小標

Love Target~キケンな恋と甘いくちづけ~(ゼノ)

傑諾標

狙われたあなたを守ってくれる、彼の本当の姿とは…?
隠された真実を知った時、
スパイの彼とのキケンな恋が動き出す…―
…………
ゼノ様があなたの手を持ち上げ、
誓うように薬指に口付けて…―
ゼノ:だから今、この指輪をお前に渡すことはできないが…
ゼノ:俺は…お前を愛し、守り抜くと約束しよう
…………
全てを受け止めたあなたには、
二人だけの甘く刺激的な夜が待っている…―

 

 

 

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第1話は共通の物語になっているよ!
第2話からお相手選択が発生し

各彼のエンディングが楽しめるよ!

 

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プロローグ:

暖かな日差しが降り注ぐ、ある休日の午後…―
数年前に両親を亡くした私は、
貴族の一人娘として、抱えている領地の視察に赴いてた。

(もう…二人の命日か…)

視察を終えてお墓参りに向かっていると、
通りがかった教会から、
ミサを終えたばかりの神父のロベールさんが顔を出した。
吉琳:こんにちは、ロベールさん
ロベール:こんにちは。今日は…ご両親の命日だね
黒いワンピースに身を包んだ私を見て、ロベールさんが穏やかに微笑む。
顔なじみで、いつも優しく相談に乗ってくれるロベールさんと話していると、
判事のジルと自警団のアランが教会を訪ねてきた。
ジル:近くで不審な人物が現れたとアラン殿から聞いたので、
ジル:ロベール殿にも伝えておこうと思いまして
二人は両親に先立たれた私を気遣ってくれて、
たまに夜道で会うと心配して家まで送ってくれることもあった。
アラン:お前も、気をつけろよ
吉琳:うん、ありがとう
そうしてみんなに見送ってもらい、私は教会を後にした。

(あれ…? あそこにいるのって…)

墓地に向かう途中にあるシドの営むバーの前で、
顔なじみの二人の姿を見つけて足を止める。
吉琳:シド、ゼノ様、こんにちは
挨拶をすると、シドが気だるげに片手を上げた。
バーの店主であるシドと他国から派遣されている外交官のゼノ様は、
こうしてバーで話していることが多く、私も仲間にいれてもらうことが多い。
シド:よお。そういや今日だったな
ゼノ:…暗くなる前に済ませると良い
吉琳:はい。行ってきます
そうして私は二人に笑顔を返すと、両親の眠る墓地へと足を進めた。

***

お墓参りを終え、すっかり暗くなった道を歩いて家に帰ると、
自室のバルコニーにぽつんと何かが置かれていることに気づく。

(何だろう…)

鍵のかかった鉄製の箱を手に取り、その下に置かれていた封筒を開ける。
封筒の中にはチェーンに通された鍵と、両親からだという手紙が入っていた。
吉琳:『中身はとても大切なものだ。取り扱いには気をつけるように』…

(どうしてこんなところに…二人の知り合いが届けてくれたのかな)

そう思いながら箱を開けようとしたその時、部屋のドアがノックされた。
持っていた鍵を首にかけ、箱を机の上に置いて部屋を出る。
けれど、そこには誰の姿もなかった。

(こんな時間に訪ねてくる人はいないだろうし、聞き間違いかな…)

不思議に思って部屋に戻り、はっと目を見開く。

(さっき置いた箱がない…)

驚きながらも、
私は消えた箱の代わりに置かれていた一枚のカードを手に取り…―
吉琳:『関わるな』って、どういうこと…?

 

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どのルートを選ぶ?

『今度の彼は全員スパイ!?』
彼との甘く刺激的な恋が楽しめるよ!

第1話はこちらの2ルートから選択してね♪

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>>>ゼノ・ロベールを選ぶ

 

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ゼノ・ロベール編 共通-第1話:

 

吉琳:『関わるな』って、どういうこと…?
不穏な警告に、思わず首に下げていた鍵をぎゅっと握りしめる。

(鍵だけでも…盗まれなくてよかった)

両親からの手紙に、中身は大切なものだと書いてあったことを思い出す。

(何が入ってるのかは分からないけど…)
(箱が開かなければ、諦めて返してくれるかもしれない)

そう自分に言い聞かせて気を取り直すけれど、
隠しきれない不安が胸に募っていった。
吉琳:そうだ…ロベールさんなら…
その時、ふと頭にロベールさんの姿が浮かぶ。
教会の神父をしているロベールさんは、
困っているといつも相談に乗ってくれる、頼りになる存在だ。

(この時間なら、急げば閉館時間に間に合うかも)

部屋の時計を確認して、私は急いで家を後にした…―

***

すっかりと日が暮れた夜の道を、早足で歩く。

(やっぱり、気のせいじゃないかも…)

近道をするために路地裏を通っていると、
後ろの方から誰かにつけられているような感覚を覚えた。

(もしかして、また泥棒…?)
(とりあえず、人通りの多い所に出なきゃ…)

正体の分からない怖さに、どんどん胸の鼓動が速くなる。
ほとんど小走りになりながら、目の前の曲がり角を曲がると…
吉琳:…っ……
丁度向こうから歩いてきた誰かの胸にぶつかってしまった。
???:…大丈夫か?
聞き慣れた低い声に、顔を上げると…―
吉琳:ゼノ様…! すみませんでした
ゼノ:いや、構わない
目の前に立っていたのはゼノ様だった。
ゼノ様の顔を見ると、張り詰めていた緊張の糸がふっと切れる。

