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逆転大奥~上様と恋の秘めごと~(ノア)

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この国の城の奥には、上様のための秘密の園『大奥』があって…?
??? 「上様、今宵は誰を指名なさいますか…?」
あなたが寵愛する彼は誰…――?
………
ノア 「俺は、上様の…沐沐の笑った顔が好きだから」
ノア 「助ける代わりに、沐沐の笑顔を見せて」
……
??? 「上様にふさわしい相手は、俺しかいねえだろ?」
華やかな男たちが集う大奥を舞台に、
今、恋の秘めごとが花開く…――

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プロローグ:

――…ここは、上様と呼ばれる女将軍が治める国
この国の城の奥には、上様のために作られた秘密の園『大奥』があった。


(今日も、気が進まないな…)

毎朝の日課である総触れのために、大奥へと繋がる廊下を歩いていく。
総触れは、朝の挨拶とともに夜の相手を選ぶ場でもあるため、
これから向かう先にいるのは、私のために集められた男の人たちだ。

(大奥に集められた人の中から正室を決めることになってるけど…)
(いくらお世継ぎのためとはいえ、好きでもない人を夫にするなんて…)

こっそりと息をつくと、
後ろを歩いていた大奥総取締役のレオが、顔を覗き込んでくる。
レオ:上様、何か考えごとしてるでしょ?
吉琳:え…?
レオ:顔に出てるよ

(…っ、いけない)

表情を引き締めると、同じく後ろにいた教育係のジルがふっと微笑む。
ジル:何を考えているのかは大体わかりますが…
ジル:上様、これも将軍としてのお務めです
ジル:お世継ぎができることは、国の安泰にも繋がりますから…
吉琳:…わかってる
ジル:でしたら、そろそろどなたかをご指名いただきたいものですね
吉琳:それは…もうちょっと待って

(わがままが許されるような立場じゃない)
(それでも…ずっと一緒にいることになるなら、愛する人を選びたい)

そんな会話を交わしているうちに、御鈴廊下の前に辿り着いた。
レオ:上様、準備はいい?
吉琳:うん
頷くと、辺りに鈴の音が響き、目の前の襖が開かれる。

***

御鈴廊下に足を踏み入れ、両側にずらりと並ぶ男の人たちの間を進んだ。

(…あ)

奥に進むと、一際目立つ存在を視界に捉える。

(第一正室候補のルイに…第二正室候補のカイン)
(第三正室候補のノアは…今日もいないみたい)

ちらりと視線を巡らすと、ふいに着物の裾に足を引っ掛けてしまう。
吉琳:…っ
転びそうになったその時、ちょうど近くにいたルイが体を支えてくれた。
ルイ:上様…お怪我はありませんか?
吉琳:大丈夫…ありがとう
カイン:どんくせえやつ
小さな呟きが聞こえてきたような気がして、カインの方を振り向く。
吉琳:…何か?
カイン:いえ、何も。上様

(何かあるとすぐ突っかかってきて…カインっていつもこうだな)
(ルイは優しいけど、正室を望んでるわけじゃないし…)
(ノアもさぼってばっかりだから、興味がないんだと思う)

やっぱり、この中から誰かを選ぶことなんてできそうにないと、
心の中で深く息をついた。

***

総触れを終えた後、政務が始まるまで縁側で休んでいると…――
???:上様

 

どの彼と過ごす…?
>>>ノアを選ぶ

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第1話:

――…城の中にこもるのはもったいないほど、清々しい空が広がる朝
総触れを終えた後、政務が始まるまで縁側で休んでいると……
ノア:上様
吉琳:ノア…?
名前を呼ばれて振り返ると、そこには第三正室候補のノアがいた。
ノア:ジルから伝言―
ノア:眼鏡くんが到着したから、広間に来るよーに…だって
吉琳:眼鏡くんって…アルバートのこと?
ノア:そーだよ
アルバートは西の都を治めている帝の側近で、
情報交換のため定期的にこの城を訪れる。

(今日来ることは知ってたけど…)

吉琳:どうして、ノアが私を呼びに来たの?

