小標

王子様は幼なじみ~忘れられない初恋をあなたに~(ジル)

【開催期間】3/7(火) 16:00 ~ 3/19(日) 16:00

吉爾標

色褪せることなく胸に残る、幼い頃の初恋の思い出。
側にいるほど募る想いを、幼なじみの大切な彼に告げると…―
…………
………
目の前に跪いたジルが、誓うように手の甲にキスを落として…―
ジル:これからの人生は幼なじみとしてではなく…
ジル:恋人として貴女をずっと、大切にします
…………
………
幼なじみが恋人へと変わる夜、
二人きりの甘いひとときが、あなたの元に訪れる…―

 

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プロローグ:

これは城下に住む私と、幼なじみの彼との恋の物語…―
窓から柔らかな日差しが差し込むある日の午後、
家庭教師の仕事を終えた私は、一息つこうとソファに腰掛ける。

(早く、夜にならないかな…)

段々と近づいてきた今夜の予定を想い、笑みを零したその時…
???:お届けものでーす
ドアがノックされたと同時に、軽やかな声が聞こえてきた。

(お届けもの…誰からだろう)

不思議に思いながらドアを開けると、そこには花屋のユーリが立っていた。
色とりどりの花が入った籠を手に、ユーリがにっこりと笑う。
吉琳:こんにちは
ユーリ:こんにちは。吉琳さんに、お花とお手紙のお届けものだよ
そう言って差し出されたお花と手紙を受け取ると、
ふわりと優しい香りが鼻を掠めた。

(私の好きな花だ…良い香り)
(でも、今日は特別な日でもないのに…)

吉琳:このお花は一体誰から…?
不思議に思って訊ねると、ユーリが楽しそうに口を開く。
ユーリ:さっきあの人に頼まれたんだ
ユーリ:ほら、吉琳さんの幼なじみの!
吉琳:えっ?
ユーリの言葉に、今夜会う約束をしていた彼の顔が思い浮かんだ。
ユーリ:直接伝えに行くつもりだったみたいだけど、仕事が忙しそうだったから
ユーリ:俺が、代わりにって言ったんだ

(そうなんだ…)

吉琳:届けに来てくれてありがとう
お礼を言うと、ユーリがにこやかにほほ笑んだ。
ユーリ:どういたしまして。二人とも、いつも仲良しで素敵だね

(ちょっと恥ずかしいけど、そう思われてるのは嬉しいな…)

ユーリ:じゃあね。そのお花、吉琳さんにすごく似合ってるよ
照れながらも笑みを返して、ユーリを見送る。
そうして部屋に戻ると、私はそっと手紙を開いた。

(手紙なんて、久しぶりだな…)

見慣れた幼なじみの字に視線を滑らせながら、自然と頬が緩んでいく。
そこに書かれていたメッセージは…―

(『今日の夜、いつもの場所で』…?)

 

どの彼と物語を過ごす?

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>>> ジルを選ぶ

 

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第1話:

 

(『今日の夜、いつもの場所で』…?)

吉琳:いつもの場所…か

(そういえば…待ち合わせ場所、決めてなかったな)

流れるような綺麗な文字を見ていると、ジルの顔が浮かんでくる。
今夜は、近頃仕事で忙しそうだったジルと、久しぶりに逢う約束をしていた。

(…あれ? このメモ、続きが…)

何気なく裏返すと、そこには短い追伸が添えられていた。

(『貴女にお伝えしたいことがあります』…)
(伝えたいこと? もしかして…)

甘い期待に一瞬胸が高鳴るけれど、すぐに思い直す。

(まさか…そんなわけ、ないよね)
(ジルは、私のことを妹のように思っているから…)

年上の幼なじみであるジルは、昔から何かと私を気にかけてくれる、
兄のような存在だ。

(ずっと、私を隣で見守って、悩んでる時は優しく導いてくれて…)
(いつ、好きになったのかも覚えてないくらい…小さな頃から、好きだった)

メモを部屋のチェストの中に大切に仕舞い、もらった花を花瓶に飾る。

(久しぶりにジルとゆっくり過ごせるの、楽しみだな)
(もうそろそろ、妹としてじゃなく、私自身を見てくれたら嬉しいんだけど…)

