Magic of love~恋する魔法使い~(レオ)
プロローグ:
――…ここは、魔法の国ウィスタリア
誰もが魔法を使えるこの国のお城で、私は宮廷魔法使いとして働いている。
***
(この本は、確かあの棚に返せばよかったかな…)
腕に抱えていた数冊の本を、魔法で宙に浮かべて棚の中に収めていく。
お城の図書館を飛び交う本は、私にとっては見慣れた光景だけれど……
アルバート:…………
(アルバートさんにとっては、珍しいのかも)
隣国シュタインから来ているアルバートさんは、
私の隣で物珍しげに空飛ぶ本を眺めていた。
(たまたま図書館ではち合わせたけど、もしかして、ここに来るのは初めてなのかな)
アルバート:さすが、ウィスタリアですね。
アルバート:本の返却まで魔法で行うとは…
吉琳:手で返すより、この方が早いんですよ
アルバート:利便性があるのはわかってますが、
アルバート:シュタインではこうした魔法が使える人間は限られています
アルバート:あまり見ない光景ですので、興味深いですね
感慨深く呟いたアルバートさんが、ふと、私の方に目を向けた。
アルバート:そういえば、前から聞きたかったのですが…
アルバート:宮廷魔法使いであるあなたは、
アルバート:普段どのような仕事をしているのですか?
吉琳:私は主に、魔法の研究をしています
アルバート:研究ですか…。きっと熱心に取り組んでいるのでしょうね
吉琳:え…?
アルバート:あなたの魔法は素晴らしいと、ゼノ様も褒めていましたから
(シュタインの国王陛下に褒めていただけるなんて、嬉しいな)
吉琳:ありがとうございます
お礼を告げたその時、図書館の重厚な扉が音を立てて開いた。
???:吉琳
吉琳:あ…
(もう約束の時間?)
入り口から差し込む光の中に、彼の姿が見える。
(急がないと)
吉琳:すみません、私はこれで失礼しますね
アルバートさんと別れて、彼の元へと向かう。
光が差し込む扉の前で、私を待っていたのは…――
どの彼と過ごす…?
この物語を進める。
共通第1話:
――…白い雲が気持ちよさそうに城の上を漂う午後
レオ:吉琳ちゃん
吉琳:あ…
(もう約束の時間?)
(急がないと)
吉琳:すみません、私はこれで失礼しますね
***
図書館にいたアルバートさんと別れ、入り口へと駆け寄る。
吉琳:ごめん、お待たせ。ジルのところに行くんだっけ?
レオ:うん、何の用事か聞いてる?
吉琳:私は聞いてないよ。レオは?
レオ:俺も同じ。とりあえず、ジルの部屋に行こうか
吉琳:そうだね
並んで歩きながら、ジルの部屋を訪ねると……
(…あれ?)
レオ:アラン?
アラン:ん?
部屋の中には、ジルだけでなくアランの姿もあった。
アラン:なんだ、二人も呼ばれてたわけ
ジル:どうぞ、吉琳とレオも入ってください
吉琳:うん、失礼します
中に足を踏み入れ、ちらっとアランとレオを見つめる。
(アランもレオも魔法学校の同級生だけど)
(こんな風に三人で呼ばれるのは初めてだな)
少し落ち着かない気持ちで待っていると、ジルが口を開いた。
ジル:二人は吉琳が先日、新しい魔法を編み出したことは知っていますか?
(え…)
突然飛び出した自分の名前に驚く。
その隣で、アランとレオはそれぞれ頷いていた。
アラン:話だけは聞いてる
レオ:お城でも噂になってるよね。確か『恋が叶う魔法のポプリ』…だっけ
ジル:ええ。ですが連日、雑誌や報道で取り上げられたため
ジル:彼女はいま周りからひどく注目を受けています
(…確かに、それで困っていることを数日前にジルに相談したけど)
(それとレオとアランが呼ばれたことに、どんな関係があるんだろう…?)