(こういうのは、いつもジルの役目なのに)

ノア:俺、今ジルの仕事手伝ってんだよねー
ノア:今日の総触れさぼっちゃったから、その罰だってさ

(あ、なるほど…)

ノアは第三正室候補なのに、総触れに姿を見せないことが多い。

(昼間寝てるところをよく見るし…)
(正室に興味ないんだろうな)

ノア:さー行こう、上様
吉琳:うん
苦笑しながら、前を歩き出したノアについて行く。

***

広間に入ると、アルバートの姿があった。
アルバート:お久しぶりです、上様
アルバート:お元気そうで何よりです
吉琳:アルバートこそ、変わってなくて安心した
姿勢正しく座るアルバートに、ふっと口元を緩める。
吉琳:今回は…視察のために来たんだっけ?
アルバート:ええ。西の都の開発を進めるため、城下を見て回ろうかと
吉琳:それなら、案内役をつけた方がいいかな…?
ノア:じゃー俺が引き受けるよ
吉琳:え…?
ジルの代わりにそばで控えていたノアが、にこりと微笑む。
ノア:俺、大奥に入る前は城下に住んでたから、これでも結構詳しいよ?
吉琳:そうなんだ…それじゃ、お願いしようかな
吉琳:アルバートも、それでいい?
アルバート:お気遣いありがとうございます、上様
吉琳:城下は広いけど、ゆっくり見て行ってね
吉琳:今ちょうどお祭りが開かれてるから、きっと楽しいと思う
明るく告げると、アルバートが怪訝そうに眉を寄せる。
アルバート:どうしてあなたが、城下の催しのことを知っているのですか?

(あっ…しまった)

常に城にいるはずの私が、町の人たちの祭りを把握しているのはおかしい。
吉琳:…っ…それは…たまたま耳に挟んだだけだよ

(ほんとは、しょっちゅう城下までお忍びで出かけてる…)
(なんて言えない)

アルバート:…そうですか
腑に落ちない顔をされたけれど、その場は笑ってごまかした。

***

――…翌日の、政務が休みの日
吉琳:ごめんね、ユーリ。お祭りに行きたいってわがまま言っちゃって
ユーリ:ううん、気にしないで
私は町娘の格好をして、世話役のユーリと一緒に城下を歩いていた。
ユーリ:吉琳様が喜んでくれるなら、俺はどこへだってついて行くよ
吉琳:ありがとう、ユーリ
ユーリがにこっと笑い、つられて頬が緩む。

(ジルに見つかったら怒られるかもしれないけど…)
(お祭り…楽しみだな)

浮き立つような心地で祭りの会場に向かって歩いていると、
ふいに通りがかった人と肩がぶつかり、体が傾いて……
吉琳:あ…っ
???:…っ…大丈夫ですか?

(うそ……この声)

おそるおそる顔を上げると……
アルバート:…! あなたは…――
よろけた私を支えてくれたのは、アルバートだった。

(ま、まずい…)

私の顔を見て、アルバートが目を見開く。
アルバート:なぜ上様がこのような場所に…?
ノア:え、上様…?
アルバートの後ろから、ノアも顔を覗かせた。

(ごまかせない…気がするけど…)

後ろめたいことは何もないというように、真っ直ぐに二人を見つめ返す。
吉琳:…人違いじゃないですか?
アルバート:は? あなたは、何を言って…
ノア:そーいうことにした方がいいなら合わせるよ、吉琳
アルバート:貴様、上様を呼び捨てにするなど…――っ
言葉の途中で、ノアがアルバートの口を手で塞いだ。
ノア:上様じゃなくて、ここにいるのはただの女の子
ノア:そーいうことらしいから、眼鏡くんも協力してあげなよ
アルバート:…っ……わかったから、離せ
アルバートがノアの手を振り払い、息をつく。

(納得してくれたってことかな…?)

