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劇情活動-Wistaria Ceremony~国王と王妃の秘密のジンクス~(ジル)

吉爾標

これは王妃になったあなたに贈るロイヤルストーリー…―
幸せな道を歩むあなたと彼に告げられた、
国王と王妃の秘密のジンクス…
………
……
ジル:今日改めて思いました。
ジル:今まで以上に国民に寄り添う国づくりをしていこうと
ジル:これからもついて来て頂けますか?
………
……
夢を叶えた先にある、
新たな物語の1ページが、今始まる…―

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プロローグ:

春らしい柔らかな風が吹く、ある晴れた日のこと…―
私はロベールさんのアトリエを訪れていた。
向かい合うようにしてじっと座っていると、
キャンバスから顔をあげたロベールさんが、にこやかに声をかける。
ロベール:そろそろ休憩にしますか?
吉琳:いっいえ…まだ大丈夫です
ロベール:では、続けますね。王妃様

(やっぱりこうした改まった話し方をされると…)

絵筆を持って再びキャンバスに向かおうとするロベールさんへ、
私は、おずおずと声をかけた。
吉琳:あの…やっぱりいつも通りにしませんか?
すると、わずかに瞳を瞬かせた後、ロベールさんはふっと笑う。
ロベール:そう? 王妃様らしく吉琳ちゃんに接した方が、
ロベール:絵にも気品や威厳が表れると思ったんだけどね
そう言って楽しそうに笑うロベールさんにさえ、
どこかくすぐったさを感じてしまう。

(王妃って呼ばれるのは、まだ慣れないな)

プリンセスから王妃となってもうすぐ1年が経とうとしていた。
今までよりも責任は重くなり、気を配ることも多くなったものの、
国王となった彼と歩んだ1年は、とても充実していたと感じる。
ロベール:まさか王妃様となった吉琳ちゃんの絵を描けるなんて
ロベール:本当に嬉しいよ
吉琳:私もロベールさんに描いて頂けて嬉しいです
ロベール:式典、楽しみだね
吉琳:はい
今日描いてもらっている肖像画は、
国王と王妃の即位1周年式典に飾るためのものだった。
キャンバスを見ながらロベールさんは優しく微笑む。
ロベール:そういえば、式典ではジンクスがあったよね
吉琳:はい。国の繁栄と幸せを願ったものだそうですが…
吉琳:どういったものなのか、私はまだ聞いていないんです

(どんな決まりなんだろう…)

そう思っていると、ふいにノックの音が部屋に響いた。
ロベール:どうぞ
ロベールさんが声をかけると、扉が開き入ってきたのは…―


どの彼と物語を過ごす?
>>>ジル

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第一話:

扉が開くと、ジルが穏やかな顔で姿を現した。
ジル:肖像画は順調ですか?
ロベール:ええ。今日はだいぶ進みました
ロベールさんが絵筆を置いて答えると、
ジルはキャンバスをちらりと見て瞳を柔らかく細めた。
ジル:そのようですね
ジル:絵の中の吉琳も素敵です
吉琳:そ、そんな…
頬を赤く染める私を見て、ジルは楽しそうに笑みをこぼした。
さらりとこぼれる甘い言葉は結婚してから更に多くなり、
その度に私は胸を高鳴らせてしまう。

(恥ずかしいけど、やっぱり幸せだな)

ロベール:そういえばジル様は何か吉琳ちゃんに用があったのでは?
ジル:ええ。式典についてレオも含めて話し合おうと思っていまして

(式典まであと2週間か…)

いよいよ準備が始まると思うと自然と気が引き締まってくる。

(ジルと一緒に良いものにしたい)

ロベール:じゃあ今日はここまでにしようか
ロベール:当日までに完成させるね
吉琳:ありがとうございます
ジル:宜しくお願いします
そうして、アトリエを後にした私たちは執務室へと向かい…

***

執務室に入ると、羊皮紙の束をまとめていたレオが顔を上げた。
レオ:お待ちしてましたよ、陛下、王妃様
レオのからかうような笑顔にくすぐったさを感じつつ、
私は正面に座った。
吉琳:レオも忙しいのにありがとう
レオ:ううん。せっかくの式典だし俺も協力したいからさ
レオ:あ、でも2人っきりが良かったらそう言って
レオ:夫婦の甘いひとときの邪魔はしないから
吉琳:レオっ

