My Sweet Valentine~キミを想う恋の行方~(ジル)
2020/01/29~2020/02/10
バレンタインが迫る中、
あなたへの想いを秘めた彼の前に、もう一人の王子様が現れる
彼は恋のライバル?それともキューピッド…―?
………
ジル 「……成長されたと、感慨深く思っていたのですよ」
ジル 「ええ。」
ジル 「ハワード卿でしたら、安心してプリンセスをお任せできますので」
………
あなたのチョコレートをきっかけにして、
ふたりの王子様が動き出す…―
今回のシナリオイベントは全話彼目線シナリオだよ!
プロローグ:
チョコレートと共に大切な人への想いを伝える日、バレンタイン。
その日を前にして、私も彼へ送るチョコレートの準備を進めていた。
(次の公務まで時間があるから……今日はこの前より綺麗に作れるといいな)
お菓子のレシピ本を抱え、キッチンへ向かっていると、
ロベールさんが廊下の向こうからやってきた。
ロベール 「やあ、吉琳ちゃん。……これからお菓子作りかい?」
吉琳 「はい、そうなんです」
ロベールさんは私の抱える本を見てそう言った後、何かに気づいたように目を細める。
ロベール 「……ああ、そういえばもうすぐバレンタインだったね」
ロベール 「君も、当日は想い人にチョコを渡すのかな」
優しく見透かすような言葉に、少し気恥ずかしくなってしまう。
吉琳 「……はい。受け取ってくれるといいんですが……チョコも、私の想いも」
バレンタイン……私はその日、想い人へ気持ちを伝えるつもりだ。
彼はきっと、私の恋心をまだ知らない。
吉琳 「最近は毎日そのことばかり考えちゃって、落ち着かないんです」
ロベール 「可愛いらしいね」
ロベールさんは穏やかな瞳で私を見つめると、どことなく含みのある微笑を浮かべる。
ロベール 「でも、バレンタインを前に落ち着いていられないのは、彼の方かもしれないよ」
吉琳 「え?」
ロベール 「男というものは、なぜかバレンタインまでにそわそわと色んなことを考えてしまうんだ」
思いもよらぬ言葉に、ロベールさんの笑みを滲ませた瞳をつい凝視してしまう。
吉琳 「そうなんですか?」
ロベール 「おそらくだけど、君の想い人も落ち着かない気持ちで待っているんじゃないかな」
ロベール 「君にも早く彼の気持ちを知って欲しいよ」
ロベールさんは私の頭をポンと撫で、去っていった。
(彼の気持ち……)
頭の中をある思いが巡り、レシピを持つ手に力が入る。
(気になりつつも、ずっと考えないようにしていたけれど……)
(彼は、私のことをどう思っているんだろう?)
期待と不安が入り混じる中、
バレンタイン当日は着々と近づいていくのだった…―
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
バレンタインデーが翌日に迫った昼下がり…―
ジルは、明日ウィスタリアで催される舞踏会に向け、
吉琳に、立食時のテーブルマナーレッスンをしていた。
ジル 「最後に、これまでのレッスンの復習をしましょう」
吉琳 「はい、よろしくお願いします」
吉琳がひたむきにレッスンを頑張る姿を頼もしく感じる反面、
ジルは少し気がかりにも思っていた。
(忙しい日々の公務をこなしながらのレッスンですし、)
(疲れていても、おかしくはないはずなのですが……)
吉琳 「……すみません、今の所をもう一度お願いできませんか?」
ジル 「ええ、構いませんよ」
ジルの説明に、吉琳は真剣な表情で耳を傾けている。
吉琳の横顔を眺めていると、ジルの鼓動が微かに揺れた。
(教育係として吉琳を側で支えるうちに)
(ひとりの女性として、惹かれるようになってしまいましたね……)
これまでのことを思い浮かべ、ジルがつい吉琳を見つめてしまうと、
吉琳が不思議そうな顔をする。
吉琳 「……どうかしましたか?」
ジルは、心の中を覗かれまいと平静を装い、吉琳に笑みをみせる。
ジル 「……成長されたと、感慨深く思っていたのですよ」
ジル 「ウィスタリアのプリンセスとして相応しい振る舞いが、しっかりと身に着きましたね」
吉琳 「もしそうだとしたら、ジルが丁寧に教えてくれたお陰だと思うので……」
嬉しそうにお礼を言った吉琳に、
ジルも、穏やかな微笑みを返した。
(私は、きちんと教育係の顔をしているでしょうか……)
=====
(私は、きちんと教育係の顔をしているでしょうか……)
ジルは、吉琳が次期国王を選ぶために進言する立場にあるため、
吉琳への想いを伝えられずにいた。
(今の私があるのは、前国王の側近である、レナルド様に拾われたお陰です)
(教育係としての務めを、しっかりと果たさなくては……)
ジルは吉琳への特別な感情を閉じ込め、にこやかに告げた。
