新版王宮 本篇轉蛋(本編プリンスガチャ):ジル

本編プリンスガチャ

◆ 恋の予感
 『無防備な優しさ』
◇ 恋の芽生え
 『不毛な恋は、似合わない』
◆ 恋の行方 ~夢見るプリンセス~
 『繋いだ手を離したくない』
◇ 恋の行方 ~恋するプリンセス~
 『残された時間では、足りない』
◆ 恋の秘密
 『運命の人』

新版王宮 本篇轉蛋(本編プリンスガチャ):ジル

 

 

新版王宮 本篇轉蛋(本編プリンスガチャ):ジル

 

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◆ 恋の予感
『無防備な優しさ』

 

――…静かな夜、日誌を渡すために初めて吉琳が私室を訪れた

前髪に吉琳の指先が触れて、顔を覗き込まれる。

(……?)

大きな瞳が心配そうに揺れた。
吉琳:少しだけ休むことはできないの? あまり顔色も良くないみたいだし…
その瞬間、甘い香りがふわっと漂い目の前の細い手首に手を伸ばす。
ジル:…随分と無防備ですね
吉琳:…っ…――!
低く呟いて、自分の方に引き寄せ唇が触れそうな距離で見つめる。
ジル:私の心配より、ご自分の心配をされては?
吉琳:え…?
ジル:こんな風に容易に触れられると、男性は期待してしまうものですよ
ジル:自分に好意があるのでは…とね
吉琳の首筋が淡く色づく。
吉琳:誰もそんなこと思わないよ…っ
ジル:男性の心をわかっていないのですね
ジル:まあ…悪いことではありませんが、使いわけて頂かないと
吉琳:どういうこと?
戸惑う瞳は、あの夜…自分が三人の内から結婚相手を選べ、
そう伝えた夜と同じ色をしていた。

〝吉琳:どうして…、あんなことを公の場で言ったの〞
〝ジル:…………〞
〝吉琳:それに、私はジルからは何も聞いていないよ…?〞
〝ジル:言ったら、貴女は素直に頷いてくださいましたか?〞

ジル:あの御三方以外の男性に惚れられては、面倒でしょう…?
吉琳:…っ…
吉琳が息を呑んで、腕を振り払う。
吉琳:私は、……ただ、ジルのことが心配だっただけ
掠れた声が、胸に届いた。

(本当は…優しい人だと気づいている)

こんなに酷いことを言っても、いまだに瞳は真っ直ぐに自分を捉えている。
その瞳はまるで、透明な心を映しているようだった。

(だけど……私は)
(貴女の無防備な優しさから目を背けないといけない)

なるべく冷たく、冷静に聞こえるように笑みを落とす。
ジル:でしたら、その気遣いは御三方に向けてください
自分のものとは思えないほど淡々とした声が部屋に響いた。
吉琳:…覚えておく、おやすみなさい。ジル
吉琳は、悲しそうな声と複雑そうな表情を残し部屋を立ち去って行く。

――…扉が音をたてて閉まると、部屋に静寂が戻る

ジル:…………

(…自分で決めたことなのに)
(どうしてこんなに胸が痛むのでしょうね)

王宮の安定を守るために、吉琳の存在を利用した。
その事実がある限り、自分は胸を痛ませる資格さえないと思う。
ため息をついたその時、飼い猫のミケランジェロが膝の上に飛び乗った。
ジル:ミケランジェロ、何をそんなに怒っているのです…?
ミケランジェロは、どこか苛立たしげに眉を寄せている。
ジル:……私が、プリンセスにひどいことをしているからですね
ジル:嫌われ役になっても構わないと、あの日決めたのですよ
ジル:ですが、貴方まで私を嫌うと困るのですがね
苦笑いをこぼして窓から覗く月灯りを見上げたその時……

(…!)

