20875

Twilight Tears-ヴァンパイアと永遠の口づけ-

ヴァンパイアとの切ない恋の行方とは…?


プロローグ:

丸く輝く月が、真っ黒な雨雲に覆い隠されていくある日の夜…―
私は降りしきる雨で、薄暗さが増した森の中を足早に駆けていた。
弱々しかった雨も次第に大ぶりになり、足元がぬかるみ始める。

(こんなに雨がひどくなるなんて…)

早く抜けようと、木々の生い茂る道を駆けていくと、
突然視界が開け…

(何…このお城……)

見たこともない城がそびえ立っていた。
急に現れたかのようなその城に、私は思わず後ずさってしまう。

(でも…)

雨の勢いは弱まることなく、徐々に身体が冷えていくのを感じる。

(少し怖いけど…どこかで雨宿りしないと)

私は、怖さで高鳴る鼓動を抑えながら、重厚な扉を押し開けた。
中に入ると、軋むような音を立て、後ろで扉が閉まる。

(ここは……)

瞬きをした、その瞬間…―
ロウソクの明かりが次々と灯されていき、
階段の上では、4人の男性が私を静かに見つめていた。
???:……(*ルイ)
???:……(*ジル)
???:……(*レオ)
???:……(*アルバート)

(この人たちは……?)

目を見開いていると、銀色の髪をした男性が私へと近付いてくる。
???:へえ、プリンセスが今頃になって現れるなんてね
沐沐:プリンセス…?
???:聞いたことない? ヴァンパイアの話
ヴァンパイアという言葉に、私はふと絵本のことを思い出した。
沐沐:ヴァンパイア城に迷い込んだ女性は…
沐沐:…城の主となるヴァンパイアを指名する
沐沐:でも…そんなことがまさか……
信じられない気持ちで立ち尽くしていると、上から澄んだ威厳のある声が響いた。
???:そのまさかですよ。ただし…ひとつだけ違うことがあります
男性の赤い瞳がすっと細められる。
???:プリンセスが長年現れなかったため、すでに主は決まっています
???:その場合、迷い込んだプリンセスは…
???:城の主の『婚約者』となります

(えっ…)

瞳を瞬かせる私に、男性は続けて言葉を紡ぐ。
???:その主とは…―
雨音が一層強くなり、窓を激しく叩いた…―

 

沐沐ちゃんは誰との物語を過ごしたいのかな?

>>>ルイ

 

20877  

第一話:

???:その主とは…―
男性が、気品をまとった金色の髪の男性に頭を下げる。
???:………
感情の読めないブルーの瞳に、私の目も吸い寄せられた。

(え……)

ふいにその男性が近づいてきて、私の手をすくい上げる。
そして、冷たい唇が手の甲に触れた。
沐沐:……!
驚きに目をみはると、周りからも声があがった。
???:ハワード卿……?
???:挨拶しただけ
???:……この子が婚約者なんでしょ?
???:ええ。ですが…
???:まだ来たばかりでどこの方かも分かっておりません
その人は、変わらず感情のない視線を向ける。
???:俺がこの子に何かされると思ってるの?
???:いえ、そのようなことは
???:じゃあ…二人で話してもいいかな?
そう告げると、男性は私の手を引き寄せた。
沐沐:あ、あの…

(二人でって…どこに行くんだろう……)

私は手を引かれて、そのまま階段の奥へと進んで行った…―

***

私は手を引かれたまま、見知らぬ部屋へと入る。

(ここ…)

扉が閉まる音がすると、不安な気持ちを抱えたまま男性を見上げた。
???:俺はルイ=ハワード。…ルイでいい
ルイ:君は?
沐沐:沐沐です……
ルイ:沐沐
唇が、私の名前を繰り返す。
その瞳に一瞬、温かさが滲んだ気がした。
沐沐:あの……
すると、その瞳がまた冷たいものに変わり、
私を見下ろしたルイが、淡々と告げる。
ルイ:この城に来た以上
ルイ:君は俺の婚約者として過ごすしかない
沐沐:そんな…。お願いです。帰してください…っ
ルイ:これが、この城の掟だから
懇願するけれど、私を見つめるその瞳は何の感情も映さない。

(なのに、どうしてさっき…一瞬、温かい気がしたんだろう)

私は困惑しながら、首を振った。

(温かいなんて、そんなはずないよね…)
(だって、この人はヴァンパイアで…)