(甘いひとときって…)

レオの言葉が冗談だと分かっていても、つい頬が熱くなる。
すると、小さく苦笑をしてからジルが口を開いた。
ジル:吉琳をからかうのはそれぐらいにしてください
ジル:そろそろ本題に入りましょう
軽く咳払いをしたジルに笑みを向けたレオが、
手にしていた羊皮紙を広げ、当日の流れについて話し始めた。
レオ:で、式典自体の通常の流れは今話した通りなんだけど、
レオ:ジンクスをどう叶えるかによっては、今の流れじゃなくなるかもしれない
吉琳:どういうこと?
ジル:式典のジンクスは『国民に喜ばれる催しをすること』なんです
レオ:それについては俺が説明するよ
レオの話によると、城で厳かに行なわれていた式典が、
とある国王と王妃の提案で、国民を第一に考えたものに変え、
それ以降、国が繁栄したのだという。
レオ:だから、即位1周年の節目のお祝いって意味の他に、
レオ:国民の信頼を得る大事な式典という意味もあるんだ
吉琳:そうだったんだ…

(ただお祝いをしてもらうだけじゃなくて、)
(多くの方々に感謝を返して、喜んでもらうということなんだ)

そう思うと、楽しみな気持ちだけでなく、
王妃として出来ることをしっかり取り組みたいという気持ちも湧く。
吉琳:国民に喜ばれる催し…
レオ:なかなか難しいよね
視線を伏せると、隣に座っていたジルが思いついたように口を開く。
ジル:喜ばれるというものなら、
ジル:多くの人々が交流できるようなものが良さそうですね

(人々が交流…)
(あっ)

ジルの言葉にふと、あることを思い出した。
吉琳:それなら…
吉琳:不要になったものを安価で提供しあえる場を設けるのはどうでしょうか
レオ:え?
私の言葉にレオが目を丸くする。
吉琳:サロンで聞いたのですが…
私は、先日サロンに呼ばれた時に、
貴族のご婦人方から聞いた話を説明する。
吉琳:クローゼットに入りきらなくなったドレスを、
吉琳:友人に譲っていると言っていました
ジル:そういえば、視察でお会いした侯爵からも、
ジル:同じようなことを聞きましたね
私の提案にジルが頷く。
ジル:そういった場なら、人々の交流も深まりそうですね
ジル:それに、対価を各地域を活性化するための資金にすれば
ジル:提供して頂く貴族の方々にも還元できるでしょう
具体的な案を出しながらジルが羊皮紙に書きとめていく。

(これが実現できれば式典に来たみんなに喜んでもらえるはず)

吉琳:ありがとうございます
ジルが賛成してくれたことに嬉しくなって微笑むと、
同じようにジルもふっと目元を和らげた。
すると、ふいにレオがくすっと笑みをこぼす。
吉琳:…レオ?
レオ:いや、国民に寄り添う政治をしている2人だから、
レオ:考えついたことだなって思って
レオが暖かな眼差しで私たちを見つめる。
レオ:もしかしたらジンクスの由来になった王と王妃も、
レオ:ジルと吉琳ちゃんみたいな人たちだったのかもね

(そう言ってもらえるのは、嬉しいな)

私はわずかに頬を染めてはにかんだ。
レオ:じゃあ、式典についての案内は俺の方で手配するね

(あ、それなら…)

立ち上がるレオに声をかけようとすると、ジルが先に声をかけた。
ジル:それでしたら、招待状と一緒に手紙も出して頂けますか
ジル:後で協力して頂きたい方々へ書こうと思いますので
ジルの提案に私は瞳を瞬かせる。

(今、同じことを言おうと思ってた)

言葉にしなくても気持ちが繋がっているようで、
私はジルの横顔を見つめながら、胸に広がる温かな気持ちを感じた。

***

その翌日…―
公務を終えた私がワゴンを押して部屋へ入ると、
ジルがクローゼットを整理していた。
吉琳:だいぶ提供できそうですね
自分たちも提供できる物がないか探すことになり、
部屋の中には、衣類や本など様々な品が並べられていた。
ジル:ええ。もうそろそろ整理も終わり…
言いながらこちらへ顔を上げたジルは、
私の持ってきたワゴンを不思議そうに見つめる。
ジル:…それは?
ジルの目線がワゴンの上のコーヒーポットに注がれ、
私はカップを手に、にこりと微笑んだ。
吉琳:そろそろ休憩してはどうかと思ったので
ポットからコーヒーを注ぐと部屋に深みのある香りが広がり、
ジルはわずかに瞳を細めた。
ジル:コーヒー…ですか?
吉琳:はい、メイドさんがたまにはと勧めてくれたんです
吉琳:もちろん冷ましてありますし、お砂糖も2つ入れました
少しぬるめのコーヒーが入ったカップを差し出すと、
ジルは小さく苦笑した。
ジル:さすがですね
結婚してからジルの新たな一面を知る機会も増え、
その度に幸せが増すように思える。

