新版王宮 2周年活動-読み放題ページがOPEN

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Royal 2nd Anniversary

【期間限定】4/10(日)0:00~4/23(土)23:59

2周年の特別企画!!

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『1st 初めて君を見つけた日』プロローグ・カイン・ノア・アラン

『願いが叶う白い花』ルイ・シド・ロベール

『Touch Touch My Darling』カイン・アラン・クロード

『赤ずきんガチャ』ノア・アラン

『Secret Heart~禁断の恋の蜜~』プロローグ・ノア・ルイ・ゼノ

『リゾートシリーズ 触れ合う素肌』カイン・ノア・アラン

『願いが叶う白い花』ゼノ・ジル・アルバート

『いつもと違うキスをして in Paris』カイン・ルイ・クロード

『おとぎ話シリーズ 塔の上のプリンセス』ノア・アラン・ゼノ

『願いが叶う白い花』アラン・クロード・レオ・ユーリ

『赤ずきんガチャ』ゼノ・レオ

『Pretty Bedroom』カイン・ノア・ルイ

『Secret Heart~禁断の恋の蜜~』カイン・アラン・クロード・レオ

『1st 初めて君を見つけた日』ルイ・クロード・ゼノ

 

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2015年4月に開催していた『初めて君を見つけた日』のプロローグ・カイン・ノア・アランのシナリオが読めちゃうよ☆

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プロローグのストーリーを読む

――…ウィスタリアの空を無数の星が彩る夜
…………
吉琳:…ちょっとユーリ!急にどうしたの?
ユーリ:いいからいいから、ほらこっちだよ
新調されたばかりのドレス、
そしてガラスの靴を履いて私はユーリに手を引かれて廊下を急ぐ。

(…今夜何かあるなんて、ジルから聞いてないけど)

考えていると、ユーリが足を止めてダンスホールへと続く扉に手をかけた。
ユーリ:さ、吉琳様。……この先で、皆が待ってるよ
吉琳:え…
扉が開いて背中を押され、足を踏み出すと……

(……嘘)

カイン:…おい、いつまで待たせんだ
アラン:先輩、今日は吉琳に優しくしてって言ったはずですけど
そこには礼服姿で立つ、カインとアランの姿があった。
吉琳:…どうしたの?二人共その格好
クロード:吉琳、俺たちがいることも忘れるなよ
ゼノ:…ああ。だが、お前は思った通りの反応をするな
吉琳:クロード…それにゼノ様
目の前の光景に、ただ呆気にとられていると……
ノア:吉琳、今日は何の日か覚えてないのー?
吉琳:今日…?
ルイ:…君が、プリンセスになってからちょうど1年が経つ日だよ
その言葉に、ハッとするとその場にいる全員の顔が優しくなった。
カイン:だから…礼としてパーティーを計画してやった
カイン:…って、お前、なに泣きそうになってんだよ
吉琳:だって…
アラン:あーあ、先輩が怖いからですよ
カイン:…あ?アラン、もう一度言ってみろ
ノア:今夜だけは言い争い禁止ー
クロード:ノアの言う通りだな、今夜はせっかくのパーティーだろ?
ゼノ:だが、このいつも通りの光景が吉琳が大切に思っているもののような気がしているが
ゼノ様の言葉に頷くと、ルイが優しく微笑んだ。
ルイ:プリンセス…それじゃ、パーティーを始めようか
皆が顔を見合わせて、シャンパングラスを手に取っていく。

(……いつも通りの光景だけど)
(この景色が私にとって、失いたくない大切な宝物だよ)

滲んだ視界で、ゆっくりと重ねてきた毎日を思い返しながら微笑んだその時……
そっと他の人から見えない角度で手を繋がれた…――

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カインのストーリーを読む

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――…吉琳がガラスの靴を履いてから1年が経った日
…………

(…あいつどこ行った?)

招待客も集まり始め、賑やかになってきたパーティー会場で、
主役の吉琳の姿だけが見当たらない。

(俺様の許可なくいなくなりやがって、…ったく仕方ねえな)

ダンスホールを抜けて、廊下に出ると……

***

そこには小さな子供を抱き上げている吉琳の姿があった。
吉琳:もう大丈夫だからね。すぐにお母さん見つけられるよ

(…主役のくせに、何してんだか)
親とはぐれてしまった子どもに一生懸命話しかける姿に笑みをこぼしながら、
ふと過去の記憶がよみがえる。

(…吉琳に初めて逢った時と、同じ光景だ)

――…その日はノアと国外での公務を終えてウィスタリアに戻る日だった

〝窓の外に広がる景色を眺めていたその時、ファーストクラスの機内に声が響く。〞
〝吉琳:あの…!すみません…!〞

〝(…うるせえな、機内で大声上げるんじゃねえ)〞

〝カイン:…………ちっ〞
〝吉琳:ん?〞
〝吉琳:ちょっと、なに今の…!〞
〝舌打ちをして視線を上げると、そこには少しだけ苛立ったような表情で、〞
〝子どもを抱いて立っている吉琳の姿があった。〞

〝(…何でこの女、こんなに真っ直ぐ見つめてくるんだ?)〞

〝サングラスを外すと、吉琳の大きな瞳と視線がぶつかった。〞
〝カイン:さっきからうるせえな…それに、言い返してくるなんて〞
〝カイン:お前、俺を誰だと思ってる〞
〝吉琳:………はい?〞

(…今、思い出しても最悪な出逢いでしかねえ)

あの時の自分は常にどこか不機嫌で、傲慢な態度ばかり取って人を困らせていた。
王位継承者としてこうあるべきだと育てられ、その態度はいつしか人を遠ざけていった。

(人が離れていくことが怖い…だから冷たく当たってそいつを試してたとか…ガキだよな)

だけど、吉琳はそんな心まで見透かすように、自分に向き合ってくれた。

(あいつだけは、初めて逢った時から…俺から逃げないで真っ直ぐに向かってきた)
(……何度、怒鳴りあったかわからねえけど)

それは今も変わらないけれど、出逢った頃からは確実に変わった気持ちを抱えながら、
吉琳の元へと歩き出す。
吉琳:カイン!
カイン:…お前は無駄な労力、使いすぎなんだよ。そんなんじゃいつまで経っても見つからねえだろ
カイン:貸せ、俺様が探してやる
子どもに腕を伸ばして、肩車をして吉琳に笑みを向ける。

(…あの時、結局ノアが子供を肩車して吉琳を助けた)

あれから出逢った瞬間を思い出すたびに少しだけ後悔していた。
今なら自分が真っ先にこうして助けるのに、そう思っていた。

(…だから今、嬉しいだなんてお前は知らなくていいけど)

カイン:よし、それじゃ行くぞ。おい、ちゃんと掴まってろよ
子ども:うん…!

***

吉琳:ありがとう、カイン
子どもの親を無事に見つけて、ダンスホールへと戻るために階段を下りる。
カイン:ああ、まあ…見つかってよかったよな
吉琳:あのね、カイン
カイン:ん…?
吉琳:今、二人で親御さんを探しながら、初めて逢った時のことを思い出してたんだ
カイン:機内でお前がさっきみたいに子どもを探してた時だろ?
そう告げると、吉琳が階段の中央で足を止めて目を見開く。
吉琳:覚えてたの…?
カイン:あ?お前、何寝ぼけたこと言ってんだ
カイン:初対面から言い返してくる奴のこと忘れるわけねえだろうが
吉琳:だって、二度目に逢った時…カイン私のこと誰だって聞いてきたでしょ?

(……二度目?)

――…二度目に吉琳を見つけたのは、プリンセスセレモニーの瞬間だった

〝吉琳:あ…!〞

〝(あ…?)〞

〝螺旋階段から身を乗り出した吉琳と視線が重なったその時、〞
〝吉琳が絨毯に足を取られて、体勢を大きく崩した。〞
〝吉琳:……っ…―!〞
〝カイン:……!〞
〝吉琳:痛………くない〞

〝(……痛てえ)〞

〝カイン:…………〞
〝とっさに抱きとめたまま、目を開けると…そこには機内で見かけた吉琳の姿があった。〞

〝(……こいつ、あの機内の女!)〞

〝初めて視線が重なった瞬間と同じ真っ直ぐな瞳で見つめる吉琳に、〞
〝気づけば言葉が口を突いて出ていた。〞
〝カイン:…………ざけんな〞
〝吉琳:……え?〞
〝カイン:ふざけるな!それに誰だ、お前〞
〝吉琳:ごめ…っ…〞
〝カイン:…ったく、名乗りもしねえ、謝りもしねえ〞

(…どうして、俺はあの時とっさに覚えてないふりをした?)

目を伏せて考えていると、吉琳が呆れたように言う。
吉琳:やっぱり、覚えてたんだ
吉琳:それじゃ、どうして知らないふりなんかしたの?
カイン:………わかんねえ
吉琳:………え?
考えながら階段を下りて行くと、吉琳の声が後ろから聞こえてくる。
吉琳:ねえ、ちょっとカイン!聞いてるのに…
カイン:だからわかんねえって言ってんだよ!
振り返ると、階段の中央で自分を見つめる吉琳と視線がぶつかった。

(ああ…そうか)

その瞬間に、ずっと答えが出なかった問いに、答えが出た。

(…二度目に視線が重なった時は、もう知りたいと思ってた)
(誰だお前、そう聞いてお前が名前を言うのを待ってた)
(…っ…今さら、お前のことを知りたいと思った瞬間に気づくとか馬鹿かよ)

この恋は間違いばかりだ。
最初の印象はきっと最悪で、二度目の出逢いは名前一つだってまともに聞けなかった。

(……けど、俺にとってこの恋が何より大切なんだよ)

最悪で始まった恋なら、最高で塗り替えていけばいい。
そう、強く想う。
カイン:理由なんてねえ。いいから黙って、とっとと下りて来い
吉琳:…なにそれ
吉琳がまた呆れたように笑い足を踏み出したその瞬間……
カイン:…――!
吉琳の体勢が大きく崩れて、慌てて腕を広げて抱き留める。

(……っ…)

抱き留めたまま、二人で床に倒れ込む。
ダンスホールにいた人たちの視線が一斉に自分たちに向けられるのがわかる。
吉琳:…ごめん
カイン:お前…何度同じことしたら気が済むんだ
吉琳:だけど、いつも受け止めてくれるね。さすがカイン

(…何だ、ソレ)

腕の中で可笑しそうに笑う吉琳を見て、思わずつられて笑みがこぼれる。

(…ほんとめんどくせえ奴)
(だけど、こうしてお前を抱き留めるのは俺様だけの役目だ)

カイン:受け止めるに決まってんだろ。お前、俺を誰だと思ってる
わざとえらそうに笑うと、吉琳がさらりとした口調で言う。
吉琳:私の恋人…でしょ?

(…っ…)

予想外の答えに、胸が大きく高鳴る。
カイン:…それじゃ、お前は俺の何なんだよ
吉琳:決まってるでしょ

(…?)

吉琳は満面の笑顔を浮かべ、床においた手をきゅっと繋いで言った。
吉琳:カインの恋人
目の前の笑顔から、目が離せない。

(…やっぱりお前は知らなくていい)
(こんな言葉一つで、俺がどれだけ嬉しくて…)
(最初から、お前に惹かれてたなんて)

伝え方が不器用で、いつだって気持ちの半分も伝えることはできない。

(だけどな、吉琳)
(俺はきっと誰よりも、お前を想ってる)

言葉の代わりに、繋がれた手を握り返すと、吉琳がまた優しく笑った…――

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ノアのストーリーを読む

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――…吉琳がガラスの靴を履いてから1年が経ったことをお祝いする日
…………
ノア:吉琳が今日も可愛くて辛いです
カイン:…そーかよ
ノア:それに出逢って1年だって、嬉しいです
カイン:それ本人に言えばいいだろうが

(そーなんだけど、囲まれてる吉琳が幸せそうだから)
(もうちょっとだけ我慢)

自分だけ独りじめするのも好きだけど、
皆の輪の中心で笑う吉琳を眺めているのも好きだ。
カイン:あいつ、誰からも好かれる奴だよな
カイン:まあ、最初っからあのお人好しは変わらねえからか
ノア:最初?
カイン:ほら、飛行機の中で初めて吉琳と逢っただろ
カイン:あいつ子どもの親を探してただろうが

(そう言えば…俺、カインに呼ばれて吉琳と出逢ったんだっけ)

〝カイン:貸せ、このグズ。おい、ノア〞
〝ノア:また喧嘩でもした?〞
〝カイン:してねえ。このちっこいの担げ〞
〝ノア:ふーん〞

〝(…この人を肩車すればいーのかな)〞

〝吉琳に手を差し出すと、目が見開かれた。〞
〝吉琳:あの…私じゃなくて!〞
〝カイン:こっちの子どもの親、捜してやれってことだろうが。……ったく〞
〝ノア:あーもっとちっこいほうか、ちゃんと聞いてなかった〞

あの時、何にも興味がなかったと思う。
――…人にも、そして自分にも。

(……けど)

頑丈に掛けた心の鍵を、吉琳が一生懸命に開けてくれた。
鍵が開いた瞬間、今までモノクロだった景色が鮮やかな色に染まって、世界が動き始めた。
その瞬間、ふと疑問が湧く。

(…吉琳は俺といて、何か変わったのかな)
(なんか、俺ばっかもらってるみたい…)

吉琳にまた視線を向けると……

(あ…)

ノア:カイン、そろそろ吉琳をお迎えに行ってくるー
カイン:あ?
ノア:吉琳、少し疲れてきたみたい。…で、ついでに連れ出してくる
カイン:わかったよ、後は上手くやっておいてやる
カインに笑みを向けて、吉琳に近づくと視線が重なる。
吉琳:ノア…!
ノア:しっ。…吉琳、今から俺と抜け出さない…?

***

吉琳:ノア…少しスピード落として!
ノア:吉琳がぎゅーってしてくれるの期待して、少し速くしています
吉琳:もう…
吉琳を自転車の後ろに乗せて、夜の道を走り抜けていく。
夜の風を頬に感じながら、1年前を思い返す。

(…実は、あの話には続きがある)

――…機内で迷子になった子どもを親御さんに会わせると、その子が言った

〝子供:大きいお兄ちゃん〞
〝ノア:んー〞
〝子供:お兄ちゃんが持ち上げてくれたから景色が変わってね〞
〝ノア:うん〞
〝子供:…だから、お母さんを見つけられた!ありがとう〞

あの時は何も思わなかったのに、今、その言葉の意味がわかる。

(景色が変わるって、それだけすごいことなんだ)

あの子が逢いたい人に逢えたように、ずっと閉じ込めていた自分に出逢えた。

(…そして、吉琳に恋をした)

景色を変えてくれた吉琳に、伝えたい言葉がたくさんあるはずなのに、
上手い言葉が見つからなくてもどかしい。

(…ありがとう以上の言葉があればいいのに)

***

ノア:はーい、到着ー
自転車で辿りついた先は、まるで空の色をさらったみたいな色をした海だった。
吉琳は自転車から降りると、海に駆け寄って笑う。
吉琳:ノア、夜の海って綺麗だね。…連れて来てくれてありがとう
ノア:どーいたしまして
吉琳の笑顔に、また景色が鮮やかに色づく。

(…なにげない瞬間に好きだと想う)

だからこそ、吉琳にもらった以上のものを返したいと想う。
吉琳のそばまで近づいて、腰を抱き寄せ……
吉琳:ノア…!?
吉琳を自分の目線よりも上まで抱き上げた。
ノア:吉琳、…景色変わった?
吉琳:…? うん、地平線の向こうまで見えそうだよ
ノア:そーじゃなくて…

(…どうして、こういう時…言葉にならないんだろ)
(俺は…吉琳に、何かをあげることができてる?)

それでも口からこぼれたのは、ひどく拙い言葉だった。
ノア:俺といて、……よかった?
吉琳:…………
吉琳はハッとした表情を浮かべて……
ノア:わ…!
小さな手で髪をわしゃわしゃとかき混ぜてくる。
ノア:吉琳ーやめてー
吉琳:……ノア

(…?)

せわしなく動いていた手が止まって、真剣な声が頭の上か落ちる。
吉琳:ノアと出逢ってなかったら、…今の私はいないよ
ノア:え…
吉琳:ノアといると楽しい。ノアといると、嬉しい。けど…
吉琳:今、少しだけ悲しくなったよ
吉琳の大きな瞳が、自分を真っ直ぐに捉える。

(吉琳…?)

吉琳:一緒にいてよかったかなんて聞かないで
吉琳:…答えなんて決まってるでしょ?
吉琳が、ひどく優しい表情で笑った。
吉琳:私には、ノアじゃなきゃだめだよ

(ああ…そっか)

きっとお互いが、同じ気持ちで相手を必要としている。
そう、胸の深い部分で気づいた。
ノア:…うん
ダンスホールで見た姿より、今、目の前にいる吉琳の方がずっとずっと綺麗で、
少しだけ困る。
ノア:吉琳、…ずっと一緒にいよう
ノア:俺に、吉琳を世界で一番幸せな女の子にさせて

(ただ、一緒にいて。…愛させて)
(…色んな景色を、吉琳にあげるから)

吉琳が頷いた瞬間、抱いている腕をぎゅっと強くすると、
まるで幸せを抱きしめているみたいに心が満たされていく。
世界で一番愛おしい人に、この気持ちが伝わるようにそっとキスをした…――

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アランのストーリーを読む

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――…吉琳がプリンセスになって1年が経つ日
…………

(…今夜は一段と賑やか)

ダンスホールからは招待客の楽しそうな声が響いている。
こんな格好をしているせいか、なんだか落ち着かなくて、一人扉に背を預け、
目を閉じようとしたその時……
吉琳:見つけた!
片側の扉が開いて、吉琳が顔を綻ばせる。

(…今日の主役がこんなとこで何してんだか)

普段はあまり使われない扉を見つめながら口を開く。
アラン:お前、何でこんなとこから入って来たんだ
そう純粋に尋ねると、吉琳が目を見開いてそれから可笑しそうに微笑む。
アラン:なに、どうしたの
吉琳:だってアラン、1年前に出逢った時と同じこと言うから

(ああ…そういうことかよ)

――…吉琳と出逢った日は、ガラスの靴でプリンセスを選ぶ日だった

〝アラン:……誰だ〞
〝吉琳:……え?〞
〝アラン:お前、何でこんなとこから入って来たんだ〞
〝吉琳:……っ…〞
〝アラン:…………顔、上げろよ〞
〝アラン:この国の奴じゃねえだろ〞
〝吉琳:え?どうして一目で…〞
〝アラン:見たことねえからな。それに…〞
〝アラン:挙動不審〞

(…懐かしい)

まだ楽しそうに微笑む吉琳の顔を覗き込んで、同じ言葉を口にする。
アラン:…………顔、上げろよ
吉琳:…っ…
アラン:だっけ?
吉琳:……よく覚えてるね
アラン:だってお前、いきなり迷い込んで来た変な奴だったし
吉琳:確かアラン、私のこと挙動不審とか言ってたよね
アラン:事実だろ
吉琳は少し拗ねたように視線を逸らす。
アラン:…で、さっきの質問の答えは?
吉琳:アランのこと、探してたんだよ
アラン:ん…?
吉琳:今夜は…プリンセスになって1年の日だけど
吉琳:アランと出逢った日でもあるから、少しでも長く……――
言いかけたその時…階下から吉琳を呼ぶ声がした。

(…少しでも、長くいたい)

続く言葉を心の中で唱えて、吉琳に笑顔を向ける。
アラン:行けよ
吉琳:うん…
後ろ髪を引かれるように歩き出した吉琳の手首をすれ違い様に掴んで、
耳に唇を寄せた。
アラン:…このパーティーが終わったら、下のダンスホールにいて
吉琳は一度だけ大きく頷くと、ガラスの靴を鳴らして歩き出す。
その心地よい音を聞きながら、また扉に背を預けて目を閉じて、
吉琳がプリンセスに選ばれてから交わした言葉を思い出していく。
――…自分が吉琳を守る役目だと告げると、笑顔を向けられた

〝吉琳:そっか。よろしくね、アラン〞

〝(…能天気な顔)〞

〝アラン:どーせすぐ逃げ出すだろ〞
〝吉琳:逃げ出さないよ、だって期間限定のプリンセスでしょ?〞
〝吉琳:こんな経験なかなかできないし〞
〝ガラスの靴を履いたばかりの吉琳は、右も左もわからない迷子のように見えた。〞

〝(こんなんじゃ、もって2、3日だろ)〞

〝アラン:へえ…じゃあ、賭けてやるよ〞
〝アラン:お前が逃げ出すほうに〞
〝吉琳:わかった。でも、私は絶対に逃げ出さないから!〞

(…あの時は、正直吉琳を守ることなんて仕事の一つでしかなくて)
(根を上げて逃げてもそれでいいと思った)
(けど…今はそんなこと言えない)

ゆっくり目を開けると、シャンデリアの光がやけに眩しくて眉を寄せた。

(…今、お前と賭けをするとしたら)

***

――…パーティーが終わり、月灯りが差し込む人気のないダンスホールを歩いて行く
アラン:…………
吉琳はダンスホールの中央に立って、窓から覗く月を見上げていた。
その凛とした佇まいに、思わず目を奪われる。

(…ほんと前じゃ考えられないくらい、プリンセスらしくなったよな)

吉琳:アラン…!
そんなことを考えていると、出逢った頃と変わらない笑顔が向けられる。

(変わった部分を見ると少しだけ嬉しいような、それでいて焦れたような気持ちになって…)
(変わらない部分にほっとするなんて、絶対言えないけど)

アラン:嬉しそうな顔
吉琳の前で足を止めて、見下ろすと大きな瞳が自分を捉えた。
吉琳:でも、どうしてここで待ってろって言ったの?
アラン:ん…
吉琳に手を差し出すと、不思議そうに瞳が揺れる。
アラン:お前と、踊ってなかったから
吉琳:踊ってくれるの…?
アラン:そう言ってるんだけど、…踊りたくないの?
吉琳は首を横に振ると、差し出した手をぎゅっと握った。
吉琳:踊って、アラン
アラン:了解
吉琳の手を繋ぎ直してゆっくりステップを踏んでいく。
月灯りに吉琳の髪が照らされて、不意に言葉が口からこぼれ落ちる。
アラン:お前、逃げだ出したいって思うこととかないの?
吉琳:え…?

