Screenshot_20180410-215941

My Little Prince & Princess(アルバート)

艾

 

 

85

 

 

Screenshot_20180407-160931

どの彼と物語を過ごす?

>>>アルバートを選ぶ

 

 

85

 

 

第1話:

 

ユーリ:何だろう、あれ…
ユーリと顔を見合わせ、光がおさまった場所に向かうと…

(あの後ろ姿って…)

こげ茶色の短髪に、すらっとした長身の男性がこちらに背を向けて立っている。
転んでしまったのか、大きな背中を屈めながらハンカチで足元を払っている姿に、
私はそっと声を掛けた。
吉琳:アルバート…?
短めの髪がさらりと揺れて、振り返ったのは見知らぬ男性だった。
アルバートと背格好は似ているものの、まだ成長途中の青年に見える。
吉琳:っ…すみません、人違いだったようで…
思わず見間違いをしてしまったのは、
この後、アルバートと共にウィスタリア騎士団の視察を控えているためだった。

(もう到着したのかと思って、つい…)

気恥ずかしさから慌てている私を見て、男性の瞳が一瞬大きく揺れて固まる。
そして、ぽつりと男性が声をこぼした。
男性:母上…?
吉琳:えっ


=====


男性:母上…?
吉琳:えっ
ユーリ:……
予想外の言葉に瞳を瞬かせると、隣のユーリも小さく息をのんでいる。

(もしかして…私を見て『母上』って言ったの…?)

切れ長の目がじっとこちらを見つめるのを受け止めていると、
次の瞬間、男性がはっと何かに気づいたように呟いた。
男性:あれ。母上もユーリも、なんかいつもと違うような…
ユーリ:ねえ、君の名前聞いてもいい?
成り行きを見守っていたユーリが、不思議そうにしながらも問いかける。
ユーリの言葉に促されるように小さく頷くと、男性は口を開いた。
フィン:フィン=ブルクハルト。アルバート国王と吉琳王妃の息子だよ
吉琳:……!

(アルバートとの…子ども!?)

あまりの驚きに、言葉に詰まってしまう。
ユーリ:ねえ…今、『アルバート国王と吉琳王妃』って言ってたよね
吉琳:そういえば…
フィン:俺、変なこと言った?
フィン:父上が国王に即位したのは、結構前なんだけど…
フィンと名乗る男性の言葉に、再びユーリと顔を見合わせた。
ユーリ:もしかして未来から来た二人の子ども、とか…?
吉琳:っ…そんなことって…


=====


ユーリ:もしかして未来から来た二人の子ども、とか…?
吉琳:っ…そんなことって…
現実的ではないと思いつつも、否定する言葉は出て来ない。

(やっぱり…似てる)

真っ直ぐとこちらを見つめてくる瞳は、アルバートと同じく誠実さがうかがえて、
息子だと言われ驚いたものの、心のどこかで納得もしていた。

(…フィンの話をもっと聞いたら、状況が分かるかも)

吉琳:ねえフィン。少し話さない?
フィン:う、うん…
ユーリ:アルが到着したら、先に事情伝えておくよ
吉琳:ありがとう
私は、不思議そうにこちらを見つめるフィンを自分の部屋へと案内した。

***

その後、部屋でフィンから詳しい話を聞いている間に、
城に到着したアルバートが私の部屋を訪れていた。
アルバート:……
フィン:……
アルバートは、まだ信じられないといった表情で、
向かいの椅子に座るフィンを見つめている。
アルバート:随分と落ち着いていますね
フィン:慌てても、状況が変わるわけじゃないから
どこか達観した様子で明るく答えたフィンは、
ふいっと私たちから視線を逸らして…―
フィン:…それに、ちょうどよかったかも


=====


フィン:…それに、ちょうどよかったかも
吉琳:え?
気がかりな言葉を訊ね返すと、フィンは笑顔で首を横に振った。
フィン:ううん。何でもない
それ以上は聞かないで、というような少し困った笑みをこぼして、
フィンは期待した様子で問いかける。
フィン:それより、二人は俺が息子だって信じてくれた?
アルバート:…すぐには信じられない、というのが本音です
吉琳:私は……
たった今まで交わしていたフィンとの会話を思い返しながら、
素直な想いを告げる。
吉琳:フィンは、私たちの子どもだと思いました
アルバート:……
吉琳:アルバートが到着する前に、フィンが話してくれたんです
吉琳:未来のウィスタリアのことを
フィンの話では、アルバートと私は寄り添いながら政治を行っているそうで、
シュタインとの関係も良好で、両国が豊かに発展しているという。
吉琳:作り話には聞こえませんでした

