Screenshot_20180902-151124.png

After the Cinderella story~キミへの誓いをもう一度~(ジル)

2018/09/04~2018/09/16

Screenshot_20180904-150429.png
不思議な絵本の中に誘いこまれた彼とあなた。
目の前に広がっていたのは、
彼から初めてプレゼントを受け取った瞬間で…―
………
(吉琳は、大切なことをいつも私に教えてくれますね)
ジル 「私の幸せのために、ずっと側を離れないで下さいね」
………
月日を重ね、改めて知る愛しい人のキモチ。
これは、彼と永遠の愛を誓ったあなたに贈る、
シンデレラストーリーのつづき…―

 

 

 

122

 

Screenshot_20180904-150136.png

Screenshot_20180904-150142.png

Screenshot_20180904-150147.png

Screenshot_20180904-150151.png

 

122

 

プロローグ:

Screenshot_20180904-150248.png

これは私が彼と婚約をして、数日が経った頃の物語…―
城下の視察から戻り、部屋へ向かおうとしていた私は、
ふいに、後ろから声をかけられた。
??? 「おい」
振り返ると、護衛でついてくれていたアランがあるものを手に駆け寄ってくる。
アラン 「これ、忘れもん」
吉琳 「あっ」
アランが持ってきてくれたのは、赤い表紙の一冊の日記帳だった。
吉琳 「ありがとう」
アラン 「静かだと思ったら、馬車の中で本読んでたのか」
吉琳 「うん。でもこれ、実は日記なの」
吉琳 「昔、プリンセスをしていた方のものみたい」
つい先日、使われていない小部屋で見つけたその日記には、
ある女性の、プリンセスとしての日々が綴られていた。
アラン 「ふーん。何でそんなもん読んでんの」
吉琳 「面白いことが書いてあったから」
吉琳 「『絵本の中に入って彼との思い出を巡った』って」
アラン 「…は?」
書庫にある絵本の中に恋人と迷い込み、
『思い出深いもの』を見つけて帰ってきたプリンセスの体験談を、アランに話す。
吉琳 「『彼の気持ちが沢山聞けて嬉しかった』って書いてあって、」
吉琳 「少し気になってしまって」
アラン 「で、見つかったのかよ」
吉琳 「うん。絵本はあったんだけれど…真っ白だったの」
書庫から借りてきた絵本には、何も描かれておらず、
何度ページをめくっても、不思議なことは起こらなかった。

(絵本が置いてあった場所も、表紙の特徴も、日記に書いてある通りだから、)
(間違いではないと思うだけれど…)

アラン 「そのプリンセスの夢だったんじゃねえの?」
吉琳 「…やっぱりそうなのかな」
残念に思いながら頷くと、
アランは、どこか励ますようにぽつりと呟いた。
アラン 「本がだめでも直接聞けばいいだろ」
アラン 「相手が何思ってるかなんて」

(…そうだよね)
(今はもう、あの人がずっと側にいてくれるんだから)

吉琳 「うん、そうしてみる。ありがとう」

***

その後、私は絵本を戻すために書庫へ向かっていた。
本の表紙を眺めながら中庭に面した廊下を歩いていると…
??? 「吉琳」

(あっこの声…)

聞き覚えのある声が響き、顔を上げた先には、彼の姿があった。
思わず笑顔をこぼして歩み寄ろうとしたその時、庭から強い風が吹きこむ。
吉琳 「……!」
その拍子に、パラパラと絵本のページがめくれていくと…
吉琳 「えっ」
辺りが真っ白な光に包まれ、指先が開いたままだったページに吸い込まれていく。

(何……!?)

訳が分からないまま強い力に引っ張られるようにして、私は絵本の中へ落ちていった…―

 

どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ

 

122

 

第1話:

 

強い力に引っ張られるように絵本の中へ落ちていく。
真っ白な光の渦の中、ジルは吉琳に手を伸ばし…
ジル 「……ここは?」
光がおさまり、ゆっくりと瞼を上げると、
そこには湖が広がっていた。
深い色の湖は、まるで鏡のように美しい夜空を映している。
吉琳 「中庭にいたはずなのに、どうして…」
戸惑った声に、横へ視線を向けると、
空を見上げる吉琳の姿があった。
ジル 「無事のようですね、吉琳」
ほっと息をこぼし、髪を優しく撫でると、ふわりと笑顔が返される。
吉琳 「はい、大丈夫です。ジルも怪我はありませんか?」
ジル 「ええ、何ともありません。ですが、ここは一体どこなんでしょうか」