(…プリンセスという立場の重さは知ってるつもりだから)

アラン:急に聞きたくなっただけ
答えを待っていると、吉琳がはっきりと口にした。
吉琳:……逃げないよ、私はプリンセスだから
アラン:…………
吉琳:それに…
吉琳:アランと出逢えたのに、ここから離れられるわけないよ
出逢った時以上に強くて、真っ直ぐな言葉に心の中で息を呑んだ。
そして、吉琳を見つけた日に自分が口にした言葉を思い出す。

――…へえ…じゃあ、賭けてやるよ。お前が逃げ出すほうに

(…あの時の賭けは、完全に俺の負け)
(それに…俺はもうお前を離せない)

アラン:なあ…もう一回賭けしない?
吉琳:賭け…?
アラン:お前がずっとプリンセスでいるか
吉琳:まだ信じてないの?私は…っ
言いかけた言葉を塞ぐように、手を引いて唇に顔を寄せる。
アラン:賭けてやるよ…
アラン:お前がずっとプリンセスでいる方に
吉琳が息を呑んだことがわかった。
吉琳:それじゃ、賭けにならない…
アラン:負けず嫌いだから、負けるの嫌なだけ
アラン:だから…そばにいろよ
吉琳が瞳を揺らしたその瞬間、唇をそっと重ねる。

(…なあ、あんまりうまく言えないけど)
(俺はこの先もずっとお前といたい)
(……お前に、恋したから)

こんな時間がずっと続くように、そう月灯りの下、心の中で強く願った…――

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2014年7月(Ameba、iPhone、Android)に開催していた『願いが叶う白い花』のルイ・シド・ロベール のシナリオが読めちゃうよ☆

2

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ルイのストーリーを読む

100065

――…時計台の針が、1日の終わりを告げようとする頃。

(…この本だけ返して、早く部屋に戻らないと)

深い夜と静けさに包まれた図書館に入り、歩いていると……

(あれ……?)

誰かが椅子に座っている姿が見えて近づいていく。
ブロンドの髪が月灯りに照らされて、そこにいるのがルイだと分かった。

(ルイ、寝てる?けど……)

腕を組んだまま、瞳を閉じてひどく辛そうな表情をしている。

(起こしたほうがいいよね?)

吉琳:…ルイ?
ルイ:……っ…!
ルイの瞳が開いて視線が重なると、ルイは深く息をついた。
吉琳:大丈夫?
ルイ:……ああ、考え事をしてたら
ルイ:少し…なつかしい夢を見ただけ
ルイはいつものように落ち着いた表情を浮かべると、口を開く。
ルイ:君は…こんな真夜中に何をしてるの?
吉琳:これを戻しに来たんだ
腕の中の本を見せて、振り返り本棚に戻そうとすると……
ルイ:…………
ルイが後ろから本を手に取って、そっと戻してくれた。
吉琳:ありがとう
ルイ:窓、開けたかっただけだから
近くにあった窓を開けると、図書館に風が流れ込んでいく。
風にルイの髪がさらわれて、不意に口から言葉がこぼれ落ちた。
吉琳:どんな夢を見てたの?
ルイ:……秘密

(どうして、ルイはたまに凄く辛そうな表情をするんだろう)

その表情から視線を外して、何かを埋めるように言葉を重ねていく。
吉琳:私が最近見た夢はね、ジルに怒られる夢
ルイ:……?
吉琳:私、夢の中でもずっと書類にサインしてたんだよ?
ルイは微かに目を細めると、暗い空を見上げて呟いた。
ルイ:君の夢の中なら、楽しそう
その瞬間、強い風がわっと舞って本棚から本が落ちてくる。

(……!)

ルイ:……っ
ルイの腕が私を抱き寄せて、本が音をたてて床に落ちていく。
吉琳:…大丈夫?
腕の中からルイを見上げると、端正な顔がすぐ近くにあった。
ルイ:大丈夫。…今夜は、君に大丈夫って聞かれる日みたいだ
そっと腕が離れていくと、ルイは屈んで本を拾い上げていく。
ルイ:…夜も遅い。もう戻ったほうがいい
なんだか背中が一人にして欲しそうに見えて、一度だけ頷いた。
吉琳:うん、おやすみルイ
背を向けて歩き出すと、窓から入ってくる風が頬を撫でる。
一瞬だけ振り返ると……
ルイ:…………
ルイは起きているのに、まるでまだ夢の中にいるような表情で本を見つめていた。

(……ルイが、もう怖い夢を見ないといい)

強く願うとその瞬間、12時の鐘が鳴り響く。
鐘の音が響く中、私はルイから背を向けて歩き出す。

***

ルイが風で落ちた一冊の本を拾い上げると、それは『願いが叶う花』の絵本だった。
一度だけ眉を寄せると、ぽつりと呟く。
ルイ:……まだ間に合うかな
ルイ:良い夢を、プリンセス
ルイの静かな願いは、12時の鐘が掻き消していった…――

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シドのストーリーを読む

100066

――…真夜中の12時に針が近づき、パーティーが終わる頃。

(……人に酔ったかも)

人の熱気を冷ますようにバルコニーに出ると、強い風が髪をさらう。
吉琳:あ…!
風に舞う花の髪飾りを視線で追いかけていくと……
???:プリンセスが夜中に一人なんて感心しねえな
???:襲ってくれって言ってるようなもんだ
聞いたことのない声が響いて、手摺りに手が掛けられ、
柵を軽々と乗り越えて目の前に体格の良い男の人が立っていた。

(この人は、誰…?)

警戒していると、そっと手首を引かれて指先に手が触れる。
???:大切なもんなら、離さねえで持ってろ
ゆっくり指先を開かれて、手のひらには落とした髪飾りが乗せられていた。
吉琳:これ……ありがとうございます
???:ああ、とっとと中、戻れよ。俺に襲われたいなら話は別だけどよ
私が目を見開くと、可笑しそうに笑ってその人は踵を返してしまう。
吉琳:待って、あなたの名前は?
???:教えねえ…と言いたいところだが
ふと足を止めたその人は、私の手の中の花の髪飾りを見つめた。
???:今夜は、願いが叶う日か
???:…一度しか言わねえ。俺の名は、シドだ
吉琳:シド…
吉琳:私は…
名前を伝える前に、その人は笑みだけを残し夜に消えてしまった。

***

暗い庭園を歩き不意に振り返ると、
吉琳がまだバルコニーにいる姿が見える。
シド:…また逢おうぜ、吉琳
不敵な笑みだけを残し、立ち去る足音だけが響いていった…――

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ロベールのストーリーを読む

100067

――…温かい空気に満たされた温室で私は深いため息をついた。

(…公務で、失敗しちゃったな)

ひとしきりロベールさんに話を聞いてもらうと、
私は顔を上げて願いごとを口にした。
吉琳:ロベールさん、何か元気になれるお茶を淹れてください
ロべール:それが願いごとでいいの?
大きく頷くと、優しい笑みが返ってくる。
高い天井を見上げていると、目の前にコトンとカップが置かれた。
ロベール:はい、どうぞ
吉琳:ありがとうございます
湯気に包まれて、紅茶に口をつけるとじんわりとした温かさが体を包んでいく。

(…美味しい)

ロベール:この紅茶はわざと傷をつけて作られてるんだ
吉琳:わざと…?
ロベール:そう、たくさん傷を作ったほうが美味しい紅茶になる
ふっと視線を上げると、ロベールさんの優しい声が落ちてきた。
ロベール:君が今抱えた傷は、絶対に無駄じゃないよ
ロべール:また落ち込んだら、これを何回でも淹れてあげるから

(…背中を押されてるみたい)

私はそっとカップを置くと、ロベールさんにもう一度お礼を伝える。
そして温かい温室を飛び出して、また走り出した。

***

遠くなる背中をロべールは微笑ましく見つめる。
ロベール:頑張れ、プリンセス
温かい温室に優しい声と、吉琳が走る足音が重なって響いた…――

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2015年3月(Ameba、iPhone、Android)に開催していた『Touch Touch My Darling』のカイン・アラン・クロード のシナリオが読めちゃうよ☆

100360

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カインのストーリーを読む

100369

――…風に春の気配が混じり始める頃
一緒に朝食を取るためにカインを待ちながら、私は小さく息をついた。

(触るって言っても……)
(カインベタベタされるのは嫌いみたいだし、もし触ったら…)

〝カイン:べたべた触ってんじゃねえ〞

(…とか言いそう)

その時、扉が開いてカインが食堂に入って来た。
吉琳:おはよう、カイン
カイン:ああ……ん?
隣の席まで来たカインが、ふと私に視線を止めて黙り込む。
吉琳:カイン?
カイン:お前…

(え…?)

カインの手が伸びてきて優しく頭を撫でられる。
カイン:髪跳ねてんぞ。ノアみてえだな
吉琳:あ、ありがとう
微かに笑みを浮かべながら離れていくカインの手を、ドキドキしながら見つめる。

(先に触られた…しかも、すごく自然に)
(どうしよう、触るってどうすればいいの?)

考えた末に私が提案したのは…――
吉琳:カ、カイン
カイン:なんだよ?
吉琳:腕相撲しよう!
カイン:…………は?

***

テーブルの上で手を組みながら、私たちはもう何度目かの勝負をしていた。
吉琳:も、もう一回
カイン:何回やっても変わんねえだろ

(触るのは成功したけど…これじゃドキドキしないよね)

視線を上げると、カインは涼しげな顔をしている。

(私はもう力が入らなくなってきたのに、カインはまだ余裕そうだな)
(細く見えるけど…やっぱり手の大きさも力の強さも全然違うんだ)

そう思うと、手を握っているのが急に恥ずかしくなってきた。
カイン:大体な……

(え……)

ふいに手首を掴まれて、カインに袖をまくられる。
吉琳:……っ
カイン:こんな細え腕で俺様と勝負しようってのが間違ってんだよ
吉琳:カインだって細いのに…
カイン:俺は男だからな、細いったってお前とは違えよ
手を離されても、カインに触れられた部分が熱かった。

(…私ばっかりドキドキして、悔しい)

カイン:クソ、無駄に騒いで熱くなった…
上着を脱ぐカインを見て、ある考えが浮かぶ。

(…そうだ)

カイン:おい、なんか飲むか?
吉琳:あっ、うん…! お願い
背を向けるカインに手を伸ばして、そっと背筋を指で辿ると……
カイン:――っ!?
吉琳:え?
大げさなほどカインの肩が揺れて目を見開く。
勢いよくカインが振り返った。
カイン:お前…!
吉琳:ご、ごめん。そんなにくすぐったがると思わなくて
カイン:…許さねえ
吉琳:あっ……
近づいたカインに腕を引かれて、突然抱きしめられる。
吉琳:っ、カイン?
カイン:――お前にも、同じことしてやる
吉琳:え? あ…っ
背中に回ったカインの手がゆっくりと首筋から腰までをなぞる。
くすぐったさに身をよじると、カインが微かに笑って鎖骨に唇を押しつけた。
吉琳:んっ……
唇の触れたところから甘い痺れが広がって、思わずカインにしがみつく。
カイン:…気づいてねえだろ
吉琳:…何に?
カイン:ここ触ると、お前いっつもくすぐったそうにすんだよ

(そんなの…)

吉琳:…自分じゃ気づかないよ
カイン:ああ、俺だけ知ってれば十分だ
カインはどこか嬉しそうに笑って体を離すと、私の顔を覗き込んだ。
カイン:で、なんで腕相撲とか言い出したんだよ
吉琳:…実はね――

***

ユーリから聞いた話をすると、カインは呆れた顔をした。
カイン:だからって普通、腕相撲しようとか言うか?
吉琳:…っ、とっさにそれしか思いつかなかったの!
カイン:お前らしいっつーか…馬鹿だな
吉琳:カインには言われたくないよ…
カイン:あ?
吉琳:何でもない
笑ってごまかすと、突然カインの指が鎖骨に触れた。
もったいぶるようにゆっくりと鎖骨をなぞられて体が震える。
吉琳:…カイン…っ
カイン:しょうがねえから…誘惑、されてやるよ
熱を帯びた瞳に見つめられて、胸の奥が甘く音を立てる。

(…これじゃ、どっちが誘惑してるのかわからない)

けれど近づく唇を拒否する気にはなれなくて、
触れる柔らかな感触を、私は笑みを浮かべながら受け止めた…――

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アランのストーリーを読む

100429

――…眩しい陽差しが窓辺を明るく照らす午後

(触るって言っても、どうしたらいいんだろう…)

悩みながら歩いて、答えが出ないままアランの部屋の前まで来てしまった。

(…でも、ここまで来たらアランに逢いたい)

微かな緊張を抱えながらノックをすると、すぐに返事があった。
アラン:待って、今開ける
部屋の中からくぐもった声がして扉が開くと……

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吉琳:っ…アラン
アラン:なに?
吉琳:なんで上、着てないの…!?
アラン:汗かいたからシャワー浴びてたんだよ
アラン:なあ、入んないの?
吉琳:…お邪魔します
促されて部屋に入ると、扉が閉まった途端……
吉琳:……っ
後ろから温もりに包まれて鼓動が大きく跳ねる。
吉琳:ア、アラン…!
100434
アラン:そんな恥ずかしがるようなこと?別に見るの初めてじゃないだろ
吉琳:初めてじゃないけど…慣れないよ
アラン:ふーん?
アランの声にはからかうような響きが含まれている。
頬の熱を感じながら後ろを振り向くと、額に水滴が落ちてきた。
吉琳:アラン、髪濡れてる
アラン:乾かそうとしたらお前が来たから

(あ…そうだ!)

吉琳:ねえ、髪乾かすの私にやらせてくれない?
アラン:いいけど
吉琳:……でも、その前に何か着て
肩をすくめながらアランが体を離してソファーの方に歩いて行く。
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アラン:残念。赤くなるお前、面白かったのに
吉琳:アラン!
可笑しそうに笑いながら、アランはソファーに置いていたシャツを羽織った。

***

100436
アラン:ん、くすぐったい
隣に座って髪を乾かしていると、アランは気持ち良さそうに目を細めた。

(アランの髪、柔らかい。それに…)
(シャンプーかな…いい匂いがする)

ドライヤーをかけていると時々、ふわりと爽やかな匂いがする。
吉琳:はい、終わったよ
アラン:ん
ドライヤーを片づけていると、アランがじっと見ていることに気づく。
吉琳:どうかした?
アラン:お前、何か用があって来たんじゃないの
アラン:髪乾かしに来たわけじゃないだろ?
吉琳:それは…

(…ごまかせる気がしないし、正直に話そう)

ユーリに言われたことを話すと、
アランは呆れた様子でソファーの背もたれに頬杖をついた。
アラン:バーカ
吉琳:言われると思った…
私もアランと視線を合わせるように、背もたれに頭を乗せる。
吉琳:ねえ、少しはドキドキした…?
アラン:あんまり
吉琳:そっか…
ため息をつくと、アランは首を傾けてにやっと笑った。
アラン:だから、もっと触ってみれば?
吉琳:…じゃあ――

***

アランにベッドに寝転がってもらい、私はマッサージをしていた。
吉琳:…アラン、どう?
100437
アラン:ん…気持ちよくて寝そう

(寝そうって…)

吉琳:それってドキドキはしてないってことだよね
アランの言葉に手を止めると、私の方を見るようにアランの首が動く。
アラン:もう終わり?
アラン:じゃ、交代
吉琳:え…、わっ…!
ふいに腕を掴まれて視界が大きく揺れる。
気がつくと、アランに上から見下ろされていて小さく胸が音を立てた。
吉琳:い、いいよ凝ってないから…
アラン:そう? ほら、こことか
吉琳:…っ…
首筋をアランの手がなぞって、思わず身をよじる。
アラン:動くとマッサージできないんだけど?
笑みを含んだ声で言いながら、指の後を辿るようにアランの唇が首筋に触れていく。
吉琳:それ、マッサージじゃな…
振り向こうとして、ふわりと爽やかな香りを感じた。

(あ、また……)
(…さっきも思ったけど)

吉琳:アラン、いい匂いする…
アラン:ただの石鹸の匂いだろ
アラン:俺より、お前の方がずっといい匂いするけど
吉琳:…んっ……
頬にアランの柔らかな髪があたって、耳の後ろに唇が柔らかく押し当てられる。
アラン:自分じゃ気づいてねえのかもしれないけど、いっつもいい匂いしてる…
アラン:なんか甘くて…好き
吉琳:アラン…
そっと唇が離されて、アランは柔らかく目を細めた。
アラン:別に触んなくても、誘惑ならこの香りだけで十分
吉琳:あ……
優しく抱きしめられて、またアランの香りが強くなる。
吉琳:ずっとこうしてたら同じ香りがするようになるのかな…
アラン:それも、いいかもな

(こうしてると、香りも体温も全部溶けあいそう)

香りと力強い腕の感触に、胸の奥が甘く疼く。
包まれる幸せに浸りながら、私はアランの背中にそっと腕を回した…――

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クロードのストーリーを読む

100438

――…涼やかな風が木々を揺らす午後
アトリエを訪ねると、ちょうど外から帰ったばかりのクロードがいた。
吉琳:クロード、帰ってたんだ
クロード:ああ、たった今な
ネクタイを緩めようとしているのを見て、ある考えがひらめく。

(…そうだ!)

吉琳:クロード、脱がせるの私にやらせてくれない?

(これなら自然に触れるよね…?)

クロード:…………

(……ん?)

吉琳:クロード? 急に黙り込んでどうし……
ふいにクロードが、肩を震わせて笑い始めた。
吉琳:えっ、なんで笑ってるの?
クロード:いや…自覚ないのか?
クロード:お前が急に大胆なこと言い出すから
吉琳:……っ
吉琳:別に変な意味で脱がせるのやらせてって言ったわけじゃなくて…!
慌てて弁解の言葉を口にすると、笑みを滲ませてクロードが近づいてくる。
目の前に止まると、微かに腕を広げた。
クロード:いいよ。ほら、脱がせてくれるんだろ?

(…余裕な顔でいられなくしたい)

心の中で小さく決意してクロードに手を伸ばす。
吉琳:…ちょっと屈んで
クロード:ああ

(まず帽子…)

手を伸ばしてそっとクロードの帽子を持ち上げる。
クロード:…………

(次はネクタイ…)

吉琳:……あれ?

(外れない…?)

ネクタイに苦戦していると、すっと骨ばった手が重なる。
クロード:こうするんだ
吉琳:…ありがとう

(クロードの手、大きいな…)
(なんだか、クロードを動揺させたいのに、私の方がドキドキしてるみたい)

上着とベストを脱がせてシャツ姿にすると、頭の上で小さく笑う気配がした。
クロード:なんか新婚の夫婦みたいだな
吉琳:えっ…!
思わず顔を上げると、クロードが楽しそうに目を細める。
クロード:で、次はどうするんだ?
吉琳:次って…?
クロード:もう終わりか?
吉琳:…っ、終わりだよ
クロード:そうか。じゃあ次は俺の番だな
吉琳:え? あ……っ
肩に置かれた手に優しく促されて、そばにあった椅子に腰かけてしまう。
吉琳:ちょっと、クロード……!?
抗議しようとした時、クロードの顔が近づいて息を呑む。
思わず顔を背けようとした時……
クロード:…目、逸らすな
吉琳:……え?
クロードの声にゆっくりと顔を戻すと……
吉琳:…っ……
クロードがひどく優しい眼差しをしていて、小さく鼓動が跳ねる。
クロード:俺は、お前が俺を見る時の目が好きなんだ
クロード:だから…逸らすな

(そういえば、クロードってよく私の目を覗き込んでるかも)

吉琳:私、どんな目でクロードのこと見てるの…?
ふっとクロードが目を細めながら微笑む。
クロード:お前がキスしてくれたら教えてもいい

(あ…)
(キスも触れることに入るよね…?)

