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『(2nd) Kiss of Memories』アラン・クロード・レオ・シド

『夜空に響く恋のメロディ』カイン・ノア・アラン

(全缺)『洋館ゴシックガチャ』プロローグ・クロード・ゼノ・レオ

『Sweet Dance~魅惑の瞳に誘われて~』カイン・ノア・ルイ

『ほろ酔いガチャ~今夜はいつもより××~』プロローグ・クロード・ゼノ・ジル

『君へ贈るプレゼント』カイン・ノア・アラン

『(1st) 初めて君を見つけた日』プロローグ・カイン・ノア・アラン

『Dress me up!~可愛いが聞きたくて~』プロローグ・ノア・アラン・ルイ

『洋館ロリータガチャ』プロローグ・ノア・アラン・ユーリ

(2nd) Kiss of Memories』カイン・ゼノ・ユーリ

『Secret Heart』プロローグ・アラン・クロード・ゼノ

『Change!Change!Change!?』プロローグ・カイン・ルイ・ジル

(1st) 初めて君を見つけた日』プロローグ・ルイ・クロード・ゼノ

『海の中のお姫さま』プロローグ・カイン・ルイ・クロード

『ほろ酔いガチャ~今夜はいつもより××~』プロローグ・ルイ・レオ・ユーリ

(2nd) Kiss of Memories』ノア・ルイ・ジル

 

 

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《アランのストーリーを読む》

 

――…爽やかな風が吹きぬける午後
…………
アラン:なあ、まだ終わんないわけ?
吉琳:ごめん、もう少しかかりそう…
アラン:ったく…
公務に出かける支度をする吉琳の姿をちらりと見る。

(……すげえ真剣な顔)
(こういうとこ、出逢った頃から変わんないな)

些細な準備にすら真面目に取り組む姿に、小さく笑みをこぼした。

(…吉琳がプリンセスになってもう、2年か…)

腕を組んで壁に体を預けると、心地よい風が前髪を揺らす。

(なんか眠くなってきた…)

あくびを噛み殺しても、暖かな陽気に瞼が落ちてくる。
そして、自分でも気づかないうちに眠りに落ちていった…――

***

吉琳:アラン…アラン
アラン:…………
名前を呼ばれ、ふっとまぶたを開けると吉琳の姿が視界に広がる。
吉琳:お待たせ、支度できたよ

(あ…寝てたのか、俺)

アラン:……ん
寄りかかっていた壁から背中を離すと、大きな目に顔を覗き込まれた。
吉琳:もしかして…寝てた?

(…相変わらず、鈍いのか鋭いのかよくわからないヤツ)

ちらりと吉琳を見ると、心配そうに顔を寄せて来る。
吉琳:大丈夫? 疲れてるんじゃ…
アラン:…ちょっと夢見てただけ
吉琳:え?
アラン:…お前と出逢った頃の夢
吉琳:私の…?
アラン:ああ
小さく頷くと、さっき見た夢が脳裏に蘇る。

***

――…2年前の夜
…………
吉琳:キスして、アラン
アラン:…………

(キス?)

告げられた言葉に驚いて、思わず目を見開く。

――…半分ここで過ごせたら、何でも言うことを聞く。

これは、出逢った頃に交わした約束だ。

(50日目の今日にこんなこと言われるなんて、想定外だろ)

眼差しから本気の想いが伝わって、ぐっと自分の手を握る。

(…50日前、こいつが望めば俺は全力で逃がしてやるつもりだった)

吉琳とはプリンセスと騎士、それだけの関係のはずだったからだ。

(なのに…なんでそんなもん、望むんだよ)

ふいに吉琳の目が逸らされて、唇から呟きがこぼれる。
吉琳:…ほら、出来ないでしょ
寂しさを含んだ吉琳の声に、指がぴくりと震えた。

(冗談だって笑えば、逃がしてだってやれる…それなのに)

涙を滲ませる瞳に、背筋を甘く這いあがるような痺れが走った
そして…――
吉琳:冗談…
言いかけたその頬に手を伸ばし、気がつけば顔を寄せていた。
唇が重なると驚いたように吉琳が肩を揺らす。

(っ…)

柔らかなその感触に、さらに求めたくなる衝動を堪える。
アラン:…………
ゆっくりと顔を離して吉琳を見ると、大きな目に見つめ返された。
吉琳:な…んで…

(…そんなの、俺が自分に聞きたい)

アラン:お前がしろって言ったんだろ
気持ちとは裏腹にそっけない言葉を告げる。
吉琳:っ……アラン
泣くのを堪えるように歪んだ顔に、ずきりと胸が痛んだ。
口を開きかけた吉琳が、
次に紡ぐ言葉を失ったように唇を震わせる。
吉琳:好きじゃないならこんなこと…しないで
絞り出すようにそう言うと、吉琳は走り去っていった。
引き止めることもできずに、小さくなる背中を見つめる。

(…50日前、俺はただプリンセスの騎士だった)

頬に触れた感触が残る指を、ぎゅっと握りしめた。

(この手で騎士として、守りたい…でも今はそれ以上に)

そこまで考えると、ため息と共に呟きがこぼれた。
アラン:…何やってんだ
自分自身に呆れると同時に、強い想いが込み上げてくる。

(…触れたい)
(望んでるのは、俺のほうだ…――)

***

吉琳:いい夢だった?
アラン:…どうだろうな
吉琳:どうせ、私に振り回されて大変だった夢見てたんでしょ?
拗ねたように唇を尖らせる吉琳に思わず笑みがこぼれた。

(…初めてキスしたあの瞬間)
(騎士としても男としても…心が揺さぶられた)

手を伸ばして、そっと吉琳の頬に触れる。
吉琳:…アラン?

(あの時本当はこの手で、こいつに触れたかった)

すり寄るように顔を傾ける吉琳に目を細め、
手をすっとうなじの方へ回す。
アラン:…確かに、そんな夢だったかもな
吉琳:アラ……
開きかけた唇を、そっとキスで塞ぐ。
吉琳:ん…

(今はこうして、ためらいなく触れられる)

吉琳の甘い声を聞きながら、うなじにかけた指にぐっと力を込める。

(…恋人として)

吉琳:っ…ぁ…、アラン
はっとすると、小さな手に肩を押し返された。
吉琳:…もう、行かなくちゃ
吉琳の目は涙でわずかに潤んで見えた。

(こういう顔、もっと見てたいけど)

アラン:…じゃあ最後に
アラン:お前からしろよ
吉琳:えっ…
赤みを帯びていく吉琳の頬に、口の端を上げる。
アラン:今更そんなに照れること?

(俺を惚れさせたのはお前なんだから…)
(最後まで責任、取れよな)

吉琳:…もう
顔を寄せる吉琳に笑って、ゆっくりと瞼を閉じる。
柔らかな唇の感触に、胸の奥で鼓動が音を立てるのがわかった。

(2年そばにいても、一緒にいて心が動かない日なんてない)
(ほんと、どうしようもないくらい俺は…)
(吉琳のことが好きだ)

唇が離れて、吉琳の顔を覗き込む。
アラン:…吉琳
吉琳:なに…?
アラン:……愛してる
吉琳:っ…

(何度伝えてもこんな顔をするこいつのことが)
(きっと俺は、一生好きなんだと思う)

吉琳:びっくりした…アランが急にそんなこと言うなんて
アラン:じゃあもう言わない
吉琳:えっ…
焦った顔をする吉琳に、思わず噴き出す。
アラン:…バーカ、嘘だよ
吉琳:え…
アラン:ほら、置いてくぞ
吉琳:あっ、待ってよアラン…!
前を歩き出すと、ぎゅっと手を握られる。
ちらりと視線を向けると目が合って、
ひどく幸せそうな笑顔が視界いっぱいに広がった…――

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《クロードのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
街が寝静まった真夜中、城下にある自分の家で靴を作っていた。
…………
クロード:…完成だ
時間も忘れて作った靴を見つめ、仕上がりに笑みを浮かべる。
時計を見るとずいぶん時間が経っていた。

(…夢中になりすぎたな)

公務を終えてここに来てから、
浮かんだデザインが消えないうちにと作業に没頭していた。

(だが、間に合ってよかった)

逢う約束をしたから、昼には吉琳がここに来る予定だ。

(…少し休んでおくか)

***

急に眠気を感じ、休むために階下へと下りた。

(……吉琳、どんな顔をするだろうな)

ソファーに横になり、恋人のことを考えながら目を閉じた。

***

???:………ロード、…クロード?
まどろみの中に、誰かが自分を呼ぶ声が柔らかく響く。

(ん…)

目を覚まそうとすると、唇に柔らかな感触が触れた。
クロード:……う、ん?
吉琳:あ、おはようクロード
まだぼんやりとした視界で吉琳が微笑む。
クロード:…吉琳
吉琳:クロード、昨日帰ってきてそのまま寝たでしょ。礼服シワになっちゃうよ?
クロード:ああ…そうだな

(…そういえば、)
(前にもこうやって吉琳のキスで目を覚ましたことがあったな)
(確か、ファッションショーの準備の疲れでいつの間にか眠って…――)

〝微かにソファーが軋む音を遠くに聞き、眠っていた意識が引き上げられる。〞

〝(誰かいるのか…?)〞

〝そう思っていると、唇に柔らかな感触が触れて目を覚ます。〞

〝(今のは……)〞

〝クロード:……吉琳?〞

〝(今、キスされたんだよな…?)〞

〝吉琳:……っ…!!〞
〝焦った顔をした吉琳を見て、起きた出来事を確信する。〞

〝(やっぱり。でも、どうして俺に…)〞

〝立ち上がって背を向けようとする姿に思わず手を伸ばし、手首を捉えた。〞
〝クロード:……待て、行くな〞
〝びくりと肩を揺らした吉琳が、慌てたように口を開く。〞
〝吉琳:ク、クロードに頼まれた物を届けに来たの…〞
〝吉琳:そしたら…クロードのペットが…〞
〝沈黙を埋めるように早口で重ねられる言葉に、胸が詰まる。〞
〝クロード:吉琳〞
〝吉琳:…………〞
〝クロード:こっち見ろ〞

〝(言い訳の言葉を求めてるわけじゃない)〞
〝(今俺が聞きたいのは……)〞

〝名前を呼ぶと、吉琳がゆっくり振り向いて視線が重なる。〞
〝じっと吉琳を見つめたまま、静かに口を開く。〞
〝クロード:お前は、俺が好きなのか?〞
〝吉琳:……っ…〞
〝問いかけると、吉琳が苦しそうに眉を寄せた。〞

〝(…どうして、そんな顔をする?)〞

〝何かを堪えるような表情に、どうしてか胸が締めつけられる。〞

〝(…出逢った頃からそうだ)〞

〝吉琳のこういう顔を見ると、笑わせてやりたいと思う自分がいる。〞

〝(自分の望みを叶えるために利用するだけ…そう思ってたはずなのに)〞
〝(どうしてこんな気持ちになる…)〞
〝(この感情は、何なんだ…?)〞

〝吉琳:好き……だよ〞
〝クロード:…………〞
〝吉琳:…って言ったら、どんな顔する?〞
〝吉琳はどこか辛そうな表情のまま、無理に笑おうとしているようだった。〞

〝(好き、か……)〞

〝思いがけず跳ねた鼓動に気づきながら、〞
〝わずかな動揺を逃がすように息をつく。〞
〝クロード:好都合だと思って、笑うよ〞
〝クロード:お前が俺に惚れれば、お前はすんなり俺の願いを叶えてくれるだろ〞

(…あの時は自分の気持ちに蓋をして、ひたすら吉琳を傷つけてた)
(けど、今は…)

視線が重なるだけで愛しさが募る吉琳を、心から大切にしたいと思う。
クロード:なあ、お前…今俺にキスしたか?
吉琳:バレた?
吉琳:寝てる時のクロードっていつもより無防備な顔で可愛いから
クロード:可愛いって、お前な…
吉琳は、悪戯が成功して喜ぶ子どものように笑う。
それは、あの時の苦しそうな表情とは全く違うものだ。

(そういう素直な笑顔も好きだけど…)

クロード:今の言葉は心外だな
吉琳の腕を引いて顔を近づけ、唇を奪う。
吉琳:んっ…
そのまま抱き寄せてキスを深くすると、吉琳の顔が赤く染まった。
クロード:これでもまだ、可愛いなんて言えるか?
吉琳:…言ったらどうなるの?
クロード:そんな言葉を言う気が失せるくらい、キスをしてみようか
吉琳:…っ…クロードの意地悪
少し悔しそうな顔をしながら、吉琳が顔を伏せた。
吉琳:…もう……
息をついたその口元が緩んで、幸せそうな笑みが覗く。

(結局こうやって、隠せない笑みを浮かべる顔にも…)
(簡単に気持ちを掴まれる)

しばらくすると、吉琳が上目遣いに見上げてきた。
吉琳:…ねえ、クロード。今日が何の日か覚えてる?
クロード:今日か…

(本当は覚えてるが…)

クロード:さあ、何の日だろうな?
吉琳:忘れちゃったの?
とぼけてみせると、少しだけ不満そうな顔を見せる。

(…この顔だって、気に入ってる表情の一つだ)
(でも、せっかく二人でいられる時間は…お前を笑顔にしたいから)

クロード:冗談だ。今日は俺たちが出逢って2年目の記念日、だろ?
クロード:二階にお前への贈り物を用意してるよ
吉琳:贈り物?
クロード:ああ
大きな瞳を期待に輝かせる吉琳に、胸の奥が甘く疼く。

(この笑顔が、俺にとっては何よりの贈り物になる)
(だからいつだって、そうして笑っていて欲しい)

クロード:今見るか?
吉琳:うん!
ソファーから体を起こし、手を繋ぎながら歩き出す。
想いを繋ぐように指を絡めると、ぎゅっと握り返された。

(これからもずっと、俺は吉琳を離さない)

歩み続けた道の先で掴まえたこの幸せは、誰にも奪わせない。

(この想いを…大切に未来に繋げていく…――)

そう思いながら隣にある愛しい笑顔を見つめて微笑んだ――

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《レオのストーリーを読む》

 

――…柔らかな日差しが窓から降り注ぐ昼下がり
…………

(…よし、この書類は終わりだな。次は…)

確認し終えた書類を仕舞うため引き出しを開けると……
レオ:あ…
窓から入り込んだ風に、少し色あせた新聞記事がふわりと舞い上がる。
その時、記事を追いかけるように、窓枠に止まっていたセバスチャンが飛び立った。
セバスチャン:セバスチャン、ナイスキャッチ!
足で記事を押さえながら、セバスチャンがテーブルに着地する。
得意げに顔を上げるセバスチャンに、思わず笑みがこぼれた。
レオ:ありがとう、セバスチャン
拾おうと記事に手を伸ばすと、その見出しに手が止まる。
セバスチャン:レオ、プリンセス、キス
レオ:…そうそう、こんなこともあったよね
目を細めて、記事の見出しを見つめる。

――…プリンセスのお相手は、レオ・クロフォード!?

レオ:…懐かしいな

(もう、あれから2年も経つんだ…――)

〝たかれたフラッシュに細めていた目を開くと、〞
〝一斉に吉琳に向かって記者たちが駆け寄る。〞
〝報道記者:…プリンセス! 三人の内、誰を選ぶおつもりですか?〞
〝報道記者2:誰かもう気になっている方がいるのでは…!?〞

〝(あーあ…)〞

〝身動き一つできずにいる吉琳の顔をちらりと見る。〞

〝(吉琳ちゃん、戸惑ってますって顔に書いてある)〞
〝(だから、アドバイスしたのに)〞

〝苦笑しながら、吉琳に向かって一歩足を踏み出した。〞
〝レオ:おいで、吉琳ちゃん〞
〝手を伸ばし、その後ろ頭を引き寄せる。〞
〝わざと報道記者たちから吉琳の顔が見えないように、ぐっと覗きこんだ。〞
〝レオ:……嘘つけばいいって教えたのに〞
〝吉琳:…え〞
〝レオ:まあ、吉琳ちゃんは嘘、つけないだろうなって思ってたけど〞
〝目を見開く吉琳に、からかうような視線を送る。〞
〝レオ:…どうする、この騒ぎおさまらないよ〞
〝吉琳:…わからないよ〞
〝心細そうに呟く声に、少しだけ戸惑いを覚える。〞

〝(そんなに素直だと…心配だな)〞

〝レオ:…それじゃ、もう一つだけ方法を教えてあげる〞
〝唇に吐息がかかるほどの距離まで顔を寄せると、〞
〝吉琳が息を呑むのがわかった。〞
〝レオ:……俺の恋人にならない?〞

〝(嘘は大切なものを守る盾になるんだよ、吉琳ちゃん)〞
〝(今こうして嘘をついても、また一つ守るための嘘が増えるだけだ)〞
〝(しかも100日間だけ…そのくらいの嘘、俺にはなんてことない)〞

〝自然と口元に笑みが滲んでいく。〞

〝(守るためなら俺は…世界中に嘘をつく)〞

(…あの時はそう思ってたけど)
(吉琳ちゃんに出逢って…想いが変わった)

その時、ノックの音がして扉が開かれる。
吉琳:…レオ?
レオ:吉琳ちゃん
顔を出した吉琳に、新聞記事から目を挙げる。
レオ:そっか、もう約束の時間か
吉琳:うん。何かあったの?
レオ:え?
部屋に入ってきた吉琳は、こちらを見つめながら首を傾げた。
吉琳:なんだか…嬉しそうな顔、してるから

(俺が?)

吉琳の言葉に、目を瞬かせると……
セバスチャン:キス、キス
吉琳:え?
突然聞こえた言葉に、吉琳はセバスチャンに視線を移す。

(その顔、初めて報道記者に囲まれたあの時と同じだ)
(戸惑ってますって、顔にそう書いてある)
(こういうとこ、2年一緒にいても変わらないな)

素直な表情に笑いながら記事を引き出しに戻す。
眼鏡を外して立ち上がると、吉琳がはっとしたように口を開いた。
吉琳:あ…もしかして仕事途中だった?
レオ:ううん、もう終わったから大丈夫
吉琳:そっか、よかった
ふわりと笑う吉琳のそばは、いつだって鮮やかに映る。
レオ:…吉琳ちゃんは、すごいな
吉琳:すごい…?
レオ:うん、すごいよ
吉琳に向かってゆっくりと歩いていく。

(人を好きになって世界が色を変える…)
(そんなこと、あるわけないと思ってたのにな)

なのに吉琳と出逢ってからの自分の世界は、
まったく違って見えるようになった。

(それに、見え方を変えただけじゃない)
(吉琳ちゃんは俺に、大切なものを抱きしめる勇気をくれた)

吉琳に顔を寄せて、その後ろ頭にすっと手を差し入れる。
吉琳:レオ…?
真っすぐな眼差しには、いつも心を見透かされるような気持ちになる。
レオ:…吉琳ちゃんには、もう嘘がつけない気がする

(きっと嘘をついても何一つ隠せない)

吉琳:レオ、今何て……っ…
問い返してくる吉琳の唇を塞いでしまう。

(視線を交わすだけで、心の中まで暴いてしまう…そんな人は)
(世界中で、吉琳ちゃんだけだ)
(それが心地いいと思うってことは…)
(やっぱり吉琳ちゃんと出逢う前の自分とは違うんだ)

唇を離すと、吉琳は大きく息をした。
吉琳:っ…レオ、急にどうしたの?
レオ:吉琳ちゃんのこと好きだなって思ったら
レオ:急にキスしたくなった
腰を抱き寄せながら告げると、
キスをした時以上に吉琳の顔が赤くなっていく。
吉琳:そんな理由…?
レオ:そう。こんな理由じゃ駄目だった?
吉琳:…駄目じゃ、ない
吉琳:私も…レオが好きだから
赤い顔を伏せて一生懸命言葉を紡ぐ姿に、胸が痛いほどに高鳴る。

(好きの言葉は初めてじゃないのに…)
(吉琳ちゃんからだと何でこんなに)
(愛しいって…思うんだろ)

深く息をはきながら、宝物を抱くように吉琳を胸に引き寄せる。
吉琳:レオ…?
レオ:…大好きだよ、吉琳

(あの日、嘘から始まったこの恋を…俺は今も大切に抱きしめてる)
(この想いを、二度と嘘にはしない)
(二人で選んだ、たった一つのかけがえのない恋だから)

私も、と言って笑う声がひどく幸せそうな響きを含んでいて、
溢れる愛しさのまま、大切な人の体を、強く強く抱きしめた…――

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《シドのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
公務を終えて吉琳と城に戻る途中、突然の雨に降られ、
部屋に戻った時には二人ともずぶ濡れになっていた。
…………
シド:お前、ほんとに雨女だよな
吉琳:だから、それはシドの方でしょ?

(逢った頃からそうだが…)
(こいつといるとよく雨に降られる)

タオルで水滴を拭いながら、ちらっと見下ろすと、
吉琳はタオルで必死にドレスの水滴を拭っていた。
その髪からは、ぽたぽたと雫が滴っている。

(ったく…)

吉琳に近づき、頭にタオルをかぶせて髪を拭っていく。
吉琳:…っ…シド?
シド:着てるもんより、まずは自分だろうが
吉琳:でもこのドレス、クロードが大切に作ってくれたものだから…
吉琳:汚れたら悲しいでしょ?

(…こいつはこういう奴だよな)

シド:そうかよ
シド:ならこっちはやってやるから、お前はドレスに集中しとけ
吉琳:シド…ありがとう
髪を拭いてやりながら、水滴を落とし続けるドレスを見つめる。
シド:なあ、それ脱いで絞ったほうが早えんじゃねえか?
吉琳:え、でも着替えとか持ってないし
シド:俺はお前が脱いでても気にしねえが
吉琳:私は気にします!
頬を少し染める姿に口角を上げる。

(こういう顔、逢った時から変わんねえな)
(何度見ても飽きねえから、ついからかっちまう)

その時、毛先から落ちた水滴が吉琳の首筋に伝うのが見えた。

(…そういや、初めて逢ったあの日も)
(こいつはこんな風に濡れてたな…――)

〝――…雨に包まれた暗い森で、泣き続ける空を見ていた夜〞
〝雨宿りのために同じ屋根下に走りこんできたのは、〞
〝ガラスの靴に選ばれたばかりのプリンセスだった。〞
〝シド:好奇心があんのは結構だが、こんな時間に出歩いて何かあったらどうすんだ?〞
〝吉琳:それは…〞

〝(あの人から与えられた役目で、俺はこれからこいつを見守らなきゃならねえ)〞
〝(なのに毎回こういう行動をされんのは面倒だ)〞
〝(…今のうちに、警戒ってもんを覚えさせとくか)〞

〝言いよどむ吉琳の体を、木の扉に押しつける。〞
〝足の間にわざと体を割り入れると、夜目にもわかるほど顔が赤く染まった。〞
〝吉琳:ちょっと、いきなり何…!〞

〝(へえ、こういう顔なかなか悪くねえな)〞

〝シド:自覚が足りねえみてえだから、教えてやる〞
〝吉琳:っ……〞
〝ドレスの裾から手を差し入れて肌をなぞる。〞
〝息を呑む吉琳に、吐息の混ざる距離まで顔を近づけた。〞
〝シド:夜に女が一人で出歩くと、こういう目にあうこともある〞
〝シド:プリンセスなら、さらわれたりとか…な〞
〝試すような言葉を重ねていくと、焦っていた表情が悔しそうに歪んでいく。〞

〝(迷子になる辺り、もっとぼやっとした奴かと思ったが…)〞

〝追い詰めても逃げようとせず、真っすぐこっちを見据えてくる。〞

〝(案外、骨のある奴かもしれねえな)〞

〝シド:ま、ここで過ごすならそれくらいの気概があった方がいいか〞
〝シド:それに、気の強え女は嫌いじゃねえ〞

〝(けど、こうしたらどう出る…?)〞

〝髪から滴る雫を目で追い、首筋に顔を近づける。〞
〝唇で雫をすくい上げ、ほんの少し強く肌を吸い上げた。〞
〝吉琳:……っ!?〞
〝シド:こんなもんか〞
〝吉琳:…何するの!?〞
〝シド:授業料と情報料だ〞
〝吉琳:なにそれ…い、意味がわからない…!〞
〝シド:男の危険性とここでの生き方、教えてやっただろ?〞

〝(怒る、か…。まあ、泣くよりは悪くねえ)〞
〝(こういう素直な感情を忘れねえなら…)〞
〝(城での100日だって、何とか乗り越えられんだろ…――)〞

ふいに近くでくしゃみが聞こえて、意識を引き戻される。

(ったく…)

髪を拭き終えて、引き出しの方に足を向ける。
吉琳:シド?
中からシャツを取り出し、吉琳に投げ渡した。
吉琳:わっ…、これは…?
シド:風邪引かれる方が面倒だからな。脱いでそれに着替えろ
吉琳:…うん、ありがとう
吉琳は後ろを向くと、自分のドレスに手をかけた。
着替える間に髪の隙間からうなじが覗き、
さっきまで思い出していた2年前の記憶が蘇る。

(今あの時と同じことしたら…)
(こいつはどんな顔見せんだろうな)

そっと後ろから近づき、吉琳の髪を片側に寄せる。
吉琳:シド?
振り向こうとする頭を手で固定して、首筋に唇を押し当てた。
そして、少しだけ強く吸い上げる。
吉琳:…っ…何して…
シド:へえ、照れるだけで怒らねえんだな?
頬を赤くして首を押さえる吉琳はあの時とは違い、
声を荒げたり体を押しのけようとはしない。
吉琳:…怒らないよ
吉琳:見えるところにするのは、やめてほしいけど…
吉琳:シドに触れられるのは……嫌じゃない、から

(同じことしても、あの日とは違う反応すんだな)

語尾を小さくしながらも言葉を紡ぐ姿に、
ふいに愛おしさが込み上げる。

(まあ、あたりまえか…)

100日を乗り越えたどころか、吉琳はもう2年も自分のそばにいる。
自分の名前も正体も教えていなかったあの頃と今で違うのは、当然だ。

(それでも…変わらねえものもある)

シド:吉琳、こっち来い
吉琳:…うん
ベッドに腰を下ろし、シャツに着替えた吉琳を後ろから抱きしめる。
シド:おい、体冷てえな
吉琳:なら、離せば…?

(そしたらきっと拗ねるくせに、素直じゃねえ奴)

笑みを浮かべて、抱きしめる腕に力を込める。

(想いと口にした言葉が違う時の顔は)
(この2年で見分けられるようになってんだよ)

シド:風邪引かれた方が面倒だっつっただろ
シド:だから、今日は我慢してやるよ
吉琳:……ありがと

(…素直じゃなくても、礼はちゃんと言うんだよな)

鼓動が混ざりそうな距離で温もりを感じながら、
こめかみにそっとキスを落とす。
シド:…吉琳
体を少し離して顎に指をかけ、唇を塞いだ。
吉琳:…ん……
冷えた唇に熱をわけるようにキスを重ねていく。

(…こいつと出逢うまで、誰かに隣にいてほしいと思ったことはなかった)
(なのに隣にいることを望むようになって…)
(2年経った今も、俺はこいつを離したくねえと思ってる)

だからきっと、吉琳にそばにいてほしいという想いは、
これからもずっと変わらない。

(…愛してるなんて、んな柄にもねえ気持ち向けんのは)
(吉琳一人で充分だ…――)

 

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2014年10月(Ameba・iPhone・Androidのみ)に開催していた『夜空に響く恋のメロディ』の カイン・ノア・アランのシナリオが読めちゃうよ☆

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《カインのストーリーを読む》

 

――…舞台の幕が上がるのを待つオペラ座のライトが光る夜

(…すごい、初めて来た)

カイン:……いつ見ても無駄にキラキラしやがって
吉琳:オペラ、観たことあるの?
カイン:あ…?てめえ、馬鹿にすんな。
カイン:子どもの頃から通ってるに決まってんだろうが

(もう…今夜はずっと不機嫌)

招待状をもらってからここに来るまで、カインはずっと眉間に皺を寄せている。

(カインはこういう場所が苦手そうだけど…せっかくのデートなのに)

カイン:おい、始まる。大人しく座っとけ
席に座ると灯りがふっと消えて、オペラ座の幕が上がっていく……

***

――…演奏が終わり迎えの車を待つために外に出ると、
少しだけ冷たい風が頬を撫でる。
………
吉琳:すごかったね、カイン!
カイン:………まあな

(なんなの?)

ずっとそっけないカインにむっとして、背伸びして頬を両手で包んで引き寄せた。
カイン:…んだよ!
吉琳:カインがずっと不機嫌だからでしょ?ああいう場所が苦手なのはわかるけど
吉琳:……今夜はせっかくのデートなんだから、もう少し笑ってよ
カイン:……っ…不機嫌なわけじゃねえ。ただ……
吉琳:ただ……?
カインはひどく気まずそうに視線を逸らすと、ぽつりと呟く。
カイン:今夜演奏してた曲が…、あんまり俺様の趣向じゃなかっただけだ
吉琳:………え

(今日の演目って皆から怖がられてる仮面の男が、女性を好きになったけど)
(最後に他の人と恋人になっちゃう曲だったはず…――)

吉琳:カイン、もしかして…
カイン:うるせえ!言うな!
吉琳:自分と仮面の男を重ねてたの?
カイン:………っ…!
首筋まで赤く染める姿が可愛くて、噴き出してしまう。
カイン:…なに、笑ってんだ
吉琳:だって…可笑しくて
涙を片手で拭うと、カインが眉を寄せる。
カイン:嫌だろうが。……その、お前とああいう風になったら
カインはため息をつくと、私の手を上から包んでぐっと顔を引き寄せる。

(……っ…)

カイン:…たかが曲くらいで嫌な想像とかして
カイン:誰のせいでこんな不抜けた男になってると思ってんだ…クソ

(…なんだ)

吉琳:カイン、同じ
カイン:……あ?
吉琳:私だって、カインと恋人になってからいつも聴いてた曲が違って聞こえるよ
吉琳:悲しい曲はもっと悲しく聴こえるし、…嬉しい曲はもっと嬉しく聴こえる
カイン:…………
吉琳:だけど、そういうふうに気持ちを動かされるのは悪くないなって思うよ
カインの切れ長の瞳を見つめて呟く。
吉琳:それに、カインと私が別れるはずないでしょ?……馬鹿
カインは長く息をつくと唇を寄せて目を細める。
カイン:お前といると面倒なことばっかだ。けど……
カイン:そういうの全部含めて、……お前が好きってことなんだろ
カインが今夜初めて笑顔を見せてくれる。
嬉しくて飛びつくように背伸びしてキスを交わすと、
オペラ座の扉が一瞬だけ開いて、夜空に音楽が響いていった…――

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…たくさんの人が訪れるダンスパーティーが開かれる夜
………
ノア:吉琳ー、このケーキ食べた?はい、あーん
吉琳:ノア…!見られるってば…
ノア:冗談だって
いつも通りの表情でへらっと笑うノアの笑顔を見ていると、
パーティーの様子を取材に来た女性記者が私たちに挨拶に来る。
報道記者:こんばんは、プリンセス。
報道記者:ノア様、もしかして今夜はピアノを弾かれるんですか?
ノア:んー?なんで?
報道記者:だって、今夜はダンスホールにピアノがあるので
女性記者の視線の先にはブラウンのピアノが置かれている。

(確か、今夜は有名なピアニストの方が来て演奏してくれるって聞いてたけど…)

ノア:ううん、弾くのは俺じゃないよ。
ノア:俺はプリンセスのためにしか弾かないから

(ノ…ノア?)

さらっと笑いながらノアが口にすると、
冗談だと思ったのか女性記者は笑みをこぼす。
その時……
ジル:ノア様、緊急事態ですよ
ノア:……?
ジル:手配していたピアニストの方が来られなくなったんです。
ジル:なので代わりに弾いて頂けますか…?

