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Magic of love~恋する魔法使い~(クロード)

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プロローグ:

――…ここは、魔法の国ウィスタリア
誰もが魔法を使えるこの国のお城で、私は宮廷魔法使いとして働いている。

***

(この本は、確かあの棚に返せばよかったかな…)

腕に抱えていた数冊の本を、魔法で宙に浮かべて棚の中に収めていく。
お城の図書館を飛び交う本は、私にとっては見慣れた光景だけれど……
アルバート:…………

(アルバートさんにとっては、珍しいのかも)

隣国シュタインから来ているアルバートさんは、
私の隣で物珍しげに空飛ぶ本を眺めていた。

(たまたま図書館ではち合わせたけど、もしかして、ここに来るのは初めてなのかな)

アルバート:さすが、ウィスタリアですね。
アルバート:本の返却まで魔法で行うとは…
吉琳:手で返すより、この方が早いんですよ
アルバート:利便性があるのはわかってますが、
アルバート:シュタインではこうした魔法が使える人間は限られています
アルバート:あまり見ない光景ですので、興味深いですね
感慨深く呟いたアルバートさんが、ふと、私の方に目を向けた。
アルバート:そういえば、前から聞きたかったのですが…
アルバート:宮廷魔法使いであるあなたは、
アルバート:普段どのような仕事をしているのですか?
吉琳:私は主に、魔法の研究をしています
アルバート:研究ですか…。きっと熱心に取り組んでいるのでしょうね
吉琳:え…?
アルバート:あなたの魔法は素晴らしいと、ゼノ様も褒めていましたから

(シュタインの国王陛下に褒めていただけるなんて、嬉しいな)

吉琳:ありがとうございます
お礼を告げたその時、図書館の重厚な扉が音を立てて開いた。
???:吉琳
吉琳:あ…

(もう約束の時間?)

入り口から差し込む光の中に、彼の姿が見える。

(急がないと)

吉琳:すみません、私はこれで失礼しますね
アルバートさんと別れて、彼の元へと向かう。
光が差し込む扉の前で、私を待っていたのは…――

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どの彼と過ごす…?

052

>>>ジルxクロードと過ごす…?

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共通第1話:

――…淡い青空に白い雲が流れてゆく午後
クロード:吉琳
吉琳:あ…

(もう約束の時間?)
(急がないと)

アルバートさんと別れ、呼びに来てくれたクロードと廊下に出ると……
吉琳:あれ、ジルも呼びに来てくれたの? 二人が一緒なんて珍しいね
ジル:お互い貴女を探していたら、ばったり逢ってしまっただけですよ
ジルは苦笑すると、私に真っすぐ視線を向けた。
ジル:今日は私の仕事の手伝いをしてくださる予定でしょう?
クロード:いや、俺のショーの準備を手伝う約束だ。なあ、吉琳?
競うように告げながらも、二人はどこか楽しそうな表情だ。

(もう…二人とも私をからかおうとしてる)
(いつものことだけど、気が合うのか合わないのか、わからない二人だな)

吉琳:どっちも違います
吉琳:今日は他国から来る短期留学の人たちの、授業の計画を立てるんだよね?
腰に手を当てて、きっぱりと告げると二人は肩を揺らして笑った。
クロード:なんだ、ちゃんと覚えてたか
吉琳:楽しみにしてたんだから、忘れるわけないよ
この城は宮殿魔法使いが多く在籍しているため、
他国の留学生を受け入れて魔法を教えることがある。

(今日からそのための準備が始まるんだよね)

二人は笑いを収めると、私の顔を覗き込んだ。
ジル:私たちも貴女と過ごせる時間を楽しみにしていましたよ
クロード:ああ。こうして迎えに来るくらいにな

(もう…どこまで本気なんだろう)

吉琳:…私と過ごす時間じゃなくて、授業の準備でしょ?
考えの読めない表情をする二人から視線を外し、廊下の先を見つめる。
吉琳:よし、そろそろ執務室に行こう
クロード:なんだ、吉琳。ずいぶん張り切ってるな?
吉琳:だって、わざわざ他国から来てくれるから、絶対いい授業にしなきゃと思って…
ジル:吉琳が授業を手伝うのは、今回が初めてでしたか?
吉琳:うん、見学をさせてもらったことはあるんだけど…
ジル:では、お手並み拝見というところですね
クロード:おい、ジル。プレッシャーをかけるなよ
前を歩く二人は、お城の中でも優秀な魔法使いだ。