ジル 「私のレッスンはここまでです」
ジル 「ハワード卿のダンスレッスンの前に、少し休憩しましょう」
吉琳 「はい」
ジルは、食堂に自分たち以外誰もいない事を確認してから、
吉琳を椅子に座らせ、アフタヌーンティーの準備を始める。
吉琳 「どうして、ジルがお茶の支度を……?」
ジル 「ユーリが明日の舞踏会の準備のために、買い出しに行っていますので」
さらりと答え、ジルがチョコブラウニーとティーセットをテーブルに並べると、
吉琳が瞳を輝かせる。
吉琳 「すごく美味しそうですね」
ジル 「そう言っていただけて何よりです」
嬉しそうに顔を綻ばせる吉琳を見て、ジルは満足そうに目を細めた。
ジル 「確か、ブラウニーがお好きでしたよね」
吉琳 「えっ、気づいてたんですか?」
ジル 「ずっと側で貴女を見てきたのですから、当然、わかりますよ」
目を丸くしていた吉琳が、ジルの言葉で恥ずかしそうにまつ毛を伏せる。
吉琳 「ジルは私の好きなものまで、お見通しなんですね」
(ころころと表情が変わる貴女は、可愛らしくて本当に見飽きない)
ジルはくすりと小さく微笑むと、カップに紅茶を注いだ。
ジル 「紅茶には、リラックス効果のあるラベンダーをブレンドしました」
ジル 「今は休憩中なので、テーブルマナーも気にせず、自由に楽しんで下さい」
吉琳 「ありがとうございます。それでは、遠慮なくいただきますね」
笑顔でアフタヌーンティーを楽しむ吉琳を眺めているだけで、
ジルは、胸が温かくなるのを感じた。
(全ては貴女のために用意したもの。嬉しそうな顔が見られて、なによりです)
ジルは、幸せそうにブラウニーを口に運ぶ吉琳をじっと見つめてしまう。
(いけませんね……こうして、共に過ごす時間を重ねる度に)
(吉琳への愛しさは、膨らむばかりです)
しばらくすると、ノック音が響き…―
=====
しばらくすると、ノック音が響き……
ルイ 「……休憩中だった?」
使用人に案内されて、ルイが食堂にやって来た。
吉琳 「ルイ! ごめんなさい、もうレッスンの時間だったんだね」
ルイ 「俺が、早く着いてしまっただけだから……気にしないで」
ダンスレッスンのために訪れたルイは、そう言うと吉琳の隣に腰を下ろす。
(ハワード卿は、次期国王候補に最も相応しい方です)
(この場は、お任せした方がいいでしょうね……)
名残惜しい気持ちのまま、ジルは挨拶を交わして去りかけると、背中に声が追ってきた。
ルイ 「……ジルは、今日のレッスン見ないの?」
ジル 「ええ。ハワード卿でしたら、安心してプリンセスをお任せできますので」
ジル 「私は、ここで失礼いたします」
吉琳 「……」
吉琳が、何か言いたげな顔をしているように見えたものの、
ジルは気づかない素振りで、その場を後にした。
***
静かに扉を閉めたジルは、自嘲めいた呟きを落とす。
ジル 「……私も、まだまだですね」
(ハワード卿が次期国王候補になるのが、吉琳のためになる……)
そう頭では理解していても、気持ちの折り合いがつかなかった。
複雑な気持ちを抱えたまま、廊下を進む中、メイドがやって来る。
メイド 「ジル様、失礼いたします。吉琳様の事なのですが……」
=====
メイド 「ジル様、失礼いたします。吉琳様の事なのですが……」
メイドは、今朝の公務の前に吉琳がキッチンに足を運び、
チョコレート菓子を作っていたと報告する。
ジル 「……私も承知の上ですから、問題ありませんよ」
そう告げると、メイドは安心したように去っていった。
(やはり、先日のあれは……)
*****
ジル 「失礼いたします」
ジル 「公務の予定に変更がありましたので、ご確認を……」
吉琳 「あっ……ち、ちょっと待ってください!」
ジルを招き入れたものの、何かに気付いた吉琳は少し慌てた様子で、
机の上にあったシックな柄の包みとリボンをチェストの中に片付けた。
*****
(やはり、あれはバレンタイン用にお菓子を包むための物だったのですね)
(……吉琳は、誰に渡すつもりでしょう)
次期国王候補たちの中で、一番に浮かんだのはルイの顔だった。
(教育係である私が、プリンセスの吉琳と結ばれる事は叶わないけれど……)
ジル 「チョコレートを望むことぐらいは、許されるでしょうか……?」
***
数時間後…―
ジルは、ルイに迎えの馬車が来たという報告を受け、ダンスホールへ向かう。
(そろそろレッスンも終わる頃でしょう)
そっと扉に手を掛け、中の様子を伺うと…―
ルイ 「吉琳の顔、赤くなってる」
吉琳 「ルイが、あんなことを言うから……」
ジル 「…………」
=====
そっと扉に手を掛け、中の様子を伺うと……
ルイ 「吉琳の顔、赤くなってる」
吉琳 「ルイが、あんなことを言うから……」
