新版王宮 劇情活動-Royal Prince Stage~わ

100プリ★アイドルプロジェクト

Royal Prince Stage ~わたしだけのアイドル~ [後編](ジル)

吉爾

――…いつも100プリを愛してくれるプリンセスたちに、感謝を込めて…
3周年記念シナリオイベントでは、王子様たちがアイドルになって登場…!
気になるストーリーは……?
――…芸能事務所『Wistein(ウィステイン)』に所属する、大人気アイドルたち
今をときめくアイドルとあなたの、秘密の恋の行方は…?
…………
ジル:吉琳、大丈夫ですか?
吉琳:うん。練習のおかげでキスのフリは慣れたし
吉琳:本番のキスシーンも落ち着いて演技に集中できると思う
ジル:そうですか…
ジル:…それはそれで、複雑ですね
…………
歌にモデルに演技に大活躍な彼らとする、秘密の恋のストーリー……
あなたはどのアイドルと恋をする…――?

 

 

 

新版王宮 劇情活動-Royal Prince Stage~わ

 

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プロローグ:

――…煌めく星が夜を明るく照らす頃
アイドル事務所『Wistein』主催で開かれるコンサートの会場には、多くの女性が集まっていた。
…………
???:みんなー、今日は来てくれてありがとう!
キラキラと輝き始めたステージの上、
そこに12人のアイドルたちが立ち並び、歓声が沸き起こる。
アラン:バーカ、そんなに騒がなくても聞こえてる
カイン:最初からこのテンションじゃ、夜は越せねえぞ
ノア:みんな、今日は最後までついて来てくれるかなー?
ルイ:声援ありがとう。…嬉しい
ジル:それにしても…ここからだと集まった皆さんの顔がよく見えますね
クロード:ああ。顔もだがうちわもよく見えるな
レオ:あそこの派手なうちわは… 『手を振って』って書いてあるのかな?
レオ:そんな可愛いお願いなら、いくらでも聞くよ
シド:『罵って』ってうちわも見えんな
シド:そのお願いも叶えてやろうか?
アラン:…今の言葉に歓声が上がんの、おかしいだろ
アルバート:それより俺は、『ゼノ様至上主義』といううちわが気になります
アルバート:この会場にはゼノ様を慕う者がたくさんいるようですね。
アルバート:さすがです、ゼノ様
ゼノ:…そうか
ゼノ:皆の声は確かに受け取った。今夜は楽しんでいってほしい
ロベール:そろそろ時間みたいだね
ロベール:12人揃っての一夜限りのコンサートを始めようか
ユーリ:今夜は俺たちが、みんなに最高の時間をプレゼントするよ!
…………
彼らは、今をときめく人気アイドル。
この中で、あなたの視線を釘づけにするのは誰…――?

 

どの彼と過ごす…?
>>>ジルと過ごす

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第1話:

 

――…眩い太陽が、オレンジ色を残して沈んでいく夕暮れ
…………
夕日に照らされた遊歩道を息をきらしながら走っていると、
追いかけてきたカインに後ろから腕を掴まれる。
カイン:…っ、待てって言ってんだろ!
吉琳:離して! あなたと話すことはもう何もない
カイン:お前になくても、俺はあんだよ!
振り向くと真剣な眼差しとぶつかり、その必死さに一筋の涙がこぼれ落ちる。
カイン:俺は――…お前が好きだ
吉琳:…っ……
ジル:それは聞き捨てなりませんね
カイン:…!
低い笑い声がカインとの間を引き裂き、強引に肩を抱き寄せられる。
吉琳:あっ……
ジル:彼女は私の婚約者です。あなたにはお引き取り願いたい
カイン:てめえ…
睨み合うジルとカインを見守り、息を呑んだ瞬間……
監督:……カット!
監督のかけ声が聞こえ、現場は一瞬で穏やかな空気に戻った。
監督:いやあ驚いた。今の演技、三人ともよかったよ!
吉琳:本当ですか?
監督:ああ、特に君は主演は初めてと聞いてたから不安だったんだが…
監督:素晴らしい演技力だった。これなら次回作も任せたい
吉琳:…っ…ありがとうございます!

