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My Little Prince & Princess(ゼノ)

傑

 

 

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どの彼と物語を過ごす?

>>>ゼノを選ぶ

 

 

85

 

 

第1話:

 

ユーリ:何だろう、あれ…
ユーリと顔を見合わせ、光がおさまった場所に向かうと…

(っ……女の子?)

そこには、暗い紺色の髪を肩で切りそろえた、
真っ白なワンピース姿の女の子が立っていた。
背丈は私の胸元あたりで、十歳ほどに見える。

(すごく可愛い子…。迷子かな)

自然と惹きつけられる雰囲気は、何故かゼノ様を思い起こさせ、
不思議に思いながらユーリと歩み寄った。
すると、こちらに気づいた女の子が大きなグレーの瞳を瞬かせる。
女の子:ユーリ…それに、お母様…
ユーリ:えっ
女の子は、意味ありげな言葉をぽつりと呟き、
小走りに駆けてきて、私にぎゅっと抱きついた。
吉琳:っ……

(お母様って…もしかして私?)
(それにユーリのことも知っているみたい…)

ユーリ:…どういうことだろう?
女の子の様子に、ユーリと二人で首を傾げた時、中庭に低い声が響く。
???:賑やかだな

(この声…)

廊下の方へ視線を向けると…―


=====


???:賑やかだな

(この声…)

廊下の方へ視線を向けると、
ゼノ様がこちらへ歩いてくるのが見えた。
吉琳:ゼノ様! …お迎えも出来ずすみません
この日は、ゼノ様との会談がウィスタリアで開かれることになっており、
予定より少し早く到着したゼノ様は、穏やかな笑みで首を横に振る。
ゼノ:いや、気にしなくていい
ゼノ様がそう言うと、女の子はまるでその声に反応したように小さく肩を揺らし、
私から身体を離して、こちらに近づくゼノ様を見つめた。
女の子:お父様
吉琳:……!
ユーリ:うそ…
ゼノ:ん?
女の子は、ぴんと背筋を伸ばしてゼノ様の正面に立つと、
ワンピースの裾を持ち上げ、優雅な仕草でお辞儀をする。
女の子:お父様。公務、お疲れ様です
ゼノ:…ああ
ゼノ様は微かに不思議そうに瞳を細めつつも、
小さな女の子を不安にさせないためか、疑問を口にせず静かに頷いた。

(ゼノ様が『お父様』で私が『お母さま』って…どういうことなんだろう…?)

戸惑いを隠しながら考え込んでいると、隣に立つユーリが口を開く。
ユーリ:吉琳様。ゼノ様が着いたってことは、もうすぐ会談が始まるんじゃないの?
吉琳:あ…

(でも、どうしよう。こんなに小さな女の子を一人にするわけには…)

そんな私の気持ちを見透かすように、ユーリがにこっと微笑んで…―
ユーリ:大丈夫。この子は俺が見ててあげるよ


=====


ユーリ:大丈夫。この子は俺が見ててあげるよ
ユーリ:ジル様にも上手く言っておくし、色々と話したらこの子のことが分かるかも
吉琳:そう…だね
迷いながら女の子を見つめる。
女の子は真面目な表情のまま、じっと黙って成り行きを見守っていた。

(心配だし…そうしてもらう方がいいかもしれない)

吉琳:うん。お願い
ユーリに頷いたその時、女の子がぽつりと声をこぼす。
女の子:…やっぱり、私は……
ゼノ:どうかしたのか?
何か言いたそうな女の子へ、ゼノ様が問いかける。
けれど女の子は、そっと首を横に振った。
女の子:…何でもありません
ユーリ:じゃあ行こっか。えっと名前は…
女の子:エマ
ユーリ:素敵な名前だね
ユーリと手を繋いで歩いていくエマを見送り、
私も、ゼノ様と共に執務室に向かった。

***

そうして無事に会談を終えた私たちは、
ゼノ様と共にベッドサイドの椅子に腰かけていた。
ベッドには、ユーリと話し疲れてしまったらしいエマが眠っている。
吉琳:ゼノ様…さっきのユーリの話、どう思いますか?
ゼノ:この少女が俺たちの未来の子ども、という話か


=====


吉琳:ゼノ様…さっきのユーリの話、どう思いますか?
ゼノ:この少女が俺たちの未来の子ども、という話か
吉琳:はい…
ゼノ:ウィスタリア、シュタイン両国の城に出入りする者たちを知っていたらしいな
他にもユーリが知らない城での出来事を話したことや、
エマ本人がゼノ様と私を両親だと言っていたことから、そう判断したのだという。

