◆シンデレラガチャ◆(ルイ◆ガチャシート

路易

彼目線のサイドストーリー

 

【本編】

◆恋の予感(恋のよかん)《秘めた願い》

◇恋の芽生え(恋のめばえ)《熱情》 --缺

◆恋の行方(恋のゆくえ)〜Sugar〜《ふたりだけの世界》 

◇恋の行方(恋のゆくえ)〜Honey〜《愛》 --缺

◆恋の行方(恋のゆくえ)~secret〜《ひとりじめ》

 

【続編】

◆愛の続き《君を守りたい》

◇愛のカタチ~プリティ〜《信頼》

◆愛のカタチ~ロイヤル〜《瞬間》

 

 

 

 

【本編シート】

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恋の予感『秘めた願い』

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湯あがり姿のまま、こんな場所まで追いかけてくる沐沐に、
ルイは思わず、苦く笑った。
ルイ 「…濡れた髪のまま出歩くのは、感心しないよ」
飾る事を知らない沐沐の姿に、気がつくと目を奪われている。
自覚したのは、いつだっただろう。

(…こんな気持ち、気が付かない方が、よかった)

沐沐 「ルイ…大丈夫?」
沐沐は心配そうに、きゅっと眉を寄せてこちらを見ている。
ルイ 「…どうして?」
沐沐 「…つらそうに見えるから」

(どれだけ冷たく突き放しても…)
(…君は、そうやって、境界線を超えてくる)

ルイ 「……そう」
それ以上深く踏み込まれないように、ルイは目をそむけた。

(……これ以上、君に近づいたら、きっと、戻れなくなる)

沐沐はルイの無言の拒絶を察したのか、
わざとらしい明るい声で、話題を変えた。
沐沐 「初めて見たけど…お城から見る街って、こんなに綺麗なんだね」
遠く街を眺める沐沐の横顔に、視線を送る。
その横顔には、憂いなどまるでないように見えた。

(どうして…そんな顔ができるんだろう)

沐沐の視線を追って、温かな灯りのともる街を眺める。
ルイ 「帰りたくはならないの?」
無意識に、そんな言葉が口をついて出た。
沐沐 「え?」
ルイ 「…あそこには、君の居場所がまだあるのに 」

(…この城へ、花を探しに来た君が)
(突然、プリンセスに指名されて…不安じゃないはずがないのに)
(…逃げ出したいと、一度も言わないのは…何故?)

沐沐 「懐かしく思うことはあるけど…」
沐沐は、少し考え込むように目を伏せて、
次に顔を上げた瞬間には、あたたかな笑みを浮かべていた。
沐沐 「…私はみんなを安心させてあげたいから」
沐沐 「私にしかできないなら、ちゃんと役目を果たしたい」

(…っ)

その微笑みに、心臓が、一瞬、大きく跳ねた。

(……ああ、駄目だ)

その微笑みから、目が逸らせない。

(俺は…)
(俺は、君のその、真っ直ぐな強さに…どうしようもなく)
(惹かれてる……)

自分にない、そのひたむきさが眩しくて、目を細める。
ルイ 「君は、強いね…」
ルイ 「…俺は、まだまだ子どもみたいだ」

(俺は、『ルイ=ハワード』として、何をするべきなのか…)
(…何がしたいのかも、まだわからないままだ)

自分の弱さが嫌になって、自嘲めいた笑みが浮かぶ。
沐沐 「…ルイ…?」
沐沐は微笑みを消して、今度は不安げな眼差しを向けてくる。

(沐沐に、こんな顔ばかりさせてるな…俺は)

もっと色んな顔が見たいと、思ってしまう。
もっと、笑っていて欲しいと思う。
けれど、

(…君を笑顔にするのは、俺の役割じゃない)
(俺であっては、いけない)

心の中で、強く自分に言い聞かせてから、
沐沐の側へ歩み寄り、しまっていた贈り物を、そっと取り出した。
沐沐 「…な…なに?」
ルイ 「じっとしてて」
戸惑う沐沐の首の後ろに、ゆっくりと手を回すと、
沐沐との距離がぐっと近づく。
洗いたての髪がふわりと香って、胸がざわついた。

(…これが、俺が君に贈る、最初で最後の贈り物だよ)

沐沐の首元で、白い花のネックレスが揺れる。

(明日のセレモニーが終われば…)
(もう、俺が君に関わることもない)