***

(……すごい拍手だったな)

灯りが消えたダンスホールで、手すりに腕をついて、
煌びやかなダンスホールで完璧にピアノを弾いていたノアの姿を思い出す。
ノアは人に囲まれて、外まで連れ出されてしまった。
吉琳:もう、戻って来ないよね…
一人呟いて、部屋に戻ろうとしたその時……
ノア:戻って来ないわけないよ。ごめんね、暗い場所で一人にさせて
背中に体温が触れて、視線だけで振り返るとそこにはノアの姿があった。
吉琳:ノア…戻って来ちゃっていいの?
ノア:うん、だいじょーぶじゃない?
吉琳:だいじょーぶじゃないって、そんな簡単に言っちゃダメでしょ?
ノアは優しく笑うと、私の肩に手を置いて自分の方に向かせ、
額をそっと重ねた。

(……っ…)

ノア:いいんだよ。俺にとって吉琳が大切な原動力なんだから
吉琳:原動力…?
ノア:言ったはずだよ。吉琳のためにしか弾かないって

(あ……)

〝ノア:ううん、弾くのは俺じゃないよ。〞
〝ノア:俺はプリンセスのためにしか弾かないから〞

ノア:俺、冗談でも思ってないことは絶対言わないからねー?
ノアは笑うと、私をぎゅっと抱きすくめて呆れたように笑う。
抱きしめられた瞬間、不意に思う。

(そっか…、私、ノアが少しだけ遠くなったみたいで不安になって)
(それで今、すごく安心してる)

子どものような感情に、心の中でため息をついてノアを見上げると、
拗ねたような表情が視界を埋め尽くす。
ノア:吉琳は、自分の存在の大きさを全然わかってない
吉琳:…ノアこそ自分の存在の大きさ、全然わかってない
ノア:んー…これって相思相愛ってやつ?
ノアがあっけらかんと笑うから、つられて私も笑みがこぼれる。
笑い声をキスで塞いでいくと、夜空にはお互いの吐息だけが響いていった…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…風の音も聞こえない、穏やかで静かな夜
…………
吉琳:…アラン・クロフォード
月灯りだけが照らす廊下を歩きながら、
手にしたヴァイオリンに彫られていた字を読み上げる。

(これ、やっぱりアランの物だよね?)

アランの部屋に届けに行こうとしたその時……
アラン:なにしてんの?そんなうつむいて歩いてたら転ぶと思うけど
吉琳:アラン!
アラン:…ん?なんだそれ
アランは私の手元を見て、不思議そうな声を出す。
吉琳:これ、アランのヴァイオリンでしょ?
吉琳:さっき公務の資料を探してたら倉庫で見つけたの
ヴァイオリンを差し出すと、手にしたアランは目を見開いた。
アラン:ほんとだ。……これ、寄宿舎の音楽祭で使ったやつ
吉琳:音楽祭?
アラン:ああ、全員何かを演奏しないといけない決まりだったからな
懐かしそうなアランの表情を見て、思わず声を上げた。

(昔、弾いてたってことは……)

吉琳:ねえ、アラン。お願いがあるんだけど……

***

部屋に行くと、ヴァイオリンと弓を手にしてアランがため息をつく。
アラン:…そんな見ないでくれる?弾きづらい
吉琳:だって今夜だけしかこんなアランの姿、見られないでしょ
アラン:ダメって言ってもお前は見そうだから、もういいけど
アランは顎の下にヴァイオリンを挟むと、上目遣いで笑った。
アラン:へたでも笑うの禁止
大きく頷くと、その瞬間……

(……!)

綺麗な音が響いて、夜に響いていく。

(すごい…)

綺麗な曲と、真剣なアランの表情に見惚れていると、
アランがすっと手を下ろした。
アラン:……感想とかねえの?
吉琳:あ!違うの、感動して上手く反応できなかっただけ!
アラン:なんだそれ
アランは噴き出すと、ヴァイオリンをそっと置いて私の隣に座り、
天井を仰いだ。
アラン:…こういうの、正直想像してなかったんだけど
吉琳:こういうの?
アラン:そう
ぎしっとベッドが音をたてて、アランの瞳に捉えられる。
アラン:誰かのためだけに弾くとか、考えたこともなかった
アラン:お前が最初で最後だから…恥ずかしいし

(…なんだろう、さりげない言葉なのに)
(嬉しくて仕方ない)

吉琳:…ありがとう、アラン
笑うとアランが顔を寄せて唇が掠める。
アラン:言葉だけじゃお礼、足りない
目を見開くと、唇が重なっていく。
吉琳:……ん…、…っ
吐息をこぼすと、ベッドに体が沈んでアランがネクタイに手を掛ける。
アラン:お前の甘い声、もっと聞かせて…?
優しい音楽のように響くアランの声を聞きながら背中に腕を回すと、
さっき聞いたばかりの音が、耳元で流れたような気がした…――

 

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★期間限定!毎日読み放題3日目★

2016年?月に開催していた『洋館ゴシックガチャ』の プロローグ・クロード・ゼノ・レオのシナリオが読めちゃうよ☆

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《プロローグを読む》

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《クロードのストーリーを読む》

之前有轉到,待補

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《ゼノのストーリーを読む》

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《レオのストーリーを読む》

 

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★期間限定!毎日読み放題4日目★

2014年8月(Ameba・iPhone・Androidのみ)に開催していた『Sweet Dance ~魅惑の瞳に誘われて~』の カイン・ノア・ルイのシナリオが読めちゃうよ☆

04

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《カインのストーリーを読む》

 

――…誰が誰だかわからない、素顔を隠した仮面舞踏会の夜
…………

(…凄い人、それにこんな光景初めて見た)

華やかな音楽と、それに負けない装飾が施された仮面の人だかりの中、
ただ一人の人を探す。

(カインどこ?皆、仮面をつけてるからわからないよ)

視線をさまよわせた瞬間、一人の仮面をつけた男性が私の前にすっと膝まずく。
カイン:レディ。今宵、貴女と出逢えたことは運命でしょう
カイン:……身分も肩書きも捨てて、私の手を取ってください
聞き慣れない口調と仕草に戸惑うものの、仮面の下から覗く瞳に捉えられる。

(カインだ……)

差し出された手を掴んだ瞬間、それは確信に変わっていく。
吉琳:ええ、喜んで
すっと立ち上がったカインと手を取り合って、
その場でダンスを踊ったあと、目配せをしてそっと二人で抜け出した。

***

――…流れていた音楽がしだいに遠くなり、代わりに夜風が髪をさらう
…………
カイン:いってえな…てめえ、人の足を盛大に踏みやがって
吉琳:だって仮面をつけてたし…ごめん
仮面を取ったカインの顔が月灯りに照らされて思わず顔が綻んでしまう。
思わず頬に手を伸ばして触れると、カインが目を見開いた。
吉琳:変な顔。せっかく仮面を取ったんだから、もっと良い顔してよ
カイン:………変な顔ってお前な
カインは優しく笑うと、私の仮面に手を掛けてそっと外した。
カイン:お前のほうが、変な顔だろうが。にやついてんじゃねえ
顎が持ち上げられて、唇が微かに触れた。
吉琳:やっぱり、カインだね
カイン:…あ?
吉琳:最初、口調が違うから誰かわからなかった。
吉琳:レディ、とかカインじゃないみたい
カイン:…あれが伝統なんだから仕方ねえだろうが
苛立った表情で私を見下ろすカインの耳が赤く染まっている。
吉琳:ねえ、あれ…もう一回言って。
吉琳:今宵、貴女と出逢えたことは運命でしょうってやつ
笑いながら言うと、カインは髪をくしゃくしゃと掻き混ぜて……

(………!)

私の腰に腕を回して思い切り抱きすくめる。
体がふらついて、羽のついたロココハットがふわっと地面に落ちた。
カイン:…言うか
噛みつくように鎖骨に唇が触れて、熱い吐息が首筋にかかる。
カイン:お前が、俺を一目見ただけで俺だってわかるようになるまで言わねえ
カイン:……俺を、お前に叩き込んでやるよ
吉琳:……ゃ…、…
容赦なくカインの指先がドレスに入り込んで肌をなぞっていく。
柔らかい部分をなぞられて、こぼれそうな声を我慢するために唇を噛みしめる。
カイン:…吉琳
吉琳:……ん?
カイン:あんま唇、噛むな。痕になんだろうが
甘やかすような声に、唇を薄く開くと唇が深く重なって、
カインの切れ長の瞳に私が映る。

(ほんとは、この瞳を見た瞬間に気がついたんだよ)

それでも腰を強く抱き寄せられて、伝える言葉より先に声がこぼれる。
カインの腕に抱かれながら、声を上げて甘い夜だけが更けていった…――

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…誰もが美しく着飾り、仮面をつけてダンスを楽しむ夜
…………

(ノア、どこだろう?)

仮面をつけたまま、人ごみを縫ってノアの姿を探していると……
ぐっと手首が引き寄せられ、足を止めると見知らぬ男性が笑みを浮かべている。
男性:美しい仮面の貴女。どうか一晩、私と過ごして頂けませんか…?
吉琳:あの…!私は…
言葉を続けようとした瞬間、体がふわっと浮き上がる。

(だ…誰?)

ノア:今宵一晩、貴女を奪うことをお許しください
吉琳:ノア!
ノア:恥ずかしいなら、その仮面で顔を隠していてください…レディ?
呆気にとられる男性を横目に仮面舞踏会で一人だけ仮面を付けず、
ノアは楽しそうに笑いながら私を抱き上げてダンスホールを抜け出して行く。

***

ノアが私をその場にそっと下ろすと、ロココテイストのドレススカートが揺れる。
ノア:間に合ってよかったー、勝手にさらってごめんね?
あっさりと言うノアになんだか拍子抜けしてしまい、笑みがこぼれる。
吉琳:ううん、ありがとうノア。一人だけ仮面をつけてないから驚いたけど
ノア:………忘れてた。ま、そんなことはさておき

(……?)

ノアは私の仮面に手を掛けると、すっと外して腰を抱き寄せる。
ノア:私と踊って頂けますか…?
吉琳:はい、ノア様
ノア:踊り終わったその時、私に心を奪われていたら……
ノアは私の額に触れるだけのキスをすると、手をそっと取った。
ノア:今夜の貴女を全て、私のものに
片目が細められた瞬間、ノアのリードでステップを踏んでいく。

(……凄い、こんなにダンスって楽しいんだ)

そっと視線を上げると、ひどく優しい瞳が私を見つめている。

(…もうとっくに心なんてノアに奪われてる)
(ノアだけが、私をこんな気持ちにさせてくれるから)

ノア:それで、答えは?
足を止めたノアの胸に額を預けて、呟く。
吉琳:……奪われてるよ。だから、今夜の私は全部ノアのもの
ノア:せっかくかっこつけてたのに、台無しになりそー…
ノアは息をつくと、私の髪に指先を通して深く唇を重ねていく。
吉琳:…っ…、…はっ
ノア:こんなとこでいけないってわかってるけど…止められない
ノアの手がドレスを捲り上げて、大きな手が足に触れていく。
しだいに上に伸ばされていく指先に、足からは力が抜けていく。

(おかしくなりそう……)

その場に崩れるように座り込むと、ノアの手から仮面が転がっていく。
吉琳:ノア…っ…
ノア:あんま煽らないで、優しく…できなくなる
甘い声をこぼすと、ノアは余裕のない表情で眉を寄せて唇を触れさせた。
ノア:…全部ちょうだい。吉琳の声も、体温も、俺のものだよ
仮面を取って全てを奪われながら、魔法のような一夜は、
甘く静かに更けていった…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…身分も肩書きも全ては仮面の奥へ隠す、特別な夜が終わり
…………

(さっきまでの賑やかさが嘘みたい)

仮面舞踏会が終わり、
私はドレスも仮面も脱ぎ捨てて誰もいないダンスホールで深く息をつく。
手に持ったままの仮面が月灯りに照らされて、ルイの姿を想う。

(仕方ないよね、城下で仕事だったんだから)
(今夜は戻らないって言ってたし)

賑やかな夜に、踊りたい相手がそばにいなかった寂しさをごまかそうと、
踵を返したその時……
ルイ:…レディ
聞き慣れた声と、聞き慣れた足音に視線を上げると、
仮面を被った男の人が階段をゆっくり下りて来る。

(どうして……)

私の前で足を止めると、ゆっくりと仮面が外されて……
吉琳:ルイ、仕事は?
ルイ:終わらせてきた
ルイ:君が…一人でいる気がして。仮面舞踏会には間に合わなかったけど

(……不意打ちだよ)

ルイの優しい瞳と、目の前にいる姿になんだか泣きそうになって、
慌てて仮面で顔を隠す。
ルイ:吉琳…?
吉琳:……おかえり、ルイ
ぽつりと呟くと、腰をそっと抱き寄せられた。
ルイ:仮面の下に、何を隠しているの…?
ルイ:顔、…見たい
ルイの手で、ゆっくり仮面が外されると至近距離で瞳が重なった。
ルイ:…泣いてる?
吉琳:その一歩手前
ルイ:やっぱり…見つけられてよかった
涙を堪えるために視線を上げると、ルイの指先が顎にかかり唇が触れる。
吉琳:……っ…ん…
ルイ:吉琳…

(…顔が見えない人の中で、)
(ルイの姿がないことがほんとは不安だった)
(ルイに探してもらいたかったよ)

重なる吐息がこぼれて、想いが口を突いて出る。
吉琳:…ルイ、逢いたかった
ぎゅっと体を抱きしめ返すと、ルイが優しく髪を撫でた。
ルイ:うん、もっと聞かせて
甘い声が落ちてきてまた唇が深く重なり、
リーフグリーンのリボンブラウスに指先がかかる。
ルイ:吉琳を全部、見せて
ブラウスがダンスホールの床に落ちて、ルイの唇が肌をなぞっていく。
吉琳:ルイ……っ…

(立って…いられなくなる)

柔らかい部分に唇が触れて、ルイの肩に掴まると仮面が床に転がった。
ルイ:……仮面なんかいらない
ルイ:全部、受けとめたいから
ルイから与えられる刺激に、吐息をこぼしながら呟く。

(ルイには、何も隠していたくない)

吉琳:…今夜は、ずっとそばにいて
ルイ:…うん、ずっと離さない
ルイ:それにもう、離せそうにない
そのままダンスホールに倒れ込むように肌を重ねていく。
吉琳:……ぁ…、…ルイ
ルイ:…隠さないで
ルイが両手を捉えて月灯りの下、肌を見下ろして指先で撫で上げる。
ダンスは甘い時間が終わったあとで、そうルイが耳元で囁いた…――

 

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★期間限定!毎日読み放題5日目★

2015年11月に開催していた『ほろ酔いガチャ ~今夜はいつもより××~』の プロローグ・クロード・ゼノ・ジルのシナリオが読めちゃうよ☆

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《プロローグを読む》

 

――…ダンスホールから賑やかな声が響くパーティーの夜
招待客たちには、ウィスタリアの名産である白ワインが振るまわれていた。
…………
ユーリ:吉琳様、ワイン飲んでみた?
吉琳:うん、頂いてるよ。美味しい白ワインだね
ユーリ:ね、俺も少し飲んだけどすごく美味しかった
ユーリ:でも、今日出てるのは結構度数の高いお酒が多いから気をつけて
吉琳:そうだったの?
ユーリ:そう、そのせいでさっきから介抱に引っ張りだこなんだー
ユーリ:ゆっくりお酒を楽しむ暇もないよ
ユーリ:ま、頑張ってるご褒美用にワインは一本確保させてもらったけど
吉琳:ユーリらしいね
ユーリ:あれ? 吉琳様も顔赤いように見えるけどもう酔ってる?
吉琳:え、ほんと?

(全然そんな気はしないけど…)

ユーリ:うん。だってほら…
ユーリの手が伸びてきて、頬が手のひらに包まれる。
吉琳:え、あの…
ユーリ:…………
吉琳:ユーリ?

(なんだか、そんなに真剣に見つめられると…)

胸の音が速くなってきた瞬間、にこっとユーリは微笑んだ。
ユーリ:ね? 赤くなった
吉琳:…っ…ユーリ!
ユーリ:ごめん、ちょっとからかっちゃった
吉琳:…もう

(もしかして、ユーリも今日は少し酔ってるのかな?)

それからまた倒れた人の介抱に向かったユーリと別れて、会場を見回す。

(そういえば、しばらく彼の姿を見てない)
(パーティーが始まった時はそばにいたはずなのに、どこ行ったんだろ…?)

そう思った瞬間、熱い手にそっと手首を掴まれた。
???:吉琳
吉琳:あ…
名前を呼んで微笑むと、手を引いたまま彼が出口に向かって歩き出す。

(あれ…なんだか今夜はいつもより…――)

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《クロードのストーリーを読む》

 

――…涼やかな夜風が木々を優しく揺らす夜
…………
酔ったクロードを肩で支えながら、何とか自分の部屋のドアを開ける。
吉琳:クロード、しっかりして…っ
クロード:そう言うお前の方がふらふらだ
吉琳:それは、クロードを支えて歩いてるから…
吉琳:あっ…!
膝から力が抜けて、クロードを支えたままソファーに倒れ込む。
その途端に近くの机が揺れて、上に並んだいくつかの瓶が微かな音を立てた。
吉琳:ごめん、クロード……って
吉琳:何笑ってるの…?
クロード:いや、悪い。一生懸命なお前が可愛くて…っ
吉琳:…笑いすぎだよ、クロード
ソファーに座り直すと、クロードは珍しく肩を揺らしていた。

(でも、いつもならこんなことでこんなに笑わないし)
(本当に今日は少し酔ってるみたい)

背もたれに預けた自分の腕に顔を伏せているクロードの髪を、そっと撫でる。

(言ったら怒りそうだけど、ちょっと可愛いかも)

その時、クロードの視線が上がって、何か言いたげにじっと見つめられた。
吉琳:なに?
クロード:いや…お前の手、気持ちいいな
吉琳:え?
クロードはふっと目を細めると、ソファーに預けていた頭を私の肩に乗せた。
吉琳:クロード?
クロード:お前のこれ、落ち着くんだ
クロード:だから、しばらくこのまま動くなよ
笑みを滲ませながら言って、クロードがぎゅっと私の手を握る。
吉琳:…なにそれ

(でもこれ、甘えてくれてるんだよね…?)

そう思うと、思わず唇が緩みそうになる。

(いつもは私が甘えてばかりだから、こんな時くらい甘えさせてあげたい)

吉琳:…いいよ。しょうがないから、このままでいてあげる
クロード:ああ、ありがとな
クロードと繋いだ手を絡めたり離したりして遊んでいると、低い笑い声が届く。
吉琳:どうしたの?
クロード:いや、子どもみたいだなと思っただけだ
吉琳:…っ…今日子どもみたいなのはクロードの方でしょ
クロード:本当にそうか?
吉琳:え……っ
腰に手が回されて、抱きしめられながら二人でソファーに倒れ込む。
吉琳:クロード……んっ
キスで口を塞がれた瞬間、お酒の香りがふわりと漂う。
唇を離すと、クロードは瞳を覗き込んで口角を上げた。
クロード:これでも、そう言えるか?

(……っ)

吉琳:…子どもみたいな子に、こんなことしていいの?
クロード:ああ、今の顔は子どもみたいなんて思えないからな
吉琳:今の顔…?
クロード:ああ
クロード:俺が好きでたまらないっていう、女の顔
吉琳:…!
吉琳:…クロードの意地悪
クロード:恋人の素直じゃないところを正確に把握してるだけだよ
瞼、頬へとあやすように優しいキスが落ちてきて、そっと唇が重なる。
吉琳:ん……

(…どうしてだろう)
(今日のキスは、こんなに優しいのに…)

吉琳:クロード…
クロード:ん…?
吉琳:なんだか、キスで酔いそう…
クロード:……お前な
息をついたクロードの手が、開かれていた背中に触れて……
吉琳:…っ…、あ…
ドレスが下ろされて、慌てて前を腕で隠す。
クロード:それ、今さらじゃないか?
吉琳:…そういう問題じゃな…、ぁ…っ
首筋を柔く噛まれて、甘い吐息がこぼれる。
その瞬間に、ドレスがするっと床に落とされた。
吉琳:…っ、何でこんな急に…
クロード:俺も、お前とのキスで酔ったから

(確かに、最初は酔ってるみたいだったけど…)

話しているうちに、クロードの瞳には酔いの色は見えなくなっていた。
吉琳:それ、絶対嘘…
シャツを脱いで覆いかぶさるクロードを軽く睨むと、
クロードはほんの少し困ったような笑みを浮かべた。
クロード:酔ってるよ…そういうことにしておけ
そう言って落ちてくるキスがどこまでも優しくて、
単純だと思うけれど気持ちがほだされてしまう。

(クロードが本当に酔ってるのかはわからない)
(でも、今日は甘やかすって決めたから…)

甘く溶かされるようなキスを受けとめながら、そっと背中に手を回した…――

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《ゼノのストーリーを読む》

 

――…明るい月明かりが王宮を包む夜
…………
手を引かれてパーティーを抜け出し、私はゼノ様の滞在する部屋を訪れていた。
吉琳:ゼノ様、大丈夫ですか?
ゼノ:ああ
上着を脱いでソファーに腰を下ろしたゼノ様の表情は、
いつもと変わらないように見える。

(でもさっき手を引かれた時、ゼノ様の手がいつもよりずっと熱かった)
(それに、こんな風にパーティーから連れ出すこともいつもならしない…)

吉琳:ゼノ様、もしかして酔っていますか…?
ゼノ:なぜそう思う?
吉琳:あの、なんだかいつもならこんな風に連れ出すことはなさらないと思って…
ゼノ:…そうだな、少し酔っているのかもしれない
ゼノ様の手が伸ばされて、頬を優しく撫でられる。
ゼノ:今夜のお前が綺麗で、独りじめしたくなってな
ゼノ:誰の目にも触れさせず…この腕の中に抱きしめていたい
ゼノ:そう思ったら、いつの間にかお前の手を引いていた
吉琳:…っ…
穏やかな眼差しと告げられた言葉に、頬が熱くなっていく。

(このまま見つめ合っていたら、ドキドキしすぎておかしくなりそう…)

吉琳:あの、私お水を用意してきますね
ゼノ:…ああ
持っていたバッグをソファーに置いて、
部屋に置いてある水差しからコップに水を注ぐ。
コップを手にゼノ様のところに戻ると、
ゼノ様はこめかみを押さえて目を閉じていた。
吉琳:ゼノ様、体調が優れないのでは…?
ゼノ:いや…だが、確かにいつもより酔いが回っているようだ
吉琳:横になりますか?
ゼノ:大丈夫だ。それより…
吉琳:あ…っ
少し強引に手を引かれて、胸に抱きしめられる。
その瞬間、コップが手を離れてこぼれた水が床に広がった。
吉琳:あの、ゼノ様お水が…
ゼノ:吉琳、すまないが…
頬にそっと手がそえられて、瞳を覗き込まれる。
ゼノ:今は、何よりも…お前がほしい
吉琳:え…――んっ
急に唇を塞がれて、目を見開く。
吉琳:ゼノ、様……?
ゼノ:…言っただろう?
ゼノ:連れ出す前から、お前をこの腕に抱きしめたかった

(ゼノ様の息が、耳に…っ)

肩を跳ねさせると、ふっと笑う気配がして……
吉琳:…っ…ぁ…
耳の輪郭を唇で挟まれて、無意識に声がこぼれた。
ゼノ:吉琳…
体をソファーに倒されて、また唇が重ねられる。
吉琳:ん……っ

(いつもより吐息もキスも、熱い…)

呼吸を求めて口を離すと、ゼノ様の手が頬を包んですぐに唇を塞がれた。
吉琳:んぅ……っ…ん!
ドレスが引き下ろされて、熱い手の感触が胸を包む。
思わずゼノ様の肩にしがみついた時、ようやく唇が離された。
吉琳:…っは……あ…
ゼノ:…すまない、吉琳
ゼノ:こうしてお前に触れていると、余計に酔いが回りそうだ
吉琳:ゼノ様…
ゼノ:それなのに、どうしてだろうな
吉琳:…っ、あ…
鎖骨の辺りを唇で強く吸い上げられて、背筋に甘い痺れが走った。
ゼノ:それでも、今はお前に触れていたい…嫌か?
潤む視界に、熱に浮かされたような瞳が映る。

(お酒を飲むより、ゼノ様のこの瞳に見つめられる方がずっと)
(胸の音が早くなって、酔ったみたいに体が熱くなる。でも…)

ゼノ様の首に腕を回して、耳に唇を寄せる。
吉琳:…嫌じゃ、ありません
ゼノ:吉琳…
ゼノ様は目元を和ませると、唇に優しくキスをしながらシャツを落とした。
吉琳:ゼノ様……あっ
ぐっと体を起こされて、正面から抱き合うように膝に乗せられる。
吉琳:ん……っ、ぁ…
腰を引き寄せる甘い感覚に深く息をつくと、ぎゅっと手を絡められる。
ゼノ:酔いが抜けても、この熱は冷めそうにないな…
吉琳:…私もです
互いに笑みを浮かべて、大好きな人に唇を寄せていく。
月の光が差し込む夜、熱い吐息が部屋を満たしていった…――

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《ジルのストーリーを読む》

 

――…雲間から柔らかな月明かりが差し込む夜
…………

(珍しくパーティーから連れ出されたと思ったら…)

吉琳:ジル、大丈夫…?
ジル:…ええ、少し落ち着いてきました

(確かに、顔の赤みは引いてきたかも)

ベッドに座るジルは、今夜パーティーで出されたお酒のせいで少し酔っている。

(こうやってジルの役に立てることってあんまりないから、嬉しい)
(でも……)

ジル:…どうしました、吉琳?
吉琳:…っ…なんでもない
気だるげな瞳から、思わず目を逸らす。

(酔ったジルって、なんだかドキドキして…真っすぐ見ていられない)

吉琳:落ち着いたみたいだし、そろそろ部屋に戻るね
早くなった鼓動を隠して背中を向けようとすると……
ジル:帰るのですか?
吉琳:え?
手首を掴まれて、ジルを振り返る。
ジル:ここにいてくださるなら、今夜は添い寝して差し上げます

(これって、帰らないでほしいってこと…?)

吉琳:でも…
ジル:――吉琳

(…っ…名前を呼ばれただけなのに)

少し掠れた声が切なく響いて、胸が小さく跳ねる。

(この声に、いつも逆らえない…)

吉琳:一緒に寝て邪魔じゃない…?
ジル:…わかっていませんね、吉琳
吉琳:え…
髪に手が差し込まれて、ぐっとジルの顔が近づく。
吉琳:んっ……
キスをしながら腰を引き寄せられて、ジルの胸に倒れ込んだ。
下唇を甘く噛んで、唇が離される。
吉琳:…っ…ぁ……ジル?
ジル:…こんなに貴女に触れたくて仕方がないのに
ジル:断られても、帰すつもりはありませんでしたよ
吉琳:…っ…じゃあ、何で帰るのか聞いたの?
ジル:それは…
ジル:いつでも、貴女の意思で選ばれたいので
吉琳:…!
柔らかな微笑みに、頬が熱くなって思わず顔を伏せる。

(ジル、いつもより意地悪だ)
(なのにそんなに優しく笑うなんて…ずるい)

ジル:まあ、貴女の意思を変えるために努力するのも嫌いではありませんが
吉琳:努力…?
ジル:ええ、たとえば…
吉琳:あっ……
ベッドに体を倒されて、足の間にジルの体が入り込む。
吉琳:ジル…っ
ジル:こうして逃げ場をなくしてみたり…
ジル:キスが欲しくなるよう、誘惑してみたり…ですね
吉琳:…っん……、ふ…っ
顎にそえた手が唇を押し開いて、呼吸を奪うようなキスが落ちてくる。
キスの合間に指先で膝から上をなぞられて、思わずジルのシャツを握った。

(頭、くらくらして…)
(お酒に酔ってるみたい…)

ジル:…そうだ、いいことを思いつきました
吉琳:…いい、こと?
ジル:ええ
妖艶な笑みを浮かべると、ジルは私の両手を自分のシャツに導いた。
ジル:今日は、貴女が脱がせてください
吉琳:私、が…?
ジル:たまにはいいでしょう?
ジル:それとも、できませんか?
吉琳:…っ…そんなことないよ
ジル:では、お願いします

(…なんだかジルのペースに引き込まれてばっかり)

手を伸ばして、一つずつボタンを外していくと、くすりと笑い声がする。
ジル:手が震えていますね…貴女も酔っているのですか?
吉琳:…っ…そう、酔ってるの
ジル:そうですか
ジル:でも早く脱がせないと、私の方が先に貴女を脱がせてしまいますよ…?
吉琳:え……
ぐっとドレスが下ろされて、あらわになった胸が空気に触れた。
吉琳:ジル…っ…ぁ…
ジル:吉琳、手を止めないで
くすぐるように唇が胸をなぞったかと思うと、きつく吸い上げられる。
吉琳:んっ…

(そんなこと、言われても…)

ドレスの隙間から入り込んだ手が肌を撫でて、体のすべてが甘い感覚に包まれた。
吉琳:も……、むり…っ
ジル:…仕方がないですね
脱げかけていたシャツを肩から落として、ぐっとジルの体が近づく。
吉琳:んんっ……
ジル:吉琳…
ジル:今の貴女の方が、よほど酔ったような顔をしていますよ

(それは、ジルのせいなのに…)

浮かんだ想いは言葉にならなくて、重なる熱をただ受け止めていく。
甘い体温に酔いしれるように、夜に沈んでいった…――

 

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2014年8月(Ameba、iPhone、Androidのみ)に開催していた『君へ贈るプレゼント』の カイン・ノア・アランのシナリオが読めちゃうよ☆

06

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《カインのストーリーを読む》

 

――…遠くの庭で、向日葵が揺れる頃。
…………

(せっかくの休みなのに、なんでこいつは人のベッドで雑誌読んでんだ)

カイン:おい、俺様に構え
吉琳:ダメ、今これ読んでるから
内心不貞腐れながら、ちらっと横目で雑誌を見ると、
そこには色とりどりの靴、鞄、コスメが載っている。

(…女ってほんとこういうもの好きだよな)

ため息をついた瞬間、ページを捲る指先に傷があることに気がつく。

(…この間アップルパイ作ってくれた時か)

吉琳はよく、なんでもない日にプレゼントをくれる。
なんでもない風を装うけれど、
吉琳の気持ちが込められたもの一つ一つが嬉しいのも事実だった。

(こいつから貰ってばっかりじゃ気が済まねえ…)
(それに俺だってこいつを喜ばせたい)

思い立ってベッドに寝そべっている吉琳の手元を覗き込む。
カイン:……おい、この中でお前が欲しいものを言え。なんでも買って来てやる
吉琳:どうしたの急に?
カイン:…いつもお前がアップルパイだのなんだの作ってくれる…お返しだ
吉琳はまだきょとんとしたままで、苛立って雑誌を奪い取る。
カイン:迷ってんなら決めてやる!この鞄か?
吉琳:ううん、いらない

(…女物なんてわからねえな、どれも一緒に見える)

カイン:この靴か?それとも…これか?
雑誌を指差すと、吉琳は盛大にため息をつく。
吉琳:可愛いなって思うものはたくさんあるけど…
カイン:……けど?
吉琳はふっと唇に笑みを滲ませて、緩く首を振った。
吉琳:考えておくね
そのまま吉琳は雑誌から視線を逸らしてしまった。

***

――…その夜。

(…何なんだ、あいつ。いくら眺めてもわかんねえ)

吉琳から奪った雑誌を何度も見るけれど、
正解は一向にわからない。

(……いっそ、全部買えばいいのか?)

