You're My Princess~運命の日にこの手を取って~(ジル)
2019/08/30~2019/09/11
宣言式が7日後に迫っているのに、まだ心が決まっていないあなた。
10人の王子様から想いを寄せられるけれど、運命の人はたったひとり……
あなたの心を射止めるために、彼らの情熱的なアプローチが始まる…―
………
ジル 「教育係ではなく、一人の男としての希望です」
ジル 「今日もよく頑張りましたね、私だけのプリンセス」
………
彼らの胸の中にあるのは、あなたへの燃えるような愛だけ…―
プロローグ:
これは、もうひとつの世界で紡がれる運命のラブストーリー。
あなたの出した答えが、彼の心を燃え上がらせる…―
囁き合うように瞬く星々が今にも降ってきそうな夜空を見上げ、
私は早鐘を打つ鼓動を抑えようと、ゆっくりと息を吸った。
(……まだドキドキしてる)
先ほど5人から受けたアプローチが頭の中を巡っていて、いつまでも落ち着かなかった。
吉琳 「誰を選べばいいか、わからないよ……」
以前から10人の方にアプローチされていたけれど、
まだ選ぶ相手を決められず、思わずそうつぶやいてしまったとき……
??? 「こんなとこにいたのかよ。探したぞ」
聞き慣れた声に振り返ると、
ダンスホールの警備をしているはずのアランが立っていた。
吉琳 「どうしてここに……?」
アラン 「守らなきゃいけないやつが、ホールを抜け出したりするからだろ」
吉琳 「ご、ごめんなさい」
慌てて謝ると、ふっと笑ったアランが、
不意に真剣な表情になり、私の瞳をまっすぐ見つめる。
アラン 「……お前さ」
アラン 「そんなに悩んでんなら、俺を選べばいいだろ」
先ほどのつぶやきを聞かれていたことにはっとしつつも、
アランの言葉に驚いて、思わず何度も目を瞬いてしまう。
吉琳 「アランを、次期国王候補に……?」
頬が熱を持つのを感じていると、少し離れた場所から私を呼ぶ声が聞こえた。
アラン 「……お前を探してるやつがいるみたいだな」
吉琳 「うん、ごめんね。それじゃあ、後で……」
声がした方へ向かうと、私を探していたのはジルだった。
ジル 「どなたと一緒だったのですか?」
吉琳 「え?」
ジル 「宣言式があと7日に迫っている今……舞踏会を抜け出してまで」
ジル 「貴女が会いたいと思った相手は、一体誰なのかと聞いているんです」
吉琳 「そんなつもりは……ちょっと外の空気を吸いたくなっただけなんです」
何と説明すればいいかわからず狼狽えている私をじっと見た後、
ジルは先ほどとは打って変わり、甘く囁くように言う。
ジル 「……まあ、いいでしょう」
ジル 「貴女を誰にも譲るつもりはありません。」
ジル 「これから覚悟していてくださいね」
距離を詰め、
私の顎を持ち上げて魅惑的に微笑んだジルに、鼓動が早まっていく。
そのとき何かに気づいた様子のジルが、
ホールの隅で控えていたユーリを呼びつけて……
ユーリ 「はい、完成」
ジルが気づいてくれた髪型の崩れを、ユーリは手際よく直してくれた。
吉琳 「ありがとう」
ユーリ 「どういたしまして! これくらい何でもないよ」
そう言って悪戯っぽくウインクするユーリに胸をくすぐられる。
ユーリ 「ねえ、メイクとヘアセットが得意な旦那様なんて、いいと思わない?」
吉琳 「え?」
不意にユーリの瞳が熱を帯び、見つめられた瞬間、鼓動が跳ねる。
ユーリ 「俺を選んで、吉琳様」
ユーリ 「俺は本気だよ」
恥ずかしくて何も言えないでいると、ユーリは何事もなかったかのように、
いつもの調子に戻り、思い出したように言う。
ユーリ 「そろそろホールに戻らないといけないよね。引き留めちゃってごめん」
無邪気に笑うユーリに、明るく送り出されるのだった。
ロベール 「あれ、吉琳ちゃん。舞踏会はどうしたの?」
ばったり会ったロベールさんに、髪型をユーリに直してもらっていたことを説明する。
吉琳 「ロベールさんは何を?」
ロベール 「君が誰かと踊っていると思うとなんだか落ち着かなくて、ちょっと散歩をね」
吉琳 「え……?」
