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Christmas Trip~聖夜に誓う永遠の愛~(ジル)

白金

――…愛する彼と、クリスマス旅行に出かけたあなた
行き着いた先で待ち受けていたのは、予想外の出来事だった…――
………
吉琳:薄着だと風邪ひいちゃいそう…。
吉琳:マフラーと帽子も持ってくればよかったな
ジル:その必要はありませんよ
ジル:こうしてずっと抱きしめていれば、寒いということはないでしょうから
ジルと旅行先に向かう途中、列車のハプニングに見舞われたあなた…
その後も起こる数々の困難を乗り越え、
二人の愛は深まって…――
ジル:…まだ、体は冷えていますね
吉琳:ジルも…冷たいよ
ジル:では、
ジル:クリスマスの夜に貴女の温もりをプレゼントしてくださいませんか?
ジル:私も貴女に、とびきりのプレゼントを差し上げますから
………
キラキラと舞い散る雪の中で、今、最高に幸せな聖夜を迎える……
あなたは誰と、クリスマスを過ごす…?

 

*2022/12/5 新增後記

 

 

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プロローグ:

――…クリスマスも近いある日のこと
公務を終えた吉琳を部屋まで送り届けたアランとユーリは、
並んで廊下を歩いていた。
アラン:あいつ、今日は妙にそわそわしてたな
ユーリ:明日から旅行に出かけられますからね
アラン:ああ…クリスマス旅行だろ
ユーリ:はい、恋人と行くサプライズ旅行です!
アラン:サプライズ?
微かに眉を寄せたアランに、ユーリが首を傾げる。
ユーリ:あれ、アラン様は聞いてないんですか?
ユーリ:吉琳様のためにサプライズを用意してるって、あの方が張り切ってましたよ
アラン:…そういえば、聞いたかも
ユーリ:二人が帰って来たら、どんなクリスマスだったか聞いてみましょう!
ユーリがにっこりと笑うと、アランもふっと息をついた。
アラン:なんでお前が楽しそうなんだよ
ユーリ:吉琳様の幸せは、俺の幸せでもありますから
アラン:…ふうん
そんな会話を交わしながら、二人は廊下の奥へと進んでいく。
その頃、吉琳の部屋からは、楽しそうな鼻歌が聞こえてきた…――

 

どの彼と過ごす…?

官方預告圖

>>>ジルと過ごす

 

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第1話:

 

――…澄み渡る透明な空から雪が舞い降りる朝
私はジルと、クリスマス旅行の目的地へ向かうため列車に揺られていた。
吉琳:わあ、真っ白…!
車窓から雪で白く覆い尽くされた景色を眺めていると、
隣に座っていたジルも、私の後ろから窓を覗き込む。
ジル:ここまで雪が降るとは思いませんでしたね
ジル:パレードを見る時は、しっかり防寒対策をした方がよさそうです
吉琳:うん。薄着だと風邪ひいちゃいそう
今日は旅行先で、クリスマス前日に行われるパレードをジルと見ることになっている。

(楽しみだけど、寒いのはちょっと心配だな)

吉琳:マフラーと帽子も持ってくればよかったな
ジル:その必要はありませんよ
吉琳:え、どうして…?
振り向くと、ジルが悪戯っぽく微笑み、私の腰を抱き寄せる。
ジル:こうしてずっと抱きしめていれば、寒いということはないでしょうから
吉琳:…っ…確かにあったかいけど、恥ずかしいよ
ジル:そうですか? 名案だと思ったのですが
吉琳:パレードに集中できないから、だめ
ジル:それは残念です
ジルがくすりと笑って、私の頭に頬を寄せる。
優しい温もりに体を預けると、回された腕に力がこもった。

(それにしても、本当にジルとパレードを見に行けるとは思わなかったな…――)

――…クリスマス旅行に出かける、数週間前の夜

〝私は、公務の終わりにジルの部屋を訪れていた。〞
〝吉琳:今日、男爵夫人とお茶会をした時に、サンタクロースのパレードの話を聞いたんだ〞
〝ジル:ああ、郊外の街で行われる有名な行事のことですね〞
〝吉琳:ジルも知ってるの?〞
〝ジル:ええ。実際に見たことはありませんが…〞
〝ジル:クリスマス前日の夜に、〞
〝ジル:街の人たちがサンタクロースの格好に扮してパレードを行うのでしょう?〞
〝吉琳:うん、そうらしいね〞
〝町おこしの一環として始めた行事が、〞
〝いつの間にか文化として定着したのだと男爵夫人に聞いたことを思い出す。〞
〝吉琳:パレードの時は街がイルミネーションで彩られてすごく綺麗だって聞いたから〞
〝吉琳:一度見てみたいな…〞
〝ジル:でしたら、クリスマスの前後は予定を開けておくので、パレードを見に行きませんか?〞
〝吉琳:…っ、いいの?〞
〝ジル:もちろんです。貴女は普段、プリンセスとしてよく頑張っていますからね〞
〝ジル:ご褒美として、貴女の願いを叶えてさせてください〞

(きっと、スケジュールの調整をするのは大変だっただろうな…)
(ジルがどれだけ忙しいか知ってるから…こうして時間をとってくれただけですごく嬉しい)

吉琳:パレード、楽しみだね
ジル:ええ
視線を重ねて微笑み合った時、列車が突然激しく揺れて…――
吉琳:あ…っ
ジル:…っ、大丈夫ですか?
ぐらりと傾いた私の体を支えるように、ジルが腰に回した腕に力を込める。
吉琳:大丈夫…ありがとう、ジル
ジル:いえ、怪我がなくてよかったです

(あれ、ジルの体がいつもより熱いような…?)