そう思った瞬間、ルイの手が私に伸ばされ、急に恐怖が襲う。
沐沐:……!
思わず小さな悲鳴をあげると、
ルイの指先がぴたりと止まり、ゆっくりと下ろされた。
ルイ:…俺のことが怖い?
冷たいはずの瞳が、すっと細められた…―

(えっ…)

ルイ:逃げたいなら、協力する
ゆっくりと瞬きをしたルイが、私を見つめる。
ルイ:満月の夜に、城の主は人間を帰すことができる
ルイ:だから、それまでは婚約者のふりをしていればいい
沐沐:帰してくれるってことですか…?
ルイ:………
尋ねるけれど、ルイはそれ以上何も言ってはくれなかった。

(だけど……)

ルイの突然の優しさに、私はあることを思う。
沐沐:ルイは本当にヴァンパイアなんですか…?
ルイ:…え?
沐沐:私が思っていたヴァンパイアとは少し違う気がして…
そう告げると、気持ちを遠ざけるようにすっとルイの表情が冷えた。
ルイ:ヴァンパイアだよ。この城の主は俺だから
その表情の豹変に息を呑んだ瞬間、
ルイが距離を詰め、私を側にあるベッドへ押し倒した。
ルイ:今ここで、君を襲うことだってできる
ルイ:…こうやって
沐沐:ゃ……っ…‥
顔を上向かされ、首筋に唇が寄せられる。

(…やっぱり……)

鋭い歯をたてられ、恐怖心が戻った頃には、
私は、もうルイの腕から逃れることができなかった。

(ルイは、ヴァンパイアなんだ…)

そう思い知った瞬間…
肌に歯が食い込む感触がして、そのまま、私の意識は薄れていった。

***

翌日…―
沐沐:ん……
ノックの音で目覚めると、扉の向こうから呼びかける声がした…―
メイド:プリンセス。ジル様がお呼びです

(私を…?)

私は首を傾げながら、ベッドから起き上がった。
呼ばれた部屋に行くと、ジルさんが穏やかに告げる。
ジル:今日からプリンセスとしての作法を学んでいただきます
沐沐:作法…ですか?
ジル:ええ。婚約者として、ハワード卿自ら貴女に教えるそうですので
ルイの名前を聞き、
噛まれた時の記憶が蘇って、私はぎゅっと身をすくませる。

(怖いけど…行くしかないよね…)

沐沐:分かりました

***

沐沐:失礼します…
部屋に入ると、ルイは窓辺から外を眺めるように立っていた。
ルイ:………

(なんだか、寂しそう…?)

切なさを帯びた瞳に引き寄せられそうになるけれど、
私は考えないように首を振った。

(あんな怖い思いはもうしたくない…)
(深く知る前に、ここから出ないと…)

ルイ:…昨日は急にあんなことしてごめん
沐沐:えっ…?
意外な言葉に小さく声をこぼすと、ルイは視線をゆっくりと向ける。
ルイ:でも、君があの時感じた恐怖は正しい

(それってどういう……)

ルイを見つめ、瞳を瞬かせていると…
ルイ:ここは怖い場所だってこと忘れないで
その言葉があまりにも切なく聞こえて、胸が微かにざわめく。

(もしかして、ルイは…)
(私に危険を教えるためにわざと噛みついたの?)

戸惑いながら見つめると、ルイはテーブルの向かいに座った。
ルイ:じゃあ始めるから…座って
沐沐:はい…
ぎこちなく座ると、ルイはテーブルに置かれた本を手に取る。

(どうしてか分からないけど…)
(…やっぱりルイは恐ろしいヴァンパイアじゃないと思う)

複雑な想いを抱きながら、
私は羊皮紙にルイの言葉を書き留めていった。
それからというもの……
私はプリンセスとして、ルイに様々なマナーを習い始めた。
突き放すようなのに優しい。
出逢った時からルイの印象は変わらず…
自分の気持ちが、戸惑いから別のものに変わっていくのを感じた。

***

そんなある日…―
レッスンに向かっていた私の耳に、誰かの話し声が聞こえてきた。
官僚1:プリンセスを迎えられたというのに
官僚1:ルイ様は相変わらずニコリともしてくださらない
官僚2:まあ、『氷でできた人形』と影で囁かれるお方だ
官僚3:だが、婚礼の準備を進めようとしないのは問題ではないか
官僚1:まったく…婚礼は次の満月の夜だというのに

(婚礼が次の満月の夜……?)