(確か…中庭で吉琳に声をかけた後、光に包まれて…)

思い返しつつ周囲をゆっくりと見回すと、
二人の頭上に瞬いていた星々の中から、一つが降るように流れていく。
その美しさに一瞬目を奪われたその時、吉琳が突然頭を下げた。
吉琳 「そのことなんですが…ジル、ごめんなさい」


=====


吉琳 「そのことなんですが…ジル、ごめんなさい」
ジル 「どうしたのですか?」
訊ねると、吉琳は自分の指先に視線を落とす。
吉琳 「多分、ここは…私がさっき持っていた絵本の中です」
言われてみれば、先ほど吉琳の手元にあったはずの絵本が無くなっている。
詳しい状況を知ろうと、吉琳に向き直った。
ジル 「どういうことですか?」
吉琳 「それは…」
吉琳は先日、使われていない小部屋で昔のプリンセスの日記を見つけたこと、
そして、日記には絵本の中に入って恋人との思い出を巡り、
『思い出深いもの』を見つけて帰ってきたことが書かれていたと告げる。
ジル 「…昔、似たような話を聞いたことがありますね」
吉琳 「本当ですか?」
ジル 「何も書かれていない絵本を恋人と一緒に読むと」
ジル 「不思議なことが起こるという話です」
ジル 「まだ私が、城にあがって間もない頃のことですが」
そう告げると、吉琳の瞳が驚きに見開かれた。
吉琳 「そのお話と同じ、真っ白な絵本を見つけたんです」


=====


吉琳 「そのお話と同じ、真っ白な絵本を見つけたんです」
今度はジルが目を見張ってしまう。

(当時はただの噂話だろうと信じていませんでしたが)
(自分自身が体験することになるとは…)

ジル 「ここに迷い込んだのが私だけだったら、まだよかったのですが…」

(ここがどこであろうと、吉琳を危険な目にあわせるわけにはいきません)
(…どうしたら、安全にここから出られるのか考えなければ)

腕を組み思案していると、ぽつりと呟きが聞こえた。
吉琳 「…そんなことを言わないでください」
視線を上げると、吉琳は何故か難しい顔をしている。
ジル 「吉琳…?」
吉琳 「いえ…」
吉琳は誤魔化すように空を見上げ、流れ星を見つめる。
そんな様子が気になり、さらに言葉を促そうとしたその時、
吉琳が思い出したように声をあげた。
吉琳 「あっ、この場所って…」
ぱっと、輝いた瞳がジルに向けられ…―
吉琳 「思い出しませんか?」
吉琳 「二人でお城を抜け出して、湖のほとりまで連れて来てくれたのを」


=====


吉琳 「思い出しませんか?」
吉琳 「二人でお城を抜け出して、湖のほとりまで連れて来てくれたのを」
その言葉に、胸の奥から甘い記憶がよみがえる。

*****
吉琳 「今の、流れ星ですよね」
ジル 「ええ」
ジル 「ここは、流れ星がよく見える場所なんです」
吉琳 「…私が今、星に願うとしたら……」
吉琳 「きっとプリンセスとしてではなく、私的な願い事になると思います」
ジル 「…そうですね。これくらい城から離れてしまえば、」
ジル 「ようやくプリンセスや教育係などとは関係なく…」
ジル 「誰の目も気にせず、貴女に触れることが出来ますね」
*****

(あの時の私は…)

吉琳と恋人でいられる時間が続けばいいと、願っていたことを思い出す。
ジル 「願いは、叶いましたね」
吉琳 「はい…」
二人の想いが通じ合ったことを噛みしめていると…
吉琳 「あの時みたいに、流れ星に元に戻れるように願うというのは…」
そう言いかけて、吉琳は苦笑する。
吉琳 「そんなに簡単にはいかないですよね」

(こういうところは、出逢った頃から変わらないですね)

吉琳らしい視点に愛しさが溢れてくる。
思わず微笑んでから、ジルは再び思案をめぐらせた。

(真剣に戻る方法を探すのは大事ですが、)
(あまり大ごとにして吉琳を不安がらせるのも避けたいところです)

ジル 「ですが、全く可能性がないとも言い切れません」
ジル 「試してみましょうか?」
吉琳 「はい…!」
嬉しそうに頷いた吉琳と共に夜空を見上げる。
そして、光の尾をひいて流れていく星に願った瞬間…―


