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Twilight Tears-ヴァンパイアと永遠の口づけ-

ヴァンパイアとの切ない恋の行方とは…?

 

プロローグ:

丸く輝く月が、真っ黒な雨雲に覆い隠されていくある日の夜…―
私は降りしきる雨で、薄暗さが増した森の中を足早に駆けていた。
弱々しかった雨も次第に大ぶりになり、足元がぬかるみ始める。

(こんなに雨がひどくなるなんて…)

早く抜けようと、木々の生い茂る道を駆けていくと、
突然視界が開け…

(何…このお城……)

見たこともない城がそびえ立っていた。
急に現れたかのようなその城に、私は思わず後ずさってしまう。

(でも…)

雨の勢いは弱まることなく、徐々に身体が冷えていくのを感じる。

(少し怖いけど…どこかで雨宿りしないと)

私は、怖さで高鳴る鼓動を抑えながら、重厚な扉を押し開けた。
中に入ると、軋むような音を立て、後ろで扉が閉まる。

(ここは……)

瞬きをした、その瞬間…―
ロウソクの明かりが次々と灯されていき、
階段の上では、4人の男性が私を静かに見つめていた。
???:……(*ルイ)
???:……(*ジル)
???:……(*レオ)
???:……(*アルバート)

(この人たちは……?)

目を見開いていると、銀色の髪をした男性が私へと近付いてくる。
???:へえ、プリンセスが今頃になって現れるなんてね
吉琳:プリンセス…?
???:聞いたことない? ヴァンパイアの話
ヴァンパイアという言葉に、私はふと絵本のことを思い出した。
吉琳:ヴァンパイア城に迷い込んだ女性は…
吉琳:…城の主となるヴァンパイアを指名する
吉琳:でも…そんなことがまさか……
信じられない気持ちで立ち尽くしていると、上から澄んだ威厳のある声が響いた。
???:そのまさかですよ。ただし…ひとつだけ違うことがあります
男性の赤い瞳がすっと細められる。
???:プリンセスが長年現れなかったため、すでに主は決まっています
???:その場合、迷い込んだプリンセスは…
???:城の主の『婚約者』となります

(えっ…)

瞳を瞬かせる私に、男性は続けて言葉を紡ぐ。
???:その主とは…―
雨音が一層強くなり、窓を激しく叩いた…―

 

吉琳ちゃんは誰との物語を過ごしたいのかな?

>>>ジル

 

50744

第一話:

激しい雨音が響く中…―
紫色の髪の男性が、私を見下ろす。
???:城の主は…私、ジル.クリストフです
瞳をはっとさせ、私は男性を見つめた。

(今の話だと……)
(私はこの人と結婚を……?)

あまりに突然の出来事に、心が追いつかない。

(そんな…急に……)

戸惑っていると、ジルと名乗った男性がすっと私へ手を差し伸べた。
ジル:詳しく説明させていただきますので
ジル:…着いて来てください

(少し、怖いけど……)

どうすることも出来ない状況に、私はこくりと頷いた。

***

ジルは私を部屋に案内すると、
城の掟は絶対であり、この城から一生出られないことを説明してくれた。
吉琳:じゃあ、私がもう街に戻ることは出来な…
そう尋ねかけた時、
それまで静かな眼差しで話を聞いてくれていたジルの表情が変わる。
ジル:………

(どうしたんだろう…?)

吉琳:あの……
首を傾げた、その時…―
ジル:…静かにしてください

(あっ…)

突然腕を捕まれ、ふわりとベットの上に押し倒された。
大きな手のひらが、私の両手首をシーツの上に押し付ける。
吉琳:ジ、ジルっ……?
妖艶な瞳が、すっと細められた。
ジル:まだお分かりじゃないようですね
吉琳:え…?
私の腕を押さえるジルの手に力がこもる。
ジル:………
端正な顔立ちが迫り、ジルの唇が首筋に触れた。
吉琳:やっ…
ぞわりとした感覚が背筋を震わせ、私は身をよじって抵抗する。
しかし、ジルは感情の読めない声で囁く。
ジル:大人しくしないと、痛みますよ
次の瞬間…―
吉琳:ん…ぁ……
鋭い牙が肌を貫いたのが分かるのに、痛みより熱い痺れが走る。
次第に力が抜けていき、抵抗を続けられなくなる。

