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Magic of love~恋する魔法使い~(ノア)

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プロローグ:

――…ここは、魔法の国ウィスタリア
誰もが魔法を使えるこの国のお城で、私は宮廷魔法使いとして働いている。

***

(この本は、確かあの棚に返せばよかったかな…)

腕に抱えていた数冊の本を、魔法で宙に浮かべて棚の中に収めていく。
お城の図書館を飛び交う本は、私にとっては見慣れた光景だけれど……
アルバート:…………

(アルバートさんにとっては、珍しいのかも)

隣国シュタインから来ているアルバートさんは、
私の隣で物珍しげに空飛ぶ本を眺めていた。

(たまたま図書館ではち合わせたけど、もしかして、ここに来るのは初めてなのかな)

アルバート:さすが、ウィスタリアですね。
アルバート:本の返却まで魔法で行うとは…
吉琳:手で返すより、この方が早いんですよ
アルバート:利便性があるのはわかってますが、
アルバート:シュタインではこうした魔法が使える人間は限られています
アルバート:あまり見ない光景ですので、興味深いですね
感慨深く呟いたアルバートさんが、ふと、私の方に目を向けた。
アルバート:そういえば、前から聞きたかったのですが…
アルバート:宮廷魔法使いであるあなたは、
アルバート:普段どのような仕事をしているのですか?
吉琳:私は主に、魔法の研究をしています
アルバート:研究ですか…。きっと熱心に取り組んでいるのでしょうね
吉琳:え…?
アルバート:あなたの魔法は素晴らしいと、ゼノ様も褒めていましたから

(シュタインの国王陛下に褒めていただけるなんて、嬉しいな)

吉琳:ありがとうございます
お礼を告げたその時、図書館の重厚な扉が音を立てて開いた。
???:吉琳
吉琳:あ…

(もう約束の時間?)

入り口から差し込む光の中に、彼の姿が見える。

(急がないと)

吉琳:すみません、私はこれで失礼しますね
アルバートさんと別れて、彼の元へと向かう。
光が差し込む扉の前で、私を待っていたのは…――

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どの彼と過ごす…?

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共通第1話:

――…透き通っ青空が鏡のように煌めく午後
ノア:吉琳ー
吉琳:あ…
いつもの柔らかい声音が、図書館に控えめに響く。

(もう約束の時間?)
(急がないと)

吉琳:すみません、私はこれで失礼しますね
図書館にいたアルバートさんと別れ、入り口へと駆け寄る。

***

吉琳:ルイ、ノア…待たせてごめん
光が差し込む扉の前で私を待っていたのは、
ウィスタリアの王位継承者であるルイとノアだった。
ノア:吉琳、仕事終わったー?
吉琳:うん、ばっちり
ルイ:それなら、よかった
ノア:じゃ、予定通り三人でお忍びに行こっか
吉琳:お忍びなのはルイとノアだけでしょ?
ノア:細かいことは気にしなーい
ルイ:それにしても、今日が晴れてよかったね
吉琳:うん、私も今日の約束を楽しみにしてたから嬉しい
話しながら廊下を歩いていると、すれ違うメイドたちがニ人に羨望の眼差しを向けた。

(いつも当たり前みたいに一緒にいるけど…)
(ニ人は、本当なら私が気軽に話せるような人たちじゃない…)

視線を上げて、淡く光る髪を揺らして歩く二人の姿を眺める。

(魔法学校で知り合っていなかったら、きっとこんな風に仲良くなることはなかっただろうな)

出逢った頃を思い出してふっと頬を緩めていると、
ルイとノアがくるりと振り返って私に手を差し伸べた。
ルイ:吉琳
ノア:お手をどーぞ
吉琳:え…
目の前に差し出された二人の手に、目を瞬かせる。

(どういうこと…?)