ロベール 「何でもないよ。ホールまで一緒に歩いてもいいかな、少し話したいんだ」
ロベールさんと何気ない会話を交わしながらバルコニーに出ると、
夜風がそっと肌を撫で、ホールから穏やかな音楽が聞こえてくる。
ロベール 「……最近、君に元気がないのは国王候補選びに迷っているからだよね?」
悩んでいることを見抜かれて、はっとしつつも素直に頷いた。
ロベール 「俺は、君の力になりたい」
ロベール 「だから困ったときは、何でも相談して」
吉琳 「ありがとうございます」
ロベールさんの思いやりに胸を打たれ、自然と笑顔になる。
ロベール 「……いい顔だ。さあ、行っておいで」
再びホールへ足を踏み入れると、レイヴィスがこちらにやって来た。
吉琳 「レイヴィス、来てくれてたんだ。ありがとう」
レイヴィス 「プリンセスから招待されて、断るわけないだろ」
レイヴィス 「なのに、肝心のお前がホールにいないし」
吉琳 「あ……ごめんね」
思わず謝ると、ブルーの瞳が優しく細まり……
レイヴィス 「別に責めてるわけじゃない」
レイヴィス 「お前と踊ろうと思って、ずっと待ってたって意味」
見とれるほど優雅な動きで手を差し出され、胸が高鳴る。
レイヴィス 「お前には、ダンスの相手としてだけじゃなく」
レイヴィス 「俺を選んでほしい」
レイヴィスとのダンスを終えた私はホールの隅に行き、
先ほど話をした、10人からの言葉を思い返していた。
胸に湧いてくるこの感情が何なのかは、まだわからない。
(でも、どうしてだろう……彼の顔が浮かんでくる)
胸が甘いときめきにくすぐられ、
私は自然と心の中で、彼の名前を呼んでいた…―
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
舞踏会の翌日、暖かな日差しが窓から降り注ぐ穏やかな午後…―
ジルは吉琳と二人で、
いよいよ数日後に控えた宣言式の打ち合わせをしていた。
吉琳 「……はあ」
少し疲れているのか、
おそらく無意識にため息をついた吉琳が気になり、ジルは声をかける。
ジル 「少し休憩にいたしましょうか?」
吉琳 「っ、いえ……大丈夫です。ありがとうございます」
ぼんやりしていた吉琳が、はっとしたように顔を上げて言った。
(本当に、嘘がつけない方ですね)
ジル 「大丈夫、には見えませんよ?」
吉琳 「っ、そんなことは……」
気まずそうに語尾を小さくしていった吉琳が、やがて観念したように話す。
吉琳 「身体は本当に疲れてはいないんです。
吉琳 「ただ、少し気疲れしてしまっているというか……」
宣言式が近くなり、ここ連日は行事や公務が詰まっていて、
吉琳がずっと緊張し続けているのを、ジルも側で見て知っていた。
(あまり甘やかしてはいけないと思い黙っていましたが、)
(そろそろ止めなければいけませんか)
そんなことを考えていると、吉琳が微笑みを浮かべてジルを見た。
=====
(あまり甘やかしてはいけないと思い黙っていましたが、)
(そろそろ止めなければいけませんか)
そんなことを考えていると、吉琳が微笑みを浮かべてジルを見た。
吉琳 「でも、本当に平気です。明日はジルがお休みをくれましたし、」
吉琳 「次の公務もありますので、打ち合わせを続けてください」
ジル 「…………」
(またそんな風に、無理をして笑って……)
微かな胸の痛みと共にジルの脳裏に浮かんだのは、昨夜の舞踏会で吉琳が、
国王選定前にどうにか気に入られようと群がる青年貴族たち全員に、
努めて笑顔を見せ、足を痛めるまでダンスの相手をしている光景だった。
(あの時、他の男たちに笑顔を見せている姿を見て、はっきりと分かってしまった)
(吉琳の一番側にいるのは、今までもこれからも自分でありたい……それから、)
(教育係の自分が、法を変えてまでも国王に選ばれ、)
(吉琳と結ばれたいと願っていることを)
それまで自分の胸の内に閉じ込めていた気持ちを、
もう抑えることが出来なくなっていた。
考えごとをして黙り込んでいたジルを心配したのか、吉琳が声をかけてくる。
吉琳 「ジル、どうかしましたか?」