首を傾げたその瞬間、談話室に続く廊下から足音が聞こえてきた。
吉琳:カイン!海に連れてって
カイン:…………は?
吉琳:お返し、してくれるんでしょ?それに、バイクならすぐだし
カイン:いいけど、海がお返しって……
吉琳:ほら!早く

(なんだってこいつはいつも、唐突なんだ…)

吉琳に腕を掴まれて、そのまま城を飛び出した。

***

バイクを飛ばして行くと、波の音が耳をくすぐる。
吉琳をバイクから下ろすと、砂浜を走り出して行く。

(ガキかよ…)

呆れた笑みをこぼしながら、吉琳の後について行くと……
水を手ですくった吉琳が、こっちを見て悪戯に笑っている。
その瞬間、水が顔にかかった。

(…!つ…つめてえ)

カイン:てめえ、何してんだ!こっち来い
吉琳:嫌だ!
吉琳に近づいて、思い切り水をすくってかけると、
濡れた犬のように吉琳は首を振る。
カイン:お前、なんてツラしてんだよ。だっせえな
いつもみたいに反撃が来ることを予想して身構えると、
吉琳はこっちを見つめて、優しい表情で笑う。
吉琳:カイン、あのね。
吉琳:私はお礼が欲しいからカインにプレゼントをしたんじゃないよ
カイン:……あ?
吉琳は眉を下げると、水で濡れた手で頬に触れる。
吉琳:今みたいに、笑った顔がみたいの。だからお返しだなんて言わないで
吉琳:あ…でも、ここに連れてきてもらっちゃったけど
あまりに真っ直ぐで、無邪気で、優しい言葉に愛おしさが込み上げる。

(……んだよ、ソレ)

カイン:それじゃ…こういう時、どうすればいい
吉琳:お返しじゃなくて、…カインをちょうだい
カイン:俺は高いからな
照れ隠しで言うと、それすらも見透かしたように吉琳が背伸びする。
吉琳:知ってる

(…今夜はしてやられてばっかだ)

腰を抱き寄せてキスをすると、体勢が崩れて砂浜に座り込む。
吉琳:ん……、…っ…

(……もう少し)

髪をくしゃりと撫でて、首筋に唇を埋めようとしたその時……
吉琳:あ!カイン、見て!
カイン:…………はあ?
吉琳は目を輝かせて、何かを目の前に差し出した。
吉琳:この貝殻、すごく綺麗。珍しいよね?

(こんな貝殻一つで笑うのかよ)

靴でも鞄でもない。
吉琳は貝殻を夜空にかざして、嬉しそう笑っている。

(俺には、お前を喜ばせることが難しい)
(…誰よりも、笑ってほしいと想うからなおさらだ)

カイン:貝殻で満足なんて、安い女だな
吉琳:…っ…そんなこと言ってないで拾って
カイン:仕方ねえな、それより綺麗な貝殻見つけてやるよ
波が打ち寄せる音の中、必死に貝殻を探していく。

(…お前と同じで、俺もお前の笑った顔が見てえ)
(俺はお前が、……好きで仕方ねえから)

カイン:あった!
その瞬間、吉琳が海を背に笑う。
この瞬間は、何にも変えられない贈りもののような時間だった…――

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…空が高く晴れ渡った日。
…………

(……眠い)

ジル、それにクロードに叩き起こされて衣装部屋まで無理やり引きずられた。

(パーティーのための新しい洋服とか、どーせ着ないのに)

ソファーに寝転んでいると、視界の端で何かがきらっと光った。
ノア:…?ねえ、クロード、それ何?
クロード:ああ、これか。
クロード:王宮にさっき行商が来ててな、この中から買い取る物を選ぶんだ
ノア:そーじゃなくて、光ってるやつ
ソファーから体を起こして、床に置かれたトランクを覗き込む。
ソファーから体を起こして、床に置かれたトランクを覗き込む。

(見つけた)

光る物を持ち上げると、それはキラキラと光るネックレスだった。
その光に、数日前に見た夜空をふっと思い出していく。

〝(…凄い、星空)〞

〝流れ星が降る夜、吉琳と二人で城の外に抜け出して空を見上げた。〞
〝すると吉琳は、空に手を伸ばしてふわっと笑った。〞
〝吉琳:星に手が届きそう。小さい頃、本当に星って掴まえられると思ってたんだ〞
〝ノア:それ、少しわかるかも〞
〝吉琳:ノアだったら、背が高いから掴まえられそうだね〞
〝ノア:掴めるかなーやってみよっか〞

〝(吉琳が欲しいものは全部、あげたい)〞

〝無理だとわかっているけれど、吉琳と同じように空に手を伸ばすと、〞
〝やっぱり星にはどうしても手が届かなかった。〞

(このネックレス、あの時の光に似てる)

ノア:ねえ、クロード
クロード:どうかしたか?
ノア:これ、俺が買ってもいい?後で、行商さんに払っておくから
クロード:いいけど、お前装飾品は嫌がるだろ
ノア:俺のじゃないよ

(……強いて言うなら)

ノア:不可能を可能にするんだー
クロード:お前はあいかわらずわけがわからないな
頷いて、壊れないようにそのネックレスをそっとポケットにしまった。

***

――…そしてその夜。
…………
吉琳:どこに行くの?
ノア:秘密ー
吉琳の手を引いて、そっとお城から抜け出して行く。

(ほんとはすぐに喜んだ顔がみたい)
(……けど、今は我慢)

ふっと視線を空に向けると、空には無数の星が瞬いていた。

(今日は晴れてたから、星がよく見える)

***

いつも抜け出す丘まで来ると、吉琳を後ろから抱き抱えて座る。

(…よし、準備万端)

ノア:吉琳、俺、背が伸びるようになったよ
吉琳:え…?
吉琳はなんのことかわからない、とでも言いたげな声を上げた。
ノア:だから、星にも手が届くようになった気がする
吉琳:そんなわけないでしょ?
吉琳が楽しそうに笑うから、その分だけ喜ばせたくなる。

(出来ないことなんかないって証明するから)
(吉琳は、ただ笑ってよ)

ノア:それじゃ、あの星を見ててください
吉琳:いいですよー?
吉琳が腕の中で、視線を夜空に向ける。
星が瞬く空に手を伸ばすと、手が星に照らされて淡く光る。
吉琳の喜ぶ顔を想像しながら、手をぎゅっと握りしめた。
ノア:はい、掴まえた
吉琳:本当に?
吉琳の声に頷いて、そっと華奢な首に手を回す。
そっとネックレスから手を離すと、吉琳の胸元で綺麗に光った。
吉琳:これ、どうしたの!?
ノア:空から掴まえた
そう告げると吉琳が目を見開いてから嬉しそうな表情で、笑みをこぼす。
吉琳:……うそつき。でも嬉しい、ありがとう
ネックレスに視線を落として笑いながら、吉琳が呟いた。
吉琳:ノアにできないことってないね
その瞬間、その横顔を見て思う。

(ああ、そっか)
(俺は吉琳との間に、できないことを作りたくないんだ)

吉琳といると、今まで閉じ込めていた欲が込み上げてくる。

(吉琳の願いごとは、全部叶えたい)
(吉琳の笑顔を一つでも多く見たい)
(吉琳を……誰よりも幸せにしたい)

それを叶えることは、結局自分の願いを叶えることで、
自分でも驚くほどの欲深さに息をついて、吉琳をぎゅっと抱きしめた。
ノア:次のお願いごとをどうぞ、吉琳?
吉琳:それじゃ…
吉琳は空を指差して、振り返って笑う。
吉琳:今度は、あの月にしようかな

(………月)

必死に頭を働かせて、ぽつりと呟く。
ノア:それじゃ、まずは牛乳飲んで、もっと背伸ばさないと
吉琳:何それ
吉琳はまた笑みを深めると、髪を両手でそっと撫でてくれた。

(…?)

吉琳:冗談。ノアがいれば、それでいいよ
そう言って笑う姿にまた欲が込み上げる。

(俺はこの笑顔を守るためなら、欲深くなるし)
(守るためなら何だってする)

ノア:それじゃキスはいらない?
ふざけて尋ねると、吉琳が耳を赤く染める。
吉琳:キスは…ノアの一部、じゃないの?
甘い言葉に笑みがこぼれて、薄い唇にキスを落とす。
ノア:そうだね、俺を全部あげる
幾度となくキスを落としていくたびに、好きが積もっていく。

(吉琳のためなら、あの月だって掴まえてみせるよ)

吉琳の胸元には、空から落ちてきた星がいつまでも光っていた…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…昼間の静けさが落ち着いた夜のこと。
…………

(…明日は新人の騎士の奴だから、視察につき合わないとな)

考えごとをしながら、ボウルに入ったケーキの生地を混ぜていると、
キッチンの扉が開いた。
吉琳:良い香り!アラン、何作ってるの?

(…犬かよ)

嬉しそうに近づいて来る吉琳の姿に、無意識に笑みがこぼれる。
アラン:チョコレートケーキ。少し考えごとしたかっただけ
吉琳:考えごとする時に料理するなんてアランくらいだね
吉琳は笑うと、後ろから手元を覗き込んでくる。
すると、不意に吉琳が首筋に顔を埋めた。

(……っ…)

吉琳:キッチンはチョコレートの香りがするのに、アランからはバニラの香りがする
アラン:バニラエッセンス使ってたから。なあ、くすぐったい
吉琳:あ…ごめん
吉琳が体を離した瞬間、ふっと立ち昇る自分自身の香りに、
なつかしさを覚える。

(そうか、この香り…こいつにあげた香水の香りに似てる)

前に吉琳にあげた香水の香りが、今はしない。

(こいつ、前は毎日つけてたっけ)

アラン:あれ、もうつけてねえの
吉琳:あれ?
アラン:バニラの香水
それだけ言うと、吉琳は残念そうに眉を下げた。
吉琳:なくなっちゃったんだ。だからアランにお店を聞こうと思ってたの
アラン:ふうん

(なんで俺、今少し嬉しいとか思ってんの)

心の中でため息をついて、ごまかすようにバニラエッセンスを取る。
アラン:なら手……出して
首を傾げながら手を差し出した吉琳の手首に、バニラエッセンスを垂らす。
吉琳:アラン…!?
吉琳から香るバニラに引き寄せられるように、手首に顔を寄せる。

(甘……)

赤く頬を染めた吉琳を見上げて、笑みを向けた。
アラン:これ、代用にしとけば

***

――…翌日
…………
視察を終える頃には、もうすでに陽は落ちていた。

(…ここで待ってるか)

一緒に来た騎士を待っていると、不意に甘い匂いが鼻を掠める。
アラン:…………
その香りの道筋を辿るように視線を向けると、
そこには前に香水を買ったお店があった。

(近くにあいつがいるのかと思った)

どこか寂しさを覚えながら、前は店主に進められるままに買ったけれど、
今日は自分から近づいて声を掛けた。
アラン:これ、ひとつ
店主:ご自分用ですか?
アラン:ううん、恋人の。すぐに渡したいから包装はいらない
店主は嬉しそうな顔をすると、手で待っていろと指示を出してくる。

(なに…?)

バニラの香りが漂う中、数分待っていると店主が香水を差し出した。
アラン:…はりきりすぎだろ
自分の手にはピンクのリボンがかかった香水の瓶が置かれている。
それは自分のスーツとあまりに似合わなくて少しだけ笑えた。

***

――…城に戻る頃には、夜がすっかり色を濃くしていた
…………
吉琳の部屋の前で香水の瓶にもう一度、視線を落とす。

(…これ渡したら、どんな顔すんだろ)

アラン:入っていい…?

***

灯りがこぼれていた執務室に入ると、吉琳がふっと顔を上げる。
吉琳:アラン!おかえりなさい
アラン:ああ。なあ、お前に渡したいものあんだけど
吉琳の近くまで近づいて、顔を覗き込む。
吉琳:渡したいもの?
アラン:手…出して
吉琳:もしかして、またバニラエッセンス?

(…んなわけねえだろ)

吉琳が可笑しそうに笑いながら差し出した手を握って、
リボンが付いた香水の瓶をそっと手のひらに乗せた。
アラン:いつまでも代用でいいわけ?
吉琳:これ…
吉琳は目を見開いて、嬉しそうに顔を綻ばせる。

(……予想以上)

吉琳:もらってもいいの?
アラン:お前から返されたら、行き場なくなんだけど
つい緩んでいた頬を戻して、そっけなく言うと吉琳が微笑む。
シュッと音がして、部屋に甘いバニラの香りが漂った。

(なんか…)
(吉琳が、自分のものだって証みたいだな)

アラン:…もっとこっち来て
吉琳:え…
腕を引いて、首筋に顔を埋めるとバニラの香りが強くなった気がした。
アラン:……やっぱ、この香り好き
なんだかたまらない気持ちになって、
首筋に触れるだけのキスをする。
吉琳:ん……、…っ
香りよりも甘い吉琳の声が耳に届いて、柔らかい髪を撫でた。

(こいつ…もっと俺に染まればいいのに)

この声も、体温も、香りも自分のものにしたいと想う。

(とんだ独占欲だな…)

吉琳がバニラの香りを身に纏いながら、頬に手を伸ばす。
吉琳:なんだか、この香水付けてるとアランと一緒にいるみたい
頬に触れた手と、柔らかい笑顔に大きく心臓が跳ねた。
アラン:バーカ。毎日一緒にいるだろ
キスをすると、髪が触れ合って、匂いが移っていく。
もうどちらの香りかわからなくなりながら、吉琳を抱き寄せる。

(お前は知らないだろうけど)
(…案外、俺はお前に染まってんだよ)

声に出さない想いは、全てバニラの香りに包まれていった…――

 

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★期間限定!毎日読み放題7日目★

2015年4月に開催していた『初めて君を見つけた日』の プロローグ・カイン・ノア・アランのシナリオが読めちゃうよ☆

07 13

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《プロローグを読む》

 

――…ウィスタリアの空を無数の星が彩る夜
…………
吉琳:…ちょっとユーリ!急にどうしたの?
ユーリ:いいからいいから、ほらこっちだよ
新調されたばかりのドレス、
そしてガラスの靴を履いて私はユーリに手を引かれて廊下を急ぐ。

(…今夜何かあるなんて、ジルから聞いてないけど)

考えていると、ユーリが足を止めてダンスホールへと続く扉に手をかけた。
ユーリ:さ、吉琳様。……この先で、皆が待ってるよ
吉琳:え…
扉が開いて背中を押され、足を踏み出すと……

(……嘘)

カイン:…おい、いつまで待たせんだ
アラン:先輩、今日は吉琳に優しくしてって言ったはずですけど
そこには礼服姿で立つ、カインとアランの姿があった。
吉琳:…どうしたの?二人共その格好
クロード:吉琳、俺たちがいることも忘れるなよ
ゼノ:…ああ。だが、お前は思った通りの反応をするな
吉琳:クロード…それにゼノ様
目の前の光景に、ただ呆気にとられていると……
ノア:吉琳、今日は何の日か覚えてないのー?
吉琳:今日…?
ルイ:…君が、プリンセスになってからちょうど1年が経つ日だよ
その言葉に、ハッとするとその場にいる全員の顔が優しくなった。
カイン:だから…礼としてパーティーを計画してやった
カイン:…って、お前、なに泣きそうになってんだよ
吉琳:だって…
アラン:あーあ、先輩が怖いからですよ
カイン:…あ?アラン、もう一度言ってみろ
ノア:今夜だけは言い争い禁止ー
クロード:ノアの言う通りだな、今夜はせっかくのパーティーだろ?
ゼノ:だが、このいつも通りの光景が吉琳が大切に思っているもののような気がしているが
ゼノ様の言葉に頷くと、ルイが優しく微笑んだ。
ルイ:プリンセス…それじゃ、パーティーを始めようか
皆が顔を見合わせて、シャンパングラスを手に取っていく。

(……いつも通りの光景だけど)
(この景色が私にとって、失いたくない大切な宝物だよ)

滲んだ視界で、ゆっくりと重ねてきた毎日を思い返しながら微笑んだその時……
そっと他の人から見えない角度で手を繋がれた…――

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《カインのストーリーを読む》

 

――…吉琳がガラスの靴を履いてから1年が経った日
…………

(…あいつどこ行った?)

招待客も集まり始め、賑やかになってきたパーティー会場で、
主役の吉琳の姿だけが見当たらない。

(俺様の許可なくいなくなりやがって、…ったく仕方ねえな)

ダンスホールを抜けて、廊下に出ると……
そこには小さな子供を抱き上げている吉琳の姿があった。
吉琳:もう大丈夫だからね。すぐにお母さん見つけられるよ

(…主役のくせに、何してんだか)

親とはぐれてしまった子どもに一生懸命話しかける姿に笑みをこぼしながら、
ふと過去の記憶がよみがえる。

(…吉琳に初めて逢った時と、同じ光景だ)

――…その日はノアと国外での公務を終えてウィスタリアに戻る日だった

〝窓の外に広がる景色を眺めていたその時、ファーストクラスの機内に声が響く。〞
〝吉琳:あの…!すみません…!〞

〝(…うるせえな、機内で大声上げるんじゃねえ)〞

〝カイン:…………ちっ〞
〝吉琳:ん?〞
〝吉琳:ちょっと、なに今の…!〞
〝舌打ちをして視線を上げると、そこには少しだけ苛立ったような表情で、〞
〝子どもを抱いて立っている吉琳の姿があった。〞

〝(…何でこの女、こんなに真っ直ぐ見つめてくるんだ?)〞

〝サングラスを外すと、吉琳の大きな瞳と視線がぶつかった。〞
〝カイン:さっきからうるせえな…それに、言い返してくるなんて〞
〝カイン:お前、俺を誰だと思ってる〞
〝吉琳:………はい?〞

(…今、思い出しても最悪な出逢いでしかねえ)

あの時の自分は常にどこか不機嫌で、
傲慢な態度ばかり取って人を困らせていた。
王位継承者としてこうあるべきだと育てられ、
その態度はいつしか人を遠ざけていった。

(人が離れていくことが怖い…)
(だから冷たく当たってそいつを試してたとか…ガキだよな)

だけど、吉琳はそんな心まで見透かすように、自分に向き合ってくれた。

(あいつだけは、初めて逢った時から…)
(俺から逃げないで真っ直ぐに向かってきた)
(……何度、怒鳴りあったかわからねえけど)

それは今も変わらないけれど、
出逢った頃からは確実に変わった気持ちを抱えながら、
吉琳の元へと歩き出す。
吉琳:カイン!
カイン:…お前は無駄な労力、使いすぎなんだよ。
カイン:そんなんじゃいつまで経っても見つからねえだろ
カイン:貸せ、俺様が探してやる
子どもに腕を伸ばして、肩車をして吉琳に笑みを向ける。

(…あの時、結局ノアが子供を肩車して吉琳を助けた)

あれから出逢った瞬間を思い出すたびに少しだけ後悔していた。
今なら自分が真っ先にこうして助けるのに、そう思っていた。

(…だから今、嬉しいだなんてお前は知らなくていいけど)

カイン:よし、それじゃ行くぞ。おい、ちゃんと掴まってろよ
子ども:うん…!

***

吉琳:ありがとう、カイン
子どもの親を無事に見つけて、ダンスホールへと戻るために階段を下りる。
カイン:ああ、まあ…見つかってよかったよな
吉琳:あのね、カイン
カイン:ん…?
吉琳:今、二人で親御さんを探しながら、初めて逢った時のことを思い出してたんだ
カイン:機内でお前がさっきみたいに子どもを探してた時だろ?
そう告げると、吉琳が階段の中央で足を止めて目を見開く。
吉琳:覚えてたの…?
カイン:あ?お前、何寝ぼけたこと言ってんだ
カイン:初対面から言い返してくる奴のこと忘れるわけねえだろうが
吉琳:だって、二度目に逢った時…カイン私のこと誰だって聞いてきたでしょ?

(……二度目?)

――…二度目に吉琳を見つけたのは、プリンセスセレモニーの瞬間だった

〝吉琳:あ…!〞

〝(あ…?)〞

〝螺旋階段から身を乗り出した吉琳と視線が重なったその時、〞
〝吉琳が絨毯に足を取られて、体勢を大きく崩した。〞
〝吉琳:……っ…―!〞
〝カイン:……!〞
〝吉琳:痛………くない〞

〝(……痛てえ)〞

〝カイン:…………〞
〝とっさに抱きとめたまま、目を開けると…〞
〝そこには機内で見かけた吉琳の姿があった。〞

〝(……こいつ、あの機内の女!)〞

〝初めて視線が重なった瞬間と同じ真っ直ぐな瞳で見つめる吉琳に、〞
〝気づけば言葉が口を突いて出ていた。〞
〝カイン:…………ざけんな〞
〝吉琳:……え?〞
〝カイン:ふざけるな!それに誰だ、お前〞
〝吉琳:ごめ…っ…〞
〝カイン:…ったく、名乗りもしねえ、謝りもしねえ〞

(…どうして、俺はあの時とっさに覚えてないふりをした?)

目を伏せて考えていると、吉琳が呆れたように言う。
吉琳:やっぱり、覚えてたんだ
吉琳:それじゃ、どうして知らないふりなんかしたの?
カイン:………わかんねえ
吉琳:………え?
考えながら階段を下りて行くと、吉琳の声が後ろから聞こえてくる。
吉琳:ねえ、ちょっとカイン!聞いてるのに…
カイン:だからわかんねえって言ってんだよ!
振り返ると、階段の中央で自分を見つめる吉琳と視線がぶつかった。

(ああ…そうか)

その瞬間に、ずっと答えが出なかった問いに、答えが出た。

(…二度目に視線が重なった時は、もう知りたいと思ってた)
(誰だお前、そう聞いてお前が名前を言うのを待ってた)
(…っ…今さら、お前のことを知りたいと思った瞬間に気づくとか馬鹿かよ)

この恋は間違いばかりだ。
最初の印象はきっと最悪で、
二度目の出逢いは名前一つだってまともに聞けなかった。

(……けど、俺にとってこの恋が何より大切なんだよ)

最悪で始まった恋なら、最高で塗り替えていけばいい。
そう、強く想う。
カイン:理由なんてねえ。いいから黙って、とっとと下りて来い
吉琳:…なにそれ
吉琳がまた呆れたように笑い足を踏み出したその瞬間……
カイン:…――!
吉琳の体勢が大きく崩れて、慌てて腕を広げて抱き留める。

(……っ…)

抱き留めたまま、二人で床に倒れ込む。
ダンスホールにいた人たちの視線が一斉に自分たちに向けられるのがわかる。
吉琳:…ごめん
カイン:お前…何度同じことしたら気が済むんだ
吉琳:だけど、いつも受け止めてくれるね。さすがカイン

(…何だ、ソレ)

腕の中で可笑しそうに笑う吉琳を見て、思わずつられて笑みがこぼれる。

(…ほんとめんどくせえ奴)
(だけど、こうしてお前を抱き留めるのは俺様だけの役目だ)

カイン:受け止めるに決まってんだろ。お前、俺を誰だと思ってる
わざとえらそうに笑うと、吉琳がさらりとした口調で言う。
吉琳:私の恋人…でしょ?

(…っ…)

予想外の答えに、胸が大きく高鳴る。
カイン:…それじゃ、お前は俺の何なんだよ
吉琳:決まってるでしょ

(…?)

吉琳は満面の笑顔を浮かべ、床においた手をきゅっと繋いで言った。
吉琳:カインの恋人
目の前の笑顔から、目が離せない。

(…やっぱりお前は知らなくていい)
(こんな言葉一つで、俺がどれだけ嬉しくて…)
(最初から、お前に惹かれてたなんて)

伝え方が不器用で、いつだって気持ちの半分も伝えることはできない。

(だけどな、吉琳)
(俺はきっと誰よりも、お前を想ってる)

言葉の代わりに、繋がれた手を握り返すと、吉琳がまた優しく笑った…――

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…吉琳がガラスの靴を履いてから1年が経ったことをお祝いする日
…………
ノア:吉琳が今日も可愛くて辛いです
カイン:…そーかよ
ノア:それに出逢って1年だって、嬉しいです
カイン:それ本人に言えばいいだろうが

(そーなんだけど、囲まれてる吉琳が幸せそうだから)
(もうちょっとだけ我慢)

自分だけ独りじめするのも好きだけど、
皆の輪の中心で笑う吉琳を眺めているのも好きだ。
カイン:あいつ、誰からも好かれる奴だよな
カイン:まあ、最初っからあのお人好しは変わらねえからか
ノア:最初?
カイン:ほら、飛行機の中で初めて吉琳と逢っただろ
カイン:あいつ子どもの親を探してただろうが

(そう言えば…俺、カインに呼ばれて吉琳と出逢ったんだっけ)

〝カイン:貸せ、このグズ。おい、ノア〞
〝ノア:また喧嘩でもした?〞
〝カイン:してねえ。このちっこいの担げ〞
〝ノア:ふーん〞

〝(…この人を肩車すればいーのかな)〞

〝吉琳に手を差し出すと、目が見開かれた。〞
〝吉琳:あの…私じゃなくて!〞
〝カイン:こっちの子どもの親、捜してやれってことだろうが。……ったく〞
〝ノア:あーもっとちっこいほうか、ちゃんと聞いてなかった〞

あの時、何にも興味がなかったと思う。

――…人にも、そして自分にも。

(……けど)

頑丈に掛けた心の鍵を、吉琳が一生懸命に開けてくれた。
鍵が開いた瞬間、
今までモノクロだった景色が鮮やかな色に染まって、世界が動き始めた。
その瞬間、ふと疑問が湧く。

(…吉琳は俺といて、何か変わったのかな)
(なんか、俺ばっかもらってるみたい…)

吉琳にまた視線を向けると……

(あ…)

ノア:カイン、そろそろ吉琳をお迎えに行ってくるー
カイン:あ?
ノア:吉琳、少し疲れてきたみたい。…で、ついでに連れ出してくる
カイン:わかったよ、後は上手くやっておいてやる
カインに笑みを向けて、吉琳に近づくと視線が重なる。
吉琳:ノア…!
ノア:しっ。…吉琳、今から俺と抜け出さない…?

***

吉琳:ノア…少しスピード落として!
ノア:吉琳がぎゅーってしてくれるの期待して、少し速くしています
吉琳:もう…
吉琳を自転車の後ろに乗せて、夜の道を走り抜けていく。
夜の風を頬に感じながら、1年前を思い返す。

(…実は、あの話には続きがある)

――…機内で迷子になった子どもを親御さんに会わせると、その子が言った

〝子供:大きいお兄ちゃん〞
〝ノア:んー〞
〝子供:お兄ちゃんが持ち上げてくれたから景色が変わってね〞
〝ノア:うん〞
〝子供:…だから、お母さんを見つけられた!ありがとう〞

あの時は何も思わなかったのに、今、その言葉の意味がわかる。

(景色が変わるって、それだけすごいことなんだ)

あの子が逢いたい人に逢えたように、ずっと閉じ込めていた自分に出逢えた。

(…そして、吉琳に恋をした)

景色を変えてくれた吉琳に、伝えたい言葉がたくさんあるはずなのに、
上手い言葉が見つからなくてもどかしい。

(…ありがとう以上の言葉があればいいのに)

***

ノア:はーい、到着ー
自転車で辿りついた先は、まるで空の色をさらったみたいな色をした海だった。
吉琳は自転車から降りると、海に駆け寄って笑う。
吉琳:ノア、夜の海って綺麗だね。…連れて来てくれてありがとう
ノア:どーいたしまして
吉琳の笑顔に、また景色が鮮やかに色づく。

(…なにげない瞬間に好きだと想う)

だからこそ、吉琳にもらった以上のものを返したいと想う。
吉琳のそばまで近づいて、腰を抱き寄せ……
吉琳:ノア…!?
吉琳を自分の目線よりも上まで抱き上げた。
ノア:吉琳、…景色変わった?
吉琳:…? うん、地平線の向こうまで見えそうだよ
ノア:そーじゃなくて…

(…どうして、こういう時…言葉にならないんだろ)
(俺は…吉琳に、何かをあげることができてる?)

それでも口からこぼれたのは、ひどく拙い言葉だった。
ノア:俺といて、……よかった?
吉琳:…………
吉琳はハッとした表情を浮かべて……
ノア:わ…!
小さな手で髪をわしゃわしゃとかき混ぜてくる。
ノア:吉琳ーやめてー
吉琳:……ノア

(…?)

せわしなく動いていた手が止まって、真剣な声が頭の上か落ちる。
吉琳:ノアと出逢ってなかったら、…今の私はいないよ
ノア:え…
吉琳:ノアといると楽しい。ノアといると、嬉しい。けど…
吉琳:今、少しだけ悲しくなったよ
吉琳の大きな瞳が、自分を真っ直ぐに捉える。

(吉琳…?)

吉琳:一緒にいてよかったかなんて聞かないで
吉琳:…答えなんて決まってるでしょ?
吉琳が、ひどく優しい表情で笑った。
吉琳:私には、ノアじゃなきゃだめだよ

(ああ…そっか)

きっとお互いが、同じ気持ちで相手を必要としている。
そう、胸の深い部分で気づいた。
ノア:…うん
ダンスホールで見た姿より、今、目の前にいる吉琳の方がずっとずっと綺麗で、
少しだけ困る。
ノア:吉琳、…ずっと一緒にいよう
ノア:俺に、吉琳を世界で一番幸せな女の子にさせて

(ただ、一緒にいて。…愛させて)
(…色んな景色を、吉琳にあげるから)

吉琳が頷いた瞬間、抱いている腕をぎゅっと強くすると、
まるで幸せを抱きしめているみたいに心が満たされていく。
世界で一番愛おしい人に、この気持ちが伝わるようにそっとキスをした…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…吉琳がプリンセスになって1年が経つ日
…………

(…今夜は一段と賑やか)

ダンスホールからは招待客の楽しそうな声が響いている。
こんな格好をしているせいか、なんだか落ち着かなくて、一人扉に背を預け、
目を閉じようとしたその時……
吉琳:見つけた!
片側の扉が開いて、吉琳が顔を綻ばせる。

(…今日の主役がこんなとこで何してんだか)

普段はあまり使われない扉を見つめながら口を開く。
アラン:お前、何でこんなとこから入って来たんだ
そう純粋に尋ねると、吉琳が目を見開いてそれから可笑しそうに微笑む。
アラン:なに、どうしたの
吉琳:だってアラン、1年前に出逢った時と同じこと言うから

(ああ…そういうことかよ)

――…吉琳と出逢った日は、ガラスの靴でプリンセスを選ぶ日だった

〝アラン:……誰だ〞
〝吉琳:……え?〞
〝アラン:お前、何でこんなとこから入って来たんだ〞
〝吉琳:……っ…〞
〝アラン:…………顔、上げろよ〞
〝アラン:この国の奴じゃねえだろ〞
〝吉琳:え?どうして一目で…〞
〝アラン:見たことねえからな。それに…〞
〝アラン:挙動不審〞

(…懐かしい)

まだ楽しそうに微笑む吉琳の顔を覗き込んで、同じ言葉を口にする。
アラン:…………顔、上げろよ
吉琳:…っ…
アラン:だっけ?
吉琳:……よく覚えてるね
アラン:だってお前、いきなり迷い込んで来た変な奴だったし
吉琳:確かアラン、私のこと挙動不審とか言ってたよね
アラン:事実だろ
吉琳は少し拗ねたように視線を逸らす。
アラン:…で、さっきの質問の答えは?
吉琳:アランのこと、探してたんだよ
アラン:ん…?
吉琳:今夜は…プリンセスになって1年の日だけど
吉琳:アランと出逢った日でもあるから、少しでも長く……――
言いかけたその時…階下から吉琳を呼ぶ声がした。

(…少しでも、長くいたい)

続く言葉を心の中で唱えて、吉琳に笑顔を向ける。
アラン:行けよ
吉琳:うん…
後ろ髪を引かれるように歩き出した吉琳の手首をすれ違い様に掴んで、
耳に唇を寄せた。
アラン:…このパーティーが終わったら、下のダンスホールにいて
吉琳は一度だけ大きく頷くと、ガラスの靴を鳴らして歩き出す。
その心地よい音を聞きながら、また扉に背を預けて目を閉じて、
吉琳がプリンセスに選ばれてから交わした言葉を思い出していく。

――…自分が吉琳を守る役目だと告げると、笑顔を向けられた

〝吉琳:そっか。よろしくね、アラン〞

〝(…能天気な顔)〞

〝アラン:どーせすぐ逃げ出すだろ〞
〝吉琳:逃げ出さないよ、だって期間限定のプリンセスでしょ?〞
〝吉琳:こんな経験なかなかできないし〞
〝ガラスの靴を履いたばかりの吉琳は、右も左もわからない迷子のように見えた。〞

〝(こんなんじゃ、もって2、3日だろ)〞

〝アラン:へえ…じゃあ、賭けてやるよ〞
〝アラン:お前が逃げ出すほうに〞
〝吉琳:わかった。でも、私は絶対に逃げ出さないから!〞

(…あの時は、正直吉琳を守ることなんて仕事の一つでしかなくて)
(根を上げて逃げてもそれでいいと思った)
(けど…今はそんなこと言えない)

ゆっくり目を開けると、シャンデリアの光がやけに眩しくて眉を寄せた。

(…今、お前と賭けをするとしたら)

***

――…パーティーが終わり、
月灯りが差し込む人気のないダンスホールを歩いて行く
…………
アラン:…………
吉琳はダンスホールの中央に立って、窓から覗く月を見上げていた。
その凛とした佇まいに、思わず目を奪われる。

(…ほんと前じゃ考えられないくらい、プリンセスらしくなったよな)

吉琳:アラン…!
そんなことを考えていると、出逢った頃と変わらない笑顔が向けられる。

(変わった部分を見ると少しだけ嬉しいような、)
(それでいて焦れたような気持ちになって…)
(変わらない部分にほっとするなんて、絶対言えないけど)

アラン:嬉しそうな顔
吉琳の前で足を止めて、見下ろすと大きな瞳が自分を捉えた。
吉琳:でも、どうしてここで待ってろって言ったの?
アラン:ん…
吉琳に手を差し出すと、不思議そうに瞳が揺れる。
アラン:お前と、踊ってなかったから
吉琳:踊ってくれるの…?
アラン:そう言ってるんだけど、…踊りたくないの?
吉琳は首を横に振ると、差し出した手をぎゅっと握った。
吉琳:踊って、アラン
アラン:了解
吉琳の手を繋ぎ直してゆっくりステップを踏んでいく。
月灯りに吉琳の髪が照らされて、不意に言葉が口からこぼれ落ちる。
アラン:お前、逃げだ出したいって思うこととかないの?
吉琳:え…?