(淹れたてのコーヒーが苦手だって知った時は、少し驚いたけど、)
(そういう部分が見られるのは嬉しいな)

ジル:頂きましょう
ジルがコーヒーカップを手にしてひと口飲んだ。
吉琳:どうですか?
尋ねると、ジルはふうっと息をついた後、静かに微笑む。
ジル:美味しいですよ。貴女も飲んでみては?
カップをこちらへ向けるジルに近付き、受け取ろうとすると…

(えっ)

ひょいっとカップを避けられ、
その代わりに腕を引かれて、広い胸元に飛び込んでしまう
吉琳:ジルっ
慌てて顔を上げると、唇を微かな温もりが掠めた。
ジル:美味しいですが、やはり少し苦味もありますから
ジル:甘いものが欲しくなりました
満足したようにジルが口元を綻ばせる。

(もう…)

まだ跳ねる鼓動を聞きながらも、
コーヒーの香りとは違った甘い空気に私もつい笑みをこぼした。

***

そうして、手紙を出してから3日が過ぎ…―
レオ:以上が今日までに集まった分だよ
ジル:…そうですか
レオの報告にジルは眉を寄せる。
催し物のための品はなかなか思うように集まらず、
私の心には少し焦りが生まれていた。
レオ:安価で国民に提供するっていうより、
レオ:城に寄贈するものだから
レオ:下手なものは出せないって思っているみたいだね
品物リストに目を落とすレオも、晴れない表情をしている。
レオ:残りの日にちでどれだけ集まるか…

(まだ時間はあるけれど…)

もしこのまま集まらなかったらと、悪い予想が頭をよぎる。
レオ:別の形でジンクスを叶えるのも1つの手だと思うよ
レオの提案に私は黙ったまま俯く。

(別の方法を考えたほうが良いのかもしれないけれど…)

〝ジル:式典のジンクスは『国民に喜ばれる催しをすること』なんです〞
〝レオ:即位1周年の節目のお祝いって意味の他に、〞
〝レオ:国民の信頼を得る大事な式典という意味もあるんだ〞

(この案は、今までと違って城下の人々同士が、)
(積極的に交流し合える場を作ることが出来るものだと思う)
(…ウィスタリア中の人々が交流して喜んでもらえる形にしたい)

そう思った、その時…―

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第二話:

(…ウィスタリア中の人々が交流して喜んでもらえる形にしたい)

そう思ったその時、沈黙を破るように静かにジルの声が響いた。
ジル:各地域に回って直接話をしに行きましょう
レオ:直接って…どれだけの人に手紙を送ったかジルが1番知ってるでしょ
ジル:ええ。承知の上で言っています
戸惑う様子のレオをジルは真剣な眼差しで見つめる。
ジル:以前なら代案で進めることを考えたでしょう
ジル:ですが、今回はこの案に全力をかけたいと思います
ジルの確かな想いを感じ、私も大きく頷いた。
吉琳:今はまだ私たちの想いがきちんと伝わってないだけだと思うから、
吉琳:直接話すことで気持ちも伝わると思う

(その想いの溝を埋めていけば、きっと上手くいくはず)

吉琳:もう少しだけ時間をもらえないかな
すると、レオはジルと私を交互に見てから苦笑をこぼした。
レオ:2人にそう言われたら、俺が断れないって知ってるでしょ
レオ:分かった。俺にも出来ることあったら言って
吉琳:ありがとう
ジル:ありがとうございます

