新版王宮 本篇轉蛋(本編プリンスガチャ):シド

本編プリンスガチャ

◆ 恋の予感 
  『強引な口移し』
◇ 恋の芽生え 
  『月明かりの下で秘密のキス』
◆ 恋の行方 ~夢見るプリンセス~ 
  『じゃじゃ馬に惚れさせられる』
◇ 恋の行方 ~恋するプリンセス~ 
  『契約と報酬』
◆ 恋の秘密 
  『長い賭け事』

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◆ 恋の予感 
       『強引な口移し』

 

――…不穏な夜が嘘だったかのように、青空の広がる朝
…………
シド 「で、まだ答えを聞いてねえが体調はどうなんだよ」
吉琳 「…まだ少し頭がくらくらする」

(…ずいぶん警戒してはいるが、嘘は言ってなさそうだ)

シド 「顔色は悪くねえな」
表情を確認し、懐から小さな薬を取り出す。
シド 「お前が嗅がされたのは眠らせる効果だけだと思うが」
シド 「念のため薬もらってきてやったから、これ飲んどけ」
吉琳 「この薬は?」
シド 「城の薬理学者にもらってきた安定剤だ」
吉琳 「安定剤…」
不安そうに薬を見つめる吉琳に、頭の後ろを掻く。
シド 「あんなことの後で不安なのはわかるけどよ、危ないもんじゃねえから飲め」
吉琳 「うん…」

(ま、薬嗅がされた後に薬飲めって言われても、そういう反応になるか。だが…)

昨夜吉琳に薬を嗅がせた犯人を調査していたせいで、
眠気は頂点に達している。

(おとなしく飲むまで待ってらんねえ…)

シド 「ったく、めんどくせえな」
シド 「――貸せ」
吉琳 「え?」
舌打ちをし、戸惑う手から薬を奪い取って薬を口に含む。
テーブルに置いたコップから水をあおり、
呆然とこちらを見つめる吉琳の顎を持ち上げ、唇を重ねた。
吉琳 「……ん、っ……!?」
吉琳の体に力が入り、手が胸を押しのけようとしてくる。

(…ま、抵抗するよな)
(けど、こっちも飲むまで離す気はねえんだよ)

胸に置かれた両手を片手で拘束し、顎に触れる指で口を開かせ薬を流し込む。
吉琳 「ん…、んっ」

(ったく…おとなしく飲み込めばすぐ終わるってのに)

シド 「…………」
深く唇を重ねると鼻にかかった声が聞こえ、飲み込む微かな音が聞こえた。
シド 「よし、飲み込んだな」
体を離した瞬間、真っ赤な顔で睨みあげてくる。
吉琳 「し……信じられない! 何てことするの!?」
シド 「あ? 素直に飲まねえお前が悪いんだろ」
吉琳 「だからって、こんな…!」
シド 「うるせえ。俺は寝不足で気が立ってんだ、これ以上わめくな」

(強引だったにしろ、口移しくらいでこんだけ騒いで、慣れてねえのか?)

この反応は悪くない、そう思うものの、
今はからかうよりとにかく睡眠が欲しい。
ベッドに横になると、そばに座る吉琳がまた声を上げる。
吉琳 「ちょっと、まだ色々説明してほしいことがあるんだけど…!」

(…こいつ、元気じゃねえか。薬飲ませる必要なかったかもな)

シド 「少し眠るから黙れ。まだうるさくする気なら、もう一度その口塞いでやる」
適当な言葉を告げると、吉琳の顔の赤みが首筋まで広がる。
吉琳 「お、横暴…!」
シド 「横暴で結構。言い返す元気があるなら大丈夫そうだな」
シド 「人のベッド散々占領してたんだから、もう眠くねえだろ。邪魔だ」
吉琳 「ちょっ……え!?」
シーツをめくり、座っていた吉琳をベッドの外に押しやる。
シド 「俺が寝てる間、家の物は好きに使え」
シド 「ただし、一人で城に戻ろうとはすんなよ」

(どうせすぐ寝ちまうが…起きてたらうるさそうだ)

