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劇情活動-Wistaria Ceremony~国王と王妃の秘密のジンクス~(ゼノ)

傑諾標

これは王妃になったあなたに贈るロイヤルストーリー…―
幸せな道を歩むあなたと彼に告げられた、
国王と王妃の秘密のジンクス…
………
……
ゼノ:このジンクスの示す大切なものとは、家族なのだろう
ゼノ:お前がいなければ、その意味に気付かなかったかもしれないな
………
……
夢を叶えた先にある、
新たな物語の1ページが、今始まる…―

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プロローグ:

春らしい柔らかな風が吹く、ある晴れた日のこと…―
私はロベールさんのアトリエを訪れていた。
向かい合うようにしてじっと座っていると、
キャンバスから顔をあげたロベールさんが、にこやかに声をかける。
ロベール:そろそろ休憩にしますか?
沐沐:いっいえ…まだ大丈夫です
ロベール:では、続けますね。王妃様

(やっぱりこうした改まった話し方をされると…)

絵筆を持って再びキャンバスに向かおうとするロベールさんへ、
私は、おずおずと声をかけた。
沐沐:あの…やっぱりいつも通りにしませんか?
すると、わずかに瞳を瞬かせた後、ロベールさんはふっと笑う。
ロベール:そう? 王妃様らしく沐沐ちゃんに接した方が、
ロベール:絵にも気品や威厳が表れると思ったんだけどね
そう言って楽しそうに笑うロベールさんにさえ、
どこかくすぐったさを感じてしまう。

(王妃って呼ばれるのは、まだ慣れないな)

プリンセスから王妃となってもうすぐ1年が経とうとしていた。
今までよりも責任は重くなり、気を配ることも多くなったものの、
国王となった彼と歩んだ1年は、とても充実していたと感じる。
ロベール:まさか王妃様となった沐沐ちゃんの絵を描けるなんて
ロベール:本当に嬉しいよ
沐沐:私もロベールさんに描いて頂けて嬉しいです
ロベール:式典、楽しみだね
沐沐:はい
今日描いてもらっている肖像画は、
国王と王妃の即位1周年式典に飾るためのものだった。
キャンバスを見ながらロベールさんは優しく微笑む。
ロベール:そういえば、式典ではジンクスがあったよね
沐沐:はい。国の繁栄と幸せを願ったものだそうですが…
沐沐:どういったものなのか、私はまだ聞いていないんです

(どんな決まりなんだろう…)

そう思っていると、ふいにノックの音が部屋に響いた。
ロベール:どうぞ
ロベールさんが声をかけると、扉が開き入ってきたのは…―


どの彼と物語を過ごす?
>>>ゼノ

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第一話:

ふいにノックの音が部屋に響いた。
ロベール:どうぞ
ロベールさんが声をかけると、扉が開き…―
入ってきた姿に私は目を見開いた。
ゼノ:………
沐沐:ゼノ様…もうこちらにいらしていたのですか?
ゼノ:ああ、公務が早く終わった分、少し出発を早めた
沐沐:そうだったんですか、お迎えできなくてすみません
ゼノ:いや、構わない
ゼノ:先にエマの顔を見てきたが、子どもの成長は早いな
ゼノ様の顔に柔らかな笑顔が浮かぶ。

(エマのことを話す時のゼノ様、すごく優しい顔をされるな…)

婚姻式後、私はゼノ様との間に女の子を授かり、
安定するまでの間、ウィスタリアに留まり公務を行なっていた。

(シュタインで暮らすゼノ様には、)
(少し寂しい思いをさせてしまっているかもしれない)

けれど、それは私も同じで…

(久しぶりにお会い出来て嬉しい)

ゼノ:中断させてすまない
ゼノ様が促すと、ロベールさんがふっと笑って膝に手を置く。
ロベール:いや、大丈夫
ゼノ:式典当日に間に合いそうか?
ロベール:それも問題ない。絵は完成したらシュタインに送るよ
ゼノ:ああ
くすっと笑ったロベールさんが、私にちらりと視線を投げる。
ロベール:ちょうどゼノも来たことだし、さっきの話聞いてみたら?
ゼノ:さっきの話とは…?
沐沐:今ちょうど式典の話をしていたのですが、
沐沐:式典のジンクスがどのようなものなのか、ゼノ様はご存知ですか?
ゼノ:そのことか

(あれ)

頷くゼノ様の瞳が一瞬だけ揺らいだように見えた。

(ゼノ様…?)

