Melty Christmas Night~舞踏会の後は君を独り占め~(ジル)
2018/12/06~2018/12/17
クリスマスの舞踏会へと訪れたあなたは、
会場へ足を踏み入れた瞬間、みんなの注目の的となってしまう。
そんなあなたに、彼が見せたのは、淡い嫉妬心…―
………
ジル 「…失礼しました。少し強引でしたね」
ジル 「ここから先は、私に付き合って頂きます。」
ジル 「よろしいですね? プリンセス」
ほのかな嫉妬心を見せたジルが、
いつもより少しだけ強引になって、
あなたを翻弄する…―
………
愛しい彼からあなたに贈る、
クリスマスの夜の甘くも心揺さぶられる、
特別な時間のプレゼント…―
プロローグ:
ひんやりとした冷たい風が木々を揺らす、ある日…―
必要な書類に目を通し、執務室でいつも通り公務をこなしていた。
すると、
先ほどまで部屋を出ていたジルが戻って来て、私の側へと歩み寄る。
ジル 「北方の王妃から、舞踏会の招待状が届いていますよ」
吉琳 「えっ、招待状…ですか?」
ジル 「ええ。その国で、毎年開かれる」
ジル 「クリスマスの舞踏会に、」
ジル 「ウィスタリアのプリンセスもお呼びしたいとの事です」
吉琳 「そうなんですね」
(異国で行われるクリスマスの舞踏会か…)
(一体どんな感じなんだろう)
ジル 「当然、参加とお伝えして構いませんよね?」
招待された舞踏会に思いを馳せていると、
ジルが有無を言わせぬような視線をこちらに向けてくる。
吉琳 「は、はい…是非、参加させて頂きます」
ジル 「では、返事は私からしておきましょう」
私が思わず頷くと、ジルが満足そうな笑みを浮かべる。
(ジルの勢いに押されて、つい頷いてしまったけれど…)
(相手国のこと…よく知らないんだよね)
ウィスタリアやシュタインより北方にあるという、その国のことを知るために、
公務を終えた私は、レオの元へと向かった。
レオの執務室を訪れると、
出迎えてくれたレオに促されて部屋のソファに腰かける。
レオ 「その国は…最近になって、外交を深め始めた国だね」
吉琳 「そうなの?」
レオ 「うん。ウィスタリアとは、元々交流があったんだけど」
レオ 「それは一部の公爵や貴族だけで…王族同士の交流はあまり無かったんだよ」
吉琳 「だから、今までその国から舞踏会への招待をされなかったんだ…」
レオ 「そういうこと」
その国の王族の方から、直々に他国の王族や公爵を招待するのは、
今年が初めてだとレオは話してくれる。
レオ 「お堅い国もとうとう、シュタインや近隣諸国とも」
レオ 「交流をする気になったみたいだね」
吉琳 「その国はどんな国なの…?」
レオ 「その国の舞踏会へ参加した貴族の話では…」
レオ 「王族や貴族としての『立ち居振る舞い』はもちろん、」
レオ 「見た目の『煌びやかさ』や『華やかさ』を重視し、相手を品定めする…」
レオ 「そんな堅苦しくて、高慢な国…という印象だったらしいよ」
吉琳 「相手を…品定め…」
眉を寄せながら話すレオの言葉に、わずかに表情をこわばらせてしまう。
レオ 「…大丈夫?吉琳ちゃん」
吉琳 「う、うん…少し緊張してしまって」
レオ 「ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだけど、事実を伝えておきたくて」
吉琳 「分かっているよ、レオ。教えてくれてありがとう」
レオ 「困ったことがあったら俺も相談に乗るから、いつでも頼ってね」
そう言って気遣ってくれるレオに頷くと、私は静かに執務室を出た。
