Wish upon a star~ふたりの恋が叶うとき~(ジル)
2019/06/27~2019/07/09
『星に願うと、好きな人と両想いになれる』
そんな言い伝えを信じて星に願ったその瞬間、
心を寄せる彼から恋心を告げられて…―
………
頼れる執事長と、たくさんいるメイドの一人、そのはずだったのに…―
ジル 「……吉琳」
ジル 「私の最愛の……恋人になっていただけませんか?」
………
両想いになれたのは、言い伝えの効果か、彼の本音かわからずに、戸惑うあなた。
さまざまな立場や関係を乗り越えた彼の告白を、
その想いごと、すべて受け止めて…―
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
夜の静寂が広がり、お屋敷全体が寝静まった頃…―
ジル 「この想いは秘めたままにしようと考えていましたが、」
ジル 「明日が来る前に貴女に告げないと私は一生後悔するでしょう」
ジル 「……吉琳」
ジル 「私の最愛の……恋人になっていただけませんか?」
吉琳 「え……?」
不意打ちのジルからの告白に戸惑うばかりだけれど、
ジルの表情は真剣そのものだった。
(もしかして、あの流れ星に願ったから……)
(なんてこと、あるわけがないよね?)
まさかと思いつつも、星が美しく瞬いていた、
あの夜を思い出していく……
*****
いつものように仕事を終えて自室に戻ろうとしていた私は、
旦那様から急に言いつけられた明日の仕事について報告しようと、
執事長のジルを探していた。
やがて、
廊下に飾られている骨董品の点検や窓の戸締りを最終確認している姿を見つける。
(こんなに遅くまで……)
(本当に仕事熱心で、尊敬してしまう)
普段の仕事中もジルは周囲のことによく気づき、的確な指示をしてくれる。
そして優しく、時には厳しく……
私たちが立派なメイドになれるよう指導してくれていた。
(そんなジルのそばにいるうちに、いつの間にか上司としてではなく……)
(一人の男性として意識するようになってしまったんだよね)
真剣な横顔に見惚れて、胸が高鳴るのを感じていると……
微笑みを浮かべたジルとふいに目が合う。
ジル 「……何かご用ですか?」
*****
=====
*****
ジル 「……何かご用ですか?」
ジルに催促をされて、私は自分の顔の熱さを意識しながら報告を済ませた。
ジル 「また急な仕事……ですか。本当に困った方ですね」
ジル 「分かりました、報告ご苦労様です」
ジルは執事長としての真面目な顔で言うと、ふいに口元を綻ばせ……
ジル 「ぼんやりしていないで、早く部屋に戻って休みなさい。」
ジル 「明日も仕事が山積みですよ」
ぽんと肩に手を置かれ、触れられたそこが一瞬にして熱を持つ。
吉琳 「っ……」
去っていくジルがすれ違いざまに見せた優しい微笑みを思い浮かべ、
鼓動が速くなっているのを感じていた。
(ジルはただ執事長としてメイドの私に接してくれているだけだろうけれど、)
(あんな笑顔を向けられたら……勘違いしてしまいそうになる)
少し切ない気持ちになりながら、私はジルが立っていた窓辺に近づく。
窓の外を見ると、そこには満天の星が広がっていた。
吉琳 「……綺麗」
(そういえば『星に願うと好きな人に気持ちが届く』っていう言い伝えがあったよね……)
そんなことを考えていた時、夜空を横切る流れ星が見えてとっさに祈る。
(ジルも、私のことを好きになってくれたら……)
けれど、あっと言う間に流れ星は消えてしまった。
(……なんて、星に願っているだけではダメだよね)