(…プリンセスという立場の重さは知ってるつもりだから)

アラン:急に聞きたくなっただけ
答えを待っていると、吉琳がはっきりと口にした。
吉琳:……逃げないよ、私はプリンセスだから
アラン:…………
吉琳:それに…
吉琳:アランと出逢えたのに、ここから離れられるわけないよ
出逢った時以上に強くて、真っ直ぐな言葉に心の中で息を呑んだ。
そして、吉琳を見つけた日に自分が口にした言葉を思い出す。

――…へえ…じゃあ、賭けてやるよ。お前が逃げ出すほうに

(…あの時の賭けは、完全に俺の負け)
(それに…俺はもうお前を離せない)

アラン:なあ…もう一回賭けしない?
吉琳:賭け…?
アラン:お前がずっとプリンセスでいるか
吉琳:まだ信じてないの?私は…っ
言いかけた言葉を塞ぐように、手を引いて唇に顔を寄せる。
アラン:賭けてやるよ…
アラン:お前がずっとプリンセスでいる方に
吉琳が息を呑んだことがわかった。
吉琳:それじゃ、賭けにならない…
アラン:負けず嫌いだから、負けるの嫌なだけ
アラン:だから…そばにいろよ
吉琳が瞳を揺らしたその瞬間、唇をそっと重ねる。

(…なあ、あんまりうまく言えないけど)
(俺はこの先もずっとお前といたい)
(……お前に、恋したから)

こんな時間がずっと続くように、そう月灯りの下、心の中で強く願った…――

 

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★期間限定!毎日読み放題8日目★

2015年2月(Ameba・iPhone・Androidのみ)に開催していた『Dress me up! ~可愛いが聞きたくて~』の プロローグ・ノア・アラン・ルイのシナリオが読めちゃうよ☆

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《プロローグを読む》

 

――…部屋の中には、目移りするほどたくさんの服や靴が並んでいる
…………
手にしていた服を元の場所に戻し、私は小さく息をついた。

(ダメだ…見れば見るほどどれがいいか、わからなくなってきた)

〝吉琳:表紙の撮影?〞
〝レオ:うん。〞
〝レオ:次の広報誌の表紙を、プリンセスと、もう一人誰かにお願いしたいって〞
〝レオから詳細の書かれた依頼書を受け取る。〞
〝レオ:お相手は、リストに書かれた候補の中から一人を指名して〞
〝レオ:衣装も、テーマに合わせて本人たちが決めていいみたいだよ〞

〝(テーマは憧れのデートコーデ…)〞

〝レオ:二人で衣装を合わせるのも、いいかもしれないけど…〞
〝レオ:せっかくだから、彼に選んでもらったら?〞
〝レオの言葉に、ふっとあの人の姿が思い浮かぶ。〞

〝(そういえば、どんな格好が好きなんだろう)〞
〝(…どうせなら、可愛いって思ってほしい)〞

(どういう服装が好きか、聞いてみようかな…?)

そのとき、扉の開く音がした。
振り向く前にそっと抱きしめられ、耳元で彼が囁く。
???:俺の好みで、選んでいいの…――?

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…ほんの少し肌寒さを感じる午後
…………
表紙の撮影の話をすると、ノアはすぐに頷いてくれた。
吉琳:え、いいの?
ノア:うん、いいよー

(こんなにあっさり頷いてくれると思わなかった)

腰を屈めてノアが顔を覗き込んでくる。
ノア:吉琳、意外って顔してるー
吉琳:うん…断られると思ってたから

(ノア、いつも広報誌とか出たがらないし)

ノアは可笑しそうに笑って、優しく私の髪を撫でた。
ノア:断らないよー。だって…
ノア:堂々と吉琳が自分のものだって、言っていいんでしょ?
吉琳:…っ…

(そういうこと、さらっと言うのずるい…)
(でも、一緒に撮影出来るのは嬉しいな)

吉琳:衣装、ノアに選んでほしいんだけど…お願いしてもいい?
ノア:もちろん

***

ノア:これも吉琳に似合うよー
吉琳:すごい、こんなに選んでくれたの?
ノアが私に選んでくれた服は、すでに山積みになっていた。
ノア:だって、どれも吉琳に似合いそうだから
ノア:…ね、着てみせて
優しい笑顔に、胸がきゅっと締めつけられる。

(…この笑顔に、逆らえないんだよね)
(それに、選んでくれるのってやっぱり嬉しい)

吉琳:うん。ありがとう、着てみるね

***

結局私は、ポンポン付きのファー帽子を買った。
ノア:似合うねー吉琳
吉琳:ありがとう、ノアが選んでくれたおかげだよ

(ノアが選んでくれたもの…大事にしよう)

ノア:頭にうさぎが乗ってるみたいで、すっごく可愛い
ノア:ねえ、それ被ったまま撮影の練習してみよー
吉琳:練習?
ノア:そー。俺、撮影ってしたことないから、よくわかんないんだよね

(私もないけど、どうしたらいいんだろう…)

吉琳:そうだ、ノアはカインの撮影見たことあるんだよね?
ノア:あ、そっかー。カインの真似したらいいのかも
ノアはすっと背筋を伸ばすと、腕を組んで懸命に顔をしかめた。
ノア:――俺を誰だと思ってる
吉琳:……っ
予想外のノアの行動に、思わず声を出して笑ってしまう。
すると、ノアがふと困ったような顔をした。
吉琳:ノア…?
ノア:撮影、したくなくなってきたかもー
吉琳:え、どうして?
ノア:だって…
手招きをされてノアの方へ行くと、ぎゅっと抱きしめられる。
吉琳:ノア…?
ノア:吉琳の笑顔、独りじめしてたいって思ったから
ノア:俺、いつからこんなに独占欲強くなったんだろ?
切なげな目に見つめられ、途端に鼓動が早くなる。
吉琳:ノア……っ
ふいにノアの指先が首筋を撫でた。
吉琳:…っ、くすぐったいよ
ノア:こうやって笑う顔も…
下唇をノアの指が押し開け、ついばむように唇が重なる。
吉琳:んっ…
ノア:こうやって、キスした後の顔も…
ノア:全部、俺だけのものにしたい

(ノア…)

ぎゅっとノアの背中に腕を回す。
吉琳:…好きなだけあげるよ
吉琳:私は、ノアが好きだから
顔を見上げて笑いかけると、ノアの頬が微かに赤くなった。
ノア:…今の顔も、反則
吉琳:…っ…、ん……
壁に押しつけるように覆いかぶさられて、キスが深くなる。
ノア:…吉琳が好きすぎて、くらくらする
ノア:恋に溺れるって、こんな感じなのかな?
吉琳:…ノアになら、いくらでも溺れたいよ
ノア:吉琳
穏やかに笑って、再びノアの唇が近づく。
柔らかな感触を受け止めて、私はそっと目を閉じた。

(抱きしめてくれる腕も、大きな背中も全部…大好き)

温かな幸せに包まれながら、
私たちは息ができないほどのキスを続けた…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…温かな陽ざしが差し込む午後
…………
アラン:なんで俺がモデルなんてやらないといけないわけ

(…そう言われる気はしてたけど)

広報誌の表紙の話をすると、思った通りすぐにアランに断られた。

(城下でも目立つの嫌がってたもんね。でも…)

吉琳:テーマが、憧れのデートコーデなの
アラン:…?
吉琳:恋人同士みたいに撮影するならアランがいいなって
吉琳:…ダメかな?
アラン:…………
アランは息をつき、首筋に手をあてて衣装部屋の方へ歩き出した。

***

吉琳:ねえ、アランはどんな格好が好き?
アラン:…特にない
アランは腕を組んで壁にもたれたまま、ほとんどこっちを見ない。
吉琳:アラン…何か怒ってる?
アラン:なんでそう思うの
吉琳:だって…

(全然喋ってくれないし)
(…それに、さっき頷いてくれてない)

そのとき、アランのため息が聞こえてぴくりと肩を跳ねさせてしまう。
アラン:お前、わかってない
眉を寄せたアランが壁から体を離し、私のほうへ近づいてきた。
吉琳:アラン…?
目の前に来たアランを見上げると、ふいに引き寄せられ……
吉琳:んっ…
突然唇を塞がれて、耳まで一気に熱くなる。

(急に、なんで…っ)

胸に手をつくと、
離さないと言うように後頭部を押さえられてキスが深くなる。
吉琳:んんっ…
息が苦しくなる頃、ようやく唇を離された。
アラン:…怒ってるんじゃなくて、お前が撮影出るのが嫌なだけ
吉琳:え…?
アラン:俺以外の奴にお前が可愛いって思われるの、あんま気分良くないんだけど
視線を上げると、アランの首筋が少し赤くなっていることに気づいた。

(独りじめしたいって、思ってくれたのかな…?)

嬉しさに、ぎゅっと胸が締めつけられる。
吉琳:アラン、私ね…アランのために、もっともっと可愛くなりたいの

(わがままかもしれないけど…)

吉琳:アランにもっと好きになってほしいから、アランの好みが知りたい
吉琳:だから今回の衣装も、アランに選んでもらえたら嬉しいんだ
アラン:…………
吉琳:…お願い
ふっと笑う気配がして、アランが私の髪をくしゃりと撫でた。
アラン:お前、必死すぎ
アラン:……降参
吉琳:え?
そっと体を離して、アランが並ぶ衣装の前に立つ。
顔だけを振り向かせると、アランは優しく目を細めた。
アラン:俺の好みで、選んでいいの?
吉琳:…! …うん!

***

吉琳:どうかな?
くるりとその場で回ってみせると、
リボン結びのチュールスカートがふわりと揺れる。
アラン:……っ
ふいにアランは目を逸らして、口元を押さえた。
吉琳:アラン?
アラン:…今の、絶対他の奴の前でするな
吉琳:どうして?
アラン:どうしても

(アラン、顔赤い…?)

アラン:…なあ、やっぱその服だめ
吉琳:え、似合ってなかった?
アラン:似合ってるよ。…けど
吉琳:あ…っ
近づいてきたアランに肩を押され、側にあったソファーに座らされる。
アラン:…可愛すぎて、誰にも見せたくなくなった
吉琳:アラ…――んっ
名前を呼ぶ前に唇に柔らかな感触が触れて、思わずアランの服を掴む。
吉琳:…ぁ…
ふいに太ももを撫でられて、背筋に甘い痺れが走った。
アラン:お前がそういうことばっかするから、我慢できなくなったんだけど
吉琳:アラン…
アラン:こんなこと言うようになるなんて、思わなかった
アラン:責任…取れよ
吉琳:あ……
ゆっくりと体をソファーに倒され、スカートの中にアランの手が入り込む。

(ドキドキしすぎて、おかしくなりそう…)

間近で重なる熱のこもった視線に胸を高鳴らせながら、
私は受け入れるように、そっとアランの首に手を回した…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…山の向こうに夕日が姿を隠し始めた頃
…………
ルイと並んで夕日を眺めながら、そっと息をついた。

(こんなに決まらないとは思わなかった…)

〝気になった二着を手に取り、ルイの方を振り返る。〞
〝吉琳:これ、どうかな?〞
〝ルイ:…可愛い〞
〝吉琳:こっちはどう?〞
〝ふわりとルイがわずかに笑みを浮かべる。〞
〝ルイ:それも、よく似合ってる〞
〝ルイの言葉に、私は思わず首を傾げた。〞

〝(もしかして…)〞

〝吉琳:ルイ、私に遠慮してる…?〞
〝私の問いかけに、今度はルイが不思議そうに首を傾げる。〞
〝ルイ:どうして?〞
〝吉琳:その、ルイさっきから褒めてくれるから〞
〝ルイ:…ごめん、これじゃ決まらないよね〞
〝ルイ:でも…〞
〝困ったように、ルイは微笑んだ。〞
〝ルイ:本当に、どれも可愛いって思うから〞

(…っ、思い出したらまた恥ずかしくなってきた)

熱くなった頬を冷まそうと、風を受けながら目を閉じる。

(気持ちいいな…――ん?)

わずかに髪を引かれたような気がして目を開けると……
吉琳:…ルイ?
風に吹かれた髪を、ルイの手がすくい上げていた。
目が合い、柔らかにルイが微笑む。
ルイ:…綺麗だね

(……っ)

ふいに呟かれた言葉に、胸が音を立てる。

(…景色のことだよね?)

吉琳:うん、ほんとに綺麗な夕日だね
笑い返してそう言うと、ルイは不思議そうに瞬きをした。
ルイ:…今の、わざと?

(え…?)

ふいに小さく笑ったルイが、内緒話をする時のように顔を寄せる。
吉琳:っ…、ルイ…?
ルイはどこか悪戯めいた笑みを浮かべた。
ルイ:綺麗って言ったのは、吉琳のこと
吉琳:え……
わずかに目を伏せて、ルイが触れている髪に視線を落とす。
ルイ:この髪、時間かかるんでしょ

(あ……)

カールした髪にルイがそっと口づけるのを見て、また鼓動が早くなる。
吉琳:…そうだよ
吉琳:髪を巻く間も、ずっとルイのこと考えてた
吉琳:ルイが褒めてくれたらいいな
吉琳:可愛いって思ってくれたら嬉しいなって…そんなことばっかり
ルイ:…吉琳

(ほんとに私、呆れるくらいルイのことばかり考えてる)

ふいに、ルイは穏やかに目元を和らげた。
ルイ:この髪もそうだけど…
ルイ:服を選ぶために頑張ってる吉琳を見てたら
ルイ:…好きだなって思って、選べなかった
ルイ:…ごめんね

(そんなこと言われたら…)

恥ずかしさに思わず顔を背けると、
不思議そうにルイが顔を覗き込んでくる。
ルイ:吉琳…どうしたの?
吉琳:…嬉しすぎて、困ってる
私の言葉に、ルイが穏やかに微笑んだ。
ルイ:…いつも困ってるのは、俺の方
吉琳:え…?
こつりと額を合わせて、ルイの瞳がまっすぐに私の目を覗きこむ。
ルイ:今も、君にキスしたくて…困ってる

(ルイ…)

吉琳:…困らなくていいよ
添えられた手の上に自分の手を重ねて、頬を寄せた。
ルイ:…吉琳?

(だって私は…)

吉琳:…とっくに全部、ルイのものでしょ?
ルイ:…吉琳
吉琳:…っ、ん…っ
ぐっと腰を引き寄せられ、深く唇が重なる。
吉琳:ルイ…
ルイ:困らなくていいって言ってくれたけど
ルイ:また君に、困らされた
吉琳:んっ……
首筋を唇で優しくなぞられて、痺れるような感覚に吐息が熱くなる。
ルイ:…戻ったら続き、するから
耳元で響く熱のこもった囁きに、私は小さく頷いた…――

 

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★期間限定!毎日読み放題9日目★

2016年3月に開催していた『洋館ロリータガチャ』の プロローグ・ノア・アラン・ユーリのシナリオが読めちゃうよ☆

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《プロローグを読む》

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――…たくさんの人が行き交う異国の空港内
…………
カイン:あー…長いフライトだったな
吉琳:そうだね。なんだか体がまだ飛行機に乗ってるみたい
カイン:ああ。…って、お前なんか顔色悪くねえか?
吉琳:え、そうかな…?

(確かに、少しふらふらする気が…熱でもあるのかな)

自分の額に手を当てようとした瞬間、急な目眩に襲われる。
吉琳:…っ…
カイン:…おい!
体の力が抜けて倒れそうになったところを、後ろにいた彼の腕に支えられた。
???:…大丈夫?
吉琳:うん…ごめん、ちょっと目眩がして
カイン:お前、時差ボケしたんじゃねえか?
吉琳:時差ボケ…?
そう尋ねる間も、目眩が少しずつひどくなっていく。
カイン:確か今回の滞在先の洋館が空港の近くだったはずだ
カイン:今日は公務もねえし、先行って休んでろよ
カイン:お前もこいつ連れて先行ってろ
カインの言葉に頷いた彼が、私の体を抱き上げる。
吉琳:ごめん、ね…
???:…大丈夫だから、寝てて
優しい彼の声に促されて、私はゆっくりと目を閉じた…――

***

――…二人が洋館につき、吉琳が眠ってしばらく経った頃
…………
???:…、……吉琳

(ん……彼が呼んでる)

目を覚まさなきゃ、そう思った瞬間……

(――…え?)

唇に柔らかな感触が触れて、ゆっくりと瞼を開いた…――

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…時差ボケのため、滞在先の洋館で休ませてもらった午後
…………
???:…、……吉琳

(ん……彼が呼んでる)

目を覚まさなきゃ、そう思った瞬間……

(――…え?)

唇に柔らかな感触が触れて、ゆっくりと瞼を開くと……
ノア:おはよー、吉琳
吉琳:ノア……

(…今キスされた気がしたけど…夢だったのかな?)
(それなら、目の前にいるノアも…)

ぼんやりとしたまま、私はノアの頬に手を伸ばす。
ノア:んー? どうしたの、吉琳
ノアは不思議そうに首を傾げて、私の手に頰を擦り寄せた。
温かい感触が手の平から伝わって唇を綻ばせると、
ノアは悪戯をする子供のような笑みを浮かべて私を見た。
ノア:これ、もう一回してほしいっておねだり?
ノアは顔を寄せて、私の鼻にちゅっとキスをする。

(え……これ夢じゃない?)

吉琳:っ…ノア?
慌てて体を起こすと、ノアがへらっと笑う。
ノア:そうだよー、ノアです
ノア:吉琳、寝ぼけてたでしょー
吉琳:う、うん…

(びっくりした…夢じゃなくて本物だったんだ)
(でも……)

ごろんとベッドに横になったノアを見下ろす。
吉琳:ねえ、さっきどうしてキスしたの…?
ノア:吉琳の寝顔が可愛すぎて、悪戯したくなったんだー

(悪戯って…)

吉琳:…そういう悪戯は反則だと思います
照れて顔を逸らすと、柔らかな笑い声が響く。
ノア:俺は、その顔の方が反則だと思います
吉琳:え?
ぎしりとベッドが軋み、体を起こしたノアが私の頬に手をあてる。

(ノア…?)

ノア:ねえ、吉琳、さっきの続き…
ノアの言葉の途中で、部屋にノックの音が響いた。
メイド:吉琳さま、ご気分はいかがですか?
吉琳:あ…もう大丈夫です!

(そうだ、洋館の方に休ませてもらったお礼を伝えないと…)

扉に声をかけて、そっとベッドを抜け出す。
吉琳:ごめん、ノア。ちょっとご挨拶に行ってくるね
ノア:うん、いってらっしゃーい

***

しばらくして部屋に戻ると、ノアはベッドに横になって目を閉じていた。

(寝ちゃったのかな…?)

ノアを起こさないようにそっとベッドに近づくと……
吉琳:わ…っ
ふいに手を引かれて、ノアの上に倒れ込んでしまう。
吉琳:ノ、ノア…!
ノア:吉琳、捕獲成功ー
私をぎゅっと抱きしめながら、ノアが笑う。
けれど、その声はどこか元気がないように聞こえた。
吉琳:…ノア?
ノア:んー?
体を起こしてノアの額に手を当てる。

(熱はないみたいだけど…)

ノア:吉琳ー? 何してるの?
吉琳:ノアも体調悪いのかなって思って
ノア:え?
吉琳:さっき、少し声に元気がなかったから…
ノア:あー…、それは体調が悪いわけじゃなくて…
ノア:ちょっと困ったなって、思ってただけ
吉琳:困った?

(どういうことだろう?)

胸の内を知りたくて瞳を覗き込もうとすると、ノアがふっと目を細めて……
吉琳:あ…っ
体がひっくり返されて、ベッドに押し倒されてしまう。
吉琳:ノア…?
ノア:この通り、俺の体調はすごくいいよ
ノア:こうやって…吉琳に触れてさえいられればね
髪をかきあげられて、唇に優しく唇が押し当てられる。
吉琳:それなら、どうして困ってるの…?
ノア:…寝てる吉琳が可愛かったから、触れたくて
ノア:でも…触れたらもっと欲しくなった
そう言って、ノアが言葉通りに困った顔をする。
ノア:けど、体調悪かったのに無理させるのはよくないかなーって
ノア:…それで困ってました
吉琳:ノア…
告げられた悩みは、自分にとってすごく嬉しいもので、
込み上げた気持ちのまま、ぎゅっとノアの首に抱きつく。
吉琳:…私も困った
吉琳:ノアの顔見てたら…触れてほしくなってきました
ノア:吉琳…
背中に回された腕に力がこめられる。
ノアは耳に唇を寄せると、いつもより低い声で囁いた。
ノア:さっきの続き…してもいい?
吉琳:…うん
頷くと、ノアの唇が首筋に触れる。
吉琳:あ…
くすぐったい感触に思わず声をあげると、唇を人差し指でそっと押さえられた。
ノア:しー…お城じゃないから、静かにね
ノア:どうしても我慢できなかったら、キスで塞いでてあげるから
吉琳:っ…
いつもは優しいエメラルドグリーンの瞳が、どこか危険に細められて、
それでも抗えない気持ちが胸に広がる。

(でもその方法だと…一つできないことがある)

吉琳:ノア…
ノア:ん?
吉琳:…キスして欲しい時には、何て言えばいい?
ノアは一瞬目を見開くと、優しく笑って顔を寄せた。
ノア:…そういうときは
吉琳:っ…ん…
唇に甘く深いキスが落ちてくる。
唇を離すと、ノアはふっと微笑んで言葉を続けた。
ノア:何も、言わなくていいよ
吉琳:じゃあ、ずっとキスしてるってこと…?
ノア:そう。……だめ?
ぎゅっと抱きしめられながら聞かれて、つい笑みがこぼれる。
吉琳:ううん…だめじゃない

(こんな甘いおねだりが、だめなわけない…)

ベッドに寝転がり、互いを求めながら戯れのようなキスを続けていく。
その日私たちは、何度も何度も、甘いキスを交わした…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…時差ボケのため、滞在先の洋館で休ませてもらった午後
…………
???:…、……吉琳

(ん……彼が呼んでる)

目を覚まさなきゃ、そう思った瞬間……

(――…え?)

唇に柔らかな感触が触れて、ゆっくりと瞼を開くと……
吉琳:アラ…ン?
ベッドに腰かけているアランがゆっくりとこちらに顔を向けた。
アラン:起きたのかよ
吉琳:うん…
体を起こしながら、そっと自分の唇に触れてみる。

(触れた感触が残ってる気がする…)

頰が熱を帯びるのを感じながら、アランをじっと見つめる。
吉琳:ねえ、アラン…
アラン:なに?
吉琳:今、私にキスした…?
アラン:…………
アランは驚いたように目を見開くと、すっと視線を逸らした。
アラン:してない
吉琳:…そっか。ごめん、変なこと聞いて

(もしかして…夢だったのかな)

そんな風に考えているとアランがベッドから立ち上がる。
アラン:体調は?
吉琳:うん。もう大分よくなったみたい
私は微笑みながらそう答える。

(時差ボケなんて初めてだったから、驚いたけど)

吉琳:最近忙しかったから…疲れてたのかも
アラン:そうかもな。今日はゆっくり休めよ
吉琳:うん
この視察のためにスケジュールを詰めていたせいで、
最近はゆっくり休めていなかったことを思い出す。

(そういえば、こうやってアランと二人で過ごすのも久しぶりだな)
(一緒にいられて嬉しいけど、アランはどう思ってるんだろう…?)

横目でこっそりアランの様子を伺おうとすると、真っすぐに視線がぶつかる。
アラン:なに
吉琳:っ…ううん、何でもない
重なった視線にドキドキしていると、覚えのある香りが鼻を掠めた。

(あれ、この香り……)

部屋の中を見回すと、テーブルの上にスープが置いてあることに気づく。
私の視線の先に気づいたのか、アランは小さく頷いた。
アラン:ああ、それお前のだから
吉琳:え?
アラン:お前、何も食わずに寝てただろ。一応運んできたから、食えるなら食って
吉琳:…ありがとう、アラン
立ち上がりテーブルを覗きこむとふわりと食欲をそそる香りが漂う。

(このスープ…やっぱり、覚えがある)

――…以前、少し体調が悪く夕飯を残してしまった時

〝ノックの音に扉を開くと、湯気のたつスープを手にしたアランが立っていた。〞
〝吉琳:アラン、それは…?〞
〝アラン:ユーリに、〞
〝アラン:お前が今日の夕飯あんまり食べてなかったって聞いたから、作ってきた〞
〝アラン:これくらいなら食べられるだろ〞

(あの時のスープと同じ香り…)

吉琳:…アランが作ってくれたの?
アラン:…さあ?
私の問いにアランが悪戯っぽく、にっと笑みを浮かべる。

(自分が作ったって言ったら、)
(私が気にすると思ってごまかしてくれたのかな…?)

アランの優しさに、胸の中に温かいものが込み上げてくる。
アラン:ほら、早く食わないと冷めるだろ
吉琳:うん
私は笑顔で頷いて、アランと一緒にテーブルについた。

***

スープを口にしながら、私は向かいに座るアランをちらりと見る。

(…いつもと違う場所だから? それとも…)
(アランにキスされる夢なんて見ちゃったから?)

二人きりの空間を変に意識してしまって、鼓動が早くなっていく。
スプーンを持つ手が震えないように、ゆっくりスープを口に運んでいると
アランは手を止めて私を見た。
アラン:無理しなくていいから、食べられる分だけにしとけよ
吉琳:っ…違うの。無理してるわけじゃなくて
吉琳:なんだか少し…緊張しちゃって
アラン:は? 緊張?
吉琳:うん。こんな風にアランと一緒に過ごせるの、久しぶりだから
アラン:今さら…
アランは途中で言葉を止めると、ふいに真剣な顔で私をじっと見つめた。
吉琳:…アラン?
向けられる眼差しにドキドキしていると、アランが椅子から立ち上がる。
アラン:…ま、確かに
アラン:久しぶりだよな。こういうの
笑みを浮かべたアランの顔が近づいて……
吉琳:んっ……
唇に優しくキスが落とされた。

(ほんの少し触れただけなのに…)

触れられる嬉しさに胸が高鳴って、もっと…と望みたくなってしまう。
吉琳:アラン…
熱くなった頬に手を添えると、アランは額を重ねあわせた。
アラン:ずっとお預けだったし
アラン:ちょっとくらい…触ってもいいだろ

(アランも、もっと触りたいって…思ってくれてるのかな)

向けられる視線に何も言えなくなり、ただ小さく頷く。
その瞬間、ふっとアランが優しい笑みを浮かべた。
アラン:…目、閉じて
吉琳:…うん
目を閉じると、掠めるようなキスが落とされる。
吉琳:っ…ん…
優しいキスは甘く深いものに変わっていき、体の力が抜けるほど翻弄されていく。
座る椅子が微かに軋んだ音を立てた時、唇が離れてそっと目を開いた。
瞼を開けてすぐ視界に飛び込むアランの顔に、目覚めた時のことを思い出す。
吉琳:…ねえ、やっぱりさっき…キス、した?
アラン:…………
一瞬の沈黙の後、悪戯な笑みが私を見下ろす。
アラン:さあ?

(もう…アランってほんとに意地悪)
(でもそういうアランも…大好きで仕方ないよ)

窓から柔らかな日差しの差し込む午後、
私は意地悪で優しい恋人と、何度も甘いキスを交わした…――

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《ユーリのストーリーを読む》

 

――…時差ボケのため、滞在先の洋館で休ませてもらった午後
…………
???:…、……吉琳

(ん……彼が呼んでる)

目を覚まさなきゃ、そう思った瞬間……

(――…え?)

唇に柔らかな感触が触れて、ゆっくりと瞼を開くと……
ユーリ:お目覚めですか、プリンセス?
吉琳:ユ、ユーリ…!
ユーリ:なあんてね、驚いた?
悪戯な笑顔が私の顔を覗き込む。
吉琳:あの…今のって
ユーリ:ん?

(キス、だよね…?)

