Love Target~キケンな恋と甘いくちづけ~(アラン)
狙われたあなたを守ってくれる、彼の本当の姿とは…?
隠された真実を知った時、
スパイの彼とのキケンな恋が動き出す…―
…………
優しく微笑みながら、
アランがあなたに約束をして…―
アラン:二度と、お前に嘘はつかない
アラン:愛してる
…………
全てを受け止めたあなたには、
二人だけの甘く刺激的な夜が待っている…―
第1話は共通の物語になっているよ!
第2話からお相手選択が発生し
各彼のエンディングが楽しめるよ!
プロローグ:
暖かな日差しが降り注ぐ、ある休日の午後…―
数年前に両親を亡くした私は、
貴族の一人娘として、抱えている領地の視察に赴いてた。
(もう…二人の命日か…)
視察を終えてお墓参りに向かっていると、
通りがかった教会から、
ミサを終えたばかりの神父のロベールさんが顔を出した。
吉琳:こんにちは、ロベールさん
ロベール:こんにちは。今日は…ご両親の命日だね
黒いワンピースに身を包んだ私を見て、ロベールさんが穏やかに微笑む。
顔なじみで、いつも優しく相談に乗ってくれるロベールさんと話していると、
判事のジルと自警団のアランが教会を訪ねてきた。
ジル:近くで不審な人物が現れたとアラン殿から聞いたので、
ジル:ロベール殿にも伝えておこうと思いまして
二人は両親に先立たれた私を気遣ってくれて、
たまに夜道で会うと心配して家まで送ってくれることもあった。
アラン:お前も、気をつけろよ
吉琳:うん、ありがとう
そうしてみんなに見送ってもらい、私は教会を後にした。
(あれ…? あそこにいるのって…)
墓地に向かう途中にあるシドの営むバーの前で、
顔なじみの二人の姿を見つけて足を止める。
吉琳:シド、ゼノ様、こんにちは
挨拶をすると、シドが気だるげに片手を上げた。
バーの店主であるシドと他国から派遣されている外交官のゼノ様は、
こうしてバーで話していることが多く、私も仲間にいれてもらうことが多い。
シド:よお。そういや今日だったな
ゼノ:…暗くなる前に済ませると良い
吉琳:はい。行ってきます
そうして私は二人に笑顔を返すと、両親の眠る墓地へと足を進めた。
***
お墓参りを終え、すっかり暗くなった道を歩いて家に帰ると、
自室のバルコニーにぽつんと何かが置かれていることに気づく。
(何だろう…)
鍵のかかった鉄製の箱を手に取り、その下に置かれていた封筒を開ける。
封筒の中にはチェーンに通された鍵と、両親からだという手紙が入っていた。
吉琳:『中身はとても大切なものだ。取り扱いには気をつけるように』…
(どうしてこんなところに…二人の知り合いが届けてくれたのかな)
そう思いながら箱を開けようとしたその時、部屋のドアがノックされた。
持っていた鍵を首にかけ、箱を机の上に置いて部屋を出る。
けれど、そこには誰の姿もなかった。
(こんな時間に訪ねてくる人はいないだろうし、聞き間違いかな…)
不思議に思って部屋に戻り、はっと目を見開く。
(さっき置いた箱がない…)
驚きながらも、
私は消えた箱の代わりに置かれていた一枚のカードを手に取り…―
吉琳:『関わるな』って、どういうこと…?
どのルートを選ぶ?
『今度の彼は全員スパイ!?』
彼との甘く刺激的な恋が楽しめるよ!
第1話はこちらの2ルートから選択してね♪
>>>アラン・ジル・シドを選ぶ
アラン・ジル・シド編 共通-第1話:
吉琳:『関わるな』って、どういうこと…?
