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Time limit love~おとぎ話のプリンセス~(ゼノ)

傑諾01

――…昔々あるところに、あなただけの運命の王子様がいました
これは、限られた時間の中で紡がれる、真実の愛のおとぎ話…
あなたに手を差し伸べる、運命の王子様は…?
………
――…妃を選ぶ舞踏会にあなたを招待した王子ゼノ…?
ゼノ:今日のこの日を、別れの日にしたくはない
ゼノ:吉琳…
ゼノ:舞踏会に参加してくれないか?
………
???:最後の時が来るその日まで、俺は絶対に諦めない
――…刻まれていく時間が、二人を引き裂こうとしたその時…
あなたは、本当の愛を知る…――

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000

プロローグ:

――…これは、本当にあった真実の愛のおとぎ話
…………
街はずれにある一軒家に、明るい子どもの声が響く。
女の子:ねえ、お母さん。ご本読んで!
母親:いいわよ。どの本にする?
女の子:えっとね…
本棚の前に立った女の子が、つぶらな瞳に表紙を映していく。
…………
林檎の絵が描かれた本は……
白雪のように美しい姫と、
姫の命を狙うよう命令された城の騎士アランとの、秘密の恋のおとぎ話。
…………
お城の絵が描かれた本は……
100年の眠りの呪いをかけられた姫と、
呪いを解くために奔走する婚約者レオとの、切ない恋のおとぎ話。
…………
薔薇の絵が描かれた本は……
貧しくも心優しい娘と、
古城の野獣として恐れられている王子ジルとの、危険な恋のおとぎ話。
…………
海の絵が描かれた本は……
声と引き換えに陸に上がった人魚と、
初恋の相手を探し続けている王子ユーリとの、甘い恋のおとぎ話。
…………
ガラスの靴の絵が描かれた本は……
ぼろ切れの服を着た城下の娘と、
無自覚な愛で娘を求める王子ゼノとの、運命の恋のおとぎ話。
…………
子ども:じゃあ、これがいい!
女の子の小さな手が、本棚から一冊の本を抜き出す。
本を開いた母親は、優しい声で物語を紡ぎだした。
母親:昔々あるところに…――

001

どの彼と過ごす…?
>>>ゼノと過ごす

傑諾02

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第1話:

――…昔々あるところに、
義姉と継母に意地悪されながらも明るく生きる娘がいました

***

(いつもの場所で話したいことがある…か)

賑やかな城下を、急ぎ足で歩く。
丁寧な字で書かれたゼノさんからの手紙が、私の手の中で風に揺れた。

(思えばゼノさんと出逢った日も、今日みたいに青空が綺麗だったな…)

〝――…あの日、私は重い荷物を抱えながら、ふらふらと街を歩いていた。〞

〝(重い…)〞
〝(でも、日が暮れるまでに帰らないと)〞
〝(またお義姉様とお継母様に叱られてしまう)〞

〝息を切らせて家に向かっていると……〞
〝???:重そうだな〞
〝吉琳:え…?〞
〝知らない男性が、私に声をかけてきた。〞

〝(誰だろう…? なんだか不思議な雰囲気の方だな)〞

〝???:手伝おう〞
〝吉琳:あ…〞
〝目を離せずにいると、男性が軽々と私から荷物を取り上げる。〞
〝吉琳:そんな、ご迷惑をおかけするわけには…っ〞
〝???:ちょうど、お前と歩く方向が同じだっただけだ。気にするな〞
〝吉琳:ありがとう、ございます…〞
〝吉琳:あの、あなたのお名前は…?〞
〝???:…ゼノだ〞

(あれから、何度か城下でゼノさんに逢って…話をするようになった)

穏やかな時間をともに過ごすうちに、甘い感情が芽生えていき…
今ではゼノさんを見るだけで胸が高鳴り、落ち着かなくなる。

(これが恋…なんだろうな)
(今日もゼノさんに逢えるのが嬉しい)

***

高台にたどり着くと、すでにゼノさんが街の景色を見下ろしていた。
吉琳:ゼノさん…!
笑顔で駆け寄ると、ゼノさんが振り向く。
ゼノ:急に呼び出してすまないな
吉琳:いえ…話したいことって、何ですか?
尋ねると、ゼノさんの目が伏せられる。
ゼノ:お前にずっと、隠していたことがある

(改まって、なんだろう…?)

私たちの間に、一筋の風が吹く。
顔を上げたゼノさんは、真剣な目をしていた。
ゼノ:実は…俺は、この国の王子だ

(おう、じ…?)