***

そうして私とジルは、
翌日から公務と並行して各地域に説得へ回り始め…―

ジル:…というのが今回の式典を思いついた経緯です
目の前に座る侯爵夫人にジルが説明するのに続き、
私も想いを伝える。
吉琳:この式典を人々が交流出来る場にしたいと思っています
吉琳:その場には、豪華な品ではなく気軽に譲りあえる品が多く必要です
吉琳:どうか、お力を貸して頂けませんか
侯爵夫人:……
すると、少しの間をおいてから夫人はふっと微笑んだ。
侯爵夫人:…そういうことでしたら、提供させて頂きます
吉琳:ありがとうございます!
思わず横を向くと、微笑みを浮かべたジルと目が合う。
優しく頷く侯爵夫人に、ジルと2人でお辞儀をした。

***

その後も各地を次々と回っていき…
式典が明後日へと迫ったある夜のこと…―

(今日訪問したところが最後だったけど、)
(沢山集まるといいな…)

そんな想いを抱えて、部屋へ戻ると…

(あれ?)

ソファでジルが、うたた寝をしていた。
もたれかかったまま静かに目を閉じているジルの無防備な姿に、
きゅんと胸が甘く締め付けられる。

(こういう姿も結婚してから沢山見せてくれるようになったな)

小さな喜びを胸に抱いて近付くと、
ジルの手に数本の引っかき傷があるのが目についた。

(ミケランジェロかな…?)

気になってジルの手を取ろうとした瞬間…―

(えっ…)

逆に手を引かれてジルの上に乗り上げるように倒れてしまう。
吉琳:ジルっ
ジル:なかなか側に来てくれなかったので、待ちきれませんでしたよ
からかうような瞳で見上げられてぽっと頬が火照る。
吉琳:いつから起きて…
ジル:貴女が入って来た時、ですね

(じゃあ最初から…)

気恥ずかしさから顔を真っ赤にさせていると、
くすっと笑みをこぼしたジルに腰を抱えられて…―

(わっ…)

横抱きにするようにジルの膝の上に座らされ、
ふーっと息をついてジルが私の身体を抱きしめた。
ジル:やはり貴女が側にいる時が1番落ち着きますね
心地よさそうに呟く声に私の鼓動がさらに速くなっていく。

(少しドキドキするけれど…)

吉琳:私も…です
私は抱きつくように、そっとジルの首に腕を回した。
ジル:珍しいですね、貴女がこうして甘えるのは
吉琳:…何だか今日はジルの側にいたくて

(不安な気持ちが大きいからかな…)
(ジルといると安心する…今は離れたくない)

すると、ジルがふっと笑みをこぼした。
ジル:可愛いことを言いますね
そのままジルの首筋に顔を寄せると、低く優しい声が耳に響いた。
ジル:大丈夫ですよ
吉琳:え?
ジル:品が集まるか、気にしているのでしょう?

(あ…)

気持ちを言い当てられて、小さく頷く。

(沢山の方々とお話して回ったけれど、)
(実際に届くまでは安心出来なくて…)

微かな不安を抑えようとして温もりに頬を寄せると、
ジルが腰をぐっと抱き寄せ、言葉を続けた。
ジル:大丈夫ですよ。貴女の言葉は人を動かすことができます
ジル:その証拠に、あの時多くの人が貴女の言葉で心を動かしました
ジル:もちろん、私もその1人です
ゆっくりと頭を撫でられながら、ひときわ優しい声が耳元に響いた。

(あの時…)

〝吉琳:ジルは、誰かを信じるのは相手によると言っていました〞
〝吉琳:私は…ハルロード侯爵の力に関しては信じても良いと思います〞
〝ジル:…貴女には敵いませんね〞
〝ジル:…今の言葉で、私の気持ちが動きましたよ〞

思い返していると、
ジルはそっと身体を離し、優しく微笑んで言葉を続ける。
ジル:後は信じて待つのみです
ジルの言葉が心強く胸に響く。

(信じれば、きっと変わることもあるはず)

吉琳:はい
真っ直ぐな瞳を見つめ返して、私はジルに力強く頷いた。

***

いよいよ式典前日となり…―
ジル:式典の流れは大丈夫そうですね
ジルと2人で明日の確認をしていると、
扉がノックされ、控え目にメイドさんが入ってきた。
メイド:陛下、王妃様、お荷物が届いております
吉琳:ありがとうございます
立ち上がり、受け取ろうと近付くけれど、
メイドさんは何も手にしていない様子だった。
メイド:お荷物ですが…数が多いためホールにお運びいたしました
吉琳:数が多いって…

(もしかして…)