不穏な警告を受けて、少しの怖さを感じる。
バルコニーから外を見下ろしても怪しい人影はなく、
胸に広がる謎は一層深まっていく。
(大切なものって書いてあったのに…)
両親からの手紙の内容を思い出して、
寂しさできゅっと胸がしめつけられる。
(箱を返してもらわないと…)
(もう夜も遅いけど、アランなら相談に乗ってくれるかも…)
そうして私は、
自警団の団員でいつも頼りにしているアランを訪ねることを決めた。
***
アランの家に向かう途中、路地裏から聞こえてきた声に立ち止まる。
声をひそめるような話し声は、どこか聞きおぼえがあった。
???:…まだ、中身がどこの国の情報かはわからない
???:そうですか…しばらく様子を見るしかありませんね
(アランとジルの声に似てる…)
そう思って路地裏を覗きこんだ時…
吉琳:…っ……
ふいに後ろから肩を叩かれ、驚いて振り向く。
すると、そこにはにやりと口元に笑みを浮かべたシドの姿があった。
シド:盗み聞きか?
シド:だが、気をつけろよ…
シド:知らなくていいことを知っちまうかもしれねえからな
吉琳:もう…大丈夫だよ
路地裏に入ろうとした私を引きとめたシドに笑いかけると、
シドがからかうように口を開いた。
シド:そうか? 三国間の関係は悪くなる一方だ
シド:どこの国のスパイがうろついてるか分からねえぞ
(確かに、最近は不穏な噂も聞くけど…)
西と東、そしてこの北の国の外交関係は悪化の一途を辿り、
長い間、緊張状態が続いていた。
シド:それにこんな時間に一人で歩くのも感心しねえな
吉琳:ごめん…
表情を固くする私の髪を、シドがわしゃわしゃと撫でる。
吉琳:わっ…
自然に笑顔がこぼれると、シドも口元を緩めた。
(気を紛らわせてくれたのかな)
バーを営むシドは、
貴族が招待されるパーティー会場でお酒を作っていることが多く、
よく顔を合わせるうちに気安く話せる関係になっていた。
シド:それでこんなとこで何してんだ?
吉琳:実は…
シドに話そうと思ったその時、路地裏から歩いて来る足音が聞こえ…―
ジル:…騒々しいと思ったら、貴女たちでしたか
アラン:お前…こんなところで何してんだよ
吉琳:ジル…アランも
(やっぱり、さっきのは二人の声だったんだ)
(よかった…ジルもいるなら、心強いな)
判事であり、
両親の古い知り合いだというジルはいつも親身に相談に乗ってくれる。
吉琳:二人とも、こんな時間までお仕事だったの?
吉琳:お疲れ様
外の見廻りをしていたのかと思い、そう言うと、
ジルが心配そうに眉根を寄せた。
ジル:ありがとうございます。
ジル:ですが、それよりも…シドの言う通りです、吉琳
ジル:こんな時間に暗い路地裏に入るのは、良くありませんよ
アラン:何か用事だったのか?
吉琳:うん、アランに相談があって…
そう言って、私は箱がなくなった経緯を話した。
(あれ…なんか空気が張り詰めてるような…)
(気のせいかな…)
いつもとは少し違う雰囲気を感じて口をつぐむと、シドが先を促す。
シド:それで、その箱の中身ってのは何だったんだ?
吉琳:それは…まだ見てないの
吉琳:鍵を開ける前になくなったから…
そう言うと、アランとジルがそっと目配せを交わし、
アランがいつもよりも低い声で訊ねた。
アラン:…で、その鍵はどこにあるんだ?
吉琳:あ、首に掛けたままで…
そう言って私が服の下に入れていた鍵をひっぱり出そうとした瞬間…
吉琳:きゃっ…
ぐっとジルに腕を引き寄せられ、胸元に抱きしめられる。
ジル:っアラン殿
アラン:ああ、分かってる
驚く間もなく鋭い声が飛び交い、金属のぶつかり合う音が響いた。
アランを見ると、真っ黒な衣服に身を包んだ男と対峙している。
(誰っ…)
ナイフを交えるその姿に一気に恐怖が湧いた。
男:くそっ…!
シド:…見たことねえ顔だな。どこの国のやつだ?
