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劇情活動-Wistaria Ceremony~国王と王妃の秘密のジンクス~(ルイ)

路易標

これは王妃になったあなたに贈るロイヤルストーリー…―
幸せな道を歩むあなたと彼に告げられた、
国王と王妃の秘密のジンクス…
………
……
ルイ:沐沐
ルイ:ずっと隣にいるから
………
……
夢を叶えた先にある、
新たな物語の1ページが、今始まる…―

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プロローグ:

春らしい柔らかな風が吹く、ある晴れた日のこと…―
私はロベールさんのアトリエを訪れていた。
向かい合うようにしてじっと座っていると、
キャンバスから顔をあげたロベールさんが、にこやかに声をかける。
ロベール:そろそろ休憩にしますか?
沐沐:いっいえ…まだ大丈夫です
ロベール:では、続けますね。王妃様

(やっぱりこうした改まった話し方をされると…)

絵筆を持って再びキャンバスに向かおうとするロベールさんへ、
私は、おずおずと声をかけた。
沐沐:あの…やっぱりいつも通りにしませんか?
すると、わずかに瞳を瞬かせた後、ロベールさんはふっと笑う。
ロベール:そう? 王妃様らしく沐沐ちゃんに接した方が、
ロベール:絵にも気品や威厳が表れると思ったんだけどね
そう言って楽しそうに笑うロベールさんにさえ、
どこかくすぐったさを感じてしまう。

(王妃って呼ばれるのは、まだ慣れないな)

プリンセスから王妃となってもうすぐ1年が経とうとしていた。
今までよりも責任は重くなり、気を配ることも多くなったものの、
国王となった彼と歩んだ1年は、とても充実していたと感じる。
ロベール:まさか王妃様となった沐沐ちゃんの絵を描けるなんて
ロベール:本当に嬉しいよ
沐沐:私もロベールさんに描いて頂けて嬉しいです
ロベール:式典、楽しみだね
沐沐:はい
今日描いてもらっている肖像画は、
国王と王妃の即位1周年式典に飾るためのものだった。
キャンバスを見ながらロベールさんは優しく微笑む。
ロベール:そういえば、式典ではジンクスがあったよね
沐沐:はい。国の繁栄と幸せを願ったものだそうですが…
沐沐:どういったものなのか、私はまだ聞いていないんです

(どんな決まりなんだろう…)

そう思っていると、ふいにノックの音が部屋に響いた。
ロベール:どうぞ
ロベールさんが声をかけると、扉が開き入ってきたのは…―


どの彼と物語を過ごす?
>>>ルイ

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第一話:

扉が開き、入ってきたのは…―
沐沐:ルイ
ルイ:……
口元をかすかに綻ばせた、ルイだった。
ルイは微笑を浮かべたまま、私の方へ歩み寄ってくる。
沐沐:どうしたの?
ルイ:式典の準備があるから、呼びに来た
沐沐:ありがとう…

(でも、まだ絵が途中だから…)

席を外していいか迷っていると、ロベールさんがにこやかに口を開いた。
ロベール:じゃあ、今日はこのへんにしてまた改めて時間取ろうか
ロベールさんの言葉に、ルイもこくりと頷く。
ルイ:ごめん
沐沐:ありがとうございます
ロベールさんの気遣いにお礼を言って立ち上がろうとすると、
ずっと同じ姿勢をとっていたせいか、足元が少しふらついてしまった。

(あっ…)

ルイ:沐沐
その時、傾きかけた身体にルイの腕が回り、そっと抱きとめてくれる。
沐沐:…ありがとう
ルイ:ううん。でも…心配だから気を付けて
沐沐:うん

(こうしたふとした瞬間もルイが側にいてくれるって思うと…嬉しい)

向けられる暖かな眼差しに、鼓動が高鳴るのを感じていると、
不意にロベールさんが声をこぼして笑った。
沐沐:ロベールさん?
不思議に思いながら視線を向けると、ロベールさんが笑いながら言う。
ロベール:ああ、ごめんね。でも城内でよく耳にするからつい

(耳にするって…?)

