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逆転大奥~上様と恋の秘めごと~(ジル)

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この国の城の奥には、上様のための秘密の園『大奥』があって…?
??? 「上様、今宵は誰を指名なさいますか…?」
あなたが寵愛する彼は誰…――?
………
ジル 「教えてください、上様」
ジル 「貴女が想いを寄せる相手とは誰なのですか…?」
……
??? 「上様にふさわしい相手は、俺しかいねえだろ?」
華やかな男たちが集う大奥を舞台に、
今、恋の秘めごとが花開く…――

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プロローグ:

――…ここは、上様と呼ばれる女将軍が治める国
この国の城の奥には、上様のために作られた秘密の園『大奥』があった。


(今日も、気が進まないな…)

毎朝の日課である総触れのために、大奥へと繋がる廊下を歩いていく。
総触れは、朝の挨拶とともに夜の相手を選ぶ場でもあるため、
これから向かう先にいるのは、私のために集められた男の人たちだ。

(大奥に集められた人の中から正室を決めることになってるけど…)
(いくらお世継ぎのためとはいえ、好きでもない人を夫にするなんて…)

こっそりと息をつくと、
後ろを歩いていた大奥総取締役のレオが、顔を覗き込んでくる。
レオ:上様、何か考えごとしてるでしょ?
吉琳:え…?
レオ:顔に出てるよ

(…っ、いけない)

表情を引き締めると、同じく後ろにいた教育係のジルがふっと微笑む。
ジル:何を考えているのかは大体わかりますが…
ジル:上様、これも将軍としてのお務めです
ジル:お世継ぎができることは、国の安泰にも繋がりますから…
吉琳:…わかってる
ジル:でしたら、そろそろどなたかをご指名いただきたいものですね
吉琳:それは…もうちょっと待って

(わがままが許されるような立場じゃない)
(それでも…ずっと一緒にいることになるなら、愛する人を選びたい)

そんな会話を交わしているうちに、御鈴廊下の前に辿り着いた。
レオ:上様、準備はいい?
吉琳:うん
頷くと、辺りに鈴の音が響き、目の前の襖が開かれる。

***

御鈴廊下に足を踏み入れ、両側にずらりと並ぶ男の人たちの間を進んだ。

(…あ)

奥に進むと、一際目立つ存在を視界に捉える。

(第一正室候補のルイに…第二正室候補のカイン)
(第三正室候補のノアは…今日もいないみたい)

ちらりと視線を巡らすと、ふいに着物の裾に足を引っ掛けてしまう。
吉琳:…っ
転びそうになったその時、ちょうど近くにいたルイが体を支えてくれた。
ルイ:上様…お怪我はありませんか?
吉琳:大丈夫…ありがとう
カイン:どんくせえやつ
小さな呟きが聞こえてきたような気がして、カインの方を振り向く。
吉琳:…何か?
カイン:いえ、何も。上様

(何かあるとすぐ突っかかってきて…カインっていつもこうだな)
(ルイは優しいけど、正室を望んでるわけじゃないし…)
(ノアもさぼってばっかりだから、興味がないんだと思う)

やっぱり、この中から誰かを選ぶことなんてできそうにないと、
心の中で深く息をついた。

***

総触れを終えた後、政務が始まるまで縁側で休んでいると…――
???:上様

 

どの彼と過ごす…?
>>>ジルを選ぶ

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第1話:

――…真っ青な空に白い雲がたなびく、心地いい朝
総触れを終えた後、政務が始まるまで縁側で休んでいると……
ジル:上様
吉琳:ジル…?

名前を呼ばれて振り返ると

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはジルがいた。
ジル:そろそろ、政務のお時間ですよ
吉琳:わかった、すぐ行く
教育係のジルは、私が即位した時から仕えている優秀な臣下でもある。

(ジルのことは、誰よりも信頼してる)
(でも…)

ジル:ああ、そうだ。政務の前に一つご報告が…
ジル:近日中に、大奥に新しい側室候補を迎えることになりました
吉琳:え、また…?
ジル:上様にご指名いただける男性が、今の大奥にはいないようですから
大奥をあまりよく思っていない私に対し、ジルは積極的に人を集めてくる。
お世継ぎのためとはいえ、そこは意見が対立していた。
吉琳:…どれだけ人を集めたって、意味ないよ

(私には…――好きな人がいるから)

ジルから顔を逸らしたその時、少し離れた場所に人影を見つけた。
吉琳:あれ、シド…?

