Lovely Christmas Gift〜理想のエスコートをあなたに〜(ジル)
2019/11/28~2019/12/10
1年に1度の聖なる日…―
愛する恋人から特別なデートに誘われたあなた。
エスコートしてくれる彼の微笑みは、いつも以上に甘くて……
………
ジル 「ずるい恋人はお嫌いですか?」
ジル 「今日は一日中、ずっと手を繋いでいてください」
………
舞い落ちる雪の中で、
幸せを閉じ込めるように二人の唇が重なる…―
プロローグ:
聖夜に積もった雪が、柔らかく溶け出し始めた昼のこと…―
クリスマスデートの間に溜まった公務に追われ、ようやく休憩時間を迎えた私は、
以前に借りていた画集を返すため、ロベールさんのアトリエを訪れた。
ロベール 「なんだか、とても良いことがあったみたいだね」
私の姿を見るなり、ロベールさんは柔らかく微笑んだ。
吉琳 「そ、そうですか……?」
ロベール 「うん、すごく幸せそうな顔をしているよ」
ロベール 「昨日はクリスマスだったし……きっと素敵な一日を過ごしたんだろうね」
胸の内が顔に出てしまっていることを恥ずかしく思いつつも、
ロベールさんの言葉に、私は素直に頷く。
吉琳 「はい……とても幸せなデートでした」
吉琳 「まさか彼が、あんなことをしてくれるなんて……」
自然と頬が緩んでしまう私に、ロベールさんは穏やかに目を細めた。
ロベール 「そんな風に、思い返して幸せな気持ちになれるということは、」
ロベール 「彼はきっと吉琳ちゃんのことを想って、特別なデートを考えたんだろうね」
ロベール 「一体、どんなデートをしたの?」
ロベールさんに尋ねられて、夢のようなひとときが蘇る。
(……本当に思い出に残る、特別な一日だったな)
胸の中でキラキラと輝く、彼と過ごしたクリスマスに想いを馳せながら、
私はロベールさんにデートの思い出を話し始めたのだった…―
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
澄んだ冷たい空気に、吐息も白くなり始めたある日…―
忙しい公務を終え、私はジルと共に異国を訪れていた。
ジル 「こちらの国では毎年、クリスマスマーケットが開かれているそうです」
ジル 「夜には非常に混雑すると聞いていましたが、」
ジル 「さすがに昼は空いているようですね」
吉琳 「はい。これならゆっくり見れそうですね」
そうは言っても、広場には充分な賑わいがある。
その中に、幸せそうに指を絡める恋人たちの姿を見かけ、少しだけ胸が騒いだ。
(私もあんな風にジルと手を繋いで過ごせたら……)
そう思っていると、不意にジルがこちらを見て微笑んだ。
ジル 「手を繋ぎませんか? 他の恋人たちのように」
吉琳 「えっ……?」
ジル 「こんな風に……いかがでしょう?」
私が答えるよりも先に、ジルが手を握ってくる。
(心を読まれたみたい……)
自然と鼓動が速くなっていくのを感じながら、そっとその手を握り返す。
ジル 「こうしていれば、」
ジル 「触れ合うことも、貴女の手を温めることもできますね」
=====
ジル 「こうしていれば、」
ジル 「触れ合うことも、貴女の手を温めることもできますね」
吉琳 「私も……ジルの手を温められるように頑張ります」
ジル 「貴女が側にいるだけで、充分温かいですよ」
優しい笑みが私の心に火を灯し、ジルの顔を見ていられなくなる。
(恥ずかしいけど、嬉しい)
ジル 「それでは行きましょうか」
吉琳 「はい」
見つめてくる眼差しから逃れるようにうつむき、
私はジルと一緒にクリスマスマーケットを楽しみ始めた。
***
いくつかの店を見て回り、楽しい時間を過ごしていたものの、
私は、完全には目の前のマーケットに集中できずにいた。
(楽しいし、辺りの雰囲気もとても素敵だけど……)
視線を落とすと、ジルと握った手が視界に入る。
これまで一度も解かれなかった手は、私にジルの存在を強く意識させていた。
ジル 「……どうかなさいましたか?」
声をかけられてはっと顔を上げると、ジルが私の顔を覗き込んでいた。
ジル 「先ほどから、どこか落ち着かないようですね。何か気になることでも?」
=====
ジル 「先ほどから、どこか落ち着かないようですね。何か気になることでも?」
