◆シンデレラガチャ◆(アルバート◆ガチャシート

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彼目線のサイドストーリー

 

【本編】

◆恋の予感(恋のよかん)《不意の衝動》

◇恋の芽生え(恋のめばえ)《矛盾》

◆恋の行方(恋のゆくえ)〜Sugar〜《愛の記憶》 

◇恋の行方(恋のゆくえ)〜Honey〜《プロポーズ》

◆恋の行方(恋のゆくえ)~secret〜《王様の心配ごと》

 

 

 

 

【本編シート】

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恋の予感(恋のよかん)『不意の衝動』

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(このプリンセス……一体、何をしている)

かばうように駆け出してきた、吉琳の姿に咄嗟に手を伸ばした。
アルバート 「馬鹿な人ですね。プリンセスが来たところでどうにもならないでしょう」
アルバート 「下がっていてください」
華奢な手首を捉えたまま、アルバートは吉琳を背に隠す。
吉琳 「でも……」
アルバート 「聞き分けの悪い方ですね」

(俺を守ってあなたに怪我でもされたら、面目を失う)
(それに……、俺がそれを望まない)

アルバート 「めでたい席でこのようなことをするとは、何事ですか」
男 「うるさい…!シュタインのくせにこんなところにくるお前たちが悪い」
男が短剣を振りかざすと、アルバートは腰に差してある剣を素早く抜いた。

(……!)

刃が交わり、鋭い金属音が響く。
アルバート 「…なるほど、そういうことですか」
アルバート 「過去のこともありますし、シュタインが恨まれるのも仕方がないことですが…」
アルバートはたやすく刃を弾き返しながら、男の顔を睨みつける。
アルバート 「ここは、国同士の争いを持ちこむ場所ではない」
男 「なに!?」
アルバート 「プリンセスの大事なセレモニーだ」
アルバート 「…邪魔するものは、俺が許さない」
ひらひらとお祝いの紙吹雪が舞う中、金属が重なり合う音が響く。
男 「お前、覚悟しろ…!」
アルバート 「…っ……」
背後にいる吉琳に刃が向かうことがないように、
一瞬だけ視線を逸らすと、鋭く放たれた剣の先が腕をかすめる。
吉琳 「アルバートっ……」

(そんな心配そうな声を聞くために、俺はあなたの前に立ったわけではない)

アルバート 「プリンセスの前だからと言って…少し手加減しすぎましたかね」
アルバートは小さく息をついて剣を構え直すと、男性を見据えた。
アルバート 「決着をつけましょうか」

***

(まったく……)

ウィスタリアの騎士に連れていかれる男を見送り、
剣を鞘におさめると、立ち尽くしたままの吉琳に近づく。
アルバート 「一体、あなたは何を考えているのですか」
吉琳 「え…」
アルバート 「飛び出してきたりして…」
アルバート 「セレモニーで主役のプリンセスがケガなんて洒落になりませんよ」

(……本当に何を考えているんだ、このプリンセスは)

眉を寄せたその時、風に乗って掠れた声が響いた。
吉琳 「アルバートが、無事でよかったです」
アルバート 「あなたはこんな時に何を言っ……」

(……?)

吉琳を見つめると、目線の下にある手が僅かに震えている。
アルバート 「……震えているのですか?」
吉琳 「目の前で剣を交えたところ、初めて見たので…」
震える手を抑えようと、吉琳が自分の胸に手をあてる。
その姿を見た瞬間、胸が疼いて……―。

(なんだ、この感情は)

とっさに腕を伸ばし、吉琳の頭を抱き寄せていた。
吉琳 「アルバー……」

(……守ってあげたい)

呟かれた言葉を遮るように、抱きしめる腕に力を込めると、
吉琳が微かに息を呑む気配をすぐそばに感じる。
アルバート 「落ち着いてください」
アルバート 「しばらくこうしていますから」

(抱きしめるなど…一体、俺は何をしているんだ)

押し寄せる衝動に混乱して、浅い息をつく。

(だが、この手を俺は……離せない)