吉琳:…わかった
はやる鼓動をドレスの裾を握って抑えて、私はクロードに顔を近づけていく。
吉琳:ん…
唇をわずかに触れさせて、すぐに離れようとすると……
クロード:…足りない
吉琳:…! んっ……
クロードの指が顎を捉えて、深く唇が重なる。
その時、クロードの言葉が頭に浮かんだ。

〝クロード:俺は、お前が俺を見る時の目が好きなんだ〞
〝クロード:だから…逸らすな〞

(あ……)

そっと唇が離れて視線がぶつかると、クロードは柔らかく目元を和ませた。
肩に手が触れて、クロードに優しく抱きしめられる。
クロード:約束したから教えるよ
クロード:お前が俺を見る時、お前の気持ちが伝わってくる
クロード:…俺が好きって、言ってる目だ
吉琳:そんなこと…

(ない……とは言えない)

首筋まで熱くて俯くと、笑いを含んだ声が耳に響く。
クロード:好きって言ったそばから逸らすのか?
吉琳:…そんなこと言われたら、見られないよ
クロード:でも否定はしないんだな

(だって……)

吉琳:クロードが好きなのは、本当だから
クロード:嬉しい言葉だ
体を離して、クロードが顔を覗き込む。
クロード:吉琳
クロード:俺の目には、どんな感情が浮かんでる?
吉琳:…わかんない
クロード:見てわからないなら……
クロード:この気持ちが伝わるまで、お前にキスしようか
椅子の軋む音がして再びクロードの顔が近づく。
視線が重なった瞬間、示し合わせたように互いの口元に笑みが浮かぶ。
笑みを刻んだまま、私たちはゆっくりと唇を重ね合わせた…――

078078222

2015年7月に開催していた『赤ずきんガチャ』のノア・アランのシナリオが読めちゃうよ☆

100505

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ノアのストーリーを読む

100508

――…雲がない夜空に、丸い月が浮かぶ夜

(こんな満月の夜はきっと…――)

月灯りに照らされた廊下を歩いて行くと、探していた姿を見つけた。
ノア:…………
ノアは淡い月の光の中、手元の本に視線を落としている。
こんな満月の夜は、月の灯りをたよりに本を読むことがノアのお気に入りだ。
吉琳:ノア
ノア:吉琳、こんな時間にどーしたの?
吉琳:今日は満月だから、ノアがどこかで本を読んでるんじゃないかと思って探してたんだ
ノア:俺の行動は、全部吉琳にお見通しだねー
二人並んで月を見上げると、さらに光が強くなった気がする。

(…こんな月を、一緒に見られてよかった)

それじゃ戻るね、そう言おうとすると、ノアが本を閉じて立ち上がった。
ノア:部屋まで送らせて

***

眠るまでそばにいてあげるー、そう言ってノアは私のベットサイドに座っている。

(一緒にいて欲しいけど…ノアといると眠るのがもったいないと思っちゃうな)

その時、ノアが私の枕元に置いてある狼のぬいぐるみに手を伸ばす。
ノア:なにこれー?
吉琳:前に城下で見かけた時に買ったんだ。目つきが悪くて可愛いでしょ?
ノア:…吉琳って、たまに変なもの好きだよねー
吉琳:変かな…?
ノアはじっと、狼を見つめたあとに、照れくさそうに視線を逸らした。
ノア:嘘…、なんかこの狼のぬいぐるみカインに似てたから嫉妬しただけ
ふいに溢された言葉と、少しだけ照れた横顔に思わず笑ってしまう。

(ほんと、愛しいな…)

ノア:そうだ、狼で思い出したけど狼男って、こんな満月の夜に変身するよねー
ノア:満月は人を狂わせる、なんて言われてるって何かで読んだかも
吉琳:どうして満月が人を狂わせるなんて言われてるんだろうね
ノア:そーだな、きっと綺麗すぎて心を奪われるからかもね
ノアは満月を見つめながら、穏やかに目を細める。
ノア:ほら、こんなに綺麗だと他のことが目に入らなくなるでしょ
吉琳:…なんとなくわかるな
ノア:んー?
吉琳:私もたまにノアのこと見かけると目で追いかけちゃって、いけないって思い直すの
吉琳:なんだかそれと似てるなって
ノア:……あんまり可愛いこと言わないでください
ぽつりと呟かれた言葉を聞いて、ノアに視線を向けたその瞬間……
吉琳:……っ…ノア
ドレスの肩を落とされて、ノアが柔らかく私の肩を噛んだ。
ノア:あー…、眠るのを見て戻ろうと思ってたのに、
ノア:俺が狼になりそー…
でもこれで我慢する、そう呟いて、ノアは私の体を抱きしめる。
重なった部分から、体温が重なって胸が甘く締めつけられる。

(……どうしてだろう)
(満月のせいかな…、それとも今夜が静かでノアの胸の音がよく聞こえるせいかな)

自分の感情に色んな言い訳をつけるけど、違うと思い直す。

(…私が、ノアに触れてたいんだ)

ノアの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめ返す。
吉琳:今日はまだ…一緒にいたい…
ノア:それどういう意味かわかってる…?
恥ずかしさを堪えながら頷くと、そっとベッドに押し倒される。

(……!)

ノア:……こういうの、送り狼って言うんだっけ
吉琳:え…
ノア:なんでもない
ノアの唇に笑みが滲んで、甘いキスが落とされる。
吉琳:ん……、…ぅ
キスを全身で受け止めていると、ノアの手が器用にドレスをおろして、
素肌が空気に触れた。
ノア:今夜は満月だから、吉琳のことがよく見える
ノアの指が肌を掠めて、びくっと体が跳ねる。
吉琳:ノア、恥ずかしいよ
ノア:…ダメ、足りない。もっと見せて
ノアは自分のシャツを落とすと、胸元にキスを落としていく。
その淡い感覚に、唇から熱い吐息がこぼれた。
吉琳:…っ…おかしく、なる
ノア:おかしくなってよ…
ノア:全部、満月のせいにしていいから
ノアは私の足を持ち上げると、眉を寄せて吐息をこぼす。
満月の夜、お互いの吐息だけを聞きながら私たちは体をきつく抱きしめあった。

***

――…肌を重ねたあと、吉琳はいつの間にか眠ってしまった
吉琳:ノア……
ノア:…?
うわごとで名前を呼ばれ、ベッドに投げ出していた手を幼い子供のようにきゅっと握られる。

100511
ノア:…っ…
ノアは目を見開くと、髪をくしゃっとかき乱して呟く。
ノア:満月より、吉琳の方が俺を狂わせるだなんて
ノア:……絶対、言えない
掴まれた手を繋ぎ直す。
重なった手を、窓から差し込む淡い月の光がいつまでも照らしていた…――

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アランのストーリーを読む

100509

――…欠けることのない満月が浮かぶ静かな夜

(…今夜はこんなに月が綺麗だよって、アランに教えたいな)

心まで奪われるような月の光から視線を逸らしたその時……
吉琳:あれって…――
窓の外を歩く姿を見つけて、私は思わず部屋からそっと抜け出した。

***

吉琳:アラン…!
アラン:吉琳…?
吉琳:やっぱり! 窓から人影が見えたからアランだと思ったんだ
吉琳:見回りをしてたの?
アラン:ああ、そうだけど…

(……?)

アランは私の顔をじっと見つめると、ため息をついた。
アラン:お前、こんなとこでなにしてんの
吉琳:…えっと、ほら今夜は満月だよってアランに教えたくて
アラン:それだけ…?
吉琳:………あとは
アランの真剣な瞳を見つめ返すと、自然と口から言葉がこぼれ落ちた。
吉琳:ただ、アランの顔が見たかったの
アラン:…………
吉琳:ほんとだ、月が綺麗だなって笑う顔、見れたらいいなって…
アランはぐっと眉を寄せると、私の手首を掴む。
吉琳:え…アラン?
アラン:…こっち

***

人気のない庭園まで来ると、壁に背を預ける形でアランが私を見下ろした。
アラン:なあ…俺はお前を守るために見回りしてんだけど
アラン:勝手に抜け出して、何かあったらどうすんの
夜に響く真剣な声に、ハッとする。

(そうだよね……ユーリにも言われてたのに)

吉琳:…ごめん、考えなしだった。すぐに戻るね
アラン:待って…
まるで囲うように、頭の横に手をつかれて唇に吐息が触れた。
吉琳:アラン…?
アラン:…もう二度と、抜け出せないよう
アラン:お前に覚えさせとく
顔を上げた瞬間、深く唇が重なっていく。
吉琳:ん……っ…
アラン:このまま、ずっとキスしてたほうがいい?
鼻先が触れる距離でアランがすっと目を細めた。
アラン:ここ、人気はないけどその分、声響くから

(声って……)

反論しようとすると、首筋にキスが落とされる。
吉琳:ん…ぅ…っ
アラン:やっぱ唇…、塞いどいたほうがよさそう
そのままドレスの胸元に手が差し込まれ、重なった唇から声がこぼれた。
吉琳:……んっ…

(……恥ずかしい)

微かな声でさえも、静かな夜に響いてしまう。
敏感な部分に触れられて、思わずアランの背中にぎゅっしがみつくと、
肩に額が預けられ、耳元で聞き慣れた声がした。
アラン:なあ…
アラン:こういうこと、他の男にされたらどうすんの
吉琳:アラン…
アラン:考えただけで、おかしくなんだけど
アラン:…だから、ちゃんと自分のこと守って、それで俺に守られてて
その言葉に胸の真ん中がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚える。
吉琳:うん……私も、アランにしかこうやって触られたくないし
吉琳:触らせない…約束する
そう告げると、アランと視線が重なり目の前の唇が可笑しそうに持ち上げられた。
アラン:俺なら触っていいわけ…?
吉琳:あ…
短く声を上げたその時……
騎士:アラン殿ー
遠くから、アランを呼ぶ声がする。
アラン:残念、時間ぎれ
アランは息をつくと、少しだけ乱れたワンピースを直してくれた。
アラン:部屋まで送ってく
吉琳:あ、うん…
アラン:それと……
アラン:見回りが終わったら、この続きしにいくから

***

――…そして数時間後、部屋の扉が開いて……
アランは私の部屋に入ると、そっとベッドに組み敷いて、
ワンピースに手をかける。
吉琳:アラン…っ
アラン:…綺麗だなって笑う顔、見たいんだろ?
アラン:お前の全部、見たいんだけど

(それ……)

〝吉琳:ただ、アランの顔が見たかったの〞
〝アラン:…………〞
〝吉琳:ほんとだ、月が綺麗だなって笑う顔、見れたらいいなって…〞

吉琳:……っ…それは月のことで!
アラン:知ってる。けど、俺はお前のが綺麗だと思う。それだけ

(そんな言い方するの、ずるい……)

アランはにやりと笑うと、シャツを落とす。
アラン:吉琳…
窓から差し込む月灯りの中、大好きな声で名前を呼ばれて、
アランから目が離せなくなってしまう。
アラン:………一番に守りたいのに、壊したいなんて変なの
息をするようにこぼされた言葉が、はっきりと胸に届く。

(……私も守られていたいのに)
(壊してほしいとも思う)

矛盾した感情に戸惑っていると、アランが鎖骨に唇を触れさせる。
アラン:お前の全部…食べさせて
いいよ、そういう代わりに背中にぎゅっと腕を回した瞬間、
甘い二人だけの時間の始まりを告げるようなキスが落とされた…――

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2015年5月に開催していた『Secret Heart ~禁断の恋の蜜~』のプロローグ・ノア・ルイ・ゼノのシナリオが読めちゃうよ☆

5

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プロローグのストーリーを読む

100589

――…風に乗って甘い花の香りが届く午後
私はクロードから受け取った綺麗な瓶を見つめた。
吉琳:これは香水…?
クロード:取引先からもらったんだ。これを女性から男性に贈るのが、城下で流行ってるらしい
吉琳:え、普通逆じゃないの…?
香水瓶から視線を外してクロードを見上げる。
クロード:女性から贈るのが流行っているのには、理由があってな
クロード:この香水をつけると、本音が隠せなくなるらしい
吉琳:本音が隠せなくなる…?
クロード:好きな人の心は、気になるものだろ?

(確かにそうだけど…)

吉琳:でも、香りをかぐだけで本当にそんな効果があるのかな?
クロード:本当かどうかは俺もわからない。けど…
クロードはにやりと口の端を持ち上げた。
クロード:試してみる価値はあるかもな

***

(本音を隠せなくなる香水か…)

窓からの陽差しを受けてきらめく香水瓶を見つめながら、
夜に彼と一緒に過ごす約束をしていることを思い出す。

(私もあの人に贈ってみようかな…?)

夜になり、部屋で彼が来るのを待っていると扉の開く音がした…――

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ノアのストーリーを読む

100590

――…澄んだ夜の空に丸く明るい月が輝く夜
ベッドに入ろうとした時、吉琳が楽しそうな顔で小さな瓶を差し出した。
ノア:可愛い瓶だねー、香水?
吉琳:うん。今、これを女性から好きな男性に贈るのが流行ってるんだって
そう言って、吉琳は香水の持つ効果について話した。

(吉琳がにこにこしてた理由は、これか)

ノア:へー、本音が隠せなくなる香水か。面白いね
ノア:…で、くれるってことは吉琳は俺の本音が聞きたいってことー?
吉琳:うん、すごく聞きたい

(こんな風に笑顔で言われたら断れないな)
(でも、本音か…)

ノア:使ってもいいけど…俺が何言っても、びっくりしない?
吉琳:びっくりしないよ。それに、ノアは隠してることとかなさそう
ノア:それはどーでしょう
笑みを浮かべて受け取った香水瓶の蓋を開ける。
手首につけてみると、ふわりと甘い香りが漂った。

(今のところ何も変わりないけど、これでほんとに本音が隠せなくなったのかな)

ノア:いいよー、何でも聞いてみて
吉琳:えっと、じゃあノアの身長は?
ノア:180センチ…って、そーじゃなくて
ノア:吉琳ー? 俺に聞きたい本音って、もっと違うことなんじゃない?
吉琳:…それは
吉琳は微かに頬を染めて目を逸らした。

(こういう顔見てると、ほんと…)

ノア:…抱きしめたくなる
するりとこぼれ落ちた言葉に目を見開く。

(…っ、今言葉が勝手に……)

吉琳:え、今何か言った?
ノア:…ううん、何でもないよー
吉琳:じゃあ、質問は…ノアが今思ってること、教えて

(…それは、今聞かれたら一番まずい質問)

口を開かないようにしようと思っても、勝手に口から言葉があふれ出す。
ノア:…抱きしめたい
ノア:キスして、吉琳に触れたい
吉琳:え…?

(なんだこれ…言葉が止まらない)

ノア:吉琳が好き…今すぐ吉琳を――抱きたい
吉琳:…っ、ノア…からかってるの?
顔を真っ赤にした吉琳の手首をそっと掴まえる。
ノア:俺の本音が聞きたいって言ったの、吉琳だよ…?
ノア:それとも、吉琳はもう降参なの?
吉琳:そ、そんなことない
顔を上げて平気そうな顔をする吉琳の体が、少しずつベッドの上を後ずさる。

(必死な吉琳は可愛いけど…)

ノア:そういう顔見てると…こうしたくなる
吉琳:あ…、んっ…
距離を詰めて吉琳の唇を塞ぎ、体を壁に押しつけた。
小さな口がこぼす甘い吐息すら飲み込むように、キスを深くしていく。

(…キスも必死で、可愛い)

唇を離すと、潤んだ瞳に睨むように見つめられた。
吉琳:ノア、今日意地悪だよ…
ノア:そう、ほんとの俺は結構意地悪なんです
ノア:でも、吉琳のこと大事にしたいから…いつもはこういう自分を抑えてるんだ

(こんな俺のこと、吉琳はどう思うんだろう)

背中に手を添えて、吉琳の瞳を覗き込む。
ノア:俺が怖い…?
吉琳は首を振って微笑んだ。
吉琳:怖くないし、抑えなくていいよ
ノア:…あんまそういうこと、言わないほうがいいよ
ノア:それとも、ほんとは俺にめちゃくちゃにされたい…?
ノア:…っ、ああもう、この口ほんと…
思わず悪態をつくと、こらえきれないといった様子で吉琳は笑い出した。
吉琳:確かに、最初はノアが言ったみたいにびっくりしたけど
吉琳:それも、ノアが心から思ってくれてることでしょ? それなら私は受け止めるだけだよ
ノア:え…
悪戯っぽい瞳で顔を覗き込んでいた吉琳が、ふわりと頬を綻ばせる。
吉琳:そんな覚悟、とっくの昔に出来てるんだから
優しい微笑みに、胸が甘く締めつけられるのがわかった。
ノア:…吉琳の愛って、大きいね
吉琳:今頃気づいたの?
肩の力が抜けて、吉琳の笑みにつられるように笑い出す。

(俺はまだ、吉琳のことわかってなかったのかも)
(この小さい体に包み込まれてるのは…)

ノア:…実は俺の方なのかも
不思議そうに視線を上げた吉琳に何でもないと笑うと視線が重なって、
月明かりの下でもう一度甘く唇を触れ合わせた…――

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ルイのストーリーを読む

100591

――…淡い月の光が窓から差し込む夜
仕事を終えて部屋に戻ると、吉琳に小さな瓶を渡された。
ルイ:これは…?

(香水瓶…? 綺麗)

吉琳:今これを女性から好きな男性に贈るのが流行ってるんだって
吉琳:ルイに受け取って欲しいんだけど…もらってくれる?
ルイ:嬉しいけど、本当に俺がもらっていいの?
吉琳:どうして?
ルイ:この瓶可愛いから、吉琳の方が似合うと思って
吉琳:でも、ルイが受け取ってくれたら嬉しいよ
ルイ:…ありがとう
自然と口が綻ぶのを感じながら、瓶の蓋に手をかける。
ルイ:開けてみてもいい?
吉琳:…っ、やっぱり待って
ルイ:吉琳?
蓋を開けようとした手に吉琳の手が重なって、首を傾げる。
吉琳:実は…その香水の香りをかぐと、本音が隠せなくなるって言われてるの
ルイ:え…
吉琳:ルイの隠れた気持ちを聞いてみたくて黙ってたんだけど
吉琳:やっぱりこういうの、良くないと思うから

(吉琳のこういうところ…すごく好き)

笑みを浮かべて、眉を下げた吉琳の顔を覗き込む。
ルイ:…ねえ、吉琳
ルイ:これ、やっぱり開けてもいい?
吉琳:え、でも…
重ねられていた吉琳の手をそっと握る。
ルイ:俺は、思ってることを素直に伝えるの…あんまり得意じゃないから
ルイ:これを使ったら、吉琳に素直に伝えられるかも
ルイ:ダメかな…?
吉琳:…ルイがいいなら、いいよ
吉琳:でも、開けてみるのは少しだけにして
ルイ:うん、わかった
瓶の蓋を開けると、甘い香りが漂う。

(普通の香水みたいだけど…)

手首にほんの少しつけてみるけれど、体に変わった様子はない。
吉琳:どう? 何か変わった感じはする?
吉琳の言葉に小さく首を振る。
ルイ:やっぱり、ただの香水なのかな
吉琳:そうかも
吉琳:ねえ、ルイに質問してみてもいい?
ルイ:うん
吉琳:ルイは私のこと、どう思ってる?

(俺は吉琳のことを…)

ルイ:…吉琳と一緒にいると、苦しくなる
吉琳:え…
ルイ:え……
驚いた声が吉琳の柔らかな声と重なる。

(今…勝手に言葉が出てきた)

ルイ:…っ、ごめん、今のは…
吉琳:あ…びっくりしたけど大丈夫だよ

(吉琳、きっと勘違いしてる)

ルイ:違う…聞いて
ぎこちない笑みを浮かべる吉琳に手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめる。
ルイ:…この香水の効果、本物かも
吉琳:え…?
ルイ:びっくりして途中で止まったけど…さっきの言葉、続きがあるよ
吉琳:続き…?

(吉琳に、いつも想ってること…ちゃんと伝えたい)

抱きしめる腕に力を込めて、胸の奥からあふれ出す言葉を紡いでいく。
ルイ:吉琳と一緒にいると苦しいのは…
ルイ:…君のことが好きだから

(こうして、想いを口にしている今も…)

ルイ:好きすぎて息ができなくなるくらい、胸が詰まるんだ
吉琳:ルイ…
そっと体を離して吉琳の顔を見つめて微笑む。
ルイ:でも、苦しくなるたび
ルイ:君が好きだって実感する
吉琳:…っ…
ルイ:だから、この苦しさも…大切にしたい

(いつもより、すんなり言葉が出て)
(胸の中でいっぱいになってる吉琳への気持ちが、あふれてくみたい)
(でも……)

ルイ:俺がこんな風になるのは、吉琳が相手……だから…

(ちょっと恥ずかしくなってきた、かも)

思わず言葉を止めて吉琳を見つめると……
ルイ:吉琳、顔真っ赤…
吉琳:…っ、ルイもだよ
同じくらい赤く染まった顔に、顔を見合わせて笑う。
ルイ:うん…素直に伝えられるの、嬉しかったけど
ルイ:言葉が止められなくて、恥ずかしくなってきた
吉琳:…それなら
吉琳が体を乗り出すと、微かにソファーが軋む音をたてて……
ルイ:…っ、吉琳
柔らかな感触が唇に触れて目を見開くと、吉琳は照れたように目を伏せた。
吉琳:キスしたら、言葉を止められるかなって…
吉琳:……私も少し、香水の香り吸い込んだのかも

(こういう吉琳見てると、また胸がぎゅってなる)

吉琳:ルイ…? んっ……
吉琳の頬に両手を添えて、頬にキスを落としながら、
ソファーに優しく体を倒していく。
ルイ:ねえ、吉琳…
吉琳:…っぁ……
押し当てた唇で首筋をたどりながら、吐息をこぼすようにささやいた。
ルイ:…もう一回俺の言葉、止めてくれる?
視線が重なって吉琳が小さく頷いたのを合図に、唇を寄せていく。
ふわりと甘い香りが漂う夜、
床に伸びた二人の影が、優しく溶けあうように重なった…――

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ゼノのストーリーを読む

100592

――…淡い月の光が窓から差し込む夜
ウィスタリアでの公務を終え、ベッドに座って話していた時、
吉琳がそっと小さな瓶を差し出した。
ゼノ:それは香水か…?
吉琳:はい。女性から男性へ贈るのが流行っているらしいんですが
吉琳:この香水の香りをかぐと、本音を隠せなくなるそうなんです
ゼノ:本音を隠せなくなる…?

(不思議なものがあるのだな)

吉琳:きっとただの噂だと思います。でも、もし本当なら…
吉琳:ゼノ様の心に近づけるかなと…そんなことを考えていました
ゼノ:俺の心に…?
吉琳:はい。私はいつだってゼノ様が何を思っているのか、知りたいんですよ?
そう言って吉琳はどこか照れたように笑う。

(本音を知りたい、か)

ゼノ:…本当にそんな効果があるのかはわからないが
ゼノ:お前が知りたいなら、試してみるか?
吉琳:え…
吉琳の手からそっと香水の瓶を取り上げ、蓋を開けて香水をつける。
吉琳:…っ、ゼノ様
ゼノ:…甘い香りがするな

(だが、特別おかしなものには思えない)

慌てて手を伸ばして吉琳は蓋を閉めた。
吉琳:…何ともありませんか?
ゼノ:ああ、大丈夫だ。何か質問でもしてみるか?
吉琳:ですが…
ゼノ:遠慮をする必要はない
言葉を重ねて促すと、微かに瞳を揺らしながら吉琳は口を開いた。
吉琳:…それなら
吉琳:ゼノ様は、アルバートさんのことをどう思っていますか?
ゼノ:アルか…最近きちんと休んでいるのか、気になっている
吉琳:確かに、休まれているアルバートさんは、あまり見たことがないかもしれません

(まず聞かれることがアルのこととは…)

ゼノ:…少し、妬けるな
吉琳:え?
呟くようにこぼれ出た言葉に、微かに目を見張る。

(もしかして今のが、香水の効果なのか…?)