吉琳 「その……手を繋いでいることを、妙に意識してしまって」
下手に誤魔化さず、正直に自分の思っていることを伝える。
吉琳 「いつもは、外ではこんな風に手を繋げないので……」
プリンセスと教育係が恋人同士だと知られないために、
普段は人前での触れ合いを控えていることを考える。
ジル 「意識しているというのは……どういう意味で、でしょう?」
ジル 「周囲の目が気になって楽しめないということでしたら、」
ジル 「離した方がよろしいですよね」
心配そうに聞いてきたジルを見て、慌てて首を振る。
吉琳 「いえ、このままでいたいです」
吉琳 「……確かに、恥ずかしい気持ちも強いですが、」
吉琳 「私……嬉しいんです。」
吉琳 「こうしてジルと過ごしてみたいと思っていたので……」
誤解されないように、自分の気持ちを伝えると、
ジルは安心したように微笑みながら、静かに頷いた。
ジル 「でしたら、意識を別のことに逸らせるように、何か考えてみましょう」
ジル 「例えば……そうですね。繋いでいた手を離した方は、」
ジル 「『お仕置き』をされてしまう、というのはいかがですか?」
=====
ジル 「例えば……そうですね。繋いでいた手を離した方は、」
ジル 「『お仕置き』をされてしまう、というのはいかがでしょう?」
(お仕置き……?)
提案を聞いて驚く私に、ジルは続ける。
ジル 「ちょっとしたゲームのようなものです」
ジル 「繋ぐ理由ができれば、恥ずかしいと思わずに繋ぎ続けられるでしょう?」
頷きかけたけれど、
ジルが少し意地悪な顔をしているのに気付いてすぐ我に返る。
吉琳 「お仕置きなんて……。面白がらないでください」
ジル 「いけませんか?」
吉琳 「もちろんです。意地悪なんていけません」
ジル 「貴女とこうして過ごせるのが嬉しいくて、」
ジル 「つい提案してしまったとしても……ですか?」
まっすぐ見つめながら言われると、
これ以上抗議することができなくなってしまう。
ジル 「貴女自身も、手を繋ぎたい、」
ジル 「繋げることが嬉しいと思って下さっていたんですよね」
ジル 「でしたら、離さずに過ごすくらいは難しくないと思いますよ」
吉琳 「……そんな風に言うのはずるいです」
ジルは私の逃げ道を全部塞ぐと、繋ぐ手に軽く力をこめた。
ジル 「ずるい恋人はお嫌いですか?」
=====
ジル 「ずるい恋人はお嫌いですか?」
吉琳 「……そう聞くのもずるいです」
悪戯な眼差しを向けられて顔が熱くなるのを感じる。
(嫌いなんてありえないって、わかってるくせに)
隣でジルが楽しそうに笑みを深めている。
そんなジルから目を逸らそうとした時、
向こうから近付く人の存在に気が付いた。
(あ……)
私は慌てて、恋人同士だと気付かれないよう手を離す。
けれど、すぐにまたジルが強く握ってきた。
ジル 「大丈夫ですよ。ここはウィスタリアではありませんから」
(あ……そうか……)
改めて手を握り返し、ジルに軽く頭を下げる。
吉琳 「すみません。つい……」
ジル 「癖というのは、なかなか抜けないものですからね」
ジル 「ですが、先ほどしたばかりの話を忘れたのはいただけません」
そう言われてから、『お仕置き』の話を思い返す。
吉琳 「あの、もしかして……」
ジル 「ええ。その『もしかして』です」
ジルが私の手をゆっくり引き、距離を縮めてくる。
ジル 「約束通り、お仕置きをしましょう」
思わず目をつぶった私の頬に、ジルの優しいキスが落ちる。
ジル 「気を付けてくださいね」
ジル 「次はもっとすごいお仕置きをするかもしれませんよ?」
ジルはすぐに離れていったけれど、私の頬にはその熱が残ったままだった。
ジル 「今日は一日中、ずっと手を繋いでいてください」
最初はただ繋ぐだけだったのに、
いつの間にか『ずっと』という条件付きに変わっていることに気付く。
このデートは、ジルに翻弄されてばかりになる予感がして、
ますます私の胸の高鳴りは増していくばかりだった…―
第2話:
その後も、私はジルと手を繋いで過ごしていた。
最初ほど意識しないようになったおかげで、道行く人々の『あること』に気付く。
(若い恋人から老夫婦まで、みんな手を繋いでいる……?)