(庭を睨みつけてるみたいだけど、何をしてるんだろう?)

顔を上げたシドが、はっと目を見開いて……
シド:…っ、伏せろ!
シドの声と同時に、ジルが私を床に押し倒す。
吉琳:……っ
その瞬間、近くにあった壁に弓矢が刺さった。

(まさか、刺客…?)

シド:ジル、俺が追いかける
ジル:ええ、任せました
ジルが頷くと、シドは矢の飛んで来た方向へと走り出す。
ジル:上様、お怪我はありませんか?
吉琳:…平気。ありがとう、ジル

(怖かったけど…心配させたくない)

震えそうな唇を結ぶと、ジルが肩を支えて体を起してくれる。
ジル:またいつ狙われるかわかりません。ひとまず、移動しましょう
吉琳:うん…
怖さを紛らわすように手を握り込んで、歩き出す。

***

――…その日の夕方
ジルと政務を終えて部屋に戻ると、シドがやって来た。
吉琳:刺客を捕らえてくれたって聞いたよ
吉琳:ありがとう、シド
シド:礼を言うにはまだ早えだろ
床に腰を下ろしたシドが、ふと真剣な顔をする。
シド:お前に矢を放ったのは雇われた忍びだった
ジル:誰が雇ったのか、見当はつきましたか…?
シド:いや、まだ調査中だ
シド:今、城の奴らが首謀者を聞き出してるとこだが…
シド:なかなか口が堅えから、情報が揃うのは夜になるかもな
吉琳:そっか…シド、引き続きよろしくね
そう言うと、シドがにやりと口角を上げる。
シド:言っとくが、報酬はもらうからな
吉琳:わかってるよ
シドは私の臣下ではなく情報屋で、いつも報酬と引き換えに動いてくれている。
ジル:それにしても、上様の護衛がいない時を狙われたのだとすれば…
ジル:今回の騒動には、城の者が絡んでいる可能性が高いですね
ひそめられたジルの声音に、心が不安で曇っていく。

(確かに、私の情報を得ることができるのは内部の人間だけ…)

シド:しばらく一人にならない方がいいんじゃねえか?
ジル:それなら…
ジルがふと、艷やかに微笑んで…――
ジル:この機会に、正室候補のどなたかと夜を過ごしてみてはいかがですか…?

(え…っ)

告げられた言葉に、思わず目を見開く。
吉琳:そ…そこまでする必要はないんじゃないかな
ジル:ですが万が一のことを考えると、そばに人がいた方が安心でしょう?
吉琳:でも、私と一緒にいたら危ないし…
ジル:優秀な護衛に守らせますから、安心してください
有無を言わせない声音に、言葉を失う。

(ジルはそうまでして、私に正室候補を選ばせたいんだ…)
(私には、想い続けてる人がいるのに…)

微かに顔をうつむけると、ジルが息をついた。
ジル:冗談ですよ
吉琳:え…?
シド:よく考えろよ、上様
顔を上げると、シドが皮肉な笑みを浮かべる。
シド:その正室候補が、実は上様の暗殺を企む首謀者だった…
シド:なんてことも、あり得るだろうが

(そっか…そうだよね)

首謀者がどこにひそんでいるかわからない状況では、
常に人を疑ってかからないと危ない目に遭うかもしれない。

(刺客に狙われることの多い立場とはいえ…)
(人を疑わないといけないのは、嫌だな)

手を握り込むと、突然シドが立ち上がり、私の髪をぐしゃっと乱した。
吉琳:…っ、いきなり何するの
シド:へえ、泣いてんのかと思ったが違ったか
吉琳:こんなことで泣くわけないでしょ
むっとして言い返すと、シドが口の端を持ち上げる。
シド:ならいいが…上様がしけた面すんじゃねえよ

(もしかして、シドなりに心配してくれてるのかな…?)