俯きがちにステップを踏む吉琳の横顔には、微かな甘さが滲んでいる。
ジル 「…………」
(ハワード卿とのダンスレッスンには、慣れているはずなのに)
(なぜ今日に限って、そのような表情を……)
ジルは胸がざわめくのを感じながら、扉を開けてダンスホールに足を踏み入れた。
ジル 「レッスン中、失礼いたします。ハワード卿の馬車が到着しました」
ルイ 「……そう。ありがとう」
ジル 「プリンセスは、お見送りの前に身だしなみを整えていただけますか?」
ジル 「汗をかいたままの格好では、失礼にあたりますので」
吉琳 「はい、すぐに着替えて来ます」
先ほど目にした吉琳の表情が頭から離れなかったものの、
ジルは平静を装い、ルイに話を向けた。
ジル 「……プリンセスのステップは、見違えるほど上達しました」
ジル 「ハワード卿のレッスンのおかげでしょう」
ルイ 「それは俺の力じゃなく、吉琳が頑張り屋だから……」
ルイの言葉に頷きつつも、ジルの心は乱されていた。
しかし、それと悟られないよう、会話を続ける。
ジル 「プリンセスの信頼も厚いと、お見受けしましたし、」
ジル 「ハワード卿が次期国王となれば、陛下も安心なさいます」
ルイ 「……それ、本気で言ってる?」
ルイ 「ジルは……次期国王の座が欲しいと思ったことは無いの?」
ジル 「……」
ジルが答えをはぐらかすように、にこりと笑みを返すと、ルイは小さくため息をこぼす。
ルイ 「……分かった」
ルイ 「もし吉琳が、次期国王に俺を選んだとしても」
ルイ 「俺には、断る理由がないから……」
(ハワード卿も、吉琳に好意を……?)
ちくりと胸が痛むのを感じたジルは、
それでも上辺だけの言葉を並べることしか出来ない自分に、虚しさを覚えた。
***
バレンタイン当日…―
舞踏会が催されるウィスタリア城には、親交のある国の貴族たちが続々と訪れていた。
吉琳 「ようこそお越しくださいました」
貴族1 「こちらこそ、お招きありがとうございます」
(吉琳が、これまで行ってきたレッスンの成果を披露する意味でも)
(いつも以上に、気持ちを引き締めなくてはなりませんね)
第2話:
バレンタイン当日…―
舞踏会で来訪した貴族たちと挨拶を交わす吉琳を、ジルが側で見守る。
(吉琳が、これまで行ってきたレッスンの成果を披露する意味でも)
(いつも以上に、気持ちを引き締めなくてはなりませんね)
ジルは、吉琳の周囲に気を配る。
その横で、エスコート役のルイも貴族たちと歓談をしながら、
吉琳が来賓を出迎える様子を見守っていた。
吉琳のために、フォローに徹しているジルは、
ルイが、吉琳の助けになるよう動いているのが目につく。
(ハワード卿には負けていられませんね)
ジルは、本来であればルイに任せておくべきところだとわかっていつつも、
無意識のうちに対抗心を燃やしていた。
程なくして、ダンスホールに音楽が響き渡り、
招待された貴族たちは手を取り合い、ダンスを楽しみ始める。
侯爵 「プリンセス、一曲お相手願えませんか?」
吉琳 「あ……」
(隣国の侯爵……彼は、女性関係で良い噂を聞きませんね)
ジルが微かに眉を寄せた時、侯爵と吉琳の間に、人影が映り込む。
ルイ 「プリンセスには、決まった相手がいるから」
吉琳 「ルイ……」
ルイ 「吉琳、俺と踊ろう?」
ルイは、どこか意味ありげにジルを一瞥すると、
吉琳の手を取り、ホールの中央へ足を踏み出した。
(ハワード卿が間に入ってくれたお陰で、助かりましたが……)
吉琳とルイが優雅に踊る姿に、来賓たちは口々に噂話を始める。
貴族2 「ハワード卿が、次期国王という事でしょうか……?」
貴族3 「プリンセスとの呼吸もぴったりですし、おそらくそうでしょうね」
貴族たちの会話に心がざわめき、
つい、吉琳と踊るルイに目を向けると…―
=====
貴族たちの会話に心がざわめき、
つい、吉琳と踊るルイに目を向けると……
ルイ 「……」
ジルに気付いたルイと、静かに視線が交差する。
同時に、ジルの胸には複雑な感情が押し寄せた。
(こうなる事は、初めから承知の上だったはず……)
(今は、舞踏会に集中しなくては)
気持ちを切り替えるようにふうっと息をつくと、ジルは取り繕うように笑みを作る。
やがて、流れていた音楽が止むと、吉琳とルイがこちらへ戻って来る。
ジル 「お疲れ様でした」
ルイ 「……うん」
ジルは二人にシャンパングラスを手渡しながら、にこやかに声をかけた。
ジル 「プリンセス。ステップの踏み間違いもなく、ご立派でしたよ」
吉琳 「ありがとうございます。ジルに褒められると……とても嬉しいです」
恥ずかしそうに顔を綻ばせる吉琳を前に、ジルの鼓動が甘い音を立てる。
(厄介な感情ですね)
(気持ちを切り替えたはずなのに……)
