日版王宮-王宮フェス2024~彼の隣で過ごす季節決定戦~
(部門no.1公約故事)
今回は2024年3月に実施していた『王宮フェス2024』で
各部門の1位に輝いた彼のシナリオが特典に登場!
沢山の愛を届けた後には、彼との甘い時間が待っていて…―
…………
アランと過ごす春は安心感に満ちていて……
アラン「ずっと俺の隣で笑ってろよ、吉琳」
…………
シドと過ごす夏はドキドキが止まらなくて……
シド「キスに夢中で、気付かなかったのか?」
…………
ルイと過ごす秋は甘く優しくて……
ルイ「忘れないで。俺はいつでも、君のことだけを想っているから」
…………
ゼノと過ごす冬は寒さを感じないほど温かくて……
ゼノ「ああ。雪景色の中で眺める星空は、趣が違って良いものだ」
…………
彼とのとびきり甘く、幸せなひとときをあなたに…―
自分可憐さ30000点達成で、「王宮フェス2024公約シナリオ×4」をプレゼント☆
王宮フェス2024
~始まりの春に隣にいてほしい頼もしい彼部門~
暖かな風が新しい季節の始まりを告げる、ある春の日のこと…―
恋人のアランとデートの約束をしていた私は、今日のために選んだ服を着て部屋を出た。
(二人きりで休日を過ごせるのは、本当に久しぶり)
(約束した時間には少し早いけれど、待つ時間も楽しみたい)
逸る気持ちを抑えながら、待ち合わせ場所へ向かっていると、足音が近づいてくる。
レオ 「吉琳ちゃん、ピクニックにでも行くの?」
振り返れば、レオが私の手にしているバスケットを示していた。
吉琳 「うん。アランと約束していて。サンドイッチを作ったんだ」
レオ 「へえ、吉琳ちゃんの手作りなんて羨ましいな。俺も一緒に行っていい?」
レオが冗談めかしてバスケットに手を伸ばそうとした、その時……
アラン 「いいわけないだろ」
吉琳 「アラン!」
アランが馬の手綱を引きながらやって来て、不機嫌そうに眉を寄せた。
レオ 「残念。じゃあ、楽しんで」
さして残念そうでもなく、レオはひらひらと手を振り去っていく。
アランは呆れたように息をつき、私の方へ視線を戻した。
アラン 「あんなの、まともに相手しなくていいから」
吉琳 「レオだって、本気で一緒に来ようとしたわけじゃないと思うけど……?」
アラン 「あいつは甘やかすと、すぐ調子に乗るんだよ」
兄弟らしいやり取りに、思わず笑みをこぼす。
アランは軽い身のこなしで馬に乗り、じっと私を見つめた。
(なんだろう?)
吉琳 「今日の格好、どこか変……?」
気になって尋ねると、アランがふっと笑みを浮かべる。
アラン 「変なわけねえだろ。似合ってる」
アラン 「けどお前、馬に乗るの久しぶりだったよな?」
(心配してくれてたんだ。やっぱりアランは優しいな)
吉琳 「うん。気をつけるね」
馬の背から伸ばされた手を取る。
アランは私の手をしっかりと握り、力強く馬の背に引き上げてくれた。
アラン 「じゃあ、行くぞ。しっかり掴まってろよ」
吉琳 「うん」
後ろから抱きしめられるような体勢で頷くと、馬はゆっくりと走り出して…―
***
しばらくすると、城下を見渡せる高台に差し掛かった。
吉琳 「晴れて良かったね」
アラン 「まあ、日頃の行いだろ」
少しだけ振り向き笑顔で頷いた
拍子に、私のブレスレットがキラリと光を反射した。
アラン 「それ……」
吉琳 「気づいてくれた?」
吉琳 「久しぶりのデートだから、アランが贈ってくれたものを着けたいなと思って」
アラン 「……ふーん」
どこか嬉しそうなアランは、遊ぶような手つきで、ブレスレットのチャームを揺らす。
くすぐったさで身体をよじると、アランが可笑しそうに笑う。
アラン 「暴れたら落ちるぞ」
吉琳 「もう、意地悪……」
アランのいたずらにドキドキしているうちに、景色が変わり…―
***
目の前に美しい花畑が広がった。
吉琳 「わあ……綺麗」
アラン 「この辺りにするか」
吉琳 「うん、そうだね」
アランが先に馬を降りて、近くの木に手綱を結び付けている。
(私も降りる準備をしておこう)
体勢を変えた拍子に、スカートの裾が引っ掛かり、バランスを崩してしまう。
吉琳 「きゃ……っ」
アラン 「……!」
(落ちる……!)