ゼノ:いや…質問を続けてくれ
吉琳:はい。あの…
一度開きかけた口を閉じて吉琳は言葉を呑み込んだ。
吉琳:じゃあ、ユーリのことはどうですか?
ゼノ:ユーリは…ウィスタリアでアイドルと呼ばれていることを知った時は、驚いたな
吉琳:あ、それは私も同じです。初めて知った時は驚きました

(…吉琳?)

どこかぎこちなく笑う頬に、そっと手を伸ばす。
吉琳:ゼノ様?
ゼノ:お前が聞きたい質問は、他にあるんじゃないのか?
吉琳:え…
ゼノ:さっき、何か言葉にするのをためらっているように見えてな
ゼノ:本当に聞きたいことを尋ねてみろ
吉琳は目を見開くと、微かに苦笑した。
吉琳:香水を使わなくても、ゼノ様には私の心がわかってしまうんですね
頬に添えた手に手を重ねて吉琳は口を開いた。
吉琳:ゼノ様は…私のことをどう思っていますか…?

(これまでの質問はこれを聞くためのものだったのだな)

吉琳のことを想うと、自然と言葉がこぼれていく。
ゼノ:…ふとした瞬間に、お前のことを考える
ゼノ:逢えない間どんなことを思い、何をしているのか
ゼノ:姿を見て、声を聞きたくなる…恋しい相手だ
吉琳:…っ

(言葉にすると、こんなに強く想っていることを…)
(何の迷いもなく心が吉琳に向かっていることを、実感する)

ゼノ:そして逢えた時には…
吉琳:ん……
吉琳の首の後ろに手を回して引き寄せ、唇を触れさせる。
そっと顔を離して、熱を帯びた頬を撫でた。
ゼノ:こうして触れて、ここにいると確かめたくなる
吉琳:ゼノ様…

(…いつもより言葉があふれてくるようだ)

ゼノ:…少し喋りすぎたか?
吉琳:いいえ、むしろ…嬉しいです
しなやかな腕がそっと首に回される。
吉琳:ゼノ様…触れて、確かめてください
吉琳:私が、ここにいるって
ゼノ:吉琳…
吉琳:私も少し喋りすぎましたか…?
そう言って吉琳は照れたように笑った。

(そうして頬を赤くするお前を見ていると…)

ゼノ:…少し困るな
吉琳:え、今なんて……んっ…
唇を塞ぎながら背中に手を回して、ドレスのリボンを解いていく。
吉琳:…っ、ゼノ様…

(口にすることで、想いが深まることもあるのだな)

ゼノ:触れたいと思う気持ちが増えて、困ると言った
ささやいて耳を柔く噛むと、吉琳が体を震わせる。
どれだけささやいてもあふれてくる気持ちを伝えるように、
吉琳の柔らかな肌に触れていった…――

078078222

2014年7月(Ameba、iPhone、Android)に開催していた『リゾートシリーズ 触れ合う素肌』のカイン・ノア・アラン のシナリオが読めちゃうよ☆

6

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カインのストーリーを読む

100806

――…綺麗な夜空に、無数の星が映り込む。
私は深い夜の色に染まった海を見つめてバルコニーの手すりに腕をつく。

(今日は一日中遊んだな)

カインとの秘密の旅行は予想以上に楽しくて、
一日中海で遊んだせいで焼けた肌を冷やすために、水着のまま海風にあたる。
100848
カイン:…んなとこで何してんだ
1日を思い返していると、水着姿のカインがラウンジから歩いて来た。
吉琳:今日1日、楽しかったなって思い返してたんだ
吉琳:それと、これ
カイン:あ…?
少しだけまだ熱を持つ腕を差し出してカインを見上げる。
吉琳:日焼けしたところがまだ熱くて。涼んでたところ
カイン:お前、犬みたいにはしゃいでたもんな。自業自得だ

(…カインだって楽しんでたのに)

拗ねた気持ちで見上げるカインの横顔が楽しそうで、
手にしていたシャツを羽織るカインにわかっている質問を尋ねた。
吉琳:カインは、今日楽しかった?
100849
カイン:…決まってんだろうが
呆れた声が聞こえてきてカインが囲うように手すりに手をつくと、
素肌にシャツが擦れていく。
カイン:お前といると、…どんなとこでも楽しめるもんだな
カイン:アホみたいに笑ってるとこ見てたら
吉琳:…?
カイン:やっぱ、…好きだなって思った

(そんなこと言ってくれると思わなかった……)

吉琳:波の音で聞こえなかった
カイン:はあ?……てめえ
吉琳:嘘。言って、もう一回好きだって
カイン:言うか、馬鹿が
ぎゅっと抱きしめられると、剥き出しの肌に腕が触れて体が熱くなっていく。

(……いつも抱きしめてもらってるのに、恥ずかしい)

カイン:お前…体、熱いな。日焼けってこんなになるもんか?
吉琳:…っ…これは、カインが嬉しいこと言って、抱きしめてくれたから
カイン:…何だ、ソレ。…ベッドまで待とうとしてやってたのに
吉琳:え?
短く声を上げると、うなじに唇が触れて濡れた髪を撫でられる。
カイン:…もっと熱くしてやる
後ろを向くと、深く唇が触れて指先が水着の紐をずらしていく。
吉琳:…ん…、…っ
カイン:……熱くなってんのは、何でだよ

(そんなの…言えるわけない)

肌を焦らすようになぞられて声を上げると、
カインの優しい瞳と視線が重なった。
100850
(けど…これだけは言える)

吉琳:カインのことが…私も…好きだなと思ったから
カイン:……真似すんな
熱い夜よりも、熱い体温に浮かされながら肌を重ねていった…――

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ノアのストーリーを読む

 

――…海で遊び尽くした、私とノアは部屋の扉を開けた。

(今日は、ここに泊まるんだよね)

いつもとは違う豪華な部屋を見ているだけで、気持ちが浮き立ってしまう。
100852
ノア:吉琳、はしゃぎすぎー
吉琳:それはノアも同じでしょ?
ノア:うん、否定はできないけど。足の裏、砂浜のせいで熱い
少しだけむっとしながらベッドに投げたままのシャツを羽織るノアの姿に、
穏やかで温かい気持ちが込み上げてくる。

(初めてノアと旅行に来られたから、はしゃぎすぎちゃったな)

海で泳いだ手足は、少しだけだるさを残していた。
100853
ノア 「夕飯もうすぐだねー
吉琳:その前に、少し休憩ー
水着姿のままベッドに倒れ込むと、素肌にシーツが触れて気持ちいい。
ノア:吉琳って、ほんと無防備
吉琳:ん…?
ノア:そんなかっこで、ベッドに寝られたら…
ノアがため息をつく気配がして、ベッドが軋む。
ノア:俺、襲うよ…?
吉琳:…それは…っ
慌てて起きようとするけれど、それより早くノアに手首を掴まれて、
上でひとまとめにされる。

(……ノア?)

ノア:それに俺にも、独占欲はあるから
吉琳:どういうこと?
腕に唇が触れて、ノアの瞳が私を捉えた。
100854
ノア:別に他の人に水着姿を見られてもいいけど
ノア:……これ以上を見られるのは、俺だけでしょ?
吉琳:これ以上って……
言葉に詰まって視線を逸らすと、片手がふっと離されて、
コーラルピンクの水着が下ろされていく。
ノア:この先
吉琳:ダメ…!
ノア:…なら、ちゃんとダメって顔してよ
鎖骨を噛みながら、ノアは可笑しそうに笑う。
吉琳:…ぁ…
ノア:ダメって顔の反対の顔してる

(……こういう言い方されたら、何も言えなくなる)

ノア:脱がせるのもったいないけど、全部見せて
低く囁かれてもう片手だけで上の水着が下ろされて、
ノアの視線だけを感じていく。
吉琳:お願い、隠させて
ノア:全部見たいって言ったの忘れた?
両手を掴んだまま、息が止まるような魅惑的な笑顔が向けられた。
ノア:選んでよ
ノア:今、俺に好きにされるか
ノア:今晩、俺に好きにされるか

(そんなの…)

吉琳:どっちもなくせに
ノア:正解
剥き出しの肌に、奔放な指先が触れて体が熱を帯びていく。
いつもより危険な時に、私は身を沈めていった…――

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アランのストーリーを読む

100808

――…アランと初めての旅行に訪れて、肩からワンピースを落とす。

(…二人きりで海に来られるなんて思わなかった)

シャワー室の窓からは、明るい陽ざしと一緒に波音が聞こえてくる。

(この水着、変じゃないよね?アラン、気に入ってくれるかな)

鏡を覗き込んでから、ドアノブに手をかけたその時……
100884
アラン:…いつまで待たせんだよ
吉琳:アラン……っ…
アラン:何、赤くなってんの。海行きたいって言い出したのお前だろ
吉琳:確かにそうだけど、…水着姿、見慣れないからドキドキした
アラン:何それ
アランが笑う姿に、まだ胸の鼓動はおさまらない。

(こういうアランを、少しだけ独りじめしたいけど…)

私は気を取り直して、窓から見える海を見つめて笑いかけた。
吉琳:いこっか
アラン:………待って
一歩踏み出したその瞬間、手首を掴まれて正面から抱きすくめられる。
アラン:なあ、このかっこ誰のために選んだの?
いつもとは違って素肌が触れ合い、アランの体温が直接伝わってくる。

(…そんなの決まってる)

吉琳:…アランのために選んだよ?
アラン:…ふうん、なら俺の好きにしていい?
吉琳:え?
アランは抱きしめる腕を緩めると、その場に膝をついた。
アラン:海行く前に、…もっと見せて
上目遣いで見つめてくるアランの瞳から視線を逸らせないでいると、
アランの指先がふくらはぎから太股を辿っていく。
吉琳:アラン…っ…くすぐったいよ
アラン:…なんか、新鮮
ぽつりと呟かれた後に、アランの唇が太股に触れる。
アラン:脱がせなくても、お前にすぐ触れられる
唇が楽しそうに持ち上げられて、きつく吸われていく。
吉琳:アラン…待って…
アラン:ほんとに止めさせたいなら、もっと抵抗すれば
身をよじったけれど、唇が太股に触れたままさらに強く腰を抱かれる。

(……立ってられなくなりそう)

貝殻のマットがずれて、吐息をこぼしてアランの肩に掴まると、
やっと唇が離れる。
アランの唇が触れた部分は、赤い痕がくっきりと残っていた、
吉琳:これじゃ、海行けないよ…
アラン:わざと
目を見開くと、アランが腰に抱きついて低い声色で言う。
アラン:他の奴に、お前の体…見せたくないんだけど

(それ……)

吉琳:私も…同じこと、思ってた
アラン:俺、男だから別にいいんだけど
アランは可笑しそうに笑うと、腰に添えた手を背中に滑らせていく。
アラン:…お前のこと、このまま独りじめしていい?
返事を待つより早く、肌が触れ合ってその場に体を倒していく。
海に行く前に、私はアランの甘い指先に溺れていった…――

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2014年7月に開催していた『願いが叶う白い花』のゼノ・ジル・アルバートのシナリオが読めちゃうよ☆

7

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ゼノのストーリーを読む

101000

――…夜遅くまでシュタインとウィスタリアの会合が続いた夜。
車の手配が遅れて、私は緊張しながらゼノ様と城門に立っていた。

(……まさか、ゼノ様と二人きりになるなんて)

吉琳:申し訳ありません。こんな場所でお待たせしてしまって
ゼノ:気にしなくていい
ひどく落ち着いた声がすぐそばで聞こえてきて、
そっと隣を見るとゼノ様は首を傾けて夜空を見上げていた。

(……凄い星)

空に無数に瞬く星を見つめて、そっと尋ねる。
吉琳:ゼノ様は星がお好きなんですか?
ゼノ:ああ、いつからか夜空を見上げるのが癖になっていた
吉琳:癖…?
ゼノ:空を見上げると、同じものが平等に広がっている
ゼノ:……その事実に、惹かれているのかもしれないな
また空を見上げるゼノ様の瞳には、無数の星が映っている。
その横顔を見つめているうちに、言葉が口を突いて出た。
吉琳:あの…っ…、あの星の名前はなんて言うんですか?
その時、車のライトに包まれて星が消えていく。
車が止まりゼノ様は踵を返すと、車に乗り込む瞬間、微かに笑みを浮かべる。
ゼノ:…プリンセス。次に出逢った時に、あの星の名前を教えよう
吉琳:はい…!
ゼノ:…………
ゼノ様を乗せた車が走り出し、ライトの光が遠くなっていく。

(……今日は、もうすぐ終わるけど。なんだか少し先の願いごとをした気分)
(…だけど、どうしてまた逢えるのをこんなに楽しみに思うんだろう)

目を凝らさないと見えないくらいに離れていく車のライトは、
どこか夜空を彩る星に似ているように感じた…――

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ジルのストーリーを読む

101001

――…いつものように静かな執務室に紙を捲る音が響いていく。
ジル:……ではプリンセス、こちらにサインを
ジル:それが終わったら、一旦休憩にしましょうか
最後の書類にサインを終えて、ペンを置いて思い切り腕を伸ばした。

(さすがに疲れたな、けど……)

ちらりとジルを見ると、真面目な表情を崩すことなく書類を確認している。
吉琳:…私、ジルのことあんまり知らないんだな
ジル:…プリンセス?

(いけない…っ…声がもれてた)

吉琳:その…ジルのことを思い出すといつも同じ表情だなって
ジル:それは…
吉琳:ジルの真面目な表情しか知らないから、もっと色んな表情を見たいって思うよ
ジルの笑顔を想像しながら言うと、ペンが机に置かれる音がした。
ジル:……それが貴女のお願いごと、でしょうか?
椅子がガタッと音をたてて、
ジルの手袋をはめた指先が顎をすくい上げる。
吉琳:……!
ジル:教育係以外の顔を、教えて差し上げてもよろしいですよ
ジル:貴女が後悔しないのなら
いつもとは全く違う妖艶な表情に、鼓動が早くなっていく。
吉琳:…ジル…っ
唇に薄い笑みが浮かぶと、指先がゆっくり離れていった。
ジル:冗談ですよ。この程度の誘惑をかわせないとは…
ジル:プリンセスとして貴女のことが心配ですよ
ジルは椅子に座ると、また書類に視線を落とす。

(…どうしてこんなに、ドキドキしてるの?)

いつもと同じ横顔が、違って見えて私は手をきゅっと握りしめた…――

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アルバートのストーリーを読む

101002

――…シュタインとウィスタリアの会合が続く夜。

(ゼノ様とジルの話はまだ続きそう…私もすぐに戻らないと)

一旦休憩するために廊下に出ると、廊下にキーを叩く音が響く。
アルバート:…………

(あれって、ゼノ様の側近のアルバートさんだよね?)

立ったまま薄いノートパソコンを叩く姿に近づいて声をかけた。
吉琳:こんばんは。あの…ごめんなさい、もう少し会合が続きそうです
アルバート:いえ、想定の範囲内ですから

(…全然こっち見てくれない)

それでもめげずに、アルバートさんに話しかけていく。
吉琳:今日、ウィスタリアでは女性の願いごとを男性が聞いてくれる特別な日なんですよ
アルバート:そうですか、変わった風習ですね

(どうしてこっちを見てくれないんだろう。…忙しいのはわかるけど…っ…)

吉琳:人が話しかけてる時は、こっちを見てください!
前に回って顔を覗き込むと、至近距離で視線が重なる。
アルバート:……っ…
吉琳:私の話、聞いてました?
アルバート:あんな大声で話しかけられて、聞こえていないはずがないでしょう
吉琳:それなら…
アルバート:…………これでいいですか
パソコンがすっと下げられて、
吐息が触れる距離まで顔を近付けられる。

(……っ…な、何!?)

アルバート:何を驚いているんですか。貴女が言ったはずですよ…こっちを見ろと
アルバート:これが願いごとでいいでしょう

(全然見てくれないと思ってたのに、今度は極端すぎるよ…)

見つめられたまま一歩も動けなくて、頬に熱を感じながら言葉を返す。
吉琳:今のが願いごとなんて、足りません……
アルバート:ウィスタリアのプリンセスは、案外よくばりですね
なぜか至近距離で見つめ合ったまま、
互いに頬を染めて時間だけが過ぎていった…――

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2015年6月に開催していた『いつもと違うキスをして in Paris』のカイン・ルイ・クロードのシナリオが読めちゃうよ☆

9

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カインのストーリーを読む

101142

――…街を行きかう人の賑やかな声が響く朝
わくわくする気持ちに押されるように、
私はパリの街をカインの手を引いて走り出す。
吉琳:カイン、ほら早く!
カイン:おい、走んじゃねえ! …ったく、なんでそんな急いでんだよ
吉琳:だって…

(せっかくパリをカインと歩けるんだし…)

吉琳:観光できるのは今日だけだから、時間がもったいないでしょ?
カイン:…別に、今日だけじゃねえだろ
吉琳:え?
カインは目を逸らすと、小さく呟いた。
カイン:何度だって、一緒に来ればいいだろうが

(カインがそんなこと言ってくれるなんて思わなかった)

嬉しさに繋いだ手にぎゅっと力を込めてカインの顔を覗き込む。
吉琳:そうだね、また一緒に来てくれる?
カイン:ああ、しょうがねえから付き合ってやるよ
微かに口角を上げたカインに笑みを返し、パリの街に視線を向ける。
吉琳:それでも、今日は今日で楽しまなきゃね
カイン:…っ、おい、だから走るんじゃねえ!

***

――…そして、日が暮れて夜空に星が光り始め
途中で買った食べ物の入った紙袋を横に置いて、
カインとベンチに座る。
吉琳:たくさん歩いたねー…
カイン:ああ…こんな歩いたの久々だ
カイン:ったく、見るのに時間かかるとこばっか選びやがって
吉琳:でも、ルーブル美術館もヴェルサイユ宮殿も楽しかったでしょ?
カイン:…まあな

(足はくたくただけど、なんか幸せだな…)

ちらっと横目でカインを見つめ、ベンチに置かれた手にそっと手を重ねる。
カイン:…なんだよ
吉琳:別に、なんでもないよ
カイン:にやけやがって、なんでもないって顔じゃねえだろ
そう言うと、意地悪な顔をしてカインは私の頬をつまんだ。
吉琳:…っ、カイン…!
頬の手を外して軽く睨むと、カインが声を上げて笑う。
カイン:今日のお前、すげえはしゃいでて全然プリンセスに見えなかったな
吉琳:…カインだって、全然王子には見えなかったよ
カイン:じゃあ何に見えてたんだよ

(何って……)

吉琳:…あんな風に見えてたんじゃないかな
通りの方に視線を向けて、腕を組みながら歩く恋人たちを見つめる。

(プリンセスと王子じゃなくて…普通の恋人同士みたいに)

カイン:…あれにはまだ足りねえだろ
吉琳:え?
聞こえた声に顔を上げると頭上がかげって……
吉琳:…ん……
優しく触れた唇に目を見開くと、そっとカインの顔が離れていく。
カイン:…こうした方が、普通の恋人同士っぽいだろ
吉琳:…っ、でも…こんなところで
熱くなった顔を伏せようとすると、優しく頭を引き寄せられた。
微かに熱のこもった瞳に見つめられ、小さく鼓動が跳ねる。
カイン:周りなんか気にしないで今は…俺だけを見ろよ

(いつもは外でこんなことするなんて、恥ずかしいけど…)

頷いた瞬間、いつもはできないとびきり甘いキスが落ちてきた…――

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ルイのストーリーを読む

101143

――…カフェから焼きたてのパンの香りが漂う、パリの朝
ルイ:…吉琳
吉琳:ルイ!
パン屋の看板のそばに立つルイに駆け寄ると、ルイは柔らかに笑みを浮かべた。
ルイ:今日、公務お休みって聞いたから
ルイ:一緒にパリを見て回ろう?
吉琳:うん
差し出された手に笑顔で手を重ねると、ルイは人通りの多い広場の方へ歩き始めた。

(あ…そっか)

いつもなら公の場では手を繋げないけれど、今いる場所は異国の地だ。

(今日は人目を気にしないで手を繋げるんだ)
(…こういうの、嬉しいな)

思わず繋いだ手にきゅっと力を込めると、ルイが振り返った。
ルイ:どこに行きたい?
吉琳:私は…――

***

――…時間を忘れて観光をしている間に、陽が暮れて
ルイ:夕方のセーヌ川、綺麗だったね
吉琳:うん! それに、さっき見たエッフェル塔のシャンパンフラッシュもすごく良かった
頬を綻ばせると、ルイが繋いだ手に視線を落として穏やかに目を細めた。
ルイ:…こういうの、いいね
吉琳:こういうのって…?
ルイ:こうして、堂々と手を繋いで歩けること
ルイの言葉に目を見開いて、街灯に照らされた横顔を見つめる。

(それ…)

吉琳:びっくりした…私も今日の朝、同じことを思ったよ
ルイ:…ほんと?
吉琳:うん、こうしてると普通の恋人同士みたいで、いいなあって

(でも、そろそろ今日が終わっちゃう…)

わくわくしていた気持ちが急に寂しさに変わって、思わず足を止める。
ルイ:…吉琳?
吉琳:…もっとこんな時間が続けばいいのにな
呟くように言葉をこぼすと、ふいに額に柔らかな感触が触れた。
吉琳:…っ、ルイ…?

