Only my knight~あなたの腕に守られて~(ジル)
プリンセスに迫る危機。 守ってくれるのは、
―…あなただけのナイト。
愛しいあの人がナイトとして、一日誰よりも近くにいることに…
………
ジル:このガーデンパーティーに出る際も、
ジル:いざという時は、私がお守りしますよ
……
とろけるような愛につつまれる物語が、ここに…―
第1話:
足音が中庭に響いて…
ジル:こちらにいらしたんですね
(ジル…)
私に目を留めたジルが、こちらへと歩いてくる。
すると、私の隣にいたユーリがにこっと微笑んで説明をした。
ユーリ:吉琳様と散歩中です。息抜きに
ユーリ:ね、吉琳様
吉琳:うん
ジル:そうでしたか
私を探していたような口ぶりに、思わず訊ねる。
吉琳:何かあったんですか?
(次の公務まで、まだ時間があるはずだけれど…)
気になりながら見つめ返していると、
ジルは、ふっと安心させるような微笑みを浮かべた。
ジル:たいしたことではありませんよ
ジル:貴女にお渡ししたいものがありまして
吉琳:渡したい、もの?
思わず聞き返すと、ジルは優雅に手を差し出す。
ジル:はい。ですから…
ジル:一緒に来て頂けますか?
吉琳:はい
私は首を傾げつつ頷き、ジルの手を取った。
(何だろう?)
***
そうしてジルの部屋へ向かい、中に足を踏み入れると、
ふと、机に綺麗な花束が乗っているのが、目に留まった。
吉琳:綺麗ですね
可憐なピンク色や、大人っぽい紫色の花々に歩み寄ると、
同じく近付いたジルが、花束へと手を伸ばして、そっと私に渡した。
ジル:ええ。これが、お渡ししたいものです
吉琳:えっ
私は手にした花束とジルを交互に見て、短く驚きの声を上げた。
ジル:貴女への贈り物ですよ
ジルの話では、城から離れた地区の伯爵夫人が持ってきてくれた花束だという。
(前に一度、お逢いした方だ)
伯爵夫人の顔を思い出していると、ジルが話を続ける。
ジル:先ほど、陛下のお見舞いにいらっしゃったのですが、
ジル:ちょうど貴女が公務中でしたので私が預かりました
ジル:この、招待状と一緒に
一度、花束を置いて、差し出された招待状に目を通すと、
それは、近々開かれるガーデンパーティーのお誘いだった。
(『この花束も、庭に咲いている花で作りました』)
(そうだったんだ)
見た目も美しい花束からは、先ほどから優しい花々の香りが漂い、
目と鼻とを楽しませてくれている。
(素敵…どんなお庭なのか、見てみたいな)
想像するだけで心が弾んで、つい笑みをこぼしていると、
そんな私を見て、ジルがふっと微笑んだ。
ジル:その様子ですと、『参加』でお返事して良さそうですね
吉琳:っ…
気持ちを言い当てられ、途端に恥ずかしさが湧いた。
吉琳:…はい
(もしかして、顔に出てしまっていた…?)
ほんのりと熱くなった頬を手で押さえながら、訊ねる。
吉琳:そんなに分かりやすかったですか…?
ジル:そうですね。確かに、貴女は顔に出やすいところがありますが…
そう言いながら、ジルは花束から紫の花を一本抜き出して…―
ジル:もしも顔に出ていなくても、私には分かりますよ
ジル:愛しい恋人のことですから
私の耳にそっと髪をかけ、そこに花を差し入れた。
髪に花を飾った私を見て、ジルが満足そうな息をつく。
ジル:よくお似合いですよ
吉琳:っ……
不意打ちの仕草と言葉に、鼓動は速まり、
触れられた耳は、じんと熱を持つ。
濃くなった花の香りを感じていると、ジルは穏やかな眼差しで続けた。
ジル:いつも貴女のことを見ているので、
ジル:細かな変化も、自然と分かってしまうのかもしれません
(一緒にいれば…そうだよね)
それほどまでに、普段から気にかけてくれることを、嬉しく感じていると、
ジルが苦笑をこぼして言う。
ジル:もちろん、つきっきりで側にいるわけではありませんが
(えっ)
『つきっきり』という言葉に、思わずはっとする。
吉琳:もしかして、さっきの話…聞こえていたんですか?
