Silent Moon~キスより甘いヴァンパイア~(ジル)
――…とある理由から、ヴァンパイアに献上されることになったあなた
夜のお城で待っていたのは、甘くて危険な日々だった…
…………
あなたの肌に唇を寄せるヴァンパイアは…?
………
――…ヴァンパイアに慣れるためにあなたを教育するジル…?
ジル:言ったでしょう…? 勝手に一人で外へ出てはいけないと
ジル:貴女には少々、お仕置きが必要なようですね
ジル:貴女の体に教育するのも、私の仕事なのですよ…?
………
――…肌に痕を刻まれるたび、恋の熱に溺れていく…
キスより甘いヴァンパイアたちとの危険な恋が、今始まる…――
プロローグ:
――…欠けた月が街を見下ろす、静かな夜
(ここは…)
瞼を開けると、見慣れない天井が視界に飛び込んできた。
???:あ、起きた?
吉琳:…!
突然、知らない男性が顔を覗き込んできて、慌てて体を起こす。
吉琳:あなたは…?
ユーリ:はじめまして。君の世話役のユーリです
(…世話役?)
ユーリ:ちなみに、ヴァンパイアだよ
吉琳:……っ
(そうだ…私……)
(ヴァンパイアに、献上されたんだった…)
寝起きの頭で、記憶をたぐり寄せる。
〝――…数日前〞
〝奉公先の教会に、ヴァンパイアのお城の使者がやって来た。〞
〝牧師:城のヴァンパイアは、あなたが欲しいと要求しています〞
〝吉琳:私を? どうして…〞
〝牧師:理由はわかりません。ただ、あなたを差し出せば…〞
〝牧師:最近、街に住み着いた悪いヴァンパイアの取り締まりに協力してくれると…〞
〝吉琳:……それは、本当でしょうか?〞
(…街の人たちは、悪いヴァンパイアに困ってた)
その問題が解決するならと、ヴァンパイアのお城に来たことを思い出す。
(部屋に通されて、いつの間にか寝ちゃってたんだ…)
ユーリ:それにしても、吉琳様って美味しそうな匂いがするね
吉琳:え…
悪戯っぽい笑みを浮かべたユーリが、距離を縮めてくる。
ユーリ:ねえ、俺に味見させてくれない?
吉琳:ま、待って…!
ベッドの上で後ずさりした、その時……
???:ユーリ
開いていた扉から、男性が入ってきて…――
(この人は…――)
どの彼と過ごす…?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
――…冷たい風が木々を揺らす夜
ユーリ:ねえ、俺に味見させてくれない?
吉琳:ま、待って…!
ベッドの上で後ずさりした、その時……
???:ユーリ
(え…)
呼び声に振り返ると、知らない男性がドアの前に立っていた。
???:彼女に手を出してはいけないと言ったでしょう…?
ユーリ:やだなあジル様。冗談に決まってるでしょ?
冷やかな声音に、ユーリはおどけた様子で肩をすくめる。
(この人は…?)
私の視線に気づいたのか、男性が笑みを浮かべた。
ジル:申し遅れました。私は執事長のジルといいます
ジル:今夜から貴女の教育係を担当させていただきます
吉琳:教育って…?
ジル:貴女にはこれから、ヴァンパイアに噛まれることへの耐性を覚えていただきます
吉琳:なに…それ…
体をすくめると、ユーリが安心させるように笑みを向ける。
ユーリ:吉琳様を連れてくるよう命令したのは…
ユーリ:カイン様とノア様っていう、ヴァンパイアが治めてる土地の領主をしてる方々だよ
ユーリ:悪い人たちじゃないし、心配しないで
(心配するな、なんて無理だよ…)
(それにしても、ヴァンパイアの中でも偉い方たちがどうして私を選んだんだろう…?)
唇を結ぶと、ジルが淡々と説明を続ける。
ジル:1か月後の夜、カイン様とノア様がこの城へいらっしゃいます
ジル:その時に貴女は献上されることになるのですが…
ジルは膝をつくと、そっと私の首筋に触れる。
吉琳:っ……
(冷たい…?)
あまりの手の冷たさに思わず手を跳ねのけると、ジルはため息をついた。
ジル:…このように貴女は怯えて、二人に粗相をしてしまうかもしれません
ジル:だから、普段から噛まれ慣れていただく必要があるのです
(私…慣れるまでこの人に噛まれるってこと?)
おそるおそるジルを見上げると…――
ジル:…そう怯えた顔をしなくても大丈夫ですよ
ジル:ひどいことをするつもりはありません
(ほんとかな…)
ジル:短い間ですが、よろしくお願いしますね、吉琳…?