(初めてドラマの主演を務めることになって、緊張してたけど)
(ちゃんと涙が出てよかった)

ジル:よかったですね、吉琳
吉琳:はい…!
監督:じゃあ、カメラチェックするから少しそこで待っててくれ
カイン:わかりました
監督は満足そうに頷いて、カメラマンのそばへ戻っていく。
カイン:珍しいよな、あの監督が若手を褒めるの
吉琳:そうなの?
ジル:あの監督は、役者の演技指導に厳しいと有名なのですよ
ジル:ですが吉琳、さっきのシーンは本当に見事な演技でしたね
吉琳:ありがとう! ジルにそう言ってもらえると自信が持てるよ
吉琳:…カインに掴まれた腕はちょっと痛かったけど
腕をさすると、カインがむっと片眉を上げる。
カイン:仕方ねえだろ。お前、本気で逃げやがって
吉琳:あれは、ああした方がいい演技になると思ったから…!
ジル:二人とも、喧嘩はそこまでにしてください
ジルが微笑んで、睨み合う私たちの体をそっと引き離す。
ジル:どちらも素晴らしい演技でしたよ
ジル:お互い協力し合って、このドラマを成功させましょうね…?
吉琳:そうだよね…っ、頑張ろう
カイン:ったく、わかってるよ
新人の私とは違い、
ジルとカインには人気アイドルらしい華やかなオーラが漂っている。

(いつも思うけど…この二人に釣り合うようないい演技をしなくちゃな)

そう心に決意した時、監督の呼ぶ声が聞こえた。
カイン:こっち来て、カメラチェックしてくれだと
ジル:私たちも映像を確認しましょう
吉琳:うん
心地よい夕陽の光を肌に感じながら、私たちはカメラの元へ向かった。

***

――…ドラマの撮影が終わった、その日の夜
…………
スタッフたち:かんぱーい!!
明るいかけ声とともに、撮影スタッフたちと賑やかな打ち上げが始まる。

(みんないいシーンが撮れて嬉しそう)

微笑ましく見ていると、隣に座るジルが小皿を持ち上げた。
ジル:吉琳、何か取り分けましょうか?
吉琳:そんな、私がやるよ
ジル:遠慮しないでください。
ジル:あなたの座る位置からは料理の大皿が遠いでしょう?

(ジルって演技だけじゃなくて、気配りもできてすごいな)

吉琳:ありがとう。それじゃ、お願いしてもいい…?
ジル:ええ、少し待っていてくださいね
カイン:ジル、俺のも頼む
ジル:そう言うと思っていましたよ。お皿をこちらに頂けますか?
カイン:ああ
私の向かいに座るカインにも頼まれて、ジルが器用に料理を取り分けていく。
吉琳:そういえば、
吉琳:ジルはこの間から夜の情報番組のニュースキャスターになったんだよね?
ジル:ええ、番組のプロデューサーに声をかけていただきました
カイン:情報番組に出んの、アイドルでは珍しいけどお前は向いてるよな
吉琳:うん。ジルは博識だしね
吉琳:あのニュース番組、私いつも見てるんだよ
ジル:では、同じ事務所の先輩として
ジル:未熟なところを見せないよう頑張らないといけませんね
ジルは料理の乗った小皿を私に渡しながら、微かに苦笑する。
ジル:ですが、キャスターの仕事は初めてなので不足しているところもあるでしょう
ジル:貴女の目に、
ジル:キャスターとして仕事ができているよう映っていれば良いのですが
吉琳:不足なんて、そんなことないよ
吉琳:この間だって、臨時ニュースが入っても冷静に対応してたでしょ?
カイン:ああ、それなら俺も見てた。表情一つ崩さなかったよな
ジル:あれは突然とはいえ、原稿は渡されていましたよ…?
吉琳:でも動揺しないで読み上げられるなんて、やっぱりすごいと思う
熱を込めて告げると、ジルが眩しそうに笑顔を広げた。
ジル:ありがとうございます。貴女にそう言われると自信が持てますよ

(これからもジルがニュースを伝えてくれるの楽しみだな)

頬を緩めて正面を向くと、目の前のカインと目が合う。
吉琳:そういえばカインも、
吉琳:再来週から始まるバラエティ番組の司会に選ばれたんだよね?
カイン:なんだ、もう知ってんのかよ
吉琳:実は私、今回のドラマの宣伝のために番組に呼ばれてるんだ
吉琳:番組は『Wistaria Quintet』のメンバーとやるんだよね。緊張してる?
カイン:しねえよ。いつもの面子だしな

(自信満々だな。)
(でも、コンサートでもみんなをまとめてるし、当然なのかも)

――…カインはアイドルユニット、
『Wistaria Quintet』のリーダーを務めている。

(オフではこういう話し方だし、ぶっきらぼうな態度だけど…)
(テレビの前だと甘い笑顔を見せてるから、人気が高いんだよね)