背中を包む温もりに、ふと違和感を覚える。
不思議に思って、ジルの顔をじっと見つめると……
ジル:どうしました、吉琳?

(…!)

優しく細められた瞳がすっと近づき、唇を吐息が掠めていく。
突然のキスに驚き頬に熱を感じると、ジルはくすりと肩を揺らした。
ジル:貴女に見つめられたので、つい…
ジル:私の顔に何かついていますか?
吉琳:…っ、ううん、そういうわけじゃないよ
吉琳:ただちょっと、ジルの体が熱い気がして…
ジル:貴女ほど熱くはありませんよ?
吉琳:…私のは、ジルが原因でしょ
ジル:では、私も貴女が原因で熱くなっているのでしょうね

(ほんとかな…)

ジルがにこりと微笑んで、窓に視線を移す。
ジル:それより、列車に何かあったのでしょうか?
ジル:先ほどからスピードが落ちていますね
吉琳:うん、私も気になってた
話している間にも列車は徐々にスピードを緩め、ついには止まってしまう。

(この駅では止まらないはずなのに…)

ジル:…なんだか、嫌な予感がします
吉琳:…私も
顔を見合わせると、列車内にアナウンスが流れて…――

***

車内アナウンスに従い、私とジルは目的地とは違う駅で列車を降りた。
吉琳:まさか、途中で降ろされちゃうとは思わなかったな
ジル:この地域は雪が滅多に降らないので、列車の対策も不十分だったのでしょう
周囲を見渡すと、雪で冷えた駅には多くの乗客の姿がある。

(みんな、運転が再開するのを待ってるんだろうな…)
(でも、列車が動くかどうかはわからない)

ジル:困りましたね。パレードは今日の夜に行われますが…
ジル:列車が動かないとなると、他の交通手段を探す必要があります
吉琳:飛行機…はこの辺りに空港がないから無理だよね
吉琳:船もないし、車があればいいんだけど…
ジル:車ですか…
ジルがふと、思案げな顔をする。
吉琳:何かいい考えがあるの?
ジル:ええ。本当はあまり使いたくない手ですが…やむを得ません
深く息をついたジルが、懐から携帯電話を取り出した。
ジル:すみません…少し連絡して来ます
吉琳:連絡って、誰に…?
ジル:貴女も知っている人にですよ

***

――…ジルが電話をかけてから、数時間後
駅からカフェに移動してゆっくり時間を過ごした後、ジルは私を広場に連れてきた。
ジル:もうすぐ約束の時間なのですが…

(さっきジルが電話で話してた人と待ち合わせしてるのかな…?)
(結局、相手のことは教えてもらえなかったけど…誰が来るんだろう?)

ジルが周囲を見渡した時、一台の車が目の前に止まった。
吉琳:あれ、この車見覚えが…
ジル:気づきましたか
扉が開き、降りてきたのは……
クロード:二人とも、待たせたな。迎えに来たよ
吉琳:…っ、クロード!

(電話の相手はクロードだったんだ)

目を瞬かせる私に、ジルが苦い顔をする。
ジル:クロードも、私たちの旅行先に向かう予定があるのですよ
吉琳:そうだったの?
クロード:ああ。郊外に新しいアパレルブランドの店がオープンするんだが
クロード:そのオープニングセレモニーに参加する予定があってな
ジル:荷物が多く車で向かうと聞いていましたので、好都合かと思いまして

(それで、ジルはクロードに助けを求めたんだ)

ジル:貴方に借りを作るのは癪ですが、背に腹は変えられません
ジル:私たちも一緒に乗せて行ってください
不本意そうな顔をするジルに、クロードが楽しげな笑みを浮かべる。
クロード:わかってるよ。その代わり、例の件はちゃんとやってもらうからな

 

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第2話:

 

クロード:わかってるよ。その代わり、例の件はちゃんとやってもらうからな
吉琳:例の件…?
クロード:オープニングセレモニーのモデルだよ
吉琳:えっ

(ジルが…モデル?)

はっと振り向くと、ジルの唇から白い吐息がこぼれた。
ジル:セレモニーのために手配していたモデルが、この雪で来れなくなってしまったそうです
クロード:城で代理を探してた時に、ちょうどジルから電話がかかってきたんだよ
クロード:モデルでも何でもするから迎えに来てほしいってな
ジル:そんな甘えた言い方はしていませんよ
クロード:似たようなものだろ
ジル:全然違います。モデルを私がやる代わりに、車を出してほしいと交渉しただけです
クロード:細かい奴だな
クロードが楽しそうに肩をすくめ、私の方に向き直る。
クロード:お前たちの旅行の邪魔をするつもりはないが
クロード:クリスマスに一時間ほど、ジルを貸してくれないか?
吉琳:それは…ジルがいいなら…

(でも、私だけ何もしないのは申し訳ないな…)