私は夢見がちなことを考えていた頭を軽く横に振った。
***
数日後の深夜…―
私は、旦那様のいつもの気まぐれで頼まれた掃除の仕事をようやく終え、
使ったブラシを片付けに行こうと廊下を歩いていた。
すると、周囲を気にする様子で、旦那様の書斎に入って行くジルを見かけ……
*****
=====
*****
周囲を気にする様子で、旦那様の書斎に入って行くジルを見かけた。
(こんな時間に……どうしたんだろう)
不審に思った私は、ドアの隙間からこっそりと部屋の中の様子を窺う。
ジルは旦那様の机に近づくと、鍵つきの引き出しに、そっと鍵を差し込んだ。
旦那様は、引き出しには大事な物が入っていると言い、
決して誰にも触れさせていなかった。
(だから鍵は旦那様しか持っていないはずなのに、どうして……)
引き出しを開けると、
ジルは中から、見るからに高価そうな指輪を取り出した。
(あの指輪をどうする気なんだろう。まさか盗ったりは……)
その時、動揺した私の手から掃除用のブラシが落ちて、
床にぶつかった音が響く。
(あ……)
とっさにブラシを拾い、慌てて立ち上がったものの、
いつの間にかジルが目の前に立っていた。
ジル 「…………」
吉琳 「あ、あの、」
冷ややかな目で私を見下ろすジルは、開きかけた私の口を手で塞ぐと、
私の腕を掴み、そのまま書斎に引きずり込んで……
ジル 「盗み見ですか?」
*****
=====
*****
ジル 「盗み見ですか?」
私の肩を抱くようにして逃がすまいとするジルの声が、
耳のすぐ側から聞こえた。
吉琳 「っ……ジルこそ何をしていたんですか?」
ジル 「貴女には関係のないことです」
(理由を言わないなんて、やっぱりおかしい……)
不信感を募らせていると、ジルがさらに顔を近づけてきて言う。
ジル 「今見たことは黙っておいて頂けますか?」
(夜中にこっそり書斎に入って、)
(旦那様の引き出しをあさっていたことを……?)
ジル 「でないと、今から貴女に何をするかわかりませんよ」
私はジルの瞳を見つめ返しながら、
悲しい気持ちが大きくなっていくのを感じていた。
(執事長として、)
(いつも私たちに誠実に向き合ってくれていると思っていたのに……)
私は両手をぎゅっと握りしめて口を開く。
吉琳 「黙っているなんて、そんなことは出来ません」
ジル 「…………」
(いくらジルのことが好きでも……)
(悪い事を見逃すなんて、私には出来ない)
するとジルは私の顎を掴んで上向かせると、
鼻先が触れ合いそうなほどの距離までさらに顔を近づけてきて……
*****
=====
*****
(いくらジルのことが好きでも……)
(悪い事を見逃すなんて、私には出来ない)
するとジルは私の顎を掴んで上向かせると、
鼻先が触れ合いそうなほどの距離までさらに顔を近づけてきて……
(まさか、キス……)
思わず顔を逸らそうとした時、唇が触れる寸前でジルの動きが止まる。
ジル 「どうしても告げ口をすると言うなら……」
ジル 「この唇で、貴女の口を塞いで止めることにします」
ジル 「旦那様や使用人たちに、私との口づけをお見せしたいのなら、どうぞ」
からかうようなジルの微笑みに顔が熱くなり、思わず強がるように声をあげる。
吉琳 「っ……誰にも言いませんから、離してください」
ジル 「約束ですよ?」
そう言ってジルが、私の腕を掴んでいた手を離す。
途端に私はその場から逃げ出した。
***
それから数日後、仕事中にたまたまジルと二人きりになった時のことだった。
私はジルを警戒していたけれど……
(あの時は……夢でも見ていたのかな?)
