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王子様と真実の恋(ルイ)

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プリンセスを迎えに来てくれるのは、
いつだって守ってくれる、運命の王子様…―
………
ルイの澄んだ瞳が、真っ直ぐにあなたを見つめ…―
ルイ:…沐沐は俺の大事な人だから
ルイ:何があっても…沐沐を好きな気持ちは変わらないよ
………
大好きな彼の愛に包まれて、
おとぎ話のようなハッピーエンドがあなたを待っている…―

 

(感謝沐沐提供文字檔唷~~)

 

 

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プロローグ:

 

空いっぱいに星が瞬く、ある夜のこと…―
いつもより早く公務が終わり、私は自室の本棚を眺めていた。

(今日は久しぶりに、ゆっくり本でも読もうかな…)
(あっ、この本…)

どれにしようかと悩んでいると、ふと一冊の本に目が留まる。
少し古びたその本は、
昔よく城下の子供たちに読んであげていた、おとぎ話の短編集だった。

(懐かしいな…どのお話も、すごく素敵で…)

私は本を手にソファに腰掛けると、
城下にいた頃に想いを馳せながら、読み進めていく。

(あれ…?)

ふいにあるタイトルが目に留まり、手を止めた。

(この本…ずっと前から持っているものなのに…)

沐沐:…このお話も入ってたっけ…
思いがけず出逢ったおとぎ話に、自然と頬が緩む。
期待で胸が高鳴るのを感じながら、
私はゆっくりとページをめくった…―

 

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どの彼と物語を過ごす?
王子様との恋の行方は‥―
おとぎ話のようなハッピーエンドが待っているよ

>>>ルイを選ぶ

 

 

 

第1話:

 

沐沐:雪の女王…か
私は美しい挿絵が書かれた本に視線を落としたまま、目を細めた。
そこには女王と、その腕の中で力なく目を閉じる男性の姿が描かれている。

(綺麗だけど、なんだか切ない感じの絵だな…)

その時、視界の端に置き時計の針が重なり合うのが見えて、
慌てて本を閉じる。
沐沐:あ…もうこんなに遅い時間だったんだ

(このお話は、今度ゆっくり読もう)

私は机にそっと本を置き、ベッドに横になった…―

***

翌日…―
公務に出かける支度を終えた頃、ドアがノックされる音が響いた。
ゆっくりとドアが開き、ルイが静かに入ってくる。
ルイ:沐沐、準備できた?
沐沐:うん、迎えに来てくれてありがとう
現れたルイに、私はにっこりと微笑んだ。
今回の公務は、ウィスタリアの北にある雪の国を視察することだった。
まだあまり親交が深くない国だけれど、
プリンセスとして視察してほしいと招待を受け、
ルイと共に向かうことになっている。

(ルイも一緒だから楽しみだな)

自然と胸が弾むのを感じていると、ルイがぽつりと呟く。
ルイ:でも、俺まで招待されるなんて思わなかった
沐沐:それは……
ルイが招待された経緯を思い出して、わずかに頬が熱くなる。
ルイはそんな私を見て、小さく微笑んだ。
ルイ:恋人同士でどうぞって…書いてあったね
沐沐:うん…

(一緒にいられるのは嬉しいけど、)
(こんな風に招待されるのは、少し照れてしまうな…)

私が口ごもっているうちに、ルイはさらりと気持ちを告げる。
ルイ:俺は沐沐と一緒に出かけられて嬉しい
真っ直ぐに言われて、頬がますます赤くなってしまう。

(ルイからそんな風に言われて嬉しくないわけない…)

私はルイの顔を見つめると、まだ冷めない頬に手をやりながら告げた。
沐沐:私も…ルイと出かけられて嬉しい
ルイが小さく微笑み、手を差し伸べる。
ルイ:行こう
沐沐:うん
差し出されたルイの手を取り、
そうして私たちは一緒に城を出た…―
馬車に乗り込むと、車輪の軋む音と共に外の景色が動き出す。
石畳の上を走る馬車に揺られながら、
向き合って座っていたルイが口を開いた。
ルイ:沐沐は、雪の国に行くのは初めて?
沐沐:初めてだよ
答えると、ルイは少し考えるように目を伏せて…―
ルイ:そう…じゃあ到着するまでに、雪の国について知っておいた方がいい
どこか真剣な声でそう告げた。
沐沐:ルイは行ったことがあるの?
ルイ:うん、一度だけだけど
頷いたルイが膝の上で手を組んで、説明を始める。
ルイ:雪の国はとても寒くて…
ルイ:寒冷地でしか咲かない、不思議な植物や食べ物がたくさんあるんだ
ルイ:中には危険なものもあるみたいだから…気をつけて
沐沐:危険なもの…?
訊ねると、ルイがゆっくりと頷く。
ルイ:うん。笑いが止まらなくなったり…
ルイ:記憶が無くなったり
次々に飛び出す言葉に、私は思わず目を見開いた。
沐沐:そんな植物があるんだね…
ルイ:うん…でもまだ分かってないことの方が多いみたい
本にも載っていない種類があると、ルイが説明してくれる。