吉琳:二人ともありがとう
ノア:いーよ。それより、吉琳はこれから祭りに行くの?
吉琳:うん、二人は…?
ノア:俺たちも同じだよ
ノアがにこりと笑って、私に手を差し出す。
ノア:よかったら、吉琳も一緒に行くー?
吉琳:え、いいの?
アルバート:いいわけがないでしょう
差し出されたノアの手を、アルバートが遮った。
アルバート:あなたが気軽に城下を歩くなど、万が一のことを考えると…――
ユーリ:はいはい、頭の堅い人は置いといて、行きましょうか
吉琳:え…、わ…っ
アルバートの言葉の途中で、ユーリが私とノアの背中を押して歩き出す。
アルバート:誰が頭の堅い人だ…っ…おい、本当に置いていくな!

(ごめんなさい、アルバート)
(気軽に歩いちゃだめなのはわかってるけど…それでも行きたい)

困ったような顔をして追いかけてくるアルバートを待って、
四人で会場に向かうことになった。

***

しばらく歩くと、たくさんの人で賑わっている祭りの会場に辿り着く。

(わあ、すごい人…)

辺りを見回してると、人に押されて流されそうになった。

(…っ、みんなとはぐれないようにしないと)

必死にみんなの後についていくと、ふいに両側から手を握られる。
吉琳:え…

(ノアと、アルバート…?)

アルバート:あ…すみません
アルバート:あなたが歩きづらそうだったもので、つい…
アルバートは無意識に私の手を掴んだらしく、すぐに離れたけれど、
反対側の手を握っていたノアは、繋いだ手に力を込めた。
ノア:謝らなくてもいーんじゃない?
ノア:このまま、手繋いで歩こうか?
吉琳:こ、子どもじゃないんだから大丈夫だよ
ノア:そー?
ノアが残念そうに手を離した時……
からくり師:さあさあ、見てらっしゃい。今日の芝居は姫様の恋物語だよ
近くでからくり師が歌うように告げて、劇が始まる。

(なんだか面白そう)

アルバート:…あなたは、ああいうのに興味があるんですか?
吉琳:うん、城じゃあまり見られないから…
ノア:それじゃ、見ていこっか
ノアの言葉に頷いたけれど、劇が始まった途端に大勢の人が集まってくる。

(うーん、前の人の背が高くてよく見えないな…)

背伸びをすると、突然後ろから体が持ち上げられて…――
吉琳:えっ…ノア…!?
気づいた時には、ノアが微笑みながら私を見上げていた。
アルバート:貴様、軽々しく女性に触れるなど…!
ノア:だって、吉琳が困ってたから
ノア:こーすればよく見えるでしょ?
吉琳:…っ、見えるけど恥ずかしいよ
ノア:だいじょーぶ。他にもやってる人いるから
吉琳:それ、子どもでしょ…っ
言い返すと、ノアがふと考え込むような顔をする。
ノア:んーでも…俺より眼鏡くんの方が背高いよね
吉琳:え?
ノア:ということで…よろしく、眼鏡くん
アルバート:な…っ
ノアは手渡すように、私をアルバートの腕の中に下ろす。
吉琳:ノ、ノア…!
アルバート:貴様…!
ユーリ:眼鏡さーん、吉琳様のこと落としたら許さないから
アルバート:……っ
アルバートが動揺しながらも、私の腰をぎゅっと抱きかかえた。

(は、恥ずかしい…)

アルバート:落とすわけはないが、そういう問題では…
吉琳:あの、アルバート…
吉琳:降ろしてくれると嬉しい…かな
アルバート:…! すみません…
ようやく地面に足がつき、ほっと胸をなで下ろす。

(でも、降ろされるとやっぱり見えないな…)

見ることを諦めようとしたその時、
隣に立っていたノアがこっそりと耳に唇を寄せて……
ノア:ねー、吉琳…
ノア:抱っこが嫌なら、俺がいいとこに連れてってあげよーか?

 

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第2話:

ノア:抱っこが嫌なら、俺がいいとこに連れてってあげよーか?

(え…?)