吉琳:自信があるのはいいけど、本番で失敗しないでね?
カイン:馬鹿か、俺様が失敗なんかするわけねえだろ
ジル:確かに、
ジル:以前見せて頂いたコンサートでもトークを上手く回していましたしね
ジル:私も番組を楽しみにしていますよ
カイン:ああ、任せろ
飲み物のグラスに口をつけるカインの顔を覗き込む。
吉琳:撮影の時はお手柔らかにね、司会者さん?
カイン:足引っ張んなよ
カインは意地悪に笑うと、ふいに真顔になって私に顔を近づけた。
カイン:ん? お前…
吉琳:な…何?
カイン:なんか、すげえ顔真っ赤だぞ?
吉琳:え…飲みすぎたかな?
首を傾げていると、ジルの手が頬に触れた。
吉琳:…っ…ジル?
ジル:確かに…少し熱いですね

(言われてみると、体が熱いかも)
(それに、ちょっと頭がくらくらしてきた…)

吉琳:少しお酒がまわったみたい…
カイン:外で涼んできた方がいいんじゃねえか?
吉琳:そうだね、ちょっと席を外させてもらおうかな
ジル:監督やスタッフには私から事情を伝えておきましょう
吉琳:ありがとう。それじゃ、行ってきます
二人に見守られながら、私は少しだけふらつく足取りで店を出た。

***

外へ出ると、ひやりとした夜風が肌を冷やす。
そのことに心地よさを感じながら、私は夜空を見上げた。

(…ジルもカインも、自分の活躍する場所を見つけてすごいな)
(私も、もっと頑張らないと)

小さくため息を落とすと、後ろから肩を叩かれた。
ジル:吉琳、よろしければ家までお送りしましょうか?

 

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第2話:

 

ジル:吉琳、よろしければ家までお送りしましょうか?
振り返るとジルがいて、ペットボトルの水を手渡してくれる。
吉琳:ううん、平気だよ。あと、お水ありがとう
吉琳:…私、一人じゃ帰れないほど酔ってるように見える?
ジル:いえ。
ジル:言動はしっかりしていますし、ひどく酔っているわけではなさそうですが…
言葉を切ると、ジルが軽く頬を撫でる。
ジル:それでも、貴女のことが心配なんですよ
吉琳:…っ
微かに熱の滲んだ瞳に見つめられ、微かに胸が高鳴る。

(ジルが好きだから…こんな風に見つめられるとドキドキする)

けれど、熱っぽい眼差しを向けられるのは今日が初めてではなかった。

(瞳を見る限り、ジルも同じ想いを抱いてくれてるんじゃないかなって思う)
(でも、想いを言葉にはできない…お互いスキャンダルは避けなきゃいけないから)

ジル:まだ少し頬が熱いですね…?
吉琳:…すぐにおさまるから平気だよ
体の熱が余計に上がりそうで、さり気なく視線を逸らす。
吉琳:心配してくれてありがとう。…マネージャーと一緒に帰るね
ジル:ええ、そうしてください。その方が私も安心できます
頬からジルの手が離れ、寂しい気持ちだけが残る。
ジル:もう少し介抱して差し上げたいところですが…
ジル:ここは人通りが多いですから、誰かに見られては誤解されてしまいますね
吉琳:…そうだね、気をつけないと
前にも、後ろにも進めないジルとの関係にもどかしさを感じながら、
私はその気持ちを隠して笑顔を返した。

***

――…翌日も、私はジルと共にドラマの撮影に参加していた
休憩に入り、撮影場所から少し離れた場所に用意された椅子に腰を下ろす。

(えっと今後の撮影シーンは…)

先程スタッフから受け取った台本をパラパラめくっていると、
ヒロインが婚約者とキスをするシーンが目に入った。

(婚約者って…ジルと!?)

ジル:吉琳、どうしました?
吉琳:ううん…っ、何でもないよ
ジル:そのわりには、うろたえているように見えますが…?
隣に座っていたジルが台本を覗き込む。
ジル:ああ、このシーンですか
ジル:キスシーンがあることは、オファーを受けた際に聞きませんでしたか?
吉琳:聞いてたよ。でも、その時は相手役が誰かは決まってなかったし
吉琳:実際に撮影が迫ってくると緊張しちゃって…

(私、ちゃんと演じられるかな)

不安に眉を下げると、隣からくすりと笑みが聞こえた。
ジル:なるほど、貴女はこういったシーンは初めてなのですね
吉琳:うん…
ジル:それは緊張するのも無理はないですね。ですが…
ジル:初めての相手が私で光栄ですよ
吉琳:…っ……
艶めいた笑みに見つめられ、恥ずかしさにそっと目を逸らす。

(こんな風に見つめられるだけで落ち着かない気持ちになるのに、キスなんて…)
(でも、恥ずかしがってないでちゃんと演じなきゃ)