=====


嬉しそうに頷いた吉琳と共に夜空を見上げる。
そして、光の尾をひいて流れていく星に願った瞬間…
吉琳 「ジル、あれ…」
その星が光を放ったまま、真っ逆さまに湖へ近づいていく。
不思議な光景を見つめていると、
星が湖へ落ちたと同時に、その場全体を照らすほど強く光り…
ジル 「吉琳、私の側に」
ジル 「危険ですから、離れないでください」
吉琳 「はい」
ジルは吉琳を守るように、その身体をしっかりと抱きしめた。
やがて、光がおさまったのを確認して顔を上げると、
景色は姿を変えていた。
星々を映していた湖はどこにもなく、黒々とした森が広がっている。

(ここは…ウィスタリアのようですね)

見慣れた景色から国外ではないと分かるものの、
はっきりとした位置までは分からない。
さらに…

(雨ですか…)

空からは冷たい雨が落ちてきて、ジルは眉をひそめた。
ジル 「今は雨をしのげる場所を探しましょう」
吉琳 「あそこに大きい木がありますね」
ジル 「行きましょう」
降り注ぐ雨から逃れるように木の下に駆け込む。
すると、少し離れた場所に馬車があるのが見えた。

(あれは…―)

 

122

 

第2話:

 

降り注ぐ雨から逃れるように木の下に駆け込む。
すると、少し離れた場所に馬車があるのが見えた。

(あれは…)

*****
男 「…お前は…まさか、国王側近の……」
ジル 「もうすぐここへ、王室直属の護衛団が到着します」
ジル 「捕まれば、二度と牢の外に出ることは叶わない」
ジル 「金だけのために命を賭ける必要はないでしょう」
*****

ジル 「貴女が、馬車ごと誘拐された場所ですね」
吉琳 「…はい」
あの時の、吉琳が感じた怖れを思うと胸に痛みを覚える。
しかし、ふと袖を引かれて顔を向けると、
吉琳が穏やかな瞳で見上げていた。
吉琳 「そんな顔をしないでください」
吉琳 「ジルが助けてくれたから、私は無事だったんです」
ジル 「吉琳…」

(吉琳にとって辛い記憶のはずですが…)

吉琳は、ジルの顔に両手を添えて微笑む。

(吉琳の優しさは、どこまでも深く私を包んでくれますね)

ジルは温かなその手を引き寄せ…―


=====


ジルは温かなその手を引き寄せ、
想いに応えるように口づけを落とす。
吉琳 「ジル…」
頬を淡く色づかせて、吉琳はにっこりと笑った。
吉琳 「プリンセスの日記に書いてあった、思い出を辿るというのは、」
吉琳 「こういうことなのかもしれませんね」
吉琳 「さっきの湖も、この森の中もジルと私の特別な場所ですから」

(確かに、移動した先は私たちがよく知る場所ですね)

ジル 「恐らく、そうなのでしょう」
ジル 「日記にあった『思い出深いもの』も、」
ジル 「飛ばされた場所のどこかにある、ということなのだと思います」
吉琳 「え…じゃあ、もしかしたらこの場所に?」
ジル 「推測ですが。貴女の見つけた日記には『思い出深いもの』を見つけ、」
ジル 「元の世界に帰ったと書いてあったのでしょう?」
ジル 「そう考えると、
ジル 「元の世界に戻る鍵は『思い出深いもの』を探すということになります」
吉琳 「確かにそうですね。ここにあるなら、探さないと…」
吉琳はきょろきょろと辺りを見回し、
降りしきる雨の中まで身を乗り出そうとする。
その肩を引き寄せて、雨に濡れないように腕の中に抱え込んだ。
吉琳 「ジル…?」
ジル 「焦る気持ちは分かりますが、今はここに。
ジル 「動くのは雨が止んでからにしましょう」
吉琳 「はい…」
頷いた吉琳は、焦って行動したことに照れているのか、
どこか恥ずかしそうな表情で、小さくなっている。
そんな可愛い様子に笑みをこぼしつつも、
ジルは強くなる雨へ視線を移した。

(このままここにいては、雷にうたれる可能性もあるうえに、)
(雨に濡れて吉琳が風邪をひいてしまうかもしれませんね)