(この二人についていくのは大変だけど…)
(憧れの人と一緒に仕事ができるのは嬉しいな)

私は緊張と期待で胸をいっぱいにしながら、執務室へと向かった。

***

レオ:…じゃあ、授業で教える魔法はこれで決まりだね
レオが書類を片手に、私たちの顔を見回す。
吉琳:灯りをつける魔法と…
ジル:動物と一時的に話せるようになる魔法
クロード:あとは、物を引き寄せる魔法か

(うん、どれも初心者には親しみやすくて楽しい魔法だよね)

レオ:吉琳ちゃんは授業を手伝うのが初めてだから、誰かと一緒の方がいいと思うんだけど…
レオ:吉琳ちゃんはジルとクロード、どっちの助手になりたい?
吉琳:え…?
その瞬間、三人の視線が私に集まって…――
ジル:私に決まってますよね? 吉琳
クロード:男を選ぶセンスはあるよな? 吉琳
どこか艶めいた眼差しを向けられて、かすかに胸が騒ぐ。
吉琳:…ちょ…ちょっと待って。いきなりは選べないよ
レオ:当日までの準備もあるから、一緒にいて楽しい方を選べばいいよ
レオが煽るように、にっこりと笑みを浮かべる。

(楽しい方って…授業の内容じゃなくて?)

困惑する私に、ジルとクロードがさらに言葉を重ねる。
ジル:私の手伝いをしてくださるなら、休憩中に毎日甘いものを用意しますよ
クロード:俺の手伝いをしてくれるなら、歓迎パーティーでお前が着るためのドレスを用意するよ
鮮やかな笑みを見せるクロードに、ジルは呆れた声をこぼす。
ジル:それは少しずるいのではありませんか…?
クロード:使える手札は最大限に使う主義でな
二人がまた挑戦的に言葉を交わし始めると、隣で苦笑が聞こえた。
レオ:この二人、吉琳ちゃんが絡むとムキになるんだよね
吉琳:え、いつもこうじゃないの…?

(他の人も二人がこうして言い合うのをよく見るって言ってたけど…)

レオ:吉琳ちゃんが関わると、いつも以上になるってこと
レオ:でも、こうするとね…
レオの指先が顎にかかり、顔が近づいて……
吉琳:…っ…レオ?
慌てたその瞬間、私たちの間を静電気のようなものが走り抜けた。
そして、体がレオから遠ざかるようにわずかに後ろに引っ張られる。

(今、椅子が勝手に動いた…?)
(それに、さっきの電気みたいなものも魔法だよね…?)

レオ:っ…ジル、ちょっとバチっときたんだけど
ジル:それは、いつもお願いしているのに貴方が女性と距離を保たなかったからでしょう…?
笑顔のジルの指先には、バチリと電気が走っている。
クロード:吉琳、もう少し俺の方に椅子を寄せた方がいい
クロードが手招きすると、椅子がまたぐっと動く。
レオ:二人とも、俺が悪かったから魔法使うのは勘弁してよ…
執務室に悲しげなため息が落ちて、私は思わず笑ってしまった。

***

話し合いを終えて、ジルとクロードと執務室を後にする。
吉琳:授業について決まって良かったね
吉琳:でも、やならなきゃいけないことはいっぱいあるし…当日まで頑張らないと
廊下を歩きながら、改めて決意を固めていると、
励ますように肩に手が置かれる。
クロード:張り切るのは構わないが…
クロード:お前はすぐ無理をするからな、頑張りすぎるなよ
ジル:困ったことがあればすぐに相談に来てくださいね
見守るような二人の眼差しに、温かな気持ちが広がっていく。
吉琳:うん、ありがとう二人とも
吉琳:しばらく忙しくなりそうだけど、よろしくね
ジル:ええ
それぞれの部屋に向かって歩いていると、思い出したようにクロードが口を開く。
クロード:そういえば、吉琳は結局誰の手伝いをするつもりなんだ?
ジル:ああ…さっきは話の途中で流れてしまいましたからね
吉琳:レオには一晩考えたら伝えに来てって言われたけど
吉琳:どの授業の手伝いもしてみたいから、悩んでるんだよね…
目を伏せて考え込むと、ジルの落ち着いた声が耳に届く。
ジル:先ほどの言葉は冗談ですから、どちらを手伝って頂いても構いませんよ
ジル:まあ、正直に言えば…
ジルとクロードが唇に笑みを乗せて、お互いの視線を重ねる。
クロード:…やっぱりお前が手伝ってくれたら嬉しいけどな
吉琳:でも、二人を手伝いたい優秀な方はたくさんいると思うけど、いいの…?
不安を言葉にすると、二人の安心させるような眼差しが返ってくる。
ジル:あなたは自分が思っているよりも優秀ですよ
クロード:それに、こういうのは気心の知れた奴と組む方がいいからな
クロード:お前が手伝ってくれた方が、俺たちは助かるよ