ぽんぽんと軽く頭を撫でてから、シドがジルに向き合う。
シド:情報探ってくる。…報酬ははずめよ?
ジル:ええ、用意しておきましょう
シドはそのまま振り向くことなく、襖を開けて去っていった。

(…シドのせいで、髪がぐしゃぐしゃ)

乱れた髪を整えようとすると、私より先にジルの手が髪に触れる。
ジル:直しますから、じっとしていてください
吉琳:あ…ありがとう、ジル
ジルはかんざしを挿し直しながら、言葉を選ぶように口を開く。
ジル:今は泣かなくても…
ジル:泣きたくなったら、いつでも胸を貸しますよ…?
吉琳:もう、ジルまで…
からかうような声音には、どこか優しさも混ざっている。

(ジルもシドも、心配してくれてる)
(上様として、こんなことで怖がっていられないよね)

不安を振り払うように、息を吸って背筋を伸ばした。

***

――…その日の夜
布団で横になっていると、廊下から足音が聞こえてきた。

(こんな時間に誰だろう…?)

体を起こして耳を澄ますと、足音が部屋の前で止まる。

(誰…?)

問いかける前に、部屋の空気が揺れて…――
吉琳:……っ…ん…
突然口を覆われて、はっと息を詰める。
???:静かにしてください

(あ、この声…)

手が離れて振り向くと、そこにはジルの姿があった。

(そうだ…今日はジルも一緒だった)

万が一に備えて、ジルが隣の部屋に待機してくれていたことを思い出す。
ジル:どちら様ですか?
ジルが襖の向こうに声をかけると……
シド:刺客じゃねえのは確かだな
シドが面白そうに笑いながら、襖を開いた。

(なんだ、シドだったんだ…)

見慣れた姿に、ほっと胸をなで下ろす。
ジル:こんな夜中に上様のもとを訪ねるのは無作法ですよ
シド:怒んなよ。お前らが急ぎで知りてえはずの情報持って来ただけだ

(急ぎで知りたいって…まさか……)

シドは周囲を気にするように視線を巡らすと、襖を閉める。
シド:上様に刺客を送った奴の情報を得た

(やっぱり…)

静まりかえった暗闇の中で、鼓動の音が響く。
ジル:捕えた刺客が白状したのですか…?
シド:ああ。だが、雇い主の顔は知らないそうだ
シド:わかってるのは、大奥の人間だってことくらいらしいな
吉琳:嘘…
ジル:それは、厄介なことになりましたね
緊張が空気を支配して、無意識に息を呑む。

(大奥に、私の暗殺をたくらんでる人がいるってこと…?)

 

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第2話:

(大奥に、私の暗殺をたくらんでる人がいるってこと…?)

ジル:現時点では情報が少なすぎます
ジル:引き続きシドに調査を頼むとして、上様はしばらく警戒するように
ジル:よろしいですね…?
ジルの言葉に、動揺を隠してそっと頷いた。

***

――…翌日の朝
総触れの支度を整えていると、ジルが部屋にやって来る。
ジル:おはようございます。昨夜は眠れましたか?
吉琳:うん。ジルが隣の部屋にいてくれたから、安心して眠れたよ

(ほんとは誰が首謀者なのか考えちゃって、眠れなかったんだけど…)

悟られないよう告げると、ジルが困ったように微笑む。
ジル:そのわりには、眠そうですが…
吉琳:っ…そんなことより、早くしないと総触れに遅れちゃうよ
話を強引に逸らすと、ジルは小さく息をついた。
ジル:いえ…本日の総触れは中止です
吉琳:中止…?
ジル:大奥内に犯人がいるそうですからね
ジル:首謀者を捕らえるまでの間、大奥への立ち入りは控えてください
吉琳:…いいの?
ジル:いいとは…?
吉琳:ジルのことだから、護衛の数を増やしてでも総触れをするかと思って…
ジル:私はそこまで鬼ではありませんよ。上様のお命が何よりも大切です
吉琳:そっか…ありがとう

(大奥に首謀者がいるのは不安だけど…)
(しばらく正室について考えなくていいのは、気が楽かも)

ひそかに胸をなで下ろすと、ジルが顔を覗き込んでくる。
ジル:嬉しそうな顔ですね…?
吉琳:そ、そんなことないよ
吐息が触れそうな距離に、頬が微かに熱くなるのを感じた。

(ちょっと、近い…)

思わず視線を逸らすと、ジルが怪訝そうな顔をする。
ジル:前々からお聞きしたかったのですが…
ジル:貴女には、想いを寄せる方でもいるのですか…?

(……っ、気づかれてたの?)

