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Midsummer Festival~2人を惑わす魔法のワイン~(ジル)

2018/07/05~2018/07/17

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心を舞い上がらせる夏祭りで、まことしやかに囁かれる幻のワイン。
それは、彼の意外な一面を引き出す秘薬で…―
…………
妖艶で大人なジルが照れる…?
吉琳 「あの…」
ジル 「何でしょう?」
…………
あなただけに見せるいつもと違った姿は、隠された恋人の素顔…?
今、熱気でゆらめく恋の魔法にかけられる…―

 

 

 

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プロローグ:

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宝石のように輝く星が、
漆黒の空にいくつも瞬く夜のこと…―
………
一日の公務を終え、私はいつも通り夕食をとっていた。
すると、
ワインをグラスに注いでくれたユーリが、にこっと笑って話しかける。
ユーリ 「三日後にはもう出発だね。」
ユーリ 「久々の旅行だし、楽しんできてね」
吉琳 「ありがとう」
ユーリ 「ルメール地区かー。お祭りも見るんだよね?」
吉琳 「うん」
ウィスタリアの郊外にあるルメール地区では、
毎年、夏になると盛大なお祭りが開かれている。
私は彼と休日を合わせて、お忍びでそのお祭りを訪れる予定だった。

(あの人も、お休みを取れそうでよかった)

小さく微笑んでワインに口をつけていると、
ユーリが楽しげに瞳を輝かせて、あることを告げた。
ユーリ 「そういえば、」
ユーリ 「この前ルメール地区から来た子爵がジル様に逢いに来た時、」
ユーリ 「面白い話してたんだ」
そう言ったユーリは、
ルメール地区の夏祭りで飲めるという、幻のワインについて話し始める。
吉琳 「そんなワインがあるんだね」
ユーリ 「うん。『恋の魔法』っていうらしいんだけど、それを飲むと、」
ユーリ 「恋人だけにいつもと違った顔を見せちゃうらしいよ」
ユーリ 「まるで魔法にかかったみたいだから、」
ユーリ 「そんな面白い名前がついたんだって」
吉琳 「『恋の魔法』…」
どこか、おとぎ話のような響きに、自然と心が惹かれる。
吉琳 「素敵な名前だけれど、」
吉琳 「幻ということはお祭りに参加しても飲めないのかな?」
ユーリ 「誰が作ってるのか分からないけど、」
ユーリ 「毎年必ずそのワインが出回るみたい」
ユーリ 「もしかしたら、飲めるかもね!」
吉琳 「楽しみだな」

(…恋人のいつもと違った顔を見られるワイン)

私は、思わず手元のワイングラスを見つめる。

(アルコールがとても強いワイン、ということかな)
(それとも…本当に魔法がかかるなんてことが…)

不思議な話に、小さな期待感を抱いていると、
ユーリがいたずらっぽい眼差しを向けて…―
ユーリ 「ねえ吉琳様」
ユーリ 「もし幻のワインが手に入ったら、恋人のどんな姿が見たい…?」

 

どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ

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第1話:

 

ユーリ 「ねえ吉琳様」
ユーリ 「もし幻のワインが手に入ったら、恋人のどんな姿が見たい…?」
ユーリに問いかけられて、ジルが飲んだらと考えてみる。

(意外に甘いものが好きだったり、)
(少し厳しいけれど、優しいところもいっぱいあったり…)

一緒に過ごす時間の中で見てきた、様々なジルの姿が思い浮かんでくる。

(でも、『いつもと違う姿』って言われると違う気がする)
(どんな時も余裕で感情的にならないジルの、意外な一面か…)
(あんまり想像がつかないな)

吉琳 「すぐには浮かばないよ」
小さく笑みを返すと、ユーリもくすっと笑った。
ユーリ 「たしかに。ジル様の意外な一面って、俺も想像つかないや」
ユーリ 「でも、なおさら幻のワインを手に入れられるか、楽しみになってきたね」
吉琳 「うん」

(もし幻のワインを飲んだら、どんなジルに出逢えるんだろう)

***

それから三日後の休日…―


=====


それから三日後の休日…―
ルメール地区を訪れた私は、ジルと共に露店が多く立ち並ぶ大通りを歩いていた。

(もしかしてこの露店の中に、幻のワインを売るお店があったりして…)