その声にジルは内心、動揺しつつも吉琳を安心させるように微笑みを浮かべ……
=====
吉琳 「ジル、どうかしましたか?」
その声にジルは内心、動揺しつつも吉琳を安心させるように微笑みを浮かべ……
ジル 「いいえ、貴女が気にすることではありませんよ」
ごまかしを口にしてから、隣に座っている吉琳の頬に触れる。
吉琳 「あ……」
ジル 「ほら、前を向いて書類に集中してください」
そう言って吉琳の頬を軽く押して前を向かせた。
吉琳 「っ……はい」
吉琳のみるみる赤く染まっていく横顔が可愛らしくて、ジルの頬がつい緩む。
ジル 「ところで、明日の休日はどう過ごすか決められたのですか?」
話題を自分のことから逸らそうと訊ねると、吉琳が少し言いにくそうに口を開く。
吉琳 「実は……」
吉琳は、昨夜の舞踏会で一緒に踊った青年貴族の一人から、お茶に招待されたのだという。
ジル 「……なるほど。
ジル 「お茶の席ではウィスタリアの国政についての大事な話もしたいから、」
ジル 「執事のユーリも連れず、貴女一人を招きたいと?」
青年貴族の下心に気づいたジルは、内心で苛立ちながら、
わざと吉琳の言葉を復唱して聞き返し……
=====
青年貴族の下心に気づいたジルは、内心で苛立ちながら、
わざと吉琳の言葉を復唱して聞き返し……
ジル 「そう、言われたのですね?」
吉琳 「はい……」
だんだん視線を下げていく吉琳を、じっと見つめた。
(国政について話したい、)
(というのは真面目な吉琳を誘うための口実でしょうね)
(吉琳は信じ切っているようですが)
騙そうとしている貴族と、
それから無防備すぎる吉琳に対しても、わずかに苛立ちが募る。
(まさか……吉琳は行く気ではないでしょうね)
そう思ってしまった自分の感情が、嫉妬であると自覚させられた。
けれどジルは感情を抑え、穏やかな笑みを浮かべて訊ねる。
ジル 「それで、行くのですか?」
吉琳 「いえ……行きません。」
吉琳 「国政についてのお話は聞きたいですが、一人でだなんて……」
吉琳 「プリンセスとして軽率なことは出来ません」
ジルは吉琳の言葉を聞いて密かに安堵した。
(ようやくプリンセスとしての自覚が芽生えてきましたか)
けれど……
吉琳 「なので、お城にお招きしようかと思うんです。」
吉琳 「それだったらいいですよね?」
どこまでも人が好さそうな吉琳の笑顔と発言に、ジルは思わず目を見開き……
=====
吉琳 「なので、お城にお招きしようかと思うんです。」
吉琳 「それだったらいいですよね?」
どこまでも人が好さそうな吉琳の笑顔と発言に、ジルは思わず目を見開き……
(確かに城に招けば人目もあって、)
(二人きりになることもなく問題はありませんが……)
そう考えながら、律儀に青年貴族を招こうとしている吉琳を見つめていたジルは、
半ば無意識に口を開いた。
ジル 「いけません」
吉琳 「え? ……どうしてですか?」
吉琳の反応を見て、
ジルは自分が本心をこぼしてしまったことに気づき、さっと顔を逸らす。
(嫉妬だなんて、情けない)
すると吉琳が思わず、といった様子でジルの袖を掴んだ。
ジル 「…………」
吉琳 「ジル……?」
その瞬間、ジルの中で抑えていたものが溢れる。
(分からないのなら、教えて差し上げなければなりませんか)
ジル 「貴女が私以外の男に笑顔を向け、睦まじそうに話すのを見るのが嫌だからです」
吉琳 「え……?」
吉琳は目を瞬かせている。
ジル 「教育係ではなく、一人の男としての希望です」
吉琳 「それは……どういう意味……ですか?」
ジルは戸惑っている吉琳の肩に手を回して、顔を近づけていき……
第2話:
吉琳 「それは……どういう意味……ですか?」
ジルは戸惑っている吉琳の肩に手を回して、顔を近づけていき……
ジル 「貴女のことが好きだという意味です」
真剣な眼差しを向けて告げた。
けれど吉琳は、とても信じられないといった表情で呟く。
吉琳 「……あの、冗談ですよね……?」
そんな吉琳を見て、ジルは気づいてしまう。
(冗談、としか思えないと?)
