Bloody Night~ヴァンパイアと禁断のくちづけ~(ジル)
2019/03/26~2019/04/07
教会でシスターとして慎ましく暮らしているあなたは、
神に背いていると知りながら、ある人に想いを寄せていた。
けれど、密かに想いを寄せる彼は、ただの『人』ではなく…―
……
ジル 「ご安心ください」
ジル 「私の正体を黙っていてくだされば、貴女を傷つけるつもりはありません」
……
ヴァンパイアとの知りながら、彼に惹かれる気持ちは止められず、
禁じられた恋に溺れていく…―
プロローグ:
街中がオレンジに染まり始めた、ある日の夕暮れ時…―
礼拝堂で神の前に跪き、祈りを捧げていると、にぎやかな声が遠くから聞こえてくる。
(子どもたちが帰ってきたみたい)
私が奉仕している教会は孤児院が併設されていて、たくさんの子どもが暮らしている。
遊びたい盛りの子たちが、きちんと日が沈む前に戻ってくるのは、
いつも、こう言い聞かせているからで……
吉琳 「夜になると、街には怖いヴァンパイアがやって来るからね」
男の子 「わ……わかってるもん。早く帰る!」
見たこともない闇の住人を、子どもたちは漠然と恐れていた。
(この子たちに何かあったときは、私が守ってあげなくちゃ)
教会の外へ出て、通りの向こうから姿を見せ始めた子どもたちを出迎える。
吉琳 「おかえりなさい。夕食はもうすぐよ。早く中に入って、手を洗ってね」
女の子 「はーい!」
ふと、子どもたちと一緒にやって来る男性の姿が目に入った瞬間、胸がざわめき出した。
彼は教会に寄付をしてくれている人物で、
太陽の沈む頃にたびたびやって来ては、子どもたちを元気付けてくれるのだった。
吉琳 「この子たちを送ってくださって、ありがとうございます」
何でもないことだと答えた、その穏やかな表情に鼓動が騒ぐ。
貧しくとも、子どもたちの笑顔を見ながら暮らすのは幸せで、
それだけで充分なはずだった。
(なのに、彼が訪ねてくる日を心待ちにしているなんて……)
胸の奥に芽生えたこの想いが恋だと気付いてしまったけれど、
自分の気持ちに蓋をすることは出来ないでいた。
神との誓いに背いていると、わかっていながら…―
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
橙色の空に、穏やかな風が吹き抜ける夕暮れ…―
私がシスターとして暮らしている教会に、子どもたちの明るい声が響いていた。
その中心にいたのは……
ジル 「本日のレッスンは、ここまでです」
子どもたち 「ありがとうございました!」
(子どもたちも、ジル様のおかげで楽しく学べているみたい)
ジル様は街の外れにある大きなお屋敷に住んでいる方で、
時々教会を訪れては、子どもたちにマナーを始めとした様々な教育をしてくれている。
その立ち居振る舞いにはとても品があり、上流階級の紳士という風格に溢れていた。
私は、レッスンを終えて帰り支度をしているジル様に声をかける。
吉琳 「いつもありがとうございます」
ジル 「私自身の学びを深める目的もありますから、お気になさらず」
ジル様は何でもないことのように告げ、穏やかに瞳を細めた。
ジル 「子どもたちの未来に、孤児院で育ったという過去が、悪影響を与える……」
ジル 「それだけは、避けなくてはなりませんからね」
=====
ジル 「子どもたちの未来に、孤児院で育ったという過去が、悪影響を与える……」
ジル 「それだけは、避けなくてはなりませんからね」
にこやかに教会を後にするジル様を見送りながら、私の鼓動は微かに揺れてしまう。
(本当に、素敵な人だな……)
シスターとしてあるまじき感情と分かってはいたけれど、
私は、密かにジル様へ想いを寄せていた。
***
それから、数日が過ぎた午後…―
私はキッチンでいつものように、夕食の下ごしらえをしていた。
(次はいつ、いらっしゃるんだろう)
(庶民の料理は口に合わないかもしれないけれど、)
(勇気を出して、食事にお誘いしてみようかな……?)