(ウィスタリアの王族としては、初めて招待頂く国の舞踏会…)
(しかも、)
(『立ち居振る舞い』や見た目の『華やかさ』で品定めをされてしまうだなんて…)
(すごく緊張するな……)
プリンセスになってから月日も経ち、
舞踏会などの公の場にも慣れてきたつもりが、
思っていた以上の敷居の高さに、どうしても心が落ち着かない。
(でも…ウィスタリアのプリンセスの名に恥じないよう)
(しっかりと務めは果たさなくちゃ)
そう心の中で私が意気込んでいると、
後ろから誰かが声を掛けてきて…―
??? 「…プリンセス」
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
ジル 「少しお時間よろしいでしょうか」
吉琳 「ジル…?」
後ろから声を掛けてきたジルは、クリスマスに招待されている舞踏会のことを話し始めた。
舞踏会の当日には、ジルも私に同行してくれるという。
(二人きりで過ごす時間は、取れないと思うけれど…)
(公務でも、ジルと一緒にクリスマスを過ごせるなら、それだけで嬉しい)
自然と心が弾む中、私は気持ちを引き締めて訊ねる。
吉琳 「舞踏会が開かれる国について、もう少しだけ、詳しく教えてもらえませんか?」
ジル 「ええ。いいですよ」
私の質問に、穏やかに微笑んでくれたジルと、廊下を並んで歩きながら話を続ける。
ジル 「近隣諸国の中で、最も伝統と格式を重んじている国ですが…」
ジル 「何よりダンスが上手く踊れることが、重要視されていると聞きます」
吉琳 「そうなんですね…」
(今までレッスンしてもらった内容で、大丈夫かな…)
少し不安に感じているのを見透かしたように、ジルが意味ありげに瞳を細める。
ジル 「ご心配なく」
ジル 「本日から吉琳には、私が『特別なレッスン』をいたしますので」
(特別なレッスン…?)
にこやかに告げたジルに連れられ、向かった先は…―
=====
にこやかに告げたジルに連れられ、向かった先は…
***
見慣れたダンスホールだった。
吉琳 「『特別なレッスン』って、ダンスのことだったんですね」
ジル 「もちろん、それだけではありませんよ」
ジルは舞踏会でする挨拶や立ち居振る舞いを、改めてレッスンしてくれるという。
(よかった…ジルが教えてくれるなら、とても安心だな)
吉琳 「よろしくお願いします」
ジル 「ご存知でしょうが、私のレッスンは厳しいので、覚悟しておいて下さい」
どこか楽しげに告げて、ジルは私に手を差し伸べる。
ジル 「お手をどうぞ」
吉琳 「はい」
言われたとおりに手を取った瞬間、ごく自然な所作で腰を引き寄せられた。
(あ…)
曲に乗せて踊り始めると、身体が密着する恥ずかしさに、つい足元ばかり見てしまう。
ジル 「しっかりと顔を上げてください」
吉琳 「っすみません…」
ジル 「パートナーの目を見るのがマナーですよ。基礎中の基礎をお忘れではないでしょう?」
(でも…どうしても、緊張してしまう)
吐息が触れ合いそうなほど近くで見つめると、頬が熱を帯びた。
ジルは微かな笑みを滲ませ、背中に回した手に力を込めて…―
=====
ジルは微かな笑みを滲ませ、背中に回した手に力を込めて…
ジル 「顔が赤いですね」
ジル 「もしや…何か別のことを期待しているのですか?」
吉琳 「そ、そんなこと…」
私は、ジルの意味深な囁きに鼓動が小さく跳ねるのを感じた。
ジル 「…冗談ですよ」
吉琳 「え…?」
ジルはからかうようにそう言って、私をリードしながらも優雅にターンした。
(もしかして、さっきのは緊張をほぐしてくれたのかな…?)