狸寝入りを決めて背を向け、寝たフリをする。
背中から、絶句する気配が伝わってきた。
吉琳 「信じ、られない…」
小さな呟きに無意識に笑みが浮かぶ。

(こんな反応するなんてな…)
(こいつ、やっぱ面白え)

頭の片隅でそんなことを考えながら、
意識を覆い始めたまどろみに沈んでいった…――

 

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◇ 恋の芽生え 
       『月明かりの下で秘密のキス』

 

――…急に降りだした雨がウィスタリアを包む夜
…………

(いきなり降ってくるとか、ついてねえ…)

携帯電話で吉琳と教会にいることをジルに伝え、ポケットに仕舞い込む。
シド 「外が落ち着くまで、ここで大人しくしてた方がよさそうだな」
シド 「ジルに連絡入れといてやった。待ってりゃ、じきに城からお前の迎えが来んだろ」
吉琳 「うん…ありがとう、シド」
教会の椅子に座ると、吉琳も隣に腰を下ろした。
教会の中に視線を巡らせる吉琳を横目に見つめる。

(ただ見守るだけのつもりが、また手出しちまった…)

今日の夜会も、本当なら遠くから見守り、
万が一何かが起きた場合に手を差し伸べるつもりだった。

(なのに、転びそうになったくらいで助けちまうなんてな)

ふいに、吉琳の濡れた前髪からぽたりと雫が落ちる。
その瞬間、自然と言葉がこぼれていた。
シド 「巻き込んで悪かったな」
吉琳 「巻き込んでって…カジノでのこと?」
シド 「ああ。お前をダシに使ったからよ」
吉琳は緩く首を振ると、唇に微かな笑みを浮かべた。
吉琳 「ううん…危険なことはなかったし、少しでも役に立てたなら嬉しいよ」
吉琳 「でも、私もお屋敷を出てきちゃってよかったの?」
シド 「関係者だって疑われてもいいなら戻してやるぜ?」
吉琳 「…遠慮しておきます」
軽口を叩くと、吉琳がどこかほっとしたように表情を緩める。
吉琳 「…ねえ、シドが任された仕事はこれで終わり?」
シド 「一旦は…な。まだ決着ついてねえもんもあるし、またすぐ別の依頼が入るだろうが」
吉琳 「そっか…」

(…こんな場所で見るからか…、それとも雨に濡れてるせいか…?)

静かに受け答えをする吉琳の横顔が、
いつもとはどこか違って自分の目に映る。

(なんか、こいつが静かだと調子狂うな)
(頼りねえっつーか…手、伸ばしたくなる)

思った時には手を伸ばしていて、指先が髪に触れそうになった時、
突然吉琳が顔を上げた。
その目が、どこか眩しそうに細められる。

(なんだ……?)

視線を追うと、いつの間にか雨が止んだらしく、
ステンドグラスを透かして月明かりが、教会の床に模様を描いていた。
吉琳 「…なんだか、夢を見てるみたい」
シド 「夢…?」
吉琳 「うん…プリンセスに選ばれて、こんな風にドレスに身を包んで…」
吉琳 「この国に来る前は、違う景色を見たいと思っただけなのに…ずいぶん遠くに来たような気持ち」
言葉通り夢を見るように月明かりを見ていた吉琳が、ふいに瞼を閉じる。

(こいつ、もしかして眠いのか…?)

そう思った瞬間、頭が不自然に大きく揺れて、とっさに体を支えた。
シド 「おい…ったく、しょうがねえな」

(どうせ城から迎えが来るまで、もう少し時間がかかるだろうしな…)

頭を肩に引き寄せ、もたれかからせる。
すると、見下ろす吉琳の唇が安心したように弧を描いた。

(もう夢心地かよ……)

体を預けてくる温もりに、胸の中に甘い感覚が芽生える。
シド 「今だけだからな」

(……今だけ)
(突き離さねえで…お前を甘やかしてやるよ)