抱きしめていると、じんわりとした体温が伝わってきて、
震えていた身体がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
それと引き換えに、胸の鼓動が早くなっていくことにアルバートは眉を寄せた。
吉琳 「…ありがとうございます」
アルバート 「…お礼なんていりませんよ」
アルバート 「人として当たり前のことですから」
すると、腕の中でくすっと笑い声が聞こえてくる。
吉琳 「…そうですよね」

(怯えたり、笑ったり…忙しい人だ)

視線をゆっくり下げると、ふっと吉琳が視線を上げる。

(……なんだ)

近い距離で視線がぶつかって、鼓動がまた速さを増していく。

(鼓動がおかしい)

アルバート 「…そろそろ、落ち着いたようですね」

(本当に、何なんだ…この感情は)

アルバートは僅かに頬を赤く染めて、身体を離した…―。

***

やがて城下の人々や国賓の方が不安そうにざわめいているのを鎮めようと、
壇上へと登っていく吉琳が、一瞬だけ振り返りこっちを見つめる。

(さっきまで震えていたというのに)

背中を押すように頷くと、吉琳は微かに笑みを浮かべ歩いていく。

(…何を考えているのか分からないプリンセスだな)
(だが……)

吉琳 「みなさん。騒ぎがありましたが、どうか心配しないでください…―」
真っ直ぐ前だけを見て、話し始める姿に安堵の息がこぼれる。
吉琳の声を聞きながら、不意に視線を手元に落とす。

(……まだ、手に抱きしめた感覚が残っている)
(それに…、うるさいままだ)

しだいに収束に向かう周囲の声に反して、
アルバートは収まることのない鼓動を抑えるように手を胸に押し当てた。

(守ってあげたい)
(騎士として当然の感情だが…何かが違う)

 

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恋の芽生え『矛盾』

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他国交流当日……―
城に足を踏み入れると、各国の方の中に挨拶をする吉琳を見つけた。

(……シュタインからいなくなれば、もう会うこともないと思っていた)
(それなのに…)

一度だけ手を握り締めて、もう見慣れた背中に声をかける。
アルバート 「お久しぶりですね。ウィスタリアのプリンセス」
吉琳が振り返り、その瞳が大きく見開かれた。
吉琳 「アルバート……」

(…そんな顔をしないでほしい)

吉琳の瞳が戸惑うように揺れたのを見て、視線を逸らす。
アルバート 「ゼノ様、こちらです」
ゼノ 「ああ」
吉琳 「お久しぶりです。ゼノ様」
ゼノ 「そうかしこまるな。今夜はパーティーだけだろう」
ゼノ 「数日後には、会議で忙しくなる」
ゼノ 「力を抜け」
吉琳 「ありがとうございます」
アルバート 「では…。参りましょう、ゼノ様」

***

そしてパーティーが始まり……―
アルバートは賑やかな声を背に、バルコニーに出ると息をついた。

(…まただ。胸が苦しい)

吉琳の顔をみるたびに、胸が淡く疼いて仕方ない。
夜空に視線を投げると、
吉琳がシュタインを離れてから聞いた言葉が蘇ってくる。

*****
ユーリ 「初めは疑ってたけど、良いプリンセスだったな」
アルバート 「…なんのことだ?」
ユーリ 「話してくれたんだよ。シュタインの内情を知ってから…」
ユーリ 「ウィスタリアとシュタインの架け橋になりたいって」
アルバート 「…プリンセスがそんなことを…?」
*****

(それなのに俺は、突き放すような態度をとってしまった)
(なんと言ったらいいのか)

視線を戻したその時……
吉琳 「アルバート」

(この声は……)

振り返ると、そこには吉琳が夜風に髪をなびかせて立っていた。
アルバート 「プリンセスですか」
吉琳 「…お元気でしたか?」
アルバート 「ええ。あなたに心配されなくても」
吉琳 「…そう、ですよね」
吉琳が少しだけ寂しそうに視線を伏せる姿に、
感情が大きく揺さぶられていく。

(この感情は…矛盾しているな)
(言葉も出てこないのに、この人に伝えたいと思う)
(突き離したくせに、……この腕が、抱きしめたがって仕方ない)