慌てて振り返りジルを見ると、優しい微笑みが返される。
ジル:見に行きましょう
そうして、ジルと一緒にホールへと向かうと、
数えきれないほどの多くの箱が並んでいた。
吉琳:これ…
メイド:こちらがお荷物と一緒に届いた手紙になります
メイドさんは沢山の手紙の束をジルへ手渡し、
お辞儀をしてホールを後にする。
ジルは封筒を開けて手紙に目を通すと、ふっと笑みをこぼした。
ジル:どうやら私たちの想いが通じたようですね
ジル:読んでみてください
ジルが差し出した手紙には、
品を整理していて時間がかかってしまったことへのお詫びや、
明日の式典を応援する貴族の方々の気持ちが綴られていた。

(良かった…)

私は安堵の息をついて目の前の品を見渡し、
ゆっくりと隣のジルを見上げる。
吉琳:良い式典にしましょうね
ジル:ええ、もちろんです

(きっと明日は、みんなに喜んでもらえる日になると思う)

式典への想いを胸に、私は改めて気持ちを引き締めた。

***

そうして迎えた翌日…―
澄みわたった空の下、広場には大勢のにぎやかな声が響いていた。
ひざ丈の淡い紫色のタイトワンピースと、お揃いの帽子をまとい、
挨拶のため設置された台までジルと一緒に歩いていると…

(わっ…)

提供してもらった品を並べたお店が大通りに立ち並び、
楽しそうに品を眺める人々の風景に、思わず頬が緩んでしまう。
ジル:貴女の提案で式典はより良いものとなったと思います
隣を歩くジルも人々の様子を眺めて満足そうに微笑む。
吉琳:いいえ、ジルが諦めずに皆さんと話そうと言ってくれたお陰です
静かに首を振ってそう返し、ジルと見つめ合って微笑んだ。

(ジルと2人で力を合わせたから、こうして開催できたんだと思う)

胸がいっぱいになるのを感じていると、
ふいにジルの顔が近付き、耳元に唇を寄せて…―

吉爾分岐

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第三話-スウィート(Sweet END):

ふいにジルの顔が近付き、耳元に唇を寄せて…―
ジル:今回のことでまた惚れ直しましたよ
甘い言葉と柔らかな声が耳をくすぐった。
鼓動が甘く震え、ジルを見上げると、間近で優しく微笑まれる。

(それは…私も同じ)

国王としてジンクスについて考えていた表情や、
不安な時に夫として心強く支えてくれたジルの姿を思い返す。

〝ジル:大丈夫ですよ。貴女の言葉は人を動かすことができます〞

(ジルを好きになって本当に良かった)

小さく鼓動を跳ねさせていると、
ジルがくすりと笑みをこぼして私の顔を覗き込む。
ジル:私にも惚れ直して頂けましたか?
吉琳:はい

(ジルへの想いは、どんどん大きくなるばかりだよ…)

すると、ジルは驚いたように瞳を瞬かせた後、嬉しそうに笑った。
ジル:貴女は変わりましたね
吉琳:そうでしょうか…
ジル:ええ。私を喜ばせることが上手くなったように思います
そう言って柔らかな唇がそっと頬を掠める。
吉琳:ジルっこんなところで…
ジル:誰も見ていませんよ
頬を染める私の手をジルがそっと握った。
その時、合図の声がかかり、
ひと際大きく歓声が上がる中、私たちは目の前の階段を上っていった…―
そうして無事に挨拶を終え、
階段を下りながら私はジルの後ろ姿を見つめる。

(この後の公務はもうないはず…)

吉琳:あの、こういった催しは初めてですし、少し見ていきませんか?
声をかけると、ジルは振り返って苦笑しながら答えた。
ジル:先に言われてしまいましたね
吉琳:え?
ジル:元々貴女を誘うつもりでいました
思いがけない言葉に胸が大きく高鳴る。
頬を緩めていると、目の前にすっと手が差し出される。
ジル:では行きましょうか
吉琳:はい
嬉しい気持ちを胸に、私はジルの差し出した手をぎゅっと握った。

***

(あ、あれは最初に提供してくださった方のお洋服…)

店に並ぶ品を喜んで買っていく人々を見ていると、
改めてほっとする気持ちになった。
ジル:頑張ったかいがありましたね
吉琳:本当にそうですね

(喜んでもらえるかなって思っていたけれど、みんな楽しそうにしてる)
(こういう形でジンクスを叶えて良かった)