吉琳:ねえ、クロード…私にも何か手伝えることはない?
クロード:手伝い?
吉琳:クロードにお礼しなくちゃなのは、ジルだけじゃないから

(出来ることがあれば、協力したい)

申し出ると、クロードが考えるように顎に手を添える。
クロード:お前も協力してくれるなら、ジルと一緒にモデルを…
ジル:それは却下です
吉琳:ジル…?
クロードの言葉の途中で、ジルが私の肩を抱き寄せて…――
ジル:貴女は…――着飾るとより美しくなりますから
ジル:その姿を他の男に見せたくはありません
吉琳:…っ

(そんな不意打ちが来るとは思わなかった…)

微かな独占欲を滲ませた眼差しに、ほんのりと頬が熱くなる。
クロード:…大変だな、吉琳も
クロード:モデルがだめなら、ジルを笑顔にする役目はどうだ?
吉琳:どういうこと…?
クロード:お前が目の届く範囲に入れば、ジルもいい表情をするだろうなと思ってな
クロード:オープニングセレモニーに来て、ジルの姿を見てやってくれ
吉琳:それが、私に出来る協力?
クロード:ああ。モデルを笑顔にするのは、お前にしか出来ない重要な役目だ
クロード:頼めるか?
吉琳:…わかった
頷くと、ジルが私の肩から手を離した。
ジル:私も、それでしたら異論はありません
クロード:それじゃ、交渉成立だな
クロードが私たちに背中を向けて、車のドアを開く。
クロード:二人とも、早く乗れよ

***

――…車に乗って、数時間後
私たちはようやく、宿泊する予定のホテルの前に辿り着いた。
ジル:吉琳、手を
吉琳:ありがとう
ジルのエスコートで車を降りると、
運転席から外に出たクロードが、ジルを手招きした。
クロード:ジル、少しいいか?
ジル:ええ
ジル:…すみません、貴女は先にホテルに入っていてください
吉琳:うん、わかった

(明日の打ち合わせでもするのかな?)

吉琳:クロード、ここまで連れてきてくれてありがとう
クロード:どういたしまして。明日はよろしくな
クロードに別れを告げて、私は一人ホテルに向かって歩き出した。

***

吉琳がホテルに向かったのを確認してから、クロードが懐から小さな包みを取り出す。
クロード:頼まれてたもの、持ってきたよ
ジル:ありがとうございます
クロードから受け取った袋を、ジルはそっと懐にしまった。
クロード:それと、ロベールから伝言だ
クロード:『薬で症状は抑えられても、すぐに体がよくなるわけじゃない。』
クロード:『出来る限り安静にしなさい』ってな
ジル:…………
クロード:お前、本当に大丈夫か?
ジル:…問題ありませんよ。こうして貴方と話せるくらいには元気です
クロード:それならいいが…
クロードが肩をすくめ、白い息をはき出す。
クロード:明日のモデルの件は、無理してまで出ろってわけじゃない
クロード:倒れて恋人に心配かけるなよ
ジル:ええ、わかっていますよ。ご心配ありがとうございます
ジル:…それでは、私もこれで
吉琳の待つホテルに向かって歩き出したジルに、
クロードはひそかに眉を寄せた。

***

ホテルのチェックインを済ませ、私たちは用意された部屋に入った。
吉琳:いい眺めだね
ジルと窓から景色を眺めると、イルミネーションに彩られた街並みが視界を埋め尽くす。

(綺麗…)

ジル:路上にも人が集まり始めていますし、パレードの時間が近いのかもしれませんね
吉琳:うん。ジル、そろそろ街に出ようか
ジル:そうですね…
ジル:――…っ
窓から離れようとすると、隣にいたジルが突然体をよろめかせて…――
吉琳:ジル…!?
とっさに抱き止めようとしたけれど支えきれず、
二人で床に倒れ込んでしまう。
ジル:…っ、すみません、怪我は…?
吉琳:大丈夫…ジルが抱え込んでくれたから、どこも打ってないよ
吉琳:ジルこそ大丈夫?
ジル:ええ…少しつまずいてしまっただけですので
吉琳:そんな風には見えなかったよ

(つまずいただけだなんて、絶対うそだ…)

体を起こそうとしたジルの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
ジル:吉琳…?

(列車でも感じたけど、やっぱりジルの体がいつもより熱い気がする…)

体を少しだけ起こし、ジルの両頬を手で挟んだ。
吉琳:やっぱり…熱があるよね
手のひらに伝わる熱は、明らかに異常だ。
ジル:…それは、貴女との距離が近いからですよ
吉琳:ジル
少しだけ咎めるように言葉を重ねると、ジルは諦めたように息をつく。
ジル:…確かに熱はありますが、そう心配していただくほどのものではありません
吉琳:…っ、具合が悪いなら素直に認めて

(きっとジルは、私のために無理してる)
(でも…)

吉琳:私の一番大切なものは、ジルなんだよ
ジル:…………
吉琳:無理なんかしてほしくない
ジルをじっと見つめると、目の前の表情が次第に苦い笑みに変わっていった。
ジル:…参りましたね

(私の言葉、届いたのかな…?)

体を起こしたジルが、私をそっと抱き寄せる。
ジル:ロベール殿の薬があるので、それを飲めばすぐに治ると思います
吉琳:そっか…それならよかった
ジル:ですが、パレードが…――
続く言葉は、外から響いた大歓声によって途切れた。

(なんだろう?)