(それじゃあ気をつけようとしても、)
(どうやって避ければいいのかも分からないよね)

沐沐:見分ける方法はあるの?
私の質問に、ルイは少し困ったように眉を寄せる。
ルイ:ううん…とりあえず、道に咲いている見たことのない植物には
ルイ:あまり近づかない方がいいってことくらい
沐沐:そっか…知らない植物には気をつけないとね
ルイ:近づかなければ大丈夫だから…心配ないよ
私を安心させるように言って、ルイは微笑む。

(初めての国だし、気をつけよう…)

私はルイの注意を胸に留めて頷いた。
そうして雪の国の説明を聞いているうちに、
目的地へと到着した馬車がゆっくりと留まった。
ルイは馬車の扉を開けると、先に雪が降り積もった地面に降り立つ。
ルイ:足元に気をつけて
振り返ったルイは私に手を差し伸べて…―エスコートしてくれる。
さりげない優しさに、自然と口元に笑みがこぼれた。
沐沐:ありがとう
ルイの手に自分の手を重ねて、馬車から降りていく。
柔らかに腰に手を添えられて引き寄せられると、鼓動が甘やかな音を立てた。
沐沐:こういうところ…何年経っても変わらないね
はにかんで告げると、ルイは目元を少し染めて微笑む。
ルイ:沐沐は俺の大事な人だから

(そんな風に言われると…)

頬に熱が広がるのを感じた瞬間、
繋いだままの手が軽く引き寄せられ、顔が近づく。
沐沐:…っ
触れるだけの軽いキスが落ちてきて、私はいっそう頬を染めた。
沐沐:…ルイ……

(私、きっと真っ赤になってる…)

けれど、ちらりと見上げたルイの顔もほのかに赤く染まっていて、
私たちはお互いに見つめ合うと、恥じらいながら微笑んだ。
ルイ:行こう。…でも、寒いから手はこのまま
いたずらっぽく笑い、ルイが手を引く。
沐沐:…うん

(ルイの側にいると、ほんの小さなことでも胸が高鳴る)

温かな気持ちに包まれるのを感じながら、
私たちは町を歩き始めた。
ルイ:まずは…宿に向かおう
沐沐:うん、そうだね
ルイ:確か街の外れにあったと思うけど…
言いながらルイが辺りを見回す。
すると、近くにあったお店の店主に声を掛けられ…―
店主:お二人さん、観光客だろ? あの氷の城に行くのかい?
ルイ:氷の城…?
首を傾げるルイを見て、店主がにこやかに笑った。
店主:氷で出来た城みたいな宿のことだよ。ここらでは有名で、そう呼んでる

(そういえば、招待状にはこの街で有名な氷の宿を用意してあるって…)

沐沐:私たちが行く宿…だよね?
ルイ:そうだね
私たちが頷き合うのを見て、店主が気さくに言葉を続ける。
店主:それならこの道を通った方が早い
目の前に伸びた道を指差され、私たちはその先に視線を向けた。
すると遠くに真っ白なお城のような建物が見える。

(わぁ、綺麗…宿ってあそこかな?)

店主:見た目の美しさもさることながら…
店主:あそこに泊まると、何より愛が深まるって話だ
笑みを深めた店主にそう付け加えられて、
私とルイは思わず顔を見合わせる。
ルイ:そんな話があるのは知らなかった
沐沐:うん、そうだね

(でも、愛が深まるなんて素敵な話だな)

ルイ:…道、教えてくれてありがとう
店主:街の観光も楽しんで行きなよ
沐沐:はい。ありがとうございます
そうして私たちは店主にお礼を告げると、宿に向かって歩き始めた。
その後…―

 

 

 

第2話:

 

店主:街の観光も楽しんで行きなよ
沐沐:はい。ありがとうございます
そうして私たちは店主にお礼を告げると、宿に向かって歩き始めた。
その後…―
外観の美しさに目を奪われながらも宿に入る。

(建物の中はもっと綺麗…)