何気なく私の緊張をほぐしてくれたジルに、胸が甘くときめく。
ジル 「舞踏会ではプリンセスと踊ることは出来ませんが、」
ジル 「お側で見守らせて頂きますので、ご安心を」
吉琳 「はい。ありがとうございます」
(ジルが一緒なら、それだけで心強く感じる…)
それから舞踏会までの間、私はジルのレッスンの時間以外にも、勉強を続けた。
***
舞踏会が数日後に迫った、ある日の午後…―
私は舞踏会用に仕立てた新しいドレスを着て、鏡の前に立っていた。
(わぁ…)
ジル 「何を見惚れているのですか?」
=====
(わぁ…)
ジル 「何を見惚れているのですか?」
吉琳 「あっ、ジル」
声に驚いて振り向くと、部屋を訪れていたジルが、微笑みながら立っていた。
ジル 「上品さの中に、華やかさも感じられるデザインですね」
吉琳 「はい。私もそう思います」
淡い紫色のドレスはオーガンジーのレースが幾重にも折り重なり、
パールがあしらわれた装飾も、繊細で美しい。
そんなドレス姿を見て、ジルも穏やかな声音で褒めてくれる。
ジル 「とてもよくお似合いですよ」
吉琳 「ありがとうございます」
(そう言ってもらえると嬉しいけれど、少し照れてしまう…)
くすぐったいような気持ちのまま、微笑んで見上げた時、
ジルがゆっくりと近づいて来て、私の正面に立つ。
ジル 「失礼します」
吉琳 「……っ」
ドレスの胸元へ触れた指先に、鼓動を速めながら視線を落とすと、
ジルは笑みを向け、短く答えた。
ジル 「コサージュのレースが乱れておりましたので、手直しを」
(…そういうことだったんだ)
吉琳 「気がつきませんでした…。ありがとうございます」
意識してしまった恥ずかしさで、わずかに頬が熱くなった瞬間、
悪戯めいた瞳が間近に迫り…―
ジル 「…そんな顔をしていては、また何か期待しているように見えますね」
=====
(…そういうことだったんだ)
意識してしまった恥ずかしさで、わずかに頬が熱くなった瞬間、
悪戯めいた瞳が間近に迫り…
ジル 「…そんな顔をしていては、また何か期待しているように見えますね」
ジルは私の耳をなぞるように触れ、イヤリングを揺らしながら囁いた。
ジル 「私と二人きりの時間に…何を期待しているのですか?」
吉琳 「っジル…」
(からかわれているだけなのは、分かっているけれど…)
(やっぱりドキドキしてしまう)
鼓動を速めたまま、思わず俯いていると、
ジルはいつの間にか、背中側のレースも綺麗に整えてくれた。
ジル 「ほら…顔を上げて下さい」
ジル 「苦しい所はありませんか?」
吉琳 「っ…はい」
からかわれたと思ったら、優しくドレスを整えてくれたりと、
翻弄するかのようなジルの仕草に、私の鼓動はうるさく音を立てる。
(ジルは、ドレスを直してくれているだけなのに…)
時折肌に触れる指先の淡い刺激で、じわりと頬が熱をもつ。
ジル 「終わりました。姿勢を楽にして構いませんよ」
吉琳 「ありがとうございます。ジルは、本当に器用ですね…」
見違えるほど美しく整えられたドレスに、感嘆のため息がこぼれる。
改めてお礼を言うと、後ろに立つジルが私の耳元に唇を寄せた。
ジル 「こうして、美しく着飾った貴女に触れていると…」
ジル 「…独り占めしたくなりそうです」
第2話:
ジル 「…独り占めしたくなりそうです」
(え…)
吐息のように囁かれた言葉が、はっきりとは聞き取れず、思わず首をかしげてしまう。
吉琳 「あの…いま、何て…?」
ジル 「いえ。何でもありません」
ジルは鏡越しに私を見つめ、薄く口元を綻ばせる。
ジル 「それでは、本日のレッスンを始めましょう」
(何て言っていたのか、少し気になるけれど…)
ジルの表情はいつもと変わらず、
それ以上訊ねる事が出来ないまま、ダンスホールに移動した。
***
いつものようにジルにリードしてもらって踊りながら、
タイミングを合わせてターンする。
(ジルがレッスンしてくれたお陰で、)
(難しいステップも踏めるようになってきた気がするな)
ジル 「かなり上達されましたね」