夜に落ちた沈黙を破るように、重い口を開いた。
アルバート 「…なぜ、本当のことを言わなかったのですか」
吉琳 「え?」
アルバート 「二国間の仲を良くしたいと、言えばいいでしょう」
吉琳 「知っていたんですか…?」
アルバート 「ユーリから聞きました」
アルバート 「ですが、あなたの口から聞きたかったものですね」
吉琳 「すみません……」

(……違う、謝ってほしいわけではない)

上手く伝わらない感情がもどかしくて、吉琳との距離を縮める。
アルバート 「私にそのことを話したら、城を追い出されるとでも思ったのですか?」
アルバート 「それとも、告げ口をしてウィスタリアを滅ぼすとか…」
吉琳 「…そんなっ…」
慌てて首を振る吉琳を見て、衝動的に、
バルコニーの手すりに追い詰めると、吉琳の吐息が首筋に触れた。

(……俺が、伝えたいことはたったひとつだけだ)

アルバート 「だとしたら、あなたは勘違いしているようですね」
アルバート 「…俺はあの時、とっくにあなたを信じていた」
吉琳 「え?」
視線が絡みあった瞬間、指先でそっと吉琳の頬に触れる。
指先から伝わる熱に、思わず眉を寄せた。
アルバート 「俺は…あなたのことになるといつもこうだ」

(この人を前にすると、胸が苦しくて一歩も動けなくなる)
(そしてただ……あなたのことばかり考えてしまう)

アルバート 「会わずにいた間、あなたのことが頭から離れなくなりました」
アルバート 「そして今日……」
アルバート 「あなたの顔を見た瞬間…胸が苦しくて、たまらなくなった」
吉琳 「アルバート……」
次々と重ねた言葉は、紛れもない自分自身の本心だ。
アルバート 「シュタインに来た理由がスパイだというなら…」
アルバート 「あなたがした行為を、許すことはできない」
アルバート 「ですが……」
アルバート 「理屈では分からない。俺は……」
言いかけて、アルバートは口をつぐみ吉琳を見つめる。
その瞬間、ずっと目を逸らしていた感情に名前がついた気がした。
アルバート 「……あなたに会いたかった」
吉琳が視線をふっと上げたその瞬間、顔を寄せていく。

(……信じてはいけないと分かっているのに)
(プリンセスを信じたいと願う自分がいた)
(こんな自分自身の矛盾すら、飛び越えてみたくなる)

今、心の中にあるのは、胸を痛ませるほどの愛おしさだけだった。

(この感情が、人を愛するということなのか)

しだいに縮まる距離に、甘い吐息だけがこぼれていった……―

 

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恋の行方〜Sugar〜『愛の記憶』

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プリンセスが悲劇の死を遂げてから、1年後…―。
アルバートは花をたむけに、ゼノとユーリと共にウィスタリア城を訪れていた。
アルバートが階段を上りきると、頭を下げていた使用人が動き始める。
と、その時……。
レオ 「……おっと」
メイドのひとりが足を滑らせ、レオが咄嗟に腰に腕を回す。
メイド 「あ…ありがとうございます…」
レオ 「気を付けてね」 

(まったく…人騒がせなメイドだな)

その様子を見てアルバートが息をつくと……。

(…っ……)

頭の中で、ぼんやりとした光景が浮かぶ。

*****
アルバート 「プリンセスが、こんなところで何をしている」
吉琳 「すみません…助けて頂きありがとうございました」
*****

(なんだ…今のは…)

自分の腕に誰かを抱きとめた感覚を覚える。
アルバート 「この光景…どこかで……」
メイドがお辞儀して去っていくのを見送りながら、アルバートは呟く。

(今見た光景の中で、俺はプリンセスと呼んでいたが…)
(ウィスタリアのプリンセスには会った事がないはず…)

しかし考えれば考える程、胸騒ぎがする。
すると今度は、はっきりとした記憶が脳裏に過った。

*****
吉琳 「こんな風に休む時は、自分のことを大切にしてください」
アルバート 「どういう意味ですか?」
吉琳 「書斎でお会いしていた時、国やゼノ様のことを常に考えていると…」
吉琳 「だけど、こういう時くらい自分も大切にしてください」
吉琳 「せめて、私といるときは…とか…」
*****

(…ああ、そうだ)

アルバート 「今日はプリンセスの命日で来たはずだが」
アルバート 「…おかしい」

(状況が掴めないが……)

アルバート 「俺は…プリンセスを知っている気がする」
眉を寄せると、レオが言う。
レオ 「もしかして、思い出した……?」

(思い出す…?)