そう思うと、胸の奥が微かに痛んだ。
沐沐 「ルイ…?」
これは何、と言いたげな眼差しに、答えに詰まり、
ルイ 「……ご褒美」
とっさに、そう呟いていた。
沐沐 「もしかして、レッスンのご褒美ってこと…?」
沐沐が、不思議そうに見上げてくる。

(…違う)
(俺が、これを君に贈りたかったのは…)
(レッスンを頑張ったから、なんかじゃ…ない)

ルイ 「……」
吸い込まれそうな沐沐の瞳に、すべて伝えてしまいたくなる。

(俺は、君に……)
(…忘れて欲しくないんだ)

例えまた他人になっても、沐沐が、他の人を選んだとしても…。

(俺のことを…)

沐沐 「…!」
ほとんど無意識に顔を近づけていたことに、
沐沐がぎゅっと目をつむったことで気が付き、はっとする。

(俺は…何を……)

保っていた一線を、自分から越えようとしていたことに気がついて、
少し混乱しながら、沐沐から離れ、背を向ける。
ルイ 「…部屋まで、送るよ」
背後で、沐沐が戸惑っているのがわかる。
けれど、今振り返ったら、また同じ過ちを繰り返してしまいそうで、
ルイ 「早く」
そっけなく、そう言うことしかできなかった。
沐沐 「う、うん…」
沐沐 「ネックレス、ありがとう…」
ためらいながら、沐沐が口にしたその言葉を、
嬉しいと感じる自分に、蓋をして、
ルイは、時計塔をあとにした。

 

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恋の芽生え『熱情』

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恋の行方〜Sugar〜『ふたりだけの世界』

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長い螺旋階段の駆け上がり、その部屋のドアを開けると、
沐沐は目を閉じたまま、ベッドに座り込んでいた。
ぎゅっとくまのぬいぐるみを抱きしめる腕が、怯えるように震えている。

(……沐沐)

上がってしまった息を整えながら、一歩、部屋へ足を踏み入れる。

(目を開けたら、沐沐は……怒るかな)
(…笑うかな)

沐沐と沐沐の大事なものを守れる方法を、
ずっと考えていた。
けれど、いくら考えてみても、上手い方法が思いつかなくて、
結局行き着いたのは…

(沐沐が、沐沐の大事なものを守るために)
(この世界から、いなくなると言うのなら…)
(俺も、この世界から消えるよ)
(…君の側で、君を守るために)

そんな、シンプルな答えだった。
沐沐は何かを恐れるように、目を閉じたまま震えている。

(君を怖がらせる…すべてから)
(俺が、守るよ)

ルイ 「沐沐」
名前を呼ぶと、沐沐の震えが、ぴたりと止まった。
ルイ 「沐沐、目をあけて」
沐沐の前に立ち、やわらかな沐沐の髪を、そっと撫でる。
沐沐はためらいながら、ゆっくりと、目を開けた。

(沐沐…)

沐沐 「ル、イ…?」
信じられない、と言いたげに、沐沐が目を瞬かせる。
沐沐 「…夢……?」
沐沐は恐る恐る、手を伸ばして、確かめるように頬に触れた。
ふっと笑って、その手に手を重ねると、沐沐の瞳が揺れる。

(…もう、大丈夫)

ルイ 「夢じゃないよ」
ルイ 「…君を、さらいに来た」
沐沐 「……っ」
その言葉に、泣きそうに眉を寄せた沐沐の目を見て、
ルイは沐沐の手を強く引いて、ぎゅっと抱き寄せた。

(ああ…やっと)

沐沐 「ルイ…っ」

(やっと、君を、抱きしめられる)

沐沐 「ルイ…ルイ、私…っ」
腕にすがりつく沐沐をなだめるように抱きしめて、
その耳元に、そっと呟く。

(君は、優しいから…怒るかも知れないけど)

ルイ 「…怒らないで、聞いてくれる?」
沐沐は濡れた瞳で、喉を震わせながら、こちらを見つめた。
ルイ 「俺も君と一緒に、死ぬことにしたんだ」
ルイ 「天国でも、君を守れるように」
沐沐 「…っ、それって……」
沐沐が、息を呑む。
ルイ 「ハワード公爵は、もう居ない」
ルイ 「ここにいるのは、君を愛してる、ただのひとりの男だよ」
今にもこぼれそうな涙をこらえている沐沐に、問いかける。
ルイ 「……それでも、一緒に居てくれる?」

(『俺』を…愛してくれる?)

