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Time limit love~おとぎ話のプリンセス~(ユーリ)

尤利01

――…昔々あるところに、あなただけの運命の王子様がいました
これは、限られた時間の中で紡がれる、真実の愛のおとぎ話…
あなたに手を差し伸べる、運命の王子様は…?
………
――…昔助けてくれた人魚を探し続けている王子ユーリ…?
ユーリ:…ごめん、誰にだって知られたくないことはあるよね
ユーリ:そうだ。帰る場所がないなら、俺が面倒見てあげよっか?
(え…)
ユーリ:このまま、俺について来る?
………
???:最後の時が来るその日まで、俺は絶対に諦めない
――…刻まれていく時間が、二人を引き裂こうとしたその時…
あなたは、本当の愛を知る…――

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000

プロローグ:

――…これは、本当にあった真実の愛のおとぎ話
…………
街はずれにある一軒家に、明るい子どもの声が響く。
女の子:ねえ、お母さん。ご本読んで!
母親:いいわよ。どの本にする?
女の子:えっとね…
本棚の前に立った女の子が、つぶらな瞳に表紙を映していく。
…………
林檎の絵が描かれた本は……
白雪のように美しい姫と、
姫の命を狙うよう命令された城の騎士アランとの、秘密の恋のおとぎ話。
…………
お城の絵が描かれた本は……
100年の眠りの呪いをかけられた姫と、
呪いを解くために奔走する婚約者レオとの、切ない恋のおとぎ話。
…………
薔薇の絵が描かれた本は……
貧しくも心優しい娘と、
古城の野獣として恐れられている王子ジルとの、危険な恋のおとぎ話。
…………
海の絵が描かれた本は……
声と引き換えに陸に上がった人魚と、
初恋の相手を探し続けている王子ユーリとの、甘い恋のおとぎ話。
…………
ガラスの靴の絵が描かれた本は……
ぼろ切れの服を着た城下の娘と、
無自覚な愛で娘を求める王子ゼノとの、運命の恋のおとぎ話。
…………
子ども:じゃあ、これがいい!
女の子の小さな手が、本棚から一冊の本を抜き出す。
本を開いた母親は、優しい声で物語を紡ぎだした。
母親:昔々あるところに…――

001

どの彼と過ごす…?
>>>ユーリと過ごす

尤利02

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第1話:

――…昔々あるところに、
声と引き換えに陸に上がった人魚がいました

***

慣れない人間の足で、砂浜をおそるおそる歩いていると……
吉琳:…っ
数歩足を進めたところで、砂浜に倒れこんでしまう。

(…また転んじゃった)
(足で歩くって、思ったより難しいな)

起き上がろうとした瞬間、頭上に影が落ちて……
???:大丈夫? 怪我してない?

(え…?)

はっと顔を上げると、心配そうな眼差しと視線がぶつかる。

(この方は…ユーリ様!?)

ユーリ:ずっと砂の上に座ってると、服が汚れちゃうよ?
吉琳:…!
ユーリ様の手が私の前に差し出され、目を見開く。

(ユーリ様は毎日のように海を眺めに来てるから、逢えたらと思ってたけど)
(ずっと憧れてた人が、こんなに近くにいるなんて…)

驚きに動けずにいると、ユーリ様が首を傾げた。
ユーリ:あれ、君は…
ユーリ:もしかして……人魚?
吉琳:…っ……

(ユーリ様、あの時のことを覚えてるの…?)

ひどい嵐の夜、難破した船から落ちた王子様を助けたことを思い出す。

〝ユーリ:ありがとう…人魚さん〞
〝吉琳:…っ…どう、いたしまして〞

けれど、本当なら人魚は人間の前に姿を現してはいけない掟だ。

(でも、あの時の笑顔が忘れられなくて、どうしてももう一度ユーリ様に逢いたくて…)

それで知り合いの魔法使いに頼んで、人間になる魔法をかけてもらった。

(ちゃんと人間の格好になってると思ったけど、どこかおかしいのかな…?)

戸惑いながら自分の姿を見下ろすと、かすかな苦笑が聞こえた。
ユーリ:…なんて、そんなわけないよね
ユーリ:ごめん、変なこと言っちゃったね
ユーリ:知ってる子に似てたから、少し驚いちゃって…

(あ…)

ユーリ様がそっと手を取り、私を立ち上がらせてくれる。
けれど、慣れない足は思い通りに動いてくれず、再び体が傾いて……
吉琳:…っ
ユーリ:…っと、危ない
倒れかけた私を、ユーリ様が抱きとめてくれる。

(…! ち、近い…)

思わず後ずさると、足にずきりと痛みを感じた。
ユーリ:もしかして…足、怪我してる?
心配させないように、首を大きく横に振る。

(人間の足に慣れてないせいだと思う)
(しばらく休めばきっと…)

ユーリ:……なんだか、放っとけない人だね
ユーリ様の小さな呟きが、波の音にかき消される。

(今、なんて言ったんだろう…?)