アルバート 「なんの話だ」
ユーリ 「アル……」
その場にいた全員が顔を見合わせると、ゼノが静かに口を開く。
ゼノ 「アル。お前に話がある」

***

執務室に案内されると、アルバートはユーリの話に耳を傾けていた。
アルバート 「二国間の紛争をなくすために俺が策を?」
アルバート 「しかも、プリンセスと俺が…恋に落ちていた…?」

(そんな事がある訳ない)

アルバート 「…まったく、信じられない話だ」
アルバート 「だが……」
プリンセスの顔を思い出すと、胸が切なく痛む。

(この胸騒ぎは、特別な感じがしなくもない)
(それに…プリンセスの姿を思い出した時、どうしようもなく胸が締め付けられた)

アルバート 「微かに、頭の隅で思い出せそうな自分がいる」
苦しむように眉を寄せると、ユーリの声が響く。
ユーリ 「俺、吉琳様の居場所知ってるよ」
ユーリ 「どうする。アル」
アルバート 「それは…俺がプリンセスと会うということか?」
頷くユーリに、アルバートは困惑したように眉を寄せた。

(驚いたな…聞かれた瞬間に答えがすぐに浮かんだ)
(……会いたい)

***

アルバートはひとり、ユーリに教えられた場所へと足を運んだ。

(この景色は……)

黄色い花々が風に揺れている。
自分の胸が高鳴っていくのを感じる。

(…見覚えがある)

その時、足元に帽子が落ちてきた。
帽子を手に取り、顔をあげると……。

(……プリンセス)

綺麗な髪を風に揺らし、驚いたように目を見開くプリンセスの姿があった。
アルバートの鼓動が甘く音を立て始める。

(なんともいえない、感情だ…)

アルバートはプリンセスに近づくと、ゆっくりと見下ろす。
アルバート 「会えば分かると思ったが…分からない」
アルバート 「だが……」
アルバートの腕が、自然とプリンセスの身体を強く抱き締める。

(ずっと、この時を待っていたような気がする)

アルバート 「今、この瞬間……」
アルバート 「あなたの側にずっといたいと願ってしまう」
思わず口から出た言葉に、少しずつ記憶がよみがえる。

(思い出した…プリンセスの名前は)
(吉琳だ)

ひとつずつ思い出される事に、胸に幸せが溢れていく。
すると、吉琳は小さく呟いた。
吉琳 「…お待ちしていました」
吉琳 「またこうしてお会い出来……」

(…いや、違う)

吉琳の言葉を遮るように、
アルバートは大きな手をそっと吉琳の頬にあてた。

(俺はいつも、こうしていた気がする)

アルバート 「そのセリフは俺に言わせてください」
吉琳 「えっ?」

(愛を伝えるときは、男からでなくてはと)

アルバート 「…なぜだか分からないが」
アルバート 「あなたに会えて、今人生で一番幸せだ」
吉琳の瞳が潤み、掠れた声が聞こえてくる。
吉琳 「私も、アルバートに会えて幸せです」
その言葉に、アルバートは改めて心の中で呟いた。

(もう迷うことはない…俺はプリンセスを愛している)
(…心がそう覚えている)

二人を包み込むように、柔らかな風が花々を揺らした…―。
 

 

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恋の行方〜Honey〜『プロポーズ』

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宣言式を明日に控え……―

(なにを緊張しているんだ、俺は…)

アルバートはウィスタリア城に着くと、一段一段階段を登っていた。

(とにかく…落ちつけ)

アルバートは吉琳に『あること』をしようとしていた。

(ただ、言葉を伝えるくらいどうってことないだろう)

心を鎮めるように息をついた、その時……。
吉琳 「アルバート」

(なっ……!)

