから、そこに置いておいたんだ」
吉琳 「ありがとう、ユーリ」
調理器具を手に取ると、微笑みを浮かべたユーリと目が合う。

(さっきは、ユーリの珍しい一面を見てしまった気がするな……)

少しだけむず痒いような気持になりながら、
私はユーリと一緒にゼノ様の元に向かった…―

 

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調理器具を手にユーリと、ゼノ様の元に向かう。
ユーリ 「ゼノ様、お待たせしてしまってすみません」
ゼノ 「構わない、俺も先ほど来たところだ」
吉琳 「申し訳ありません、ありがとうございます」
ゼノ様に二人で頭を下げた後、ユーリが不思議そうに周囲を見渡す。
ユーリ 「あれ? アルバートはどこですか?」
ゼノ 「まだもう少し下調べをしておきたい場所があるらしい」
ゼノ 「また後ほど、改めて合流することになった」
吉琳 「そうでしたか……でしたら、行きましょうか」
ゼノ 「ああ」
ユーリ 「ゼノ様、こちらです」
案内しようと先に歩き出したユーリを見ると、
背中が白い粉のようなもので汚れていることに気づいた。
吉琳 「ユーリ、背中が汚れてる」
ユーリ 「えっ、本当?」
吉琳 「さっき私を庇った時に、落ちてきた何かがついてしまったのかも……ごめんなさい」
ユーリ 「ううん、気にしないで」
上着を脱いだユーリが白い粉を払うものの、なかなか取れそうにない。
仕方ないといった様子でユーリがもう一度上着を着直すと、
ゼノ様が真っ直ぐな眼差しを向けてきた。
ゼノ 「ユーリ、着替えてくると良い」
ユーリ 「ゼノ様……」
吉琳 「案内は私も出来るし、料理を作る場所まで先に行っているから……」
吉琳 「ユーリは着替えてから来たらどうかな?」
ユーリ 「吉琳様も……ありがとう。」
ユーリ 「それじゃあ、俺は着替えてから合流させてもらいますね」
頭を下げてから着替えられる場所を探しに行ったユーリを見送って、
私はゼノ様と目的地へと向かった。

***

料理ができるという場所に着くと、係の人に、
ウィスタリアでよく食べられているスープの作り方を説明された。

(食べたことはあるけれど、作ったことはないな……)
(でも、多才なゼノ様ならきっと料理も出来るだろうし……)
(一緒にやれば上手くいくよね)

ゼノ 「作るなら分担を決めた方が効率的だろう」
ゼノ様の言葉に頼もしさを感じながら、頷く。
吉琳 「確かにそうですね」
ゼノ 「俺が必要な野菜を切ろう。スープを頼めるか?」
吉琳 「分かりました。野菜を煮るまでは別々に作業を進めましょう」

***

(スープはこんな感じかな……)

煮詰められ綺麗な飴色になった液体を見つめ、私は微笑む。
そろそろ野菜を入れる頃合いかと、少し離れた場所に居るゼノ様を振り返った。

(えっ……ゼノ様、まだ人参を切っている)

最初に確認した時に切っていた人参以外、
まだ手付かずの状況であることに気づいて驚く。

(始めてからそこそこ時間が経っているはずなのに……)

一旦火を止めて、困惑しながらゼノ様に歩み寄る。
吉琳 「ゼノ様、大丈夫ですか……?」
見ればお皿には、寸分違わず均等に切られた人参が並べられていた。

(こんな綺麗に……)
(すごいけど……これじゃ確かに時間がかかるかも)

ゼノ 「何かおかしかっただろうか?」
思わず黙り込んでしまっていたからか、ゼノ様が眉を寄せてこちらを見つめてくる。
吉琳 「いえ、そういうわけでは……」

(いつも完璧なイメージがあったから、)
(料理もそつなくこなすって思い込んでいたけれど……)
(ゼノ様にも苦手なことがあるんだな)

私は意外に思いながら、ゼノ様に片手を差し出す。
吉琳 「あの、ナイフを貸していただいても良いですか?」
ゼノ 「ああ」
ゼノ様からナイフを受け取ると、私は目配せしてから野菜を切り始めた。
吉琳 「スープに入れるものですし、ここまで揃えなくてもこれくらいで大丈夫です」
ゼノ 「……なるほど」
ゼノ 「瞬く間に切ってしまうとは……お前は手先が器用なんだな」
吉琳 「いえ、そんなことは……」
ゼノ様に褒められるのが照れくさくて、はにかみながら首を左右に振る。
ゼノ 「後は俺がやろう。お前には側で見ていてもらいたい」
吉琳 「はい、もちろんです。残りはお願いします」
私からナイフを受け取ったゼノ様は、まだ少しぎこちない手つきで野菜を切り始めた。