為す術もなく、身体を固くして目を瞑った。
けれど、想像していたような痛みは訪れず……
アラン 「世話の焼ける奴だな」
笑み交じりの声に目を開けると、アランがしっかりと私を抱き留めてくれていた。
アラン 「大丈夫か?」
吉琳 「……」
大きな手でぽんと頭を撫でられ、安心感で胸がじわりと熱くなる。
吉琳 「ごめん、ありがとう……」
アラン 「悪いと思ってんなら、そのまま大人しくしてろよ」
アランは口元に笑みを乗せ、ふわりと私を横抱きにする。
吉琳 「わっ……」
アラン 「お前、そそっかしいからな。これなら転ぶ心配もないだろ」
からかうような言い方だけれど、眼差しが優しい。
アランはバスケットごと私を抱えて、遠慮する間もなく歩きだす。
(アラン、頼もしいな……)
大きな木の下まで来ると、アランの腕から下ろされた。
アランはバスケットから敷布を取り出し、足元に広げてくれる。
吉琳 「ありがとう」
アラン 「ああ」
アランと並んで座り、私はバスケットを開けてサンドイッチを取り出す。
吉琳 「お礼になるかわからないけど、よかったら」
アラン 「お前が食べさせろよ」
吉琳 「えっ」
アラン 「礼がしたいんだろ?」
(そう言われると……)
私は気恥ずかしさを覚えながらも、言われた通りにアランの口元までサンドイッチを運ぶ。
アランは一口食べて、すぐに頬を緩ませた。
アラン 「美味い」
吉琳 「良かった。デザートもあるから、食べてね」
次々に取り出して敷布の上に広げていくと、アランがふっと笑う。
アラン 「お前、久しぶりのデートだからって気合い入れすぎ」
吉琳 「そ、そうかな……?」
熱くなった顔を見られたくなくて、アランから視線を逸らす。
その拍子に、色とりどりの花々が、穏やかな風を受けて、揺れているのが見えた。
(綺麗……こんなにゆっくりできるのは、本当に久しぶりだな)
癒された気持ちで花畑を眺めていると、肩に温もりが触れて…―
アラン 「……いつまで花見てんの。別に悪くねえけど……少しはこっち見ろよ」
ぐいっとアランの方へ引き寄せられ、思わず目を瞬く。
吉琳 「アラン、お花にやきもち焼いてくれたの?」
冗談めかして尋ねると、アランの目元が微かに染まった。
アラン 「……悪いかよ」
吉琳 「……!」
(さっきまで、あんなに頼もしいと思っていたのに)
(今は、ちょっと可愛く見える)
アランの色々な表情を見られるのが嬉しくて、頬が緩んでしまう。
そんな私を見て、アランの眼差しが意地悪になった。
アラン 「……言い忘れてたけど、今日のお前、服も新しいの着てるよな」
アラン 「色々気合い入ってるのって、俺が遠征でいなくて寂しかったから?」
吉琳 「! そんなことは……」
恥ずかしさで曖昧に誤魔化すと、アランが少し拗ねたようにこぼす。
アラン 「もっと寂しがれよ。俺は寂しかったんだから」
(アラン、いつもはこんなこと言わないのに……)
驚いている間に、唇を奪われた。
だんだんと深くなっていく口づけに、愛しさを込めて応えていく。
吉琳 「ん……」
やがて唇が離れると、アランが私の顔を覗き込む。
アラン 「言えよ。寂しかったって」
眼差しから、温もりから、声から、その想いが伝わってきて……
(ドキドキするけど……でも)
吉琳 「……うん。本当は寂しかった」
想いを素直に伝えると、アランが嬉しそうに笑う。
アラン 「なら、余所見しないで俺だけ見てろ」
アラン 「俺も……お前だけ見てるから」
優しい声に、また鼓動が大きく波打つ。
(アランは、いつも私のことを想ってくれている)
(この喜びを、言葉にするのは難しいけれど……これだけは伝えたい)
吉琳 「約束する。ずっとアランだけ見てるよ」
吉琳 「これから先もずっと、こんな風に過ごしてくれる?」
アラン 「当たり前だろ」
アランは私の身体を引き寄せ、両腕で包み込むように抱きしめた。
アラン 「騎士としてだけじゃない。アラン=クロフォードとして、死ぬまで守り続けてやるから」