(ゼノ様に会えて、よかった…)

東の国から派遣されている外交官のゼノ様とは、
シドの営むバーで一緒になることが多く、
いつの間にかよく話すようになっていた。
ゼノ:急いでいたようだが、こんな時間にどうした?
吉琳:教会に向かっている途中だったんですけど、
吉琳:誰かにつけられてるような気がして、つい走ってしまって…
そう言うと、ゼノ様が眉根を寄せる。
ゼノ:教会まで送っていこう

(ゼノ様の申し出はすごく嬉しいけど…)

吉琳:でも、いいんですか? お仕事から帰るところだったんじゃ…
疲れているのではないかと訊ねると、ゼノ様が首を横に振る。
ゼノ:気にしなくていい
ゼノ:最近、三国間の緊張関係が増しているのは、お前も知っているだろう
吉琳:はい…
この北の国と、隣国である東の国、西の国は昔からずっと関係が悪く、
緊張状態が続いていた。
吉琳:確か、噂ではスパイが送り込まれているなんて話もありますよね

(本当だとは思えないけど、)
(そんな噂が立つくらい危ないってことなんだろうな)

私の言葉にゼノ様が短く頷く。
ゼノ:…ああ
ゼノ:何があってもおかしくはない。夜道の一人歩きは止めた方がいいだろう
吉琳:はい。ありがとうございます

***

そうして、私はゼノ様と一緒に教会に向かっていると…
ゼノ:吉琳
鋭く名前を呼ばれたのと同時に、ぐっと腕を引き寄せられ…―
ゼノ様の背中に庇われる。

(っ何…?)

ゼノ:下がっていろ
訳も分からず、言われた通りに道の端に下がる。
そうして気づくと、私たちの前には二人の男が立ちはだかって。
男:それが箱の鍵か
真っ黒な衣服に身を包んだ男の一人が、私の胸元に下げた鍵を見て訊ねる。
射抜くような冷たい視線を向けられ、思わず後ずさると、
ゼノ様が私の代わりに口を開いた。
ゼノ:何のことだ
男2:しらばっくれるな。その鍵、渡してもらおう
吐き捨てるようにそう言うと、
男たちはナイフを手に一斉に私たちに向かってくる。
ゼノ:…っ……

(ゼノ様…大丈夫かな…)

二人を相手にしているゼノ様が、
キンと響く高い音と共に、一人の男のナイフを弾き落とす。
けれどその隙に、もう一人の男がゼノ様の攻撃を潜り抜け、
私に向かってナイフを振りかぶった。
吉琳:きゃっ……
ぎゅっと目を瞑ったその時、
後ろからふわりと温かな温もりに包まれて…―
???:大丈夫?
優しく掛けられた声に振り向くと、
片手に握ったナイフで男の刃を受け止めて、
ロベールさんが穏やかに微笑んでいた。
吉琳:ロベールさん…!
ロベール:ゼノ、そっちは任せたよ
優しい色を浮かべていた瞳がすうっと細められ、
低い声でそう言うとロベールさんが男のナイフを軽々と奪う。
そうして男の首筋に奪ったナイフを突き付けると、
男は焦ったように逃げ出した。

(すごい…)

ゼノ様の方を見ると、同じように男が逃げ出しているところだった。
ゼノ:助かった、ロベール
ロベール:帰ろうと思ったら偶然囲まれてる君たちを見かけて、驚いたよ
そう言って、ロベールさんが心配そうに私を見る。
ロベール:怪我はない?
吉琳:はい…二人とも、ありがとうございました
吉琳:でも…あの男の人たちは一体…
混乱しながらも、何者なのかと聞こうとして、
男たちが襲いかかる前に鍵を渡せと言っていたことを思い出す。
吉琳:もしかして、この鍵を狙って……?

(もしゼノ様やロベールさんがいなかったら…)

そう考えると急にさっきの恐怖がよみがえり、
ぎゅっと胸元の鍵を握りしめた。
ゼノ:確かに…男たちの狙いはそれのようだった
ゼノ:俺と会う前に吉琳の後をつけていたのも、おそらくあの男たちだろう
ゼノ様の言葉に頷きながら、ロベールさんがそっと訊ねる。
ロベール:その鍵が何の鍵か、教えてもらえるかな?
吉琳:はい。実は……
そうして私は、届けられた箱が無くなってしまったこと、
両親からの手紙には、
中身は大切なものが入っていると書かれていたことを伝えた。
吉琳:それで、ロベールさんに相談しようと思って教会に向かっていたんです
順を追って説明を終え、小さく息をつく。

(でも、どうしてあの箱が狙われるんだろう…)

浮かんだ疑問を訊ねてみようと二人を見ると、
ゼノ様とロベールさんは、
今までに見たことがないほど真剣な表情を浮かべていた。
そうして視線が重なると、ゼノ様がそっと手を差し出し…―
ゼノ:…理由は分からないが、あいつらが狙ったのは確かにその鍵のようだな
ゼノ:原因が分かるまで、俺が預かっておこう
私を真っ直ぐに見つめて、そう告げた。
吉琳:え…?
ロベール:その鍵を持っている限り、
ロベール:また吉琳ちゃんが狙われる可能性もあるからね
ゼノ様の言葉を補うように、ロベールさんが理由を教えてくれる。

(そっか…狙われないように、心配してくれてるんだ)