書斎に忍び込んでいたのが嘘のように、
ジルは普段通り、てきぱきと仕事をこなしている。
ジル 「吉琳」
ふいに名前を呼ばれて振り返るのと同時に、ジルが私の手首を掴み、
キスを思わせる距離まで顔を近づけてきて……
*****
第2話:
*****
ジル 「吉琳」
ふいに名前を呼ばれて振り返るのと同時に、ジルが私の手首を掴み、
キスを思わせる距離まで顔を近づけてきて……
吉琳 「っ……何を」
後ずさって壁際に追い詰められた私は、
鼓動が速くなるのを感じながらジルの顔を見上げた。
ジル 「誰かに告げ口をしないよう、見張っているだけですよ」
明らかな嘘をつくジルが楽しげに口の端を持ち上げている。
(また私をからかって……)
そう思いながらもジルのことを嫌いになれない自分がいた。
熱心な仕事ぶりを見ていると、とても悪い人とは思えず、
書斎に忍び込んだのは何か事情があるのかもしれない、と良い方向に考えようとしてしまう。
(あの夜のことを、一人で考えていても答えは出ないし)
(……ジルに聞くしか、真実は分からない)
自分を奮い立たせ、ジルを見据えて言った。
吉琳 「ジル……答えてください。あの夜、指輪をどうしようとしていたんですか?」
吉琳 「まさか、盗もうとしていたわけじゃ……」
思い切って訊ねると、ジルがふっと微笑む。
ジル 「盗むだなんて心外ですね。懐かしんで眺めていただけですよ」
ジル 「……あの指輪は、もともと私の物なのです」
吉琳 「え……?」
*****
=====
*****
ジル 「……あの指輪は、もともと私の物なのです」
吉琳 「え……?」
詳しく聞くと、元は貴族だったジルの家は、
今仕えている公爵……つまり旦那様に陥れられて没落し、
家宝で当主の証でもある貴重な指輪も奪われたのだという。
ジル 「指輪を取り返すために身分を偽り、執事としてこの屋敷に入ったのです」
ジル 「貴女もご存知の通り、今では執事長として公爵からの信頼も厚く、」
ジル 「一番側に置かれて財産の管理も任されるまでになりました」
初めは指輪を取り返したいと強く思っていたけれど、安定した今の生活も譲れず、
時々ああして眺めているだけで充分なのだとジルは語った。
(事情も知らずに、盗もうとしていたなんて、ひどいことを言ってしまった……)
吉琳 「疑ったりして、本当にすみません」
心から謝り、私はジルの過去に想いを馳せながら伝える。
吉琳 「……私には想像も出来ないほど、苦労してきたんですよね」
吉琳 「ジルの支えになりたいです。何か私に出来ることはありませんか?」
ジルの気持ちを想像して胸を痛めていると、私を壁に押しつけていた手が下ろされ……
ジル 「こんなにひどいことをする男に同情するなんて……貴女という人は」
ジル 「どこまで真っ直ぐで優しいのですか?」
そう言って、ふっと目を細めたジルが吸い寄せられるようにして私へと指先を伸ばし……
*****
=====
*****
ジル 「どこまで真っ直ぐで優しいのですか?」
そう言って、ふっと目を細めたジルが吸い寄せられるように私へと指先を伸ばす。
けれど頬に触れる寸前で、躊躇したかのようにその手を引いた。
ジル 「私のような者に、貴女は眩しすぎます」
吉琳 「え……?」
(それはどういう意味なの?)
答えを聞く前に、ジルはすぐに背を向けて部屋を出て行ってしまった。
***
翌日…―
領内の視察に出かけようとしていた旦那様は、
怒りを露わにして屋敷中の人間を一堂に集めた。
なんでも、大事な指輪を視察につけて行こうとしたところ、
引き出しから消えていたらしい。
(まさか……)
思わずジルの方をちらりと見ると、ジルは黙って首を横に振る。
(そうだよね……見ていただけだと言っていたし。だったら誰が?)
その時メイドの一人が、
夜中にジルが書斎へ入るところを見たことがあると証言した。
公爵 「ジル! お前が盗んだのか?」
公爵 「これまで目をかけてやったというのにお前は……!」
ジル 「事実無根です」
公爵 「だったら指輪はどこへ行った!」
ジル 「私は知りません」
そう言いきったジルに、
旦那様が怒りに任せて杖を振り上げた瞬間、私はとっさに前へ出る。
吉琳 「待ってください!」
ジル 「吉琳……」
*****
=====
*****
吉琳 「待ってください!」
ジル 「吉琳……」
吉琳 「ジルは誰よりも旦那様に忠実に働いてきました」
吉琳 「それなのに、きちんと話も聞かずに疑われるのですか?」
ジル 「……!」
私の言葉に、怒りで震えていた旦那様が声を荒げる。
公爵 「かばうということは、お前も共犯なのか?」
吉琳 「違っ……」
私が絶句して青ざめているとジルが進み出た。
ジル 「お待ちください! それは言いがかりというものです」
公爵 「黙れ! 明日、視察から帰ってきたら、お前たち二人を窃盗の罪で訴えてやる!」
旦那様は聞く耳も持たず、領内の視察へと出かけてしまった。
*****
夜の静寂が広がり、お屋敷全体が寝静まった頃…―
自室のベッドに腰かけ、
使うのは明日で最後になるかもしれないメイドのエプロンを畳みつつ、
そろそろ寝ようと思っていたところにジルが訪ねてきた。
ジル 「少しよろしいですか?」
吉琳 「ジル……こんな時間にどうしたんですか?」
部屋に入り、静かにドアを閉めたジルが黙ったまま私に近づいてくる。
ジル 「…………」
そして正面に立ったジルが突然、戸惑っている私の手を取った。
吉琳 「っ……何を?」
握られた手から全身に熱が広がっていくのを感じていると、
ジルが何かを決意したような表情で告げる。
ジル 「この想いは秘めたままにしようと考えていましたが、」
ジル 「明日が来る前に貴女に告げないと私は一生後悔するでしょう」
(一体……何を言おうとしているの?)