ジルの言葉に、胸の奥が大きく音を立てる。
ジル:…やはりそうですか
目を見張る私に、ジルは微かに眉を寄せた。
ジル:頑なに正室候補をお選びにならないので、もしかしてとは思いましたが…
ジル:相手はどなたなのですか?
吉琳:それは…

(ジル、だけど…)

心の中で呟いた瞬間、ずっと隠してきた淡い想いがあふれてくる。

(ジルは優しくて、頼りになって…)
(時々からかってくることもあるけど、いつも私を守ってくれる)

この先もずっと隣にいてほしいと願えば願うほど心はジルに惹かれ、
いつしか正室の話をするたびに、心が痛むようになった。

(痛くなって、初めてジルが好きだって気づいたんだ…)

吉琳:…そんなこと聞いて、どうするの?
わずかな沈黙の後、ジルが静かに口を開く。
ジル:…反対しているわけではないのですよ
ジル:よほどの者でない限り、私は上様のご意向で側室か正室にすることを許します

(え……)

顔を上げると、微笑みを浮かべたジルと視線が重なる。
ジル:その者を大奥に入れてはいかがでしょうか…?
吉琳:本気、なの…?
ジル:ええ。お世継ぎのためでしたら仕方ありません
ジルは頷くと、私の頬を軽く撫でた。
ジル:教えてください、上様
ジル:貴女が想いを寄せる相手とは誰なのですか…?
伺うように瞳を覗き込まれ、鼓動が揺れる。

(ずっと、この想いを伝えることが出来なかった…)

ジルはいつも、お世継ぎのためだと正室や側室を薦めてきて…
私のことを意識していないのだとわかるたびに、心が苦しかった。

(でも、本当の気持ちから逃げたくない)
(ジルが誰でもいいって言うなら…)

高鳴る胸を押さえながら、そっと口を開いて…――
吉琳:私が好きなのは…――ジルだよ
ジル:…………っ
いつも真摯に私を見つめていた眼差しが、初めて大きく揺れる。
吉琳:ジル…?

(どうして、そんな顔をするの…?)

思わず名前を呼ぶと、ジルの表情が険しくなった。
ジル:それは…何の冗談ですか?
吉琳:冗談じゃないよ
吉琳:私が正室として迎えたいのは、ジルだけだから
ジルを真っ直ぐに見つめて告げると、唇に人差し指を乗せられる。
ジル:私は貴女の臣下であって、恋愛の対象ではありません
ジル:貴女の相手は、大奥の中で見つけるべきです
吉琳:…っ、よほどの者でない限り受け入れるって言ったのはジルなのに
ジル:私はその『よほどの者』に該当するでしょう…?
拒むような冷たい声音に、胸の奥がずきりと痛む。

(断られることはわかってた…でも)

吉琳:…私は一人の人しか愛せないから、大奥の人間は受け入れられないよ
震えそうな声を抑えて告げると、ジルが唇から指を離す。
ジル:貴女が一人の人しか愛せないというのであれば、それは私ではいけません
ジル:…私では、貴女の身分にふさわしくない
吉琳:そんなこと……っ
ないと続けようとした言葉を、ジルは緩く首を振って遮る。
ジル:貴女もご存じでしょう?
ジル:私は能力を買われ城に上がった、ただの商家の人間です
吉琳:でも…
ジル:私を選ぶことは貴女のためになりません。どうか、諦めてください
重ならない視線に、ジルの意志の固さを思い知る。

(それでも…簡単に想いを割り切ることなんてできないよ)

吉琳:いやだって、言ったら…?
小さな声で尋ねると、ジルは私の顎を指先で持ち上げて……
ジル:それなら、私にも考えがあります
間近に迫ったジルの瞳が、私を見据えるように細められる。
ジル:首謀者を見つけたら、貴女には正室候補の方と一夜をともに過ごしてもらいます
吉琳:…っ、そんな…
ジル:これは決定事項です
有無を言わせない口調で、ジルに言葉を遮られる。
ジル:貴女が本当に私を愛してくださっているのなら…
ジル:お願いを聞いていただけませんか…?