訊ねると、ジルは目を細めて…―
ジル:ええ。先日のオペラは楽しめたようですね
言いながらジルが、からかうように頬へと指を滑らせた。
吉琳:はい…
(それじゃあ、あの話も聞かれて……)
私は先ほどの、ユーリとの会話を思い出す。
〝ユーリ:あ、でもあの物語みたいに恋人がずーっと近くにいたら大丈夫かもね〞
〝吉琳:えっ〞
〝ユーリ:朝から夜まで、大好きな人に守ってもらうってこと〞
密かに、ジルがずっと側にいたらと願っていたことまで思い出して、
今さら照れてしまう。
そんな私をどこか楽しそうに見つめながら、ジルが言葉を紡いだ。
ジル:このガーデンパーティーに出る際も、
ジル:ユーリが話していた通り、用心した方が良いですが…
そこで一度、言葉を切ったジルが真っ直ぐに私の瞳を見つめて…―
ジル:いざという時は、私がお守りしますよ
吉琳:……!
吉琳:ジルも、ついてきてくれるんですか?
第2話:
吉琳:……!
吉琳:ジルも、ついてきてくれるんですか?
つい弾んだ声を出すと、ジルは表情を和らげた。
ジル:ええ。夫人から招待して頂きましたので
ジルと一緒に行ける嬉しさに、心が躍る。
(きっと危ないことは起きないと思うけれど、)
(もし…何かあっても、ジルがいてくれるなら大丈夫)
楽しみな気持ちがさらに大きくなって、
私は笑みをこぼしながら、髪に飾られた花にそっと触れた。
***
そうして一週間後…―
私は伯爵夫人の屋敷を訪れ、
ジルと共に、ガーデンパーティーに参加していた。
そこへ伯爵夫人が、にこやかな表情で挨拶をしにやって来る。
伯爵夫人:お二人とも、楽しんで頂けていますか?
吉琳:はい
吉琳:花束を頂いた時から、お庭を拝見出来るのを楽しみにしていました
いたる所に咲き誇る色鮮やかな花々が、目を楽しませてくれる。
そうして、三人で庭園を歩いていくと、
その途中、変わった形の花を見ながら、ジルが口を開いた。
ジル:珍しい植物も多く育てられていますね
伯爵夫人:ええ。異国から種を取り寄せたものもございますの
(確かに、見たことのない花が沢山あって、歩いているだけで楽しい)
(ジルと一緒に来られてよかった)
隣を歩くジルの横顔をちらりと見ながら、心を温かくしていると、
案内してくれていた夫人が、ある一角で足を止める。
伯爵夫人:特にこちらは、ウィスタリアにはない植物ばかりなので、
伯爵夫人:是非、見て頂きたいですわ
夫人に合わせて足を止め、その一角に視線を向けると、
そこには、大きな花びらをつけた花や、香りの強い花など、
今までに見たことのない植物ばかりが、一面に咲き広がっていた。
ジル:見事ですね
ジルが感心したような声で言うのに頷きながらも、
異国情緒あふれる幻想的な光景から、目が離せない。
吉琳:本当に…言葉が出ないほどです
伯爵夫人:喜んで頂けて光栄です
景色に魅了されて、しばらくの間うっとりと眺めていると、
濃い紺色の実をつけた植物に、ふと視線が吸い寄せられる。
(あれ、何だろう?)
(果物みたいに見えるけれど…)
つい気になって歩み寄り、その実へと手を伸ばした瞬間…―
伯爵夫人:プリンセス、それはっ…
吉琳:えっ
夫人の慌てた声と同時に、大きな手が横から差し出され、
紺色の実に触れる寸前だった私の手を、優しく包みこんだ。
ジル:いけませんよ
吉琳:……?
きょとんとしている私の手を取ったジルが、
まるでその植物を隠すように、目の前に立つ。
ジル:むやみに触れては
ジル:毒のあるものは特に
たしなめるように告げられた言葉に、背中がぞくりと冷たくなる。
吉琳:毒…ですか?
伯爵夫人:それは、ベラドンナという植物で、
伯爵夫人:触れるだけでも危ないものなのです
夫人はどこか申し訳なさそうに告げた。
吉琳:そう、だったんですね…
その説明に、心の中でじんわりと恐怖が広がる。
(もし、ジルが止めてくれなかったら……)
悪い想像をして声を出せずにいると、夫人が深々と頭を下げた。
伯爵夫人:先にお伝えするべきでした。申し訳ありません
そんな夫人に、私は慌てて答える。
吉琳:いえ、触れようとした私が悪いので…
そう言いかけたところで、
目の前にあるジルの手首を見て、思わず声をあげた。
吉琳:ジル!