ジルは揺れる心を落ち着けるための言葉を探し、ホールに視線を巡らせた。
ジル 「……来賓の皆様は、まだお二人のダンスを楽しみにされているようですよ」
ジル 「ご期待に、応えられてはいかがでしょう?」
何かを考えるようにルイも来賓に目を向けると、静かに呟く。
ルイ 「やっぱり、ジルにはこれだけじゃ駄目かな。それなら……」
ジル 「……え?」
ルイ 「ううん、何でもない……ただ、少し疲れただけ」
(舞踏会は始まったばかり)
(ハワード卿は、疲れているようには見えませんが……)
ルイ 「本当はこんなことお願いしたくないけど……」
ルイ 「休憩させてほしいから、ジルが吉琳のエスコートを代わってくれる?」
ジル 「ハワード卿……一体、何をおっしゃっているのですか?」
ルイの意図を図りかねたまま、
吉琳に視線を向けると…―
=====
ルイ 「休憩させてほしいから、ジルが吉琳のエスコートを代わってくれる?」
ジル 「ハワード卿……一体、何をおっしゃっているのですか?」
ルイの意図をはかりかねたまま、
吉琳に視線を向けると……
吉琳 「ルイが休憩するなら……私もそうしてもらえると安心です」
吉琳は期待するような眼差しで、ジルを見上げた。
ジル 「ですが、教育係がプリンセスのエスコートをするわけにはいきません」
ルイ 「吉琳を一人にしたら、さっきの侯爵が戻って来るかもしれない」
ルイ 「あの人、吉琳に好意があるみたいだから、近づけないように見張ってて」
ルイは、ジルの話を聞いていないかのようにそれだけ言うと、
ホールから出て行ってしまった。
(ハワード卿が強引な振る舞いをなされるとは……珍しい)
少し怪訝に感じつつも、吉琳の隣にいられることは嬉しかった。
ジル 「こうなっては、仕方ありませんね」
ジル 「エスコートとまではいきませんが、しっかりと見守らせていただきますよ」
吉琳 「はい、よろしくお願いします」
ジルがエスコート役を代わった事で、周囲はざわめいたものの、
吉琳は胸を張り、貴族たちの輪に入っていった。
すると、二人の様子に批判的な目を向けた貴族が、
プリンセスの技量を試すように質問を投げかける。
貴族2 「先日の議会で挙げられた件ですが、プリンセスのご意見をいただけますか?」
吉琳 「それは……」
(吉琳が視察に出ていた時の話ですね)
ジルが、耳元で補足の説明をすると、
吉琳は、落ち着いた様子で自分の考えを伝えた。
ジル 「……他にも分からない事があれば、お訊ね下さい」
吉琳 「もう大丈夫です。ありがとうございました」
ジルの隣で安心してしっかりと来賓の対応をする吉琳の明るい表情に、
周囲の眼差しも、好意的なものに変わっていく。
貴族2 「彼のエスコートも、ハワード卿に引けを取らない」
貴族3 「お似合いの二人ですね」
(そのように、言っていただけるとは……)
驚きと喜びの入り混じる気持ちで、吉琳を見ると…―
=====
驚きと喜びの入り混じる気持ちで、吉琳を見ると……
吉琳 「来賓の方々に認めていただけたようで、とても嬉しいです」
ジル 「ええ、私もですよ」
微かに頬を染めて目元を緩める吉琳は、
照れているようには見えるものの、言葉通り嬉しそうだった。
(ハワード卿のエスコートでも、同様の声は聞こえていたはず)
(しかし、吉琳の反応が、まるで違うように感じるのは)
(気のせいでしょうか……)
ジルは、その真偽を知りたいと思うと同時に、
吉琳への想いが、抑えきれないところまできていることを感じた。
(やはり……吉琳を私だけのものにしたい)
(……ハワード卿に、渡したくないですね)
ジル 「……少し休憩をしませんか?」
吉琳 「はい」
今にも口をついて出そうな想いを制しながら、壁際に移動した時、
ルイが貴族たちの輪を抜け、こちらへ近づいて来る。
ルイ 「ジルと吉琳、お似合いだって噂になってるけど……知ってた?」
ジル 「それは光栄ですね」
ルイの話に相づちを打ちながら、吉琳の様子を見ると、
嬉しそうにはにかんでいる。
(貴女にそんな表情をされては、都合のいい事を考えてしまいそうですよ)
吉琳 「すみません……少しだけ、夜風に当たってもいいでしょうか?」
ジル 「ええ、どうぞ」
吉琳がすぐ側のバルコニーへ出る姿を目で追っていると、
ルイがぽつりと呟いた。
ルイ 「……ジルは、俺がプリンセスに相応しいって、いつも言ってるけど」
ルイ 「身分とか立場とか、そんなものより……大事なことがあると思う」
ルイは真っ直ぐにジルを見つめ、しっかりと言葉を紡いだ。
ジル 「……それは、何だとお考えですか?」
ルイ 「一番大切なのは……お互いの気持ち」
ルイ 「もし吉琳から、次期国王に指名されたら」
ルイ 「ジルは……断れないでしょ?」
ジル 「……」
=====