けれどゼノ様は淡々と口を開く。
ゼノ:それぞれの両親にゆかりのある物を身につけて式典に出るというものだ
沐沐:ゆかりのある物ですか?
ゼノ:ああ、自然と両親が大切にしていた物、ということになるだろうが…

(大切にしていた物…)

沐沐:素敵なジンクスですね
ふわりと微笑むと、ゼノ様も優しい眼差しで頷いてくれる。

(そういえば、母がいつも身につけていた指輪があったはず)

沐沐:私の方は、シュタインに戻る前に探してみます
ゼノ:ああ
すると、話を聞いていたロベールさんがにこやかに声をかけた。
ロベール:それじゃあ、ジンクスも分かったことだし、
ロベール:早速準備した方が良さそうだね
沐沐:ですが、絵の方は…
戸惑いながらそう言うと、ロベールさんは優しく微笑んだ。
ロベール:構図は取れたから平気だよ

(ロベールさんがそう言ってくれるなら…)

沐沐:ありがとうございます
そうして、椅子から立ち上がろうとした時…

(あっ)

立ち上がろうとしたその時、
ドレスの裾が引っかかり、よろけてしまうと…
ゼノ:大丈夫か
ゼノ様が片手で腰を抱き寄せ、
もう一方の手でドレスを踏んでいた椅子を遠ざけてくれる。
沐沐:あ、ありがとうございます…
急に近づいた距離に頬を火照らせて、お礼を言うと
ゼノ様がふっと微笑む。

(さり気ないことだけど…)

変わらない優しい気遣いに、胸が温かくなった。
沐沐:ロベールさんも、どうもありがとうございました
ロベール:うん、またね
私はゼノ様に手を取られ、そのままアトリエを後にした。

***

沐沐:ゼノ様…あの…

(さっき支えられてから、このまま…)

腰に回されたままの腕をちらりと見ると、ゼノ様がふっと笑う。
ゼノ:王妃になってもお前は変わらないな
二人きりになったせいか、ゼノ様の口調が甘さを帯びて響いた。
ゼノ:だがそろそろ慣れてはどうだ?
私の腰を抱く腕に力がこもり、ぐっと柱の陰に引き寄せられる。
唇が触れるほど近くに距離が詰まり、息をのんだ。

(慣れるなんて…きっとできない)

ゼノ様に触れられる時に感じる胸のときめきは、
きっとこれからも変わらない。
沐沐:…このままではいけませんか?
きっと赤く染まっている顔をそっと上げた。
ゼノ:慣れるつもりはないと?
少し意地悪な口調で、ゼノ様が聞く。
沐沐:私の意思とは関係なくこうなってしまって…
沐沐:自分ではどうすることもできないんです
恥じらいながらも素直な気持ちを口にすると、
ゼノ様はふっと笑みをこぼした。
ゼノ:相変わらず、お前は俺を煽るのが上手い。…いや、
頬を撫でられ、唇にゼノ様の親指がそっと触れる。
ゼノ:出逢った頃よりもずっと上手くなった
熱を帯びた私の頬にゼノ様の吐息がかかり…―
唇がゆっくりと重ねられる。
沐沐:……ん

(ゼノ様も出逢った頃から何も変わらない)
(けれど、1つだけ…―)
(こうして触れてくださることが多くなった気がする)

ドキドキしてしまうけれど、それ以上に嬉しくもあった。

(何気ない時間でも一緒にいるだけで特別に感じる)
(こういう時、ゼノ様と夫婦になれたんだと改めて思う)

ゼノ:……
唇が離れ、顔を見合わせて微笑み合うと…
私はゼノ様にそっと寄り添って廊下を歩いていった。

***

翌日、ジンクスに必要な物を揃えた後…―
私は式典準備で忙しくなってしまうため、娘のエマを城の乳母に預け、
ゼノ様とシュタインへ向かっていた。
窓の外を見つめていたゼノ様が、ふいに私の方へ視線を向ける。
ゼノ:ジンクスにまつわるものは見つかったか?
沐沐:はい
にこりと微笑んで答えると、ゼノ様がわずかに視線を伏せた。
ゼノ:………
沐沐:どうかしたのですか?
何かいつもとは違う雰囲気がして尋ねると、
ゼノ様は眉を寄せながら口を開く。
ゼノ:昨日は言わなかったが
ゼノ:式典のジンクスには、1つ問題がある