(今、額に……)

顔を上げると、唇が離れて優しい眼差しが向けられる。
ルイ:また一緒に来よう
ルイ:今度は公務じゃなくて、二人だけで
ルイ:俺もこの街で、もっと君と過ごしたい

(…ルイの言葉って、すごい)

感じていた寂しさが和らいで、自然と笑みが浮かぶ。
吉琳:うん…ありがとう
視線が重なり、それを合図にどちらからともなく顔を寄せていく。
触れるだけのキスをして顔を離すと、互いにそっと目を伏せた。

(頬が熱い……)

ルイ:…異国の空気って、人を大胆にさせるのかな
吉琳:え…?
ルイ:いつもなら、こんなところでキスはできないけど…
私の頬に手を添えて顔を覗き込むと、ルイは困ったように微笑んだ。
ルイ:…もう一回、してもいい?
胸の奥で響く音を聞きながら顔を上げて小さく頷くと、
ゆっくりと顔が寄せられて、もう一度甘いキスが落とされた…――

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クロードのストーリーを読む

101144

――…柔らかな陽差しがパリの街並みを照らす朝

(まさか観光する時間がもらえるとは思ってなかったから…)
(クロードとパリを歩けるの、嬉しいな)

隣を見上げると目があって、ふっとクロードが目元を和らげた。
クロード:さて、どこに行こうかお姫様
クロード:リクエストがあれば言えよ?
吉琳:それなら一カ所だけ、どうしても行ってみたいところがあるんだけど…
クロード:どこだ?
吉琳:ジヴェルニーにある、モネの庭園
クロード:ああ、『睡蓮』の絵のモデルになった庭園か
クロード:それはいいが…吉琳?
クロードは私の顔を覗き込むと、からかうような口調で言った。
クロード:そこに俺と行こうと思ったのは、画家の名前がクロード・モネだからか?
吉琳:ち…違うよ、モネの絵が好きだから行ってみたいだけ!

(でも…)

吉琳:……確かにモネを知ったきっかけは、クロードの名前が入ってたからだけど
目を逸らして呟くように言うと、頭上から小さく笑う声が聞こえた。
クロード:お前は本当に可愛いな
吉琳:…っ
頬が熱くなった時、目の前にすっと大きな手のひらが差し出される。
クロード:それじゃ行こうか
吉琳:…うん!

***

――…そして、あっという間に日が暮れて
髪を揺らす風を受けながら、私は夜のパリの街をクロードと歩いていた。
吉琳:ワインもご飯も美味しかったね
クロード:ああ…って、お前足ふらついてる
クロード:酔ってるだろ

(確かに、少し頭がふわふわする…)

吉琳:そう…かも…
クロード:…しょうがないお姫様だな
すっと腕が伸ばされて、しっかりと腰が支えられる。
近くなったクロードの顔を、じっと見つめた。
クロード:ん…? なんだ、何か言いたそうな顔して
吉琳:…お姫様って、言わないで
クロード:…どうした急に?

(クロードがお姫様って呼んでくれるのは好きだけど…)

吉琳:今日は…プリンセスじゃない
クロードの胸に頭を預けて、呟くように言葉を重ねていく。
吉琳:普通の恋人同士でいたいよ…
クロード:…お前は、酔うと少し素直になるんだな
声に笑みを滲ませながら、クロードの手が優しく髪を撫でた。
クロード:それとも、パリの空気がそうさせてるのか?

(そうじゃなくて…)

ふらつきそうになるのをこらえて背伸びをし、クロードにキスをする。
クロード:…!
吉琳:…それもあるけど
吉琳:クロードが好きだからキスしたかったんだよ
唇を離して微笑むと、クロードの頬が少し赤くなっているように見えた。
クロード:…ほんと、酔ってるお前は素直すぎて困る
吉琳:……んっ…
優しく唇を塞がれて、ふわふわした気分がさらに強くなる。
吉琳:クロード、これ以上は恥ずかしいから…
クロード:さっきは、あんなに大胆だったのに?
吉琳:それは…!
クロードは低く笑うと、私の頭に帽子をかぶせた。

(…?)

クロード:こうやって隠しておけば、恥ずかしくないだろ
そう言って腰を抱き寄せると、
クロードは帽子で隠しながら、もう一度私にキスを落とした。
異国の空の下でするいつもより大胆なキスに、
いつまでも胸の高鳴りが収まらなかった…――

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2015年3月(Ameba、iPhone、Android)に開催していた『おとぎ話シリーズ 塔の上のプリンセス』のノア・アラン・ゼノのシナリオが読めちゃうよ☆

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ノアのストーリーを読む

101285

――…雲一つない青空が広がる朝
テラスの方で小さな物音がして目を向けると……
???:お目覚めですか、プリンセス?
吉琳:え……

(だ、誰…?)

開いた窓から、穏やかに微笑む男の人が入って来て思わず後ずさる。
ノア:俺はノア。あんた、何でこんなとこにいるのー?
吉琳:ノア…?

(…どこかで聞いたことあるような)

吉琳:私はお母様とここで暮らしてるんだけど…あなたこそ、どうしてここに?
ノア:んー俺は静かで落ち着く場所を探してたんだよね
ノア:そしたら、ここに辿りついた
吉琳:…こんな高いところまで?
ノア:そう、こんな高いところまで
笑みを浮かべてノアが床に寝転がる。
ノア:ここ、良いところだねー落ち着くよ
ノア:あんたも一緒に昼寝する?
吉琳:え? あ…っ!
突然手を引かれて、ノアの胸に倒れ込むと大きな手が背中に回された。
頬がノアの首筋に触れて、予想外の近さに鼓動が跳ねる。
吉琳:ちょ、ちょっと…

(……あれ?)
(初めて抱きしめられたはずなのに)
(私、この腕を知ってる気がする)

ノア:…なんか、あんたを抱きしめてると、落ち着くかもー
吉琳:…あんたじゃないよ
吉琳:私の名前は、吉琳っていうの
ノア:…吉琳?
体を起こして、ノアがじっと私の顔を覗き込む。
ノア:……吉琳

(…どうしてだろう)
(ノアに名前を呼ばれると、なんだか安心する)

ノアの唇に、どこか嬉しそうな笑みが滲む。
ノア:…不思議。俺、吉琳の名前呼んだことある気がする
ノア:…よし、決めた
ノア:吉琳、今から俺とデートしよー
吉琳:デートって…、わっ…
私を抱えたままノアが立ち上がる。
吉琳:ちょ、ちょっと待って私は
吉琳:お母様にここから出ちゃ行けないって言われて…
ノア:吉琳はどうしたいの?
吉琳:え?
肩に手をついてノアを見下ろすと、ノアは柔らかな笑みを浮かべていた。
ノア:吉琳、外に出たいって顔してる
吉琳:……!

(確かに、いつも窓から景色を見るばかりで、外の世界に憧れてた)
(でも…)

吉琳:あ……
ふいに手を取って、ノアが私の目を覗き込む。
ノア:もし叱られそうになったら、俺も一緒に謝るから
柔らかな声に不安が溶けて、
重なる大きな手から勇気が伝わってくる気がする。
ノア:おいで、吉琳
吉琳:…うん!
笑みを深めるノアに大きく頷いて、私はノアと塔を飛び出した…――

***

賑やかな通りを、私はノアと並んで歩いていた。
歩くたびに、ノアが綺麗に編んでくれた三つ編みが揺れる。
ノア:似合ってるよー吉琳
吉琳:ありがとう、ノアが編んでくれたおかげだよ

(こんな髪型初めてでドキドキする)
(ん…?)

吉琳:向こう側にたくさん人が集まってるけど、何をしてるの?
ノア:今日はこの辺、フェスティバルをやってるみたいだよ
吉琳:フェスティバル?
ノア:うん、見てくー?
吉琳:いいの?
ノア:もちろん

***

――…二人でフェスティバルを楽しみ、すっかり日が暮れた頃
ノア:なんか賑やかだね
教会前に来ると、音楽に合わせて町の人たちが楽しげに踊っていた。

(いいな、楽しそう…)

ふいにノアの指先が手のひらに触れて、ぎゅっと握られる。
吉琳:ノア…?
ノア:俺たちも踊ろー吉琳
吉琳:えっ、でも私踊ったことなんて…
ノア:大丈夫、楽しく回ったりしてればいいから
吉琳:あっ…
ぐっと手を引かれて広場の中央に引き出される。
腰に手が回って、ノアがステップを踏み始めた。
ノア:ほら吉琳、回って
吉琳:こ、こう?
ノア:うん、上手ー

(でたらめなダンスなのに…)
(楽しい…!)

唇に自然と笑みがのぼる。
ノアを見上げると優しい瞳が私を見下ろしていて、とくんと胸が音を立てた。

(…やっぱり私、知ってる)
(ノアの大きくてあったかい手も、この優しい瞳も、初めてじゃない)
(私たち、どこかで逢ったことがあるのかな…?)

***

音が止んでダンスが終わると、ふっと寂しさが込み上げた。
吉琳:帰りたくないな…
ノア:…俺も
ノア:吉琳のこと、帰したくない
吉琳:あっ…
腰に回していた手に力が入って、ノアに抱き寄せられる。
ノア:でも大丈夫、この物語はハッピーエンドだよ
吉琳:ノア…?
顔を上げると、ノアの柔らかな眼差しが見下ろしていた。
ノア:またすぐ逢えるように……おまじない

(あ……)

ノアの端正な顔が近づいて…――

***

(…あ、れ……?)
(……夢?)

体を起こそうとすると……
ノア:…だめ
吉琳:…っ…
ノアの腕が伸びてきて、広い胸の中に引き戻される。
その時、枕元に置かれた本が目に入った。

(そうだ、私本を読もうとして…)

吉琳:私、図書館にいたはずだよね。ノアが運んでくれたの?
ノア:うん。吉琳寝てたからー
吉琳:そっか…ありがとう、ノア
ノア:ねー、吉琳
吉琳:ん?
ノア:キスしていー?
吉琳:え?
ノア:今、夢でしそびれたから
吉琳:夢で…?

(…もしかして)

夢の内容を思い出して小さく笑うと、ノアが口を尖らせて私の顔を覗き込んだ。
ノア:吉琳ー? なんで笑ってるの?
吉琳:ねえ、ノア。その夢でもしかして、私と踊った?
ノアの目が微かに見開かれる。
ノア:……踊った
吉琳:…やっぱり
ノア:同じ夢見てたってこと?
吉琳:そうみたい

(でも私、夢の中でもノアのこと覚えてた)
(きっとノアも……)

ノア:…吉琳
吉琳:ん…
夢の中でも私を安心させた声が名前を呼んで、ノアの唇が口の端に触れる。
間近で見つめ合うと、ノアの瞳が悪戯っぽく細められた。
ノア:離れないように、おまじないする?
吉琳:うん……して
ノアの唇が寄せられて、私は笑みを浮かべながら目を閉じる。
二人が唇を重ねるそばで、
ハッピーエンドを告げるように、枕元の本が音もなく閉じた…――

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アランのストーリーを読む

101286

――…澄んだ青空が広がる朝
テラスの方から聞こえた小さな物音に私は首を傾げた。

(…なんだろう?)

吉琳:誰かいるの…?

***

おそるおそるテラスに顔を出すと……
???:……プリンセス

(…誰?)

テラスに、どこか驚いたような顔をした男の人が立っていた。
目が合うと、男の人が微かに笑みを浮かべる。
???:お目覚めですか、プリンセス?
吉琳:あなたは誰…?
吉琳:それに、どうやってここへ?
アラン:俺はアラン。ここへは壁を登ってきた
吉琳:登ってって…こんなに高いところまで?
アラン:そうだけど
テラスから下を覗き込むと、くらりと目眩がしそうなほど地面が遠い。

(そんなことができるなんて…この人は何者なんだろう?)

アラン:確認するけど、お前は吉琳だろ?
吉琳:…っ…どうして私の名前を?
口元に笑みを滲ませて、アランがその場に膝をつく。
アラン:ずっとお前を探してた
吉琳:え?
アラン:俺と一緒に来て…――プリンセス
吉琳:…プリンセス?

(…どうしてこんな目で私を見るんだろう)

アランの真剣な眼差しに見つめられて、胸が小さく音を立てる。
吉琳:どうしてあなたは…
アラン:アラン
吉琳:…アランは、どうして私をプリンセスって呼ぶの?
アラン:お前が俺の仕えるべきプリンセスで、俺がお前の騎士だから
吉琳:え…?

(私がプリンセスで、アランが騎士…?)

吉琳:どういうこと…?
アラン:お前、生まれた頃に連れ去られたんだよ
アラン:ずっとどこにいるのかわからなくて、やっと今日お前を見つけられた
吉琳:…人違いじゃなくて?
アラン:疑いすぎ
ふっと可笑しそうにアランが笑みを浮かべる。
アラン:お前、手鏡持ってない?
吉琳:手鏡……あっ
私は窓辺を離れて部屋に戻り、引き出しから手鏡を持ってきた。
吉琳:これのこと…?

(お母様が、私が生まれた時に買ってくれたっていう手鏡…)
(でも、どうしてアランが手鏡のこと知ってるんだろう)

アラン:ん、これが証拠
吉琳:証拠って…?
アラン:お前がウィスタリアのプリンセスである証拠
アラン:これは、国王がプリンセスが生まれたときに贈ったものなんだよ
遠い夢物語のような言葉に息を呑むと、アランの手が私の手首を掴んだ。
アラン:事情はわかっただろ。行くぞ
吉琳:行くってどこへ…
アラン:お前、質問多すぎ
吉琳:だって…っ、わっ…!?
突然視界が高くなり、アランに抱き上げられる。
吉琳:ア、アラン…っ
アラン:ちゃんと掴まってろよ
私を抱きかかえたまま、アランがテラスの手すりに足をかける。
吉琳:アラン、何をするつもり?
アラン:ここを出たら全部答えてやるから、質問は後にして
視線を落とすと、手すりにロープが括りつけられていた。

(…まさか…っ)

ロープを引いて強度を確かめたアランが悪戯っぽく笑う。
アラン:心の準備はいいですか、プリンセス?
吉琳:ちょ、ちょっと待って…
アラン:待ったなし
吉琳:……っ
アランが強く手すりを蹴った途端、体が浮遊感に包まれる。
こうして私は、外の世界への大きな一歩を踏み出した…――

***

(すごい、知らないものばっかり)

初めて出る塔の外は見たことのないもので溢れていて、
私はわからないことがあるたびアランに聞いていた。
吉琳:アラン、あれは何…?
アラン:あれは橋だよ
吉琳:橋…?
アラン:いいから、行ってみろって
橋の上に足を踏み出すと……
吉琳:…っ…ゆ、揺れる…!

(それに風も強いし、怖い…っ)

手すりを掴んでぎゅっと目を閉じると、
優しく笑う気配がして、手すりを掴む手に温かな手が重なる。
アラン:怖がんなくていいよ
アラン:何があっても、俺がお前を守るから
優しい声にそっと顔を上げると……

(あ……)

アランの柔らかな笑みに、早かった鼓動が落ち着いていく。
アラン:行くぞ
歩き出すアランの後について行きながら、繋いだ手に視線を落とす。

(アランとこうしてると、橋が揺れても怖くない)
(でも…別の意味でドキドキする)

気づけば、口から言葉がこぼれ落ちていた。
吉琳:どうしてアランは、こんなに私のこと守ろうとしてくれるの?
アラン:…それは
足を止めて振り向いたアランは、一度私を見た後、ふっと顔を背けた。
アラン:俺は…生まれた時からお前の騎士になるって、決まってた
アラン:でも、役目を果たす前にお前を失って…
アラン:ちゃんと守りたいものを守れるようになりたいって、思ったんだ
吉琳:あ……
ぎゅっと強く手を握られて顔を上げると、
アランが強い眼差しで私を見つめていた。
アラン:もう二度と、誰にもお前のこと奪わせない
アラン:俺にお前を…守らせて
吉琳:アラン…
アラン:それに…
にやりと意地悪な笑みがアランの口元に浮かぶ。
アラン:お前、それでなくても危なっかしいから
吉琳:…っ、アラン!
アラン:本当のことだろ
笑うアランに叩くふりをして手を出すと、アランが優しく私の手を掴んだ。
アラン:…もう、離れんなよ
吉琳:…うん
真っすぐなアランの瞳から、目を逸らせなくなる。

(この鼓動の意味は、きっと…――)

***

???:…い……、おい
吉琳:ん……
???:吉琳
吉琳:…ん…?
目を開けると、心配そうな顔でアランが私の顔を覗き込んでいた。
吉琳:…アラン、どうしたの?
アラン:…どうしたのじゃねえよ
吉琳:っ…アラン…?
深く息をついたアランに突然抱きしめられる。
アラン:迎えにきたらお前倒れてるから…
吉琳:え…?
視線を巡らせると、床に本が落ちていた。
開いたページには、塔に閉じ込められたお姫様の挿絵がある。

(まさか本当に魔法…?)

吉琳:…まさかね
アラン:何か言った?
吉琳:ううん、何でもない。ごめんね、ちょっと寝てたみたい
アラン:寝てたって…
アラン:…ま、何ともないならいいけど
立ち上がったアランが微かに笑みを浮かべて手を差し出す。
アラン:ん

(あ……夢と同じだ)

少し早くなった鼓動を感じながら、差し出された手に手を重ねる。
夢と同じ温もりに頬を綻ばせながら私はアランの後を歩き出した…――

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ゼノのストーリーを読む

101287

――…青空に背の高い雲が浮かぶ朝
???:お目覚めですか、プリンセス…?
聞こえた声の方に顔を向けると…

***

(誰…?)

手すりのそばに、落ち着いた空気をまとった男の人が立っていた。
ゼノ:驚かせてすまない。俺はゼノという
ゼノ:この辺りで金色の滝が見られるという噂を聞いたのだが…
ゼノ:お前の髪のことだったのだな?
吉琳:あ……
ゼノと名乗った男の人の視線が、足の先を越えてさらに長く伸びた私の髪に向く。
吉琳:これを探して、ここへ…?
ゼノ:そうだ。噂とは違ったが、来たかいはあったな
ゼノ:おかげで、滝よりも美しいものが見られた
吉琳:…っ…

(…なんだろう)
(この方の姿にも言葉にも、すごくドキドキする)

ゼノ:お前はここに住んでいるのか?
吉琳:そうです、母と二人で…
ゼノ:…お前は、外に出たいとは思わないのか?
吉琳:え…?
ゼノ:俺にはお前が、ここに閉じ込められているように思える
顔を上げると、静かな眼差しが私を見つめていた。

(この方に見つめられると、何もかも見透かされている気になる)
(…お母様には外に出てはいけないと言われたけど)

吉琳:…確かに、ここを出て色々な景色を見てみたいと思う気持ちはあります
ゼノ:ならば、俺と共に来るといい
吉琳:え? でも……
ゼノ:…お前の名は?
吉琳:…吉琳、です
ゼノ:そうか
すっと目の前に手が差し出される。
ゼノ:この手を取れ…吉琳

(…どうしてだろう)
(初めて逢ったはずなのに)
(この方を信じていいって、心がささやくみたい)

手を重ねた途端、手のひらが力強い感触に包まれる。
一歩を踏み出すと、パープルピンクのワンピースの裾がふわりと揺れた…――

***

吉琳:わあ……

(これが外の世界…)

ゼノ:楽しそうだな
吉琳:はい、すごく楽しいです
その時、遠くの方で雷の音が聞こえた。
ゼノ:…雨が降りそうだな
ゼノ:こっちへ

***

――…森に入る頃、静かに雨が降り出した
森の中に駆け込んだ途端、雨の音が遠のく。
ゼノ:ここなら雨を防げるだろう
吉琳:あ…

(そっか、頭上を覆う葉で雨が落ちてこないんだ)

吉琳:すごい…自然で作られた天井ですね
ゼノ:…………
吉琳:あの、私おかしなことを言いましたか…?
ゼノ:…いや
ゼノ:俺にはない考え方だと思ってな

(…っ…)

口元に緩やかに笑みが浮かぶのが見えて、小さく鼓動が跳ねる。
ゼノ:…不思議な感覚だ
言いながら、その人は頭上の葉を見上げた。
ゼノ:ただそこにあるものとして認識していたものが
ゼノ:お前といると、随分と美しく見える
吉琳:…っ…
言葉が真っすぐ届いて、胸の奥が甘く熱を持つ。
静かな雨音の中、耳の奥で私の鼓動だけがやけに騒がしく響いていた…――

***

雨が止んで森を抜けると、圧倒されるような光が待ち構えていた。
吉琳:わ……
吉琳:綺麗な夕陽…
ゼノ:…そうだな

(こんな景色、外に出ないときっと見られなかった)
(この方に、きちんとお礼を伝えよう)

吉琳:…あの
ゼノ:どうした?
吉琳:今日はありがとうございました
吉琳:連れ出して頂いたおかげで、たくさんの景色が見られました
ゼノ:…ああ
ゼノ:俺も、今日お前と共に過ごせて良かった
静かな微笑みに、また鼓動が早くなる。

(…不思議。ずっとこの方の隣にいたいと思う)
(でも私は…あそこに戻らなくちゃ)

溢れそうな気持ちを抑えて笑みを浮かべた。
吉琳:本当に、ありがとうございま…――
ゼノ:…吉琳
吉琳:……!
突然腕を引かれて腕の中に閉じ込められる。
吉琳:あの…っ
ゼノ:行くな

(……え?)

ささやかれた言葉を信じられない思いで聞く。
ゼノ:…行くな
ゼノ:俺の元に来い、吉琳…――
息苦しいほどの力で抱きしめられた瞬間……

***

吉琳:ん…

(…あれ…?)

目を覚ますと、髪に温かな手の感触があった。

(誰かが髪撫でてる…?)