ジルを想うからこそ、弾む胸に微かな寂しさも湧く。
私は瑞々しい花びらをそっと撫でると、出かける準備を始めた。

***

そうして私が着いた場所は、昔から相談ごとや大切な話がある時に、
二人で話しながら歩いていた散策路だった。

(いつもの場所というと…ここくらいだけど)

辺りを見回していると、よく知った声に後ろから呼びかけられ…―
???:吉琳
振り返ると、そこにはジルが立っていた。
ジル:お待たせしました
ジル:ちゃんとメモを受け取ってくれたようですね
昔から変わらない優しい笑みに、胸の奥が甘く締め付けられる。
吉琳:はい…綺麗なお花も、ありがとうございました
ジル:吉琳に似合いそうな良い香りだったので、つい

(さすが、人気の調香師さんだな…)

その人にぴったりの香水をつくってくれると、ジルのお店は有名だ。
笑みを返しながらジルに歩み寄り、並んで歩き出す。
吉琳:それで…一体どうしたんですか?
吉琳:伝えたいことがあるって書いてありましたけど…
私が何かに悩んでいる時、
ジルはいつも、さりげなくこの場所へと誘ってくれていた。

(でも、今は何も問題はないし…)
(ジルの方に、何か悩んでいることがあるのかもしれない)

答えを待っていると、ジルは浮かべていた笑みを潜めて…―
ジル:ええ。実は……
口を開くけれど、静かにこぼされた言葉がそれ以上続くことはなかった。
吉琳:…ジル…?

(どうしたんだろう…)

不思議に思って見上げると、ジルはそっと歩みを止める。
そうして、不意に指を絡めるように私の手を取った。

(っ…)

指先から伝わってくる温もりに、鼓動が跳ねる。
ジル:…いえ、何もないですよ
ジル:ただ…今日は満月なので、貴女と見たくなったんです
そう言って、ジルが空を見上げる。
同じように空を見上げると、丸い月が白く輝いていた。
吉琳:ほんとだ…すごく、綺麗ですね
頷いて、そっと隣に立つジルを見る。
ジル:………

(…あ…)

柔らかく降りそそぐ月の光に照らされたジルの横顔は、
どこか憂いを帯びて見えた。

(やっぱり…今日のジルは、いつもと違う気がする…)

吉琳:ジル…本当に何かあったわけじゃないんですよね?
吉琳:私でよければ、話してください
そう言うと、こちらへ視線を戻したジルが、おかしそうにくすっと笑う。
ジル:大丈夫ですよ。それよりも、貴女の方は何も問題ないですか?

(伝えたいことがあるって、言われてたのに…)

憂いを、いつもの笑顔の裏に隠してしまったジルの様子に、胸が痛む。

(やっぱり…私じゃ頼りないのかな)
(いつも、ジルに相談に乗ってもらってばかりだったから…)

吉琳:…はい。私は大丈夫です
寂しさを悟られないよう微笑んで言葉を返す。
ジル:…そうですか
すると、穏やかに頷いたジルが、ふいに繋いでいた手を解き…―
ジル:…風が、強くなってきましたね
指先で優しく、頬にかかった髪をよけてくれる。

(っ……)

そんな何気ない仕草にも、今は胸が切なくなった。
ジル:そろそろ、帰りましょうか
吉琳:…はい
頷いて、差し出された手を取る。
結局、私はジルの本心を訊ねることも出来ないまま、
月明かりが照らす帰り道をゆっくりと歩きだした。

***

いつものように家の前まで送ってくれたジルに、改めてお礼を言う。
吉琳:ありがとうございました

(離すのが、少し名残惜しいけど…)

そっと手を解こうとすると、それを拒むようにジルの手に力が込められた。

(えっ…)

驚いて顔を上げると、ジルの真剣な瞳と視線が絡む。
ジル:貴女は…
ジルは何か言いたげに私を見つめるけれど、それ以上言葉は続かない。
吉琳:ジル……?
ジル:…いえ
何でもないというように緩く首を横に振ったジルは、
私の手を離し、胸ポケットから何かを取り出した。
ジル:渡しそびれるところでした。こちらを
ジルが手渡してくれたのは、小さな香水瓶だった。
ジル:リラックスと、安眠効果のある香りです
ジル:この前渡したのは、そろそろ無くなる頃でしょう?
吉琳:はい…ありがとうございます
吉琳:ジルの作る香水は、すごく素敵な香りだから嬉しいです

