小標

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ミステリー・オブ・ラブ~魅惑の仮面舞踏会~(ジル)

標

ユーリから渡された、1枚の封筒…
それは、ミステリアスな仮面舞踏会への招待状だった…―
………
……
ジルが、あなたにそっと仮面を着け…―
ジル:今夜は、教育係とプリンセスではなく…
ジル:ただ恋人同士として、私と過ごして頂けますか?
………
……
顔を隠した恋人に手を取られ、
あなたは不思議でロマンチックな一夜へと誘われる…―

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文案

プロローグ:

星がきらめく、ある夜のこと…―
執務室の椅子に座っていると、ふいにノックの音が響いた。

(…誰だろう?)

返事に答えるようにドアが開いて、ユーリが部屋に入ってくる。
ユーリ:吉琳様、舞踏会の招待状が届いたよ
吉琳:ありがとう
ユーリから封筒を受け取り、封を切る。
中から出てきたカードには、綺麗な飾り文字で案内が書かれていた。
吉琳:『仮面舞踏会』…?
文字を読みあげると、ユーリが私の横からカードを覗き込んだ。
ユーリ:うん。知ってるかもしれないけど、全員が仮面を着用して参加するんだ

(全員が…?)

吉琳:それじゃあ、誰が誰だか分からないの?
ユーリ:そう。だからこの夜は、身分もパートナーの有無も関係なく、
ユーリ:誰でも舞踏会に参加できるんだ

(そうなんだ…)

ユーリ:『プリンセスも、ぜひお忍びで遊びにいらしてください』ってさ
ユーリ:面白そうでしょ?
ユーリの悪戯っぽい笑みに、私の胸も弾む。
吉琳:うん、楽しみだな

(どんな舞踏会になるんだろう)

ユーリ:ただ、ちょっと気になる話を聞いたけど……
ふいに表情を曇らせて、ユーリが小さく呟く。
吉琳:気になる話?
ユーリ:…ううん、何でもない。ただの噂だから
無邪気な微笑みを浮かべて、ユーリが私と視線を合わせた。
ユーリ:でも……もし何かあったら、すぐに俺を呼んで
ユーリ:どこにいたって、飛んでいくから

(ユーリ…)

ユーリの優しさに、胸が温かくなる。
吉琳:うん、ありがとう
ユーリ:どういたしまして
ユーリ:それじゃ、俺はこれで。仮面舞踏会の夜を楽しみにしててね
ユーリが執務室を出ていき、私はまた招待状に視線を落とした。

(仮面舞踏会か…。楽しみだな)
(でも、『何かあったら』ってどういうことだろう?)

ユーリの言葉が、少しだけ胸にひっかかる。
この時、私はまだ想像もしていなかった。
仮面舞踏会の夜、不思議な出来事と、彼との甘いひと時が待っていることを…―

大標

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どの彼と物語を過ごす?

選

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第1話:

1

優しい月明かりが、夜道を柔らかく照らす夜…―
私とジルは、馬車に揺られて仮面舞踏会の会場へと向かっていた。
ジル:…見事な満月ですね
吉琳:はい。つい眺めてしまいます
窓の外を見ていた私は、ジルに視線を戻した。

(…ジルと一緒に来ることができて、嬉しいな)

ジル:どうかなさいましたか?
吉琳:いえ…。仮面舞踏会が楽しみで
私はジルに微笑みを返しながら、数日前のことを思い出した…―

〝いつものように執務室にいると、ジルが訪ねてきた。〞
〝ジル:…仮面舞踏会は、次の満月の夜でしたね〞
〝ジルが、デスクの上に出したままにしていた招待状に視線を落とした。〞
〝ジル:会場は、ベレッタ侯爵の屋敷でしたか〞
〝吉琳:お知り合いなんですか?〞
〝ジル:いえ…個人的な交流はありませんが、少し気になる噂を聞いたもので〞