その時、ふいに吉琳の手がジルの額に触れて…―


=====


(このままここにいては、雷にうたれる可能性もあるうえに、)
(雨に濡れて吉琳が風邪をひいてしまうかもしれませんね)

その時、ふいに吉琳の手がジルの額に触れて…
ジル 「吉琳?」
吉琳 「いえ、何でも…」
慌てて吉琳が手を引っ込めたものの、
その温かな感触が、ジルの胸を疼かせた。

(……また私を心配してくれたんですね)

吉琳の突然の仕草から、
あの誘拐事件の後、ジルが熱を出したことを思い出したのは明白だった。

(私を気遣ってくれる、その優しさも変わりませんね)
(そんな貴女だから…私は他の誰でもない自分の手で守りたいと思うのです)

吉琳がさらわれたあの時から、そう誓っていた。

(ですから、この世界からも必ず私が出して差し上げます)

強く心の中で決意するものの、肝心の方法はまだ分かっていない。

(唯一の鍵は、『思い出深いもの』を見つけること…)

ジル 「吉琳、貴女と私の『思い出深いもの』とは何だと思いますか?」
ジル 「探す前に、見当をつけておいた方がいいと思いまして」
吉琳 「確かにそうですね。…私たちの思い出深いものは…」
そう呟いた吉琳が、何かを思いついたように顔を上げた。
吉琳 「あの扇子を見つければもしかしたら…」
ジル 「扇子ですか?」
吉琳 「はい。プリンセスセレモニーの前に頂いたものです」

(…あれですか)

*****
吉琳 「これは…?」
ジル 「どうぞ、お開けください」
ジル 「明日のお披露目の際、身につけて頂ければと思います」
吉琳 「ありがとうございます!」
*****

プリンセスセレモニーが明日に迫った夜、
薔薇模様の扇子を贈ったことを思い出す。
ジル 「確かに、一番の思い出ですね」
吉琳 「はい。今でも部屋にしまってあります」

(ただ雨の中、徒歩で扇子のある城に戻ることは不可能に近いでしょう)

馬車の周辺には馬の姿はなく、動かせそうもなかった。

(とすると、他の方法は…)


=====


馬車の周辺には馬の姿はなく、動かせそうもなかった。

(とすると、他の方法は…)

思案するジルの耳に、ふと茂みを揺らす微かな音が聞こえてくる。
警戒を強め、ジルは視線を巡らせた。
ジル 「…吉琳はここにいてください」
吉琳 「ですが…」
小さく首を振り、静かにするように仕草で伝えると、
ジルは、ゆっくりと木の枝をかきわける。
するとそこには、一頭の馬が草を食んでいた。
吉琳 「あっ、馬だったんですね…」
安心した様子の吉琳につられ、ジルもほっと胸を撫で下ろす。
ジル 「これで城に帰れそうですね」
ジル 「濡れてしまいますが、馬車に繋ぎ直すより乗ってしまった方が早いでしょう」
吉琳 「はい」
手綱を引いて連れてきた馬に、吉琳を乗せようとした瞬間…
吉琳 「っ……」
ジル 「吉琳!」
雷が落ちる音が間近で聞こえ、
ジルは、かばうように吉琳を抱きしめ顔を伏せた。
ジル 「おさまるまで待ちましょう」
吉琳 「…はい」
不安そうな吉琳を抱く手に力を込め、雷が止むのを待っていると、
突然、さざめく雨の音が人々の声に変わっていく。

(この声はどこから…?)

聞こえてくる音に違和感を覚え、はっと顔を上げると…
瞬時に変わった景色に、ジルと吉琳は驚きに目を見開いた。
吉琳 「一瞬でウィスタリア城に…」


=====


吉琳 「一瞬でウィスタリア城に…」

(これで移動は三度目…)

そのせいか、驚きはすぐに薄らいだ。
ジル 「何かのパーティーのようですね」
ホールには大勢の官僚や貴族たちが集まっている。

(相変わらず不可思議な状況ですが、城に来られたのは幸運でした)

ジル 「早速、扇子を探しましょう」
吉琳 「はい」
そうして出口まで向かおうとすると、
すぐさま、後ろから慌てた声に呼びとめられてしまう。
官僚 「プリンセス、どちらに行かれるのですか?」
官僚 「これからスピーチが控えております。この場にいらっしゃってください」
吉琳 「えっ…」
官僚 「セレモニーの前だというのに、緊張感がありませんな」
嫌味を言って立ち去っていく官僚を見送り、
観察するように周囲を見渡すと、広間を飾る装飾には見覚えがあった。