(貴女から見れば私はあくまで教育係。)
(男として見る対象ではない……ということですか)
ジルは吉琳との気持ちの差に落胆した心を隠して微笑み、吉琳から離れる。
ジル 「ええ、ほんの冗談ですよ。」
ジル 「明日、客人をお招きするのでしたらユーリに準備をさせましょう」
ジル 「ただし、私も同席させていただきますよ」
吉琳 「……はい、ぜひ。」
吉琳 「国政についてのお話だったら、ジルもいてくれたほうが私も心強いので」
嬉しそうにしている吉琳の笑顔が、今に限ってはジルの胸に切なさを与えた。
(頼りにはされている……)
(その私への信頼を、異性に対する愛情に変えるには……)
(どうしたらいいのでしょうね)
ジルの密かなため息が、吉琳には聞かれず消えていった。
=====
吉琳から、貴族の青年をお茶に招くと聞いた翌日…―
早速、城に招かれた青年は、同席するジルの姿を見て、明らかに落胆していた。
吉琳 「どうぞ、お掛けください」
ジル 「本日はよろしくお願いいたしますね」
貴族の青年 「は……はい」
青年の引きつった笑顔に、吉琳は気づいていないらしい。
(やはり国政の話をしたいというのは口実で、)
(吉琳に会うのが目的だったようですね)
ジルの目がさりげなく光る中、
青年は仕方がなさそうに終始、真面目な国政の話を続けたのだった。
***
青年が帰った後、ジルは吉琳を部屋に送り届けていた。
ジル 「充実した時間だったようですね」
(まあ、彼も私の前では政治以外の話をするわけにもいかなかったからでしょうけれど)
吉琳 「はい。今後のウィスタリアについて参考になるお話をたくさん聞けました」
ジル 「私も勉強になりましたので、やはり同席して良かったですよ」
そう言いながらジルは微笑み、吉琳の肩にそっと手を置き……
=====
ジル 「私も勉強になりましたので、やはり同席して良かったですよ」
そう言いながらジルは微笑み、吉琳の肩にそっと手を置き……
ジル 「勉強熱心なプリンセスは、教育係としても誇らしいです」
そのまま、とんと軽く肩を叩いて手を離す。
すると吉琳は少し照れくさそうに微笑んで言う。
吉琳 「そう言ってもらえて嬉しいです、ジル」
吉琳 「でも国政について話し合うのだったら、」
吉琳 「やっぱりジルと話す方が勉強になるな、と思いました」
吉琳 「何でも知っているし、私も何でも話せますし……」
吉琳 「ジルは私にとって特別ですから」
ジルの想いを知らない吉琳の言葉に、心を揺さぶられ……
ジル 「特別とは……どう特別なのですか?」
思わず言葉が口をついて出てしまう。
吉琳 「え?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかった様子の吉琳は、
黙ったまま、目を見開いている。
そんな吉琳にジルも口をつぐんだまま、ゆっくりと近づいて行く。
(貴女の口から答えを聞きたい)
吉琳 「あの……」
ジルが進むのに合わせて一歩ずつ後ずさりをしていた吉琳の足が、
とうとうベッドの端にぶつかって止まる。
吉琳 「ジル……どうしたんですか?」
ジル 「質問しているのは私ですよ。」
ジル 「私は貴女にとってどう特別なんです?」
(自分をプリンセスに選んだ教育係……)
(とでも答えるのでしょうね、貴女は)
ジルは自嘲しながら吉琳の唇に指で触れ……
=====
(自分をプリンセスに選んだ教育係……)
(とでも答えるのでしょうね、貴女は)
ジルは自嘲しながら吉琳の唇に指で触れ……