二人同時に窓を覗くと、外ではサンタクロースの衣装を着た人たちの行進が始まっていた。
吉琳:わあ、パレードってほんとにサンタさんが行進するんだ…
賑わう街並みに笑みを浮かべると、ジルが申し訳なさそうに目を伏せる。
ジル:パレード…楽しみにしていたのに、近くで見なくていいのですか?
吉琳:うん。私一人が楽しんでも、ジルとの思い出にはならないでしょ?
吉琳:それに、パレードがあってもなくても、一緒にクリスマスを過ごせるだけで十分楽しいよ
ジル:吉琳…
吉琳:だから、無理はしないで

(本心だから、気にしてほしくないんだけどな)

少しでも元気に出来たらとうつむき加減の額にキスを落とすと、
ジルが弱々しく微笑み、私の肩に頭を乗せた。
ジル:…貴女は、本当に優しいですね
吉琳:ジルほどじゃないと思う

(具合が悪いのを隠してまで私を喜ばせようとしてくれて…)
(ジルほど優しい人はいないよ)

少しだけ苦しそうなジルを抱きしめると、
楽しげなパレードの音が、より大きくなったような気がした。

***

――…数時間後

(ジル…薬が効いてきたみたい)

ベッドで穏やかな寝息を立てているジルから顔を逸らし、
部屋の片隅に置いていたトランクからリボンを結んだ包みを取り出した。

(クリスマスにジルに渡そうって用意してたけど…)
(せっかくなら、サンタクロースが来たみたいにして驚かせたいな)

音を立てないよう慎重にジルに忍び寄ると、突然手を掴まれて…――
ジル:…ん…吉琳?

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

ベッドで穏やかな寝息を立てているジルから顔を逸らし、
部屋の片隅に置いていたトランクからリボンを結んだ包みを取り出した。

(クリスマスにジルに渡そうって用意してたけど…)
(せっかくなら、サンタクロースが来たみたいにして驚かせたいな)

音を立てないよう慎重にジルに忍び寄ると、突然手を掴まれて……
ジル:…ん…吉琳?
吉琳:……っ

(起こしちゃった…?)

息を呑んでその場に固まっていると、ジルの手が力なく落ちていく。
ジル:…………

(…寝言だったのかな、よかった…)

ほっと胸をなで下ろし、ジルの枕元にプレゼントを置く。

(明日のジルの反応が楽しみだな)

***

――…翌朝
瞼の裏に光を感じて目を開くと、ジルの顔がすぐそこにあった。
ジル:ああ…起きたのですね。おはようございます、吉琳
吉琳:…っ、え……

(あ、れ…私、ソファーで眠ってたはずなのに…)

体がシーツに沈んでいることに気づき、目を瞬かせる。
そんな私に、ベッドの縁に座っていたジルはくすりと笑った。
吉琳:私、どうしてベッドに…
ジル:ソファーで眠っているようでしたので、こちらに運びました
ジル:寝込んでいた私に気を遣ってくださったのですよね…ありがとうございます
吉琳:ううん。ジルこそ、運んでくれてありがとう
お礼を告げると大きな手に髪を撫でられ、その心地よさに目を閉じてしまいそうになる。

(あれ…ジルの手が熱くない)

吉琳:具合はよくなったの?
ジル:ええ。貴女が看病してくださったおかげで元気になりました
吉琳:そっか…安心した

(ロベールさんの薬がちゃんと効いてよかったな)

ゆっくりと体を起こしジルと向き合うと、礼服姿が目に飛び込んだ。
吉琳:ところで…ジルはどうして礼服を着てるの?
ジル:クロードに、この服でお店に来るよう渡されたのですよ
ジル:これも、彼がデザインした服の一つですから
吉琳:あ、そうだったね。オープニングセレモニーの宣伝に使うのかな?
ジル:おそらくは
指先で首元を軽く緩めたジルに、少しだけドキリとする。
吉琳:久しぶりに礼服姿を見たけど、やっぱりかっこいいね。よく似合ってる

(いつも素敵だけど、礼服姿だと印象が違うな)

見惚れていると、ジルが私の頬に手を添えて……
ジル:そう言われると、こういうことをしたくなってしまいますね
悪戯っぽい笑みを刻んだ唇が近づき、触れるだけのキスを額に落とされる。
吉琳:…ん……ジル、くすぐったい…
頬へと滑る優しいキスを受け止めながらジルの胸元に手を添えると、
服越しに不自然に膨らんだ感触を捉えた。
吉琳:……?
ジル:ああ、これは…
顔を離したジルが、見覚えのある手袋を懐から取り出す。
吉琳:あっ…

(それ…私が枕元に置いたプレゼントだ)

猫のシルエットが入った少し厚手の手袋を、ジルは大切そうにシーツの上に置いた。
ジル:まさか、私のもとにサンタクロースが来てくださるとは思いませんでした
吉琳:ジルがいつも頑張ってるの、きっと見てくれてたんだよ
ジル:それはまた、可愛らしいサンタクロースですね
ジル:お礼をしたいのですが、どうすればいいでしょうか…?
吉琳:ジルが喜んでくれれば、サンタさんもそれで満足なんじゃないかな?