(それに今の言葉…)

ジル 「どうやら、
ジル 「今度はプリンセスセレモニーの前の時間に移動したようです」
吉琳 「えっ」

(絵本の中だというのに、まるで本物そっくりの状況ですね)

吉琳 「では…スピーチが終わるまで、私はここから動けないということですか?」
ジル 「出ようとすれば、先ほどのように止められるでしょう」
吉琳 「どうすれば…。またいつ別の場所に移動してしまうか分からないのに」
吉琳の焦りが伝わってきて、ジルも小さく眉を寄せた。

(また移動させられる前に、扇子を見つけ出した方がいいかもしれません)

ジルは思案していた顔を上げ…―
ジル 「吉琳、私の提案を聞いて頂けますか?

 

122

吉爾分.png

122

 

第3話-プレミア(Premier)END:

 

ジル 「吉琳、私の提案を聞いて頂けますか?」
訊ねると、吉琳は真剣な表情で頷く。
ジル 「ついてきてください」
そう言って、ジルは吉琳の手を掴んで出口へと歩き出した。
すると予想通り、慌てたように官僚が駆け寄ってくる。
官僚 「お待ちください。先ほども申し上げましたが…」
ジル 「プリンセスのご気分が優れないようですので少し席を外すだけです」
ジル 「スピーチまでには戻ります」
労わるように吉琳の肩を支えてみせると、
吉琳もジルの思惑に気付いた様子で、はっと目を見開く。
官僚 「それはいけない。ジル殿が一緒なら大丈夫でしょうが…」
官僚 「くれぐれもお時間までには戻られるようにお願いします」
吉琳 「はい…」
話を合わせるように頷く吉琳の手を引いて、ジルは会場を後にした。

***

そうして、二人は吉琳の部屋にやってきた。
吉琳 「もしここが現実と変わらないなら、
多分クローゼットの小物入れにあるはずです」
その言葉に従い、部屋の奥のクローゼットを開くと…―


=====


吉琳 「もしここが現実と変わらないなら、
多分クローゼットの小物入れにあるはずです」
その言葉に従い、部屋の奥のクローゼットを開くと…―
ジル 「ありましたね」
吉琳 「良かった…」
見つけた扇子を手に取り、吉琳を振り返った。
ジル 「どうぞ。貴女が手にすることで何かが起こるはずです」
吉琳 「……」
わずかに緊張の色を浮かべ、吉琳は扇子に手を伸ばす。
そうして、指先が触れた瞬間…―
吉琳 「……!」
あたりを包みこんだ光が一瞬でおさまると、見慣れた景色が広がっていた。
ジル 「中庭…ですね」
吉琳 「また移動してしまいましたね…ここは、まだ絵本の中なんでしょうか?」
ジル 「分かりません」
注意深く辺りを見回して、ジルは吉琳の手を確かめるようにそっと握り、
ふとした違和感に、小さく首を傾げる。
ジル 「吉琳、さきほど渡した扇子はどこに?」
吉琳 「あっ…いつの間に……」
消えてしまった扇子を探そうとした時、
落としていた視線の中に、見慣れない絵本が映る。
開かれたままの絵本を足元から拾い上げると、吉琳が目を見開いた。
吉琳 「それ、私が持っていた絵本です」

(これが私たちが吸い込まれた絵本なら…)

ジル 「この絵本がここにあるということは、
ジル 「元の世界に戻れたということでしょうか?」
吉琳 「そうだといいんですが…」
だが、確信できる証拠が見当たらない。

(確信出来るような証拠が、何かあれば…)

辺りを見渡したその時…
吉琳 「…あっ」
絵本の開かれたページを見た吉琳が驚いた表情を浮かべる。
吉琳 「……ジル、ここを見てください」
ジル 「この絵は…」


=====


絵本の開かれたページを見た吉琳が驚いた表情を浮かべる。
吉琳 「……ジル、ここを見てください」
ジル 「この絵は…」
そこには星が流れる湖畔の絵が描かれていた。
吉琳 「何も描かれていなかったのに…」

(絵本に入った時に、最初に辿った思い出の場所…)

ページをめくっていくと、そこには森の中にある馬車、
そしてパーティーの光景も描かれている。

(白紙だった絵本に、私たちの思い出が描かれているということは…)