ルイ 「もし吉琳から、次期国王に指名されたら」
ルイ 「ジルは……断れないでしょ?」
ジル「……」
(もし私の想いが、一方通行でないとしたら……)
ルイの言葉に背中を押されるように、
ジルの心から、少しずつ迷いが消えていく。
ジル 「……そうですね。断るなど、無理でしょう」
(吉琳が、私をどう想っているのか知りたい)
(そして、出来ることなら……)
ジルは吉琳の気持ちを確かめるために、バルコニーへ向かった。
***
誰もいないバルコニーへ出ると、
吉琳は一人、ひんやりとした夜風に吹かれながら、星を眺めていた。
ジル 「寒くありませんか?」
優しく訊ねながら、吉琳の肩にそっと上着をかける。
すると、吉琳は、ジルの方へ振り返って微笑んだ。
吉琳 「ありがとうございます。少し肌寒かったので……」
ジル 「……風邪を引くといけませんね」
ジル 「私がもっと温めて差し上げましょうか」
ジルは口元に笑みを浮かべると、
後ろから吉琳の身体を包み込むように、ふわりと抱きしめる。
吉琳 「あ……」
吉琳は恥ずかしそうにしているものの、拒むような素振りは見せない。
ジル 「……逃げるなら、今のうちですよ」
ジルは鼓動が騒ぐのを聞きながら、笑みを消して真剣な声音で囁いた。
吉琳 「逃げたりしません。……嫌なわけじゃないので」
はっきりとそう告げられ、ジルは驚きで目を見開く。
(全く、貴女という人は……)
小さく微笑みこぼすと、吉琳を抱きしめる腕の力を少しだけ強めた。
(吉琳の温もりを感じていると……)
(私の気持ちが一方的なものではないと、伝わってくるようです)
ジル 「……私たちは、ずっと同じ想いを抱いていたのかもしれませんね」
吉琳 「それって……」
吉琳は少し驚いたように、ジルを仰ぎ見る。
ジルは、そんな吉琳の身体を自分の方へ向けると、真っ直ぐに見つめた。
ジル 「好きですよ、吉琳」
ジル 「貴女を前にすると、ただの男になってしまうほどに」
第3話-プレミア(Premier)END:
ジル 「好きですよ、吉琳」
ジル 「貴女を前にすると、ただの男になってしまうほどに」
(教育係とプリンセスの恋が、許されないものだと分かっていても)
(吉琳に惹かれていく気持ちはもう抑えられない……)
ジルが胸に秘めていた想いを口にすると、
吉琳は、幸せそうに微笑んだ。
吉琳 「ジルから告白してもらえるなんて、夢のようです」
吉琳 「私も、ずっとジルの事が好きだったので……」
吉琳は少しだけ勇気を振り絞るように、深呼吸をしてから口を開く。
吉琳 「今日はバレンタインデーなので……贈り物を用意しているんです」
吉琳 「舞踏会が終わったら、ジルの部屋まで届けに行ってもいいですか……?」
(こんなに嬉しい申し出を断るはずがないでしょう……)
ジル 「ええ、楽しみにしています」
ジルは、吉琳がチョコレート菓子を作っていたという報告を思い出し、にこやかに頷いた。
***
舞踏会も無事に終わり、最後の来賓の見送りをした後…―
ジルは吉琳と一緒に、ルイを馬車まで送っていた。
ルイ 「そういえば……」
=====
ルイ 「そういえば……」
ルイ 「バルコニーから戻ってきた吉琳……凄く嬉しそうだった」
吉琳 「えっ……そ、そう?」
バルコニーでの会話を思い出したのか、吉琳の頬が赤く染まった。
ジル 「それでは、何かあったと言っているようなものですよ」
吉琳 「すみません……」
吉琳の分かりやすい反応に、ルイが含みのある眼差しを向ける。
ルイ 「ジルと吉琳が、どんな話をしたのかは分からないけど」
ルイ 「きっと俺のしたことは、無駄じゃなかったんだね」
ルイは、ジルと吉琳がお互いを想い合う気持ちをなんとなく察して、
結ばれるためのきっかけを作るため、ジルを煽ってみたり疲れたふりをしたと続けた。
吉琳 「そうだったんだね……ありがとう」
ジル 「私からも、お礼を言わせていただきます」
ルイは目を細めて微笑むと、ジルと吉琳に向かって頷いた。
穏やかな空気が流れる中、ふいにジルが眉間に皺を寄せ、口を開く。
ジル 「ハワード卿、重ねてお手数をお掛けして申し訳ないのですが……」
ジル 「私たちが恋人同士になった事は、ハワード卿の胸だけに留めておいてくださいませんか?」
声を潜めてそう頼むと、ルイは真剣な表情を浮かべる。
ルイ 「もちろん、誰にも喋ったりしない」
ルイ 「でも……吉琳を悲しませるような事をしたら、知らないけど」
ジルはルイの眼差しを正面から受け……
ジル 「少し、回り道をしてしまいましたが……」
=====
ジル 「少し、回り道をしてしまいましたが……」
ジル 「ハワード卿が心配されているような振る舞いは、今後一切、いたしません」
ジル 「これからは、私の手で吉琳を幸せにします」