ジルの真剣味を帯びた瞳を見つめて言葉の続きを待っていると、
ジルの唇が再び開き……
ジル 「……吉琳」
ジル 「私の最愛の……恋人になっていただけませんか?」
吉琳 「え……?」
=====
ジル 「私の最愛の……恋人になっていただけませんか?」
吉琳 「え……?」
それは私がジルと出会い、密かな恋心を抱いてからずっと望んでいた言葉だった。
けれどあまりに突然で、嬉しさよりも驚きの方が大きく、つい疑ってしまう。
(私の反応を見て楽しんでいるのかもしれない)
(これまで何度も、キスをするふりで、からかわれたし……)
一瞬そんな考えが過ぎるけれど、
私はもう、ジルが歩んできた過去を知ってしまっている。
不意打ちのジルからの告白に戸惑うばかりだけれど、
ジルの表情は真剣そのもので、目が逸らせない。
ジル 「……返事もしていただけないのですか?」
困惑して何も言葉を紡げずにいる私に、ジルが困ったように笑ってそう言った。
吉琳 「恋人に、だなんて……急に言われて驚かない人はいません」
吉琳 「何か企んでいるのかと思ってしまいます」
(今夜が二人で話せる最後の時間というのは分かるけれど……)
(このままだと私たちは明日、訴えられるかもしれないのに)
ジルの考えていることが私には理解出来ないでいると、
ジルは苦笑して……
ジル 「何も企んでいませんし、見返りも求めていません」
ジル 「しいて欲しいものがあるとすれば……貴女の心です」
第3話-プレミア(Premier)END:
ジルの考えていることが私には理解が出来ないでいると、
ジルは苦笑して……
ジル 「何も企んでいませんし、見返りも求めていません」
ジル 「しいて欲しいものがあるとすれば……貴女の心です」
ジルは、ベッドに腰かける私の隣に座り、愛しげな眼差しを向ける。
(私の心は、とっくにジルのものだった……)
そう伝えたいのに、胸がいっぱいで言葉が出てこない。
ジル 「急にこんなことを告げて、貴女を戸惑わせてしまったでしょうが……」
ジル 「明日の公爵の出方によっては、貴女に二度と会えなくなるかもしれない」
ジル 「そう考えると、冷静でいられなかったのです」
ジルはこちらへ伸ばした指先で私の髪をさらりと撫でると……
ジル 「支えになりたいと言って、貴女は私の心に寄り添ってくれましたね」
ジル 「貴女の思いやりに触れて、この心にも光が差したのです」
ジル 「眩しいほど、真っ直ぐで優しい貴女という存在を、離したくないと強く思いました」
吉琳 「っ……」
ジルの真摯な言葉に胸が熱くなって涙が出そうになる。
(ずっと、私だけの片想いだと思っていたのに)
ふと、流れ星に願いを込めた夜のことを思い出す。
(星に願いをかけた時は、こんな風にジルと想いが通じ合うなんて思ってもいなかった……)
(あの言い伝えは、私たちにきっかけをくれたのかもしれない)
想いを馳せていると、髪を撫でていたジルの指先が私の頬を滑り……
=====
髪を撫でていたジルの指先が私の頬を滑り……
ジル 「明日、どうなろうとも私について来てくださいますか?」
もしも本当に旦那様に訴えられたなら、
最悪の場合、屋敷を追い出されるどころか囚われの身となるかもしれない。
(それでも、ジルと心が通じ合った今なら……どんな目に遭っても耐えられる)
私は頬に触れているジルの手に自分の手を重ねると、微笑んで頷いた。
吉琳 「私も……ずっとジルのことを想っていました」
吉琳 「そしてジルの過去を知って、その想いはもっと強くなったんです」
ジル 「…………」
頬に当てられたジルの手がぴくっと動いた。
吉琳 「だから明日……何があってもジルについて行きます。」
吉琳 「もし離ればなれになったとしても、」
吉琳 「絶対に探して会いに行きます」
(どんなに時間がかかっても)
堪えていた涙が頬を伝う。
ジル 「吉琳……」