(それに…アルバートとなら、そんな素敵な未来を築けると思ったから)

アルバート:つまり、あなたの直感…ということですね
吉琳:はい…。やっぱり信じられませんか?
アルバートの顔を覗き込むようにうかがうと…―


=====


アルバート:つまり、あなたの直感…ということですね
吉琳:はい…。やっぱり信じられませんか?
アルバートの顔を覗き込むように窺うと…
アルバート:いえ、あなたらしいと思いました
そう言って、表情を和らげた。
アルバート:現実的な話ではありませんが、俺も直感を信じることにします
吉琳:アルバート…
自分の想いを信じてもらえた喜びに、思わず顔が綻んでいく。
穏やかな笑みに微笑み返していると、向かいから小さな笑い声が聞こえた。
フィン:二人って、本当に仲いいんだね
アルバート:っ……

(フィンがいること、一瞬忘れてた…)

頬が熱くなっていくのを感じながら、ちらりと隣を覗き見ると、
アルバートも目元を赤らめながら、咳払いをしてフィンに訊ねる。
アルバート:それより、何か思い当たることはないのですか
アルバート:不思議なことにも、必ず原因があるはずです
すると、楽しげだったフィンの表情にさっと影が差す。
フィンは少し困ったように眉を寄せて…―
フィン:もしかしたら、俺の悩みが原因かもしれない

 

 

85

 

 

第2話:

 

フィン:もしかしたら、俺の悩みが原因かもしれない
アルバート:一体どういう…
アルバートが言いかけたその時、扉がコンコンとノックされ、
少しくぐもったウィスタリアの騎士の声が届く。
騎士:プリンセス、アルバート殿、視察の準備が整いました
アルバート:分かりました。すぐに向かいます
アルバートの言葉に、騎士は短く返事をして、
規則正しい足音を響かせながら去っていった。

(私も同行する予定だけれど、フィンを一人にするわけにもいかないよね…)

どうしようかと考えていると、
フィンがどこか真剣な眼差しをアルバートに向ける。
フィン:騎士の訓練、俺も一緒に見ちゃだめかな
吉琳:えっ
アルバート:……
突然の申し出に、アルバートは考えるように少し瞳を伏せたものの、
すぐにフィンに視線を戻して答えた。
アルバート:俺の従者として同行させれば、大きな混乱にはならないでしょう
アルバート:いいですか? 吉琳
吉琳:は、はい…
フィン:よかった

(てっきり、アルバートはだめって言うと思ったけれど…何か考えがあるのかな)

不思議に思いつつも頷きを返すと、アルバートがすっと立ちあがる。
アルバート:では、行きましょう
私もアルバートに続き、立ち上がりかけた時、
笑みを浮かべていたフィンが、少し困ったような表情を浮かべ…―
フィン:あ、その前に


=====


フィン:あ、その前に
フィン:敬語はやめてよ父上
フィン:上に立つ者が畏まりすぎるのはよくないって、いつも言ってるのは父上だよ
アルバート:なっ
その言葉にはアルバートらしさが詰まっていて、思わず笑みがこぼれる。

(本当に、私たちの子どもなんだな)

未来で、アルバートが真っ直ぐにフィンを育てていることが想像出来て、
胸の奥が、じんわりと優しい気持ちで満たされていく。
アルバート:…確かにそうだな
アルバート:行くぞ、フィン
フィン:うん
アルバートの言葉に嬉しそうに頷いて、フィンは勢いよく立ち上がった。

***

その後、ウィスタリアの騎士団に話を通し、
私はフィンと共に、アルバートの手合わせを闘技場の壁際から見つめていた。

(こうした訓練は、もう何度も見ているけれど…すごい集中力)

金属音が鳴り響く中、既に三人もの騎士と剣を交えているものの、
アルバートは意識を乱さず、逆に研ぎ澄まされているように見える。
眼鏡の奥の切れ長の目が、一瞬こちらに向けられた気がした瞬間…─

(……あっ!)