不思議に思いながらも、黙ってジルの言葉に耳を傾ける。
アラン:ふうん。だから城の外にも報道陣が集まってんのか
ジル:そうです。彼女の魔法の研究について話を聞きたいという人が、たくさん来ているので
レオ:でも、そのポプリは今なかなか手に入らないって聞いたけど…
尋ねるようにレオの視線が私に向いて、小さく頷く。
吉琳:うん…魔法をもっと広げるために、新しく作りたいんだけど…
吉琳:外に出るとすぐに報道陣に囲まれて、材料集めどころじゃなくなっちゃうんだよね
数日前に出かけようとした時のことを思い出すと、無意識にため息が出てしまう。
(新しい魔法があんなに注目されることになるなんて思わなかった…)
ジル:そこで貴方たち二人に
ジル:吉琳が材料を集めに行く間の護衛をお願いしたいのです
(え…)
アラン:俺たちが?
ジル:アラン様は守りの魔法に、レオ様は幻の魔法に長けていますから
ジル:二人なら報道陣に囲まれても、きっと吉琳を連れて切り抜けられると思いましてね
ふいにジルが、真剣な眼差しをレオとアランに向ける。
ジル:…せっかく彼女の作った魔法が認められ始めたのに
ジル:ここで吉琳の努力を無駄にしたくはありません
ジル:どうか彼女に力を貸して頂けませんか?
吉琳:ジル…
ジルの心遣いに、胸が温かくなる。
手をぎゅっと握り込んで、私はレオとアランに向き直った。
吉琳:…私からもお願い
吉琳:望んでくれる人たちのために、魔法のポプリをちゃんと届けたいの
吉琳:二人とも、力を貸してくれない…?
アランとレオはちらっと視線を交わすと、
レオは笑顔を浮かべ、アランは諦めたようにため息をついた。
レオ:もちろん、吉琳ちゃんのためなら
アラン:魔法学校からのよしみで、つき合ってやるよ
吉琳:ほんと? ありがとう、二人とも…!
笑顔でお礼を告げて、ひそかに心の中で決意する。
(二人が手伝ってくれるんだし、頑張って魔法のポプリをみんなに届けよう)
(みんなが私の魔法で、少しでも幸せを掴んでくれるように)
それから私は、アランとレオと三人で城下の外れにある花畑に向かうことになった。
***
城から出て、私はアランとレオと街外れに向かって歩いて行く。
(街のあちこちに報道陣の人がいる…)
レオ:吉琳ちゃんがお城の外に出たって、どこかで情報が漏れたのかな
吉琳:そうかも…
アラン:でも、これかけてれば大丈夫なんだろ?
言いながら、アランが眼鏡のつるに指をあてる。
レオ:うん、みんなの眼鏡に周りからは姿が違って見える魔法をかけたからね
吉琳:私も最初からこうやって外に出ればよかったな…
ため息をつくと、レオがぽんぽんと優しく私の頭を撫でた。
レオ:でも、声までは変えられないし
レオ:勘の鋭い魔法使いだと見破られるかもしれないから気をつけて
吉琳:わかった
なるべく人通りの少ない道を選びながら、三人で花畑に向かって歩いて行く。
その間も、ちらほらと街の中に報道陣の人を見かけた。
アラン:…こんなに追われるなんて、お前の作ったポプリってそんなにすげえの?
首を傾げるアランの横で、レオが悪戯っぽく笑う。
レオ:惚れ薬みたいな効果があるんだよね?
アラン:惚れ薬?
吉琳:…っ…レオ、わかってて言ってるでしょ
慌ててアランを見上げ、本当の効果を伝える。
吉琳:違うの、作ったのは香りをかぐと勇気の持てる魔法をかけたポプリだよ
(元々は、魔法の研究発表の時に私が緊張してうまく話せないから)
(自信を持って話すために作ったものなんだよね…)
けれどそれが好きな人への告白で効果があったと噂になり、
『恋が叶うポプリ』と言われるようになった。
アラン:ふうん、勇気の持てるポプリ…ね
そんなことを話しながら歩いていると……
子ども1:ほら、追いついてみろよ!
子ども2:待ってよー!
吉琳:わっ…
よそ見をしながら走ってきた子どもが腰にぶつかり、大きく体勢を崩す。
(っ…いけない)
視界に男の子の倒れそうな体が映って、自分を守るより先に風の魔法を起こす。
男の子の体が風に守られてほっとした瞬間……
レオ:大丈夫、吉琳ちゃん?