アラン 「ずっと俺の隣で笑ってろよ、吉琳」
抱きしめてくれる腕の頼もしさに身を任せ、
アランが見たいと言ってくれた、笑顔で頷く。
(これから先も、色々なことがあると思う)
(でもアランと一緒なら、ずっと笑顔でいられるだろうな)
うららかな日差しを受け、向けられた笑顔は、私の心に幸せの花を咲かせてくれる。
口づけを交わせば、共に過ごす全ての瞬間が、幸せな思い出に変わっていった…―
王宮フェス2024
~汗ばむ夏が似合う色気たっぷりの彼部門~
照り付ける日差しが眩しい、ある夏の日のこと…―
休暇を貰えた私は、恋人のシドと一緒に海辺の街へ旅行に来ていた。
石畳の続く海沿いの街並みは美しく、いくら眺めていても飽きない。
吉琳 「……ねえ、シド。後でお城の皆にお土産を買っていい?」
シド 「構わねえよ。教育係には、限定の焼き菓子にでもしとけ」
シド 「好物を手土産にしときゃ上機嫌で、仕事も捗るってもんだ」
(シドの情報なら間違いないし、そうしよう)
笑顔で頷き砂浜を歩いていくうちに、シドは眩しそうに目を細めた。
シド 「……にしても、この国は日差しが強えな」
吉琳 「シドも帽子を持って来ればよかったのに」
シド 「んなもん邪魔くせえだけだ」
(そうは言っても暑いよね。あっ、そうだ)
吉琳 「ねえ、シド。せっかく海に来たんだし、波打ち際で足をつけてみない?」
シド 「水遊びかよ。ガキくせえな」
(確かに子どもっぽいけど、誰もいないし平気じゃないかな?)
私は靴を脱ぎ、波打ち際へそっと足を向けてみた。
吉琳 「見て、シド。綺麗な貝殻も落ちてるよ」
白いワンピースの裾が、穏やかな海風ではためく。
片手に靴を持ちながら声をかけると、シドが笑みを深めた。
シド 「……綺麗だな」
吉琳 「え?」
(今、何か言われたみたいだけど……?)
シドの声は波音に掻き消されて、私の耳には届かなかった。
少し首をかしげると、シドは私のいる波打ち際まで来て、にやりと笑う。
シド 「余所見して、波にさらわれないように気を付けろって言っただけだ」
シド 「お前どんくせえからな」
吉琳 「もう、すぐそういうこと言うんだから」
少しだけ拗ねたような気持ちになった時、シドも靴を脱ぐ。
(あれ、シドは海に入らないんじゃ……?)
不思議に思い視線を上げると、シドがにやりと笑う。
シド 「……確かに悪くねえ眺めだ」
陽光できらめく海を見つめる横顔は、楽しげに綻んでいた。
(いつになく、シドの笑顔が明るい気がする)
(旅行で開放的な気分になっているのは、シドも同じなのかもしれないな)
そんなことを考えていると、つい顔が緩んでしまう。
するとシドが、いきなり私の肩を抱き寄せた。
シド 「もっと夏らしいことするか」
吉琳 「……きゃっ」
シドは私を腕の中に閉じ込めたまま、一緒に波打ち際に倒れ込む。
吉琳 「びっくりした……!」
シドはおかしそうに喉を鳴らし、海水で濡れた私の顔を拭う。
シド 「水遊びがしたかったんだろ?」
シド 「今日は休暇だ。ガキくせえ遊びも悪くはねえ」
シドの笑顔は、少年のような無邪気さが見え隠れする。
(なんだか、いたずらを成功させた子どもみたい)
(シドも、こんな風に笑ったりするんだ)
恋人の新鮮な姿にときめき、私はあることを思いついた。
(私と同じように、シドも休暇を楽しんでくれてるんだよね。それなら……)
私は両手で水をすくい、シドにぱしゃっとかけてみる。
シド 「なんだ、反撃か?」
吉琳 「そうだよ。涼しくなった?」
くすくすと、小さな笑みをこぼしながら言うと、
シドが突然私に覆いかぶさり、両手を砂浜に押しつけた。
吉琳 「シド……?」
シドの髪からポタポタと伝い落ちた水が、私の頬を濡らす。
濡れたシャツから、シドの素肌が透けて見えて、胸の音が乱れた。
シド 「残念だが、余計に暑くなったみてえだな」
太陽を背にして私を見おろす姿は、
ぞくりとするほどの色香を醸しだしていて、
高鳴る鼓動をどうにもできず、ただ見つめ返していると……