お祭りの雰囲気を肌で感じると、ますます噂が気になってきてしまう。
すると、ふいに隣から柔らかな笑い声が落ちた。
ジル 「楽しそうですね」
ジル 「もしかして、貴女も子爵の話を聞いたのですか?」
ジル 「ルメール地区には不思議なワインがある、と」

(そっか。子爵はジルに逢いに来ていたんだし、)
(当然ジルも、幻のワインのことを聞いているよね)

吉琳 「はい。出発前にユーリから」
ジル 「では、『恋の魔法』の効果もご存知ですよね?」
囁くように言い、ジルは私と手を絡める。
繋いだ手の温もりに、微かに鼓動を跳ねさせながら頷いた。
吉琳 「実は、ユーリから話を聞いた時、」
吉琳 「ジルが飲んだらどうなるか、想像してみたんです」
吉琳 「ですが、思い浮かばなくて…」
ジル 「それでいいのかもしれません」


=====


ジル 「それでいいのかもしれません」
吉琳 「えっ」
首を傾げながら見つめると、ジルはくすりと微笑んだ。
ジル 「いつもと違う姿を恋人に見せるというのは、恐ろしいですから」
吉琳 「そう…ですか?」

(ジルの別の一面が見られたら、私は嬉しいのに…)

すんなり言葉の意味が飲みこめず、まだ小さく首を傾げていると、
ジルは、いたずらめいた笑みを浮かべる。
ジル 「恐らく、ワインに酔って理性で抑えている素顔を晒してしまうというのが、」
ジル 「『恋の魔法』の噂の真相でしょう」
ジル 「ですが、愛しい人の前では、常に理性的でいたいものですよ」

(確かに、)
(普段隠している一面が出てしまうという意味では怖い気もするけれど…)

吉琳 「私は…ジルならどんな顔でも見てみたいです」
ジル 「おや、嬉しいことを言いますね」
細められた瞳が、そっと覗き込むように近づいて…―
ジル 「ではもし貴女が飲んだら、」
ジル 「どんな姿を見せてくださるのでしょう」


=====


ジル 「ではもし貴女が飲んだら、」
ジル 「どんな姿を見せてくださるのでしょう」

(そういえば自分が飲んだ時のことは考えていなかったな…)

想像を巡らせ視線をさまよわせると、ジルが耳元に顔を寄せた。
ジル 「私としては、積極的に恋人を誘う貴女が見たいですね」
吉琳 「っジル」
からかわれていると分かっていても、
頬に広がっていく火照りを止められない。
そんな私を見て、ジルは楽しそうに微笑んだ。
その時…
??? 「そこのお兄さん、お姉さん、これ飲んでいってよ」
吉琳 「えっ」
立ち止まって周囲を見回すと、
すぐ側の露店から、女性が小さなカップを差し出していた。
ジル 「私たちに、ですか?」
女性 「もちろんさ。ルメール地区で一番美味しいワインだよ」
女性 「お代はいらないから、試しに飲んでみな」

(『一番美味しい』って言われると、少し気になるかも)

ジル 「それは楽しみですね。頂きましょう」
カップを受け取ったジルが、私に手渡そうとする。
けれど、その様子を見た女性が大きく手を横に振って…―
女性 「だめだめ。それはお兄さんが飲まなきゃ」


=====


ジル 「それは楽しみですね。頂きましょう」
カップを受け取ったジルが、私に手渡そうとする。
けれど、その様子を見た女性が大きく手を横に振って…
女性 「だめだめ。それはお兄さんが飲まなきゃ」
女性 「あんたたち恋人同士なんだろ? それなら男が飲んだ方が面白い」
女性 「お姉さんは、飲まずに効果を楽しんだらいいよ」
吉琳 「効果…?」

(ワインの効果は…酔うことだよね)
(でも飲まない方が楽しめるってどういう意味なんだろう)

ジル 「…そういうことですか」
吉琳 「えっ」
不思議に思う私とは対照的に、
ジルは納得した様子でワインを口元に運んだ。
優美な仕草でグラスを傾けて、あっという間に飲み終えてしまう。
ジル 「確かに美味しいですね。ありがとうございました」
カップを返すジルに、女性は意味ありげに笑った。
女性 「気に入ったら買いに来てちょうだい」
ジル 「ええ」
女性に頷き返したジルは、優しく私の手を取る。
ジル 「では、行きましょうか」
吉琳 「は、はい…」

(さっきの『効果』というのは一体…?)