唇に触れながらユーリを見つめ返すと、
ベッドをわずかに軋ませながらユーリの顔が近づく。
ユーリ:お目覚めのキス…もう一回、する?
吉琳:っ…もう起きたから、大丈夫
慌ててそう言うと、ユーリはくすくすと笑って体を離す。
ユーリ:なんだ、残念

(びっくりした…)

体を起こしながらこっそり息をつくと、ユーリの手が頬を包んだ。
ユーリ:様子を見に来たんだけど、顔色もよくなったみたいだね
吉琳:うん、もう平気。心配かけてごめんね
苦笑した時、ふと壁に掛けてある時計に目が留まる。

(午後3時…もうこんな時間になってたんだ)

ユーリも私の視線の先に気づいたのか、ちらりと時計を見上げた。
視線を私に戻すと、唇に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
ユーリ:ねえ、吉琳様
ユーリ:明日からも忙しいし、せっかくだからちょっと庭に散歩に行かない?
吉琳:散歩?
ユーリ:うん、来る時にちらっと見たけど、この洋館の庭すごく綺麗なんだ
吉琳:ほんと? 見に行きたい!
ユーリ:それじゃ、万能執事が外までエスコートさせて頂きます
芝居がかったように優雅に腰を折って、ユーリが私に手を差し出す。
笑いながらその手を取って、私はユーリとそっと部屋を抜け出した。

***

洋館の外をユーリと並んで歩きながら、心地よい風に目を細める。

(風が気持ちいい…)

さっきまでぼうっとしていた頭がすっきりしてくると、
どこからか花の甘い香りが漂ってくることに気づいた。

(こんな素敵な洋館でたくさん眠って…何だか贅沢な気分)
(それに……)

ユーリ:…………
隣に立つユーリを見上げ、頬を綻ばせる。

(目が覚めて隣にユーリがいてくれたことも…すごく贅沢)

風に髪を揺らして目を細めるユーリに、鼓動が小さく跳ねる。
思わず見とれていると、ユーリが私の方を振り向いた。
ユーリ:どうかした? 吉琳様
吉琳:あ…ごめん、ちょっとぼうっとしてた
慌てて目を逸らし、視線を向けていたことをごまかすように、
風に揺れる自分の髪をそっと押さえる。
吉琳:…なんだかユーリとこんなところにいるのが夢みたい
ふっと笑ったユーリの手が、私の髪を耳にかけてくれる。
ユーリ:ねえ、吉琳様。もしまだ夢見心地でいるなら…
ユーリ:もう一回、さっきと同じ方法で起こしてあげようか?
吉琳:っ…
ゆっくりと顔が近づいてきて、慌ててユーリの口を手のひらで覆う。
ユーリ:…吉琳様?
吉琳:ご、ごめん。キスが嫌とかじゃなくて…
吉琳:ここ…人が来るかもしれないから
頬が熱を帯びて思わず目を伏せると、ユーリがそっと私の手を掴む。
ユーリ:じゃ…今はこれだけ
ユーリは悪戯に目を細めると、私の頬に素早くキスをした。
吉琳:…っ…ユーリ
ユーリ:赤くなった吉琳様、可愛いなあ
楽しげに笑いながら、ユーリが耳に唇を寄せる。
ユーリ:――続きは部屋でね
吉琳:っ…
私は赤くなった頰を手で押さえながら、こくんと小さく頷いた。

***

散歩から部屋に戻り、扉を閉めた途端、
後ろに立っていたユーリが、私を腕に閉じ込めるように扉に手をつく。
吉琳:ユーリ…?
ユーリ:吉琳様…
振り向いた瞬間、顔に影が落ちて……
吉琳:んっ……
扉に体を押しつけられて、唇が深く重なっていく。
吉琳:…っは…、ユーリ…ん…っ
舌を強引に絡められて、背筋に甘い痺れが走る。
吉琳:っ…ユー、リ…
長いキスの後、息をつきながら名前を呼ぶと、
微かに息を上げたユーリが耳唇を寄せた。
ユーリ:続きは部屋でって、言ったでしょ
ユーリ:もうおあずけは聞かないから
吉琳:んっ…
ドアの前に立ったまま、声をひそめて何度もキスを交わす。

(だめ…力が入らない…)

ユーリに体を預けると、強い力で抱きとめられた。
間近でユーリを見上げると、目を覚ました時のことを思い出す。
吉琳:ねえ…さっきどうして寝てる私に、キスしたの?
ユーリ:んー、それはね…
ユーリは私を抱き寄せたまま、優しく目を細めた。
ユーリ:寝てる吉琳様が夢みたいに可愛かったから、思ったんだ
ユーリ:キス、したいなあって

(からかうような口調なのに…)

目の前の表情がひどく愛おしげで、
これ以上ないくらい頬が熱くなっていく。
ユーリ:ねえ…もう一回キスしてもいい?
吉琳:え…
ユーリ:ここにいる吉琳様が夢じゃないって、確かめたいから
吉琳:ユーリ…
さっきから何度もキスをしていて、夢じゃないことはわかっているはずだ。
それでも、恋人の甘いおねだりには勝てなくて……
吉琳:うん…たくさん、確かめて
小さく呟くと、ユーリの唇が重なる。
寝ても覚めても甘くて刺激的なキスを受け止めながら、
大好きな人とする夢のようなキスを何度も交わした…――

 

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★期間限定!毎日読み放題10日目★

2016年5月に開催していた『Kiss of Memories』の カイン・ゼノ・ユーリのシナリオが読めちゃうよ☆

01 10 16

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《カインのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
…………
重要な会議を終えて部屋に戻ると……
カイン:ん…?
机の引き出しがひっくり返り、中に入っていた書類が散乱している。
カイン:…なんだこれ
怪訝な顔で部屋を見渡すと、机の影からペットのフェレットであるモモが現れた。
カイン:ったく、お前のしわざか
ため息をつきながら、足元に近寄ってきたモモを抱き上げる。
カイン:怪我とかしてねえだろうな?
まるで謝るように首にすり寄ってくるモモに、微かに笑みが浮かぶ。

(大丈夫みてえだな)

モモの頭を撫でながら視線を落とした時、
ふいに散らばった書類の中にある記事を見つけた。
カイン:これ……

――…『プリンセスとカイン様、噴水で大喧嘩!!』

カイン:…懐かしいもんが出てきたな
屈みこんで記事を拾い上げる。
記事に目を通していると、懐かしい記憶が蘇ってきた。

〝吉琳:もう触ってもいい?〞
〝カイン:聞くなんて柄じゃねえだろ〞
〝吉琳:そうだね…〞
〝吉琳の手が頬に触れて、その上から自分の手を重ねる。〞

〝(冷てえ…けど、ずっとこうしてたいくらい)〞
〝(こいつの手……離したくねえ)〞

〝思わず、ぎゅっと手に力を込めると、吉琳の顔がふわりと綻んだ。〞
〝吉琳:やっと触れた〞
〝カイン:…こんなんで、満足してんじゃねえ〞
〝吉琳:してない〞
〝吉琳:知ってた? 私って欲張りなんだよ〞
〝カイン:…ふうん〞

〝(そんなの、俺だって同じだ)〞
〝(こんな距離じゃ満足できねえ。もっと吉琳に…触れたい)〞

〝吉琳に顔を近づけると、そのまぶたがゆっくりと閉じる。〞

〝(やっとだ……)〞

〝胸の奥で燃えるような愛しさを噛み締めて、その唇に触れた。〞
〝自分の熱を吉琳へ移すようにゆっくりと重ねる。〞
〝カイン:俺も大概、欲張りだ〞
〝吐息と一緒に唇が触れて、水に濡れた唇が熱をもっていく。〞
〝吉琳:…ん……っ……、…〞
〝唇を離す一瞬すら惜しく思いながら角度を変える。〞

〝(離れたく、ねえな…)〞

〝自然とそんな気持ちが生まれ、自分の感情に可笑しさが込み上げた。〞

〝(こんなこと思うようになる自分なんて、想像したこともなかった)〞
〝(けど…これが今の俺の気持ちだ)〞
〝(俺がこいつを想う…――心からの気持ちだ)〞

〝わずかに唇を離して、笑みをこぼす。〞
〝カイン:お前、唇冷てえ…〞
〝吉琳:じゃあ、カインがあっためてよ…〞
〝強気な言葉を紡ぐ吉琳の目元が赤く染まっていて、〞
〝愛しさが笑みとなってこぼれた。〞
〝カイン:そういう口きくのは、早えよ。けど、してやる……〞
〝カイン:だから、もう一回〞
〝微かに目を見開く吉琳の柔らかな唇に優しく触れる。〞
〝カイン:…………お前が好きだ〞

〝(あいつと初めて想いが通じたと思ったのは、)〞
〝(噴水でキスしたあの時だったな…)〞

(けど、ここにあるのは特別なキスの記憶だけじゃねえ)

吉琳と出逢うまでずっと、
王位継承者として望まれるであろう態度を貫いてきた。

(結果的にそれが周りの人間を遠ざけて)
(俺も他の奴と距離を置くようになってた…)
(でもあの時の…さっきの記事の一件が、俺を変えた)

噴水の一件があってから、国民の自分を見る目が変わった。
近寄りがたい狼王子から…親しみやすい一人の人間に。

(俺自身、もっと素直に接していいと思えるようになったんだよな)
(これは、王位継承者としての自分の道が新たに開けた時の思い出だ)

だから、ずっとこの記事は捨てられずにいる。

(昔の自分を忘れねえために…)
(自分を変えた奴がいるってことを、覚えておけるように)

これは、そう思って手元に残したものだ。

(でもこのこと…絶対吉琳には教えられねえ)

頬を緩めて記事に目を落としていると、ふいにモモがぴくりと顔を上げる。
カイン:モモ?
モモは腕を伝ってするりと床に降りると、扉の方へ向かった。
カイン:どうした?
追いかけるより先にノックの音がして、吉琳が顔を出す。
吉琳:あ、カイン帰ってたんだ…って、なに散らかしてるの?
カイン:あ? これは俺がやったんじゃなくてモモが…――
言葉の途中で手にしていた記事に気づき、ぱっと後ろ手に隠す。
吉琳:カイン、今何隠して…
カイン:隠してねえ
吉琳:うそ、絶対隠した
カイン:俺が隠してねえって言ったら隠してねえんだよ
吉琳:そんなおかしな理屈信じない!
近づいてきた吉琳は隣に屈むと、
後ろ手に隠した記事を取り上げようとする。
吉琳:ねえ、見せて…
カイン:うるせえな
腕を引いて体を抱き寄せ、唇を塞ぐ。
吉琳:ん…っ
キスをしながら、記事を散らばった書類の下に隠す。
長いキスを終えて唇を離すと、濡れた唇に触れる空気がひやりとした。
吉琳:こ…んな口の塞ぎ方、ずるい…
カイン:見せろってうるせえお前が悪い
吉琳:もう…
吉琳は、赤くなった顔を隠すように抱きついて胸に顔を埋めてくる。
吉琳:…ねえ、カイン。明日は夕陽を見に行かない?
カイン:あ? 夕陽?
吉琳:うん。今日夕陽がすごく綺麗で…カインと一緒に見たいなって思ったの
吉琳:明日もいい天気みたいだから、きっと今日みたいな夕陽が見られる

(…そういや、さっき思い出した噴水でキスしたあの日も)
(綺麗な夕陽が見えてたな…)

カイン:しょうがねえから、つき合ってやるよ
抱きしめ返しながら囁いた自分の声が、呆れるほどに甘い。

(…全然、仕方ねえって声じゃねえな)

吉琳もそう思っているのか、小さな笑い声が響いた。

ただ一緒に笑い合う、そんな些細なことが胸の中を幸せで満たす。

(同じものを見て、想いを伝え合って…)
(…同じ幸せの中にいたい奴がいる)

このかけがえのない幸せを手離さないように、
腕の中の吉琳を強く抱きしめた…――

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《ゼノのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
…………
書類をまとめ終え、そっと息をつく。

(少し、休憩を取るか)

椅子から腰を上げて窓に近づき、カーテンを開く。
ゼノ:…ん?
庭先に見つけた姿に、無意識に口元が綻ぶ。

(…吉琳)

空を見上げる吉琳に目を細め、部屋を後にした。

***

ゼノ:吉琳
吉琳:あ…ゼノ様
名前を呼ぶと、吉琳が空から視線を外して微笑む。
隣に並んで満天の星空を見上げ、ひときわ明るさを放つ星に目を止めた。
ゼノ:ポラリスだな。あれを見ていたのか?
吉琳:はい

(…この名前を初めて聞いたのは、吉琳の口からだったな)

視界を埋め尽くす星を見ながら、
ずいぶん前に一緒に空を見上げた夜を思い出す。

〝吉琳:ゼノ様、あの星はポラリスというそうです〞
〝ゼノ:ん…?〞
〝吉琳の指差す方を見ると肩が触れ合い、微かに温もりが伝わってくる。〞
〝ゼノ:ああ、動かない星のことか〞
〝吉琳:動かない星、ですか…?〞
〝ゼノ:ああ、幼い頃聞いたことがある〞
〝ゼノ:あの星は動かないから旅人の目印になると〞

〝(懐かしいな…しばらく思い出さなかった話だ)〞

〝吉琳と共にいると、ときどき古い記憶が蘇る。〞

〝(まるで、忘れていた温もりが再び熱を持つようだな)〞

〝動かない星の凛とした光をじっと見つめる。〞

〝(いつか国王になった時…)〞
〝(国民にとっての自分が、その星のようであれたらと思った)〞

〝幼い頃に胸に抱いた思いが蘇り、そこに小さな熱が宿る。〞

〝(…それは今も同じだな)〞
〝(そういえば…)〞

〝ゼノ:前に星を見上げる理由を尋ねた時、流れ星に願いをかけると言っていたな〞
〝吉琳:…っ…はい〞
〝ゼノ:今、流れ星が流れたのなら〞
〝ゼノ:お前は何を願う?〞

(――…そう聞いた時、吉琳は強くありたいと…)
(そして、俺を守りたいと答えたのだったな)

今と同じように、空を仰いでいた横顔を思い出す。
その瞳には星を見つめるだけではない深い感情の色が見えたのを覚えている。

(あの時の吉琳の瞳と言葉に)
(確かに心を動かされた…――)

〝ゼノ:初めての言葉ばかりもらうな〞
〝吉琳:ゼノ様…?〞

〝(…なぜだろうな)〞

〝ゼノ:その姿を見る度に思う〞

〝(お前のそんな姿を見ていると、無性に手を伸ばしたくなる)〞
〝(知りたいと…触れたいと、思う)〞

〝吉琳の頬に指先で触れたのは、ごく自然な行動だった。〞
〝顔を近づけると吉琳が息を呑むのがわかる。〞

〝(そんな表情すら……)〞

〝ゼノ:お前は、美しいな〞
〝囁いて唇を重ねた。〞
〝吉琳:……ん…、っ…〞
〝吉琳がこぼす声に、先ほど熱を灯された胸が疼き、〞
〝頬に添えていた手を髪に移す。〞

〝(なぜ、こんなにも甘いと思う…?)〞

〝言葉も触れる感触も、間近で感じる香りすら、〞
〝吉琳のものは全てを甘く感じる。〞

〝(今この胸を満たしている気持ちが)〞
〝(大切にしたいという感情だろうか…?)〞

〝唇を離し、吉琳の瞳を覗き込む。〞
〝吉琳:…ゼノ、様〞

〝(星を撒いた夜空よりもずっと、美しい…)〞

〝キスの余韻で微かに濡れた瞳で見上げてくる吉琳の髪を撫でる。〞
〝ゼノ:今の言葉を全て閉じ込めたいと思った〞
〝ゼノ:口づけで塞げるものではないがな〞

〝(閉じ込めてはおけなかったが…今も心に残っている)〞

空から視線を戻し隣を見ると、吉琳と視線が重なる。
吉琳:ゼノ様も星を見にいらしたのですか?
ゼノ:いや、窓からここにいるお前の姿が見えてな
ゼノ:少し、話したいと思った
目を見開いた吉琳が照れたように笑う。
吉琳:なんだか、星にかけた願いが叶ったみたいです
ゼノ:星にかけた願い…?
吉琳:はい、実はさっき流れ星が見えたので
吉琳:ゼノ様と少しでも一緒の時間が持てますようにと、そう願ったんです
ゼノ:星に…
吉琳:お忙しいのはわかっているのですが…わがままなことを願ってしまいました
困ったように眉を下げる吉琳に自然と笑みが浮かぶ。

(…また、閉じ込めておきたいような言葉だ)

いつかのように自然と手を伸ばし、吉琳の頬に触れる。
ゼノ:それは、嬉しいわがままだな
ゼノ:だが…
吉琳:え…?
嬉しさを抱えたまま、目を瞬かせる吉琳の唇をそっと塞いだ。
吉琳:っ…ん……
こぼれる吐息は、あの日と変わらず甘い。
けれど想う気持ちの強くなった今は、あの時以上に胸が甘く疼いた。
吉琳:…は、っ…ぁ
唇を離し、驚いた顔をする吉琳の髪を撫でる。
ゼノ:星にではなく、俺に願えばいい
ゼノ:流れ星より、今この距離にいる俺の方が
ゼノ:きっとお前の願いを叶えられる

(願いもわがままも、どんな吉琳の声も聞きたい)
(聞き逃さず、すべてをこの胸に残しておきたい)

吉琳:ゼノ様…
名を呼ぶ声が胸に染み渡って、また新たな熱となっていく。

(出逢った頃はわからなかったが…)

胸に広がる熱の名前を、今はもう知っている。

(知らなかったのが不思議なくらいだな…)

自分の中の『愛しい』という想いに突き動かされ、
吉琳の両頬をそっと手のひらで包み込む。
ゼノ:お前は俺に、何を願う?
瞳を覗き込むと、吉琳は手を重ねて幸せそうに目を伏せた。
吉琳:願うことを許してくださるなら
吉琳:ずっと…ずっとおそばにいたいです

(…これは、願うまでもないことだ)

ゼノ:ああ
ゼノ:この先永遠に離さないと、約束しよう
吉琳:ゼノ様…嬉しいです
微笑むと、吐息が互いの唇に触れる。
ゼノ:吉琳…
唇を寄せて、今この瞬間も、これから先の時間も、
全てを閉じ込めるように深く重ねる。

(きっとこれが…)
(幸せというものなのだろうな)

自然と沸き起こる感情を、甘く痺れる胸で噛み締めた…――

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《ユーリのストーリーを読む》

 

――…窓の外に青空が広がる、穏やかなある日のこと
…………
廊下を小走りに駆けながら、心の中で呟く。

(吉琳様、珍しく公務で失敗したってジル様に聞いたけど大丈夫かな)

心当たりのある場所を何ヶ所か巡るものの、なかなか姿が見つからない。

(部屋にはいなかったけど……)

ふと目についた、廊下に飾ってある大きな壷の中を覗き込む。
ユーリ:吉琳様ー…

(って、こんなところにいるわけないか)

ユーリ:どこに行っちゃったんだろう…

(もし落ち込んでたりしたら…俺が吉琳様のそばにいたい)

顔を上げて歩き出した瞬間、ふいに窓から吹き込んだ風が、
甘い花の香りを運んで来る。

(この香り…ずっと前に温室でかいだものと同じだ)

懐かしい香りと一緒に、その時吉琳に告げた誓いの言葉が蘇る。

――…吉琳を囲む報道陣のフラッシュの中から手を引き、連れ出したあの時…

〝ユーリ:吉琳様が困ってたら、何度だってこうして手を取って連れ出すよ〞
〝手を握ったまま振り返って、吉琳の顔を見つめる。〞
〝ユーリ:泣いていたら、世界中どこにいても飛んで行ってあげる〞
〝その言葉に、吉琳はただ驚いたような顔を浮かべていた。〞
〝吉琳:どうしてユーリはそんなことを言ってくれるの?〞
〝その目は先程の不安気なものとは違い、〞
〝戸惑いながらも真っすぐにこちらを見つめ返してくる。〞
〝ユーリ:だって俺は、吉琳様だけの執事だからね〞
〝そう答えながら、そっと吉琳の小さな手を握り返す。〞

〝(100日間だけ…俺はこの人の執事だ)〞
〝(どんな時も、誰よりもそばにいて支える…だから)〞

〝ユーリ:ねえ、吉琳様〞
〝ユーリ:俺を必要としてくれる…?〞
〝すると、吉琳が可笑しそうに笑みをこぼした。〞
〝ユーリ:どうして笑ってるの?〞
〝吉琳:ごめん…だって〞
〝吉琳:私はもうユーリに何度も助けられてるのに〞
〝吉琳はこちらの目を見つめながら、言葉を続ける。〞
〝吉琳:ねえ、ユーリ、私から聞いてもいい?〞
〝吉琳:私を、必要としてくれる…?〞
〝吉琳:私の執事に、なってくれますか?〞

〝(吉琳様……)〞

〝自分を必要としてくれる言葉に、胸の奥がひどく熱を持った。〞

〝(この言葉だけで、どれだけでも頑張れそう)〞

〝心に熱を灯した言葉を、大切に胸の奥に仕舞い込む。〞

〝(…きっと吉琳様の100日間を、無事に終わらせてみせる)〞

〝口元を綻ばせながら、繋いだ手をそっと持ち上げる〞
〝ユーリ:はい、プリンセス〞
〝ユーリ:喜んで〞
〝目を伏せて唇をその甲に触れさせると、〞
〝驚いたのか、吉琳の指がぴくりと震える。〞

〝(なんだか…守ってあげたくなる人だな)〞

〝ユーリ:執事とプリンセスの契約の証〞
〝ユーリ:なあんちゃって〞

〝(…100日間、それが短いのか長いのか今はわからない)〞
〝(でも、俺がこの人を…吉琳様をこの手で、守ってみせる)〞

(あの時は、そんなこと考えてたんだっけ…)

歩きながら思い出していた記憶に笑みを浮かべ、中庭に出ると……

(あ…やっぱりここにいた)

かける言葉を探しながら、息を吸い込む。
ユーリ:吉琳様
吉琳:…ユーリ?
振り返った吉琳の表情に落ち込んだ様子はない。
吉琳:どうしたの?

(そうだった。吉琳様は、めそめそするような人じゃないよね)

失敗も受け止めて、前に進もうとする人だ。

(でも…)

ユーリ:ずっと探してたんだ、吉琳様のこと
吉琳:え…
目の前まで歩いていくと、吉琳の顔を覗きこむ。
ユーリ:ジル様から聞いたよ。大丈夫?
吉琳:あ…公務のこと?
吉琳:大丈夫だよ
吉琳は微笑みながら頷いたけれど、
その表情は何かを隠そうとしているように見えた。

(笑ってるけど、少しだけいつもより元気がない)
(心配をかけないように隠そうとしてるんだろうけど…)

ユーリ:吉琳様は嘘つきだなあ
吉琳:え?
吉琳の頬を両手で包み込んで、こつんと額を合わせる。
吉琳:…っ…ユーリ?
ユーリ:俺、吉琳様のことならなんだってわかるんだよ
ユーリ:隠さなくていい。言いたいこと、全部聞くよ…?
吉琳を必要とするという契約は、あの日からずっと心の中に生き続けている。

(だから吉琳様が俺にしてくれたみたいに、受け止めさせてほしい)
(誰より頑張ってることは知ってるけど)
(強いばっかりじゃなくて、弱いところまで全部、受け止めたいんだ)

ユーリ:だって俺は、吉琳様のためだけの執事だからね
吉琳:……っ
吉琳は驚いたように目を見開いた後、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
吉琳:…うん
吉琳が両手を広げて、ぎゅっと抱きついてくる。
吉琳:ユーリって、本当に最高の執事だよね
吉琳:あ…でも今日は王子様のユーリなんだっけ
礼服を見つめながら首を傾げる吉琳に唇を綻ばせた。
ユーリ:どんな格好してても、俺は吉琳様のものだよ
ユーリ:でも最高なのは、執事の俺だけ?
温もりを抱きしめ返し、そっと耳に囁くと……
吉琳:…ユーリは
腕の中で頬を染めた吉琳がこちらを見上げる。
吉琳:…恋人としても、最高だよ
ユーリ:…すっごく嬉しい

(幸せすぎて、胸がつぶれそうだ)

甘い言葉が胸をくすぐって、吉琳に顔を寄せた。
吉琳:んっ…っ…
大切な人と手を絡めながら、何度もキスを重ねていく。
吉琳:っ…ユー、リ…
甘い吐息をこぼしながら、吉琳の唇が離れる。
ユーリ:俺が吉琳の笑顔を、ずっと守るから…
そう言うと、木漏れ日のような笑顔で見つめられる。
吉琳:……私も
吉琳:大好きなユーリの笑顔を、ずっと守るよ
返された大きな愛情にまた幸せが溢れて、堪えきれない笑みが浮かぶ。
ユーリ:じゃあ、お互いに約束だね
吉琳:うん

――…愛する人の笑顔を、この手で守る。

(これは執事とプリンセスの契約じゃなくて…)
(恋人としての、約束だ)

お互いに唇を寄せて、契約のキスを交わす。
この約束をずっと守り続ける…そう決意しながら、
誰より愛する人の背中をそっと抱きしめた…――

 

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★期間限定!毎日読み放題11日目★

2015年5月に開催していた『Secret Heart』の プロローグ・アラン・クロード・ゼノのシナリオが読めちゃうよ☆

11

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《プロローグを読む》

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――…風に乗って甘い花の香りが届く午後
…………
私はクロードから受け取った綺麗な瓶を見つめた。
吉琳:これは香水…?
クロード:取引先からもらったんだ。
クロード:これを女性から男性に贈るのが、城下で流行ってるらしい
吉琳:え、普通逆じゃないの…?
香水瓶から視線を外してクロードを見上げる。
クロード:女性から贈るのが流行っているのには、理由があってな
クロード:この香水をつけると、本音が隠せなくなるらしい
吉琳:本音が隠せなくなる…?
クロード:好きな人の心は、気になるものだろ?

(確かにそうだけど…)

吉琳:でも、香りをかぐだけで本当にそんな効果があるのかな?
クロード:本当かどうかは俺もわからない。けど…
クロードはにやりと口の端を持ち上げた。
クロード:試してみる価値はあるかもな

***

(本音を隠せなくなる香水か…)

窓からの陽差しを受けてきらめく香水瓶を見つめながら、
夜に彼と一緒に過ごす約束をしていることを思い出す。

(私もあの人に贈ってみようかな…?)

夜になり、部屋で彼が来るのを待っていると扉の開く音がした…――

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《アランのストーリーを読む》

 

――…濃紺の空に欠けることのない月が浮かぶ夜
…………

(結構遅くなったな…)

吉琳と一緒に過ごすため部屋に戻ろうとした時、
自分の部屋の中から何かの割れる音と小さな悲鳴が聞こえた。
アラン:…!
部屋に飛び込むと床に割れた瓶が広がり、
口元を押さえている吉琳の姿があった。
アラン:…何してんの
吉琳:アラン…!

(怪我はないみたいだけど…)

アラン:俺が片づけるから吉琳は離れてて
屈んで割れた瓶に手を伸ばすと、ふわりと甘い香りがする。

(なんだこれ、香水…?)

吉琳:アラン、その香り吸いこんじゃだめ…!
アラン:は…? もう吸いこんじゃったけど
吉琳:……ごめん、アラン

(…こいつ、なんで謝ってんの?)

吉琳は気まずそうに目を伏せると、真剣な表情で話し始めた…――

***

アラン:ふうん…本音の隠せなくなる香水、ね
吉琳:ほんとにごめんね、何ともない?
眉を下げて謝る吉琳を見ていると、からかいたい気持ちが込み上げる。

(だめかもって言ったら、こいつどうすんだろ)

そう言おうと口を開いた時……
アラン:何ともない…大丈夫
言おうとしたのとは違う言葉が出て来て思わず口を押さえる。

(…っ、なんだ今の)

吉琳:アラン?

(…本音が隠せなくなるって、こういうことかよ)

息をついて、吉琳に向き直る。
アラン:…さっきの香水、やっぱちょっとおかしいかも
吉琳:え…?
アラン:今言うつもりなかった言葉が、勝手に出てきた
吉琳:えっ…じゃあ、今アランは本音を隠せないってこと?
その途端、吉琳はハッと顔を上げて目を輝かせた。

(…なんか嫌な予感)

吉琳:ねえ、アラン…
アラン:お前、何聞こうとしてんの
吉琳:だって、今アランは本音しか話せないんだよね
吉琳:アランの本当の気持ち、聞きたい
アラン:…絶対言わない
顔を逸らすと小さな手が頬を包んで、楽しげな瞳に真っすぐ見つめられる。
吉琳:教えて、アランの好きな人って誰?
アラン:…っ…
答えないようぎゅっと口を引き結ぶけれど……
アラン:…俺が好きなのは、吉琳
吉琳:……っ
自然とあふれ出ていく言葉に、苦い気持ちが込み上げる。

(ほんと厄介だな、これ…)

思わず息をつきそうになった時、吉琳の顔が赤くなっていることに気づいた。
アラン:お前、自分で聞いといて照れるとか…

(そういうとこ、ほんと…)

アラン:――可愛い
吉琳:ア、アラン…
首筋まで真っ赤になった吉琳を見ていると、一つの考えが浮かぶ。
アラン:そっか、こういうのもありかもな
吉琳:アラン?

(どうせ隠せないなら…)

アラン:…全部言って困らせればいいだけか
吉琳:え?
アラン:なんでもない。次の質問は?
吉琳:…も、もういいよ
アラン:そう? じゃ、勝手にお前の好きなとこ話す
吉琳:なんで…っ
アラン:俺が伝え足りないから
目を見開いた吉琳の腰を素早く引き寄せて、
言葉を塞ぐように唇を重ねる。
吉琳:ん……っ
唇を離して、赤みの増した吉琳の顔を覗き込む。
アラン:嫌なら、今俺がしたみたいに止めれば?
吉琳:そんなこと…
アラン:ほら、これなら止めやすいだろ
唇に吐息の触れる距離まで近づくと、吉琳は困った表情を浮かべる

(形勢逆転、だな。でも、本番はここから…)

吉琳の耳に唇を押し当てながら、言葉を重ねていく。
アラン:お前の好きなとこは…まず、頑張り屋なとこ
アラン:いつも、まっすぐなとこ

(こいつの好きなとこなんて、考えなくてもいくつでも浮かんでくる)

アラン:俺を見ると…すげえ嬉しそうな顔するとこ
吉琳:…っ…
びくっと肩が震えたことに気づいて顔を離すと、
吉琳はぎゅっと目を閉じていた。
アラン:顔真っ赤だけど…止めなくていいわけ?
吉琳:…できないよ
ついに両手で顔を覆った吉琳に笑って、耳にキスを落とす。
アラン:やっぱりな。こうすれば、お前のそういう顔が見られると思った
吉琳:…じゃあ、今までの言葉は嘘なの?
アラン:嘘じゃない。言ったことは全部ほんと
アラン:それに、俺に本当に思ってることしか言えなくさせたの、お前じゃないの?
吉琳の手を優しく掴んで顔から離すと、潤んだ瞳が現れた。
その瞳を見ていると、不思議といつも胸の奥が甘く痺れる…今もそうだった。

(たまには、こうやって伝えるのもいいかもな)

吉琳:アラン…
揺れる瞳にふっと笑って、吉琳と指を絡める。
アラン:それでも信じられないって言うなら…
吉琳:…あっ…
吉琳の体を優しくソファーに倒して、ドレスの裾から手を差し込んでいく。
膝から上へ柔らかな肌をなぞっていくと、吉琳は甘い吐息をこぼした。
アラン:こうやって言葉以外で…伝えてやるよ
言葉も吐息も包むように唇を重ねて、温もりに触れていく。
香水よりも夢中にさせる吉琳の香りを感じながら、
夜に体を沈めていった…――

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《クロードのストーリーを読む》

 

――…月がゆっくりと漂う雲を淡く照らす夜
…………
二人でベッドに腰かけた時、吉琳が遠慮がちに出してきた物を見て息をついた。
クロード:お前…それ俺に渡す気か?
吉琳:だって一番本音を聞きたい相手はクロードだから
クロード:個人的には、ぜひジルに使ってみて欲しかったんだけどな
吉琳の手から香水瓶を取り上げ、蓋を開けてほんの少し手首につける。
吉琳:えっ、クロード?
クロード:ほら、これでお望み通りだろ

(多少甘い香りだが…やっぱり普通の香水みたいだな)

吉琳:クロード、何ともない…?
心配そうに見上げる吉琳に悪戯心が湧いた。

(少し、驚かせてみるか)

クロード:……っ
吉琳:クロード!?
胸を押さえながら眉を寄せてベッドに倒れ込むと、慌てた声がする。
吉琳:クロード、しっかりして…!
クロード:…………
吉琳:どうしよう、私が香水を渡したから…
頭上から聞こえる声が必死で、思わず笑みを浮かべそうになった。

(そろそろ、やめておくか)
(これ以上は吉琳が泣きそうだからな)

クロード:いい反応をどうも、吉琳?
吉琳:え…、あ…っ
目を丸くした吉琳の手を引いて腕の中に抱き込む。
吉琳:ちょっと…クロード!
クロード:吉琳は本当に俺のことが好きなんだな。よく伝わったよ
吉琳:…っ、そういうクロードはどうなの
照れたように口を尖らせる吉琳に笑みを浮かべた。

(俺も……)

クロード:…お前が好きだよ
吉琳:え?
クロード:…!
意識する前に言葉がこぼれ落ちて、目を見開く。

(なんだ、今言葉が勝手に…)

吉琳:クロード、今…
驚いた顔で見上げる吉琳の言葉を塞ぐように、頭をそっと胸に抱え込む。

(あの香水の効果は、本物ってことか?)