(どうして、こんな……)

同時に熱い痺れも大きくなっていき、私の意識は薄れていった…―。

***

吉琳の力が抜けていくのを感じると、
ジルは顔をあげ、口元を拭った。
ジル:………
その視線を、部屋の扉の方へと向ける。
そして、静かな声で呼びかけた。
ジル:…入って来ていいですよ
ジルが声をかけると、扉がそっと開く。
部屋の中に入って来たのは、レオだった。
レオ:俺がここへ来た時には、扉の周りに官僚たちがいたよ
レオ:2人の様子をうかがってたみたいだった
レオの言葉を聞いて、ジルは小さなため息をつく。
ジル:…でしょうね。ですから、無理矢理寝かしつけました
レオ:怖がってた?
ジル:ええ。ですが、あの状況ではこれしか方法がありませんでしたから
レオは壁に寄りかかると、
ジルへ向けていた視線を吉琳へ向ける。
レオ:この子、心の準備はできそうだった?
ジル:今は、まだ…少し時間がかかるかもしれませんね
レオ:そう。でも、ちゃんとプリンセスの役目を受け入れてもらわないと
レオ:結果的に、この子が苦しむ事になる
ジル:…ええ
ジルは頷くと、再び眠り続ける吉琳の顔を見つめた…―。

***

その翌日…―。
目を覚ました私は、不安な気持ちで部屋の中を見回した。

(ここは…昨日の部屋……)
(あの出来事は夢じゃなかったの…?)

恐怖に、思わず身がすくむ。
その時、扉がノックされた。
ジル:プリンセス

(あ……)

部屋に入ってきたのは、ジルだった。
姿を見た途端、傷が疼き、私は思わず首筋に手を触れる。

(どうしよう…怖い…)

今度は何をされるのかと身構えていると、
ジルはベッドの側に立ち、ふっと息をついた。
ジル:…昨日は、驚かせてしまいましたね

(え…)

見つめてくるジルの瞳は、昨日の強引さと打って変わり、
穏やかで理知的だった。
吉琳:はい……
戸惑いながらも頷くと、ジルが改まった様子で口を開く。
ジル:今日は貴女にお話があって来ました
ジル:…昨日、何故私が貴女を襲ったのか
それからジルの聞かせてくれた話に、私は瞳を揺らす。
吉琳:…プリンセスになる意思のない、掟に従わない女性は…
ジル:この城に住む者であれば、好きに襲っていい事になっています
ジル:昨日、貴女の様子を見に部屋の前に官僚たちが来ていました
ジル:あのままでは、貴女が掟に従う気がないと判断されると思い…

(それで、私に噛みついて…)

ジルが止めてくれなければどうなっていたのかと思うと、怖くなる。
ジル:今後も、貴女が元の生活に戻りたいと思っている様子を見せれば
ジル:どうなるか分かりません
ジルが、私のことを考えてくれていることは伝わってくる。

(だけど…)

帰りたいという気持ちを簡単に消すことはできず、
私はぎゅっとシーツを掴んだ。
ジル:………
俯いていると、私の頬にそっとジルの指が触れる。
はっとして顔を上げると、優しい眼差しが私を見つめていた。
ジル:私たちは建前上、婚約者となっている間柄です
ジル:ですから、しばらくの間…
ジルは一度言葉を切ると、
眼差しに負けないほど優しい手つきで、私の頬をそっと撫でた。
ジル:私が貴女の側にいて、守りますよ
吉琳:え…?
ジル:貴女はまだ、私を婚約者だとは認めていないでしょう
ジル:ですから、側近…教育係とでも思ってくれていれば結構です
そう告げるジルの口元には、
私を安心させるような笑みが浮かんでいる。

(だけど……)

吉琳:そこまでして頂いて、いいんでしょうか…?
ジル:貴女は、我々の掟に巻き込まれただけですから
ジル:…私の前でだけは、弱さを見せてください

(ジル…)

この城に来てから抱え続けていた不安が、ふっと解けた気がした。
吉琳:…ありがとうございます
胸がいっぱいになり、自然と涙がこぼれる。
ジル:…ええ
ジルは目を細めると、包み込むように抱きしめてくれた…―。