ジル:……っ…
胸に鈍い痛みが広がり、激しい咳が唇からこぼれる。

(また……、ですか)

ミケランジェロが鳴き声を上げる。
ジル:…大丈夫ですよ
大きく息を吸うと、自分のシャツをぐっと握りしめた。
ジル:まだ、…ここを離れるのは早いですから
咳をこぼしながら月灯りの下、思い出すのは……
忘れることができない、吉琳の悲しそうな表情だった…――

 

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◇ 恋の芽生え
『不毛な恋は、似合わない』

 

――…晴れているのに、なんだかもうすぐ雨が降りそうな匂いがしていた

ジル:…私から、このキスのお返しをすることはできませんよ
ジル:それと…、貴女の気持ちにも、ね
組み敷いたまま見下ろす吉琳の瞳が、大きく揺れた。
吉琳:……どう、して?
ジル:教育係とプリンセスの恋愛は禁止されていますので
自分に向けられた好意に蓋をするように、そっと微笑んでみせる。
吉琳:そんなの初めて聞いたよ…?
ジル:よくお考えになればわかることでしょう?
ジル:国を治め、プリンセスを教育するために一番近くにいるのが私の使命です
ジル:一番近くにいるということは…一番プリンセスと接する機会が多いということ
ジル:恋仲になってしまったら手懐けて、国を掌握することさえできるでしょう?
ジル:これは昔からの決まりですから
吉琳の表情が、苦しそうに歪む。

(…そんな顔を、しないでほしい)

今すぐ、口からこぼすこの冷たい言葉は全て嘘だと伝えて、
この両手で…優しく抱きしめてしまいたくなる。
吉琳:そんなことジルは…っ
ジル:私の何を知っているのです
言葉を遮った冷たい自分の声は全て跳ね返り、胸を軋ませる。
ジル:私は貴女をプリンセスに仕立て上げた人物ですよ
ジル:それに……
ジル:貴女はただ、勘違いをしているだけですよ
体を離し、吉琳の手首を引いて体を起こす。
ジル:ただそばにいた、その時間が恋だと錯覚させたのでしょう
吉琳:……そ…っか

(……これ以上、顔を見ていては)
(感情を、隠すことができなくなる)

立ち上がり吉琳から顔を背けて、扉を押し開けた。
ジル:それに…
ジル:もし、貴女の気持ちが本当だとして
ジル:不毛な恋に身を投じる必要が、どこにあるのですか
吉琳:…不毛な、恋?
ジル:恋とは、幸せになるためにするものでしょう…?
ジル:未来のことに想いを馳せて、笑い合う…

(明日は何をしようか…あさっては何をしようか)
(そんな風に先のことを考えて笑う貴女が想像できる)

その未来は、ひどく温かい。
ジル:そんな恋が貴女にはよく似合いますよ
ジル:私と貴女が恋に落ちても、幸せな未来はないのですから

(私には、未来がないのですから)

***

吉琳を遠ざけるつもりが、自分の心が軋んでいくのがわかる。
少しだけ開けた扉の隙間から流れ込んできた空気は、
また雨の匂いが濃さを増していた。
ジル:…もうすぐ、雨が降りそうですね

――……ほどなくして空が泣き始めた

吉琳とユーリが走っていく足音を聞きながら、
ただ止むことのない雨を見上げていた。
ジル:教育係との恋愛が禁止…だなんて稚拙な嘘を
吉琳の気持ちを遠ざけるために咄嗟に口からこぼれた嘘に、
乾いた笑みがこぼれる。
教育係とプリンセスの恋愛が禁止されていたのは、もう過去の話だ。

(…あんな嘘しかつけないほど)
(あんな冷たい言葉で無理やり遠ざけなければいけないほど…)

吉琳の存在は、自分の中で抗いようのないほどに大きくなっていた。
ジル:…いつの間に、こんなに大切になっていたんでしょうね
無意識にこぼれた声が、気持ちを自覚させる。

(…どうして、こんなに恋しいと思う)
(どうして……愛したいと思う)