袖から覗くジルの手首が、真っ赤になっている。
吉琳:まさか…私の手を止めてくれた時に、触れて…
血の気が引く思いで顔を見つめていると、
ジルは私を安心させるように微笑む。
ジル:落ち着いて下さい、プリンセス
吉琳:ですが…
そんなやりとりをしている間にも、
ジルの手首は、みるみるうちに赤みを増していた。
ジル:少し掠めただけなので、適切な処置をすれば問題ありません
吉琳:本当ですか…?
心配するあまり、思わず聞き返すと、
ジルは、いつものように余裕たっぷりの表情をして…―
ジル:私の言葉が信じられませんか?
わざとからかうように言われて、私は小さく首を横に振る。
ジル:信じていただけたようで、良かったです
ジルは、不安でいっぱいでいる私に微笑んでみせてから、夫人へと視線を移す。
ジル:夫人、部屋をお借りしても?
伯爵夫人:もちろんです
吉琳:私も一緒に…
そうして私はジルに寄り添うようにして、屋敷の一室へと向かった。
***
吉琳:…大丈夫ですか?
私はソファに並んで座ったジルの横顔に、そっと声をかける。
ジル:ええ。この通り
処置のために上着と手袋を脱いだジルは、
こちらを振り返ると、いつものように穏やかな笑みを湛えていた。
けれど、右手首に巻かれた包帯を見ると、胸が痛んで笑みを返せない。
(私がベラドンナに触れようとしなかったら、)
(こんなことにならずに済んだよね…)
後悔の念に、きゅっと指先をきつく握ったその時、
慈しむような声が耳に届いて…―
ジル:なんて顔をしているのですか
第3話-プレミア(Premier)END:
後悔の念に、きゅっと指先をきつく握ったその時、
慈しむような声が耳に届いて…
ジル:なんて顔をしているのですか
そう口にして、ジルがふんわりと抱きしめてくれる。
その包み込まれるような温もりに、
胸の奥に溜まっていた暗い気持ちが溶かされていく。
(この温もりが、いつも私を支えてくれているんだ…)
私は胸元に顔を寄せ、想いを言葉にした。
吉琳:ジルが守ってくれて…すごく嬉しかったです…。ありがとうございます
吉琳:ただ…ジルに怪我をさせてしまって…
吉琳:もし病気になったらと思うと、怖くて……
素直な胸の内をさらけ出すと、
ジルが、優しく私の頬を撫でていく。
ジル:その気持ちは私も嬉しいですよ
そう言って、ジルは微笑みを浮かべていた顔を真剣なものに変えた。
ジル:ですが、貴女の前でだけは、
ジル:大切な人を守る騎士でいさせてください
ジル:誰よりも近くで、ずっと
騎士の夢を断ったジルのそんな言葉に、
胸をぎゅっと掴まれたような気持ちになる。
吉琳:ジル…
思わず呼んだ名前は、つい涙声になってしまった。
(ジルに比べたら、私の出来ることは些細なものかもしれない)
(…それでも、ただ気持ちを受け取るだけにはしたくない)
(恋人として)
そんな気持ちを、思うだけで終わらせたくなくて、
はっきりとした声で告げる。
吉琳:私にも守らせて下さい
ジル:吉琳…?
真っ直ぐに見つめているジルの瞳が、少し驚いたように見開かれた。
そんなジルに、想いを込めた笑みを向けて、私は続きを口にする。
吉琳:ジルが私を大切にしてくれるように…
吉琳:私も、ジルが大切なので
言い終えて、ほんのり湧いてきた恥ずかしさに顔を熱くしていると、
ジルの頬にも熱が灯って…―
ジル:……
ジル:まったく、貴女という人は
ジル:相変わらず、男心が分かっていませんね
どこか呆れたように言われて、私は小さく首を傾げる。
吉琳:え?
すると、それまで優しげだったジルの表情が、ふいに艶を帯びる。
ジル:恋人にそんなことを言われたら、触れたくなるものですよ
吉琳:っ……
いつもより低い声で囁いたジルが、私の頬をそっと手の甲で撫でた。
その仕草に、肌と一緒に心までくすぐられ、小さく身体を震わせる。
ジル:ですがあくまで、今はプリンセスと教育係ですから、
ジル:恋人の時間は、城までとっておきましょう
そう言って、ジルは意味ありげな指先で、私の唇をなぞっていく。
吉琳:っ…
ジル:いいですね?