ノア:吉琳は空飛ぶ魔法、苦手でしょー?
ルイ:歩いていくと時間がかかるから…
ルイ:俺たちが、エスコートしてあげる

(でも私と一緒に飛んだら、普通に飛ぶより疲れちゃうんじゃ…)

吉琳:本当に…いいの?
ノア:もちろん
ノア:それに三人で一緒に空飛ぶのって、きっと楽しいよ?
ルイ:ちょっと揺れるかもしれないけど
ルイ:君の手だけは、絶対に離さないから
促すように手を揺らすノアと、静かに微笑むルイを見て、
胸の奥がぎゅっと音をたてる。

(私が一人じゃ空を飛べないから、気を遣ってくれてるんだ…)
(…こういう優しいところも、学生の頃と変わらないな)

吉琳:ありがとう
私は笑顔で両手を伸ばし、二人の温かな手をとった。

***

ルイとノアに手を引かれ、バルコニーへとやって来る。
ノア:準備はいーい? それじゃ、行くよー
ルイ:しっかり掴まってて
吉琳:う、うん
二人の手を握り返すと、私の足がふわりと地面から離れる。
吉琳:わ……っ

(飛べた…!)

二人と一緒に、空をどんどん登っていく。
ノア:吉琳、上手に飛べてるよー
吉琳:二人のエスコートのおかげだよ
ルイ:高いけど、怖くない?
吉琳:うん、大丈夫

(本当はちょっと怖いけど…)
(二人が支えてくれてるから、安心できる)

ルイとノアとともに、地平線へと滑るように飛んでいく。
風を受けて目を細める二人を見て、私はふっと思い出した。
吉琳:そういえば…どうして急に私を誘ってくれたの?

(学生時代に出逢ってから一緒にいることは多かったけど…)
(こうして三人で出かけることなんて、今までなかった気がする)

私の問いに、ルイとノアは悪戯が成功した子どものように視線を交わす。
ルイ:それは…
ルイ:吉琳が最近、忙しそうだったから
吉琳:え…?
ルイとノアは思い出すように、顔を見合わせて笑みを浮かべる。
ノア:息抜きしないと倒れちゃいそうだねって、この間ルイと話してたんだよ
ノア:でも、お城にいると、吉琳はすぐ働きたがるでしょー?
吉琳:言われてみれば…そうかも

(宮廷魔法使いとして、何か少しでもみんなの役に立ちたくて…)

ここ数日のことを振り返ると、私は廊下を走ってばかりだった気がする。
ルイ:出かけた方が、君はゆっくりできると思ったんだ
ルイ:だから、今日はのんびり過ごそう
いつもより髪を跳ねさせて笑うノアと、優しい眼差しを向けるルイを見て、
温かな思いが心の中に広がっていく。

(私でさえ、自分の限界に気がついてなかったのに)
(二人とも、心配してくれたんだ)

吉琳:…ありがとう。ルイ、ノア

(私、二人に出逢えて本当に幸せだよ)

ノア:そーいうわけで、今からのんびりできる場所に行こうと思います
吉琳:のんびりできる場所って?
ノア:街外れにある花畑とかどーかな?
吉琳:わあ、行ってみたい
ルイ:決まりだね
ノア:でも、その前に…吉琳、ランチはもう食べた?
吉琳:あ…食べてない
ノアの言葉に、思い出したようにお腹が小さく音をたてる。

(…っ、恥ずかしい)

顔を赤くする私に、隣にいるルイが柔らかく微笑んだ。
ルイ:それじゃ…花畑に行く前に、美味しいもの食べよう

***

人のいない静かな路地裏に、私たち三人はふわりと降り立つ。
ルイ:足元気をつけて
吉琳:うん

(久しぶりに空を飛んだからかな…)
(足の先がまだふわふわする)

ノア:お腹すいたー。早く何か食べよう
吉琳:そうだね。何食べよっか?
ルイ:…そういえばこの前、ジルから聞いたけど
ルイ:この裏通りにできたお店が美味しいって評判だって
吉琳:あ、私も聞いたことある。じゃ、そこにしようよ
名物のメニューについて話しながら歩いていると、視界の端で何かが光った。