そっと頭を撫でると、吉琳の口元がさらに綻ぶのが見える。
息をひそめて流れる時間に身を任せていると、
小さく寝息が聞こえ始めて薄く笑みを浮かべた。
シド 「違う景色を見たかっただけ…ね」
シド 「ほんとに普通の女なんだよな」
きっと、自分とはまったく違う人生を生きてきたのだと思う。

(どこまでも真っすぐで平凡…なのに、何でだろうな)

ときどき、その平凡さに心地よさを感じている自分がいる。

(違いすぎてわかり合える気なんてしねえのに)
(こいつは、突き放しても諦めずに知りたいと向かってくる)
(この小せえ体のどこに、そんなエネルギーがあんのかね)

さっきは触れ損ねた髪を手に取り、そっと手ですいていく。
シド 「…安心しきった顔で寝やがって」
シド 「んな無防備にしてっと、襲っちまうぞ…?」
耳元で囁いてみても、変わらず穏やかな寝息が続く。

(応えねえ…か)

シド 「しょうがねえ奴…」
微かに感じる安堵と共に、なぜか残念な気持ちが混じりあう。
シド 「遠くから見守る…それが命令だったってのに」
シド 「何でいつも手伸ばしちまうんだろうな…」

(俺はこいつを、どうしたいんだろうな…)
(もし今こいつに触れたら…気持ちがわかんのか?)

相反する気持ちの答えを求め、
吉琳の額にかかった前髪を払う。
そして、額にそっと唇を押し当てた。
シド 「…………」
唇を離し、やっぱり変わらず寝息を立てる吉琳に、苦笑する。

(こんなんでわかるわけねえってのに…)

シド 「…ほんと、何してんだかな」
小さな声で呟き、顔を上げる。
さっき見た吉琳の横顔を思い出しながら、
月明かりの降り注ぐステンドグラスを見上げた…――

 

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◆ 恋の行方 ~夢見るプリンセス~ 
       『じゃじゃ馬に惚れさせられる』

 

――…深い夜の気配に包まれた森の奥
自分の隠れ家で、吉琳の強い眼差しと向き合っていた。
…………
吉琳 「さっき、あの時のキスは忘れろって言ったよね」
吉琳 「ならこれも…犬に噛みつかれたと思って忘れて」
細い手がシャツの襟を引き寄せ、唇に柔らかな感触が押し当てられた。

(こいつ…)
(震えてんのに、なにしてんだ…)

初めて吉琳から受け取るキスは、決して甘いものではなく、
襟を掴む手と触れる唇が、怒りより切なさを伝えてくる。
目を閉じると、涙を湛えた瞳が蘇った。

*****
吉琳 「シドは、勝手すぎるよ…」
シド 「あ? 勝手ってなんだよ」
吉琳 「だって、帰れって言ったくせに、今は優しい顔して…っ」
*****

(勝手…ね。その通りだな)
(ほんとは帰れなんて思ってねえが、今は…)

吉琳の切なさが移ったようにもどかしさが募り、
ゆっくりと唇を動かして下唇を甘く噛む。
吉琳 「っ……」
びくりと肩を揺らして離れると、吉琳は戸惑うように眉を寄せた。
吉琳 「なっ、何するの…?」
シド 「自分で仕かけてきたくせに、何怒ってんだ」
吉琳 「それは、シドの気持ちがわからないから…」
吉琳 「なんで、やり返すの…意味がわからないよ」
白くなるほど手を握りしめた吉琳が顔を上げた時、
その瞳に鮮やかな怒りの色が浮かぶ。
ようやく見えた吉琳らしい表情に、口の端を上げた。

(そうだ…こいつに落ち込んだ顔は似合わねえ)

ここ最近、ずっと吉琳の様子はおかしかった。
思い詰めたような瞳で、逢えば無理な笑みを浮かべる。

(原因を作ったのが俺だってのはわかってる…)

だからこそ、吉琳の勝手と言う言葉は受け止める。

(それでも、こいつに気持ちを伝えんのは今じゃねえ)

この想いは、プリンセスとしての100日間が終わった時、
ただの吉琳に伝えなければ意味がない。

(最初は国王の犬として、役目で一緒にいたが…今はそうじゃねえ)

