王子様と真実の恋(ユーリ)
プリンセスを迎えに来てくれるのは、
いつだって守ってくれる、運命の王子様…―
………
重なり合う手から互いの温もりが伝わる中、
ユーリに甘く囁かれ…―
ユーリ:へえ、眠れないんだ?
ユーリ:それなら…今夜はずっと一緒にいよう?
………
大好きな彼の愛に包まれて、
おとぎ話のようなハッピーエンドがあなたを待っている…―
(嘛~因為想拿尤利的裙子就順手存了...=w=)
(這次的早鳥禮服很漂亮的說~只可惜顏色不是我的愛,所以還是pass...)
プロローグ:
空いっぱいに星が瞬く、ある夜のこと…―
いつもより早く公務が終わり、私は自室の本棚を眺めていた。
(今日は久しぶりに、ゆっくり本でも読もうかな…)
(あっ、この本…)
どれにしようかと悩んでいると、ふと一冊の本に目が留まる。
少し古びたその本は、
昔よく城下の子供たちに読んであげていた、おとぎ話の短編集だった。
(懐かしいな…どのお話も、すごく素敵で…)
私は本を手にソファに腰掛けると、
城下にいた頃に想いを馳せながら、読み進めていく。
(あれ…?)
ふいにあるタイトルが目に留まり、手を止めた。
(この本…ずっと前から持っているものなのに…)
吉琳:…このお話も入ってたっけ…
思いがけず出逢ったおとぎ話に、自然と頬が緩む。
期待で胸が高鳴るのを感じながら、
私はゆっくりとページをめくった…―
どの彼と物語を過ごす?
王子様との恋の行方は‥―
おとぎ話のようなハッピーエンドが待っているよ
>>>ユーリを選ぶ
第1話:
吉琳:ヘンゼルとグレーテル……か
ページをめくると、お菓子の家に入ろうとしている兄と妹の挿絵が目に入る。
(可愛いお家…)
そうして夢中になってお話を読み進め、
いつしか私は、本を持ったまま眠りに落ちてしまっていた。
***
翌日…―
私はウィスタリアの近隣国に視察に訪れていた。
隣には、付き添って来てくれたユーリがいる。
ユーリ:国王様、いい人で良かったね
吉琳:うん。すごく楽しかったな
この国の国王陛下と会食を終え、私たちは宿に向かっていた。
吉琳:ユーリ、この後は何か予定あった?
ユーリ:夕方の視察で終わりだよ。でもまだ時間があるし、
ユーリ:宿に戻って少し休もっか。ちょっと疲れたでしょ?
(気にしてくれてたんだ…)
気遣ってくれるユーリに、私は微笑みを返した。
吉琳:ありがとう。でも大丈夫だよ
吉琳:そういえば、宿に行く道ってこっちでいいんだよね?
ユーリ:合ってると思うけど、ちょっと聞いてみようか
吉琳:うん
近くにいた街の人に近づいていくと、話す声が聞こえてくる。
街の人:…またあの森で子供がいなくなったらしいな
(え…?)
ユーリの耳にも届いたらしく、小さく眉を寄せて訊ねた。
ユーリ:あの、今の話ってどういうことですか?
街の人たちは私たちを見て、目を瞬く。
街の人:えっ、ウィスタリアのプリンセスじゃありませんか!
街の人:変な話を聞かせてしまって、すみません…
吉琳:いえ、それで今のお話は?
訊ねると、街の人は迷うように視線を合わせながらも教えてくれた。
その話を聞いたユーリは、深刻な顔をして顎に手を添える。
ユーリ:噂は本当だったんだ…
吉琳:噂って?
ユーリ:この国には子供が消える森があるっていう噂があるんだ
声を潜めて、ユーリが話し出す。
ユーリ:その森は昔、魔女が住んでいたって言い伝えのある場所で、
ユーリ:最近面白がって森に入った子供たちが行方不明になってるみたい
(えっ…そんな恐ろしい所なの?)