アラン:自分より子どもかばうとか…無茶するよな
吉琳:え…
自分の体が二つの腕に支えられていることに気づき、頬が一気に熱を持つ。
吉琳:あ…、ご、ごめん…!
アラン:俺たちがいなかったらお前、絶対転んでた
レオ:こういうとこ、吉琳ちゃんらしいけどね
眉を寄せるアランと苦笑するレオの顔が思いがけない近さにあって
恥ずかしさにぱっと顔を伏せる。
(びっくりした…でも、ちゃんとお礼を言わないと)
吉琳:…二人とも、ありがとう
アラン:ん
レオ:うん
二人に支えられながら体を起こし、驚いた顔をした男の子のそばに屈み込む。
吉琳:大丈夫? どこもぶつけたりしてない?
男の子1:大丈夫…助けてくれてありがとう、お姉ちゃん
吉琳:ううん、ぶつかってごめんね
苦笑して謝ると、男の子が不思議そうに目を瞬いた。
男の子1:あれ? お姉ちゃんって…
男の子1:あ、わかった! 雑誌に出てた人だ!
吉琳:え、どうして…
ハッして顔に触れると眼鏡がなく、少し離れた道の上に落ちていることに気づく。
(…っ…ぶつかった時に外れてたんだ)
慌てて眼鏡をかけ直そうとした瞬間……
報道記者1:あ…! あそこにいるの、宮廷魔法使いの吉琳さんじゃないか?
報道記者2:えっ、本当だ!
吉琳:……!
レオ:うわ、もう見つかった
アラン:一気に集まってきそうだな…逃げるぞ
吉琳:う、うん
二人に背中を押されて、城下を走り出す。
追ってくる足音を背に駆けていると、気持ちが焦って息が上がりそうになる。
(…っ…どうしよう)
その時、アランとレオが走りながら目配せをした。
アラン:…どうする?
レオ:そうだね、このままだと追いつかれそうだから…
お互いに頷くと、彼の手が私の手首を掴んで…――
???:――こっち
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第2話:
(…っ…どうしよう)
その時、アランとレオが走りながら目配せをした。
アラン:…どうする?
レオ:そうだね、このままだと追いつかれそうだから…
お互いに頷くと、レオが眼鏡を外しながら私の手首を掴んで……
レオ:――こっち
吉琳:え…
レオ:二手に別れて相手を撒くから、吉琳ちゃんは俺と来て
吉琳:う、うん
アランが通りを真っすぐ進み、
レオが迷うことなく壁の方に歩いて行く。
吉琳:レオ…!?
(そっちは壁…っ)
レオ:大丈夫、俺を信じて
(ぶつかる…!)
目をつぶり、レオの手をぎゅっと握る。
(……あれ、どこもぶつけてない?)
レオ:吉琳ちゃん、目を開けて
笑みを含んだ声に瞼を開くと……
視界に映ったのは、さっきとはまるで違う景色だった。
吉琳:どういうこと…?
吉琳:ねえ、レオ…
レオ:しーっ、静かに
吉琳:んっ…
繋いでいない方のレオの手のひらに、口を覆われる。
レオ:あっちの通りを見て?
吉琳:……?
レオの指差す方に目を向けると……
報道記者1:あれー? こっちに走ってったように見えたのにな
報道記者2:おい、通りの向こうで見たって奴がいるぞ
(…!家の壁に、壁の向こうの景色が映ってる…?)
報道記者が走り去り、レオが口から手を離す。
吉琳:これって魔法…?
レオ:うん、決まった人しか入れない魔法がかけてあるんだ
レオ:さっきの吉琳ちゃんみたいに、入れない人はここが壁に見えるってわけ
吉琳:へえ…! 面白い魔法だね
吉琳:レオはどうして入れるの?
レオの赤い瞳が悪戯っぽく細められて…――
レオ:教えてあげるから、ついておいで
そう言うと、レオは私の手を掴んだまま歩き出した。
吉琳:レ、レオ…手掴んだままだよ?
レオ:ん? こっちの方がよかった?