考え込んでいると、ふいに顎を指ですくい上げられた。
吉琳:ジル…?
ジル:大丈夫です。貴女を取って食うわけではありませんから、安心してください
ジル:それに、今回はキスのフリをするだけですよ
吉琳:え、そうなの?
ジル:ええ。このシーンならフリでごまかせるでしょう
ジル:こうやって…
ジルは目を細めると、顔を傾けて……
吉琳:……!?
息を呑んだ瞬間、ジルの顔が鼻先でぴたりと止まる。
ジル:カメラから見えないように顔を傾ければ、キスをしているように見えます
ジル:もっとも、本番ではもう少し唇を寄せる必要がありますが
吉琳:…っ…そっか、こんなやり方もあるんだね

(ほんとにキスされるのかと思った…)

壊れそうなほど大きくなる鼓動に目を伏せると、ジルの指が離れた。
ジル:いきなり本番で撮るのが不安でしたら、練習につき合いますよ?
吉琳:練習って…
ジル:キスの仕方がわからないのでしょう…?
ジル:慣れるまで私と練習するのはいかがですか?
ジル:貴女のためなら、喜んでつきあいますよ

(ジルとキスの練習…?)

どこか色気を含んだ瞳に答えを返せずにいると、
ふっとジルが表情を和らげた。
ジル:冗談ですよ
吉琳:あ…そっか、そうだよね

(真剣な顔してたから、本気かと思った。でも…)

フリだけとはいえ、いきなり本番でうまく演じられるか、やっぱり不安が残る。

(ジルにはさっき冗談だって言われたけど…)

吉琳:あの…ジル。キスのフリの演技なんだけど、
吉琳:本当に練習をお願いしたら困る…?
遠慮がちに尋ねると、ジルが目を見張った。
ジル:それは…貴女が本気なら構いませんが
吉琳:よかった…! それじゃ、お願いしてもいいかな?
吉琳:今のままだと不安で…本番でちゃんと演技ができるようにしたいから
真っ直ぐに見上げると、ジルの唇に苦笑が浮かぶ。
ジル:貴女は演技に対して、本当に真っ直ぐでひたむきですね
ジル:そういうところを好ましく思いますが…
ジルが言葉を止め、自分の口を手で覆った瞬間…――
ジル:私がキスをフリで止めないとは考えないのでしょうか…?
強い風に木々がざわめき、ジルの呟きがかき消された。
吉琳:ジル? 今なんて…
ジル:いえ、何でもありませんよ
緩く首を振ったジルは、悩ましげな表情を柔らかな笑顔に変えた。
ジル:それでは、次の休みにでも練習しましょうか
吉琳:ありがとう…! お願いします
ジル:ええ

***

――…その日の夜
…………
くたくたになって家に帰ってきた私は、着替えもせずベッドに倒れ込んだ。

(明日の練習どうしよう…自分から言い出したこととはいえ)
(キスシーンの練習なんて心臓が持たないかも…)

しかも、相手は片想いの相手であるジルだ。
熱くなった顔を枕に押しつけたその時、
タイマーをセットしていたテレビが自動でついた。

(あ…もうそんな時間)

顔を上げると、いつも見ている夜の情報番組が始まる。

――ジル 『皆さん、こんばんは。』
――ジル 『本日のオープニングはスタジオ前からお送りします』

(ドラマの撮影後に大変そうだな…)
(でも、もともとよく見ていた番組でジルの姿が見られるのは嬉しい)

ジルがキャスターになってからは、さらに番組が楽しみになり、
タイマーまでセットして必ずチェックするようになった。

(でも、ジルはずっと芝居を中心に活動してきたのに)
(どうしてキャスターの仕事を引き受けたんだろう…?)

テレビを眺めているとだんだんと眠気に襲われ、
やがて私は深い眠りに落ちていった。

***

――…数日後、ジルも私も、お互いに仕事が休みの日
…………
私たちは演技の練習のため、事務所が所有する建物を訪れていた。
ジル:この場所を使うのは久しぶりですね

 

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第3話:

 

ジル:この場所を使うのは久しぶりですね
吉琳:うん、そうだね

(許可があれば自由に使っていい場所だから)
(ジルの演技指導を受ける時によく使ったっけ)

木の香りを吸いこむと、懐かしい想い出が蘇ってくる。

(確か、まだ私が女優としてデビューしたばかりの頃…――)