隣にいるシドが、冷たい目で男を見据える。
(一体、何が起きてるんだろう)
状況についていけず、私はただジルの腕の中から眺めていた。
吉琳:ジル…これは…
ジル:大丈夫です。すぐに終わりますよ
ジルの言う通り、
勝負はアランが圧倒的に優勢のまま決着がついたようだった。
(よかった…)
ドキドキしながら成り行きを見守っていると、ジルに声を掛けられる。
ジル:外は危ないですね
ジル:また襲われないとも限りませんし、
ジル:ひとまずここから近いアラン殿の家へ…
抱きしめていたジルの腕が離れて、頷こうとしたその時、
後ろからシドが私の腕を引き…―
シド:おっと。
シド:アンタが心配してんのは…吉琳じゃなくてこいつだろ?
首に下げていた鍵を持ちあげた。
アラン:手を離せ、シド
シド:分かったよ
背後から投げかけられたアランの固い声に、
シドが気にした様子もなくゆっくりと私から離れる。
後ろを振り向くと、
そこには射抜くような瞳でシドを見るアランがいた。
(こんなみんなは…知らない……)
思わず遠ざかるように後ずさり、呆然とみんなを見つめた。
ジル:悪いですが、貴女をシドに渡すわけには行きません
ジル:吉琳、こちらへ
ジルが優しい声音で告げた。
アラン:…その鍵を渡すだけでいい
アラン:お前は何も知る必要はない
同調するように言葉を続け、アランが手を差し伸べる。
シド:本当にそれでいいのか?
シド:何で狙われたのかも分からねえままで
吉琳:え…?
(確かに…気にはなるけど…)
私をまっすぐに見つめ、シドが口を開く。
シド:知りたいなら…俺と来い
(誰を信じたらいいの…?)
どうすればいいのかわからずに、
ぎゅっと瞑った私の目に浮かんだのは、
あの人のいつもの優しい笑顔だった。
そうして、私は彼の手を取る。
すると、耳元で優しい声が聞こえて…―
???:もう、大丈夫
どの彼と物語を過ごす?
>>>アランを選ぶ
第2話:
アラン:もう、大丈夫
(アラン…)
柔らかな笑顔にほっとして、身体から力が抜けていく。
アラン:とりあえず、俺の家に行くぞ
アランは繋いだ手を握りしめると、
その場から奪い去るように私の手を引いた。
***
家にたどり着くと、アランはすぐにドアの鍵を閉める。
アラン:ひとまず、これで落ち着けるな
(アランの部屋に入るのって初めてだ…)
ふとそんなことを思い、小さく胸が音を立てた。
(部屋の中、綺麗に片付いてるな…)
(というよりも、ほとんど物が置かれていないみたい…)
殺風景な部屋を見て少し不思議に思いながらも、
私はアランに向き直った。
(それよりも、さっきのことを確かめなきゃ…)
吉琳:どういうことなのか…聞いてもいい?
切り出すと、アランは少し迷うように瞳を揺らす。
アラン:こうなった以上、お前にはちゃんと話さないとな
アランの真剣な瞳からは、
気持ちを受け止めようとしてくれているのが伝わってきて、
私はゆっくりと口を開いた。
吉琳:箱がなくなったって話をした時、みんなの様子がおかしくなった気がしたの
吉琳:なんだか、あの箱を狙ってるみたいに見えて…
探るようにアランの顔を見つめて、言葉を重ねる。
吉琳:あの箱のこと、何か知ってるの?
そう訊ねると、アランは真面目な表情のままゆっくりと口を開き…―
アラン:そもそも屋敷のバルコニーに置かれてた箱だけど、
アラン:それを置いたのはスパイの可能性がある
真剣な瞳で、そう告げた。
吉琳:…っでも、箱の中身は両親からの大切なものだって…
箱に添えられていた両親からの手紙には、
『中身はとても大切なものだ。取り扱いには気をつけるように』と書かれていた。
そう言うと、アランが静かに言葉を続ける。
アラン:その手紙に書いてあった通り、お前の両親が託したのは大切なものだ
アラン:…この国に潜入してる、スパイにとって
(スパイ…?)
アランの言葉に目を見開く。
(敵国のスパイがいてもおかしくないってシドが言ってたけど、)
(本当だったんだ…)
吉琳:大切なものっていうから、家族の想い出の品かと思っていたけど…
私の言葉に、アランは静かに首を横に振る。
(そんな…)
まったく想像もつかない説明を受けとめながら、
ふと一つの疑問が浮かんだ。
(さっきから、アランは淡々と説明しているけど……)
吉琳:どうしてアランにそんなことが分かるの…?