吉琳:…冗談、ですよね?
ゼノ:いや…冗談ではない

(確かに、ゼノさんには気品があって…)
(身分の高い方なのかなと前から思ってたけど…)

ゼノ:本当なら、もう少し隠しておきたかったが…状況が変わってな
呆然と言葉を失う私に、ゼノさんが言葉を重ねていく。
ゼノ:近日中に、戴冠式が行われることになったのを知っているか?
吉琳:いえ…
吉琳:…戴冠式ということは、王子が即位されるということですか?
ゼノ:ああ
ゼノ:王ともなれば、今のように城下へ気軽に出かけることはできなくなるだろう
吉琳:…っ、それは…
ゼノ:お前と、逢えなくなるかもしれない
追い打ちをかけるような宣言に、目の前が暗くなっていく。

(そんな…いきなりすぎるよ…)

吉琳:ゼノさ…

(ううん、もうゼノさんって呼んではいけない)

吉琳:ゼノ様ともう逢えないなんて…寂しいです

(考えるだけで…苦しくなる)

顔を伏せると、ゼノ様の手がそっと私の頬に触れて…――
ゼノ:お前に一つ頼みがある
吉琳:…頼みですか?
うつむいていた顔を上向けるように、冷たい指先が輪郭をなぞった。
ゼノ:少し先の話になるが…
ゼノ:即位の前に、国中の女性を集めて妃を選ぶための舞踏会が開かれる

(…っ…そう、なんだ…)

胸の奥が疼き、感じた痛みに顔をしかめる。
そんな私から手を離し、ゼノ様が懐から手紙を取り出した。
ゼノ:これが、その招待状だ
手紙を受け取ると、そこには私の名前が記されている。
吉琳:え…私も舞踏会に…?
ゼノ:お前には、どうしても来てもらいたい
吉琳:…!
顔を上げると、真っ直ぐな視線が私の瞳と深く重なった。
吉琳:どうして…
ゼノ:なぜかはわからないが…
ゼノ:舞踏会の話を聞いた時、真っ先にお前の姿が浮かんだ
目を逸らさないゼノ様に、鼓動が段々速くなる。
言葉を返せないでいると、ゼノ様は街の景色に目を向けた。
ゼノ:お前と過ごす時間を、俺は気に入っている
ゼノ:お前はどうだ…?
吉琳:…っ、もちろん、私もです
吉琳:ゼノ様と逢える日は、いつも楽しかったです…

(どんなにつらいことがあっても…)
(またゼノ様に逢えると思えば、いくらでも頑張れた)

ゼノ:今日のこの日を、別れの日にしたくはない
ゼノ様が再び視線を戻すと、風が髪をさらっていく。
ゼノ:吉琳…
ゼノ:舞踏会に参加してくれないか?

(一人の妃候補として意識してくださるくらいには…)
(私のこと、気にかけてくださっているのかな…?)

擦り切れたスカートを、ぎゅっと握り締める。

(もったいないほどのお言葉だけど…)

吉琳:…私には、無理です
ゼノ:なぜだ?
吉琳:それは…
舞踏会には、きっときらびやかな人たちが集まる。

(お城の舞踏会に行くなんて…想像できないよ)

ゼノ:ドレスがないなら、用意させよう
吉琳:…っ、いえ、ドレスはあります

(私の本当のお母様が残してくれたドレスなら持ってる…)

『いつかあなたに大切な人が出来た時に』と、
母は昔、私のために綺麗なドレスを仕立ててくれた。
吉琳:でも…
ドレスがあっても、普段擦り切れた服を着た私とは、無縁の世界だ。
足元を見下ろすと、履き古した靴が目に入る。
ゼノ:靴がないのか?
吉琳:……ありません
ゼノ:では、俺が贈ろう
吉琳:そんな…! いただけません
慌てて首を振ると、ゼノ様はふっと口元を緩めた。
ゼノ:俺のわがままで、舞踏会に招待していることはわかっている
ゼノ:だから、贈り物くらいはさせてくれないか?
不安を拭いさるような優しい微笑みに促され、思わず頷いてしまう。
吉琳:……ありがとう、ございます
ゼノ:礼を言うのはこちらの方だ

(嬉しい、けど…やっぱり胸が苦しいよ…)
(私は手の届かない人に、恋をしてしまったんだ…)

***

――…数日後

(やっぱり、何度見ても綺麗…)

壁にかけたドレスは、陽差しを受けて鮮やかに輝いている。

(お義姉様とお継母様にこのドレスを見られたら…)
(きっと取り上げられてしまうだろうな…)

深く息をついた後、机の引き出しにしまっていた招待状を取り出した。

(ゼノ様が舞踏会に招待してくださったことは嬉しい)
(でも、下町の娘がお城の舞踏会に行くなんて…やっぱり無理だよ)

招待状から手を離すと、玄関から扉を叩く音が聞こえてくる。

(お客様かな…?)