(怖いし、今すぐにでも逃げ出したいけど…)
〝牧師:理由はわかりません。ただ、あなたを差し出せば…〞
〝牧師:最近、街に住み着いた悪いヴァンパイアの取り締まりに協力してくれると…〞
(街のみんなのためになるなら、逃げるわけにいかない…)
吉琳:…よろしくお願いします
こうして、ジルから教育される日々が始まった…――
***
――…数日後の夜
薄明りの中で、ベッドが軋む。
吉琳:ジ、ジル…!
首筋にジルの冷たい手が添えられ、肩が跳ねた。
ジル:まだ私の体温に慣れませんか?
吉琳:…っ、そういうわけじゃないんだけど…
(ジルはあまり表情が変わらないし…)
(何を考えてるのかわからなくて…少し怖い)
そう思った時、首筋を指先が滑って、びくりと体が震える。
ジル:こうして男性に触れられるのも慣れてないようですが…
ジル:それでは困るのですよ
吉琳:困るって、どうして…?
首を傾げると、ジルが私の首筋に唇を寄せて…――
吉琳:ぁ…っ…
押しつけるようなキスを落とした。
ジル:ヴァンパイアが人間を求める時、どう触れるか…
ジル:この前言葉で教えたでしょう…?
吉琳:……っ…
跡を残すような触れ方に、顔が熱くなっていく。
吉琳:…っ…やめ、て…
ジルの体を押し返すと、冷たい唇が離れていった。
ジル:…仕方ないですね。もう少し先まで教えようかと思っていましたが…
ジル:今日はここまでにしましょうか
ベッドから立ち上がると、ジルが静かな声音で囁く。
ジル:それではまた明日。おやすみなさい、吉琳
吉琳:うん…おやすみなさい、ジル
ジルが出ていった後、
鼓動の音がいつもより大きくなっていることに気づく。
(触れられるのは怖い…そう思ってるはずなのに)
(ジルに触れられるたびに、勝手に体が熱くなって…)
(なんだか、自分の体が変わっていくみたい)
静まり返る部屋の中、私はそっと熱い頬を押さえた。
***
――…翌朝
(また昼に目が覚めちゃった)
〝ジル:夜に起きて朝に寝るヴァンパイアの生活に慣れるよう…〞
〝ジル:昼間はできるだけ眠るようにお願いしますね…?〞
(ジルに言いつけられてるのに、全然慣れないな)
降り注ぐ陽差しに誘われるように、窓を開ける。
(久しぶりに陽差しを浴びたいな)
(でも、確かジルが前に言ってたっけ…)
〝ジル:勝手に一人で城の外に出てはいけまんよ〞
〝ジル:約束を守れなかった場合、お仕置きしますからね〞
(許可を取りたいけど、今の時間ジルたちは寝てるし…)
(すぐに戻ってくれば、大丈夫だよね…?)
音をたてないようにドアを開けると、私は城の外へと抜け出した…――
***
(やっぱり太陽の光って気持ちいいな)
久しぶりに清々しい森の香りを感じ、ほっと息をついたその時……
男1:こんなところで何してるんだ?
吉琳:え…?
振り返ると、腰に銃をさげた粗雑な服の男性が立っていた。
(そういえば、最近森に盗賊が出るって噂を聞いたような…)
男1:迷子なら、道案内してやるぜ?
吉琳:…っ、大丈夫です。帰り道はわかってますから…
逃げ出そうとした瞬間、手をぐっと掴まれる。
男1:逃げるなよ。せっかくだから、少し遊ぼうぜ
吉琳:離して…っ
声を上げたその時……
???:彼女を私の許可なく連れていかれては困りますね
(…! この声って…)
はっと振り返ると、視線の先に冷たい目をしたジルの姿があった。
ジル:その手を離していただけますか…?
男1:誰だお前、邪魔すんじゃねえよ
ジル:痛い目を見ないとわかっていただけないのでしたら、お相手しますよ
低く囁くジルの口元から、鋭い牙が覗く。
男1:お前はまさか、ヴァンパイア…!?
ジル:ええ。それが何か…?
男1:…っ、くそ…
男性が私の手を離し、森の奥へと逃げていく。
(助かった…)
辺りに静けさが戻ると、ジルが私の肩を掴んだ。
ジル:吉琳…貴女が城を抜け出したと気づいた時には驚きましたよ
(ジル…私を探しに来てくれたんだ)
(どうしよう、勝手に外に出たこと怒ってるよね…?)