ジルはどこか切ない声で呼ぶと、私の身体をきつく抱きしめ……
=====
ジル 「吉琳……」
ジルはどこか切ない声で呼ぶと、私の身体をきつく抱きしめ……
ジル 「離ればなれだなんて……私が絶対に、そんなことはさせませんから」
耳元で絞り出すように告げた。
吉琳 「はい……」
(たとえジルでも旦那様には逆らえない……)
(慰めだとしても、その一言が私を救ってくれる)
それから私たちは何も言わずにただ抱き合っていた。
***
翌日…―
ジルと共に旦那様に呼ばれた私は、机の上に置かれた指輪を見て目を見開いていた。
吉琳 「指輪……見つかったんですね?」
思わず弾んだ声を出した私を旦那様が睨みつける。
公爵 「いつもの引き出しではない所にあった。誰かが慌てて戻したとしか思えんな」
旦那様の目がじろりとジルに向く。
けれどジルは余裕の笑みを浮かべて言う。
ジル 「指輪は戻ったのですから、これで……」
公爵 「いや、お前たちには出て行ってもらう。牢獄送りにされないだけありがたいと思え!」
この件で旦那様は人間不信になってしまったのか、取りつく島もなく……
私たちは指輪泥棒の濡れ衣は免れたものの、屋敷を追われることになった。
***
それから行くあてのない私はジルに誘われ、ある屋敷までやって来た。
吉琳 「すごく立派なお屋敷ですけど、ここは……?」
ぽかんとしている私を見て、ジルはふっと笑い……
ジル 「最近ようやく公爵から取り戻した私の屋敷です」
=====
ぽかんとしている私を見て、ジルはふっと笑い……
ジル 「最近ようやく公爵から取り戻した私の屋敷です」
吉琳 「え……?」
予想もしていなかった答えが返ってきて、目を瞬かせる。
詳しく話を聞くと、執事長として財産管理も任されていたジルは裏で手を尽くし、
公爵に奪われた財産を、法の抜け穴を利用して合法的に取り戻していたのだという。
そう語ったジルの手には、あの指輪があって……
吉琳 「え? その指輪……」
ジル 「屋敷を出てくる直前にすり替えてきました」
ジル 「今頃、公爵は私が作らせた偽物を眺めていることでしょう」
実は昨日、偽物を作らせるためにわずかな時間、指輪を拝借していたところ、
運悪く公爵が引き出しを開けてしまい、あの騒ぎになったのだという。
吉琳 「なんて大胆なことを……」
驚きの声をあげた私にジルが口の端を持ち上げた。
ジル 「貴女が思うより、私は危険な男かもしれませんよ?」
その艶っぽい瞳に見つめられて鼓動が騒ぐ。
(確かに、色んな意味でドキドキさせられているかも……)
それからジルは屋敷を見上げながら言う。
ジル 「取り戻したばかりで屋敷には私一人しかいませんし、」
ジル 「貴女もここに住んではいかがですか?」
吉琳 「こんなに広いお屋敷だったらメイドが必要ですよね。ぜひ働かせてください」
ありがたい提案に頭を下げると、ジルがなぜか苦笑して首を横に振り……
=====
ジル 「貴女もここに住んではいかがですか?」
吉琳 「こんなに広いお屋敷だったらメイドが必要ですよね。ぜひ働かせてください」
ありがたい提案に頭を下げると、ジルはなぜか苦笑して首を横に振り……
ジル 「違いますよ」
吉琳 「え?」
ジル 「メイドとしてではなく、私の恋人として住んではどうかと言ったつもりなのですが?」
吉琳 「っ……恋……人」
瞬時に顔が火照った私を見たジルは口元に笑みを滲ませると、
私の肩を抱いて屋敷の中へと入って行った。
***
二人で夕食を済ませた後、私が部屋で寝る支度をしていると、ジルが訪ねてくる。
吉琳 「……どうしたんですか?」
恋人同士になっても、ずっと一緒にいるのはまだ落ち着かず、部屋を別にしてもらったため、
次にジルと顔を合わせるのは明日の朝食の席だと思っていた。
なので、ベッドの上に座っていた私はきょとんとしてしまう。
ジル 「……まさか本当に、一人で眠ってしまうわけではないですよね?」