別段珍しいことではないようにも思えたけれど、
視界に入るカップルが揃ってそうしているのを見ると、疑問を感じてしまう。
(手を離したらお仕置き、)
(なんて言っていたけれど、からかっているんじゃなくて、)
(手を繋ぐこと自体に、何か意味があったりするのかな……?)
ジル 「こちらのお店は貴女が好きそうですね」
話しかけられて、思考が中断する。
ジル 「ほら、どうでしょう?」
ジルが私を導いたのは、スノードームがいくつも売られた店だった。
吉琳 「わあ……綺麗ですね」
小さいものから大きなものまで、さまざまな種類が置かれている。
ふと、その中に気になるものを見つけ、思わず両手で持ち上げた。
吉琳 「見てください。これ……!」
そのスノードームの中には、寄り添う恋人たちの人形が入っている。
ジルにも見せようと振り返ると、思いがけず顔が近くにあった。
ジル 「これは……確かに素晴らしい出来ですね」
=====
ジル 「これは……確かに素晴らしい出来ですね」
囁きの近さに胸の奥で小さな音が落ちる。
ジル 「こういったものがお好きですか?」
吉琳 「……は、はい」
動揺を隠すように軽く振ってみれば、
二人の頭上にちらちらと白い雪が降り注いだ。
吉琳 「今日もこんな雪が降ればいいのに……」
(今年はまだ、一度も雪を見ていないから……)
何度か恋人たちに雪を降らせ、幸せそうに寄り添う様子を眺める。
吉琳 「見ているだけで、幸せな気分になれます。本当に素敵ですね」
ジル 「そうですね。私も素敵だと思います。ですが……」
そう言うと、ジルは私が持っていたスノードームを優しく取り上げる。
ジル 「またお仕置きのことを忘れていませんか?」
吉琳 「あっ……!」
(スノードームを取るために、思わず手を離しちゃってた……)
ジルの言う通り、お仕置きのことは頭から消えてしまっていた。
(今度はどんなことをされるんだろう……)
軽く前髪をかき上げられ、お仕置きの予感に目を閉じる。
ジル 「先ほどと同じお仕置きでは面白くありませんからね」
=====
ジル 「先ほどと同じお仕置きでは面白くありませんからね」
改めて言ったかと思うと、ジルは私の顎を指でそっと持ち上げた。
(えっ……)
驚いて、つい目を開けてしまう。
それとほぼ同時に唇をゆっくり塞がれた。
吉琳 「んっ……」
ジルのぬくもりが余韻を残して離れ、それを拭うように指で唇をなぞられる。
ジル 「この次はどんなお仕置きにいたしましょうか?」
吉琳 「……もうお仕置きされないように気をつけます」
二度も忘れたことと、ジルのキスが恥ずかしくて、思わずうつむく。
ジル 「何度忘れても構いませんよ。貴女にお仕置きするのは楽しいですから」
吉琳 「そういうジルの方が、次はお仕置きされることになるかもしれませんよ?」
ジル 「それはそれで楽しいでしょうね」
(するとしたら……私もキス、なのかな?)