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第二話:

ゼノ:式典のジンクスには、1つ問題がある
沐沐:え…?
ぽつりと呟かれた声は微かに寂しさが滲んでいて、
私は息をのんでゼノ様の言葉を待つ。
ゼノ:両親にゆかりあるものが、まだ見つかっていない
ゼノ様は、既に両親が亡くなっていること、
生前、ジェラルド様との交流を絶っていたことを改めて語った。
ゼノ:城にあるジェラルドの物が、少ないせいもあるが…
ゼノ:だから大切な物と言われても見当がつかなくてな
淡々とした口調の中に感じる虚しい気持ちに、胸が締めつけられる。

(ゼノ様はそのことを思い悩んで…だからあの時……)

〝沐沐:今ちょうど式典の話をしていたんですが、〞
〝沐沐:式典のジンクスとはどんなものなんですか?〞
〝ゼノ:そのことか〞

(一瞬、ゼノ様の瞳が揺らいだように見えたのは…そのせいだったんだ)

ゼノ:だがまだ日もある。あまり心配はするな
安心させるように、ゼノ様の表情がふっと柔らかくなった。

(そうは仰るけれど、やっぱり…)

沐沐:私でよければ、ゆかりのある物を一緒に探します
ゼノ:だが、式典の準備も忙しいだろう
沐沐:それでも予定の合間にお手伝いさせてください
真っ直ぐに見つめると、ゼノ様の目元がふっと嬉しそうに和らぐ。
ゼノ:探す時は、頼むとしよう
沐沐:はい
私はゼノ様に大きく頷いた。

***

シュタイン城に着くと…―
ユーリ:沐沐様、おかえりなさい
アルバート:ゼノ様、王妃様、おかえりなさいませ
沐沐:ただいま
迎えてくれた二人に笑顔を向けると、
ユーリは嬉しそうに目を輝かせる。
ユーリ:沐沐様、久しぶり!
アルバート:里帰りはいかがでしたか?
沐沐:ゆっくりさせてもらいました。二人共ありがとう
廊下を歩きながらアルバートが眼鏡を上げる。
アルバート:お疲れでないようでしたら、
アルバート:早速、式典の準備の話を進めたいと思うのですが
ユーリ:もー着いたばっかりなのに、
ユーリ:アルってほんと公務のことしか見えてないよね
アルバート:貴様が公務以外のことを考えすぎなだけだ

(二人とも相変わらず仲が良さそうだな)

数か月ぶりに戻ってきた城内の変わらない様子に頬を緩めると、
ゼノ様も目を細める。
ゼノ:そうだな。お前たちにも話しておきたいことがある
そうしてゼノ様の後について執務室へと入ると…―

***

ユーリ:ゼノ様から俺たちに話?
アルバート:なんでしょう…?
ゼノ様は二人にも、
さっき私にした式典のジンクスの話とゼノ様の抱える問題を話した。
ゼノ:ジェラルドのことを知ろうとしなかったために、
ゼノ:今、分かることが少ない。…協力してくれるか
真っ直ぐに二人を見つめ、そう言うゼノ様に、
ユーリもアルバートも大きく頷く。
アルバート:もちろんです
ユーリ:任せてください
沐沐:私も出来るだけお手伝いしますね
すると、アルバートは眼鏡をくいと上げて小さく咳払いをした。
アルバート:いえ、あなたはご自分の準備を優先してください
ユーリ:式典の作法とか覚えることがいっぱいだし、
ユーリ:任せてよ沐沐様!

(確かに、今から覚えなくてはいけないことが沢山あるけれど…)

二人に言われ、ゼノ様の方へ視線をめぐらせると、
優しい眼差しで微笑み返される。
ゼノ:お前は式典に集中したほうが良さそうだ
ゼノ:気持ちは嬉しかった。礼を言う
沐沐:ゼノ様…

(…私も力になりたいけれど、)
(まずは、自分自身のことを頑張らないと)