〝吉琳:あの…っ、ジルさん。お願いがあります〞
〝ジル:何でしょうか?〞
〝吉琳:…私に演技の仕方を教えてもらえないでしょうか?〞
〝ジル:貴女にですか? どうして…〞
〝吉琳:いきなりで、ずうずうしいのはわかっています〞
〝吉琳:でも今回、ジルさんとドラマで共演して痛感しました〞
〝吉琳:私はジルさんと比べて、演技が未熟すぎます〞
〝ジル:貴女はまだ新人なのですから、仕方のないことですよ〞
〝吉琳:それでも甘えは許されません。視聴者をがっかりさせたくないんです〞
〝ジル:…芝居の腕なら、他にも優秀な俳優が事務所内にいるでしょう〞
〝ジル:どうして私を選んだのですか…?〞
〝吉琳:…ほんとは共演する前から、テレビに映るジルさんに憧れてたんです〞
〝ジル:え…?〞
〝吉琳:とあるドラマでの、ジルさんが涙を流すシーンに…すごく感動して〞
〝吉琳:私もあんな演技ができるようになりたいって強く思ったんです〞
〝吉琳:だから、できればジルさんに演技の指導をお願いしたくて〞
〝ジル:…………〞
〝吉琳:…ジルさん?〞
〝緊張しながら見上げると、ジルさんがふっと口元を緩める。〞
〝ジル:…事務所に、練習できる場所の貸し出しを申請しないといけませんね〞
〝吉琳:…! それじゃ…〞
〝ジル:私から演技指導を受けるのでしょう?〞
〝ジル:言っておきますが、私は生徒を甘やかしませんから覚悟してくださいね…?〞
〝吉琳:…っ…ありがとうございます!〞

それからジルは新人の私を無下に扱うことなく、丁寧に芝居の仕方を教えてくれた。

(そばにいるうちにたくさんの優しさに触れて…)
(ジルの芝居に対する真摯な姿勢に、気づいたら恋をしていた)

ジル:懐かしいですか?
吉琳:え?
振り向くと、ジルが微笑んで首を傾げる。
ジル:ずいぶん物思いに耽る顔をされていたので
吉琳:うん。ここにはジルとの色んな想い出があるなと思って
ジル:最近はお互い忙しくて、ドラマで共演する機会でもないと逢えませんからね
吉琳:そうだね…

(でも、どんなに逢えなくてもこの想いが薄れることはなかった)

懐かしそうに室内に視線を向ける横顔を見ていると、
ふと気づいたようにジルがこちらを向く。
ジル:さて…そろそろ練習を始めましょうか?
吉琳:うん! お願いします
気合いを入れるように両頬を叩き、私は鞄から台本を出した。

***

社長の令嬢役になりきり、婚約者役のジルに向かい合う。
吉琳:お願い、婚約を解消してほしい
ジル:なぜですか…?
吉琳:私は…親のいいなりになって、好きでもない人と結婚するのは嫌なの
ジル:まだそのような甘いことを言っているのですか?
吉琳:あっ…
ジルが私の手首を掴み、強引に引き寄せる。
ジル:諦めなさい。貴女と私の婚姻は、昔から決まっていること…
ジル:それで納得できないのであれば……貴女が、私を好きになればいい
私を見据えるジルの冷たい瞳が近づいて…――
吉琳:私は…親のいいなりになって、好きでもない人と結婚するのは嫌なの
ジル:まだそのような甘いことを言っているのですか?
吉琳:あっ…
ジルが私の手首を掴み、強引に引き寄せる。
ジル:諦めなさい。貴女と私の婚姻は、昔から決まっていること…
ジル:それで納得できないのであれば……貴女が、私を好きになればいい
私を見据えるジルの冷たい瞳が近づいて……
吉琳:……っ
ぎゅっと目をつむった瞬間、吐息がふっと頬を掠めた。
ジル:力みすぎですよ、吉琳
吉琳:あ……
顔が一気に熱くなって目を開くと、可笑しそうな笑みが目の前に広がる。
ジル:ここまで顔を真っ赤にしては…婚約解消を求める令嬢のようには見えませんね
吉琳:…っ、ごめん
ジル:構いませんよ。そのための練習でしょう…?
吉琳:そう…だよね
艶やかに目を細め、ジルが体を離す。

(余裕な表情…。何だか私だけドキドキしてるみたいでちょっと悔しい)

ジル:どうしました、吉琳? じっと私の顔を見て
吉琳:な…何でもないよ

(落ち着け、私…平常心を保たないと、演じられない)
(これは、仕事なんだから)

深く息を吸ってはき出し、騒ぐ鼓動を落ち着かせる。
吉琳:さっきのシーン…もう一度お願いしてもいい?
ジル:ええ、では同じところから始めましょうか

***

――…数10分後
…………
ジル:吉琳、一度休憩にしましょうか…?
吉琳:…うん、お願い
熱くなった頬を手で覆いながら、壁を背中にして腰を下ろす。

(やっぱり緊張して上手く演技ができない…)