その時のことを想像して、ほとんど無意識に唇を触ってしまう。
ジルが微笑む気配がして、すぐにそんな考えを遠くへ追いやった。
吉琳 「次はどこへ行きましょう?」
吉琳 「このままだと、クリスマスマーケットを見て回るだけで夜になりそうです」
軒を連ねる魅力的な店々に思わず肩をすくめてしまうと、ジルが提案してくれる。
ジル 「では、少し場所を移しましょうか。」
ジル 「この国は素晴らしい景色も有名ですから」
=====
ジル 「では、少し場所を移しましょうか。」
ジル 「この国は素晴らしい景色も有名ですから」
吉琳 「そうだったんですね。まだまだ勉強不足ですみません……」
私が謝ると、ジルは怒ることなく首を横に振った。
ジル 「そのために私がいることを忘れないでください」
ジル 「貴女の知らないことをお教えし、支えることが私の務めであり、喜びです」
吉琳 「ジル……ありがとうございます」
頼もしく思いながら、ジルの言う景色を見に行こうと歩き出した。
***
ふと、通りをすれ違う人の数が増えていることに気付いた。
吉琳 「夕食時だからでしょうか。なんだか賑わってきましたね」
ジル 「ええ。はぐれないように、しっかり手を繋いでいてください」
吉琳 「はい」
(ジルの言う景色って、どんなものだろう)
心が弾むのを感じながら歩いていると……
吉琳 「!」
はしゃいでマーケットを駆けていた子供と、思い切り身体がぶつかってしまう。
(あっ……)
その勢いで身体がよろめき、転ぶ寸前、握っていた手を強く引っ張られ……
ジル 「大丈夫ですか?」
吉琳 「は……はい」
気付けば私は、ジルの胸に抱き留められていた。
吉琳 「すみません。ありがとうございます」
ジル 「貴女に怪我がなくて何よりです」
ほっとしたように言って、ジルは私と繋いだままの手を見つめた。
ジル 「もし手を繋いでいなければ、」
ジル 「貴女をすぐに引き寄せられなかったかもしれませんね」
=====
ジル 「もし手を繋いでいなければ、」
ジル 「貴女をすぐに引き寄せられなかったかもしれませんね」
吉琳 「でも、もしかしたらジルも一緒に転んでしまったかもしれないのに、」
吉琳 「どうして離さなかったんですか……?」
そうならなかったことに安堵しながらも尋ねると、
ジルは不思議そうに目を瞬かせた。
ジル 「今日は手を離さない日だと決めたでしょう?」
吉琳 「……!」
ジル 「それに、たとえそんな日ではなかったとしても、離しませんよ」
繋いだ手を引き寄せ、ジルはその指先にキスをする。
ジル 「共に転んでしまっても、それで貴女を守れるなら構いません」
ジル 「貴女は私の大切な人ですから」
キスをされた指先から、ジルの優しい思いが伝わってくる。
(大切なプリンセス、じゃなくて、大切な人って言ってくれるんだ……)
胸がいっぱいになって、ジルを見つめる。
ジル 「それでは、気を取り直して行きましょうか」
吉琳 「はい」
離さないと決めた手を、ジルがぎゅっと握り直してくれる。
私も胸に抱いた思いを込めるように、その手を握り返した…―
第3話-プレミア(Premier)END:
夕闇がひっそり訪れ、冬の空気を包み込む頃…―
ジルは私を街の高台へと連れてきてくれていた。
ジル 「ここからの景色は、この国でも有数の素晴らしさだそうです」
ジル 「街の全てを一望できるとのことですが、確かにその通りのようですね」
眼下に広がる景色の素晴らしさに、返事をすることも忘れてしまう。
吉琳 「綺麗……灯りが点々と散って、まるで星空みたいです」
その光景に目を奪われていると、不意に後ろから抱き締められた。
吉琳 「っ……ジル?」
ジル 「このような景色を貴女と見ることが出来て、幸せです」