プリンセスだからそばにいたのではなく、
吉琳を守りたいからそばにいたのだと、その時に告げる。

(今まで散々突き放してきたからな…)

それくらいしないと、きっと吉琳は自分の言葉を信じられないのではないかと思う。

(それに…今は俺より国のことに集中させてえしな)

シド 「ようやく、らしい顔になってきたじゃねえか」
吉琳 「え?」
シド 「じゃじゃ馬が一人前に我慢なんかしてんじゃねえ」
シド 「お前はそうやって、素直に怒ったり笑ったりしてろ」

(そういう裏表のねえお前だからこそ…)
(国民もきっと、本物のプリンセスになってほしいと望む)

目を見開いた吉琳が、くしゃりと泣きそうに顔を歪めて俯く。
しばらく黙りこんでいたかと思うと、顔を上げて……
吉琳 「…もう頭にきた」
シド 「あ?」
頭にきた、そう言ったはずの吉琳の唇には、
決意を秘めた笑みが浮かんでいた。
吉琳 「――決めた。シドを私に惚れさせる」
シド 「……あ?」

(俺を惚れさせる…?)

吉琳 「国に帰るまでの残りの期間で、絶対に好きにさせてみせる」

(…ったく、さっきまで泣きそうだったくせによ)

こうと決めたら揺るがない眼差しの強さに、内心で笑みを浮かべる。

(けど、好きにさせてみせる…ね)

シド 「無理だろ」
吉琳 「無理じゃない! もう決めた」
決意を宿した瞳が顔を覗き込んでくる。
吉琳 「帰るなって、お前が大切だって言わせてみせる…本気だから、覚悟して」
吉琳 「じゃじゃ馬に惚れさせられたって、後で後悔することになるんだから」
そう言い置いて、吉琳は隠れ家から颯爽と出て行く。
背中を見送り扉が閉まったところで、堪えきれずに吹き出した。
シド 「くっ……あいつ」

(普通ああいうこと、喧嘩腰で言うか?)

強い口調で告げられたのは、とびきり甘い告白だ。

(ほんと面白え…だが)

シド 「…言いたいことだけ言って出ていきやがったな」
呟くと、部屋の隅にいたジャスが近づいて、
お前がたきつけたんだろ、とでもいうように吠えてくる。
その頭をなだめるように撫でながら、自然と言葉が口を突いて出る。
シド 「あいつ、ほんと退屈しねえな」
シド 「今さら惚れるとか無理だろ。なあ、ジャス?」

(俺はあいつに…――)

シド 「…もうとっくに、惚れてるってのによ」
ふと視界の端で光るものに気づき、体を屈めて片方だけのピアスを拾う。
シド 「そういや、あいつの耳に付いてたな」
さっきキスをされた時に耳元で光っていたことを思い出し、口元を緩めた。
シド 「…やっぱりあいつ、そばに置いておきてえな」
シド 「だが、それも面倒ごとが全部片づいてからだな」
テーブルに置いた新聞に目を向けると、
吉琳が主催した劇の公演が評判だと書かれた記事が目に入る。

(これが全部終われば…)

きっと吉琳はこの国の誰もが望むプリンセスになっているはずだ。

(簡単に国には帰してやらねえ)

全部に決着がついた時…
それがきっと、吉琳への気持ちに決着をつける時にもなる。

(けど、今は……)

シド 「こっちがボルジアより優勢に立つにはもう一歩…ってとこか」
手のひらでピアスを包み、吉琳の言葉を思い出す。

*****
シド 「で、お前が浮かない顔してんのは何でだ?」
吉琳 「…実は、ウィルツの国王陛下からだけは協力を得られなくて」
*****

シド 「少しだけ…手を貸してやるか」

 

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◇ 恋の行方 ~恋するプリンセス~ 
       『契約と報酬』

 