沐沐:分かりました。では、よろしくお願いします
そう告げると、ユーリとアルバートは頼もしく頷いた。

***

その夜…―
王妃としての式典の作法を確認し部屋へと戻った私は、
昼間のことが気になってしまい、
思わず先に戻っていたゼノ様に尋ねた。
沐沐:ゆかりのある物の手がかりは見つかりましたか?
ゼノ:まだだが…
ゼノ様は苦笑しながら言葉を切り、ベッドの上で私を引き寄せ…―
ゼノ様に抱き寄せられ、優しく髪を撫でられる。
ゼノ:お前は何も心配しなくていい
ゼノ:それよりも、お前たちを巻き込んでしまって悪かった
自分を責めるような言葉に、私は首を横に振る。
沐沐:そんなことは決してありません
沐沐:式典のために必要なものですが…
沐沐:私はゼノ様のためにも見つかることを願っています
ゼノ:俺のため…?
沐沐:はい、その品物にはきっと、
沐沐:ゼノ様とご両親の思い出が詰まっていると思うんです
沐沐:だから、見つかるといいなと…
静かに私を見つめていたゼノ様の表情がふっと和らぐ。
ゼノ:…そうだな
腕を引き寄せられて、仰向けになるゼノ様の身体の上に乗せられる。
沐沐:ゼノ様…?
そのままゼノ様は戸惑う私へ、そっと顔を近づけて…―
唇を重ねる。
ゼノ:愛されていると感じた…ただそれだけだ
そう言って微笑んだゼノ様は、今度は私の額に口づけを落とした。
優しい感触に、胸の奥がきゅっと甘く締めつけられる。

(私も、ゼノ様に愛されていると感じる…)

ゼノ:式典にはまだ時間がある。きっと見つかるだろう
沐沐:そうですね
久しぶりに一緒に眠るベッドの上で、私たちは微笑みあった。

***

それから、あっという間に式典前日となり…―
明日の準備をしていたところに、ユーリが顔を覗かせた。
ユーリ:式典の準備は順調?
沐沐:うん。当日、身につける物もちゃんと用意してあるよ
そばにあったチェストを開き、母の指輪を見せると
ユーリがこちらに近付きながら、嬉しそうに目を細める。
ユーリ:楽しみだなー。あっ、今回は絶対泣かないからね
悪戯っぽく言われ、つい小さく笑ってしまう。

〝ユーリ:うう……〞
〝アルバート:嗚咽をもらすな〞
〝ユーリ:だって…本当に嬉しくて〞
〝ユーリ:アルも泣いてるじゃん〞
〝アルバート:…黙れ〞
〝ゼノ:…アルとユーリは泣いてるのか〞
〝沐沐:みたいですね〞

(婚姻式の時のことを思い出すな…)

ユーリ:そんなに笑わないでよ、沐沐様
沐沐:ごめんね
苦笑しながら、鏡に向き直ると、
ユーリは私の手にしていた指輪を見つめる。
ユーリ:綺麗だね
沐沐:ありがとう

(あれ、なんだか…)

鏡に映ったユーリの顔は浮かないように見える。

(もしかして…)

沐沐:ユーリ、ジェラルド様の大切にされていた物は…
ユーリ:ごめん…まだ見つからなくて
沐沐:ううん、まだ時間はあるしきっと大丈夫だよ
励ますようにそう言うと、ユーリは小さくため息をつく。
ユーリ:残ってる品が少なすぎておかしいくらいなんだよね
ユーリ:もう探してない部屋はないんだけど
沐沐:そう…
その時、ふいに胸にゼノ様と歩んできた日々が思い返される。

(今までゼノ様に助けて頂いてばかりだったけれど…)
(やっぱり私も…ゼノ様の力になりたい)

改めて抱いた決意を胸に、私は手にしていた指輪を見つめた。

***

その夜…―
私はゼノ様と隣り合って、庭のベンチへと腰かける。

(ゼノ様はいつも通りに見えるけれど、)
(ジェラルド様の大切な物が見つかっていないことを、)
(きっと気にしていらっしゃるんじゃないかな…)

少しでもゼノ様の気が紛れるならと、
ゼノ様を誘って、庭で星を一緒に眺めていた。
ゼノ:お前と見ているせいか美しく見えるな
沐沐:そんな…でも、本当に綺麗です…

(ジンクスに必要なものを見つけられていないことを、)
(ゼノ様は私には何も仰らない。だけど…)

星空を見上げるゼノ様の横顔を見つめ、決意をそっと口にする。
沐沐:ゼノ様、ジェラルド様にゆかりのあるものが、
沐沐:まだ見つかっていないと聞きました
ゼノ:……
沐沐:私にも探させてください
沐沐:…ゼノ様の家族として
ゼノ:沐沐…
わずかに瞳を瞬かせたゼノ様の視線が私へと降りてきて、
ゆっくりと唇に優しい笑みが浮かぶ。
ゼノ:…頼んでもいいだろうか
沐沐:はい…!
ゼノ:頼りにしている
ゼノ様と微笑み合い、また星を見上げようとした時…

(あれ……?)