ノアの小さな囁きに、胸が高鳴る。
吉琳:いいとこって、どこ?
ノア:それは、ついてからのお楽しみ
ノア:でも、吉琳は絶対喜んでくれると思うなー
吉琳:そんな風に言われると気になるな。連れて行ってくれる?
ノア:りょーかい
ノアが優しい笑みを浮かべて、ユーリとアルバートに向き合う。
ノア:眼鏡くんとユーリはどーする?
ユーリ:俺はノア様に代わってこの人を案内するんで、二人で行ってきてください
ユーリ:ほら、邪魔者は早く退散するよ
アルバート:…っ、貴様、袖を引っ張るな
アルバートを連れて歩き出したユーリが、ふと私の方を振り返る。
ユーリ:吉琳様、しっかりね
吉琳:っ…
悪戯っぽくウインクを残して去っていったユーリに、思わず苦笑した。

(ユーリは…私がノアに想いを寄せてることを知ってるから…)
(きっと気を遣ってくれたんだろうな)

ノア:吉琳、しっかりって何のこと?
吉琳:…っ、何でもないよ。それより、早く行こう
笑顔でごまかすと、ノアはそれ以上は何も聞かずに私の手を引いて歩き出す。

***

そして、近くの呉服屋に入った。

(いいところって、呉服屋のこと…?)

店主:いらっしゃいませ、ノア様
中に入ると、店主と思われる男性が快くノアを出迎える。
店主:先日もお逢いしましたが、変わらずお元気のようで…
ノア:それはお互い様でしょ?

(あれ…? 大奥に入ってる人は基本外には出られないはずなのに…)
(先日も逢ったってどういうことだろう…?)

ノア:そーいえば、例の件はどうなった?
店主:ノア様にご助言頂いたおかげで、藩主との商談が決まりましたよ
ノア:ほんと? よかったー
店主:あの時はありがとうございました
店主:ところで…本日はどのようなご用件で?
ノア:二階の部屋を少しの間貸してもらってもいいかな?
店主:もちろんです。どうぞ中にお入りください
ノア:ありがとー
ノアが私の方を振り向き、にこりと微笑む。
ノア:吉琳、おいで
吉琳:あ、うん…お邪魔します

(全然、話についていけなかったけど…)
(ノアはただのお客さんってわけじゃなさそう)

ノアの後に続いて店の奥に入り、階段を上る。

***

二階の客室のような部屋に入ると、ノアが窓際に立って私を手招きした。
ノア:ここからなら、からくり劇がよく見えるよ
吉琳:あ…ほんとだ!
通りを見渡せるこの場所は、視界を阻まれることなく劇を鑑賞できる。

(私が絶対に喜ぶって、こういうことだったんだ)

吉琳:何だか、特等席みたい
窓から体を乗り出した時、ふいに腰に手が回された。
ノア:あんまりはしゃぐと、落ちちゃうよ?
吉琳:…っ…ごめん、ありがとう

(ノアが…近い)

互いの頬が触れそうな距離にあって、胸の音が急に騒がしくなる。
ノア:吉琳が落ちないように、俺がずっとこうしててあげる
吉琳:だ、大丈夫だよ…気をつけるから…

ノア:だーめ、危なっかしいから離してあげません
ノアの腕に力がこもり、さらに縮まった距離に顔が火照りだす。

(こんなに近くて…どきどきしてるの、ノアに伝わったらどうしよう)

うるさいくらいに響く胸の音が、ノアへの想いを強く実感させる。

(……昔から、誰より優しいノアのことが好きだった)
(でも前よりずっと、好きな気持ちが大きくなってるみたい…)

胸を落ち着かせようと小さく息をはいた瞬間、
肩にそっとノアの顎が乗せられた。
ノア:あー、見て吉琳。あのからくり、すごい跳んだよ
吉琳:そ、そうだね…
頷きながらも、触れる温もりばかりが気になって、劇の内容はあまり頭に入って来ない。

(ノアはこんなに近くても、何も感じてないのかな…?)
(だからこんな風に、気軽に私に触れられるのかな…)

肩と腰に触れる優しい温もりが、ちくりと胸を痛ませる。
賑やかな劇の音をどこか遠くに聞きながら、私は小さく息をついた。

***

――…ノアとからくり劇を見て、城に戻ってきたその後

(今日は楽しかったな…)
(…どきどきしすぎて、劇にはあまり集中できなかったけど)