耳を優しくくすぐる声がひそやかに響く。
ジル 「……困りましたね」
わざとらしい言い方に振り返ると、ジルは私を抱き締めたまま苦笑いした。
ジル 「見てください。貴女と手を離してしまいました」
何のことかと思っていると、ジルは私の髪を一房つまんだ。
その毛先にキスを落とし、艶めかしい眼差しを向けてくる。
ジル 「手を離せばお仕置き……覚えているでしょう?」
吉琳 「でも、今のはわざとじゃ……」
ジルは聞こえない素振りを見せて、妖艶に微笑んだ。
ジル 「これでは……貴女にお仕置きをしていただかないといけないですね」
=====
ジル 「これでは……貴女にお仕置きをしていただかないといけないですね」
少しだけ意地悪な光を浮かべた瞳を見て、
やっぱりわざとだったのだと確信する。
吉琳 「……分かりました。そこまで言うなら……」
これまでジルにされたお仕置きを思い出し、腕の中で背伸びをする。
(ずっとジルはお仕置きにキスをしてきたから、私も……)
顔を上げ、ジルに口付ける。
唇を離してから、恥ずかしさで一気に顔が熱くなった。
吉琳 「こ、これでお仕置きになったでしょうか」
ジル 「なりませんね。これではご褒美ですよ」
吉琳 「そんな……」
ジル 「もっと頑張っていただかないと」
期待されているのを肌で感じながら、もう一度同じことをしようとする。
(もっと、頑張る……)
ジルに言われたことを頭の中で反芻し、軽く唇を開いた。
吉琳 「ジルのことが好き……です」
想いをこぼし、再び唇を重ねる。
触れ合わせるだけだったつもりが、後頭部を掴まれ、
更に深いキスとなってしまった。
吉琳 「ん……んんっ……」
唇を塞がれたまま、小さく声を上げる。
あんなに余裕そうな顔を見せていたジルが、
今は私にキスをすることでいっぱいになっているように思えた。
(こんなに激しいキスを……ジルがするなんて……)
外では考えられないキスに心まで溶かされていると、
ジルが熱っぽい吐息と共に、ようやく唇を解放してくれた。
ジル 「……どちらにせよ、ご褒美でしたね」
ジル 「ですが頑張ってくださったのは伝わりました。ありがとうございます」
=====
ジル 「……どちらにせよ、ご褒美でしたね」
ジル 「ですが頑張ってくださったのは伝わりました。ありがとうございます」
吉琳 「急にこんなキスをするなんて……」
ジル 「貴女がいけないんですよ」
ジルが私の顎を指で持ち上げた。
艶やかな光を帯びた瞳が私だけを映し、閉じ込めてしまう。
ジル 「そんな顔で愛を囁かれたら、私も冷静ではいられなくなります」
目を逸らせず、心まで捉われるのが分かった。
ジル自身が言った通り、その深紅の瞳に普段の冷静さはなくなっている。
吉琳 「ジルにお仕置きをするのは難しすぎます……」
ジル 「そうでしょうね。何をしてもご褒美になるんですから」
ジル 「……貴女もそうだと思っていましたが、違いますか?」
顔を寄せられ、耳元で囁かれる。
キスの余韻が身体中に広がり燃えていくようで、
外だというのに、少しも寒さを感じない。
吉琳 「今日のジルは、なんだかいつもと違いますね……」
吉琳 「手を繋ごうと言ったり……外でこんな風にキスをしたり」
ジル 「それは……」
ジル 「この国の『願い』に溺れてしまったせいかもしれません」
=====
ジル 「この国の『願い』に溺れてしまったせいかもしれません」
吉琳 「え……?」
再びジルが私の手を握り締める。
ジル 「この国では、クリスマスの日に恋人同士が手を繋いで過ごすそうです」
ジル 「永遠に結ばれるように、と願いながら特別な夜を過ごすんですよ」
それを聞いて、街で見かけた人々のことを思い出した。
(いろんな人が手を繋ぎ合っていたのは、そういうこと……?)