髪から水滴が落ちる。
雨の音に混ざって、自分の唇から残りの時間を告げるように咳がこぼれ落ちた…――

 

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◆ 恋の行方 ~夢見るプリンセス~
『繋いだ手を離したくない』

 

――…その夜、イサナでは他国の方を交えた大規模な夜会が開かれていた

ジル:…………
ウィスタリアとは違う景色の中、ふと足を止めた。

(まさか……お逢いできると思っていなかった)

〝ジル:……お久しぶりですね〞
〝吉琳:ジル、久しぶり〞
〝ジル:ええ、プリンセス。お変わりはありませんか…?〞
〝吉琳:うん、元気だよ。ジルは…〞
〝吉琳:少しだけ、痩せた…?〞
〝ジル:気のせいですよ、しばらく逢わなかったせいでしょう。ですが…〞
〝ジル:まさかこんな風にお逢いできると思っていませんでしたよ〞

(平然を装いましたが…)

吉琳の姿を、遠くから見つけた瞬間、
どうしようもなく胸が疼いた。

(…姿を見ただけで、嬉しいと思った)

自分の時間がこれから続くか続かないかは、わからない。
万が一…望まない方に転んだその時のために、離れた場所に来たのに…
吉琳が、近くにいる。

(……それだけで、こんなに落ち着かない気持ちになるなんて)

目を伏せようとしたその時……

(…?)

足音が響いて、ダンスホールからそっと抜け出す姿を見つけた。
ジル:…プリンセス?
足を止めて、空を見上げていた吉琳の瞳が自分を捉える。
吉琳:……ジル

(…どうして、ここに)

吉琳の影と自分の影が、足元で重なる。
上手く言葉を紡ぐことさえできない。

(口を開けば……)
(自分の気持ちを、伝えてしまいそうになる)

その時、穏やかな静寂をそっと破るように音楽が流れてきた。
吉琳:この音…
ジル:ダンスタイム、ですね
遠くでは、たくさんの人が笑い合いながら踊っている。

(…言葉にできないならせめて)
(少しの間だけでも、…吉琳、貴女を感じていたい)

ジル:プリンセス
ジル:…この一曲が流れている間だけ、私と踊ってくださいませんか?
吉琳:え…
吉琳の大きな瞳に自分が映る。
ジル:この場には誰もいないようですし
そんな言い訳をして、手を差し出すと……
吉琳の手が、触れた。
吉琳:はい、喜んで
水面に月が映って、淡く光る。
ただ手と手を取り合って、ステップを踏んでいく。

(……そういえば)

ジル:貴女とこうしてダンスをしたのは、初めてですね
吉琳:…私も今、同じことを考えてた
吉琳が、驚いたように目を瞬かせる。
思えば、いつも吉琳が誰かと踊る姿を遠くから見守っていた。

(…ああ)

その瞬間に、気づく。

(私は、貴女とこうして踊ってみたいと思っていたのですね)

こうして、触れて初めて知る想いに、なんだか可笑しさが込み上げる。
ジル:なんだか、可笑しいですね…あんなに長い間、一緒に過ごしたのに
吉琳:うん、そうだね。…よく考えたら、ジルとしてないことってたくさんあるな
ジル:…してないこと?
吉琳が、夜の中でふわっと笑う。
吉琳:そう、たとえば…一緒に自転車に乗ったり、城下で買い物したり…
吉琳:挙げたらきりがないね
ジル:…………ええ
未来のことを思い浮かべて話してくれる、そのことがたまらなく嬉しい。
それと同時に、たまらなく切なくなる。
吉琳:ジルとしたいこと……山ほどあるよ
吉琳:いつか、できるかな…?