=====


眼鏡の奥の切れ長の目が、一瞬こちらに向けられた気がした瞬間…

(……あっ!)

アルバートは、振りかぶった相手の隙をついて素早く懐に潜り込むと、
鋭い眼差しで剣を突き付けた。
アルバート:次っ
額に浮かぶ汗を腕で拭い、
広い肩で息を整えるその姿に、胸の奥がきゅっと音を立てる。

(目が、離せない…)

騎士として立つその背中がいつもより大きく見えて、
頼もしい姿に、速まっていく鼓動が止められなかった。
その時、隣で見ているフィンが小さく呟く声が聞こえた。
フィン:…父上、かっこいい
ぽつりとこぼされた言葉に、私は穏やかに微笑んで頷いた。

***

やがて視察を終え、誰もいなくなった訓練場を後にしようとすると、
アルバートがふと真剣な顔でフィンに訊ねた。
アルバート:騎士団の訓練を見て、悩みは解決したのか?

(悩み…)

〝フィン:もしかしたら、俺の悩みが原因かもしれない〞

(だから、視察に同行するのを止めなかったんだ)

吉琳:フィンの悩みって…?


=====


吉琳:フィンの悩みって…?
顔を覗き込むと、
フィンは、一瞬気まずそうに視線を泳がせた後、ぽつりと呟いた。
フィン:将来のこと
フィン:生まれた時から決まってる、国王の道だけを見てていいのかなって思ってさ

(成長する中で、色んなことを学んだ分、)
(そういうことで悩んでしまう気持ちも分かるな…)

アルバート:他にやりたいことがあるのか?
アルバートは責めるわけでも咎めるわけでもなく、穏やかな声音で問いかける。
フィン:医学の研究にも興味があるし、父上のような騎士にも憧れてる
フィンは顔を上げると、アルバートに羨望と困惑の入り混じった眼差しを向けた。
フィン:国王になりたくないってわけじゃないんだけど、色々考えて…
フィン:少しここから離れたいなって思ったら、ここにいたんだよね
アルバート:…そうか
こげ茶色の髪を揺らして、フィンは困ったようにはにかんでいる。
私は、そんなフィンへ抱いた疑問を訊ねた。
吉琳:…未来の私たちには相談しなかったの?


=====


吉琳:…未来の私たちには相談しなかったの?
フィン:何だか照れくさくって

(何でも相談してほしいって、私は思ってしまうけれど、)
(それが、なかなか出来ない年頃なんだよね…きっと)

未来の息子の想いに寄り添いつつも、悩みを解決してあげたいと思っていると、
苦笑するフィンに、アルバートが真面目な表情で告げた。
アルバート:ブルクハルト家は、代々シュタインの国王に仕える騎士一族だ
アルバート:…だが俺は将来、騎士とは別の道を選んだのだろう
ふいに響いた言葉に、はっと息をのむ。

(フィンは、『アルバート国王』って言っていたもんね)

ウィスタリアの国王になったということは、騎士ではない道を選んだことになる。
アルバート:フィン。選択を迫られた時、大事なのは自分の想いだ
フィン:自分の想い…
アルバートの言葉は、私の胸にも真っ直ぐと心地良く響いた。

(運命に従うのも逆らうのも全部、自分自身が決めること…)

アルバート:やりたい方を選べばいい
瞳を和らげて優しく告げるアルバートに、私も同意を込めて頷く。
吉琳:未来の私たちは、フィンがどんな道を選んでも応援すると思う
フィン:二人とも…
フィンは、伝えた言葉を真摯に受け止めてくれた様子で、
わずかに潤んだ瞳を嬉しそうに細めて…―

 

 

85

 

 艾分

 

85

 

 

第3話-プレミア(Premier)END:

 