〝(気になる噂…?)〞

〝吉琳:それはどういったものですか?〞
〝ジル:…興味がおありですか〞
〝ジルはどこか面白そうに言って、デスクをまわって私の近くに歩み寄った。〞
〝ジル:ベレッタ侯爵の屋敷の庭には、〞
〝ジル:『魔女の鏡』と呼ばれる美しい湖があるのですが…〞
〝ジル:その湖には、ある噂があるのです〞
〝内緒話をするように声をひそめたジルにつられて、身を乗り出す。〞
〝ジル:なんでも…満月の夜に湖面を覗き込むと、恐ろしいものが映るとか〞

〝(っ…)〞

〝吉琳:その、恐ろしいものと言うのは…〞
〝こわごわ尋ねると、ジルは口端を上げて微笑んだ。〞
〝ジル:さあ。何でしょうね〞
〝ジル:私はご婦人方の噂を耳にしただけなので、それ以上の詳細は存じません〞
〝私は、鬱蒼と茂る木々の合間にある、大きな湖を想い浮かべた。〞

〝(…想像したら、ちょっと怖くなってきた…)〞

〝ジル:不安でしたら、私も仮面舞踏会にご一緒しましょうか?〞
〝からかうようなジルの言葉に、私は思わずぱっと顔を上げた。〞
〝吉琳:っ、いいんですか?〞
〝ジル:ええ。明日は公務が落ち着いているので〞
〝ジル:それに……恋人を1人で仮面舞踏会に送り出すのは、少々心配ですから〞

(そう言って、こうしてパートナーとして付いてきてくれた)

ジルの言葉を思い出して、胸が甘く疼く。
ジル:…ベレッタ侯爵の屋敷が見えてきましたね
窓の外に視線を向けると、そこには木々に囲まれた大きなお屋敷があった。

(この庭に、『恐ろしいものが映る湖』が…?)
(っ、でも、仮面舞踏会はホールで行われるものだし、見ることもないよね)

ジル:吉琳
吉琳:っ、はい…!
ジルに呼びかけられて、はっと我に返る。
ジル:そろそろ仮面を付けましょうか
ジルは私の頭の後ろに両手をまわすと、
この日のために用意した仮面を付けてくれた。
吉琳:…ありがとうございます…
ジル:今夜は、この仮面が貴女の素姓を隠してくれます
顎に指をかけられて、ジルと間近で視線が交わる。
ジル:今夜は、教育係とプリンセスではなく…
ジル:ただ恋人同士として、私と過ごして頂けますか?
妖艶な微笑みに、胸の鼓動が高鳴っていく。
吉琳:はい…

(普通の恋人同士として舞踏会に参加できるなんて…嬉しいな)

ジル:良い返事ですね
ジルがふいに身を乗り出し…―

(っ…)

私の頬に、そっとキスを落とした。
ジルの唇が触れたところが熱を持ち、鼓動が速くなっていく。
ジル:貴女のそういう顔は、私だけに見せていてくださいね
ジルはいつものように微笑んで、身体を離した。

(ジルはいつも大人で、余裕があって…)
(私はキスひとつでこんなに胸が苦しくなるけど、ジルはどう思ってるんだろう)

甘い胸のときめきが、いつしか私の不安をぬぐい去っていた…―

***

仮面舞踏会の会場になっているダンスホールに入ると、
華やかな光景が私たちを出迎えてくれた。

(わあ…)

ジル:…やはり、通常の舞踏会とは少々雰囲気が違いますね
吉琳:そうですね。なんだか、少し不思議な気分です
私は沢山の人々が集っているホールを見渡した。
吉琳:全員が仮面を付けていて…ジル以外、誰が誰だか分からないなんて
すると、ジルがそっと私の頬に手を添えて、視線を合わせた。
ジル:…私のことが分かっていれば、それで充分ではありませんか?

(え…?)

ジルはどこか悪戯っぽく微笑んで、私を見つめる。
ジル:私も…貴女のことだけ分かっていれば、それだけで充分です

(ジル…)

頬が熱くなったその時…―
???:お二人とも、ようこそお越しくださいました
声を掛けられて振り向くと、そこには黒猫を抱いた中年の男性が立っていた。

(あ…もしかして、主催のベレッタ侯爵…?)