真っ直ぐに伸びた廊下の脇にはキラキラと輝く氷柱が続き、
天井にまで繊細な装飾が施されている。(本当に、全部氷で出来ているんだ…)
言葉も忘れて、息をのんで見つめていると、
ルイが支えるように私の肩を包んだ。
ルイ:上ばっかり見てると、危ないよ
沐沐:気をつけるね。でもすごく綺麗で…
苦笑しながらも、また建物の中を見回してしまう。
沐沐:この氷、全然溶けないんだね
ルイ:一年中…ずっと雪が降ってるから
そっと肩を促され、一緒に宿の受け付けへと向かう。。
すると一人のメイドさんが現れ、恭しく私たちに頭を下げた。
メイド:プリンセス、ハワード公爵、ようこそおいでくださいました
沐沐:お招き、ありがとうございます
メイド:では、ご案内をさせて頂きます
メイドさんは先に歩きながら、後ろを振り返りつつ口を開く。
メイド:歩きながら、
メイド:このお城にある言い伝えをお話させて頂いてもよろしいでしょうか
ルイ:言い伝え?
ルイの問いかけに、メイドさんが微笑む。
メイド:はい。元々この氷の城はいつ出来たものか分からないのですが…
メイド:ここは昔雪の女王が住んでいた城だと言われているのです

(雪の女王…?)

その言葉に、私は昨夜読もうとしていた本を思い出した。

(あの本のタイトルと同じだ…)

メイド:雪の女王は、一人寂しくこの城で暮らしていて…
メイド:今もこの城の中で男性が一人で過ごしていると、
メイド:雪の女王が現れるといいます

(男性って…)

私は思わず隣を歩くルイを見上げる。
沐沐:雪の女王に出逢ったらどうなってしまうんですか?
メイド:男性は女王に魅入られ…
メイド:記憶を奪われて、女王のものにされてしまいます
メイド:くれぐれもお気をつけください

(…ただの言い伝えだよね?)

そう思うものの、あの絵本を思い出したせいか胸が妙に落ち着かなくなる。
俯く私に、ルイが優しく微笑みかけた。
ルイ:離れなければ…平気
沐沐:あ…うん、そうだね

(ルイの言う通り…離れなければ大丈夫だよね)

優しい言葉に、すっと不安が消えていく。
ルイは側にいると言うように、ぎゅっと肩を抱いてくれた。
その様子を見たメイドさんは微笑ましそうに笑みを浮かべて、口を開く。
メイド:それから、もう一つ注意点がございます
メイド:お二人の部屋の近くにある裏庭には、観賞用で様々な植物を植えています
メイド:ですが、
メイド:現在手入れの途中ですのでこちらには立ち入らないようお願いします
メイド:万が一、誤って入り込んでしまった場合は、
メイド:そこにある植物には決して触れないでください

(そういえば、この国には少し危ない植物も咲いてるってルイも言ってたな)

さっきよりも真剣味を帯びた声音に、私はこくりと頷いた。
ルイ:分かった。気をつける
私たちが返事をすると、メイドさんは一礼をして前を向いた。
メイド:ご注意は以上となります。お部屋は廊下の先にございます
窓から射し込む光が氷の壁に反射して、
まるで雪のように七色の光の粒が舞っている。
美しい廊下に見惚れながら、私はルイと一緒に部屋に向かった。
部屋に荷物を置いた後、
私とルイはすぐに雪の国の国王の元に挨拶に出掛けた。
そうして国王様と城下を視察して回り、
会食を終えた私たちは、再び氷の城の部屋へ戻ってきた。
沐沐:見たことのない場所ばかりで勉強になったね
ルイ:うん。一年中雪が降っていると、建物や生活も違うから…
二人でソファに並んで腰かけながらお互いの意見を言い合い、
見て回った雪の国の印象を忘れないうちに書きとめていく。

(できた…ウィスタリアに戻ったらきちんと報告書にまとめよう)

そうして羽根ペンを置くと、目が合ったルイがふっと微笑む。
ルイ:…お疲れ様
ルイ:頑張ったご褒美…あげる
そうして、そっとルイの瞳が近づいて…―
唇が触れそうになった時、ふいに外から物音が聞こえた。
ルイ:今の…
立て続けに聞こえてくる物音に、一瞬視線を見合わせると、
ルイはソファから立ち上がりドアの方へ歩いていく。
そうしてドアを開けた瞬間…
沐沐:あっ…
隙間から何かが部屋に入り込んできた。

(えっ、猫?)