(慣れていない感じがして、なんだか可愛いな……)

私は小さく微笑みながら、その様子を見守った…―

***

完成したスープのいい匂いが鼻をくすぐる。
吉琳 「出来ましたね……!」
ゼノ 「美味そうだな」
吉琳 「はい。匂いだけでお腹が空いてきそうです」
温かな気持ちでゼノ様と顔を合わせたその時、ユーリが戻ってきた。
ユーリ 「待たせてしまって、すみません……!」
ユーリ 「なかなか着替えられるところがなくて……あれ? もう完成したの?」
出来上がったスープを見たユーリが、目を丸くする。
ゼノ 「吉琳が手を貸してくれたからな」
優しげに細めた瞳を向けられ、ゼノ様に笑みを返す。
吉琳 「いえ、ゼノ様の物覚えが早かったおかげですよ」
吉琳 「作った料理は食べて良いそうですし、冷める前にいただきましょうか」

***

ゼノ様と作ったスープを、ユーリも交えて三人で食べる。
スープを一口飲んだユーリが、ぱっと目を輝かせた。
ユーリ 「すっごく美味しい……!」
吉琳 「本当? 良かった」
ユーリ 「ゼノ様と吉琳様の手料理を味わえるなんて、俺は幸せ者だな」
ゼノ 「まだ残っている。好きなだけ食べて構わない」
ユーリ 「ありがとうございます!」
笑顔で食べるユーリを見て、ゼノ様と笑みを交わす。

(美味しいって言われると、やっぱり嬉しいな)

胸が一杯になっていると、ゼノ様が手にしていたスープのお皿を置いて私を見た。
ゼノ 「料理を共に作るというのも楽しいものだな」
ゼノ 「良い時間を過ごせた。礼を言う」
吉琳 「ゼノ様……私もすごく楽しかったです」
ゼノ 「今日のような時間を、またいつか取れると良いのだが」
吉琳 「そうですね。今度は違う料理にも挑戦してみたいです」
和やかな気持ちでいると、ユーリもお皿を置いて僅かに身を乗り出す。
ユーリ 「吉琳様、ゼノ様! その時は俺もまぜてください」
吉琳 「うん、もちろんだよ」
ゼノ 「話をしていると、待ち遠しさが募るな」
スープで心も体も温まりながら、
私はユーリとゼノ様と楽しいひとときを過ごすのだった…―

 

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建物の窓から漏れる明かりが路面を照らす夜…―
陽が沈み、賑わいを見せていたお祭りも終わりに近づいていた。

(この後はダンスパーティーだけど……ルイ、どこにいるのかな)

ダンスについてはルイに教わることが多かったので、
今夜の相手もルイにお願いしていた。
ルイを探しながら、誘った際の乗り気じゃなさそうな返事を思い出す。

*****
ルイ 「俺と? 別に、いいけど……」
ルイ 「でも、できれば他の男を選んだ方がいいと思う」
*****

(気が進まないのにお願いして、申し訳ないことしちゃったかな)

吉琳 「あ……」
ようやくルイを見つけて足を止める。
ルイの隣にはアランがいて、困った様子で何かを報告しているようだった。
吉琳 「どうかしたの?」
声を掛けると、二人が同時に振り返った。
ルイ 「吉琳……」
アラン 「ルイが管轄しているエリアで野良猫が暴れていて、捕獲するのに手が足りないらしい」
アラン 「怪我をしていて、かなり気が立っているみたいなんだ」
ルイ 「今からアランと様子を見に行くけど……」
ふと近くにある時計を見る。

(ダンスパーティーまで、もうあまり時間がないな……)

吉琳 「なら私も一緒に行っても、いい?」

(場合によっては、ルイ以外のダンスパートナーを探す必要がありそうだし……)

一瞬アランと顔を見合わせたルイが、小さく頷きを返してくれる。
ルイ 「わかった。ダンスパーティーの直前で、申し訳ないけど……」
ルイ 「状況次第では、君には他のダンスパートナーを探してもらった方がいいかもしれない」
ルイ 「今日は他国の人間も来ているし……君が、国王に選びたいと思う男を誘って」
吉琳 「……うん」
ルイの管轄する場所で起こっていることだから、
ダンスパーティーに参加できなくなるのは仕方ない。
けれどルイのその言葉に、寂しくなると同時に申し訳なさが込み上げてくる。