***

それから、月日が流れ…―。
私も城での生活に慣れ始め、穏やかな日々を送っていた。
ジル:プリンセス
ジル:今度は、右足のステップが違っていますよ

 

50745

第二話:

ジル:プリンセス
ジル:今度は、右足のステップが違っていますよ
吉琳:すみません……
ジルは私に、プリンセスとして必要な事を幾つも教えてくれ、
ダンスもその中の一つだった。
ジル:力を抜いて、私の動きに任せてください
ジルの手が私の身体を引き寄せ、ぐっと距離が縮まる。

(力を抜いてって言われてるのに…)

胸がドキドキして、つい力が入ってしまう。
ジル:……顔を赤くして、どうしたのですか
からかうような眼差しに見つめられ、私の頬はかあっと熱を持つ。
ジル:もしかして…
ジル:…私に言えないようなことを想像しましたか?
吉琳:か、からかわないでくださいっ……
更に顔を赤くする私を見て、ジルがふっと笑う。

(ジルといると、どきどきが止まらない……)

私は視線を逸らすと、ジルのエスコートに合わせ、ステップを踏んだ。

***

やがてレッスンを終えた私は、
バルコニーに向かい、夜風で火照った頬を冷やした。

(ダンスレッスンもそうだったけれど…)

ジルのことを想うと、トクンと鼓動が波打つ。

(私…ジルのことがどんどん気になっているみたい…)

〝ジル:貴女はまだ、私を婚約者だとはとても認められないでしょう〞
〝ジル:だから、側近…教育係とでも思ってくれていれば結構です〞

ジルはあの時の言葉通り、私の教育係の様に接してくれている。

(でも、私はジルのこと…)

自分の気持ちの答えを見つけかけた、その時…―。
足元に、一枚の手紙が落ちていることに気がついた。

(誰かの落し物…?)

拾い上げると、偶然、書かれていた一文が目に入る。

(これって…)

そこに書かれていたのは、
城に迷い込んだ女性が、外の世界に戻るための方法についてだった。

(この通りにすれば、戻れるの…?)

鼓動が、どんどん早まっていく。

(でも、どうしてそんな手紙がここに…)

私は瞳をはっとさせながらも、文章から目が離せないでいた…―

***

廊下を歩いているジルの前に、官僚たちが立ち塞がる。
官僚1:ジル様、失礼いたします
ジル:………
ジルはゆっくりと歩みを止め、官僚たちを見た。
すると、官僚たちのひとりが…―
官僚2:プリンセスのことで、大事なお話があります
官僚:プリンセスのことで、大事なお話があります
ジルは僅かに眉を寄せ、息をついた。
ジル:分かりました

***

官僚たちを執務室へ招き入れる。
ジル:…それで、お話というのは?
うながすと、部屋に入った官僚たちのひとりが口を開いた。
官僚1:プリンセスを試すつもりはなかったのですが、本心が知りたく
官僚1:わざと元の生活に戻る方法を気づかせるようにしました
ジル:…それで、何が言いたいのですか?
官僚1:明らかに、元の生活に戻ろうと…心が揺らいだ様子を見せました
官僚1:あの女性はプリンセスにふさわしくない
官僚たちが目配せをする。
そして…―
官僚2:よって私たちは決断致しました。明日より規定通りに…
官僚2:血に飢えた者たち全てに、あの女性を襲っていい権利を与えると
ジル:………
ジルは口をつぐんだまま、官僚たちに険しい眼差しを向けた。

***

バルコニーで火照りを冷ました後、
私は再びダンスホールへ向かっていた。

(あの手紙の内容……)

心に引っ掛かりを覚えながら、階段を降りていると…―。
吉琳:……!
誰かに手を取られ、強く抱き寄せられた。
はっとして振り返ると、ジルがこちらを見下ろしている。
吉琳:ジル…?
突然のことに驚いて目を瞬かせると、ジルが淡く微笑んだ。
ジル:…いいところで見つけられました
ジル:ここなら、誰も来ませんからね

(あれ…?)