気になりつつも、ジルに促されて私は女性に会釈をして露店を後にした。
そうして再び、お店の並ぶ賑やかな道を歩き始めたものの、
胸にはまだ疑問が残っている。

(ジルは分かっているみたいだったけれど、)
(どういう意味だったんだろう)

周囲の店に視線を向けつつ歩き続けるジルに、私は声をかけた。
吉琳 「あの、今のワインの話ですが…」
吉琳 「どうして私は、」
吉琳 「飲んではいけなかったのでしょうか」

 

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第2話:

 

吉琳 「どうして私は、」
吉琳 「飲んではいけなかったのでしょうか」

(『男が飲んだ方が面白い』って、)
(どういうことだったんだろう?)

飲まずに効果を楽しんだらいいと言われた意味も、全く思い当たらない。
すると、ジルはくすりと笑みをこぼす。
ジル 「いけない、ということではないかと」
ジル 「恐らくあの女性が面白半分で言っただけですよ」
ジル 「とにかく、もう少し経てば意味が分かるでしょう」
そう答えるジルの言葉も、はっきりとしないもので、
全てを教えるつもりはないようだった。

(もう少し経てばって…何かが起こるってことなのかな…?)

そうして疑問を消せないまま、私はジルと街を歩き続けた。

***

お店を見て回るうちに、私とジルは街の広場に辿りついた。
お祭りの中心だけあって、
先ほどの露店が並ぶ通りよりも、さらに多くの人で賑わっている。

(ジルとはぐれないようにしないと…)

手を繋ぎ直そうとすると、その前にジルの手が触れ…―
ジル 「吉琳。こちらへ」


=====


ジル 「吉琳。こちらへ」
ジル 「はぐれてしまってはいけませんから」
ふわりと抱き寄せられて、
先ほどよりもずっと近くにジルの温もりを感じる。
腰に回った頼もしい腕に、小さく鼓動が跳ねた。
吉琳 「ありがとうございます…

(距離が近くて少し恥ずかしいけれど…優しいな)
(それに、普段はこの関係を隠すことが多いから、)
(こうして外で、普通の恋人同士として歩けるのも嬉しい)

お忍びで来ていることが、気持ちを大きくして、
わずかに照れつつ、自分からも身体を寄せてジルを見上げると…
ジル 「……」
目が合った瞬間、ジルはふいっと視線を逸らしてしまった。
吉琳 「…っジル?」
ジル 「お礼はいりませんよ」
ジル 「…貴女と離れてしまっては困りますからね」
ジルは、いつも通り穏やかに答えているものの、
態度は、全く普段と違っていて瞳を瞬かせてしまう。

(どうしたのかな…?)

不思議に思って顔を覗き込んでみると…―

(えっ)
(ジルが赤くなってる…!?)


=====


不思議に思って顔を覗き込んでみると…

(えっ)
(ジルが赤くなってる…!?)

ジルの耳が少し赤くなっていることに気づいた。
吉琳 「あの…」
ジル 「何でしょう?」
ちらりとこちらを向いたジルの目元は、やはり赤く染まっていて、
つられて、私の顔も火照っていく。
吉琳 「っ、いえ…何でもありません」
ジル 「そうですか…」
ジル 「……」
お互いに赤くなった顔をぎこちなく逸らすと、
ジルは視線をさまよわせたまま、
話題を変えるように噴水の向こうを指さした。
ジル 「向こうに人が集まっているようですね。行ってみましょう」
吉琳 「はい…」
後に続きながら、さっきのジルの表情を何度も思い出してしまう。

(ワインに酔って赤くなっていた…わけではないよね)
(ジルはお酒に強いはずだし…)