〝ユーリ:信じられないけど…嘘をついてるようには見えなかったんだ〞
〝ユーリ:あの子は、二人の子どもだと思う〞

ユーリの言葉を思い返していると、
じっと考えるように視線を伏せていたゼノ様がこちらを見つめた。
ゼノ:現実的ではない。だが…嘘だと否定も出来ないだろう
吉琳:…私も、そう思います
吉琳:それに不思議ですが…エマを最初に見た時、ゼノ様に似ていると感じたんです
ゼノ:似ている?
吉琳:はい。自然と惹きつけられるような雰囲気が、そっくりだなと…
ゼノ:なるほどな
納得したように頷いたゼノ様は、ふいにからかうような表情で私を見つめて…―
ゼノ:俺にも惹きつけられている、ということか?


=====


ゼノ:似ている?
吉琳:はい。自然と惹きつけられるような雰囲気が、そっくりだなと…
ゼノ:なるほどな
納得したように頷いたゼノ様は、ふいにからかうような表情で私を見つめて…
ゼノ:俺にも惹きつけられている、ということか?
吉琳:っ……
自然とこぼれてしまった言葉の意味に改めて気づかされ、
胸の内に恥ずかしさが込み上げる。

(確かにうっかり言ってしまった言葉だけれど、嘘ではないから…)

私はゼノ様へ視線を向け、真っ直ぐ見つめながら返事をした。
吉琳:はい。初めてお逢いした時から…ずっと
ゼノ:…そうか
ゼノ様はふっと笑い、隣に座る私の腰を引き寄せる。
近づいたゼノ様の肩に頭を預けると、触れ合った箇所から温もりが広がり、
とくとくと心臓の鼓動が速まり始めているのを感じた。
ゼノ:吉琳
穏やかな声で名前を呼ばれて見上げると、ゼノ様の指が私の頬に手を添える。
唇が重なる予感に瞳を閉じかけた時…―
エマ:おかあ…さま……

 

 

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第2話:

 

唇が重なる予感に瞳を閉じかけた時…
エマ:おかあ…さま……
吉琳:っ……
ふいに響いた声に、はっとしてベッドを見つめると、
エマがぼんやりとした表情で起き上がっていた。
エマ:ここは…
吉琳:ウィスタリア城だよ
ゼノ様と、どちらからともなく自然と身体を離すと、私はエマに微笑む。
するとエマは安心したように、ふっと息をついた。
ゼノ:眠る前のことを覚えているか?
ゼノ様に話しかけられると、エマは姿勢を正して真面目な顔で答える。
エマ:はい。シュタインにいたはずなのに、ウィスタリアに来ていて…
エマ:お母様たちとお別れした後は、ユーリとお話ししました
淡々とそう言ったエマは、ふいに視線をずらして自分の手元を見つめた。
真面目な表情はそのままに見えたものの、
揺れる瞳からは、言いようのない不安が滲んでいる。
ゼノ:何か気がかりなことがあるのか?
ゼノ様が優しく訊ねると、エマは少しためらった後、口を開いた。
エマ:…ここは私の知ってるウィスタリアと違うんですか?


=====


エマ:…ここは私の知ってるウィスタリアと違うんですか?
吉琳:ユーリがそう言っていたの?
エマ:ううん。でも…ユーリもお父様もお母様も、みんないつもと違うから

(こんなに幼いのに、周りの状況を見て、自分でそこまで考えたんだ)

ゼノ:ここは、お前が生まれる前のウィスタリアだ
エマ:…そうなんですね
ゼノ様が疑問の答えを告げても、エマは大きく驚いた様子はない。

(きっと、何となくそうじゃないかって思っていたんだろうな)
(こういうところ、ゼノ様に似てる)

聡明さに驚いていると、エマは膝の掛け布をぎゅっと握った。
エマ:私が、あんなことを思ったからかな…
吉琳:え?
訊ね返すと、エマは何かを言いかける。
けれど言葉にならないようで、黙って首を横に振った。
ゼノ:……
ゼノ様も口を閉ざしたまま、エマの様子を見つめて考えこんでいる。

(そういえば、ユーリに預ける前も何か言いかけていたよね)
(…思い当たることがあるのかな)

もう一度訊ねようとすると、ゼノ様がふいにエマに声をかけて…―
ゼノ:エマ、吉琳。少し付き合ってくれるか


=====


(そういえば、ユーリに預ける前も何か言いかけていたよね)
(…思い当たることがあるのかな)