目を見張る間に、その猫は意見を書いていた紙を咥えて歩き出す。
沐沐:待って…!
ソファから立ち上がると、
猫はびっくりしたように一目散に廊下を駆けていった。

(すぐ追いかけなくちゃ…)

後を追おうとする私の肩に手を掛け、ルイがそっと引きとめる。
ルイ:取って来るから…ここにいて
沐沐:あ、ルイ…
そう言って部屋から出ようとするルイの服を、私は思わず掴んでしまった。

(あの話を信じてるわけじゃないけど…でも)

メイドさんから聞いた言い伝えを思い出して、不安がこみ上げる。

(ルイを一人で行かせたくない)

沐沐:やっぱり…私も行っていい?
そう言うと、ルイが不思議そうに眉を寄せる。
ルイ:どうして?
沐沐:えっ、それは……ちょうど、身体を動かしたかったから…
たどたどしく説明すると、ルイがふっと微笑んで私の頬に手を伸ばした。
沐沐:ルイ…?
頬に触れた手のひらに、微かに頬を染めて目を瞬かせる。
ルイは小さく首を傾げるようにして、私を覗き込んで…―
ルイ:もしかして…気にしてる?
ルイ:雪の女王の話
そっと小さく笑みをこぼした。

(気づかれちゃった…)
(子どもっぽいって思われたかな?)

恥ずかしくて視線を逸らすと、ルイは瞳が交わるように自分の方へ向かせた。
前髪が触れ合い、どきりと胸が跳ねる。
沐沐:あの、ルイ…っ…早く追いかけないと
ルイ:うん、でもその前に…正直に言って
からかうような声に、触れられたままの頬に熱が差す。

(ルイには隠せないな…)

沐沐:……本当は、少しだけ不安
正直にそう言うと、ルイの瞳がどこか嬉しそうな色を浮かべる。
ルイ:…可愛い
沐沐:…っ、ルイ…

(ルイは全然気にしてないみたい…)
(私だけ言い伝えを信じてるみたいで、少し恥ずかしい…)

ルイ:俺は誰のものにもならないよ……沐沐だけのものだから
軽く口付けられて、瞳が熱で潤む。
ルイは恥ずかしがる私を見つめ、そっと手を引いた。
ルイ:それじゃあ…一緒に行こう

(ただの言い伝えだって分かってるのに…)
(初めて来る国だから、ちょっと心細くなってるのかも…)

沐沐:うん
手を握ると、優しい指先が私の手をしっかりと掴まえる。
そうして私たちは、猫を追って部屋を出た。
ルイ:あっちの方に走っていったはず
沐沐:行ってみよう
部屋の近くを手分けして探していると、ふいに視界の端で何かが動いた。

(えっ、今の…)

振り返ると、廊下の先に報告書を咥えた猫の姿を見つける。
沐沐:ルイ、あそこに…!
けれど、ルイを呼んでいるうちに、猫は廊下の角を曲がってしまい…

(見失っちゃう…)

私は咄嗟に後を追いかけた。
廊下の先を走る猫は、玄関を出て裏庭に向かっていく。

(裏庭って、確か…)

メイドさんの注意を思い出して、足を止める。
猫は私が追ってこないのをちらりと見ると、
その場に報告書を置いて行ってしまった。

(…いたずら好きな猫なのかな)

苦笑しながら、ゆっくりと裏庭へと出るドアに近づいていく。

(すぐに取って裏庭を出れば大丈夫だよね)

ドアを大きく開き、おそるおそる裏庭に足を踏み入れた。

(何も触らないように気をつけないと…)

周りに注意しながら地面に置かれた報告書を拾い上げ、帰ろうとしたその時、
足先でサクッと何かを踏んだ音がする。
見るとそれは見たことのない植物だ。

(っ…これって…)

けれど、声を上げる間もなく、花粉が辺りに広がって…―

***

沐沐:…あれ、私……

(ここで、何をしていたんだろう…?)

私はゆっくりと周りの景色を見回した。

(ここは…? 私…何か持ってる)
(何の書類だろう…)

手に持っていた紙を目の前にかざしてみるけれど、何も分からない。

(…どうして、私はここにいるんだろう…)

頭は真っ白で、不安という気持ちさえも湧いてこない。
呆然と周りの植物を眺めていると、後ろから声が掛けられた。
???:沐沐!

(え?)

呼びかけられて振り返ると、綺麗な金色の髪の男性が立っている。
目が合うと、彼が言葉を続けた。
???:ここは立ち入り禁止の場所だから、早く出た方がいい

(入っちゃいけない場所だったんだ…)

沐沐:すみません…
???:…大丈夫?
優しく訊ねたその人は、私の元に歩み寄り手を差し伸べる。

(どうして…こんなに親切にしてくれるんだろう?)

胸には疑問と少しの警戒心が浮かび、
私はその手を取ることも出来ずにただ彼を見つめ…―
沐沐:あなたは…誰?
???:え…?