(当たり前でしょう? …そう、言いたいのに)

不確かな未来を、約束することはできない。
誰よりも、悲しませたくない人だからこそ。
胸に込み上げる想いは、紛れもない自分自身の本心だった。

(これが…最後だと思いたくない)

繋いだ手を少しだけ強く握ったその瞬間、
ふっと音楽が途切れる。
ジル:…………
物語の終わりを告げるように、静寂に包まれる。

(また、貴女とこうして…――)
(手を繋いで、踊ってみたい)
(……それで、自分のこの気持ちを伝えてみたい)

込み上げる衝動を抑え、言葉にできない代わりに手をそっと持ち上げて……
手の甲に触れるだけのキスを落とした。

(……吉琳、愛しています)
(そう、また逢えたその時は……必ず伝えますから)

顔を上げると、視線が重なる。
ずっとこの時間の中にいたい、そう想いながら手を離す。
吉琳に一度だけお辞儀をして、背を向けた。

(……また、貴女に逢いたい)

吉琳と重ねた体温は、ずっと手のひらに残り続けた……

 

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◇ 恋の行方 ~恋するプリンセス~
『残された時間では、足りない』

 

――…月灯りが差し込む部屋で、吉琳の掠れた声が響く

吉琳:ジルがしたいことは何?
吉琳:まだジルの中にやり残したこと…たくさんあるでしょ?

(吉琳……)

頬に触れている吉琳の手が微かに震えていた。
吉琳:人のことばかり考えて生きてきたんだから、今度は自分を幸せにしてあげないと

(自分を……幸せに)

防波堤が崩れ落ちるように、感情が溢れ出す。
ジル:……っこんなはずじゃ…なかった
吉琳:ジル…?
視線が重なった瞬間、たまらず強く抱きすくめる。
腕に…吉琳の体温を感じた。
ジル:……こんなはずでは、なかったのですけれどね
ジル:貴女がプリンセスになる前、私は城下で倒れたんです
ジル:…目を覚ました時、気づきました
ジル:もう自分には残された時間が少ないと

(…もう、先は長くないかもしれないと)

ジル:…ですが、不思議と怖くなかったのですよ
ジル:自分が、この世からいなくなることは
吉琳:…………
見えないけれど、吉琳が泣きそうな顔をしているような気がした。
ジル:ただ、私が怖れたことは…
ジル:陛下の期待に応えられないこと…そして
ジル:私がいなくなったあとの王宮の未来でした

(…何を残していけるのか、そればかり考えた)

その答えが、次期国王を定めること…そしてそれを支えるプリンセスを教育することだった。
ジル:…ですから、残された時間でできることをして立ち去ろう
ジル:そう、あの日決めたはずなのに…

(そう、決意していたはずだったのに…)

ジル:その決意を揺らがすような、出来ごとが起こったんです
吉琳:…?
100日間の始まりに、
淡い陽ざしの下…吉琳に初めて出逢った時のことを思い出す。
ジル:プリンセス、……私は貴女に出逢ってしまった
吉琳:ジル…?
顔を見られたくなくて、抱きしめる腕の力を強くする。
ジル:貴女は、安定した王宮の未来を作るため私にとって必要な人だった
ジル:ですから、強引なやり方で貴女に近づいた
吉琳:…知ってるよ
吉琳が優しい声で言う。
ジル:ええ、そうでしたね
ジル:ですが…

(どんなに嫌われても恨まれても構わない…)
(そう覚悟していたのに…)

ジル:貴女は…私が想う以上に優しく…
ジル:一生懸命で、真っ直ぐ
ジル:それなのに、どこか可笑しな人で…私はいつの間にか貴女から目を離せなくなっていました

(…貴女が笑うと、なんだか自分まで笑えるようになって)
(貴女が悲しいと、…この腕で守りたいと願うようになっていた)

名前を呼ばれて、笑顔を向けられる度に自分の感情を押し殺して……
それでもいつの間にか、吉琳は自分の心の真ん中にいた。
ジル:貴女と過ごす毎日が、いつしか私にとってかけがえのない時間になっていた…
ジル:……この時間の中にいたい、そう思うようになってしまった
吉琳:…っ
その想いは、残された時間が少なくなるのに比例して、強くなっていった。
ジル:それでも私はいつかいなくなる身
ジル:残された時間を生きると決めたからには、色んな感情を断ち切ろう
ジル:立つ鳥は跡を濁さず消えるべきだ…
ジル:貴女とは、もう二度と逢うことはない。そう思っていたのに…