その時、ジルが少し先を見ながらぽつりと呟いた。
ジル:あれは…
ジルの視線の先には紅茶を配っているお店があり、
たくさんの人々が行列を作って並んでいた。
お店の様子を見ると、女性が1人で忙しそうに紅茶を出している。

(少しだけでも手伝えたら…)

ジル:貴女の考えていることはわかっていますよ
吉琳:え?
瞳を瞬かせる私にジルは口元を緩め…
ジル:見るだけでなく、実際に参加してみる方が楽しそうですね
私の手を引き寄せてにこりと微笑む。

(それって…)

ジル:私たちも配りに行きましょうか
吉琳:はい!
私たちはお店の方へ声を掛けると、その場で手伝うことを申し入れた。
女性:こんなに沢山人が来ると思っていなくて慌てていたのですが、
女性:まさか国王様と王妃様にお手伝い頂けるなんて夢のようです
吉琳:いいえ、私たちこそ手伝えて嬉しいです
お店の女性は最初、恐縮していたものの、どんどん伸びる行列を見て、
お礼を言いながら提案を受け入れてくれた。
ジル:気をつけて持ってください
女の子:ありがとう国王様
男の子:あーずるい。僕も国王様から貰いたい!
ジル:順番に渡しますから、ケンカはいけませんよ
男の子:はーい
そう言いながら、ジルは優しく笑って男の子へ紅茶を渡している。

(ジルは良いお父さんになりそう)

子どもと接する柔らかな雰囲気に、胸が温かくなった。
やがて紅茶を配り終える頃には、式典も無事に終わり…―

***

(実際に参加できて楽しかったな)

私たちは式典の終わった街を見ながら、
馬車までの道を、手を繋いで歩いていた。
ジル:無事に終わりましたね
吉琳:はい。沢山の方に喜んでもらえて、
吉琳:こういう形で開催出来て良かったです
ジル:そうですね。『国民に喜ばれる催し』になっていたと思います
ジルの穏やかな笑みが式典の成功を1番に物語っていた。

(私たちは国王と王妃としてまだ未熟な部分もあるけれど…)

式典に来ていた人々の楽しそうな様子や、
『ありがとう』と言われたことを思い浮かべると、
自然と胸の奥が温かくなる。

(今日また少し、人々と歩み寄ることが出来たのかな)

心が喜びで満ち溢れるのを感じていると、
隣を歩いていたジルが小さく声をこぼして笑った。
吉琳:ジル…?
ジル:貴女のそういう顔が見られるのは、やはり良いと思いまして
吉琳:え?

(そういう顔って…)

不思議に思って瞳を瞬かせると、
立ち止まったジルがすっと私の顔をすくいあげ…―
ジル:分かりませんか?
ジル:とても幸せそうな顔をしていますよ
穏やかな声でそう告げてジルの指先が頬を滑る。
触れられたところがぽっと火照り、私は顔が赤らむのを感じた。

(幸せ…確かに今日は1日ずっと幸せな気持ちだったと思う)
(でもそれは私だけじゃなく…)

吉琳:それならジルも…
私の頬を包んでいるジルも、
同じように柔らかい笑みを浮かべている。
ジル:ええ。自覚はあります
ジル:私は貴女が幸せならそれで十分嬉しいので
暖かな眼差しが私の瞳を見つめてにこりと微笑む。

(最初はこんな風に見つめられるのも恥ずかしかったけれど…)
(今だったら、ずっと見ていたいと思ってしまう)

ジルが幸せそうに微笑むたびに、嬉しい気持ちが次々と溢れる。
弾けそうなくらいの胸の高鳴りを感じながら、
そっと、頬に添えられたジルの手に自分の手を重ねる。
吉琳:幸せなのは、ジルがいつも支えてくれているからです
吉琳:ありがとうございます
ジル:私もです。貴女の言葉や想いに支えられていますよ
ふっと笑みをこぼすジルに私も微笑み返す。
吉琳:今日は沢山の方たちと触れ合うことが出来て、良かったです
真っ直ぐに見上げる私に、ジルは力強く頷いた。
ジル:ええ。今日改めて思いました
ジル:今まで以上に国民に寄り添う国づくりをしていこうと
ジル:これからもついて来て頂けますか?