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

胸には疑問と少しの警戒心が浮かび、
私はその手を取ることも出来ずにただ彼を見つめ…
沐沐:あなたは…誰?
???:え…?
目を丸くするその人に、もう一度問いかける。
沐沐:…宿の方ですか?
???:……
その人は何かを言おうとして開きかけた口を、そっと閉じた。

(…なんだか悲しそう)

切なげに細められた目を見ていると、
まるで気持ちが伝わってきたように、胸がぎゅっと締めつけられる。
沐沐:あの…?
様子を伺うように顔を覗き込んだ私に、
その人は一瞬苦しげに眉根を寄せると、小さく微笑んだ。
???:とりあえず…部屋に戻ろう
沐沐:部屋って……

(そうだ、確かさっきまでは部屋にいたはずなのに…)
(どうして、立ち入り禁止の裏庭なんかにいたんだろう…)

考えていると、ふいにそっと手を引かれる。
沐沐:…っ……
その人に触れた瞬間、大きく鼓動が跳ねた。
懐かしさや甘い感情が湧き上がり、胸が早鐘を打つ。
???:大丈夫。俺が君に危害を加えることは…絶対にないよ

(この気持ちは…なんだろう…)
(…どこかで、会ったことがあるのかな)

その手を振り払う気にはなれず、
私はそっと窺うように、少し前を歩く彼の背中を見つめた。
沐沐:あの…どうして私の部屋を知っているんですか?

(さっきの反応を見ていると、宿の人じゃないみたいだけど…)

真っ直ぐに私の部屋に案内してくれた彼に訊ねると、
そっと机の上に乗せられた書類を指差した。

(あっ、私出しっぱなしにして……)

慌てて片付けようとすると、私のものではない字が混ざっているのに気づく。
???:それは…さっきまでここで、一緒に書いていたものだよ
だから隠す必要はないと、その人が微笑む。
沐沐:一緒に……?
首を傾げると、その人が頷く。

(さっきまで一緒に作業していたということ…?)
(でも、知らない人に公務を手伝ってもらうはずは…)

そんなことないと思いつつも、
机の上の書類には確かに二人分の文字で視察内容がまとめられている。
困惑する私に、その人がそっと問いかけた。
???:…自分の名前は分かる?
沐沐:それは、もちろん分かりますけど…
おかしな質問を、不思議に思いながらも答えると、
その人が静かに口を開き…―
???:じゃあ、俺の名前は?
どこか緊張した面持ちで訊ねた。改めてその人の顔をじっと見つめる。

(自分のことは分かるのに…)

覚えていなくて申し訳ない気持ちになりながらも力なく首を振ると、
その人は少し寂しそうに微笑みかけた。
ルイ:俺は、ルイ

(ルイさん……名前を聞いても分からない)
(それに…ルイさんのことを思い出そうとすると頭が痛む…)

これ以上考えることが出来ず、私は正直に答える。
沐沐:ごめんなさい、思い出せません…
ルイ:ううん、気にしないで
そうして首を横に振ったルイさんから色んな質問をされたけれど、
答えられないのは、ルイさんに関する質問だけだった。
ルイ:俺との記憶だけってことはもしかして…
ルイさんが考え込むように、顎に手を添える。
ルイ:裏庭で…危ない植物に触れたのかもしれない
ルイ:大切な記憶だけを失くしてしまう花が、この国にあったはず
沐沐:大切な記憶だけ…
呟くように口にした瞬間、じわりと不安が広がる。
沐沐:その記憶は戻るんですか…?
おそるおそる訊ねると、ルイさんが考えるように目を伏せた。
ルイ:…記憶が戻るという確証はない
沐沐:そんな…
沐沐:忘れたままなんて嫌です…

(それも、忘れているのは大切な記憶だけだなんて…)

焦りを覚えて、必死で思い出そうとする。
私はすがるようにルイさんを見つめた。
沐沐:ルイさん、私たちのことを教えてください
沐沐:どうして私たちは一緒にいるんですか…?
思わず身を乗り出すと、ルイさんはそっと私の手を握って、立ち上がった。
ルイ:…来て

(え…どこへ?)

ゆっくりと手を引かれるまま、私はルイさんの後に続いて…―
外へ出ると、ルイは宿の前に咲いている白い花を指さす。
ルイ:あれが…俺たちの最初の出逢い
ルイ:正確にはあの花じゃないけど…
ルイ:君が幻の白い花を探している時に、声を掛けたんだ

(白い花…)

頭の中にぼんやりと風景が浮かんでいく。
けれど…
沐沐:っ…
思い出そうとすると頭が痛んでしまい、私はこめかみに手を当てた。
ルイ:大丈夫…?
そっと抱き寄せられ、眉を寄せたまま小さく微笑む。
沐沐:はい…大丈夫です。それより、もっと聞かせてくれませんか?
ルイさんは辛そうに表情を歪ませる。
ルイ:辛いなら…無理に思い出さなくていい
ルイ:俺のせいで…沐沐を苦しめたくない
そう言って気遣ってくれるルイさんの方が苦しそうで、
胸が切なく締め付けられる。