視線を上げると、長く続く階段の先に、吉琳が笑顔で立っていた。

(今、緊張してた表情…見られていないよな)
(とにかく、気づかれないようにしなくては……)

アルバートは一歩一歩階段を上がりながら、吉琳の顔を見て眉を寄せる。
アルバート 「何をそんな驚いた顔をしているのですか」
アルバート 「宣言式は明日なのですから、俺がウィスタリアに来ることくらい分かっていたでしょう」
吉琳 「そうなのですが、なんだか信じられなくて…」

(…どういうことだ?)

アルバート 「何が信じられないんです?」
吉琳 「アルバートにこうやって会えるのが……」
その瞬間に、胸がとくんと高鳴った。

(…俺だって、こうして吉琳に会うたび)
(信じられないほど、嬉しくてこの瞬間が大切だと思う)

アルバート 「おかしなことを言う人ですね」
本心はそっと胸の中に隠して、吉琳を見上げて、手を差し出す。
アルバート 「俺はここにいますよ。あなたの目の前に」

(その為に、ここへ来た)

差し出した手に、ゆっくりと手のひらが重なっていく。
吉琳 「はい」
その瞬間、ふっと心がほどけていくのを感じた。

(同じ気持ちを抱いているなら)
(何も問題はない)

重ねた手を、アルバートは自分のほうへ引き寄せた。

(俺の気持ちを伝えなくては)

アルバート 「会いたかった。吉琳」
そうして言葉の続きを告げようとした、その時……。

(……なんだ)

腕に僅かな重さを感じて視線を落とす。
アルバート 「なっ……」
そこには、ベンジャミンがひょこっと顔を出して嬉しそうに見つめている。
アルバート 「お前、どこからっ……」
眉を寄せると、吉琳がくすっと笑みをこぼす。
吉琳 「きっとベンジャミンもアルバートに会いたかったんだと思います」
吉琳 「一緒に抱きしめてあげてください」

(計画がぶち壊しだが…)

アルバート 「………」
ベンジャミンを見た後、吉琳に視線を移すと、
嬉しそうな顔が視界いっぱいに広がる。

(吉琳に頼まれると、断れそうにない)

アルバート 「…あなたが言うなら、仕方ありませんね」
息をついて、間にいるベンジャミンごと、吉琳を抱き締めた。
アルバート 「これからは、あなたのそばにいます」
やがてアルバートは身体を離すと、ベンジャミンをそっと絨毯の上に下ろす。
ベンジャミンは満足げに目を細め、ぴょんぴょん廊下を駆けていく。

(まったく……)

アルバート 「…こんな時に一体なんなんだ、あいつは」
ベンジャミンを見送ると、アルバートの声が近くで響いた。
アルバート 「邪魔ものが入って少し予定が狂いましたが…」

(伝えなくては)

アルバート 「…これから、少しお時間を頂けないでしょうか。プリンセス」

(今度こそ…誰にも邪魔されない場所で)

***

吉琳を連れて来たのは、誰もいない静かな湖畔だった。

(緊張で、今にも心臓が張り裂けそうだ…)

吉琳の前を歩いていくも、心臓が高鳴って行くのが分かる。

(だが……)

意を決したようにその場に足を止め、振り返ると吉琳が息を呑む。
吉琳 「………!」
綺麗な瞳を向ける吉琳に、鼓動が甘い音を立てる。

(やっぱり俺は、吉琳が好きだ)

そう思うと、アルバートはしっかりとした口調で告げた。
アルバート 「やはり、私も男ですからプライドがあります」
その場にひざまづき、吉琳を見上げる。
風が湖畔の水面をすべり、吉琳の綺麗な髪を揺らす。
吉琳 「…どうしたんですか?」
アルバート 「明日は宣言式です。恐らくあなたが俺を次期国王候補として命じる」
アルバート 「それでは、女性からプロポーズされているようで…その…」
アルバート 「その前に、俺から……」

(顔が…、熱い)

もっとスマートに伝えるはずだったけれど、吉琳を前にすると、
上手くいかないことばかりで、心の中で呟いた。

(だが、俺の気持ちには迷いも、偽りもない)
(この言葉は、生涯をかけて吉琳だけに伝えることができる言葉だ)