首を傾げつつ、人だかりが出来ている場所に近づくと、
旅劇団らしき方々が見せ物をしているようだった。
ジル 「ちょうど演目が入れ替わるところのようですね」
見ると、カーテンの向こうから一人のピエロが出てきていた。
ジル 「少し見ていきましょうか」
吉琳 「はい」
見上げると、
ジルの顔には見慣れた余裕の感じられる笑みが浮かんでいる。

(今は普段通りに見えるし、気のせいだったのかな)

そう思いつつ、目の前で繰り広げられる劇に視線を向けた。
セリフのない無言劇だったものの、大きな身振り手振りのピエロの動きと、
面白おかしい展開に、思わずくすっと笑ってしまう。

(こういう催し物もお祭りの楽しみだよね)

自然と心を弾ませていたその時、
隣からも笑い声が聞こえてきて…―

(えっ)


=====


隣からも笑い声が聞こえてきて…

(えっ)

はっとして見上げると、ジルが声をこぼして笑っている。
そこには普段の大人っぽいジルとは違う、無邪気な笑顔があった。

(ジルってこんな風にも笑うんだ…)

心の中に、いつもジルに感じる感情とは別の甘い感情が溢れた。

(何だか、可愛い…)

ジル 「どうしました?」
吉琳 「な、何でもありません…」
まじまじと見つめていた視線を慌ててピエロに戻す。
けれど、たった今見たジルの笑顔が焼きついてしまって、
その後の無言劇は集中して見ることが出来なかった。

***

旅劇団の見せ物が終わり、私とジルは広場を後にして、
旅行前から調べていたぶどう園へ向かっていた。
ジル 「たまたま広場に立ち寄っただけですが、」
ジル 「面白いものが見られましたね」
吉琳 「はい…」

(確かに旅劇団の見せ物は楽しかったけれど、)
(それ以上にジルの方が気になってしまった…)

声をこぼして笑うジルの姿を思い出すと、胸が甘く締めつけられる。

(でも、ジルがいつもと違うのはどうしてだろう?)


=====


声をこぼして笑うジルの姿を思い出すと、胸が甘く締めつけられる。

(でも、ジルがいつもと違うのはどうしてだろう?)

そう考えた時…

*****
ジル 「では、『恋の魔法』の効果もご存知ですよね?」
女性 「お姉さんは、飲まずに効果を楽しんだらいいよ」
ジル 「とにかく、もう少し経てば意味が分かるでしょう」
*****

(もう少し経てばって…)

はっ、とあることに気づいて足を止めると、
隣を歩いていたジルも不思議そうに立ち止まった。
ジル 「吉琳?」

(ジルの様子が変わったのは、確かに、あの露店でワインを飲んでからだ)

幻のワインはいつもと違った一面を見せる、という言葉と共に、
私の胸には、まるで照れたように顔を赤らめていた表情や、
ジルが見せた屈託のない笑顔でいっぱいになる。

(ジルはお店の人が言っていた『効果』の意味が分かっていたようだし、)
(あの姿が、どんな時も余裕で感情的にならないジルの、)
(意外な一面だったら…)

吉琳 「さっきジルが飲んだワインは…『恋の魔法』ですか?」

 

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第3話-プレミア(Premier)END:


吉琳 「さっきジルが飲んだワインは…『恋の魔法』ですか?」
ジル 「……」
わずかに伏せられたジルの瞳が、再び私を見つめ返す。
ジル 「そろそろ酔いもさめましたし、お話ししましょうか」
ジル 「ええ。露店で売られていたのは『恋の魔法』でしょう」
吉琳 「……!」
驚きと共に、やっぱりと納得する気持ちも湧く。
ジル 「あの女性の話から、もしかしたらと思いましたが、」
ジル 「本物だったようですね」
吉琳 「そうだったんですね…」
吉琳 「ですがワインを飲んだら、不思議なことが起こると知っていたのに、」
吉琳 「どうして飲んだんですか…?」

(ジルは、ああ言っていたのに…)

*****
ジル 「いつもと違う姿を恋人に見せるというのは、恐ろしいですから」
ジル 「愛しい人の前では、常に理性的でいたいものですよ」
*****

あの言葉を思い出すと、なおさらジルがワインを飲んだ理由が分からなかった。

(ジルの気持ちが知りたい)

じっと見つめると、ジルはふっと笑みをこぼして…―
ジル 「本当にいつもと違う姿を見せる効果があるのか、確証はありませんでした」
ジル 「ですが、貴女はどんな私でも見たいと言ったでしょう」


=====


ジル 「本当にいつもと違う姿を見せる効果があるのか、確証はありませんでした」
ジル 「ですが、貴女はどんな私でも見たいと言ったでしょう」
ジル 「他でもない貴女の願いですから、受け止めたいと思ったのです」

(私がそう言ったから…?)