首を傾げたその時、ユーリ様が私の体を引き寄せて……
ユーリ:ちょっとごめんね
吉琳:…!
背中と膝裏に手を差し入れ、軽々と私を抱き上げた。

(ユーリ様…!?)

驚く私に、優しい笑みが向けられる。
ユーリ:家まで送ってあげるよ。案内してもらえる?
吉琳:……っ…

(そういえば私、どこにも行くあてがない)

答えに詰まっていると、ユーリ様が怪訝そうな顔をした。
ユーリ:…さっきから思ってたんだけど
ユーリ:君、もしかして…――声が出ないの?
小さく頷くと、途端にユーリ様の表情が険しくなる。
ユーリ:まさか、声が出なくなるくらいひどいことされて逃げてきた…
ユーリ:…とかじゃないよね?

(違うけど、他になんて説明すれば…)

困って眉を下げると、私の体を抱える腕に力がこもった。
ユーリ:…ごめん、誰にだって知られたくないことはあるよね
ユーリ:そうだ。帰る場所がないなら、俺が面倒見てあげよっか?

(え…)

ユーリ:このまま、俺について来る?

(ユーリ様のそばにいたいけど)
(私がついて行って、ユーリ様に迷惑をかけたりしないかな…?)

ためらっていると、ふっとユーリ様が笑う。
ユーリ:話せなくても、結構気持ちってわかるものなんだね
吉琳:…?
ユーリ:いま俺に迷惑かけないかなって心配したでしょ?
目を見開きながらも、こくこくと頷く。
ユーリ:それなら大丈夫だから…ね?
ユーリ:遠慮しないで、俺のところにおいで

(ユーリ様…)

安心させるような優しい笑みに、小さく首を縦に振る。
こうして、私は王子の客人としてお城に招かれることになった。

***

――…数日後

(うーん、人間の文字って難しい)

私は与えられた部屋で、いつものように文字の勉強をしていた。

(声で思っていることを伝えられないから)
(せめて文字を覚えて、手紙で気持ちを伝えられるようになりたい)

深く息をつくと、手元のノートに影が落ちて……
ユーリ:今日も頑張ってるね

(あ、この声ユーリ様…!)

嬉しくてぱっと振り向くと、
思いがけない近さでユーリ様と視線が重なる。
ユーリ:あ…
吉琳:…っ……
吐息が頬に触れて、鼓動が大きく音を立てた。
ユーリ:…ごめん、近づきすぎちゃった
苦笑してユーリ様がそっと体を離す。

(び、びっくりした…)

落ち着かない胸に手をあてた時、ユーリ様がノートを指差した。
ユーリ:あ…ねえ、この文字間違ってるよ

(ほんとだ…)

指摘されたところを丁寧に書き直す。
勉強に集中し始めると、気持ちが少し落ち着いてきた。

(…ユーリ様は、時間さえあれば私のところに来て文字を教えてくれる)

遠くから眺めるだけではわからなかった優しさを知るたびに、
ユーリ様への気持ちが募るみたいだった。

(…早く文字を覚えて、この気持ちを伝えたい)

ユーリ:あれ…?

(ん…?)

ふとノートから顔を上げると、
ユーリ様がテーブルの上の砂時計を見ていることに気づく。
ユーリ:この砂時計見たことないけど…君のもの?

(あ、それは…)

ユーリ:砂落ちるの遅いし、変わった時計だね
ユーリ様の言葉に、曖昧な笑みを浮かべる。

(それは、ただの砂時計じゃないから…)

きらめく砂が一粒ずつ落ちていくこの不思議な砂時計は、
魔法使いである友人のルイからもらったものだ。

〝ルイ:この砂が落ちるまでに、王子と結ばれれば…〞
〝ルイ:君はずっと人間のままでいられるし、声も取り戻せる〞
〝ルイ:でも、それが出来なかったら…〞
〝ルイ:君は泡となって消えてしまう〞
〝吉琳:…っ……〞
〝ルイ:それでも、王子のところに行きたいの?〞

(何度もルイは止めてくれたけど…)

それでも、ただユーリ様を遠くで眺めているだけなのは嫌だった。

(あの嵐の夜からずっと…ユーリ様のことを知りたいって思ってたから)

ユーリ:なんだか、難しい顔してるね
吉琳:…!
指先で軽く鼻を突かれ、はっとする。
ユーリ:勉強のしすぎじゃない?
吉琳:…っ……
ユーリ様に顔を覗かれ、不意打ちの近さに息が詰まった。

(目、合わせられない…)

さっと視線を逸らすと、ユーリ様がにっこりと微笑んで……
ユーリ:ねえ…――

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第2話:

ユーリ:勉強のしすぎじゃない?
吉琳:…っ……
ユーリ様に顔を覗かれ、不意打ちの近さに息が詰まった。

(こんなに近いと、目合わせられない…っ)

さっと視線を逸らすと、ユーリ様がにっこりと微笑んで……
ユーリ:ねえ…今から海行こうよ
私の手元にあったノートを、パタンと閉じた。
ユーリ:勉強ばっかりしてると疲れるでしょ?
ユーリ:だから、気分転換も兼ねて俺につき合ってもらえると嬉しいな
考えるよりも先に体が動いて、首を縦に振る。

(ユーリ様と一緒に海に行けるなんて…嬉しい)

胸が浮き立ち、頬を緩めると、
ユーリ様が少しだけ驚いたような顔をした。
ユーリ:……その顔は反則でしょ

(反則…?)