沐沐 「…っ、ばか…!」
押し殺した声で、そう一言だけ呟いて、
沐沐はルイの唇に、唇を重ねた。

(沐沐…)

それだけで、沐沐の想いが伝わってきて、胸が震える。
唇を離すと、沐沐はぎゅっとルイを抱きしめた。
沐沐 「……ルイの馬鹿…っ、どうして、そんな…っ」
ルイ 「ごめん…こんな方法しか、思いつかなくて」
自分でも、もっとうまい方法はなかったのかと問いたくなる。

(でも…)

沐沐の体をぎゅっと抱きしめ返す。

(すべて失ったとしても、君だけは失いたくない)
(君を守るのは、ずっと…俺でありたい)
(君を…愛して、いるから)

沐沐は胸に額を押し付けて、絞り出すような声で言った。
沐沐 「…連れて行って」
沐沐 「ルイと一緒なら、どこだっていい」
沐沐 「…一緒に、いて…離さないで…」

(あ……)

告げられた言葉には、聞き覚えがあった。
沐沐 「…私は、ルイを一人にしたりしない」
沐沐 「どんなルイのことも…好きだから」
沐沐 「…一緒に、いて…離さないで…」
沐沐はいつも、まっすぐに、愛を伝えてくれていた。

(…うん)

沐沐は腕の中で、ゆっくりと顔を上げる。
その、涙に濡れて澄み切った瞳に、ルイだけを映して…

(約束、するよ…)

胸を満たす幸福に、自然と微笑みが浮かび、
ルイはそっと、愛おしむように、沐沐に口付けた。

(もう…離さない)

 


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恋の行方〜Honey〜『愛』

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恋の行方~secret〜『ひとりじめ』

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ルイ 「………」
腕の中で眠る沐沐の、少し乱れた髪を撫でながら、
ルイはその寝顔を見つめていた。

(……可愛い)

宣言式を終え、沐沐の隣で過ごす穏やかな日々が日常になってから、
毎日のように思うことがある。
ルイ 「…沐沐……」
さっきまでの乱れた姿も、必死に自分を呼ぶ、あの声も、
潤んだまなざしや、寄せられた眉も、

(…それから、このあどけない寝顔も、いつもの笑顔も…)
(全部、独り占めしたい…)

誰にも奪われないように、閉じ込めて、鍵を掛けてしまいたい。

(君が俺を愛して…こうして傍にいてくれるだけで、奇跡なのに)
(ずっと俺だけを見ていて欲しいなんて…)
(…贅沢すぎて、罰が当たるかな)

口元に苦い笑いが浮かぶ。
ルイ 「…おやすみ、沐沐」
眠る沐沐の額に優しいキスをして、ルイはそっと目を閉じた。
翌日、いつも通り公爵としての執務を終え、自室に戻る途中、
廊下の先に、沐沐の姿を見つけた。

(沐沐…?)

声をかけようとして、沐沐の傍に嫌な人物の姿を見つけ、
一気に、眉間に皺が寄る。

(シド…)

沐沐が、よりにもよってシドに微笑みかけているのを見て、
嫌悪感が胸に湧き上がった。
ルイ 「………」
苛立ったまま歩み寄り、沐沐の肩を引き寄せてシドから引き離す。
沐沐 「…っ!?」
ルイ 「沐沐に近寄るな、穢れる」
沐沐 「……ル、ルイ…っ?」
腕の中に収まり、驚いた顔で見上げる沐沐に、
ささくれだった心が、少しだけ穏やかになる。
シド 「ケガれるって、お前な…まだ何もしてねえよ」

(…「まだ」…)

シドの言い回しに、沐沐を後ろへかばう。
ルイ 「何をしにここへ?」
シド 「そいつに、報酬を貰いにな」
ルイ 「報酬…?」

(沐沐が、シドに何か依頼を…?)