沐沐:あんなところに部屋が…?
ゼノ様の執務室と、その下の階の間に小さな窓があるのに気づく。

(執務室にあんな窓はないはず…)

その時、ユーリの言っていた言葉を思い出す。

〝ユーリ:残ってる品が少なすぎておかしいくらいなんだよね〞
〝ユーリ:もう探してない部屋はないんだけど〞

(もしかして、まだ探されていない部屋が…?)

私の様子に気づいたゼノ様も、目を細め城の方を見つめる。
ゼノ:……
顔を見合わせると、ゼノ様が小さく頷いた。
ゼノ:調べてみる必要がありそうだな

***

外から見つけた部屋の場所を探ると、
執務室の書棚の後ろに扉を見つけ…―
中に入ったゼノ様と私は、息をのんだ。
沐沐:ここは…

傑諾分

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第三話-スウィート(Sweet END):

中に入ったゼノ様と私は、息をのんだ。
沐沐:ここは…
数々の調度品が並べられた部屋を見渡すと、
ぽつりと低い声が静かな部屋に響く。
ゼノ:ジェラルドの隠し部屋のようだな

(え?)

ゼノ:愛用していたチェス盤がある
チェストの上に置かれたチェス盤を指さし、ゼノ様は部屋を見渡した。
ゼノ:……
そうしてゼノ様は無言のまま、
引き寄せられるように大きな木のテーブルに近づいていく。
そうして、その上に置いてあった物を手にとった。

(ブローチ…?)

首を傾げていると、ゼノ様が静かに語りだす。
ゼノ:1度だけ、ジェラルドに贈り物をした覚えがある
ゼノ様と同じように手のひらに視線を落とし、
銀でできた金具に磨かれた白い石がはめ込まれた、
おもちゃのブローチを見つめる。
沐沐:ではそれは…ゼノ様がジェラルド様へ差し上げたものなんですね
ゼノ:ああ…見覚えがある
ブローチを見つめるゼノ様の瞳が懐かしそうに細められる。
ゼノ:まだ幼い頃、誕生日に贈ったものだ
ゼノ:今まで、その存在も忘れていたが
ゼノ:こんなところに置いてあるとは…

(こんなところとゼノ様は仰るけれど…)

私には何か違うような気がして、じっとブローチを見つめていると…
ゼノ:どうした
考えこむ私を、ゼノ様が少し不思議そうにのぞき込む。
沐沐:ゼノ様はこの部屋に入った瞬間に、
沐沐:そのブローチに気づかれたんですよね
沐沐:…きっと、ジェラルド様も同じだったんじゃないでしょうか?
ゼノ:どういうことだ
沐沐:入った時目にとまる場所に置くほど、
沐沐:大切になさっていたんだと思います
きっとジェラルド様がシュタイン城にいない今、
この部屋には誰も足を踏み入れていない。
ブローチに降り積もった埃が、その年月を物語っていた。

(誰も知らない隠し部屋…でも、)
(本当は家族の思い出の詰まった部屋なんだと思う)

私はゼノ様の手の中にあるブローチの埃をそっと指先で払う。
沐沐:綺麗な色…
ゼノ:ああ、白は母が好きだった色だ
そう告げながら、ゼノ様の目がわずかに見開かれる。
ゼノ:…もう一つ、思い出したことがある
ぽつりと記憶をたどるように話し出すゼノ様の声に耳を傾ける。
ゼノ:ブローチはどうかと言ったのは母だった
ジェラルド様に身に付けてもらえるものを贈りたいと言って、
お母様に相談した時のことをゼノ様は静かに語った。
沐沐:白を選んだのは、お母様への気持ちもあったんですね
ゼノ:ああ
沐沐:素敵なものが見つかって良かったですね
頷くゼノ様へ微笑みかけると、
ゼノ様が私の腰をぐっと引き寄せて抱きしめる。
沐沐:ゼノ様…っ?
慌てて言うと、ゼノ様は笑みを深める。
ゼノ:お前のおかげで見つかったからな
ゼノ:礼をさせてくれるか
瞳を覗き込まれ、甘い口調で聞かれれば拒むことなんてできない。

(ゼノ様…嬉しそう)
(ゼノ様にとって、ジェラルド様との思い出もこのブローチも…)
(どちらも本当に大切な物だからだろうな)