(そう言ってもらえると嬉しいな…)

吉琳:…わかった。明日まで少し考えさせて
心に広がる温かさを感じていると、ジルがふっと真剣な瞳をした。
ジル:そういえば、一つだけ忠告しておくことがあります
吉琳:忠告?
ジル:ええ。
ジル:最近、他国に魔法を教えられる人間をスカウトしようとする動きがあるそうです
クロード:一般市民まで魔法が浸透している国はまだ少ないからな
クロード:他国の人間は魔法を学びに来るだけじゃなくて
クロード:自国で教えられる人間が欲しいってことだろ
クロードの言葉に頷き、ジルが眉をひそめる。
ジル:さらって軟禁し、無理やり教えさせる者もいるとか…
吉琳:え…そうなの?
ジル:あくまで噂にすぎませんが、
ジル:留学生が来る時期は、貴女も充分注意してくださいね
吉琳:わかった、気をつけるね

***

その翌日、私はひとつの答えを胸にレオのいる執務室を訪れた。
レオ:それじゃ、答えを聞かせて
レオ:吉琳ちゃんは、ジルとクロード、どっちの手伝いをする?

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分歧選択>>>

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クロードENDに進む

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第2話:

レオ:吉琳ちゃんは、ジルとクロード、どっちの手伝いをする?

(私が宮廷魔法使いを目指したのは、クロードの魔法がきっかけだったから…)

吉琳:私はクロードを手伝うよ
レオ:わかった。それじゃ、物を引き寄せる魔法の手伝いだね

***

(私、本当にクロードと一緒に仕事ができるんだ)

クロードのアトリエに向かいながら、心が浮き立ってくる。

(あの日からずっとクロードに憧れてたから、嬉しいな…)

頬を緩めながら、クロードと初めて出逢った日を思い出す。

〝――…魔法学校の成績優秀者が招かれる、〞
〝お城で開かれるパーティーに向かっていた時のこと〞

〝(どうしよう、パーティー用のドレスが…)〞

〝噴水の縁に座り、引っかけて破れてしまったドレスの裾を見つめる。〞

〝(服を修復する魔法は難しいから、私にはまだ使えないし…)〞
〝(だからって、こんなドレスじゃパーティーには行けないよね)〞

〝ため息をつきそうになった時…――〞
〝クロード:――俺が直そうか?〞
〝吉琳:え…〞

〝(誰だろう…お城の方かな?)〞

〝クロード:俺はデザイナーをしてるから、こういうのを直すのは得意なんだ〞
〝クロード:ほら、どうする?〞
〝吉琳:…お願い、します〞
〝不思議な雰囲気に呑まれて頷くと、男性はドレスを前に膝をつく。〞
〝男性が指を鳴らすと……〞
〝吉琳:わ……っ!〞
〝解れた糸が踊りながら、破れた箇所を縫い合わせていく。〞
〝吉琳:こんな難しい魔法を簡単に扱えるなんて…〞
〝クロード:直しただけじゃなくて、一つ特別な魔法をかけておいた〞
〝クロード:ドレスを揺らすように回ってみてくれないか?〞
〝吉琳:……?〞
〝言われた通りくるっと一回転すると、〞
〝ドレスのスカートからキラキラした光が舞い散る。〞
〝ドレスの揺れが落ち着くと、光も収まった。〞
〝吉琳:すごい、こんな魔法初めて見ました…!〞
〝クロード:…やっと笑顔になったな〞
〝吉琳:え?〞
〝クロード:せっかく似合うドレスを着てるのに、〞
〝クロード:表情を曇らせてたらもったいないだろ?〞