指を絡めるように手を繋ぎ直され、頬が熱を持つ。
吉琳:そうじゃなくて…っ
レオ:ごめん、吉琳ちゃん。今はこの手離せないんだ
吉琳:え、どうして?
レオ:いま手を離したら魔法が解けて…
レオ:吉琳ちゃん、元の場所に戻れなくなっちゃうよ
吉琳:…! そうなの…?
(それはすごく困る…)
握る手に思わず力を込めると、レオが小さく笑う。
レオ:どうかな。俺が吉琳ちゃんの手を離したくないだけかも
吉琳:もう、はぐらかさないで本当のこと教えてよ
レオは笑うだけで取り合わず、複雑そうな道を進んでいく。
(学生の頃からだけど、レオってときどき本音が読めないな…)
早い鼓動の音を聞きながら、学生の頃のことを思い返していく。
〝レオ:吉琳ちゃん!〞
〝吉琳:そんなに慌ててどうし…、きゃっ〞
〝いきなり壁とレオの間に閉じ込められ、目を見開く。〞
〝吉琳:レオ…?〞
〝レオ:しー…静かに〞
〝(…っ…顔が近い…)〞
〝レオ:ごめんね。このまましばらく恋人のフリしてくれない?〞
〝ドキドキするのを堪え、平気なフリでレオを見上げる。〞
〝吉琳:…また女の子に追いかけられてるの?〞
〝レオ:うん、そうなんだ〞
〝(レオは仲のいい友だちだし、困ってるなら助けてあげたい)〞
〝吉琳:もう…少しの間だけだからね〞
〝レオ:さすが、吉琳ちゃんは優しいね〞
〝見つめ合うフリをしたまま、小声でレオに話しかける。〞
〝吉琳:追ってきた女の子はまだこっちを見てる?〞
〝レオ:うん…だからもう少しこのままでいさせて〞
〝吉琳:…わかった〞
〝緊張に息を詰めていると、レオがくすっと笑う。〞
〝レオ:ねえ、吉琳ちゃん。これ、嘘だったらどうする?〞
〝吉琳:嘘?〞
〝レオ:追われてるのは嘘で、吉琳ちゃんに近づきたくてこうしてるだけ…〞
〝レオ:そう言ったら、どうする?〞
〝ふいに真剣な顔をするレオに、どうしてか胸が甘く締めつけられる。〞
〝(でも…)〞
〝吉琳:…その手には乗らないよ?〞
〝レオ:え?〞
〝吉琳:そうやってレオが女の子に恋の魔法をかけてるって、噂になってるんだから〞
〝レオは目を瞬かせると、肩を揺らして笑い出す。〞
〝吉琳:え…レオ?〞
〝レオ:吉琳ちゃんは手強いな〞
〝そう言ったレオの顔がひどく楽しそうだったのを覚えている。〞
(あの時からレオを意識して、本心を知りたいと思うようになったんだよね…)
(結局私、レオに恋の魔法をかけられてたのかも)
その時、先を歩いていたレオが足を止めた。
レオ:吉琳ちゃん、着いたよ
吉琳:ここは…
一軒家のような建物の扉にレオが手をかざすと、
扉が淡く煌めいて、鍵の開く高い音が響いた。
レオ:中にどうぞ
促されて中に足を進めると……
吉琳:わあ……!
たくさんの本が並ぶ景色に、胸が弾む。
吉琳:すごいたくさんの本…! しかも魔法の本ばっかり
レオ:母親から俺が引き継いだ、魔法使い専用の書店なんだ
レオが愛しそうに店内に視線を巡らせる。
(この場所、きっと大切にしてるんだ…)
吉琳:レオ、ここは決まった人しか入れないんだよね?
レオ:そうだけど、それがどうかした?
吉琳:ううん。逃げるためとはいえ、大切なところに連れてきてくれてありがとう
笑顔を向けると、レオは目を見開いた後、
ふわりと優しく表情を和らげて…――
レオ:…お礼は…――その笑顔で充分かな
吉琳:レオ…?
小さく呟かれた言葉に首を傾げる。
(今なんて…?)