驚いて、背後にかばった沐沐を振り向くと、
戸惑いつつも、沐沐が口を開いた。
沐沐 「…シドに、ルイのところまで連れて行ってもらったことがあって…」
ルイ 「俺のところまで…?」
沐沐の言っていることがいまいちわからず、首をかしげると、
沐沐は何か思い出すように穏やかな笑みを浮かべて、言った。
沐沐 「国境に行ったルイを追いかけた時と、シュタインの処刑場に行った時だよ」
ルイ 「あ……」
その言葉に、記憶が鮮やかによみがえる。

*****
沐沐 「ルイ…っ!!!」
*****

*****
沐沐 「…ルイ…無事で、よかった…っ」
*****

自分のために、必死で追いかけてきた沐沐の泣き顔を思い出し、
ぎゅっと胸が締め付けられる。
沐沐 「二回とも、シドが馬に乗せていってくれたんだよ」

(そうだったのか…)

本当なら、感謝しなければならないのだろうが、
シド 「そういうことだ」
勝ち誇ったようにニヤニヤと笑うシドに、そんな気持ちがわくはずもない。

(…沐沐が、こいつと馬に…)

逆に、その事実に、ますます苛立ちが募る。
シド 「で…あの時『どんな報酬でも払う』って言ったよな、プリンセス?」
沐沐 「え? う、うん…」
ルイ 「………」

(それ、こいつには一番言ってはいけない言葉だよ、沐沐…)

自分のためだったとはいえ、無防備な沐沐に不安がよぎる。

(……ふざけたことを言うようなら、城から叩き出す)

牽制の意味も込めてじろりとシドを睨むと、
シドはますます楽しそうな笑みを浮かべた。
シド 「そうだな…じゃあ」
シド 「キスでもしてもらおうか」
沐沐 「えっ!?」
ルイ 「…は?」

(……キス…?)

シド 「プリンセスのキスで、ちゃらにしてやるって言ってんだよ」
シド 「『何でも』するんだろ?」
一瞬あっけに取られた沐沐は、次の瞬間さっと顔を青ざめさせた。
ニヤニヤと笑いこちらの様子を伺うシドに、怒りが沸く。

(こいつ…)

沐沐 「そ…それが……ルイの元へ連れて行ってくれた報酬…?」
シド 「ああ…そうだな」
沐沐は、焦ったような、困ったような顔をして、俯いた。
こんな沐沐の不安げに揺れる瞳を見るのは、久しぶりで、
その儚さに、少しだけ見惚れる。

(…ああ)
(俺は…本当に、君が好きすぎて、おかしくなったみたいだ)

こんな表情ですら、愛おしくてたまらないなんて。
ルイ 「沐沐」
沐沐 「…え…?」
名前を呼ぶと、不安げに眉を寄せたまま沐沐が顔をあげる。
その首の後ろに手を回して、ぐっと引き寄せ、
ルイはそっと唇を重ねた。
沐沐 「……っ!」
驚きに目を見開いた沐沐を見つめながら、
唇を重ねたまま、腰に腕を回して引き寄せる。
沐沐 「ん…っ」
舌先でやわらかい沐沐の唇を撫でてから、そっと離れると、
沐沐 「…っ、ル、…っ、ルイ…っ」
沐沐は、頬を真っ赤に染めた。

(ああ…失敗した)
(こんな表情、他の奴には…絶対、見せたくないのに)

振り返ると、シドはあっけに取られたように、こちらを見ていた。
ルイ 「…これでもう、用は済んだだろ。帰れ」
冷たく言い放つと、シドが眉を寄せる。
シド 「……は?」
ルイ 「『プリンセスのキス』で、ちゃらにしてくれるんだろう?」
ルイ 「誰とキスしろ、とは言ってない」
シド 「…っ! てめえ…」
シドの苛立ったような顔を見て、ふっと笑みが浮かぶ。
ルイ 「今のが『プリンセスのキス』」
ルイ 「お前への報酬だよ」
そう言い残して、沐沐の手を強く引き、その場を後にした。
部屋に入るなり、ルイは沐沐の腕を引いて、きつく抱き寄せた。
腕の中で、沐沐が身をよじる。
沐沐 「ルイっ、さっきの…っ、あれで良かったの?」
頬を紅く染めたままの沐沐は、まだシドを気にしているようで、胸が、またざわつく。
ルイ 「…いいんだよ」
沐沐 「でも…まだ私、シドにちゃんと、お礼…っ」
まだ何か言いたげな沐沐の唇を、
ルイ 「もう、あいつの名前呼ばないで」
言葉ごと飲み込むように、キスで塞いだ。
甘く舌を絡めると、沐沐の脚から力が抜ける。
胸にすがる体を、抱き上げるようにして、そのままベッドへ押し倒した。
沐沐 「…っ! ル、ルイ…っ!」
焦った表情の沐沐が、自分だけを見上げている。
それが、嬉しいと感じる自分に、ぞっとする。