子どもたちと同じテーブルを囲むジル様の姿を想像しながら、食材を切っていると……
ジル 「私も、何か手伝いましょうか?」
吉琳 「え、ジル様……、あっ!」
思い浮かべていたその人が、目の前に現れた驚きで、
手元がおろそかになり、包丁で指先を少し切ってしまった。
ジル 「大丈夫ですか?」
吉琳 「はい、これぐらいなら……」
ジル 「見せてください」
ジル様は、半ば強引に私の手首を掴むと、うっすらと血が滲む指先に唇を寄せ…―
=====
ジル様は私の手首を掴み、うっすらと血が滲む指先に唇を寄せ……
吉琳 「……っ」
そのまま口内に指を含まれてしまい、鼓動が大きく跳ねる。
ジル 「……」
(何だか、いつもと雰囲気が違う……)
普段は穏やかな瞳に妖しい光が宿ったような気がして、私は思わず訊ねる。
吉琳 「……い、いきなりどうされたのですか?」
私の指を離したジル様が、悪戯っぽく微笑んだ。
ジル 「ヴァンパイアの真似事ですよ」
吉琳 「……悪い冗談はよしてください。本当に驚いたんですから」
ジル 「失礼しました。貴女はいつも可愛らしい反応をするので、つい」
ジル 「お手伝いは、またの機会にいたしますね」
まだ高鳴っている胸を押さえながら、いつも通りの表情でキッチンを去る背中を見て、ふと思う。
(そういえば……)
ジル様の姿を見かけるのは、決まって日が沈む頃のような気がする。
(もしかして、本当に……?)
(……ううん。そんなこと、あるわけないよね)
一瞬だけ過った考えは、すぐに打ち消したものの、
何とも言えない違和感は、なかなか胸から消えてくれなかった。
***
子ども 「ジルー! 次はこの本読んで」
子ども 「それが終わったら、この本だよ!」
ジル 「わかりました。順番に持って来て下さい」
(さっきは、本当に驚いたけれど……やっぱり、私の考えすぎだったみたい)
わずかに抱いていた不信感も消え、微笑ましい気持ちで見守っていると、
本の読み聞かせを終えたジル様が、こちらへ近づいて来る。
ジル 「貴女に、お願いがあります」
=====
ジル 「貴女に、お願いがあります」
吉琳 「はい。私に出来ることでしたら……」
ジル 「簡単ですよ。私のことを、子どもたちと同じように呼んで頂きたいだけなので」
楽しげに告げられた言葉に、驚いて目を瞬かせる。
吉琳 「私も『ジル』と、呼んでいいのですか……?」
ジル 「ええ、是非」
ジルは身分が高くても、私たちと同じ目線で接してくれる。
疑うなんて失礼だったと思い直し、微笑んで頷いた。
***
その日の夜…―
私は他のシスターたちと手分けをして、姿が見えない男の子を探しに教会の外へ出ていた。
(もう寝る時間なのに、あの子はどこに行ってしまったんだろう)
暗い路地に入った途端、子どもの明るい声が聞こえてくる。
子ども 「ねえ、ジルのおうちでお菓子をたくさん食べさせてくれるって、本当?」
ジル 「……そうですよ」
(え……ジルと一緒に?)