吉琳:あの…ごめんなさ…――
言いかけた瞬間、ジルの手が私に伸ばされて……
(え…?)
突然、ぎゅっと体を抱き締められる。
吉琳:ジ…ジル?
ジル:…貴女が無事でよかった
(…っ…)
心配そうに見下ろす眼差しが今まで見たことないほど優しくて、息を呑む。
(ジルのこんな顔…初めて見た)
(本気で私を心配してくれたんだ…)
吉琳:助けてくれてありがとう、ジル…
ジル:ええ…
ジル:……っ
一瞬微笑んだジルが、すぐ苦しそうに顔を歪める。
吉琳:ジル? どうしたの…!?
その場に座り込んだジルの首元を見ると、肌が赤く焼けていた。
(そういえば、前にジルが言ってた…)
(ヴァンパイアは、陽の光を浴びると火傷するって…)
そのことを思い出し、さっと血の気が引いていく。
ジル:…心配しなくても、この程度のことは大丈夫ですよ
吉琳:…っ、大丈夫って、そんな風には見えないよ
(早くお城に戻らないと…!)
ジルの体を支えると、陽差しを避けるように森を後にした。
***
お城に戻って、ジルの部屋で手当てをほどこす。
吉琳:こんなものかな。ジル…大丈夫?
ジル:ええ。ありがとうございます
手当てを終えてもまだ赤い肌を見ると、胸がひどく痛んだ。
(ジルのこと、ずっと冷たい人だと思ってたのに…)
(火傷をしてまで、私のことを助けてくれた)
(…本当は優しい人なのかもしれない)
ジル:それより、吉琳…
ベッドの縁に座っていたジルが、私を手招きする。
吉琳:…?
近づくと手を掴まれ、シーツの上に組み伏せられた。
吉琳:…っ、何を……
ジル:言ったでしょう…? 勝手に一人で外へ出てはいけないと
冷たい指先が、唇をなぞる。
ジル:貴女には少々、お仕置きが必要なようですね
息を呑むほど妖艶な微笑みが、私を見下ろして…――
第2話:
ジル:言ったでしょう…? 勝手に一人で外へ出てはいけないと
冷たい指先が、唇をなぞる。
ジル:貴女には少々、お仕置きが必要なようですね
息を呑むほど妖艶な微笑みが、私を見下ろして……
ジル:貴女の体に教育するのも、私の仕事なのですよ…?
吉琳:あっ……
首筋に唇が押し当てられ、甘く噛まれる。
牙が肌に触れた瞬間、体の奥から熱が込み上げてきた。
(何、これ…っ)
(なんだか…体が、熱い……)
体の異変に耐えきれず、思わずジルの上着を掴む。
ジル:気持ちいいですか…?
吉琳:……ぁ…
ジル:ヴァンパイアに噛まれると、人間はみんなそうなるのですよ
低い囁きが耳を掠めると、再び吐息が首筋をくすぐる。
吉琳:…っ…ジル…もう、やめて…
ジル:そんな甘い声でやめてと言われても、説得力がありませんよ…?
吉琳:ん…ぁ……っ
熱い吐息とともに肌を吸われ、震える足がシーツをかいた。
(嫌なはずなのに…)
(どうして、力が入らないの…?)
ジル:前にユーリも言っていましたが…貴女からは甘い匂いがしますね
唇が鎖骨に滑り落ちて、手を握り込む。
吉琳:ジル…
乱れた息を整えながら、滲む視界の中でジルを見上げた。
ジル:まだ少し、怯えた顔をされていますね
ジル:でも、慣れればそのうち恐怖心もなくなりますよ
吉琳:…っ…慣れればって、またやるの?
ジルはふっと笑みをこぼすと、私の顎をすくい上げて…――
ジル:もちろんですよ。相手が私では嫌ですか?
鼻先が触れそうになるほど、端正な顔が近づく。
吉琳:っ…ジルが嫌なんじゃなくて…
(…ヴァンパイアに噛まれると、こんなに体が熱くなるなんて知らなかった)
(慣れるまでされ続けたら、どうなっちゃうんだろう…)
言葉を探していると、ジルが私の頬を撫でた。
ジル:まだ時間はありますから、少しずつ慣れていけばいいですよ
ふっと緩んだジルの表情に、また鼓動の音が速くなる。
(…変、だな……)
(さっきからずっと、ジルにドキドキしてる…)
(血を飲まれたから? それとも…)
ジル:貴女は教えがいがありそうで、楽しみです
重なる視線から、目を逸らせなくなったその時……
ジル:…カイン様とノア様のためにも、頑張ってくださいね
吉琳:……っ
(そうだった…私は、献上されるんだよね…)
改めて目的を思い出し、ずきりと胸が痛む。
(わかっていたはずなのに…)
(どうして心が痛いんだろう…?)