(そんな言い方…ずるい)

言葉を失くした私を離して、ジルは何ごともなかったように笑みを浮かべる。
その様子に、心がひどく痛んだ。

***

――…ジルが吉琳のもとを去った後
ジルが部屋に戻ると、そこにはくつろいだ様子で床に座っているシドがいた。
ジル:シド…勝手に部屋に入らないでください
苦い顔で告げるジルに、シドはくっと笑みを浮かべる。
シド:さっき上様と面白そうな話してたじゃねえか
ジル:…聞いていたのですか?
シド:ああ。取り込み中のように見えたから、室内には入らなかったけどな
ジル:…貴方が近くにいたということは、何か報告でもありましたか?
シド:まあな。だが、その話をする前に…
シドが言葉を区切って、ジルに面白がるような視線を向ける。
シド:お前、どうすんだよ?
ジル:……どうもしませんよ。上様には諦めていただきます
ジル:それが…上様のためでもありますから
何かを堪えるような顔できっぱり言い切るジルに、シドがにやりと笑う。
シド:なあ、お前ほんとは前から上様が自分を好きだって気づいてただろ
ジル:…そんなわけないでしょう
シド:俺はそうは思わねえ
ジルの否定を、シドは一蹴して笑みを深める。
シド:お前が大奥に人を入れるのは、自分の想いを諦めさせるためのようにも見えたけどな
ジル:…………
シド:ま、身分の低いお前を選んだら大名たちは黙ってねえだろうし
シド:上様が苦労するのは目に見えてる
ジル:…貴方に言われなくてもわかっています
シド:だろうな。お前の判断は、上様第一の教育係としては正解だ
シドは立ち上がると、ジルと向かい合った。
シド:…立場を抜きにした、お前の気持ちはどうだか知らねえが
ジル:馬鹿なことを言うのはやめてください
そう言いつつ、ジルは微かに目を伏せる。
ジル:……それより、貴方の報告を聞かせてください
ジル:首謀者の正体でも突き止めましたか?
シド:ああ、目星はついた。後は証拠を掴むだけだ
強引に話題を変えたジルに、シドは小さく肩をすくめた。

***

――…数日後の朝
私の部屋を訪れたジルが、先日の一件の首謀者を捕らえたと話を切り出した。
ジル:上様のお命を狙っていたのは、将軍家の遠縁の方でした
吉琳:…っ、身内だったんだ…
吉琳:動機は…何だったの?
ジル:お世継ぎがいない間に上様を暗殺して…
ジル:自分の家から新しい将軍を輩出しようと企んでいたそうですよ

(権力目当て…ってことかな)
(珍しいことじゃないけど、こういうことがあるたびに心が痛くなる)

吉琳:ジル、報告ありがとう
吉琳:シドにも、報酬をたくさん渡しておいてくれる?
ジル:かしこまりました
頭を下げたジルが、ふと思い出したように顔を上げる。
ジル:それより上様…
ジル:首謀者を捕らえましたし、本日から総触れを再開しようと思っています
吉琳:……っ、ちょっと待って
ジル:何か問題でも?

(ジルは、私の想いを知ってるはずなのに…)

言葉を遮るように、ジルの淡々とした声が続く。
ジル:以前約束したでしょう…?
ジル:本日は、第一正室候補のルイ様をご指名ください

(あの時の言葉、本気だったんだ)

ジルの言葉に唇を噛みしめると、指先でそっとなぞられて…――

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

ジル:本日は、第一正室候補のルイ様をご指名ください

(あの時の言葉、本気だったんだ)

ジルの言葉に唇を噛みしめると、指先でそっとなぞられて……
ジル:上様…傷つきますよ
吉琳:……っ
くすぐったい感覚に、胸が甘く焦れる。

(ジルに触れられるだけで、こんなにもどきどきするのに…)
(それでも、他の人を選ばないといけないの…?)

苦しい想いを堪えながら、そっと口を開く。
吉琳:ルイと夜を過ごすことが…ジルの望みでもあるんだよね?
ジル:ええ、先日申し上げた通りです
はっきりと告げられた言葉に、視界が滲みそうになった。

(想いを割り切ることはできないけど…ジルを困らせたいわけじゃない)

深く息を吸って、顔を上げる。
吉琳:わかった…
吉琳:今日の総触れで、ルイを指名するよ
ジル:…ありがとうございます

(ジル…?)

ジルの瞳が大きく揺れたような気がしたけれど、
瞬きの後にはいつもの表情が目の前にあった。

(一瞬、前に好きって伝えた時みたいな顔したように見えた)
(お礼を言うなら、どうしてそんな顔するの…?)