ユーリ:…ほんと、君は俺の調子を狂わせるの得意だよね

(なんのことだろう…?)

首を傾げると、ユーリ様がごまかすような笑みを浮かべる。
ユーリ:気にしないで。…行こっか
吉琳:…!
さり気なく手を取られ、指を優しく包まれる。
繋いだ手は、以前ユーリ様に触れた時よりも熱いように感じた。

***

夕日に照らされた砂浜を、ユーリ様と二人で歩いていく。
ユーリ:俺さ、いつも海に来ては、あの岩場から海を眺めてるんだ

(それは…知ってる)
(岩場に座って海を眺めているユーリ様を、いつも遠くで見てたから)

岩場の前に着くと、ユーリ様は私から手を離して平らな岩の上に座った。

(私も…)

ユーリ様の隣に腰を下ろそうとすると、手で制される。
ユーリ:待って、そのまま座ったら服が汚れるかもしれないから…
そう言ってユーリ様は、なぜか両腕を広げた。

(…? なんだろう?)

首を傾げると、瞳が悪戯っぽく細められて…――
ユーリ:俺の膝の上にどうぞ

(え…)

ユーリ様が、私を手招きした。

(膝の上に座るなんて恥ずかしい…)

首を横に振り、ユーリ様の隣に腰を下ろす。
ユーリ:残念。遠慮しなくてもよかったのに
頬が熱くて、楽しそうな横顔からそっと目を逸らす。

(ユーリ様は優しいけど、時々少し意地悪だよ…)

けれど、そういうユーリ様も好きで、胸の高鳴りはどんどん増していく。
ユーリ:俺…この時間の海が一番好きなんだよね
ユーリ様の小さな呟きを聞いて、顔を上げる。
目の前には、夕焼け色に染まった海が広がっていた。

(海の中から見る景色とは、全然違う…)
(ユーリ様は、いつもこの景色を見てたんだ)

ユーリ:信じてもらえないかもしれないけど…
ユーリ:俺、昔この海で人魚に助けてもらったことがあるんだ

(……っ、それって、あの嵐の夜のこと?)

ユーリ様は水平線を眺めながら、ぽつりぽつりと言葉を落とす。
ユーリ:子どもの頃、船上パーティーの途中で嵐に遭っちゃってさ
ユーリ:海に落ちた俺を、人魚の女の子が助けてくれた

(やっぱりユーリ様…あの時のこと、覚えてるんだ)

ユーリ様の記憶の中に、私が残っていたことが嬉しい。
頬を緩める私とは対照的に、ユーリ様は切なげに目を細めた。
ユーリ:もう一度逢いたくて、こうして毎日海に来てるんだけど…
ユーリ:なかなか、逢えないんだよね
吉琳:っ…

(…もう、逢えてるのに)

ユーリ様の袖を引いて、唇を動かす。
ユーリ:どうしたの…?

(その人魚は、私です)

そうやっていくら口を動かしても、声にならない言葉は伝わらない。
ユーリ:……?

(…伝えられないことが、こんなにもどかしいだなんて)

視界が滲みかけたその時、ユーリ様が私の頭に手を乗せる。
ユーリ:……わかってあげられなくて、ごめんね
吉琳:…っ……

(ユーリ様は、なにも悪くない…)

首を横に振ると、優しく髪を撫でられる。
その心地よさに体をゆだねながら、
早く文字を覚えて、ユーリ様に私の正体や想いを伝えようと心に決めた。

***

――…それから、時間はあっという間に過ぎていき、
私がお城に来てから、季節が変わるくらいの月日が流れた。

***

(ユーリ様、どこにいるんだろう)

先ほど書き終えたばかりの手紙を持って、城の廊下を一人で歩く。
時間がかかってしまったけれど、人間の文字を一生懸命勉強して、
今日、ようやく想いを文字にすることが出来た。

(砂時計の砂もほとんど落ちてしまって、そんなに時間は残ってない…)
(早く、ユーリ様にお逢いしたい)

その時、廊下の窓から見える庭に、見覚えのある姿を見つけた。

(いた…!)

近くの扉から庭に出ようとして、ふとユーリ様の隣に誰かがいることに気づく。

(あの人は、誰…?)