***
吉琳が部屋を出ていくと、ジルは切なげなため息をこぼす。
ジル:…心にもない言葉を告げるのはこたえますね
ジル:彼女にあんな顔をさせるなんて…
窓の向こうの夜空には、淡く光る満月が佇んでいる。
ジル:…そういえば、あの夜も満月でしたね
〝――…人間の領地の観察のために、広場を抜けた時のこと。〞
〝ジルは教会の裏口に立つ吉琳を見つけ、立ち止まる。〞
〝カイン:何だよ。またあの女が気になるのか〞
〝ジル:いえ、そういうわけではないのですが…〞
〝やがて貧しい子どもたちがやってきて、吉琳は笑顔でパンを分け与え始めた。〞
〝ジル:教会の人間は少ない食事で働いていると聞いたことがあります〞
〝ジル:それなのに…彼女はいつも笑って人に分け与えるのですよ〞
〝吉琳を見つめるジルの瞳が、どこか眩しそうに細められる。〞
〝ジル:なぜだか、あの顔を見ていると目が離せなくて…〞
〝ノア:それって、あの子のことが好きなんじゃないのー?〞
〝ジル:…好き?〞
〝ノア:いっそジルがさらっちゃえばいいのに〞
〝ジル:私が彼女を? …あり得ませんよ〞
〝ジル:城に忠誠を誓った執事が人間に恋をするのは禁止されています〞
ジル:…恋とは理屈ではないものですね
ジル:そばに吉琳がいるだけで、こんなにも心が揺らぐなんて…
月の光だけが、ジルの苦しそうな横顔を照らしていた…――
***
――…数日後の夜
私はヴァンパイアの歴史を教わるために、ジルと書斎を訪れていた。
ジル:では吉琳、次のページをめくっていただけますか?
吉琳:うん…
(まだ夜に起きる生活に慣れてないからかな…?)
眠気で瞼が重くなり、視界が霞んでくる。
ジル:吉琳…?
(せっかくジルが教えてくれてるのに、起きなきゃ…)
ジル:まったく、貴女は…またお仕置きが必要ですか?
低い声が聞こえた瞬間、吐息が首筋に触れて…――
吉琳:…! あ…っ
突然首筋を噛まれ、目を見開く。
吉琳:…っ…ジル
ジル:手が止まっていますよ、吉琳
ジル:早くそのページを読み上げていただけますか…?
吉琳:ご、めん…ぁ……っ…
肌に強く押し当てられる唇に、声から力が抜けていく。
ジル:声が震えていますね
吉琳:だって…っ…ジルが、噛むから…
(こんな状態で読めるわけないよ…)
ジルの笑う気配がして、そっと顔が離れる。
ジル:貴女が私の授業中にうとうとするのがいけないのですよ…?
ジル:まだ夜に起きる生活に慣れませんか?
吉琳:うん…なるべく昼は寝るようにしてるんだけど…
ジルはふっと微笑むと、私の手から本を取り上げた。
ジル:そろそろ部屋に戻りましょうか
何げなく差し出された手に、心の奥が灯るように温かくなる。
吉琳:ありがとう、ジル…
(優しくされるたびに、これが仕事としてじゃなければいいって期待してしまう)
そっと手を重ねると、冷たい体温が心地よく思えた。
(いつの間にか私…ジルと過ごす夜が待ち遠しくなってる)
優しく手を包まれて、胸の高鳴りが増していく。
それを自覚した瞬間、芽生えていた感情に気づいた。
(そっか、私……)
(ジルのことが、好きなんだ…――)
***
――…それから、ジルと過ごす夜を何回か過ごして…
ジル:前より噛まれることに慣れたようですね…?
私をベッドに組み敷いていたジルが、首筋からわずかに唇を離す。
吉琳:怖くはなくなった…けど…っ…
熱に溺れるように、体中から力が抜けていく。
(なんだか、前より体が熱いような気がする…)
(ジルのことが好きって自覚したから…?)
ジル:…顔を赤らめるのは相変わらずですね
吉琳:……っ
体温を確かめるように、ジルの冷たい手がそっと頬に触れる。
ジル:もう少し…深く噛んでもいいでしょうか…?
吉琳:う…ん……
シーツの上で手が絡んで、先ほどより強く唇が押し当てられる。
吉琳:…ぁっ…ジル……っ
耐えきれず手をぎゅっと掴むと、ジルと視線が重なる。
ジル:吉琳…
(え…)
次第に瞳が近づいて、唇に吐息がかかったその時……
ユーリ:ジル様、そこにいますか?