吉琳:ねえ、もしかして香水の効果が…

(…本音が全て伝わるっていうのは、厄介だな)

クロード:ちょっと、黙ってろ
体を離して吉琳の顎に手をかけ、唇を押し当てる。
吉琳:んっ……
吉琳:クロード待って、…ぁ…っ
角度を変える合間に口を開いた吉琳の言葉ごと、キスで塞ぐ。

(俺は、何を焦ってるんだ…?)
(…ああ、そうか)

無意識の癖が本音をこぼすことを阻んでいることに気づく。

(この焦りは、ずっと本音を隠して生きてきたからなのかもな)

吉琳の体から力が抜けて唇を離すと、揺れる瞳と視線が重なった。
吉琳:そんなに本音を聞かれたくないの…?
クロード:…っ

(吉琳は、どうして…)

クロード:お前はどうしてそう、ときどき鋭いんだ…?
吉琳:え…?
息をついて、吉琳の肩に額を預ける。
クロード:たとえ吉琳相手でも、自分の本音も全てさらけ出すのは――
こぼれ落ちそうになる言葉を何とか呑み込み、望む通りの言葉をはき出す。
クロード:…苦手かもな

(それに、いつだって強くありたい)

その時小さな手が伸びて、そっと頭に触れた。
クロード:吉琳?
吉琳:ごめん…ちょっと、嬉しかった
クロード:嬉しい…?
頷いて吉琳の手が優しく頭を撫でる。
吉琳:完璧で強くて大人で…そんなクロードも好きだけど
吉琳:私はそんなクロードの表情だけを見て好きになったわけじゃない
吉琳:それに、たまには甘えてほしいんだけどな
照れ混じりの柔らかな言葉が、染み渡るように胸に広がっていく。

(吉琳が相手なら…素直になるのも悪くないかもしれないな)

クロード:それなら、今日だけ…お前に甘えてもいいか?
吉琳:…だめ
小さく笑って、吉琳が触れるだけのキスをした。
クロード:吉琳…?
吉琳:今日だけなんて、だめ
吉琳:もしこの香水の香りが消えても…クロードを甘やかすのは、私の役目なんだから
クロード:…お前には一生敵いそうにないよ、吉琳
得意げに笑う吉琳の唇にキスを落として、ドレスのリボンに手をかける。

(…いつもは言葉を塞いでしまうけど)
(本音が言える今だから、吉琳に伝えたい)

クロード:…ありがとう、吉琳
熱を帯び始めた瞳が優しく細められて、小さく頷く。
あふれる愛しさを伝えるように抱きしめて、柔らかな温もりに触れていった…――

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《ゼノのストーリーを読む》

 

――…淡い月の光が窓から差し込む夜
…………
ウィスタリアでの公務を終え、ベッドに座って話していた時、
吉琳がそっと小さな瓶を差し出した。
ゼノ:それは香水か…?
吉琳:はい。女性から男性へ贈るのが流行っているらしいんですが
吉琳:この香水の香りをかぐと、本音を隠せなくなるそうなんです
ゼノ:本音を隠せなくなる…?

(不思議なものがあるのだな)

吉琳:きっとただの噂だと思います。でも、もし本当なら…
吉琳:ゼノ様の心に近づけるかなと…そんなことを考えていました
ゼノ:俺の心に…?
吉琳:はい。私はいつだってゼノ様が何を思っているのか、知りたいんですよ?
そう言って吉琳はどこか照れたように笑う。

(本音を知りたい、か)

ゼノ:…本当にそんな効果があるのかはわからないが
ゼノ:お前が知りたいなら、試してみるか?
吉琳:え…
吉琳の手からそっと香水の瓶を取り上げ、蓋を開けて香水をつける。
吉琳:…っ、ゼノ様
ゼノ:…甘い香りがするな

(だが、特別おかしなものには思えない)

慌てて手を伸ばして吉琳は蓋を閉めた。
吉琳:…何ともありませんか?
ゼノ:ああ、大丈夫だ。何か質問でもしてみるか?
吉琳:ですが…
ゼノ:遠慮をする必要はない
言葉を重ねて促すと、微かに瞳を揺らしながら吉琳は口を開いた。
吉琳:…それなら
吉琳:ゼノ様は、アルバートさんのことをどう思っていますか?
ゼノ:アルか…最近きちんと休んでいるのか、気になっている
吉琳:確かに、休まれているアルバートさんは、あまり見たことがないかもしれません

(まず聞かれることがアルのこととは…)

ゼノ:…少し、妬けるな
吉琳:え?
呟くようにこぼれ出た言葉に、微かに目を見張る。

(もしかして今のが、香水の効果なのか…?)

ゼノ:いや…質問を続けてくれ
吉琳:はい。あの…
一度開きかけた口を閉じて吉琳は言葉を呑み込んだ。
吉琳:じゃあ、ユーリのことはどうですか?
ゼノ:ユーリは…ウィスタリアでアイドルと呼ばれていることを知った時は、驚いたな
吉琳:あ、それは私も同じです。初めて知った時は驚きました

(…吉琳?)

どこかぎこちなく笑う頬に、そっと手を伸ばす。
吉琳:ゼノ様?
ゼノ:お前が聞きたい質問は、他にあるんじゃないのか?
吉琳:え…
ゼノ:さっき、何か言葉にするのをためらっているように見えてな
ゼノ:本当に聞きたいことを尋ねてみろ
吉琳は目を見開くと、微かに苦笑した。
吉琳:香水を使わなくても、ゼノ様には私の心がわかってしまうんですね
頬に添えた手に手を重ねて吉琳は口を開いた。
吉琳:ゼノ様は…私のことをどう思っていますか…?

(これまでの質問はこれを聞くためのものだったのだな)

吉琳のことを想うと、自然と言葉がこぼれていく。
ゼノ:…ふとした瞬間に、お前のことを考える
ゼノ:逢えない間どんなことを思い、何をしているのか
ゼノ:姿を見て、声を聞きたくなる…恋しい相手だ
吉琳:…っ

(言葉にすると、こんなに強く想っていることを…)
(何の迷いもなく心が吉琳に向かっていることを、実感する)

ゼノ:そして逢えた時には…
吉琳:ん……
吉琳の首の後ろに手を回して引き寄せ、唇を触れさせる。
そっと顔を離して、熱を帯びた頬を撫でた。
ゼノ:こうして触れて、ここにいると確かめたくなる
吉琳:ゼノ様…

(…いつもより言葉があふれてくるようだ)

ゼノ:…少し喋りすぎたか?
吉琳:いいえ、むしろ…嬉しいです
しなやかな腕がそっと首に回される。
吉琳:ゼノ様…触れて、確かめてください
吉琳:私が、ここにいるって
ゼノ:吉琳…
吉琳:私も少し喋りすぎましたか…?
そう言って吉琳は照れたように笑った。

(そうして頬を赤くするお前を見ていると…)

ゼノ:…少し困るな
吉琳:え、今なんて……んっ…
唇を塞ぎながら背中に手を回して、ドレスのリボンを解いていく。
吉琳:…っ、ゼノ様…

(口にすることで、想いが深まることもあるのだな)

ゼノ:触れたいと思う気持ちが増えて、困ると言った
ささやいて耳を柔く噛むと、吉琳が体を震わせる。
どれだけささやいてもあふれてくる気持ちを伝えるように、
吉琳の柔らかな肌に触れていった…――

 

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★期間限定!毎日読み放題12日目★

2016年3月に開催していた『Change!Change!Change!?』の プロローグ・カイン・ルイ・ジルのシナリオが読めちゃうよ☆

12

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《プロローグを読む》

 

――…その日、王宮ではひそかに事件が起きていた…
…………
――ケース1:アルバート・ブルクハルトの場合
………
次の公務に向かうため廊下を歩いていると……
吉琳:あれ、アルバートさん
アルバート:…プリンセス
会合のためにウィスタリアを訪れているアルバートさんが、なんだか難しい顔で立っている。
吉琳:何かあったんですか…?
アルバート:…ええ、ちょうどいいところに来てくださいました。助けてくれませんか?
吉琳:え…はい、私にできることなら
アルバート:では……
アルバートさんは近づいて来ると、なぜか私の体を壁に優しく押しつけた。
そして、かけていた眼鏡をそっと外す。

(え……)

吉琳:アルバートさん? なぜ眼鏡を…
アルバート:眼鏡をしたままでは、あなたにキスがしにくいからです
吉琳:………え?

(キ…キス…!?)

吉琳:と、突然なに言って…
アルバート:…もう黙ってください
手のひらで頬を包まれ、アルバートさんの顔が近づく。

(うそ…――っ)

思わずぎゅっと目を閉じた瞬間……
???:ちょーっと待ったー!!!
アルバート:……っ

(今の声……)

吉琳:ユーリ…!
目を開けると、肩で息をするユーリと、なぜか頭を押さえるアルバートさんの姿があった。
ユーリ:…間に、あった……っ
アルバート:…? 私はこんなところで何を……
吉琳:どうなってるの…?
ユーリ:あー…ちゃんと説明するね

***

ユーリ:――というわけで、城下で流行ってる『オカシな飴』を食べたら
ユーリ:一時的に性格が変わっちゃったみたいなんだよねー
ユーリ:飴を食べた途端に倒れて、ロベールさんを呼びに行ってる間にいなくなってさ
ユーリ:でも、まさか吉琳様に迫るなんて…
アルバート:…っ…貴様のせいだろう!
ユーリ:だから、ごめんってば。でも困ったな…
ユーリ:さっきの飴…他の人にも配っちゃったんだよね……

(え………)

ユーリの言葉を聞き、慌てて彼の様子を見に行くと……

(…っ…うそ、倒れてる)

吉琳:大丈夫? しっかりして…――!

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《カインのストーリーを読む》

 

――…ケース2:カイン・ロッシュの場合
『オカシな飴』の効果……極度の照れ屋に…――?
…………
吉琳:カイン…、カイン…!
カイン:…っ…、ん……
部屋の床に倒れていたカインが目を覚まし、ほっと息をつく。
吉琳:よかった…大丈夫?
カイン:吉琳…?
カインが抱き起こしている私の手に視線を落とした瞬間……
カイン:――…!

(え……)

その顔が一瞬で赤く染まり、跳ねるように体を起こした。
吉琳:カイン? やっぱりどこか具合が…
カイン:さ、触るんじゃ…ねえ
吉琳:え?
カイン:女がこんな風に、簡単に男に触れるべきじゃ…ねえだろ
吉琳:触れるべきじゃないって…
赤く染まった顔を伏せて告げるカインは、
口調はそのままでも、明らかにいつもと様子が違う。

(もしかしてこれが『オカシな飴』の効果…?)
(ユーリは一時的な効果って言ってたけど…何か消す方法はないのかな)

吉琳:…カイン、ちょっと一緒に来て
ユーリに聞きに行く決意をし、立ち上がりながらカインの手を引くと……
カイン:…吉琳。行くのは構わねえが…
カイン:この手は、離せ…
吉琳:あ…ご、ごめん
片手で顔を覆うカインのあまりの顔の赤さに、自分の頬まで熱くなっていく。

(なんだかこんなに照れられると私まで恥ずかしい気持ちになる)
(いつもと違いすぎて調子が狂うよ…)

***

ユーリ:あれ、カイン様に吉琳様?
吉琳:ユーリ、さっきの『オカシな飴』のことなんだけど…
ユーリ:あー…もしかして、効果出ちゃいました?
吉琳:うん、カインの様子がいつもと違って…効果を消す方法知らない?
問いかけると、ユーリは気まずそうに眉を寄せた。
ユーリ:俺も効果は一時的って聞いただけで、すぐに消す方法があるかは…
ユーリ:ごめん、吉琳様
吉琳:そっか…

(やっぱり自然に効果が切れるのを待つしかないみたい)

カイン:…一時的なら、心配しなくてもきっと治るだろ
カイン:焦らずに待つぞ、吉琳。だから…ユーリも謝るな
ユーリ:え……
ユーリ:カイン様が嘘みたいに優しい…
ユーリの言葉に、またカインの顔が微かに赤く染まる。
カイン:や、優しいなんて…な、なに言ってんだ
動揺した様子で視線を泳がせると、顔を伏せた。
カイン:俺なんかは、全然…
カイン:ユーリの方がいつも周りに気を配ってて…優しいじゃねえか
控えめに言葉を紡ぐカインに、ユーリが呆然と私を見つめる。
ユーリ:これは…すごい効果が当たったね
吉琳:うん…いつもと違いすぎるよね

***

私はカインと部屋に戻り、二人で効果が切れるのをおとなしく待つことにした。
ソファーの隣に座るカインを横目で見つめる。
カイン:…………

(カイン、ずっと部屋の奥を見つめたままだけど…)
(もしかして、今の状況に色々不安を感じてるのかな…?)

吉琳:あの、カイン…
カイン:…!
心配で名前を呼ぶと、カインの肩が跳ねてゆっくりと私に視線が向けられる。
目が合うと、カインは大げさなくらいばっと顔を逸らした。
吉琳:え…今どうして顔を逸らしたの?
カイン:それは、だな…
言いよどむカインに近づき、顔を覗き込もうとすると、
カインはまた顔を赤くして、慌てたようにソファーから立ち上がった。
吉琳:カイン…?
カイン:顔、覗きこむのも…ダメだ
カイン:その可愛い目で見られると…どうしていいか、わからなくなる
吉琳:か、可愛い…?
カイン:だから…!それで今も、目逸らしてたんだよ
カイン:……言わせんじゃねえ
照れた様子で口元を手で覆うカインに、自分の頬まで熱を帯びていく。

(今のカインはいつものカインと違うのに…)

それでも、向けられる言葉に胸が高鳴るのを抑えられない。

(今の言葉、どこまでが飴の効果なんだろう…?)

恥ずかしさに言葉に詰まっていると、カインが息をついた。
カイン:…少し、外に出て来る
吉琳:え…どうして?
カイン:こんな…見つめられるだけで赤くなんの、格好悪いだろ
カイン:こんなとこ、いつまでもお前に見せんの…無理だ
顔を伏せたまま去って行こうとするカインの手を思わず掴む。
吉琳:…待って!
カイン:…! だから、こんな風に触れるのは…
カイン:――…っ
言いかけたカインが、ふいに苦しそうに胸を押さえてしゃがみ込む。
吉琳:え…カイン!?
慌てて顔を覗き込むと……
カイン:――…あ? お前、こんなとこで何して…
カイン:ていうか、何だよこの体勢

(この距離にいても顔が赤くならない…飴の効果が切れたんだ)

吉琳:カイン…!
カイン:おい…!? …っ…い
嬉しさのままカインの首に抱きつくと、
一緒に倒れこんだカインの頭がソファーにぶつかった。
カイン:てめえ…いきなり何すんだ
吉琳:あ…ご、ごめん
顔を離すと、今度は照れではなく怒りで顔を赤くしたカインに睨まれる。

(こんな風に睨まれても、やっぱりいつものカインがいい)

吉琳:元に戻ってよかった…
カイン:全然意味がわからねえ。何があったのか説明しろ
吉琳:うん、もう少ししたら…
カイン:もう少しって……ったく
安堵の息をつきながら告げると、カインは困惑した声を上げながら、
あやすように優しく私の背中を叩いた。

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…ケース6:ルイ・ハワードの場合
『オカシな飴』の効果……頼もしすぎる性格に…――?
…………
吉琳:ルイ、大丈夫? しっかりして…!
ルイ:…ん……
声をかけると、ソファーに倒れていたルイがゆっくりと体を起こした。
吉琳:ルイ、どこか具合が悪いんじゃ…
ルイ:…大丈夫、少しぼうっとしてたみたい
ルイ:それより――仕事をしないと
吉琳:え…?
すっとソファーから立ち上がり、ルイが足早に歩き始める。

(ついさっきまで倒れてたのに…)
(こんなにすぐ動いて、体は大丈夫なのかな…?)

吉琳:ルイ、待って。私も行く…!

***

心配で後を追うと、ルイは色んな人のところに顔を出し始めた。
ジル:この書類、もう終わったのですか…?
ルイ:ああ、他にもやることはある?
ジル:ええ、こちらに来月提出頂く予定のものが…
ルイ:2ヶ月先の分までもらう
ジル:ですが、かなりの量になりますよ?
ルイ:構わない

(なんだかルイが見たことないくらい張り切ってる…?)

ルイ:吉琳、次に行くよ
吉琳:あ…うん

***

ジルの部屋を出て廊下を歩いていると、ふいにルイが足を止めた。
ルイ:あれは…
吉琳:ルイ?
向かい側から、積み上げた箱を抱えたユーリが歩いて来る。

(すごいたくさんの箱…歩きにくそうだけど大丈夫かな?)

ルイ:ユーリ
ユーリ:あ…ルイ様、吉琳様
ユーリ:すみません、もし用事なら後で…
ルイ:用事じゃない。手伝う
ユーリ:え?
ルイは手を伸ばすと、ユーリからすべての箱を受け取った。
ユーリ:ルイ様、それ結構重いですから…!
ルイ:平気。クロードのところの届け物でしょ?
ルイ:それに、まだ運ぶ箱がたくさんあるんじゃない?
ユーリ:え、どうして…
ルイ:前に同じ箱をたくさん、クロードのアトリエで見たから
ルイ:月に一度クロードはまとめて布や飾りの仕入れをしてる、その荷物でしょ?
ルイ:だから、これは俺が運ぶよ。ユーリは次をお願い
ユーリ:はい…じゃあ、お願いします…
ルイに圧倒されたようにユーリが言葉を落とすと、ルイはすぐに歩き出した。
ルイ:行こう、吉琳
吉琳:あ…待って、私も運ぶの手伝うよ!

***

クロードのところに荷物を届けて廊下に出ると、声をかけられた。
シド:よお、泣き虫ぼっちゃん。それにプリンセスか
シド:相変わらず仲よくしてるみてえだな
シドの姿に気づいたルイが、背中にかばうようにすっと私の前に立つ。
ルイ:だったらなに?
吉琳:ル、ルイ…?
はっきり口にされた肯定の言葉に、頬が熱を帯びる。
ルイ:いつもみたいにからかうつもりなら、好きにすればいい
ルイ:でも、吉琳にちょっかいはかけさせない
ルイの返しに、シドが意外そうに眉を上げる。
シド:へえ? お前、今日はずいぶん強気じゃねえか
シド:そういう風に言われると逆に構ってみたくなるだろうが
シドが一歩私の方に踏み出そうとすると、遮るようにルイも動く
ルイ:させないって、言った
シド:…お前、やっぱいつもと何か違えな
シド:何があったか知らねえが…今日のお前をからかってもあんまり面白くなさそうだ
シドは肩をすくめると、私たちの横を通りすぎて去って行く。

(ルイがシドにあんな風に言葉を返すなんて…)

いつもなら相手にしようとせず睨むか無視をするところを、
今日は正面から言葉を突きつけていた。

(ほんとに、今日のルイはいつもと違って見える)
(いつも頼もしいと思うけど、今日は頼もしすぎるくらい…)

誰かのために頑張るルイは好きだけれど、
こんなに張り切り続けたらきっと疲れてしまう。

(…ん? いつもと違う……?)

吉琳:もしかして…
ルイ:吉琳、どうかした?

(これって『オカシな飴』のせいなのかな…?)
(それなら、効果は一時的って言ってたし…)

吉琳:あの…ルイに、手伝ってほしいことがあるんだけど

***

ルイ:これを作ればいいの?
吉琳:うん
トランプを渡し、トランプタワーの見本写真を見せる。

(子どもみたいなやり方だけど…)
(トランプタワーを完成させるには、きっとかなりの時間がかかるから)
(これなら、しばらくはルイを働かせずに引き止めておけるはず…)

そう思って提案したけれど……
ルイ:――できた
吉琳:え、もう…?
ルイは一度もトランプを崩さず、あっという間に作りあげてしまった。
ルイ:他に俺にできることはある?
吉琳:え……えっと

(どうしよう、何か言わないときっとまたルイが頑張りすぎちゃう)

吉琳:あの、ただ一緒にいたい…っていうのは、だめ?

(こんな言葉じゃ今のルイは止まってくれないかな…)

すがるように見つめると、ルイは口元に微かな笑みを浮かべた。
ルイ:いいよ
吉琳:え?
わずかに体を乗り出したルイに、瞳を覗き込まれる。
ルイ:どのくらい、一緒にいてほしいの?

(自分からルイを引き止めたけど…)

言葉も眼差しも私を甘やかすようで、無意識に頬が熱を帯びていく。
吉琳:どこまで、望んでいい…?
思わず問い返すと、ふっとルイが柔らかな笑みを浮かべた。
ルイ:好きなだけ
ルイ:君の望むだけ、一緒に…――
ルイ:………っ
ルイは言葉の途中で胸を押さえると、苦しそうに息を詰めた。
吉琳:ルイ…っ
慌ててルイの肩を支えると、顔を上げたルイが不思議そうに瞬きをする。
ルイ:……吉琳?
ルイ:俺、どうして君の部屋に…?

(もしかして、薬の効果が切れた…?)

吉琳:…よかった、戻ったんだね

(頼もしいルイも素敵だったけど…頑張りすぎは見ていて心配になる)

ルイ:…? なにがよかったの
吉琳:なんでもないよ
首を傾げる姿に笑顔を向けると、ルイの口元にふわりと優しい笑みが浮かんだ。
ルイ:…おかしな吉琳

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《ジルのストーリーを読む》

 

――…ケース3:ジル・クリストフの場合
『オカシな飴』の効果……敬語が使えなくなる…――?
…………
吉琳:ジル…! しっかりして
ジル:……吉琳…?
ゆっくりとジルの瞼が開いて、ほっと息をつく。
ジル:なぜそんな心配そうな顔を…?
吉琳:部屋にジルが倒れてたから…
ジル:倒れた…私が?
ジル:ああ、そういえばユーリから受け取った飴を食べてから記憶がない…
吉琳:大丈夫…? どこか具合が悪かったりしない?
ジル:ええ、大丈夫で…──
ふいに不自然なところでジルが言葉を切った。
ジル:……?
吉琳:ジル…? やっぱりどこか具合が…
ジル:いえ、具合はどこも悪くあり…――
吉琳:ジル?
ジル:……おかしい
ジル:大丈夫じゃない…らしい

(え…?)

***

クロード:敬語が使えない?
吉琳:うん、使おうとすると声が出なくなるみたいで
クロード:へえ、一時的とはいえ、飴でそんな効果がね…
たまたまジルに書類を提出しに来たクロードが、どこか面白がるようにジルを見つめる。
クロード:ジル、この書類だが…
ジル:後にしてく…れ
クロード:…くれ?
笑みを深めるクロードにジルは息をついた。
ジル:…いま貴方と話す気はない
ジル:話させて楽しもう、という魂胆が見え見えだ
クロード:いや、こんな大変な時に放っておくなんてできないだろ
ジル:見え透いた嘘をつくのはやめろ
クロード:……なんかこう、敬語のないジルは思った以上にグサッとくるな
吉琳:うん…

(口調が違うだけで、こんなに印象が変わるものなんだ…)

ジルは息をつくと、額を押さえた。
ジル:だったら、からかうのはやめなさい
クロード:ん?
ジル:…ん?

(あれ、今……)

ジル:…なるほど、命令口調は許されると
クロード:あー…わかってよかったな。
クロード:けど、治るまでお前は少し休んでた方がいい
ジル:なぜ?
クロード:今のお前と話すと、周りの方が被害を受けそうだからな
おどけたように肩をすくめるクロードに、私とジルは苦笑して顔を見合わせた。

***

ジル:貴女まで付きあわせてすまない
吉琳:ううん、誰かと話さないと治ったかどうかわからないでしょ?
ジル:ああ…
ジル:ただ、この話し方は…正直慣れない
ジルは苦く笑うと、疲れたようにソファーに深く腰かけた。

(やりたくてやってるわけじゃないんだし…疲れるよね)

ジルの隣に膝を立てて座り、ぎゅっと頭を抱きしめる。
ジル:吉琳…?
吉琳:あの…こうしてると少しは疲れが取れるかなって

(自分からこんなことするの、本当は緊張するけど…)

ジル:…ああ、確かに貴女にこうしてもらえるのは落ち着く。それに…
ジル:これだと吉琳の速い鼓動も、よく聞こえる
吉琳:え…
吉琳:そ、それは聞かないでほしい…
慌てて離れようとすると、微かに笑ってジルは私の腰を掴まえた。
ジル:離さない
吉琳:ジル…!
ジル:今鼓動が速くなった…いつもと違う私に、動揺を?
ジルは可笑しそうに目を細めると、腰を抱えたまま私の体をソファーに押し倒した。
吉琳:あ、あの…
ジル:何なら一人称も変えてみようか
吉琳:変える…?
ジル:私ではなく…俺、と
瞳に楽しげな色を浮かべて、ジルが私の頬を撫でる。
ジル:疲れを癒してくれたお礼がしたい
ジル:俺は貴女に何をすればいい…?
吉琳:なにって……

(表情も触れ方も、いつものジルなのに…)

言葉遣いが違うだけで、なんだか別人のような気がしてしまう。

(戸惑う気持ちもあるのに…)

違う一面を知ったようで、胸の奥がひどく落ち着かない。
恥ずかしさに目を伏せると、ジルの顔が近づいて唇を甘い吐息が掠めた。
ジル:さあ、俺に…どうしてほしいのです?

(え……)

吉琳:あれ、今…
ジル:ああ、戻ったようですね
ジル:よかった、これでいつも通りです
にっこり笑うと、ついさっきまでの状況が嘘のようにジルが体を起こす。

(平然としてる…やっぱりからかってたのかな)

頬に残る熱を感じながら体を起こすと、ジルが顔を覗き込んできた。
ジル:少し残念…そんな顔ですね?
吉琳:そ、そんなこと…!

(確かに、いつもと違うジルに動揺してたけど…)

慌てて否定する私の髪を手に取り、ジルはそっとキスを落とした。
ジル:…冗談ですよ、吉琳
ジル:ですが、もし貴女が先ほどの私を気に入ったというのなら、
ジル:またさっきのように話す努力をしましょう
ジル:もちろん、貴女と二人きりの時限定で…ね
耳に落とされる甘い囁きに首筋まで熱を広げた私に、ジルは楽しげな笑みを浮かべた。

(どんなジルでも…私が敵わないってことだけは変わらないのかも)

 

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★期間限定!毎日読み放題13日目★

2015年4月に開催していた『初めて君を見つけた日』の プロローグ・ルイ・クロード・ゼノのシナリオが読めちゃうよ☆

07 13

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《プロローグを読む》

 

――…ウィスタリアの空を無数の星が彩る夜
…………
吉琳:…ちょっとユーリ!急にどうしたの?
ユーリ:いいからいいから、ほらこっちだよ
新調されたばかりのドレス、
そしてガラスの靴を履いて私はユーリに手を引かれて廊下を急ぐ。

(…今夜何かあるなんて、ジルから聞いてないけど)

考えていると、ユーリが足を止めてダンスホールへと続く扉に手をかけた。
ユーリ:さ、吉琳様。……この先で、皆が待ってるよ
吉琳:え…
扉が開いて背中を押され、足を踏み出すと……

(……嘘)

カイン:…おい、いつまで待たせんだ
アラン:先輩、今日は吉琳に優しくしてって言ったはずですけど
そこには礼服姿で立つ、カインとアランの姿があった。
吉琳:…どうしたの?二人共その格好
クロード:吉琳、俺たちがいることも忘れるなよ
ゼノ:…ああ。だが、お前は思った通りの反応をするな
吉琳:クロード…それにゼノ様
目の前の光景に、ただ呆気にとられていると……
ノア:吉琳、今日は何の日か覚えてないのー?
吉琳:今日…?
ルイ:…君が、プリンセスになってからちょうど1年が経つ日だよ
その言葉に、ハッとするとその場にいる全員の顔が優しくなった。
カイン:だから…礼としてパーティーを計画してやった
カイン:…って、お前、なに泣きそうになってんだよ
吉琳:だって…
アラン:あーあ、先輩が怖いからですよ
カイン:…あ?アラン、もう一度言ってみろ
ノア:今夜だけは言い争い禁止ー
クロード:ノアの言う通りだな、今夜はせっかくのパーティーだろ?
ゼノ:だが、このいつも通りの光景が吉琳が大切に思っているもののような気がしているが
ゼノ様の言葉に頷くと、ルイが優しく微笑んだ。
ルイ:プリンセス…それじゃ、パーティーを始めようか
皆が顔を見合わせて、シャンパングラスを手に取っていく。

(……いつも通りの光景だけど)
(この景色が私にとって、失いたくない大切な宝物だよ)

滲んだ視界で、ゆっくりと重ねてきた毎日を思い返しながら微笑んだその時……
そっと他の人から見えない角度で手を繋がれた…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…吉琳がガラスの靴を履いた日から、1年の時間が流れて…
…………

(…やっぱり、吉琳はどこにいても人に囲まれる)

招待客が集まり始めると、吉琳はあっという間に囲まれてしまった。
昨日の夜、きっと人に囲まれるよ、そう告げたら、
このパーティーが終わった後に逢おう、そう微笑んで吉琳は小指を差し出してくれた。
カイン:あいつがプリンセスになって1年か。なんかあっという間だったな
ノア:うんーそうだね。そういえば、カインと俺は機内で初めて逢ったんだよね
ノア:ルイは……プリンセスを選ぶセレモニーの時?
ルイ:うん、そう
遠くにいる吉琳を見つめながら、吉琳と初めて出逢った日を思い出す。

(初めて君を見つけた日を思い出すと…)
(俺はいつも少しだけ後悔する)

〝ノア:ルイー、吉琳、あっちに行こ〞
〝ルイ:…………〞
〝ノア:ん、それじゃ交代しよっか。この子は大丈夫だよ〞
〝白い花を胸に付けた吉琳は、〞
〝ノアに促されるままダンスをするために自分と手を繋いだ。〞
〝吉琳:あの…ルイさん〞
〝ルイ:…ルイでいい…………こっち〞

〝(…この子も、きっとプリンセスになりたいだけ)〞
〝(プリンセスになることは…上に立つことは…そんなに楽しいことばかりではないのに)〞

〝ただ黙々と踊っていると、吉琳がふと口を開いた。〞
〝吉琳:あの、このパーティーって一体なんなんですか?〞
〝ルイ:………っ…〞

〝(もしかして、何もしらないでここに……)〞

〝吉琳:あの、黙っていないで教えてください〞
〝ルイ:…知らなくていいこともあるから〞
〝吉琳:ルイさん…あの待ってください〞
〝ルイ:ルイでいいって言った。それと……敬語はいらない〞
〝ルイ:でも…〞
〝ルイ:君は、ここから立ち去ったほうがいい〞
〝ルイ:できるだけ早く〞

(…あの瞬間、俺は君と自分を重ねてた)

突然、慣れない地位に押し上げられて、どれだけ傷つくか。
それは孤児から引き取られて公爵に、
それから第一王位継承者になった自分の心が嫌というほど覚えていた。

(…だから、吉琳にひどく冷たい言葉を告げた)

吉琳が、ここからすぐに逃げられるように。
プリンセスに選ばれて、辛い思いをしなくても済むように。

(だけど…今なら、そんなことは言わない)