ゼノ様の気遣いに自然と頬が緩み、
私はそっと鍵のついたチェーンに手を伸ばした。
そうして手渡そうとすると、
ロベールさんがゼノ様を見据えて口を開く。
ロベール:いや……
ロベール:…俺が預かるよ
ゼノ:どういうことだ
柔らかいロベールさんの声とは対照的に、
ゼノ様の固い声が路地裏に響いた。
ロベール:さっき襲って来た男たち、どこかで見覚えがある
ロベール:確か…君と同じ東の国の人間だよ

(二人とも…急にどうしちゃったんだろう…)

辺りに漂う張り詰めた空気に戸惑い、おそるおそる二人を見つめる。
やがて、ゼノ様が小さく息をついた。
ゼノ:今は、ここで言い争っている場合ではない
ロベール:…そうだね。まずは吉琳ちゃんを家まで送り届けないと
そう言って二人が私に向き直ると、同時にすっと手が差し出され…
ロベール:帰ろう、吉琳ちゃん
ゼノ:家まで送ろう
どちらの手を取るべきか一瞬頭を悩ませる。

(でも…一緒にいると安心させてくれるのは…)

私は柔らかい眼差しを向ける彼の手を取り、笑顔を向けた。
吉琳:…よろしくお願いします
???:ああ

 

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どの彼と物語を過ごす?

2

>>>ゼノを選ぶ

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第2話:

 

ゼノ:ああ
ゼノ:…行くぞ
重ねた手が絡めるように繋がれて、ゼノ様の温もりに包まれる。
そうして、ロベールさんに見送られながら、
私はゼノ様と手を繋いだまま帰り道を歩いた。

***

やがて、私の家の前まで来るとゆっくりと足を止める。

(ゼノ様と一緒だと、あっという間だったな…)

吉琳:送って頂きありがとうございました
お礼を言うと、繋いでいた手がぎゅっと握られる。
どうしたのかと不思議に思ってると、ゼノ様が口を開いた。
ゼノ:しばらく、俺の家に泊まってはどうだ
吉琳:え……?
驚く私に、ゼノ様が言葉を続ける。
ゼノ:お前も知っているとは思うが、俺は東から来た外交官だ
ゼノ:現在の三国間の緊張関係を鑑みて、警備の手厚い家を用意されている
ゼノ:…それに、ロベールの言った通り、さっき襲ってきた者は東の国の人間だ
ゼノ:何か分かれば、俺の所にもすぐ情報が入ってくるだろう

(だから家に誘ってくださって…でも)

吉琳:どうして、東の国の人間だって分かったんですか?
さっきはロベールさんの言葉に押し黙っていたのを思い出して訊ねると、
ゼノ様が真っ直ぐに私を見つめて告げる。
ゼノ:…俺も、あの顔には見覚えがあったことを思い出した
ゼノ:もし、お前が東の国の人間が怖いと言うのなら、無理にとは言わない
気遣うような視線に、胸がとくんと音を立てた。

(危険がないように誘ってくれたのに…そんな気遣いまで…)
(本当に、ゼノ様は優しいな)

吉琳:怖いなんて思うわけありません
澄んだ瞳を見つめ返し、笑顔で伝える。
シドのバーで知り合い一緒に過ごすうちに、
ゼノ様は私が悩んでいるときはそっと見守り、
いざという時はすぐに手を差し伸べてくれる、頼もしい存在となっていた。

(気づいたら…いつの間にか好きになってた…)

出逢った時から変わらないゼノ様の優しさに胸が温かくなる。
すると、ふっとゼノ様が表情を緩め…―
ゼノ:行くか
私は胸が高鳴るのを感じながら、
ゼノ様に寄り添うように暗い夜道を歩きだした。

***

そうしてゼノ様の家に着くと、私は客室へと案内された。

(ゆっくり休むようにと言われたけれど…)

一人になると、途端に襲われた時のことが頭に浮かび、
なかなか眠りにつくことができない。

(少し外の空気を吸って、気分を変えよう…)

私はベッドから起き上がり、バルコニーに出る。
そうして、
しばらくぼうっと綺麗な星のきらめく夜空を眺めていると、
控えめにドアがノックされた。

(こんな時間に…何かあったのかな?)

不思議に思いながら部屋に戻りドアを開けると…
吉琳:ゼノ様…どうしたんですか?
そこには、
ティーセットを乗せたワゴンを側に置くゼノ様の姿があった。
ゼノ:様子を見に来た。…眠れないのか?
吉琳:…はい
素直に頷くと、中へと入ったゼノ様が私をソファに促す。
ゼノ:温かいものを飲めば、気持ちも落ち着くだろう
そう言って渡された、東の国の名産であるというその紅茶は、
初めて飲むはずなのに、どこかほっとする懐かしい味がした。

(わざわざ紅茶まで用意してくれるなんて、心配かけてしまったかな…)
(ゼノ様といると落ちつくけど、)
(いつまでも引きとめるわけにはいかないし)

吉琳:ありがとうございました。もう、大丈夫です
名残惜しいと思いながらも紅茶を飲み終え、
私はゼノ様に笑顔でお礼を告げる。
すると、ゼノ様がそっと片手を伸ばし、私の頬を包んだ。
ゼノ:無理しなくていい
私を見つめる瞳に、心を見透かされたようで、はっと息をのむ。
吉琳:そんな、無理だなんて…
取り繕うように言いかけると、ゼノ様が囁くように口を開き…―
ゼノ:何かあっても俺が側にいる
ゼノ:安心して眠るといい
低く落ちついた声で告げる。
その言葉に、胸がとくんと甘く音を立てた。

(ゼノ様も忙しいはずなのに…でも、嬉しい)

吉琳:ゼノ様……では、お言葉に甘えさせてください
ゼノ:ああ
優しく頷くと、ゼノ様は私の手を引いてベッドまで促すと、
ずっと手を握っていてくれた。

(側にいてくれると思うと、安心する…)

やがて私は、ゼノ様の温もりを感じながら夢の中へ落ちていった。

***

そうして、ゼノ様の家に住み始めてから数日経ったある夜のこと…―
ゼノ様は依然、男たちの調べを続けていた。

(外交官としてのお仕事もあるのに…大丈夫かな)

忙しそうなゼノ様が心配で、様子を見ようと廊下に出ると、
玄関の方から男の騒ぐような声が聞こえて、大きく肩が跳ねる。

(何があったんだろう……?)