微かにため息をこぼすと、隣に座ったジルが私の頬に触れた。
吉琳:ジル…?
ジル:頑張ってくださいね? 貴女が満足するまでつき合いますから
吉琳:うん…ありがとう
頬を撫でる手は、先程演技で冷たい目をしていた人とは思えないほど優しい。

(こんな触れ方をされると…期待してしまう)

くすぐったいような甘い空気が落ち着かなくて、思わず口を開く。
吉琳:ね、ねえ、前からジルに聞きたいと思っていたことがあるんだけど…
ジル:何でしょう?
吉琳:ジルはどうしてキャスターの仕事を引き受けたの?
ジル:そうですね…アイドルや芝居以外の仕事も経験してみたかったから、でしょうか
ジル:視野が狭まってしまうと、自分の可能性も減らしてしまうので
冷静な声音にはひたむきさが滲んでいて、感心してしまう。

(すごいな…私は目の前のことで手いっぱいなのに)
(ジルはもっと高いものを目指してる)

吉琳:昔からジルは仕事熱心で真面目だよね
ジル:…いえ、私は不真面目ですよ
吉琳:え?
ジル:実は、キャスターの仕事を引き受けた理由は、もう一つ別にあるんです
吉琳:そうだったの?
ジルが気まずそうに眉を寄せ、私から視線を逸らす。
ジル:ええ。…ですが、理由は秘密です

(…? そんなに言いにくい理由なのかな)

不思議に思っている間に、ジルは話を終わらせるように立ち上がった。
ジル:さて、そろそろ練習を再開しましょうか
吉琳:そうだね。もう一度お願いします
ジル:ええ、頑張りましょう
ジルの言葉が気になりながらも、今は芝居に集中することにした。

***

――…数日後、いよいよキスシーンの撮影が行われる当日

(たくさん練習したんだから、大丈夫)
(練習の最後の方は自然な演技になったってジルも褒めてくれたし…)

沈む夕日が映り込む海を眺めていると、ジルが私の肩に手を乗せた。
ジル:吉琳、大丈夫ですか?
吉琳:うん。練習のおかげでキスのフリは慣れたし
吉琳:本番のキスシーンも落ち着いて演技に集中できると思う
自信を持って告げると、ジルは一瞬だけ眉を寄せた。
ジル:そうですか…
吉琳:ジル…?
ジル:…それはそれで、複雑ですね
吉琳:え…?
波の音にかき消えた言葉を聞き返すと、ジルは微笑んで首を振った。
ジル:何でもありませんよ
ジル:それより練習の成果、期待していますね…?
吉琳:う、うん…

(一瞬切ない顔をしたように見えたけど…何て言ったんだろう?)

尋ねようと思ったけれどスタッフが呼びに来て、言葉を重ねることはできなかった。

***

淡い赤色に染まった海を背景に、ジルと向かい合う。
ジル:それで納得できないのであれば……貴女が、私を好きになればいい
吉琳:……っ
練習通り、ジルが強引に腕を掴んで引き寄せる。

(大丈夫。練習の通りに進めれば…)

そう思っていると、ふいにジルの眼差しが熱を宿して……
吉琳:――…んっ…!?

 

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第4話-プレミア(Premier)END:

 

ジル:それで納得できないのであれば……貴女が、私を好きになればいい
吉琳:……っ
練習通り、ジルが強引に腕を掴んで引き寄せる。

(大丈夫。練習の通りに進めれば…)

そう思っていると、ふいにジルの眼差しが熱を宿して……
吉琳:――…んっ…!?
唇が重なり、抑えていた鼓動が一気に跳ね上がる。
吉琳:……っ…や…
思わずジルの胸を突き放し、ハッと目を見開く。

(台本にないことしちゃった…! けど……)

吉琳:なに…するの!
令嬢になりきったまま睨みつけると、ジルが意地悪く目を細める。
ジル:気丈に振る舞ってはいますが、怯えた顔ですね
ジル:こうして男性に唇を奪われるのは初めてですか?
吉琳:…っ……
監督:――…カット!
一瞬の沈黙の後、周りからは割れるような拍手がわき上がった。
監督:素晴らしい! 見ているこっちがつい引き込まれるような演技だった
ジル:光栄ですね
吉琳:…ありがとうございます
ぎこちなく微笑みながらも、撮影が成功したことにほっと胸をなで下ろす。

(でも…)

ちらりとジルに視線を向けると、悪戯っぽい笑みを返される。
吉琳:…ジル、ちょっとこっちに来て
ジル:何でしょうか?
スタッフたちから少し離れた場所までジルを連れて行き、声をひそめる。
吉琳:さっきのはわざと…?
ジル:ええ、そうです
吉琳:…っ…どうして…
ジル:少々悔しかったのですよ
ジル:貴女にキスのフリに慣れたと言われたことが…ね

(…! それでキスしたの…?)