吉琳 「っ……ジル、また冗談ですか?」
吉琳 「からかうのは……やめてください」
ジル 「冗談ではないと言ったら、どうします?」
ふっと笑みを消して、吉琳をベッドに押し倒す。
吉琳 「あ……」
ジルは焦って起き上がろうとする吉琳に体重をかけ、組み敷いたまま告げる。
ジル 「教育係は、プリンセスをたった一人の女性として想ったり、」
ジル 「他の男に嫉妬したりは、絶対にしないと?」
吉琳 「っ……」
ジル 「貴女は私を買いかぶりすぎですよ、吉琳」
ジル 「私も好きな女性を前にすれば、
ジル 「ただの男になって、理性を失うようなこともあるんです」
ジル 「……こんな風に」
そう言いながらジルは、吉琳の首筋に口づけして、ワンピースのボタンに手をかける。
吉琳 「っ……ジル、どうしてこんなことを」
吉琳は顔を真っ赤にして、自分の胸の前で腕を交差させたけれど、
ジルはボタンを外す手を止めようとはしなかった。
ジル 「こうでもしないと貴女はわからないでしょう?」
ジル 「私が教育係である前に一人の男であるということを」
吉琳 「っ……」
驚愕の眼差しを向けてくる吉琳に、
ジルは口づけを思わせる距離まで顔を近づけ……
ジル 「それにもう、」
ジル 「このまま貴女が誰かのものになるのを黙って見ていたくないのです」
=====
ジル 「それにもう、」
ジル 「このまま貴女が誰かのものになるのを黙って見ていたくないのです」
そう呟いて口づけしようとすると……
吉琳 「っ……そんなことを言うなんて、ひどいです」
ショックを受けた様子で突然ぽろぽろと涙を流す吉琳を見て、
ジルは目を見開きながら手を止め、起き上がる。
ジル 「……吉琳?」
(一方的に想いをぶつけて、怖がらせてしまったのか……?)
ジル 「吉琳、申し訳……」
吉琳 「私が……どんな思いで……」
ジル 「え?」
謝罪を遮り、ジルを見る吉琳の瞳は、
いつものプリンセスとして教育係に向けるものではなく、
まるで恋をしているようなものだった。
(まさか)
ジルがじっと見つめていると、吉琳が逃げるように身体を起こし、走り出そうとする。
けれどジルが直ぐに、抱きすくめるようにして捕らえた。
ジル 「吉琳……もしかして、貴女は」
吉琳 「っ……私がどんな想いでジルのことを諦めようと……。」
吉琳 「こんなに、好きなのに」
ジル 「っ……」
吉琳 「どうしてジルを、」
吉琳 「一番ふさわしいジルを国王に指名してはいけないんですか……?」
ジル 「それは……教育係が国王になるには法を変えなければならないからです」
吉琳 「っ……でも、私はジル以外の人となんて……」
衝動的に言葉を重ね続ける吉琳の唇を、キスで塞いだ。
吉琳 「っ……」
ジル 「私たちは、同じ苦しみを抱えていたんですね」
(想っているのに、伝えられない……立場がそれを許さない苦しみを)
吉琳 「ジル、私は……」
涙ぐんでそう言いかけた吉琳の唇に、ジルは人差し指を添え……
第3話-プレミア(Premier)END:
吉琳 「ジル、私は……」
涙ぐんでそう言いかけた吉琳の唇に、ジルは人差し指を添え……
ジル 「その先は私に言わせてください」
囁くように告げて、少し戸惑っている吉琳と視線を交わらせる。
ジル 「愛しています……もうずっと前から」
吉琳 「っ……」
ジル 「貴女と共に生きるためなら何でも出来ると、本気で思うほどに」
心を偽ることも隠すこともなく伝えると、
吉琳は感極まったように目を潤ませてジルの顔を見上げた。
吉琳 「ジル……私も、ずっと前から……いえ、きっとあの日、」