私を見るジルの瞳が、かすかに悲しげに見える。
吉琳:どうか…しましたか?
ジルの方へ向き直ると、ジルが私の頬にそっと触れる。
ジル:いえ。ただ、貴女に聞きたいことがあるだけです
吉琳:聞きたいこと…?
ジル:ええ。吉琳、貴方は…
ジル:元の生活へ、戻りたいですか?
私の心が揺れるように、ざわめく。
吉琳:それは……
ジルの問いかけに、すぐに答えることができなかった。
元の生活に戻る方法を知ってから、揺らいでる自分がいる。

(この気持ちは一体……)

ためらっていると、ジルが重ねて告げてくる。
ジル:ここは、私以外誰もいません
ジル:貴女の本心を聞かせてください
真剣な眼差しに問いかけられ、私はまつ毛を伏せる。

(素直に…答えたほうがいいよね)

吉琳:…元の生活に戻りたいと思う事はあります
ジル:……そうですか

(この気持ちは嘘じゃない。だけど…)

私はかすかに伏せられたジルの瞳を見つめ返すと、
意を決して口を開いた。
吉琳:ですが、それ以上に…

〝ジル:城の主は…私、ジル.クリストフです〞

〝ジル:私が貴女の側にいて、守りますよ〞
〝ジル:…私の前でだけは、弱さを見せてください〞

言葉にしながら、ジルと過ごした日々が蘇ってきた。

(私は、いつの間にかジルのことを…)

胸を満たす想いを、私はそっとジルに伝える。
吉琳:…ジルのことが、好きです
ジル:………
想いを伝えると、ジルは一瞬だけ目を見開いた。
しかし次の瞬間、ふっと息をつき、私の背を抱く腕に力を込める。
ジル:…馬鹿ですね
ジル:これが、街へ戻るための最後の機会かもしれませんよ
吉琳:はい……
吉琳:それでも、ジルの側にいたいです…

(未練がないといえば嘘になる)
(それでも、このままジルと離ればなれになることに比べたら…)

決意を込めて赤い瞳を見つめると、ジルがふっと唇をほころばせた。
ジル:でしたら…答えは早いですね
ジルの手のひらが私の髪に差し込まれ、
冷たい指がうなじに触れる。
ジル:…私も貴女を愛していますよ、吉琳
甘い囁きとともに、首筋にジルの顔が近づいてきて…―。

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第三話-スウィート(Sweet END):

ジル:…私も貴女を愛していますよ、吉琳
甘い囁きとともに、首筋にジルの顔が近づいてきて…―

(あっ…)

牙が立てられ、あの甘く痺れるような感覚が全身に走る。

(前は怖くて仕方が無かったけど…)
(これで、ジルとずっと一緒にいられるなら…)

怖くない、そう思った。
ジル:……
吉琳:ジ、ル…
徐々に遠ざかる意識の中、そっと愛しい人の名前を呼ぶ。
すると…―。
ジル:…本当に、愛しています。吉琳
ジル:ですから、貴女とはこれが最後です

(え…?)

ジル:…側にいなくても、いつまでも貴女の幸せを祈っていますよ
吉琳:…ジ……っ

(どういうこと…?)

それ以上、口にすることはできない。
私は遠のく意識をつなぎ止められず、ジルの胸に倒れこんだ。

***

ジル:………
気を失った吉琳の身体を、ジルは強く抱きしめる。
離れがたく寄り添う二人の側を、冷たい夜風が吹き抜けていった。

***

(ん……)

目を開くと、懐かしい部屋の中にいた。
開けっ放しになった窓から夜風が入り込み、カーテンが揺れている。
吉琳:…ここは

(痛っ…)

身を起こすと、首筋の傷がずきりと痛んだ。
その瞬間、ジルとのことが思い出されて、私の視界が滲む。
(ジルは私を、元の世界に戻してくれたんだ…)
これがジルの優しさだと分かると、ますます切なくなった。

(でも……)

揺れるカーテンに、私は少しの希望を抱く。

(まだ、城に戻ったばかりかもしれない…)