(ん? あれは…)

光の正体を確かめようと、近づいてそっと屈み込む。
わずかな陽差しで輝くそれは、繊細な装飾のブレスレットだった。

(綺麗…)

???:誰かの落とし物かな?
吉琳:あ…
後ろからやってきた彼が、私の肩越しに手を伸ばす。
彼の手が触れた瞬間、ブレスレットが光り始めて…――
???:………っ

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第2話:

光の正体を確かめようと、近づいてそっと屈み込む。
わずかな陽差しで輝くそれは、繊細な装飾のブレスレットだった。
ノア:誰かの落とし物かな?
吉琳:あ…
後ろからやってきたノアが、私の肩越しに手を伸ばす。
ノアの手が触れた瞬間、ブレスレットが光り始めて……
ノア:………っ
吉琳:ノア…!
ぱあん、と光が弾けた。

(あれ…?)

ブレスレットは、何ごともなかったかのようにノアの手の中に収まっている。
ルイ:光がおさまった…

(おかしいな…今、確かに魔法の力を感じたんだけど)

吉琳:ノア、平気…?
ノア:うん、へーき。何ともないよ
いつもの屈託のないノアの笑顔に、ほっと胸をなで下ろす。
ルイ:二人とも、無事でよかった
ノア:これ、落とし物みたいだし、後で届けよっか
ノア:吉琳、ルイ、行こー
吉琳:あ…うん!
屈んでいた私を引き上げるように、ノアが私の手を掴む。

(さっき、魔法が突然掻き消されたように見えたけど…)
(気のせいだったのかな…?)

***

その日の夜…
私はそっとノアの部屋のドアを叩いた。
ノア:吉琳…?
吉琳:夜に訪ねてごめんね
ノア:それはいいけど…そんな真剣な顔して、どーしたの?
吉琳:ちょっと昼間のことが気になって…ノア、あれから何ともない?
ノア:…え?
私の問いかけに、ノアは不意をつかれたような顔をした。
吉琳:城に帰ってから少し調べてみたんだけど…
吉琳:昼間拾ったのは、やっぱり魔法のかかったブレスレットだったみたいなの
吉琳:だから、ノアがちょっと心配で…

(ブレスレットに込められていた魔法がノアにかかってるかもしれない)
(もし、危険な魔法だったらどうしよう)

焦る気持ちで見上げると、ノアは陽だまりのような笑みを浮かべた。
ノア:心配してくれてありがとー、吉琳
ノア:でも、俺はこの通り、だいじょーぶだよ
吉琳:それなら、いいんだけど…

(本当に、何ともないみたい)
(いつもの優しいノアの笑顔だ…)

安堵感からほっと息をつくと……
ノア:……でも

(え……?)

突然、吐息が唇に触れそうなほどの距離に、ノアの顔が寄せられた。
ノア:こんな夜遅くに男の部屋に来るなんて、感心しないなー
吉琳:…っ、ノア…?
いつもとは違う色を帯びた眼差しに、胸が高鳴る。
ノア:吉琳、俺が男だってこと忘れてない…?
吉琳:わ、忘れてないよ…

(忘れるわけない…)
(だってこんな風に顔を近づけられてドキドキするくらい)
(私は、ノアのことが好きだから)

吉琳:でも…ノアは、友達でしょ…?
火照る頬をごまかすように微笑むと、胸の奥がちくりと痛む。

(ノアは、私を友達としか思っていない…)
(だからこんな無邪気に顔を近づけたりできるんだよね?)

ノア:…………
吉琳:…ノア?
ふと、ノアの顔から笑みが消える。
吉琳:どうしたの…?

(いつものノアじゃないみたい…)

ノア:……ねえ、吉琳
ノア:やっぱり、大丈夫じゃない
吉琳:え…?
ノア:ブレスレットの魔法…かかってるかも
ふいに伸ばされたノアの手が背中に触れて……
吉琳:……っ
私の体を、力強く抱き寄せた。
吉琳:ノア…っ?