吉琳 「階段で靴を拾って履かせてくれた日から惹かれ始めていたんです」
思いがけず告げられた言葉に、ジルの胸の奥がぎゅっと掴まれる。
(ああ……お互いにようやく、伝えられましたね)
ジルは吉琳の目尻に溜まった涙を親指で拭ってやってから、
その華奢な身体を包み込むように抱きしめ……
ジル 「……もう貴女を離しません」
吉琳 「……私も、離しませんから」
腕の中からそんな声が聞こえてきて、ジルは頬を緩めた。
(貴女の言葉のひとつひとつが愛しい)
***
それからジルと吉琳は、多くの問題と困難を乗り越えた末に無事、宣言式の日を迎え、
ジルは正式に次期国王となったのだった。
=====
朝から宣言式と城下でのパレード、それから国賓を招いての舞踏会を終え、
ようやく部屋に戻って来たジルと吉琳は、ソファに並んで座って、安堵の息をつく。
吉琳 「ジルを次期国王に指名出来る日が来るなんて夢のようです」
目を輝かせて言った吉琳に、ジルは笑顔を見せてから手を伸ばす。
ジル 「言ったでしょう? 私は貴女と共に生きるためなら何でも出来ると」
それから吉琳の髪を優しく撫で……
ジル 「貴女のためではなかったら、」
ジル 「国王陛下に自身の素直な想いを話して、お許しをもらうことなど出来なかったでしょうね」
……
ジルの吉琳に対する想いと、
ウィスタリアに命を捧げる覚悟を聞いた国王は、
これまでのジルの忠誠心と功績を鑑みて、
教育係であっても、その能力と官僚たちの賛同があれば、
次期国王に指名出来るよう法改正を行ってくれたのだった。
……
それを聞いた吉琳は、納得したように頷く。
吉琳 「法改正されたのは、ジルのこれまでの功績があったからこそ、だったんですね」
吉琳 「国王様もずっとジルが次期国王にふさわしいとお考えだったみたいですし」
(国王陛下は……)
(こんな私に幸せになれ、ウィスタリアを頼むと仰ってくださった)
ジルは次期国王となった責任を噛みしめながら、吉琳の肩をそっと抱き寄せ……
=====
(国王陛下は……)
(こんな私に幸せになれ、ウィスタリアを頼むと仰ってくださった)
ジルは次期国王となった責任を噛みしめながら、吉琳の肩をそっと抱き寄せ……
吉琳 「どうしたんですか?」
ジル 「ようやく、教育係から貴女の婚約者となって、」
ジル 「こうすることに遠慮がいらなくなった、と喜んでいるんですよ」
冗談めかして言ったジルは、
恥ずかしそうにしている吉琳の火照った頬や額に口づけを落としていく。
(熱くなった頬も、私を見つめるその潤んだ瞳も、)
(この小さな手も……何もかもが愛しくてたまらない)
あともう一度だけ、と思うのにジルがキスを止められずにいると、
吉琳が小さく身を捩った。
吉琳 「っ……くすぐったいです、ジル」
ジル 「くすぐったいだけですか?」
ジルがからかうように言うと、吉琳の瞳がさらに潤んだ。
吉琳 「ジルは……意地悪です」
ジル 「貴女が可愛いのがいけないのですよ」
(そういう顔をするからつい……からかいたくなってしまうことを、)
(貴女は気づいていないんでしょうね)
ジルは心の中でくすっと笑うと、吉琳の瞳を見つめながら顔を近づけ……
=====
ジルは心の中でくすっと笑うと、吉琳の瞳を見つめながら顔を近づけ……
ジル 「私の全てを、貴女とこの国に捧げます」
誓いを込めて囁き、唇を重ねた。
吉琳 「ん……」
(婚約者同士となった今、そうしてこぼれる吐息も私のものだと……)
(言っていいのですよね?)
