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[彼目線イベント]

恋に効く禁止令~もどかしい君とのキョリ~(ジル)

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日に日に想いを深める彼とあなた。
そんな2人に課せられたのは、とある禁止令で…!?
………
ジルに言い渡されたのは『自由行動禁止』。
ジル:次は、私を喜ばせて下さい。
ジル:貴女にしか出来ない方法で
(これだけで離すわけにはいきません)
……
彼のもどかしさは大きな愛となって、
あなたの胸を熱く震わせる…―

 

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プロローグ:


小鳥のさえずりが中庭に響く、爽やかな朝のこと…―
私は、メイドさんからあることを告げられ、
詳しく話を聞くためにジルの元へ急いでいた。

(急なことだから…せめて事情は聞いておきたい)

ジルの部屋の前で息を整えてから、扉をノックする。
吉琳:吉琳です。今、いいですか?
ジル:どうぞ
聞こえてきた声に従って目の前の扉を開いた。
中に足を踏み入れると、
向かい合って座っていたジルとレオが、揃ってこちらを向く。
レオ:おはよう、吉琳ちゃん
吉琳:おはよう…ごめんなさい。話し中だった?
真面目な表情の二人を見てそう訊ねると、
ジルは安心させるように、にこやかに答えた。
ジル:構いませんよ
ジル:それよりどうしたんです? こんなに朝早くから
吉琳:さっき、メイドさんに聞いたことを確かめたくて
吉琳:禁止って……
すると、私の言いたいことに思い至った様子でジルが頷く。
ジル:あのことですか。それなら、メイドが伝えた通りですよ
ジル:ちょうど、その件で今レオと話していたところです
吉琳:レオも…?
レオ:今回のことは、城内の官僚たちと話し合って決めたことだからさ
レオ:でも、今まで普通にしてたことを禁止って言われると、びっくりするよね
吉琳:うん……
明日から、とあることが禁止されると聞き、
わずかな期間ではあるものの、やはり戸惑う気持ちは抱いてしまう。
ジル:お気持ちは分かります。ですが、これも公務の一環です
ジル:しっかり、お願いしますよ
吉琳:は、はい…

(そうだよね。公務なんだから)

私は気持ちを切り替え、二人に会釈をして部屋を後にした。
そうして静かに扉を閉め、来た道を戻っていく。

(プリンセスとして、出来ることはしっかり務めたいと思うけれど、)
(今回のこと…あの人は、なんて思っているのかな)

恋人である彼の気持ちを想像しながら、私は廊下を進んでいった…―

 

どの彼と物語を過ごす?

>>>ジルを選ぶ

 

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第1話:

 

柔らかな陽の光が、窓から降り注ぐ、ある朝のこと…―
吉琳が出ていった直後、
静かになった部屋に、レオの小さく笑う声が落ちた。
レオ:『公務の一環』なんて強がっちゃって
ジル:…何のことですか
ジルがわざとそう訊ねると、レオがにやりとして言葉を続ける。
レオ:ジルだって本当は戸惑ってるんじゃない?
レオ:二日間も自由行動禁止、なんてさ
明日からジルと吉琳は、招待されている異国の祭りに参加する予定だった。
ただ、国賓であるジルたちを厳重に護衛するため、
招待国の騎士や執事、メイドたちが常に側につくことになっている。

(確かに、初めてのことですから戸惑いはありますが、)
(その気持ちは、吉琳の方が大きいでしょうね)

ジルは心の中に吉琳の顔を思い浮かべつつ、
動揺を見せないよう、笑みを作ってレオに答えた。
ジル:大げさですよ。安全を確保するために、行動が少し制限されるだけです
レオ:でも部屋も別々だし、入り口を騎士が見張ってるんじゃあ、
レオ:夜、吉琳ちゃんにも逢いにいけないでしょ


=====


ジル:大げさですよ。安全を確保するために、行動が少し制限されるだけです
レオ:でも部屋も別々だし、入り口を騎士が見張ってるんじゃあ、
レオ:夜、吉琳ちゃんにも逢いにいけないでしょ
楽しげに笑うレオに、ジルは小さくため息をついた。