(どうして急にこんな…)

ノア:吉琳を見てると、どきどきして、すっごくおかしい気持ちになる
ノア:だから俺…変な魔法にかかってるのかも
吉琳:それって…
ノア:学生の時に聞いた魔法に似てる…
ノア:ひとめぼれの魔法にでも、かかったみたい
吉琳:嘘…
熱のこもった瞳に見つめられて、無意識に胸が騒ぐ。

(…っ…いつかこんな風にノアに見つめられたらって、思ってた)
(でも、これが魔法のせいなら嫌だよ…)

ノア:ねえ…この魔法、どーしたらいいと思う…?
抱きしめられたまま耳に低い声音が響き、体に甘い痺れが走る。

(このまま身をゆだねちゃだめだ)

吉琳:…っ、すぐに、魔法を解く方法を探すよ
ノア:え…?
精一杯の笑顔を向けて、ノアの胸をそっと押し返す。

(魔法に甘えたら、ノアにも自分にも嘘をつくことになる)

吉琳:必ず解くから…少しだけ、待ってて
緩んだノアの腕から抜け出すと、私は薄暗い廊下へと駆けだした。

***

吉琳の温もりが残る腕を、ノアはため息をつきながら見下ろす。
ノア:…必ず解く、か
ノア:吉琳はやっぱり俺のこと、友達としか思ってないのかな
ノアは魔法で光を灯しているランプに手を近づける。
解除の呪文を唱えなければ消えないはずの灯りは、
ノアの手が触れた瞬間、昼間のブレスレットが光を失った時のように掻き消えた。
ノア:…やっぱり、俺に魔法はかからない
ノア:こんなフリするのは最低だってわかってる
ノア:それでも…――吉琳の心が、欲しいよ
ランプの灯りと同じように、ノアの声は暗闇へと融けていった…。

***

――…翌日の夜

(うーん…この本にも書いてない…)

魔法の本を閉じてため息をつくと、ドアをノックする音が響く。
ノア:吉琳
吉琳:ノア…?
ドアを開けると、そこにはいつもと変わらないノアの笑顔があった。
ノア:入ってもいい?
吉琳:うん…
背の高いノアを見上げていると、昨日の記憶が鮮明に蘇ってくる。

(…ノアに抱きしめられた感触が、まだ背中に残ってる気がする)
(ノアは昨日の魔法にかかったままなんだよね…?)
(なんだか一緒にいるのが、いつもより緊張する)

部屋に入ったノアは、机に積まれた本を見て少し眉を寄せた。
ノア:やっぱり、無理してた
吉琳:え…
ノア:こんな夜遅くまで、俺にかかった魔法の解き方調べてるの?
吉琳:だって、早く解かないと大変でしょ…?
ノア:全然大変じゃないよー。俺、元から吉琳のこと好きだし
振り返ったノアの真っ直ぐな笑顔に、胸が痛む。
吉琳:ノアがそう言うのは、魔法にかかってるからだよ
吉琳:本当に好きな人がいたとしても、
吉琳:ひとめぼれの魔法はそういう気持ちを忘れちゃう…
吉琳:だから、ちゃんとノアの気持ちを取り戻さなきゃ
ノア:……そっか
ノアは寂しそうに微笑むと、私の目元にそっと手を伸ばす。

(ノア…?)