二人きりで過ごした時間を思い出しながら、湯殿に向かう。

***

中に入ると、いつものようにノアが待っていて…――
ノア:お待ちしてました、上様
吉琳:ノア…
立ち止まった私に、ノアが歩み寄る。

(…そういえば、ノアはよく総触れを休むのに)
(湯殿係の仕事は休んだことないな)

本来、正室候補が湯殿係に選ばれることはないけれど、
ノアはいつも総触れを休む罰として、ジルからこの仕事を与えられていた。
ノア:今日は城下を歩き回って疲れたでしょー?
ノア:せっかくだし、着替えからお手伝いしましょうか…?
吉琳:……っ
ノアの指先が着物の帯に触れて、鼓動が一気に高鳴る。
吉琳:て、手伝いなんて頼んだことないでしょ…っ
反射的に後ずさると、ノアが悪戯に笑った。
ノア:じょーだんだよ。逃げないで、上様
吉琳:もう…
ノア:じゃー俺はいつも通り寝てるから、終わったら声かけてね
のんびりとした声でそう告げると、湯殿の隅にある木の陰に腰を下ろす。
ノアは湯殿係だけれど、私の入浴中は寝ていることが多かった。

(たぶん、気を遣ってくれてるんだと思うけど…)
(ほんとに…私には興味ないんだな)

また胸に小さな痛みを覚えながら、着物を床に落とす。
襦袢姿になってお湯に浸かると、辺りに静けさが広まった。

(もし正室を選ぶなら、私はノアを選びたいのに…)
(でもノアが望んでないなら…他の人を選ばなきゃ)

夜空を見上げながら、そっと息をつくと……
ノア:上様、何か悩みごと?
吉琳:え…
木の陰から、ノアが振り返らずに問いかける。
ノア:今日、時々元気なさそうな顔してたからさー
ノア:俺でよければ、話聞くよ?
吉琳:ありがとう…でも大丈夫だよ

(ノアのことで悩んでる…なんて言えない)

しんとした沈黙の後、急にノアが立ち上がって……
ノア:ねえ、上様…そばに行ってもいい?
吉琳:え……っ

(急にどうしたんだろう…?)

ノア:変なことはしないからさ
吉琳:わ、わかってるよ…
大きく上下する胸元を隠して、そっと口を開く。
吉琳:……いいよ
ノア:ありがとー上様
ノアは私のそばに来ると、小指を立てて目の前に差し出した。

(…?)

首を傾げると、ノアが柔らかく目を細める。
ノア:上様に困ったことがあれば俺が助けるよ
ノア:だから、約束の指切りしよう

(約束って…)

吉琳:どうして、そんな約束をしてくれるの…?
尋ねると、ノアの瞳が真剣な色を帯びる。
ノア:俺は、上様の…吉琳の笑った顔が好きだから
吉琳:……っ
ノア:助ける代わりに、吉琳の笑顔を見せて

(そんなに優しい約束をされたら…もっと好きになっちゃうよ)

夜風が濡れた肌を撫でても、胸の奥だけが熱く灯っていく。
ノア:ほら、上様も小指出して
吉琳:…うん

(たとえノアが正室を望んでいないのだとしても…)
(この想いは断ち切れそうにないな)

促されるままに指切りをすると、互いに照れた笑いがこぼれた。

***

――…数日後の午後
この日、老中や大臣たちを集めて開いた会議の中で、
お世継ぎの問題が話題に上った。
老中1:上様、早く正室候補をお決めください
吉琳:…その話は、また今度にしよう
老中1:以前もそう言ってはぐらかされたではありませんか
老中2:世の安泰のためにも、どうか早いご決断を…

(どうしよう、今日は引く気がなさそう…)

言葉を考えていると、
後ろに控えていたジルが手を叩く。
ジル:上様にもお考えがあります。どうか、ここはお控えください
吉琳:ジル…
ジル:ですが、妥協案もなしに話を終わらせては
ジル:ここにいる者たちも納得はできないでしょう
ジルは私を真っすぐに見据え、静かに微笑む。
ジル:上様、明日の総触れで誰か一人を必ずご指名ください
吉琳:っ…それが、妥協案?
ジル:ええ。正室を選ぶ意志はあるのだと行動で示していただければ
ジル:ここにいる皆も。ひとまずは納得するでしょうから

(そこまで言われたら…受け入れるしかない)
(ジルも、考えてることは老中たちと同じだろうから…)

吉琳:…わかった
ジル:ありがとうございます
老中たちのほっとした様子とは裏腹に、私の心は曇っていった。

***

(ジルと約束しちゃったけど…誰を選べばいいのかな)

ジルと別れた後、重い気分を紛らわせるために庭を散歩していると……

(あれは…ノア?)