不穏な噂に、背筋が冷たくなる。
吉琳:そんな大変なことが起きてるなら、どうにかしないと
眉を寄せて言うと、街の人も困ったように顔を見合わせた。
街の人:子供たちには森に近づかないように注意をしているのですが、手掛かりがなく…
街の人:この国には自警団という組織がいますので、彼らが調べるそうです
そう言われ、視察をした時に聞いた説明を思い出す。
(ウィスタリアは騎士団だけれど、この国には自警団があるんだよね)
街の人:プリンセスも、あの森にはお近づきにならないようにしてください
吉琳:分かりました
(何かしたいけど…むやみに行ったら邪魔になってしまうよね)
真剣な忠告を受けて、頷きを返す。
それから街の人に宿の場所を教えてもらい、私とユーリは再び歩き始めた。
手元の地図と照らし合わせていたユーリがふと呟く。
ユーリ:さっき話してた森って、この後夕方から視察する場所の近くみたい
吉琳:そうなんだ…
地図を見てみると、
確かに視察場所はその森の横を通って行かなければならない場所にあった。
(あんな恐ろしい噂のある森の近くなんて少し怖いな…)
不安そうな顔をしてしまったのか、
ユーリが安心させるように笑みを浮かべる。
ユーリ:俺と一緒だから、行方不明にはならないよ
明るく言ってくれるユーリに、逃げ腰だった気持ちが前向きになっていく。
吉琳:そうだよね。
吉琳:ユーリが一緒にいてくれるんだから怖がる必要なんてないよね
勇気を奮い立たせて微笑むと、ユーリは頼もしく笑みを深めた。
ユーリ:森の獣に遭遇する可能性もあるから、
ユーリ:何かあった時のためにも準備は万全にしておくよ
ユーリ:何があっても俺が守るから、吉琳様は安心して
吉琳:うん、ユーリのこと頼りにしてるね
(ユーリがいてくれれば、心強い…)
そう笑顔を返して笑い合うと、明るい空気が私たちを包み込んだ。
***
森の側にある建物の視察を終え、私とユーリは帰り道をたどっていた。
もう辺りはすっかり暗くなっている。
(暗くなった途端、全然違う場所を歩いてるみたいに思える…)
がらりと雰囲気が変わり、
暗い森には何かが潜んでいるような得体の知れない恐さが漂っていた。
気が急いで足早に歩いていた、その時…―
吉琳:あっ…
何かにつまずいて転びそうになり、前のめりになる。
ユーリ:吉琳様、大丈夫?
伸びてきた腕がしっかりと身体を抱き留めてくれて、
私はほっと息をついた。
吉琳:ありがとう、ユーリ
ユーリ:暗いから気をつけて
吉琳:うん…
ユーリは優しく言った後、その瞳を悪戯っぽく細めた。
ユーリ:転ばないように、抱いたまま森を抜けてもいいけど…どうする?
吉琳:ユーリ…っ
照れてしまってすねたように名前を呼ぶと、
ユーリがくすっと笑みをこぼす。
ユーリ:冗談だよ
ユーリ:暗くて、吉琳様の真っ赤な顔が見られなくて残念だな
吉琳:っ…
冗談だと言ったそばからまたからかわれて、
暗闇の中で頬が熱を帯びていく。
(こんな顔見せられないよ…)
恥ずかしさで俯いていると、ユーリが足元にしゃがみ込んだ。
ユーリ:それより、こんな道の真ん中に物を置かないでほしいよね
(何につまずいたんだろう?)
ユーリが拾い上げたものに視線を向けると…―
それは小さな赤い鞄だった。
吉琳:暗くてよく見えなかったけど…鞄だったんだ
ユーリ:誰かの落とし物かな?
首を傾げながら、ユーリと顔を見合わせる。
吉琳:これ、きっと小さい女の子のものだよね
その時、ふとさっき聞いた会話が頭をよぎった。
街の人:…またあの森で子供がいなくなったらしいな
***
吉琳:もしかしたら、行方不明の子の鞄かも…
不安になって呟くと、ユーリが真剣な声で言う。
ユーリ:とりあえず、自警団に連絡しようか
吉琳:そうだね…
返事をした瞬間、ふいにユーリが森の方へ視線を向けた。
ユーリ:…今、子供の声が聞こえなかった?
吉琳:えっ?