(ジルが嬉しそうだから…私も嬉しい)

言葉にしたのは本心だったけれど、ジルは少し困った顔をした。
ジル:優しいサンタクロースはそう言ってくださるかもしれませんが…
ジル:それでは私の気が済みません
吉琳:え……
肩を軽く押され、シーツに逆戻りした体をジルが腕で囲って…――
ジル:吉琳…素敵なプレゼントをありがとうございます
吉琳:…っん
包み込むように唇を塞がれ、ゆっくりと優しい温もりが広がっていく。

(ジル…)

繰り返されるキスがくすぐったくて微かに体をよじると、
ふと指先に、シーツではない何かが触れた。
吉琳:…っ…これは…?
唇が離れ、指先に視線を向けると、
そこには綺麗にラッピングされた小さな箱が置いてあった。
ジル:貴女のことも、サンタクロースはよく見ていたようですね

(まさか、ジルもプレゼントを…?)

ジル:開けてみてはいかがですか?
吉琳:う、うん…
体を起こし、ラッピングされた箱を開けると、
中からアメジストが連なってできた繊細な装飾のブレスレットが現れた。
吉琳:綺麗…
ジル:気に入って頂けましたか?
吉琳:もちろんだよ! ありがとう、ジル

(旅行前は忙しそうだったから、用意する時間なんてなかったはずなのに…)
(それでも私を喜ばせようとしてくれたジルの気持ちが…すごく嬉しい)

朝の陽差しを受けてキラキラと輝くブレスレットを箱から出すと、
それをジルが私の手から取り上げる。
ジル:私がつけてもいいですか?
吉琳:うん
頷くと、ジルが器用に金具を外し、私の手につけてくれる。
ジル:よくお似合いですね
そのまま手を持ち上げると、恭しく唇を寄せた。

(…っ…礼服姿でこういうことされると、本物の王子様みたい)

頬が熱くなるのを感じていると、手を離したジルがふと苦笑する。
ジル:それにしても…今回の旅行は計画通りに行かないことばかりですね
ジル:列車の件も体調もそうですが…プレゼントまで貴女に先を越されるとは思いませんでした
ジル:貴女を驚かせようと用意していたのに…先に私の方が驚いてしまいましたからね

(そうだったんだ。でも…)

吉琳:そういうのすべて含めて、いい思い出になったよ

(楽しい思い出が、また一つ増えた)

ジルの手をぎゅっと握ると、苦い表情が淡い笑みに変わる。
ジル:…ありがとうございます、吉琳
ジル:私は、こんなにも素敵な恋人を持てて幸せ者ですね
優しく細められた瞳が、何よりのクリスマスプレゼントだと思った。

***

――…数時間後
クロードの手伝いを終えたジルと一緒に、私はホテルまでの道を歩いていた。
吉琳:…ジル、疲れてる?
ジル:ええ、精神的に少しだけ
朝よりも声に覇気のないジルが、白い息を長くはき出す。

(モデルだけじゃなくて、即席のファッションショーまであったから大変だっただろうな)

吉琳:でも、色々な衣装を着たジルを見られて嬉しかったな

(どの服を着ても本物のモデルみたいに着こなすところが、かっこよかった)

ジル:…………
吉琳:ジル?
ふいに足を止めたジルを不思議に思い振り返ると、
寒さで赤くなった指先をぎゅっと握られて…――
ジル:貴女にそう言われると、クロードに文句のつけようがありませんね
吉琳:あ…
握られた手は、そのままジルのズボンのポケットに収められてしまう。
吉琳:あの…
ジル:指先がかなり赤くなっていましたから…こうすれば少しは温かいでしょう?

(気づいてくれたんだ…)

吉琳:うん…ありがとう
絡められた指先に鼓動が高鳴るのを感じると、
ジルがふと灰色の空を仰いだ。
ジル:それにしても、雪の勢いが増していますね
吉琳:風邪引いちゃう前に、早くホテルに戻ろう
ジル:ええ
舞うだけの粉雪はやがて街を覆い尽くす勢いとなり、
私たちは急いでホテルに戻った。

***

お互いに体にかかった雪を払い落としながら、
暖房の風が当たるところに足を運ぶ。
吉琳:部屋の中、少し寒いね
ジル:すみません…部屋の暖房を点けておくようホテルに連絡しておくべきでした
吉琳:ううん、きっとすぐに暖かくなるよ

(でも、その前にジルの具合がまた悪くなっちゃうのは嫌だな)
(どうにかして冷えた体を温めてあげられたらいいんだけど…――)

〝ジル:こうして貴女をずっと抱きしめていれば、寒いということはないでしょうから〞

(――…そうだ!)

列車内でのジルの言葉を思い出し、恥ずかしさを忍んで冷たい体を抱きしめる。
ジル:吉琳…?
吉琳:こうすれば、お互い体が温かくなるかなと思って…
ぴたりと体をくっつけると、強い力で抱きしめ返された。
ジル:ありがとうございます
ジル:ですが、体で温めてくださるなら、抱きしめる以外にも方法があるでしょう…?
吉琳:…っ…どんな方法?
吐息混じりの囁きに鼓動が波打った瞬間、頬に添えられた手に顔を上げられて……
ジル:こうするのですよ
吉琳:…ん…っ
吐息の逃げ場すらないほど深いキスに、ただ目の前の体にすがりついた。

(っ…こんなキスされたら、立っていられなくなりそう…)

吉琳:ぁ…ジ、ル……
ジル:…まだ、体は冷えていますね
体温を確かめるように背中をなで上げられ、甘い痺れに指先に力を込めた。
吉琳:ジルも…冷たいよ
ジル:では、クリスマスの夜に貴女の温もりをプレゼントしてくださいませんか?