ジル 「公務でこの時期に来ることが決まった時、」
ジル 「貴女とその願いを共にしたい……そう思ったんです」
切なく響く声が私の胸を震わせる。
吉琳 「私……ジルと手を繋いで歩けた日が今日でよかったです」
吉琳 「心のどこかで、そんな過ごし方をずっと願ってきたから……」
ジル 「ええ、知っておりましたよ」
ジル 「時々、手を繋いだ恋人たちを寂しそうに見ていましたから」
そう言うと、ジルは私の手を自分の口元に引き寄せた。
ジル 「貴女の願いが叶ったのなら、私の願いも叶ってほしいものです」
ジル 「……大切な恋人と永遠に結ばれたい、という願いも」
=====
ジル 「貴女の願いが叶ったのなら、私の願いも叶ってほしいものです」
ジル 「……大切な恋人と永遠に結ばれたい、という願いも」
(ジル……)
指先にキスを感じ、咄嗟にもう片方の手でジルの手を包み込む。
吉琳 「もちろん叶います。」
吉琳 「クリスマスはどんな願いだって叶う日なんですから」
私がそう言った時、ちらちらと空から落ちる白いものに気が付いた。
吉琳 「あ……!」
次から次へと降り注ぐ雪が、街の景色をまた新しいものへ変えていく。
ジル 「マーケットでスノードームを見ながら、」
ジル 「雪が降ってほしいと言っていましたよね」
吉琳 「はい、また願いが叶いました」
ジル 「本当に、今日はどんな願いも叶うのかもしれません」
雪空を見上げながら、ジルがゆっくり目を瞬かせる。
ジル 「あるいは、私へのお仕置きを頑張った貴女へ、」
ジル 「誰かがご褒美をくれたのかもしれませんよ」
吉琳 「そうでしょうか」
その言葉にくすぐったい気持ちで答えると、
ジルは意味ありげに唇の端を持ち上げた。
ジル 「ですが……」
ジルが私に視線を落とし、包み込むように抱き締めてくる。
ジル 「もしそうなのだとしたら、あまり喜ばれるのは複雑ですね」
今日されたキスのどれとも違う、
優しく甘いキスが、そっと私に与えられる。
ジル 「貴女にお仕置きをするのも、ご褒美を与えるのも、私だけでありたい」
ジル 「……受け入れてくださいますか?」
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
沁みるような夕暮れが街を包み始めた頃…―
吉琳 「……何でしょう? 広場に人が集まっているみたいです」
景色を見に行く途中だった私は、手を引いてくれるジルを呼び止めた。
ジル 「おそらく、ツリーを見るために集まっているのでしょう」
ジル 「夜には明かりを灯して、クリスマスの訪れを祝うそうですから」
ジルが足を止めて人混みに目を向ける。
ジル 「景色はいつでも見ることができますが、」
ジル 「ツリーはこの時期だけですね。見に行きますか?」
吉琳 「はい……!」
初めての異国の景色にも興味を惹かれたけれど、
今は他の恋人たちと同じようにジルと過ごしてみたい気持ちがあった。
(今日はジルと手を繋いで過ごせたから……)
今も、ジルは私の手をしっかり握ってくれている。
たったこれだけのことなのに、本当に嬉しかった。
***
広場に着くと、溢れるほど人で賑わっていた。
辺りを見回す私のすぐ側で、ジルがそっと囁く。
ジル 「迷子にならないよう、離れないでくださいね」
=====
ジル 「迷子にならないよう、離れないでくださいね」
耳元で聞こえた声に、心が自然と反応する。
けれど、そんな動揺はそっと隠した。
吉琳 「これだけ人が多いと、ツリーどころではないですね」
ジル 「事前に気が付けばよかったですね。申し訳ありません」
吉琳 「いいえ、ジルは悪くありませんから」
人の波に流されかけていると、ジルが私の身体を抱き寄せてくれる。
ジル 「こちらでしたら、多少は落ち着いて見られますよ」
吉琳 「ありがとうございます」
ジルの言う通り、この位置からならばじっくりとツリーを見ることができた。
吉琳 「この国ではクリスマスをこんなにも盛大に祝うんですね」
ジル 「それだけ、いろいろな思いのこもった行事なのでしょう」
吉琳 「そんな行事をジルと過ごせて本当によかったです」
オレンジに深い青が混ざり始めた空を見上げ、しみじみと一日を振り返っていると、
ジルからの視線を感じた。
ジル 「私も心からそう思っていますよ」
=====
ジル 「私も心からそう思っていますよ」