〝(…っ、この人笑うとなんだか印象が変わる)〞

〝落ち着いた中に少しだけ覗いた無邪気さに、胸が早鐘を打つ。〞
〝吉琳:あ…ありがとうございます。あの、あなたのお名前は?〞
〝クロード:俺はクロード=ブラック。王宮に仕えるスタイリストだよ〞

(出逢った時のクロードの不思議な魅力と魔法が忘れられなくて…)
(クロードを追うように、私も宮廷魔法使いを目指したんだよね)

考えながら廊下の角を曲がると……
吉琳:わ……!
???:……!
ふいに誰かにぶつかりそうになり、慌てて足を止める。
よろけて体が傾いた瞬間、見えない力にぐっと体を引き寄せられた。

(あれ、今の魔法は…)

クロード:大丈夫か、吉琳?
吉琳:クロード!

(やっぱり今の、クロードの引き寄せの魔法だったんだ)

視線を上げると、思ったより近くにクロードの心配そうな顔があり、
鼓動が大きく跳ねる。
吉琳:だ…大丈夫だよ。ごめんね、ちょっと考え事してて…
クロード:そうか。なんともないならよかった
安心したように微笑んでクロードの顔が離れていく。

(…、びっくりした)
(でも、やっぱりクロードの魔法はすごいな)

引き寄せの魔法は、動かす物が大きいほど扱うのが難しい魔法だ。
それをクロードは、呼吸をするように自然に使っている。

(仕事を手伝わせてもらう私ももちろんだけど)
(今度の留学生たちは、クロードの魔法を見せてもらえるなんて幸せだな)

そう思っていると、クロードが思い出したように声を上げた。
クロード:そういえば、レオから連絡をもらったが
クロード:吉琳は俺の助手を選んでくれたんだってな?
吉琳:うん、私が一番憧れてる魔法使いはクロードだから
吉琳:せっかくのクロードの魔法を学ぶチャンス、逃すわけにはいかないでしょ?
少し挑戦的に笑みを返すと、クロードの真剣な顔がぐっと近づいて……
クロード:俺の助手を選んだ理由はそれだけか?
吉琳:え?
クロード:俺を選んだのは、俺の魔法を学ぶため…本当にそれだけか?
心を捕らえるような瞳に、胸が小さく音をたてる。
吉琳:それは…
クロードが好きでそばにいたいから…それもクロードを選んだ理由の一つだ。

(でも、まだ気持ちも伝えられてないのにこんなこと言えない…)

言葉に詰まっていると、クロードがふっと口元を緩めた。
クロード:変なこと言って悪かった
すっと顔を離すと、クロードはからかうように目を細める。
クロード:俺の指導は厳しいから覚悟しろよ?
吉琳:…うん、厳しくして
吉琳:その方がクロードの魔法をたくさん学べそうだから
笑顔で告げると、ふいにクロードが表情を和らげて……
クロード:…お前のそういうところ、俺は好きだよ

(え…)

ひどく優しい笑顔に、また胸が焦れるように高鳴る。
吉琳:そういうところって…?
クロード:いつもひたむきで、一生懸命なところ
クロード:お前が俺の授業の助手を選んでくれてよかったよ
そう言うと、クロードは私の頭をあやすように撫でた。
クロード:用事を済ませたらすぐに戻るから、先にアトリエで待っててくれ
吉琳:あ……うん

(そんなこと言われたら期待してしまう、でも…)

去って行く後ろ姿を目で追うと、切ない気持ちが込み上げる。

(…クロードが好き。いつかこの気持ちを伝えたいって思う)

けれど、今はきっと一人の女性としては意識されていないと思う。

(まずは一人前の魔法使いとして認められないと)