不安と同時に婚礼という言葉に鼓動が高鳴ってしまう。

(この城でずっと暮らしていくなんて、怖いはずなのに…)
(どうしてこんな気持ちに…)

私はまつ毛を伏せて、執務室へと向かった。
部屋に入ると、
私のぎこちない様子に気づいたのかルイが目を細める。
ルイ:どうしたの?
沐沐:…次の満月に、婚礼が行われるの…?
尋ねる私に、ルイは小さく息をついた。
ルイ:そう。満月の夜は婚礼の日で…
ルイ:君を帰すことができる唯一の日

(私を帰すことができる…?)

ルイ:満月の夜に、城の主は人間を帰すことができる
ルイ:だから、それまでは婚約者のふりをしていればいい

(あれは、そういう意味だったんだ…)

私は息を飲んで、ルイをまっすぐに見つめた。
沐沐:もしかして…私のために…?
私の視線に、ルイの瞳が微かに戸惑いに揺れる。
ルイ:………
照れたようなルイの表情に、胸がとくんと跳ねた。

(なんだろう、この気持ち…)

沐沐:…もうひとつ、聞いてもいい?
ルイ:なに…
不思議そうなルイに、私は少しためらいながらも尋ねる。
沐沐:…『氷でできた人形』って、ルイのこと?
すると、ルイは興味なさげに呟く。
ルイ:そうだけど…別に誰になんて言われても構わない

(そんな悲しいこと…)

私は冷たいけれど、どこか優しいルイの瞳を思い、口を開いた。
沐沐:でも、ルイはそんな冷たい人じゃないと思う
はっきりとそう言うと、ルイが僅かに目を見開く。
その瞳には、確かな温かさが滲んでいて、私はそっと微笑んだ。

(ルイに感じ始めているこの気持ちは…もしかして…)

***

それから、数日後…
作法のレッスンが終わり、私はルイと中庭を歩いていた。

(満月まであと2日…)

少しだけ欠けた月を見上げると、ルイも私と同じように月を仰ぐ。
その視線が、はるか遠くを見つめるように細められた。
ルイ:沐沐に聞いてほしいことがある
ルイ:俺は…―

 

20873

第二話:

ルイは月を見上げながら、ぽつりと呟いた。
ルイ:沐沐に聞いてほしいことがある
ルイ:俺は…元は人間だった
ルイ:気が遠くなるくらい、昔の話だけど
ルイの突然の告白に、私は目を見開いた。
ルイ:でも、この城に連れて来られた時のことは覚えてる
ルイ:…ヴァンパイアの生活が人間にとって大変だってことも

(そんなことが…)

沐沐:連れてこられた時は、まだ人間だったの…?
ルイ:うん。子どもだったけど…心細さも、怖さも…
ルイ:君が感じていることは俺も感じたことがある
子どものルイが、この城の中で過ごしたのかと思うと胸が軋む。
沐沐:私……
なんて言ったらいいか分からず、唇を噛みしめると、ルイの瞳が揺れた。
ルイ:…そんな顔されると、余計に思う
沐沐:え…?
俯いていた顔を上げると、ルイは優しい口調で告げた。
ルイ:不思議だけど…君のこと、大切にしたい
ルイ:だから、絶対に元の世界に帰してあげる
沐沐:ルイ……
そのまま、ルイの腕が伸びてきて…―
ルイ:…大丈夫。もう傷つけたりしないから
そう言われて、ルイに噛まれた時に感じた恐怖や不安を思い出す。

(でも、今は…)

腕に触れる指先や、額をかすめるルイの唇は
血が通わないように冷たいのに…
抱きしめられた胸の中は温かく感じた。

(帰りたい気持ちは変わらない。だけど…ルイと一緒にいたい)
(こんな気持ちになるなんて…)

裏腹な気持ちを抱え、ルイの胸に顔をうずめようとしたその時……
ルイ:………
ルイが身じろぎする気配がして、そっと顔を上げると、
そのブルーの瞳が遠くを見つめていた。
沐沐:…ルイ?
ルイ:…ううん、何でもない
ルイはそう言って、小さく微笑んだ。