もう一度訊ねようとすると、ゼノ様がふいにエマに声をかけて…
ゼノ:エマ、吉琳。少し付き合ってくれるか
吉琳:えっ
エマ:…?
エマと二人できょとんと見つめると、ゼノ様は優しく微笑んだ。

***

その後、ゼノ様に連れられ、私たちは夕陽の差し込む中庭に出ていた。
エマは、表情には出ていないものの、先ほどよりも弾んだ様子で庭の花を摘んでいる。
吉琳:エマ、楽しそうですね
ゼノ:ああ
私たちはベンチに隣り合って腰かけ、エマの様子を眺めていた。

(こうしていると、本当に夫婦で子どもを見守っているみたい)

そわそわと落ち着かない気持ちになって隣のゼノ様を見ると、
視線に気づいたのか、ゼノ様も穏やかな表情で私を見つめ返した。
ゼノ:どうした?
吉琳:いえ…幸せだなと思って
ゼノ:…そうだな

(ゼノ様も、幸せだって思ってくれているのかな)

ふんわりとした温かな空気に包まれながら、
ふと、ゼノ様へ気になっていたことを訊ねる。
吉琳:どうして中庭に…?
ゼノ:戸惑う状況なのは変わりないが、少し遊ばせてやった方がいいと思ってな
ゼノ:心が軽くなれば、隠していることも口にするだろう

(ゼノ様も、エマが何か言いたそうなことに気づいたうえで、)
(どうすべきか考えていたんだ)

不安を取り除く優しい提案に微笑みが浮かぶ。
その時、エマが色とりどりの花束を持って、こちらへ駆け寄ってきて…―


=====


その時、エマが色とりどりの花束を持って、こちらへ駆け寄ってきて…
エマ:お父様とお母様に
私とゼノ様へ、花束が一つずつ差し出される。
吉琳:ありがとう
ゼノ:綺麗だな
私は花束を受け取り、その中の一本を抜いてエマの髪に差し込んだ。
吉琳:エマにもどうぞ
黄色の花は、まるで夜空の星のように紺色の髪を飾り、
真っ白な頬をわずかに赤く染めて、エマが小さく微笑む。

(こんな風に、ゼノ様とエマと過ごす未来が来るんだよね…)
(その時が待ち遠しい)

エマに笑みを返した時、ゼノ様も束から花を一本引き抜いた。
ゼノ:では、お前にも
どこか楽しげに言って、ゼノ様は私の耳元にピンク色の花を差し込む。
ゼノ:よく似合っている。エマも、吉琳も
吉琳:あ、ありがとうございます…
高鳴る鼓動を感じながら、はにかんで笑みをこぼすと、
エマは何故か、また視線を伏せてしまった。
吉琳:エマ?
エマ:こうやって、前みたいに遊びたかっただけなのに…
ぎゅっとワンピースの裾を握るエマの手を、
ゼノ様は、大きな手の平で優しく包み込んだ。
エマ:お父様…
ゼノ:何があった


=====


ゼノ:何があった
ゼノ様に真っ直ぐ見つめられ、エマはぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
エマ:お母様を困らせたらダメって…わがままはダメって、言われたんです
吉琳:わがまま…?

(こんなに聡明なエマが、周りを困らせるほどのわがままを言うとは思えないけれど…)

ゼノ:…もう少し詳しく、話せるか
優しく問いかけるゼノ様に、エマはゆっくりと続きを話した。
エマ:もうすぐ私の弟か妹が生まれるんです
未来の私は、出産の準備のためエマと過ごす時間が少しずつ減っているという。
寂しさから私と遊びたいと言ったエマを、教育係がたしなめたようだった。
エマ:それで、ここにいたくないって思ったら…
ゼノ:過去にいた、というわけか
エマはゼノ様にこくりと頷いた。

(…エマの想いが、不思議な出来事を起こしたのかもしれない)
(しっかりしているけれど…まだ甘えたい時も沢山あるはずだよね)

涙をこらえているエマを見ていると、胸の奥をぎゅっと掴まれたように痛む。
エマ:…お母様ともっと遊びたいって…思っちゃダメなの?
切なげにエマが声をこぼした時…―

 

 

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傑分

 

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第3話-プレミア(Premier)END:

 