意を決して、息をつくと口を開いた。
アルバート 「俺と結婚してくださいますか。吉琳」
吉琳の瞳が、大きく開かれる。
吉琳 「アルバート……」

(…一瞬が、こんなに長いとは)
(…早く)
(早くしてくれ)

アルバート 「返事を早くしてください」
アルバート 「…心臓が持ちそうにない」
吉琳を見上げると、ゆっくり唇から言葉が紡がれる。
吉琳 「宜しくお願い致します。アルバート」
その瞬間、まるで世界中の幸せを抱きしめているようだと思った。

(なるほど…これが幸せというものか)

立ち上がり、幸せを噛みしめながら眼鏡を押し上げ呟く。
アルバート 「プロポーズが成功するとは、こんな気持ちなのか」
伸ばした手が、吉琳の頬に触れると
吉琳の瞳が僅かに揺れる。

(吉琳に触れ、笑顔すべてを見る事が出来て……)

アルバート 「人生で一番、幸せだ」
この幸せを一つも溢すことがないよう、小さな手をきゅっと握りしめた……

 

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恋の行方~secret〜『王様の心配ごと』

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―……宣言式を終えて、
アルバートが次期国王として公務に着くようになってから数日後のこと

(……ここの孤児院にも視察に行かないといけないな)

アルバートが眼鏡のつるをくいっと上げて、羽根ペンを羊皮紙に走らせていたその時……
ユーリ 「公務に熱心なのもいいけど、その間に一番大切なこと疎かにしていいの?」

(……っ…この声)

伏せていた視線を上げると、
そこには机にもたれかかり笑みを浮かべるユーリの姿があった。
アルバート 「また貴様か、つまらないことを言いに来たのなら…っ…」
ユーリ 「アル、俺に突っかかってる場合じゃないと思うんだけど」
ユーリは楽しげに瞳を揺らすと、ちらりと扉の向こうに視線を投げた。

(何だ……?)

ユーリの手で押し開けられた扉から、二人で廊下を覗き込むと……
吉琳 「本当?ありがとう、レオ」
レオ 「うん、本当。よかったね、吉琳ちゃん」

(あれは……)

視界に吉琳とレオが楽しそうに笑う姿が飛び込んでくる。

(なんだか、凄く……)

ユーリ 「凄く楽しそうだよね」
まるで言葉を奪うように呟くその声に、思わず眉根を寄せると、
ユーリが楽しそうに言葉を重ねていく。
ユーリ 「吉琳様って、この城でかなりの人気者だし」
ユーリ 「あんなに可愛かったら、城下でもモテたんだろうな」
アルバート 「モテ…た…?」
ユーリ 「そ、だからちゃんと吉琳様のこと掴まえておかないと」
アルバート 「…………」

(そう…か)

ユーリ 「ね、アル? あれ?」

***

ユーリが笑みを向ける前に、アルバートはすたすたと廊下を歩いていく。
吉琳 「アルバート…?」
吉琳とレオがアルバートの姿に気がつき首を傾げると、
ユーリは肩をすくめていたずらに笑ってみせた。
ユーリ 「大丈夫、ただの『次期国王様』の幸せな心配ごとだから」

***

―……アルバートは外に出ると、空を見上げて息をついた
胸の中でユーリの言葉が何度も聞こえてくる。

(考えたこともなかったが…)
(まさか、俺以外の誰かとも恋に落ちた事があるのだろうか)

そんなことを考えながらも、心に引っ掛かるのは別のことだった。

(吉琳は、随分と楽しそうに笑っていた)
(その笑顔は…俺だけに見せてほしい)

吉琳の笑顔を思い出して、独占欲が湧きあがってくる。

(これじゃまるで、子どもと大差ないな)

その時、背後から足音が響いて後ろを振り返ると……
レオ 「眉間にしわを寄せてると、吉琳ちゃんが悲しむよ」
アルバート 「レオ=クロフォード、どうしてここに?」
レオはアルバートの顔をじっと見つめると、ふっと顔に笑みを滲ませた。
レオ 「吉琳ちゃんが笑ってた理由…知りたい?」