扉を開けると、そこにいたのは知らない男性だった。
吉琳:あの…どちら様でしょうか?
アルバート:私は、アルバートと申します
アルバート:ゼノ様の使いで参りました

(え…ゼノ様の…?)

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第2話:

扉を開けると、そこにいたのは知らない男性だった。
吉琳:あの…どちら様でしょうか?
アルバート:私は、アルバートと申します
アルバート:ゼノ様の使いで参りました

(え…ゼノ様の…?)

その名前を聞くだけで、胸が騒ぎ出す。
アルバート:ゼノ様からのお届け物です
アルバートさんは私に、包みを手渡してくれた。

(これって、もしかして…)

そっと開くと、中から美しいガラスの靴が現れる。

〝ゼノ:俺のわがままで、舞踏会に招待していることはわかってる〞
〝ゼノ:だから、贈り物くらいはさせてくれないか?〞

(ゼノ様、本当に贈ってくださったんだ…)

ガラスの靴は、嬉しさで綻ぶ私の顔を映し出していた。
アルバート:ゼノ様は、あなたが舞踏会にいらっしゃるのを楽しみにされているようでした
吉琳:本当ですか…?
アルバートさんが、静かに頷く。
アルバート:来ていただけると、私も嬉しく思います
アルバート:…ゼノ様が柔らかく笑われるようになったのは、あなたに出逢ってからですので

(…っ)

吉琳:そう、なんですね…
自然と頬が熱くなり、顔を伏せる。

(それが本当なら、すごく嬉しい)

ゼノ様に出逢って毎日が楽しいと思えるようになった私と同じように、
ゼノ様にも、何らかの変化があったのであれば嬉しい。

(……もう一度、逢いたいな)

アルバートさんの言葉で、想いが一層強くなる。

(この舞踏会に行けなかったら、もう二度とゼノ様には逢えないかもしれない)
(そんなの、嫌だ。せめて靴のお礼と…ちゃんとしたお別れを言いたい)

ガラスの靴は私の決意を表すように、光を受けて輝いていた。

***

――…その日の夜
ゼノの執務室には、王子の側近であるアルバートの姿があった。
アルバート:ゼノ様、お渡しして来ました
ゼノ:そうか…
窓の外の夜空に視線を向けて、ゼノがかすかに口元を緩める。
ゼノ:舞踏会に来てくれるといいが
ゼノの表情を見て、アルバートが少しだけ目を見開く。
アルバート:ゼノ様は、それほどまでに彼女を…
ゼノ:…?
途中で口ごもったアルバートに、ゼノがいぶかしげな視線を送る。
ゼノ:吉琳を、何だ?
アルバート:その……愛しているのですね
ゼノ:愛…?
アルバート:違うのですか?
ゼノ:…いや
ゼノ:きっとお前の言う通りだ
ゼノは書類から手を離し、何かを思い出すように目を細める。
ゼノ:舞踏会の話を聞いて、なぜ吉琳のことが真っ先に思い浮かんだのかわからなかったが…
ゼノ:俺は、吉琳を愛しているのだな
アルバート:……そのようですね
アルバートが気恥ずかしそうに目を逸らす一方で、
ゼノの表情は、どこか穏やかに晴れていた。

***

――…それから瞬く間に時は過ぎ、舞踏会の当日を迎えた

(え…)

お義姉様とお継母様に言いつけられた買い出しから戻ると、
部屋の中にあるはずのドレスがなくなっていた。

(うそ、どこにいったの?)
(…っ…まさか)

家中探してみると、暖炉の中にドレスの切れ端を見つける。

(…っ、お義姉様とお継母様に見つかったんだ……)

変わり果てたドレスを見て、目の前が暗くなった。

(どうしよう…このままじゃ、お城に行けない)

途方に暮れていたその時、玄関の扉が叩かれる。
アルバート:吉琳さん…?
吉琳:アルバートさん…
アルバート:舞踏会が始まってもあなたの姿が見えなかったので迎えに来たのですが…
粗末な服のままの私に、アルバートさんが怪訝そうな顔をする。
アルバート:ドレスはどうしました?
吉琳:それが…
事情を話すと、アルバートさんは少し考えこむような顔をした。
アルバート:仕方ありません
アルバート:…今からすることは、他の人には口外しないと約束してください
吉琳:え…?
アルバート:いいですね
アルバートさんが、懐から杖を取り出す。

(何をするつもりだろう…?)