???:…すまないな、起こしたか
吉琳:…ゼノ様?
目を開くと髪からゼノ様の手が離れていくのが見えて、ハッと体を起こす。

(そうだ私、ゼノ様の会合が終わるのを待ってたんだ)

吉琳:…っ、すみません私、眠ってしまって…
ゼノ:気にするな。だいぶ待たせてしまったからな
ゼノ:…………
ふいに隣に座るゼノ様に、じっと見つめられる。
吉琳:どうかなさいましたか…?
ゼノ:いや…
ゼノ:夢に俺が出てきたのか?
吉琳:…っ…どうしてそれを?
ゼノ:さっき、眠りながら俺の名を呼んでいた
吉琳:えっ…

(恥ずかしい…寝言言ってたんだ)

ゼノ:どんな夢を見ていたのか、聞かせてくれないか?
吉琳:…おとぎ話みたいな夢ですよ?
ゼノ:ああ、聞かせてほしい
優しい視線に促されて、私は見た夢の内容を語り出す。
並んで座る二人の間には、閉じられた本が置かれていた…――

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2014年7月に開催していた『願いが叶う白い花』のアラン・クロード・レオ・ユーリのシナリオが読めちゃうよ☆

2

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アランのストーリーを読む

101569

――…賑やかな声とシャンデリアが眩しく光る夜。
私は耳につけたインカムに手をそっと当てた。

〝アラン:…プリンセス、そっちは人が多い。ジルのそばに〞
〝吉琳:うん、わかった〞

インカム越しにアランと会話を交わして、
遠くにいるアランの姿を探す。

(声はこんなに近くで聞こえるのに、視線が合わないな)

アランの姿を一瞬だけ見つめて、
私はパーティーの輪の中へ入っていった。

***

(…やっと終わった)

人気が無くなったダンスホールの手すりに腕をついて、
アランを待っていると……
吉琳:アラン!
アラン:そんなとこで待ってたの
ダンスホールから私を見上げて、アランがふっと笑う。

(そうだ…もうすぐ今日が終わっちゃう)

手すりから身を乗り出して、私はアランに声をかけた。
吉琳:ねえ、今日は願いごとを聞いてくれる日なんでしょ?
アラン:…そうだけど
吉琳:私の願いごと聞いてくれる?
アラン:仕方ねえな、なに
吉琳:それ、取って
アラン:それ?
私が耳を指差すとアランは理解してくれたのか、
インカムを外してくれる。
私も自分のインカムを外して、また身を乗り出した。
吉琳:アラン、こっち見て
アラン:見てるよ

(…やっぱり、こっちの方が好き)

耳に直接流れ込んでくる声に、思わず笑みがこぼれる。
アラン:なに一人で笑ってんの
吉琳:あのね、好きだなって
アランが不思議そうに首を傾ける。
吉琳:やっぱりこうして目を見て、直接声を聞くほうが嬉しいね
吉琳:インカム越しじゃ、足りないや
アラン:……バーカ

(…アラン?)

アランはふっと視線を伏せると、ゆっくり階段を登ってきてくれる。

***

アランは私の目の前に来ると、私の髪に手を差し入れて引き寄せた。
胸元に抱き寄せられて、見上げると甘い声が落ちてくる。
アラン:なあ、声だけでいいの

(……そんな聞き方、しないでほしい)

吉琳:いいわけない…っ…ん…
言葉を奪うように唇が重なって、髪をくしゃっと撫でられる。
吐息がこぼれると、アランは親指で私の唇をなぞりながら笑う。
アラン:それともう一回言って。好きだってやつ
吉琳:…アランのお願いごとを聞く日になっちゃうよ
それでもアランの甘い表情にはさからえなくて、
唇から好きをこぼした瞬間、また唇が深く重なっていった…――

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クロードのストーリーを読む

101570

――…いつもより陽ざしが強く降り注ぐ廊下を歩いて行く。

(…クロードは願いごとを叶える日だって教えてくれたけど)

〝クロード:さあ、願いごとをどうぞ。プリンセス…?〞

(私の願いごとは……)

風に白いドレスがさらわれて、クロードの顔がふっと頭をよぎる。
その場で足を止めて、元来た廊下を戻って衣装部屋の扉を開けた。

***

扉を開けると、そこにはどこか物憂げな表情で窓の外を見つめる姿があった。
クロード:…ああ、どうかしたのか、吉琳?
吉琳:願いごとをクロードに叶えてもらおうと思って
クロード:どうぞ、いくらでも
吉琳:クロードの願いごとを、教えて
一息に告げると、クロードは目を見開く。
吉琳:いつも私を変身させてくれるクロードの願いごとを、今日は私が聞きたいの
クロード:……予想外だな
低く呟く声を聞いた瞬間、手首を捉えられてぐっと引き寄せられた。

(……っ…)

クロード:…お前が戻ってくればいいのにと思ってた
クロード:これが俺の願いだ
吉琳:…どういうこと?
至近距離で見つめられて息を呑むと、
パッと手首が離されてその後に笑い声が聞こえてくる。
クロード:なんて顔してるんだ。こんなことを真に受けるなんて、子供だな
吉琳:真剣に言ったのに。いつもクロードはからかってばっかり
子どもをあやすような表情を浮かべるクロードを見て、
拗ねた気持ちで背を向けた。

***

吉琳のドレスの裾が、扉の向こうに見えなくなると、
クロードは深く椅子に体を預けて、深く息をつく。
クロード:本当の願いはずっと欲深い…お前はまだ知らなくていいことだ
どこか寂しさが残る表情を消すように、
クロードは窓の外に視線を移した…――

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レオのストーリーを読む

101571

――…夜も深まる頃、最後の会議を残して私は階段に座り込んだ。

(行儀が悪いって言われるかもしれないけど、少しだけ休みたい)

目を閉じようとすると、隣に座る気配を感じて視線を上げる。
吉琳:レオ…
レオ:せっかく願いごとを聞いてもらえる日なのに、公務で終わっちゃうね
レオ:今なら俺が、何個でも吉琳ちゃんの願いごとを聞いてあげるよ…?
吉琳:ありがとう、レオ
いつものように笑ってくれるレオの表情にはどこか疲れが滲んでいた。

(…心配して追いかけてきてくれたんだろうな)
(レオの方が、ずっと早くから政務をこなしてるはずなのに)

レオに休んで欲しい、そう願いを口にしようとしたけれど、
優しいレオは上手くかわしてしまう気がして静かに伝える。
吉琳:それなら…少し疲れたから、肩を貸してくれる?
レオ:もちろん
レオに笑みを返して、少しだけ高い肩に頭を乗せる。
なるべく動かないようにしてくれる気配を感じながら、
レオの頭に手を添えて、自分の方にそっと引き寄せた。
レオ:……っ
吉琳:プリンセスにも休みは必要でしょ?

(こんなことしか、できないから)

レオ:こんな可愛い願いごとなら、いくらでも
優しい声が聞こえて、ゆっくりと頭にレオの重さを感じていった…――

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ユーリのストーリーを読む

101572

――…夜のパーティーが始まる時間になり

(よし…これでいいかな)

ガラスの靴を履いて、鏡の前から立ち上がると扉がノックされた。
返事を返すと、扉が開きユーリが顔を見せる。
ユーリ:吉琳様、迎えに来たよ。今夜のドレスも可愛いね
吉琳:ありがとう、ユーリ
いつものやり取りに、お互いにくすりと笑みをこぼすと、
ユーリは思い出したように口を開いた。
ユーリ:そういえば、今夜はたくさん吉琳様に逢いに男の人が来てるんだよ
ユーリ:だから、山ほど願いごとを叶えてもらえるかもね

(そういえば、今日は男の人に願いごとを何でも聞いてもらえるんだっけ)

吉琳:それじゃ、ダンスホールに行ったらたくさん考えないと
ふざけながら言葉を返して、ドアノブに手を掛けると……
ユーリ:…ダンスホールに行く前に、今、考えてよ
耳元で声が聞こえて、ドアノブを掴んだ手の上から手が重なる。
ユーリ:俺も男の一人だって、忘れてないよね…?
吉琳:ユーリ…?
手が一度だけきゅっと握られると、後ろから明るい声が聞こえてきた。
ユーリ:なんちゃって
吉琳:………え?
ユーリ:吉琳様がお願いごとを言ってくれないから、つまらないなーと思って

(びっくりした……)

いつも通りの笑顔に、なんだかほっとして笑みを返す。
吉琳:それじゃ、ダンスホールまでエスコートしてくれる?
ユーリ:もちろん、それじゃ今日は特別
ユーリは少しだけ腰を屈めると、手をすっと差し出した。
ユーリ:お手をどうぞ、プリンセス…?
差し出された手を取って、ガラスの靴を鳴らして歩き出す。

***

ユーリ:気をつけてね

(あれ……?)

振り返って笑うユーリの表情が、一瞬だけ王子様みたいに見えて、
私はただ繋いだ手を見つめて、頷くことしか出来なかった…――

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ゼノのストーリーを読む

101702

――…ウィスタリアの街を淡い月が照らす夜

(……きっと、もう到着された頃だよね)

明日、朝一で開かれる会合に出席するために、
ゼノ様は今夜遅くにウィスタリアにいらっしゃるとユーリが教えてくれた。

(…明日になったら、お逢いできるのは分かっているけれど)

すぐ近くにいらっしゃると思うと、なんだかいてもたってもいられなくなってしまう。

(それに……)

窓から覗く月を見上げていると、この月を一緒に見たいという気持ちが込み上げる。

(ユーリには一人で出歩いちゃダメだって言われたけど、少しだけでいい…)

***

部屋の扉をそっとノックすると、ゆっくりと開かれて……
ゼノ:…吉琳?

(……ゼノ様)

一目見ただけで、胸が大きく跳ねる。
吉琳:明日になればお逢いできるのはわかっていたのですが…
吉琳:どうしても逢いたくて来てしまいました
ゼノ:…そうか
吉琳:お疲れなのにすみません、今夜は顔だけでも見られればと思ったので、部屋に戻りますね

(…ダメだな、顔を見たらもう少しだけ一緒にいたいと思ってしまう)

ゼノ様のお顔を、窓から差し込む淡い月の光が照らしていく。
胸の疼きを隠すように、私は手にしたバスケットをゼノ様に差し出す。
ゼノ:これは?
吉琳:まだ夕食を召し上がっていなかったらと思って。良かったら食べてください
そう言い残し戻ろうとしたその時……

(…?)

廊下に足音が響いていく。
ゼノ:……見回りか。吉琳…来い
吉琳:…!
ぐっと腕を引かれて、部屋の扉が閉まり……

***

ゼノ様の広い腕の中に閉じ込められ、その場に二人で座り込む。

(……びっくりした、それに…)

その場に座ったまま視線を上げると、
ゼノ様の顔がすぐそばにあってまた胸が高鳴っていく。
ゼノ:…今外に出ると、また見回りと鉢合わせするかもしれない
ゼノ:…もう少しここに…――
言いかけた言葉がふっと途切れる。
吉琳:ゼノ、様…?
ゼノ:いや、俺がそばにいてほしいだけだな
ゼノ:お前の顔を一目見たら、離れがたい…そう思ってしまった
少しだけ戸惑うような表情に目を奪われる。
吉琳:私も……、ゼノ様といたいです。あ…そのご迷惑でなければ
ゼノ:お前はいつもそうだな。…俺がそばにいてほしいのだが?
優しい瞳に見つめられて互いに唇を寄せたその時……
吉琳:…………
廊下からまた足音が響いていく。

(…ここにいることが知られたら、ゼノ様にご迷惑がかかるかもしれない)

眉を寄せたその時、首筋に柔らかい感覚が触れた。
吉琳:……っ…ゼノ様…
ゼノ:離れがたいと言っただろう?
ゼノ:俺も国王である前に、一人の男だ。…今夜はお前を抱いていたい

(……こんな目で見つめられたら、離さないでいてほしいと思ってしまう)

背中に腕を回すと、言葉が口から自然とこぼれ落ちていく。
吉琳:抱いていてください…一晩中
その瞬間、衝動的なキスが落とされて、ドレスを脱がされていく。
ゼノ様の手が胸に触れて、甘い感覚に吐息がこぼれる。
吉琳:ん…っ…、っ

(いけない…声が外に聞こえたら)

きゅっと唇を噛みしめると、ゼノ様の指が唇を押し開けていく。
ゼノ:…噛むな、その代わりに唇を塞いでおく
吉琳:…ぅ…ぁ
声も、吐息さえも奪うようなキスに、甘い眩暈を覚えた。
微かに吐息がこぼれる部屋で、ゼノ様のシャツが落ちる音が響く。

(…溺れそう、でも…――)

唇が一瞬だけ離れた瞬間に、床に置いていた手をぎゅっと握りしめる。
ゼノ:…どうした?
吉琳:ずっとキスをしていたら…ゼノ様のお顔が見えません
吉琳:だから…、頑張って我慢します
ゼノ:…………
吉琳:あの…
ゼノ様は目元を優しく和ませると、私に髪をすくってキスを落とす。
ゼノ:そんな言葉を言われたら……声を抑えきれなくなるくらい
ゼノ:お前を愛したくなった

(ゼノ様……)

ゼノ様の手が腰に触れて、甘い感覚に息を呑む。
ゼノ:……っ…吉琳
吉琳:……ぁ…っ
ゼノ様から与えられる熱を受け止めながら、頭の片隅でユーリの言葉を思い出す。

〝ユーリ:悪い狼さんに食べられちゃうかもしれないし〞
〝吉琳:それじゃ、赤ずきんのお話みたいになっちゃうよ〞
〝ユーリ:吉琳様、あれに出てくるより、もっと悪い狼かもしれないよ…?〞

お互いに吐息をこぼしながら、夜に溶けるような暗い髪に手を伸ばすと、
ゼノ様が淡い月灯りの中、微笑んでくださる。
ゼノ:……愛している、吉琳

(……ゼノ様になら)
(いくらだって食べられてもいい)

お互いの存在を確かめるように、私たちは満月の夜に肌を重ねていった…――

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レオのストーリーを読む

101703  

――…無数の星に囲まれて、月が淡い光を放つ夜

(…この辺にあったはずなんだけどな)

官僚執務室の本棚を指で辿りながら探していた本を見つけたその時……
レオ:吉琳ちゃん…?
突然聞こえた声に驚いて振り返ると、そこにはレオの姿があった。
吉琳:レオ……っ、びっくりした……
レオ:びっくりしたのは俺の方だよ。こんな遅くにどうしたの?
吉琳:今日、読んでた資料の続きが気になって取りに来たんだけど…
言いかけると、レオが眉を下げて私の顔を下から覗きこむ。
レオ:俺、明日にしようって言ったよね?

(…レオと今日の勉強中に約束したことは覚えてるけど)

目を伏せると、レオの手が髪をそっと撫でる。
レオ:頑張り屋さんなところは大好きだけど、頑張りすぎるのはダメだよ
レオ:それにこんな夜遅くに一人でいたら何があってもおかしくないし…
レオ:吉琳ちゃんも、声かけた時すごく驚いてたでしょ?
吉琳:それは…ユーリがさっき驚かせるようなことを言うから
レオ:ユーリが…?
私は頷いて、ユーリと交わした言葉をレオに話していった……

***

レオ:……夜中に歩いてたら、狼に食べられる、か
吉琳:そう、けどよく考えたら夜中に出歩いちゃいけないよってことだったんだと思うけどね
そうかもね、そうレオは呟くと満月を見つめながら呟く。
レオ:ねえ、吉琳ちゃん。言いつけを守らなかった赤ずきんはどうなったんだっけ

(えっと……)

吉琳:確か、狼に…――っ…!
レオ:そう、食べられる
レオはソファーに私を押し倒すと、編んでいた髪をほどいていく。
吉琳:レオ…っ
レオ:抜け出したお仕置きに、…今夜は俺に食べられてよ
吐息が唇に触れて、噛みつくようなキスが降ってくる。
必死にキスを受け止めていたその瞬間……

(あ…れ?)

レオの顔を近くで見て、ハッとする。
唇が離れたのを合図に、レオの肩を掴んで体勢を反転させるように、
ソファーに押し倒した。
レオ:…吉琳、ちゃん?
レオの顔が月灯りに照れされる。

(………やっぱり)

レオの目の下には、うっすらとクマができていて胸が締めつけられた。

(レオは私に頑張りすぎちゃダメだよって言ったけど…それは自分の方だよ)

吉琳:……食べられるだけじゃ、嫌
レオ:え……?
吉琳:私もレオに頑張りすぎちゃダメだよって教えないといけないから…
触れるだけのキスを落として、レオのシャツをぎゅっと掴む。
吉琳:頑張りすぎたお仕置き
レオ:…………
吉琳:……頑張りすぎなのは、レオの方でしょ?
レオは目を見開くと、口元に笑みを浮かべた。
吉琳:…っ…どうして笑ってるの?
レオ:逆効果だよ、吉琳ちゃん。これじゃもっと頑張っちゃうかも
吉琳:え…
レオ:だって…――
下から伸びてきたレオの指が、私の唇を薄くなぞる。
レオ:吉琳ちゃんのキスは、俺にとってご褒美だから

(……っ…)

レオ:もっと、ちゃんとしたお仕置きしてよ
レオにじっと見つめられて、頬が熱を帯びていく。

(よく考えたら…この体勢すごく恥ずかしい。それに……)

吉琳:…もっとちゃんとしたお仕置きなんて、できないよ
レオ:それじゃ…俺がお手本見せてあげる
レオの手が肩ひもを解いて、お腹までドレスをおろされる。
月灯りに照らされながら、両手首を掴まれてレオの視線が注がれた。
吉琳:レオ…
レオ:…どう、されたい?
吉琳:恥ずかしいから…、体、隠させて
レオ:いいよ、それじゃ…
手首を掴んだまま、レオの唇が胸に触れて柔らかな髪が肌を掠める。
吉琳:ぁ…
レオ:これじゃ…隠してることにならない?
吉琳:…だって、レオが見てる
レオは唇の動きを止めると、私の肩に額を預けた。
吉琳:レ…オ?
レオ:……本当は、ここまでにしようと思ってたんだけど
レオ:やめられそうに…、ない
レオ:部屋まで送って、寝てほしいのに
レオ:寝かせたくない
矛盾してる、そうレオは眉を寄せて笑う。

(…同じ、だよ)

レオも私も、休んだ方がいいのはわかっていた。
けど、どうしようもなくレオに触れられたい、このまま離れたくない、
そんな衝動が込み上げる。
吉琳:…やめないで
レオ:吉琳ちゃん…
吉琳:私も、もう少しレオといたい…触れて、ほしい
レオ:……っ…
吉琳:そのあとに、一緒に寝よ…?
レオ:……ほんと、反則
レオは胸にキスをしながら、上着とシャツを落としていく。
レオ:それじゃ、一緒に寝られるように、頑張らないとね
吉琳:何を……?
レオが上目遣いで私を見つめて、腰に手を滑らせた。
レオ:満足するまで吉琳ちゃんに触れないと…
レオ:今夜は寝かしてあげられそうにない
息を呑んだその瞬間、吐息さえも奪うようなキスが落ちてくる。
ソファーの上で絡ませたレオと私の手を、
淡い月の光がいつまでも照らしていた…――

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2014年12月に開催していた『Pretty Bedroom』のカイン・ノア・ルイのシナリオが読めちゃうよ☆

101796

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カインのストーリーを読む

101797

――…澄んだ冬の空に、雪が舞い散る静かな夜
…………

(よし…!今夜はカインも部屋にいるって言ってたし)

カインの部屋の扉の前で息をついて、数日前のユーリとの会話を思い出していく。

〝ユーリ:…ってことで、俺がとっておきの甘え方を教えてあげる〞
〝ユーリ:でも、二人って口を開けば言い争いばっかりだし甘える以前の問題かも〞
〝吉琳:それは…そうだけど〞
〝言葉を濁すと、ユーリはにこっと微笑んできっぱりと告げた。〞
〝ユーリ:まずはカイン様の前で大人しくして、女の子らしくいるっていうのはどう?〞

(甘えるとはちょっと違う気がするけど…)
(カインが可愛いって思う女の子になれたら、甘やかしたくなってくれるのかな)

意を決して、カインの部屋の扉をノックすると何も反応が返ってこない。
首を傾げて、そっと扉を押し開けると……
吉琳:カイン?
カイン:…………おう
部屋に入ると、ベッドの上に座ってアクション映画を観ているカインの姿が見えた。

(全然こっち見てくれない)

テレビのリモコンに手を伸ばそうとしたけれど、
思い留まってカインの隣に座る。

(大人しく、それで女の子らしくしてないと)

じっと黙ってテレビ画面を見つめていると、カインの視線が向けられた。
カイン:どうした……具合でも悪いのか?
腕が伸ばされて、カインの手が熱を測るように額に添えられる。
吉琳:…え?
カイン:いつもならもっと…、なんだ。うるせえだろうが
吉琳:うるさいって…
カイン:なんかおかしくねえか。あー…これみたいだ、ほら
カインの手には、カインの部屋に私が置いていってしまった、
テディベアがウサギのパーカー着ているぬいぐるみが握られている。

(…くまなのに、うさぎみたいに振る舞ってるってこと?)

なんだか悲しくなってきて、目を伏せるとカインの手が頭を撫でる。
片手でテレビが消される気配がして、視線を上げるとカインがこっちを見つめていた。
カイン:言えよ、お前が変だと調子狂うだろうが
吉琳:…甘える、方法をユーリに聞いたら、大人しくして女の子らしくいればいいかもって
カイン:…あ?どうしてそれが、甘えることに繋がんだよ
不思議そうな表情に、焦れたように胸が痛む。
吉琳:…だって、カインが可愛いって思う女の子でいれば
吉琳:嫌でも甘やかしたくなるでしょ…?
カイン:………馬鹿が
ぼそっと呟かれて言葉を聞き返そうとすると……

(…!)