その瞬間、吉琳の柔らかい笑い声が耳に届く。

(だって、君は俺が思うよりずっと優しくて…強い)

そして同じような強さが自分の中にあったことに気づかせてくれたのも、
吉琳だった。
吉琳と過ごした時間を思い出すと、どれも鮮明に思い出すことができる。

(けど…君が俺と初めて出逢った日を思い出すとしたら)
(あの、冷たい言葉を思い出すのかな…)

***

――…約束の時間が近づいて、
時計の針はもう少しで12時をさそうとしていた
…………
遠くに見える時計台を見つめていると…ガラスの靴の音が響いて、
大好きな甘い香りが鼻をくすぐる。
吉琳:ルイ、ごめんね。…待った?
ルイ:ううん、今戻って来たところ
吉琳はほっとしたように微笑むと、隣に並んでバルコニーに腕をつく。
穏やかな静寂の中、聞きたい言葉が口からこぼれた。
ルイ:吉琳、…最初に出逢った時に、交わした言葉覚えてる?
一瞬だけ目を見開くと、吉琳はまるで言葉を曖昧にするように微笑む。
そして、遠くを見つめながら言った。
吉琳:あのね。ルイ
ルイ:ん…?
吉琳:今日、1年を思い出していて気づいたんだ
吉琳:出逢った日も大切だけど…
吉琳:私はそれからの毎日も、大切だったなって
ルイ:…え?
吉琳が照れたように目を伏せる。
吉琳:…初めてルイと手を繋いだ日は、時間が止まればいいのにって思った
吉琳:…ルイに好きだって言ってもらえた時は
吉琳:…世界中の幸せを独りじめしてる気分だった
吉琳が息をついて、視線を重ねて言った。
吉琳:今、この瞬間もすごく幸せだよ
ルイ:……吉琳
吉琳:それに…
吉琳はまた優しく目元を和ませるて言葉を重ねる。
吉琳:最初に出逢った時の言葉が、ルイの優しさだったって今ならわかるから
吉琳:やっぱりルイと過ごした時間の全部を…大切だって思うよ

(ああ…)

吉琳はいつも先回りして、
自分の心の柔らかい部分をそっと抱きしめてくれる。
自分の迷いや不安を、簡単に消してしまう。

(…そんな君に)
(俺は一生敵わない)

ルイ:うん…俺も同じように思うよ
視線を重ねたまま、手すりに置かれた吉琳の手を握ると、
優しい体温が伝わってきた。

(…あの日の後悔を消すために、手を繋いでいるわけじゃない)
(…今、こうしてるのは君と一緒にいたいから)
(大切な今を君に贈りたいから)

吉琳が、手を握り返しながら噛みしめるように告げる。
吉琳:…やっぱり、幸せだな

(…うん、俺も幸せだよ)
(こんな幸せがあるなんて、君に出逢わなかったら知らなかったと思うから。けど…)

ルイ:…これで満足しちゃだめ
吉琳:え…
短く声をもらす吉琳の唇に顔を寄せて伝えた。
ルイ:…これから先、君をもっと幸せにしてもいいですか?
吉琳の瞳が、大きく揺れる。
自分を見つめてくれるこの人を守れるなら、何だってするだろう。
吉琳:はい
吉琳の声が聞こえた瞬間、唇を重ねる。

(…吉琳、君に出逢えたことが俺の幸せだよ)
(……ただ、君を愛してる)

もう一度繋いだ手を握り返すと、12時の鐘が鳴り響いた…――

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《クロードのストーリーを読む》

 

――…吉琳がガラスの靴を履いてからちょうど1年の月日が流れた夜
…………
螺旋階段の手すりに頬杖をついて、ダンスホールにいる吉琳を見つめる。
たくさんの人に囲まれて、吉琳は屈託のない表情で笑っていた。
クロード:…無防備な顔だな
???:その言葉、そっくりそのままお返ししますよ
その声に振り返ると、呆れたような、それでいてどこか楽しそうな表情をしたジルの姿があった。
ジル:貴方がそういう表情をしている時は、視線の先に何があるのかわかりますね
ジルの視線の先を辿ると、吉琳の姿がある。

(…何でもお見通しってわけか)

クロード:ジル。俺の目は、吉琳をすぐ見つけるように出来ているらしい
またいつものように呆れた表情を返されるのを待っていると…
ジル:ええ、ですから…
ジルの目がひどく優しく細められた。
ジル:これからも、吉琳をちゃんと見守っていてくださいよ…?
その言葉に、ジルがどれだけ吉琳を大切に想っているかが伝わってくる。

(…お前は本当に誰からも好かれるな)

クロード:…ああ、了解
クロード:けど、ジル。……どうして俺の作った礼服を着てないんだ?
ジル:……私に着せたいなら、もう少し装飾を抑えてください
ジルは今度こそ盛大に呆れた表情を浮かべて、階段を下りて行った。
その背中に笑みを返し、また自然と目が吉琳の姿を探す。
吉琳を見つめながら、一緒に過ごした毎日を思い出していく。

(…恋人になるまで、吉琳を何度泣かせたかわからない)

吉琳をプリンセスにすること、それは自分の野心を叶えるために都合が良い条件だった。
初めて吉琳を見つけたその時、機内で子どもを助ける姿を見て、
瞬間的に思った。

(…随分と、お人好しで使えそうな駒だと)

――…ウィスタリアで飛行機が不時着して、吉琳は電光掲示場を見て目を見張っていた

〝クロード:へえ、振り替え便がなくなったのか〞
〝吉琳:……?〞
〝吉琳:あなたも乗り遅れたんですか?〞
〝クロード:まさか、俺はこの国の者だ〞
〝吉琳:ここの国の人?〞

〝(…随分と、警戒心がない目をするな)〞

〝クロード:ついておいで、明日までここにいるわけにはいかないだろ〞
〝吉琳:確かにそれはそうなんですけど〞
〝クロード:一番良い選択肢は、俺についてくることだ〞

まるで迷う吉琳の道しるべになるように、歩き出した日を忘れることはできない。

(…だけど、いつからだろうな)

自分の野心を成し遂げるために、吉琳に笑いかけるたび、
心が痛むようになった。
吉琳が笑わない日は、ずっと目で追うようになった。

(それで…本当の笑顔が欲しくなった)

吉琳を見つめるたびに、自分の気持ちが嘘から本物に変わるのを感じた。
息をついたその時……
クロード:…?
ダンスホールにいる吉琳と視線が重なって、吉琳の顔に笑顔が広がる。
そして、こっちに来て、そう言うように手招きをした。
クロード:…………
手すりから手を離して、ゆっくり階段を下りて行く。

(…なあ、吉琳)
(俺は、お前との出逢いも…自分がついた嘘も絶対に忘れないよ)
(けど…)

シャンデリアの光の中、たくさんの人の中で、吉琳だけが違って見える。

(今、お前に伝えたいことがあるんだ)

あの飛行機でもっとお人好しな奴がいたのかもしれない。
それに、ガラスの靴が入るかもわからないのに吉琳に声をかけた。

(俺が、お前のことをすぐ見つけたのは…)

吉琳:…やっとクロードのこと、見つけた
クロード:ああ、ごめんな

(…運命だったからだと思いたいんだ)

それでも、まだそんな言葉を伝えることはできない。
出逢ってから流させてしまった涙よりも、もっと多くの笑顔をあげたい。
運命を語るのは、それからだと思う。
吉琳:もうすぐダンスタイムが始まるんだよ。それで…
クロード:今夜は私と踊って頂けますか、お姫様?
吉琳:…っ…
言葉を先回りして、吉琳の華奢な腰を抱き寄せる。

(…だから、俺はどこにいてもお前を見つけて)
(…大切に、お前を愛していきたい)

吉琳は照れたように視線を逸らして、ぽつりと呟く。
吉琳:まだ…曲、始まってないよ?
クロード:早くこの手を取らないと、誰かに奪われるかもしれないだろ?
吉琳:それなら、もっと早く見つけてよ…
その言葉に、淡い感情が胸を満たしていく。

(知ってるか、吉琳)
(俺はお前を見つけるのが誰よりも得意なんだ)

言えない言葉を飲み込んで、そっと吉琳の手を取る。
クロード:確かにその通りだ。……それじゃお詫びに
クロード:今夜はずっとこの手を繋いでいてもいいか?
吉琳が返事をするように繋いだ手をきゅっと握り返して笑う。
その笑顔にまた、目が奪われる。
ずっとこうして自分の瞳に吉琳を映して守っていきたい、そう願うように想った…――

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《ゼノのストーリーを読む》

 

――…吉琳がプリンセスになって1年が経つ日を祝うパーティーが開かれた夜
…………

(…今夜は随分と嬉しそうな顔を見ることができたな)

賑やかなパーティーも終わり、人も帰り始めていた。
星空を見上げたその時……
吉琳:どうしてこんな場所にお一人でいらっしゃるんですか?
聞き慣れた声がして、視線を下ろすと吉琳の姿があった。

(遠くから楽しそうなお前を見ていた…とは言えないな)

ゼノ:一人でいれば、お前が俺のところに来るような気がしてな
冗談のつもりで告げると、吉琳の頬が赤く染まる。
吉琳:……その言葉通り、探してしまいました
吉琳:でも、見つけられてよかったです
ゼノ:…そうか
愛おしさが胸を満たして微笑み返すと、吉琳が思い出したように口を開いた。
吉琳:今日、ゼノ様と初めてお逢いした日のことを思い返していたんです

(俺が初めてお前に出逢った日は…)

〝アルバート:なんとも馬鹿げたセレモニーでした〞
〝ゼノ:…あれが、ウィスタリアの新しいプリンセスということか〞
〝アルバート:ええ、あんな小娘では先が思いやられますが〞
〝ゼノ:…………〞
〝アルバート:ゼノ様が関わる必要はないかと〞

吉琳と出逢った日はガラスの靴がプリンセスを選ぶセレモニーの日だった。
挨拶を交わすこともなく、ウィスタリアを去ったことを思い出す。

(あの時は、)
(こんな未来は予想していなかった…不思議なものだな)

ゼノ:お前と初めて出逢ったのは、プリンセスセレモニーの日だったな
吉琳:え…
吉琳が驚いたような声を上げる。

(…?)

吉琳:お披露目パーティーの日に受け止めてくださった時が初めてお逢いした日だと…
ゼノ:ああ、直接話したのはその日が初めてだったな
吉琳:それでは、私はずっと勘違いをしていたんですね
吉琳の表情に、寂しそうな色が浮かぶ。
ゼノ:どうしてそんなに落ち込む…?
吉琳:それは……っ…
言葉の先を促すように見つめると、吉琳が照れを含んだ声で言う。
吉琳:初めて出逢った日を記念日として覚えておきたかったんです
ゼノ:どちらを出逢った日にすればいいのか悩んでいるのか?
吉琳は、頷くと大きな悩みを解決するような表情で目を伏せる。

(……こんな表情一つとっても、愛おしいと思う)

吉琳の姿を見つめていると、ふっと顔を上げて吉琳が口を開いた。
吉琳:……ゼノ様、一つお願いがあるのですが
ゼノ:どうした、言ってみろ
吉琳:今日、初めて出逢った日のやり直しをしませんか…?

***

――…夜風から逃げるように、人気のないダンスホールに足を踏み入れる
…………
ゼノ:まずは何から初めればよいだろうか
吉琳:…まず初めて逢った時は、名前を名乗りますよね
えっと、そう前置きをして吉琳が笑う。
吉琳:吉琳と言います
ゼノ:…ゼノ・ジェラルドだ
ゼノ:それから、きっと初めて逢った二人ならば……
月灯りが差し込むダンスホールで、吉琳に手を差し出す。
ゼノ:プリンセス、踊ってもらえるだろうか…?
吉琳:え…
ゼノ:名前を名乗った後は、きっとこうするのではないかと思ってな
吉琳:そう、ですね
吉琳は嬉しそうに微笑むと、そっと手を取る。
手を繋いで音楽も鳴らない夜の中、ゆっくりステップを踏み始めた。

(……こうして何度、手を取っただろうな)

始めて吉琳を見つけたあの日から、
お互いに手を取り合って、そして今がある。

(この手が、吉琳の体温を覚えている)
(俺の目が、お前の笑顔を覚えている)

吉琳:ゼノ様
名前を呼ばれると、甘く心が疼く。

(…俺の心が、お前を覚えている)

重ねてきた時間の分だけ、体に沁み込んでいるようだ。
ゼノ:…吉琳
吉琳:…? はい
吉琳が、ステップを踏んでいた足を止める。
ゼノ:思い返すと、お前と共に重ねた時間の全てを、覚えているものだな
今感じているこの温かな気持ちを教えてくれたのは、吉琳だ。
吉琳と出逢って、自分の心の中にあった氷が溶け出した。
ゼノ:…それは、俺にとって忘れたくない大切な記憶だ
ゼノ:これでは、初めからやり直せそうにないな
吉琳:……そうですね
吉琳は噛みしめるように呟くと、言葉を重ねていく。
吉琳:私も…全てを覚えています
吉琳:…ゼノ様と星を見上げた日
吉琳:初めて笑いかけてもらえた日…こうして手を繋いだ日
吉琳:…全てが、私にとって愛おしい記憶です
ゼノ:ならば…
繋いだ手を引き寄せて、額を重ねる。
ゼノ:今日からまた、ゆっくり時間を重ねていこう
ゼノ:…初めて出逢った日よりも、大切な時間をお前に贈ると約束する
吉琳:はい…
吉琳は一瞬だけ視線を上げると、すぐに逸らしてしまう。
ゼノ:…どうした
吉琳:これから先のことを当たり前に口にしてくださる
吉琳:それが…とても幸せだと思ったんです

(…だから、額が熱いのか)

ゼノ:当たり前だろう

(…心から愛し、心から愛されていると想える)
(俺の胸の真ん中には、いつもお前がいる)

そっと顎に指をかけて視線を重ね……
ゼノ:この先、俺はお前しか愛せないのだから
吉琳に触れるだけのキスを落とした瞬間、
吉琳が今夜、口にした言葉を思い出した。

――…見つけられてよかったです

(…それは俺の言葉だ)

どんな恋の始まりであっても、大切だと、愛おしいと想える今が何より大切だ。
過去ではなく、今を大切に紡いでいこう、そう心に誓う。

(何の迷いもなく言える)
(お前を見つけられたことが、俺の幸運だ)

唇が離れると、これから先の未来を守るように、
吉琳の体をそっと抱きしめた…――

 

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★期間限定!毎日読み放題14日目★

2015年8月に開催していた『海の中のお姫さま』の プロローグ・カイン・ルイ・クロードのシナリオが読めちゃうよ☆

14  

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《プロローグを読む》

 

――…爽やかな夏の風が、潮の香りを運ぶ夕暮れ
招待を受けたパーティーからの帰り道、私はみんなと海に寄り道をしていた。
吉琳:水着があればよかったのに
ルイ:泳ぎたかったの?
吉琳:うん、すごくいい天気だし…泳いだら気持ちよさそうだなって
クロード:足をつけるくらいならいいんじゃないか?
カイン:んなことしたらこいつ、転びそうだけどな
吉琳:もう、カイン…
カインを軽く睨もうとした時、強い風が吹いて帽子が風にさらわれる。
吉琳:あ……!

(海の上に落ちちゃった…)

吉琳:ちょっと取ってくるね
クロード:俺が行くよ
吉琳:浅いところだから大丈夫だよ、ありがとうクロード
靴を脱いでつま先から海に足を入れる。

(遠いところに飛ばされなくてよかった)

足を進めて帽子に手を伸ばした瞬間……
吉琳:わっ…!?
???:…吉琳!
少し深くなった場所に足を取られて、海に倒れ込む。
吉琳:うわ……
すぐに体を起こしたけれど、足だけではなく全身が水浸しになってしまった。

(…どうしよう、服が透けちゃってる)

自分を抱き締めるようにして体を隠そうとした時、彼の上着がかけられた…――

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《カインのストーリーを読む》

 

――…橙色の夕陽が、ゆっくりと海に沈んでいく夕暮れ
海の浅いところで座り込み、ぎゅっと自分の体を抱きしめる。

(…どうしよう、服が透けちゃってる)

その時、頭に何かが被されて前が見えなくなった。
吉琳:な、何…?
慌てて被されたものを取ると……

(カインの上着…?)

カイン:馬鹿か、お前!
吉琳:え?
海に入って来たカインは、近づくなり私の体を抱き上げた。
吉琳:ちょっと、カインも濡れる…
カイン:濡れるとか今はどうでもいいんだよ、馬鹿
吉琳:さっきから馬鹿って…!
カイン:馬鹿だから馬鹿って言ってんだろ、馬鹿

(…っ、久しぶりに頭にきた)

吉琳:…下ろして
カイン:あ? 下ろさねえよ
吉琳:いいから下ろしてよ…!
カイン:お前、暴れんな…クソっ
苛立ったようにカインが息をついて、さらにぐっと胸に抱き寄せられた。
カイン:透けてんのわかんねえのかよ?
吉琳:……!

(もしかして、見えないようにしてくれてるの…?)

思わず体にかけられたカインの上着を握る。
カイン:わかったらおとなしくしてろ
吉琳:……はい

***

吉琳:わっ……
車でお城に戻りカインの部屋に着くと、いきなり体をベッドに投げ出された。

(見えないように運んでくれたのは助かったけど)

吉琳:もう、乱暴すぎ…
言いかけたところで、ベッド脇に腕を組んで立つカインに見下ろされる。
カイン:脱げ

(……え?)

吉琳:カイン、何言って…
カイン:遅え、脱がねえなら脱がす
吉琳:あ…っ
ベッドに乗り上げてきたカインに慌てて後ずさろうとすると、
足を掴まれてベッドに倒れ込んでしまう。
吉琳:…っ…だから、乱暴だって言って…
ぎしりとベッドが軋んで、カインが覆いかぶさってくる。
吉琳:…カイン?

(なんか、いつもと違う…怒ってる?)

カイン:……お前
吉琳:…んっ
カインの指が鎖骨に触れて、びくりと肩が揺れた。
カイン:………だろ…
吉琳:え…今なんて…?
カイン:だから…っ
カイン:…お前、少し無防備すぎんだろ。他の奴に見られたらどうすんだよ
眉を寄せたカインの手が、鎖骨からゆっくりお腹の方へと下りていく。
吉琳:…あ…

(肌に触れているわけじゃないのに…)

濡れて張りついた服の上からだと、直接触れられたように体が熱くなる。
カイン:脱ぐ前から、体の線とか全部見えてるし…
吉琳:……っ
ゆっくりと肌を下へなぞっていく手に、背筋に甘い痺れが走った。
カイン:そういうとこ…他の奴に見せんなよ

(もしかして…)

吉琳:嫉妬、してるの…?
カイン:…んなわけねえだろ。お前の警戒心のなさに呆れただけだ
吉琳:でも……んっ
言葉を押し込めるようにキスで唇を塞がれる。
深く唇を重ねながらカインの手が背中に回されて、ぐっと抱き起こされた。
吉琳:…カイン……
膝に乗せられたまま、吐息の混ざる距離で見つめ合うと、
カインの眉がぎゅっと寄せられる。
カイン:お前のそういう姿に、余裕なくす男もいるって……教えてやる
吉琳:あ……
胸元から差し込まれた手が、濡れたワンピースを一気に腰まで引き下ろす。
素肌がひやりとした空気に触れた瞬間、胸が熱い唇に包まれた。
吉琳:…っぁ…

(…何、これ。体が冷えてたから…?)

カイン:お前の肌、冷てえ…
吉琳:…っそこで…喋らないで
唇に包まれている部分も、触れる吐息も、
いつもより余計に熱く感じられて体の奥から熱が広がっていく。

(でも、触れられてるからだけじゃなくて…)

カイン:吉琳…

(カインのこういう顔見てると、心臓がドキドキして…)
(余裕なんて、すぐになくなる)

吉琳:…カインの気持ち、わかったかも
カイン:あ…?
吉琳:さっき、見せるなって言ったこと…
ぎゅっとカインの首に抱きつき、耳に唇を寄せる。

(だって私も…)

吉琳:今のカインの顔…誰にも見せたくないって思うから
カイン:…んなこと、考えるだけ無駄だ
吉琳:ん…っ…
ぐっと腰を引き寄せられて、笑みの滲む声が耳に届く。
カイン:俺にこういう顔させられんのは、お前だけだ

(カイン……)

込み上げる愛おしさに抱きしめる腕に力を込めると、低く笑う声がした。
その夜、冷えた体にカインの熱が触れて二人の体温が溶け合っても、
私たちはお互いの体を離そうとはしなかった…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…陽が落ちて、空に星が瞬き始める頃
公務の後に立ち寄った海で転んだ私は、濡れてしまった服をルイと絞っていた。
吉琳:ごめんね、ルイの服まで濡らしちゃって…
ルイ:気にしないで
透けたワンピースが見えないように、ルイはお城に着くまで私を抱えて運んでくれた。
その時、貸してくれたルイの上着とシャツの胸元が濡れてしまったのだ。
吉琳:でも……
ルイ:吉琳、さっきからそればっかり
ルイの指が、そっと唇に置かれる。
ルイ:次にごめんって言ったら、キスする
吉琳:……っ
微かに笑みを浮かべながら、ルイは唇から指を離した。
ルイ:風邪引く前に着替えよう?
吉琳:うん…わかった
シャツを干すためにルイが後ろを向く。
ほんの少し速くなった鼓動の音を聞きながら、その背中を見つめた。

(ルイって背中まで綺麗…)
(体細いけど、何か鍛えたりしてるのかな…?)

無意識に手を伸ばして、白い背中を指でなぞる。
ルイ:…っ…

(え……)

触れた瞬間にびくっと肩が揺れて、ルイが振り返った。
ルイ:どうかした…?
吉琳:ごめん、くすぐったかった?
ルイ:……少し
ルイ:それより、吉琳
吉琳:ん?
近づいたルイを見上げると、ふいに唇にキスが落とされる。
吉琳:…っ…ルイ?
ルイ:今、ごめんって言ったでしょ

(あ…もしかして、さっきの…)

〝ルイ:次にごめんって言ったら、キスする〞

吉琳:でも、今のごめんは…
ルイ:ほら、また…
吉琳:ん……
繊細な指が顎を持ち上げて、唇が重ねられる。
キスを続けるうちにルイの体が近づいて、思わず浴槽の縁に手をついた。
吉琳:ルイ……っぁ
ふいに腰の上を撫でられて、びくりと肩が跳ねる。
ルイ:ここ、弱いの…知ってた?
吉琳:…っ、知らない
頭を振って熱くなった頬を隠すように俯くと、耳の輪郭を甘く噛まれる。
吉琳:んっ…
ルイ:ここも、君の弱いとこ

(…もしかして)

吉琳:…さっきの、仕返し?
視線を上げると、ふっとルイが微笑んだ。
ルイ:…ばれた?
その瞬間、腰に手が添えられて浴槽の縁に座らされる。
吉琳:お、落ちるよ…っ
ルイ:大丈夫、落とさない
ルイは私の腕を取ると、自分の首に回させた。
微かに笑って、ルイの手が私の髪を片側に寄せる。
ルイ:このまま、寄りかかってて
吉琳:ん……
ワンピースを下ろしていくのと一緒に、
ルイがあらわになる肌にキスを落としていく。
ルイ:濡れてて、脱がしにくい…
吉琳:…なら、脱がさないで
ルイ:それは、聞かなかったことにする
吉琳:…あっ…
胸を柔く噛まれて思わずルイの頭に抱きつくと、微かに笑う声がした。
ルイ:君の肌…ちょっとだけ、しょっぱい
吉琳:それは…海で濡れたから
ルイ:うん、でも……
ルイが体を起こして、そっと唇が重ねられる。
ルイ:…キスは甘い
吉琳:ルイ……ん…っ
もう一度唇を塞がれて、呼吸を奪うようにキスが深くなっていく。

(頭がくらくらして…息が苦しい)
(でも……)

酸素がほしいと思うのと同じくらい、今はルイとのキスを続けたいと思う。
吉琳:海じゃなくて…ルイのキスで溺れそう
息継ぎの合間にそう言うと、ルイの熱い吐息が頬に触れた。
ルイ:じゃあ…一緒に溺れて
片足が持ち上げられて、ぐっと腰を引き寄せられる。
吉琳:…っ…は…
ルイ:…っ…吉琳
距離をなくすように抱きしめ合って、間近で見つめ合う。
どちらからともなく笑みを浮かべて、
今度は温もりを分け合うようなキスをした…――

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《クロードのストーリーを読む》

 

――…陽が暮れて、空がすっかり夜の色に染まった頃
海で転んで全身水浸しになった私は、
服を着替える前に濡れた服を絞るため、シャワー室に来ていた。
クロード:それにしても派手に転んだな、吉琳?
タオルで私の髪を拭きながら、クロードが笑みを滲ませる。
吉琳:笑いごとじゃないよ…見てこれ

(もう何度も絞ったのに…)

ワンピースの裾を持ち上げて絞ると、まだ水が滴ってくる。
クロード:お前…外でそういうことするなよ
吉琳:そういうことって…?
クロード:…いや、何でもない。
クロード:それより絞るのはもういいから早く脱いで
吉琳:え?
クロード:着替えないと風邪引くだろ?

(…一瞬ドキっとしちゃった。でも…)

吉琳:それなら、クロードもでしょ
クロード:俺も?
吉琳:だって、シャツが濡れて…

(あ……)

吉琳:ごめん、これ私のせいだね

(転んだ時、上着を貸してくれただけじゃなくて)
(お城に戻るまでずっと抱えて運んでくれたから…)

濡れたシャツを見ていると、申し訳ない気持ちになってくる。

(でも、申し訳ないだけじゃなくて…)

濡れたシャツを着ているクロードの姿に胸が高鳴って、思わず目を逸らす。

(…ドキドキしてるなんて、絶対言えない)

クロード:このくらい気にしなくていい。それより…
クロード:いつまでもその格好でいるつもりなら、俺が脱がすけどいいのか?

(…またそうやってからかう)

クロードの余裕な様子に、少し悔しい気持ちになる。

(服が濡れてるのは同じなのに、)
(クロードは私にドキドキしたりしないのかな?)
(……よし)

思い切って、クロードの胸にぎゅっと抱きつく。
クロード:吉琳?
吉琳:…いじわる言うから、仕返し
吉琳:いつまでもその格好でいるなら、私が脱がすけどいいの?

(…これで少しはクロードも動揺してくれないかな?)

クロードと同じ言葉を返して、精一杯の笑みを浮かべると……
クロード:お前な…
吉琳:……?
息をついたクロードに肩を押されて、そっと壁に押しつけられる。
吉琳:クロ……んっ
顔を上げようとしたところで唇を塞がれて、目を見開いた。
吉琳:クロード…?
クロード:あんまり煽るようなことするな…これでも我慢してるんだ
クロード:恋人のこういう姿は、落ち着かない気持ちになる

(それって…)

吉琳:…クロードも私の格好にドキドキしてくれたってこと?
クロード:俺も?
吉琳:あ…な、何でもない
クロード:…なるほど、さっきの行動はそういうことか
吉琳:…っ、ちょっと…!
ふいに体の間に足を割り入れられて、慌ててクロードの胸に手をつく。
クロード:いいよ、脱がせても
吉琳:え…?
私の腰に手を添えて、クロードがにやりと笑う。
クロード:仕返し、するんだろ?

(……っ)

吉琳:……後悔しないでよ
クロード:ああ
シャツに手を伸ばしてボタンに手をかける。
一つ目を外そうとした瞬間、腰に触れていた手が背中を撫でた。
吉琳:…っ…
クロード:どうした?
吉琳:……何でもない

(…気にしちゃ駄目)

手が震えそうになるのを堪えてもう一度ボタンに手をかけると……
吉琳:んっ…
クロード:手が進んでないな、吉琳
首筋にクロードの唇が押し当てられて、思わず吐息をこぼす。
吉琳:それは、クロードが…っ
クロード:俺は仕返ししてもいいとは言ったが…
クロード:邪魔しないとは言ってない
吉琳:なに、それ…屁理屈……ぁっ
ワンピースの肩紐が落とされて、背中に触れていた手が服を引き下ろす。
濡れた素肌が空気にさらされた瞬間、熱い唇が肌をなぞった。
吉琳:あっ…

(やだ、ここ声が……)

思わず上がった甘い声が室内に響いて、唇を噛みしめる。
クロード:吉琳、唇噛むな
吉琳:だって、ここ…響く
クロード:ああ、それなら…
吉琳:…っ…ひゃ
キュッと音がして、突然頭上からシャワーの水が降り注いだ。
クロード:こうしてれば、お前の声は俺にしか聞こえない

(…もう)

怒りたいのに可笑しさが込み上げて、笑いながらクロードの首に手を回す。
吉琳:…クロード、シャツ着たままだよ…?
クロード:お前が脱がせてくれなかったからな
吉琳:…あ…っ
微かに笑ったクロードがぐっと腰を引きつけて、つま先が床から浮いた。
クロード:…掴まってろ
吉琳:ん……
間近で熱のこもった眼差しとぶつかり、唇を寄せていく。
甘い声を水音にまぎれさせながら、
水でも冷ませない互いの熱に溺れていった…――

 

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★期間限定!毎日読み放題15日目★

2015年12月に開催していた『ほろ酔いガチャ ~今夜はいつもより××~』の プロローグ・ルイ・レオ・ユーリのシナリオが読めちゃうよ☆

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《プロローグを読む》

 

――…内輪だけのささやかなパーティーが開かれた夜
……………
吉琳:このお酒美味しいね
クロード:こっちのワインもいい味だ
吉琳:ほんと? あとで飲んでみようかな
ジル:二人とも、飲みすぎないようにしてくださいね
クロード:なんだ、ジル。今日はずいぶん量を控えてないか?
ジル:みんながたくさん飲んでいますからね
ジル:倒れる人が出たら面倒をみる人間が必要でしょう?
クロード:なら俺は遠慮なく飲ませてもらおうか
ジル:ああ、言い忘れましたが貴方に限っては酔い潰れても放置しますから
クロード:おい、何で俺だけ扱いが違うんだ
ジル:日頃の行いのせいでしょう?
二人のやり取りに笑っていると、ふと彼がバルコニーの方へ歩いて行くのが見える。

(あれ?)
(もしかして、酔いを覚ましに行ったのかな)

視線を向けていると、隣にグラスを持ったカインが立つ。
カイン:なあ、あいつ今日飲むペース早かったけど大丈夫か?
吉琳:そうなの?

(心配だな…)

吉琳:ちょっと様子を見てくる
カイン:ああ、頼んだ

***

バルコニーに立つ彼の隣に立ち、そっと声をかける。
吉琳:大丈夫…?
???:吉琳…
横から顔を覗き込むと、彼の手が頬に触れて…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…パーティーの喧騒は遠く、空にはきらきらと星が瞬く夜
……………
吉琳:ルイ、大丈夫? これ、お水
ソファに横になったルイにグラスを差し出すと、緩く首を振る。
ルイ:今は欲しくない
吉琳:でも…
戸惑いながら見下ろしたルイの顔は、お酒のせいかうっすらと赤い。
吉琳:飲んだら少し落ち着くから
ルイ:…なら、君が飲ませて
吉琳:え…?
ルイ:してくれないなら…飲まない
吉琳:……ルイ

(…いつもならこんなお願いはしないのに…やっぱり酔ってるのかな)

ルイ:吉琳、早く…
吉琳:っ…
甘く、でもどこか色香をはらんだルイの声と視線に、
どうしても逆らえる気がしなかった。

(いつもならこんなこと、恥ずかしくて絶対に無理って思うのに)
(私も酔ってるのかも…)

グラスの水をゆっくりと口に含み、体を屈めてルイへと顔を寄せる。
吉琳:ぅ…ん
重ね合わせた唇から水を流し込むと、ルイがこくりと喉を鳴らした。
ルイ:ん……
次の瞬間、ルイの手が私のうなじを押さえる。
吉琳:ん…、っ…

(ルイ……?)