エマ:…お母様ともっと遊びたいって…思っちゃダメなの?
切なげにエマが声をこぼした時…
ゼノ:悪いことではない
ゼノ様はきっぱりとそう言って、強い眼差しで続けた。
ゼノ:だが時に、自分の想いより他者を優先する必要もある
ゼノ:お前はいずれ、王族として民を守る立場になるのだからな
エマ:王族として…
エマに向けられたその言葉は、私の胸にも広がっていく。

(これは…ゼノ様じゃないとかけられない言葉だよね)

幼い頃から、王族としての振る舞いを身につけていたゼノ様だからこそ、
エマの今後を考えて諭しているのだと感じた。
エマ:…はい。みんなにごめんなさいって、ちゃんと言います
俯きがちだった顔を上げて、エマははっきりとそう言った。
暗かった表情は晴れやかになっていて、ほっと安心した瞬間…―
吉琳:あっ
ゼノ:……
あたりが白い光に包まれた。
吉琳:元に戻れそうだね
エマ:うん
こくりと頷いたエマは、ゼノ様に向き直って告げる。
エマ:お父様。最後にお願いがあります
エマ:お顔を隠しているものを、取ってほしいです


=====


エマ:お顔を隠しているものを、取ってほしいです

(眼帯のことかな?)

ゼノ様も思い至った様子で、眼帯を外していく。
ゼノ:これでいいか?
エマ:はい。やっぱり、いつものそのお顔が一番好きです
エマが柔らかい笑顔で言うと、光がひと際強くなる。
吉琳:っ……
眩しさにぎゅっと目を閉じると、すぐに光が弱まったのが分かった。
ゆっくりと目を開け、夕日が差す中庭からは、
想像通り、エマの姿がなくなっている。
ゼノ:エマは帰れたようだな
吉琳:はい

(次に逢うのは、エマが生まれた時かな)

いずれ訪れるその日を思い描いて、私はゼノ様と笑みを交わした…―

***

その夜…―
私は、部屋を訪れたゼノ様にソファを勧め、自分もその隣に腰をおろした。
吉琳:未来の自分の子どもに逢ったなんて、今でも信じられませんが、
吉琳:何だか、元気をもらえた気がします
ゼノ:元気を?
吉琳:はい。あの子が未来で幸せに過ごせるように、今しっかり頑張ろうと思えたんです
吉琳:子どもは元気のもと、ですね
ゼノ:ああ。そのようだ
静かな笑顔で答えたゼノ様は、どこか意味ありげな眼差しを向けて…―
ゼノ:お前の言う『元気のもと』が二つに増えた
吉琳:二つ…ですか?


=====


ゼノ:お前の言う『元気のもと』が二つに増えた
吉琳:二つ…ですか?

(一つはエマで…)

なかなか浮かばないもう一つを考えていると、
ゼノ様が少しいたずらっぽく告げた。
ゼノ:お前が側にいると思うと、疲れも辛さも感じない
ゼノ:こう言えば、伝わるか?
吉琳:あ……

(もう一つは…私…)

言葉の意味を理解した途端、胸にじわりと温かさが広がる。
吉琳:そう言って頂けて嬉しいです…
吉琳:…私も、訂正させて下さい
ゼノ:ん?
吉琳:子どもと、ゼノ様が、元気のもとです
ゼノ:そうか
瞳を細めたゼノ様が静かに近づいて、私の唇に唇を重ねる。
微かな触れ合いでも愛おしさはしっかりと伝わって、胸が甘く温まった。
ゼノ:……
自然と間近で見つめ合うと、ふと隠された右目に意識が向いた。

(そういえば…)

吉琳:エマは、眼帯を外したゼノ様を見て『いつものお顔』と言っていましたね
吉琳:もしかして、未来でゼノ様は眼帯をしていらっしゃらないのでしょうか


=====


吉琳:もしかして、未来でゼノ様は眼帯をしていらっしゃらないのでしょうか
ゼノ:……
何気なく問いかけると、
少し考えるようにしていたゼノ様は、やがて表情を穏やかにして答えた。
ゼノ:さあな
ゼノ:いずれ、分かることだろう
吉琳:…そうですね

(もし、そうなったら素敵だな)
(…私も、もっとゼノ様のお顔を見ていたいから)

ゼノ:どうした
口を閉ざして考え込んでいると、ゼノ様が不思議そうに訊ねる。
私は少し迷いながらも、思い切って考えていたことを口にした。
吉琳:あの…今夜は、眼帯を外して頂けないでしょうか
ゼノ:……
吉琳:私もエマと同じで、何も隠さないゼノ様のお顔が好きなので
耳まで火照っていくのを感じつつ、そう告げると、
ゼノ様は、ふっと微笑んで眼帯を外す。
ゼノ:これだけで満足か?
吉琳:え…
誘うような言葉に鼓動が速くなり、声が詰まる。
何も言えないでいる私の唇に、ゼノ様はキスを落とした。
吉琳:…んっ…
舌が唇を割って入り込み、
甘く絡まる熱に息継ぎを忘れて、視界がくらくらと揺れる。
深いキスの合間に、ゼノ様は深い色の瞳で私を見つめて…―
ゼノ:それとも…もっとか?