(あ…っ)

艶めいた笑みを浮かべたジルが私を抱き上げ、優しい手つきでベッドに降ろして…――
ジル:私も貴女に、とびきりのプレゼントを差し上げますから


fin.

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:

 

ベッドで穏やかな寝息を立てているジルから顔を逸らし、
部屋の片隅に置いていたトランクからリボンを結んだ包みを取り出した。

(クリスマスにジルに渡そうって用意してたけど…)
(せっかくなら、サンタクロースが来たみたいにして驚かせたいな)

音を立てないよう慎重にジルに忍び寄ると、突然手を掴まれて……
ジル:…ん…吉琳?
吉琳:…!
閉じられていた瞼が、うっすらと開かれた。
ジル:…何をしているんですか?

(起きてたんだ…)

反射的に、プレゼントを背中に隠す。
吉琳:ええと…その……
ジル:今、何か隠しましたね…?

(これはもう、ごまかすのは無理かな…)

体を起こしたジルと向き合い、隠すことを諦めてプレゼントを差し出す。
吉琳:本当はサンタクロースのように、ジルが眠っている間に枕元へ置きたかったんだけど…
突然にプレゼントに、ジルは微かに目を見開いた。
ジル:…私は起きなかった方がよかったですね
吉琳:ううん、いいの。サプライズは失敗しちゃったけど、開けてみて
ジル:ありがとうございます、吉琳
手渡した小包をジルが丁寧に開いていくと、
中から厚手の手袋が姿を現す。
吉琳:ジルって、室内用の薄い手袋はよくしてるけど、厚い手袋は持ってないでしょ?
ジル:ええ…よく見ていますね
ジル:この猫のワンポイントはミケランジェロですか?
吉琳:うん。ジルといえばミケランジェロだから、猫の手袋にしたんだ
ジル:なるほど…可愛らしいですね
手袋を手に取り嬉しそうに微笑むジルに、ほっと息をつく。

(気に入ってくれたみたい)

吉琳:また熱が出ないように、外に出る時は防寒をしっかりしてね
ジル:貴女の言う通りなのですが…
ジル:本当は、貴女をずっと抱きしめていることが一番の防寒対策ですよ
吉琳:…っ
手袋をそばに置いたジルが、私の腰を抱き寄せ膝の上に乗せる。
ジル:貴女はいつも温かいですからね
吉琳:…っ…でも、ずっと抱きしめられてたら困るよ
ジル:それもそうですね
くすくすと笑うジルの吐息がくすぐったくて体を動かすと、
自然と手が重なった。

(あれ? ジルの体、そんなに熱くないような…)

吉琳:ねえ、ジル。もしかして…熱下がってる?
そっと手を伸ばし額に触れると、ジルは穏やかに目を細めた。
ジル:ええ。貴女の看病と薬のおかげです
吉琳:よかった…でもまだ無理はしないでね
ジル:では、無理をしない範囲で貴女にお礼をしたのですが…

(え…)

額に添えていた手を優しく掴まれ、ジルの瞳が近づいて…――
ジル:貴女の望みを教えてください
吐息がもどかしいほど淡く肌を掠め、胸の奥で小さな音が鳴る。

(お礼なんて、いいのに…)

真っ直ぐに見つめられると、何もないと言うのもためらわれて……
吉琳:それじゃ…キスしてほしい、かな
ジル:…可愛らしいお願いですね
ふっと笑みをこぼしたジルが、優しく唇を重ねる。
吉琳:ん…っ……、ぁ
穏やかな温もりに包まれながら、少しずつ深まるキスを受け止めていった…――

***

――…翌日の、クリスマス当日
クロードのお店のオープニングセレモニーには、多くの人たちが集まっていた。

(こんなに人が集まるとは思わなかったな…)

報道陣や集まった観客にクロードがお店の説明をし、
隣で礼服を着たジルが笑顔を絶やさず手を振っている。
女性1:ねえ、あれって…王宮のジル様よね?
女性2:嘘…っ、どうしてジル様がモデルを?
女性1:わからないけど、立ち振舞いが綺麗で素敵ね

(…その気持ち、わかるな)

離れた場所で二人を見守りながら、周りの声に小さく頷く。

(即席のモデルとは思えないほどすごく素敵だし)

ぼうっと見惚れていると、クロードとジルの唇が小さく動いていることに気づいた。

(二人とも、何を話してるんだろう…?)