***

――…数時間後

(わあ、すごい数の人…)

お城のダンスホールに足を踏み入れた瞬間、私は息を呑んだ。

(それに…すごく眩しい)

舞踏会は、きらびやかな服を着た人たちで溢れていた。

(私、浮いてないかな…)

大理石の柱に、綺麗なドレスを着てガラスの靴を履いた自分の姿が映る。

(それにしても…)
(アルバートさんがまさか、魔法を使えるとは思わなかった…)

魔法のドレスを見下ろしながら、アルバートさんの言葉を思い返す。

〝アルバート:いいですか、吉琳さん〞
〝アルバート:12時の鐘が鳴ると、魔法は解けてしまいます〞
〝アルバート:それまでには必ず、帰ってきてください〞

(時間は限られてる)
(早く、ゼノ様を見つけないと…)

ホールを見渡すと、多くの人たちに囲まれたゼノ様を見つけた。

(やっぱり、遠いな…)
(でも、きちんと伝えたい)

意を決してゼノ様の元へ足を踏み出すと、人混みの隙間から視線が重なる。

(あ…)

その瞬間、ゼノ様が人波を抜けて私のところにやって来た。
吉琳:ゼノ様…
多くの人たちの視線が集まる中、ゼノ様は私に手を差し出して…――
ゼノ:吉琳…――俺と踊ってもらえないだろうか
吉琳:…っ、はい、喜んで
誘われるまま、一回り大きな手のひらに自分の手を重ねた。

(ゼノ様と踊れるなんて、夢みたい)

久しぶりに感じた温もりに、幸せな気持ちが込み上げる。

(でも、上手く踊れるかな)

不安な視線を向けると、ゼノ様が耳元でそっと囁く。
ゼノ:ダンスは初めてか?
吉琳:はい。…ですが、練習はしました

(こうして舞踏会で踊るのは初めてだけど、一通りは踊れるはず…)

ゼノ:そうか。苦労をかけたな
吉琳:いえ…
吉琳:ゼノ様にお逢いするための苦労でしたら、いくらでもしたいです
ゼノ:…………
曲が流れると同時に、ゼノ様に優しく腰を引かれる。
ゼノ:そのようなことを言われると、抱きしめたくなる
吉琳:…!
ゼノ:…冗談だ

(ゼノ様も冗談を言うことがあるんだ…)

速くなった胸の音に目を伏せると、ゼノ様が柔らかい笑みをこぼす。
ゼノ:初めてでも、俺がリードするから安心しろ
吉琳:はい…
ドレスの裾をふわりと広げて回転すると、周りの視線が集まる。
体を抱きとめられると、互いの顔が触れそうなほど近づいた。
ゼノ:そういえば、言いそびれていたな
吉琳:え…?
ゼノ:今日のお前は、一段と綺麗だ
吉琳:……っ
ゼノ様の優しい言葉に、胸が甘く音を立てる。
吉琳:ありがとう、ございます
ゼノ様がくれる言葉はどれも私を喜ばせるものばかりで、
こんな風にダンスをしていても、まるで夢を見ているような気分だ。

(今は…ゼノ様を見るだけで、顔が熱くなりそう)

頭を下げると、足を飾っているガラスの靴が目に入った。

(そうだ…お礼、言わないと)

吉琳:あの、ゼノ様…素敵な靴をありがとうございました
ゼノ:ああ。…お前によく似合っている
吉琳:私にも何か、お返しできるものがあればよかったんですけど…
ゼノ:礼なら、充分受け取っている
吉琳:え?
ゼノ:お前とこうして踊ることができたからな
ゼノ:…それだけで、俺は充分だ

(どうして、こんな言葉をくださるんだろう…)

甘い言葉が胸を高鳴らせるたびに、胸の痛みも増していく。
少し顔を逸らすと、ホールに飾られた大きな時計が視界に入った。

(もうすぐ12時…)
(鐘が鳴ったら、ゼノ様とお別れしないといけないのに…)
(好きになればなるほど、苦しいよ)

堪えるように唇を噛むと、ゼノ様がそっと私の顔を覗き込む。
ゼノ:なぜ、そんな顔をする?
吉琳:それは…
吉琳:……悲しいからです
ゼノ:悲しい…?
もう二度と、ゼノ様には逢えない。
その覚悟で、ここに来た。

(ゼノ様に選んでもらえれば、離れなくても済むのかもしれないけど…)
(身分の違う私では、隣に立てない)

泣きそうになるのを堪え、精一杯の笑顔で見上げる。

(そろそろ、お別れを言わないと)

吉琳:…私、ゼノ様と過ごした時間は一生忘れません
吉琳:ゼノ様にお逢い出来て、本当に幸せでした
ゼノ:吉琳…?