吉琳 「ありがとうございます。ジルが、とても丁寧に教えてくれたので…」
感心したような笑みを向けられて、少し照れつつも言葉を続けると、
足がもつれて、大きくバランスを崩してしまい…―
吉琳 「あっ…」
ジル 「吉琳…!」
=====
ジル 「吉琳…!」
吉琳 「っご、ごめんなさい…」
ジルは転びそうになった私の身体をしっかりと支え、近くの椅子に座らせた。
ジル 「……少し休憩しましょう」
(さっきまで出来ていたところを、失敗してしまったから)
(呆れられているのかな…)
気持ちを入れ替えて、もう一度レッスンをやり直してもらおうと考えた時、
ジルが私の目の前に跪いた。
ジル 「足を見せてください」
吉琳 「え…?」
少し心配そうな表情をしたジルに目を瞬かせると、
ジルは何も言わず私の靴を脱がせ、微かに眉を寄せる。
ジル 「…我慢をされていたのではありませんか?」
視線の先を追うと、つま先がほんの少しだけ赤く腫れていた。
(いつの間に…全然気が付かなかった)
吉琳 「大丈夫です。痛みもありませんし…」
ジル 「いま無理をして、舞踏会で踊れなくなっては困りますから」
(ジルが気遣ってくれるのは、とても嬉しいけれど、)
(舞踏会まであまり時間がないから、少しでも練習をして完璧なものにしたい)
そう伝えるために口を開きかけた時、ジルが手を伸ばし…―
ジル 「貴女の気持ちは分かっていますよ」
=====
(ジルが気遣ってくれるのは、とても嬉しいけれど、)
(舞踏会まであまり時間がないから、少しでも練習をして完璧なものにしたい)
そう伝えるために口を開きかけた時、ジルが手を伸ばし…
ジル 「貴女の気持ちは分かっていますよ」
ジル 「ですが…もっとご自分を大切になさって下さい」
穏やかに微笑んだジルが私の足をそっと持ち上げ、
優しく撫でてから靴を履かせてくれる。
ジル 「これだけステップを覚えられているので、本番は問題ないと思いますよ」
吉琳 「ジル…」
(そう言ってくれるなら…今日は、休ませてもらった方がいいのかな)
胸が温かくなるのを感じながら頷くと、
ジルはダンスのレッスンを切り上げ、椅子に腰かけた私に挨拶のマナーを教え始めた。
***
そして、いよいよ舞踏会の日を迎え…―
(挨拶のマナーは何度も復習したし…身だしなみも大丈夫だよね)
出発を前に最後の確認をしていると、ノックの音が聞こえて、
開いた扉から礼服姿のジルが顔を見せる。
ジル 「支度は整いましたか?」
吉琳 「はい、もう済ませていますが…」
(出発の時間には、まだ早いような気がするけれど…何かあるのかな?)
少し不思議に思いつつも、部屋に招き入れると、
ジルは扉を閉めて、
私の前に綺麗なベルベッドのリボンがあしらわれた箱を差し出した。
ジル 「どうぞ開けてみてください」
=====
ジル 「どうぞ開けてみてください」
吉琳 「これは、クリスマスのプレゼント…ですか?」
ジル 「…ええ。それも兼ねています」
少し含みのある眼差しのジルに促されて、リボンを解くと、
箱の中には雪の結晶を思わせるような、透明で美しい靴が入っていた。
(クリスタルの装飾がキラキラしていて、宝石みたい…)
吉琳 「わぁ…凄く素敵ですね」
ジル 「気に入って頂けたようで、安心しました」
ジル 「足に合わない靴で、無理をされていたようでしたので」
(ダンスのレッスンで、足を痛めてしまったからかな)
(忙しい公務の合間に、こんなに素敵なプレゼントを選んでくれていたなんて)
ジルの優しさで胸がいっぱいになり、すぐに言葉が出てこない。
何も言えず靴を見つめたままの私に、気遣うような声がかけられる。
ジル 「…どうされました?」
吉琳 「すみません。ジルの気持ちが、嬉しくて…本当にありがとうございます」
顔を上げて微笑み、やっとそれだけ伝えると、
ジルはふっと瞳を細めて…―
ジル 「…私からの贈り物が、これだけだとお思いですか?」
=====
ジル 「…私からの贈り物が、これだけだとお思いですか?」
(え…?)