私の質問に、アランが一瞬ぐっと押し黙る。
そうして、小さく息をついてから口を開いた。
アラン:それが分かるのは、俺が西の国から送り込まれたスパイだからだ
(アランが…スパイ?)
アランは何も答えず、
驚きに目を見張る私を、ただじっと見つめ続ける。
姿は変わらないのに、なんだかアランが違う人のように感じて、
わずかに身体に緊張が走った。
(近くにいたのに…)
(私、アランのこと何も知らなかったんだ…)
密かに抱いてきた気持ちまで揺らぎそうになり、
胸がぎゅっと締めつけられる。
(優しくて、正義感の強いアランが…好き)
だからこそ、本当のことを隠されていたのだと思うと苦しくなった。
アラン:黙ってて悪かった
アラン:それと、もう一つ
アラン:ジルも西の人間で、同じ任務を負ってる
そう告げられ、さっきの三人の様子を思い出す。
(いつもと違ったのは、アランとジルだけじゃなかった…)
吉琳:もしかしてシドも…そうなの?
アラン:…ああ。あいつは依頼されればどこの国の側にもつく厄介な奴だけどな
(ジルとシドもスパイだったなんて…)
初めて知る事実に何も言えなくなってしまう。
アラン:俺の任務は、この国の情報を探って自国である西の国に持ち帰ることだ
すべてを打ち明けたのか、アランは小さく息をついた。
わずかな後悔が滲んでいるように見えて、思わず心配になる。
吉琳:私に言ってもよかったの?
そっと問いかけると、少しの沈黙の後にアランが告げた。
アラン:お前にはもう隠し事したくなかったから
アラン:それに…一般人にスパイだとバレたんだ
アラン:どっちにしろ、もうこの国にはいられない
吉琳:そんなっ…
(それって、私に知られたからだよね…)
はっとして息をのみ、呆然とアランを見つめる。
アラン:でも、その前に箱の中身を確かめる必要がある
(そういえば…)
吉琳:箱を盗んだのもスパイなの…?
訊ねると、アランはわずかに表情を強張らせて頷いた。
アラン:……ああ
(そうなんだ…)
アラン:鍵を渡せば、お前が狙われることはもうないだろ
(私が狙われることはなくなるかもしれないけど…)
そうなれば、アランは箱を見つけ出し、
きっと任務を果たして国に帰ってしまう。
(アランと…二度と会えなくなるのかもしれない…)
吉琳:……この鍵は渡せない
決意を込めて告げると、アランが目を見張る。
アラン:お前…自分が何言ってるか分かってんのか?
アラン:また…さっきみたいなやつらに狙われるぞ
吉琳:っそれでも、中身を知るまでは渡せない
吉琳:…両親が私に託したものだから
(それに…やっぱりアランにいなくなってほしくない…)
互いにけん制するような視線が交わった後、
やがて、アランは諦めたように深く息をついた。
アラン:お前って、案外頑固なとこあるよな
吉琳:だって……
アラン:…分かった、お前のことは俺が守ってやる
アラン:俺から離れるなよ
アランの言葉に、胸に嬉しさが広がる。
吉琳:アラン、ありがとう…
(正体がスパイだとしても…)
(やっぱりアランは…アランのままだ)
優しく、頼りになるいつもの姿に温かな気持ちが湧く。
(アランのことが好きだから、信じたい…)
私は笑顔を浮かべ、アランに告げる。
吉琳:箱がどこにあるのか分からないけど、探すの協力してくれる?
アラン:…ああ、分かった
アランが頷いたその時…
吉琳:…っ……
隣の部屋からガタっと物音が聞こえた。
アラン:っ……お前はここにいろ
鋭い声でアランが言う。
アラン:様子を見に行ってくる
アラン:ソファの後ろに隠れてろよ
吉琳:っ…アラン…
(…アランも危ないんじゃ…?)