(何も言ってないのに、気づいて用意してくれたんだ…)

お礼を言うと、ジルが嬉しそうに目を細める。

(…でも、ジルは何を言おうとしていたんだろう…)

嬉しく感じながらも、
さっきのジルの言葉の続きが、少しだけ気にかかってしまう。
香水瓶を持つ手に思わずぎゅっと力が入ったその時、
そっとジルの影が重なり…―
ジル:貴女が、良い夢を見られるように
額に、優しい口付けが落ちた。
吉琳:っ……

(ただの習慣なのに…)

昔からの挨拶の『お別れのキス』にさえ、
密かに鼓動が高鳴ってしまう。
吉琳:ジルも…良い夢を見られますように
ジル:ええ、ありがとうございます。…それでは
(この道が、あまり明るくなくて良かった…)
頬が火照っているのを悟られなかったことにほっとしながら、
私は香水を胸に抱き締め、笑顔でジルに手を振った…―

***

(今日は、ジルに逢えて嬉しかったけど…)
(やっぱり、少し様子がおかしかった気がする…)

考えを巡らせながらベッドに入り、
ジルのくれた香水を、宙に吹きかける。

(…いい香り…)
(ジルの優しい気持ちが、伝わってくる気がする)

大好きな香りに包まれていると、
ふと、ジルが調香師になった時に、交わした会話が思い出された。

〝ジルと散策路を歩きながら、私はそっと呟く。〞
〝吉琳:…ごめんなさい…私、全然ジルの力になれなくて〞
〝ジルは子どもの頃から目指していた調香師になるか、〞
〝それ以外の職業に就くか、密かに悩んでいた。〞
〝けれど、私がそのことを知ったのは、ジルが道を決めてからのことだった。〞

〝(私はいつも、相談に乗ってもらっているのに…)〞

〝ジルの悩みに気付けなかったことが悲しくて、自然と足取りが重くなる。〞
〝立ち止まった私に、ジルが優しく笑いかけた。〞
〝ジル:そんなことありませんよ〞
〝ジル:ですが、力になりたいと言うのなら…こちらを貰って頂けますか?〞
〝そう言って、ジルが差し出してくれたのは、〞
〝上質なリボンがかけられた、美しい香水の瓶だった。〞
〝ジル:貴女が最初のお客様です。気に入って頂けると良いのですが…〞
〝吉琳:っ……〞
〝ジルの言葉に、胸がいっぱいになる。〞
〝もらったばかりの香水をひと吹きすると、〞
〝身にまとうだけで幸せな気持ちになる、優しい香りがした。〞
〝吉琳:…ありがとうございます。すごく、大好きな香りです…〞
〝吉琳:ジルの最初のお客様として、これからもずっと応援しますね〞
〝すると、ジルは優しい笑みを浮かべて…―〞

 

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第2話:

 

〝吉琳:ジルの最初のお客様として、これからもずっと応援しますね〞
〝すると、ジルは優しい笑みを浮かべて…〞
〝ジル:ええ。ずっと側で応援していてください〞

あの日のことを思い出すだけで、胸の中に、温かな想いが広がっていく。
けれど同時に、切なさもこみ上げた。

(ジルの支えになりたいのに、あの時と何も変わってない)
(明日はお店の定休日だし…ジルの家に行ってみよう)

側にいれば、少しは力になれることがあるかもしれない。
そんな小さな希望を胸に、私はそっと目を閉じた。

***

翌日、私は香水のお礼に焼いたお菓子を手に、ジルの家を訪れていた。
しかし、何度か部屋の扉をノックしても、何の反応もない。

(出かけてるのかな…?)

軽くドアノブに手を掛けると、鍵は掛けられていなかった。

(…あっ…)

自然と扉が開き、
部屋の奥の作業台に向かい、真剣な表情で香りを調合するジルの姿が見える。
ジル:………
ひたむきな眼差しに、とくんと鼓動が跳ねた。

(集中してる時は、近付いても全然気付かないんだよね…)

そっと部屋に上がらせてもらい、邪魔にならないようソファに腰掛ける。
そうして、黙々と手を動かすジルを見つめた。

(こういう表情、昔から変わらない…)
(やっぱり、素敵だな…)

見つめていると、次第に、よく知っている香りが部屋に漂い始めた。

(あ、これ…ジルがくれる香水の…)

落ちつく香りに包まれて、ついソファに深く身体が沈んでしまう。

(いつも、寝る時に使ってるから…)

そのうち、段々眠気が襲ってきて…―

***

吉琳:…ん……
ぎしりと、ソファの軋むわずかな音で緩やかに意識が浮上する。

(あれ…?)