(まったく、他人事だと思って楽しんでいますね)

ジル:ご心配には及びません
からかう言葉を、さらりとかわすように答えると、レオが苦笑をこぼす。
レオ:まあ、今のは半分冗談だけどさ
レオ:二人とも色々と大変だと思うけど頑張って
ジル:ええ
平然と返しつつも、レオが言うことは事実でもあり、ジルは考えを巡らせた。

(公務中、お互いの立場を意識して振る舞うのは当然ですが、)
(それ以外の時間も、常に護衛がつくとなると、)
(いつも通り、というわけにはいかないでしょう)

公務以外の理由で、教育係がプリンセスの部屋を訪れたと周囲に知れたら、
二人の恋人関係を、疑われてしまう可能性がある。

(…辛い気持ちがないとは言えませんが、せっかくご招待頂いた場でもあります)
(二日間、吉琳が祭りを楽しめるよう努めましょうか)

ジルは気持ちを切り替えるように、明日からの行程が書かれた書類を手に取った。

***

その翌日、二人は予定通り異国へと向かって…―


=====


その翌日、二人は予定通り異国へと向かって…―
ジルと吉琳は、パレードや露店を一目見ようと城下に集まった観客たちに交じり、
盛大に開かれている祭りを見て回っていた。

(これほど大規模な様子を見ると、この国の豊かさがうかがえますね)

通りの両脇に並ぶ店には、多くの珍しい食べ物や工芸品が並び、
賑やかな声が常に飛び交っている。
感心していると、自ら案内をしていた国王が、満足げに笑った。
国王:お二人に我が国の祭りを見て頂けて光栄ですな
吉琳:こちらこそ、ご招待頂きありがとうございました
ジル:私からも、お礼を申し上げます

(吉琳は、少し緊張しているようですが、祭りを楽しんでいるようですね)

ジルは口元に微かな笑みを浮かべ、
多くの騎士に囲まれながら、人波が開けた道を歩いていく。
そうして、しばらく進んでいったところで、吉琳が横の細い路地を指差した。
吉琳:あちらの露店を見ても宜しいでしょうか
ジルもその路地へと視線を移すと、わずかに眉を寄せ…―

(あちらは…)


=====


吉琳:あちらの露店を見ても宜しいでしょうか
ジルもその路地へと視線を移すと、わずかに眉を寄せ…

(あちらは…)

細い路地には、溢れそうなほど人が行き交っていて、
騎士を引き連れて入れるようには見えなかった。
興味津々といった表情で訊ねた吉琳に、国王は少し困ったように答える。
国王:本当は見て頂きたいのだが、あちらは人通りが特に多いのです
国王:護衛が難しくなるので…申し訳ない
吉琳:いえ、私こそ急にすみません…
吉琳は、すぐに笑顔で返したものの、
その声はいつもより沈んで聞こえた。

(吉琳の望みを叶えられたら、と思いますが…)
(厳重に護衛を出来ないのも、確かではあります)

少し無理をして笑う吉琳の横顔と、見物客で混雑した路地を交互に見て、
ジルが小さく息をついたその時、
パンっと何かが破裂するような大きな音が、その場に鳴り響いて…―
吉琳:……!
ジル:プリンセス!


=====


ジルが小さく息をついたその時、
パンっと何かが破裂するような大きな音が、その場に鳴り響いて…―
吉琳:……!
ジル:プリンセス!
ジルはとっさに吉琳の手を引き、全身でかばうようにして抱きしめた。

(吉琳…)

ジルはこの場では口にできない吉琳の名を、思わず心の中で呼びながら、
腕の中で瞳を瞬かせている吉琳の顔を覗き込む。
ジル:大丈夫ですか?
吉琳:…はい。ありがとうございます
吉琳はジルの服をぎゅっと握りしめながら、少しほっとした表情を見せた。

(どうやら無事なようですね)