***

その後開かれた総触れで、約束通りルイを指名して
心に痛みを抱えたまま、夜を迎えることになった…――

寝所に入ると、先に来ていたルイが心配そうな眼差しを向ける。
ルイ:上様…
ルイ:俺を指名したのは、どうして?
吉琳:それは…
ルイ:君は、大奥の人間を選ぶことを避けてたから…
ルイ:今の状況は、自分の意思じゃないでしょ?
吉琳:…やっぱり、ルイにはお見通しだよね
第一正室候補であるルイとは幼馴染で、つき合いが長い。
年も近く話しやすいため、悩みを相談することもよくあった。

(ルイになら…話してもいいかな)

吉琳:実は…――
これまでのことを話すと、ルイが微かに目を伏せる。
ルイ:君は…ジルへの想いを諦められるの?

(ジルにまったくその気がないなら諦めるけど…)

〝吉琳:ジル…?〞
〝ジル:それは…何の冗談ですか?〞

(あの時見たことのない顔をしたジルのことが、ずっと気になってた…)
(それに……)

〝吉琳:今日の総触れで、ルイを指名するよ〞
〝ジル:…ありがとうございます〞

(今朝だって、まったく何も感じてないって顔はしてなかった…)

吉琳:…諦める前に、もう一度ジルと向き合いたい

(ジルの、ほんとの気持ちを知りたい)

ルイ:…そう
私の言葉に、ルイがふっと目元を和らげる。
吉琳:ありがとう、ルイ
優しい頬笑みに、心が励まされたように温かくなった。

***

――…ルイと一夜を過ごした、その翌朝
いつものように朝の支度を整えていると、ジルがやって来た。
ジル:上様、昨夜はいかがでしたか…?
吉琳:別に何もなかったよ
吉琳:…私の想い、知ってるでしょ?
はっきりと告げると、ジルは苦しそうに顔をしかめる。
ジル:貴女は…まだ諦めていなかったのですか?
吉琳:そう簡単には諦められないよ…
心を奮い立たせて、真っ直ぐにジルの瞳を見つめる。
吉琳:私は身分とか関係ない…ジル自身の想いが知りたい
視線が重なったその瞬間、手を掴まれて…――
吉琳:あ…っ
ぐっと体を引っ張られ、ジルの顔が鼻先に近づく。
ジル:そのようなことを知ってどうするのです…?
ジル:貴女に想いを伝えたとしても、私の考えは変わりませんが…
間近で視線が絡まり、跳ねる鼓動を抑えながら言葉を探す。
吉琳:…それでも、いい
吉琳:知れば、ジルへの想いを閉じ込めて…きっと正室を選べるから
ジル:…………っ
見開かれたジルの瞳が、大きく揺らいだ気がした。

(何とも想ってないなら、きっとこんな顔はしない)
(もしほんの少しでも、好きになってもらえる可能性があるなら…)

小さな希望にすがるように、
もう一度胸の真ん中を占める想いを紡ぎ出す。
吉琳:嫌われてないなら…好きになってもらえるように頑張る
吉琳:私は、ジル以外の人を選ぶつもりは…――
ジル:それ以上は言わないでください
低くかすれた声が響くのと同時に、うなじに手を添えられる。
吉琳:っ……ジル?
ジル:どうして、貴女は…
優しく引き寄せられ、唇に吐息が触れた瞬間……
レオ:上様、入ってもいい?
ジル:…!
吉琳:…っ
襖の向こうからレオの声が聞こえ、お互いに体を離す。
吉琳:は、はい…どうぞ
返事をすると襖が開いて、レオが顔を覗かせた。
レオ:上様…そろそろ、総触れの時間だよ
吉琳:…わかった、今行く
冷静に答える一方で、胸の奥の高鳴りはなかなか治まらない。

(もうちょっとで…唇が触れるところだった)
(レオが来なかったら、どうなってたんだろう…)

思い出すと顔が熱くなり、床に視線を落とす。

(こんな状態で、総触れに行けるかな…?)

騒ぐ鼓動を落ち着かせながら、レオについて行こうとすると……
ジル:――…上様、お待ち下さい
吉琳:え…?
ジルが私の手を掴み、強引に引き止めた。
ジル:レオ、申し訳ありませんが…
ジル:本日の総触れは中止とさせてください

(ジル…?)