ジル 「戻ってこられたようですね」
吉琳 「はい」
微笑み合いながら、ジルは湖のページを再び開いた。

(このところ、思い出を振り返るような時間もありませんでしたが、)
(私の想いが何一つ変わらないことを、)
(吉琳に伝えるいい機会かもしれません)

ジル 「行ってみましょうか」
吉琳 「え?」
目を瞬かせる吉琳に、ジルはにっこりと微笑みを向ける。
ジル 「久しぶりに、この思い出の湖で星を眺めませんか?」

***

その夜…―
月明かりの下、二人は馬に乗って湖までたどり着いた。
ジル 「美しい星空ですね」
吉琳 「はい、この景色はあの頃と変わりませんね」
馬上で寄り添う吉琳を抱きしめ、溢れる愛しさが胸を埋め尽くす。
ジル 「プリンセスとして美しく聡明に成長した貴女を、」
ジル 「教育係として見守ることが出来たことをとても誇らしく思います」
思いのままに言葉を紡ぐと、吉琳はくすぐったそうに微笑んだ。
ジル 「ですが、それだけではありません。今は…」
ジル 「恋人として、誰よりも貴女の側にいられることが幸せです」
吉琳 「ジル…」
甘い感情を胸に、馬から降りて静かな湖畔に腰を下ろす。
そうして瞬く星々を見つめていると、隣に座る吉琳が口を開いた。
吉琳 「思い出を辿る中で、あの時のことを色々思い出しました」
吉琳 「ジルを好きになった頃のことも…」
空に向けていた視線を戻すと、吉琳もジルを見つめ返す。
吉琳 「扇子をもらう少し前、ジルからプリンセスに選ばれた理由を聞きましたが」
吉琳 「…その理由をショックに思うほど、もうあの時からジルが好きだったんです」

(あの時から…)

輝く瞳を向けられ、ジルの胸にも、
吉琳への想いが芽生えた頃の記憶がよぎる。

(これは、私自身の弱さで、誰にも喋らず胸に秘めておくつもりでしたが…)


=====


(これは、私自身の弱さで、誰にも喋らず胸に秘めておくつもりでしたが…)
(吉琳には、伝えておかなくてはなりませんね)

ジル 「貴女といると…」
ジル 「騎士として掲げていた誰かを守る想いが無意識によみがえっていきました」
吉琳 「えっ」
ジル 「ですが、その想いはずっと昔に諦めていたものでしたから、」
ジル 「初めは、とても戸惑っていたんですよ」
ジル 「騎士ではない私が、誰かを守ると口にしていいのかと」

(ですが、レナルド様の言葉を思い出して…)

*****
ジル 「彼の言っていた『明確な理由』というのは」
ジル 「私にとっては、きっと…吉琳のことでしょうね…」
*****

ジル 「吉琳。
ジル 「貴女がいたから私は、自分がこの場所にいる理由を見つけられたのです」
信条を持って、この城で過ごすことが出来たのは、
諦めた想いを取り戻し、胸に空いていた大きな穴が塞がったからだった。

(もう今の私は、胸を張って言うことが出来ます)

ジル 「貴女のことは命に代えても守ります」
吉琳 「ジル…」
ジルの言葉に、吉琳の瞳がうっすらと潤んでいく。
そうして、何かを告げようと口を開いたものの、
吉琳は言葉をつまらせ、複雑そうな表情のまま俯いてしまった。

(どうして、そんな顔を…)
(そういえば、絵本の中に入ってすぐも吉琳はそんな顔をしていましたね)

*****
ジル 「ここに迷い込んだのが私だけだったら、まだよかったのですが…」
吉琳 「…そんなことを言わないでください」
*****

ジル 「貴女が今、思っていることを教えてください」

(どんな気持ちでも受け止めましょう)

ジルは、輪郭をなぞるように吉琳の頬に指を沿わせ…―


=====


ジルは、輪郭をなぞるように吉琳の頬に指を沿わせ、
ゆっくりと顔を持ち上げた。
吉琳 「……」
戸惑いの色を浮かべた瞳が、何かを訴えるように大きく揺れる。
吉琳 「ジルの気持ちは、凄く嬉しいです。ですが…」
吉琳 「私だけが守られても、意味がないんです」
吉琳 「指きりしたじゃないですか。二人で世界一幸せになろうって」
その声が記憶を揺さぶり、はっと息をのんだ。