ドアの向こうから、控えめなノックが響く。
ユーリ:すぐに来てもらいたいんですけど…
ジル:…わかりました。今行きます
重なっていた体が離れ、ジルがベッドから起き上がる。
ジル:すみません、少し席を外しますね
吉琳:う、ん…
出ていくジルを見送っても、高鳴る胸の音は治まらない。
(さっき…キスされそうになった…よね)
(ジルは私のこと、どう思ってるんだろう…?)
触れられなかった唇は、冷やされるのを待つように熱を帯びていた。
***
ユーリに呼ばれ、廊下に出たジルを迎えたのは…――
カイン:久しぶりだな
ノア:ただいまジルー
ジル:カイン様…ノア様…
分岐選擇>>>
[プレミアENDに進む]
愛する彼のそばにいることを望んだあなた…
膝の上に乗せられ、ジルの額が背中に触れて…
『貴女に出逢わなければ、私は恋を知りませんでしたよ』
[スウィートENDに進む]
ヴァンパイアのお城を出ることになったあなた…
瞼を閉じると、ジルの冷たい唇が肌に触れて…
『貴女が欲しいと望んだからこそ、ここにいるのです』
第3話-プレミア(Premier)END:
ユーリに呼ばれ、廊下に出たジルを迎えたのは…――
カイン:久しぶりだな
ノア:ただいまジルー
ジル:カイン様…ノア様…
***
ジルが出て行ってしばらくして、部屋のドアがノックされる。
扉を開くと、ジルと二人の知らない男性が部屋に入ってきた。
吉琳:えっと…
ジル:この方たちが、カイン様とノア様ですよ
吉琳:えっ…?
(カイン様とノア様って、私を連れてくるように命令したっていう…)
(…私、この人たちに献上されるんだ)
心臓が冷えていくような感覚に、足がかすかに震えだす。
カイン:ジルから俺たちのことは聞いてるだろ?
ノア:じゃー、早速だけど行こっか
吉琳:ま、待ってください…!
近づく二人からとっさに身を引くと、カイン様が眉を寄せた。
カイン:お前、いつかこうなるってわかっててここにいたんだろ
カイン:嫌ならなんで逃げ出さなかったんだよ
吉琳:それは…
(お城にはジルがいたから…)
(ジルのそばから離れたくなかった)
涙が滲みそうになって、目を伏せると……
ジル:…申し訳ありません。カイン様、ノア様
ジルの凛とした声が、部屋に響く。
ジル:彼女を渡すわけにはいきません
(ジル…?)
ジルが私を背にかばうように立ち、二人に向き合う。
カイン:お前、俺たちに逆らうつもりか
カイン:もちろん理由は説明してくれんだろうな?
口角を上げたカインに、ジルは真っ直ぐな眼差しを返す。
ジル:それは…
ジル:私が彼女のことを…愛しているからです
吉琳:……っ
(私を…愛してる…?)
迷いのない言葉に、胸の奥がひときわ大きな音を立てる。
(私の片想いだと思ってたのに…)
(まさか、ジルも私のことを好きでいてくれたの……?)
ジル:今まで何よりも職務を優先してきましたが…
ジル:初めて譲れないものができたのですよ
ジルは私の肩を引くと、そっと抱き寄せる。
ジル:たとえ相手がカイン様とノア様であろうと、命令には従えません
(ジル…)
嬉しさが込み上げる一方で、不安も広がっていく。
(二人から私をかばって大丈夫なの…?)
カインとノアは怒るわけでもなく、ただ静かな眼差しでジルを見据えた。
カイン:執事が命令に背く場合…
カイン:何をしなきゃならねえかはわかってるよな?
(え…?)
ジル:もちろんですよ、カイン様
ジル:…けじめはきちんとつけさせていただきます
(ジル、何をするつもり…?)
***
ジルとカインが、真剣な顔で向かい合う。
(ジルがしなきゃいけないけじめって…)
二人の手に握られた剣に、思わず背筋が寒くなる。
カイン:執事が命令に背く場合、その命をかけて主に挑むこと
ジル:わかっていますよ、カイン様
ジル:…よろしくお願いします
ジルが地面を蹴ると、激しい金属音がぶつかった。
(こんなの、本当に怪我どころじゃすまないよ…!)
吉琳:二人ともやめ…――
止めようとした私の手を、ノアがぐっと掴む。
ノア:止めちゃだめだよー
吉琳:…っ、でも…!