同時に、心地の良い香りが鼻先をくすぐって…―
吉琳:…っ……
まぶたを開くと、ジルの顔がすぐ、目の前にあった。
ジル:…おはようございます
吉琳:お、おはよう…ございます
どうやら、ジルは私をベッドに運ぼうとしてくれていたらしく、
ソファの横で立膝をついていた。

(びっくりした…)

騒ぎ出す鼓動を聞きながら、ゆっくりと起き上がる。
吉琳:ごめんなさい…つい、うとうとしてしまって
ジル:貴女は昔から、遊び疲れるとすぐ寝てしまいましたから

(あ……)

ジルの言葉に、温かい思い出がよみがえる。
吉琳:…そうでした。それで、ジルのベッドで一緒にお昼寝したりして
ジル:ええ…ですが、もう軽々しく男の部屋で寝るものではありませんよ
言いながら、ジルはそっと私の隣に腰を下ろした。
その頬には、微かな苦笑が浮かんでいる。

(…呆れられてしまったかな)
(妹扱いされたくないって思ってるのに…)

ジルの前だと安心して、つい、昔と変わらない振る舞いをしてしまう。
吉琳:ジルだから…大丈夫です

(ジルは優しいし、それに…)
(…私のこと、女性としては見ていないはずだから…)

胸の奥がちくりと痛むのを感じて、思わずソファに乗せた手に力がこもった。
するとふいに、ジルの手がそっと私の手に重ねられ…―
ジル:…幼なじみといえど、私もただの男ですよ
からかうような調子ではなく、静かに紡がれた言葉に、鼓動が跳ねる。

(っ……)

吉琳:わ…私、紅茶淹れてきますね
火照った顔を見られたくなくて、
この場を離れようと勢いよくソファから立ち上がる。
すると、慌てたせいで、足がもつれてしまい…
吉琳:あっ…
ジル:っ、大丈夫ですか?
よろけた私をしっかりと支えて、ジルが訊ねた。
吉琳:…ありがとうございます
ますます頬が熱くなるのを感じながらお礼を言うと、
くすっと柔らかい笑みが耳をくすぐる。
ジル:本当に…目が離せませんね
ジル:紅茶なら私が淹れてきます。そこで待っていてください
そう言い残し、ジルが部屋を後にした。

(…さっき、ジルが手を握ってくれた時…)
(すごく、身体が熱かった…)

ジルに告げられた言葉が頭を離れず、鼓動が波打つ。
落ちつこうと深く深呼吸をして、私は、はっとあることを思い出した。

(あっそうだ…お菓子)

渡そうと思っていたお菓子を置いておこうとテーブルに近付くと、
豪華な書状が開いたまま置かれていた。

(え…『王宮専属』?)

偶然目に入った一文に、はっとする。
それは隣国の王宮から、専属調香師にならないかという誘いの手紙だった。

(すごい…ジルの腕が、そこまで認められたんだ)
(でも…この話を受けたら、もうウィスタリアには戻って来ないんじゃ…)

手紙を見てしまった後ろめたさと同時に、不安で胸がいっぱいになったその時…
ジル:出しっぱなしにしているとは…私としたことが
後ろから掛けられたジルの声にぴくっと肩が跳ねた。
吉琳:あっ…勝手に、ごめんなさい
ジル:いえ、構いません
紅茶をテーブルに置くと、ジルは真っ直ぐに私を見つめ…―
穏やかな表情のまま口を開く。
ジル:実は…以前作った香水が隣国の王にとても気に入って頂けたようで
ジル:専属調香師にならないかと誘われているんですよ

(っ……)

手紙以上に、ジルから直接伝えられた言葉が、胸に刺さる。
吉琳:すごい…ですね

(ジルが認められるのは、私も嬉しい)
(笑顔でおめでとうって言わないといけないのに…)