木の下でノアが眠っていることに気づく。
そっと近寄ると、ノアの瞼がゆっくりと持ち上がった。

んー…上様…?

ノア:んー…上様…?
吉琳:ごめん、起こすつもりはなかったんだけど…
私の顔を見たノアが微かに目を見開き、眉を寄せる。
ノア:何かあった?
吉琳:どうして…?
ノア:何だか、泣きそうな顔してる
吉琳:…っ、そんなことないよ

(こういう時…ノアは鋭いから困る)

顔を逸らすと、立ち上がったノアが私を強く抱きしめて…――

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

ノア:何だか、泣きそうな顔してる
吉琳:…っ、そんなことないよ

(こういう時…ノアは鋭いから困る)

顔を逸らすと、立ち上がったノアが私を強く抱きしめて……
ノア:――…無理、してない?
吉琳:っ…
優しい囁きに胸が高鳴る一方で、心が落ち着いていく。
ノア:話したくないことなら、何も聞かないけど…
ノア:俺にできることがあったら、なんでも言って?
吉琳:ノア…
名前を呼ぶと、応えるように柔らかい笑みが降ってくる。

(……ノアに話せば、少しは気持ちが落ち着くかな…?)

吉琳:ありがとう…私の話、聞いてくれる…?
ノア:もちろん、いいよ
少しだけ体を離して、ノアを真っすぐに見上げた。
吉琳:実は…明日の総触れで、誰かを指名しないといけないことになったの
ノア:え……?
吉琳:その気もないのに、誰かと一夜を過ごさないといけないことが…辛い
ノア:吉琳…
ノアは何かを堪えるようにぎゅっと眉を寄せると、もう一度私を強く抱きしめた。
心地よい腕の中で、きゅっと唇を噛みしめる。

(この腕の中から、離れたくない)
(夜を一緒に過ごしたい相手は…ただ一人しかいないよ)

吉琳:私…選ぶならノアがいいのに…
ノア:俺…?

(あ……)

無意識にこぼれ落ちた言葉に、はっと息を詰める。
吉琳:…っ……何でもない!
ノア:待って…っ
ノアから離れようとすると、両頬を包まれた。
ノア:俺なら、いいの?

(……っ…ここで頷いたら、ノアは優しいからきっと私を助けてくれる)
(でも…)

吉琳:…今の言葉は忘れて
ノア:吉琳…?

(ノアの気持ちも考えないで、こんな頼り方をするのは…最低だ)

吉琳:そろそろ政務に戻らないと…ごめんね、ノア
ノアの腕の中から抜け出し、逃げるようにその場を立ち去った。

***

吉琳が去った後……
ノア:選ぶなら俺がいい…か
残されたノアが呆然とした様子で呟くと、足音が近づいてくる。
カイン:あいつ、お前のことが好きだったんだな
ノアが振り向くと、腕を組んだカインが立っていた。
ノア:もしかして…俺と上様の会話、聞いてたの?
カイン:通りかかったらたまたま聞こえただけだ
カイン:それよりお前、明日の総触れはどうすんだよ?
カインの問いかけに、ノアの瞳が切なげな色を帯びる。
ノア:上様が望んでくれるなら、出るよ
ノア:…ただ、ほんとに俺を選んでくれるかな?
カイン:好きなら選ぶだろ
ノア:でも、さっき俺に助けを求めなかった
ノア:…きっと何か気がかりがあるんだと思う
悩ましげに眉を寄せたノアに、カインが肩をすくめる。
カイン:お前、前からあいつが好きだっただろ?
カイン:他の男に上様とられたくなかったら、無茶してでも行動するしかねえ
カイン:そのために、お前は今までずっと時間かけて準備してきたんだろうが
ノア:……そう、だね
小さな呟きを落として、ノアは吉琳の去っていった方向を見つめた。

***

――…翌朝
ジル:上様、総触れの準備はいいですか…?
吉琳:うん

(覚悟は…決めてきた)
(これも将軍としての務めだから、割り切らなくちゃいけない)

深呼吸して、鈴の音とともに御鈴廊下に入る。

***

頭を下げた男の人たちの前を歩きながら、奥に目を向けると……

(…っ、ノア…?)