探していた子どもが見つかり安心するとともに、ふと違和感を覚えた。
(あの子は、無邪気に笑っているけれど……)
(ジルの様子が、いつもと違う。……まるで)
*****
ジル 「ヴァンパイアの真似事ですよ」
*****
(……あのときみたい)
私は子どもに駆け寄り、早く教会へ戻るように促した。
そしてジルと二人きりになってから、速まる鼓動を感じつつも訊ねる。
吉琳 「どうして、あの子を連れ出したりしたのですか……?」
ジル 「……」
ジルはその瞳に妖艶な光を灯しながら、私の顎をすくい上げて…―
ジル 「おそらく、貴女がご想像されている通りかと」
=====
吉琳 「どうして、あの子を連れ出したりしたのですか……?」
ジル 「……」
ジルはその瞳に妖艶な光を灯しながら、私の顎をすくい上げて……
ジル 「おそらく、貴女がご想像されている通りかと」
吉琳 「……!」
唇の端から長い牙が覗き、恐怖に身体がすくむ。
(まさか本当に、ジルがヴァンパイアだったなんて……)
吉琳 「私を……どうするつもりですか?」
ジル 「ご安心ください」
ジル 「私の正体を黙っていてくだされば、貴女を傷つけるつもりはありません」
ジル 「私にとって大切な『食材』を、育ててもらわなければなりませんからね」
(子どもたちに優しくしていたのは、血を吸うためだったということ……?)
今まで信じていたものが崩れていく感覚に、胸が苦しくなる。
吉琳 「子どもたちには、手を出さないでください……!」
ジル 「それでは、私が飢餓状態に陥ってしまいます」
ジル 「食事の権利を、私から奪うとおっしゃるのですか?」
とにかく子どもたちを守らなければと思い、冷ややかな視線に負けじと声を上げた。
吉琳 「どうしても必要なら、私の血を差し上げます。だから……」
ジル 「貴女一人で、私の空腹を満たそうというのですか?」
ジル 「毎日のように、お相手していただくことになりますよ」
ジルは笑みを深め、私の覚悟を試すように首筋をなぞってくる。
その冷たい指先に、身体が硬直した。
(怖くないと言えば嘘になる。でも……)
吉琳 「それで、子どもたちを守れるなら……構いません」
ジル 「自分を犠牲にするとは、貴女は随分と物好きですね」
ジルは意味ありげに瞳を細めると、私の頬を撫で上げて…―
ジル 「いいことを思い付きました」
第2話:
ジル 「いいことを思いつきました」
吉琳 「ここで、血を吸う気ですか……?」
私は恐怖に震える手を、きつく握る。
ジル 「……」
けれどジルはそれ以上何もせず、暗い路地裏へ姿を消した。
張り詰めていた緊張の糸が切れ、その場に膝をついてしまう。
想いを寄せていた相手がヴァンパイアだったと知り、動揺で心が乱れた。
(でも、今は子どもたちを守ることだけを考えなきゃ……)
***
数日後…―
疑わしい動きが無いか、ずっとジルの様子を伺っていたけれど……
子ども 「ジル、今日は何を教えてくれるの?」
ジル 「そうですね……では、異国の文化についてお話ししましょう」
(ジルは、これまでと何も変わらない)
*****
ジル 「貴女一人で、私の空腹を満たそうというのですか?」
ジル 「毎日のように、お相手していただくことになりますよ」
*****
(でも、私の血を吸っていないということは、子どもたちを……?)