ノア:こーでもしないと、ジルは動けないからね
吉琳:え…?
(動けないって、どういうこと…?)
首を傾げた私に、ノアが柔らかな笑みを向けた。
ノア:ジルは吉琳がこの城に来る前からずっと…
ノア:吉琳のことが好きだったんだよ
吉琳:……っ
ノアは剣で打ち合う二人を見ながら、ジルの過去を教えてくれた。
――…教会の裏口に立ち、子どもたちにパンを配る私を何度も見ていたこと
――…そんな私を見て、目が離せないと言っていたこと
(ジルがそんなに長い間、想ってくれてたなんて…)
(この気持ちは私の片想いなんだと思ってたけど、違ったんだ)
離れた場所で剣を交えるジルの横顔に、胸の奥がぎゅっと痛む。
ノア:忠誠を誓う限り、ジルは吉琳に触れられない
ノア:だから、俺たちは吉琳を連れてくるように命令したんだ
吉琳:じゃあ…全部ジルのために?
私の問いかけに、ノアが頷く。
ノア:いつも俺たちの世話してくれる、その恩返しってとこかなー
ノア:まーでも、ジルは最初から気づいてたと思うよ
(ジル…)
祈るように胸の中で名前を呼んだ瞬間、弾き飛ばされた剣が空を舞って…――
カイン:…お前の勝ちだな
ジル:そのようですね
剣を下ろしたジルに、カインが何もない手を見つめながら息をつく。
(ジルが勝ったってことは…)
(…これからも、そばにいられるってこと?)
ノア:じゃー、負けちゃったし
ノア:そろそろ帰ろっか、カイン
カイン:…そうだな
立ち去ろうとするカインとノアに、ジルが頭を下げる。
ジル:…ありがとうございました。カイン様、ノア様
ジル:貴方たちのおかげで、自分の心に向き合うことができました
ノア:さー、何のこと?
カイン:お前が勝ったんだ。後は好きにしろよ
ノア:じゃーね、吉琳
(行っちゃった…)
ジル:……っ
二人が見えなくなると、ジルは腕を押さえて顔をしかめた。
吉琳:ジル…? どうしたの?
慌てて近づくと、ジルの左腕のシャツが赤く滲んでいることに気づく。
(怪我してる…!)
吉琳:手当しないと…ユーリを呼んでくるね
ジル:待ってください
駆け出そうとすると手を引かれ、ジルに後ろから抱きしめられる。
吉琳:…っ、ジル…?
ジル:大丈夫ですから、もう少し一緒にいてください
背中にそっと、ジルの額が触れる。
ジル:やっぱり貴女は温かいですね
吉琳:…ジルだって温かいよ
ジル:私はヴァンパイアだから冷たいでしょう…?
後ろから伝わる怪訝そうな気配に、緩く首を振る。
吉琳:ううん、体温のことじゃないよ
吉琳:立場を捨ててまで私を守ろうとしてくれた…その優しさが温かいなって
そう言うと、ふっと吐息をこぼすように優しくジルが笑う。
ジル:さっきの決闘は、私のわがままでもあるのですよ
吉琳:わがまま?
ジル:貴女を連れていかれたくなかった…それが私の気持ちです
(私も…ジルと離れたくなかった)
振り向くと、自然と互いの瞳が近づいて…――
吉琳:…っん
気づいた時には、唇が優しく重ねられていた。
吉琳:ねえ、ジル…
ジル:吉琳…?
キスを解き、優しく頭を抱き寄せる。
吉琳:…私の血、飲んでもいいよ
ジル:え…?
吉琳:思い出したの…
(前に、本で読んだことがある…)
吉琳:ヴァンパイアは血を飲めば、早く傷が治るんでしょ?
ジル:…教えてもいないのに、どうしてそのことを知っているのですか?
吉琳:…こっそり勉強したんだよ
(ジルに逢えない時間は寂しくて…)
(気がつけば、いつもヴァンパイアの本を探していた)
吉琳:…だって好きな人のことは、何だって知りたいでしょ?
熱くなった頬を緩めると、ジルが柔らかく目を細めた。
ジル:…吉琳
吉琳:……っ
首筋に吐息を感じた瞬間、肌を深く噛まれる。
いつものように甘い熱に満たされていき、ジルに体をゆだねた。
吉琳:…っ……大好きだよ、ジル…
(最初は噛まれることが、ただ怖かった)
(だけど、ジルの優しさに触れるたびに…)
(求められることが、こんなにも愛しいって思えるようになった)
ジル:…不思議ですね
唇を離したジルが、小さく呟く。
吉琳:不思議って、何が…?