ノア:吉琳、目の下にクマできてる
ノア:どーしてこんなに無理してまで、俺の魔法を解こうとしてくれるの?
吉琳:それは…

(好きな人のためだから…)
(なんて、言えるわけないよ)

吉琳:大事な……友達、だから
ノアの瞳が淡く揺れて、困ったように視線を外す。
ノア:俺が欲しいのは、その言葉じゃないんだけどな
吉琳:え、今なんて…、……っ
問いかけを遮るように、ノアが私を抱きあげる。
そのまましっかりとした足取りで、ベッドへと運ばれた。
吉琳:ノア…!
ノア:吉琳、こーでもしないと寝てくれなさそうだから
ノアが私の体を抱えたまま、シーツの上に転がる。
ノア:おとなしく寝てくれるまで、離さない
すがるように、ノアが私の胸に顔を埋める。
甘い痛みが、心を疼かせた。

(こんな風に言うのは…無理をしないように、心配してくれてるからだよね)
(ノアは…いつも優しいから)

吉琳:……ありがとう
ノア:こんなことされてお礼言うなんて、変な吉琳ー
吉琳:そうかな?
耳元で響くノアの柔らかな笑い声に、鼓動がさらに高鳴るのを感じる。

(ノアは学生の頃から、私が無茶するたびに心配してくれたっけ)

魔法にかかっても、こういう優しさは変わらない。

(そういえばあの日も、こんな風に勉強に夢中になり過ぎて倒れて…)

〝涼やかな風が、ふわりと首筋を撫でる。〞

〝(なんだろう…風が気持ちいい)〞

〝瞼を上げると、上級生のネクタイをつけた人がそばにいることに気づく。〞

〝(この風、魔法だ…この人の手のひらが起こしてる)〞

〝ノア:あ、気がついたー?〞
〝吉琳:あれ…? 私…どうして保健室に…?〞
〝ノア:中庭で倒れそうになったところを、俺がキャッチしたんだ〞
〝吉琳:え…それは、ご迷惑をかけてすみません…〞
〝慌てて体を起こすと……〞
〝ノア:あ、急に起きちゃだめー〞
〝吉琳:わっ…〞
〝その人は私の肩に手を添えて、シーツの上へと押し戻した。〞
〝ノア:おとなしく寝てないと、添い寝しちゃうよ…?〞
〝淡い色のまつ毛が目の前に迫る。〞
〝吉琳:…っ、先輩?〞
〝ノア:なんてねー、じょーだんだけど〞
〝吉琳:でも、授業が…〞
〝まるで子供を叱るように、私の頭にその人の手がぽすっと乗せられる。〞
〝ノア:元気じゃない子は、行かせてあげません〞

(あの日からノアとはよく顔を合わせるようになって…)
(ちょっとでも私が無理してたら、すぐに見ぬいて、息抜きさせてくれた)

記憶から覚めるように瞼を開くと、目の前のノアと視線が絡み合う。
その瞬間、ノアの大きな手のひらが私の頬に触れて…――

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第3話:

(あの日からノアとはよく顔を合わせるようになって…)
(ちょっとでも私が無理してたら、すぐに見ぬいて、息抜きさせてくれた)

記憶から覚めるように瞼を開くと、目の前のノアと視線が絡み合う。
その瞬間、ノアの大きな手のひらが私の頬に触れて……
ノア:吉琳…まだ寝ないの?
くすぐるように、肌を撫でた。
吉琳:…ちょっと、考えごとしてて
ノア:考えごとって、何?
ノアが柔らかな髪を揺らし、不思議そうな顔をする。

(…ずっと前から気になってたこと、聞いてもいいかな)

吉琳:ノアは…どうしていつも、私を気にかけてくれるの?
ノア:え…?

(学生の頃から、そうだった…)

〝ノア:ねー、また頑張りすぎてない?〞
〝吉琳:あ…ノア先輩〞
〝ノア:ポケットに入ってたチョコ、半分食べる?〞

(試験でカンニングしたって、同級生に絡まれた時も…)

〝ノア:吉琳がずるしたって証拠はあるの?〞
〝ノア:誰よりもいい点取れたからって〞
〝ノア:吉琳の努力を踏みにじること、言わないでよ〞

(出逢ったあの日から、ノアはいつだって私に優しくしてくれた…)

吉琳:ノアが私に優しくしてくれるのは、どうして?
ノア:それは…
私の問いかけに、ノアは一瞬言葉を詰まらせると、困ったような笑みを浮かべた。
ノア:吉琳のことが、特別好きだからだよ
吉琳:…っだから、今そう思うのは、魔法のせいで…
ノア:ほんとに、魔法のせいだと思う…?
吉琳:え…
ふいに重なる眼差しに、真剣な色が滲む。
息を呑んだ瞬間、ノアの唇が額に押し当てられて……

(……っ!)