一瞬ひるむけれど、その後に聞こえたゼノ様の声にはっとする。

(応対してるのは、ゼノ様なんだ…)
(何かあれば、警備の人を呼ばないと…)

不安と焦りで鼓動がどくどくと高鳴るのを感じながら、
廊下を走り、ゼノ様の元に向かう。
すると、ゼノ様の鋭い声が飛んできた。
ゼノ:来るな

(…っ…)

その言葉に足を止めるけれど、もうゼノ様との距離はほとんどない。
恐る恐る前方にいる男を見ると、にっこりと笑いかけられた。
男:君が吉琳さんかな? 迎えに来たよ
吉琳:迎えに…?
男:ああ。俺は君の婚約者だからね
吉琳:え……?
初対面の男の言葉が理解できず、戸惑うようにゼノ様を見上げる。
すると、ゼノ様が私を守るようにしっかりと抱き寄せてくれた。
ゼノ:彼女は身に覚えがないようだが
男:確かに、今はまだ違うけど、箱さえ奪えば…
男:あの箱さえあれば、
男:俺は彼女と結婚して、没落貴族とはおさらばできるんだ!

(箱…? 一体どういうことなの?)

わめくようにそう繰り返す男に、言い知れぬ恐怖が募る。
ふいに男と視線が合い、ぴくりと肩を揺らすと…
ゼノ:大丈夫だ
吉琳:…はい
ゼノ様の優しい声が耳元に落ちた。
男を見据えたゼノ様が、何かを思い出したように口を開く。
ゼノ:どこかで見たことがあると思ったが…
ゼノ:お前は元東の国のスパイだな

(スパイ…じゃあやっぱりあの箱を狙いに…)
(もしかして、)
(さっきから男が言っている箱は、私に届けられた箱のこと…?)

胸がざわめくのを感じながら、じっと二人の会話を見守っていると…―
ゼノ:どこから箱の情報を手に入れたのかは知らないが…
ゼノ:あれにはお前が思うようなものは入っていない
その言葉に、私は思わずゼノ様を見つめる。

(ゼノ様は、あの箱の中身を知っているの…?)
(もしかしたら、調査の過程で何か分かったのかも…)

ばたばたと慌ただしく駆けつけてきた警備員が、
男を家から連れ出していった。
廊下には私たち二人だけが残り、私はゼノ様に訊ねる。
吉琳:箱の中身に関して…何か情報が入ったんですか?
ゼノ:…お前に、話しておくことがある
そう言って近くの部屋へと入るゼノ様に続き、私も廊下を後にした。
ソファに向かって腰掛けると、
少しの沈黙の後に、ゼノ様がゆっくりと話し始めた。
ゼノ:先日襲ってきたのは、
ゼノ:箱の中身を自国の重要な情報だと勘違いした東のスパイだ
吉琳:何でそんな勘違いを…?
ゼノ:それは、お前の両親が元スパイだからだ。
ゼノ:娘に昔の情報を託したと思ったのだろう

(両親が…スパイ?)

驚いて言葉も出ない私に、ゼノ様は一つ頷いてから言葉を続ける。
ゼノ:しかし、仮に箱の中身が本当に情報だったとしても…
ゼノ:一般人を襲うのは東のスパイの掟に背く行為だ
ゼノ様は、すでに犯人の目星は付いていて、
捕まえる準備を整えている途中だと話した。

(でも…掟を破るようなスパイを相手にだなんて…)

吉琳:いくらゼノ様が外交官でも…
吉琳:スパイを捕らえるのは危険ではないんですか…?
ゼノ:ああ…大丈夫だ
ゼノ:東のスパイを取りまとめている司令官は俺だからな
吉琳:え……?
一瞬、理解が追い付かずに呆然とゼノ様を見つめる。

(本当に…ゼノ様も?)

両親がスパイだと言われた時と同じ衝撃が私を襲った。
吉琳:ずっと…隠していたんですね
ゼノ:ああ。そしてもう一つ、お前に言わなければならないことがある
ゼノ:箱を持っているのは…俺だ

(中身を知っていたのは、箱を持っていたから…?)