揺れる気持ちを振り払うように、私はアトリエへと真っすぐ歩きだした。

***

――…あっという間に準備期間が過ぎ、留学生への授業が始まった
吉琳:たくさんの物が並んでいる中から
吉琳:手にしたいものだけを正確に引き寄せるのは難しいです
留学生たちの前には大小さまざまな物が並んでいる。
その一つ一つを説明しながら、私はクロードと授業を進めていた。
クロード:それに、引き寄せるものが大きくなるほど、その分集中が必要になる
クロード:けど、慣れればこんな風に…
少し離れた場所にいるクロードが手招くと、私の体が引き寄せられて……
吉琳:あ…っ!
クロードの胸へと抱きとめられる。
その瞬間、留学生たちからは賑やかな歓声が上がった。
吉琳:…っ…クロード
クロード:ま、こうやって怒られるから、悪戯はほどほどにな

クロードは留学生たちに笑いかけて、私を離す。
授業の説明を続けるクロードのそばで、そっと息をついた。

(魔法の実践のためってわかってるのによ…気持ちが落ち着かないよ)

***

授業が終わり後片づけをしていると、留学生たちが話しかけてきた。
女子生徒1:先生ーっ、質問があるんですけど…
吉琳:どうしたの?
女子生徒1:先生は、真実のキスの話って知ってます?
女子生徒2:おとぎ話によく出てきますけど、あれって本当の話なんですか?

(懐かしいな。私も同じ質問を先生にしたことがあったっけ)

真っすぐ見つめてくる瞳に、思わず頬が緩んでしまう。
吉琳:本当ですよ。真実のキスは、どんな悪い魔法も解けると言われています

(心から想い合う者同士のキスより強い魔法はないから…)

男子生徒:吉琳さんは試したことあるんですか?
吉琳:それは…――

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第3話:

吉琳:本当ですよ。真実のキスは、どんな悪い魔法も解けると言われています

(心から想い合う者同士のキスより強い魔法はないから…)

男子生徒:吉琳さんは試したことあるんですか?
吉琳:それは…ないです

(素敵な魔法だな、とは思うけど)

吉琳:悪い魔法は基本的に厳しく取り締まられていますから、試す機会もないですしね
鐘の音が鳴ると、留学生たちは名残惜しそうに立ち去っていった。

***

廊下に出ると、腕を組んで壁に寄りかかるクロードの姿があった。
吉琳:あれ、もしかして片づけが終わるの待っててくれたの?
クロード:ああ。一緒に食堂で夕食を取ろうと思って
並んで歩き出しながら、クロードが私を見下ろす。
クロード:今日ちゃんと教えられてたじゃないか、先生
吉琳:初めてにしては、上出来だったでしょ?

(…本当はすごく緊張してたけど)
(クロードがそばにいてくれたおかげで頑張れた…)

見つめ返すと、ふっとクロードの眼差しが優しい色を帯びる。
クロード:そうだな、お前のひたむきな横顔に惚れ直したよ
吉琳:…またそうやってからかうんだから

(でも、こうやって少しずつクロードに認めてもらいたい)
(明日の授業も頑張ろう)

***

――…数日後の夜
明日の授業の打ち合わせに、クロードのアトリエへ向かっていると……
男子生徒:先生、ちょっといいですか?
留学生の一人に呼び止められ、足を止める。
吉琳:どうしました? 何か授業の質問でも…?
男子生徒:いえ…あなたの授業がわかりやすくて、感心したんです
男子生徒:どうです? この国の宮廷魔法使いをやめて、僕の国専属の教師になりませんか?
吉琳:え……?
男子生徒:研究に必要な環境も材料も、なんでも用意しますよ

(この人、もしかしてあの噂の…)

〝ジル:最近、他国に魔法を教えられる人間をスカウトしようとする動きがあるそうです〞
〝クロード:一般市民まで魔法が浸透している国はまだ少ないからな〞
〝クロード:他国の人間は魔法を学びに来るだけじゃなくて〞
〝クロード:自国で教えられる人間が欲しいってことだろ〞
〝ジル:さらって軟禁し、無理やり教えさせる者もいるとか…〞
〝ジル:あくまで噂にすぎませんが、〞
〝ジル:留学生が来る時期は、貴女も充分注意してくださいね〞

ジルとクロードの言葉を思い出しながら、真っすぐに留学生を見つめる。
吉琳:…お断りさせていただきます
男子生徒:どうしてですか? 条件は悪くないはずですよ
吉琳:それは…
この国で学びたいことは、まだたくさんある。

(それに、好きな人と…クロードと離れたくない)