意味ありげに囁いたジルは、私の顔を覗き込みながら続けた。
ジル 「舞踏会の後には、特別なご褒美も考えておりますので」
ジル 「期待してくださって構いませんよ」
吉琳 「こんなに素敵な贈り物をもらったのに、ご褒美だなんて…」
ジル 「私がお贈りしたいだけですから」
(何だろう…? 楽しみだな)
期待に胸が膨らむ中、ジルは箱から靴を出して、私の前に跪く。
吉琳 「…ジル?」
ジル 「そのまま、じっとしていて下さい」
不思議に思いながらも言われた通りにすると、ジルはそっと私の靴を脱がせて、
プレゼントしてくれた、新しい靴を履かせてくれた。
ジル 「履き心地はいがかですか?」
吉琳 「私の足に合わせて作られたように、ぴったりです」
(ヒールが高いのに、包み込んでくれるような安定感があるな)
陽の光を反射して輝く靴を見て、笑顔を向けると、
ジルも満足げに瞳を細めて、私の前に手を差し伸べた。
ジル 「それでは、参りましょう」
第3話-プレミア(Premier)END:
ジル 「それでは、参りましょう」
頷いて立ち上がった時、ノックの音がしてユーリが顔を見せる。
ユーリ 「もう準備出来た?」
吉琳 「うん、大丈夫」
ジル 「頼みましたよ、ユーリ」
ユーリ 「はい! 吉琳様には俺が付き添うので、ご心配なく」
私はジルに急な公務の予定が入り、
舞踏会に同行出来なくなったという話を、昨夜のうちに聞いていた。
ジル 「馬車までお送りします」
吉琳 「ありがとうございます」
(ジルのレッスンを思い出して、しっかり頑張ろう)
少しだけ心細く思いつつも、ジルに見送られて舞踏会へ向かった。
***
舞踏会が開かれている豪華なホールでは、
貴族たちが優雅なダンスを披露していて…―
男性 「プリンセス、ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
隣国の公爵と名乗る男性に私は笑顔で向き直り、
ドレスの裾を持ち上げてお辞儀をする。
(今夜は、挨拶に来られる男性が多いな…)
私は貴族の男性たちとダンスを繰り返し、合間に小さく息をついた。
ユーリ 「吉琳様、そろそろ休憩しない?」
=====
ユーリ 「吉琳様、そろそろ休憩しない?」
ユーリ 「何か飲み物を貰ってくるから、ちょっと待ってて」
吉琳 「ありがとう」
ユーリが離れてすぐに、最初にダンスをした公爵がやって来る。
公爵 「ウィスタリアのプリンセスは、実に美しく聡明ですね」
吉琳 「いえ、そんなこと…」
少し距離が近いように感じて、離れようとするものの、公爵はますます迫ってきた。
公爵 「二人きりで話をしたいのですが、お時間を頂けないでしょうか?」
(どうしよう…困ったな)
断るための言葉を探していると、凛とした声が響く。
ジル 「このような場で他国のプリンセスを口説くのは、感心しませんね」
(ジル…!)