私はふらつく身体を支えながら、
扉へ向かって歩きだした。

***

その頃、ヴァンパイア城では…―
レオ:本当に、これで良かったの?
吉琳を送り届けてきたジルは、レオにそう問われていた。
ジル:…何がですか?
レオ:プリンセスを逃がしたものはこの城から追放される
レオ:まだプリンセスを家に帰したばっかりだし…今なら引き返せるよ
ジル:………
レオの言葉に、ジルはふっと唇をほころばせる。
ジル:そうですね。以前の私なら、きっとそうしていたでしょう
ジル:…ですが、吉琳にだけは特別な気持ちを抱いてしまいました
レオ:ジル…
レオはジルを見つめ、眉を寄せる。
しかしジルは微笑を浮かべたまま、背を向けた。
ジル:では
ジルはそう言い残し、ゆっくりと階段を下っていった。

***

(やっぱりここにあった…)

家を飛び出した私は森を探し歩き、城を探しだした。
門に手を触れると、軋む音と共に僅かに開かれる。

(……入ろう)

門を力いっぱい押し、中へと入る。
レオ:あれ…吉琳ちゃん?

(あ…)

城の中に入った私の前に現れたのは、レオだった。
レオ:驚いたな…一人で来たの?
吉琳:実は…ジルに逢いたくて
吉琳:どこにいるか知りませんか?
私は焦りを抑えきれず、レオに尋ねる。
すると、レオの表情が曇った。
レオ:残念だけど…もうジルはここにいないよ
吉琳:え?
レオ:プリンセスを逃がした者は、城を追放される掟なんだ
レオ:だから、ジルも…

(そんな…)

吉琳:ジルが城を発ったのはいつですか?
レオ:ちょっと前かな

(それなら…まだ間に合うかもしれない)

吉琳:ありがとうございます…!
私はレオにお礼を告げると、城の外へと駆け出した。

***

それから私はジルを探し、必死に森の中を走り回った。

〝ジル:…本当に、愛しています。吉琳〞
〝ジル:ですから、貴女とはこれが最後です〞
〝ジル:…側にいなくても、いつまでも貴女の幸せを祈っていますよ〞

(こんなお別れ、寂しすぎる…)
(お願い、間に合って……)

そう祈った瞬間だった。
吉琳:あっ…
木の根に足を引っ掛け、転んでしまう。
積み重なった木の葉の上に倒れこんだ、その時…―。

(あっ……)

たくましい腕が腰元に回され、私はその人を見上げる。
ジル:貴女は……

(うそ……)

私を見下ろし、ジルが大きく目を見開いていた。
吉琳:ジル…
鼓動が高鳴り、私は瞳を瞬かせる。

(今すぐ伝えたいことがあるのに……)

溢れそうな気持ちを、言葉にしようとすると……
ジル:…馬鹿な人ですね
ジルが私の身体をぎゅっと抱きしめてくれる。

(また、会えた…)

再び巡り会えた嬉しさに胸をいっぱいにしながら、
私はジルの身体を強く抱きしめ返す。
たくましい腕から、私はジルを見上げる。
吉琳:馬鹿なのは、ジルの方です…
吉琳:どうして、一人で決めるんですか…?
ジル:………
何も言わないジルに、私は言葉を続ける。
吉琳:何があっても、私はジルの側にいたいって思っています
吉琳:…私も、一緒に連れて行ってください
ジル:…吉琳
私を見つめるジルの瞳が、かすかに揺れた。
ジル:まったく…貴女って人は
ジル:城にも戻れない私と添い遂げる覚悟はあるのですか
吉琳:…はい
吉琳:最初から、私はジルと一緒にいることが一番の望みでしたから

(やっと、伝えられた…)

秘めていた想いを伝えられた嬉しさに、自然と頬が緩む。
ジルはそんな私を見て、ふっと唇をほころばせた。
ジル:……知りませんよ
身をかがめたジルが、距離を詰めてくる。
首筋に冷たい唇が触れ、牙を立てられる痛みが走った。
吉琳:…んっ……
それも、すぐに熱い痺れに変わる。
声がこぼれるのを抑えきれずジルにすがり付くと、指を絡められた。
ジル:…貴女を、本物のヴァンパイアにしますよ
ジル:もう、永遠に離しません

(ジルっ…)

切ない疼きは、どんどん大きくなっていく。
ジル:貴女を愛しています…心から
吉琳:ぁっ……
肌に、ジルの吐息が触れる。
私はぎゅっとジルの指を握り返し、再び祈った。

(この先も、ずっと…)
(ジルの側にいられますように…)

閉じた瞼から、一筋の涙がこぼれる。
その雫をジルの唇がすくいとってくれるのを感じながら、
私は満たされたまま、目を閉じた…―。


fin.