吉琳:ですが今の音は…
ジル:ええ。何だったのでしょうか
吉琳と一緒にあたりを見回していると、
側にいた一人の騎士が声を上げる。
騎士:どうやら風船が割れただけのようです
その言葉にジルは、ほっと胸を撫で下ろした。

(目の前で、吉琳の身に何かあったら…と胸の奥が冷えました)

そう思いながら、吉琳を抱きしめる腕に、わずかに力を込めていると、
騒然としていた周りの人々も落ち着いてきたようで、祭りの賑やかさが戻ってくる。
すると、腕の中から見上げてくる吉琳が、ぽつりと声をこぼした。
吉琳:ジルが、側にいてくれてよかった…
ジル:っ…
柔らかな微笑みと共に呟かれた言葉に、鼓動が甘く音を立てる。

(本当は、このまま離したくなどありませんが)
(…抱きしめたままでいるわけにはいきませんね。)
(…特に、このような状況では)

ジルは名残惜しくも、ゆっくりと吉琳から手を離して…―

 

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第2話:

 

(本当は、このまま離したくなどありませんが)
(…抱きしめたままでいるわけにはいきませんね。…特に、このような状況では)

ジルは名残惜しくも、ゆっくりと吉琳から手を離して…
ジル:何事もないようで安心しました。プリンセス
いつも通りの笑みを浮かべ、わずかに『プリンセス』と強調して呼ぶと、
はっとした様子で吉琳が頷く。
吉琳:はい…
わずかに寂しげな色を含んだ声に、気づかないふりをして、
ジルは、一瞬湧きあがった恋人としての想いをしまった。
すると、騎士の報告を受けていた国王がこちらへ声をかける。
国王:驚かせて申し訳ない。怪我はありませんか?
吉琳:大丈夫です。ご心配ありがとうございます
国王は、吉琳の明るい微笑みを笑顔で受け止めつつも、
その表情には、どこか申し訳なさが滲んでいた。

(ここは…場の雰囲気を変えた方がよさそうですね)

国王にこれ以上、気を遣わせないために話題を変えようと、ジルは口を開き…


=====


(ここは…場の雰囲気を変えた方がよさそうですね)

国王にこれ以上、気を遣わせないために話題を変えようと、ジルは口を開き…
ジル:ところで、国王陛下。貴国では、熱気球の開発に力を入れていると伺いました
ジル:この祭りで見かける風船も、その技術を使われているとか
ジル:実際に、この目で見ることが出来て光栄です
ジルの切りだした話に、国王は笑顔で頷く。
国王:ええ、その通り。だが、最近開発を始めたばかりだというのに、ジル殿は博識ですな
国王:それに、随分と献身的でいらっしゃる
国王:わが身を顧みず、プリンセスを守るとは
国王の何気ない言葉に、隣の吉琳が、わずかに息をのむのが分かった。
そんな様子に、ジルはふっと笑みをこぼす。

(きっと、私たちの仲を疑われたとでも思ったのでしょう)
(吉琳は、本当に素直な方ですね)

吉琳への愛しさを、心の中でこっそりと募らせながら、
ジルは教育係としての顔を崩さずに口を開き…―


=====


(吉琳は、本当に素直な方ですね)

吉琳への愛しさを、心の中でこっそりと募らせながら、
ジルは教育係としての顔を崩さずに口を開き…
ジル:ええ。プリンセスは、ウィスタリアになくてはならない存在です
ジル:何があってもお守りするのが、臣下としての務めですから
吉琳:っ……
言い終えて、ちらりと吉琳を見つめると、
その頬が、ほんのりと赤くなっているのが分かって、
可愛い反応に、自然と表情を緩めた。
国王:さすが、ウィスタリアの優秀な国王側近殿だ
そう言った国王は大きな笑い声を上げて、再び歩きだす。
その後ろに続こうと、ジルも一歩、足を踏み出した時、
吉琳に小さな声で呼びかけられた。
吉琳:ありがとうございます
にこっと微笑んで歩みを進める吉琳に、
鼓動が小さな音を立てて跳ねる。