注意深く様子を伺うものの、子どもたちも普段と変わらないように見えた。
***
やがて夜が深まり、みんなが寝静まった頃、私の部屋の扉がノックされる。
ジル 「お邪魔しても構いませんか?」
吉琳 「……はい」
(今夜こそ血を吸われるんだ)
緊張したまま部屋に招き入れると、ジルはにこやかに口を開いた。
ジル 「そう怯えずとも、手荒なことはしませんよ」
ジル 「私は、貴女たち人間に敬意を払っていますから」
吉琳 「敬意……ですか?」
ジル 「ええ」
=====
吉琳 「敬意……ですか?」
ジル 「ええ」
ジル 「ヴァンパイアにとって人間は、最も重要な『食材』ですので」
ジル 「貴女がたの血を、最高の状態で頂く。これが私なりの敬意です」
そのために、適した刺激をそれぞれに与えるのだと、ジルは続けた。
吉琳 「あの子どもに、お菓子を渡すと言ったのは……」
ジル 「子どもの血は、幸福感で満たされることで、質が上がるからです。そして……」
ジル 「貴女には、子どもたちを守るという使命感を与えました」
(それじゃ、あの夜にジルが言っていたのは……)
*****
ジル 「いいことを思いつきました」
*****
(私の血を、良くするためだったんだ)
ジル 「力を抜いてください」
ジルは妖艶に微笑んで私の腰を引き寄せ、首筋に顔を埋めた。
吉琳 「……っ」
襲ってくるであろう痛みを想像して、思わず身体をこわばらせると、
耳元に低い声が落ちて…―
ジル 「厳しい環境下で育った果実は、甘みが増すでしょう?」
ジル 「今の貴女からは、きっと格別な味がしますね」
=====
襲ってくるであろう痛みを想像して、思わず身体をこわばらせていると、
耳元に低い声が落ちて……
ジル 「厳しい環境下で育った果実は、甘みが増すでしょう?」
ジル 「今の貴女からは、きっと格別な味がしますね」
吉琳 「あ……っ」
鋭い牙を立てられた首筋に、火が点いたような熱さが生まれ、
その熱が全身を巡り、身体を甘く火照らせていく。
(この感覚は、何……?)
ジル 「想像通り……貴女の血は、とても甘美な味わいでした」
経験のない感覚に戸惑う私の身体をそっと離し、
ジルは満足げな笑みを浮かべた。
吉琳 「どうして、痛みがないのですか……?」
速まる鼓動のまま訊ねると、ジルは赤く染まった唇を拭いながら、瞳を細める。
ジル 「過去には、痛みを訴える者もいました。貴女には才能があるようですね」
ジル 「……『食料』に向いていますよ」
楽しげに告げたジルが、足音もなく私の部屋を後にした。
私はその場にへたり込み、牙を立てられた首筋を押さえる。
(これから……どうなってしまうんだろう)
漠然とした不安と恐怖が胸に押し寄せてくるけれど、同時に、
血を吸われたときの甘い感覚を思い出してしまい、胸が疼く。
そんな不浄の想いを振り払うために、祈りを捧げるしかなかった。
***
ジルはその夜を境に、毎日のように教会を訪れるようになり…―
子どもたちの相手をしてくれた後は、私の部屋で過ごすことが多くなった。
ジル 「今日も、熱心に子どもたちの世話をしていましたね」
ジル 「朝から晩まで忙しく働いていては、疲れる事もあるでしょう」
吉琳 「大丈夫です。私にとっては、当たり前のことなので……」
子どもたちの暮らしを少しでも良くしたいと告げると、穏やかな笑みを向けられた。
(どうして、そんなに優しい瞳を……?)
戸惑いとともに、胸が甘く波打つのを感じていると……
ジル 「時には、貴女自身の幸福を望まれては?」
=====
ジル 「時には、貴女自身の幸福を望まれては?」
吉琳 「私の幸せ……ですか?」
あまり意識したことがなく首を傾げると、
ジルが胸元のポケットから、何か光るものを取り出した。
ジル 「これを見て下さい」
吉琳 「……!」
(綺麗なネックレス……)
紫色の宝石があしらわれた、繊細な装飾のネックレスに見惚れていると、