(婚姻式をしてからずっと、目指す先はジルと一緒)
(これからも2人でウィスタリアの人々に寄り添っていきたい)

吉琳:はい
しっかりと頷くと、私とジルは再び手を取り合い、
馬車までの道を並んで歩いていった…―


fin.

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第三話-プレミア(Premiere END):

ふいにジルの顔が近付き、耳元に唇を寄せて…―
ジル:今日の式典はこれだけではありませんよ
静かな囁きが耳をくすぐった。

(えっ)

その言葉に驚いて聞き返そうとすると…
男性:国王様、王妃様、そろそろご挨拶をお願いいたします
式典の準備をしている男性が私たちを促した。
ジル:分かりました
男性に答えてから、ジルは私へと向き直りいたずらっぽく微笑む。
ジル:どういう意味かは、式典が終わってからのお楽しみということで
ジル:では、行きましょう

(少し気になるけど…ジルの言う通り楽しみにしていよう)

吉琳:はい
祝典のファンファーレを耳にして私はにこりと微笑んだ。
そうして、階段を上っていくと…

(わっ)

広場には多くの人が集まり、あちこちから歓声が沸き上がっている。
圧倒されながらもジルと共に一歩前へ進み出ると、
一瞬で広場が静まり返った。
ジル:本日、私たちは即位1周年を迎えます
ジル:無事にこの日が迎えられたのは、
ジル:何より国民の皆さんの支えがあったからです
ジルは、1人ひとりへ語るように広場を見回す。
ジル:そのことへの感謝の気持ちとして、
ジル:こういった形で式典を行ないました
ジルに続き、私も胸に抱いていた想いを伝える。
吉琳:この場が皆さんの交流の場となり、
吉琳:全ての人に楽しんで頂ける日になることを願います
そう言い終え、
ジルと共にお辞儀をし、顔を上げると…―
男性:1周年おめでとうございます!
女性:こんな素敵な式典をありがとう!
次々と聞こえる温かい言葉が胸に広がり、
私は瞳を潤ませて集まった人々に微笑んだ。

***

そうして、挨拶を終えた私たちは、
式典の様子をゆっくり見て回っていた。
ジル:予想以上に人が多いですね
お店を見て回る人で、通りは賑わっていて、
あちらこちらで楽しそうな表情が見える。

(良かった…喜んでもらえて)

吉琳:そうですね…本当に良かったです
吉琳:協力して頂いた方々へ、何かお礼が出来ないでしょうか…
この日のために協力してくれた人たちの顔が頭に思い浮かぶ。

(お手紙をお送りするだけじゃなくて、他に…)

すると、ジルがふっと目を細めて微笑んだ。
ジル:それなら心配いりませんよ
吉琳:え?
ジル:式典が終われば分かります
首を傾げる私にジルは楽しそうな笑みを向ける。

(どういうことだろう?)

気になりながらもジルと共に通りを見て回り、
私たちは人々の笑顔を間近で感じていた。

***

やがて式典を終え、城へと戻ってくると、
私はジルに導かれるままホールへと向かっていた。
吉琳:どうしてホールへ…
尋ねると、ジルはふわりと目元を緩める。
ジル:式典が始まる前に今日はこれだけではない、と言ったでしょう
ジル:今日のもう1つの催しです

(もう1つ?)

疑問に思いながら、足を止め目の前のホールの扉を開けると…―
そこには…

(えっ)

ホールには城内の人々や、
協力してくれた貴族の方々が沢山集まっていた。
吉琳:これは…
瞳を瞬かせていると、ジルが隣から優しく声をかける。
ジル:式典が無事に終わったお祝いのパーティーです
ジル:協力してくださった皆さんへの感謝の気持ちと、
ジル:今日までの貴女の頑張りに
そう言ったジルに手を取られ、会場へと足を踏み入れると、
思いおもいに話をしていた人々が周りに集まってきた。
貴族:今日の式典はとても良いものでした
貴婦人:またこういった催しをされる時は、すぐに声をかけてくださいね
吉琳:皆さん…ありがとうございます

(だから何かお礼がしたいって言った時に、)
(心配いらないって言っていたんだ…)