***

ジル:まさか、私が貴方の仕事をこのような形で手伝う日が来るとは思いませんでした
クロード:俺もだよ。最高に楽しいな
ジル:…私は最悪な気分ですが
クロード:笑顔は絶やすなよ。あそこで吉琳も見てるからな?
ジル:わかっていますよ
吉琳と目が合いジルが微笑むと、何度目になるかわからない歓声が上がる。
クロード:お前はほんとに客受けがいいな
クロード:次はファッションショーに出てみないか?
ジル:お断りします
クロード:つれないな。…でも、吉琳のためになる条件なら引き受けるだろ?
ジル:…それは卑怯ですよ
クロード:笑顔で低い声出すな、冗談だ
クロードが肩をすくめ、不敵な笑みを浮かべる。
クロード:後でいいもの用意しとくから、そのまま笑みは絶やすなよ
ジル:いいものとは何ですか?
クロード:終わってからのお楽しみだ

***

――…その後、オープニングセレモニーは無事終わり、迎えた夜
私とジルは、街のイルミネーションがよく見えるレストランを訪れた。
吉琳:クリスマスなのに、よく予約が取れたね

(ここ、テレビで見たことあるくらいの有名店なのに…)

テーブルを挟んで向かいに座っているジルが、ふっと微笑む。
ジル:クロードの知人が経営しているようですよ
ジル:今日の報酬と、貴女に対する迷惑料ということで、席を用意してくださったそうです
吉琳:そうなんだ…また今度、クロードにお礼言わなくちゃね
ジル:…癪ですが、そうですね

(あ、悔しいって顔してる…)

眉を寄せるジルが可笑しくてひそかに肩を揺らしながら、
もう一度窓の向こうに視線を移す。
吉琳:ホテルから見る景色もだけど、ここからの夜景もすごく綺麗だね

(クリスマスにしか見られない、特別なものって感じがする)

粉雪を淡く照らすイルミネーションに頬を緩めると、
ふいにテーブルの上に置いていた手にジルの手が重ねられて…――
ジル:今気づいたのですが、早速つけてくださっているのですね
吉琳:あ…ブレスレットのこと?
ジル:ええ
アメジストが連なってできた上品なデザインのブレスレットを、
ジルが指先で軽くなぞる。
ジル:よくお似合いですよ
吉琳:ありがとう。ジルのセンスがいいおかげだね

(何度見ても、素敵なクリスマスプレゼントだな)

キラキラと輝くブレスレットを眺めながら、今朝のことを思い出す。

〝吉琳:ねえ、ジル…朝起きたら、枕元にプレゼントが置いてあったんだけど…〞
〝ジル:ああ…貴女のもとにサンタクロースが来たみたいですね〞
〝吉琳:まさか、大人になってサンタさんが来てくれるとは思わなかったよ〞
〝ジル:驚きましたか?〞
〝吉琳:すごく…でも、嬉しかった〞
〝吉琳:プレゼントをありがとう、ジル…――じゃなくて、サンタさん〞

(ジルはきっと、私を喜ばせようとしてくれたんだよね)
(私がジルに喜んでもらいたくてプレゼントを用意したのと同じように…)

愛しい想いが膨れるのを感じていると、ジルが私の指をそっと持ち上げて……
ジル:吉琳、来年もまた、貴女のクリスマスの時間を私にくださいませんか?
吉琳:あっ…
甘い囁きとともに手の甲にキスを落とされ、鼓動がドキリと音を立てる。
ジル:今年は想定外のハプニングが多かったですから
ジル:来年こそは、貴女を完璧にエスコートさせてください

(たしかに、今回のクリスマス旅行はハプニングだらけだったけど)
(それらも含めてすべてが素敵な思い出になったんだけどな)

けれどその想いは伝えず、柔らかく微笑む。
吉琳:ありがとう、ジル。楽しみにしてるね
ジル:ええ、期待していてください

(来年もジルとクリスマスを一緒に過ごしたいから…)

運ばれてきたクリスマスディナーを一緒に楽しみながら、
紡がれていく幸せな未来の予感に、胸をときめかせた…――


fin.

 

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エピローグEpilogue:

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――……旅行のハプニングを乗り越え迎えた、クリスマスの夜
一年に一度の特別な日に、彼との甘い時間が紡がれていく…
吉琳:…ぁ、だめ…、足…っ
ジル:貴女は、ここに触れるとすぐ温かくなるでしょう…?
裾をめくって奥へと進んでいくジルの指が、閉じていた足をそっと押し開いて…
ジル:吉琳、そんなに強くシーツを握ると、指に傷がついてしまいますよ
ジル:力を込めるのでしたら、シーツではなく私の手にしてくださいませんか?
聖なる夜に誓う愛は、永遠に終わらない…――

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――…聖夜を彩るキャンドルが、街並みを淡く照らし出す幻想的な夜
ジル 「体で温めてくださるなら、抱きしめる以外にも方法があるでしょう…?」
吉琳 「…っ…どんな方法?」
吐息混じりの囁きに鼓動が波打った瞬間、頬に添えられた手に顔を上げられて……
ジル 「こうするのですよ」
吉琳 「…ん…っ」
吐息の逃げ場すらないほど深いキスに、ただ目の前の体にすがりついた。

(っ…こんなキスされたら、立っていられなくなりそう…)

吉琳 「ぁ…ジ、ル……」
声をこぼすと、ジルがわざとらしく音を立ててそっと唇を離す。
ジル 「…まだ、体は冷えていますね」
体温を確かめるように背中をなで上げられ、甘い痺れに指先に力を込めた。
吉琳 「ジルも…冷たいよ」
ジル 「では、クリスマスの夜に貴女の温もりをプレゼントしてくださいませんか?」

(あ…っ)