――…腰が抜けた吉琳を肩に担ぎ、部屋に送り届け…
…………
シド 「…なあ、お前俺と契約結んでみるか?」
吉琳 「契約?」
シド 「ああ。情報屋としての俺を雇ってみる気はねえかってことだ」
吉琳 「え…」
腕を組んで扉に背中を預け、驚いた顔の吉琳を見つめる。
シド 「今回俺が冤罪で捕まりそうになってるって聞いて」
シド 「各国で俺を手伝いてえって言ってる連中がいる」
吉琳 「もしかして、昔孤児で集まって生活してた人たち…?」
シド 「…そうだ。ずっと力を借りるのを断ってきたが、今はそうも言ってられねえからな」

(事実ではないにしろ、あの当主の嘘の告発で、俺は査問会まで拘束されるはずだ)
(そうなるとしばらくは自由に動けねえ。代わりの手足が必要だ)
(その役目を、こいつに頼む)

正直なところ、拘束されていても自分の無実を証明するため、
必要な情報を集めるよう頼める相手はいる。

(だが、今回はあえてそうしねえ)

目的は、あくまでも吉琳に情報を買わせ、その先にある報酬を得ることだ。
シド 「あいつらの協力を得られれば、きっと違法薬物の件は早々に片づく」
シド 「だが、俺は告発された件でしばらくこの国から出られねえ。そいつらのとこに行くのは無理だ」
シド 「時間をかけりゃ俺だけでも何とかできるかもしれねえが…」
言葉を切り、口角を上げて吉琳を見下ろす。
シド 「お前は、自分がプリンセスでいられるうちに解決してえんだろ?」
吉琳 「…うん」
シド 「だから、最短で解決するために、そいつらの居場所の情報を俺から買え」
シド 「で、お前がそいつらの協力を得てこい」
緊張した様子で手を握り締めていた吉琳が、目を見開く。
吉琳 「それ…私がシドを助ける協力をしていいってこと?」
シド 「ああ、だってお前止めても何とかしようとすんだろ」
その瞬間、吉琳の瞳が戸惑いに揺れた。
吉琳 「シドは国王陛下の影なのに、私に雇われていいの…?」
シド 「お前、あんだけ俺のこと知りたい知りたい言ってた割に、覚えてねえんだな」
吉琳 「え?」
口角を上げたまま顎を掴み上げると、焦ったような声が響く。
吉琳 「シド…っ」
シド 「確かにロイド=グランディエは国王の犬だが、シドはそうじゃねえ」
シド 「報酬さえもらえば何でもやる情報屋だ」
シド 「報酬をきっちり寄越すなら、何でもしてやるぜ?」
吉琳を国に帰さず、自分のそばに置いておきたい…これが本音だ。

(俺はこいつが国のために頑張る姿を気に入ってる)

そしてその頑張りは、きっとこれからもこの国を支えていくと思う。

(だからこそ、どっちも失わねえように動かねえとな…)

情報を与え吉琳自身に行動させることで、
吉琳のプリンセスとしての価値はまた一つ上がるはずだ。

(そのために、俺は今回自分では動かねえ)
(けど、この件が落ち着いたら…)

その時には…――報酬と引き換えに吉琳の心を求める。

(…ま、散々突き放した俺を、こいつは選ばねえかもしれねえが)

もしそうなった時、自分がどうするかはまだわからない。
けれど、自分を知ろうとめげずに追い続けた吉琳のように、
今度はこっちが吉琳を追ってみるのも悪くないかもしれない。

(それはそれで、退屈はしなさそうだ)

考えを巡らせていると、黙り込んでいた吉琳が静かに口を開いた。
吉琳 「…わかった、契約する」
吉琳 「シドの情報が欲しい。私に力を貸して」

(…目的まで一歩前進、だな)

シド 「おい、報酬の内容も聞いてねえのにそんな簡単に決めていいのか?」
吉琳 「…どんなに高い報酬でも払うよ」
吉琳 「その情報に、あのボルジア家の当主を止められる可能性があるなら、すがりたい」
吉琳 「それに、この国のために…」
吉琳 「今は絶対に、シドのその情報が必要だと思うから」
誰かのために…そんな理由で真っすぐな目を向ける吉琳に、わずかに息を呑む。
その前を見据える姿に、ひどく心が揺さぶられた。

(…こういうとこ、いい女だよな)

シド 「…お前がそこまで言うとはな」
そう言うと、吉琳は唇に笑みを滲ませた。
吉琳 「ねえ、シド。報酬はそっちで勝手に決めていいから…」
吉琳 「代わりに一つ、条件をつけさせてくれない?」

(条件…?)