***

そうして、満月の日を迎え…―
婚礼の準備が進められた城内では、ある噂で持ちきりになっていた。
官僚1:ルイ様、ご説明を!
詰め寄る官僚たちに、動じることなくルイが口を開く。
ルイ:噂の通り、俺は以前は人間だった
官僚1:なんということだ……!
官僚2:純粋な血統だと信じていた我々を…
官僚2:何百年にも渡って騙し続けていたのですか?
ルイ:………
無言のルイに、官僚たちの中から乱暴な声があがる。
官僚2:…処遇が決定されるまで、あなたを監視させていただきます
ルイ:…分かった
官僚たちに従い、ルイは歩き出した。

***

足早にジルの部屋に向かった私は、部屋に入ると同時に…―
沐沐:ルイは…どうしてこんなことに?
ジル:そうですね…
青ざめる私に、ジルは淡々と告げる。
ジル:ハワード卿の出自が城内で噂になり…
ジル:それを自らお認めになりました
沐沐:それで、今ルイは…
ジル:塔で幽閉されています

(幽閉……。ルイ……私は……)

私は自分の気持ちを見つめ直す。

(…自由を奪われているなら、助けたい)

沐沐:ルイが幽閉されている場所を詳しく教えてもらえませんか?
沐沐:ルイを助けたいんです
ジル:本気ですか?
私は、ジルを真っ直ぐ見つめてこくりと頷く。
沐沐:はい
ジル:…分かりました
すると、ジルは取り出した鍵を、私の手に渡した。
ジル:西の塔に、いらっしゃいます
そうして手のひらに置かれた鍵を、私はじっと見つめた。

(ジルなら力になってくれるかもと思って頼んだけれど…)
(でも、ルイを助けるためとはいえ…)

あっさり鍵を渡してくれたことを不思議に思っていると、
ジルが怪訝そうな顔をする。
ジル:行かないのですか?
沐沐:いえ……
私は小さく首を振ると、部屋の扉へ向かうジルに尋ねた。
沐沐:…ジルはどうして私に協力してくれるんですか…?
ドアノブに手をかけたジルが、ふっと息をつく。
ジル:純血主義に賛成するわけではありませんが
ジル:城の主として本当のことをきちんと説明する必要はあると思います
ジル:それと、貴女からハワード卿へ伝えて頂きたい…というのもありますが…
そう言葉を切って、ジルは意味深に微笑む。
ジル:ハワード卿が貴女に会って、少し変わったから…ですかね
そうして、ジルは扉を開いた。

***

教えられた場所に着き、渡された鍵を使って中に入ると…
ルイ:沐沐……
沐沐:ルイっ…
ルイは驚きを滲ませた後、怒ったように眉を寄せた。
ルイ:どうして来たの?
沐沐:幽閉されたって聞いたから…
ルイ:だからって…
なおも複雑そうな顔をするルイに、私は告げる。
沐沐:ルイを助けたかったの
ルイは僅かに表情を歪め、ため息をついて目を伏せた。
ルイ:俺なら大丈夫。だから、誰かに見つからないうちに戻って
沐沐:そんなことできないよ…
すると、ルイはそっと私に視線を合わせる。
ルイ:聞いて沐沐
ルイ:……今なら、この城を出られるかもしれない

(えっ……)

城を出られるという言葉に、私の鼓動がざわめく。

(だけど……)

私は大きく首を振る。

(私は、ルイを助けたい)

沐沐:城の人たちにルイの出自について説明して
沐沐:きっと分かってくれるから
そう話すと、ルイは真剣な眼差しを向けた。
ルイ:城内にはきちんと説明をする。けど…
ルイ:先に沐沐を元の世界に帰す
決意をひめた声に、私の胸は大きく揺れる。

(…でも、そうしたらルイと離れ離れになってしまう)
(私の気持ちは……)

〝ルイ:俺のことが怖い?〞

〝ルイ:昨日は急にあんなことしてごめん〞

〝ルイ:不思議だけど…君のこと、大切にしたい〞

ルイの真剣な瞳を正面から見つめ返し、
ルイの手に自分の手を重ねる。

(私から触れるのは初めてかもしれない…)

ルイ:沐沐…
驚くルイに、私は微笑みかけた。
沐沐:私は、ルイと一緒にいたい
心からの気持ちを伝えると、ルイの瞳が大きく揺れる。
ルイ:俺といることが、どういうことか分かってるの?
それが意味するのは、ヴァンパイアになることだ。

(…ルイが心配するのも分かる。でも…)

私は緊張しながらも、微笑んでみせた。
沐沐:うん
ルイ:……分かった
ルイは静かに呟き、私の首筋に唇を寄せて…―

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第三話-スウィート(Sweet END):

ルイ:……分かった
ルイの唇が、首筋に寄せられ……
沐沐:……ぁ、っ…‥…
鋭い痛みが駆け抜け、顔を歪ませる。

(…前に、ルイに噛まれた時と同じ感覚……)

ゆっくりと眠りを誘う何かが身体に広がり、意識が遠のいていく。
ルイが顔をあげ、切なそうに瞳を揺らした。
ルイ:……ごめんね

(ルイ……?)