(国王へ上手く誤魔化したことへのお礼なのか、私の言葉へのものなのか…)
(恐らく、どちらもなのでしょうが、)
(…この調子では、ウィスタリアに戻るまで気が抜けません)


=====


(…この調子では、ウィスタリアに戻るまで気が抜けません)

不意打ちの笑顔にざわめく鼓動をおさえようと、そっと息をつくと、
ふと出発前のレオの言葉を思い出す。


〝レオ:二人とも色々と大変だと思うけど頑張って〞

(レオは、この制限された状況を大変だと言ったのだと思いますが、)
(…吉琳の無自覚な行動の方が、私にとっては大変ですね)

ジルは胸の内で苦笑しつつ、吉琳の歩幅に合わせて歩きだした。

***

その後は何事もなく、祭りで盛り上がる城下を回り終え…―
城内で開かれた国王との晩さん会の後、
ジルは滞在する部屋まで、吉琳を送っていた。
目的の部屋の前で立ち止まると、ジルは吉琳に声をかける。
ジル:プリンセス。手を出して頂けますか?
吉琳:はい…
首を傾げつつ、吉琳は素直にこちらへ手を差し出す。
ジルは、差し出された手を取ると、そこにあるものを乗せ…―
ジル:落ちていましたよ


=====


ジルは、差し出された手を取ると、そこにあるものを乗せ…
ジル:落ちていましたよ
吉琳:えっ
小さな花をかたどったアメジストのイヤリングに、吉琳が目を瞬かせる。
それは、今日の祭りで吉琳がずっと気になっていた様子の品だった。

(こうでもしないと、渡せませんからね)

ジルは、側に控えている城の執事や騎士をちらりと見回し、
再び、吉琳に真っ直ぐな視線を注ぐ。
ジル:これは、プリンセスのものですね?

(今ここで、恋人へのプレゼントだと言うわけにはいきませんが、)
(愛しさを堂々と表せない状況でも、想いを伝えたいと思ってしまいます)

そんな気持ちを視線に乗せて見つめていると、
吉琳はジルの言葉の意味を理解したようで、途端に顔を綻ばせて頷く。
吉琳:はい、探していたんです。ジルが拾ってくれたんですね
吉琳:ありがとうございます
吉琳:…大切なものなので、失くさないようにします
吉琳は、手の平の上のイヤリングを、大切そうに両手で包む。

(大切なもの…ですか)

その言葉の裏に隠された、吉琳の想いに気づいて、胸が甘く締めつけられる。

(もう少し話していたいですが、今日は一日中、気を張っていたようですし、)
(休んで頂いた方がいいですね)

ジル:それでは、プリンセス。明日も宜しくお願いしますよ
ジルは改めてそう告げ、滞在する部屋へ戻ろうとして…―

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

ジル:それでは、プリンセス。明日も宜しくお願いしますよ
ジルは改めてそう告げ、滞在する部屋へ戻ろうとして、
その足を、途中でぴたりと止める。

(…全てを話すわけにはいきませんが、)
(これだけは、言っておいた方がいいかもしれませんね)

そう考えて、ジルは吉琳に向き直った。
ジル:言い忘れていました
ジル:明日は、予定より早く祭りへ向かいます
吉琳:えっ
突然の言葉に、吉琳は目を見開く。
ジルは、そんな吉琳に気遣うような笑みを向けて告げた。
ジル:疲れが残っては大変ですから、ゆっくりお休みください
吉琳:……? はい…
吉琳は不思議そうな顔をしながらも、言われた通り部屋に入っていく。

(今は、秘密にしておきましょう。明日のお楽しみですからね)

ジルは吉琳の様子に目を細めて、自分の部屋へと向かった。

***

翌朝、ジルは吉琳と共に城下へとやって来て…―
吉琳:これって…!