ロベール:即位から1年経って、国王様の笑顔が増えたって
ロベールさんの言葉に、はっとする。
それは、私もルイと一緒にいて、感じていたことだった。

(城内で噂になるぐらい、皆も気付いていたんだ)

ルイ:…そう
頷くルイは、少し照れたように目元を赤らめて、
また、ふっと穏やかに微笑んだ。

(婚姻式を終えてから、今まで以上にルイの笑顔が増えた気がする)
(ルイの笑顔が沢山見られるのは、私も嬉しいな…)

笑っているルイを見ると、胸の奥がぽっと温かくなる。
私は満たされた気持ちのまま、ロベールさんに笑いかけた。
沐沐:それでは、また宜しくお願いします
ロベール:うん
手を振るロベールさんに見送られ、私とルイはアトリエを後にした…―

***

(そういえば…)

ルイと並んで歩きながら、私は気になっていたことを質問する。
沐沐:式典の準備って、何をするの?

(2週間前から準備することって、何だろう…?)

そっと首を傾げると、ルイが柔らかく目を細めた。
ルイ:式典で行なうジンクスの準備

(ジンクス…)

先ほどまでロベールさんと話していた時、
ジンクスの内容を聞きそびれていたことを思い出す。
当日何をするのか尋ねようとした時、ルイがある部屋の前で足を止めた。
ルイ:…中に入れば分かるよ
ルイは言いながら、ゆっくりと扉を開け…―

***

扉を開けて入るルイに続くと、そこには1台のグランドピアノがあった。
ルイ:これを弾くのがジンクス
ルイ:沐沐を迎えに行く前に、式典のジンクスについて、聞いたんだけど…
そうしてルイは、
国王と王妃は、式典で楽器の演奏をすることになっていると話した。
ルイ:昔、災いが続いて不安に陥っていた国民を励ますために、
ルイ:楽器を演奏した国王と王妃がいたのが由来みたい
2人は音楽の力で人々を落ち着かせ、
再び幸せな笑顔が溢れる国にしたのだという。

(そうだったんだ…)

沐沐:素敵なジンクスだね…

(その2人のように、私たちも皆を幸せな気持ちにできたらいいな)

決意を新たにしていると、ルイも私の言葉に頷いてくれる。
ルイ:楽器は何でもいいみたいだけど…
ルイ:沐沐も弾ける楽器の方が良いと思って
沐沐:ありがとう
ルイの気遣いに、胸が温かくなる。
ルイ:それに…
そう言うと、
ルイはピアノの前に座ると、自分の隣をぽんぽんと示す。

(ここに座って、ってことだよね)

戸惑いつつも示された場所に腰掛けると、とんと肩が触れ合ってしまう。

(こうして近くにいると、どうしてもドキドキしてしまうな)

小さく鼓動が跳ねるのを聞きながらそっと隣をうかがうと、
楽しげなルイの瞳に見つめられる。
ルイ:こうすれば演奏している間も、くっついていられるから

(ルイっ…)

かあっと頬が熱くなるの感じ、そっと視線を逸らすと、
譜面台に置かれた連弾用の楽譜が目に入った。

(少し恥ずかしい気もするけれど…)
(ルイと一緒に弾けるのは、とても嬉しいな)

そっと楽譜を手に取ると、ルイも私の手元を覗き込んだ。
ルイ:その曲で良かった?
沐沐:うん
ルイが選んでくれたのは、幸せと平和を願って作られたと言われている、
私もよく知っている曲だった。
沐沐:この曲なら、式典にぴったりだと思う
ルイ:よかった

(式典を成功させて、素敵なジンクスをルイと叶えたいな)

弾む想いを胸に、楽譜に向けていた顔を上げると…―

(あっ…)

さっきよりもずっと間近にルイの顔があって、
ただでさえ熱かった頬が、更に熱を持つ。
ルイ:………
ふっと優しく細められるルイの瞳が綺麗で、
つい、じっと見つめてしまう。

(目が…逸らせない)

鼓動が、うるさいほどに音を立てている。
ルイ:沐沐
すると、優しい声で名前を呼ばれ、
引き寄せられるようにルイの顔が近付いて…―
応えるように目を閉じると、そっと唇が重なった。
沐沐:ん…
温もりが触れたのは、一瞬だったはずなのに、
幸せな想いから、それがとても長く感じる。
胸を高鳴らせたままそっと目を開くと、
改めて突然触れた温もりに、恥ずかしさに体温が上がった。
真っ赤になりながらルイを見つめると、いたずらっぽく微笑んでいる。
ルイ:真っ赤な沐沐可愛くて…
ルイ:キスしたくなった