意識が遠のく私の耳には、ルイの声が分からない。

(何て言ったの……?)

ルイの顔がぼやけ、私は完全に意識をなくした…―

***

沐沐を胸に抱くルイの耳に、塔を上る足音が響いてくる。
ジル:…ハワード卿、これは……
入ってきたジルが、目を細めた。
ルイ:眠らせただけ
ルイ:沐沐を城下へ帰す
ジル:しかしそうなれば、ハワード卿もこの城から追放されます
ジルの言葉に、ルイは眠る沐沐をじっと見つめた。
ルイ:…俺がここを去るのが城にとっても1番良い

***

沐沐:ん…
何かに横たえさせられた感覚に、私は身じろぎして、目を開く。

(私の、部屋…?どうして……)
(っ…、ルイは……?)

意識を手離す前の記憶が蘇り、ベッドから跳ね起きる。
ぎしっと音がして、ドアの前にいた人影が立ち止まった。
沐沐:ルイ…?
呟くように言うと、ルイがゆっくりと振り返る。
ルイ:………
ひと目姿を見てしまうと、もう気持ちは溢れて止まらなかった。

(ルイの側にいたい…。もうこの気持ちは消せない…)

沐沐:行かないで
ルイ:君を幸せにしたいから、このままここで暮らした方が良い
沐沐:でも…私はルイと一緒にいたい…
私の言葉にルイは眉を寄せ、そっと歩み寄った。
ルイ:人間とヴァンパイアは住む世界が違う
優しく、諭すように言うルイに、私は首を振る。

(住む世界が違う…そのことを1番知っていて、)
(どうにもできないと分かっているのは、きっとルイだ)
(だけど……)

沐沐:ルイがどこかに行くなら、私も行くよ
ルイ:沐沐……
ルイは切なげに呟くだけで、首を縦に振ってくれない。

(どうしたら分かってくれるの?)

瞳から溢れる涙を堪えきれない私を、ルイは静かに抱き寄せて…―
ルイ:きっと…また会える
その切なげな声音に、ルイが別れを決意していると分かった。
沐沐:ルイ…
そう呟く唇のそばに、口づけが落ちる。
押し当てられたルイの唇を、私の涙のしずくが濡らした。
ルイ:愛してるよ沐沐
涙で瞳を濡らしたまま見上げると、優しい眼差しが絡んだ。
ルイ:…この気持ちはずっと変わらない
ルイの腕が解け、離れていく。
その指先を追いかけるけれど、すっと背を向けてルイは出ていってしまう。
沐沐:ルイ……っ

(私も、ルイのことを愛してる…)

私は涙を零し、閉まる扉を見つめた…―

***

そして、月日は流れ…―
私は隣町からの帰りに、ふと夜空を見上げていた。

(明るいと思ったら、今夜は満月だったんだ。綺麗だな…)

ルイと別れた、あの夜以来の満月の光が、胸を切なく軋ませる。

(ルイ……)

そっと俯きながら、歩き出そうとしたその時…
???:沐沐…
覚えのある声に導かれて、正面を向く。
ルイ:………
沐沐:ルイ……

(どうして……?)

見つめるルイの姿が、じわりと涙で滲んでいく。
別れた日から、どんなに森を探しても、
ルイもあの城も見つけることは出来なかった。
ルイ:…満月が導く
沐沐:え…?
ルイが呟き、ふっと微笑んだ。
ルイ:ヴァンパイアの世界と人間の世界…
ルイ:それが繋がる唯一の日が満月の夜だから
ルイ:でも…本当に会えると思わなかった
満月の光を映した、ルイの透明なブルーの瞳が揺れる。
ルイ:…元気そうで良かった
そう微笑むルイに、私は駆け寄り…その身体をぎゅっと抱き締める。
沐沐:会いたかった…っ
ルイ:沐沐は変わらないね
ルイ:まっすぐ、気持ちを伝えてくれる
少し照れたように目元を染め、ルイが私を腕の中に包み込んだ。
ルイ:…俺も会いたかった
耳元に落ちる優しい囁きが、胸を幸せで満たしていく。