シド 「内容次第だが聞いてやる。言ってみろよ」
声に微かな緊張を含んだ吉琳が、目を逸らさずに言葉を紡ぐ。
吉琳 「この件が解決するまで、絶対に無理はしないで。…自分を大事にしてほしい」
吉琳 「これが最後まで守れなかったら報酬は払わない…どう?」

(…どこまでも優しい奴)

以前なら鼻で笑っていたような言葉も、想いを自覚した今は笑えない。
向けられる感情に喜びさえ感じる自分に、苦笑がこぼれた。
シド 「…じゃじゃ馬には言われたくねえ言葉だな」
シド 「――いいぜ、契約成立だ」
この契約を一歩に、望むものをすべて手に入れる。
この国のために、プリンセスとしての吉琳を。
そして、自分のために…――吉琳の心を。

 

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◆ 恋の秘密 
       『長い賭け事』

 

――…ウィスタリアに、穏やかな雨が降り注ぐ夜明け前
…………
まどろみの中、雨音に混じって遠くから微かな声が響いてくる。
リース 「――言っとくけど、馬鹿はお前もだからな」
シド 「あ…?」
リース 「何でも器用にこなせるからって、過信するのがお前の悪い癖だ」
リース 「いつだって自信満々で余裕で、みんなのこと守って…」
リース 「見てて頼もしいって思うけど、ならお前のことは誰が守るわけ?」
リース 「相談しろ、一人で何とかしようとすんな」
リース 「ほら、わかったら親友のリース様にどんな危ない真似してんのか白状しろ」
??? 「…ド……、シド」

(…ん……、……)

吉琳 「シド、大丈夫…?」

(……吉琳)

吉琳 「なんだか少し苦しそうだったから…」
心配そうに顔を覗き込む吉琳の頭を胸に引き寄せ、髪を撫でる。
シド 「ああ、何ともねえよ」
吉琳 「そっか…起こしてごめんね」
シド 「いや……」

(今の夢…あいつが逢いに来いって言ってんのかもな)

シド 「…なあ、お前今日時間あるか?」
吉琳 「え? 午後なら大丈夫だけど…」
シド 「なら、午後から出かけるぞ」
吉琳 「いいけど、どこに行くの?」
シド 「ちょっとな…逢わせてえ奴がいるんだよ」

***

――…降り続いた雨が晴れ、陽差しが降り注ぐ午後
吉琳 「ここ……」
シド 「…確かこっちだな」
吉琳がついて来ているのを確認しながら、目的の場所に向かう。
戸惑う様子を見せない吉琳は、
『逢わせたい奴』が誰なのか気づいているのかもしれない。
シド 「…ここだ」
墓石の前で足を止めると、そこにはリースの名前が刻まれている。
吉琳 「やっぱり…逢わせたい人って、リースさんだったんだね」
吉琳 「いつも来てるの?」
シド 「いや、ここに来るのは初めてだ」
吉琳 「え、初めて?」
シド 「ああ…」
孤児だったリースのために墓を立ててくれたのは、養父と国王だ。

(墓があることも場所も知ってたが…)

何年もずっと、ここに足を向けられなかった。
吉琳 「言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど…」
吉琳 「どうしてずっと来なかったの…?」
シド 「リースが何で俺をかばったのかわからなくて苛ついて、ずっと腹を立ててたからだ。けど…」
シド 「お前のために体が自然と動いた時、初めてリースの気持ちがわかった」