フィン:二人とも…
フィンは、伝えた言葉を真摯に受け止めてくれた様子で、
わずかに潤んだ瞳を嬉しそうに細めて…
フィン:俺、国王になる道を選ぶよ
フィン:初めから決められた道じゃなく、俺がやりたい道として
アルバート:そうだな
同じ色の瞳が真っ直ぐと重なって、二人が笑みを交わしあった瞬間、
辺りがまばゆい強い光に包まれる。
吉琳:っ……
思わずぎゅっと目を閉じてしまうと、フィンの声が微かに届いた。
フィン:またね。父上、母上
耳の奥に残るようなその柔らかな声が薄らいでいくのと共に、
光がおさまるのを感じ、ゆっくりと瞼を開くと…
そこには、フィンの姿だけがない、いつも通りの闘技場が広がっていた。
アルバート:あっという間に帰ってしまいましたね
吉琳:はい…
さっきまで触れられる距離にいた優しい笑顔を思い出し、
胸の奥に隙間風が吹くような寂しさを感じる。
思わず小さく息をこぼしてしまうと…―
吉琳:あれ?


=====


吉琳:あれ?
アルバート:どうしました
私は、足元に落ちていた白いハンカチを拾い上げた。
吉琳:これ、フィンの落としものかもしれません
フィンがここに来た時、足元をハンカチで払っていたのを思い出す。
広げてみると、わずかについている土がフィンのものだと物語っていた。
吉琳:追いかけて返すことも出来ませんし…どうしましょう
アルバート:……
アルバート:このまま、俺たちが預かっていましょう
アルバート:いずれ、渡せる時が来ます
吉琳:あっ

(改めて、フィンのお父さんとお母さんとして逢う時…ということだよね)

ハンカチを持つ私の手にアルバートの大きな手が添えられて、
頬にじわりと熱が集まっていくのと同時に、胸の奥が温かくなっていく。
吉琳:はい
私は想いを閉じ込めるように、丁寧にハンカチを折りたたんだ。

***

その夜…―
綺麗に洗ったフィンのハンカチを持って、
私は、アルバートが滞在する部屋を訪れていた。
真っ白なハンカチを隣に座るアルバートへ差し出して…―
吉琳:持っていてもらえませんか


=====


吉琳:持っていてもらえませんか
アルバート:それを、俺に…ですか?
驚いた様子でこちらを見つめる瞳に、大きく頷く。
吉琳:はい
吉琳:これは私たちの宝物で、お守りでもあると思うんです

(大変なことがあっても、)
(今日の幸せな時間を思い出して、心を支えてくれるお守り)

吉琳:ですから、アルバートに
アルバート:それならば、やはりあなたが持っていた方が…
私はアルバートの言葉を遮るように首を振った。
今日の訓練で目が離せなかったアルバートの大きな背中を思い返しつつ、
胸の内にある想いを言葉にする。
吉琳:私のことは、アルバートが守ってくれるので……
アルバート:吉琳…
アルバートは一瞬目を見開くと、穏やかに笑ってハンカチを受け取った。
アルバート:大切に預かっておきます
吉琳:はい
私は微笑みながらゆっくりと頷き、真っ白なハンカチに視線を落とす。
吉琳:フィンは、未来の私たちに報告したでしょうか
吉琳:国王になる道を選ぶ、と
アルバートは思案するように視線を巡らせて…―
アルバート:そうだといいのですが…少し心配ですね


=====


アルバート:そうだといいのですが…少し心配ですね
アルバート:また悩んで、こちらに飛んでこないといいのですが

(もしそうなったら、嬉しいような、困ってしまうような…)

そんなことを胸の中で呟き、私は確信のある想いを告げる。
吉琳:報告出来たかどうかは、その時が来るまで分かりませんが、
吉琳:一つだけ、分かることがあります
吉琳:フィンなら、きっと立派な国王になれると思うんです
アルバート:ええ
頷いたアルバートは、ふと真剣な眼差しで私を見つめた。
アルバート:ですが…まずは俺が、手本になれるよう頑張る必要があります
吉琳:それって…
アルバート:これから進む道に、迷いはありません
アルバート:俺は、あなたと…生きていくと決めていますから
改めて告げられた想いが、身体の芯を甘く震わせる。

(……どうしよう、嬉しい)

鼓動の音が大きくなっていくのを感じていると、
アルバートは胸の前でハンカチを握り直して…―
アルバート:あなたと、このハンカチに誓います


=====


アルバート:あなたと、このハンカチに誓います
アルバート:必ず幸せにすると
吉琳:はい

(私も、あなたと生きていきたい…)