(ルイと一緒にいたい)

変わらない気持ちを、私は心の中で噛みしめる。
ルイ:また…こうして会いに来てもいい?
ルイ:…満月の夜しか会えないけど
ルイは私をヴァンパイアにしてはくれなかった。
これからも、もしかしたらそれは叶わないかもしれない。

(けど、それでもいい…)

沐沐:私もルイに会いたい…

(…ルイのそばにいたい)
(そのことだけが私の願いだから…)

にっこりと微笑むと、ルイが私の頬を両手で包んで上を向かせる。
ルイ:…沐沐……
囁く吐息が唇に触れ、そのまま深く重なる。
ルイの腕に抱かれ、私の頬を一筋の涙がつたった…―


fin.

 

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第三話-プレミア(Premiere END):

ルイ:……分かった
ルイは首筋に唇を寄せて……
沐沐:……ぁ、っ…‥…
ルイの冷たい唇が肌に触れて、鋭い感触が身体を駆け抜ける。
ルイ:…俺にしがみついてて
沐沐:…う、ん……ルイ…大丈夫だから…
ルイ:沐沐……ごめん

(謝らなくていいのに…)
(私は、ルイと同じになれて…)

自然と、嬉しさがこみ上げ、
ルイの金色の髪に手を伸ばして、さらりと撫でた。
ルイ:………
葛藤するように眉を寄せたルイが、再び歯を突き立てる。

(ぁ……)

だんだんと指先から力が抜けていき、そのまま私は意識を失った。

***

目を閉じる沐沐を、ルイがベッドに横たわらせる。
その時、扉が開き…
ジル:ハワード卿…これは……?
ジルの瞳が驚きに見開かれた。
ルイ:ジル、官僚たちに伝えてくれる?
ルイ:俺のことちゃんと説明するって
ルイ:だから、その代わり…
ルイ:終わったら、沐沐を元の世界に戻す準備をする
続けて告げられたルイの言葉に、ジルは目を見開いた…―
ジル:…分かりました

***

城内の者が広間に集められ、ルイが前に進み出る。
ルイ:噂の通り、俺は純血じゃない
ざわめく周囲を見回し、ルイは言葉を重ねた。
ルイ:先代に連れて来られた、元は人間だ
ルイ:この城で古くからいる者は、もういない
ルイ:だから皆が知らなかったのも当然のことだ…
官僚1:…我々をだましていたのではないと、仰りたいのですか?
官僚2:先代の血を受け継いだ、城の主だと思っていたのに…
ルイ:城の主にふさわしくないと言うなら俺はこの城を出ていく
ルイの言葉に、官僚たちが息を呑んだ。
ルイ:だが、例え元は人間でも
ルイ:役目を受けたからには投げ出すことはしない
ルイ:必ず主として責務を全うする
毅然として告げるルイに、広間が静まりかえる。
やがて…―
ジル:……
ルイ:ジル……
拍手の音が響き、
やがて、官僚たちの中からも拍手があがり、ルイを包んだ。

***

沐沐:…ん……
城内の部屋で目を覚ました私に、誰かが近づいてくる気配がした。
ルイ:目が覚めた?
ルイに顔を覗き込まれ、目を瞬く。

(ルイに噛まれて……)

沐沐:私…ルイと同じになれたの?
記憶をたどりながら尋ねると、ルイの瞳がそっと伏せられた。
ルイ:できなかった

(え……?)

沐沐:どうして……
呟く声が掠れて、眉を寄せる。
悲しそうな顔をする私の頬に、ルイが手を滑らせた。
ルイ:俺の手、冷たいでしょ?
沐沐:うん…
ルイ:手だけじゃなくて、全身が冷たい…
ルイ:こんな身体に本当になりたいの?
そう苦しげに呟いたルイが、私に覆いかぶさる。
耳を唇でなぞられ、私は息を乱した。
沐沐:…ルイっ…
頬が熱くなり、身をよじる。
ルイ:沐沐はあったかいね
囁いたルイが私の上から身を起こす。
ルイ:これ以上はしないよ
ルイ:触れてると、欲しくなりそうだから…

(ルイはどうして、こんなことを…?)
(ルイの気持ちが分からないよ…)