吉琳 「ジル……」
揺るぎない思いを伝えると、吉琳が微かに瞳を潤ませた。
ルイ 「……良かったね、吉琳」
吉琳は胸がいっぱいなのか、ただただ頷く。
(私たちの関係を公に出来ない分、精一杯の愛情を伝えていきます)
ルイは満足したように微笑み、迎えの馬車に乗り込んだ。
***
自室に戻ったジルが、舞踏会の報告書を書き終えた頃…―
吉琳が、見覚えのあるシックな柄の包みを手に部屋を訪ねてきた。
ジル 「どうぞ、こちらへお掛けください」
吉琳 「はい。お邪魔します……」
(緊張している吉琳も、やはり可愛らしいですね)
くすりと小さく微笑むと、ジルは吉琳をソファへと促した。
ジル 「それで……贈り物というのは、何でしょう?」
そう訊ねると、吉琳は、意を決したように包みを差し出した。
吉琳 「これ……です」
吉琳 「大好きなジルのことを想いながら、作ってみたのですが……」
ジル 「ありがとうございます。開けてもよろしいでしょうか?」
吉琳はあまり自信がなさそうな様子で、控えめに頷く。
その表情にも愛しさを覚えながら、ビロードのリボンをほどくと…―
ジル 「おや……これは驚きましたね」
=====
ジル 「おや……これは驚きましたね」
包みの中から出てきたのは、
ナッツやドライフルーツで彩られた、チョコブラウニーだった。
吉琳 「昨日のアフタヌーンティーで、ジルも出してくれたので」
吉琳 「同じものになってしまって、恥ずかしいですが……」
吉琳 「私なりに手を加えてみたので、よかったら食べてもらえませんか……?」
ジル 「ええ、早速いただきます」
(自信がなさそうな顔をしていたのは、そういうことですか)
ジルはお礼を言ってブラウニーをサイドテーブルに並べ、
あらかじめ用意していたグラスを、吉琳に手渡す。
吉琳 「これ……」
ジル 「フラワーシードルも、お好きでしょう?」
吉琳 「はい! 覚えていてくれて、ありがとうございます」
吉琳は、嬉しそうにグラスを受け取った。
華やかな香りを楽しみながらグラスを重ね、ジルはブラウニーをひとつ口に運ぶ。
ジル 「チョコレートの風味が立っていて、とても美味しいですよ」
目元を綻ばせて見せると、安心したように吉琳の表情に灯りがともる。
吉琳 「口にあったようで、良かったです」
吉琳 「ジルは、甘いものがお好きでしたよね?」
ジル 「そうですね。ですが、一番好きなものは吉琳ですよ」
吉琳 「か、かわからないでください……」
吉琳は頬に熱が上がっていくのを誤魔化すように、少し顔を逸らしている。
(これぐらいで恥ずかしがられると、すぐにでも触れたくなってしまいますね)
ジルはグラスを置き、ブラウニーを乗せた皿を吉琳に差し出した。
ジル 「私だけで楽しむのはもったいないので、一緒にいかがでしょう?」
吉琳 「いえ、それはジルのために作ったものなので……」
遠慮をするしぐさも愛らしく、悪戯心が沸きあがる。
ジルは、少し意地悪な笑みを浮かべながら、
吉琳の口元に手を伸ばして……
ジル 「吉琳は、ブラウニーよりも……」
ジル 「恋人らしいことを、期待されていますか?」
=====
ジルは、少し意地悪な笑みを浮かべながら、
吉琳の口元に手を伸ばして……
ジル 「吉琳は、ブラウニーよりも……」
ジル 「恋人らしいことを、期待されていますか?」
吉琳 「……っ」
ジルは吉琳の唇を開かせ、ブラウニーを食べさせた。
ジル 「今はこちらで我慢して下さい」
ジル 「ご期待には、後ほど応えさせていただきますので」
吐息がかかるほど近くでにっこりと微笑んで見せると、
吉琳は慌てたように声を上げる。
吉琳 「えっ……」
ジル 「冗談ですよ」
吉琳 「……」
吉琳は真っ赤になった顔を俯かせながらも、ジルから離れようとはしなかった。
(そんな反応をされては、冗談では済まなくなりそうです)
心の内で苦笑しながら、ブラウニーを食べ終えると、
吉琳と何げない会話を交わして穏やかな時間を過ごす。
吉琳 「ジルと想いが通じたなんて……今でも夢のようです」
ジル 「それは、私も同じですよ」
愛しさの滲む眼差しを受け、
ジルは、吉琳の頬を包み込みながら囁く。
ジル 「教育係という立場上、ハワード卿を勧めてはいても」
ジル 「私は、ずっと吉琳を想っていましたから」
吉琳 「ジル……」
ジルは舞踏会の間も、ルイと吉琳のやり取りが気になり、
抑えようとすればするほど気持ちが溢れていったことを伝えた。
ジル 「本来であれば、許されない恋です」
ジル 「吉琳と恋人同士になった事をすぐに公言することは出来ませんが」
ジル 「いつか必ず、皆に認めて貰えるようにいたします」
吉琳 「私も……一緒に頑張りますね」
吉琳 「ジルとなら、どれだけ難しい事でも乗り越えられると、信じているので……」