驚きつつも、耳をすませてみる。
すると、森の奥から子供の声が微かに聞こえてきた。
吉琳:本当だ…
声は聞こえるけれど森の中は真っ暗で、子供の姿は見えない。
不安がこみ上げ、森の中に入ろうとすると、
ユーリが私の腕を引いた。
ユーリ:駄目だよ、吉琳様。危ないから
吉琳:でも、このまま置いて行けないよ…
(行方不明じゃなくても、迷子の可能性もあるし…)
眉を寄せて訴えると、
ユーリは少し考えるような仕草をした後、ゆっくりと頷いた。
ユーリ:…分かった。俺も一緒に行く
ユーリ:でも絶対に、俺の側を離れないでね
吉琳:うん、ありがとうユーリ
そうして頷き合うと、私たちは真っ暗な森に向け、足を進めた…―
第2話:
そうして頷き合うと、私たちは真っ暗な森に向け、足を進めた…
はっきりした道もない暗い森の中を、木の幹に印をつけながら歩いていく。
慎重に一歩ずつ足を踏み出していると、ふいに甘い香りが漂ってきた。
(なんだろう…?)
吉琳:花の匂いじゃないよね?
ユーリ:うん、お菓子みたいな甘い匂いだね
そのまま不思議に思いながらさらに進んでいくと、
だんだん甘い香りも強くなる。
ユーリ:もしかしたら、誰かいるのかな?
吉琳:うん…
そんな事を話していると、
やがて木々の間から森の中に建つ一軒の家が見えてきた。
ユーリ:吉琳様、あそこ見て
庭のテーブルの上には焼き立てのお菓子が並べられ、
その周りには一人の女の子とおばあさんが座っていた。
(よかった…)
何か事件に巻き込まれたわけではなかったと思い、
思わずほっとする。
吉琳:こんにちは
ユーリ:こんにちは。おいしそうなお菓子ですね
にこやかに挨拶をすると、おばあさんが顔を上げる。
けれどその視線は鋭く、険しい表情で私たちを見ていた。
老婆:……
吉琳:あの、突然声を掛けてすみません…
おずおずと言うと、女の子が私の手元を見て声を上げた。
女の子:あっ、その鞄……
ユーリ:これ君の鞄?
吉琳:持ち主が見つかってよかった。はい、どうぞ
女の子に鞄を渡そうとした瞬間…
老婆:いいから、お前は家の中に入っていなさい
女の子:……
おばあさんの声が響き、女の子は伸ばしかけた腕をひっこめる。
そして鞄を受け取らないまま、
女の子は怯えるように家の中に追いやられてしまった。
吉琳:あっ…
(どうして…?)
(それに、おばあさんの様子…私たちを警戒してるみたい)
私たちの背後や周囲へ、探るように視線を向けるおばあさんの姿が気に掛かる。
吉琳:この鞄、もしかしてさっきの女の子のものじゃなかったんですか?
拾った赤い鞄を見せても、おばあさんは質問を無視して訊ねた。
老婆:それをどこで拾ったんだい?
ユーリ:森の側に落ちてるのを、吉琳様が見つけたんです
老婆:吉琳様……?
老婆:あんたたち、まさかどこかのお偉い人たちじゃあないだろうね
ユーリが私を呼ぶのを聞いて、おばあさんが噛みつくように言う。
(偉い人って…)
まるでそうだったら不都合でもあるような態度に思えた。
老婆:これはあの子のものじゃないよ。さっさと帰っておくれ
きょろきょろと周囲を警戒するおばあさんを見て、
ますます不信感が募る。
(どうしてそんな態度を? まるで誰かに見られちゃいけないみたいな…)
口には出せずに、ユーリとかすかに視線を合わせる。
ユーリ:……
(ユーリも怪しんでるみたい…)
安堵の気持ちが消え、再び不安が湧きあがる。
この森に入った子供たちが行方不明になっているという噂が頭をよぎった。
(確かめないと、あの女の子をこのままここに置いておけない…)
私は意を決すると、おばあさんに微笑みを向けた。
吉琳:ユーリが吉琳様なんて言うから驚かせちゃったみたいだよ
吉琳:私たち、ただの兄弟なのに
それはとっさに身分を隠すための嘘だった。
けれど、ユーリは察して話を合わせてくれる。
ユーリ:だって、吉琳がお姫様の役がしたいって言ったんでしょ?