ジルが、すっと手を伸ばして…―
ジル 「毎日頑張っている、貴女へのご褒美です」
(え……)
留め具を外して、私の首につけてくれた。
まるで恋人のような振る舞いに、頬が熱を持つのを感じながらも、慌てて口を開く。
吉琳 「こんなに高価なものは、受け取れないです」
ジル 「それだけの対価を頂いていますから、お気になさらず」
ジルは妖艶に微笑み、私の首筋に牙を立てた。
(優しい言葉をかけてくれたり、贈り物をしてくれるのは、私の血が目的で……)
(勘違いしちゃいけないって、わかってるのに)
ジル 「それでは、また明日の夜に」
吉琳 「……はい。おやすみなさい」
(それでも、恋人のように接してくれることを、嬉しいと感じてしまうのは……)
ジルへの想いを捨てきれずにいる自分に気付き、胸が騒ぎ出すのだった。
***
それから、ゆるやかに時が流れて…―
血を吸われることが当たり前になる頃には、
ジルへの特別な気持ちを、誤魔化すことは出来なくなっていた。
ジル 「今夜も頂いてよろしいですか?」
=====
ジル 「今夜も頂いてよろしいですか?」
吉琳 「はい」
(ジルは私のことを、食料としか見ていないだろうけど……)
(どういう形でも、求めてもらえるのは嬉しい)
いつものように身を任せていると、ジルが私の頬をそっと撫でる。
ジル 「私はもう、他の人間の血を吸いたいという欲求が無くなりました」
吉琳 「え……どうしてですか?」
ジル 「それだけ貴女が魅力的だということですよ、吉琳」
甘く囁かれた言葉に、胸が大きく波打つ。
(こんな事を言うのは、血のためだと何度自分に言い聞かせても、)
(ジルへの想いが募ってしまう……)
切なくて視線を逸らすと、ジルは私の首筋に唇を近付けて優しいキスを落とした。
吉琳 「…っ、ん」
ジル 「貴女は……本当に、可愛らしい反応をしますね」
血を吸われるのとは異なる感覚に、身体が震える。
ジル 「聖なる存在のシスターが、人ならざる者と、このようなことをしているなんて……」
ジル 「神はどう思われるでしょうね?」
危険な響きを孕んだ言葉が、鼓膜を撫でて…―
第3話-プレミア(Premier)END:
ジル 「聖なる存在のシスターが、人ならざる者と、このようなことをしているなんて……」
ジル 「神はどう思われるでしょうね?」
吉琳 「私も……こんなことはいけないと、頭では分かっています」
それでも、ジルが仕掛ける甘い罠から、逃れられそうにない。
ジル 「背徳は最高のスパイス……」
ジル 「貴女も、そう感じているのではありませんか?」
吉琳 「……あっ!」
想いを伝えるより先に、ジルが私の腰を引き寄せ、首筋に牙を立てた。
(ジルが私に優しくしてくれるのは、血を美味しくするため)
(それでも構わないと感じるのは、本当にジルを好きになってしまったから……)
甘い目眩のような感覚が、頭の先から、つま先まで駆け巡る。
ジルは力の抜けた私の身体をしっかりと支えながら、熱く、吐息交じりに囁いた。
ジル 「日ごとに……貴女の血は、風味を増していきますね」
満たされたその表情に、分かり合えない切なさを感じて、
ずっと胸に秘めていた想いが、自然と口からこぼれだしてしまう。
吉琳 「私の『食材』としての価値が、上がっているのだとしたら、」
吉琳 「神を裏切っているからではなく……ジルを、愛してしまったからです」
=====
吉琳 「私の『食材』としての価値が、上がっているのだとしたら、」
吉琳 「神を裏切っているからではなく……ジルを、愛してしまったからです」
吉琳 「ジルにとって、私がただの食料だったとしても……この気持ちは、変わりません」
ジル 「……」
私の想いを聞いたジルは、はっとした様子で目を見開いた。
ジルの顔を見つめていられなくて、思わず視線を落とすと……
ジル 「顔を上げてください、吉琳」
ジル 「どうやら、行き違いがあったようです」