手首を掴まれてベッドに組み敷かれ、カインの吐息が首筋に触れる。
カイン:馬鹿が。俺は、お前がお前だから惚れたんだろうが
カイン:俺はお前をいつだって甘やかしたい
カイン:……いつだって、可愛いと思ってる
吉琳:カイン…
カイン:なにわかりきったこと聞いてんだ、言わすな…クソ
表情を隠すように、噛みつくようなキスが落とされる。
吉琳:ん…っ…、っ
苦しくなって胸を叩くと、カインが吐息をこぼす。
カイン:…やめねえからな。またくだらねえこと考えないように叩き込んでやるよ
カインの手が足に触れて、キスがしだいに深くなっていく。

(私はカインのありのままを好きになった)
(その気持ちと同じなら、私はただ私のままでカインに甘えればいいんだね)

お互いの吐息がしだいに乱れていく中、カインの腕の中で尋ねる。
吉琳:もう大人しくしなくていい…?
カイン:ああ、らしくねえって言ってんだろうが
精一杯の想いを込めて、髪を撫でてくれる手をぎゅっと掴む。

(いつだって甘えるのは下手だけど、この気持ちだけはほんとだよ)

吉琳:あのね、カイン。好きだよ、今夜は一緒にいてくれる?
カイン:……っ…!
吉琳:…っ…どうしてカインが黙るの
カイン:やっぱお前大人しくしてろ。俺がもたねえ……
目を見開くと、言葉を塞ぐようなキスがまた落ちてくる。
不器用な甘え方しかできない私と、不器用にしか甘やかせないカイン。
だけど交わすキスと、流れ込んでくる気持ちはとびっきり甘かった…――

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ノアのストーリーを読む

101798

――…ウィスタリアに何度めかの雪が舞い落ちる夜
…………

(…今夜は、ノアに甘えたい)

ノア:へー、あそこの遊園地、新しいアトラクションできたんだってー
ベッドに並んで座りながら、雑誌を読んでいるノアをちらっと見る。
横顔を見つめながら、数日前の会話を思い返していた。

〝ユーリ:…ってことで、俺がとっておきの甘え方を教えてあげる〞
〝ユーリ:甘えるなら、やっぱり直球勝負だよね〞
〝吉琳:……直球?〞
〝ユーリ:そう。色仕掛けだよ。上目遣いとか、肩に頭を預けるとかあるでしょ〞

(色仕掛けなんてしたこと無いけど)

意を決して、ノアの顔を覗き込む。
吉琳:ノア
ノア:…………
慣れない上目遣いでノアを見つめると、呑気な声が響く。
ノア:俺の髪に何かついてるー?
吉琳:…ううん。ごめん、なんでもない
ノア:そー?

(…ダメだ。それなら…!)

手のひらをきゅっと握って、ノアの肩に頭を預けると……
ノア:眠いなら、俺部屋に戻ろうか?
大きな手のひらが髪を一瞬だけ撫でて、ノアがベッドから腰を上げようとする。
吉琳:…っ…待って
ノア:なあんて、冗談。戻るわけないよ
吉琳:……え?
ノア:だって吉琳、今夜は甘えたい気分なんでしょ
顔を覗き込まれて、思わず息を呑む。
吉琳:気づいてたの?
ノア:はい
吉琳:はいって…

(…バレてたなんて、恥ずかしすぎる)

ノア:吉琳は何にもわかってない
柔らかい笑みが聞こえ、そっと肩を押されて……

(…!)

いとも簡単にベッドに組み敷かれ、顔に影が落ちた。
ノア:甘え方なんて、ほんとはどうだっていい
ノア:甘えたいって頑張るところが、一番可愛いんだよ
吉琳:…ノア
ノア:そーいう表情、ずっと見てたくて意地悪しちゃった
ノアが触れるだけのキスを落として、口角を持ち上げる。
ノア:ごめん

(……ほんと、ノアのこういうとこずるい)

だけど、髪を撫でてくれる手が優しくてずっとこうしていたいと願ってしまう。
吉琳:その分…、甘やかしてくれればいいよ
ノア:この状況で、そーいうこと言うのどういう意味かわかってる?

(そんなの…わかって無かったら、最初から甘えようなんて思ってない)

頷くと、ノアが息をついてもこもこのパーカーに手をかける。
ノア:…吉琳って、きっと自分が思ってるより俺に甘えるの上手いよ
ファスナーが下げられて、ノアの手が素肌を滑っていく。
吉琳:……ぁ…
ノア:ほら、こういう声出すのは反則
甘やかすように肌にキスが落とされて、体の熱が上がっていく。

(きっと、甘えたいと思うのも…可愛いと思われたいと思うのも)
(ノアに恋してるからだよ)

滲んだ視界で見上げると、ノアが微笑む。
ノア:吉琳を甘やかすのは、俺だけの特権
ノア:だから、嫌って言うほど甘やかされなよ
独占されるような言葉と、体温に浮かされて、
不器用な仕草でノアの背中にそっと腕を回した…――

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ルイのストーリーを読む

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――…白い粉雪がお城の外を白く染め上げる夜
…………
真夜中、部屋の扉がノックされて開けるとそこには…
ルイ:遅くにごめん。これ、明日使う書類、必要だと思って
吉琳:ルイ、ありがとう
書類を受け取ると、ルイは微笑んで涼やかな声で告げる。
ルイ:それじゃ、おやすみ。吉琳

(…今夜は、もう少しだけここにいて欲しい)

その瞬間、ユーリと交わした言葉が一瞬でよみがえった。

〝ユーリ:…ってことで、俺がとっておきの甘え方を教えてあげる〞
〝ユーリ:あえて何も言わなくていいんだよ〞
〝吉琳:え?〞
〝ユーリ:ただ、袖を引っ張るだけで気持ちって伝わるはずだから〞

足を踏み出したルイを引き止めるように、シャツの袖に手を伸ばして掴む。
吉琳:あの…
目を伏せると、ルイが柔らかく笑う気配がした。
ルイ:もう少し、ここにいてもいい?
目を見開くと、ルイは私の手を引いてベッドに腰を下ろす。
吉琳:どうしてここにいて欲しいって思ってるってわかったの?
ルイ:やっぱり…合ってて良かった
思わずこぼしてしまった言葉が恥ずかしくて、息をつくとルイが笑みを深める。
ルイ:それくらいわかるよ
ルイ:吉琳のことは、いつも見てるから。だけど…
ルイの穏やかな瞳に捉えられて、頬に手が添えられる。
ルイ:もっと深い気持ちは、わからないから…教えてくれる?
ルイの真っ直ぐな言葉が、じんわりと胸に沁み込んできて不意に思う。

(…甘えるって、自分の気持ちを素直に伝えることなのかもしれないな)
(ちゃんと、伝えたい)

吉琳:ルイと、一緒にいて、それで…甘やかして欲しかったの
ルイ:甘やかす…?
吉琳:らしくないし、わがままだけど…そういう気持ちになったから
一息に告げると、ルイが私のナイトドレスの袖に手を伸ばす。
ルイ:吉琳

(…?)

さっき私がやったように、袖をくいっと引いてルイが悪戯に微笑む。
吉琳:ここに、いてくれるって…こと?
ルイ:正解
ルイが私を正面から抱きしめて、耳に唇を寄せる。
ルイ:吉琳がちゃんと言葉にしてくれたから、俺もあとは言葉にするよ
ルイ:ここにいて、今夜は君を甘やかしてもいい?
胸がぎゅっと締めつけられて頷いた瞬間、ルイの唇が唇に触れる。
吉琳:ん…、…ぅ
ルイ:背中に手、回してて
背中に手を滑らせると、ルイの手がニーハイを脱がせていく。
吉琳:ルイ…っ
恥ずかしくて目を伏せると、ルイの手がうなじに回される。
ルイ:駄目…ちゃんとこっち見て。それで甘やかされて
視線が重なると、ルイが微笑んで胸元に唇が寄せられる。

(…今夜はこの腕に甘えてたい)
(それで、夜が明けたら…私がルイを甘やかしたい)

吐息をこぼしながら、ふとユーリの言葉を思い出す。
――…甘えてこそ、甘やかせるってあると思うけど
その言葉を噛みしめながら、お互いの気持ちをわけ合うようなキスをした…――

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2015年5月に開催していた『Secret Heart』のカイン・アラン・クロード・レオのシナリオが読めちゃうよ☆

101885  

 

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カインのストーリーを読む

101886

――…雲一つない夜空にくっきりと白い月が浮かぶ夜
部屋に入ると、すでに吉琳はベッドに横になっていた。

(一緒に映画見ようとか言ってたくせに寝てるとか、何様なんだ)

近づいて行き、ベッドに腰かけて顔を見下ろしながらそっと名前を呼ぶ。
カイン:おい、吉琳
吉琳:…………

(まあ、いつも公務頑張ってるし…疲れてんのかもな)

髪を撫でようと手を伸ばした時……
吉琳:カイン、掴まえた!
カイン:は?
シーツから飛び出した手に手首を掴まれて、思いきり体を引っ張られる。
カイン:…っ、おい…!
ベッドに引き倒された途端、顔に枕が押しつけられた。
カイン:……っ
カイン:てめえ、何す……ん?
押しつけられていたものを外して文句を言いかけた時、
枕からふわりと甘い香りが漂う。
カイン:なんだこの香り…
吉琳:気づいた? カインの枕に香水をつけてみたの
カイン:…人がいねえ間に、なに勝手なことしてんだよ
吉琳は顔を覗き込むと悪戯っぽく笑った。
吉琳:今からカインは私に、本当の気持ちしか言えなくなります
カイン:あ? んなわけねえだろ
吉琳:あるの、香水の効果が本物ならね
そう言って、吉琳は香水の香りの持つ効果について語った。
カイン:本音が隠せなくなる香水…?
カイン:んなもんあるわけねえだろ

(でももし本当なら…俺がいつも思ってること、こいつにバレるってことか)

吉琳:うん。というわけで、今からカインに質問します
カイン:…っ、絶対答えねえからな
吉琳:効果がないと思ってるなら答えてくれてもいいでしょ?
吉琳:じゃあ、一つめの質問…
カイン:おい…っ
吉琳:カインは私のことどう思ってる?

(こいつ…!)
(でも、口開かなきゃいいんだろ)

そう思っていたのに……
カイン:…誰より大切にしてえ存在だ
カイン:…!
勝手にこぼれ出た言葉に目を見開く。
吉琳:え…
カイン:ば…っ、信じてんじゃねえ!

(なんだ、これ)
(確かに今言ったことは、俺の本心だ)
(まずい…この香水の効果、本物かもしれねえ)

吉琳:カイン、もしかして…
カイン:…なんだよ
吉琳:な、なんでもない。じゃあ、二つめの質問いくね
カイン:…っ
やめろと言う前に、吉琳は口を開いた。
吉琳:カインが私に望むことは何?
カイン:…ずっと、そばにいてくれることだ
カイン:…っ、馬鹿が。勝手に答えてんじゃねえ俺…!
吉琳:やっぱり! カイン、香水が効いて…
カイン:クソ、お前もう喋んな!
吉琳:あ、カイン……んっ…
吉琳の後頭部を引き寄せて、キスで口を塞ぐ。

(…こうしてりゃ質問もできねえだろ)
(それに、こうしてる間は余計なこと口にしなくて済む)

吉琳:カイン、待……ん、ぅ…
余計なことを言わせないようにキスを深くしていくと、
背筋を震わせるような甘さに目的を忘れそうになり、そっと唇を離す。

(こいつの唇、すげえ柔らかくて…)

カイン:…お前の唇、甘い
カイン:喋らせねえためにしたのに…もっと欲しくなる
吉琳:今のも…本心?

(…ほんと、今日は隠せねえ)
(素直すぎて俺じゃねえみてえだ)

カイン:ああ。お前がもっと欲しくなった…悪いか?
言葉を落としながら吉琳のトップスの内側に手を忍ばせていく。
吉琳:悪く…ないよ
そう言って、吉琳は頬を染めながら柔らかく微笑んだ。
吉琳:でも…この香水が切れても、たまには素直な言葉聞かせてね
カイン:…たまにはな
吉琳:ん……
言葉を塞ぐためにキスをする間も、吉琳への気持ちが膨らんでいく。

(どれだけ素直に本音が話せたって…)
(伝え足りねえくらい、こいつへの気持ちがあふれてく)
(ほんと、馬鹿みてえに俺は…)

そっと伸ばされる腕を首の後ろに回させて……
カイン:…吉琳が好きだ
近づいた耳に想いをささやくと、吉琳が嬉しそうに口元を綻ばせる。
内緒話をするように吉琳の唇が耳に寄せられて、
香水の香りよりもずっと甘い言葉が届いた…――

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アランのストーリーを読む

101887

――…濃紺の空に欠けることのない月が浮かぶ夜
…………

(結構遅くなったな…)

吉琳と一緒に過ごすため部屋に戻ろうとした時、
自分の部屋の中から何かの割れる音と小さな悲鳴が聞こえた。
アラン:…!
部屋に飛び込むと床に割れた瓶が広がり、
口元を押さえている吉琳の姿があった。
アラン:…何してんの
吉琳:アラン…!

(怪我はないみたいだけど…)

アラン:俺が片づけるから吉琳は離れてて
屈んで割れた瓶に手を伸ばすと、ふわりと甘い香りがする。

(なんだこれ、香水…?)

吉琳:アラン、その香り吸いこんじゃだめ…!
アラン:は…? もう吸いこんじゃったけど
吉琳:……ごめん、アラン

(…こいつ、なんで謝ってんの?)

吉琳は気まずそうに目を伏せると、真剣な表情で話し始めた…――

***

アラン:ふうん…本音の隠せなくなる香水、ね
吉琳:ほんとにごめんね、何ともない?
眉を下げて謝る吉琳を見ていると、からかいたい気持ちが込み上げる。

(だめかもって言ったら、こいつどうすんだろ)

そう言おうと口を開いた時……
アラン:何ともない…大丈夫
言おうとしたのとは違う言葉が出て来て思わず口を押さえる。

(…っ、なんだ今の)

吉琳:アラン?

(…本音が隠せなくなるって、こういうことかよ)

息をついて、吉琳に向き直る。
アラン:…さっきの香水、やっぱちょっとおかしいかも
吉琳:え…?
アラン:今言うつもりなかった言葉が、勝手に出てきた
吉琳:えっ…じゃあ、今アランは本音を隠せないってこと?
その途端、吉琳はハッと顔を上げて目を輝かせた。

(…なんか嫌な予感)

吉琳:ねえ、アラン…
アラン:お前、何聞こうとしてんの
吉琳:だって、今アランは本音しか話せないんだよね
吉琳:アランの本当の気持ち、聞きたい
アラン:…絶対言わない
顔を逸らすと小さな手が頬を包んで、楽しげな瞳に真っすぐ見つめられる。
吉琳:教えて、アランの好きな人って誰?
アラン:…っ…
答えないようぎゅっと口を引き結ぶけれど……
アラン:…俺が好きなのは、吉琳
吉琳:……っ
自然とあふれ出ていく言葉に、苦い気持ちが込み上げる。

(ほんと厄介だな、これ…)

思わず息をつきそうになった時、吉琳の顔が赤くなっていることに気づいた。
アラン:お前、自分で聞いといて照れるとか…

(そういうとこ、ほんと…)

アラン:――可愛い
吉琳:ア、アラン…
首筋まで真っ赤になった吉琳を見ていると、一つの考えが浮かぶ。
アラン:そっか、こういうのもありかもな
吉琳:アラン?

(どうせ隠せないなら…)

アラン:…全部言って困らせればいいだけか
吉琳:え?
アラン:なんでもない。次の質問は?
吉琳:…も、もういいよ
アラン:そう? じゃ、勝手にお前の好きなとこ話す
吉琳:なんで…っ
アラン:俺が伝え足りないから
目を見開いた吉琳の腰を素早く引き寄せて、
言葉を塞ぐように唇を重ねる。
吉琳:ん……っ
唇を離して、赤みの増した吉琳の顔を覗き込む。
アラン:嫌なら、今俺がしたみたいに止めれば?
吉琳:そんなこと…
アラン:ほら、これなら止めやすいだろ
唇に吐息の触れる距離まで近づくと、吉琳は困った表情を浮かべる

(形勢逆転、だな。でも、本番はここから…)

吉琳の耳に唇を押し当てながら、言葉を重ねていく。
アラン:お前の好きなとこは…まず、頑張り屋なとこ
アラン:いつも、まっすぐなとこ

(こいつの好きなとこなんて、考えなくてもいくつでも浮かんでくる)

アラン:俺を見ると…すげえ嬉しそうな顔するとこ
吉琳:…っ…
びくっと肩が震えたことに気づいて顔を離すと、
吉琳はぎゅっと目を閉じていた。
アラン:顔真っ赤だけど…止めなくていいわけ?
吉琳:…できないよ
ついに両手で顔を覆った吉琳に笑って、耳にキスを落とす。
アラン:やっぱりな。こうすれば、お前のそういう顔が見られると思った
吉琳:…じゃあ、今までの言葉は嘘なの?
アラン:嘘じゃない。言ったことは全部ほんと
アラン:それに、俺に本当に思ってることしか言えなくさせたの、お前じゃないの?
吉琳の手を優しく掴んで顔から離すと、潤んだ瞳が現れた。
その瞳を見ていると、不思議といつも胸の奥が甘く痺れる…今もそうだった。

(たまには、こうやって伝えるのもいいかもな)

吉琳:アラン…
揺れる瞳にふっと笑って、吉琳と指を絡める。
アラン:それでも信じられないって言うなら…
吉琳:…あっ…
吉琳の体を優しくソファーに倒して、ドレスの裾から手を差し込んでいく。
膝から上へ柔らかな肌をなぞっていくと、吉琳は甘い吐息をこぼした。
アラン:こうやって言葉以外で…伝えてやるよ
言葉も吐息も包むように唇を重ねて、温もりに触れていく。
香水よりも夢中にさせる吉琳の香りを感じながら、
夜に体を沈めていった…――

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クロードのストーリーを読む

101888

――…月がゆっくりと漂う雲を淡く照らす夜
二人でベッドに腰かけた時、吉琳が遠慮がちに出してきた物を見て息をついた。
クロード:お前…それ俺に渡す気か?
吉琳:だって一番本音を聞きたい相手はクロードだから
クロード:個人的には、ぜひジルに使ってみて欲しかったんだけどな
吉琳の手から香水瓶を取り上げ、蓋を開けてほんの少し手首につける。
吉琳:えっ、クロード?
クロード:ほら、これでお望み通りだろ

(多少甘い香りだが…やっぱり普通の香水みたいだな)

吉琳:クロード、何ともない…?
心配そうに見上げる吉琳に悪戯心が湧いた。

(少し、驚かせてみるか)

クロード:……っ
吉琳:クロード!?
胸を押さえながら眉を寄せてベッドに倒れ込むと、慌てた声がする。
吉琳:クロード、しっかりして…!
クロード:…………
吉琳:どうしよう、私が香水を渡したから…
頭上から聞こえる声が必死で、思わず笑みを浮かべそうになった。

(そろそろ、やめておくか)
(これ以上は吉琳が泣きそうだからな)

クロード:いい反応をどうも、吉琳?
吉琳:え…、あ…っ
目を丸くした吉琳の手を引いて腕の中に抱き込む。
吉琳:ちょっと…クロード!
クロード:吉琳は本当に俺のことが好きなんだな。よく伝わったよ
吉琳:…っ、そういうクロードはどうなの
照れたように口を尖らせる吉琳に笑みを浮かべた。

(俺も……)

クロード:…お前が好きだよ
吉琳:え?
クロード:…!
意識する前に言葉がこぼれ落ちて、目を見開く。

(なんだ、今言葉が勝手に…)

吉琳:クロード、今…
驚いた顔で見上げる吉琳の言葉を塞ぐように、頭をそっと胸に抱え込む。

(あの香水の効果は、本物ってことか?)

吉琳:ねえ、もしかして香水の効果が…

(…本音が全て伝わるっていうのは、厄介だな)

クロード:ちょっと、黙ってろ
体を離して吉琳の顎に手をかけ、唇を押し当てる。
吉琳:んっ……
吉琳:クロード待って、…ぁ…っ
角度を変える合間に口を開いた吉琳の言葉ごと、キスで塞ぐ。

(俺は、何を焦ってるんだ…?)
(…ああ、そうか)

無意識の癖が本音をこぼすことを阻んでいることに気づく。

(この焦りは、ずっと本音を隠して生きてきたからなのかもな)

吉琳の体から力が抜けて唇を離すと、揺れる瞳と視線が重なった。
吉琳:そんなに本音を聞かれたくないの…?
クロード:…っ

(吉琳は、どうして…)

クロード:お前はどうしてそう、ときどき鋭いんだ…?
吉琳:え…?
息をついて、吉琳の肩に額を預ける。
クロード:たとえ吉琳相手でも、自分の本音も全てさらけ出すのは――
こぼれ落ちそうになる言葉を何とか呑み込み、望む通りの言葉をはき出す。
クロード:…苦手かもな

(それに、いつだって強くありたい)

その時小さな手が伸びて、そっと頭に触れた。
クロード:吉琳?
吉琳:ごめん…ちょっと、嬉しかった
クロード:嬉しい…?
頷いて吉琳の手が優しく頭を撫でる。
吉琳:完璧で強くて大人で…そんなクロードも好きだけど
吉琳:私はそんなクロードの表情だけを見て好きになったわけじゃない
吉琳:それに、たまには甘えてほしいんだけどな
照れ混じりの柔らかな言葉が、染み渡るように胸に広がっていく。

(吉琳が相手なら…素直になるのも悪くないかもしれないな)

クロード:それなら、今日だけ…お前に甘えてもいいか?
吉琳:…だめ
小さく笑って、吉琳が触れるだけのキスをした。
クロード:吉琳…?
吉琳:今日だけなんて、だめ
吉琳:もしこの香水の香りが消えても…クロードを甘やかすのは、私の役目なんだから
クロード:…お前には一生敵いそうにないよ、吉琳
得意げに笑う吉琳の唇にキスを落として、ドレスのリボンに手をかける。

(…いつもは言葉を塞いでしまうけど)
(本音が言える今だから、吉琳に伝えたい)

クロード:…ありがとう、吉琳
熱を帯び始めた瞳が優しく細められて、小さく頷く。
あふれる愛しさを伝えるように抱きしめて、柔らかな温もりに触れていった…――

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レオのストーリーを読む

101889

――…月に雲がかかることなく、綺麗な光でウィスタリアを照らす夜
…………
吉琳:よし…っ…、終わった!
レオ:うん、お疲れ様。吉琳ちゃん

(…もう、こんな時間か)

官僚の人たちから頼まれた資料が完成した頃には、
もう時計の針は真夜中12時をさそうとしていた。
吉琳:一緒に作ってくれてありがとう、レオ。助かったよ
レオ:それは俺の言葉だよ。明日の報告会は大丈夫そう…?
吉琳:うん、頑張るよ。ここまでレオと一緒に資料を作ったしね
大丈夫、そう尋ねると、吉琳はいつも笑いながら、
『頑張る』、そうまるで口癖のように言う。

(…こういう言葉とか、表情を見ると何でもしてあげたくなる)
(本当に、真っ直ぐな子だよな)

柔らかい笑顔を浮かべたままの横顔を見つめていると……
吉琳:そうだ…これ、クロードからもらったんだけど、レオに渡したいなって思ってたんだ
吉琳が、コトンと机の上に綺麗な瓶を乗せる。
吉琳:本音が聞ける香水って呼ばれてて、城下ではやってるみたいだよ
目の前の香水瓶を見て、自分もクロードから香水をもらったことを思い出す。
レオ:それなら、今日俺もクロードにもらったよ。…確か、ほらこれ
引き出しを開けて、隣に少しだけ形が違う香水瓶を並べる。
吉琳:なんだ、確かクロードたくさんもらったって言ってたかも

(…けど、俺には本音が聞ける香水だ、なんて言ってなかったけどな)

きっとクロードが吉琳をからかったんだろう、そう気づくと、
ちょっとした悪戯心が湧いてきた。
レオ:ねえ、吉琳ちゃん。試してみない?
吉琳:え…?
レオ:本当に本心を隠せなくなるのかどうか、俺がこれ使ってみるからさ
そう言って、自分でクロードからもらった方の香水を手首に吹きかける。

(……やっぱりなんともない、か)

吉琳:…レオ、大丈夫? なんともない?