(……思い出だけを持って、消えようとしていたのに)

今、吉琳は自分の腕の中にいる。
ジル:…こうして貴女に逢うと私は…――
ジル:こぼれ落ちていく時間に、どうしても未練を持ってしまう
ずっとずっと誰にも伝えることの無かった感情が、
こぼれ落ちていく。
吉琳:ねえ、ジル
ジル:ええ、なんです…?
吉琳の手が、ぎゅっとシャツを掴む。

(吉琳…?)

耳元で、掠れた声が響く。
吉琳:ジルの幸せは…
吉琳:ジルの願う道は、何?
ジル:……っ
心が、騒いで仕方ない。
ジル:そんなこと、聞いてどうするんです
吉琳:……聞かせて
吉琳:お願い
吉琳は、まるで永遠にでも待っていてくれそうなほど、
抱きしめる腕を解こうとはしない。

(……この想いは、伝えるはずではなかったのに)

だけど、知っていてほしいという傲慢な欲が自分を突き動かす。
ジル:………そばに、いてほしい

(視線の重なる距離にいたい…)

ジル:誰よりも、そばにいたい

(他の誰にも、貴女を渡したくない)

吉琳:…………
ジル:吉琳…

(こうして、貴女の名前を何度も呼んで…)

最後にこぼれ落ちた言葉は、自分の本当の願いだった…――
ジル:本当は貴女と、ずっと生きていたい…っ

(貴女を…愛してみたい)

 

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◆ 恋の秘密
『運命の人』

 

――…ウィスタリアに、久しぶりに雨が降った夜

(……雨、ですか)

外から不意に聞こえた雨音にふっと書類に走らせていたペンを止める。
ジル:…………
立ち上がって窓辺に近づくと、雨音がさらに強くなった気がした。

(……なんだか、こんな雨が強く降る日は、思い出してしまいますね)

そっと目を閉じると…、胸の奥にしまいこんでいた幼い日の記憶がよみがえる。

***

(雨は、ずっと昔から苦手だった…)
(雨音は、静けさを破るのに…耳を塞ぎたくなるような人の声は掻き消してくれないから)

屋敷の窓の外を見つめながら、遠くからは自分を悪く言う両親の声が絶えず聞こえていた。

――…クリストフ家の出来そこない
――……騎士になれないもの

そっと耳を覆うとしたまだ小さな手を、
唯一仲が良かった使用人がそっと掴んで、微笑んでくれた。
使用人:…大丈夫です、ジル様…――

(…あの大丈夫に、支えられていたことを思い出しますね)

そっと目を開けると……
いつも通りの景色が広がって、息をつく。
その時……

(あれは……)

空中庭園を走る姿に気づき思わず目を見張った。
ジル:本当にあの人は…――

***

傘をさして急いで庭園に出て、雨の中を走っている人に手を伸ばす。
その少し冷えた手首を掴んで、そっと傘の中に引き入れた。
吉琳:ジル…っ
ジル:雨の中を傘もささずに何をしているのです…?
吉琳は目を見開いたまま、困ったように言葉を紡いでいく。
吉琳:その…傘をさしてロベールさんがいる温室まで本を返しに行ったんだけど…
吉琳:城門の外に傘を持っていない子がいてね…
ジル:それで自分の傘を貸してあげた…と
吉琳がまるで濡れた子犬のように、しゅんとうなだれる。
吉琳:ごめん…ジル

(……風邪を召されたら困りますが)
(こういう人だから、私はこの人を好きになった…)

ジル:謝るのでしたら……
吉琳:…!
ジル:こうして、なるべく近くにいてくださいね
肩を抱くと、吉琳がこくんと頷く。

(…私も大概、この人には甘い)