無意識にぎゅっとアランの服を握り引きとめてしまう。
すると、アランが優しくその手を包み…―
第3話-プレミア(Premier)END:
すると、アランがその手を包み、
安心させるように優しく私の肩を抱きしめてくれた。
アラン:大丈夫だ…すぐに戻る
そう言って抱き締めていた腕を解くと、
アランは音が聞こえた隣の部屋に足を向ける。
そうして静かにドアを開け、伺うようにそっと中へと入っていった。
(アラン……)
何もないようにと願っていたその時、
アランが消えていった隣の部屋からふいに激しい物音が聞こえてきた。
(…っ…)
いてもたってもいられず、
隠れていたソファの後ろから飛び出してドアに近づく。
すると、中から見知らぬ男の声が漏れ聞こえてきた。
スパイ:お前が貴族の家から箱を盗んだことは分かってる
スパイ:箱はどこだ
アラン:…お前たち東のスパイに渡すわけにはいかない
その言葉に一瞬呼吸が止まる。
(え…箱を盗んだのは…アランだったの?)
ゆっくりとドアから離れようとしたけれど、
動揺していたせいか足がふらつき、わずかに音を立ててしまった。
スパイ:誰かいるのか
鋭い声が投げかけられ、向こうからドアが蹴破られる。
吉琳:きゃっ…
立ちすくんだまま動けない私を見て、アランの緊迫した声が響いた。
アラン:っ…逃げろ!
(……!)
その声を合図に、なんとか震える足を動かして走り出す。
剣のぶつかり合う金属音が鳴り響く中、
玄関へと向かうと、目の前で扉が開き…
ジル:これは、何事ですか?
吉琳:ジル…アランが…!
訪ねて来たジルに状況を伝えようと、必死に言葉を紡ぐ。
私の後ろでアランと格闘する男の姿を見て、ジルの目の色が変わった。
ジル:吉琳、こちらに。もう安心してください
そう言って、ジルが私を背にかばう。
ジル:アラン殿、ここは私に任せてください
アラン:ああ、頼んだ
男がジルに剣を向けられて身動きが取れない隙に、
アランが私の手を引いて…―
アラン:行くぞ
私たちは、その場から駆け出した。
***
そうしてアランに連れられて、
私たちは海の側に立つ屋敷にたどり着いた。
吉琳:ここは…?
アラン:俺のもう一つの家。詳しくは言えないけど、安全な場所だ
(スパイのお仕事で使ってる家なのかな…)
こうやって目の当たりにすると、
アランがスパイだということが嘘じゃないと突きつけられた気分になる。
(それに、さっき…)
(箱はどこだって聞かれた時に、アランは『渡さない』って言ってた)
吉琳:さっき、アランがスパイと話してるのが聞こえて来たんだけど…
吉琳:箱を持ってるって…本当?
そう訊ねると、アランがわずかに目を見開いて、静かに頷いた。
アラン:ああ
その返事を聞いて、私の頭にさっきの会話がよぎった。
アラン:鍵を渡せば、お前が狙われることはもうないだろ
アラン:また…さっきみたいなやつらに狙われるぞ
アラン:…だから、お前のことは俺が守ってやる
(あの言葉は…嘘…?)
(心配して言ってくれてるのかもしれないと思ったけど…)
吉琳:やっぱりアランも、箱の中身が欲しかっただけなの…?