シド 「騒ぐんじゃねえぞ」
吉琳 「……んっ」
低い声が響くと同時に、唇を奪われた。
(こんな所で、こんなこと……)
いけないと分かっているのに、止まらない。
何度も口づけを交わし、頭がぼんやりとしてきた頃、ようやく解放された。
吉琳 「……シド?」
シドは熱くなった私の頬に指先を滑らせてから、優しい手つきで立ち上がらせてくれる。
シド 「そろそろ宿に戻るぞ」
シド 「風呂に入ってからじゃねえと、ディナーにも行けやしねえ」
そう言われて見てみると、海が夕焼け色に染まりつつあった。
吉琳 「もうこんな時間だったんだ……」
シド 「キスに夢中で、気付かなかったのか?」
吉琳 「もう、またそんなこと」
からかわれて、拗ねたような気持ちになりつつも、
私の頭を撫でる手つきも、見つめる眼差しも優しくて、胸がときめく。
(やっぱり私は、シドのこういう所が、好きなんだな……)
シド 「行くぞ」
吉琳 「……うん」
シドが私の肩を抱き寄せて、歩きだす。
何げなく振り返ると、砂浜には私たちの足跡が並んでいた。
(こういうの、嬉しいな)
私に目を向けたシドが、怪訝そうに尋ねてくる。
シド 「忘れもんか?」
吉琳 「ううん、違うの。こんな風にシドと並んで歩けることが、嬉しいだけ」
足跡を示すと、私の気持ちが伝わったようで、シドの口角が上がる。
シド 「休暇は始まったばかりだ」
シド 「こんなもんでいちいち喜んでたら、身が持たねえぞ」
この先に続く甘い時間を予感しながら、宿への道を進んだ…―
***
お風呂に入り、ディナーを終えた頃には、すっかり夜になっていた。
バルコニーへ続く扉を開くと、湿気をはらんだ夜風が吹き抜けていく。
(風が気持ちいい……)
吉琳 「ねえ、シド。少し涼しくなったような気がしない?」
シド 「さして変わらねえよ」
シドは手すりに寄り掛かり、琥珀色のグラスをテーブルに置く。
そしてぐいっと私を引き寄せ、自分の腕の中に閉じ込めて…―
シド 「嫌んなるぐれえの暑さだな」
シド 「あ? 『それなら離して』だ? それとこれとは話が別だ」
私の心を読んだような、笑み交じりの低い声を響かせた。
薄着をしているせいで、男性らしい逞しさを強く感じて、鼓動が大きく波打つ。
吉琳 「……離してなんて、言わないよ」
吉琳 「シドと恋人らしい時間を過ごせるのは、久しぶりなのに」
(いつもと少し違うのは、シドだけじゃない)
(今日ぐらいは、思いきり恋人らしいことをしたいから……)
首筋に腕を回せば、シドは面白そうに目を細め、私の唇を奪った。
少しだけブランデーの香りがするキスに、酔ってしまいそうになり、胸元に手をつく。
吉琳 「シド……もう、お酒は飲まないの……?」
シド 「なんだ、飲み足りなかったのか?」
吉琳 「そうじゃないけど……、んっ」
否定しかけたところで、シドは両手で私の頬を包み、再び口づけた。
シド 「なら、物足りねえんだな」
髪を撫でたシドの手が、私の頬へとゆっくり滑っていく。
吉琳 「シド……」
シド 「お前もその気なら話は早え」
弧を描いた瞳には、獰猛さの滲む強い光が宿っていた。
シドは何度も私の唇を求めて、激しい口づけを繰り返す。
口を割って舌が差し込まれ、息をつこうとしても、
ぐっと頭を引き寄せられて、再び唇を奪われてしまう。
(息が苦しい……でも、もっとしてほしいと思ってしまう)
うっすら目を開けると、シドは熱っぽい瞳で、私の顔をじっと見つめていた。
シド 「もっと熱くなることするか?」
吉琳 「あ……」
シドは私のワンピースの胸元を飾るレースに口づけを落とす。
薄い布越しに感じる吐息は熱く、身体の芯に熱が灯るのを感じた。
シド 「お前となら、うだるような暑さも悪くねえ」
シド 「そう思うのも当然だ。心底惚れた女だからな」
吉琳 「……んっ」
シドは私の身体を引き寄せて、また唇を求める。
真夏の夜風に火照る身体を冷ます効果はなく、どんどん熱が高まった。
シド 「続きはベッドだ。今夜は眠れねえものと思っとけ」