お互いの想いを確かめ合いながら、
ジルが吉琳を抱き寄せて、触れるだけのキスをする。
吉琳 「ん……」
すぐに唇を離すと、潤んだ瞳に見つめられる。
(もっと深く、お互いの事を知りたい……)
(そう思っているのは、私だけではなさそうですね)
触れ合う胸元からも、高鳴る鼓動を感じ、
ジルは、吉琳の頬を撫でながら囁く。
ジル 「この先を求められても、嫌ではない……」
ジル 「そう考えてよろしいですか?」
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
ジル 「好きですよ、吉琳」
ジル 「貴女を前にすると、ただの男になってしまうほどに」
吉琳 「ジル……」
吉琳は、信じられないというように何度も目を瞬いている。
ジルは甘く揺れる瞳を見つめ、穏やかに微笑んだ。
ジル 「私の想いは伝えました」
ジル 「次は、貴女の気持ちを聞かせていただけますか?」
(あえて確かめなくともその瞳が、)
(全てを物語っているようにも思いますが……)
(貴女の口からちゃんと聞きたい)
返事を待っていると、吉琳がおずおずと口を開いた。
吉琳 「……少しだけ、時間をもらえませんか?」
吉琳 「私の気持ちと一緒に、渡したいものがあるので……」
ジルは吉琳が用意していたものを思い出し、頷きを返す。
ジル 「それでは、舞踏会が終わったら、もう一度ここで待ち合わせましょう」
吉琳 「はい」
(今日は、チョコレートと共に想いを伝える日でしたね)
ジルは吉琳の手を取り、
再び優雅な旋律が流れるホールへと戻った。
***
ルイ 「……そろそろエスコート代わるよ」
ジル 「よろしくお願いします」
ルイは目を細め、小さく微笑むと吉琳の手を取る。
ルイ 「踊ろう、吉琳」
吉琳 「うん」
吉琳はジルの元を離れ、
ルイのエスコートで、ホールの中央へ足を踏み出していく。
(それにしても……不思議ですね)
=====
(それにしても……不思議ですね)
(ハワード卿と踊っている吉琳を見ても)
(もう、先ほどのように複雑な気持ちにはなりません)
ジルは穏やかな眼差しで、二人が踊る姿を見守った。
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それから数曲踊り終えた吉琳が、来賓たちと談笑を始めると、
ルイが一人で輪を離れてジルのところへやってくる。
ジル 「もう疲れは取れたのですか?」
ルイ 「……ん? ああ、さっき吉琳のエスコートを代わってもらったのは」
ルイ 「二人がもどかしくて、少しきっかけを作ってあげたかっただけ」
(そういうことだったのですか。まったく、この方は……)
ジル 「……ハワード卿には、敵いませんね」
気持ちを見抜いていたルイが、吉琳との間を取り持ってくれたことを知り、
ジルは苦笑交じりにお礼を言った。
ルイ 「それで……上手くいったの?」
ジル 「おかげさまで」
ルイ 「そう。ジルが自分の気持ちに正直になれたのなら、良かった」
ルイは心から嬉しそうな表情を浮かべると、
少し離れた場所にいる吉琳に、視線を向ける。
ルイ 「これからは、冗談でも俺を次期国王候補になんて言わないで」
ジル 「ええ。もちろんです」
ジル 「吉琳を悲しませるような真似はしません」
真摯な想いを伝えると、ルイは安心したように口元を和らげた。
***
舞踏会は滞りなく進み、来賓の見送りを終え…―
(そろそろ来るでしょうか)
ジルが、約束通りバルコニーで吉琳を待っていると、
ふわりと甘い香りが漂い…―
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ジルが、約束通りバルコニーで吉琳を待っていると、
ふわりと甘い香りが漂い……
吉琳 「お待たせして、すみません」
吉琳が、シックな柄の包みを手にやって来た。
(そんなに息を切らせて……)
ジル 「私も来たばかりなので、お気になさらず」
吉琳は、ほっと頬を緩めると、息を整えてジルの正面に立った。
吉琳 「今日はバレンタインデーなので、ジルへの気持ちを込めて作りました……だから……」
吉琳 「よかったら、受け取ってもらえますか……?」
吉琳は、熱を帯びた愛らしい笑顔で、手にしていた包みを差し出した。
吉琳 「ジルが好きです……」
(嬉しい事を言ってくれますね)
ジル 「ありがとうございます、吉琳」
包みを受け取ると同時に吉琳を抱き寄せ、耳元で囁く。
ジル 「貴女の想いも、一緒に受け取らせていただきましたよ」
吉琳 「ジル……」
(本当に、吉琳と恋人同士になれたのですね……)
少し前までは、夢に見ることすらためらわれた事が現実となり、喜びに満たされていく。
ジルは身体を離すと、手にした包みをじっと見つめ、口を開いた。