(心配そうな顔。こういう顔が見たくて、クロードも悪戯したんだろうけど)

レオ:……これ、やっぱりおかしいかも
吉琳が目を見張った表情に笑みがこぼれそうになるのを堪えながら、
眼鏡を取って吉琳の顔を覗き込む。
レオ:そうだ、何か質問してみてよ
吉琳:質問…?
レオ:そう、何でもいいよ。どんな女の子が好きかとか…私のことどう思ってるの、とか
吉琳は少しだけ困ったように眉を下げてから、ぽつりと呟いた。
吉琳:それじゃ、……レオは今、疲れてない?
レオ:え…
吉琳:いつもレオは大丈夫って、私に聞いてくれるでしょ?
吉琳:でも、レオが弱音をはいてるところを見たことがないから

(……そんなこと聞かれると思わなかった)

レオ:全然、疲れてないよ。それに、吉琳ちゃんと話して元気もらってるからさ
本当は少しだけ疲れていた心を見透かされた気がして、とっさに笑顔を作ると、
吉琳が困ったように眉を寄せる。
吉琳:やっぱりこの香水、本音が聞ける香水なんかじゃないかも

(…?)

吉琳:だって…――
手が髪に伸ばされて、まるで子どもをあやす時みたいにそっと優しく撫でられる。
レオ:……っ…
吉琳:やっぱり私には少しだけ疲れて見えるから

(…なんだ……、これ)

じんわりと伝わってくる穏やかな体温に、心がほどけていく。
吉琳:たまには、甘えてほしいと思うよ
レオ:………吉琳ちゃん、くすぐったい
吉琳:あ…ごめん
レオ:それに…
視線が重なった瞬間、自分から離れて行きそうな手首を掴まえる。
吉琳:……っ
掴んだ手首があまりに細くて、驚いた。

(…腕の細さも、手のひらの温かさも)
(何もかもが、自分とは違う)

無意識に顔に唇を寄せる。
レオ:こんなこと無防備にされると、誰だって勘違いする
吉琳:勘違い…?
レオ:自分のことが好きなんじゃないかって
目の前の吉琳の頬が、淡く染まっていく。

(違うから、この温かさが欲しくなる…)

レオ:…好きになって、ほしいと思う
吉琳:レオ…?
名前を呼ばれて、吐息が唇に触れた瞬間、掴んでいた手を離す。

(何……、言ってんだ)

無意識に口からこぼれた言葉を、慌ててごまかす。
レオ:なんてね、驚いた?
レオ:本音が聞ける香水が本物だったら、きっとこんな感じかなと思って
吉琳:え…?
レオ:だって俺、吉琳ちゃんのこと大好きだからさ
吉琳:…っ…レオ……!
レオ:ごめんごめん、でも迫真の演技だったでしょ?
拗ねたような表情の中に、どこかほっとした表情が混じっていた。
吉琳:ほんと、まんまと騙されちゃった。レオ、演技上手すぎるよ
レオ:お褒め頂き光栄です。あ…、吉琳ちゃん、そろそろ部屋に戻る時間じゃない?
吉琳:あ…!
吉琳は時計に視線を移すと、書類を抱えて扉に手をかけた。
吉琳:レオ
レオ:ん…?
吉琳:資料一緒に作ってくれてありがとう。…あと
吉琳:ゆっくり休んでね、おやすみ
柔らかい言葉が響いて、その後に扉が音をたてて閉まる。
部屋に残ったのは、柔らかな余韻と、手首に残る吉琳の熱、
そして、わざと軽く告げた好きの言葉だった。
レオ:……これが本物だったら、何を言ってたのかな
吉琳が残した香水瓶を持ち上げて、息をつく。
自分でも予想できない、気づきたくない本音をこぼしてしまうかもしれない。
レオ:やっぱり、これは使えないかな

(自分の本心なんて…気づかなくていい。本音なんて…言わなくていい)
(もし気づいたら……俺は、吉琳ちゃんを…――)

レオ:欲しがっちゃいそうだから
甘い香水の香りで満たされた部屋にレオの声が響く頃、
時計の針が12時をさした…――

 

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2015年4月に開催していた『初めて君を見つけた日』のルイ・クロード・ゼノのシナリオが読めちゃうよ☆

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ルイのストーリーを読む

102060

――…吉琳がガラスの靴を履いた日から、1年の時間が流れて…
…………

(…やっぱり、吉琳はどこにいても人に囲まれる)

招待客が集まり始めると、吉琳はあっという間に囲まれてしまった。
昨日の夜、きっと人に囲まれるよ、そう告げたら、
このパーティーが終わった後に逢おう、そう微笑んで吉琳は小指を差し出してくれた。
カイン:あいつがプリンセスになって1年か。なんかあっという間だったな
ノア:うんーそうだね。そういえば、カインと俺は機内で初めて逢ったんだよね
ノア:ルイは……プリンセスを選ぶセレモニーの時?
ルイ:うん、そう
遠くにいる吉琳を見つめながら、吉琳と初めて出逢った日を思い出す。

(初めて君を見つけた日を思い出すと…)
(俺はいつも少しだけ後悔する)

〝ノア:ルイー、吉琳、あっちに行こ〞
〝ルイ:…………〞
〝ノア:ん、それじゃ交代しよっか。この子は大丈夫だよ〞
〝白い花を胸に付けた吉琳は、〞
〝ノアに促されるままダンスをするために自分と手を繋いだ。〞
〝吉琳:あの…ルイさん〞
〝ルイ:…ルイでいい…………こっち〞

〝(…この子も、きっとプリンセスになりたいだけ)〞
〝(プリンセスになることは…上に立つことは…そんなに楽しいことばかりではないのに)〞

〝ただ黙々と踊っていると、吉琳がふと口を開いた。〞
〝吉琳:あの、このパーティーって一体なんなんですか?〞
〝ルイ:………っ…〞

〝(もしかして、何もしらないでここに……)〞

〝吉琳:あの、黙っていないで教えてください〞
〝ルイ:…知らなくていいこともあるから〞
〝吉琳:ルイさん…あの待ってください〞
〝ルイ:ルイでいいって言った。それと……敬語はいらない〞
〝ルイ:でも…〞
〝ルイ:君は、ここから立ち去ったほうがいい〞
〝ルイ:できるだけ早く〞

(…あの瞬間、俺は君と自分を重ねてた)

突然、慣れない地位に押し上げられて、どれだけ傷つくか。
それは孤児から引き取られて公爵に、
それから第一王位継承者になった自分の心が嫌というほど覚えていた。

(…だから、吉琳にひどく冷たい言葉を告げた)

吉琳が、ここからすぐに逃げられるように。
プリンセスに選ばれて、辛い思いをしなくても済むように。

(だけど…今なら、そんなことは言わない)

その瞬間、吉琳の柔らかい笑い声が耳に届く。

(だって、君は俺が思うよりずっと優しくて…強い)

そして同じような強さが自分の中にあったことに気づかせてくれたのも、
吉琳だった。
吉琳と過ごした時間を思い出すと、どれも鮮明に思い出すことができる。

(けど…君が俺と初めて出逢った日を思い出すとしたら)
(あの、冷たい言葉を思い出すのかな…)

***

――…約束の時間が近づいて、時計の針はもう少しで12時をさそうとしていた
遠くに見える時計台を見つめていると…ガラスの靴の音が響いて、
大好きな甘い香りが鼻をくすぐる。
吉琳:ルイ、ごめんね。…待った?
ルイ:ううん、今戻って来たところ
吉琳はほっとしたように微笑むと、隣に並んでバルコニーに腕をつく。
穏やかな静寂の中、聞きたい言葉が口からこぼれた。
ルイ:吉琳、…最初に出逢った時に、交わした言葉覚えてる?
一瞬だけ目を見開くと、吉琳はまるで言葉を曖昧にするように微笑む。
そして、遠くを見つめながら言った。
吉琳:あのね。ルイ
ルイ:ん…?
吉琳:今日、1年を思い出していて気づいたんだ
吉琳:出逢った日も大切だけど…
吉琳:私はそれからの毎日も、大切だったなって
ルイ:…え?
吉琳が照れたように目を伏せる。
吉琳:…初めてルイと手を繋いだ日は、時間が止まればいいのにって思った
吉琳:…ルイに好きだって言ってもらえた時は
吉琳:…世界中の幸せを独りじめしてる気分だった
吉琳が息をついて、視線を重ねて言った。
吉琳:今、この瞬間もすごく幸せだよ
ルイ:……吉琳
吉琳:それに…
吉琳はまた優しく目元を和ませるて言葉を重ねる。
吉琳:最初に出逢った時の言葉が、ルイの優しさだったって今ならわかるから
吉琳:やっぱりルイと過ごした時間の全部を…大切だって思うよ

(ああ…)

吉琳はいつも先回りして、
自分の心の柔らかい部分をそっと抱きしめてくれる。
自分の迷いや不安を、簡単に消してしまう。

(…そんな君に)
(俺は一生敵わない)

ルイ:うん…俺も同じように思うよ
視線を重ねたまま、手すりに置かれた吉琳の手を握ると、
優しい体温が伝わってきた。

(…あの日の後悔を消すために、手を繋いでいるわけじゃない)
(…今、こうしてるのは君と一緒にいたいから)
(大切な今を君に贈りたいから)

吉琳が、手を握り返しながら噛みしめるように告げる。
吉琳:…やっぱり、幸せだな

(…うん、俺も幸せだよ)
(こんな幸せがあるなんて、君に出逢わなかったら知らなかったと思うから。けど…)

ルイ:…これで満足しちゃだめ
吉琳:え…
短く声をもらす吉琳の唇に顔を寄せて伝えた。
ルイ:…これから先、君をもっと幸せにしてもいいですか?
吉琳の瞳が、大きく揺れる。
自分を見つめてくれるこの人を守れるなら、何だってするだろう。
吉琳:はい
吉琳の声が聞こえた瞬間、唇を重ねる。

(…吉琳、君に出逢えたことが俺の幸せだよ)
(……ただ、君を愛してる)

もう一度繋いだ手を握り返すと、12時の鐘が鳴り響いた…――

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クロードのストーリーを読む

102061

――…吉琳がガラスの靴を履いてからちょうど1年の月日が流れた夜
…………
螺旋階段の手すりに頬杖をついて、ダンスホールにいる吉琳を見つめる。
たくさんの人に囲まれて、吉琳は屈託のない表情で笑っていた。
クロード:…無防備な顔だな
???:その言葉、そっくりそのままお返ししますよ
その声に振り返ると、呆れたような、それでいてどこか楽しそうな表情をしたジルの姿があった。
ジル:貴方がそういう表情をしている時は、視線の先に何があるのかわかりますね
ジルの視線の先を辿ると、吉琳の姿がある。

(…何でもお見通しってわけか)

クロード:ジル。俺の目は、吉琳をすぐ見つけるように出来ているらしい
またいつものように呆れた表情を返されるのを待っていると…
ジル:ええ、ですから…
ジルの目がひどく優しく細められた。
ジル:これからも、吉琳をちゃんと見守っていてくださいよ…?
その言葉に、ジルがどれだけ吉琳を大切に想っているかが伝わってくる。

(…お前は本当に誰からも好かれるな)

クロード:…ああ、了解
クロード:けど、ジル。……どうして俺の作った礼服を着てないんだ?
ジル:……私に着せたいなら、もう少し装飾を抑えてください
ジルは今度こそ盛大に呆れた表情を浮かべて、階段を下りて行った。
その背中に笑みを返し、また自然と目が吉琳の姿を探す。
吉琳を見つめながら、一緒に過ごした毎日を思い出していく。

(…恋人になるまで、吉琳を何度泣かせたかわからない)

吉琳をプリンセスにすること、それは自分の野心を叶えるために都合が良い条件だった。
初めて吉琳を見つけたその時、機内で子どもを助ける姿を見て、
瞬間的に思った。

(…随分と、お人好しで使えそうな駒だと)

――…ウィスタリアで飛行機が不時着して、吉琳は電光掲示場を見て目を見張っていた

〝クロード:へえ、振り替え便がなくなったのか〞
〝吉琳:……?〞
〝吉琳:あなたも乗り遅れたんですか?〞
〝クロード:まさか、俺はこの国の者だ〞
〝吉琳:ここの国の人?〞

〝(…随分と、警戒心がない目をするな)〞

〝クロード:ついておいで、明日までここにいるわけにはいかないだろ〞
〝吉琳:確かにそれはそうなんですけど〞
〝クロード:一番良い選択肢は、俺についてくることだ〞

まるで迷う吉琳の道しるべになるように、歩き出した日を忘れることはできない。

(…だけど、いつからだろうな)

自分の野心を成し遂げるために、吉琳に笑いかけるたび、
心が痛むようになった。
吉琳が笑わない日は、ずっと目で追うようになった。

(それで…本当の笑顔が欲しくなった)

吉琳を見つめるたびに、自分の気持ちが嘘から本物に変わるのを感じた。
息をついたその時……
クロード:…?
ダンスホールにいる吉琳と視線が重なって、吉琳の顔に笑顔が広がる。
そして、こっちに来て、そう言うように手招きをした。
クロード:…………
手すりから手を離して、ゆっくり階段を下りて行く。

(…なあ、吉琳)
(俺は、お前との出逢いも…自分がついた嘘も絶対に忘れないよ)
(けど…)

シャンデリアの光の中、たくさんの人の中で、吉琳だけが違って見える。

(今、お前に伝えたいことがあるんだ)

あの飛行機でもっとお人好しな奴がいたのかもしれない。
それに、ガラスの靴が入るかもわからないのに吉琳に声をかけた。

(俺が、お前のことをすぐ見つけたのは…)

吉琳:…やっとクロードのこと、見つけた
クロード:ああ、ごめんな

(…運命だったからだと思いたいんだ)

それでも、まだそんな言葉を伝えることはできない。
出逢ってから流させてしまった涙よりも、もっと多くの笑顔をあげたい。
運命を語るのは、それからだと思う。
吉琳:もうすぐダンスタイムが始まるんだよ。それで…
クロード:今夜は私と踊って頂けますか、お姫様?
吉琳:…っ…
言葉を先回りして、吉琳の華奢な腰を抱き寄せる。

(…だから、俺はどこにいてもお前を見つけて)
(…大切に、お前を愛していきたい)

吉琳は照れたように視線を逸らして、ぽつりと呟く。
吉琳:まだ…曲、始まってないよ?
クロード:早くこの手を取らないと、誰かに奪われるかもしれないだろ?
吉琳:それなら、もっと早く見つけてよ…
その言葉に、淡い感情が胸を満たしていく。

(知ってるか、吉琳)
(俺はお前を見つけるのが誰よりも得意なんだ)

言えない言葉を飲み込んで、そっと吉琳の手を取る。
クロード:確かにその通りだ。……それじゃお詫びに
クロード:今夜はずっとこの手を繋いでいてもいいか?
吉琳が返事をするように繋いだ手をきゅっと握り返して笑う。
その笑顔にまた、目が奪われる。
ずっとこうして自分の瞳に吉琳を映して守っていきたい、そう願うように想った…――

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ゼノのストーリーを読む

102062

――…吉琳がプリンセスになって1年が経つ日を祝うパーティーが開かれた夜
…………

(…今夜は随分と嬉しそうな顔を見ることができたな)

賑やかなパーティーも終わり、人も帰り始めていた。
星空を見上げたその時……
吉琳:どうしてこんな場所にお一人でいらっしゃるんですか?
聞き慣れた声がして、視線を下ろすと吉琳の姿があった。

(遠くから楽しそうなお前を見ていた…とは言えないな)

ゼノ:一人でいれば、お前が俺のところに来るような気がしてな
冗談のつもりで告げると、吉琳の頬が赤く染まる。
吉琳:……その言葉通り、探してしまいました
吉琳:でも、見つけられてよかったです
ゼノ:…そうか
愛おしさが胸を満たして微笑み返すと、吉琳が思い出したように口を開いた。
吉琳:今日、ゼノ様と初めてお逢いした日のことを思い返していたんです

(俺が初めてお前に出逢った日は…)

〝アルバート:なんとも馬鹿げたセレモニーでした〞
〝ゼノ:…あれが、ウィスタリアの新しいプリンセスということか〞
〝アルバート:ええ、あんな小娘では先が思いやられますが〞
〝ゼノ:…………〞
〝アルバート:ゼノ様が関わる必要はないかと〞

吉琳と出逢った日はガラスの靴がプリンセスを選ぶセレモニーの日だった。
挨拶を交わすこともなく、ウィスタリアを去ったことを思い出す。

(あの時は、こんな未来は予想していなかった…不思議なものだな)
ゼノ:お前と初めて出逢ったのは、プリンセスセレモニーの日だったな
吉琳:え…
吉琳が驚いたような声を上げる。

(…?)

吉琳:お披露目パーティーの日に受け止めてくださった時が初めてお逢いした日だと…
ゼノ:ああ、直接話したのはその日が初めてだったな
吉琳:それでは、私はずっと勘違いをしていたんですね
吉琳の表情に、寂しそうな色が浮かぶ。
ゼノ:どうしてそんなに落ち込む…?
吉琳:それは……っ…
言葉の先を促すように見つめると、吉琳が照れを含んだ声で言う。
吉琳:初めて出逢った日を記念日として覚えておきたかったんです
ゼノ:どちらを出逢った日にすればいいのか悩んでいるのか?
吉琳は、頷くと大きな悩みを解決するような表情で目を伏せる。

(……こんな表情一つとっても、愛おしいと思う)

吉琳の姿を見つめていると、ふっと顔を上げて吉琳が口を開いた。
吉琳:……ゼノ様、一つお願いがあるのですが
ゼノ:どうした、言ってみろ
吉琳:今日、初めて出逢った日のやり直しをしませんか…?

***

――…夜風から逃げるように、人気のないダンスホールに足を踏み入れる
ゼノ:まずは何から初めればよいだろうか
吉琳:…まず初めて逢った時は、名前を名乗りますよね
えっと、そう前置きをして吉琳が笑う。
吉琳:吉琳と言います
ゼノ:…ゼノ=ジェラルドだ
ゼノ:それから、きっと初めて逢った二人ならば……
月灯りが差し込むダンスホールで、吉琳に手を差し出す。
ゼノ:プリンセス、踊ってもらえるだろうか…?
吉琳:え…
ゼノ:名前を名乗った後は、きっとこうするのではないかと思ってな
吉琳:そう、ですね
吉琳は嬉しそうに微笑むと、そっと手を取る。
手を繋いで音楽も鳴らない夜の中、ゆっくりステップを踏み始めた。

(……こうして何度、手を取っただろうな)

始めて吉琳を見つけたあの日から、
お互いに手を取り合って、そして今がある。

(この手が、吉琳の体温を覚えている)
(俺の目が、お前の笑顔を覚えている)

吉琳:ゼノ様
名前を呼ばれると、甘く心が疼く。

(…俺の心が、お前を覚えている)

重ねてきた時間の分だけ、体に沁み込んでいるようだ。
ゼノ:…吉琳
吉琳:…? はい
吉琳が、ステップを踏んでいた足を止める。
ゼノ:思い返すと、お前と共に重ねた時間の全てを、覚えているものだな
今感じているこの温かな気持ちを教えてくれたのは、吉琳だ。
吉琳と出逢って、自分の心の中にあった氷が溶け出した。
ゼノ:…それは、俺にとって忘れたくない大切な記憶だ
ゼノ:これでは、初めからやり直せそうにないな
吉琳:……そうですね
吉琳は噛みしめるように呟くと、言葉を重ねていく。
吉琳:私も…全てを覚えています
吉琳:…ゼノ様と星を見上げた日
吉琳:初めて笑いかけてもらえた日…こうして手を繋いだ日
吉琳:…全てが、私にとって愛おしい記憶です
ゼノ:ならば…
繋いだ手を引き寄せて、額を重ねる。
ゼノ:今日からまた、ゆっくり時間を重ねていこう
ゼノ:…初めて出逢った日よりも、大切な時間をお前に贈ると約束する
吉琳:はい…
吉琳は一瞬だけ視線を上げると、すぐに逸らしてしまう。
ゼノ:…どうした
吉琳:これから先のことを当たり前に口にしてくださる
吉琳:それが…とても幸せだと思ったんです

(…だから、額が熱いのか)

ゼノ:当たり前だろう

(…心から愛し、心から愛されていると想える)
(俺の胸の真ん中には、いつもお前がいる)

そっと顎に指をかけて視線を重ね……
ゼノ:この先、俺はお前しか愛せないのだから
吉琳に触れるだけのキスを落とした瞬間、
吉琳が今夜、口にした言葉を思い出した。
――…見つけられてよかったです

(…それは俺の言葉だ)

どんな恋の始まりであっても、大切だと、愛おしいと想える今が何より大切だ。
過去ではなく、今を大切に紡いでいこう、そう心に誓う。

(何の迷いもなく言える)
(お前を見つけられたことが、俺の幸運だ)

唇が離れると、これから先の未来を守るように、
吉琳の体をそっと抱きしめた…――

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()