悲しみが胸に広がり、ぽつりと呟く。
アラン:…違う
アラン:でも、俺が信じられない気持ちは分かる。…それだけのこと、したから
アラン:悪かった。本当のこと言えなくて
真摯な謝罪が、真っ直ぐに心に伝わってくる。
(嘘をつかれたのは悲しいけど…)
(私の知ってるアランは、どんな時でも…)
(誰かを傷つける嘘をつくような人じゃない)
(ずるい…どんなに嘘をつかれても…)
吉琳:アランのこと…信じられないわけない
吉琳:…好きな人だから
そう告げると、アランの瞳が見開かれ…―
きゅっと眉根が寄せられた。
(いつも優しくて、頼りになって、)
(いつも守ってくれていたアランだから…)
吉琳:スパイだって知っても、私の気持ちは変わらないよ
アラン:吉琳…
じっと見つめて想いを伝えると、
アランがジャケットの内側から箱を取り出した。
アラン:……
アランは決意したように顔を上げ、その箱を海に投げる。
(あっ…)
鉄の箱は瞬く間に波にのまれ、見えなくなってしまった。
アラン:…お前の安全を考えれば、もっと早くにこうしておくべきだった
吉琳:でも…っ
アランとの会話が頭をよぎる。
〝アラン:…おそらく、〞
〝アラン:箱の中身はこの国に潜入しているスパイたちにとって重要な情報だ〞
〝アラン:俺の任務は、〞
〝アラン:この国の情報を探って自国である西の国に持ち帰ることだ〞
吉琳:そんなことしたら、アランの任務は…
アラン:任務よりも…
ふいにアランの腕の中にぎゅっと包まれ…―
アラン:俺は、お前を選ぶ
向けられる甘い眼差しに、鼓動が跳ねた。
アラン:俺も、お前が好きだ
アラン:だからこそ、お前にあの箱を渡すわけにはいかなかった
驚きと共に、胸の奥が甘く疼く。
(全部知りたい…)
真っ直ぐな瞳を見上げて、私はアランの手を握った。
吉琳:アランのこと教えて…受け止めたいの
見つめ合った瞳の奥が揺らぎ、やがて決意の色を浮かべる。
アラン:屋敷のバルコニーに箱を置いたのは、この北の国のスパイで
アラン:箱はお前が目を離した隙に、俺が持ち去った
吉琳:それが…アランの任務だったから…?
じっと黙り込んだ後、アランは顔を上げる。
アラン:俺自身がそうしたいと思ってしたことだ
アラン:…お前の両親は、この北の国では有名なスパイだったから
吉琳:え……
思いもしなかった事実に、言葉を失う。
アラン:おそらく、中身はお前の両親が部下を通して託した、
アラン:他国の情報の可能性が高い
アラン:知ったら、お前はその国のスパイに狙われることになる
吉琳:だから…私が知ることがないように全部隠して…?
(私のために…)
アラン:…それもある
吉琳:え?
アラン:…両親がスパイだったと知ったら、お前が悲しむと思って言えなかった
アラン:……
黙ったままのアランの袖を、ぎゅっと掴む。
吉琳:なんでそこまでして、私を助けてくれたの…?
(アランの気持ちを教えて…)
すがるように見つめると、アランがそっと口を開き…―
アラン:純粋で、真っ直ぐな…吉琳が好きだ
真剣な瞳で私を見つめる。
嬉しさがこみ上げ、唇が綻ぶけれど、
アランは辛そうに、淡々と言葉を続けた。
アラン:だからこそ、失望させたくなかった
アラン:でも最後に、お前の笑顔が見られてよかった
(最後……)
その言葉に、胸が切なく疼いた。
〝アラン:…一般人にスパイだとバレたんだ〞
〝アラン:どっちにしろもうこの国にはいられない〞
(この国を去ってしまったら…)
(もう二度とアランに会えなくなる)
吉琳:離れたくない…
感情のままに言葉が零れ、涙を溜めた瞳で見上げる。
アラン:っ…吉琳
息をのむ音がかすかに聞こえ、
唐突に唇が塞がれて、その隙間で吐息が交わる。
吉琳:ん、っ……アラン……
(一緒にいたい…この温もりを手放したくない…)
そう願いながら、アランの背中に手を回す。
唇が離されると、間近で熱を帯びた眼差しが絡んだ。
吉琳:連れてって…お願い
切なさから想いをこぼすと、アランは誓うように私の額に口づけた。
アラン:そこまで言うなら…もう離さねえから
運命が動き出す予感に、鼓動が高鳴る。
(どこまでも連れていって欲しい…)
見つめ合ったまま頷くと、アランは優しく微笑んだ。
アラン:二度と、お前に嘘はつかない
アラン:愛してる
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
すると、アランがその手を包み、
安心させるように優しく私の肩を抱きしめてくれた。
アラン:大丈夫だ…すぐに戻る
抱きしめていた腕を解くと、
アランは音が聞こえた隣の部屋に足を向ける。
そうしてそっとドアを開けて、警戒しながら中へと入っていった。
(アラン…大丈夫かな)
心配しながらも、静かに息を潜めていると、
ふいに背後の窓が開く音がして、
真っ黒な衣服の男が入ってくる。
吉琳:っ…
(どうして…)
男:大人しく、箱を出せ
侵入してきた男にナイフをつきつけられ、後ずさる。
吉琳:…持って、ません……
(あっ…)
椅子に足を取られた私に、男の手が伸ばされたその時…
アラン:箱ならここだ
アランが隣の部屋から駆け付けてきた。
けれど、その手にある物を見て、目を見開く。
(あの箱…何でアランが…)
それは私の屋敷のバルコニーに置かれていた箱だった。
呆然としていると、男が素早く私の手首を掴んで引き寄せる。
吉琳:きゃっ…
アラン:吉琳…!