次々に開かされる事実に置いて行かれないよう、ゼノ様に訊ねる。
吉琳:どうして、ゼノ様が…?
ゼノ:少し前、お前の執事が家に訊ねてきた
ゼノ:お前に箱を渡す前に、
ゼノ:相手である俺の元に連絡を入れる決まりになっていたようだ
吉琳:相手……?
ゼノ:ああ。 …あの箱の中身は、
ゼノ:お前の家に伝わる指輪と婚約者の名前が書かれた手紙だ
そんな存在がいたことを初めて知り、はっと気づく。
吉琳:もしかして、その婚約者がゼノ様なんですか…?
そう訊ねると、ゼノ様が真剣な瞳で私を見つめ…―
ゼノ:ああ、そうだ
はっきりと頷いた。
そうしてゼノ様は、昔親同士が決めた婚約者だということ、
そして、
両親が死んで身寄りのない私の身を案じて執事が箱を届けたのだと告げた。
吉琳:そうだったんですね…
ゼノ:だが、その約束も昔のことだ
ゼノ:執事も箱のことは忘れていたようだが、
ゼノ:街で俺を見かけて思い出したと言っていた
自分のことなのに、まるで人の話を聞いているように実感が湧いてこない。

(でも、指輪のことは聞いたことがある)

吉琳:代々伝わる指輪は、私が結婚する時に譲り渡すと言われていました…
吉琳:子供が結婚する時まで、夫婦で大切に身につけるようにと
ゼノ:さっきの男は、
ゼノ:その指輪さえ手にすれば結婚できるのだと勘違いしていたのだろう
男が箱を欲しがっていた理由が分かり、静かに頷く。
吉琳:私の元に届けられた箱は、ゼノ様が持ち去って…?
ゼノ:ああ。後で手紙を抜き、指輪だけを残してお前に返すつもりでいた

(だから最初に襲われたとき、鍵を預かるって言ったんだ…)

吉琳:どうして、そんなことを…
スパイのことだけでなく、婚約者だということも隠されていたと知ると、
信頼されていないような寂しさが胸に湧いてくる。
ゼノ:俺は、お前の婚約者になるわけにはいかなかった
吉琳:それは……私のせいですか?
相手が私では駄目なのかと問おうとすると、ゼノ様はふっと表情を緩めた。
ゼノ:そうではない
ゼノ:スパイの婚約者だと知られれば、
ゼノ:危険なことに巻き込んでしまう可能性があるからだ
ゼノ:だが、俺は信念を持ってスパイをしている。
ゼノ:この先も、辞めるつもりはない
三国間の緊張関係が続く中、自国の平和を守るためには、
スパイの存在は必要なのだとゼノ様は言った。
吉琳:ですが、それなら盗まなくても、後から断ればよかったのでは…
ゼノ:…手紙には、お前の両親がスパイだということも書かれていた
それだけ言うと、ゼノ様が口を閉じる。
吉琳:それは…知ったら私が悲しむと思って…?
ゼノ:知らなくて済むのなら、その方が良いだろう
吉琳:…っ……
(箱を盗んでまで隠そうとしたのは、私のために…?)

向けられる眼差しの強さの奥にゼノ様の優しさを感じ、心が揺さぶられる。

(やっぱり…何を隠されていようと、私はゼノ様が好き)

隠している理由が自分のためだったと分かった今、
ゼノ様への想いがとめどなく溢れて、切なく胸を締め付ける。

(危険から遠ざけようとしてくれるのは嬉しいけれど…)
(ゼノ様自身の気持ちが知りたい…)

ゼノ様に訊ねようとした瞬間、
私の使っている客室の方からガラスが割れたような音が響き…―

 

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傑諾分

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

ゼノ様に訊ねようとした瞬間、
私の使っている客室からガラスが割れたような大きな音が響き…
吉琳:今の音は……
ゼノ様は壁に掛けてあった剣に手を掛けて、口を開く。
ゼノ:俺の後ろに下がっていろ
そうして、私はゼノ様の後に続いて部屋に向かう。
足を踏み入れると、そこにはガラスを割って侵入してきたと思われる、
一人の男が立っていた。
私たちに向けられたナイフの切っ先が、
窓から差し込む陽の光に反射して光る。

(この人もスパイなの…?)

ゼノ:…何の用だ
ゼノ様が私の手を引き、自分の背中へと庇いながら訊ねると、
男は緊張感のない笑みを浮かべたまま、答えた。
男:雇い主に頼まれてお邪魔したんだよ
男:大人しく、あんたの持ってる箱を渡してもらおうか

(やっぱり、この人も箱を狙ってるんだ…)

無意識に、首に下げていた鍵を服の上からぎゅっと握る。
ゼノ:雇い主とは誰のことを言っている
男:名前なんて覚えてないが…
男:箱さえ手に入れば、結婚して良いところの貴族様になれるって浮かれてたぜ
男:報酬もたっぷりくれる手筈になってる

(もしかして、雇い主はさっき捕まえた男の人…?)

ゼノ:なるほどな
ゼノ:自分では駄目だった時のために、お前に頼んでいたのか
納得したように頷いて、ゼノ様が男を見つめる。
ゼノ:だが、残念だったな。その男はもう捕まえてある
男:それがどうした
ゼノ:報酬をもらう相手は、いなくなったということだ
ゼノ様がそう告げると、男が驚いたように目を丸くする。

(お願いだから、このまま引き下がって…)

そう思いながら静かになった男を見つめていると、
急に大きく声を張り上げた。
男:騙そうったってそうはいかねえぞ
男:何でもいいから箱をよこせ…!
そう叫びながら、
男はナイフを振りかぶって私たちに向かってくる。

(…っ…)

思わず身体を固くすると、ゼノ様が剣を抜きナイフを受けとめた。
金属のぶつかりあう音が響き、
ゼノ様のことが心配で胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。

(ゼノ様は余裕そうな表情だけれど…)