(もう…)

ルイの言葉通り、真っ赤になっていることが分かる頬を隠すように、
私はルイから視線を逸らし、譜面台へ楽譜を置いた。
沐沐:そ、それじゃあ早速練習してみよう?
ルイ:うん
ルイはくすっと笑みをこぼしながらも、一緒にピアノへ向かってくれる。
そうして楽譜を見ながら、2人で演奏を始めると…―

(やっぱりルイは上手だな。それなのに…)

実際に曲を弾いてみると、
ルイに比べて、私の技量が足りていないことが分かる。
結局、曲の最後まで、ルイとちゃんと合わせることはできなかった。
沐沐:ごめんね…上手く弾けてなくて
ルイ:ううん。式典まで練習していけば大丈夫だから
沐沐:うん…

(ルイもこう言ってくれているし、頑張らないと)

優しい言葉をかけてくれるルイに、しっかりと頷いた…―

***

その夜、空に星がいくつも瞬く頃…―
公務を終えた私は、1人で練習をするため、ピアノホールに来ていた。

(ルイと合わせられるように、少しでも多く練習しないと)
(練習した分だけ、ちゃんと結果に繋がるはず…)

気を引き締めて楽譜を広げ、
1つ1つの音を確かめるように練習を繰り返していると…―
ルイ:沐沐?

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第二話:

ルイ:沐沐?
振り向くと、かすかに開いた扉から、ルイが顔を覗かせていた。
ルイ:音が聞こえたから気になって…
ルイ:こんな時間まで練習してたの?
沐沐:…うん。ルイに合わせるためにもっと頑張らないといけないと思って
沐沐:式典、成功させたいから

(お城の皆にも城下の人々にも、いつも多くの人に支えられているから)
(王妃として、その人たちを幸せにできる演奏がしたい…)

ジンクスの話を聞いて芽生えた想いを胸に抱いて、
私はそっとルイを見つめ返す。
ルイ:………

(それに…もう1つ)
(式典を成功させて、もっとルイを笑顔にしたい)

心の中でぽつりと呟いたその時、ルイが少し心配そうに口を開いた。
ルイ:…一緒に練習しようか?
沐沐:ありがとう。でも、もう少し練習してからルイと合わせてもいい?
ルイ:…分かった。でもあまり無理はしないで
沐沐:うん
にっこりと笑いかけると、ルイもかすかな笑みを残し、部屋を出て行く。

(頑張ろう…)

その背中を見送って、私はもう1度ピアノへ向かった…―

それから数日が経った、ある日…―
私は途中だった肖像画の続きを描いてもらうため、
再びロベールさんの元を訪れていた。
沐沐:宜しくお願いします
ロベール:うん、こちらこそ宜しくね
そうして向かいに座ると、
ふっとロベールさんの表情が、気遣わしげに曇る。

(どうしたんだろう?)

首を傾げると、ロベールさんは手にしていた絵筆を置いて…―
ロベールさんは絵筆を置くと、穏やかな口調で尋ねてきた。
ロベール:なんだか今日はいつもより元気がないね

(あ…)

ルイと一緒に練習をすると、まだぴったりと音が合うことがなく、
ここ数日、練習を重ねていた。

(…顔に出てたのかな)

沐沐:実は…
私は、ジンクスのためにルイと2人でピアノを演奏することや、
ルイに追いつくため、毎日1人で練習していることを話した。
沐沐:どうしても素敵な連弾にしたいんです
笑顔で、素直な想いをロベールさんに告げると、
私の話を聞いてくれていたロベールさんも、優しく微笑んでくれる。
ロベール:…そう。でもあまり無理はしないでね
沐沐:はい…ありがとうございます

(…ルイにも同じこと言われたな)
(でも、成功させるために練習頑張らないと)

改めて意気込み、ロベールさんへにこっと微笑んだ…―

***

そうして日々は過ぎていき…―
あっという間に、式典の前日を迎え、
私は、ルイと一緒に演奏の練習をしていた。
けれど…―

(やっぱりまだ…)

上手く合わないピアノの音が、ホールに響く。
最後の一音を弾き終えると、ついため息がこぼれた。
ルイ:少し休憩しようか
沐沐:…うん
優しく声をかけてくれるルイの瞳も、どこか心配そうに見える。

(ルイにもこんな顔をさせてしまって…)

焦りと、申し訳ない気持ちから、
ルイと視線を合わせることができずに俯いた、その時…―
???:誰が弾いてんのかと思えば、お前らか

(あ…)

はっとして顔を上げると、シドがニヤっと笑ってホールへと入ってきた。
シド:随分、苦戦してるみてえじゃねえか
シド:本番は俺が代わりに弾いてやろうか?