男:箱を渡せ
男が冷たい声で告げる。
アラン:お前…東の国のスパイか
アラン:…これが欲しいなら、そいつを離せ
男:いいだろう、交換だ。箱の鍵も一緒にそこへ置け
男が目線でテーブルの上を指す。
(でも、鍵って…)
首から下げた鍵は、服の下に隠れて見えないけれど、
気づかれたらと思うとひやりと背筋が冷たくなる。
アランは唇の端を上げて、何かを天井に放った。
アラン:鍵ならやるよ。ほら
男の意識がそれに向けられた瞬間、アランが飛び出し…
アラン:吉琳から離れろ…!
男:ぐ…っ
蹴り飛ばされた男は壁に叩きつけられた。
気を失ったかのようにぴくりとも動かない男を見て、
一気に肩の力が抜ける
小さく震える身体を、アランが優しく抱き寄せてくれた。
アラン:大丈夫か?
吉琳:うん…助けてくれてありがとう
アランの温もりに恐怖が和らぐのを感じながらも、
私の目はテーブルの上に置かれた箱から逸らせないでいた。
吉琳:どうしてあの箱をアランが持ってるの?
アラン:…ちゃんと話す
***
ぽつりと呟いたアランは、男が動けないように縛った後、
私を隣の部屋に連れていった。
アラン:怖い思いさせて、悪かった
(怖かったけど…)
私は緩く首を横に振る。
吉琳:ううん…アランがいてくれたから
(…それよりも今は、ちゃんと本当のことが聞きたい)
吉琳:あの箱は、アランが持ってたんだね…
(スパイだってことも、箱のことも…ずっと黙ってたんだ)
憤りよりも、信頼されていなかったのかと思って悲しくなる。
俯いていると、アランは私の手を握って話し出した。
アラン:屋敷のバルコニーに箱を置いたのは北の…この国のスパイだったんだ
アラン:この箱はお前が目を離した隙に、俺が回収した
(だから、アランが箱を持ってたんだ…でも…)
吉琳:どうして?
アラン:……
じっと黙り込んだ後、アランは顔を上げ…―
アラン:…お前の両親は、北の国では有名なスパイだった
吉琳:え……?
初めて知る信じがたい事実に、言葉を失う。
アラン:俺は、二人が残した情報を、
アラン:娘であるお前に託した可能性が高いと考えていた
アランの話によると、
両親は緊張状態にある東と西の国で、機密情報を探っていたという。
(そんな仕事をしていたなんて、知らなかった…)
アラン:中に入ってる情報がどこの国のものかまでは分からなかったけど、
呆然とアランを見つめると、握られた手にぎゅっと力が込められた。
アラン:中身を知ったら、その国のスパイに狙われることになる
アラン:だから、お前を助けようと……
そう言いかけて、アランが眉を寄せる。
アラン:悪かった。…全部、黙ってて
真剣な眼差しで告げるアランには、
全てを隠しておく理由があるように思えた。
吉琳:隠していたのは…任務があったから?