レオ:何でもないよ。それより、城下が落ち着くまでもう少しかかると思うから
レオ:それまでここで本を読んでていいよ
吉琳:ほんとに? 嬉しい…! ありがとう、レオ
レオ:どういたしまして
***
それからしばらく夢中で本を読んでいると……
(……ん?)
ふいに視線を感じて本から顔を上げる。
すると、正面からレオと視線がぶつかった。
吉琳:…どうしたの?
レオ:ん? 吉琳ちゃんが可愛くて、ずっと見てた
吉琳:…っ…レオ
頬が熱くなって顔を伏せると、かすかに笑い声が聞こえる。
レオ:なんてね。でも…吉琳ちゃんって、昔からそうだよね
レオ:魔法を勉強してる時、誰より幸せそうな顔してる
吉琳:そうかな…?
レオ:うん、吉琳ちゃんほど魔法が好きな人はいないんじゃないかな?
(確かに魔法を学ぶのは大好きだし)
(私の魔法でみんなを幸せにできたら素敵だと思ってるけど)
吉琳:でも…レオだって同じだと思う
レオ:俺も?
頷いて、レオと魔法学校で過ごした日々を思い出す。
吉琳:学生の時、よく一緒に勉強したけど
吉琳:声をかけても気づかないくらい夢中になってる時があったでしょ?
吉琳:それに、私の新しい魔法の研究にいつもつき合ってくれたよね
勉強の合間に、真剣な顔をこっそり見ていたからよく覚えている。
吉琳:今だってレオは魔法の研究に熱心だし、好きじゃないと続けられないでしょ?
微笑んで告げると、ふいにレオの表情が真面目なものに変わる。
レオ:吉琳ちゃん、俺が続けられたのは…
レオ:魔法じゃなくて、別のものが好きだったからだよ
吉琳:別のもの…?
レオの瞳が、真っすぐ私に向けられて…――
レオ:俺が好きなのは…――
第3話:
レオ:吉琳ちゃん、俺が続けられたのは…
レオ:魔法じゃなくて、別のものが好きだったからだよ
吉琳:別のもの…?
レオの瞳が、真っすぐ私に向けられる。
レオ:俺が好きなのは…吉琳ちゃん
吉琳:え…?
レオ:吉琳ちゃんと過ごす時間が楽しかったから、続けられたんだ
重ねられる言葉に、鼓動が速くなっていく。
(本当なの…?)
そう聞こうとした瞬間……
レオ:――…なんてね
真面目な表情が一転して、レオがにっこりと笑う。
吉琳:…っ…からかったの?
レオ:ごめんごめん、驚いてる吉琳ちゃんが可愛かったから
(…本気だったら、よかったのに)
机の下でこっそり手を握り、落ちそうなため息を堪える。
レオは机に頬杖をつくと、苦笑した。
レオ:正直に話すとね、俺が魔法の勉強を頑張ったのは
レオ:大切な女の子を守れる力が欲しかったからなんだ
吉琳:大切な女の子…?
レオ:そう、たった一人のために欲しいと思った力だよ
(たった一人のため…)
レオの眼差しに、優しい色が浮かぶ。
(その人を思って、そんなに優しい顔をしてるの…?)
ちくりと胸に痛みを感じた時、レオは広げていた本を閉じた。
レオ:…そろそろ外も落ち着いた頃かな
レオ:ポプリの材料を集めに、花畑に行こうか
吉琳:うん…
魔法で本を棚に戻して、レオと外に向かう。
その間も頭から、レオの言った『たった一人』という言葉が離れなかった。
***
吉琳とレオが花畑につき、先に来ていたアランと合流する。
吉琳が魔法のポプリの材料を集める様子を、二人は少し遠くから見守っていた。
アラン:…なあ
レオ:ん?
アラン:二人で逃げた時、何かあったの
視線を吉琳に向けたまま尋ねるアランに、レオは苦く笑う。
レオ:見てたみたいに言うね
アラン:見てなくてもわかる
アラン:吉琳もあんたも、様子が変だから
レオ:え…
アランは横目でレオを見ると、すぐに視線を逸らした。
レオ:…俺の弟は鋭いなー
アラン:あんたが昔からあいつのこと気に入ってんの、知ってるからだよ
アランは呆れ顔で告げると、上の空な吉琳を視界に捉える。
アラン:あいつの魔法のポプリ、あんたも使ったほうがいいんじゃない?