吉琳 「え……?」
予想外の言葉に驚いていると、ジルは苦笑交じりに続けた。
ジル 「ヴァンパイアにとって人間とは、ただ欲望を満たすためだけの存在です」
ジル 「私も、これまで人間に対して特別な感情を抱くことは、一度もありませんでした」
(分かってはいたけれど……)
はっきりと告げられ胸が軋む私とは対照的に、ジルは穏やかな笑みを浮かべている。
ジル 「ですが……」
ジル 「自分を犠牲にしてまで、子どもたちを守ろうとする貴女の側にいるうちに、」
ジル 「私は変わってしまいました」
ジル 「今では、貴女が大切にしているものまで、尊い存在に感じるようになったのです」
吉琳 「それは、どういう……」
ジル 「まだお分かりになりませんか?」
甘い予感に大きく鼓動が揺れ、想いを確かめようとした瞬間、
そっと、顔を持ち上げられて…―
=====
吉琳 「それは、どういう……」
ジル 「まだお分かりになりませんか?」
甘い予感に大きく鼓動が揺れ、想いを確かめようとした瞬間、
そっと、顔を持ち上げられて……
ジル 「私は吉琳自身に、どうしようもなく惹かれています」
吉琳 「ジ、ル……」
真摯な言葉で、ジルが恋人のようにネックレスをつけてくれた時のことが思い起こされた。
(私はとても幸せだったけれど、ジルも同じ気持ちだったのかな……)
ジル 「私を変えた責任を……取って頂けますね?」
吉琳 「……はい」
愛されていたという喜びが胸を甘く締め付ける中、そっと唇が重ねられる。
想いが通じ合った後に交わす口づけはとろけるようで、思考まで溶かされそうになる。
ジル 「愛していますよ、吉琳……」
キスを繰り返しながら、修道服に手をかけられ、ハッとした。
吉琳 「待ってください……まだ、子どもたちが起きているかもしれないので……」
ジル 「ご心配なく」
そっと手を遮ろうとする私に懐中時計を見せたジルは、悪戯っぽく笑った。
ジル 「もうこんな時間です」
ジル 「どれほど夜更かしな子どもでも、夢の中でしょう」
他のシスターたちの仕事の一部も、ジルが引き受けていたらしく、
今夜は早めに休むよう、伝えてあるのだという。
吉琳 「いつの間に、そんなことを……?」
ジル 「私は、そういう狡い男ですよ」
形の良いジルの唇が、魅惑的に弧を描く。
ジル 「これからはもっと深く、私のことを知って頂かなくてはいけませんね」
=====
ジル 「これからはもっと深く、私のことを知って頂かなくてはいけませんね」
(あっ……)
ジルは弱々しく抵抗する私の腕を引き寄せると、耳元に艶めいた囁きを落とした。
ジル 「逃げられるとお思いですか?」
ジル 「夜は、私の時間ですよ」
***
ジルと想いが通じた夜から、数ヶ月の時が流れて…―
私はジルのお屋敷で、あつらえてもらったドレスを身にまとっていた。
(素敵……)
ジル 「とてもよくお似合いですよ」
吉琳 「ありがとうございます……」
淡いパープルのドレスは上品なデザインで、シルクの光沢がとても美しい。
(ジルに褒めてもらえたことは嬉しいけれど……)
(こんなに高価なドレスをプレゼントしてもらうのは、申し訳ないな)
喜びと戸惑いを感じる中、ジルは私の耳元に唇を寄せて…―
ジル 「貴女も、これくらいの品は身に着けるべきです」
ジル 「私の代わりに、一族の顔になってもらうのですから」
=====
(こんなに高価なドレスをプレゼントしてもらうのは、申し訳ないな)
喜びと戸惑いを感じる中、ジルは私の耳元に唇を寄せて……
ジル 「貴女も、これくらいの品は身に着けるべきです」
ジル 「私の代わりに、一族の顔になってもらうのですから」
さらりと告げられた言葉に、ハッとしてジルを見上げる。
吉琳 「それでは、私にシスターをやめて、ここで一緒に暮らすように言ったのは……」
ジル 「今までとは違う立場から、子どもたちを救うためです」