(俺だけ、見てて欲しい)
(全部俺にだけ…見せて欲しい)

沐沐 「ルイ、…どうしたの?」
ルイ 「…沐沐は、シドとキスしたかった?」

(…そんなこと、聞かなくてもわかってるのに)

自分の中にある、ドロドロした独占欲を思い知る度に、怖くなる。

(君が俺を、嫌いになってしまうんじゃないかって)
(…そうなる前に、君を閉じ込めてしまいたくなる)

じっと見つめると、沐沐は吹き出すように笑った。

(沐沐…?)

沐沐 「ルイ…泣きそうな顔してる」
ルイ 「…え…」
沐沐はルイの頬を両手で包むと、そっと引き寄せて、キスをした。

(沐沐…)

沐沐 「ルイ以外となんて、したくないよ」
沐沐の腕が、優しく首に回って、そのまま沐沐の胸に抱き寄せられる。
沐沐 「私は…ルイだけのものだよ」
沐沐 「…ルイが不安になったら、ずっとこうしててあげる」
沐沐 「キスして、抱きしめて…ルイが安心するまで、ずっと傍にいるから」
ルイ 「…っ」
自分の子供じみた嫉妬や、潰れそうなほどの独占欲も、
全部、沐沐にはわかっているみたいだった。
わかっていて、全部許して、愛してくれる。

(…沐沐には、敵わないな)

ふっと力が抜けて、沐沐の横に倒れこんだ。
沐沐 「ルイ…?」
沐沐が、首をかしげてこちらを見つめる。
その仕草は、あまりにも無防備で、愛おしさが募る。
ルイ 「キスして、抱きしめてくれるだけ…?」
沐沐 「え?」
手のひらをお腹に這わせるようにして、沐沐の腰に腕を回すと、
沐沐の脚がびくっと跳ねた。
沐沐 「そ…、それは…」
ルイ 「…沐沐」
腰から、脚へ手を滑らせると、沐沐の手が力なくその手を押し止める。

(…そんなのじゃ、止まらないよ)

沐沐 「ルイ…っぁ…」
耳たぶを噛むと、沐沐の体がぞくっと震える。
沐沐 「ルイ…っ」
沐沐は頬をまた紅く染めて、困ったように眉を寄せてルイを見た。

(……やっぱり、閉じ込めてしまいたい)
(誰の目にも触れさせないように)

そんな衝動に駆られるまま、沐沐の首筋に噛み付くと、
沐沐は熱い吐息をもらして、ルイの頭を掻き抱いた。
ルイ 「…沐沐」
沐沐 「…いいよ」
沐沐 「全部、ルイのものだって、確かめて」
沐沐は熱を帯びた目に、艶やかな微笑みを浮かべる。
ルイ 「…っ」

(…本当に、沐沐には、敵わない)

ルイはその微笑みに甘えるように、沐沐の体をきつく抱き寄せた。

***

――…翌日。
ルイは執務室で片付けた書類の山を見下ろし、息をついた。

(…時間には、間に合ったな)

今日は沐沐と出かける約束をしていたから、
早めに執務を終わらせるため、朝から書類の山と格闘していた。

(そろそろ、沐沐の語学レッスンも終わる頃かな)

不意に、部屋にノックの音が響く。
ルイ 「…どうぞ」
入ってきたのは、予想に反して、沐沐ではなく、
ティーセットを持ったメイドだった。
ルイ 「…?」
メイド 「あの…そろそろご休憩を取られてはいかがかと思いまして」
メイドはにっこりと笑い、執務机に近づいてくる。
ルイ 「…もう終わったところだから」
断っても聞こえていない様子で、メイドは紅茶の説明をする。
メイド 「お疲れかと思いまして、リラックス効果の高いラベンダーグレイをお持ちしました」

(あ…)

その紅茶の名前に、ふと、懐かしさに襲われた。
あれは、初めて沐沐とダンスレッスンをした時…。

*****
沐沐 「ルイ…レッスンの続きを、お願いします」
ルイ 「……ランチタイムまで、休憩はしないから」
沐沐 「うん、ありがとう、ルイ…!」
*****

ひたむきに向きあおうとしてくれた沐沐を思い出し、笑みが浮かぶ。

(…今度また、沐沐と一緒に飲もう)

ルイ 「ありがとう、でも、今は要らないから」
メイド 「…っ、は、はいっ…あの、すみません…!」
微笑みを浮かべたままルイが断ると、メイドはなぜか顔を真っ赤にして、逃げるように去っていった。

(…?)