(最後は笑顔で、お別れをしたい)

吉琳:今まで、ありがとうございました…
掠れた声でお礼を告げたその時、12時の鐘の音が響いて…――

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[プレミアENDに進む]

おとぎ話の先で、あなたが彼と掴む幸せは…?
キスの合間に、ゼノがナイトドレスの肩紐に手をかけて…
『俺が生涯で愛するのは、お前だけだ』

 

[スウィートENDに進む]

あなたと彼の、おとぎ話の結末は…?
体を囲うように、ゼノが扉に両手をついて…
『…あのようなことを言われて離すほど、俺も優しくはない』

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第3話-プレミア(Premier)END:

吉琳:…私、ゼノ様と過ごした時間は一生忘れません
吉琳:ゼノ様にお逢い出来て、本当に幸せでした
ゼノ:吉琳…?

(最後は笑顔で、お別れをしたい)

吉琳:今まで、ありがとうございました…
掠れた声でお礼を告げたその時、12時の鐘の音が響いて……

(魔法が解ける前に、行かないと…!)

吉琳:すみません、ゼノ様…
離れがたい気持ちを抑えて、手を振りほどく。
ゼノ:…っ
かすかに目を見開いたゼノ様に背を向けて、ホールを駆け抜けた。
吉琳:あ…っ…
その途中、何かにつまずきガラスの靴が片方脱げ落ちてしまう。

(でも今は、時間がない…っ)

靴をそのままにして、急いでダンスホールを後にした。

***

ゼノ:…………
ガラスの靴を拾い上げたゼノのそばに、アルバートが歩み寄る。
アルバート:ゼノ様、彼女を連れ戻しましょうか?
ゼノ:いや
ゼノ:…俺が直接、迎えに行く
アルバート:承知しました
透き通った靴を眺めながら、ゼノはふと口元を緩めた。
ゼノ:それと、アル。…一つお前に頼みたいことがある

***

――…翌日

(何だか、昨日の舞踏会は夢のようだったな…)

いつものように街で買い出しをしながら、そんなことを思う。

(もうゼノ様にお逢いできないっていうのも、夢ならいいのに…)

ずきりと痛む胸をごまかすように、顔を上げる。
すると、街の一角に人だかりができていることに気づいた。
男性:号外だよ!

(号外? なんだろう…)

男性から号外をもらい、近くのベンチに座って広げてみると…――
吉琳:え…

『――…舞踏会の会場に落ちていたガラスの靴の持ち主が第一妃候補…!?』

飛び込んできた文字に、目を見開く。

(ガラスの靴って、まさか…)

息を呑んだその時、突然周囲が騒がしくなる。

(どうしたんだろう…?)

顔を上げると、人波の隙間で一人の人物と視線が重なった。

(…っ…あれは)

ゼノ:…………
吉琳:ゼノ、様…
周囲の音が遠のいて、ゼノ様から視線が外せなくなる。
ゼノ:吉琳
吉琳:どうして、ゼノ様がここに…?

(夢、じゃないよね…)

ゼノ:このガラスの靴は、お前のものか?
吉琳:あ…
ゼノ様のそばに控えていたアルバートさんが、
ベルベットの台座の上に乗せたガラスの靴を、私の前に差し出す。
ゼノ:すまないが、確かめさせてほしい
吉琳:っ……
ゼノ様はガラスの靴を手に取って、私の前にひざまずいた。
その様子に、観衆の視線が集まる。
吉琳:いけません、ゼノ様…っ

(王子が膝をつくなんて…)

ゼノ:お前を手に入れるためなら、大したことではない
驚く私の足を、ゼノ様が持ち上げる。
ゼノ:嫌なら無理にとは言わないが…
ゼノ:俺はお前を、妃に迎えたいと思っている
吉琳:…っ
靴を脱がせて、あらわになった素足にゼノ様の手が触れて…――
ゼノ:俺が生涯で愛するのは…――ただ一人、お前だけだ
静かな言葉とともに、私の足をガラスの靴に収めた。

(どうしよう…胸がおかしくなりそう…)

胸の高鳴りを抑えたくて、空いていた手でスカートの端をそっと握ると、
擦り切れた布の感触が伝わってきた。
吉琳:…こんなみすぼらしい娘を選んだら、ゼノ様が笑われてしまいます
呟くように告げると、ゼノ様が静かに笑みを浮かべる。
ゼノ:吉琳
ゼノ:俺は、着ているものも身分も関係なく、お前を選びたい
吉琳:……っ…
真っ直ぐな言葉を向けられて、服を握る手に力がこもる。
ゼノ:俺は、お前のことをそれなりに知っているつもりだ
ゼノ:家の事情も、お前の過去も…それから今のお前の生き方も…