心の片隅に生まれた独占欲を意識しながら何度も口づけをしていると、
やがて吉琳の腕が背中に回ってくる。
(初めて会ったあの日、直感した。貴女ならきっと、良いプリンセスになれると)
(……私の直感は正しかった。いえ、それ以上ですね。)
(……この世で一番、愛しい人になるなんて)
ジル 「今夜から貴女は、私だけの吉琳です」
吉琳 「……はい」
恥ずかしそうに微笑んだ吉琳に、ジルはさらに深いキスを与えたのだった。
***
宣言式の日からしばらく経った頃…―
その日もジルは、夜遅くまで大量の執務をこなしていた。
その側では、吉琳も自分の執務を片づけている。
(せっかく婚約者同士になったといえども、)
(互いに忙しい身であることは変わらないですからね)
苦笑しながら、隣で一生懸命、
執務に励んでいる吉琳を横目で見て、心を和ませていると、
ちょうど顔を上げた吉琳と目が合い……
=====
苦笑しながら、隣で一生懸命、
執務に励んでいる吉琳を横目で見て、心を和ませていると、
ちょうど顔を上げた吉琳と目が合い……
ジル 「どうかしましたか?」
ジルは穏やかな声で訊ね、机の上に置いていた吉琳の手を包むように握った。
すると吉琳も苦笑して言う。
吉琳 「立場は変わっても……以前とあまり変わらないですね」
ジル 「今、私も同じことを考えていました」
吉琳 「え、ジルもですか?」
そうして笑い合うだけで幸せな気持ちが溢れる。
(この笑顔を見られるのなら、夜更かしも苦になりませんね)
それからしばらく執務を片づけているうちに、
ふと気づくと吉琳が机に伏せって眠っていた。
(また無理をして……力尽きたようですね)
ジルは椅子から立つと、吉琳を抱き上げ、次期国王となったジルの新しい部屋のベッドに運ぶ。
吉琳を寝かせたベッドでジルも横になり、前髪をさらりとよけて額にキスを落とす。
ジル 「今日もよく頑張りましたね、私だけのプリンセス」
そう囁いた時、吉琳がふと目を開けた。
吉琳 「っ……あれ? ここは……私、もしかして眠ってしまった……?」
ジル 「ええ。それはもうぐっすりと」
吉琳 「すみません、目が覚めたので執務の続きをしますね」
慌てて起きようとする吉琳の肩をそっと押し返す。
吉琳 「あ……」
ジル 「いいえ、今夜はもう終わりにしましょう」
ジルは添い寝したまま吉琳の頭を撫でる。
吉琳 「でも……」
ジルは、申し訳なさそうにしている吉琳のこめかみに口づけを落としながら、腰を抱き寄せ……
ジル 「どうしてもまだ眠りたくないというのでしたら、付き合って差し上げますよ?」
ジル 「朝まで」
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
吉琳 「ジル、私は……」
涙ぐんでそう言いかけた私の唇に、ジルは人差し指を添え……
囁くように告げたジルが、戸惑っている私と視線を交わらせる。
ジル 「その先は私に言わせてください」
ジル 「愛しています……もうずっと前から」
吉琳 「っ……」
ジル 「貴女と共に生きるためなら何でも出来ると、本気で思うほどに」
感極まって潤んだ瞳で見上げたジルの瞳は、どこまでも真剣だった。
(『教育係は王になれない』……)
(その決まりは絶対で、ずっとあきらめなければいけないと思っていた)
(けれど、もうずっと前からジルと心が通じていたんだ……)
明かされた真実に驚くと共に、幸せな気持ちが込み上げる。
(やっと、言える)
吉琳 「ジル……私も、ずっと前から……いえ、きっとあの日、」
吉琳 「階段で靴を拾って履かせてくれた日から惹かれ始めていたんです」
(ジルはいつだって一番側にいて、私を導き、守ってくれた)
(プリンセスとして生きる私の道しるべになってくれた)
(これからも、共に歩むのはジル以外考えられない)
ジルは私の目尻に溜まった涙を親指で拭ってくれると、
ふわりと包み込むように抱きしめてくれて……
ジル 「……もう貴女を離しません」
=====
ジルは私の目尻に溜まった涙を親指で拭ってくれると、
ふわりと包み込むように抱きしめてくれて……
ジル 「……もう貴女を離しません」
(私も……もう迷わない。私はジルと共にこの国を導いていく)
吉琳 「……私も、離しませんから」
温かくて安らぎをくれる腕の中で呟くと、
ジルのふっと笑う声が聞こえてきたのだった。
***
その後、ウィスタリア国王は二人の真摯な想いと、
ジルのこれまでの忠誠心と国に対する功績を鑑みて、
教育係も、その能力と官僚たちの賛同があれば、
次期国王に指名出来るよう法改正を行った。
それにより、私たちは無事に宣言式の日を迎え……
ジル 「…………」