ジル:それに、あの方が婚約者の想いが伝わるでしょう…?
吉琳:そうかも、しれないけど…
ジルの顔を見ていられず、砂浜に視線を落とす。

(ほんとに、より良い演技にするため? でも…)
(悔しかったなんて言われたら…気持ちを抑えられなくなりそうだよ)

好きな人からの初めてのキスは、なかなか私を冷静にさせてくれなかった。

――…この日以降、ジルにキスの真意を聞くことができないまま撮影は進み、
数日間の撮影を終えて、ドラマはクランクアップした

***

――…ドラマが放映されてしばらく経った頃
…………
高視聴率のお祝いにスタッフたちが集まり、打ち上げが開かれた。
カイン:なあ、お前らのキスシーンが世間で話題になってるの知ってるか?
吉琳:えっ、初めて聞いた…
ジル:何と言われているのですか?
カイン:ジルの強引さと吉琳の強気な態度がいいって意見が一つ。それから…
カイン:あんまり迫真の演技だから、実は二人がつき合ってるんじゃねえかって噂だな

(え……)

ジル:…それは面白いですね
カイン:実際のところどうなんだよ?
吉琳:どうって…
ちらりとジルを横目で見ると…――
素知らぬ顔で料理を口に運んでいた。
吉琳:…つき合ってないよ
カイン:ま、そんなことだろうと思った
カイン:恋人の演技がきっかけでこういう噂が流れるのは珍しくねえしな
ジル:ええ、真に受けていたらキリがありませんよ
ジル:それより、グラスが空ですがお注ぎしましょうか?
カイン:ああ、悪いな。頼む
カインのグラスにお酒を注ぐジルから、そっと目を逸らす。

(あのキスシーンを撮ってからずっと…ジルを見るたび胸が苦しい)

偶然スタジオや事務所で逢う時や、テレビで見かける時……
いつももどかしい気持ちが胸を覆う。

(もう、想いがはちきれそうだよ…)

もう一度隣を見ると、ジルと視線がぶつかった。
ジル:吉琳?
吉琳:…っ…何でもない、ちょっと外の空気吸ってくるね

(だめだ…少し頭を冷ましてこよう)

その場から立ち上がり、私は熱い顔を押さえて店を出た。

***

(ジルのことを考えてるうちに、ずいぶん遠くまで来ちゃったな)

ベンチに座って夜空を見上げていると、顔に背の高い影が落ちた。
ジル:…こんなところにいたのですか、探しましたよ
吉琳:ジル…
ジル:女性がこんな夜遅くに一人で出歩いては危ないですよ
ジル:酔っているのでしたら、家まで送りましょうか?
目の前に、ジルの手が差し出される。

(前の打ち上げでも、同じこと言われたっけ…)

〝ジル:吉琳、よろしければ家までお送りしましょうか?〞

あの時は、スキャンダルになるのを恐れて断ってしまった。

(頷いたら…何か、変わるのかな)
(お互いの将来のために、いけないってわかってるけど…)

心配そうな瞳を見ていると、自然と言葉がこぼれた。
吉琳:お願いしても、いい…?
見上げながら手を掴むと、ジルが一瞬息を呑む。
ジル:本当にいいのですか?
吉琳:うん。…ジルに送ってほしい
はっきり意思を伝えると、ジルはわずかに眉をひそめた。
ジル:私の気持ちに気づいていてそう言っているのなら…
ジル:紳士的に送るだけでは済まないかもしれませんよ?
吉琳:…いいよ。ジルが相手なら後悔しない
ジル:…では、お送りします
私を立ち上がらせたジルの瞳は、何かを探るように真剣な色を灯していた。

***

家について玄関に入り、扉を閉める。
その瞬間、ジルが私を囲うように壁に手をついた。
ジル:…吉琳、想いを隠すことはやめたのですか?
静かな低い声が間近で響き、息苦しいほど胸の音が速くなる。
吉琳:ジルの方こそ…やめたの?
ジル:貴女が隠しているから、私も隠していただけですよ
ジル:スキャンダルになって困るのはお互い様でしょう…?
吉琳:…やっぱり、ジルも私と同じことで悩んでたんだ

(でも…もう気持ちを閉じ込めておけそうにない)