そう返してくれたのは嬉しいけれど、同時に恥ずかしさがこみ上げ、
ジルの顔に視線を移せないまま、空を見上げて話す。
吉琳 「手を繋いで過ごしたおかげかもしれませんが、」
吉琳 「今日は少しだけプリンセスであることを忘れていました」
ジル 「……貴女がいつも厳しく自分を律していることはよく知っています」
ジル 「少しでも息抜きになったのなら、良かったです」
吉琳 「これも、ジルのおかげですね」
空からジルへと視線を戻し、感謝を伝える。
吉琳 「本当にありがとうございます。」
吉琳 「何かお礼ができたらいいんですが……」
考えをめぐらすものの、なかなか良いものが思いつかない。
吉琳 「何か、私にできること……してほしいことはありますか?」
考えた末にジルへ尋ねてみる。
ジルは驚いたように目を見張って、すぐに微笑んだ。
ジル 「でしたら、私にご褒美をくださいますか?」
吉琳 「ご褒美……ですか?」
ジル 「はい。貴女からの特別なキスをいただけたらと思います」
=====
ジル 「はい。貴女からの特別なキスをいただけたらと思います」
ジルの穏やかな視線が、確かな熱を秘めて私の唇へ滑る。
まるで触れられているかのように錯覚してしまい、自然と頬が熱くなった。
吉琳 「……分かりました。特別なキス……ですね」
恥ずかしさを押し隠し、今日の感謝を込めようと心を決める。
ジルの肩に手を添え、軽く背伸びをして顔を近付けた。
吉琳 「……ん」
唇と唇を触れ合わせた瞬間、言葉にならない甘い想いで満たされる。
名残惜しい気持ちを抑えて、そっと距離を取ると、
さっきよりも顔が熱くなるのを感じながら、
ジルがどんな顔をしているか見つめた。
ジル 「……貴女がこんなに情熱的なキスをくださるとは思いませんでした」
吉琳 「その……ご褒美は、特別なキスということだったので」
吉琳 「ジルと永遠に結ばれますように、」
吉琳 「という願いを込めてキスをしたら、自然とこんな風に……」
説明しているうちに恥ずかしくなってきて、ついうつむいてしまう。
そんな私の頬をジルが両手で包み込み、優しく上を向かせた。
ジル 「クリスマスの季節は、誰もが同じ願いを抱くものなんですね」
吉琳 「え……?」
ジル 「この国でクリスマスの時期に手を繋ぐ恋人たちが多い理由ですよ」
(あ……)
ジルに言われて、気になっていたことを思い出す。
よく見ると、周りにいる恋人たちも手を繋ぎ合っていた。
吉琳 「どうしてみんな、手を繋いでいるんですか?」
ジル 「『永遠に結ばれるように』と願いを込めて手を繋ぐ……」
ジル 「そうしてクリスマスを過ごすのが、この国の習わしのようですよ」
ジル 「ですから、恋人たちは皆、そのように過ごしているようです」
素敵ですね、そうジルに伝えようとしたのに、それよりも早く唇を塞がれる。
ジル 「特別なキスのお返しです」
=====
ジル 「特別なキスのお返しです」
吉琳 「お返しされたら、ご褒美になりませんよ?」
ジル 「それもそうですね」
私が指摘しても、ジルは優しいキスを繰り返した。
触れるたびに身体の芯がじんわり熱くなり、
もっとジルに触れてほしいと思ってしまう。
吉琳 「ん……」
私がした以上の特別なキスに溶かされて、身体の力が抜けていく。
吉琳 「このまま続けたら……ゆっくり話もできなくなります……」
キスの合間に訴えると、ジルは吐息が触れ合う距離で頬を緩めた。
ジル 「話もいいですが……」
ジル 「私としては、貴女との時間そのものを味わいたいですね」
ジル 「……恋人としての時間を、です」
ただ繋ぐだけだった手がほどけ、完全に離れる前に再び重なる。
指を絡めて手のひらを触れ合わせ、よりぴったりと密着させられた。
ジル 「もう一度、特別なキスをしてもいいですか?」
ジルの囁きに頷くと、また唇をついばまれる。
冬の冷えた空気の中で交わされる吐息は、眩暈がするほど熱く、甘かった…―
fin.
エピローグEpilogue:
彼と忘れられない、特別なクリスマスデートを過ごしたあなた。
けれどまだ、幸せな時間は終わらなくて…―
ジル 「こうして二人きりになれた今、もう我慢することはできませんよ」
優しく触れる指先に、鼓動は甘く乱れていき…―
ジル 「だから私も、貴女を求めてやまないのでしょう」
聖なる夜に、ふたりの想いは重なってゆく…―