(そういえばルイは、国王になりたくないっていつか言っていたっけ)
(だから今日のダンスパーティーは、乗り気じゃなかったのかな……)

そんなことを思いながらも、ルイたちに着いていった。

***

現場に到着すると、騎士団員たちが威嚇する猫を遠巻きに囲っていた。
頬に引っかき傷を作った騎士団員が、アランとルイに歩み寄る。
騎士団員1 「申し訳ありません。俺たちにはお手上げです……」
ルイ 「……俺が、どうにかする」
アラン 「大丈夫なのか?」
ルイ 「うん、任せて」
頷いたルイが、猫と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
ルイ 「人がたくさん来て怖かったね。でももう大丈夫だから、怖がらないで」
優しく猫に語りかけながら、ルイは距離を縮めていく。
猫は右足に痛々しい怪我をしながら、必死に威嚇をしていた。

(すっかり怯えちゃって、可愛そう……)
(でも、大丈夫かな……ルイも怪我しちゃうんじゃ……)

心配をしながら見守っていると、じっとルイを見つめていた猫がふと威嚇を解いた。
そして控えめに小さく鳴くと、手を差し伸べたルイにおずおずと体を摺り寄せる。
猫を抱き上げたルイが私たちを振り返った。
ルイ 「近くに猫のたまり場があったんだ。人が入らないようしておいたんだけど……」
ルイ 「誰かが入ってしまって、驚いてこっちに出てきてしまったのかもしれない」
吉琳 「そうだったんだ……」

(出てきた場所にも人がたくさんいたら、怖くて暴れちゃうのも無理ないのかも)
(でも、ルイ……すごいな。あんなに威嚇していた猫をあっさり手懐けちゃった)

抱き上げた猫の血と泥でルイの服は汚れてしまっている。
しかし汚れに構うことなく、ルイは優しく猫を撫でた。
騎士団員1 「ルイ様、ありがとうございます。後は俺達が治療に連れて行って……わっ」
騎士団員のひとりが触れようとすると、猫は再びものすごい剣幕で威嚇をしてきた。
吉琳 「……ルイじゃないと嫌みたいだね」
ルイ 「うん……早く治療をしないと危ないから、俺が直接連れて行く」
ルイ 「申し訳ないけど、ダンスパーティーには間に合わないかも」
笑みを浮かべて、私はルイに頷きを返した。
吉琳 「私のことは大丈夫だから、気にしないで」
吉琳 「それより今日は無理に誘ってしまってごめんね。嫌だったよね」
謝る私にルイは瞳を微かに揺らすと、猫を撫でる手を止めた。
ルイ 「別に嫌だったわけじゃない」
ルイ 「吉琳にはもっと、公の場で踊るに相応しい相手がいると思っただけ」

(気が進まないのかと思っていたのに)
(ルイはそんなふうに考えてくれていたの……?)

思いがけない返事に、胸がふわりと温かくなる。
吉琳 「そんなことないよ。私はルイと踊りたかったの。それに……」
吉琳 「私の方がルイに相応しくなれるように頑張らなきゃって、いつも思っているよ」
視線を交えたルイの口元に微笑みが浮かぶ。
ルイ 「……ありがとう。でも君は充分に素敵なプリンセスだよ」
ルイ 「俺も本当は……君と踊りたかった」
吉琳 「ルイ……」

(ルイの言葉は冷たいようで、心の底ではちゃんと相手のことを想ってくれている)
(本当はすごく優しくて、温かい心を持った人なんだな……)

ルイの気持ちと優しさに、心が甘くくすぐられる。
その一方でダンスパーティーのことが気にかかった。

(この時間じゃ、もうほとんどの人はパートナーを見つけているだろうし)
(誰と踊ればいいんだろう……)

私の気持ちを察したように、ルイがアランに向き直った。
ルイ 「……アラン。プリンセスのパートナーをお願いしてもいいかな?」

 