ジル 「国王陛下の目に触れる前に、お戻りになられた方が良いのでは?」
淡々と告げられた言葉で、公爵は慌てたように去り、安堵の想いが込み上げてくる。
吉琳 「ジル…来てくれたんですね」
ジル 「ええ。公務が予定より早く片付きましたので」
(今夜はもう逢えないかもしれないと思っていたから、凄く嬉しい)
ほっとして笑顔を向けると、ジルは私の手を引き寄せ…―
=====
吉琳 「ジル…来てくれたんですね」
ジル 「ええ。公務が予定より早く片付きましたので」
(今夜はもう逢えないかもしれないと思っていたから、凄く嬉しい)
ほっとして笑顔を向けると、ジルは私の手を引き寄せ…
ジル 「行きましょう」
思いのほか強い力で腰を抱かれ、鼓動が速まるのを感じながらジルを見上げる。
(いつもより強引な気がするけれど…どうしたのかな)
吉琳 「あの、ジル…?」
ジル 「…失礼しました。少し強引でしたね」
ジル 「…公爵の振る舞いが紳士とは思えず、ついあのような事を」
わずかに苦笑したジルが、そっと身体を離した時、
ユーリが、少し慌てた様子で戻って来る。
ユーリ 「あっ、ジル様…!」
ジル 「ユーリ、本日の付き添いご苦労様でした」
ユーリ 「え? でも、まだ…」
驚いたように目を瞬かせるユーリに、ジルはにこやかに告げた。
ジル 「舞踏会は間もなく終わりますので、プリンセスの公務もここまでです」
ジル 「ここからは、予定通り私が代わりますよ」
ユーリ 「わかりました! それじゃあ、馬車の手配だけしておきますね」
ユーリがにこっと笑って背中を向けると同時に、舞踏会の終わりを告げる鐘の音が響く。
ジル 「ここから先は、私に付き合って頂きます」
ジル 「よろしいですね? プリンセス」
吉琳 「はい…。喜んで」
貴族の方々への挨拶もつつがなく終え、私たちは舞踏会を後にした。
***
澄み渡る夜空に粉雪が舞う中、馬車が向かった先は…―
=====
澄み渡る夜空に粉雪が舞う中、馬車が向かった先は…
荘厳なステンドグラスとキャンドルの光が揺らめく、郊外の教会だった。
(クリスマスツリーの飾りも、すごく素敵…)
吉琳 「どうして、ここに…?」
ジル 「人の目を気にせず、恋人としてダンスにお誘いするためですよ」
(もしかして、この靴をプレゼントしてくれた時に言っていたのは…)
******
ジル 「舞踏会の後には、特別なご褒美も考えておりますので」
ジル 「期待してくださって構いませんよ」
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吉琳 「これも、ジルからのクリスマスプレゼントなんですね」
ジル 「ええ」
差し出された手を取ると、ジルは私の腰を引き寄せる。
(こんな風に過ごせるなんて想像もしていなかったから、凄く幸せ…)
ゆったりとしたテンポで踊るうちに、私はある事を思い出した。
吉琳 「すみません…ジルへのプレゼントには、手袋を用意していたんですけれど…」
城に置いてきてしまったことを伝えると、
ジルは私の顎をすくい上げながら、瞳を覗きこみ…―
ジル 「貴女からの贈り物でしたら、もう頂いています」
=====
吉琳 「すみません…ジルへのプレゼントには、手袋を用意していたんですけれど…」
城に置いてきてしまったことを伝えると、
ジルは私の顎をすくい上げながら、瞳を覗き込み…
ジル 「貴女からの贈り物でしたら、もう頂いています」
触れるだけのキスをして、穏やかに瞳を細めた。
ジル 「舞踏会では、側に居る事すら叶いませんでしたが…」
ジル 「今夜の吉琳が最後に踊る相手が私である事を、何より嬉しく思います」
吉琳 「ジル…」