ジルがウィスタリアから去ってしまうことを思うと、とても苦しい。
吉琳:ずっとお仕事頑張っていたので…ジルが認められて良かったです
吉琳:…いつ、ここを経つんですか…?
精一杯の笑顔で訊ねながら、目の奥が熱くなった。

(どうしよう…ジルと離れてしまう日がくるなんて思ってもみなかった)

妹扱いのまま、変わらない関係を少し切なく感じていたけれど、
ジルの側にいられなくなるのに比べれば、些細な悩みに感じる。
ジル:…まったく…
潤む視界の中で、ジルが苦い笑みを浮かべた。
そっと伸ばされたジルの手が私の頬に触れ…―
指先で優しく私の目尻に滲んだ涙を拭う。
ジル:私がいなくなるくらいで泣くようでは…
ジル:心配で、貴女を置いては行けませんね
吉琳:っ、え…?
ジル:まだ、隣国に行くと決めていたわけではないですから
吉琳:そんな…

(だって…絶対嬉しいはずなのに…)

周りが見えなくなるほど、
真剣に調香に向き合っていたジルの姿が頭に浮かぶ。

(ジルの好きなところは、たくさんあるけど…)
(自分の仕事に真摯なところも、大好きなところの一つだから)

たとえ隣にいられなくても、ずっと応援したい。

(ジルが私を『最初のお客様』に選んでくれた時、そう決めた)
(私のせいで、ジルが気を遣っているのなら、)
(私がしっかりしないと…)

頬に一粒こぼれた涙を、気持ちを切り替えるように拭った。
そうして、まっすぐにジルを見つめ、笑顔で告げる。
吉琳:私だって、もう大人です。ジルがいなくても、大丈夫ですよ
ジル:…吉琳
ジルが少し困ったように、でも、とても優しく私を見つめた。
その眼差しに、余計に愛しさが募っていく。

(もう、こうしてジルの顔を見ることさえできなくなるかもしれないんだ)
(このまま離れてしまったら、きっと後悔する…)

そう想うと、自然と口から言葉がこぼれ落ちる。
吉琳:だって…好きな人の枷になりたくないですから
吉琳:ジルには、自分の行きたい道を進んで欲しいです
ジル:………
ジルが、驚いたように瞳を見開いた。

(やっと、言えた…)
(…両思いにはなれなくても、ジルが、前に進めるなら…それでいい)

そう思ったその時、
ふいに腕が引かれ、そのまま強く抱き締められる。
吉琳:…っジル……?
ジル:…貴女がしっかりしているのは知っています
ジル:本当は目が離せないのではなく…
ジル:私が、離したくないだけですよ

 

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吉爾分

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

そう思ったその時、
ふいに腕が引かれ、そのまま、ジルが強く私を抱きしめた。
吉琳:…っジル……?
ジル:…貴女がしっかりしているのは知っています
ジル:本当は目が離せないのではなく…
ジル:私が、離したくないだけですよ

(え……)

耳元に落ちる真剣な声に目を瞬かせていると、
ジルが、静かに私の瞳を覗き込む。
ジル:昔から、貴女は私の側を離れませんでしたね
ジル:あの頃は、無防備な貴女が心配で…
ジル:ただ、兄のように側にいてあげなければと思っていました
私を抱くジルの腕に、また、そっと力がこもる。
ジル:ですが…いつからか、その気持ちが変わり始めて…
ジル:時を重ねて、魅力的になる貴女を隣で見ているうちに
ジル:いつの間にか、貴女に惹かれていました
吉琳:ジル……

(ジルにとって、私は…ずっと妹のままだと思ってた)
(でも、そんな風に想ってくれていたなんて…)

信じられない気持ちになりながらも、嬉しさで胸がいっぱいになる。
吉琳:私も…私も、ずっとジルのことが…
言いかけたその時、ジルの指先が、軽く私の唇に触れた。
ジル:その言葉は、私に言わせてください

(っ……)

動揺する私に、ジルがふっと悪戯っぽい眼差しを向けて…―
ジル:ですが、その前に…
ジル:私が初めて貴女に香水を差し上げた日のことを、覚えていますか?
吉琳:…はい。とても嬉しかったので…
答えると、ジルが微かに頬を緩める。
ジル:私の贈った香水を大切そうに抱きしめる貴女の笑顔が、
ジル:背中を押してくれたんです
ジル:本格的に調香師になるための一歩を踏み出せたのは、
ジル:貴女のおかげですよ