ゆっくりと私の前まで進んできたジルが、正面で片膝をつく。
その表情には、もうすでに王者の風格が漂っていた。
吉琳 「ジル=クリストフをウィスタリアの次期国王とすることを、ここに宣言します」
謁見の間に声を響かせた私をジルが真っ直ぐに見上げ……
=====
謁見の間に声を響かせた私をジルが真っ直ぐに見上げ……
ジル 「謹んで拝命いたします」
ジルの威厳と自信に満ちた声が響いて、その場が静まり返る。
そして立ち上がったジルと私は、どちらからともなく手を取って見つめ合った。
(ここまでたくさん迷ったし、大変なこともあった……)
(きっとこれからはもっと困難なこともある)
(でも、ジルと一緒だったら何も怖くはない)
身体中に自信が満ちていくのを感じながら見つめていると、
肩の力を抜かせようとしているのか、ジルがからかうような笑みを浮かべて耳打ちしてくる。
ジル 「少々緊張してぎこちない部分はありましたが、立派でしたよ。……私だけのプリンセス」
ジル 「それに、誰にも見せたくないくらいに綺麗です」
吉琳 「っ……ジル」
宣言式という厳粛の場でも余裕があるジルとは対照的に、私は顔を熱くした。
(次期国王になっても、ジルは相変わらず……少し意地悪だな)
それから私たちはすぐに、国民に挨拶するため、バルコニーへと出ていくと、
ジルを次期国王にするために、国王様が法を変えたことには賛否両論あったものの、
今、目の前に集まった国民からは大歓声が上がっていて……
ジル 「…………」
=====
今、目の前に集まった国民からは大歓声が上がっていて……
ジル 「…………」
ジルが珍しく驚いた表情でその光景を見渡す。
吉琳 「良かった……みんな私たちのことを祝福してくれているんですね」
吉琳 「ジルの……これまで側近としてこの国に尽くしてきた功績を、みんな知っているから」
ジル 「…………」
ジルは黙っているけれど、その横顔には喜びが満ち溢れていた。
(誰よりもこの国のために働いてきたジルだから)
(そんなジルへの尊敬が、いつの間にか愛情に変わって……)
吉琳 「ジルは、私だけじゃなく国民からも選ばれたんですね」
尊敬の眼差しを向けていると、ジルが微笑んで首を横に振る。
ジル 「いいえ、これは貴女の人柄とプリンセスとしての働きぶりが功をなしたのですよ」
そんな私たちのやりとりを側で聞いていた国王様が、笑みをこぼした。
国王 「お互いに褒め合って、もう睦まじい夫婦のようだな」
(っ……夫婦)
その一言に鼓動の音が大きくなる。
国王 「吉琳……それにジル。二人がこの国を導いてくれるのなら、安心だ」
国王 「……ジル、吉琳の手を離してはいけないよ」
国王様の言葉にジルは深く頷くと、
何かを企むような笑みを浮かべて私の手を取って引き寄せ……
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国王 「……ジル、吉琳の手を離してはいけないよ」
国王様の言葉にジルは深く頷くと、
何かを企むような笑みを浮かべて私の手を取って引き寄せ……
ジル 「はい、陛下。この通り……」
そう言いながらジルは、大勢の国民が集まる中、隠すこともなくキスを落とした。
吉琳 「っ……みんなが見ているのに」
あまりの恥ずかしさに顔だけではなく、全身の熱を上げている私の隣でジルは、
どこか晴れやかな笑顔を国王様に向ける。
ジル 「もう離す気はありませんし、誰にも奪わせるつもりもありません」
再びジルが私の唇を奪い、国民から大きな歓声が上がった。
(いつも冷静なジルが、こんなことをするなんて……)
驚きと、ちょっと嬉しい気持ちで顔を見上げると、ジルが苦笑して……
ジル 「本当に嬉しくて幸せなことがあると、この私だって多少は浮かれるのですよ」
ジルがいつになく素直な気持ちを話してくれたことが嬉しくて、
まだジルの温もりが残る唇をくすぐったく思いながら微笑む。
(……ここから、私たち二人の新しい人生が始まるんだ)
私たちはしっかりと手を繋いで、バルコニーの下に集まった国民の方に顔を向けると、
大きな歓声に応え、手を振ったのだった…―
fin.
エピローグEpilogue:
10人の王子様のなかから、あなたが選んだ運命の彼。
想いを通じ合わせた二人を待つのは、幸せに満ちた甘いひとときで…―
ジル 「分からない、というのでしたら直接……」
ジル 「この身体に教えて差し上げますよ」
(これからは、二人でいられる時間もたっぷりありますからね)
赤い花を散らせるように、いたるところに口づけを落とされて…―
ジル 「貴女の声を、もっと聞かせてください、吉琳……」
想いを重ね合わせる夜に、ふたりの愛は深まっていく…―