ワインを飲んだ理由には、ジルの優しい想いが秘められていることに気づき、
胸の奥がじわりと熱を帯びた。
ジル 「それに…情けない姿を見せることになったとしても、」
ジル 「貴女なら、受け入れてくださると思ったので」
吉琳 「ジル…」
その言葉から、ジルの信頼と愛情が伝わってきて、胸がいっぱいになる。

(照れたり、笑い声をあげたりする姿を見るのは初めてで、)
(少しびっくりしたけれど…)
(普段は抑えているジルの一面なんだと思うと愛しい)

私は溢れる思いを胸に、にっこりと微笑んだ。
吉琳 「あの…ぶどう園に行くのは明日にしてもいいでしょうか」
ジル 「…ええ。私は構いませんがどうかされたんですか?」
吉琳 「一つ、買いたいものがあるんです」

***

その後、私はジルと共にあるお店に立ち寄って…
すっかり夜になった頃、宿に戻ってきた。
ソファに隣り合って座る私たちの前には…―


=====


すっかり夜になった頃、宿に戻ってきた。
ソファに隣り合って座る私たちの前には、
一本のワインボトルが置かれている。
ジル 「本当に飲むのですか?」
それは先ほど、露店で買った『恋の魔法』のワインだった。

(ジルは私を信じて、あのワインを飲んでくれたから…)
(今度は私が、ジルに見せたい)

吉琳 「はい。…私もジルに知ってほしいんです」
吉琳 「私の全てを」

(飲んだらどうなってしまうか考えると、少し恥ずかしい気もするけれど)
(私は今まで見たことのないジルが見られて、嬉しかったから…)

すると、ジルは苦笑まじりに、ふっと笑みをこぼす。
ジル 「まったく、そんな言葉をどこで覚えてくるのでしょうか」
吉琳 「っ、あまりからかわないでください」
吉琳 「それに…情けない姿を見せることになったとしても、」
吉琳 「ジルなら受け入れてくれると思うので」
それは、私がジルに言われた言葉だった。
ジルも思い出したのか、笑みを深めて…―


=====


吉琳 「ジルなら受け入れてくれると思うので」
それは、私がジルに言われた言葉だった。
ジルも思い出したのか、笑みを深めて…
ジル 「そのことでしたら、ご心配なく」
ジル 「どんな貴女でも受け止めます」
穏やかにそう言ってくれたジルは、
ワインボトルを手にすると、手慣れた様子でボトルを開けてグラスに注ぐ。
そうして、深紅の液体が揺れるグラスが差し出された。
ジル 「見せてください。私の知らない貴女の一面を」
わずかに緊張しつつ、
受け取ったグラスを唇につけて、ひと口、こくりと飲みこむ。

(っ…結構、強いお酒だったんだ)
(ジルは普通に飲んでいたから分からなかった)

グラスを置くと、すぐにアルコールが回って意識がふわふわとしてきた。
ジル 「大丈夫ですか?」
吉琳 「はい…」
そっと腰を抱き寄せられると、ジルの香りが強くなって一段と身体が熱くなる。
それと共に、身体の奥から感情が湧き上がるような感覚がした。

(もっと…ジルに近づきたい)

理性や恥じらいで抑えられていた気持ちが、感情の蓋を破っていく。

(ううん、近づくだけじゃ…足りない)

私はジルの背中に腕を回して…―
吉琳 「ジルの側にいたいです」
吉琳 「キス…して下さい」


=====


吉琳 「ジルの側にいたいです」
吉琳 「キス…して下さい」
ジル 「……」
見上げると、驚いたように瞳を丸くしたジルが、愛しげな眼差しを向ける。
ジル 「冗談で言ったつもりでしたが、」
ジル 「まさか、本当に積極的な姿を見られるとは思いませんでしたね」

(冗談…?)