ジル 「先ほど、エスコート役をした時の事ですが……」
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ジル 「先ほど、エスコート役をした時の事ですが……」
ジル 「吉琳と私がお似合いであるという周囲の声に喜びを隠せず、」
ジル 「同時に、貴女も嬉しそうにしているのを見て、想いが抑えられなくなったんです」
ジルは、優しくはにかみながら耳を傾ける吉琳の顔に、そっと手を触れた。
ジル 「貴女を一番側で守るのは自分で、触れていいのも私だけでありたい……と」
ジルは、吉琳の気持ちを知りたいと、強く願ったことを伝える。
吉琳 「私も……ずっとジルの気持ちを知りたいと思っていたんです」
吉琳 「来賓の方々が認めてくださった時は本当に嬉しくて、余計に……」
潤んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる吉琳を前に、ジルはふっと微笑んだ。
ジル 「教育係に徹するはずが、ハワード卿のおかげで崩れてしまいました。しかし……」
ジル 「今はそれで良かったと本当に思います。こうして貴女の気持ちが聞けましたし」
吉琳 「もしかしてルイが……ジルと私の仲を、取り持ってくれたのでしょうか?」
ジル 「ええ、そのようです」
ジル 「私も、今なら素直に感謝出来るのですが……」
ジルは僅かに苦笑して、昨日の出来事を思い返した。
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ルイ 「吉琳の顔、赤くなってる」
吉琳 「ルイが、あんなことを言うから……」
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ジル 「あの時、吉琳がハワード卿に好意を抱いているのではないかと思いはじめ……」
ジル 「それから心中、穏やかではありませんでした」
複雑な気持ちを抱いていた事も、包み隠さず告げると、
吉琳は、はっとしたように、息を吞み…―
吉琳 「待ってください、それは……」
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複雑な気持ちを抱いていた事も、包み隠さず告げると、
吉琳は、ハッとしたように、息を吞み……
吉琳 「待ってください、それは……」
吉琳は、ルイと交わした会話を伝え始める。
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ルイ 「吉琳とジルって……お互いのこと、本当に分かり合ってるよね」
吉琳 「え……そうかな?」
ルイ 「うん。ジルが君を大切にしているのがよく分かる」
ルイ 「ただの教育係と、プリンセスの関係には見えないけど……?」
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吉琳 「とても嬉しかったのですが、それ以上に恥ずかしくて……」
ジル 「それで、あんなに顔を赤くされていたのですね」
吉琳 「はい。誤解をさせてしまったようで、すみません……」
吉琳は自分が好きなのはジルだけだと、はっきりと告げた。
そして、少しだけ戸惑ったように言葉を続ける。
吉琳 「でもジルは、ルイを次期国王候補に相応しいと言っていたので」
吉琳 「今日まで、想いを伝える勇気を持てずにいました……」
(私が自分の気持ちに正直に向き合えなかったかったことで)
(吉琳を悩ませてしまっていたのですね)
ジルは申し訳なさを感じながら、
そっと吉琳の手を握った。
ジル 「もう二度と、そのような想いはさせません」
ジルは吉琳の顎に手を添えると、そっと顔を上向せ、瞳を近づけながら囁いた。
ジル 「しばらくは秘密の恋人同士になってしまいますが……」
ジル 「必ず幸せにすると、約束します」
吉琳 「ありがとうございます」
吉琳 「でも私は、ジルと一緒にいられたら、それだけで幸せなので……」
(貴女は、本当に可愛らしい事を言ってくれますね)
(これからは恋人としても、一番近くでお守りしますよ)
育んできた想いが実を結んだ喜びに唇を重ねると、
互いの胸に、かけがえのない愛しさが刻まれた…―
fin.
エピローグEpilogue:
バレンタインデーに、彼から秘めた恋心を打ち明けられたあなた。
想いを通わせたふたりを待つのは、溢れるほどの幸せなひとときで……
ジル 「今夜はブラウニーだけでなく、貴女もいただけると楽しみにしていたのですが」
熱を帯びた瞳に、身も心も翻弄されて…―
ジル 「どうなっても知りませんよ」
チョコレートよりも甘くて濃厚な夜に、愛し合うふたりは溺れていく…―