不満そうな顔をしたジルが隣に座り、ベッドが軋む。
(それは……つまり)
この後に起こることを想像すると、羞恥で瞳が潤んだ。
ジルはそんな私の肩を抱き寄せるとまるで逃げる猶予を与えるように、ゆっくりと顔を近づけ……
ジル 「…………」
私が逃げないのを確認すると唇を重ねた。
吉琳 「……ん」
触れるだけだった口づけは、私が息継ぎをしようと薄く唇を開けるのと同時に、
ジルが深く熱いものに変化させ…―
ジル 「ようやく想いが通じた恋人を、一人で寝させるつもりはありませんよ」
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ジルの考えていることが私には理解出来ないでいると、
ジルは苦笑して……
ジル 「何も企んでいませんし、見返りも求めていません」
ジル 「しいて欲しいものがあるとすれば……貴女の心です」
そう言いながら真剣な眼差しを向けられて、心臓が早鐘を打つ。
(ジルが……私のことを好きでいてくれた。でも、いつから……?)
信じ難いけれど、本当だったらこれ以上はないという幸せな告白に、
今が大変な状況であることも忘れてしまいそうになる。
吉琳 「っ……信じられないです。ジルが私のことを好きだなんて」
吉琳 「今まで一度もそんなこと……」
顔を火照らせながらも、ぎゅっと両手を握りしめて言った私に、
ジルは余裕のある笑みを浮かべながら頷く。
ジル 「ええ、だから言ったでしょう。想いは秘めたままにするつもりだったと」
ジル 「地位も財産も失った私が、貴女の側にいられる以上の幸せを望むべきではない……」
ジル 「そう考えていたのですが明日、貴女と離ればなれになるかもしれないと思うと、」
ジル 「もう隠しておくことが出来なかったのです」
=====
ジル 「そう考えていたのですが明日、貴女と離ればなれになるかもしれないと思うと、」
ジル 「もう隠しておくことが出来なかったのです」
ジルの話を聞いていた私は、胸の奥が喜びで震えていることに気づく。
(冗談でもからかっているのでもない……本当に私のことを想ってくれていたんだ)
この嬉しい気持ちをジルに伝えたい。
恋人になってほしいという問いかけに、今すぐ答えたい。
それなのに、胸がいっぱいになってしまって言葉が出てこない。
するとジルはベッドに座る私の隣に腰をかけた。
ジル 「これでもまだ私の想いが信じられませんか?」
吉琳 「っ……いえ」
(違うのに)
ジルがふいに私の肩を抱き寄せ、いつかと同じように顎に手を添えて顔を上げさせる。
ジル 「言葉では伝わらないのであれば、直接この唇に……」
今度は寸前で止められることなく、私の唇に口づけが落ちた。
吉琳 「ん……」
ジルとの初めてのキスは私の思考を甘く溶かし、身体から力が抜けていく。
さらに、キスをしながらジルの手が愛しげに私の背中を撫で……
=====
ジルとの初めてのキスは私の思考を甘く溶かし、身体から力が抜けていく。
さらに、キスをしながらジルの手が愛しげに私の背中を撫でていく。
ジル 「私のことを深く知っても、なお真っ直ぐに向き合ってくれたあの瞬間から、」
ジル 「私は貴女に惹かれていました」
想いを秘めることをやめたからなのか、
私を見つめる瞳も、触れる仕草も話す声も、今までよりもずっと優しい気がした。
(私も……伝えたい。ずっと一人で育てていたこの想いを)
私はジルの背中に腕を回すと、胸が高鳴っているのを感じながら口を開く。
吉琳 「私もジルのことが好きです。……恋人に、なりたいです」
一瞬、目を見開いたジルが嬉しそうに微笑む。
ジル 「ようやく信じてもらえたようですね」
ジルが再び唇を重ねる。
ジル 「明日、公爵に訴えられてどんな処分が下されようと、私は貴女を離しません」
吉琳 「ジル……」
さっきまでは明日のことを考えると不安で押しつぶされそうだったのに、