アラン:そろそろ嘘でごまかすのも、どうかと思うけど
胸を刺すような言葉に、レオは曖昧に唇を歪めた。
レオ:…そうだね
***
――…翌日の夜
(あとはリボンを巻いて…っと)
仕上げたポプリに魔法でリボンを結んでいく。
踊るように動くリボンに口元が綻んだ。
吉琳:…これでよし。うん、可愛くできた
作った魔法のポプリを箱にまとめ、ふとレオを思い出す。
(そういえば、いつもは手元に残さないけど…)
(今回は一つだけ残そうかな)
レオの『たった一人』の話を聞いてから、
改めてレオへの気持ちを自覚した。
(振られてもいい…レオが好きって伝えたい)
そう思った時、窓に何かがコツンとぶつかる。
(なんだろう?)
窓を開けると、ふわりと白い鳥が入ってくる。
吉琳:これって…
鳥は机の上に降り立つと手紙に姿を変えた。
(やっぱり、魔法の手紙)
(誰から届いたんだろう…?)
手紙を開くと……
レオ 『――吉琳ちゃんへ』
レオ 『よかったら明日、俺とデートに行かない?』
吉琳:デート…?
綴られた文字に、胸が高鳴るのがわかる。
(どうして突然誘ってくれたのかわからないけど)
(これは気持ちを伝えるチャンスかも)
私は急いでペンを取ると、行くと返事を書いて、
明るい月の瞬く夜空に、魔法の手紙を飛ばした。
***
――…翌日の昼下がり
私はレオと街を見下ろせる高台に来ていた。
レオ:…………
街を見下ろすレオは、いつになく口数が少ない。
(今なら二人きりだけど…)
考え込むような横顔を見つめながら、ポケットのポプリに触れる。
(ポプリの効果はそんなに続かないから)
(使うなら気持ちを伝える直前じゃないと…)
使おうか悩んでいると、静かな眼差しが向けられた。
レオ:ねえ、吉琳ちゃん
吉琳:なに…?
レオ:この間アランと一緒に護衛した時のことだけど
レオ:一つだけ、言ってなかったことがあるんだ
吉琳:言ってなかったこと?
(もしかして今日は、それを伝えるために呼び出したのかな?)
吉琳:うん、なんでも聞くから話して…?
レオは少しだけ緊張したように息をつくと、
何かを決意したように、真っすぐ私を見た。
レオ:あの日、ジルがつけようとした護衛は、ほんとはアラン一人だったんだ
(え?)
吉琳:それなら、レオが一緒だったのは…?
レオ:俺は、自分で立候補したんだ
レオ:吉琳ちゃんは俺に守らせてって、ジルにお願いしてね
レオの言葉に目を見開く。
吉琳:どうして、そんなこと…
戸惑いを口すると、レオは真剣な顔で私を見た。
レオ:それは吉琳ちゃんが
レオ:俺が昔からずっと守りたいと思う、たった一人の女の子だからだよ
(……っ)
吉琳:それじゃ、この間本屋で話してくれた人は…
レオ:…うん。吉琳ちゃんのこと
レオが言葉を重ねていくたび、
種が芽吹くように甘い感情が膨らんでいく。
吉琳:…いつもみたいに、冗談だよって言わない…?
少しだけ不安で問いかけると、レオが私の瞳を覗き込む。
レオ:俺の言葉、信じられない…?
吉琳:…っ…そうじゃなくて…
吉琳:急すぎて…なんだか夢みたいだから
早い音を立てる胸に手を当てると、レオは瞳を和らげた。
レオ:…ねえ、今吉琳ちゃんが作ったポプリ持ってる?
吉琳:…? あるけど…
レオ:それ、俺にくれない?
(どうするつもりなんだろう…?)