久しぶりに総触れで見るその姿に、胸が軋むように苦しくなる。

(昨日、あんな話をしたから来てくれたのかな…?)
(でも…それは優しさで、ノアに気持ちがあるわけじゃない)

ジル:上様、いかがなさいましたか…?
吉琳:…何でもない
こみ上げてきた想いをぐっと堪え、止まりかけていた足を再び動かす。
ノアの前を通り過ぎようとしたその時、一瞬だけ視線が重なって…――

(え…)

微かに顔を上げたノアが、声なく口を開いた。

(――…『俺を選んで』?)

再び頭を下げたノアが、さり気なく小指を立てる。

(あれは…)

〝ノア:上様に困ったことがあれば俺が助けるよ〞
〝ノア:だから、約束の指切りしよう〞
〝吉琳:どうして、そんな約束をしてくれるの…?〞
〝ノア:俺は、上様の…吉琳の笑った顔が好きだから〞

吉琳:……っ

(ノアは、あの時の約束を果たそうとしてくれてるんだ…)
(どうして、私のためにそこまでしてくれるんだろう…?)

同情にしては優しすぎるようにも感じて、
そこに、ノアの想いが含まれているような気がした。
吉琳:……ノア
立ち止まって名前を呼ぶと、ノアが静かに顔を上げる。
ノア:お呼びでしょうか?
吉琳:今晩、私のところに来てくれる?

(ノアの想いを、聞いてみたい)

ノア:承知しました、上様
突然の指名に周囲が息を呑む中、ノアだけは嬉しそうに目元を和らげた。

***

――…その日の夜

(どうしよう…)
(ノアを指名したけど、ほんとによかったのかな…?)

緊張で高鳴る胸を抑えていると、寝所にノアがやって来た。
ノア:こんばんは、上様
吉琳:ノア…
反射的に体を強張らせると、ノアがくすりと笑みをこぼす。
ノア:とりあえず、深呼吸しよっか?
吉琳:え…?
ノア:いーから、はい
ノアに言われるがまま、すうっと深く息を吸ってはき出す。
ノア:どう? 少しは落ち着いた?

(緊張してるの、見抜かれたみたい…)

吉琳:うん、ありがとう…ノア
頬を緩めると、ノアが私の隣に腰を下ろした。
吉琳:やっぱり、ノアが相手だと安心するね
ノア:…そう?
吉琳:信頼してるから、隣にいてくれるとほっとする

(どきどきして、落ち着かないのは変わりないけど…)

思ったことを素直に伝えると、ノアが困ったような顔をする。
ノア:それは、ちょっと複雑だな…
吉琳:どうして…?
ノア:吉琳は……こんなことされても、同じこと言えるの?
低い声にどきりとした瞬間、肩を押されて褥の上に組み敷かれた。
吉琳:…っ

(な、んで…)

目を見張る私に、真剣な瞳が近づく。
ノア:ねえ、吉琳…
ノア:総触れの時、どうしてすぐに俺を選んでくれなかったの?
吉琳:…っ、それは…
ノア:選ぶなら俺がいいって言ってくれたくせに…
鼓動が速くなるのを感じながら、ノアを真っ直ぐに見つめ返す。
吉琳:…ノアが、優しいからだよ
ノア:どういうこと…?
吉琳:きっと、私を助けるために総触れに来てくれたんだと思うけど…
吉琳:ノアの優しさに甘えて指名してもいいのかなって…迷ったの
一息に告げると、ノアは深く息をはき出して、私の肩に顔を埋めた。
吉琳:ノ、ノア…?
ノア:…吉琳は、勘違いしてるよ
ノア:総触れに参加したのは、助けるためじゃない
吉琳:そう、なの…?
ノア:うん…ただ、他の誰かに吉琳をとられるのが嫌だっただけ
吉琳:え…
顔を上げたノアが、私の頬に手を添えて…――
ノア:俺はずっと…――吉琳の隣を狙ってた
ノア:――…好きだから、優しくしてたんだよ
吉琳:……っ
額にそっと口づけられ、鼓動が大きく跳ね上がる。

(ノアが…私を、好き?)