(あれ?)

シドのからかうような言葉に、私は目を瞬かせる。
すると、ルイは眉をひそめてシドに視線を向けた。
ルイ:そんなことを言いに来たの
シド:いや、国王サマに急な来客だと。ったくジルのやつ人を伝言係みてえに
ルイ:…分かった
素っ気なくそう言うと、ルイは私へ小さな笑みを向ける。
ルイ:ごめんね、沐沐。また明日の朝、最後の練習しよう?
沐沐:うん。ありがとう
ルイは柔らかく微笑んで、そのまま、足早にホールを出て行く。
ルイを見送ると、私は残ったシドへ、そっと向き直った。
沐沐:…あの、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?
シド:あ?
沐沐:最近、ルイのこと…
シド:からかわなくなったんじゃなかったか、とでも言いてえのか?
疑問を全て口にする前に、シドに思っていたことを言われ、
私は目を瞬かせる。
沐沐:…うん
婚姻式を終え、ルイが国王になってからも、
シドと顔を合わせることは度々あった。

(でも…前みたいに、ルイの気持ちをわざと逆なでするような)
(からかいの言葉はかけていなかったのに…)

沐沐:てっきり仲良くなったんだと思っていたから
呟くと、シドがふっと微笑んで言う。
シド:…必要がなくなったからな
沐沐:え?
シド:城下で最近言われてること、知ってるか?
シド:この1年で、国王様の笑顔が増えた…ってな。それが理由だ
その時、以前シドから聞いたことが頭をよぎった。

(そっか…シドがルイをからかうのは、)
(ルイが、人間らしい反応を返すか確かめるため…)

沐沐:でも、今日はからかってたよね…?
シド:ああ。昔のあいつみてえなシケた顔してたからな

(それは…)

シドの言葉に、ズキンと胸が痛む。
沐沐:多分…私が上手く、ピアノを弾けていないから…
シド:あ? お前本気でそう思ってんのか?
沐沐:…?
首を傾げると、シドは大きくため息をついてから言葉を続けた。
シド:今回は、お前らの問題にとやかく言うつもりはねえが、
シド:1度、あいつと話してみろ
それだけ言うと、シドはホールを出て行ってしまう。
1人残され、私はシドの言葉の意味を考えてみたけれど…

(本気でそう思ってるのかって…どういう意味なんだろう…)

結局答えを探せないまま、時間が過ぎていった…―

**

その夜…―
私はまたホールへ足を運んでいた。

(明日最後の練習の前に、少しでも上達しておかないと)

いつものように準備を済ませ、1人、ピアノの前に座る。
すると、ホールに靴音が響いた。

(こんな時間に誰だろう…)

気になってホールの入り口を見ると、
ルイがこちらへと向かって歩いてきていた。
ルイ:部屋にいなかったから
沐沐:うん…やっぱり明日心配だから練習しておきたくて
ルイ:…そう
ルイは頷いて、私の隣に腰かける。
その表情は昼間の練習の時と同じく不安げなもので、 きゅっと胸が痛む。
沐沐:…ごめんね、上手く弾けていなくて
すると、ルイはゆっくりと首を振った。
ルイ:謝らないで
ルイ:沐沐のせいじゃないから
ルイ:…音が合わないのは上手く弾けていないせいじゃないよ
沐沐:え?
ルイ:連弾は…お互いの想いが通じ合うことが大事だから
ルイの手が私の背に触れ、優しく抱き寄せられる。
ルイ:…頑張りすぎないで
ルイ:もっと俺にも頼って沐沐。…前に俺に言ってくれたみたいに

(……!)