仮面を着けていて顔は分からないけれど、挨拶からそう判断して、
私はスカートを持ちあげ、礼をした。
吉琳:本日はお招きいただき、ありがとうございます
侯爵:こちらこそ、お越し頂き光栄です
穏やかに挨拶を返してくれる侯爵の腕の中で、黒猫が侯爵のひげにじゃれている。
無邪気な光景に、思わず笑みが浮かんだ。
ジル:可愛らしい猫ですね
侯爵:悪戯好きな子なもので…お客様にご迷惑をかけないと良いのですが
侯爵は人の良さそうな笑みを浮かべた。
侯爵:それでは、今夜はどうぞごゆっくりお過ごしください
黒猫を抱いたまま、侯爵は次の招待客へと挨拶をしに行ってしまった。
会場のあちこちから、和やかな談笑の声が聞こえてくる。

(『魔女の鏡』と呼ばれる湖がある屋敷なんて、もっと怖い場所だと思ってたけど…)
(全然そんなことはなかったな)

私はほっと胸を撫で下ろし、小さく息を吐いた。
ジル:さて…それでは、吉琳
ジル:私と踊って頂けますか?

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第2話:

2

ジル:さて…それでは、吉琳
ジル:私と踊って頂けますか?
吉琳:っ、はい…! お願いします
差し出されたジルの手に、私の手を重ねる。
もう片方の手に背中を支えられて、私はゆったりとした音楽に身を任せた。

(こうしていると、なんだかジルの優しさを直接感じているみたい)

私が踊りやすいように、タイミングや歩幅を計ってくれているのが伝わってくる。
ジル:…今夜は、ずいぶん楽しそうですね
間近でジルに見つめられて、頬が熱くなる。
吉琳:…ジルと過ごしていますから
恥ずかしさをこらえて正直に告げると、ジルがふっと笑みを浮かべた。
ジル:可愛いことを言ってくださいますね

(…ジルは、どう思ってるのかな)
(私と同じように、幸せな気持ちになってくれてる…?)

口に出して聞くには恥ずかしくて、ただ、ジルに微笑みを返す。
仮面越しに見つめ合ったまま、私たちはダンスを続けた…―

***

やがて1曲が終わり、ジルが足を留めた。
ジル:少し休憩にしましょうか
ジル:飲み物を頂いてきますので、ここで少し待っていてください
吉琳:分かりました。ありがとうございます
壁側に立って、ジルが戻ってくるのを待っていると…―
???:1人で参加するなんて、寂しいことしてんなあ

(え…?)

すぐ横から声をかけられ、振り返る。
そこには、顔を赤くした若い男性がいた。

(…酔っぱらっているの…?)

男性が、急に私の手を取る。
吉琳:あの…
男:まあまあ。俺もちょうど相手を探してたんだ
男:あんただってそうだろ? 今夜は俺と遊べよ
吉琳:っ、やめてくださ…
私の言葉が終わる前に……
???:……何をなさっているのですか?
男:いてっ
冷え切った声が聞こえて、私の肩にまわされた男性の手が剥がされた。
ジル:嫌がる女性を無理やり誘うとは、感心しませんね

(ジル…!)

男:なんだよ、あんた
ジル:私は、彼女の恋人ですが
当然のように言い切られて、どきっとする。
男性:なんだよ、連れがいたのか。……おっと

(あ…)

男性は足元が覚束ない様子で、バランスを崩してしまった。
吉琳:大丈夫ですか…?
ジル:酔っているのですか。…仕方ありませんね
ジルは男性に肩を貸して立たせると、私に向き直った。
ジル:この方を、屋敷の使用人に任せてきます
ジル:すみませんが、そこに座って少し待っていてください
ジルに頷いて、私は壁側に用意されていた椅子に座った。

(あの人、大丈夫かな…)

ジルの帰りを待っていると……
吉琳:きゃ…
膝の上に、何かふわふわとした温かいものが飛び乗ってきた。
黒猫:にゃあ

(あ…さっき、侯爵が抱いてた子だ)

黒猫は、私の膝に乗ったまま、ドレスのリボンにじゃれ始める。

(可愛い…)