ジル:私が貴女の教育係だったはずなのに…
ジル:いつの間にか、私の方が多くのことを教わっていた気がします
吉琳:私は何も教えてないよ?
ジルはひどく優しい笑顔を向けると、額をこつんと重ねる。
ジル:貴女に出逢わなければ、私は恋を知りませんでしたよ
吉琳:…まだ知り足りないよ
(私がどれだけジルを想っているか、まだ伝えきれてない…)
ジル:では、これからも私に教えてくださいますか…?
吉琳:うん…
吉琳:だからずっと、そばにいて
柔らかな夜風に背中を押されるように、ゆっくりと唇が重なる。
なびくジルの前髪が、いつまでも私の額をくすぐっていた…――
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ユーリに呼ばれ、廊下に出たジルを迎えたのは…――
カイン:久しぶりだな
ノア:ただいまジルー
ジル:カイン様…ノア様…
***
ジルが出て行ってから、しばらくして……
吉琳:ん?
ドアの向こうから、わずかに話し声が聞こえてくる。
(ジル、誰と話してるんだろ…?)
そっとドアを開けて、廊下を覗くと……
ジル:カイン様…ノア様…
ジルは、見たことのない二人の男性と向き合っていた。
(もしかして…あれが、カイン様とノア様…?)
ジル:予定よりずいぶん到着が遅かったですね
ノア:ジルのためにも、ゆっくり来た方がいいと思って…
ノア:ねーカイン?
カイン:ああ。それより、あの女は今どうしてる?
暗闇で交わされる会話に、胸の奥が冷えていくのを感じた。
(まさか、私のことを迎えに来たの…?)
そっとドアから離れ、胸の真ん中で手を握る。
(このまま連れて行かれたら、二度とジルに逢えないかもしれない)
振り返ると、机の上の小さな紙が視界に入る。
(直接言葉で伝えたかったけど…)
(ごめん、ジル…)
震える手を抑えながら、急いでペンを走らせる。
そして、私はバルコニーへと飛び出した。
***
――…吉琳が立ち去ってからしばらく経った頃
ジル:…吉琳?
部屋は最初から誰もいなかったかのように静まり返っている。
ふとジルが視線を落とすと、机の上に一枚の手紙が置かれていた。
カイン:おい、逃げられてんじゃねえか
ノア:これは執事失格だよー、ジル?
ジルに続いて部屋に入って来た二人が、試すように笑みを浮かべる。
その様子を見たジルが、困ったように眉を寄せた。
ジル:…やはり貴方たちは最初から彼女を求める気はなかったのですね
ジル:薄々気づいていましたが、私のために彼女を城へ呼んだのですか…?
ノア:んー…なんのこと?
わざとらしく肩をすくめるノアに、ジルは笑みを深める。
ジル:貴方たちのおせっかいのおかげで、この1ヶ月は悩みましたよ
ジル:でもそれも…今日で終わりです
ジル:今までお世話になりました
手紙をそっと握りしめ、二人に頭を下げる。
カイン:城を出ていくのか?
ジル:ええ。何を捨ててでも手に入れたいものを見つけたので
ジルは背を向けると、部屋を駆け出した。
***
(街に戻ってきちゃった…)
お城の近くにあった教会に駆け込み、息を整える。
(今ごろジルはどうしてるかな)
耳が痛いほどの静寂に、心細くなってくる。
教会の天井を見上げると、ジルの言葉が頭の中で響いた。
〝ジル:では、カイン様とノア様のためにも頑張ってくださいね〞
(この恋は叶わないってわかっていたはずなのに…)
(キスされそうになった時、一瞬だけ想いが重なったような気がした)
(最後に…ジルの気持ちが知りたかったな…)
涙を堪えるように目をつむると、教会の扉が開いて…――
ジル:…ここにいたのですか、吉琳
吉琳:ジル…?
(どうして、ここに…?)
月を背に立つジルの姿に、胸が締めつけられる。
ジル:貴女は目を離すと、いつもどこかへ行ってしまいますね
(もしかして、私を連れ戻しにきたの…?)
体を強張らせると、ジルは首を緩く振る。
ジル:心配しなくても、城へ連れ戻したりはしませんよ
ジル:今の私は執事ではありませんから
(執事じゃ…ない?)
その意味に気づいて、声が震える。
吉琳:もしかして、私のせいで追放されちゃったの…?
(私が逃げ出したから、ジルが責任を問われて…)
ジル:そうではありませんよ
ジルは微笑むと、私の元へゆっくりと歩いてくる。
ジル:少し、昔話をしましょうか
ジル:とある人間の女性に恋をしたヴァンパイアの話を
吉琳:え…?