(え……)

吉琳:そう、だったんですね…
驚きながらも、嬉しさに頬が緩む。

(良かった…)
(私、ジルの役に立てていたんだ…)

胸に、温かな喜びが広がった。
熱を帯びた頬が、優しい手のひらに包み込まれる。
ジル:吉琳の笑顔をこれからもずっと隣で見ていたいと、そう思います
ジル:…好きですよ
澄んだ瞳が私を見つめて、柔らかな声が続けた。
ジル:とても大切で…愛しています
吉琳:…っありがとうございます

(ずっと、誰より大切で…憧れの幼なじみだった)
(でも、この瞬間から…)

恋人同士と思っていいのだと、ジルの眼差しが教えてくれる。
私はジルの気持ちに応えようと、その広い背中に腕を回して…―
吉琳:私も…ジルが好き…
ゆっくりと言葉を紡いだ。
ジル:…やはり、嬉しいですね。貴女から、好きだと言われるのは
笑い混じりの甘い声が、耳元に落ちた。

(っ、そんなの…)

吉琳:昔からずっと…です。ジルのことしか見えないくらい
吉琳:優しいところも、仕事にまっすぐに向きあうところも…

(たくさんあって、言葉では伝えきれない…)

吉琳:ジルの全部が、大好きです
力を込めて言うと、ジルが軽く私の身体を離し、優しく見つめた。
ジル:これからも貴女を隣で支えたいと思っていましたが…
ジル:…いつの間にか一人でも大丈夫なほど、強くなっていたんですね
吉琳:…そんなことないです

(離れ離れになるのは、やっぱり辛い…)

吉琳:でも…好きな人のためなら、強くなれます
私は、ジルににっこりと微笑みかける。
吉琳:ジルの仕事が認められて嬉しいのは、私も同じです
吉琳:私はいつまでも、ここで帰りを待っていますね

(気持ちが通じ合った今なら、寂しさにも耐えられるはず)

そんな覚悟を抱いていると、ジルがくすっと笑みをこぼし…―
ジル:駄目ですよ
甘い声が耳元に落ちる。
吉琳:ジル…?
ジル:やっと想いが通じたのに、
ジル:このままここに貴女を置いていくなんて出来そうにありません
ジル:生まれ育った国を離れてほしいなどと…
ジル:貴女を思うと、昨日は伝えられませんでしたが…
腰に触れていたジルの手が、するりと離れていった。
それから私の手を取ると、足元に跪く。
ジル:…一緒に、来てくれますか?

(え……)

慈しむような眼差しに見上げられると、
訊ねたいことはたくさんあるのに言葉にならない。

(じゃあ…離れ離れに、ならなくていいの?)
(この先も、ジルの側にいられる…?)

嬉しさに滲む涙をこらえて、私は笑顔で答える。
吉琳:っはい…
吉琳:連れて行ってください
ジル:ええ。もう、離しません
きっぱりと告げて、ジルは口元に微笑を浮かべた。
ジル:これからの人生は幼なじみとしてではなく…
ジル:恋人として貴女をずっと、大切にします
そう続ける唇が、そっと、私の手の甲に寄せられて…―

(あ…)

誓うように、優しいキスが落とされた。
吉琳:…っジル…
愛しさに突き動かされるまま、立ち上がったジルに抱きつく。
吉琳:…私も、ジルを幸せにしたいです

(ジルが、私に幸せをくれたように…私も、お返しがしたい)

ジルの首に回した腕に力を込め、心からそう思う。
すると、ジルの指が、そっと私の髪を撫でた。
ジル:幸せなら、言葉では言い表せられないほど…たくさんもらっていますよ
吉琳:え…?
髪を撫でていた手が、うなじに触れる。
そのまま、引き寄せ合うように、優しく唇が重なった。
吉琳:…ん…
唇が離れて、まぶたを開くと、
胸が苦しくなるほど、優しい瞳でジルが私を見つめていた。
ジル:今、この瞬間も…
ジル:…愛おしくて、幸せで…
吉琳:ジル…

(ジルの言葉一つ一つが…すごく嬉しい)

吉琳:私も…ジルがいてくれるだけで幸せです
心からの想いを伝えると、ジルが嬉しそうに目を細め、
私の言葉に応えるように、甘い口づけが降りそそぐ。
閉じたまぶたに、熱くなった頬に、そうして唇にも二度目のキスが落とされた。
吉琳:…っ……
唇を食むような口づけは一度目より情熱的で、胸の奥が熱くなる。
鼓動が高鳴るのを感じながらジルを見つめると、
微かな熱を秘めた瞳が、私を見つめ返して…―
ジル:今夜は、私の全てで…貴女への想いを伝えさせてください


fin.