長く続く攻防に痺れを切らしたように、
男がもう一度声を張り上げる。
男:箱はどこだ…!
ゼノ:無駄だ
男の質問に、ゼノ様は言い含めるようにゆっくりと告げた。
そうして男の隙を突いて、ナイフを弾くと、
バランスを崩してその場に倒れた男の喉元に剣を突きつける。
そうして、怯える男に向けてゼノ様が言い放った。
ゼノ:万が一、箱を渡していたとしても…
ゼノ:あの男が貴族になることはない
そう言うと、ゼノ様が私に視線を向け…―
ゼノ:吉琳の婚約者になるのは俺だからな

(…っ…)

はっきりとそう告げた。
呼吸すら忘れて、ゼノ様を見つめる。

(今の言葉は…どういう意味で…?)
(婚約者にはなれないと、言われたばかりなのに…)

ドキドキと脈打つ胸の鼓動を感じていると、
やがて駆けつけた警備員が男を連れていった。
ゼノ:行くぞ。ここは危ない
床に散らばったガラスの破片に視線を落として、ゼノ様が言う。
吉琳:…はい

(後で、ちゃんとゼノ様に聞いてみよう)

差し伸べられたゼノ様の手を取ると、ふっと優しく口元が緩められた。
そうしてゼノ様の部屋に着くと、ソファに促される。
ゼノ:少し待っていろ

(緊張する…)
(どうやって、訊ねたらいいんだろう…)

そわそわと落ちつかない心で待っていると、
ゼノ様が何かを手に戻って来た。
そうして、テーブルの上にことんと置いたのは…
ゼノ:これを、お前に返そう
吉琳:これは…
執事が私宛に送ったという箱だった。
首から鍵のついたチェーンを取り、そっと箱を手に取る。
吉琳:ゼノ様も…一緒に見て頂けますか?
ゼノ:ああ
そうして、ゼノ様が私の隣に腰掛ける。
鍵を開け、ゆっくりと蓋を開けると、
中にはゼノ様が言った通り、手紙と対(つい)の指輪が入っていた。
吉琳:これが…両親が私に託した指輪…
繊細な作りの指輪を眺めると、在りし日の両親の顔が浮かんでくる。
両親が見守ってくれているような温かい気持ちに包まれながら、
私はその隣の手紙に手を伸ばした。

(一枚目は、私宛だ…)

スパイだと告白する内容だと分かり、二枚目を手に取る。

(『吉琳、そしてゼノへ』…私たちに向けての手紙…?)

その手紙には、私が幼い頃に両親と共に東の国に行ったこと、
そこで出逢った一人の男の子ととても仲が良くなったことが綴られていた。
読んでいるうちに、なんとなく昔の想い出が頭をよぎる。

(そういえば、確かに昔……)

〝両親たちがパーティーに出席している間、〞
〝まだ幼かった私は別室で帰りを待っていた。〞
〝心細く感じていた私に、男の子が歩み寄ってきてくれて…―〞
〝男の子:…大丈夫だ〞
〝そう言って、温かい紅茶を手渡してくれた。〞
〝男の子:戻るまで、俺が側にいよう〞
〝男の子が淹れてくれた紅茶はすごく美味しくて、〞
〝両親が戻ってくるまで話し相手になってくれたのだった。〞

(この前ゼノ様に淹れてもらった紅茶を懐かしいと感じたのは…)
(前に会った時に、飲んだことがあったからなんだ…)

優しい想い出に自然と頬が緩む。
吉琳:思い出しました…ゼノ様と初めて会った時のこと
吉琳:お別れの日に、ゼノ様の側を離れたくないとわがままを言ったことも…

(ゼノ様が、最後まで私の手を離さなかったことも…)

照れながらもそう伝えると、ゼノ様がふっと笑みを浮かべる。
ゼノ:ああ。それで婚約が決まったと聞いている
ゼノ様の両親も貴族だったこともあり、
あまりにも仲の良い私たちを見て、婚約者と定めたのだという。
吉琳:こんなに大切なことを忘れていたなんて…
そう呟くと、ゼノ様が手紙を握る私の手をそっと包み込む。
ゼノ:…お前が俺のことを忘れているようで、最初は安心していた
ゼノ:お前に惹かれていくにつれ…どこか寂しくも思えたが…

(ゼノ様……)

静かに告げるゼノ様の言葉一つ一つを、聞き逃さないように受け止める。
ゼノ:近くにいて危険な目に遭わせるくらいなら、身を引こうと思ったが…
ゼノ:先ほど、あの男がお前の婚約者になると現れた時に気づいた
そう言うと、ゼノ様の目が愛おしそうに細められ…―
ゼノ:もう、手離すことができないほどに…愛していると
吉琳:…っ……
見つめ合ったまま、告げられる。
ゼノ:昔と変わらず、真っ直ぐで純粋な心を持ったお前が心配で…
ゼノ:見守っているうちに、気づけば幼い頃と同じように、惹かれていた

(ゼノ様も…同じ気持ちでいてくれたの…?)

嬉しくて、逸る気持ちのままに想いを伝えようと口を開く。
吉琳:私も…ゼノ様が好きです
吉琳:ゼノ様の側にいられるなら、何があっても大丈夫です

(ただ、ゼノ様と一緒にいたい…)

想いを伝えると、ゼノ様が優しい眼差しで頷く。
ゼノ様に見つめられるだけで、感じたことのない幸福が胸を満たしていった。
ゼノ:お前のことを考えると、この国にいる間は俺が婚約者だとばれないほうがいい
ゼノ:だから今、この指輪をお前に渡すことはできないが…
ゼノ様はちらと箱に視線をやって苦笑すると、
握っていた私の手をそっと持ち上げ、薬指にキスを落とした。
ゼノ:俺は…お前を愛し、守り抜くと約束しよう
そうして私たちは、引き寄せられるように互いの唇を重ね合わせた…―


fin.