艶やかな毛並みを撫でていると、
ふいに黒猫がふかふかした手で私の仮面をはたいた。
吉琳:あっ
床に落ちた仮面を追いかけるように、黒猫も私の膝から降りる。
そして仮面を咥えると、ホールの出口の方に走り出した。
吉琳:ちょ、ちょっと待って…!
追いかけようと立ち上がり…一瞬足を止めて、ホールの隅に目をやる。
ジルはまだそこでさっきの男性と話をしていた。

(…きっとすぐに追いつくよね)

私は猫を追いかけ、ホールを出た。

***

ジル:使用人を呼びましたので、ここで大人しくしていてください
ジルは、酔った男をホールの隅まで連れてきた。
ジル:それと…
ジル:二度と、私の恋人にちょっかいをかけないでくださいね
ジルは笑みを浮かべながらも、冷たい瞳で男を見下ろした。
男:わ…分かったよ
怯んだように男が頷いたのを確認してから、顔を上げたその時…
ホールを出ていく吉琳らしき姿が視界に入った。
ジル:吉琳…?

***

吉琳:ま、待って…!
すぐに猫を追いかけたものの、私はなかなか追いつかずにいた。

(早くマスクをつけて会場に戻らないと…っ)

まっすぐエントランスを抜ける猫を追って、外に出る。
猫がマスクを咥えたまま、私を振り返る。
吉琳:いい子だから、そのまま待っててね
じりじりと近づくと、黒猫は小道の奥へと走り出してしまった。

(っ、もう…!)

そのまま追いかけて小道を抜けると…―

***

(あ……)

急に視界が開けて、目の前に大きな湖が現れた。
明るい満月に照らされて、湖面が美しく輝いている。

〝ジル:ベレッタ侯爵の屋敷の庭には、〞
〝ジル:『魔女の鏡』と呼ばれる美しい湖があるのですが…〞
〝ジル:その湖には、ある噂があるのです〞
〝ジル:なんでも…満月の夜に湖面を覗き込むと、恐ろしいものが映るとか〞

(この湖が、『魔女の鏡』…?)

どこか神秘的な光景に見入っていると…
ふと、湖面に私のマスクが浮かんでいることに気付いた。

(あんなところに…! 手を伸ばせば届きそうだけど…)

私は少しためらってから、恐る恐る湖に近づいた。

(…きっと、大丈夫だよね。ただの噂かもしれないし…)
(早くホールに戻らないと、ジルを心配させてしまうかも)

私は心を決めると、柔らかな草の上に膝をつく。
そして、湖面を見ないようにしながら、そっと手を伸ばした。

(あと、少し……)

その時ふいに強い風が吹いて、指先が届いていたマスクが遠ざかった。
吉琳:あ…っ
つられてつい遠くに手を伸ばすと、ぐらりと身体のバランスが崩れ…―

(落ちる…!)

ぎゅっと目をつむったその時、後ろから誰かの腕に抱きとめられた。
???:そんなに腕を伸ばすと、危ないですよ

(え…?)

そっと目を開けると…湖面に映る私の後ろに、
私を抱きしめるように腕をまわすジルの姿があった。
ジル:全く困った方ですね
ジル:会場を抜け出したかと思えば、何をなさっているんですか
吉琳:っ、すみません…
思わず謝ると、ジルが微笑んだ。
ジル:…貴女がずぶ濡れにならなかっただけ、良しとしましょう
ジルが私の後ろから腕を伸ばし、湖面に浮かんだマスクをすくい上げてくれる。
私を抱き寄せていた腕が離れ、ジルが立ち上がった。
ジル:どうぞ
吉琳:…ありがとうございます
差し出された手を取って、私もその場から立ち上がる。

(あれ…?)