潤みそうになる視界をぐっと堪えて笑顔で頷くと、
アルバートの大きな手がそっと私を引き寄せて、唇に温もりが触れる。

(アルバート……)

広い胸に抱き寄せられ、深くなるキスを懸命に受け止めていく。
吉琳:んっ……
長い口づけは幸せの証のようで、いつの間にか温かい涙が頬を伝っていた。
アルバート:っ…どうしたんですか……
吉琳:ごめんなさい。泣くつもりはなかったのに……幸せすぎて
アルバートは指で私の頬をそっと拭うと、小さな笑みを浮かべた。
アルバート:いえ、悲しませていないのならよかったです
アルバート:…きっと未来のあなたも、今と変わらず可愛いのでしょう
かあっと熱を帯びていくのを止められずにいると、
アルバートは目元を染めながら、私の目尻にそっとキスを落とした…―
アルバート:もっと側に
アルバート:大切なあなたの顔を見せ下さい

 

fin.

 

 

85

 

 

第3話-スウィート(Sweet)END:

 

フィン:二人とも…
フィンは、伝えた言葉を真摯に受け止めてくれた様子で、
わずかに潤んだ瞳を嬉しそうに細めて…
フィン:まだ決められないけど、迷いはなくなった
フィン:その時が来たら、自分の想いで選ぶよ
アルバート:ああ
アルバートが笑顔で頷いた瞬間、フィンの周りを強い光が包み込む。
吉琳:……!
アルバート:フィンっ…
慌ててフィンを見つめると、フィンは納得したように微笑んでいた。
フィン:ここに来る時と同じ光だ
フィン:悩みが解決したから元に戻れるみたい
その言葉に、安堵とわずかな寂しさが胸に広がる。

(よかった。でも…もう帰ってしまうんだ)

アルバート:元気でな
そう伝えたアルバートの声も少し硬くて、私と同じ考えのようだった。
そんな私たちを見て、フィンがおかしそうに笑う。
フィン:二人ともそんな悲しそうにしないで
フィン:もう逢えないわけじゃないんだから


=====


フィン:二人ともそんな悲しそうにしないで
フィン:もう逢えないわけじゃないんだから
優しい笑顔の輪郭が光に包まれていく。
微かに頷き返すと、フィンの姿はまばゆい光の中へと見えなくなっていった。
やがて強い光は余韻を残すようにおさまり、
その場は、何事もなかったかのような光景に戻っている。
吉琳:行ってしまいましたね
アルバート:ええ
自然と光の消えた方を見つめると、
アルバートも、同じようにその場所へ視線を向けた。
吉琳:悲しそうにしないでって言われましたが、
吉琳:やっぱり、もう少し話していたかったです
アルバート:そうですね
相槌を打つアルバートの眼鏡の奥の瞳が、フィンを想ってか優しく細められる。
アルバート:次に逢うのは…
そう言いかけると、アルバートは何かに思い至った様子で、
頬をわずかに赤らめた。
吉琳:アルバート…?
アルバート:もし、今回のような出来事が起きなければ、
アルバート:次に彼と逢うのは……


=====


アルバート:次に彼と逢うのは……
アルバート:あなたと結ばれた後、ということになりますね
吉琳:っ……
そう言われた瞬間、私の頬にも熱が集まっていく。

(不思議な状況に気をとられていたけれど、)
(フィンは、アルバートと幸せに結ばれた証…なんだよね)

今さらながらに実感が湧いてきて、胸の内に嬉しさが溢れてくる。
吉琳:その時が、楽しみです
アルバート:…俺も、そう思います
お互いに赤く染まった顔を見合わせながらも、
私たちは笑顔を交わし合った。

***

その夜…―
私はアルバートの子ども時代の話を聞いていた。
ソファに浅く腰かけるアルバートを見つめ、たった今聞いた話に瞳を瞬かせる。
吉琳:アルバートが…ゼノ様とユーリのために料理を?
意外なことに言葉を繰り返すと、
隣に座るアルバートは、軽く視線を逸らす。
アルバート:食事係がいましたから、スープなど簡単なものだけです
アルバート:ユーリがゼノ様に風邪を移して二人とも寝込んでしまったので、何か出来ないかと…
吉琳:そんなことがあったんですね
小さな三人の優しい思い出を聞きながら、心が温かくなっていく。