言葉にならず首筋に腕を回せば、シドが私を抱えて寝室へ向かっていく。
(いつもこんな風に、心を乱されてしまう)
(ちょっと悔しいけれど……そんなシドが大好きだから)
好きになった方が負けなのだと、心の内で降伏しながら、
強引で優しいキスを受け止めていた…―
王宮フェス2024
~寂しい秋に身も心も温めてくれる甘々な彼部門~
落ち葉が石畳を染め始めた、ある秋の日のこと…―
私は恋人のルイと、雰囲気の良いレストランで食事をしていた。
店内は弦楽器の優雅な旋律が奏でられていて、テーブルごとに季節感のある装飾が施されている。
吉琳 「……店員さんも感じがよくて、素敵なお店だね」
ルイ 「吉琳が気に入ってくれて、よかった」
収穫したての葡萄を使ったお酒は、華やかな果実の香りが広がり、飲み口がとても軽い。
しばらくすると、メイン料理の魚のソテーが運ばれてきた。
吉琳 「わあ……! おいしそう」
ルイ 「うん。盛り付けも凝ってる」
お皿から立ち上る芳醇な香りに、自然と食欲がそそられる。
店員さんは、丁寧に料理の説明をしてから、テーブルを後にした。
吉琳 「これ、ブランデーを使ったソースだったんだね」
ルイ 「ブランデー……」
ルイは何か気になったのか、微かに眉を寄せている。
吉琳 「どうかした?」
ルイ 「……なんでもない。お酒好きの顔が、一瞬浮かんだだけ」
吉琳 「もしかして、シドのこと?」
ルイ 「どうしてわかったの?」
吉琳 「ルイと出かけることを伝えに、ジルの部屋に行ったんだけど……」
私はお城を出る少し前のことを、ルイに伝えていく。
*****
ジル 「……まったく、あなたという人は。ノックぐらい出来ないのですか?」
シド 「気を遣うような仲じゃねえだろ。で、今回の『報酬』はどれだ?」
ジル 「こちらです。相応の働きをしていただきますよ」
*****
シドはジルから琥珀色のお酒を受け取り、私をこの店の近くまで送ってくれた。
そんな話をすると、ルイが苦々しい顔をする。
ルイ 「よりによってシド……」
吉琳 「あ、二人きりじゃないよ。ジルも一緒だったから」
ルイ 「……それならいいけど」
(ちょっとだけ、やきもちを焼いてくれたみたい)
私はくすぐったいような気持ちで、食事を続けた。
***
食事を終えてレストランを出る頃には、城下の家々に明かりが灯っていた。
吉琳 「ルイ、素敵なお店に連れて行ってくれてありがとう」
ルイ 「どういたしまして」
(少し前まで暑かったのに、もうすっかり秋だな……)
ひんやりとした夜風に、季節の移り変わりを感じていると、
ルイが上着のポケットから、手袋を取り出す。
ルイ 「吉琳には、大きいと思うけど……よかったら使って」
吉琳 「ルイは寒くない?」
ルイ 「俺は平気」
手袋を差し出され、私は素直に甘えることにした。
そして、隣を歩くルイの手を指を絡めてすくい取る。
ルイ 「吉琳……?」
吉琳 「このまま、手を繋いでいてもいい?」
吉琳 「こうしていたら、ルイも温かいと思うから」
ルイ 「……うん、俺もその方が嬉しい」
歩き出しながら、ルイはそっと私の手を握り返してくれた。
ゆったりと歩調を合わせているうちに、お城が見えてくる。
ルイ 「……」
(そろそろお別れの時間かな……)
吹く風の冷たさが、余計に寂しさを募らせる。
名残惜しさで歩みが遅くなるのを感じたのか、ルイが私の手を引き寄せて…―
ルイ 「涼しくなってきたね。だから……もう少し、手繋いでてもいい?」
ルイ 「まだ吉琳と離れたくない」
甘えるように顔を擦り寄せられて、愛しさが増す。
吉琳 「うん、私も……」
(まだ……ルイと一緒にいたい)
柔らかな髪を撫でると、ルイは心地よさそうに瞳を細めて
私たちはもう少しだけ街歩きを楽しんだ。
***
すっかり暗くなったころ、ルイがお城の方へ視線を向けて、ぽつりと声をこぼす。
ルイ 「もう、届いてるかな」
吉琳 「え?」
ルイ 「そろそろ着く頃だと思うから、吉琳の部屋に行こう」
(なんだろう?)