不思議に思いながら、仕舞っていたポプリを取り出す。
レオ:俺の言葉が本当だって証明するから
レオ:吉琳ちゃんが魔法かけてよ
レオは悪戯っぽく笑うと、私の手を引いて……
吉琳:あ…っ
持っていたポプリが、レオの唇に押し当てられる。
その瞬間、レオの体が淡い光りに包まれた。
レオ:…魔法かかったね
(…っ…自分でキスしたわけじゃないのに)
熱を帯びた私の頬にレオの手が添えられる。
レオ:今なら、どんな素直な言葉も言える…だから、何でも聞いて?
(もう、魔法のポプリの力には頼れない)
(自分で勇気を出さなきゃ…)
深く息を吸って、知りたい気持ちを紡いでいく。
吉琳:レオは私のこと、どう想ってる…?
レオ:…好きだよ
(……っ)
緊張に声が掠れそうになりながら、言葉を重ねる。
吉琳:それは、どういう意味の好き…?
レオ:俺の吉琳ちゃんへの好きは…――恋の好き
レオ:恋人になって一緒に出かけたり、大切な日を心を込めて祝ったりしたい
レオ:それから吉琳ちゃんに…キスがしたい
吉琳:レオ…
(…レオの言葉が、胸の中を全部満たしていくみたい)
嬉しさで言葉に詰まっていると、レオがこつんと額を重ねた。
レオ:…こういうこと、嘘で覆い隠さないと言えなかった
レオ:吉琳ちゃんと一緒にいるのは心地よくて
レオ:気持ちを告げてこの関係が崩れるのは、嫌だったから
(私と同じだ…)
(私も、気持ちを伝えてレオとの関係が崩れるのが怖かった)
レオ:でも、この間一緒に出かけた時に、もう耐えられないと思った
間近で切なく揺れる瞳に、私だけが映り込む。
レオ:吉琳ちゃんの笑顔、俺だけに向けてほしい…誰にも渡したくない
吉琳:あ…っ
ぎゅっと、痛いほどにきつく抱きしめられる。
(苦しい…、…でも)
(このままでいたい…)
気持ちに押されるまま、レオの背中に手を回す。
そうすると、深くしまい込んでいた気持ちが自然と溢れ出した。
吉琳:私も…レオが好き
吉琳:一緒に笑ったり、魔法の勉強をしたり…
吉琳:ずっとレオとの時間は、かけがえのないものだった
レオ:吉琳ちゃん…
(…これを伝えるのは、照れるけど)
恥ずかしさを堪えて、レオに笑みを向ける。
吉琳:それから…ずっとキスもしたいと思ってたよ
レオ:…っ…
頬を両手で包まれて、衝動的なキスが唇を塞ぐ。
吉琳:ん…っ
触れる温もりに、目眩がしそうなほどの幸せを感じた。
吉琳:レオ…
唇を離した瞬間、ずっと持っていたポプリが光を放つ。
レオ:え…
封をしていたリボンが解けて、中のポプリが元通り綺麗な花の姿を見せた。
レオ:魔法が解けるとこうなるんだ…
吉琳:素敵でしょ…?
レオ:うん、すごく
冗談っぽく告げると、レオも楽しげに笑ってくれる。
笑いを治めると、再び視線が重なった。
レオ:…素直になれる魔法はもう解けちゃったけど
レオ:まだ俺の好きが夢じゃないって、信じてくれる?
吉琳:…もちろんだよ
(もう私たちに、素直になる魔法は必要ない)
(魔法に頼らなくても…何度でも好きを伝え合えばいいから)
顔を寄せて、もう一度キスを交わす。
伝わる互いの愛しさは、とびきり甘い魔法をかけたように、
胸いっぱいの幸せで満たしていった…――
fin.
Epilogue:
――…魔法の国ウィスタリアで、魔法使いの彼らと過ごす日々は、
まだまだ終わらない…――
ある日、城下で偶然アランとレオと逢ったあなた…
夕陽を見ていると、学生時代の記憶が蘇って…?
レオ:こうすれば温かいでしょ?
レオ:ほら、アランも
アラン:…服乾くまでの間だけだから
あなたが二人に温められる…!?
彼らとの愛しい時間を、もう少し覗いてみる…――?
突然放了艾倫圖是有原因的...... 因為太好笑了啊~~~
跟里奧廝混那麼久後被逮到......艾倫那臉色實在太精彩了笑翻我XDDD