ヴァンパイアにしてくれなかった悲しみと、煽られた熱が、身体の中でくすぶる。
沐沐:前に、ルイは言ってくれたよね…

〝ルイ:不思議だけど…君のこと、大切にしたい〞
〝ルイ:だから、絶対に元の世界に帰してあげる〞

(大切だから、元の世界に戻してあげるって…)

沐沐:ルイは私のことをどう思ってる…?
ルイ:それは…
言葉を詰まらせるルイを、私は思わず抱き締めていた。

(ルイが優しくて…迷っているなら…)

沐沐:ルイが欲しいならあげるよ…だから、私をルイと同じにして
そう告げると、ルイはぐっと私の手を掴んで自分から引きはがす。
ルイ:沐沐のことは…とても大事
ルイ:…だから帰った方がいい

(え…?)

ルイ:婚礼の儀式を1日待ってもらった
ルイは私をまだヴァンパイアにしていないことを理由に、
例外的に挙式を待ってもらったのだと教えてくれた。
ルイ:元の世界に帰るなら今日しかない
ルイ:よく考えて
ルイはそう説得するように言って、私の手に手を重ねる。

(どうすれば…ルイに伝わるんだろう)

沐沐:考えたよ…この城に来てからルイのことばかり考えてた…
泣きそうに震える声で伝えると、ルイの瞳が切なげに揺れた。
ルイ:沐沐…

(ルイと一緒にいたい…)

沐沐:ヴァンパイアにして。ルイと同じなら怖くない
はっきりと告げると、ルイは一度、目を伏せ、私を見つめた。
ルイ:…沐沐は強いね
囁く声が近づき、ゆっくりとベッドに押し倒される。
ルイ:いいの?
その言葉は、重く、深く心に沈んでいく。

(後悔しないよ…)

沐沐:うん……
頷くと、ルイがぽつりと呟いた。
ルイ:…俺も、沐沐と生きていきたい
沐沐:ルイ…
髪が寄せられ、あらわになった首筋に優しく唇が押し当てられ…―
沐沐:あ、……っ……
甘い感触に声をあげると、ルイが吐息を零した。
ルイ:…沐沐の全部が好きだから
ルイ:人間の沐沐のことも覚えておきたい

(…いつもより…身体が熱い気がする)

やがてドレスの胸元を乱され、素肌に口づけが降る。
ルイ:…痛くないようにする
沐沐:ぁっ、ルイ……っ…―
次第に熱くなる私の体温で、ルイの唇も熱を帯び…
高まっていく甘い熱にうかされながら、私はルイを受け入れた…―

***

そうして、城内では婚礼が執り行われることになり…―
きらびやかな広間で、ルイと口づけを交わし、顔を見合わせる。
ルイ:もう離さないよ
沐沐:うん…
沐沐:離さないで、ルイ
純白のウエディングドレスをまとい、私は微笑んだ…―。

***

まだ終わらない婚礼パーティーのざわめきを聞きながら、
私の肌を夜風が撫でていく。
けれど、冷たさは少しも感じられなかった。

(まだ実感は湧かないけど…本当にヴァンパイアになったんだ)

ルイ:沐沐
名前を呼ばれ、見上げると口づけが落ちてくる。
応えるように、私もルイの背中に手を回した。
唇を離したルイが、微笑みながら囁く。
ルイ:…今まで知らなかった
ルイ:大切な人を愛するってこんなに幸せなんだね
その言葉に、私の胸にじんわりと喜びが満ちていく。

(もしかしたら、私は出逢った時から…)
(ルイのこんな笑顔を見たいと思っていたのかもしれない)

沐沐:ルイ…一緒にいようね
ずっと変わらない、そう思える気持ちをルイに伝えると、また抱き寄せられる。
ルイ:愛してる…
沐沐:私も…
永遠の愛を誓い、輝く月の下で、私たちは口づけを交わした…―


fin.

 

53483

ルイと永遠の愛を誓い合ったあなたに贈るのは……
目眩のするような甘い夜…―
…………
………
ルイ:我慢しないで。可愛いから聞きたい
声を抑えようとするあなたの首筋に、ルイの唇が寄せられて…
ルイ:沐沐の身体、あったかい
ルイ:愛してる……
首筋に走る痛みが甘い痺れへと変わっていくとき…―
あなたは、今まで感じたことのない甘い夜に溺れていくはず…―

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    小澤亞緣(吉琳)

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