=====


深いキスの合間に、ゼノ様は深い色の瞳で私を見つめて…
ゼノ:それとも…もっとか?
吉琳:そ、そんな、こと…
照れる気持ちからつい否定してしまいそうになるものの、言葉は徐々にしぼんでいく。

(一緒にいたいし、ゼノ様と触れあっていたい…)

本心と恥ずかしさの間で揺れていると、ゼノ様は私の背中に片手を回し、
もう片方の手で私の肩を押して、ゆっくりとソファに横たえた。
ゼノ:俺は、これだけで満たされそうもないが、無理を通すつもりもない
ゼノ:…だからお前の想いを聞かせてくれないか
覆いかぶさったゼノ様の言葉が、耳元を優しくくすぐる。

(私が今、思っていることは…)

いつもは眼帯の紐が覆っている箇所を、ゆっくりとなぞり、
胸の音を痛いほど響かせながら答えた。
吉琳:このまま…触れてほしい、です
吉琳:大好きなゼノ様の表情を、もっと見たいので…
するとゼノ様は私の指先を掴み、手の平に淡く口づけた。
ゼノ:ああ、分かった
ゼノ様の唇は私の腕を滑り、二の腕に触れて、やがて首筋へと登ってくる。
吉琳:ゼ、ゼノ様…っ
ぞくぞくと湧き上がる甘い痺れに声をこぼすと、
ゼノ様は愛しげな笑みをこぼして…―
ゼノ:お前が好きだと言うのなら、
ゼノ:隠すことなく、俺の全てでお前を愛そう

 

fin.

 

 

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第3話-スウィート(Sweet)END:

 

エマ:…お母様ともっと遊びたいって…思っちゃダメなの?
エマが切なげに声をこぼした時…
吉琳:エマ
私は優しく声をかけて、エマをぎゅっと抱きしめた。
吉琳:ダメじゃないよ
エマ:……っ
エマは私の腕の中で、小さく身体を震わせる。
ゼノ:一人で抱え込んでいたのか
ゼノ様も静かに手を伸ばすと、
エマの頭をゆっくりと撫で、穏やかな声で答える。
ゼノ:寂しく思うのは自然なことだ。自分を責めなくていい
エマ:本当ですか? …私は、じゃまな子じゃない…?
ゼノ:ああ。邪魔などと思うはずがない
ゼノ様の力強い言葉に、エマはほっと息をついて頷く。
気づけば、エマの小さな震えはすっかり消え去っていた。

(もう平気みたい。よかった)
(あとは、どうやって未来に戻るか…だよね)

抱きしめていた腕を緩めて考えを巡らせていると、
エマが大きな瞳をこちらに向け…―
エマ:お父様、お母様、行きたい場所があるんですがいいですか?


=====


エマ:お父様、お母様、行きたい場所があるんですがいいですか?
ゼノ:……?
吉琳:うん…
不思議に思いつつゼノ様と頷くと、エマはある場所を告げた。

***

エマが行きたがったのは、いつもドレスを仕立てている城下の洋品店だった。
カランと鐘を鳴らして店から出ると、ゼノ様がエマに視線を向ける。
ゼノ:それだけでよかったのか?
エマ:はい。お母様、赤ちゃんのためのブランケットに悩んでいたんです
エマは購入したブランケットを広げ、柄がよく見えるように私へ向けて掲げた。
エマ:これなら喜んでくれるかな?
クリーム色の地に、大きな星柄が入ったブランケットの横から、
エマの瞳が私をじっと見つめている。

(私が答えるのも変な感じがするけれど…)

吉琳:うん。きっと喜ぶと思うよ
私の答えに、エマは嬉しそうに目を細める。
そしてブランケットを小さく畳みながら、決意のこもった声でつぶやいた。
エマ:早く、戻らなきゃ
その時、強い光があたりを包んで…―