ユーリ:ごめんなさい。兄妹でふざけ合っていただけなんですよ
悪戯っぽくユーリが言うと、
おばあさんは観察するようにじっと私たちを見つめる。
老婆:……じゃあどうしてここに来たんだい?
吉琳:それは…森の中で道に迷っちゃったんです
ユーリ:一晩だけ泊めてくれませんか? 暗い森を抜けるのは怖いから…
そう告げると、おばあさんは険しい表情のまま黙り込む。
そして、短い沈黙の後…
老婆:……朝になったらすぐに出てってもらうよ
ユーリ:はい、ありがとうございます!
吉琳:ありがとうございます
おばあさんはしぶしぶ承知すると、家の中に私たちを招き入れてくれた。
家に入ると、私たちは狭い部屋に押し込まれ…―
老婆:兄妹なら一つの部屋で十分だろう
吉琳:えっ…
そう言って、おばあさんはドアを閉めて出ていってしまう。
吉琳:あ、あの…!
老婆:もう寝る時間だよ
ドア越しに声だけが返されて、部屋の中でユーリと立ち尽くす。
ユーリ:……行っちゃったね
吉琳:うん…
家の明かりも消されてしまい、私たちはベッドに並んで腰掛けた。
ユーリ:それにしても、さっきは突然兄妹っていうから驚いちゃった
吉琳:そう言ったら警戒されないかと思って、とっさに…
(やっぱり、少し不自然だったかな…?)
あの時のことを思い出し、おばあさんにバレなくて良かったと胸を撫で下ろす。
するとユーリは目を細めて、私の顔を覗き込んだ。
ユーリ:いつもなら恋人の振りをしそうなのに
吉琳:っ…そうだけど…
距離が近い上に、部屋の中を照らすのは月明かりしかない。
その雰囲気のせいか、ユーリの微笑みが艶めいて見えて鼓動が高鳴り…―
私ははぐらかすように口を開いた。
吉琳:…昨日ね、寝る前にヘンゼルとグレーテルっていうおとぎ話を読んだの
ユーリ:あ、それ兄妹のお話だよね? おとぎ話なんて懐かしいな
吉琳:ユーリ、読んだことあったんだね
吉琳:あの女の子を見たら思い出して、ついとっさに兄妹って言ってしまって…
ユーリ:そうだったんだ
そう頷いた後、ユーリが考えるように腕を組む。
ユーリ:でも、家の中にさっきの女の子はいなかったね
吉琳:うん…そんなに大きな家でもないのに
家に入っていく時の、女の子の暗い顔が頭をよぎる。
ユーリ:もしかしたら、地下があるのかもしれない
ユーリ:寝静まったら調べてみるよ
吉琳:分かった、でも気をつけてね
(あのおばあさんはきっと何かを隠してる…そんな気がする)
心配で眉を寄せると、ユーリは私に笑いかけてくれた。
ユーリ:大丈夫だよ
安心させるようにそっと私の頭を撫でて、額にキスを落としてくれる。
吉琳:…っ、ユーリ
触れられた温もりが伝染したように、一気に熱が広がった。
額に手を当てると、ユーリはにっこりと笑う。
ユーリ:何も心配ないよ
ユーリ:明日の朝までに女の子を見つけて、ここを出よう
吉琳:ありがとう、ユーリ
(ユーリがいてくれるなら怖くない)
胸が温かくなるのを感じた時、部屋に向かってくる足音がした。
ユーリ:……吉琳様、こっち
(えっ……)
その声と共に、ユーリに手を引かれ…―
第3話-プレミア(Premier)END:
ユーリ:……吉琳様、こっち
(えっ……)
その声と共に、ユーリに手を引かれ、ベッドの上に引き上げられる。
吉琳:ユーリ…っ
小さく声を上げると、唇に人差し指が触れる。
ユーリ:もう眠ってると思わせよう?
そのまま身体を抱き締められて、すっぽりとユーリの温もりに包まれる。
(…このまま寝るの?)