(どうしてだろう。ルイさんが辛そうにしていると…私まで悲しくなる)
(ルイさんには笑顔でいて欲しくて…)

そう思ってふと、私はあることに気づいた。
沐沐:…忘れてしまったということは…
ルイ:え…?
ルイさんがふいを突かれたような顔をする。

(さっきルイさんは、大切な記憶だけをなくしてしまうって言ってた)
(記憶がないはずなのに、こんな気持ちになるのは……)

沐沐:私、ルイさんのこと好きだったのかもしれない…
ぽろっと口からこぼれた言葉が、すとんと胸に落ちる。
沐沐:だって、私が思い出せないのはルイさんのことだけだから
そう告げると、驚きの色を浮かべていたルイさんの瞳が大きく揺れて…―

(突然こんなことを言って…困らせてしまったかな)

沐沐:変なことを言って、ごめんなさい…
小さく謝ると、ルイさんは首を横に振る。
ルイ:違う、そうじゃない。…嬉しかっただけだから
沐沐:え?
見つめ返すと、ルイさんは優しく目を細めた。
ルイ:…大丈夫。もし思い出せなくても
ルイ:また…君に好きになってもらえるように頑張るから
そう言うと、ルイさんは真っ直ぐに私を見つめて、告げる。
ルイ:もう一度…俺の恋人になってくれますか
沐沐:ルイさん……
その言葉に、ルイさんのたくさんの優しさが詰まっているよう思えた。

(大切な人なんだって、何となく思っていたけれど…)
(私たち…恋人だったんだ)

優しい言葉は、胸の奥にまで浸み渡り、温かな熱を広げていく。
嬉しさがこみ上げるけれど、同じくらい切なさが胸に溢れた。

(忘れてしまうなんて、)
(きっとそれだけでルイさんを悲しませているんだろうな…)

なんて言ったらいいのか分からず俯く私を、ルイさんが抱き締める。
その温もりは、なんだか懐かしくて心地良かった。
そっとルイさんの胸に持たれると、柔らかい声が耳元に落ちて…―
ルイ:明日、城に戻るまで時間があるから初めてのデートをするのもいいかも
いたずらっぽく言われ、その笑顔に胸が震える。
沐沐:…はい

(きっと、忘れられたルイさんの方が悲しいはずなのに…)

優しい微笑みを浮かべるルイさんを見つめていた瞳が潤み、涙がこぼれる。
沐沐:っ、ごめんなさい…
ルイ:ううん、記憶がないなんて不安なはずだから
沐沐:違うの…ルイさんが優しいから
ルイ:…え?

(驚いてる…なんだか可愛いかも)

そんな顔にも胸がときめき、
私は涙を拭ってくれたルイさんの手をそっと握った。

(ルイさんと恋人なら、私はこの温もりを知っているはずなんだ…)

でも、記憶を失くしてしまった私は、
今少し会話をしただけのルイさんしか知らない。

(それなのに……好きな人といる時みたいに胸がドキドキする)

言葉では言い表せない、甘い気持ちが胸の奥を揺らした。
沐沐:忘れてしまったのに…どうしてそこまで優しくしてくれるの?

(ルイさんにとって、今の私を見ているだけで辛いはずなのに…)

訊ねると、ルイさんは澄んだ目を逸らさずに告げる。
ルイ:…沐沐は俺の大事な人だから
見開いた瞳に、近づいてくるルイさんの顔が広がる。
そっと唇が重なった瞬間、鼓動が大きく跳ねた。

(…私…前にもこの言葉を聞いた気がする…)

優しいキスの感触と共にルイさんとの記憶が胸の奥から溢れてきて、
私はゆっくりと瞬きをした。
ルイ:沐沐は俺の大事な人だから

(そうだ…ルイはあの時も『大事な人』って言ってくれた)

唇が離れ、間近で見つめ合うと私はルイに微笑みかける。
沐沐:悲しい思いさせてごめんね、ルイ
沐沐:思い出したよ…ルイのこと全部
ルイ:…っ…
ルイが息をのみ、私を胸に抱き留める。
ルイ:記憶が戻ったんだね…よかった
嬉しそうな声が耳元で聞こえ、ルイの背中に手を回す。
沐沐:もう…絶対に忘れたりなんかしないよ
約束を誓う唇を、再びキスで塞がれる。

(この温もりを忘れない…)

キスが重なるたびに、胸の中で何度も繰り返す。
吐息が熱を帯び始める頃、ルイの優しい声が耳元に落ちた。
ルイ:何があっても…沐沐を好きな気持ちは変わらないよ


fin.