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:

 

そう思ったその時、
ふいに腕が引かれ、そのまま、ジルが強く私を抱きしめた。
吉琳:…っジル……?
ジル:…貴女がしっかりしているのは知っています
ジル:本当は目が離せないのではなく…
ジル:私が、離したくないだけですよ
吉琳:え……

(それって…私と同じ気持ちだと思っていいの…?)

呆然と見つめる私に、ジルは穏やかに言葉を続ける。
ジル:…昔から、妹のように思っていました
ジル:貴女を見守り、支えるのが、自分の役目だと
ジル:貴女が成長しても、その気持ちは、変わらなかったのですが…
ジルはそこで言葉を切ると、ふっと切なげな眼差しを私へ向ける。
ジル:気づいてしまったんです。
ジル:貴女に笑顔を向けられる度、気持ちが和らいでいる自分に
吉琳:私の…?
ジル:ええ。辛い時でも、貴女が隣で笑ってくれるだけで励まされて…
ジル:支えるはずが、逆に貴女に支えられていました
ジル:大分前から…私は貴女に惹かれていたんですよ
吉琳:っ嬉しいです…

(そうだったんだ…)
(何もできていないと思っていたけど…)
(そんな風に、ジルの役に立てていたなんて)

嬉しさが全身に広がり、同時に、甘い期待が胸を弾ませた。

(…私も、ジルにこの気持ちを伝えたい…)

吉琳:ジル、私も…
しかし、想いを最後まで告げるその前に、
ジルは私から身体を離し、寂しげに微笑んだ。
ジル:…きっと、吉琳の好きは、私のとは違いますよ

(え…?)

予想もしていなかった言葉に、はっと息をのむ。
ジル:貴女は、私を兄のように慕ってくれている
ジル:…その気持ちを、恋愛と、勘違いしているのではありませんか?
吉琳:そんなこと…っ
否定しようとする私を、ジルは眼差しだけでやんわりと押しとどめた。
ジル:先ほど言ったでしょう、『ジルなら大丈夫』だと

(あ…さっきの…)

軽々しく男の部屋で寝るものではない、と言ったジルの忠告が頭に浮かぶ。
ジル:兄のように思っていなければ、あんな言葉は出てきませんよ
吉琳:…っ……

(違う…そうじゃないのに)

分かってもらえないもどかしさに、胸が痛んだ。
ジル:…紅茶、冷めてしまいましたね
ジル:淹れ直してきます
沈黙を破って、ジルが立ち上がる。

(気持ちを押しこめていても、ジルには伝わらない…)
(今言わないと…もう、気持ちを伝えられなくなってしまう…)

吉琳:…ジルっ…
気がつくと、私は部屋を出ていこうとするジルの背中に抱きついていた。
吉琳:…私の気持ちは、昔からずっと変わりません
吉琳:昔から…幼なじみとしてじゃなくて、一人の男性として…ジルが好きです
言葉にしながら、私の胸は壊れそうなほどに騒いでいた。
ジルに触れている自分の体温が、一気に上がるのが分かる。

(でも、もう逃げない…)
(どうか、この気持ちがジルに伝わりますように…)

祈るような想いでいると、
ジルの服を握り締めていた私の手に、温かな手が重なった。
顔を上げると、ジルはゆっくりとこちらを振り返る。
ジル:吉琳…
ジル:…分かっていなかったのは、私の方でしたね
微かに驚きを滲ませながらも、ジルが、優しい笑みを浮かべた。
そうしてゆっくりと振り返ったジルが、正面から私を抱きしめた。
吉琳:あの、ジル…?
状況についていけないまま名前を呼ぶと、
ジルが穏やかに口を開く。
ジル:貴女にそんな顔をさせるとは…恋人失格でしょうか

(恋人…?)