訊ねたいのに、間近に迫ったユーリを見つめると、
ドキドキして声を出すことができない。
ユーリは私の唇に当てていた手を、自分の唇にあてる。
ユーリ:しー
(っ…)
悪戯っぽい微笑みに鼓動が跳ねてしまう。
大人しく口をつぐんでいると、ふわりと身体に毛布が掛けられた。
ユーリ:…足音がこっちに来るみたい。目つむってて
(えっ)
毛布の中で潜めた声で告げられ、ぎゅっと目を閉じる。
寝たふりをしていると、
部屋のドアが開けられる音と共に人の入ってくる気配がした。
(だ、誰……? あのおばあさん?)
薄く開いた目にちらりとおばあさんの姿が映る。
緊張で身を固くする私を守るように、ユーリは力強く抱き締めてくれていた。
老婆:……
私たちが眠っているのを確認するようにおばあさんがベッドに近づくと、
ユーリが静かに片手を懐に入れる。
(ユーリ…?)
緊張しながらも息を潜めていると、
やがておばあさんが部屋から出て行き、足音は聞こえなくなった。
ユーリ:…もう大丈夫みたい
吉琳:…驚いたね
顔を見合わせて、ほっと息をついて身体を離す。
懐に入れられていたユーリの片手に短剣が握られているのに気づき、
私は目を見開いた。
吉琳:ユーリ、その短剣…
ユーリ:何かあった時のために準備しておくって言ったでしょ
何でもないように言って微笑んでから、
ユーリは鋭く目を細めてドアの向こうを見つめる。
ユーリ:わざわざ寝ているか確かめに来るなんて、やっぱり怪しいね
吉琳:私もそう思う…
ぽつりと言うと、ユーリは音も立てずにベッドから滑り出る。
ユーリ:ちょっと調べてくるから、吉琳様はここにいて
吉琳:えっ…
(でも、ユーリ一人で行ってもし何かあったら…)
吉琳:私も行くよ
そう言うと、ユーリは困ったように視線をさまよわせる。
ユーリ:でも、何があるか分からないから…
吉琳:だからこそ、一緒に行かせて
吉琳:ユーリに守られてるだけじゃなく…私も守りたい
ユーリ:吉琳様…
ユーリ:うん、分かった
そっと扉を開けたその時、耳に女の子の泣き声が聞こえた。
ユーリ:今の…!
吉琳:行こう…!
顔を見合わせると、ユーリが真剣な眼差しを向ける。
ユーリ:側を離れないでね
吉琳:分かった
しっかりと頷くと、ユーリは私の手を引いて部屋を出た。
部屋を飛び出した私たちの目に飛び込んできたのは、
女の子の手を引いて、家を出ようとするおばあさんの姿だった。
ユーリ:こんな時間にどこに行くんですか?
慌てて駆け寄り、おばあさんを引きとめる。
老婆:このまま何も見なかった振りをして帰れ
(そんなの…)
女の子は怯えた目をして私たちを見つめている。
(こんな状況を見て、見過ごせるはずがない…)
そう思っていると、ユーリが真っ直ぐにおばあさんを見つめて口を開き…―
ユーリ:それはできません
きっぱりと言い放った。
同じように、私も首を横に振る。
吉琳:訳を話してくれるまで、その子を連れて行かせません
老婆:勝手なことを…!
おばあさんの口調に不穏な気配を感じ、ユーリが私を背にかばう。
ユーリ:危ないから、吉琳様は少し後ろに下がってて
ユーリに言われて、少し後ろに下がった瞬間…
吉琳:ユーリ…っ!
おばあさんが後ろ手にナイフを隠し持っているのが目に入って、声をあげる。
(女の子を助けなきゃ…!)
まだおばあさんの近くにいる女の子を放っておくことができず、
とっさに駆け寄る。
吉琳:だめ……!
抱き抱えるように女の子をかばった瞬間、
おばあさんがナイフを振り上げ…
ユーリ:吉琳様…!
背中の後ろで、キンと金属が交わる音が響く。
振り返って見ると、
ユーリの短剣がおばあさんの手からナイフを跳ね飛ばしていた。
老婆:っ…!