どこか切なげなルイの囁きを耳にして、
私は、以前ルイへ向けた言葉を思い出した。

〝沐沐:弱さを見せる事も強さだよ〞
〝沐沐:私に頼って、ルイ〞
〝ルイ:沐沐……〞
〝ルイ:…ありがと〞

(そうだ…私は、ルイにそう伝えたのに)

あの時の私と同じ気持ちをルイに抱かせていたのだと、やっと気づいた。
ルイ:俺も、側にいるから
そして、ルイの心強い言葉に、胸がすっと軽くなる。

(みんなを幸せにできるような演奏をしたい)
(…そしてもっとルイを笑顔にしたいって思っていたのに)

いつの間にか、その気持ちを見失っていたのかもしれない。
私はすうっと息を吸い込むと、ルイへ心からの笑みを向けた。
沐沐:ありがとう…

(明日は、ルイと一緒に素敵な式典にしたい…)

上手く弾こうとするよりも、
今、抱いているような温かな気持ちで演奏した方が、きっと喜んでもらえる。
ようやく、そう確信することができた。
ルイ:うん
頷くルイの頬にも、優しい笑みが戻っている。
もう1度、ぎゅっと強く抱きしめられ、私はルイの胸に身体を預けた…―

***

そうして迎えた、式典当日の朝。
私はルイと一緒に最後の練習をしていた。
心を込めて、最後の一音を弾き終えると…

(今、音が…)

ぱっと顔を上げた瞬間、ホールに1つ拍手が響いて…―

路易分

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第三話-スウィート(Sweet END):

2人きりのホールに響いたのは、ルイの拍手だった。
ルイ:今の演奏、音がぴったり合ってたと思う
沐沐:…うん、私も同じこと思った
嬉しさに思わず口元を綻ばせると、ルイもにっこりと笑ってくれた。
ルイ:これなら問題ないと思う

(良かった…)

ルイの言葉に、安堵が胸に広がっていく。
すると、ルイはちらっと壁の時計へ目を向け、
立ち上がって私に手を差し出した。
ルイ:そろそろ行こうか
沐沐:うん!
温かなルイの手のひらをしっかりと握り締め、
私とルイは並んでホールを後にした。
それから支度を整えた私たちは、会場となるオペラ座へ移動して…―

***

厳かな空気の中、式典は進み、
いよいよ私たちの演奏を披露することになった。
ルイ:沐沐
ルイにエスコートされ、一緒にピアノの前に座ると…―
小さな声で話しかけられる。
ルイ:…緊張するね
沐沐:うん…
ルイ:でも、ずっと隣にいるから

(ルイ…)

微笑むルイに、緊張に張り詰めていた心が和らいでいく。

(本当に、頼もしいな…)

沐沐:ありがとう

(ルイと、心を込めて演奏するんだから、きっと大丈夫)

私はルイへ笑みを返すと、2人でピアノへと向き合い、
私たちはゆっくりと演奏を始めた。
私の奏でる音とルイの奏でる音が重なって、会場へ広がっていく。

(ここも、最初は音が合わなかったけど…)
(今はルイの音がよく聞こえる)

ルイ:……
視線を向けると、隣で弾くルイも、ちらっと私を見て、微笑んでくれた。

〝ルイ:連弾は…お互いの想いが通じ合うことが大事だから〞

(ルイの弾く音がちゃんと聞こえるのは、)
(きっと想いが通じ合っているからかな…)

胸に広がる嬉しさを噛み締めながら、再び楽譜に目を向け、
順調に演奏を続けていた、その時…―

(あっ)

私が指を引っ掛けてしまい、音が乱れてしまう。
一瞬の間違いに、焦る気持ちを抱くと…
ルイ:………
優しく微笑むルイが、私のミスを包み込むようなアレンジをしてくれる。

(ルイ…)

私とルイの演奏は、元の旋律を残しながら、
まるで新しい曲のような、心地よい調べを奏でていた。

(不思議…こんなに楽しいなんて)

私はルイと時折、笑みを交わし合いながら、
皆への感謝と、幸せになって欲しいという想いを込め鍵盤を叩く。
そうして、曲を弾き終えると…―

(わっ…)

巻き起こった大きな拍手が、オペラ座全体を包んでいく。
ルイ:沐沐
隣から差し出されたルイの手を取ると、
一緒に立ち上がり、深くお辞儀をした。
観客1:国王様、王妃様、ありがとうございます!
観客2:素敵な演奏でした!
顔を上げると、招いた城下の人たちが、立ち上がって拍手をしてくれている。
人々が浮かべている眩しいほどの笑顔に、思わず胸が詰まった。