しだいに深くなるキスに、甘い眩暈を覚えてぎゅっとルイの肩に掴まった。
吉琳:っ、は…ぁ
唇が離れて息をつくと、こぼれた水で濡れた肌をルイの唇がなぞる。
ルイ:…甘い
吉琳:ルイ…っ
吉琳:ただの…水だよ…
ルイ:うん。でも、吉琳がくれたから
ルイの上にもたれるようになってしまっていた体を起こそうとするけれど、
腰をしっかりと抱きしめられていて、身動きがとれない。

(…あれ、…?)

ルイ:…だめ、離れないで
ルイの綺麗な瞳が、私を映す。
ルイ:…いつもこう
吉琳:ん……?
ルイ:吉琳に一度でも触れると、離したくなくてもっと…って思う
息を呑むと、また唇が重なって甘いお酒の香りが私たちを包む。
吉琳:ん…っ
深いキスに翻弄されて顔を上げると、首筋をルイの手がたどっていく。

(頭がくらくらする…)

下へおりていったルイの手が足を撫で、そのまま履いていたブーツが脱がされる。
ブーツが床に落ちた音が、どこか遠くに聞こえた。
ルイ:吉琳…
唇だけでなく、頬、顎、首筋へと順番にキスを落とすルイは、
ゆっくりとドレスを脱がせていく。
吉琳:…ん、っ…ルイ……っ
ルイ:ねえ…俺のことも脱がせてくれる?
吉琳:え…っ
ルイ:だって、俺は吉琳を脱がせないといけないから
ルイ:だから、吉琳が俺を脱がせて欲しい
吉琳:…それは

(…ルイが望むことなら応えたい、けど恥ずかしい)

ルイ:君が嫌ならやめるけど
言いながら、ルイの指先が私の背中をなぞっていく。
吉琳:ぁ……、…っ
反射的にこぼれてしまった私の吐息に、ルイが首を傾げた。
ルイ:ほんとにやめてもいいの…?
強引なのに、その声と瞳の色はどこか甘くて、私を酔わせる。

(ずるい…なんだか、今日のルイ、いつもより意地悪だよ)
(これも、お酒のせいなのかな…)

だけど、いつもより少しだけ強引な要求の裏に隠れているのはルイの本心だ。

(いつもは私を甘やかしてばかりで…なかなか甘えてくれないルイだから)
(……私が、今夜は甘やかしたいって想う)

向けられた瞳が背中をそっと押して、ルイのシャツに手をかける。
吉琳:…脱がせるから…、やめないで
ルイ:……っ…
ルイのシャツを落とすと、いつもより熱い指先が私のドレスを落とす。
ルイ:…よく、できました
吉琳:…ルイ
ルイ:それじゃ……、ここからは俺に甘やかされてくれる…?
ソファに体を押し倒され、ルイが月明かりの中優しく微笑む。

(……甘やかされて、甘やかして…キリがないな)

笑いながら私たちはキスをする。
ルイの存在の全てが、甘く私を翻弄して満たしてくれる。
甘いお酒のような私の恋人に、私はただ溺れるように身を委ねた…――

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《レオのストーリーを読む》

 

――…喧騒も、風の音さえ遠い二人きりの夜
……………
吉琳:わっ…
足のおぼつかないレオの体を慌てて支える。
レオ:…っと…ごめんね、吉琳ちゃん
お酒のせいか、レオの声はいつもより掠れているように感じた。
吉琳:私は平気だよ。大丈夫? もうベッドに着くから…
レオ:ん…
吉琳:ほら、レオ。着いたよ
レオ:…ありがとう
レオを支えながらベッドへと寝かせようとすると……
吉琳:え…、わっ…!?
レオに引っ張られるようにして、二人でベッドに倒れこんでしまう。

(びっくりした…)

思わず閉じていた目を開くと、吐息の触れそうな距離にレオの顔がある。
吉琳:あ…

(どうしよう、これって…)

押し倒された格好になり、ドキドキと戸惑いながらレオの顔を見上げた。
レオ:…あれ?
瞬きをしたレオが、ぼんやりと辺りに視線をさまよわせる。
吉琳:レオ?

(どうしたのかな…?)

レオ:えっと……あったあった
ベッドサイドに手を伸ばしたレオは、そこから眼鏡を取ってかけた。

(ん…?)

レオ:これでよし
吉琳:…ねえ、レオ
レオ:ん…? どうしたの、吉琳ちゃん
吉琳:今、どうして眼鏡をかけたの…?
レオ:…それはね
笑みを深めたレオに顔を覗き込まれる。
レオ:この方が…吉琳ちゃんの可愛い顔が、はっきり見えるから
吉琳:…っ……

(そんな風に言われると恥ずかしい…)

顔を背けようとすると、頬が熱を持った手のひらに包まれた。
レオ:…だめ、今はよそ見しないで
吉琳:…っ…レオ
ふっと笑みを浮かべたレオの顔が近づいて……

(……あれ…?)

思っていた感触のかわりに、微かな冷たさが頬に触れた。
吉琳:あ…

(今、メガネが当たったの…?)

レオ:…おかしいな
レオ:いつもなら、眼鏡のままでもうまくできるのに……
レオ:…俺、相当酔ってるかも
吉琳:うん…大丈夫?
レオ:ねえ吉琳ちゃん、眼鏡外してくれない…?
吉琳:え…
レオ:お願い…

(こんな風に甘えてくれるなんて…)
(やっぱりレオ、かなり酔ってるみたい)

いつもと違う様子が見られて、思わず頬が緩む。
吉琳:うん…いいよ
手を伸ばして、レオの顔からそっと眼鏡を取り去る。
吉琳:…これでいい?
レオ:ん……ねえ、吉琳ちゃん
吉琳:なに?
眼鏡を持ったままの私の手が、シーツの上に縫いとめられる。
レオ:外してくれたってことは…
レオ:もう一回、キスしていいってことだよね…?
吉琳:…っ…今のは、そういうつもりじゃ…
吉琳:…っ、…ん
答えるより先に、レオのキスで口を塞がれてしまう。
吉琳:ん、っ…ぁ
口内に直接吐息を感じる。
いつものレオの香り混じって、ふわりと甘いお酒の香りがした。

(私まで、酔っちゃいそうだよ…)

翻弄されるうちに、レオの手が私の服を乱し、その下の肌に唇が触れていく。
唇が肌をたどる甘い感覚に吐息をこぼすと、上着が落とされる音がした。
吉琳:レオ…、…っ…待って
肌のすべてをなぞるようにレオの唇が止まることなく動いて、
こぼれそうになる声を必死に抑える。
吉琳:酔ってるんじゃ、ないの…?
レオ:ん……酔ってる、けど…
吉琳:それなら…
レオ:でも、お酒よりも、吉琳ちゃんのせいかな
レオが、シーツの上で乱れた私の髪を一束持ち上げて、そこに唇を当てた。
吉琳:っ、…
神経が通っていないはずの髪の先から、甘い痺れが広がっていくような気がする。
レオ:いつだって、吉琳ちゃんが一番…俺の理性を溶かすんだよ

(そんなこと、言われたら…)

吉琳:レオ…っ
降参した私は、掴み止めていた理性を手離した。
そしてそのかわりに、愛しくてたまらない恋人に向かって腕を伸ばす。

(私も、いつだってレオにとろけさせられてるよ…――)

目を閉じる直前、レオが幸せそうに微笑むのが見えた…――

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《ユーリのストーリーを読む》

 

――…パーティーの賑やかな景色を、星々が静かに見下ろす夜
……………
ユーリ:あー、暑いねえ、吉琳様
吉琳:うん、ほらユーリ。しっかり歩いて
ダンスホールを抜け出して、酔ったユーリを支えて部屋に戻ってきた。
ユーリ:吉琳様ー
じゃれるように抱きついてくるユーリに押されて、私までよろめいてしまう。
吉琳:わっ…ユーリ、転んじゃうよ
ユーリ:嫌だ、離さないよ
大きな瞳で見つめられて、何も言葉を返せないでいると、
ユーリがくすくすと笑う。
ユーリ:くっついてると、暑いね
吉琳:じゃあ離れよう? それで、ベッドに横になって
ユーリ:それは一緒に寝ようってお誘い?
吉琳:…っ…違うよ、もう…
吉琳:ほら、座って
ユーリ:はーい
ユーリをゆっくりとベッドに座らせると……
ユーリ:うーん
私に抱きついたまま、肩に額をぐりぐりと押し当ててくる。
吉琳:ユーリ…?
ユーリ:やっぱり暑いなあ…
吉琳:上着、脱いだら?
ユーリ:そうだね。それじゃ……吉琳様が脱がしてよ
ユーリはほんのりと赤い顔を傾けて、じっと見つめてくる。

(酔ってるせいかな……いつもより甘えてくれてる気がする)

なんだかその姿が可愛くて、笑みがこぼれた。
吉琳:わかった。…じゃ、ちょっと離れて?
ユーリ:ちょっとだけだよ?
吉琳:うん、約束
ユーリの上着を脱がせると、甘えるような声が耳に届く。
ユーリ:ねえ、吉琳様。…俺、シャツも脱ぎたい
そう催促されて、ボタンに手をかけたけれど……

(あ……)

シャツからのぞく鎖骨に、胸が大きく音をたてる。

(おかしいな……、さっきは可愛いと思ってたのに…)

急に恥ずかしくなってしまい、慌てて視線をそらした。
吉琳:……ごめん、やっぱり自分で脱いで?
ユーリ:吉琳様?
不思議そうに首を傾げるユーリから体を離そうとすると、
ぐっと腕を引かれた。
ユーリ:だーめ、逃がさない
吉琳:あ、ユーリ…っ
引き寄せられて、そのままベッドの上に押し倒されてしまう。

(わ…っ)

吉琳:あの、…っ…ユーリ
戸惑いながら身をよじる私を閉じ込めるように、ユーリがシーツに手をつく。
ユーリ:逃げないで
吉琳:あ…
ユーリ:今日は俺の言うこと聞いて…?
いつもよりも熱のこもった目に見つめられて、胸の音が速くなる。

(急にこんな顔するなんて…ずるいよ)

体の力を抜いてシーツに沈み込むと、ユーリがにっこりと笑って唇を寄せてきた。
吉琳:ん…っ…
ちゅっと軽いキスをして一度離れたユーリの唇が吐息をこぼす。
ユーリ:……吉琳
名前を呼んで、次に触れた唇は一度目のキスとは比べものにならないくらい深い。
吉琳:っ…ふ……、…ぁ
キスの合間に、ユーリが手を腰から下へと滑らせていく。
そして、ワンピースの裾からのぞく脚をするりと撫でた。
吉琳:っ…ぁ、ユーリ
這い上がってくる甘い痺れから逃げることができず、ぎゅっとユーリにしがみつく。
ユーリ:…ああ、もう
ユーリは、私の背中をベッドから浮き上がるくらいにぎゅっと抱きしめた。
ユーリ:…どうしよう、可愛すぎて我慢できない
掠れた声が耳に直接注ぎ込まれる。
ユーリ:吉琳様のこと、めちゃくちゃにしたい…

(……ユーリ)

こぼされた声は酔ったせいじゃない。
重ねた瞳は真剣で、こぼされた想いを全て受け止めたくなってしまう。
吉琳:……いいよ
背中に手を回して、ぎゅっとしがみつく。
吉琳:めちゃくちゃに、して…?
ユーリ:っ……

(恥ずかしいけど、ユーリにだったら全部あげたいと思うから…)

視線をはずしたその瞬間、シャツが落とされる音が響いた。
ユーリ:…もう、どうなっても知らないからね
そう言うなり、ユーリが私の首筋に噛みつくようにキスをした。
吉琳:ぁ、あ…っ
甘い声をこぼすと、大きな瞳が真っすぐに私を捉える。
ユーリ:今夜は一晩中、俺の腕にいて。ね…? 吉琳
二人きりの夜、ユーリだけが与えられる甘い熱に、
まるでお酒に酔ったように溺れていった…――

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★期間限定!毎日読み放題16日目★

2016年5月に開催していた『Kiss of Memories』の ノア・ルイ・ジルのシナリオが読めちゃうよ☆

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《ノアのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
…………

(こんなに遅くなると思わなかった)

他国の視察から戻り部屋に入ると、足にふわふわしたものが触れて……
ノア:ん?
見下ろすと、スノーがすり寄っていた。
ノア:こんな時間でも元気だねー
抱き上げて部屋の奥に進み、目を見開く。
ノア:…あれ?
ベッドの上に、穏やかに寝息をたてる吉琳の姿があった。
そのそばには、チョコレートの箱が置いてある。

(ああ…そういえば、今日はチョコレート会社の視察に行くって言ってたっけ)

ノア:もしかして、二人で俺が戻るの待っててくれた?
頷くようにしっぽで腕をぽふぽふ叩くスノーに、唇を緩める。

(俺の言ってることわかってるみたい)

頭を撫でてスノーを床に下ろすと、扉の方に走っていった。

(ほんとに元気いいな)

そっとベッドに腰を下ろし、吉琳の髪を撫でる。

(…気持ちよさそうに寝てる)
(このまま寝かせておいてあげたいけど…)

ノア:…吉琳ー
そっと肩を揺らすと、閉じていた瞼が開いていく。
吉琳:ん……、ノア…?
ノア:なんにもかけないで寝てたら風邪引くよー?
そう告げると、吉琳は慌てて体を起こした。
吉琳:あ…私、真っ先におかえりって言うために待ってたのに
吉琳:寝ちゃってごめん
ノア:ううん、帰って一番に吉琳の顔が見れて嬉しかったよー
ノア:でもおかえりって、今でいいから聞かせて?
吉琳:うん……おかえり、ノア
柔らかな笑顔と声音が胸に落ちて、
ほっとするような温かい気持ちが広がっていく。

(…こういう瞬間、すごく好きだなって思う)

ノア:なんか、帰ってきたって実感した
吉琳:いま?
ノア:そー、いま
ノア:吉琳のそばが俺の帰る場所って
ノア:きっと体に染みついてんだね

(だからこの笑顔に、こんなに安心するんじゃないかな)

その時、小さな笑い声が聞こえる。
ノア:吉琳ー? なに笑ってるの?
吉琳:体に染みついてるって、なんだか犬みたいだなあって

(犬みたい、か…)

ノア:じゃーご期待に応えて、じゃれたり甘噛みしたりしようかな
吉琳:え、期待なんてしてな…っ
わざと大げさに抱きついて体をベッドに押し倒す。
脇腹をくすぐると笑い声が上がった。
吉琳:ノア、何して…っ
ノア:俺なりに、じゃれてます
吉琳:くすぐってるの間違いでしょ…!
ノア:じゃあ…これは?
体をよじる吉琳の首筋を甘く噛む。
吉琳:んっ……
ノア:甘噛みの仕方は、間違ってる?
悪戯っぽく目を細めると、目の前の顔が赤く染まった。
吉琳:犬はこんな噛み方しないよ。それに…
吉琳:犬に甘噛みされても…こんなに恥ずかしいと思わない

(吉琳のこういう言葉)
(何回聞いても…可愛いって思う)

ノア:そういうこと言われると、甘噛みで済ませなくなる
吉琳:んっ……ぅ…
唇を深く重ねると、溶けるような甘さが伝わってきた。

(チョコレート…?)

唇を離し、潤んだ瞳を覗き込む。
ノア:吉琳、さっきチョコ食べたー?
吉琳:あ…そうだった。視察で頂いたチョコが美味しかったから
吉琳:ノアと一緒に食べようと思って持ってきたんだ
その言葉に、ふと蘇る記憶があった。
ノア:なんか、前にもこんなことあったねー
吉琳:そういえばそうだね
笑いながら、そっと額を重ね合わせる。

(確かあれは…吉琳に初めて触れた夜だ…――)

〝ノア:12時の鐘が鳴ったら帰るのは、シンデレラだけで充分〞
〝ノア:それに俺は〞
〝ノア:みすみす帰すような馬鹿な王子じゃないから…――〞
〝抱き上げた体をベッドにそっと組み敷く。〞

〝(胸の音…うるさいくらい鳴ってる)〞

〝吉琳:ノア…、私はシンデレラなんかじゃない〞
〝ノア:ん…?〞
〝吉琳:12時の鐘が鳴っても、好きな人からは離れたくないんだよ〞

〝(吉琳の言葉を聞いてると、こんなに簡単に胸が詰まる)〞
〝(吉琳が大切で、仕方ないよ…)〞

〝壊れやすい宝物に触れるように、そっと額にキスを落とす。〞
〝ノア:そうだね、そんなのおとぎ話だけでいい〞
〝吉琳:……うん〞
〝ノア:綺麗事なんて言ってられないくらい、触れたい〞
〝吉琳:いいよ…?〞
〝その瞬間、言葉を奪うように深く唇を重ねていく。〞
〝吉琳:……ん…っ……〞

〝(…あれ?)〞

〝熱い息をこぼして唇を離し、思わず笑みをこぼした。〞
〝ノア:吉琳、キスが甘い〞
〝吉琳:……っ…〞
〝ノア:チョコ、食べたでしょ?〞
〝吉琳:うん、さっき城下で〞
〝ノア:チョコの味しかしないのもいーけど…〞
〝吉琳の髪をくしゃりと撫でて、〞
〝ワンピースを引き下ろし、肩に唇を触れさせていく。〞
〝吉琳:……っ…ノア…〞
〝ノア:吉琳のほうが、ずっといい〞

(…あの頃から変わらない)
(甘いものを食べるより…)
(吉琳とのキスの方が、ずっとたくさんの幸せをくれる)

吉琳:ノア、チョコレート食べる?
ノア:んー…今はチョコより、こっちが欲しい
吉琳:んっ…
キスを続けるほどに、胸の奥が甘く痺れていく。

(何度しても吉琳とのキスは)
(もっとって…欲しくなる)

ノア:…止まらなくなる、ね
吉琳:それはチョコのせい…?
ノア:…そーじゃなくて、もっと甘いもののせい
吉琳:もっと甘いもの…?
ノア:そう…これのこと
答えを教えるように、キスを深くしていく。
顔を離して唇を舐めると、吉琳の肌が首筋まで赤く染まった。
吉琳:ノア…っ
ノア:…ほらね。もうチョコレートの味しないけど、止められない
その時、遠くで響く12時の鐘が空気を震わせた。
吉琳:あ……
視線を上げた吉琳の顔の横に、そっと手をつく。
ノア:…だめ、帰さないよ
吉琳:ノア…
ノア:俺は12時の鐘が鳴っても
ノア:みすみす帰すような馬鹿な王子じゃないから

(この胸にあるのは、そんなことで離せるような小さな想いじゃない)
(ずっと大切に抱きしめてたいくらい、大きい想いだから)

記憶を辿りながら言葉をこぼすと、
吉琳が懐かしそうに目を細めて笑う。
その幸せそうな笑顔に引き寄せられるように、もう一度優しいキスをした…――

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《ルイのストーリーを読む》

 

――…吉琳と出逢ってから2年が経った頃
…………

(…もう少しで時間だ)

孤児院への視察の時間が迫り、一緒に行く吉琳の部屋を訪れる。
ルイ:吉琳
軽くノックをして扉を開けると……

(え?)

部屋の天井に色とりどりの風船がたくさん浮かんでいた。
ルイ:これは…?
吉琳:あ、ルイ
たくさんの風船を抱えた吉琳がこちらに気づき、
ぱっと嬉しそうな笑顔を浮かべる。
吉琳:もう孤児院への視察の時間?
ルイ:ううん、時間はまだ大丈夫
ルイ:少しでも長く一緒にいたくて、早く来た
吉琳:ルイ…嬉しい、ありがとう
照れたように笑う吉琳に優しく目を細め、風船を見上げる。

(風船、ずいぶんたくさんあるけど…)

ルイ:これ、全部君が…?
吉琳:うん。今日視察に行く孤児院で子どもたちに配ろうと思って

(こんなにたくさん、一人で用意するのはきっと大変だったはずだ)

ルイ:…子どもたち、きっと喜ぶよ
吉琳:そうだと嬉しいな
吉琳の想いに心が温かくなり、自然と笑みが浮かぶ。
ルイ:…これも持っていく風船?
膨らませる前の風船を見つけて手に取る。
吉琳:うん、そのつもりだよ
ルイ:それなら、俺も膨らませるの手伝う
吉琳:いいの? ありがとう、ルイ
吉琳と一緒に、一つずつ風船に空気を入れていく。

(…この風船を見てると、前に吉琳と遊園地に行ったことを思い出す)
(風船を渡した時の顔…今でも覚えてる)

〝吉琳:風船の中に…箱が入ってる〞
〝ルイ:…うん〞
〝吉琳:中には何が入ってるの?〞
〝瞳を輝かせながら聞いてくる吉琳に、自然と口元が綻ぶ。〞

〝(この目に見つめられると、答えたくなる)〞
〝(でも、楽しみにしていて欲しいとも思うから…)〞

〝ルイ:秘密〞
〝ルイ:風船はいつか消えるから、残るものだよ〞
〝答えを隠して告げると、吉琳が目を瞬かせて……〞
〝吉琳:そっか、それじゃ寂しくないね〞
〝ただ楽しそうに笑って風船を見つめる吉琳に愛しさが込み上げた。〞

〝(……好きだな)〞

〝手を伸ばして髪を撫でると、吉琳は慌てたように声を上げる。〞
〝吉琳:ルイ……っ…人に見られるよ〞
〝ルイ:……それじゃ〞
〝ルイ:…こうする〞
〝風船を持つ吉琳の手を掴み、軽く引き寄せる。〞
〝吉琳:あ…〞
〝風船の影に隠れて、吉琳の下唇を柔く噛んだ。〞
〝吉琳:…っ…、…ん〞

〝(…こんな風に使う気、なかったけど)〞

〝音をたてて唇を離し、視線を重ねる。〞
〝ルイ:これ買って正解〞
〝吉琳:……馬鹿〞
〝ルイ:そうかも〞
〝頬を染めて顔を伏せる吉琳に微笑み、風船を持ったまま指を絡めた。〞
〝照れながら握り返される手の柔らかさと温もりに、そっと息をつく。〞

〝(君が好きで…)〞
〝(愛おしくて、仕方ない)〞

〝胸を満たす愛おしさを噛みしめるように、ぎゅっと手を握り返す。〞

〝(箱の中身を見た時、君が喜んでくれればいい…――)〞

吉琳:――そろそろ時間だね

(あ……)

吉琳の声に、意識を引き戻される。
ルイ:…うん。孤児院に行く準備、しようか
二人で空気を入れ終えたたくさんの風船を、一つに集めていく。

(こんなにたくさんの風船…初めて見る)

それぞれの風船に繋がれた紐を束ね、半分に分けて二人で持つ。
吉琳:よし、準備完了だね
支度が整うと、吉琳が空いた手を差し出してきた。
吉琳:行こう、ルイ
ルイ:うん
差し出された手を取ろうとした瞬間、
吉琳の指につけられた白い花の指輪が目に映る。

(…あの日、風船の中に隠して贈った指輪)
(風船が消えても、形に残るもの)

時間を止めたいと思うほどの大切な記憶も、
こうすれば形に残しておける気がする。
ルイ:…吉琳
差し出された手に自分の手を重ね、くいっと自分の方に引き寄せる。
吉琳:あっ…
揺れる風船の影で、あの時と同じように不意うちのキスをした。
吉琳:…っ、ん…

(…吉琳といると、時間を止めたいと思うことばかりだ)

けれど、そうできないこともわかっている。

(だから、一緒に過ごせる時間の一つ一つを…)
(大切にしていきたい)

そっと唇を離すと、間近で潤んだ瞳と視線が重なる。
吉琳:急に、どうして…

(…あの時と、同じだ)

やっぱり照れて顔を伏せる吉琳に笑みが浮かぶ。
ルイ:…今、君と遊園地に行った時のことを思い出して
ルイ:あの時みたいに、キスしたくなった
重ねた手に唇を寄せて、指輪をつけている指にもキスをする。

(城を出るまで…もう少し時間がある)

ルイ:もう一回…君にキスがしたい
吉琳:ルイ…
吉琳は赤い顔で目を瞬かせ、それからゆっくりと頷いた。
ルイ:吉琳…
目を閉じた吉琳へと顔を寄せて、
あの日と同じように下唇を軽く噛む。
吉琳:っ、ぁ……
こぼれる甘い吐息を閉じ込めるように、深く唇を重ねた。
吉琳:ん…っ、ぅん
繋いだ指にぎゅっと力が込められるのが、愛しい。

(このキスもきっとまた…)
(忘れられない思い出の一つになる)

キスに夢中になっていると、
互いにすがりつこうとする手から風船を繋いでいた紐が離れる。
吉琳:あ…風船が…
ふわふわと部屋に漂っていく風船に目を細め、
そっと吉琳の頬を両手で包む。
ルイ:…また後で、一緒に集めよう
吉琳:…うん
はにかむように笑う吉琳と、もう一度唇を触れ合わせる。

(…風船がしぼんでも、俺の気持ちがしぼむことはない)
(吉琳への想いは膨らんでいくばかりで)
(風船に閉じ込めておくことなんてできないくらい、大きいから…)

――…この気持ちを、ずっと大切に抱えていく。

そう思いながら愛しい人と指を絡め、
時間の許すかぎり何度も、優しいキスを重ねた…――

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《ジルのストーリーを読む》

 

――…心地いい風が木々を揺らす昼下がり
…………

(そろそろ吉琳と逢う約束をした時間ですが…)

公務を終えて自分の部屋に戻ると、テーブルに置かれた手紙に気づく。
ジル:これは…

――…あの場所で待ってます

見慣れた文字で綴られた言葉に、口元を緩める。
ジル:まったく、あの方は…
あの場所という言葉だけで、詳しい場所については記されていない。

(きっとすぐに私が居場所に気づくと知って、)
(こんなことをしているのでしょうね)

ジル:確か、最近のお気に入りは…――

***

(…やはり、ここでしたね)

吉琳は最近、ここで読書をするのが気に入っていると言っていた。

壁に背中を預けている吉琳に近づき、声をかける。
ジル:吉琳
吉琳:…………
ジル:……?
顔を上げようとしない吉琳を不思議に思い、顔を覗き込んだ。

(……眠っていたのですね)

そばにしゃがみ込んで、顔にかかる髪を指先でそっと避ける。

(この状況…恋人になる前のことを思い出しますね)
(あの時とは逆の状況ですが)

吉琳:ん……
その時、目を閉じたまま吉琳の唇が弧を描いた。
ジル:幸せそうな顔をして…どんな夢を見ているのです?
吉琳の寝顔を見つめながら、
初めて互いの唇に触れたあの日を思い出す。

〝――…考え事をするために時計台を訪れ、そのまままどろんでしまったある日〞
〝微かな靴音が聞こえ、浅い眠りの中にあった意識が揺り起こされる。〞
〝ジル:ん……っ〞
〝無意識にこぼした声に、誰かが息を呑む気配が伝わる。〞

〝(…誰かいる……?)〞

〝そう考えて真っ先に浮かんだのは吉琳の顔だった。〞

〝(もしそうだとしたら…このまま寝たふりをしてやり過ごさなければ)〞

〝眠る前まで考えていたのは、吉琳のことだ。〞
〝顔を見るたび、その声を聞くたびに募る想いに気づかされ、想いが溢れそうになる。〞
〝告げたい本当の想いが、喉元まで出かかってしまう。〞

〝(だからこそ…今はプリンセスと顔を合わせられない)〞

〝吉琳に向かう気持ちを抑えられない自覚がある分、〞
〝それを表に出さず隠し通せているか少し不安だった。〞

〝(こんな不安を抱えるのは私らしくない…そう思うのに)〞

〝吉琳を想う気持ちは、もうどうしようもないほど自分の中で大きくなっている。〞
〝その時、小さな声が聞こえた。〞
〝吉琳:…ジル〞

〝(…やっぱり、貴女だったのですね)〞

〝鼓膜を揺らす細い声にすら、胸の奥が甘く音を立てる。〞

〝(それでも…)〞

〝気づかないフリをして目を閉じていると、瞼に感じていた日差しが遮られ……〞

〝(……っ)〞

〝額に、柔らかな感触が触れた。〞

〝(今の、は……)〞

〝気配がそっと離れるより早く、自分の体が動いていた。〞
〝吉琳:っ…〞
〝ぐっと腕を引いて体勢を入れ替え、吉琳の体を床に倒す。〞
〝間近から、見開かれた瞳を覗き込んだ。〞
〝ジル:……プリンセス〞
〝吉琳:ジル〞
〝ジル:…今、何をなさっていたのです〞
〝吉琳:…っ…〞

〝(…こんなことを聞いて、どうするのでしょうね)〞
〝(知らないフリを貫いて、何もなかったように振る舞うべきだと…そう思うのに)〞

〝胸の奥に確かに灯る熱が、意思で抑えこむより先に言葉をこぼさせる。〞
〝ジル:今のキスの意味は…?〞
〝間近にある瞳が大きく揺れる。〞

〝(まったく…何を聞いているのでしょう)〞
〝(答えを聞きたい…けれど、聞いてはいけない)〞

〝わかっているのに、空気に溶けた言葉はもう取り戻せない。〞
〝その時、吉琳がためらいがちに口を開いた。〞
〝吉琳:……こういう意味、だよ〞
〝ジル:…っ…〞
〝腰を浮かせた吉琳から、唇に触れるだけのキスが送られる。〞
〝吉琳:…………〞

〝(……胸が苦しい、ですね)〞

〝病による痛みとは違う感覚に胸が支配されている。〞
〝それでも、離れる唇を追いたい衝動を必死で押さえ込んだ。〞
〝そしてほんの少し感じた温もりを辿るように、吉琳の唇を指でなぞる。〞
〝ジル:そう、ですか…ですが〞
〝ジル:私から、このキスのお返しをすることはできませんよ〞
〝ジル:それと…、貴女の気持ちにも、ね〞
〝吉琳:……どう、して?〞
〝ジル:教育係とプリンセスの恋愛は禁止されていますので〞

〝(ありもしない嘘の言葉を口にしてまで…)〞

(あの時の私は、あえて傷つける言葉を選んだ)

ずっとは吉琳のそばにいられない、そう思って突き放す言葉を口にした。

(けれど…いま私はこうして、吉琳のそばにいる)

これは背中を押し、支えてくれた吉琳がいたから得られた未来だ。
ジル:…吉琳
そっとキスをすると、吉琳がゆっくりと目を覚ます。
吉琳:ん……、ジル…?

(キスで目を覚ますなど、まるでおとぎ話ですね…)

ジル:誰かに悪い魔法でもかけられていたのですか?
吉琳:え…?
ジル:ああ、もしまだ目が覚めていないのなら
ジル:もう一度…魔法を解くキスをして差し上げますよ
吉琳:っ…ジル…
キスで目覚めたことに気づいたのか、吉琳の頰が赤く染まる。

(傷つけた過去の分だけ…いや、それ以上にたくさん)
(この方を、何より幸せにしたい)

取り戻せない時間の分だけ、幸せな時を一緒に刻んでいきたい。
愛する人の笑顔を守るため、その想いが今の自分を突き動かす。
その時、吉琳がきゅっと服の裾を掴んだ。
吉琳:…目は覚めたけど
吉琳:もう一度、キスして?
恥ずかしそうにしながら告げられた言葉に、胸が甘く疼く。
ジル:もちろんですよ

(貴女のお願いなら、何度でも…)

微笑を浮かべたまま、吉琳の唇に自分の唇を重ねる。
陽だまりのように温かな想いを伝えるように、
互いの熱をゆっくりと移していった…――

 

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()