その勢いでおばあさんが床に倒れる。
安全を確認しながら、ユーリは床に倒れたおばあさんを捕らえた。
ユーリ:吉琳様、怪我はない?
吉琳:私もこの子も大丈夫
すると、外から大勢の声が聞こえてくる。
ユーリ:っ、まさか仲間が…?
(そんな…っ)
どうか違って欲しいと思いながら、私たちはドアを見つめ…―
二人で身構えると、部屋に足音が雪崩れこんでくる。
自警団:動くな! えっ…あなたはプリンセス!?
(おばあさんの仲間じゃない…)
入って来たのは街の自警団の人たちだった。
ユーリ:助かったみたいだね
吉琳:うん
微笑み合い、私は女の子を抱き締めたまま身体を起こした。
ユーリは自警団におばあさんを引き渡し、私の手にそっと手を重ねる。
自警団:どうして、あなた方がここに?
訊ねられて、この家にたどり着いたいきさつを話した。
自警団:そうでしたか…
自警団:ここの家主が怪しいのではないかと情報があり、
自警団:夜中にこっそり突入して家を調べるつもりだったんです
吉琳:そうだったんですね
(自警団の方々が調べると言うのは、今夜のことだったんだ…)
頷くと、自警団の方が優しく気遣うような声音で口を開く。
自警団:後は我々に任せて、プリンセスたちは先にお帰りください
吉琳:はい…
家を出ようとすると、ユーリが思い出したように自警団に訊ねる。
ユーリ:どうしてプリンセスって知ってたんですか?
自警団:宿の主人からまだプリンセスが戻らないと連絡があったんです
自警団:森で迷っているのかと心配して、あなた方の服装や雰囲気を我々に教えて、
自警団:見廻り中に探してほしいと頼まれまして
(そういうことだったんだ…)
吉琳:心配をかけてしまってすみません
自警団:いえ、宿まで気をつけてお帰りください
(悪いおばあさんもいたけれど…)
(宿のご主人や、自警団の方たちや…この国にはこんなに優しい人もいるんだ)
礼をして去っていく自警団の方を見送りながら、
胸にはみなさんの温かさが沁み渡った。
森の外まで送ってもらい、
私たちは自警団が乗って来た馬車の一つに乗り込んだ。
ユーリ:大変だったね、吉琳様。疲れてない?
気遣ってくれるユーリに、小さく首を振って笑顔を返す。
吉琳:大丈夫だよ
吉琳:でも、今夜は眠れないかも…
ユーリ:……そんなに怖かった?
ユーリは心配そうに私の瞳を覗き込み…―
そっと私の手を包み込む。
(また心配そうな顔をさせちゃったな…)
膝の上で重なり合う手からユーリの温もりが伝わってきて、
ふわりと気持ちがほどけた。
吉琳:そうじゃないよ
首を横に振り、にっこりと微笑む。
吉琳:ユーリと一緒なら、何があっても大丈夫
吉琳:今日だって、ユーリが守るって言ってくれたから…怖くなかった
吉琳:ただ、ずっと緊張していたせいか…目が冴えて眠れそうになくて
苦笑すると、ユーリはほっとしたように息をつく。
そうして繋いだままの手が、ユーリの口元まで持ち上げられた。
ユーリ:へえ、眠れないんだ?
吉琳:…ユ、ユーリ…
窓から射し込む月明かりに照らされたユーリの甘い微笑みに、
鼓動が早鐘を打つ。
(そんな目でじっと見つめられると…)
甘い予感に胸をときめかせていると、
ユーリはにっこりと笑みを深めて囁いた。
ユーリ:それなら…今夜はずっと一緒にいよう?