悩ましげに眉を寄せているジルも、同じ気持ちなのではないかと思う。
ジル:貴女を困らせるのは不本意だったので
ジル:今まで想いを明確にはしてきませんでした。ですが…
言葉を重ねながら、ジルの手が優しく私の前髪を撫でる。
ジル:伝えなくても貴女の中から私への想いが消えるのは嫌だったので
ジル:少々子供っぽい手も使ってしまいましたよ
吉琳:どういうこと…?
ジルは悪戯に唇をつり上げると、髪を撫でていた手で頬を包んだ。
ジル:前に、貴女は私に聞いたでしょう?
ジル:なぜキャスターの仕事を引き受けたのかと
吉琳:それって、演技の練習につきあってもらった時のこと…?
ジル:ええ

〝ジル:実は、キャスターの仕事を引き受けた理由は、もう一つ別にあるんです〞
〝吉琳:そうだったの?〞
〝ジル:ええ。…ですが、理由は秘密です〞

ジル:あの時私が言った、キャスターの仕事を引き受けたもう一つの理由は…――
ジル:貴女があの情報番組を毎週見ていることを知っていたからです

(え……)

吉琳:でも、プロデューサーに頼まれたって…
ジル:それは本当ですよ。ですが、いい機会だと思ったのです
ジル:共演の機会でもないと滅多に逢えない貴女に、私をもっと意識してもらうには…ね
吉琳:…!

(それじゃ、よく見る情報番組にジルがキャスターとして出るようになったのは)
(偶然じゃなくて、私のためでもあったの…?)

思いがけない事実にジルの想いを感じて、頬が熱を帯びていく。
ジル:気持ちが抑えられなくなるほど、貴女が私を意識してくれればいいと思ったんです
ジル:そして、貴女から想いを引き出せたらと…そんなことを考えていたのですよ
吉琳:想いを引き出せたらって…
見上げると、ジルはふっと柔らかな笑みを浮かべた。
ジル:貴女とスキャンダルになる覚悟を、私はもう決めています
ジル:ですから、貴女も私の想いに追いついてくださるのを待っていたのですよ
吉琳:ジル…

(やっぱり、私を想ってくれているのは勘違いじゃなかった)
(でも、ここまで本気で私のことを想ってくれてたなんて…)

愛しさに胸が詰まって、そっと口を開く。
吉琳:…悔しいな。ジルの思惑通りになったかも
ジル:吉琳…?

(だって、ジルの気持ちをはっきり言葉で聞いた今…)
(もう気持ちが抑えられない)

自然と笑顔がこぼれて、ジルの大きな手に自分の手を重ねる。
吉琳:私、ずっと前からジルが好きだった
吉琳:ジルを想うと胸が苦しくて…お芝居のキスじゃ満足できないよ
ジル:…やっとその言葉を聞けましたね
頬を包むジルの手に力がこもり、瞳が近づいて……
吉琳:…んっ……
唇が重なり、ジルの手が撫でるように私の手首を掴む。
体を固定するように私を壁に押しつけると、ジルは熱を溶かすようにキスを深くした。
吉琳:ん……、ふ……

(…っ…カメラの前でキスした時と…全然違う)

滑り込んだ舌先に翻弄され何も考えられなくなった頃、濡れた音をたてて唇が離れた。
吉琳:あ…
ジル:…今度演技で貴女とのキスシーンを求められたら
ジル:お芝居どころではなってしまうかもしれませんね
吉琳:そうだね…もう噂どころじゃすまされないかも

(きっと、私たちが周囲に認められるまで問題は山ほどある。だけど…)

吉琳:それでも…恋人になってもいいですか?
囁くように尋ねると、ジルがくすぐったそうに笑って額を重ねる。
ジル:もちろんです
ジル:私も、もう貴女への想いを抑えられそうにないので
熱の滲んだ視線を、今度こそ逸らさず見つめ返す。
これから始まる二人の未来に、胸の高鳴りを感じた…――


fin.

 

新版王宮 劇情活動-Royal Prince Stage~わ

 

エピローグEpilogue:

後記

――…アイドルな彼との甘くて幸せな日々は、まだ終わらない
彼の心があなただけに動く瞬間が、彼目線で描かれていく……
……………
…………
(吉琳といると、何かを考えるより先に想いが口をつく)
(これが、演技ではなく…本気で人を愛するということなのでしょうね)

ジル:そうでなければ…こんな余裕のない表情はできないでしょう?
キスで赤い痕を刻み、お腹の下の肌もきつく吸い上げていく…――
…………
……………
アイドルの彼があなたに見せる素顔は特別で、とびきり甘い…――

 

新版王宮 劇情活動-Royal Prince Stage~わ

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