人間に溶け込んだジルの一族は、上流階級に位置しながらも、
必要性を感じなかったため、積極的に社交の場に立つことはしてこなかったのだという。
ジル 「これからは貴女が、教会や孤児院などの支援を呼びかけるべきでしょう」
吉琳 「はい。頑張ります」
貧困にあえぐ人々を助けたいと考える私は、はっきりと頷いた。
吉琳 「ジルは本当に、子どもたちのことを、大切に考えてくれているのですね……」
微笑んで見上げると、ジルは意味ありげに瞳を細める。
ジル 「子どもたちのことを想っているのは勿論ですが、私にとって何よりも大切なのは……」
ジル 「貴女ですよ、吉琳」
(嬉しい……)
ふいに艶めきを増した眼差しに、鼓動が早鐘を打つ中、
ぐっと顔を近づけられ、首筋に沿うように牙が滑るのを感じて…―
ジル 「私が、どれだけ吉琳を愛しているか……」
ジル 「今から、その身体に教えて差し上げます」
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ジル 「聖なる存在のシスターが、人ならざる者と、このようなことをしているなんて……」
ジル 「神はどう思われるでしょうね?」
私を試すような言葉に、ハッと息を飲む。
(どんな形でも、ジルに求められるのが嬉しかった)
(でも、本当にこのままでいいのかな……)
心に生まれた迷いが微かな影を落とし、思わず顔を背けた。
吉琳 「少しだけ……考える時間をもらえませんか?」
ジル 「構いませんよ」
ジルは静かに私の身体を離した。
ジルへの想いと、神への誓いに背いている罪悪感の狭間で、
揺れ動く気持ちを、上手く言葉に出来ない。
吉琳 「すみません、私……」
ジル 「いえ。意地悪を言いましたね」
そう言って首を横に振ったジルは、私の手を取り、にこやかに告げる。
ジル 「……貴女と行きたい場所があります。少し付き合って頂けませんか?」
吉琳 「今からですか? 一体、どこへ……」
ジル 「それは秘密です」
不思議に思いつつも頷きを返し、一緒に部屋を出た。
***
ジルが私を連れて向かった先は、綺麗な花が咲く立派な庭園だった。
(どうして、ここに連れて来てくれたのかな……?)
=====
(どうして、ここに連れて来てくれたのかな……?)
思い当たることがなく、訊ねかけたその時、ジルが私に手を差し伸べる。
ジル 「足元が暗いので、よろしければ」
吉琳 「でも……」
(もし、誰かに見られたりしたら……)
気がかりに感じて辺りを見回す私に、ジルはおかしそうに瞳を細める。
ジル 「そう警戒しなくても、こんな夜更けに散歩をする物好きはいませんよ」
ジル 「私たちの他には、ですが」
悪戯っぽく囁かれ、照れつつも頷きを返し、手に手を重ねる。
色とりどりの花が咲き乱れる庭園を並んで歩きながら、ふと思った。
(ジルは、会うたびに色々してくれたけど……)
(デートのようなことは、今日が初めてかもしれない)
本物の恋人同士のように手を繋いでいると、それだけで心が弾んでしまう。
ジル 「気に入って頂けましたか?」
吉琳 「はい。月明りの中で見る花たちが、こんなに綺麗だなんて知りませんでした」
吉琳 「でも、どうしてここへ連れて来てくれたのですか?」
ジル 「お伝えしていませんでしたね」
ジルは意味ありげに瞳を細め、
絡めたままの指先を、そっと引き寄せて…―
=====
吉琳 「でも、どうしてここへ連れて来てくれたのですか?」
ジル 「お伝えしていませんでしたね」
ジルは意味ありげに瞳を細め、
絡めたままの指先を、そっと引き寄せて……
ジル 「今夜は、月が綺麗だからですよ」
視線の先を追うと、無数の星が瞬く濃紺の空に、幻想的な丸い月が浮かんでいた。
吉琳 「空が澄んでいるからでしょうか……月も星も、とても綺麗です」
少しの間、二人で夜空を眺めていると不意に、穏やかな声が風に乗って耳に届いた。
ジル 「庭園を照らす月を美しいと感じ、吹き抜ける風を心地よいと思う……」