 

 

 

第3話-スウィート(Sweet)END:

 

胸には疑問と少しの警戒心が浮かび、
私はその手を取ることも出来ずにただ彼を見つめ…
沐沐:あなたは…誰?
???:え…?
目を丸くするその人に、もう一度問いかける。
沐沐:…沐沐って言うのは、私のことですか?
???:……
言葉の意味が理解出来なかったというように、その人が眉を寄せる。
沐沐:あなたは、私を知ってるんですか?
もう一度告げると、その人の目が大きく見開かれた。
沐沐:あの…

(どうしてそんな苦しそうな顔を…?)

心配していると、その人はゆっくりと口を開く。
???:とりあえず…部屋に戻ろう
そうして、温かな彼の手がふいに私の手を取った。
沐沐:あっ…
???:どうしたの…?
沐沐:あの…手を…
???:……そうだったね、ごめん
急に触れられて困惑しながらも告げると、
その声と共にそっと手が離れていく。

(あれ…)

自分から言ったはずなのに、何故か寂しさがこみ上げて、
小さく胸が締めつけられた。

(この気持ちは…なんだろう…?)

私はそっと息をのみ、歩き出すその人の横顔を見上げた。
部屋の中に連れられると、その人は優しい仕草でソファに私を促す。
???:座って
沐沐:はい…
ソファに座ると、その人も私の隣に腰掛けた。
少し身体を傾けて、私の方を向いたその人の、真剣な眼差しが注がれて…―
ルイ:俺は、ルイ
沐沐:ルイ…さん
ぽつりと名前を繰り返すと、ルイさんの表情が少し和らいだ気がした。
ルイ:何か…覚えてることはある?

(覚えてること…)

必死で記憶を探るけれど、頭は霧に包まれたように真っ白なままだ。
沐沐:何も…
首を横に振ると、ルイさんは悲しそうに目を伏せた。
その顔を見ていると、息苦しいほどに胸が痛む。

(どうしてか分からないけれど…)
(ルイさんには…悲しい顔をしてほしくない)

なぜそんな風に思うのかも分からないのに、
そんな気持ちに押されるように自然と身体が動いた。
そっとルイさんの手を握ると、伏せられていた澄んだ瞳が私を見つめる。
ルイ:沐沐…?
沐沐:ルイさんが悲しんでるのを見ると、私も悲しくなるの…
沐沐:理由は分からないけど…
淡く微笑みながら告げると、ルイさんはぎゅっと手を握り返してくる。

(もっと悲しませてしまうかもしれないけど…)
(ちゃんと思い出すために、私たちのことを聞かなきゃ)

沐沐:ルイさんとは…どういう関係だったんですか?
そう訊ねると、ルイさんが困ったように微笑んで…―
ルイ:…仕事の仲間だよ
ゆっくりと、そう告げた。

(そうだったんだ…)

沐沐:じゃあ、私が持っていた書類も仕事に関係するものなんですね…きっと
気づいた時に手にしていた紙を、ルイさんに見せる。
その紙を受け取ったルイさんは、はっとして目を見開いた。
ルイ:この花粉…

(花粉?)

視線を落としてみると、書類には変わった紫色の花粉が着いていた。
沐沐:本当だ。気づきませんでした…

(私が汚しちゃったのかな…もし、大切な書類だったら…)

訊ねようと思ってルイさんを見ると、
その表情は嬉しさを噛みしめるように綻んでいく。
沐沐:ルイさん……?
ルイ:よかった…大丈夫
ルイ:記憶、すぐに戻ると思う
ほっとしたようにそう言って、ルイさんは私を抱き寄せる。
沐沐:っ、ルイさん……

(どうしてこんな…)

まるで恋人みたいに優しく包み込まれた腕の中で、
私は驚いて身体を強張らせた。

(でも…何でだろう)
(すごくドキドキする)

すると、ルイさんの方からそっと身体を離してくれる。
ルイ:っ…ごめん
沐沐:ううん…嫌じゃなかった、ので
照れながらもそう伝えると、ルイさんがそっと話し出す。
ルイ:この国には、ある特殊な花があるんだ
ルイ:その花を踏むと紫色の花粉が辺りに飛んで、
ルイ:それを吸い込むと…一時的に記憶がなくなってしまう
沐沐:…っ……

(…ということは、私はその花粉を吸い込んでしまったということ?)