ルイはどこか楽しげに私の手を引きながら、お城へ向かった。
***
部屋の扉を開くなり、私は驚きに目を瞬く。
吉琳 「これ、ルイが?」
ルイ 「うん」
部屋の目立つ場所に、水色のリボンがかけられた大きな箱が届いていた。
ルイは楽しげに笑い、箱の側まで私を連れていく。
ルイ 「開けてみて」
吉琳 「うん」
(何が入っているんだろう?)
わくわくしながらリボンを解いて、箱を開けると……
吉琳 「可愛い……!」
中には、男の子と女の子のくまのぬいぐるみが、ちょこんと座っていた。
ルイ 「……ふわふわしてるの、吉琳が好きだと思って」
ルイ 「気に入ってくれた?」
吉琳 「うん、もちろん。ありがとう」
(ぬいぐるみのお洋服、ルイに似てる。まるでルイと私が、一緒にいるみたいに見えるな)
弾んだ気持ちでベッドの横に並べて、ふと思う。
(今日は、私たちの記念日とかではなかったはずだけれど……)
吉琳 「ねえ、ルイ。どうして急にプレゼントしてくれたの?」
喜びに胸を弾ませたまま尋ねると、ルイは少し考えるような顔をする。
ルイ 「……この前、吉琳が寂しそうだったから」
ルイ 「部屋にこういうのがあれば、俺が帰った後も、寂しくないかと思って」
(もしかして、あの時の……?)
*****
ルイ 「……それじゃあ、邸に戻るね」
吉琳 「……」
ルイ 「どうしたの?」
吉琳 「あっ、ごめん……なんでもない」
*****
(あの時、ルイを引き留めるみたいに、服の裾を握ってしまって……)
ルイ 「……本当は、俺も帰りたくないって思ってた」
ルイ 「でも、俺たちがずっと一緒にいるのは今は難しいから……代わりに」
吉琳 「ルイ……」
(気にかけてもらえただけで嬉しいのに、こんなに素敵な贈り物をしてくれるなんて)
その想いに応えたくて、私はそっとルイの首に腕を回す。
吉琳 「ルイが一緒に居てくれると思って、この子たちを大事にするね。ありがとう」
ルイ 「お礼なら……こういうのがいい」
悪戯っぽく顔を近づけられ、ルイに求められていることが伝わる。
(今日はルイの気持ちが、本当に嬉しかった)
(私も、ルイに喜んでもらえることをしたい……)
私は鼓動の高鳴りを感じながら、ルイと唇を触れ合わせた。
吉琳 「……いつも大切にしてくれてありがとう。大好きだよ」
ルイ 「うん……俺も」
ルイ 「でも、もう言葉だけじゃ足りないかも」
澄んだ瞳に熱が灯るのを感じた瞬間、頭の後ろに手を差し入れられる。
そのまま吐息が触れ合い、薄く開いた唇から舌が絡んだ。
吉琳 「んっ、……」
繰り返される口づけに、頭の芯が痺れていく。
(キスだけで、溶かされてしまいそう……)
手足の力が抜けてしまい胸元にすがると、ルイが私の腰に腕を回してしっかりと支えてくれる。
ソファに身体を倒され、うっすら閉じていた目蓋を上げると、ルイはくすっと笑う。
ルイ 「吉琳の身体……熱くなってきた」
ルイ 「このまま続けてたら、離してあげられなくなりそう」
耳元をかすめる甘く低い声に、羞恥が込み上げる。
(恥ずかしいけれど……でも)
吉琳 「今夜は帰らないでほしいの。朝まで、私と一緒にいてくれる……?」
ルイ 「……うん、いいよ」
ルイ 「本当は、吉琳に甘えてほしかったんだ」
心の内側がこぼれ出たような囁きに、胸が高鳴る。
(ルイが望んでくれるなら……何度でも伝えたい)
この想いが伝わるようにと、ルイの首に腕を回した。
そんな私を抱きしめて、ルイはキスを繰り返す。
ルイ 「大好きだよ、吉琳……」
ルイ 「忘れないで。俺はいつでも、君のことだけを想っているから」
(今日はルイの愛情をたくさん感じられて、本当に幸せ)
(今の幸せが、ずっとずっと続いていくといいな……)
願いを込めて、そっと睫毛を伏せると、