***

息を切らせて、城の中へと駆け出していく。

(本当に俺はどうしようもないな)

*****
レオ 「吉琳ちゃんが笑ってた理由…知りたい?」
アルバート 「笑っていた、理由?」
レオ 「吉琳ちゃんから、ずっと頼まれてたんだよね」
レオ 「次期国王様にお休みをあげてほしいって」
アルバート 「……っ…それは」
レオ 「その許可がおりた話しをしてたとこ」
*****

階段を駆け上がりながら、同じ場所で吉琳に告げた言葉が、
鮮明に蘇ってくる。

*****
アルバート 「思えば、初めて会った時もあなたはつまずきそうになっていましたね」
アルバート 「あの時は、とんでもないプリンセスだと思っていましたが」
アルバート 「笑ったり泣いたり、一生懸命な姿を見て」
アルバート 「気がついたら、あなたのことを目で追っている自分がいた」
吉琳 「アルバート……」
*****

(俺は吉琳の色んな表情を見て、そして気がついたら……)
(吉琳を、愛していた)

吉琳の笑顔はいつでも、真っ直ぐに向けられていて、
その笑顔にどれだけ救われてきたかわからない。

(誰に向けられたか、そんなことを気にしている場合ではない)
(俺がしないといけないことは…)

その時、駆けてくる足音が聞こえて、視界に影が落ちる。
吉琳 「アルバート!」
アルバート 「吉琳?」
階段の上に立って、吉琳は嬉しそうに顔を綻ばせる。
アルバート 「…………」
吉琳 「探してました。明日、お休みをお互いにもらえることになって…」
矢継ぎ早に言葉を重ねていく、その姿が眩しくて仕方ない。

(俺がしないといけないことは、……したいことは)
(この、愛しい人の笑顔を…守っていくことだ)

階段を駆け上がり、腕に手を伸ばしてぐっと引き寄せる。
吉琳 「…っ…アルバート」
吉琳の身体が胸におさまって、その拍子に階段に二人で座り込んでしまう。
アルバート 「あなたは本当に馬鹿ですね」
吉琳 「え?」
アルバート 「そんなこと知っているに決まっているじゃないですか」
吉琳は腕の中で目を見開くと、眉をハの字に下げる。

(ん……?)

アルバート 「どうかしましたか」
顔を覗き込むと、吉琳が僅かに頬を赤く染めて口を開く。
吉琳 「いえ、ただ…私から伝えて、笑ったアルバートを見たいなと思っていたので」
アルバート 「……っ」

(…この人には、本当に敵わない)

吉琳を抱きしめていた腕の力を強めて、細い髪に顔をうずめる。
アルバート 「……そんなの、いくらでも見れますよ」
吉琳が僅かに身体を動かす気配がする。
アルバート 「明日、あなたが笑ってくれさえすれば」
吉琳 「……アルバート」
腕を離して、視線をあわせ髪をくしゃりと撫でた。
アルバート 「明日も俺の隣で笑ってくれますか、吉琳…?」
吉琳は一瞬の間の後、言葉を受け止めて、
花が咲くように笑ってくれる。
吉琳 「はい、アルバート」
笑った顔が見たい、それはなんだか好きの証のように思える。
光の輪が差し込む中、どちらからともなく唇を寄せていくと……
吉琳 「……待ってください」
アルバート 「…はい」
吉琳の手が、すっと眼鏡のふちに添えられる。
吉琳 「明るくて、恥ずかしいからこれ…取ってもいいですか?」

(そんな可愛いことばかり、言わないでほしい)
(もっともっと、欲深くなってしまう)

吉琳の手をそっと制して、唇を触れさせた。
アルバート 「駄目ですね」
吉琳 「え…?」
吉琳の顔が視界いっぱいに広がった瞬間、
唇から笑みがこぼれる。
アルバート 「それだと、あなたの笑顔がよく見えませんから」
唇を重ねると、吉琳が笑った気配を唇に感じる。
明日はきっと、もっと笑顔にさせてあげたい。
そんな幸せな明日に想いを馳せながら、幾度となくキスを交わしていった……―
 

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