ゼノ様の熱を帯びた眼差しを見つめ返し、そっと頷く。
沐沐:…はい
背中に回された腕に力がこもり、
見つめ合っていた顔が近づいて…―
沐沐:……ん
顎をすくい上げられ、触れるだけの優しい口づけが落ちる。
ゼノ:……ありがとう、沐沐
ブローチを手に握るゼノ様はいつもより感情的に、私を抱きしめる。
沐沐:…いえ、見つかって本当に良かったです
ぎゅっと私もゼノ様の背中を抱きしめると、
耳元にため息まじりの声が響いた。
ゼノ:…以前もこういったことがあったな

(あ…)

〝ゼノ:不思議だな…やはり父親だ〞
〝ゼノ:…少しだけ、こうさせてくれ〞
〝沐沐:はい…〞
〝沐沐:ずっと、こうしていますから〞

ゼノ:お前には支えられることが多いな
沐沐:いえ、そんな…

(私の方こそ、ゼノ様に助けて頂いてばかりなのに…)

ゼノ:…これからも、お前と共に生きていきたいと強く思う
ゼノ:ついてきてくれるか
ゼノ様の真っ直ぐな想いが、胸にじんと広がっていく。
沐沐:はい…ずっと離れません
そう告げると、わずかに腕が緩み、顔にそっと影が落ちた。
沐沐:んっ……
熱を帯びた口づけが、再び私の唇を塞いでいく。

(ゼノ様の大切な思い出が、見つかって良かった)

交わる熱に、私の胸は甘く高鳴っていった…―

***

翌日…―
ゼノ様と私は、部屋で式典の準備をしていた。
ゼノ:そろそろ始まる時間だな

(あれ…?)

歩み寄るゼノ様の胸元を見ると、まだブローチがつけられていない。
首を傾げていると、ゼノ様は私にブローチを差し出して…―
ゼノ:お前がつけてくれるか
真剣な眼差しに、胸の高鳴りを感じる。

(ゼノ様がそう仰ってくださるなら)

沐沐:…はい
私はドキドキしながら、ブローチをゼノ様の胸に付けた。
沐沐:よくお似合いです
ゼノ:そうか
そうして微笑み合い、差し出された手に、手を重ねて…―
式典の時間となり、バルコニーから出ると、
私たちを大きな歓声と拍手が包み込んだ。

(こんなに沢山の人が…)

国民の前で、ゼノ様と共に手を振る。
目の前に広がる光景に、ゼノ様は目を細めていた。
ゼノ:シュタインを、この国に住む国民を、
ゼノ:俺は何よりも大切に思う。そして…
ゼノ様が優しい眼差しで私を見つめる。
ゼノ:お前とエマのことも、一生幸せにすると誓う
ゼノ様と見つめ合い、触れるだけの優しい口づけが落ちると、
一際大きい歓声に包まれる。

(ジェラルド様はゼノ様が初めて贈ったものを、)
(きっと大切にされていたんだろうな…)

そっと唇が離れ、
間近に迫ったゼノ様を見つめながら、改めてジンクスのことを思う。

(もしかしたら、このジンクスは、)
(家族の大切な想いも受け継ぐためのものなのかもしれないな)

沐沐:今日、改めて思ったことがあります
ゼノ:……
優しい眼差しで促してくれるゼノ様へ想いを告げる。
沐沐:今まで以上に、この国とウィスタリアを大切にしていきます
沐沐:王妃として…そしてゼノ様の家族として

(ジェラルド様が、きっと家族を大切にしていたように)

すると、ゼノ様はわずかに瞳を瞬かせた後、
表情を和らげて、しっかりと頷いた。
ゼノ:ああ
そうして青空の下、いつまでも鳴りやまない祝福の拍手を聞きながら、
私たちは手を取り合った…―


fin.

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第三話-プレミア(Premiere END):

中に入ったゼノ様と私は、息をのんだ。
沐沐:ここは…
数々の調度品が並べられた部屋を見渡すと、
ぽつりと低い声が静かな部屋に響く。
ゼノ:ジェラルドの隠し部屋のようだな

(え?)