*****
吉琳 「……何を、約束しましょうか?」
ジル 「では……」
ジル 「二人で、世界一幸せになりましょう」
*****

吉琳 「ジルはいつも私の幸せを願ってくれますが、」
吉琳 「ジル自身も幸せになってほしいんです」

(吉琳が幸せなら、それで十分幸せだと思っていましたが…)
(吉琳は、大切なことをいつも私に教えてくれますね)

優しい気持ちが胸を満たしていく。
ジルは鼓動の高鳴りのままに、吉琳の唇にキスを落とした。
吉琳 「っ、ジル…?」
重ねた唇をそっと離すと、目の前の愛しい人は瞳を丸くする。
そんな吉琳へ、ジルは優しく囁いた…―
ジル 「何を驚いているのですか?
ジル 「貴女の言うとおり、私の幸せを追求しただけですよ?」
ジル 「私の幸せのために、ずっと側を離れないで下さいね」


fin.

 

122


第3話-スウィート(Sweet)END:

 

ジル 「吉琳、私の提案を聞いて頂けますか?」
吉琳 「何か、考えが…?」
ジルは視線を上げた吉琳に頷きを返した。
ジル 「私が一人で、扇子を取りに行きます」

(たとえ短い間でも、本当は吉琳を一人にしたくありませんが…)
(仕方がありません)

ジル 「少しの間、貴女と離れてしまうという問題点はありますが」
ジル 「万が一何かが起きたとしても、」
ジル 「この場には騎士もいますから、貴女の身は安全でしょう」
吉琳 「私は安全かもしれませんが…」
心配そうにする吉琳の肩にそっと手を置く。
ジル 「私なら大丈夫ですよ」
ジル 「元の世界に戻るためには、今はこれが思いつく最良の方法です」
吉琳 「…そうですね」
ぽつりと呟いた吉琳が、決意したように深く頷く。
吉琳 「気を付けてください」
吉琳は不安げだった表情を変えて、笑顔で送り出してくれる。
そんな吉琳に、ジルはもう一度、笑顔を見せた。
ジル 「すぐに戻ってきます」

***

その後…―


=====


その後…―
部屋に向かったジルが再びホールに姿を見せると、
吉琳がすぐに駆け寄ってきた。
吉琳 「無事でよかったです」
ジル 「貴女も」
頷いた吉琳は、
ジルが手にした扇子を見て、ほっと安堵したように微笑む。
吉琳 「見つかったんですね」
ジル 「ええ。ですが、見つけただけでは何も起こりませんでした」
ジル 「絵本から出るには……」
言葉を切り、ジルは吉琳を見つめる。

(吉琳にこれを手渡せば、恐らく元に戻れるのでしょう)

そんな確信を胸に、にっこりと微笑みながら扇子を差し出した。
ジル 「どうぞ、受け取ってください」
吉琳 「ありがとうございます」
差し出しながら、ジルの胸に淡い予感が湧く。

(あの時は『教育係』としてこれを渡しました)
(ですが、これは恋人と辿る思い出の中…)
(あの時と同じような振る舞いで渡しても、きっと何も起こらない)

教育係の顔をして渡すのは違う気がして、
ジルは扇子を持つ吉琳の手を引き寄せ…―


=====


ジルは扇子を持つ吉琳の手を引き寄せ…
吉琳 「え…っ」
戸惑う声を間近に聞きながら、そっと唇にキスを落とした瞬間…―
ジル 「っ…」
吉琳 「…何が起きて…っ?」
ジル 「吉琳、私の側に」
ジルは守るように、吉琳を腕の中に抱きしめた。
瞼の裏に瞬く眩しい光が薄らいでいき、ゆっくりと目を開くと、
そこは、絵本に入る前に二人がいた城内の中庭だった。

(…戻ってきたのでしょうか)

ジル 「吉琳、もう目を開けても大丈夫ですよ」
吉琳 「え…?」
ジルの声に、ぎゅっと目を閉じていた吉琳も顔を上げる。
吉琳 「いつの間にか光がおさまっていたんですね」
吉琳 「あっ…」
吉琳が急に声をあげて、辺りを見回す。
ジル 「どうしましたか?」
吉琳 「さっきジルから受け取った扇子がなくなってしまって…」
視線を落とすと、吉琳の手の中には何もない。

(森からウィスタリア城へ移動した際も、馬がいなくなっていましたし、)
(これだけで、元に戻れたとは判断出来ませんね…)

そう思っていた時、廊下の方から声がかかった。
メイド 「ジル様、プリンセス、こちらにいらっしゃったんですね」
メイド 「ディナーのお支度が整っております」

(ディナー?)