=====


エマ:早く、戻らなきゃ
その時、強い光があたりを包んで…
吉琳:……!
ゼノ:これは…
突然のことにゼノ様と驚いている間に、光は徐々におさまっていく。
吉琳:今のは一体…
それまでと変わらない風景に戻り、はっとしてその場を見回すと、
ゼノ様が小さく笑みをこぼした。
ゼノ:どうやら、エマが帰ったようだ
吉琳:あっ
気づくと、目の前にいたはずのエマの姿が消えている。

(もう帰ってしまったんだ)

ゼノ様と同じ物静かな雰囲気を持った可愛い姿は、
まだ頭にしっかりと残っていて、胸にちくりと寂しさが訪れた。
ゼノ:どうした
吉琳:エマが未来に帰れてよかったのですが、
吉琳:少し寂しいなと思ってしまったんです

(ゼノ様との大切な子どもと、もっと話していたかったな)

つい俯いてしまった私の耳に、ゼノ様の優しい声が響く。
ゼノ:寂しく思うことはない
吉琳:え…?
言葉の意味を理解しきれず顔を上げると、ゼノ様は微かに笑みを浮かべて…―
ゼノ:エマと再会する日は、そう遠くないと思っているが、
ゼノ:お前は違うのか?


=====


ゼノ:エマと再会する日は、そう遠くないと思っているが、
ゼノ:お前は違うのか?
吉琳:っ……
言葉の意味と態度から伝わる愛情に、胸が大きく跳ねた。

(ゼノ様と幸せな家族になって、エマと再会する日は…)
(きっと、すぐ来る気がする)

吉琳:いえ…私もそう思っています
はにかんで答えると、ゼノ様は優しく頷いてくれた。
愛しい人との未来を思い描くと、愛しさが一気に溢れだす。

(エマの気持ちが、とてもよく分かるな)
(私も、もっとゼノ様の側にいたいって思うことがあるから)
(…今もそう)

そこまで思って、つい子どもっぽい考えになってしまったことに苦笑する。

(エマに引きずられて、甘えたくなってしまったのかも)
(お忍びで出てきているし、早く城に戻らないと)

つま先を帰り道へ向けかけたその時、ふわりと腰を引き寄せられた。
吉琳:っ…ゼノ様?
真正面から抱きしめ合うような体勢になり、
近づいた距離のままゼノ様を見上げると…―
ゼノ:遠回りをしていかないか


=====


(お忍びで出てきているし、早く城に戻らないと)

つま先を帰り道へ向けかけたその時、ふわりと腰を引き寄せられた。
吉琳:っ…ゼノ様?
真正面から抱きしめ合うような体勢になり、
近づいた距離のままゼノ様を見上げると…
ゼノ:遠回りをしていかないか
吉琳:えっ?
ゼノ:せっかく二人でいるからな
ゼノ:少しでも長くこの時間を続けたいと思うのは、自然なことだろう
エマに告げた言葉と同じように言って、ゼノ様はふっと微笑んだ。

(一緒にいたいと感じていたのは、私だけじゃなかったんだ)

湧き上がる嬉しさから、自然と笑みが浮かんでくる。
喜びのままに見つめていると、ゼノ様の顔が視界いっぱいに広がった。
ゼノ:…少しでも長く、隣に
目を閉じる間もなく、温かな感触が一瞬だけ唇に訪れる。
吉琳:……っ
往来でのキスに、胸がひときわ大きな音を立てた。
顔中に熱が集まっていく中、
私を抱きしめる力を緩めて、ゼノ様が腕を差し出した。
ゼノ:腕を
吉琳:はい…
自然に腕を絡めると、ゼノ様はふっと小さく笑い声を落とす。

(こうしてゼノ様との時間を積み重ねて、いつかエマと出逢うんだろうな)
(待っていてね、エマ)

幸せな未来に向けて、私たちは一歩ずつ歩み出した…―

 

fin.

 

 

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エピローグEpilogue:

傑後

未来への期待と幸せが、彼への想いを溢れさせて…―
ゼノ:お前も求めているのなら、同じようにしてくれないか
ゼノ様の上着へ手を導かれ、お互いに服を落としていき…
ゼノ:そのまま顔を背けずにいろ
ゼノ:それが望みなのだろう
こぼれる吐息も、絡み合う眼差しも甘く溶け合い、
この愛は、永遠に続いていく…―

 

 

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    創作者介紹
    創作者 小澤亞緣(吉琳) 的頭像
    小澤亞緣(吉琳)

    ♔亞緣腐宅窩♔

    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()