=====


翌朝、ジルは吉琳と共に城下へとやって来て…
吉琳:これって…!
目の前の光景に驚く吉琳を見て、ジルは口の端を持ち上げる。

(そのように、目を丸くして、)
(予想以上の反応ですね)

ジルと吉琳は、昨日、見ることが出来なかった細い路地に並ぶ露店を訪れていた。
祭りが始まる少し前なら、店の準備に大きな影響もなく、人も少ないだろうと考え、
国王に話を通し、特別に巡らせてもらえることになっている。
ジル:見ての通りです
ジル:時間があまりありませんから、早速、参りましょうか
吉琳:はい
弾んだ声で頷いた吉琳は、足取りも軽く、路地に並ぶ店を見ていった。

(もう少しで祭りが始まりますし、長居は出来ませんが、)
(楽しめているようで、安心しました)

吉琳:ジル、向こうも見てみましょう
ジル:ええ、ぜひ
楽しげに瞳を輝かせる吉琳に、ジルはふっと笑みをこぼした。

***

そうして祭りを楽しみ、その日のうちにウィスタリアへと向かって…―
帰りの馬車に揺られていると、
隣に座る吉琳が、ふと真面目な表情で口を開く。
吉琳:今日はありがとうございました。あんな風に露店を回れて楽しかったです
吉琳:でも…許可をもらうの、大変でしたよね

(律儀ですね)

ジルは、静かに首を横に振った。
ジル:改まってお礼を言われることではありませんよ
ジル:あれは、貴女のためだけではなかったので
吉琳:え?
きょとんとして言葉の続きを待つ吉琳に、
ジルは穏やかな笑みを向け…―


=====


ジル:あれは、貴女のためだけではなかったので
吉琳:え?
きょとんとして言葉の続きを待つ吉琳に、
ジルは穏やかな笑みを向け…
ジル:吉琳を笑顔にしたいという、私の望みも叶いました
吉琳:ジル……
はっとした表情を見せた吉琳は、
何かを考えるようにまつ毛を伏せて、言葉を続けた。
吉琳:ジルばかり…ずるいです
ジル:ずるい?
首を傾げていると、吉琳は少しむくれたように言う。
吉琳:イヤリングのプレゼントも、今日のことも、
吉琳:私ばかりこんなに喜ばせてもらって、
吉琳:お返しに何かしたくても、隙がなくて余裕なので…
そう言い終え、ちらりと上目遣いで見上げてくる吉琳に、
ジルはふっと苦笑をこぼした。

(まったく、何を言い出すかと思えば)

ジル:馬鹿な人ですね
ジル:貴女のことに関しては、余裕などありませんよ
ジルは、冗談めかして言いながら、
祭りの間、何度か理性が揺らいだことを思い返す。

(無自覚に人を煽るのですから、困ったものです)

そうして、ジルは吉琳の瞳を覗き込み…―


=====


(無自覚に人を煽るのですから、困ったものです)

そうして、ジルは吉琳の瞳を覗き込み…
ジル:貴女の目にそのように映っていたのは、
ジル:純粋に、貴女を喜ばせたいと思っていたからでしょう
ジル:些細なことでも喜ばせたいと思うのは、恋人として当然です
そう告げて、吉琳の膝に置かれた手に、自分の手を重ねる。

(今回のように、直接は愛を伝えられなくても、)
(私の全てで、吉琳を笑顔にしますよ)

自分自身に宣言をするように、胸の内で続けると、
吉琳がぽつりと呟く。
吉琳:…やっぱり、ずるいです
わずかに拗ねた表情の吉琳に、自然と表情を緩めてしまう。

(吉琳がそこまで言うのでしたら、)
(お返しをして頂きましょうか)

心の奥に、じわじわといたずらな想いが湧いてくる。
ジルは含みのある笑みを浮かべ、吉琳に顔を寄せて…―
ジル:では
ジル:次は、私を喜ばせて下さい


=====


ジル:では
ジル:次は、私を喜ばせて下さい
ジル:貴女にしか出来ない方法で
吉琳:っ……
吉琳は一気に顔を真っ赤にして瞳を見開いたものの、
気持ちを固めた様子で、そっと唇を重ねた。
けれど恥ずかしいのか、すぐに身体を離そうとする。

(やっと、何も気にせず吉琳と想いを交わせるというのに、)
(これだけで離すわけにはいきません)