いつの間にかジルが準備してくれていたことに、
驚きと嬉しさが込み上げ、私は隣に立つジルを見上げた。
吉琳:ありがとうございます
ジル:貴女にも喜んで頂けて良かったです
思ってもいなかったジルからの贈り物に、
私の鼓動は大きく高鳴っていた。
そうして和やかにパーティーが進む中、
私はジルに誘われてバルコニーに出ていた。
ジル:疲れていませんか?
吉琳:はい、とても楽しいです
ジル:そうですか
にこりと微笑むジルと共に、
私たちは柵に手をつき、並んで夜景を眺める。
ジル:街の明かりが美しいですね
吉琳:はい
目の前には、暖かな明かりが灯る城下の景色が広がっていた。

(城下の人たち、楽しそうだったな…)

式典で見た人々の笑顔が自然と思い出され、
夜景が特別輝いているように感じる。
ジルを見上げながら私は口を開いた。
吉琳:ああいった形で式典を開催してみて、
吉琳:今日のような機会をもっと増やしたいと思いました
吉琳:皆さんに喜んでもらえるような…
するとジルが大きく頷いてくれる。
ジル:ええ。今日のような特別な日でなくとも、
ジル:いつでも城と城下との交流が盛んな、そんな国にしていきましょう
ジル:もちろん2人で
真っ直ぐな意志を感じる瞳が私に向けられる。

(今まで馴染みのなかったことでも、こうして開催することができた)
(きっとこれからも、2人で協力すればどんなことでも出来ると思う)

確かな想いを胸に抱き頷くと、
ジルがポケットから小さな箱を取り出し…
ジル:これを渡したくて、外へ誘ったんです
中身を取り出したジルが手のひらに乗せて差し出したのは、
大小いくつものパールが上品に光る髪飾りだった。
吉琳:素敵…
思わずそう呟くと、ジルはそれをそっと髪の毛につけてくれた。
ジル:パーティーは国王から王妃へのプレゼントですが、
ジル:この髪飾りはジル=クリストフから吉琳へのプレゼントです
愛おしそうに瞳を細めるジルに胸が大きく高鳴る。
ふわりと私の手を取ると、ジルは髪飾りへ顔を近付けて…―
ジルは私の手を取ると、
そっと髪飾りのついた頭へ口づけを落とした。
ジル:これからもずっと貴女を幸せにするという、誓いの証として

(ジル…)

思いがけないプレゼントに、嬉しさが胸いっぱいに広がっていく。

(でも…)

吉琳:ジルだって今日のために準備していたのに、
吉琳:私だけこんなに沢山頂いてしまって…
すると、ジルはふっと優しく笑った。
ジル:いいえ。国の幸せと、そして貴女の幸せが、
ジル:私の幸せになりますから
これ以上ないほどの言葉にジルへの愛しさが溢れる。

(こういう時、改めて思うな)
(ジルに大切にしてもらっている分、)
(私もジルのこと幸せにしたいって)

そんな想いを胸に抱いていると、
ジルが口元にいたずらな笑みを浮かべた。
ジル:それでも貴女が気にすると言うのなら…

(えっ)

急に腰を抱き寄せられ、
頬、首筋と甘い音を立てて口づけが落とされる。
吉琳:…ぁっ…ジルっ
真っ赤になりながら慌てて名前を呼ぶと、
間近にジルの妖艶な瞳が迫った。
ジル:今夜は一晩中、私の側にいるということでいかがですか?

(こういう少し強引なところは前からだけれど…)

結婚後は、前よりもこういったことが増えたように感じる。

(でも、何だかわがままを言ってもらえているようで、嬉しい)

吉琳:…はい
はにかみながら小さな声で頷くと、
ジルが嬉しそうに微笑んで首を傾ける。

(私も誓いたい)
(この先ずっとウィスタリアを…そしてジルを幸せにする)

夜空に煌めく幾千もの星に誓うように、
私たちは誰もいない夜のバルコニーで、甘い口づけを交わした…―


fin.

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エピローグ

吉爾後

ジルと無事に式典を終えたあなたに贈るのは…
1年経っても変わらない、甘い夜…―
ジル:余裕があるようですね吉琳
ジル:もしかして、愛されるのに慣れてきましたか?
妖艶に微笑んだジルの指先が、ナイトドレスを乱して…
ジル:慣れてしまったのかどうか確かめるまで、離しませんよ
素肌を滑る指先に、身体が熱を帯びていき…―
ジルとのとろけるような夜を、過ごしてみませんか…?

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    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(1) 人氣()