綺麗なドレスをまとったその女性は、どう見てもお城の使用人ではない。
不思議に思ったその時、通りかかったメイドたちの声が聞こえてきた。
メイド1:あら、あれはユーリ様と…
メイド2:婚約者のご令嬢よ

(…っ、婚約者?)

手紙を持つ手に力が入る。

(ユーリ様に婚約者がいたなんて、知らなかった…)

目の前が暗くなったその瞬間、窓越しにユーリ様と目が合った。

(……っ)

胸が苦しくなって、その場から駆け出す。
今は、何も考えたくなかった。

***

――…吉琳が走り去った後
ユーリ:どうして、そんな顔…
悲しげな顔をした吉琳をユーリが追いかけようとすると、
その手を令嬢の手が掴む。
令嬢:ユーリ様、まだ話は終わってません!
ユーリ:悪いけど、何回話しても婚約を破棄するって考えは変わらないから
令嬢:…っ…どうして…
掴まれた手を外しながら、ユーリは真剣な目で令嬢を見つめる。
ユーリ:俺は親に決められた相手じゃなくて、好きになった子のそばにいたい
ユーリ:…ごめん。もう心に決めた人がいるんだ
令嬢の手を振り払ったユーリは、吉琳の後を追いかけた。

***

(……逃げて来ちゃった)

部屋に戻って、手紙を握りしめたまま深く息をつくと……
???:吉琳、何してるの?

(この声は…ルイ?)

顔を上げると、いつの間にか目の前に魔法使いのルイの姿があった。

(さっきまで誰もいなかったのに…魔法を使ったのかな?)

ルイ:驚かせてごめん
ルイ:…君の様子が気になって見に来た

(ルイ…)

ルイ:調子はどう?
首を横に振ると、ルイが険しい顔をする。
ルイ:時間はどのくらい残ってる?

(もう、そんなに残ってない…)

テーブルの上に置いていた砂時計を指で示す。
残された砂の量を見て、ルイが息を呑んだのがわかった。
ルイ:…俺には、王子の気持ちを動かすことはできない
ルイ:魔法で助けてあげることも…できない
ルイ:でも、君が泡にならなくて済む方法なら…知ってる
吉琳:…?
戸惑いがちに目を伏せたルイが、手を上向きにかざすと…
キラキラとした光とともに、短剣が現れた。
ルイ:こんな方法でしか救うことができなくて…ごめん

(…こんな方法って、なに?)

ルイが魔法で出した短剣を、私に差し出す。
ルイ:もし、泡になって消えたくないなら…
ルイ:この短剣で、王子を傷つけて
吉琳:…!
ルイ:そうすれば魔法が解けて、君は泡にならなくて済む

(…そんなこと、できるわけないよ)
(ユーリ様を傷つけるくらいなら、泡になって消えてしまった方がいい)

首を横に振って短剣を拒むと、ルイの瞳が物憂げに揺れた。
ルイ:…そう
ルイ:それが君の選択なら、俺は何も言わない

(ありがとう、ルイ……ごめんね)

ルイが短剣をテーブルの上に置いて、私と向き合う。
ルイ:一つ聞きたいんだけど…
ルイ:…魔法で足を手に入れたこと、後悔してない?

(してないよ)
(ユーリ様と過ごした日々は、ほんとに幸せだった)

迷うことなく頷くと、微笑みが返ってきた。
ルイ:それなら、よかった
ルイ:…そろそろ行くね

(うん。…さようなら、ルイ)

心の中でお別れを告げると、
ルイは儚い笑みを残して、幻のように消えていった。

(あ…ルイ、短剣を置いて行っちゃった)

置き去りにされた短剣に手を伸ばしたその時、ノックの音が響く。
私が開けるよりも先に、ドアが開いて…――
ユーリ:…………

(ユーリ様…?)

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[プレミアENDに進む]

おとぎ話の先で、あなたが彼と掴む幸せは…?
ユーリに腕の柔らかな部分を噛まれ、頭の奥が甘く痺れて…
『海に帰りたいって思わせないくらい、幸せにするから』

 

[スウィートENDに進む]

あなたと彼の、おとぎ話の結末は…?
こつんと額が合わさり、吐息が重なって…
『君が好き…だから、消えないで』

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第3話-プレミア(Premier)END:

置き去りにされた短剣に手を伸ばしたその時、ノックの音が響く。
私が開けるよりも先に、ドアが開いて……
ユーリ:…………

(ユーリ様…?)

部屋に入ってきたユーリ様は、難しい顔をしていた。
ユーリ:さっきまで、ここに誰かいなかった?
吉琳:…っ

(もしかして、ルイとの話を聞かれたかな…?)

慌てて首を振るけれど、ユーリ様の表情は晴れない。
ユーリ:君が泡になって消えてしまうって、聞こえたんだけど…
吉琳:……!
ユーリ:…その顔、聞き間違いじゃなかったみたいだね

(どうしよう…全部聞かれたみたい)

ユーリ様の視線が、私から短剣に逸らされる。
ユーリ:俺を傷つければ、君が泡にならなくて済むっていうのも、ほんと?