今は不思議と、不安よりもジルとだったら乗り越えられるという自信のほうが強くなっていた。
ジル 「大丈夫ですよ」
そう言ってジルが包み込むように私を抱きしめた。
***
翌日…―
私とジルは旦那様に呼び出され……
=====
私とジルは旦那様に呼び出され、どんな処分が下るのかと思っていると……
公爵 「……指輪のことはもういい」
吉琳 「え?」
思わずきょとんとした声を出すと、旦那様が苛立ったように言う。
公爵 「指輪は……あった。……二人共何をしている! 早く仕事を始めろ!」
ジル 「はい」
追い出されるように部屋を出てから近くにいた使用人に話を聞くと、
指輪がなくなったのは旦那様の勘違いだったらしく、今朝メイドが見つけたのだという。
ジル 「ご自身で宝石箱に移したことを忘れていたなんて……人騒がせな方ですね」
吉琳 「本当に……」
どうにか私たちの誤解は解け、気まぐれな旦那様のもとで働き続けることになった。
そんなある日、重たい荷物を運んでいた私は方向転換をしようとしてよろけ、
近くにいた若い執事に抱きとめられる。
吉琳 「っ……すみません、ありがとうございます」
ちょうどそこへジルがやって来て、視線が交わる。
ジル 「…………」
後ろめたいことは何もないけれど、慌てて私は身体を支えてくれた執事から離れた。
ジル 「……吉琳。その荷物は無理せず彼に任せて、」
ジル 「こちらの急ぎの仕事を手伝ってもらえますか?」
吉琳 「あ……はい」
ジルについて行き、向かい合って一緒に急ぎの書類を準備していると……
ジル 「仕事中だというのに、先ほどは彼とずいぶん楽しそうにしていましたね」
吉琳 「え?」
話しかけられ視線を上げると、ジルはどこか冷ややかな空気を纏って微笑んでいた。
吉琳 「あれは、ふらついたところを支えてもらっただけで……」
慌てて説明しながら、ふと気づく。
(もしかして、嫉妬してくれているの……?)
そう考えた途端、つい頬が緩んでいくのを感じていると、
ジルが眉間にしわを寄せ……
=====
(もしかして、嫉妬してくれているの……?)
そう考えた途端、嬉しくてつい頬が緩んでいくのを感じていると、
ジルが眉間にしわを寄せ……
ジル 「……何を笑っているのですか?」
平静を装っていても、ジルの表情と声色は嫉妬を認めているように思えてしまう。
そんな考えが顔に出てしまっていたのか、
眉間のしわを深くしたジルが、じりじりと迫ってきて私を壁に追い詰めていく。
ジル 「…………」
無言で顔を近づけてくるジルの胸を慌てて押し返す。
(まさか、またキスを?)
吉琳 「あの、今は仕事中なので……」
ジル 「メイドにお仕置きするのも、執事長である私の仕事ですよ」
迫ってくるジルに戸惑っていると、ふいに掛け時計が短く鳴った。
ジル 「……あぁ、ちょうど休憩の時間です」
ジル 「仕事中ではなくなりましたし、貴女の懸念はもう何もありませんね?」
ジルの口元には意地悪な笑みが浮かんでいる。
吉琳 「っ、そんな……ドキドキして顔が赤くなってしまったら、他の人に気づかれてしまいます」
そう訴えたけれどジルは離れてくれず……
ジル 「赤くなった顔を必死に隠そうとする貴女もきっと可愛らしいのでしょうね」
艶やかに笑って唇を重ねた。
吉琳 「ん……」
(こんな意地悪をされても、やっぱり嫌いにはなれない……)
私は抵抗する気持ちごとジルに奪われ、全身の熱を上げながらキスを受け入れた…―
fin.
エピローグEpilogue:
輝く星空の元、彼と想いを通わせたあなたを待っていたのは、
彼と恋人として過ごす、初めての甘い時間で……
ジル 「涼しいのは今のうちですから、存分に味わっておいてください」
甘い吐息は、あなたの心を溶かしていき…―
ジル 「……すぐに、また熱くなりますから」
幸せできらめく彼との恋は、まだ始まったばかり…―
想要庭院的背景,所以這個劇情也衝了......