吉琳:そ、それなら、どうして今まで総触れに出てくれなかったの…?
吉琳:ずっと、正室には興味ないんだと思ってたのに…
ノア:そんなわけないでしょ
ノアが笑みをこぼして、大切な宝物に触れるかのように私の髪を撫でる。
ノア:ただ、夜遅くまで起きてることが多くて、朝起きれないだけ
吉琳:夜に、何かしてるの…?
問いかけると、髪を撫でるノアの手が止まった。
ノア:俺の家は、他の二人の正室候補と比べると弱くて…
ノア:上様の隣に立つにはふさわしくない
吉琳:そんなこと…
ノア:吉琳は気にしないかもだけど、周りはそうじゃないでしょ…?

(確かに…今までルイやカインを薦められることはあっても)
(第三正室候補のノアを正室に薦められることはなかった)

ノア:だから、暇さえあれば城を抜け出して…
ノア:影響力の強い商家や武家と繋がりを作ってたんだ
ノア:…少しでも、家の力をつけるためにね
その言葉に、祭りの時のノアと呉服屋の店主の会話を思い出す。

〝ノア:そーいえば、例の件はどうなった?〞
〝店主:ノア様にご助言頂いたおかげで、藩主との商談が決まりましたよ〞

(あれは…ノアが家の力をつけるためにやってたことなんだ)

ノア:正室になりたくないんじゃない…
ノア:むしろ、ずっとなりたいと思ってた

(私…ノアの想いに全然気づいてなかった…)

いつも場所を選ばず、倒れるように眠っていたノアの横顔を思い出す。
吉琳:嘘…じゃないよね?
ノア:信じられないなら…確かめてみる?
言葉を返す前にノアの顔が近づいて、唇に柔らかな感触が触れる。
吉琳:…んっ……
ひどく優しい重なりからノアの想いが流れ込んで、自然と瞼を閉じた。
ノア:吉琳…
唇に触れていた熱が、やがて首筋を伝って鎖骨に辿り着く。
吉琳:…っ……ノ、ノア…
ノア:本気だってわかってもらえるまでするけど…?
吉琳:わかった、から…っ

(体中が熱い…)

ようやく顔を上げたノアが、柔らかく目を細める。
ノア:…ほんとは第一正室候補になってから、吉琳に好きだって伝えるはずだったんだよ
ノア:少し予定が狂っちゃったな

(ノアは…こんなにも私のことを想ってくれてたんだ)

奇跡みたいなこの瞬間に、世界が滲んでいく。
ノア:まだ第三正室候補だけど、いつか第一正室候補になれたその時は…
ノア:吉琳をちょうだい…?
甘えるように、ノアが首筋に口づけを落とす。
微かに感じた甘い痺れが、夢ではないことを教えてくれた。
吉琳:…ノアが欲しがってくれるなら、私のすべてをあげるよ
吉琳:私の心は…ずっと前からノアのものだから
少しだけ震える声で告げると、ノアが笑って小指を差し出す。
抱き合うように絡んだ指先で、これからもずっと一緒だと誓った…――


fin.

 

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エピローグEpilogue:

諾亞後

――…想いを交わした後に待っていたのは、寵愛する彼との甘い日々
今宵の秘めごとが、彼目線で描かれていく……
…………
………
ノア:俺に何してほしい…? 教えてよ、上様

(今まで生きてきて、こんなに誰かを求めたことはなかった)
(余裕な顔で触れたいのに…難しいな)
………
…………
肌をすき間なく重ね、うなじに唇を押し当てる…――
夜の帳が下りる頃、艶やかな愛の証が刻まれていく…――

 

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()