(…全部、私がゼノ様にお話ししたことだ)

ゼノ:辛い境遇にあっても、真っ直ぐに前を向いて生きるお前は…
ゼノ:強さと優しさを持った、誰よりも美しい者だと思っている

(…ゼノ様は、身分も見目も関係なく)
(ただ、私という人間を見てくださってる…)

そのことに気づいた瞬間、せき止められていた想いが溢れてきた。
ゼノ:吉琳、答えを聞かせてほしい

(私では、ゼノ様にはつり合わない)
(だから、一緒にはいられないと思ってたけど…)

何もかもを見透かしてしまいそうなゼノ様の目が、
身分もなく着飾ってもいない私を、ただ真っ直ぐに映している。

(一緒にいることを、許してくださるのなら…)

吉琳:……私は、ゼノ様にふさわしい人になれるでしょうか?
ゼノ:ああ

(それなら、諦めたくない)

吉琳:私は…
吉琳:ゼノ様のことが…好きです
吉琳:だから、一緒にいさせてください
打ち明けたかった想いを告げると、ゼノ様がすっと立ち上がる。
ゼノ:それは…俺の台詞だな
吉琳:ゼノ様…
温かい手のひらが頬を覆い、瞳が近づいて…――
吉琳:…っ…ん
唇にそっと、触れるだけのキスが落とされた。
ゼノ:俺の妃になってくれるか?
吉琳:……っ、はい
小さく頷くと、瞬く間に観衆の拍手に包まれる。
男性:新しい妃の誕生だ!
多くの人の歓声が上がる中、ゼノ様に手を引かれて馬車へと向かう。

(なんだか、本当に夢を見てるみたい…)

こうして、私は擦り切れた服を着た下町の娘から、
後の国王であるゼノ様の妃となった。

***

――…城に来て、しばらく経ったある日の夜
ほのかな灯りの下で、本のページをめくっていると……
ゼノ:吉琳?
控えめなノックとともに、ゼノ様が私の部屋に入ってきた。
ゼノ:灯りが点いていたから来てみたが…
ゼノ:まだ起きていたのだな
吉琳:はい…
開いていた本を、ゼノ様が後ろから覗き込む。
吐息が耳にかかって、少しくすぐったかった。

(今夜はもう逢えないと思ってた…)

ゼノ様の温もりを肌で感じ、ひそかに笑みをこぼす。
ゼノ:こんな夜遅くまで勉強していたのか
吉琳:はい…。もうすぐ、ゼノ様の戴冠式も控えてますし…
吉琳:…1日でも早く、この国やゼノ様の役に立てるようになりたくて
ゼノ:そうか…
ゼノ様は柔らかく微笑むと、私の髪を撫でた。
ゼノ:…だが、あまり無理はするな
吉琳:ありがとうございます
吉琳:…でも、勉強してると少し安心するんです
ゼノ:安心…?
ゼノ様の手が、ぴたりと止まる。
吉琳:私が今、ゼノ様の隣にいるのは夢じゃないって…
吉琳:勉強してると、実感できますから
ゼノ:…………
吉琳:ゼノ様…?
沈黙を不思議に思い、後ろを振り向く。
すると、髪を撫でていた手が、私の顎をすくい上げて……
ゼノ:お前は…――勉強しないと、実感できないのか?
吉琳:ん…っ…
ゼノ様の唇が、吐息を塞いだ。
ゼノ:これでも、現実ではないと思うか?
吉琳:いえ…、……っ
優しく唇を噛まれ、消えない熱を残される。

(私はちゃんと…ゼノ様のそばにいる)

広い肩に手を回すと、幻ではないしっかりとした感触が返ってきた。
ゼノ:夢のようだと不安に思うなら、俺に言うといい
ゼノ:夢ではないと、何度でも教えよう
吉琳:っ…
体を横抱きにされ、そのままベッドへと運ばれる。
シーツに体が沈み、ゼノ様が縫い止めるように手首を掴んだ。
吉琳:ゼノ様…?
ゼノ:お前のことを、愛してもいいか?

(…っ…その言い方は、ずるい…)

顔に熱を感じながら頷くと、ゼノ様が再び唇を重ねる。
一瞬では終わらないキスにもうろうとしながらも、
ゼノ様の背中に手を回し、しがみついた。

(…私にも、愛させてほしい)
(夢じゃないって、不安に思わなくなるまで…)

吉琳:…ぁ……
キスの合間に、ゼノ様がナイトドレスの肩紐に手をかける。
ゼノ:このままだと…止まらなくなりそうだな
吉琳:…っ…私もです

(もっと、ゼノ様に触れていたくなる…)

ゼノ様の唇にキスを返すと、熱をもった指先がドレスを脱がして…
夢ではない、甘くて幸せな温もりが私の肌を包み込んでいった…――


fin.