(え…)

私の横を通り抜け、ユーリ様が短剣に手を伸ばす。
ユーリ:泡になるとか、魔法とか…正直全部理解できたわけじゃないけど
ユーリ:君は、困ってるんだよね?
鞘(さや)に入った短剣が、目の前に差し出された。
ユーリ:俺を、好きにしていいよ

(なにを、言ってるの…?)

首を横に振って、短剣を拒む。

(ユーリ様が優しい人だってことは知ってるけど…)
(これだけは…できないよ)

ユーリ:…俺を傷つけるの、嫌なの?
頷くと、ユーリ様の険しかった表情がふっと和らぐ。
ユーリ:でも俺は、君が泡になって消えてしまう方が嫌だよ
吉琳:……っ
ユーリ様が私の手を取り、短剣を握らせる。
重ねられた手は、ひどく優しかった。

(どうして、ここまでしてくれるの…?)

目で問いかけると伝わったのか、ユーリ様が視線を落として……
ユーリ:俺はね、恩返ししたいんだよ

(恩返し…?)

ユーリ:前から、ずっとそうなんじゃないかって思ってたけど…
ユーリ:昔、俺を救ってくれた人魚は君なんでしょ?
吉琳:…!

(どうして、気づいたの…?)

はっと息を呑むと、優しく微笑まれる。
ユーリ:君が魔法で足を手に入れたって話が聞こえたから…
ユーリ:ようやく、確信が持てた
重なった手に、力がこもる。
ユーリ:俺は君に助けられたから、今度は君を助けたい
ユーリ:短剣で俺を傷つけることが、君のためになるなら…
ユーリ:傷つけてほしいんだよ

(…っ…そんなこと、私は望んでない)

短剣から手を外そうとしても、
ユーリ様の手が離すことを許してくれない。
顔を伏せると、ふと床に落ちた封筒が目に入った。
いつの間にか落としてしまったその手紙には、
ユーリ様に伝えたい想いが詰まっている。

(婚約者の方がいるってわかって、渡さずに逃げて来ちゃったけど…)

〝ユーリ:俺を、好きにしていいよ〞

(そう言ってくれるなら…)
(私の想いを伝えることを、許してほしい)

顔を上げると、視線が重なった。
ユーリ:…決めてくれた?
頷くと、ユーリ様の手がそっと離れていく。

(…ごめんなさい、ユーリ様)

ずっしりと重い短剣を床に置いて、ユーリ様にただ手を伸ばす。
ユーリ:え…
ユーリ様の首に手を回し、かかとを浮かせて…――
吉琳:っ…
唇に短くキスをして、離れた。

(…好きだから、傷つけたくない)
(そのことに気づいて、ユーリ様)

ひとりでに熱くなっていく顔を伏せる。
ユーリ:……今のは、ちょっと困る
吉琳:…っ
ユーリ様の手が、私の顎をすくい上げる。
親指で唇をくすぐられ、体を固くした。
ユーリ:勘違いして…俺、調子乗っちゃうよ?

(勘違いなんかじゃ…っ……)

親指でなぞられたところを包み込むように、唇が重なる。
吉琳:…、っ……
戸惑いながらも目を閉じて、甘い熱を受け止めた。
ゆっくりと顔を離したユーリ様が、私の唇を拭う。
ユーリ:俺、やっぱり…君のこと好きみたい

(…………好き?)

ユーリ様の言葉で、胸が甘く疼いたその瞬間…
パリンと、小さな音が響いた。

(今の音は…)

視線を巡らすと、テーブルにあった砂時計が割れていることに気づく。

(魔法の砂時計が…壊れた?)

吉琳:…どうして……
ユーリ:…え
吉琳:あ…

(声が出る…?)
(もしかして……)

〝ルイ:この砂が落ちるまでに、王子と結ばれれば…〞
〝ルイ:君はずっと人間のままでいられるし、声も取り戻せる〞

(ユーリ様と…想いが通じたってこと?)

お互いに目を瞬かせながら、見つめ合う。
ユーリ:君の声が、聞こえた気がしたんだけど…
吉琳:…声、出るようになったみたいです
声を出せば出すほど実感がわいてきて、嬉しさが込み上げる。

(今なら、私がユーリ様に伝えたかったことを伝えられる)

吉琳:あの、ユーリ様…!

(私が、一番伝えたかったことは…)

吉琳:好きです…っ
ユーリ:え…?
吉琳:嵐の夜に助けたあの日から、ずっとユーリ様のことを想ってました
一度口を開くと、とめどなく言葉が溢れてくる。
吉琳:私…ユーリ様にお話ししたいことがたくさんあります
――…それから私はユーリ様に、ルイにかけてもらった魔法のことや、
ユーリ様への想いを、声に出して伝えた。
ユーリ:そっか…
すべての話を聞いたユーリ様が、静かに私を抱きしめて……
ユーリ:代償を払ってまで、俺に逢いに来てくれてありがとう
吉琳:っ…
ユーリ様の唇が、額に寄せられる。
優しいキスに、胸がいっぱいになった。
ユーリ:…海に帰りたいって思わせないくらい、幸せにするから
ユーリ:一生、俺のそばにいて
吉琳:…っ、はい…!