楽しげに笑うジルを見つめ、首を傾げる。
けれど問いかける前に、ジルに顎をすくい上げられた。
ジル 「もちろん、貴女が望むのならいくらでも差し上げましょう」
ジル 「ただし、キスだけで済ませる気はありませんよ」
その言葉と共に甘い口づけが降ってきて、
わずかな疑問はすぐに消え去っていった。
吉琳 「…ジル…、ん……」
世界中でたった一人、ジルだけが与えてくれる甘い温もりが、
身体中に広がっていくのを感じる。

(今は、恥ずかしさよりも、ずっと…)
(ジルへの想いを伝えたいって気持ちが溢れてる)

吉琳 「ん…ジル…、もっと…触れてください…」
柔らかな唇が合わさる隙間で、ねだるような吐息をこぼすと、
ジルが何かを堪えるように目を細めた。
ジル 「貴女は心の底では、いつもそんなことを思っていたのですね」
吉琳 「はい…」
頷いた私の耳に、艶めいた低い声が響く。
それは、これから訪れる甘い時間を知らせる囁きだった…―
ジル 「これだけで満足してはいませんよね?」
ジル 「貴女から誘った責任は、取って頂きますよ」


fin.

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:


吉琳 「さっきジルが飲んだワインは…『恋の魔法』ですか?」
そう訊ねると、ジルはふっと笑って首を横に振った。
ジル 「後ほどお話しします」
ジル 「貴女が楽しみにしていたぶどう園が閉まってしまいますから」
吉琳 「でも…っ」
言い募るものの、ジルはゆっくりと私の手を引いて歩き出す。
ジル 「それに、完全に酔いがさめてからの方がいいでしょう」
小さく振り返ったその顔はほのかに染まり、ジルの素直な感情が見え隠れしていた。

(今、聞いてしまいたい気もするけれど…)

ぶどう園に行きたいという旅行前からの希望を、
ジルが優先しようとしてくれているのを思うと、強く言えなくなってしまう。

(聞くのは後にしよう…)

私はジルの言葉に頷いて、ぶどう園に向かった。

***

その後、予定通りぶどう園を見て回り…―
ジルの案内で、近くにあったレストランを訪れていた。
吉琳 「もしかして、ルメール地区に来たことがあるんですか?」
沢山のお店が立ち並ぶ中、真っ直ぐにこのレストランに入っていったのを思い出すと、
向かいの席に座ったジルが、優しい微笑みと共に首を横に振った。
ジル 「いえ、初めてですよ」


=====


ジル 「いえ、初めてですよ」
吉琳 「そうなんですね」

(このレストラン…随分と入り組んだ道にあったから、)
(てっきり来たことがあるのかと思ったけれど…)
(もしかして旅行に来る前に調べてくれていたのかな)

さり気ない気遣いに、ぽっと胸の奥が温かくなる。
するとその時、店員さんがテーブルに置かれたグラスに赤ワインを注いだ。
ジル 「それでは、乾杯しましょうか」
吉琳 「あっ…待って下さい」
ジル 「どうしましたか?」

(さっきのことを、もう一度ちゃんと聞きたい)

グラスを持ち上げたまま私を見つめるジルに、改めて問いかける。
吉琳 「ぶどう園に行く前に聞いたこと…覚えていますか?」
ジル 「ええ。私が飲んだワインが『恋の魔法』だったのか、でしたね」
吉琳 「はい。『完全に酔いがさめてから』と言っていたので、」
吉琳 「また飲んでしまったら、もっと酔いがさめないかと思って…」

(乾杯をしてしまったら、いつまでもジルの気持ちが聞けなくなってしまう)

ジル 「それもそうですね」
ジル 「では、乾杯の前に話してしまいましょうか」
ジルは楽しげに笑ってグラスを置いて…―


=====


ジル 「では、乾杯の前に話してしまいましょうか」
ジルは楽しげに笑ってグラスを置いて…
ジル 「結論からお伝えすると、貴女の想像通り、あれは『恋の魔法』でしょう」