(ここに集まった方だけでなく、ウィスタリアの全ての人が、)
(こうして笑っていられるようにしていきたい…)

王妃になった時に感じた気持ちを、改めて胸に刻んで、
私はルイへそっと囁いた。
沐沐:…この光景、ずっと忘れないと思う
ルイ:うん。俺も忘れられない
その時、私へ向けられたルイの表情に、大きく鼓動が跳ねる。

(…こんなルイの笑顔も、)
(これからもっと見ていきたいな…)

幸せそうに微笑むルイへ笑みを返して、私とルイは手を取り合い、再び深いお辞儀をした…―

***

そうして式典も無事終わり、私とルイは城へ戻る馬車に揺られていた。

(今日は、素敵な式典になったな…)

幸せな気持ちで窓の外を流れていく城下の町並みを眺めていると、
隣に座るルイがぽつりと言葉をこぼす。
ルイ:…きっとあの2人も、あんな笑顔が見られたのかな
沐沐:え?
窓の外へ向けていた視線を移すと、穏やかなルイの瞳に見つめられる。
ルイ:ジンクスの由来になった国王と王妃の話
ルイの呟きの意味を理解して、私は深く頷いた。
沐沐:うん。きっと皆を励まして笑顔にするために、2人で考えたんだろうね
そう言葉にすると、先ほどオペラ座で見た沢山の笑顔が思い出されて、
自然と口元が綻んでしまう。
ルイも同じ気持ちなのか、ふわりと微笑んで頷いてくれた。

(今日、皆の笑顔が見られたのはルイがいてくれたから)

改めて、ずっと支えてくれたルイへ感謝の気持ちが募る。

(…ちゃんと、言葉にして伝えないと)

私はそっとルイに身体を向けると、真っ直ぐに目を見つめて告げた。
沐沐:ルイがいてくれたお陰で、今日の式典は上手くいったと思う。ありがとう
ルイ:ううん…お互いに支え合ったから演奏できたことだから

(演奏のこともそうだけど…)

ルイは普段から、私の隣で微笑み、支えてくれている。
その姿を思い描くと、自然と想いが言葉になった。
沐沐:演奏の時だけじゃなくて…
沐沐:いつも、ルイといると幸せな気持ちになるから
ルイが、一瞬驚いたように目を丸くする。
そして、少し恥ずかしそうに長いまつ毛を伏せ…―
ルイ:…沐沐
甘えるように、そっと私の肩に頭を乗せてきた。
沐沐:ルイっ…
不意に近づいた距離と、式典での頼りになる姿とはまた違うルイの表情に、
胸が甘くくすぐられる。
思わず名前を呼んでしまった私に応えるように、ルイが見上げる。
ルイ:自分ではよく分からないけど…
ルイ:沐沐にそう言ってもらえるのは嬉しい
囁くような声とともに、
いつも私を幸せにしてくれる、ルイの柔らかな笑みが口元に浮かぶ。
その表情を見つめながら、私はロベールさんやシドの話を思い出した。

(城内だけじゃなく、城下でも話題になるぐらい、)
(皆ルイの笑顔が増えたことを嬉しいって思ってる)
(それはきっと…)

沐沐:…私だけじゃないと思う
ルイ:え?
首を傾げるルイに、私はにっこりと笑いかけた。
沐沐:私と同じくらい、皆もルイが笑っていることで、
沐沐:幸せな気持ちになっているんじゃないかな
ルイ:………
想いを告げると、ルイは、本当に嬉しそうに、ふわりと微笑んでくれる。

(笑顔は、皆を幸せにする…)
(あのジンクスは、その笑顔を引き出すきっかけなのかもしれない)

ルイ:ありがとう、沐沐
一緒に演奏をしていた時より、もっと近づいて、
私はルイの頭に自分の頭を預け、馬車の中そっと寄り添い合っていた…―


fin.