ゼノ:愛用していたチェス盤がある
チェストの上に置かれたチェス盤を指さし、ゼノ様は部屋を見渡した。
ゼノ:………
ゼノ様は無言のまま、迷いなく大きな木のテーブルに近づき、
一冊のスケッチブックを手に取った。
沐沐:それは…

(普通のスケッチブックのように見えるけれど、)
(これがどうかしたのかな)

ゼノ様が手に取った瞬間、
ちらりと文字のようなものが書かれているのに気づく。
沐沐:裏に名前のようなものがありますが…
スケッチブックを裏に返したゼノ様が目を見開く。
ゼノ:やはり…ロベールのものだ
沐沐:えっ
ロベールさんの名前を見せたゼノ様が、
スケッチブックの紐を解いて中をそっとめくると…
ゼノ:この絵だったのか
こみ上げる感情を抑えるような声で、ゼノ様は呟く。
そこには、幼い日のゼノ様が描かれていた。

(まだ眼帯で顔を隠していない頃の…)

描かれた少年の瞳は強い意志を秘めているけれど、
どこかあどけなさが残っている。
ゼノ:この絵は、ジェラルドがロベールに言って描かせた、
ゼノ:初めての肖像画のラフスケッチだ

(肖像画……)

その言葉に、私はゼノ様から聞いた過去を思い返す。

(でもゼノ様の肖像画は一つもないはずじゃ…)

沐沐:この絵は完成したんですか?
ゼノ:ああ、だがお前も知るように俺の肖像画は今は残っていない

(じゃあ、この絵は隠し部屋にあったから残っていたんだ…)

ゼノ:だが何故これが…
不思議そうに目を細めるゼノ様に、私はそっと微笑んだ。

(近くにいるとわからなくなるものなのかもしれない…)

沐沐:きっと…ジェラルド様の大切なものだったからではないでしょうか?
そう告げると、ゼノ様はじっとスケッチに視線を伏せた。

(息子であるゼノ様との思い出を、)
(きっと大切になさっていたんだと思う)

やがて、ゼノ様の唇に笑みが浮かぶ。
ゼノ:…大切な物、か
沐沐:はい…
微笑みながら頷くと、ゼノ様はわずかに眉を寄せた。
ゼノ:だが、これでは身にまとうことは出来ないな
沐沐:あっ…そうですね
ゼノ様と顔を見合わせたその時、私の胸にあることが浮かぶ。

(そうだ)

沐沐:ゼノ様、1つ提案があるのですが…―

***

翌日…―
ゼノ様と私は、部屋で式典の準備をしていた。
母の指輪をはめて振り返ると…
ゼノ:そろそろ始まる時間だな
ゼノ様が歩み寄り、私の目の前に立つ。
真っ直ぐに向けられた左目に、私が映し出されて…―
ゼノ:お前が外すといい
その言葉に、私は昨日のことを思い出す。

〝沐沐:ゼノ様、1つ提案があるのですが…―〞
〝ゼノ:ああ〞〞
〝先を促され、スケッチブックを持つゼノ様の手に、自分の手を重ねる。〞
〝沐沐:この絵のような姿で、明日の式典に出るのはどうでしょうか?〞
〝ゼノ:……〞
〝私の言葉を聞いて小さく首を傾げていたゼノ様は、〞
〝すぐに思い至ったように眼帯に触れた。〞
〝ゼノ:そういうことか〞
〝沐沐:はい。眼帯を外してシュタインの国民の前に出るのはどうかと〞
〝ゼノ:……〞
〝ゼノ様は口をつぐんで、少し眉を寄せた。〞

〝(二人きりの時は外してくださることもあるけれど、)〞
〝(公の場で外すことには、抵抗があるのかもしれない)〞

〝ゼノ様が眼帯をしている理由を思えば、迷うのも当然だと感じる。〞

〝(でも…)〞

〝私はさらに言葉を続けた。〞
〝沐沐:もうゼノ様を恐ろしく思う国民はいません〞

〝(この一年…ううん、それよりもっと前から、)〞
〝(ゼノ様の優しさは、多くの人に伝わっていると思う)〞

〝沐沐:それにジェラルド様の大切にしていたものがゼノ様自身なら…〞
〝沐沐:素顔で式典に臨むことが、〞
〝沐沐:ジンクスを叶えることになるのではないでしょうか〞
〝ゼノ:……〞
〝ゼノ様は私の言葉に静かに頷いた。〞