辺りを見回すと、高く昇っていた太陽はいつの間にか傾いている。
メイド 「プリンセスは視察後でお疲れでしょうから、沢山召し上がってくださいね」
吉琳 「えっ視察って…」
メイドの言葉から状況を理解したジルは、ふっと微笑んだ。
ジル 「分かりました。すぐに向かいます」
メイドが去り、ジルは吉琳へと向き直って…―
ジル 「元の世界に戻ってきたらしいですね」


=====


ジル 「元の世界に戻ってきたらしいですね」
吉琳 「本当ですか…?」
吉琳はまだ信じられない様子で辺りを見回している。
ジル 「あのメイドは、貴女が視察帰りだということを知っていましたから」
ジル 「それに、絵本の中で渡した『思い出深いもの』が手元にないということは」
ジル 「本物がこの世界にあるということの証拠ですよ」
そう言って微笑むと、吉琳は改めて周囲の景色を見つめた。
吉琳 「良かった…」
吉琳 「せっかくもらった扇子が消えてしまったのは、少し残念ですが…」
吉琳 「お守りは一つの方がいいですよね」
ジル 「『お守り』…?」
繰り返すように呟くと、
吉琳は、はっとして恥ずかしそうに目を伏せた。
吉琳 「……」

(そんな顔をされては、どういう意味なのかますます知りたくなりますね)

赤く染まった頬に指先で触れ、そのまま優しくすくい上げて…―
ジル 「あの扇子はどんなお守りなんですか? 詳しく聞かせてください」


=====


赤く染まった頬に指先で触れ、そのまま優しくすくい上げて…
ジル 「あの扇子はどんなお守りなんですか? 詳しく聞かせてください」
少し意地悪に訊ねると、吉琳は視線をさまよわせた後、
観念したように、ぽつりと答える。
吉琳 「…『どんなことがあっても笑顔でいるためのお守り』です」
その言葉が、ジルの胸の中である記憶と重なった。

*****
吉琳 「正直、明日のセレモニーに出席することは不安だらけです…」
吉琳 「…ですが……」
吉琳 「実際にセレモニーの場で「プリンセス」が不安がったりしたら」
吉琳 「私のために動いてくれる大勢の人たちまで、不安がらせてしまいます…」
吉琳 「ですから明日は、どんなことがあっても笑顔でいようと思います」
ジル 「ご立派ですよ、プリンセス」
*****

思い出がよぎった胸の奥に、温かいものが広がる。

(贈った時から、ずっとお守りにしてくれていたんですね)
(絵本の中でも吉琳が前向きに笑顔を絶やさなかったのは、)
(その為だったのですか)

ジル 「あの扇子を大切にしてくれてありがとうございます」
吉琳 「私こそ、ありがとうございます」
吉琳 「ジルがあれを贈ってくれたから頑張ってこられたんです」
眩しいほどの笑顔に、ジルは思わず目を細める。

(その強さに、私がどれほど惹かれているか…きっと知らないのでしょうね)
(これからも、吉琳はどんなに大変な時でも笑顔でいようとするのでしょうが、)
(私も見ているだけではいられません)

ジルは吉琳の腰を引き寄せ、腕の中に包み込んだ。
ジル 「私は国王として、夫として…吉琳を守ります」

(吉琳が無理をして笑わなくてもいいように)
(安心出来る日々を守っていきます)

ジルはすくい上げた手を引いて、その唇に口づける。
胸の中では、吉琳との思い出のひとつひとつが、
美しい宝石のように輝いていた…―


fin.

 

122

 

エピローグEpilogue:

吉爾後.png

巡ってきた数々の思い出が、二人の愛をより強くして…―
(本当に無自覚ですね。)
(その恥ずかしそうな顔が見たくてやっているのですよ)
ジル 「恥ずかしがることはありません。ここには私以外、誰もいませんから」
そう告げたジルが、わざと小さな音を立てて素肌に口づけ…
ジル 「離しませんよ。今夜はずっと私の腕の中にいてもらいます」
想いにつられるように熱も高まり、一つに溶け合っていく…―

 

122

 

arrow
arrow
    全站熱搜

    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()