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:

 

ゼノ様に訊ねようとした瞬間、
私の使っている客室からガラスが割れたような大きな音が響き…
吉琳:何…?
部屋に向かおうとする前に、一人の警備員が部屋に入ってくる。
警備員:ゼノ様、何者かが窓を割って部屋に侵入したようです
警備員:駆けつけた時には誰もおらず、代わりにこれが置いてありました
ゼノ:そうか
そう言って警備員が差し出したメモを、ゼノ様と一緒に覗きこんだ。

(『鍵を返して欲しければ取り引きに応じろ。)
(一時間後、街の外れで待つ』…鍵?)

その手紙を見て、はっとする。
吉琳:すみません。私…鍵を机の上に置いたままで…
ゼノ:いや、いい。この者とは一度話をつける必要があったからな
吉琳:私もついていきます
ゼノ:…だめだ
大人しく待ってるようにと言うと、
ゼノ様は、警備員に別の客室を用意させるよう指示を出した。

(こんな風に伝えるつもりはなかったけれど、)
(でもゼノ様を一人で行かせるくらいなら…)

私はぎゅっと自分の手を握りしめる。
吉琳:連れて行って下さい
吉琳:あの箱は…私にも関係があるものです
吉琳:それに…好きな人を危ない場所に一人で行かせることはできません
そう告げると、ゼノ様が驚いたように目を見開く。
そうして少しの沈黙の後、
ゼノ様がそっと私を抱き寄せて、耳元に顔を寄せた。
ゼノ:…分かった。ならば、俺の側を離れるな

***

やがて約束の時刻になり、私たちが指定された町の外れへやって来ると、
そこにはすでに、二人の男たちの姿があった。

(あの人たち…この前道で襲ってきた人だ…)

男たちから隠すように、ゼノ様が私の前に立つ。
ゼノ:…やはり、お前たちか
ゼノ:一般人を襲うのは掟に反していると分かっているな
ゼノ様がそう言うと、男たちは馬鹿にしたような笑みを顔に浮かべる。
男1:バレなければ大した問題じゃない
男2:それに俺たちの東の国では、
男2:個人的な理由で盗みを働くのもスパイの掟破りだろう
話によると、偶然ゼノ様が箱を盗んだのを目撃した男たちはその情報を探り、
中身がスパイには関係ない、
私の婚約者に関するものだと突きとめたらしい。
男1:証拠の品は手に入らなかったが…まぁいい。鍵だけでもあればな
男2:あの没落貴族も、役に立たなかったな。元スパイの割に、使えない
ゼノ:あの男も、お前たちの差し金か
男2:少し騙して、利用しただけだ
悪びれもなく涼しい顔でそう言って、男が私に視線を向ける。
男2:あいつは箱さえあればお嬢さんと結婚できるもんだと思ってるが、
男2:そんなことはない
男2:安心していいぜ
そう言って、にやっと笑いかけた。

(だから、あの人は箱さえ手に入ればって言ってたんだ…)

騙すような汚いやり方に眉をひそめると、
ゼノ様が一歩前に踏み出し、低く通る声で男たちに訊ねた。
ゼノ:箱の中身を情報と勘違いして奪おうとしたのかと思ったが、
ゼノ:そうではないようだ
ゼノ:ここに呼び出したのは、何が目的だ
男1:…それはな、こういうことだよ!
男がそう言うと同時に、
建物の影から黒い服に身を包んだ男たちが現れ…―

(嘘…シドもスパイなの……?)

その中に見慣れた姿を見つけて、目を見開く。
驚いて見つめていると、視線があったシドがにやりと笑った。
男1:ここで、東のスパイの司令官の任を降りると宣言してもらおうか
男2:これでお前の時代も終わりだ
逃げられないように、男たちは私たちをぐるりと取り囲む。

(この人たちは、初めからゼノ様を狙って…)

がく然としていると、
ふと目の前のゼノ様が笑みをこぼした。
ゼノ:そうか?
ゼノ:お前たちをおびき寄せるために、
ゼノ:わざと盗む所を見せたと言ったらどうする
男1:なんだと…?
ゼノ:俺を司令官から引きずり降ろそうと企てるお前たちの動きは、
ゼノ:以前から把握していた、ということだ

(そうだったの…?)

掟を破ったところを見せれば何らかの動きを見せると思ったと告げるゼノ様に、
男たちが悔しそうに顔を歪める。
回りに立つ東のスパイたちも、
状況が変わったことに戸惑っているように見えた。

(それなら、ゼノ様は何も悪くないってことなのかな…)

張り詰めた空気の中で、
そうであって欲しいと願うようにゼノ様を見つめる。
けれど、その期待を裏切るように男が口を開いた。
男1:たとえそうだとしても、一般人のものに手を出したのは変わらねえ
男1:どうせ俺たちも罰を受けるのなら、お前も道連れだ…!
吉琳:そんな…
思わず口に出すと、
ゼノ様が後ろに立つ私を振り向いて安心させるように微笑んだ。
ゼノ:心配ない

(心配ないって言っても…)
(私のためにしたことで、ゼノ様がこんな目に…)

信念を持ってスパイをしていると言ったゼノ様との会話が頭をよぎり、
何とかしたいと思う気持ちばかりが募る。

(どうしたらいいんだろう…)

必死に頭を働かせていると、ふいに視線を感じて顔を上げる。

(シド……?)