(代償を払ってでも、ユーリ様のそばにいたい…)
(そう思った気持ちは、たぶんこれから先もずっと変わらないから…)

***

その後、私はユーリ様から婚約を解消したという話や、
正式に私を婚約者にしたいということを告げられて…
泡になることなく、ユーリ王子と結ばれることになった…――

***

――…数ヶ月後
いつものように、部屋で文字の勉強をしていると……

ユーリ:『明日、どこか行きたいところある?』

私の隣に座っていたユーリ様が、ノートの端で筆談を始めた。

ユーリ:『せっかくの休みなんだし、どこか連れてってあげるよ』

二人で一冊のノートを覗き込みながら、声を使わずやり取りをする。

(文字を覚える勉強のためだってユーリ様は言うけど…)
(こういうの…楽しいなって思う)

浮き立つような心地で、ペンを動かしていく。

吉琳:『ありがとうございます。では、ユーリ様の好きな場所に行きたいです』
ユーリ:『それなら、外出なくてもいいかも』
吉琳:『城内にあるんですか?』
ユーリ:『城内っていうか…』

そこまで書いて、ユーリ様がペンを転がす。
ユーリ:ここが、今の俺の好きな場所
吉琳:ここって…?
ユーリ:吉琳の隣が、一番好きな場所
吉琳:…!
ユーリ様が、私の肩に頭を乗せる。
甘い言葉と不意打ちの温もりが、頬を熱くしていく。
吉琳:…っ…からかわないでください
ユーリ:あれ…照れたんだ?
悪戯っぽい笑みを浮かべたユーリ様が、私の頭に手を添えて…――
ユーリ:隙だらけ
吉琳:……っ…
ぐっと頭を引き寄せられ、唇が触れ合う。
突然のキスに驚く私を、ユーリ様は楽しそうに見ていた。

(……最近、ユーリ様には困らされてばかりのような気がする)

ユーリ:勉強はもうおしまい
姿勢を戻したユーリ様が、ノートを閉じて立ち上がる。
ユーリ:そろそろ寝る時間だよ

(ほんとだ…いつの間にこんな時間になってたんだろう)

時計を見て、肩を落とす。
吉琳:…もう少し、ユーリ様といたかったです
ユーリ:それなら、一緒に寝る?
吉琳:え…っ
ユーリ様の瞳が鼻先に迫り、胸が大きな音を立てた。
ユーリ:…なあんてね

(冗談、なんだ…。でも……)

離れようとしたユーリ様を、裾を掴んで引き止める。
ユーリ:…吉琳?
吉琳:ユーリ様がいいなら、私は…

(……もう少し、そばにいたい)

吉琳:だめ、ですか…?
ユーリ:…そんなこと言っていいの?
吉琳:…!
低い声を出したユーリ様が、私の体を抱き上げる。
そのままベッドに運ばれて、組み敷かれた。
ユーリ:こういうことされても、文句言えないよ?
吉琳:っ…
起き上がる間もなく手首を掴まれ、シーツの上に押しつけられる。
吉琳:…ぁ
警告するかのように腕の柔らかい部分を噛まれ、頭が甘く痺れた。
ユーリ:…今なら、やめてあげる
吉琳:っ……やめなくて、いいです

(恥ずかしい、けど…嫌じゃないから……)

小さく声を返すと、ユーリ様がくすりと笑い、耳元に唇を寄せる。
ユーリ:じゃ、手加減してあげない
吉琳:……っ、ん
そんな甘い囁きとともに耳を噛まれ、背中が跳ねた。
体の奥から込み上げてくる熱が、じわりと肌に広がっていく。

(…前までは、遠くからユーリ様を眺めることしかできなかった)
(でも今は…こんなに近くにいる)

捕らわれた手も、肌に触れる温もりも、すべてが幸せに変わっていく。
ユーリ:好きすぎて…余裕なくなったらごめんね?
吉琳:…っ、ん……
体中にユーリ様の温もりを感じながら、
海の中にはない甘い時間に、夢中になっていった…――


fin.

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第3話-スウィート(Sweet)END:

置き去りにされた短剣に手を伸ばしたその時、ノックの音が響く。
私が開けるよりも先に、ドアが開いて……
ユーリ:…………

(ユーリ様…?)