心ごと温かくなるような、甘い口づけが贈られた…―
王宮フェス2024
~雪景色が似合うクールでカリスマな彼部門~
凍てつくほどの寒さを感じる、ある冬の日のこと…―
私は公務で、シュタインに滞在していた。
ユーリ 「わっ、すごい雪!」
アルバート 「今頃になって気づくとは、貴様は相変わらずだな」
ユーリ 「だってアルの話が長すぎるから、吉琳様も外を見る余裕なんてなかったよね?」
吉琳 「ううん、そんなことは……」
(でも、こんなに積もっているとは思わなかった)
昼間から降り始めた雪は、街並みを真っ白に染め上げている。
(ゼノ様、まだ公務をなさっているのかな)
(もしお時間があるなら、一緒に雪景色を眺めたいけれど……)
足を止め、廊下の先にあるゼノ様の執務室に目を向けると、ユーリがにこっと笑う。
ユーリ 「疲れたよね。部屋で、紅茶を淹れようか?」
吉琳 「ありがとう。でも飲みたくなったら自分で淹れるから、平気だよ」
ユーリ 「残念。吉琳様のためなら、いつでも執事ごっこしちゃうのになー」
アルバート 「貴様、無駄話はそこまでにしろ」
アルバートは猫の子にするように、ユーリの首根っこを掴み、私に目を向けて咳払いした。
アルバート 「……ここ最近、ゼノ様は深夜まで公務をされている」
アルバート 「プリンセスから、休憩を勧めるといいだろう」
吉琳 「わかりました」
私はアルバートとユーリにお礼を言い、廊下を進んでいく。
ゼノ様の執務室からは、細く灯りが漏れていた。
(やっぱり、お忙しそうだな……)
(一緒に過ごすのは難しいだろうから、紅茶を飲まれるかだけ聞いてみよう)
ノックをしようとした時、突然執務室の扉が開き……
ゼノ 「お前も休憩を勧めに来たのか?」
吉琳 「……!」
(驚いた……ユーリたちとの会話が、聞こえていたとは考えにくいけれど)
吉琳 「はい。公務のお邪魔にならなければ、紅茶でもお淹れしようかと……」
一緒に過ごしたいと思ったことは告げず、それだけ伝えると、
ゼノ様はふっと口元を緩めて、私の身体に腕を回す。
吉琳 「! ゼノ様……?」
突然のことに驚いていると、ゼノ様は私の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
ゼノ 「紅茶は、後でゆっくり淹れてもらうことにしよう」
ゼノ 「ちょうど、公務が一段落したところでな」
ゼノ 「お前の部屋まで行こうと、考えていたところだ」
(嬉しいな……ゼノ様も、私と過ごしたいと思ってくださっていたなんて)
想いの高まりに任せて、ゼノ様の背に腕を回し、抱きしめ返す。
少しの間、温もりを感じてから、ゼノ様がそっと身体を離す。
ゼノ 「見せたいものがある。ついて来てくれるか」
吉琳 「はい」
私はゼノ様の誘いを嬉しく思いながら、手を引かれて廊下を進んだ。
***
バルコニーに出ると、一面の銀世界が広がっていた。
吉琳 「綺麗……月明かりで、雪がキラキラしていますね」
ゼノ 「ああ。雪景色の中で眺める星空は、趣が違って良いものだ」
ゼノ 「隣に居るのがお前なら、より美しく感じられる」
喜びに満たされ隣を見上げた時、不意に強い風が吹き抜けた。
(いけない、ショールが……)
飛ばされそうになったショールを直した拍子に、足元を確認するのが疎かになり……
吉琳 「……!」
降り積もった雪で、足を滑らせた私を、ゼノ様が支えてくれる。
ゼノ 「大丈夫か?」
吉琳 「ありがとうございます、もう平気なので……」
すぐに離れようとしたけれど、
ゼノ様は私の肩から手を離さず、もたれかかるような体勢にさせる。
ゼノ 「このまま俺に寄り掛かっておけ」
吉琳 「でも、連日遅くまで公務をなさっていると聞きました。お疲れではないですか?」
ゼノ 「お前の温もりに触れていた方が、癒される」