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第三話-プレミア(Premiere END):

(今、音が…)

ぴったりと合ったと思った瞬間、突然ホールに拍手が響いた。
ルイと顔を見合わせ、音の方を振り返ると、
扉にもたれるようにして立っていたシドが、手を叩いていた。
シド:マシになったみてえだな。俺が弾かなくて済みそうだ
沐沐:シドっ…どうしたの?
驚いて尋ねると、シドはニヤっと笑ってみせる。
シド:たまたま通りかかっただけだ
シド:本番でヘマすんなよ
シドは短くそう告げると、部屋を出て行こうとする。
すると、その背中にルイが声をかけた。
ルイ:悪かった。心配かけて
ルイの言葉に、シドが一瞬、驚いたような顔をした後、
すぐに不敵な笑みを浮かべ、言葉を返す。
シド:そういう時は『ありがとう』じゃねえのかよ
ルイ:…うるさい

(シド…昨日も今日も、きっと心配してくれてたんだよね)

言葉は少し意地悪でも、その想いは伝わってくる。

(ルイも多分、それは分かっているんだ)

シド:主役が遅れんなよ
シドは片手を上げてそう言うと、ホールを出て行く。
その背中を見送ると、ルイが真っ直ぐに私を見つめた。
ルイ:あいつに先に言われたけど…
ルイ:今の演奏、とても良かった

(ルイ…)

心のこもった褒め言葉に、胸が温かくなっていく。
ルイ:自信持って沐沐
沐沐:うん!
すっかり不安が消えたことを感じながら、力強く頷くと
ルイは微笑んで、すっと手を差し出してくれた。
ルイ:じゃあ、行こうか
その手を取り、きゅっと握り締めて、私たちは式典の準備へ向かった…―

***

そうして、あっという間に式典の時間となり…―
厳かな空気の中、来賓の侯爵の挨拶が終わり、拍手が響く。

(いよいよだ…)

式典を進行する男性がこちらへ目配せをしてから、
会場へ向け、次の演目を読み上げる。
男性:それでは、式典の最後に国王、王妃、両陛下によるピアノ演奏となります
男性:演奏に先立ち、国王陛下よりお言葉を頂戴いたします
ルイは小さく頷いてから、人々の前へと進み出ていく。
そして、穏やかな声で話し始めた。
ルイ:…まずは、本日お集まりいただいたことに感謝致します
ルイ:これから披露する曲は、幸せと平和を願い作られたものです
ルイの話を聞いていると、今日までのことが脳裏によみがえる。

(今回のジンクスを通して、)
(国王と王妃として…そして夫婦として、)
(今まで以上に支え合っていこうって改めて思えた)

ルイ:かつて国民を音楽で癒し笑顔にした王と王妃にならい、
ルイ:この曲を選びました
ルイは集まった人々を見回しながら想いを言葉にのせていく。
頼もしいその横顔には、ルイの持つ優しさと同時に、
国王としての威厳が漂っているように見えた。
ルイ:この場には、身分を問わずウィスタリアに住む大勢の方々がいます
ルイ:その方々、1人ひとりが笑顔でいられることを願い、この演奏を贈ります
そう言って、深々とお辞儀をするルイに、大きな拍手が送られる。

(ジンクスの国王と王妃のように、)
(私も、ルイと多くの人を笑顔にしたい)

戻ってきたルイが、私へ手を差し出してくれる。
その手をしっかりと握り、2人でピアノの前へと座った。

(…きっと、大丈夫)

そう思いながらも小さく跳ねる鼓動を感じて息をつくと、
私の気持ちを察したように、
ルイの手が私の手に重なり、きゅっと握り締められる。
そして、小さな声で囁いた。
ルイ:上手くいく
その短い言葉と優しい笑みが、胸に温かく染み込んでいく。
沐沐:…うん
ルイの言葉に頷き、2人で視線を合わせてから、最初の音を奏でた。

(…あ…)

弾き始めてすぐに、ルイと私の音が、ぴったりと合うのが分かる。
重ねた手のように、寄り添い合った旋律が、会場に広がっていった。

(ルイが側にいて、頼ることができる…)
(それが分かるから、こんなに安心して弾けるんだ…)

緊張もすっかり解け、満たされた気持ちで演奏を続ける。
そして、楽譜の最後の1音を弾き終わった瞬間…―
会場には割れんばかりの拍手が響き渡り、あちこちから歓声が上がった。
ルイ:……
隣に座るルイは会場に溢れる笑顔を見つめてから、
私に向け、嬉しそうにふわりと微笑んでくれる。

(こんなに沢山の人を、素敵な笑顔にすることが出来て)
(本当に嬉しい…)

幸せな気持ちが胸を満たしていく。
隣から差し出された手を取って立ち上がり、
私はルイと一緒に、歓声に沸く会場へお辞儀をした。

***

そうして式典は無事に終わり…―
招待客の見送りが終わると、ホールには私とルイの2人きりになった。

(ルイが隣にいてくれたから、式典も上手くいったと思う)

そう思いお礼を伝えようとすると、それより早くルイが告げる。
ルイ:沐沐
ルイ:この後、一緒に来てもらいたい所がある

(来てもらいたい所…?)