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日版王宮-王宮フェス2021~ギャップ王子No.1決定戦~(
ルイ 「……アラン。プリンセスのパートナーをお願いしてもいいかな?」
吉琳 「え、アランが?」
アラン 「……俺? なんで」
ルイの言葉に、アランは怪訝そうに眉を寄せた。
ルイ 「忙しくて今日はろくに休憩を取ってないって聞いてる」
ルイ 「プリンセスのパートナーとしてにはなるけど、アランにもこの祭りを楽しんでも良いと思う」
アラン 「いや、でも……」
騎士団員1 「団長! あとの仕事は、俺達に任せてください!」
騎士団員2 「俺たちもちゃんと休憩をもらっていますし、団長も楽しんで来て欲しいです」
話を聞いていた騎士団員たちも、ルイの提案に同調してくれる。
短い沈黙の後、アランは小さく息を吐いた。
アラン 「まあ……吉琳がいいなら別にいいけど」
吉琳 「もちろん……! ありがとう、アラン」
ルイ 「俺からも礼を言うよ。吉琳のこと、よろしく」
アラン 「わかった。じゃあ俺は着替えてくるから……お前は先に会場に行ってて」
着替えるというアランと一旦別れ、私は会場に向かうことにした。

***

着飾った人で賑わうダンスホールでアランを待つ。

(アランって、騎士団長として剣を振るっているイメージが強いけど……)
(ダンスも踊れるのかな?)

そんなことを考えていると……。
アラン 「吉琳」
ざわめきに紛れて聞こえた声に、振り返る。
そこには正装に身を包んだアランが立っていた。

(……えっ!)

アラン 「待たせて悪かったな」
吉琳 「う、ううん……」
見慣れないアランの姿に、鼓動が微かに波打つ。
唇の端を持ち上げたアランが、私に手を差し出した。
アラン 「ほら。手、貸せよ」
促され、アランの手に自分の手を添える。
その時、ダンスホールに軽やかな曲が流れ始めた。
アラン 「俺たちも踊るか」
吉琳 「うん」
そうして、アランとのダンスが始まった。

(えっ、嘘……?)

アランのエスコートは完璧で、私を上手にリードしてくれる。
周囲の人たちも華麗なステップを踏むアランに、感嘆の吐息を漏らしていた。
吉琳 「アランって、ダンスが得意だったの?」
アラン 「得意ってわけじゃないけど……まあ、人並みにはな」

(人並みどころか、ルイにも引けを取らないと思うけど……)

ダンスを踊り終えると、プリンセスとして参加者たちへの挨拶に回る。
私をエスコートしてくれるアランの立ち居振る舞いは、
非の打ち所がないほど素晴らしかった。
女性 「プリンセスのパートナー、素敵な殿方ね。どこの貴族の方かしら?」
そんな声も聞こえてきて、私は改めてアランを見た。

(今まで、気が付かなかったけど……)
(アランって実はなんでもできちゃうの……?)

私の視線に気づいたアランが、こちらに目を向ける。
アラン 「どうした? 疲れたなら少し休むか?」
吉琳 「ううん、平気……」
涼やかな眼差しに捉えられるだけで、頬がにわかに熱を持った。

***

ダンスパーティーも終わりに近づき、アランとバルコニーに出る。
夜空には白く丸い月が浮かんでいた。
吉琳 「アラン、パートナーを引き受けてくれてありがとう」
吉琳 「アランは今日のお祭り、楽しむことができた?」
アラン 「まあ、それなりに。お前がいたしな」
吉琳 「え?」
言葉の意味が理解できずに、瞳を瞬かせる。
そんな私に、アランはふっと笑みを深めた。
アラン 「バーカ、鈍感すぎ」
吉琳 「鈍感って……」
ルイ 「吉琳」
背後で名前を呼ばれて振り返ると、ルイが歩み寄って来るのが見えた。
吉琳 「ルイ! 猫は大丈夫だった?」
ルイ 「うん。手当してもらって今は休ませているよ」
吉琳 「そう……よかった」
胸を撫で下ろす私に、ルイが微笑みを返してくれる。
ルイは改めてアランと向き直った。
ルイ 「アラン。パートナーの代わり、ありがとう」
アラン 「ああ」
ルイ 「でも次は譲らない」
意味深なルイの言葉に、アランがくすりと笑みを漏らす。
アラン 「なるほどな。そういうことか」
ルイ 「うん、そういうこと」

(そういうことって……何を言ってるんだろう……?)

笑みを交わし合う二人を横目で見ながら、月を見上げて今日一日を思い返す。

(アランやルイもそうだけど……)
(今日は皆の新しい一面を知ることができて良かったな)

アラン 「そろそろ戻るか」
吉琳 「うん、そうだね」
ルイ 「プリンセス、お手を」
アランとルイが手を差し出してくれる。
月明りの優しい光の下、私は二人の手に自分の手を重ねた…―

 

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