(そんなふうに考えてくれていたんだ)
ジルの大きな愛情を感じる言葉に、
私は高鳴る胸の音を聞きながら、背伸びをして、そっと触れるキスをした。
吉琳 「…これが、今の私に出来る贈り物です」
ジル 「貴女という人は、可愛らしいことばかりしますね」
低い囁きと共にうなじに添えられた手で引き寄せられると、唇に温もりが触れる。
吉琳 「ん…」
重ねられた唇の隙間からこぼれる吐息に甘い熱を灯されて、
いつしか祭壇に背中を預けるように、深まる口づけを受け止めていた。
吉琳 「…ぁ」
ジル 「そんなに甘い声を上げられては…」
ジル 「クリスマスの夜を、ここで終わらせることは出来なくなりますよ」
吉琳 「私も…」
(もっと…ジルの温もりに触れていたい)
鼓動を速めたまま見つめていると、耳元に掠れた囁きが落とされる。
ジル 「吉琳」
ジル 「私が一番欲しい贈り物は何か…お分かりですね?」
ジルの腕の中で自分の早まる鼓動を感じながら、
聖なる夜は、深まっていった…─
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ジル 「それでは、参りましょう」
吉琳 「あっ…待ってください」
(城へ戻るのが遅くなったら、渡せないかもしれないし…)
私は扉へ向かおうとしたジルを呼び止め、チェストの中に入れていたプレゼントを渡した。
吉琳 「これを、ジルに…」
ジル 「貴女からもクリスマスの贈り物をもらえるとは、嬉しいですね」
ジル 「開けても構いませんか?」
吉琳 「はい」
(喜んでくれるといいな)
ジルはクリスマスらしい柄の包装紙を開き、中身を手に取り瞳を細める。
ジル 「これは、とても暖かそうです」
吉琳 「防寒用の手袋をしているのを、あまり見たことがなかったので…」
ジル 「よくご存知ですね。つい手間で、普段はそのまま外出してしまうのですが…」
微かに苦笑をこぼしたジルが、私のプレゼントした手袋を、大切そうにはめてくれた。
ジル 「吉琳のプレゼントしてくれたものでしたら、別です」
(気に入ってもらえたみたいで、良かった)
ジルは嬉しそうに微笑み、懐の懐中時計を見る。
ジル 「そろそろ出発の時間ですね」
=====
ジル 「そろそろ出発の時間ですね」
私は微笑んで頷き、ジルと一緒に部屋を出た。
***
私たちを乗せた馬車は、舞踏会が開かれる国へ到着して…―
美術品のように繊細な調度品と、豪華なシャンデリアが輝くホールに、足を踏み入れる。
(ウィスタリアやシュタインの舞踏会とも、少し雰囲気が違うな…)
貴族たちの装いは優雅で気品に溢れ、貿易や政治に関する会話が聞こえてきた。
ジル 「レッスン通りに振る舞って頂ければ、問題ありません」
ジル 「私も、すぐ側に控えておりますので」
吉琳 「はい」
私はジルがプレゼントしてくれた靴に一度だけ視線を下げ、すっと姿勢を正す。
その時、会場にワルツの旋律が流れ、周囲の男女が手を取り合った。
??? 「踊って頂けますか? プリンセス」
ふいに後ろから掛けられた声に、笑顔を作って振り返ると、
先に到着していたレオが、いたずらっぽい笑みを浮かべている。
(驚いた…レオだったんだ)
吉琳 「喜んで…」
レオ 「ありがとう」
差し出された手を取ると、レオはジルと視線を交わす。
ジル 「レオ…何か言いたい事でも?」
レオ 「一応確認するけど…」
レオ 「俺が、吉琳ちゃんと踊っていいんだよね?」
=====
差し出された手を取ると、レオはジルと視線を交わす。
ジル 「レオ…何か言いたい事でも?」
レオ 「一応確認するけど…」
レオ 「俺が、吉琳ちゃんと踊っていいんだよね?」
ジル 「……ええ」
(ジル…?)