 

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第三話-プレミア(Premiere END):

ジル:…私も貴女を愛していますよ、吉琳
甘い囁きとともに、首筋にジルの顔が近づいてきて…―
吉琳:…ん……
ジルの唇が触れた後、鋭い牙が立てられた。
一瞬の痛みの後、熱い痺れが広がり、全身から力が抜けていく。

(これで、ずっと一緒にいられるんだ……)

吉琳:ジルっ……
ジル:………
名前を呼ぶと、ジルは私の身体をきつく抱き寄せてくれる。
そのたくましい腕に抱かれ、私はそっと目を閉じた…―。

***

ジルは、意識を手放した吉琳を横抱きにし、
集まった官僚たちの元へ向かった。
官僚1:ジル様……?
吉琳を抱いて現れたジルを、官僚たちは怪訝そうに見つめる。
ジルはそんな彼らをちらりと見やると、宣言をした。
ジル:貴方達は、吉琳をプリンセスにふさわしくないと判断しましたね
ジル:ですから…、私がもらうことにいたしました
官僚2:なっ…!?
官僚たちに動揺が広がる。
ジルはふっと目を細め、腕の中で眠る吉琳へ視線を落とした。
ジル:これから、吉琳は私だけのものです
ジル:誰であろうと、襲うことは許しませんよ
ジルがにっこりと微笑み、そう告げると、
官僚たちは誰一人反論しようとせず、押し黙っていた。

***

(ん……)

目を覚ますと、ずきんと首筋の傷が痛んだ。

(確か、ジルに…)

まだかすかな熱の残る傷跡に手を当てると、
穏やかな声に呼びかけられる。
???:吉琳ちゃん

(あ…)

吉琳:レオ…
見ると、ちょうどレオが部屋に入ってきたところだった。
レオ:傷が深かったから、少し心配で
レオ:まだ安静にしてたほうがいいよ
吉琳:はい…
頷きながらも、どうしても気になることがあった。
吉琳:…私、ちゃんとヴァンパイアになれたのかな…?
尋ねると、レオはかすかに表情を曇らせる。
レオ:それは…
レオ:正直に言うと、なってない
吉琳:え…?
レオ:ジルはたぶん、吉琳ちゃんを想って
レオ:ヴァンパイアにできなかったんじゃないかな?

(そんな…)
(それじゃあ、ジルとずっと一緒にいることができなくなる…)

吉琳:…ジルは、今どこにいるの?
レオ:ん? 部屋だと思うけど…
吉琳:ありがとう
私はレオにお礼を言うと、ベッドから降りた。

(少し、痛むけど……)

レオ:吉琳ちゃんっ…
レオの横を通り抜け、私は扉へと向かう。

***

ジルの部屋の扉は、かすかに開いていた。
吉琳:ジルっ…
ジル:…吉琳?
呼びかけると、ジルが驚きを浮かべたまま招き入れてくれる。
ジル:今、ちょうど貴女の部屋へ行こうとしていたところです
ジル:起き上がって大丈夫ですか? まだ顔色が…
吉琳:レオから…
吉琳:私はまだ、ヴァンパイアになれていないって聞きました
ジルの言葉を遮るようにして、そう告げた。
ジル:………
ジルは一瞬、表情を曇らせる。
しかし、すぐに真剣な眼差しを私に向けた。
ジル:ヴァンパイアになれば、もう二度と元の生活には戻れない
ジル:貴女から、その可能性を奪ってしまうのは…
吉琳:…もう、戻れなくてもいいんです
ジル:…え?
きっぱりと口にすると、ジルはかすかに目を見開いた。
吉琳:私を…ずっと、ジルの側にいさせてください

(これが、私の正直な気持ち…)

鼓動を早めながら、ジルの答えを待つ。
すると、ジルの冷たい手のひらが私の頬へ触れた。
ジル:では、私からも改めて言わせてください
ジル:…愛していますよ、吉琳

(ジル…)