ジル 「貴女が、これまで私の中に存在しなかった感情をもたらしてくれました」
吉琳 「私が……ですか?」
不思議に思い目を瞬くと、ジルが静かに続けた。
ジル 「貴女と一緒に子どもたちの世話をしていくうちに、心が豊かになるのを感じたのです」
ジル 「人間に対して特別な想いを抱く日が来るとは、想像すらしていませんでしたので……」
ジル 「私自身も、少々驚いています」
苦笑交じりで告げられた言葉に、少しずつ胸の音が速くなっていく。
(そんな風に言われたら、都合のいいように考えてしまいそう)
吉琳 「……ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
ジル 「ええ。なんでしょう」
=====
吉琳 「……ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
ジル 「ええ。なんでしょう」
唇に笑みを乗せるジルに、私は鼓動が速まっていくのを感じながら訊ねた。
吉琳 「その……今の言葉は、食料としてだけではなく、」
吉琳 「私自身を求めてくれているように聞こえるのですが……」
ジルは私の言葉に薄い笑みを返し、
どこか遠くへ想いを馳せるような眼差しで呟く。
ジル 「私は永遠に抜け出せない長い夜を、一人で彷徨ってきました」
ジル 「ヴァンパイアの時間は、人間のそれよりずっと長く退屈なものですから」
ジルの言葉に隠された孤独は計り知れず、切なさが胸を締め付ける。
何も言えずに見つめていると、ジルがふっと笑う。
ジル 「ですが、ようやく……」
ジル 「帰るべき場所を、見つけられたような気がしています」
吉琳 「ジル……?」
甘い予感に胸が高鳴る中、
ジルは私の顎をすくい上げ、吐息の触れ合う距離まで顔を近づけて…―
ジル 「私のような者にも、こんな感情があると気付かせてくれた」
ジル 「吉琳。貴女のことを……」
=====
甘い予感に胸が高鳴る中、
ジルは私の顎をすくい上げ、吐息の触れ合う距離まで顔を近づけて……
ジル 「私のような者にも、こんな感情があると気付かせてくれた」
ジル 「吉琳。貴女のことを……」
ジル 「とても、愛しく思っています」
(ジルも、私と同じ気持ちだなんて……)
真摯に告げられた言葉が胸の奥に沁み渡り、喜びで満たされる。
ジル 「……貴女に触れても、いいですか?」
吉琳 「はい……」
そっとまつ毛を伏せると、恋人として初めてのキスを交わした。
***
それから穏やかに時は流れ、季節も移り変わる頃…―
私はこれまで通り教会で暮らしながら、ジルとの関係を深めていた。
ジル 「愛していますよ。吉琳」
吉琳 「私も……ジルを愛しています」
ジル 「ええ、その気持ちは伝わっていますよ」
ジル 「貴女の血は、私のことが好きでたまらない……そんな味がしますから」
吉琳 「……あっ」
ジルが私の首筋に牙を立てた瞬間、とろけるほど甘い刺激が走り、
灯された熱が、ゆっくりと全身を駆け巡っていく。
ジル 「いけないことをしている時の貴女は、ますます綺麗で……」
ジル 「私の腕の中に、ずっと閉じ込めてしまいたくなりますね」
(ジルとの関係は、誰にも言えないけれど……それでも構わない)
(この恋を、二人で大事に育てていこう)
これから先も幸せな夜が続く予感に胸をくすぐられながら、
私たちは、とろけるようなキスをした…―
fin.
エピローグEpilogue:
禁じられた恋であると知りながら、彼とともに生きる道を選んだあなた。
そんなあなたを待っていたのは、溺れてしまいそうなほど甘いひと時で……
ジル 「貴女が求めてくださるなら、いくらでも差し上げます」
壊れ物を扱うような優しい手が、肌を伝い…―
ジル 「愛していますよ、吉琳」
彼と迎える甘美な夜に、鼓動は甘く乱れて行く…―
獎勵太美太吸引,所以就衝了......