突然のルイの誘いに、首を傾げていると、そっと手を取られ…
ルイ:着いてきて

***

そう言うルイに手を引かれホールを後にして…―
着替えを済ませた私たちが向かったのは、城下を見渡せる高台だった。
ルイ:改めて、沐沐と見ておきたくて
ルイ:…ウィスタリアの景色を

(あ…)

街を見つめるルイの横顔は、
演奏前の挨拶の時にも見せた、国王としての威厳が感じられた。

(…ルイも今日の式典で思ったのかもしれない)
(皆の笑顔を、守りたいって)

私もルイの隣に立ち、街の姿を見つめながら、そっと呟く。
沐沐:私たちも、多くの人を笑顔に出来る、
沐沐:ジンクスの2人みたいな国王と王妃になれているかな…?
ルイ:うん、きっと…今日少しでも近付けたんじゃないかな
式典の最中に見た、城下の人々の嬉しげな笑顔を思い返す。
そして同時に、ルイの優しい笑顔も思い出され、頬が緩んだ。

(やっぱり…笑顔って素敵だな)

そんなことを思っていると、不意にルイが私の顔を覗き込んでくる。
ルイ:嬉しそう
沐沐:うん。演奏だけじゃなく…
沐沐:城下の人々も…それにルイも笑顔になってくれたのが嬉しくて
沐沐:今日をルイと一緒に迎えることが出来て良かった
沐沐:だから…本当に、ありがとう
そう告げると、驚いたようだったルイの目元がうっすらと赤く染まった。
そして、ぽつりと呟く。
ルイ:笑顔を引き出したのは…沐沐だよ
沐沐:え?
ルイ:…沐沐の笑顔には、周りも自然に笑顔にする力があると思う
思いがけない言葉に、今度は私が目を丸くした。
沐沐:そうかな?
ルイ:うん、不思議だけど…沐沐が笑っていると嬉しくなるから

(…そう言われると、照れてしまう)

私は熱くなる頬を誤魔化すように、冗談めかして言葉を返す。
沐沐:なんだか、魔法みたいだね
ルイ:うん…俺はその魔法にずっとかかってる
ルイはそう言うと、私の頬をそっと両手で包み込み、
触れるだけの優しい口づけが落ちた。
沐沐:…ん
小さく胸が高鳴るのを聞いていると、ルイが柔らかな表情で囁く。
ルイ:笑顔が増えたって言われるのは…
ルイ:沐沐が1番近くで笑ってくれているから

(……!)

間近で見つめてくるルイに、鼓動が速くなっていく。
ルイ:これからもずっと、
ルイ:沐沐も、城下の人々も笑顔でいられるようにする
温かく、決意のこもった声でそう告げられて、
ルイの端正な顔立ちが、吐息の触れそうな距離まで近づき…―
ルイ:…愛してるよ沐沐
囁くように贈られた言葉に、胸が甘く締め付けられた。
沐沐:私も…ずっと愛してる
確かな決意を胸に、ルイへ微笑みかけると、ルイもふわりと微笑んだ。

(お互いがお互いの笑顔を引き出して、)
(それが人々にも伝わっていく…)
(これからもずっと、そんな国王と王妃でいられるようにしたい)

そうして、再び温かな感触が唇に触れ、
胸が切なくなるほど優しい口づけに応えるように、
私はルイの背中へそっと腕を回した…―


fin.

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エピローグ

路易後

ルイと無事に式典を終えたあなたに贈るのは…
1年経っても変わらない、甘い夜…―
ルイ:触れてもいい? …それとも嫌?
ルイにいたずらっぽい瞳を向けられ、鼓動を高鳴らせながら頷くと…
ルイ:可愛い
ルイ:そんな風に言われたら…我慢できない
素肌を滑る指先に、身体が熱を帯びていき…―
ルイとのとろけるような夜を、過ごしてみませんか…?

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()