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ユーリ:……吉琳様、こっち
(えっ……)
その声と共に、ユーリに手を引かれ、
ドアから死角になっている部屋の隅へと身を隠す。
吉琳:私たちの様子を見に来たのかな…
(もし何かあったらどうしよう)
しんと静まり返った部屋で、
身体を強張らせながら息を殺し、近づいてくる足音を聞く。
不安がこみ上げ、私はぎゅっと胸の上で手を握りしめた。
ユーリ:いざとなったら、これがあるから
ユーリは小声で囁き、腰に隠していた短剣に手を伸ばす。
(何かあった時のために準備しておくって…剣のことだったんだ)
(でも何も起こりませんように…)
すると、その足音は部屋の前を通り過ぎていった。
(…行っちゃった)
起きているのを気づかれないよう、しばらくじっとしていると
ギイと木の扉が開くような音と、階段を降りるような足音が聞こえてくる。
(ここ一階建てなのに…)
そう気づいて顔を上げると、ユーリも頷いた。
ユーリ:やっぱり地下があるのかも
ユーリ:様子を探って来るから、吉琳様はここにいてね
そう言うと、ユーリは私を抱き締めていた腕を解いて、
にっこりと笑って、部屋を出て行った。
吉琳:あっ…ユーリ…
行ってしまうのを目で追いながら、ぎゅっと胸が締めつけられる。
(やっぱり心配…)
ユーリ一人で何かあったらと思うと、自然と足が動き、
私は後を追って部屋を出た。
廊下を覗いてみると、奥に隠し階段があるのが見える。
(床が開いている…)
(ここを降りていったのかな…)
ごくりと息をのみ、私は足を踏み出した。
暗闇の中、階段をつたい、薄暗い地下に着く。
(どうしよう…道が二つに分かれてる)
迷う私の耳に、左の部屋の方から剣の交わるような金属音が聞こえた。
(まさかっ…)
息を潜めて扉の隙間から覗くと、
おばあさんの仲間らしい男性とユーリが、激しく剣を交わらせているのが見えた。
(ユーリ…!)
声をあげそうになるけれど、
扉の側におばあさんがいるのが見えて息を押し殺す。
その時、後ろの方から微かに声が聞こえた。
???:……!
(え?)
その声は、もう一つの部屋の方から聞こえてくる。
ユーリを気にしながらも、そっと右の部屋のドアを開く。
すると、そこは鉄格子のはまった牢屋のような檻があり、
目隠しをされている数人の子供たちの姿があった。
吉琳:っ……
(行方不明になった子供って、この子たちなんじゃ……)
青ざめながら、私は檻へと駆け寄る。
吉琳:みんな、大丈夫? すぐに出してあげるから…
女の子:お姉ちゃん…! どこかに鍵があるの!
(鍵…?)
女の子に言われて探すと、
鍵が刺さったままの錠前を見つけた。
手をかけ、回そうとした瞬間…
(っ、隣の部屋の音が止んだ…?)
剣の音が途絶え、焦りがこみ上げる。
(…ユーリ!)
ユーリがいる部屋へと振り返ると、駆けつけたい気持ちが募る。
次の瞬間、おばあさんのどなり声が響いた。
老婆:それ以上近付いたら、子供たちが二度と出られないように…
老婆:この牢屋の鍵をかまどで燃やしてやる!
その声がユーリに向けられていると気づいて、ほっと息をつく。
(良かった…ユーリは無事なんだ)
(牢屋の鍵を燃やすって言ってたけど…これのこと?)
私は目の前の牢屋に刺さったままの鍵に視線を向け…―
がちゃりと重い錠前を開けた。
(鍵はここにあるのに、燃やすなんて…嘘をついてるんだ)
(嘘だって分かれば…ユーリは必ず勝ってくれる)
私は牢屋に足を踏み入れ、中にいる子供たちの目隠しを取りながら言った。
吉琳:みんな、階段を上がって逃げて
子供1:うん…!
子供2:ありがとう!
子供たちが勢いよく牢屋から飛び出す。
足音に気づいたのか、おばあさんが部屋から飛び出してきた。
老婆:…なんてことを!
檻の中に誰もいないのを見て、おばあさんが怒りを露わにする。
吉琳:子供たちをこんな目に遭わせるなんて、見過ごせません
老婆:よくも!
おばあさんの手にはナイフが握られていた。
(えっ…)
ナイフの先端が煌めき、恐怖ですくんで、身体が少しも動かない。
反応できない私に向かい、ナイフが振り上げられた瞬間…
ユーリ:吉琳様…逃げて!
駆け寄って来たユーリがおばあさんの腕を掴み上げた。
その勢いに押され、その場に倒れ込んだ私に、
ユーリが心配そうに声を掛ける。
ユーリ:吉琳様っ、大丈夫?