ジルは、わずかに開いた隙間を埋めようと、吉琳の身体を強く抱きしめた。
ジル:それでは、まだ足りません
ジルは吐息混じりに言って今度はより深く唇を重ねる。
吉琳:ん…
懸命に口づけを受け止めようとする吉琳の素直な姿に、
ジルの理性が、また揺さぶられた。

(貴女のこととなると、どうも欲深くなってしまいます)

温もりをさらに求めるようにして、ジルは吉琳の背中や腰元を撫であげる。
吉琳:ぁ……
吉琳の口から、いくつもの夜を思い起こさせるような甘い声がこぼれ、
背中に、ぞくりとした痺れが走る。

(…さすがに、ここではいけませんね)

ジルは、塞いでいた吉琳の唇をゆっくりと解放すると、
とろけ始めた瞳を見つめて…―
ジル:続きは城に帰ってからにしましょうか
ジル:とっておきのお返しを期待していますよ

 

fin.

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:

 

ジル:それでは、プリンセス。明日も宜しくお願いしますよ
ジルは改めてそう告げ、滞在する部屋へ戻ろうとして…
吉琳:あの、少しだけここで待っていてもらえますか?
ジル:…ええ
ジルを呼びとめた吉琳は、慌てて部屋に入っていく。

(どうしたのでしょう)

不思議に思っているうちに、吉琳はすぐに部屋から出てきて、
小さく折りたたまれた羊皮紙を差し出した。
吉琳:これは……お土産にしたいものを書いたリストです
吉琳:用意をして頂けますか?

(吉琳がこんなことを言うのは珍しいですね)

首を傾げつつ羊皮紙を開こうとすると、
吉琳は慌ててジルの手を止めて、言葉を付け足す。
吉琳:っ…部屋で見てください

(どうやら、書かれているのは、お土産ではなさそうですね)

何となく吉琳の想いを察したものの、あえて気づかないふりをして頷く。
ジル:分かりました。後ほど、確認しましょう
吉琳:お願いします

(一体、何が書いてあるのでしょうか)

楽しみに思いながら、ジルは自分の部屋へと戻った。

***

その後、部屋に戻ったジルは、早速吉琳から受け取った羊皮紙を確認する。
するとそこには、予想外の言葉が書かれていて…―


=====


その後、部屋に戻ったジルは、早速吉琳から受け取った羊皮紙を確認する。
するとそこには、予想外の言葉が書かれていて…

(『言葉に出来なくても…ジルを愛しています』)


(わざわざ嘘をついて、これを…)

吉琳が、自分と同じ想いでいることが分かって、さらに愛しさが湧く。
ジルは思わず表情を緩めながら、考えを巡らせ…

(吉琳には、明日もきっと我慢をさせる場面があると思いますが、)
(帰る前に、何か楽しんで頂けることはないでしょうか…)

ふいに、ある案を思いつく。

(城に戻る途中なら、ちょうどいい時間になりそうですね)

ジルはふっと笑って、窓から見える祭りの明かりに目を細めた。

***

そうして二日間の祭りが終わり、二人は異国を後にして…―
ジルと吉琳は、ウィスタリア城に戻る途中、
招待された国の隣国にある、広大な花畑へと立ち寄っていた。
ジルは、胸元から懐中時計を取り出し、時間を確認する。

(そろそろですね)

吉琳:どうしてここに?
隣に立つ吉琳の、不思議そうな表情に、
ジルは、意味深な微笑みを返し…―
ジル:もう少しで分かりますよ


=====


吉琳:どうしてここに?
隣に立つ吉琳の、不思議そうな表情に、
ジルは、意味深な微笑みを返し…
ジル:もう少しで分かりますよ
それと同時に、前方の空へと目を向けた吉琳が、はっとしたように声を上げた。
吉琳:あれは…
国境を示す森の向こうには、薄い茶色の大きな気球が浮かんでいる。
ジル:今日、飛行実験が行われると聞いていたんです
まだ実験段階なため、近くで見る許可は出なかったものの、
隣国から見える場所があると、この花畑のことを教わっていた。
吉琳:そういうことだったんですね
吉琳:あんなに高く飛ぶなんて…
空に浮かぶ気球を、夢中になって眺める吉琳を見て、
ジルの口元に、自然と笑みがこぼれる。