すると、私を見てにやりと笑ったシドが一歩前に歩み出た。
シド:…話は分かった
そうしてシドが話し出し…―
シド:確かに、そいつらの言う通り…
シド:不審な動きを見せる仲間をあぶり出すためとはいえ、
シド:掟を破ったことには変わりねえ
ゼノ様を見つめてそう言い切る。

(…っ……)

シドの言葉に、さっきまで戸惑っている様子の周りのスパイたちも、
賛同するように頷き始めた。
シド:丁度盗まれた本人がいるから、念のための確認だが…
シド:お前は、本当にゼノに箱を盗まれたんだよな?
そう言って、シドは口元に笑みを浮かべて真っ直ぐに私を見つめる。
どこか含みのあるような問いかけだと思い、はっとした。

(あっ…そうだ、私から盗んだことが罪だっていうなら…)

吉琳:…いいえ、盗まれてません。あれは、ゼノ様に譲ったんです
吉琳:それに、鍵を取ろうと襲って来たのはその人たちです
はっきりとそう宣言すると、スパイたちが一斉にざわめき出す。
シドは一瞬、私に向けて目を細めると男たちに向き直った。
シド:…なるほどな。
シド:ってことは、今回のことはそこの御令嬢の協力を得て行われたこと
シド:それにお前たちがひっかかったってだけの話だ
男1:っ…そんなはずは!
シド:連れて行け
焦った様子で話が違うと騒ぐ男たちを、他のスパイたちが連れていく。
ようやく肩の力が抜けた私を見て、ゼノ様がふっと微笑んだ。
シド:これでよかったんだろ?
ゼノ:ああ、礼を言う
短く会話をする二人を見ながら、私はシドに訊ねる。
吉琳:どうして、シドがここに…?
シド:さあな
すると、
シドはそう言ってひらりと手を振りその場を去っていってしまった。
ゼノ:シドは俺たちが雇っているスパイだ
吉琳:やっぱり、シドもスパイだったんですね…
ゼノ:この場には俺たちしか来ないと思い、シドに協力を頼んでいたが…
元々はあの男たちに真実を話し、罪を認めさせ、
シドと共に捕らえるつもりだったという。
ゼノ:あんなに人が集まるとは予想外でな
ゼノ:周囲の者を納得させるためには、計画を変更せざるを得なかった
そうしてゼノ様は私を見つめると、優しく目を細め…―
ゼノ:結局、お前を巻き込んでしまったな
そっと私の頬を撫でた。
ゼノ:だが、お前がとっさにシドと話を合わせたお陰で助かった。礼を言う
吉琳:そんな…ゼノ様のお役に立てたなら良かったです
吉琳:それに、私は巻き込まれても構いません

(ゼノ様が私のために行動してくれたように…)

吉琳:ゼノ様のためにできることがあれば、
吉琳:たとえ危ない目に遭おうと平気です
ゼノ:…吉琳
私の想いを受け止めるように、
ゼノ様は真剣な瞳で見つめ返してくれる。
吉琳:いつも私を支えてくれて、知らないところで助けくれて…
吉琳:優しいゼノ様が好きだから、この気持ちは変わりません
真っ直ぐにゼノ様を見つめて心からの想いを伝えると、
ゼノ様が私の背を引き寄せ、その胸に抱きしめた。
吉琳:ゼノ様…?
早鐘を打つ鼓動を感じていると、
頭上からゼノ様の柔らかな声が落ちる。
ゼノ:俺もお前を愛している

(…っ…)

見上げると、優しく細められたゼノ様の瞳と視線が重なった。
ゼノ:遠い昔、親同士が決めた婚約者だが…
ゼノ:偶然お前の住むこの街を訪れ、
ゼノ:気になり目で追っている内に惹かれていた
ゼノ:お前の真っ直ぐで、昔から変わることのない純粋な心に

(そんな風に思っていてくれたんだ…)

胸の奥から嬉しさが湧いてきて、目に涙が滲む。
ゼノ様は黒い手袋を取り、
そっと私の目元を拭いながら言葉を続けた。
ゼノ:…俺と共にいると危険に巻き込むかもしれない
ゼノ:普通の日常には、もう戻れなくなるぞ
吉琳:それでも良いです。一緒にいられるなら…

(ゼノ様のいない日常は…考えられない)

そう答えると、ゼノ様が笑みを深める。
ゼノ:後で鍵を取り戻したら、共にあの箱を開けるとしよう
ゼノ:そして、その時に改めて誓おう
ゼノ:永遠の愛を…お前に
吉琳:っ…はい
二人の未来を想い、満面の笑みを浮かべて頷く。

(私も、誓おう…)
(この先もずっと、ゼノ様の側にいると…)

そうしてゆっくりと見つめ合った瞳が近づいて、
私たちは互いの想いを確かめ合うように、口づけを交わした…―


fin.

 

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エピローグEpilogue:

傑諾後

想いが通じ合った二人に訪れる、愛おしいひととき…
………
……
ゼノ:…ここに印は残してやれないが
ゼノ:その代わり、お前の肌に残そう
ゼノ様が鎖骨の辺りに唇を押し当てると、甘い痛みが走り…
ゼノ:お前の全てをもらい受けるが…俺の全てもお前のものだ
………
……
大好きな彼がスパイから恋人へと変わる夜、
真実の愛があなたを甘く包みこむ…―

 

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