鼓動が跳ね、ジルの胸に埋めていた顔を上げると、
慈しむような瞳が私を見つめていた。

(私の想い…ちゃんとジルに通じたんだ…)

吉琳:失格だなんて…そんなこと、ありません
嬉しさで声が詰まるのも気にせず、言葉を続ける。
吉琳:ジルは、最高の恋人です…
ジルを見つめ返し、私はそっと微笑んだ。
すると、ジルもどこかほっとしたように笑みを返してくれる。
ジル:では、そのまま聞いてください
吉琳:……はい

(なんだろう…?)

不思議に思いながら、小さく頷く。
そうして見つめ合ったまま、ジルが穏やかに口を開いて…―
ジル:明日、隣国に発とうと思います
吉琳:っ……はい
胸が、ぎゅっと締めつけられるような心地がした。

(わかっていたことなのに…)

ジルが、自分の望む道に進んでくれるのは、嬉しい。
それなのに、どうしても寂しさが勝ってしまい、涙がこみ上げそうになる。

(ちゃんと…こらえないと)

吉琳:応援して、ますね
吉琳:私、ジルの帰りをずっと待っていますから…
寂しさを震える声に押しこめて、ジルを見つめる。
すると、ジルはふっと表情を緩めた。
ジル:ありがとうございます。ですが、ずっと待つ必要はありませんよ
吉琳:え?
ジル:すぐに、貴女の元へ帰ってきます
ジル:望まれた品を献上して、
ジル:専属調香師のお誘いをお断りしたら…ですがね
どこか楽しげに告げられた言葉に、驚きが広がっていく。
吉琳:そんな…とても、名誉なことなのに…
ジル:大切な恋人を一人残して、この国を離れるわけにはいきません
吉琳:っ…でも

(ジルがここに残ってくれるのは嬉しいけど…)
(本当に、いいのかな…)

離れずに済むのは嬉しいことのはずなのに、
ジルの気持ちを想像すると、複雑な想いが胸に押し寄せる。
ジル:…吉琳
何も言えずにいると、ジルの手がそっと私の頬に触れて…―
ジル:王宮での職も魅力的ですが、
ジル:ウィスタリアにもたくさんのお客様がいてくださいますし…
ジル:それに、貴女以上に手離したくないものなど、この世にありませんよ
吉琳:ジル……
私を見つめるジルの口元に、優しい笑みが浮かんだ。
ジル:私は吉琳の隣で…
ジル:一緒に育ったこのウィスタリアで、
ジル:自分の仕事に向き合いたいと思います
ジル:仕事を終えたら貴女の可愛い寝顔が待っている今の生活も、
ジル:とても気に入っていますからね

(っ、もう…)

からかうような言い方にさえ、愛しさがこみ上げる。
吉琳:…いつもは、ちゃんと起きてます…
拗ねたようにそう言うものの、声には喜びが滲んでしまう。

(ジルと一緒にいられることが、こんなにも嬉しい…)

緩む頬をそのままに喜びをかみしめていると、
額に優しいキスが降ってきた。
ジル:ええ…起きていても、寝ていても…
ジル:貴女の存在が、私の幸せであることに変わりはありません
ジル:これからも、私の隣で、笑っていてくださいますか?
吐息の触れそうな距離のまま、投げかけられた問いかけに、深く頷く。
吉琳:もちろん…これからもずっと、側にいます
微笑み合うと、ごく自然に、ジルの唇が私の唇に重なった。

(一緒にいれば、)
(ジルが好きだと言ってくれた笑顔が絶えることはないから…)
(こうしてずっと…ジルの隣で応援して、支えていきたい)

ジルの作った優しい香りが漂う部屋の中で、
私たちは秘めていた想いを伝え合うように、口づけを繰り返した…―


fin.

 

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エピローグEpilogue:

吉爾後

これは、『幼なじみ』から『恋人』になった彼との、
秘密の夜の続き…―
………
……
ジル:今夜は、私の全てで…貴女への想いを伝えさせてください
涙をぬぐうように、ジルがあなたの目元にそっと口づけて…
ジル:これから…貴女には、色々なことを教えないといけないようです
ジル:ですが、まずは…私を感じることだけ、覚えてください
……
………
肌を掠める吐息は徐々に熱を持っていき…―
心が疼く二人きりの夜に、身を委ねてみませんか?

 

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