惚れた弱み、というのはきっとこういうことを言うのだろう。
そんなことを考えていると、吉琳が不意に嬉しそうに笑う。
ジル:どうかされましたか?
吉琳:あのね、この間レオから聞いたんだけど…傘の中って一番人の声が綺麗に聞こえるんだって
ジル:確か……
ジル:声が雨粒に反射して、傘の中で共鳴するから……でしたっけ
吉琳:そう! …ジルはなんでも知ってるんだね
ジル:私も前にレオに聞いたことがあっただけですよ。ですが…
ジル:どうして、そんなに嬉しそうな顔をしているんです?
吉琳:その…

(…吉琳?)

吉琳が、柔らかく笑う。
吉琳:あのね、私ジルの声、すっごく好きなんだ
吉琳:だから、ずっと傘の中で声を聞いてみたかったの
吉琳はふっと視線を上げると、雨を見つめながら笑みを深めた。
吉琳:やっぱり綺麗に聞こえる。今日が雨でよかった

(……っ…)

こんな雨の日を、吉琳は自分の声が聞けた、それだけで愛おしそうに眺める。
その瞬間、うるさいだけの雨も…昔から嫌いだった雨音も、
まるで凄く良いものになったかのように形を変える。

(……本当に、この人には敵わない)

嫌いなものを、一瞬で好きなものに変えてしまう。
なんだか奇跡みたいだ…そう思ったその瞬間、遠い日に聞いた言葉がよみがえった。

***

使用人:…大丈夫です、ジル様…――
ジル:怖いんだ……お前は、そばにいてくれるけど
ジル:この先……自分を愛してくれる人なんて現われるのかな
使用人:ジル様、聞いた話なのですが、人には運命の人……というものがいるそうです
ジル:運命の…人?
使用人:ええ、世界中にたった一人だけ
使用人:きっと今、この瞬間にもジル様に出逢えるのを待っているかもしれないですね
ジル:…いつか、出逢えるかな?

――…ええ、きっと必ず。

***

あの時は、ただの気休めだと思っていた。
だけど、今ならはっきりと言える。
吉琳:…………

(貴女はきっと…)
(私にとってたった一人の人ですよ)

運命、そんな言葉は信じていなかったけれど、今なら信じたくなる。
こんなに心を満たしてくれる存在は…後にも先にも吉琳だけだ。
吉琳:ジル…どうして笑ってるの?
ジル:本当に、貴女の声が綺麗に聞こえるのだなと思っていただけですよ
吉琳:でしょ?
吉琳がまた嬉しそうに笑うから、愛おしさが募る。
ジル:ええ…ですが…
吉琳:ジ、ジル…っ?
腰を抱き寄せて、吐息が触れる距離まで顔を寄せていく。
ジル:この傘の中で、もっと貴女の甘い声を聞きたくなってしまいました
吉琳:……っ…それじゃ、私のお願いも聞いてくれる?
ジル:ええ、なんでも
吉琳:キスのあと……、好きって聞かせてほしい
甘すぎる要求に、眩暈を覚え衝動的に唇を塞ぐ。
吉琳:ん…ぁ…
傘の中で響く甘い声を聞きながら、そっと唇を離して囁いた。
ジル:吉琳…、好きでは足りない
ジル:愛していますよ
吉琳:…………聞こえなかったから、もう一回
傘の中、よく聞こえる吉琳の甘い嘘に思わず笑みがこぼれる。
雨音の中、こんなにも柔らかい笑い声を聞いたのは初めてだ…
そんなことを考えた瞬間、なんだか泣きそうになる。

(こんな感情は、貴女とじゃないと得られない)
(…ですから、吉琳…貴女はやっぱり私の…)
(運命の人ですよ)

 

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    創作者 小澤亞緣(吉琳) 的頭像
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    ♔亞緣腐宅窩♔

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