言葉に詰まっていると、留学生が体を乗り出してくる。
男子生徒:こんなにいい待遇は他にありませんよ。断わる理由はないでしょう?
吉琳:……っ
強引に手を掴まれそうになった瞬間、声が聞こえて……
???:――残念ながら、それはさせられない
ふいに後ろから抱きしめられる。
クロード:吉琳は俺の恋人だから
吉琳:…っ…クロード?
クロードは微笑むと、私にだけ聞こえるように耳元でそっと囁く。
クロード:待っててもアトリエに来ないから、探しに来た
クロード:…断わるのを手伝うから、しばらくじっとしてろ

(クロード…助けてくれるつもりなんだ)

吉琳:…うん
クロードのおかげで焦っていた気持ちが落ち着き、小さく頷く。
男子生徒:あなたたちが恋人…? とてもそうは見えませんけど
男子生徒:吉琳さん、抱きしめられて固まってるじゃないですか
顎を上げて嘲るように笑う留学生に、クロードは余裕の笑みを返す。
クロード:まだ付き合いたてなんでな。俺はもっと触れ合いたいんだが…
その瞬間、見せつけるようにクロードの頬が首筋に寄せられて…――
吉琳:…っ…
肌を撫でる吐息に、頬が一気に熱を持つ。
クロード:この通り、俺の可愛い恋人は恥ずかしがり屋だから
クロード:とにかく、吉琳を他のところには行かせないし、誰にも譲る気はない

(これはフリだってわかってるのに…)

肩を抱きしめる腕の力強さに、胸の奥が甘く疼く。
男子生徒:…本当に? 吉琳さんはその人と離れたくないから断わるんですか?
吉琳:…そうです
探るような表情の留学生に、クロードは笑って私の腰に手を添えた。
クロード:別にお前に信じてもらう必要はないよ
クロード:行くぞ、吉琳
クロードに促されて、留学生に背中を向けると……
男子生徒:……待ってくださいよ
吉琳:……っ

(なに、これ…)

低い声音が響き、急に体が金縛りにあったように動けなくなる。

(声も出せない…これ、拘束の魔法?)

クロード:吉琳?

(クロードっ…)

私の様子に気づいたクロードの瞳が、厳しさをまとう。
クロード:…拘束の魔法か。これは騎士団や一部の人間にのみ許される魔法だ
クロード:こんな風に悪戯に使っていい魔法じゃない
クロードの鋭い眼差しが、留学生をきつく見据える。
男子生徒:ですが、本当に恋人ならこのくらいの魔法、真実のキスで解けますよね?
男子生徒:証明してくださいよ、二人が恋人だって
留学生は嘘だと信じて疑わない様子で、不遜な態度を崩さない。
クロードは呆れたように息をつくと、小さく呟いた。
クロード:…悪い魔法ばかり使いたがるのは子どもの証拠だ
クロードは私の乱れた髪を撫でて、切なそうな顔で見下ろす。

(どうして、そんな顔……)

クロード:…ごめんな
目を見開くこともできずにいると、唇が寄せられて…――

(……!)

壊れ物に触れるような優しいキスが唇に落ちる。
吉琳:……っ…
その瞬間、糸が切れたように魔法が解けて体が自由になった。

(恋人だって言ったのは嘘のはずなのに、どうして…?)

男子生徒:そんな…絶対嘘だと思ったのに
クロード:これで満足だろ
私の体を抱き寄せ、クロードは切れ長の瞳を一層鋭くする。
クロード:留学中のルールは知ってるな?
クロード:今の拘束の魔法は規約違反だ。…このことはお前の国に報告させてもらう
呆然とする留学生を置いて、私たちは廊下の奥へ立ち去った。

***

吉琳:…クロード、私…
留学生のいた場所から随分離れて、クロードはようやく足を止めた。
顔を上げると、クロードはどこか困ったような表情をしている。
クロード:…お互い話さないといけないことがあると思うが
クロード:今の報告もしないといけないし…今日はやめておいた方が良さそうだな
吉琳:…そうだね

(私も動揺してるから、うまく話せる自信がない…)

クロード:明日ゆっくり話す時間をくれるか?
吉琳:うん、待ってる
クロードの背中を見送りながら、そっと唇に触れる。

(真実のキスは、心から想い合う同士じゃないと成功しない)