ジル:その女性は毎晩、貧しい子どもたちに笑顔でパンを与えていました
(…っ、それって…)
ジル:ヴァンパイアは遠くからその姿を見て…理解できない女性だと思っていました
ジルの瞳が、思い出すように遠くを見つめる。
ジル:それなのにいつの間にか、彼女の笑顔が忘れられなくなっていた…
ジル:叶うことなら、あの笑顔が自分に向いて欲しいと思うようになったのです
ジルは私の前に膝をつくと、私を見据える。
ジル:それから城で再会するまで…想いは胸の奥にしまっていたのですがね
吉琳:ジル…その女性って…
言いかけた言葉を遮るように、手が重なって…――
ジル:…貴女のことですよ、吉琳
吉琳:……っ
胸の奥が、ひと際大きく音を立てる。
ジル:何を捨ててでも…もうこの想いを諦めたくなかった
ジル:私はただ一人の男として…
ジル:貴女が欲しいと望んだからこそ、ここにいるのです
(そんな…ずっと想ってもらってたなんて知らなかった)
(私だけが、一人叶わない恋をしてると思ってたのに…)
ジルは私の目元に触れると、笑みを深める。
ジル:目元が真っ赤ですよ、吉琳
ジル:私がここに来るまで、泣いていたのですか?
吉琳:…だって、もうジルに逢えないんじゃないかって思ってたから…
ジル:私も貴女を探している間は、ずっとそう思っていましたよ
吉琳:いきなり逃げて、ごめんなさい…
吉琳:ジルのことが好きだから、離れるのが嫌で…
ふいに、ジルの眼差しにひどく優しい色が浮かぶ。
ジル:先に答えを聞いてしまいましたね
吉琳:答え…?
ジルは頷くと、懐から手紙を取り出した。
吉琳:それ…私が置いていった手紙…
〝――…逃げ出してごめんなさい。〞
〝――…いつか必ず、理由を伝えに行きます。〞
手紙には、そう書き残した。
吉琳:いつかって書いたのに…
ジル:すぐに伝わってしまいましたね
なんだか可笑しくて、互いに笑みをこぼす。
(たった数時間だったはずなのに…)
ジルと逢えない時間は、ひどく長いように感じた。
ジル:心配しなくても、連れて行かせる気はありませんでしたよ…?
吉琳:え…
ジルは私の腰に触れると、そっと抱き寄せて…――
ジル:貴女が思っているよりも、私は長く貴女に恋をしていたのですから
胸が重なり、鼓動の音が混ざり合う。
吉琳:ねえ…その時の話、もっと聞かせて?
見上げると、唇にジルの人差し指が触れた。
ジル:これから時間はたくさんありますから
ジル:また今度、ゆっくりお話しますよ
(そっか…これからはずっと一緒にいられるんだ)
吉琳:うん。じゃあ、楽しみにしてる
何気ない会話が夢のようで、
幸せを噛みしめるように、ジルの胸に額を預けた。
ジル:それよりも今は…先ほどの続きをしたいのですが
吉琳:続きって…?
ジル:途中でカイン様とノア様が帰って来られたので…
ジル:貴女にキスすることができなかったでしょう?
吉琳:……っ
思い出すと、顔が熱くなる。
ジル:また顔が赤いですよ…?
ジルは少しだけ意地悪に囁くと、私の顎をすくい上げた。
吉琳:…ジルのせいだよ
ジル:そのようですね
瞳が近づき、逸らせなくなる。
ジル:…私の唇は少し冷たいかもしれませんね
吉琳:ううん、そんなことないよ
(ジルに触れられるたびに)
(その冷たさが好きになっていったから…)
吉琳:私の体温には、ジルがちょうどいいの
瞼を閉じると、ひんやりとしたキスが唇に落ちる。
それでも心は冷めることなく、私の胸を熱く焦がしていた…――
fin.
エピローグEpilogue:
――…障害を乗り越え、心を通わせ合った二人…
想いが深くなるほど、ヴァンパイアの彼は衝動が抑えられなくなって…?
あなたを求める想いが、彼目線で描かれていく……
(そんな顔されると…もう少しからかいたくなりますね)
ジル:そういえばいつも、首筋を噛んでいましたが…
ジル:今夜は、違う場所からいただいてもいいでしょうか…?
吉琳:違う場所って…、……っ
ナイトドレスの縁を引き下ろし、柔らかな胸に顔を寄せて…――
キスより甘いヴァンパイアの愛は、もう誰にも止められない…――