妙な態度に首をかしげていると、メイドと入れ替わるようにして、
沐沐がドアから顔を出す。
沐沐 「……ルイ」
ルイ 「沐沐」
沐沐は、なぜかいつもより少し曇った顔をしていた。
ルイ 「沐沐? 何かあった…?」
側へ歩み寄って尋ねると、ポツリと沐沐が呟く。
沐沐 「最近…ルイがメイドたちの噂になってるの、知ってる?」
ルイ 「噂? 俺の?」
聞いたことも無い話に、首をかしげる。
沐沐 「…ルイ様が、たまにすごく優しく笑ってくれる…って」
ルイ 「……俺が?」
覚えのない噂の内容に、戸惑いを隠せずにいると、沐沐がぎゅっとルイの手を握った。
沐沐 「………あんまり、他の人に、笑いかけたりしないでね」
沐沐はうつむいて、拗ねたように眉を寄せる。

(あ……)

沐沐の言葉が、昨日の自分と重なる。

(…沐沐…)

同じように思ってくれているのかもしれないと思うと、
くすぐったいような、嬉しいような気持ちになる。
ルイ 「うん…わかった」
頷いて、髪を撫でると、沐沐はやっとこっちを見た。
ルイ 「不安なら、今から確かめてみる?」
ルイ 「…昨日みたいに」
沐沐 「…っ、いい…っ」
ルイの言葉に、沐沐は顔を真っ赤にして、大きく首を振る。
ルイ 「いいの?」
沐沐 「………キス、だけで…いい…」

(…こういう所も含めて)
(やっぱり、沐沐には敵わないな)

ルイ 「…仰せのままに、プリンセス」
穏やかな笑みを浮かべ、ルイは沐沐を引き寄せて、
愛を刻むように、優しく口付けた。

 

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【続編シート】

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愛の続き『君を守りたい』

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(あの顔……)

羊皮紙に目を通していたルイは、
沐沐の表情を忘れられずにいた。

*****
ルイ 「もしかして今の話…聞こえてた?」
沐沐 「ううん、何も聞こえなかったよ」
*****

息をつき、羊皮紙に並ぶ文字から目を逸らす。
気持ちを鎮めようと立ち上がり窓へ行くものの、
自分の鼓動が苦しくなっていくのが分かった。

(沐沐の耳に届くまで、時間の問題)

窓に映る自分の姿は明らかに疲れている。

(…何とかしないと)

溜息をこぼした時、扉を叩く音が響いた。

(こんな時に、誰……)

振り向くと、沐沐が顔を覗かせた。
ルイ 「沐沐」
目が合った瞬間、ルイは反射的に微笑んで見せる。

(だけど……)

今の自分はどんな表情をしているだろう。
表情を作ることに慣れているはずなのに、

(沐沐の前ではうまく出来ない)

心に蓋をして見せた笑顔ほど、おかしいものはない。

(考えるだけで、頭がおかしくなりそうだ)

視線を逸らした後、もう一度沐沐を見る。
沐沐の瞳は、確実に自分の心を見透かしているようだった。
ゆっくりと沐沐が近づいて来る。

(今は…)

余裕がない自分に苛立ちさえ覚え始める。

(……来ないでほしい)

息を呑み見つめていると、やがて沐沐が足を止めた。
まっすぐな沐沐の瞳が見上げてくる。
そして……
沐沐 「何かあった?ルイ」
一番、聞かれたくないことだった。
ルイ 「ううん、大丈夫」

(これ以上、聞かれたら……)

沐沐 「ルイって…何か私に隠してることある…?」
沐沐の言葉に、それまで蓋をしていたものが外れそうになる。
ルイ 「…ないよ」
沐沐 「でも……」

(だめだ……)