吉琳:うん……
見上げると、ユーリがほっとしたように微笑んでくれる。
(ユーリも怪我してないみたいでよかった…)
ユーリがおばあさんを近くにあった紐で縛り上げると、
その手からナイフが落ちる。
床に金属が落ちるその冷たい音に、今頃になって恐怖が襲ってきた。
(ユーリが助けてくれなかったら…)
おばあさんを縛り上げた後、ユーリが私の側に膝をついた。
ユーリ:どうして吉琳様がここに?
吉琳:ユーリが心配で…
ふと、ユーリがいた部屋の中の光景を思い出す。
吉琳:っ、あの部屋にいた男の人は?
ユーリ:気を失わせて、縛ってあるからもう安全だよ
吉琳:そう、よかった…
ぽつりと言うと、強張った身体がユーリの腕の中に包まれた。
ユーリ:無事で良かった
抱き締めてくれる温かな腕の中で、身体の緊張がとけていく。
吉琳:ユーリも無事で良かった…
背中に手を回して、お互いの身体をぎゅっと抱きしめ合う。
(…ユーリの腕の中は、ほっとする…)
私の背中を撫でながら、ユーリがそっと息をついた。
ユーリ:あの噂……子供たちは行方不明なんじゃなくて、誘拐されてたみたいだね
吉琳:うん…見つけられて良かった。子供たちを家に帰してあげないとね
立ち上がろうとすると、ユーリは眩しそうに目を細める。
ユーリ:吉琳様は本当に…
ユーリ:優しくて、勇敢なんだね
そう言ったユーリが手を伸ばし、ぽんぽんと私の頭を撫でた。
その優しい仕草が、胸を温かくしていく。
吉琳:そんな…自分だけじゃこんなに頑張れなかったと思う
吉琳:ユーリが側にいてくれるから勇気が出るんだよ
吉琳:ありがとう、ユーリ
お礼を言うと、ユーリが少し照れたように微笑む。
ユーリ:…吉琳様のそういう所、好きだよ
吉琳:っ…
赤くなる私に、ユーリはにこっと笑顔を向けて、
エスコートするように私の手を引いていった…―
階段を上がると、さっき牢屋から逃げてきた子供たちに囲まれる。
吉琳:みんな、大丈夫?
子供:助けてくれてありがとう
抱きつかれ、口々にお礼を言われ、
私は同じ目線にしゃがんで、一人一人頭を撫でてあげる。
吉琳:泣かないで、もう大丈夫だから
ユーリは家の前で見た小さな女の子を抱き上げて、微笑んだ。
ユーリ:明日、この子たちと一緒に帰ったら大家族みたいに見えるかな?
吉琳:えっ、家族?
ふいに言われて、ぽっと頬が熱をもつ。
そんな私を見て、ユーリは楽しそうに笑った。
ユーリ:いつかは、そういうのもいいと思わない?
(大家族か…)
そう言われると、なんだか胸の奥がくすぐったくなってしまう。
吉琳:うん…
頬を染めて頷くと、ユーリがくすりと笑う。
ユーリ:大変な視察になったけど、来て良かったね
吉琳:うん…この子たちを助けられて良かった
頷き合うと、ユーリは子供たちに柔らかな眼差しを向ける。
ユーリ:みんな、お家に帰ろう
子供:うん…!
子供たちの手を引くユーリの笑顔はとても眩しくて、たくましくて…
(あんな笑顔を見たら…ますますユーリが好きになっていく)
胸の中でユーリへの思いを膨らませながら、私は微笑んだ…―
fin.
エピローグEpilogue:
おとぎ話のハッピーエンドのその先は…?
ユーリ:吉琳様がお望みなら、もっとドキドキさせてあげる…
囁く声と同時にユーリに唇を塞がれて、何度も深く重なり合い…―
ユーリ:俺だけ見てて、吉琳様。大好きな人のこと、ひとり占めしたいんだ
ユーリ:好きだよ…
恋人たちに訪れるのは、愛を深め合う甘い夜。
彼の腕に包まれて、幸せなひとときがあなたを待っている…―