(アルバートのこと、聞かせてもらえて嬉しい)

私は、つい先ほど終わった夕食の席での賑やかな会話を思い出していた。


=====


(アルバートのこと、聞かせてもらえて嬉しい)

私は、つい先ほど終わった夕食の席での賑やかな会話を思い出していた。

〝食後の紅茶を入れてくれながら、ユーリがくすっと笑みをこぼす。〞
〝ユーリ:それにしても、昔のアルにそっくりだったなー。フィン〞
〝吉琳:そうなの?〞
〝ユーリ:うん。見た目は間違いなく父親似〞
〝ユーリ:あ、でも素直なところは吉琳様に似たのかも〞
〝アルバート:貴様は、また余計なことを〞
〝向かいに座るアルバートは、紅茶を手にしたまま眉を寄せる。〞
〝ユーリ:えー。本当のこと言っただけなのに〞
〝ユーリ:そういう口うるさいとこ、昔から変わらないよね〞

〝(フィンは自分の将来のことで悩んでいたけれど、)〞
〝(アルバートは、どんな子ども時代を過ごしたんだろう)〞

〝吉琳:あの…アルバートが嫌じゃなければ、昔の話…聞かせてほしいです〞
〝アルバート:聞いてもあなたの得にならないと思いますが…〞
〝吉琳:そんなことありません〞
〝吉琳:…大切な人の話ですから〞
〝アルバート:っ……〞
〝アルバート:…分かりました〞

吉琳:他には…
アルバート:次は、あなたの話を聞かせて下さい
吉琳:えっ
私の言葉をやんわりと遮ったアルバートは、
眼鏡をくいっと上げて、逸らしていた視線を私へ戻す。
アルバート:俺ばかり話すのは不公平でしょう
吉琳:ですが、改まって話すようなことなんて…
そう言いかけた時、アルバートにふわりと肩を引き寄せられて…─


=====


そう言いかけた時、アルバートにふわりと肩を引き寄せられて…
アルバート:俺にも、大切な人の話を聞く権利があるはずです
ぎゅっと抱きしめられた腕の中で胸の奥を騒がせながら顔を上げると、
真面目な想いが滲んだ瞳とぶつかる。
アルバート:ですから、聞かせてもらえませんか
アルバート:誰よりも大切な、あなたの話を
射抜くような真っ直ぐな瞳で告げられて、鼓動が跳ねる。

(誰よりも、大切な……)

嘘や迷いのないその言葉が胸の真ん中に甘く落ちてきて、嬉しさが込み上げる。
吉琳:…はい
吉琳:でも、本当に何から話しましょうか。家庭教師になる前のこと、とか?
アルバート:何でもいいですよ。ご家族のことでも、小さなあなたの話でも
アルバートの大きな手がそっと私の頬を包む。
アルバート:またフィンに逢えるその日まで、まだまだ時間はいっぱいありますから
アルバートの優しい笑顔が、最後に見たフィンの笑顔と重なる。

(いつかフィンにまた逢えるその日まで、沢山の話をしていこう)
(この優しい笑顔と一緒に、生きていこう……)

アルバートの手にそっと寄り添うと、時計台の鐘が厳かに響き渡る。
未来でも、変わらない鐘の音を一緒に聴いていることを祈りながら、
私はアルバートから贈られる優しいキスを受け止めた…─

 

fin.

 

 

85

 

 

エピローグEpilogue:

艾後

未来への期待と幸せが、彼への想いを溢れさせて…―
アルバート:……あなたに触れる時、いつも加減が分からない
まるで大切な宝物を扱うように、優しく触れられて…
アルバート:笑ってもらえませんか
アルバート:あなたの笑顔が…好きなので
こぼれる吐息も、絡み合う眼差しも甘く溶け合い、
この愛は、永遠に続いていく…―

 

 

85

arrow
arrow
    全站熱搜
    創作者介紹
    創作者 小澤亞緣(吉琳) 的頭像
    小澤亞緣(吉琳)

    ♔亞緣腐宅窩♔

    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()