アラン:両親がスパイだったと知ったら…お前が悲しむと思ったんだよ
苦しげなアランの顔を見つめているうちに、胸が締めつけられていく。
(両親のことすら知らなかった私に、)
(正体を明かしてくれたことだって…)
(よほど覚悟してのことだと思う)
私のことを助けてくれようとした気持ちも、痛いほど伝わってくる。
(でも、こんな時になんて言ったらいいんだろう)
一度に色んな事実を受け止めたせいか、混乱して言葉が出てこない。
何も言えずに立ち尽くしていると、
気遣うようにアランが私の頭を撫でてくれた。
アラン:俺が箱を持ってると知ってたら、中を見たいって言っただろ
アラン:それを止めるには、隠し通すしかなかった
アラン:知らなくていい真実もあると思ったから
そう言って、アランがそっと目を細める。
アラン:だからって、それを俺が勝手に決めていいわけじゃないけど
吉琳:アラン…
告げられる言葉には、アランの優しさが込められていた。
アラン:ばれないように捨てることもできたけど、
アラン:任務のために中身を確認しないわけにはいかない
アラン:…だから、お前の鍵を渡してくれ
ふいにアランが任務を帯びたスパイの顔になる。
(驚きも悲しみも、まだ消えたわけじゃないけれど…)
(アランは私を気遣いながらも、)
(自分の役目を果たそうとしてたんだ)
私は気持ちを落ち着けるように、深く息をついた。
吉琳:分かった…
鍵を差し出すと、アランが真剣な顔で受け取る。
アラン:確認したら、中の情報は今ここで燃やす
そう告げられ、私は小さく頷いた。
アラン:それともう一つ、いいか?
吉琳:え?
アランは一瞬ぐっと眉を寄せた後、真っ直ぐに私を見つめる。
アラン:もしこれが俺の国の情報だったら…
アラン:お前を捕まえないといけなくなる
アラン:念のため見えないように、目隠しをさせてほしい
(それほど…大事な情報なんだよね)
吉琳:うん…
頷くと、目の上が布で覆われ…―
何も見えない中、鍵が差し込まれ、箱が開く音がする。
やがて、紙が燃える音がした後、しんとあたりが静かになった。
(アラン…?)
ふいに遠ざかっていく足音がして、心細くなる。
〝アラン:俺の任務は、〞
〝アラン:この国の情報を探って自国である西の国に持ち帰ることだ〞
〝アラン:…一般人にスパイだとバレたんだ〞
〝アラン:どっちにしろ、もうこの国にはいられない〞
(もしかして…もう行ってしまったの…?)
もうアランの顔を見られないと思うと、胸が苦しくなる。
吉琳:まだ…好きって伝えてないのに…
ぽつりとこぼしたその瞬間、ふわっと温かな感触に抱き締められる。
そうして目隠しが外されると…―
アラン:このまま行こうかと思ったけど…無理だった
滲む視界の先で、アランが微笑んだ。
吉琳:アランに、もう会えないかと思った…
そう言うと、私を抱きしめる腕に力が込められる。
アラン:俺が側にいたらまた何か面倒なことに巻き込むかもしれない
アラン:だからこのまま別れようと思ったけど…
アラン:お前にあんな事言われて、置いていけるわけないだろ
アラン:俺も同じ気持ちだから
吉琳:え…
アランの言葉に、ドキドキと逸る鼓動を抑える。
決意のこもった真剣な眼差しで私を見つめ、アランが告げた。
アラン:お前が好きだ
アラン:純粋で、いつも笑ってるお前を…大事にしたい
真っ直ぐに届く声が、甘く鼓膜を揺らす。
想いが通じ合った嬉しさが、ゆっくりと胸に広がっていった。
吉琳:私も…優しくて、真っ直ぐで、
吉琳:いつも私を助けてくれるアランが好き…
吉琳:巻き込まれてもいいから…離れたくない
(何があっても、私は自分の信念を貫くアランが好き…)
アラン:バカ、そういうこと言うな
目元を染めたアランの顔が近づいてくる。
アラン:もう…絶対に離さない
かすめる吐息に頬が火照るのを感じながら、
甘い期待を胸に、私はそっと目を閉じた…―
fin.
エピローグEpilogue:
想いが通じ合った二人に訪れる、愛おしいひととき…
………
……
アラン:バーカ、お前だけだと思うな
降りそそぐキスの合間に、アランが愛おしそうに目を細め…
アラン:…お前が望むなら、何度でも言ってやる
アラン:…愛してる
………
……
大好きな彼がスパイから恋人へと変わる夜、
真実の愛があなたを甘く包みこむ…―
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