ルイ 「沐沐」
いつもとは違う、少し強い口調で沐沐の名前を呼んだ。
ルイ 「沐沐、俺の話を聞いて」

(人を愛するってことを)
(沐沐に出逢って初めて知った)

衝動にかられ、ルイは思わず沐沐の身体を抱き締める。
腕の中に収まるぬくもりに、涙がでそうになった。

(こんなにも大切なものが側にあるのに、俺は…)
(なんで、弱いままなんだ)

溢れる感情のまま、口から言葉がついで出た。
ルイ 「俺は……」
ルイ 「…強くなるって、沐沐を守るって決めた」

(弱い自分なんていらない)
(俺は、あの日…沐沐と出逢ってから)
(沐沐を守るために強くなるって決めたんだ)

抱きしめる腕に、自分の心を封じ込めるように力を込めた。

(今は、それ以上聞かないでほしい)
(…お願いだから)

 

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愛のカタチ~プリティ〜『信頼』

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久々に迎えた、沐沐との休日…―。
ルイは木の幹に腰掛けながら、空を見上げた。

*****
沐沐 「ルイとこうして一緒にいられることが」
沐沐 「私の願いであり、幸せだから」
*****

どんなに嬉しい言葉だっただろう。

(…今度は、俺から気持ちを伝えたい)

満たされた気持ちで隣を見ると、沐沐が目を細めている。
沐沐 「気持ち良い…」
柔らかい風が沐沐の髪を揺らした。

(……綺麗)

幸せが何なのかと尋ねられたら、

(間違いなく、この光景だろうな…)

ルイはそっと沐沐の耳元に顔を寄せる。
ルイ 「ねえ、沐沐」
沐沐 「ん?」
ルイ 「俺の膝にきたら?」
沐沐 「えっ……」
ルイ 「いつも沐沐に膝枕してもらってるから」
ルイ 「今度は俺がしたい」
少し悩む仕草を見せた沐沐はそっと膝に頭を寄せた。
膝の上で、沐沐の髪がほどける。
見つめてくる瞳があまりに綺麗で鼓動が甘く震えた。

(本当に俺って……)

――…どうしようもなく、好きだ。
溢れる想いのまま、ルイは微笑んだ。
ルイ 「今なら、なんでも出来そう」
そう言って沐沐の額に口づけを落とす。
沐沐 「ル、ルイっ……」
途端に赤くなる沐沐に、また愛しさが溢れた。
ルイ 「嫌…?」

(……何て伝えよう)

ルイ 「嫌じゃないって顔してる」

(まだ、迷ってる)

その思いを抱いたまま、もう一度沐沐に口づけた。

***

やがて、沐沐と2人で湖の橋を歩いていく。

(伝えることは決まってるけど)

上手く言えるか自信がなかった。
思いを巡らせていた時、沐沐が足を止める。
沐沐 「見て、ルイ……」
ルイ 「ん?」
沐沐が、ふわりとしゃがむ。
沐沐 「こんなところに、花が咲くんだね」
踏まれそうな場所に、白い花が1輪だけ力強く咲いていた。
ルイ 「そうだね」
ルイもしゃがみこむと、不意に白い花を持った沐沐が過った。

(あの時……)

*****
沐沐 「弱さを見せるのも、強さだよ」
沐沐 「私に頼って、ルイ」
*****

(あの時、沐沐はありのままを伝えてくれた)

鼓動がうるさい程に響いてくる。
そっと触れようとすると、同じタイミングで沐沐の手も触れた。
触れるぬくもりに、心が自然と動く。

(俺も、思っている事をそのままを伝えよう)

ひっこめようとする沐沐の手を、思わずルイはとった。
ルイ 「実は、沐沐に話したいことがあったんだ」
ルイ 「国王から、ウィスタリアの王になるよう申し出があった」
ルイ 「だけど…俺は、断ろうと思ってる」

(…沐沐に全てを伝えることは)
(もう、怖くない)

ルイ 「次期国王候補になってから、何も解決をしてない」
ルイ 「貴族と城下の理解も得られてない状況で」
ルイ 「婚姻を結び、王になることは出来ない」
沐沐なら受け止めてくれる。
心からそう思う事ができ、不安などなかった。

(それは…本当の意味で、沐沐を信じられるようになったから)