(やっぱり、そうだったんだ)

飲むと、恋人だけにいつもと違った一面を見せてしまうという、
幻のワインの話が本当だったことに、小さく息をのむ。
しかし今日、見たジルの表情は、その話が真実だと証明していた。
吉琳 「いつ…気づいたんですか?」
ジル 「はっきりと確信を持ったのは、街中であなたを抱き寄せた時でしょうか」

*****
ジル 「…貴女と離れてしまっては困りますからね」
*****

あの時、感じた温もりを思い出して頬がわずかに熱を帯びていく。
ジル 「本当に売っているとは思わなかったので、半信半疑でしたが」
吉琳 「それでも飲んだのはどうしてですか?」
ジル 「貴女が、『恋の魔法』を飲んだ私を想像出来なかったと言っていたので」


=====


ジル 「貴女が、『恋の魔法』を飲んだ私を想像出来なかったと言っていたので」
吉琳 「……!」
ジル 「ですが、あんな効果があるとは予想外でした」
苦笑をこぼすジルに、言葉を詰まらせてしまう。

(それじゃあ…私のために?)
(そんな理由だなんて、思ってもみなかった)

隠されていた純粋な想いを知り、あっけにとられてジルを見つめた。
そんな私に、からかいまじりの眼差しが注がれる。
ジル 「貴女が疑問に思っていたことは全て解決したはずですが、」
ジル 「何をそんなに驚いているのでしょうか」

(驚かずにはいられないよ…)

吉琳 「ジルはいつもしっかりとした理由や想いを持って振る舞っているので、」
吉琳 「思いつきで行動することもあるんだなと思ってしまって…」
感じたままを口にすると、ジルがわざとらしく顔をしかめた。
ジル 「おや、心外ですね」
ジル 「しっかりとした理由ならありますよ」
吉琳 「え…?」
疑問の声を上げる私を見て、ジルがゆっくりと笑みを深め…―


=====


ジル 「おや、心外ですね」
ジル 「しっかりとした理由ならありますよ」
吉琳 「え…?」
疑問の声を上げる私を見て、ジルがゆっくりと笑みを深め…
ジル 「恋人の望む姿を見せたいという大きな理由が」
吉琳 「っ……」
ジル 「国王にお仕えする身ですが」
ジル 「私個人にとって、一番大きな行動理由は紛れもなく貴女です」
ジル 「貴女のために何かすることが、もっとも私の心を震わせるのですよ」
吉琳 「ジル……」
胸に広がる喜びに、自然と顔が綻んでいく。

(嬉しくて、言葉にならない)

ジル 「私がこんなことをするのは貴女だけです」
ジルは甘く、囁くように言葉を重ねると、
テーブルに置いた私の手を取り、その甲にキスを落とす。
視線を上げたジルの愛しげな眼差しに、うるさいくらいに鼓動が響いた。
吉琳 「ありがとうございます…」
頬を熱くしながら答えると、ジルは満足げに頷く。
そうして、そっと手を離し、再び赤ワインの入ったグラスを持った。
ジル 「では、今度こそ」
吉琳 「はい!」
二人 「乾杯」
カランとグラスが触れ合う音が、心をときめかせる。

(私も、ジルのためなら何でも出来ると思う)
(些細なことでも、行動を起こす理由が自分ではなく恋人だなんて…)
(いつまでも、こんな素敵な関係でいたいな)

私は甘く高鳴る胸の音を聞きながら、
目の前にあるジルの笑みと、広場で見た無邪気な笑顔を重ね合わせた…―


fin.

 

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エピローグEpilogue:

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胸に焼きついた、いつもと違った彼の表情が、心を甘く焦がして…―
ジル 「まったく…自分が何を言っているのか、本当に分かっているのですか」
苦笑をこぼしたジルに頷くと、手首をやんわりとソファに押しつけられ…
ジル 「そのように煽るなんて、今夜の貴女はいけない人ですね」
ジル 「私がどれだけ貴女を愛しているか、教えることにしましょうか」
潤む視界の中、交わる視線に熱が灯り、彼の瞳に酔いしれる…―

 

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