沐沐:私が外してもいいのですか?
ゼノ:ああ
ゆっくりとゼノ様が頷く。
ゼノ:お前とこのシュタイン、ウィスタリアの両国を治めて1年が経つ
ゼノ:もう、この顔を見て過去に囚われることはない
そっと私の手がすくい上げられ、ゼノ様の手の中でぎゅっと握られると、
不思議とゼノ様の想いも伝わってくるようだった。
ゼノ:お前の手で外してもらいたい
真剣な眼差しに、鼓動が跳ねる。
沐沐:…分かりました
しっかりと頷くと、
ゼノ様は私の手を握ったまま、眼帯の上へと導いた。
ゼノ:………
眼帯を取り去ると、
伏せられたまつ毛が上げられ澄んだ瞳が私を射抜く。
沐沐:素顔のゼノ様も素敵です…
ゼノ:……
ゼノ様は微笑み、私の手をそっと引き…―

***

バルコニーに出ると、
柔らかい陽射しに照らされたシュタインの街が見える。
城にはたくさんの国民がお祝いに押し寄せていた。

(こんなに大勢の人たちにお祝いしてもらえるなんて…)

胸がいっぱいになりながらその光景を眺めていると、
ゼノ様が静かに前に進み出て…
ゼノ:………
一瞬、静まった人々の中から大きな歓声と拍手が鳴り響く。
ゼノ:どうやら、素顔を見せても混乱はないようだな
優しくゼノ様が微笑む。
沐沐:はい
いつまでも止まない歓声に私も多くの人々へ手を振っていると…
沐沐:あっ…
ふいに抱き寄せられて、ゼノ様の胸に手を添える。
ゼノ:このジンクスの示す大切なものとは、家族なのだろう
ゼノ:お前がいなければ、その意味に気付かなかったかもしれないな
囁きをこぼしたゼノ様は、そうして私の唇をそっと塞いだ…―

***

式典が終わったその夜…―
鏡台の前で髪をといていると、ふいに後ろから抱きしめられた。
ゼノ:沐沐
沐沐:っ……
髪をまとめあげ、あらわになった首筋にゼノ様の唇が触れ、
甘い痺れが駆け抜けて、こぼれそうになった声を堪える。
沐沐:あっ…
耳に唇が触れ、そっと縁をなぞられると、
思わず、私は後ろから回されたゼノ様の腕にしがみついた。
沐沐:ゼノ様…?

(なんだかいつもと違う気が…)

すると、ゼノ様は私を強く抱きしめる。
ゼノ:今日の式典で改めて感じた
ゼノ:愛しいと思うものに愛情を注ぐ大切さを
耳元に落ちる囁きに、胸が温かくなる。

(このジンクスを、ゼノ様の家族として、)
(一緒に叶えることが出来て良かった…)

今日までの日々を思い出すだけで嬉しさがこみ上げる。
沐沐:私も同じです
沐沐:こんなに強く、誰かを思う気持ちが自分の中にあるのだと…
沐沐:そう気づかせてくれたのはゼノ様がいたからです
ゼノ:こうして共にいられるというのは幸せなことだな
沐沐:はい…

(それからもう一つ…伝えたい)

ジンクスの示すものが家族だと言ったゼノ様を思い返し、口を開く。
沐沐:その幸せを忘れず、シュタイン、ウィスタリアの両国を守り、
沐沐:そしてゼノ様のことを、家族として支えていきます
私は真っ直ぐにゼノ様を見つめてそう言うと、
ゼノ様が優しく頷いてくれる。
ゼノ:ああ。支え合っていこう
ゼノ:家族として

(ゼノ様…)

改めてそう言われ、胸がいっぱいになっていると、
ゼノ様が私を横抱きにして抱き上げ…―
ゼノ:お前に触れたい
真っ直ぐな言葉に大きく鼓動が跳ねる。

(私も…)

沐沐:はい…
ぎゅっと首すじに手を回し、ゼノ様の肩先に顔を埋める。

(こんな幸せな気持ち…ゼノ様がいなければ知らなかった)

ベッドに近づいていくわずかな距離の中、
私の胸はときめきで満たされていった…―


fin.

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エピローグ

傑諾後

ゼノ様と無事に式典を終えたあなたに贈るのは…
1年経っても変わらない、甘い夜…―
ゼノ:問題ない。お前が声を出さなければな
そう言ったゼノ様に、深く吐息を奪うような口づけをされて…
ゼノ:これ以上は、耐えられそうにないな
ゼノ:お前を…心から愛している
素肌を滑る指先に、身体が熱を帯びていき…―
ゼノ様とのとろけるような夜を、過ごしてみませんか…?

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()