急にぐらりと視界が歪む。
吉琳:あ…、ノア…?

(なに、この眠気…ノアの魔法…?)

瞼が落ちそうになるのを堪えてノアを見つめると、
どこか寂しげな顔が目に入る。
ノア:俺の眠りの魔法、よく効くでしょ…?

(待って、まだ眠りたくないよ)
(ノアからちゃんとした答え、聞いてないのに…)

ノア:この話の続きはいつかきっとするから…
ノア:今はただ、自分の体を大切にしてよ
まどろむ私をあやすように、ノアは私の髪を優しく撫でる。
ノア:おやすみ、吉琳
眠りに落ちるその前に、ノアが魔法で部屋の灯りを消す気配を感じた。

***

――…翌日の空は、目覚めを促すように青く晴れ渡っていた
私はすっかり疲れのとれた体を伸ばしながら、中庭を歩く。

(昨日は結局眠っちゃった…)
(起きたらノアはいなくなってたし…今日会ったら、お礼を言わないと)

〝ノア:吉琳のことが、特別好きだからだよ〞
〝吉琳:…っだから、今そう思うのは、魔法のせいで…〞
〝ノア:ほんとに、魔法のせいだと思う…?〞

(あの言葉の先を…今度はちゃんと聞きたい)

ルイ:ノア、正直に話してほしい
噴水の前を通り過ぎようとしたその時、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

(あれは…ルイとノア?)

鮮やかな花壇の向こうに、ルイとノアの向かい合う姿が見える。

(何の話をしてるんだろ…?)

ルイ:吉琳から魔法にかかってるって話を聞いたんだけど…
ルイ:それ、嘘でしょ?

(え……?)

ルイ:ノアは、魔法にかからない体質じゃなかった?
ノア:うん、そーだよ

(嘘…それじゃ、ノアは魔法にかからないの…?)
(ひとめぼれの魔法にもかかってないってこと…?)

足元が揺らぐような感覚に、思わず後ずさる。

(抱きしめたり、好きだって言ったりしたのは、全部嘘?)
(あれは、私をからかってたの…?)

草を踏む音が、その場に響く。
ノア:…吉琳?
振り向いたノアと視線が重なった瞬間……
吉琳:……っ
ノア:あ…待って、吉琳!
私は逃げるように、その場から駆け出していた。

***

お城の奥へと逃げ込もうとしたけれど……
ノア:吉琳!
吉琳:……っ
後ろから伸びてきた大きな手が、私の手首を捉えてしまう。
二つの靴音が鳴りやみ、辺りを静寂が包み込んだ。

(どうしよう、振り向けないよ)
(どんな顔したらいいか、わからない)

ノア:吉琳…さっきの話、聞いてた…?
吉琳:……うん
ノア:…嘘ついて、ごめん
ノアの沈んだ声音に、我慢していた涙が溢れだす。
吉琳:どうして、嘘ついたの…?

(…っ…やっぱり、からかわれてたの…?)

俯いたまま振り返ると、ノアがためらうように口を開いた。
ノア:それは…
ノア:……悔しかったんだよ
吉琳:え?
予想外の返事に、私は目を見開いた。
ノア:吉琳が俺のこと友達って言うから、
ノア:男として見てくれてないんだって改めてわかって…
ノア:少しでもいいから、俺のこと、意識させたかった
吉琳:…っ……

(もしかして、あの時…)

〝ノア:吉琳、俺が男だってこと忘れてない…?〞
〝吉琳:わ、忘れてないよ…〞
〝吉琳:でも…ノアは、友達でしょ…?〞
〝ノア:…………〞

(急に様子が変わったのは、そういうことだったの…?)