念を押すように囁かれて、
私は鼓動をうるさくしながらも、こくりと頷いた。
***
そうして会場に戻り、ガーデンパーティーを楽しんだ後、
無事に城へと戻ってきて…―
ジルに勧められるままにベッドへ腰かけると、
花瓶に花を活けていたジルが、こちらを振り返った。
ジル:予想外のお土産になりましたね
吉琳:そうですね
あの後、伯爵夫人からお詫びをしたいと言われ、
夫人に教えてもらいながら、庭園の花で花束を作らせてもらったのだった。
ジル:ですが本当に私が頂いて宜しいのですか?
吉琳:はい。今日、守って頂いたお礼です
(喜んでもらえるといいな)
笑顔で頷いて言うと、ジルがどこか納得したような表情で花を見つめる。
ジル:なるほど。貴女の好みと違う花を選んでいたのは、そういう理由でしたか
ジル:ありがとうございます
ジルはふっと微笑んで、私の隣に座った。
吉琳:夫人のご厚意に甘えたプレゼントですみません
吉琳:他にも、私で出来ることがあったら言って下さい
ジルが怪我までして守ってくれたことに対し、
まだ十分なお礼ができていない気がして、自然とそんな言葉を口にする。
ジル:他に、ですか
私の申し出に、しばらく考えを巡らせていたジルが、
何かを思いついたように、口元に笑みを浮かべて…―
ジル:では…もう一つ
ジル:吉琳を私に頂けますか
吉琳:えっ
ジル:言ったでしょう
ジル:恋人の時間は、城までとっておく、と
吉琳:あ…
夫人の屋敷で言われた時と同じ、わずかな熱が覗く瞳に囚われて、
大きく鼓動が波打つ。
吉琳:っ……はい
身体に熱が灯るのを感じながら頷くと、ジルが静かに唇を重ねた。
口づけながら首元や耳を指先でくすぐられ、
思わず肩が跳ねてしまう。
吉琳:……は……っぁ
やがてそっと唇が離され、その合間に甘い吐息をこぼすと、
ジルは吐息が触れそうな距離で、言葉を紡ぐ。
ジル:屋敷では言いませんでしたが…たとえ植物であっても、
ジル:貴女に痕をつけさせたくありませんでした
ジル:このように
そう告げたジルが、手首に巻かれた包帯を目の前にかざす。
(痕って…そのこと…)
思いがけない言葉に、はっと息をのむ。
すると、すっと目を細めたジルは、優しく私の肩を押し、
柔らかいベッドに組み敷いた。
吉琳:っ……
ジルは、ベッドに広がった髪のひと房を手に取って、愛しそうに口づけを落とし…―
ジル:今夜、改めてじっくりとお教えしましょう
ジル:貴女に痕を残していいのは、私だけですよ吉琳
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
後悔の念に、きゅっと指先をきつく握ったその時、
慈しむような声が耳に届いて…
ジル:なんて顔をしているのですか
ジルが、視線を伏せた顔を上げさせるように、
そっと私の髪を梳いていく。
ジル:吉琳は心配性ですね
ジルの手の温もりが、重くなっていた心をだんだん軽くしてくれたものの、
それでもまだ、私の中で引っかかるものがあった。
吉琳:ですが…やっぱり、私が軽率でした
髪に添えられていたジルの手を、そっと外すと、
改めて謝罪を口にする。
吉琳:ジルに怪我をさせてしまって…すみません
唇を噛みしめていると、ジルはゆっくりと首を横に振った。
ジル:いえ、謝ることはありませんよ
ジル:処置も済みましたし、痛みも酷くないので
吉琳:ですが…
そう言いかけたところでジルが、私の唇に人差し指を、つんと押し当てて…―
ジル:それ以上、自身を責めるような発言は許しませんよ
吉琳:ジル…
ジル:何より、貴女が無事だったのですから、それでいいのです
ふっと口の端を持ち上げて、ジルがそっと指を離す。
(いつも、こうして優しい言葉をかけてくれて…)
(身体だけじゃなく、心も守ってもらっているみたい)
嬉しさと感謝の気持ちが溢れて、目頭が熱くなってきてしまう。
ジル:ですが、もし貴女が納得出来ないと言うのでしたら、
そこで言葉を切ったジルは、
膝の上に置いていた私の手を取り、自分のシャツの胸元へと導く。
吉琳:っ……
襟元から覗くジルの素肌に触れた指先を、びくりと震わせると…―
ジル:満足するまで、こうして触れて、
ジル:私が無事だと確かめるのはいかがでしょう
ジルが艶やかな笑みを浮かべて、私の顔を覗き込む。
そんな表情に、微かに胸の奥を騒がせながら、
落ちつかない指先を引っ込めた。
吉琳:もう…
からかうような言葉に励まされて、ほっとした途端、
自然と気持ちが緩んだのか、徐々に視界が滲んでいく。
(あ…)
私が慌てて目尻の雫を拭おうとすると、
それよりも先に、ジルの指先が伸びた。
ジル:先ほどの言葉を訂正しておきましょう
ジル:貴女は心配性で、泣き虫なプリンセスですね
ジル:そのように泣いてしまっては、パーティーに戻れませんよ?