*****
シド 「…お前が、目の前で連れて行かれた後」
シド 「役目も忘れて必死で走り回って…何してんだって、考えてたけどよ」
吉琳 「今そんなこと言ってる場合じゃ…」
シド 「…いいから、聞け」
シド 「今やっと、あいつの…リースの気持ち、わかった」
シド 「きっと今の俺と同じ気持ち…っ、だったんだろうな…」
*****

(あいつがくれた気持ちから目を逸らして…)
(…本当は事実から逃げたかっただけかもしれねえな)

孤児で集まり生活する仲間をきっかけに始めた仕事で、
目的を果たすどころか仲間を失った。

(目的を果たすために、切り捨てることも必要…ずっとそう思ってやってきた)

静かにリースの墓石を見つめていた吉琳が、そっと手を握ってくる。
その温もりに、無意識に口元が綻んだ。

(きっと今こいつ、すげえ心配してんだろうな)
(だが…もう自分の中で、気持ちの決着はついてる)

今は苛立ちもやるせなさもない。
穏やかな気持ちでリースと向き合えるのは、
きっと隣に立つ吉琳のおかげなのだと思う。

(こんなこと、口には出さねえけどな)

手のひらの温もりを感じながら、リースの墓石に向かって言葉をかける。
シド 「ずっと来なくて、悪かったな」
吉琳 「シド…」
握る手に力を込める吉琳の顔を見つめる。

(失うものが何もなければ、自由…そんな風に思ってたが)

失う怖さを知っていることで、前に進めることもある。
大切なものを守るため…その想いが、力になることもある。

(それを…リースとこいつに教えられた)

不安そうに見上げてくる吉琳に目を細め、腰を引き寄せる。
吉琳 「…っ…シド?」
シド 「いま隣にいるこいつは、お前みてえに俺を守りたいなんて言うおかしな女だ」
シド 「けど…こういう言葉を寄こすこいつを…」
シド 「吉琳を、俺もずっと守りてえと思う」
吉琳の息を呑む声を聞きながら、苦笑が浮かぶ。

(こんなこと言ったら、リースの奴大笑いしそうだが…)

シド 「だからお前が守ったこの命は…――無駄にしねえよ」

***

リースの墓参りの後、吉琳はしばらく下を向いて黙りこんでいた。

(何考えてんだか知らねえが、またいらねえ心配してそうだな…)

シド 「おい、お前…」
顔を覗き込もうとすると、ぱっと吉琳が顔を上げた。
吉琳 「え、なに?」

(…落ち込んだ顔でもしてんのかと思ったが)

むしろそこには、何かを決意したような強い眼差しがある。
シド 「黙りこんで、何考えてたんだよ」
吉琳 「それは…」
目を逸らす吉琳の両頬を片手で挟み、顔を戻させる。
吉琳 「ひゃめへよ…っ」
シド 「くっ…何言ってるかわかんねえ」
笑いながら手を離すと、軽く睨まれる。
シド 「で、白状しろよ。何考えてたんだ?」
吉琳 「……笑わない?」
シド 「そりゃ内容聞いてみねえとわかんねえな」
吉琳 「もう……」
不満そうに眉を寄せたものの、吉琳は真っすぐにこっちを見上げた。
吉琳 「…さっきのシドの言葉を聞いて、今まで以上に頑張らないとって思ってた」
シド 「あ? 頑張るって、何をだよ」
吉琳 「いろいろあるけど…シドもこの国も支えられるように、もっと成長しなきゃって思ったの」
吉琳 「あんなかっこいいこと言えちゃうシドに、1日でも早く追いつかなきゃ」

(それでさっきの目か…)

シド 「やってみろよ、簡単には追いつかせねえけどな」
想いも眼差しも、どこまでも真っすぐな吉琳に、
惹かれる気持ちは日ごとに増していく。

(けど、そういうのに気づいてねえうちは…まだまだ俺の勝ちだな)

吉琳との恋は、長い賭け事のようなものだ。

(お互い結果なんて見えてんのに、馬鹿みてえなことしてるよな)

けれど、この関係が自分には心地よく…もう手離せないものになっている。

(じゃじゃ馬の手綱握るつもりが)
(繋がれたのは俺の方だったのかもしれねえな…)

 

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