(ここに来て正解でしたね)

そうして、きらきらとした横顔を見つめていると、
吉琳がふいに真面目な表情をこちらに向け…―
吉琳:ジル
吉琳:貿易を積極的に行ったら、
吉琳:異国から技術を取り入れることも出来るのでしょうか


=====


吉琳がふいに真面目な表情をこちらに向け…
吉琳:ジル
吉琳:貿易を積極的に行ったら、異国から技術を取り入れることも出来るのでしょうか
ジル:技術…ですか?
吉琳:はい。ウィスタリアの人々にも見せたいんです
吉琳:夢のある、素敵な風景を

(吉琳…)

どんな時でも国を思う吉琳の姿を見て、
誇らしく思うのと同時に、心が温かくなる。

(吉琳の側にいると、いつも思いますね)
(この方をプリンセスに選んでよかった、と)
(そして…一生、大事にしていきたいとも)

そう思う中、お互いに自由に想いを伝えられなかったせいか、
さらに吉琳の言葉を求めてしまう。

(吉琳の前では、我慢が利かなくなって困ります)

ジル:プリンセスとしての貴女のお気持ちは、よく分かりました
ジル:ですが私としては…
ジルは吉琳の腰に腕を回して引き寄せ、顔を近づけると、
少し意地悪な微笑みを浮かべて…―
ジル:恋人としての言葉も、是非、聞きたいのですが


=====


ジルは吉琳の腰に腕を回して引き寄せ、顔を近づけると、
少し意地悪な微笑みを浮かべて…
ジル:恋人としての言葉も、是非、聞きたいのですが
吉琳:っ……
瞳を瞬かせた吉琳は、照れた様子で一瞬、視線を逸らしたものの、
すぐに顔を上げ、はにかんで言葉を紡ぐ。
吉琳:大好きな人と、こんな素敵な景色を見られて…とても、幸せです
そんな吉琳の、ほんのりと赤くなった頬に触れながら、ジルは笑みを深めた。
ジル:私も幸せですよ、吉琳
ジル:貴女を、そのような笑顔にすることが出来て
そう告げると、吉琳はいっそう嬉しそうに微笑む。

(まったく…一体、どこまで私の心をかき乱すのでしょうか)

吉琳の輝くような笑顔に、思わず胸の奥を揺さぶられ、
ジルは吸い寄せられるようにして、触れるだけの口づけを落とす。
吉琳:ジルっ…誰かに見られたら……
焦った声を出す吉琳に、ジルは、ふっと笑って告げる。
ジル:見る者はいませんよ。あの国にいる時とは違って
ジル:ですから、吉琳からもして頂けますか?
ジルの言葉に、吉琳は真っ赤になりながらも頷き、背伸びをして唇を重ねた。

(恋人だと公に出来ない分、この二日間は気を配ることが多かったですが、)
(秘密の関係、というのも悪いばかりではありませんね)
(この表情も、触れる熱も、私だけが知っていればいいものですから)

吉琳の控えめな口づけを受け止めながら、
ジルは、密かに自分だけのものだと主張するかのように、
愛しい存在を抱きしめる腕に、そっと力を込めた…―

 

fin.

 

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エピローグEpilogue:

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『禁止令』が解け、愛を確かめあう二人の夜は、
いつも以上に甘く深まっていき…―
……
………
ジル:…嬉しいのですよ。
ジル:貴女が私のために、懸命になってくれていることが
余裕の表情で笑みを深めたジルが、鎖骨に口づけを落とし…
(いつもとは違う状況に、)
(熱を煽られていたのは、)
(私だけではなかったようですね)
ジル:吉琳。今夜は、ここ数日の分も貴女に想いを伝えさせてください
………
……
こぼれる吐息さえ逃がさないように、ぎゅっと抱きしめられ、
彼の腕に捕われていく…―

 

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