ジルが身をかがめ、距離が近づく。
初めて唇が重なると、血を吸われる時とは違う、
切ない痺れが背筋を走った。
吉琳:…ん…ジル…
ジル:吉琳…
ジル:永遠に、私の側にいてください
何度も重ねられる口づけに、私の身体は追い込まれていき……

(あっ……)

2人の身体はもつれあうようにして、ベッドへ倒れ込んだ。

***

やがて、迎えた……
幾千もの星が瞬く、ある夜…―
私はジルと正式に結婚することになり、パーティーが開かれた。
レオ:おめでとう、吉琳ちゃん
ルイ:…おめでとう
アルバート:おめでとうございます、プリンセス
吉琳:ありがとうございます…
みんながくれる祝福の言葉に応えていると…―
ジル:アルバート、吉琳はもうプリンセスではありませんよ
ジル:私の妻にはなりましたので
吉琳:ジルっ……
微笑を浮かべたジルがやって来て、そっと私の腰元を抱く。
アルバート:そうでした…つい、これまでの癖で
ルイ:…俺も時々、吉琳をプリンセスって呼びそうになる
レオ:分かるな。吉琳ちゃんって可愛いから
レオ:プリンセスじゃなくなっても、プリンセスって感じがするんだよね
吉琳:え…
レオの言葉に目を丸くすると、ジルがくすっと声をこぼして笑った。
ジル:ええ、だからプリンセスの座は降りてもらうことにしたんですよ
ジル:私だけのものにしたかったので
吉琳:……!
ジルの囁きに、頬が一気に熱を持った。
その時、優雅なワルツの演奏が始まる。
レオ:いいタイミングだね
レオ:仲睦まじい新郎新婦のファーストダンスがみたいな
ジル:望むところです
ジルは浮かべていた笑みを一層深くすると、
私に向かい、優雅な一礼をした。
ジル:一緒に踊っていただけますか?
ジル:私の、プリンセス

(ジル…)

吉琳:はい…喜んで
頷くと、ジルの大きな手が差し出された。
その手を取ると、優しく引き寄せられ、
みんなに見守られる中ダンスが始まる。
ジル:この曲なら、貴女も得意でしょう
吉琳:…ジルが教えてくだいましたから
ジル:貴女が一生懸命練習したからですよ
ジルは楽しげにそう囁くと、不意に距離を詰めてきた。

(あ…)

間近に迫った端正な顔立ちに鼓動が早まるけど、
何とか間違えずにダンスを続ける。
ジル:…随分、上手になりましたね
吉琳:もうっ…
自分の顔が赤くなっているのは分かるけど、
真っ直ぐに見つめてくるジルの瞳から逃れられない。
ジル:不思議ですね…
吉琳:え…?
ジル:出逢った時から貴女に抱く気持ちが変わりません。きっと…
ジル:私は初めから貴女に、恋をしていたのかもしれません
そう口にした次の瞬間、
ジルは身をかがめ、かすめとるように私の唇を塞いだ。
吉琳:ジ、ジルっ……

(みんなの前なのに…)

レオ:わー、衝撃的
ルイ:…見てられない
突然の口づけに目を瞬かせると、
吐息の触れそうな距離のまま、ジルがにっこりと微笑む。
ジル:これは、誓いのキスです
ジル:この先ずっと…
ジル:貴女を愛し続けますよ
甘い囁きとともに、再びジルの唇が重なった。
その口づけは、先ほどのキスより、深く、優しくて、
私は幸せにとろけそうになりながら、それを受け止めていた…―。


fin.

 

53482

ジルと永遠の愛を誓い合ったあなたに贈るのは……
目眩のするような甘い夜…―
…………
………
ジル:…まだ足りないという顔ですね
ジル:私に噛まれるのが、好きなのですか?
ジルの瞳が妖艶に細められ、あなたの首筋に唇が触れて…
ジル:こんなにも愛したのは、貴女が初めてです
首筋に走る痛みが甘い痺れへと変わっていくとき…―
あなたは、今まで感じたことのない甘い夜に溺れていくはず…―

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    創作者介紹
    創作者 小澤亞緣(吉琳) 的頭像
    小澤亞緣(吉琳)

    ♔亞緣腐宅窩♔

    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()