部屋に入ってきたユーリ様が、不思議そうに部屋を見渡す。
ユーリ:さっき、この部屋から話し声が聞こえたような気がしたんだけど…
ユーリ:君一人しかいないの?
吉琳:…っ
頷いてごまかすと、ユーリ様が笑みを見せる。
ユーリ:そっか…。じゃ、俺の気のせいかな

(よかった。この様子だと、ルイとの話は聞かれてないみたい)

ほっと胸をなで下ろし、改めてユーリ様と向き合う。

(それにしても…どうしてユーリ様がここにいるんだろう)
(婚約者のご令嬢と一緒にいたはずなのに…)

ユーリ:さっき、目が合ったでしょ?
私の心を見透かしたのか、ユーリ様が答えてくれた。
ユーリ:あの時、君が逃げたように見えたから追いかけて来ちゃった

(やっぱり…気づかれてたんだ)

ユーリ:どうして逃げたの?

(それは…)

顔を伏せると同時に、再びノックの音が響く。
執事:お話し中、失礼します。ユーリ様に至急の用件が…
ユーリ:…わかった、すぐ行く
ユーリ様が肩をすくめて、私を見つめる。
ユーリ:続きは、また後でね
吉琳:……っ

(逃げた理由、話さなきゃいけないよね…)
(どうしよう、なんて答えたら…)

ぎゅっと手を握った瞬間、ユーリ様の視線が落ちて……
ユーリ:それと…
ユーリ様が、固く握られた私の手を指先で軽く突く。
ユーリ:手の中にあるもの、ぐしゃぐしゃになっちゃうよ

(あ…手紙……)

指の隙間からわずかにはみ出た封筒に、息を呑む。
ユーリ:…それじゃあね
手を開く前に、ユーリ様は背中を向けて去っていった。

(…この手紙はもう、渡せそうにないな)

知らないうちに握りしめていた手紙は、
渡すのをためらってしまうほど、ぐしゃぐしゃになってしまっている。

(綺麗なままだったとしても、ユーリ様に婚約者がいると知った今…)
(私の想いは、伝えられない)

指先から力が抜けて、手紙が床に落ちる。
拾い上げようとしたその時、指が透けていることに気づいた。

(もしかして…泡になりかけてるの?)

近くにあった砂時計を見ると、
思っていたよりも砂が残っていないことに気づく。

(この調子だと…ユーリ様が戻って来る頃には、消えてるかもしれない)

込み上げてきそうになる涙をぐっと抑え、手を握り込む。

(最後に、少しでもユーリ様と話せてよかった…)
(…泡になるなら、ユーリ様と出逢った海で消えたい)

***

――…その日の夜
吉琳の部屋を訪れたユーリは、目を見開いた。
ユーリ:…いない?
人けのない部屋を見渡すと、床の上に封筒が落ちていることに気づく。
ぐしゃぐしゃになっている封筒を拾い上げると、
『ユーリ様へ』という文字が見えた。
ユーリ:なんだろ…
封筒を開けると、中にはしわくちゃになった便箋が1枚入っていた。

『嵐の夜に初めて逢ったあの日から、ずっとあなたのことを想っていました』
『私は、あなたが好きです』
『これからも、そばにいさせてください』
『――…吉琳より』

ユーリ:名前…吉琳っていうんだ
ユーリ:…初めて知ったよ
たどたどしい文字で書かれた手紙を、そっと折りたたむ。
ユーリ:…こんな手紙残して、どこ行っちゃったんだよ
ユーリは手紙をポケットに押し込んで、誰もいない部屋を飛び出した。

***

吉琳がいそうな場所を探すうちに、海へと辿り着く。
ユーリが夜の海に目を凝らすと、
波打ち際に、消えかけた吉琳の姿を見つけて…――
ユーリ:吉琳…!
ユーリは一目散に駆け出した。

***

(体、やっぱり泡になりかけてる…)

手のひらを見つめた時、遠くから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

(え、ユーリ様…?)

駆け寄ってくるユーリ様の姿に、目を見開く。
ユーリ:体が、透けてる…?

(…っ)

ユーリ様が私に手を伸ばし、消えかけた体を抱きしめた。

(温度も感触も…何も、感じない)
(感覚がなくなってるんだ…)

ユーリ:これ、どういうこと…?
理由を聞かれても、私は説明できる声はなく、ただ首を横に振る。

(ユーリ様…)
(最後に、そんな顔をさせてごめんなさい)

ユーリ:なんで、こんなことに…っ
険しい顔をしたユーリ様に、そっと手を伸ばす。

(せっかくだから…これだけは、伝えさせて)

消えかけた意識の中で、音にならない声をゆっくりと紡ぎ出す。
吉琳 『ごめんなさい、ユーリ様
吉琳 『…あなたのことが、好きでした』
ユーリ:……っ

(さようなら…)