ジル 「私の許可など必要ありませんよ」
レオ 「それなら、遠慮なく」
ジルが言葉を返すまでに間があった気がするものの、その表情はいつもと変わらない。
私はレオのリードでホールの中央に進みながら、レッスン通りにステップを踏んだ。
レオ 「吉琳ちゃん、落ち着いてるね。もっと慌てるかと思った」
吉琳 「そんなこと…ウィスタリアのプリンセスとして、頑張ろうと思ってるだけだよ」
レオ 「…ジルはどうかな」
吉琳 「え?」
少し離れた場所に居るジルを、視線だけで追うと…
ジル 「……」
何か言いたげにも見える表情から、目が離せなくなる。
やがて曲が止み、胸に手をあてるレオに、私もドレスの両端をつまんでお辞儀をした。
ジル 「…まったく」
ゆっくりと近づいてきたジルが、レオの正面に立ち、小さく息をつく。
ジル 「レオ。あなたも意地が悪いですね」
レオ 「クリスマスの夜ぐらい、ジルも立場を気にせず楽しんだらいいよ」
いたずらっぽくウインクしたレオが去り、ジルは私に笑みを向ける。
ジル 「少し外を歩きませんか?」
=====
ジル 「少し外を歩きませんか?」
吉琳 「はい」
(少し様子がおかしかった気がするから…二人きりなったら聞いてみようかな)
***
ジルに連れられ中庭へ出ると、漆黒の夜空には無数の星が瞬いていた。
吉琳 「今夜は空が澄んでいますね」
ジル 「ええ。寒くはありませんか?」
吉琳 「大丈夫です。けれど、舞踏会を抜けてしまって大丈夫でしょうか…?」
ジル 「少しぐらい構わないでしょう」
ジルはふっと笑みを浮かべ、舞踏会での振る舞いを褒めてくれる。
ジル 「受け答えも完璧で、ご立派でしたよ」
吉琳 「ジルが、レッスンをしてくれたお陰です」
ジル 「ご謙遜を。公務の後にも、お一人で勉強を続けた貴女の頑張りですよ」
(…気づいてくれていたんだ)
ジルが認めてくれたことに何より喜びを感じながら、笑みを返す。
それからふとした会話の切れ間に、先ほどのことを訊ねた。
吉琳 「あの…少し気になっていたことがあるんです」
吉琳 「レオからダンスに誘われた時…何か言いかけていませんでしたか?」
ジル 「…気づかれていたのですね」
苦笑交じりに呟いたジルが、私の指先を、すっと持ち上げて…―
=====
吉琳 「あの…少し気になっていたことがあるんです」
吉琳 「レオにダンスを誘われた時…何か言いかけていませんでしたか?」
ジル 「…気づかれていたのですね」
苦笑交じりに呟いたジルが、私の指先を、すっと持ち上げて…
手の甲にやわらかく唇が触れ、そのまま指先を絡めて引き寄せられた。
ジル 「こうして貴女を誘いたい気持ちを、見透かされていたんですよ」
吉琳 「え…?」
ジル 「…まさか、レオに背中を押されるとは思いませんでした」
(だからあの時、レオとジルは視線を交わしていたんだ)
独占欲を感じる言葉に、胸が高鳴る中、
楽団が演奏するクリスマスらしい曲が、ホールから微かに聞こえてくる。
ジル 「吉琳。私と踊って頂けますか?」
吉琳 「はい、喜んで」
しなやかな腕のぬくもりに鼓動が速くなるのを感じながら、
ヴァイオリン奏者の優雅な旋律に合わせ、ステップを踏んでいく。
ジル 「クリスマスの夜に貴女と踊れたことが、何より嬉しい贈り物ですね」
吉琳 「私も…同じ気持ちです」
見つめ合う瞳には、お互いの姿だけが映し出されている。
(こうしてジルと踊れると思っていなかったから、夢みたい…)
聖夜に響く鐘の音を聞きながら、瞼を閉じると、
温もりを分け合うような、優しいキスが溶かされた…―
fin.
エピローグEpilogue:
胸を焦がすような彼の想いを知ったあなたに、訪れるのは…
愛しい人の温もりで満たされる、甘いひととき…―
ジル 「貴女の前では、私もただの男ですよ」
ジルの甘く縛るような言葉に、胸は高鳴り…―
ジル 「愛していますよ、吉琳」
二人きりで迎えた聖なる夜は、
交わる吐息と、熱のこもった彼の瞳に酔いしれる…―