吉琳:ジル、仮面はどうしたんですか?
ジル:貴女を追いかけて走るのに、邪魔だったので
ジル:…急にホールを出ていくものだから、何事かと思いました

(…心配して、追いかけてきてくれたんだ…)

じわりと、胸のうちが温かくなる。
ジル:それよりも…何故こんなことになったのですか?
吉琳:実は…侯爵の黒猫が、私のマスクをここまで持ってきてしまって
説明すると、ジルがどこか意味ありげに微笑んだ。
ジル:なるほど
ジル:昔から、黒猫は魔女の使いだと言いますからね
ジルが、『魔女の鏡』の湖面に視線をやる。

(…あれ? そういえば…)

私ははっとあることに気づいて、唇を開いた。
吉琳:さっき一瞬湖面を見てしまいましたが、
吉琳:ジルと私しか映っていませんでした

(確か、『恐ろしいもの』が見えるはずだったよね)
(普通の湖に見えたけど……)

ジル:そうですね。ただの噂だった、ということなのでしょう
ジル:あるいは…
ジルが私をそっと抱き寄せ…―

(っ…)

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分歧

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第3話-プレミア(Premier)END:

P

吉琳:さっき一瞬湖面を見てしまいましたが、
吉琳:ジルと私しか映っていませんでした

(確か、『恐ろしいもの』が見えるはずだったよね)
(普通の湖に見えたけど……)

ジル:そうですね。ただの噂だった、ということなのでしょう
ジル:あるいは…
ジルが私をそっと抱き寄せる。
ジル:貴女にとっては私が、私にとっては貴女が、
ジル:『恐ろしいもの』だったということなのかもしれませんね

(え…?)

吉琳:そんな…私は、ジルを恐ろしいと思ったことなんてありません
ジル:そうですか?
ジル:私は、たまに貴女を恐ろしく思うときがありますよ
吉琳:私を、ですか…?
ジル:ええ
ジルが私を抱き寄せたまま、もう一方の手で私の顎に指をかけた。

(っ…)

重なる視線の甘さに、鼓動が速くなっていく。
ジル:こんなにも私の心を乱す人は、貴女の他にはいないので
ジルは妖艶な微笑みを浮かべて、私を見つめた。
吉琳:っ、そんな風には見えません…
頬が熱くなって、私はジルの視線から逃れるように目を伏せた。
吉琳:ジルはいつも余裕があって、私の方がよっぽど…
その瞬間、言葉を遮るように、唇にそっとキスを落とされた。

(っ…)

ジル:…そんなことはありませんよ
吐息が触れてしまいそうな距離で、ジルが囁く。
ジル:さきほど貴女が男性に絡まれているのを見つけた時、
ジル:頭で認識するより先に、身体が動いてしまいました
吉琳:ジル…
ジル:仮面舞踏会では、一夜の恋を求めに来るような人間もいますから
ジルが、私の頬にそっと触れる。
ジル:踊る貴女の姿は、人目を惹きます
ジル:恋人として、独占欲をくすぐられるくらいに

(っ…)

私の頬を、ジルが愛しむように撫でる。
ジル:貴女の前では、余裕のある大人ではいられません
ジル:幻滅しましたか?
私と視線を合わせたまま、ジルは優しく微笑んだ。

(幻滅なんて、するはずない。それどころか…)

吉琳:…いえ。少し、嬉しくなりました
ジルの瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。
吉琳:私ばかり、
吉琳:ジルの言動に翻弄されているみたいだと思っていましたから

(私だけじゃ、なかったのかな)
(こんな風に、どうしようもないくらい胸がどきどきするのも…)

ジル:決して貴女ばかり翻弄されているわけではありません
ジル:…実感がないのなら、身体で分かって頂くまでですね

(え…?)

ジルが、私のうなじの後ろに手を添え、引きよせた。
吉琳:んっ……
唇が重なり、吐息が零れる。
もう片方の手で抱きよせられて、身体がぴったりと重なった。
吉琳:ふ…、っ…

(こんなところで……っ)

深くまで求められるようなキスに、身体の力が抜けてしまいそうになる。
やがて、ジルの唇が離れていき…
ジル:…これで、少しは伝わりましたか?
吐息が触れてしまいそうな距離で、ジルが囁いた。
吉琳:っ、ジル、こんなところで、だめです……

(誰かに見られてしまうかもしれないのに…)

熱くなった頬を感じながら、ジルを見上げると…
ジル:大丈夫ですよ。
ジル:仮面舞踏会の間に見聞きしたことを口外するのは、タブーですから
吉琳:そう、なんですか…?
ジル:ええ。それに…

(っ…)