ルイ 「だから……」
ルイは沐沐の手を自分まで引き寄せ、瞳をじっと見つめる。
ルイ 「国を建て直したら」
ルイ 「…俺と、結婚していただけますか」
そう口にした瞬間、ルイの鼓動が高鳴った。
言葉を待っていると、沐沐がそっとまつ毛を伏せる。

(この手は、絶対に離さない)
(…離したくない)

強く願った、その時……
沐沐 「喜んで」
沐沐が微笑む。
幸せすぎて、世界がきらめいたように見えた。
同時に、顔が驚くほどに熱くなっていく。
とっさにルイはまつ毛を伏せた。
ルイ 「…だめだ、緊張した」
沐沐 「ルイ、顔まっ赤だよ」
ルイ 「…あんまり見ないで」
沐沐はくすっと笑みをこぼし、白い花を見つめる。
そして静かに、でもしっかりと告げた。
沐沐 「ねえ、ルイ」
沐沐 「どんな時も側にいるよ」

(俺は……)

目の前にいる沐沐は優しくて聡明で……

(こんなにも素敵な人を愛することができたんだ)

嬉しさと愛しさで、涙が出そうになった。
ルイ 「ありがとう」
ルイ 「俺も…どんな時も、愛してる」
指を絡めあうとルイはそっと口づけを交わす。

(目を見て話して、笑って、時には泣いて……)
(愛し合うってことは)
(信じ合うのと同じ事かも知れない)

白い花が2人の間で、柔らかな夜風に揺れた…―

 

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愛のカタチ~ロイヤル〜『瞬間』

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背筋を伸ばし、祭壇の前に立つ。
ホールの中で、ガラスの靴音が響きゆっくりと振り返った。

(沐沐……)

純白のドレスをまとった沐沐は、
信じられないほど綺麗だった。

(……本当にこの日が来たんだ)

ゆっくり歩いてくる沐沐に涙が溢れそうになってくる。

*****
ルイ 「俺は…怖いよ」
ルイ 「大事なものを壊してしまいそうで…」
*****

(失うことが怖くて、何度も沐沐を拒んだ)
(でも、その度に……)

*****
沐沐 「弱さを見せる事も、強さだよ」
沐沐 「私を頼って、ルイ」
*****

(すべて受け止めて、歩み寄ってくれた)

それが、どれほど嬉しかったか。
思い出すだけで、胸の奥が甘く震えた。
やがて足を止めた沐沐が、見上げてくる。

(…心から想う)
(君を幸せにしたい)

微笑んで見せると、2人で同時に祭壇を見つめた…―

***

城を後にすると沐沐と屋根のない馬車に乗りこむ。
沢山の人々と色とりどりの紙吹雪が2人を包み込んだ。
沐沐 「ルイ」
ルイ 「なに…?」
名前を呼ばれ振り向くと、
沐沐は白い花のしおりを見せた。
沐沐 「私、ルイを支えられるようにだけじゃなくて」
沐沐 「もうひとつ願いごとをしていたの」

(もうひとつ……?)

沐沐は優しく微笑み、周りに視線を向ける。
沐沐 「私にだけは愛されている実感があるって言っていたけど」
沐沐 「私だけじゃない」
沐沐 「ここにいる皆が、ルイのことを愛しているよ」

(そんなこと……)

周りを見つめると、笑顔の人々が自分の名前を呼び、
祝福の言葉を伝えてくれている。
沐沐 「ルイは皆に愛されてる」

(おかしいな……)

それまで心を覆っていたものが、剥がれ落ちていく。

(そんなはずはないと思ったけど)
(今、確かに感じているのは……)

まぎれもなく、愛されている感覚だった。
ゆっくりと沐沐を見る。
沐沐の瞳に映った自分の姿は、
人形と呼ばれているものではなく幼いころに忘れた顔だった。
ルイ 「…白い花の話は本当だったのかもしれない」
しおりに触れると、視界が霞んでくる。
ルイ 「沐沐に出逢って、願いが叶った」

(こんなことあるはずないと思ってた)

――…貴族たちの囁き、厳しいしつけ、見たくない光景

(一番、嫌いだったこの世界が…)
(一番、俺が叶えたかったことを叶えてくれた)

目の前で、自分が待ち望んでいた光景が広がっている。

(今、この瞬間が……)
(……一番、幸せだ)

ルイ 「ありがとう…それから、愛してる」
沐沐に口づけをした瞬間、
目からこぼれた一粒の涙が、頬を伝っていった…―

 

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()