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第3話-スウィート(Sweet)END:

吉琳:…私、ゼノ様と過ごした時間は一生忘れません
吉琳:ゼノ様にお逢い出来て、本当に幸せでした
ゼノ:吉琳…?

(最後は笑顔で、お別れをしたい)

吉琳:今まで、ありがとうございました…
掠れた声でお礼を告げたその時、12時の鐘の音が響いて……

(魔法が解ける前に、行かないと…!)

ゼノ様の手をそっと振りほどき、走り出す。
ゼノ:待て
吉琳:…っ…ゼノ様?
去ろうとした私の腕を、ゼノ様が掴む。
ゼノ:魔法のことはアルから聞いている
吉琳:え…
ゼノ:こっちだ
私の肩を抱いて、ゼノ様がダンスホールを後にする。
女性1:あの娘は誰…?
女性2:どこの家の方かしら…
後ろから、招かれた客たちのざわめきが聞こえた。

***

魔法が解けて、ドレスがいつもの擦り切れた服に変わる。

(大勢の人の前で解けなくてよかったけど…)

整った広い部屋の中で自分だけが場違いに思えて、胸が苦しくなった。
ゼノ:強引に連れ出してすまない
吉琳:……いえ

(王子として私の前に立つゼノ様に、この姿は見られたくなかった…)
(綺麗な人たちをたくさん見た後だから、なおさら…)

舞踏会のきらびやかさと真逆の自分に、涙が込み上げそうになる。
俯いた瞬間、ゼノ様が私を抱き寄せた。
吉琳:…ゼノ様?
ゼノ:…すまなかった
吉琳:っ…ゼノ様が謝られるようなことは何も…
ゼノ:いや…
ゼノ:…去っていこうとしたお前を無理やり引き止めたのは、俺だからな
ゼノ様の腕に、力がこもる。
ゼノ:このまま離れてしまえば、お前と二度と逢えなくなるような気がした
吉琳:…っ……

(もしかして…)
(ゼノ様も…私と離れたくないと思ってくださっているの…?)

ゼノ様の瞳を見つめ返すと、胸が甘く疼いた。

(でも…)

吉琳:…私とゼノ様とでは、住んでいる世界が違います
ゼノ:こんなに近くにいるのに、か
少し体を離して、ゼノ様が私の頬に手を添える。

(ゼノ様は身分なんて気にせず優しくしてくださるけど…)

吉琳:このような服を着ている私は、ゼノ様のそばにいるべきではありません…
ゼノ:誰かがそのように言ったのか?
吉琳:そうではありませんが…
ゼノ:ならば、気にする必要はない
ゼノ:俺は、お前にそばにいてほしいと考えている
吉琳:……そばに?
ゼノ:身分や見目など、関係ない
私の髪を梳かしながら、ゼノ様が言葉を続ける。
ゼノ:真っ直ぐに前を向いて生きるお前を美しいと、ずっと前から思っていた
はっと顔を上げると、ゼノ様の柔らかい眼差しが向けられた。
ゼノ:なぜ、これほどお前に惹かれているのか、ずっとわからなかったが…
ゼノ:この間、ようやくこの気持ちの名前を知った
ゼノ様の手が、髪をひと筋すくい上げて…――
ゼノ:俺はどうやら、お前のことを…――愛しているらしい
髪にそっと、キスが落とされた。

(ゼノ様が…私を……?)

ゼノ:俺はお前を…離したくない
心を求めるように、ゼノ様がもう一度私を抱きしめる。
ゼノ:これからも、そばにいてくれないか
眩暈がしそうなほど幸せな温もりに、体をゆだねてしまいたくなる。

(私は、ゼノ様の隣に立てるような人間じゃないのに…)
(勘違い、しそうになる…)

抱きしめ返したくなるのを堪え、
震える体で、ゼノ様の体をそっと押し返す。
ゼノ:吉琳…?
吉琳:だめ、です…

(私だって、ゼノ様といたい)
(でも…)

〝女性1:あの娘は誰…?〞
〝女性2:どこの家の方かしら…〞

(庶民だって知られたら…)
(私を選んだゼノ様が、笑われてしまうかもしれない)

ゼノ:……そうか、これがお前の答えなのだな
吉琳:…はい

(これで…よかったんだよね)