ジルが私の顎に指をかけ、視線を合わせる。
ジル:約束したでしょう?
ジル:今夜はただ、恋人同士として過ごすと
熱を帯びた瞳で、ジルが私を見つめ…
吉琳:ジル…
熱を帯びた瞳で見つめられて、視線が逸らせなくなる。

(ジルと視線を合わすだけで、)
(どうしてこんなに幸せな気持ちになるんだろう…)

その時……
ジルはふと何かに気付いたように、私の身体から腕をほどいた。
ジル:さて…そろそろ、仮面舞踏会もお開きです
ジル:城に、帰りましょうか

(あ…そっか、もう終わりなんだ……)

一抹の寂しさが、私の胸を切なく締め付けた。

***

仮面舞踏会は終わりを告げ、私はジルと一緒に馬車に乗る。

(…あっという間だったな)

ジルと二人きりで過ごす時間が、名残惜しかった。
ジル:どうかなさいましたか?
吉琳:いえ…

(こうして仮面舞踏会にまでついてきてもらったのに、)
(まだ一緒にいたいだなんて…わがままだよね)

ジル:…私の恋人は、なかなか素直になってくださいませんね

(っ…)

ジルの指先が私の唇に触れる。
ジル:貴女の心を、聞かせてください

(…ジルには、全部見抜かれているみたい)

私は観念して、唇を開いた。
吉琳:ジルと過ごす時間が楽しかったので…少し、寂しくなってしまいました
頬が熱くなるのを感じながら本音を零すと、ジルがふっと微笑んだ。
ジル:何をおっしゃっているのですか?
吉琳:え…?
ジルが、横から私の身体をそっと抱き寄せる。
ジル:まだ、貴女を離して差し上げるつもりはありません
そして、私の首筋に唇を寄せ……
吉琳:ん…っ
肌に甘く歯を立てられて、吐息が零れる。
ジル:今夜は、満足するまで貴女を可愛がらせてください


fin.

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第3話-スウィート(Sweet)END:

S

吉琳:さっき一瞬湖面を見てしまいましたが、
吉琳:ジルと私しか映っていませんでした

(確か、『恐ろしいもの』が見えるはずだったよね)
(普通の湖に見えたけど……)

ジル:そうですね。ただの噂だった、ということなのでしょう
ジル:あるいは…
ジルが私をそっと抱き寄せた、その時…―
黒猫:にゃあ
少し離れたところから、可愛い鳴き声が聞こえてきた。
???:…おや、お前はこんなところにいたのか

(っ…)

続いて男性の声が聞こえて、私はぱっとジルから身体を離す。
ジル:…侯爵が猫を探しにいらっしゃったようですね
やがて足音が近づき、ベレッタ侯爵が姿を見せた。
侯爵:おや…もしや、湖を見にいらっしゃったのですか?
侯爵:最近、ご婦人の間で噂になっているようですからね
侯爵が、穏やかに微笑む。
ジル:ええ、私もその噂は耳にしました。
ジル:…しかし、単なる噂だったようですね
ジル:さきほど湖面を見ましたが、私たちの姿しか映りませんでした
ジルの言葉を聞き、侯爵は少し何かを考えるようなそぶりを見せた。
侯爵:…この湖のことを、どのように聞いていらっしゃいますか?
吉琳:えっと…『恐ろしいものを映す』とお聞きしました
侯爵:ある人にとってはその通りですが、少し違います
ジル:…どういうことでしょうか
侯爵:『魔女の鏡』と呼ばれるこの湖は、未来を映すと言われています

(未来を…?)