ノア:吉琳
ノアの手が、私の頬を包み込む。
恥ずかしさで一歩後ずさると、背中にひんやりとした壁が触れた。
ノア:俺は、誰にでも優しいわけじゃないよ
吉琳:え…?
温かな指先が、優しく頬を撫でる。
ノア:吉琳は、学生の頃から頑張り屋だったでしょ?
ノア:初めて逢った時から、ほっとけない子だなーって思ってた
思い出すように細められるエメラルドグリーンの瞳に、
あの日、保健室で見たノアの笑顔が重なる。
ノア:目を離すと、すぐに無理して倒れちゃいそうで…
ノア:吉琳のことは、なんだか目が離せなかったんだよ

(…そんな風に思ってくれてたんだ)

ノア:そうやって特別気にかけてるうちに、
ノア:吉琳のいいところがたくさん見えてきて…
ノア:気づいたら、意識されないことにむっとするようになってた
ノアが決意したかのように、真っ直ぐな視線を私に向ける。
それは、いつも見ている『友達』のノアとは少し違う眼差しで……
ノア:俺、吉琳のことが…――好きだよ
凛とした声に応えるように、柔らかな風が私たちの髪を撫でていく。

(ノアは私のことが…)

吉琳:すき…?
ノア:うん…だから、魔法にかかったっていうのは嘘
ノア:でも、かかったフリをした間に伝えた言葉は…全部ほんとなんだ
ノア:俺は、吉琳が好き
はっきりとした声音に、顔が熱くなってくる。

(魔法のせいでも、からかったわけでもなくて)
(本当のノアの言葉だったの…?)

ノア:……吉琳、顔真っ赤
吉琳:っ…
ノアの言葉に、顔がさらに火照ってしまう。

(だってこんなの、恥ずかしがるなって方が無理だよ…)

ノア:俺のこと、意識してくれた?
吉琳:…ううん
吉琳:だって、ずっと前から意識してたから
ノア:え……
吉琳:私もずっと…ノアのことが好きだよ
ノア:吉琳…
ノアの顔が近づき、鼻先が触れ合う。
ノア:…嫌だったら、今ならやめてあげる
吉琳:……嫌じゃ、ないよ
壊れものに触れるかのように、ノアが唇にそっとキスを落とす。
間近で見つめ合うと、ノアは少し照れたように微笑んだ。
ノア:俺、吉琳に嘘ついたって言ったけど…
ノア:学生の頃からずっと…魔法にかけられてるよ
吉琳:でも…ノアは魔法にかからないんでしょ?
ノア:俺はそーだと思ってたんだけど…
ノア:吉琳とこうしてると、どきどきして、
ノア:すごくおかしい気持ちになるのは本当だから…
ノア:吉琳の魔法には、かかるのかもね

(私もノアに出逢ったあの日からずっと)
(ひとめぼれの魔法にかかってるよ)

言葉の代わりに少し背伸びをして、ノアの頬に口づける。
ゆっくりと離れた私を、ノアが抱き寄せて…
心を確かめ合うように、何度も甘いキスを交わした…――


fin.

44

Epilogue:

――…魔法の国ウィスタリアで、魔法使いの彼らと過ごす日々は、
まだまだ終わらない…――
………
……
ある日、ルイとノアとピクニックに出かけたあなた…
そこで、魔法の飴を舐めたあなたに、思いがけないことが起きて…?
ノア:…ほんと、可愛いーな
ルイ:うん、今までで一番かも
二人にたくさん撫で撫でされる…!?
彼らとの愛しい時間を、もう少し覗いてみる…――?

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    創作者介紹
    創作者 小澤亞緣(吉琳) 的頭像
    小澤亞緣(吉琳)

    ♔亞緣腐宅窩♔

    小澤亞緣(吉琳) 發表在 痞客邦 留言(0) 人氣()