温もりが離れると、心にぽっかりと穴が開いたようだった。
ゼノ:…最後に、一つだけ聞いていいか?
深い夜のような瞳が、静かに私を捉える。
ゼノ:お前は、俺のことをどう思っている?
その言葉に、隠した想いが胸を焦がす。

(これだけは、正直に伝えたい)
(…嘘なんて、つけない)

吉琳:……好きです
ゼノ:…………
吉琳:ゼノ様のことを、今までも、これから先も、ずっと想い続けます
ゼノ:吉琳…
これが最後なのだと思うと、ゼノ様との思い出が溢れてくる。

(よく、街を一緒に歩いたな…)

〝ゼノ:お前は、笑顔が絶えないな〞
〝吉琳:そう思われるのでしたら、きっとゼノさんのおかげです〞
〝吉琳:ゼノさんと一緒にいると、すごく楽しいんです〞
〝ゼノ:…そうか〞

(それから、図書館で逢うことも多かったっけ)

〝ゼノ:お前がよく読む本は何だ?〞
〝ゼノ:…お前が好きな本を、俺も読んでみたい〞
〝吉琳:では、私も…〞
〝吉琳:ゼノさんの好きなものを、もっと知りたいです〞

(色々あったけれど、ゼノ様との思い出は全部、忘れない)

吉琳:一時でも、ゼノ様に愛していただけて幸せでした
笑顔で一息に告げて、ゼノ様に背を向ける。
扉に手をかけた瞬間……
ゼノ:行くな、吉琳
吉琳:…!
ゼノ様の腕が扉を押さえ、私の進む道を塞いだ。
振り向くと、吐息が触れてしまいそうな距離にゼノ様の顔がある。
吉琳:ゼノ、さま…?
思わず後ずさろうとして、扉に背中があたった。
ゼノ:…あのようなことを言われて離すほど、俺も優しくはない
私を囲うように、ゼノ様が扉に両手をついて…――
ゼノ:お前を逃したくなくなった
甘い熱を滲ませた鋭い眼差しで、私を見下ろす。

(ゼノ様のこんな表情、初めて見る…)

私を囲う腕にゼノ様の強い意志を感じて、鼓動の音が速くなる。
ゼノ:お前にその気がないのであれば、見送ろうかと思ったが…すまないな
吉琳:ゼノ様…、……っ
額に唇が触れて、頭の中が真っ白になった。
ゼノ:それに…俺もお前と同じだ
吉琳:同じ…?
ゼノ:離れたとしても、俺にはお前を忘れることなどできない
ゼノ:この先もずっと、苦しくても想い続けることになるだろう
吉琳:…っ

(ゼノ様が、こんな言葉をくださるなんて…)

想う気持ちが止められなくなり、愛しさが視界を滲ませる。

(ゼノ様のそばにいたい…)

壁から離れた手が私の肩に触れ、ゼノ様の顔が近づく。
ゼノ:本当に嫌なら、突き放してほしい

(そんなこと…)

吉琳:できません…
ゼノ:…そうか
ふっと微笑んだゼノ様と、優しく唇が重なる。
甘い熱が広がるにつれて、ゼノ様への想いは増していった。

(ずっと…このまま一緒にいたい)
(ゼノ様が好き…)

そっと唇が離れ、ゼノ様の瞳を見つめる。
吉琳:本当に…私で、いいんですか…?
ゼノ:ああ
ゼノ:お前に苦労をかけないとはいえないが
ゼノ:その分幸せにすると誓おう

(きっとたくさんの困難があるけど…)
(ゼノ様と一緒に、乗り越えていきたい)

吉琳:隣に立つ努力をすることを、許してくださいますか…?
ゼノ:ああ
ゼノ様が微笑んで、私の髪を撫でるように梳く。
ゼノ:お前に隣に立って欲しいと願うのは、俺の方だ

(その言葉さえあれば、どんなことでも乗り越えられる気がする)

互いに見つめ合い、どちらからともなくキスを交わす。
先ほどより深く重なったキスはひどく温かくて、
12時の鐘でも解けない魔法のように思えた…――


fin.

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Epilogue:

傑諾04

――…幸せな結末を迎えた、あなたと運命の王子様のおとぎ話…
ハッピーエンドの先に待っていたのは……
………
ゼノ:ずっと触れていたいと思うほど…
ゼノ:お前の体は、温かいな
吉琳:…っ、ゼノ様だって、温かいです
ゼノ:そう感じるのなら、お前の体温が移ったのかもしれない
私の手首に唇を寄せたゼノ様が、痕を刻むようなキスをして…――
………
王子様との物語は、まだまだ終わらない…――

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()