艶めいた笑みを浮かべたジルが私を抱き上げ、優しい手つきでベッドに降ろして……
ジル 「私も貴女に、とびきりのプレゼントを差し上げますから」
吉琳 「…っ……ん」
ひんやりとした指先が、足の輪郭を確かめるように肌を滑っていく。
吉琳 「待って…っ…これじゃ、私の方が熱くなる…」
ジル 「それでいいんですよ」
ジル 「温かくなった貴女を抱きしめれば、私も寒さが和らぎますから」
ワンピースの裾をめくって奥へと進んでいく指が、
閉じていた足をそっと押し開いた。
吉琳 「…ぁ、だめ…、足…っ」
ジル 「貴女は、ここに触れるとすぐ温かくなるでしょう…?」
ジルが私の足首からふくらはぎを撫でながら、太ももに淡いキスを落とす。
込み上げる恥ずかしさにきゅっとシーツを握りしめると、
少し咎めるように肌を吸い上げられた。
吉琳 「ふ…っ、ぁ…」
ジル 「吉琳、そんなに強くシーツを握ると、指に傷がついてしまいますよ」
吉琳 「っ…そんなこと、言われても…」
ジル 「力を込めるのでしたら、シーツではなく私の手にしてくださいませんか?」
ジルが器用にシーツから私の手を離させ、指を絡め取る。

(……温かい)

軽く握り返すと手首につけていたアメジストのブレスレットが揺れ、
ジルの瞳が柔らかく細められた。
ジル 「私が贈ったものを貴女が身につけてくださっているのは、やはり嬉しいものですね」
吉琳 「あ…」
ジルが手首を軽く持ち上げ、そこに唇を押し当てる。
ジル 「…もっとも、贈ったのは私ではなくサンタクロースですが」
吉琳 「どっちでも同じだよ」

(大人になった今、)
(枕元にプレゼントを置いてくれるのはジルしかいない)

微笑むと、ジルも淡い笑みを返して再び私の足に手を添える。
ジル 「貴女は、幼い頃にサンタクロースからプレゼントをもらったことがありますか?」
吉琳 「…っ…うん、ジルは…?」
ジル 「一度もありません。目が覚めた時、枕元にプレゼントがあったのは初めてですよ」
吉琳 「そうなんだね。…嬉しかった?」
ジル 「ええ。サンタを待ちわびる子どもの気持ちを初めて理解しました」
吉琳 「…ぁっ……」
足の奥に進んだ指が敏感な場所を引っかき、びくりと背中が跳ねる。
ジル 「来年も、再来年も…自分を喜ばせようとしてくれる人にそばにいてもらいたい」
ジル 「大人になって初めて、サンタクロースもいいものだと思いましたよ」
吉琳 「ふ…っ……ジル…」
体の奥から溢れ出す熱に息をつくと、
ワンピースの下でランジェリーが脱がされていった。
ジル 「少し子どもっぽいでしょうか…?」
素肌に直接触れられ、
こぼれそうになる声を必死に抑えながら首を横に振る。

(…っ…昔はもらってばかりだったけど、)
(渡す側になって初めて気づいた)
(サンタクロースの正体は、)
(その人を笑顔にしたいと思う気持ちそのものなんだ)

吉琳 「…っ…私も、ジルと同じ…」
吉琳 「子どもの頃よりずっと、サンタさんがいてくれることを嬉しいって思うよ」
乱れた息の合間に囁くように告げると、
ジルが幸せそうに微笑み、唇にキスを落とした。
吉琳 「ん、ぁ……っ」
甘いキスは徐々に深さを増し、体の中心に疼くような熱が灯されていく。
ジル 「…だいぶ、体が温まってきましたね」
吉琳 「っ…温かいを越えて、熱いよ…」

(それに…ジルの手も、私と同じくらい熱い)

ジル 「本当ですね。…今の貴女は、寒い夜にはとても抱き心地がよさそうです」
ジルが私の肩からワンピースを落とし、礼服を脱いでいく。
それから素肌を重ねられ、お互いの熱が混ざり合った。
ジル 「素敵なプレゼントをありがとうございます、吉琳」
吉琳 「…ジルこそ……」

(この温もりを、ずっと離したくないな)

降り積もる雪も溶けそうなほど、
甘いクリスマスの夜が更けていった…――

***

――…翌朝
私とジルは、運転を再開した列車に乗ってお城に戻っていた。
ジル 「…クリスマス旅行もこれで終わりだと思うと、名残惜しいですね」
吉琳 「そうだね。でもまた来年もあるし…、あっ」
車窓から景色を眺めようとした時、列車が突然大きく揺れる。
大きく傾いた私の体を、ジルがしっかりと抱きとめてくれた。
ジル 「大丈夫ですか?」
吉琳 「うん…ありがとう」
ジル 「それにしても、また何か問題があったのでしょうか…?」
吉琳 「そうだったら、どうしよう」

(しばらくお城に帰れないかもしれない…)

ジルと顔を見合わせて、同時にふっと笑みをこぼす。
ジル 「本当に…ハプニングだらけの旅行ですね」
吉琳 「でも、こういうのも悪くないよ」

(一つひとつの出来事が、)
(ジルとの大切な思い出に変わっていって)
(その積み重ねが、)
(来年もジルの笑顔を見たいって想いに繋がるから…)

一緒に過ごす時の中で感じる喜びは、
ひとひらの粉雪のように、
優しく折り重なっていくような気がした…――

 

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