沐沐:じゃあ、私の記憶は元に戻るんですか?
驚いて訊ねると、ルイさんの目元がゆっくりと和らぎ…―
ルイ:うん。…吸い込む量によって記憶が戻る時間も変わるけど、
ルイ:永遠に戻らなかった人は、いないから
優しく私に微笑みかける。
沐沐:っ良かった…
その言葉を聞いて、私はほっと胸を撫で下ろした。
ルイ:きっと、あの裏庭に生えてたんだと思う
ルイさんの説明を聞きながら、ふと疑問に思う。

(書類を持っていたということは、きっと仕事中だったはずなのに…)

沐沐:何で私…そんな場所に行ってしまったんでしょう?
ぽつりと呟くと、ルイさんがそっと目を細める。
ルイ:…これを探しに行ったんだよ
二人で手分けをして探していたと言って、ルイさんがさっきの書類を見せる。
ルイ:大事な書類だから…立ち入り禁止で危ないって分かってる場所でも、
ルイ:沐沐は取りに入ったんだと思う
沐沐:私が…?
にわかに信じられずに訊ねると、ルイさんが綺麗な笑みを浮かべて頷く。
ルイ:俺が好きな君は…そういう人だから

(えっ…今、好きって…)

目を逸らせないまま、頬だけが熱を帯びていく。
ルイ:…本当だよ
沐沐:ルイさん…
そう言われて、急に恥ずかしさがこみ上げた。
視線を逸らすけれど、ルイさんは私の頬に手を添えて、上を向かせる。
沐沐:…っ……
その瞬間、頭にかかっていた霧が薄れて…

(…この手の感触を、私は知ってる…)
(…前にも…ルイさんはこんな風に……)

沐沐:あの、ルイさん…っ…早く追いかけないと
ルイ:うん、でもその前に…正直に言って

***

目の前で微笑むルイさんを見つめる。
瞳を逸らせずにいると、ルイさんがそっと私の頬を撫でる。
ルイ:責任感があって、いつも一生懸命な所が好きだよ
優しい声が鼓動を揺らし、自然と笑みがこぼれた。

(…ルイ……)

頬に添えられた手に自分の手を重ねる。
甘く滲む視界に大好きなルイの笑顔を映しながら、
心からの気持ちを伝えようと口を開き…―。
沐沐:私も…ルイのことが好きだよ
微笑みかけると、ルイが驚いたように目を見張った。
そんなルイの表情すら愛おしくて、胸が甘く高鳴る。
ルイ:もしかして…記憶が戻ったの?
沐沐:うん
頷いた途端、伸びてきた腕にぎゅっときつく抱きしめられた。
ルイの温もりに包まれて、私はそっとその胸に顔を寄せる。

(ルイのことを忘れてたなんて…)

ルイ:思い出して良かった
沐沐:うん、心配させてごめんね
囁く声に顔を上げると、正面から覗き込まれる。
微かに額を触れ合わせて、見つめ合った。
沐沐:それから…ルイに嘘をつかせてごめん
ルイ:…記憶を失くしている間のことも、覚えてるの?
目を丸くするルイは、少し恥ずかしそうにも見える。
沐沐:うん、仕事仲間って…
沐沐:私を混乱させないように、そう言ってくれたんだよね
ルイ:……
ルイは返事をしなかったけれど、肯定するように優しく目を細めた。
沐沐:ルイに抱きしめられた時、嫌じゃないって言ったけど…
沐沐:本当は…すごくドキドキしてた
照れたように告げる私を、ルイは静かに見つめる。

(好きだって言われたときも、)
(恥ずかしくて驚いたけど、嬉しくもあって…)

沐沐:きっと…何度記憶がなくなっても、私はルイに恋をするんだと思う
ルイ:…俺もだよ
ふっと吐息をこぼした唇が近づき、温もりが重なる。
沐沐:…ん、ルイ……
ルイ:記憶を失くしたのが俺だったとしても…また、君を好きになる
キスをするたび、お互いの吐息と甘い囁きが耳をくすぐる。
ルイ:何があっても…この気持ちは変わらない
ルイ:…愛してる

(何もかも…自分の名前さえ忘れても、)
(ルイへの気持ちは何度でもこの胸に溢れる…)

沐沐:私も…ずっと、ルイだけを愛してる
温かな腕の中で幸せを感じながら、
気持ちを伝えるように降りそそぐ優しいキスに、私はそっと目を閉じた…―


fin.

 

 

エピローグEpilogue:

575498096

おとぎ話のハッピーエンドのその先は…?
ルイ:…可愛い、もっと聞かせて
ルイ:その声…好き
ルイがくれる微かな感触が、
焦らすようにゆっくりと身体の熱をあげていき…―
ルイ:こっち…見て
恋人たちに訪れるのは、愛を深め合う甘い夜。
彼の腕に包まれて、幸せなひとときがあなたを待っている…―

 

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