胸の前で手を握り、ぎゅっと力を込める。

(…クロードが私をどう思っているのか、知りたいよ)

***

翌日の夜は、留学生歓迎のパーティーで大勢の人が集まっていた。

(結局授業が忙しくて、昼間はクロードと話せなかったな)

彩り豊かな料理が魔法で次々と出来上がり、留学生たちの歓声が聞こえてくる。
会場に溢れる笑顔につられて、思わず笑みをこぼすと……
クロード:吉琳、楽しんでるか?
吉琳:クロード…
私の前に来るとクロードは、和やかな笑みを消して…――
クロード:…昨日の続きを話したいんだが、今いいか?
真剣な眼差しに、胸が大きく音を立てる。
吉琳:…うん

(私も、昨日のことを聞きたい)
(それから…――クロードの想いも)

***

会場を抜けてバルコニーに出ると、夜の香りとともに、涼しい風が肌を滑る。
風に煽られる髪を抑えながら、そっとクロードを見上げた。

(昨日キスした時、魔法の力は感じなかったけど…)

吉琳:…ねえ、クロード
クロード:ん?
吉琳:昨日私にキスをした時、何か特別な魔法でも使ったの…?
クロードはかすかに首を横に振る。
クロード:いや、何も使ってないよ
吉琳:…っ…でも、それじゃ…

(クロードと私は…)

目を見開くと、クロードが困ったような笑みを浮かべた。
クロード:…こんな形で互いの気持ちを知ることになるとは思わなかった
クロード:初めて逢った、城のパーティーでのこと覚えてるか?
吉琳:…忘れるわけないよ。クロードが魔法でドレスを直してくれた日だよね

(あの日のクロードにすごく憧れて宮廷魔法使いを目指したんだから…)

クロード:俺も、お前が光を落としながら喜ぶ姿が今でも目に焼きついてる
吉琳:え…?
予想外の言葉に顔を上げると、クロードは懐かしそうに目を細めていた。
クロード:だからお前が宮廷魔法使いになってここに来た時は、驚いた
吉琳:そうだったんだ…

(クロードもずっと私のこと、覚えててくれたんだ)

くすぐったいような気持ちが、甘く胸を締めつける。
その時、クロードの手が優しく頬に触れた。
クロード:…関係が変わるくらいなら、この想いはしまっておこうと思ってた
クロード:けど…お互い同じ気持ちだったんだな
吉琳:うん…

(ずっと手の届かないほど遠い人だと思ってた)
(でも…違ったんだ)

クロード:何でも一生懸命に取り組むお前に、無意識に手を差し伸べてて…
クロード:いつの間にか、お前を好きになってた
吉琳:私も、最初は憧れてただけだったけど…
吉琳:いつの間にかもっと近づきたいって…クロードに好きになってほしいって、思ってたよ
緊張しながら、それでも笑みを浮かべると、クロードの顔が近づいて……

(あ……)

吉琳:ま、待って
クロード:…どうした?
吉琳:ここでキスしたら、中の人に…
クロード:…なら、こうすればいい
クロードは悪戯っぽく笑うと、片手を上げて魔法でホールのカーテンを閉じた。
慣れた仕草が可笑しくて笑うと、くっと顎を持ち上げられる。
クロード:…キスをするのに、引き寄せの魔法は必要か?
吉琳:…試してみる?
誘われるように背伸びをすると、紫色の瞳が近づく。

(私はクロードの魔法じゃなくて)
(この瞳に引き寄せられたのかな)

私たちは真実のキスをもう一度試すように、
ゆっくりと唇を重ねていった…――


fin.

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Epilogue:

――…魔法の国ウィスタリアで、魔法使いの彼らと過ごす日々は、
まだまだ終わらない…――

ある日、ジルとクロードからご褒美をもらうことになったあなた…
けれど、なぜか二人の魔法勝負が始まってしまって…?
ジル:貴女が振り向いてくださらないと、私でも寂しく思うのですよ…?
クロード:お前に惹かれる男はたくさんいるだろうけど…お前を一番愛しているのは俺だよ
赤面必至の甘い囁きに心を乱される…!?
彼らとの愛しい時間を、もう少し覗いてみる…――?

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