苦笑まじりに言って、ジルが涙を拭ってくれる。
吉琳:…ジルの優しさが嬉しくて、止められなくて
涙交じりに言うと、ジルが落ち着かせるように、背中を撫でてくれた。
その手つきがあまりに優しくて、余計に涙が出そうになる。
すると、ジルは小さく息をついて…―
ジル:こんな貴女を、パーティーの参加者に見せるわけにはいきませんね
どこか困ったように聞こえる言葉に、慌てて謝る。
吉琳:っ…すみません
(そうだよね。プリンセスとしてここに来ているのに、)
(こんな顔、見せられない)
そう思い、急いで涙を止めようとすると、
ジルが小さく笑う声が聞こえた。
ジル:何か、勘違いしているようですが…
吉琳:えっ
きょとんとしていると、
顎にそっと手が添えられ、そのまますくい上げられる。
それから、目元にジルの唇が触れて…
ジル:このような可愛い顔をした貴女を、
ジル:誰にも見せたくないと言っているんです
愛しげに囁かれて、胸の奥が甘く締めつけられた。
(それなら、私も)
私は、恥ずかしさに目を潤ませながら、ジルの瞳を見つめ返す。
吉琳:こんな顔…ジルにしか、見せられません
(どんな表情も見せられるのは、)
(大好きな…ジルにだけ)
素直な気持ちを告げると、
微笑んだジルが立ち上がって、私に手を差し出して…―
ジル:それでは、誰にも見られないように
ジル:貴女が泣きやむまでは、この部屋から庭を楽しみましょうか
吉琳:はい…
そうして二人で窓辺に歩み寄り、広く美しい庭園を見つめる。
華やかなその場を眺めていると、ゆっくりと腰を抱き寄せられた。
(あ…)
見上げても視線は交わらず、ジルは庭園に目を向けている。
けれどジルの指先は、私の指を絡めとっていて…
(こうされたら…)
(もっと触れて…キス、したくなってしまう)
そう思うのと同時に、先ほど目元に落とされた熱が、またよみがえってくる。
私はそんな気持ちを抱えて、騒がしくなった胸を押さえながら、ジルに声をかけた。
吉琳:あの…ジル
すると、こちらを向いたジルは、私の気持ちを感じとったのか、
一度、ゆったりと頷いてから微笑むと、
庭園を歩く人々を見下ろせる窓のカーテンを、さっと引く。
ジル:貴女からのキスも、ひとり占めさせてください
囁くように言われて、私は頬を熱くしながら答える。
吉琳:はい
そうして、ほんの少し日の光を遮った部屋で甘い口づけを交わした。
(ひとり占めしたいと思っているのは、ジルだけじゃない)
(私も、もっとジルを…)
自分の中に、そんな独占欲があったことに少し驚きながらも、
気持ちのまま、そよ風に揺れるカーテンの側でつま先立ちになり、
ジルの口づけに自ら応えていった…―
fin.
エピローグEpilogue:
彼の腕に抱きとめられ、守ってもらった夜、
―…その腕の中に、ひとり占めされる。
ジル:誰が隠していいと言いました?
ジル:私に隠しごとをするなんて、許しませんよ
ジルが、あなたの動きを封じるように指先を絡めて…―
ジル:…貴女の可愛らしい声も、私だけに聞かせてくださいますか?
向けられる熱を、全て受け止めて、二人の想いが溶けあっていく…―