侯爵:未来を見るのが怖い方もいれば、そうでない方もいるでしょう
ジル:…なるほど
ジル:そこから、『恐ろしいものが見える』という噂が広まったのですね
侯爵が、ジルに頷く。
侯爵:ええ。もしかすると…
侯爵:あなた方には、
侯爵:今のように寄り添っていらっしゃる未来の姿が見えたのかもしれませんね
微笑ましそうな視線を向けられて頬が熱くなり…
はっと、あることに気付く。

(っ、もしかして、見られちゃいけないところを見られてしまったんじゃ…)
(今は仮面を着けていないし、プリンセスと教育係だって分かってしまうよね)

侯爵:…心配せずとも、
侯爵:仮面舞踏会の夜に何を見聞きしようと、口外するつもりはございません
吉琳:え…?
侯爵:そういえば、今夜はプリンセスが参加してくださっているようですが…
侯爵:公務としてではなく、この仮面舞踏会を楽しんでくださると良いのですが

(侯爵…)

ジル:お心遣い、感謝します
ジルが、私の肩をそっと抱き寄せる。
ジル:プリンセスも、きっと楽しんでくださっていることでしょう
侯爵:そうだと良いのですが。…それでは、私はこれで失礼します
吉琳:…ありがとうございました
侯爵は黒猫を抱いたまま、屋敷の方へと戻っていった。
ふと、静かな湖面へ視線を落とす。

(もし…本当に、ジルと一緒にいる未来が映ったのだとしたら、嬉しいな)

ジル:そろそろ、ダンスホールに戻りましょうか
吉琳:そうですね
ジルと一緒に歩きかけたところで、私はふとあることを思い出した。
吉琳:そういえば、さきほどの男性は大丈夫でしたか?

(私から離れた後も何か話していたし、思ったよりも具合が悪かったのかな…)

ジル:問題ありません。ただ酔っていらっしゃっただけですから
ジル:…そんなに、彼のことが心配ですか?
ふいに身体を抱き寄せられ、ジルの瞳が間近に迫る。
吉琳:っ、ジル…?
ジル:あまり、男性に隙を見せぬように
囁かれて、頬が熱くなる。
吉琳:隙なんて…っ、見せているつもり、ありません…
ジル:そうですか?
ジル:私の前ならいくらでも隙を見せて頂いて構いませんが…
ジル:さきほどのように、
ジル:他の男性に絡まれることのないよう、注意してください

(…心配、かけちゃったよね)

吉琳:すみません
素直に謝ると、ジルがふっと微笑んだ。
ジル:…無事だったので、許しましょう
ジル:私も、少し反省しなければいけませんね
吉琳:何かあったんですか?
ジル:貴女に絡んでいたあの男性に、
ジル:少々大人げのない物言いをしてしまいました
吉琳:ジルが…?

(なんだか、あんまり想像がつかないな…)

ジル:ええ。
ジル:貴女に関してのことになると、余裕がなくなって困ります
(*上句前後不同: ジル:貴女のことに関しては、余裕がなくなって困ります)
ふいに、ジルが少し身をかがめ…―
吉琳:っ…
私の頬に、そっと口づけた。

(余裕がなくなる、なんて…)

吉琳:っ、そんな風には、見えません…
ジルの唇が触れたところから熱くなっていく頬を感じながら、私はジルを見上げた。

(ジルはいつも大人で、余裕があって…)

ジル:そう見えないように、振る舞っているだけですよ
ジル:貴女に悟られては、立場がありませんから
優しく頭を撫でられて、胸の奥がきゅっと甘く苦しくなる。

(やっぱり、私よりもずっと余裕があるように見えるけど…)
(ジルも、私と同じようにどきどきしてくれているなら、嬉しいな)

その時、ホールの方から、途切れていていた音楽がまた聞こえ出した。
ジルは仮面を着けると、私に手を差し出す。
ジル:…それでは、ホールに戻りましょうか
吉琳:はい…っ
私は弾む気持ちで、ジルの手を取った。
恋人たちの仮面舞踏会の夜は、まだ終わらない…―


fin.

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エピローグEpilogue:

後

ミステリアスな仮面舞踏会を過ごした後に待っているのは、
彼とふたりきりで過ごす、ロマンチックな甘いひと時…―
…………
ジル:恥ずかしいだけなら、手を止める理由はありませんね
はだけた胸元に、ジルの温かな唇が触れる。
甘い意地悪が、あなたを素直にさせていき…
ジル:貴女の前では余裕を保てないと、お教えしたばかりのはずですが
ジル:さきほどの言葉、撤回はさせませんよ
…………
心の仮面を取り去って、彼の素顔に触れる時、
もうひとつの魅惑の一夜が幕を開ける…―

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