目を閉じると、ユーリ様との思い出が頭の中を駆け巡った。

〝ユーリ:文字、だいぶ覚えてきたね〞
〝ユーリ:よく頑張りました。ご褒美にどこか連れてってあげようか?〞

〝ユーリ:君って、表情がころころ変わるよね〞
〝ユーリ:――…そういうとこ、好きだな〞
〝吉琳:…っ〞
〝ユーリ:あ、照れてる? 可愛いなあ〞

〝ユーリ:君といると…調子狂うことが多いんだよね〞
〝ユーリ:……どうしてだろ〞

色々な思い出が浮かんでは消えて、
胸の中がユーリ様への気持ちで満たされていく。

(短い間だったけど、ユーリ様のそばにいられて幸せだった)
(泡になって消えてしまっても、ユーリ様の幸せを願ってる)

意識が泡のように消えかけて、呼吸もしづらくなっていく。
酸素を求めて唇を開いた、その時……
ユーリ:俺も…君が好き

(……え)

ユーリ:…だから、消えないで、吉琳
吉琳:…っ……
柔らかな熱が唇を塞ぎ、そっと息を吹き込まれる。

(な、に…?)

目を開くと、ユーリ様の顔が視界いっぱいに広がった。

(…キス、されてる?)

そう気づいた瞬間、淡い光が私の体を包み込む。
唇が離れると、苦しかった呼吸が嘘のように楽になった。
ユーリ:……君の体、元に戻ってる
吉琳:…!

(ほんとだ…)

消えかけていた体は線輪郭を取り戻し、意識も次第にはっきりしてくる。
ユーリ:大丈夫…?
吉琳:は、い…
ユーリ:…え

(あれ、今、声が出た…?)

久しぶりに聞いた自分の声に、目を瞬かせる。

(もしかして…――)

〝ルイ:この砂が落ちるまでに、王子と結ばれれば…〞
〝ルイ:君はずっと人間のままでいられるし、声も取り戻せる〞

(…ユーリ様と、想いが通じたってこと?)

まだ唇に残っている熱が、夢ではないことを教えてくれる。

(でも、婚約者の方がいるのに、どうして…)

吉琳:あの…、……っ
ユーリ様に声をかけようとすると、強い力で抱きしめられた。
ユーリ:今のが何だったのかはわからないけど…
ユーリ:もう、大丈夫なんだよね?
吉琳:はい…。心配させてごめんなさい
ユーリ様の胸に顔を埋めると、耳元に唇を寄せられて…――
ユーリ:君には聞きたいことがいっぱいあるけど、その前に…
ユーリ:しばらく、こうしてていいかな
吉琳:っ…はい…
かすれた囁きが鼓膜を震わせ、胸が大きく音を立てる。
ユーリ:ありがと、吉琳
耳の縁にキスをされ、一気に熱が上った。

(…っ…あれ、そういえば…)

吉琳:ユーリ様…どうして私の名前を知ってるんですか…?
ユーリ:君が、手紙に書いてたでしょ?
吉琳:っ…あの手紙、読まれたんですね
ユーリ:うん、俺宛みたいだったから
ユーリ様が少しだけ体を離して、ポケットから手紙を取り出す。
ぐしゃぐしゃになったその手紙は、確かに私が書いたものだった。
ユーリ:君が、俺を助けてくれた人魚だったんだね
吉琳:……はい

(ようやく、伝わった…)

温かい手が頬を包み、顔を上向かせる。
ユーリ:…俺のことを好きになってくれて、ありがとう
瞳が近づき、ゆっくりと唇が重ねられる。
吉琳:…っ…ん…
長いキスに、頭の奥がくらりとした。

(…っ、でも…)

甘い熱で満たされる前に、ユーリ様の胸をそっと押し返す。
吉琳:…ユーリ様には、婚約者がいらっしゃるんじゃ…
ユーリ:ううん。今日、婚約を破棄したからいないよ
吉琳:え…
あっさりと告げられた内容に、目を瞬かせる。

(ユーリ様は…別の人が好きなわけじゃなかったんだ…)

ユーリ:君と一緒に過ごしてきて…
ユーリ:努力家なとことか、笑顔が可愛いこととかたくさん知って…
ユーリ:気づいたら、どうしようもないくらい好きになってた

(ユーリ様…)

ユーリ:でも、俺はまだ君のことを何も知らないみたい
こつんと額が合わさり、吐息が交わる。
ユーリ:名前だって、今日初めて知ったくらいだしね
吉琳:…今までは、お話しできませんでしたから

(でも、これからはちゃんと声で伝えられる)

ユーリ様の瞳と、視線が重なる。
ユーリ:俺に…君のこと、教えてくれる?
吉琳:はい…!
押しては返す波の音の中で…
私はそっと、ユーリ様と出逢う前までの話を声に乗せた…――


fin.

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Epilogue:

尤利04  

 

――…幸せな結末を迎えた、あなたと運命の王子様のおとぎ話…
ハッピーエンドの先に待っていたのは……
………
ユーリ:…大丈夫?
吉琳:大丈夫…じゃないです…っ…
ユーリ:そっか、ごめんね?
(ごめんねなんて、きっと思ってないのに)
熱をもった手のひらが足を撫で、柔らかな場所をくすぐって…――
………
王子様との物語は、まだまだ終わらない…――

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