ゼノ様は優しい笑みを滲ませて、私の頬に落ちた雪を指先で払ってくれた。
(ゼノ様の手、冷たくなっている……)
すぐに離れていく手を追いかけ、ぎゅっと握ると、ゼノ様が少し驚いたように瞳を瞬く。
ゼノ 「吉琳?」
吉琳 「ゼノ様の手が冷えていたので……温めたかったんです」
ゼノ 「そういうことか」
ゼノ様は私が重ねた手を、自身の胸元へ導き…―
ゼノ 「確かに手は冷たいが……心は温かい。お前が側にいるからな」
私の手を、しっかりと握り返してくれた。
ゼノ 「いつも以上に、お前の温もりが恋しいようだ」
ゼノ 「もっと俺を温めてくれるか」
吉琳 「はい」
ゼノ様は漆黒のマントの中に、すっぽりと私を包み込む。
(ゼノ様を傍に感じられて、幸せ……)
愛しい温もりに包まれ見上げた夜空に、粉雪が舞い散る。
幻想的な景色に惹きつけられ、凍てつく寒さも気にならなかった。
吉琳 「本当に綺麗ですね……」
ゼノ 「ああ。今日のような冬空を眺めていると、古い記憶も蘇る」
吉琳 「どんな思い出ですか?」
ゼノ 「幼い頃の話だ。アルやユーリと、このような遊びをしていた」
ゼノ様は夜空を満たす星々に向け、腕を伸ばす。
その姿はさながら一枚の絵画のように美しく、私は小さく息を呑んだ。
ゼノ 「一度でいいから、あの空に輝く星に触れてみたかった」
ゼノ 「この手に収めれば、どれほどまばゆい光を放つのか、と」
ゼノ様は星を掴むようにぎゅっと握りしめた手を、静かに下ろす。
ゼノ 「成長するにつれ、遠く輝く星を手にするのは、不可能なのだと知った」
その言葉には、遠い日の彼の思いがにじんでいるようで、
それが淡々と紡がれるからこそ、胸が切なく締めつけられるように感じる。
吉琳 「ゼノ様……」
ゼノ 「そんな顔をするな」
ゼノ 「今は、手の届かない星に憧れを抱いていた幼い頃とは違う」
ゼノ様が私を見つめる。
深い夜色を映した瞳に見つめられ、鼓動が甘く揺れた。
ゼノ 「吉琳。お前の瞳は、夜空に瞬く星々よりも美しい」
ゼノ 「幼い俺が憧れ追い求めていたものは、手の届く場所にあるということだ」
頭上に輝く星と、舞い散る粉雪がゼノ様を優しく照らす。
その口元が幸せそうに綻び、私の胸を柔らかく締めつけた。
吉琳 「私は……本当に、ゼノ様の憧れたことを、叶えられたのでしょうか?」
私を見つめる瞳が、愛しげに細められる。
ゼノ様は笑みを零して、絡めた指先に力を込めた。
ゼノ 「ああ。お前がいるから、俺は希望というものを信じられる」
ゼノ 「星のことだけじゃない。この国の希望と未来を、俺に信じさせるのはお前だ」
熱い眼差しに絡めとられ、言葉を紡ぐことができない。
(そんなふうに、仰ってくださるなんて……)
見つめ返すだけで精一杯の私に、ゼノ様は重ねた手に優しく力を込めた。
ゼノ 「いつの日か必ず、望む未来にたどり着けると……お前がいるから信じられる」
紡がれる言葉ひとつひとつに、強い思いを感じて、胸が熱く震えた。
(私は……ゼノ様の支えになれていたのかな)
(だとしたら、こんなに嬉しいことはない)
溢れそうになる想いのまま、私は精一杯の笑顔を浮かべる。
吉琳 「これからも、希望を探していきたいです。ゼノ様と手を取り合って……」
思いを受け止め頷き返せば、ゼノ様は瞳に柔らかな笑みをにじませて口づけた。
ゼノ 「その清らかな心が、俺を惹きつけて離さない」
ゼノ 「今夜は……国王ではなく一人の男として、お前を愛でても構わないか」
私は顔が熱くなるのを感じながら、頷きを返す。
言葉なく眼差しに託した想いを受け取ったように、ゼノ様が笑みを深める。
深い愛情で彩られた瞳を見つめていると、淡雪のように優しいキスが落とされ、
私の心には、愛しい人への想いが降り積もっていった…―