驚いて振り返ると、ジルと視線が重なる。
ジル:…上様の体調が優れないようですので
吉琳:っ…
優しく頬を撫でられて、また頬に熱が上った。
レオ:そうなんだ。…そういえば、少し顔が赤いね
吉琳:そ、そうかな…?
ごまかすように首を傾げると、レオが心配そうな顔で頷く。
レオ:今日の総触れは中止するよ。みんなにも伝えておくね
ジル:ありがとうございます
レオは疑うことなく、一礼して部屋を出る。
ジル:…嘘をついてしまいましたね

(あれだけ、総触れを薦めてたのに…)
(私を行かせないように嘘をついたのはどうして…?)

しんと静まりかえった部屋の中で、そっとジルを見上げる。
吉琳:ジル、どうしてあんな嘘を…?
ジル:…貴女のせいですよ
吉琳:私…?
目を見張る私を、ジルが強く抱き寄せて…――
ジル:貴女が、あまりに真っ直ぐだったので…
ジル:歯止めが効かなくなってしまいました
吉琳:…っ、なに、それ…
耳に触れた唇が、甘い囁きをこぼす。
ジル:私の想いを知りたいと、貴女は言っていましたね
吉琳:う、ん…
頷くと、広い腕に力が込められて、苦しそうな吐息が耳をくすぐる。
ジル:――…愛しています
吉琳:…!
ジル:貴女のことを…心から
切なげな声で告げられたジルの言葉を呑み込むのに、少しだけ時間がかかった。
ジル:これが…先ほどの質問の答えです
吉琳:……っ、ん
頬に添えられた手が私の顔を持ち上げ、柔らかな熱に唇を覆われる。
愛しさを込めるように重なった唇は、ゆっくりと時間をかけて離れていった。
ジル:…ずっとこうして触れたかった
吉琳:…っ、それなら、どうして最初から触れてくれなかったの…?
ジル:…愛しているからこそ
ジル:上様である貴女には、ふさわしい相手を選んでほしかったのですよ
間近で広がる儚い笑顔に、目を奪われる。
吉琳:ジルじゃ、だめなの…?
ジル:ええ。身分の低い私が正室になれば…
ジル:きっと城の老中や有力な名家が黙っていないでしょう

(ジルは私のために、ずっと悩んでくれてたんだ…)
(でも…そんなことで、ジルを奪われたくない)

吉琳:…見くびらないで
ジル:上様…?
吉琳:そのくらいのこともどうにかできないで、国を治めることなんてできないよ
目を見張るジルの頬を、両手で包み込む。
吉琳:私の諦めが悪いことは、ジルが一番知ってるはずでしょ…?
吉琳:ジルは今まで、誰よりも私のそばにいてくれたんだから
吉琳:もっと、私を信じてよ
凛とした声で告げると、ジルが今にも泣きそうな顔で微笑みを作った。
ジル:――…やはり、あなたには敵いそうにありませんね
ジル:さすが、私の愛した上様です

(ジル…)

頬から手を離すと、ジルが床に膝をつく。
ジル:上様…いえ、吉琳
ジル:貴女の気持ちが変わらないようでしたら…
ジル:私を、正室として貴女のそばに置いてください
吉琳:…っ、もちろん

(この想いは、ずっと変わらないよ)

深々と頭を下げたジルを、屈んでぎゅっと抱きしめる。
吉琳:ジル、顔を上げて
ジル:…今上げると、貴女に無礼なことをしてしまいそうですが
吉琳:ジルになら、何されたって嬉しいから…いいよ
頬を緩めると、ジルがそっと顔を上げた。

(え…?)

ようやく見えた瞳は、どことなく艷をはらんでいるように見えて、
甘い予感に胸が震える。
ジル:前言撤回はなしですよ…?
吉琳:…っ、うん…
色めいた眼差しに視線を絡められ、誘われるように瞼を閉じると、
今までの想いを伝えるかのように、唇が深く重なった…――


fin.

 

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エピローグEpilogue:

吉爾後

――…想いを交わした後に待っていたのは、寵愛する彼との甘い日々
今宵の秘めごとが、彼目線で描かれていく……
…………
………
(相変わらず無防備に、私の心を揺さぶってくれますね…)

ジル:教育係ではなくなってしまいましたが…
ジル:今度は、夜の作法をお教えする必要がありそうですね…?
………
…………
声を誘うように、柔らかく胸元を噛んでいき…――
夜の帳が下りる頃、艶やかな愛の証が刻まれていく…――

 

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()