Secret Prince's Memories~2人で辿る特別な場所~(ジル)
愛しいあの人とデートで訪れた、ある場所。
そこには、彼が秘密にしていた知られざる過去が眠っていて…―
ジル:今は、レナルド様に誇れる仕事をしたいと思っていますよ
ジル:もちろん、大切な貴女を支えるためにも
特別な思い出を2人で辿った先に、
また一歩、彼との愛が深まっていく…―
プロローグ:
月明かりが、城全体を優しく照らすある夜…―
私は、ベッドメイキングを終えたユーリと、ある話をしていた。
ソファに腰かけたユーリは、大きな瞳を瞬かせて、隣に座る私に頷く。
ユーリ:それは…確かに気になるかも
吉琳:うん…
数日後、休日が重なった彼をデートに誘ったものの、
用事があるから、と断わられていたのだった。
(用事があるのは仕方ないよね。でも…)
(いつもだったら、何をするのか話してくれるのに)
言葉を濁した彼の様子が気になってしまう。
すると、ユーリは私を元気づけるように明るい声で言葉を紡いだ。
ユーリ:でも、きっと何か事情があるんだよ
ユーリ:たとえば…誰にも言えない秘密基地に行く、とか
吉琳:秘密基地……?
ユーリ:そうそう。子どもの時の思い出が色々ある場所だから、
ユーリ:吉琳様に見せるのが恥ずかしいのかも
ユーリはそう言って、くすっと笑みをこぼす。
ユーリ:それでもやっぱり気になるなら、もう一回聞いてみたら?
ユーリ:吉琳様が本当に知りたいことなら、
ユーリ:きっと、教えてくれると思うなー
(本当に秘密基地なのかは分からないけれど…)
(ずっと一人で考えていても仕方ないよね)
(ユーリの言う通り、もう一度聞いてみようかな)
吉琳:うん。ありがとう
私は気持ちを切り替えて、ユーリに笑みを向ける。
するとその時、ユーリが思い出したように声を上げ、
あることを告げた…―
ユーリ:あ! 俺、一つ思い出したんだけど…
どの彼と物語を過ごす?
>>>ジルを選ぶ
第1話:
ユーリ:あ! 俺、一つ思い出したんだけど…
ぽんと手を叩いたユーリが声を上げる。
ユーリ:『もう17日ですか』ってジル様が言ってるの、聞いたよ
吉琳:17日…
(それって…ちょうどデートに誘った日だ)
記憶を辿っていると、ユーリが続ける。
ユーリ:何かあるんですかって聞いたら『城下に用事が』って言ってた
吉琳:そうだったんだね
(ジルにとって大切な日なのかもしれないな…)
そう思った時ノックの音が響き、扉が開いて…
ジル:やはり起きていらしたんですね
ユーリ:あっ
吉琳:ジル…
ジルが小さくため息をついて部屋に入ってきた。
ジル:明かりがついていたので来てみれば…
ジル:ユーリも一緒に夜更かしとは困りましたね
呆れたような表情で声をかけられ、はっとする。
(話し込んでて気づかなかったけれど、)
(いつの間にか遅い時間になってたのかな)
吉琳:すみません。これは、私が相談にのってもらっていて…
慌てて告げると、ジルはふっと笑みをこぼして…―
=====
吉琳:すみません。これは、私が相談にのってもらっていて…
慌てて告げると、ジルはふっと笑みをこぼして…
ジル:冗談です。少しからかっただけですよ
吉琳:えっ
ジルが指さす時計に目を向けると、まだ真夜中には遠い時間だった。
(よく考えたら、話し始めてから少ししか経っていないかも)
ユーリ:吉琳様ってば、ジル様の言葉はすぐ信じちゃうんだから
吉琳:そ、それは…ジルの言い方が冗談には見えなくて
ユーリのおかしそうな笑みに、ますます恥ずかしさがこみ上げる。
頬を熱くする私に向かい、ジルが穏やかに瞳を細めて告げた。
ジル:まあ、冗談はさておき、何か悩みがあるのでしたら私も聞きますよ
ジル:悩みすぎて本当に夜更かししてはいけませんから
吉琳:それは…
(気がかりなのは、ジルのことなんだけれど…)
ユーリ:そうしなよ吉琳様
ためらっていると、ユーリは私にだけ聞こえるように小さな声で続ける。
ユーリ:今、聞いちゃったら? デートの日のこと
=====
ユーリ:今、聞いちゃったら? デートの日のこと
(…確かにいい機会かも)
吉琳:…うん、そうだね
頷くと、ユーリはにこっと笑い、腰を上げて扉へ向かう。
ユーリ:それじゃあ、俺は帰るね!
声を出さずに『頑張って』と言い、ユーリはお辞儀をして部屋を後にした。
パタンと扉が閉じると、ジルはベッドに座る私の隣に腰かける。
ジル:では早速、何に悩んでいるのか聞かせてください
問いかけられて、緊張でわずかに鼓動が跳ねる。
(ジルもこう言ってくれているし…)
私は深呼吸をしてから、真っ直ぐ問いかけた。
吉琳:私が気がかりだったのは、ジルのことです
ジル:私のことですか?
吉琳:はい。17日に、城下で用事があるとユーリから聞いたのですが、
吉琳:何があるのか、教えてもらえたらと思って…
ジル:……
そう告げると、ジルが小さく息をのむのが分かった。
(やっぱり、わがままを言ってしまったかな…)
ジルを困らせてしまったのかもしれないと思って、そっと視線を伏せる。
すると、ジルが私の髪に優しく触れて…―
=====
ジルを困らせてしまったのかもしれないと思って、そっと視線を伏せる。
すると、ジルが私の髪に優しく触れて…
吉琳:っ……
ふいに近づいた距離に鼓動が騒ぐ中、
ジルは私の表情を確かめるように、頬にかかる髪をふんわりと耳にかけた。
ジル:…お断りしたことで、悲しませてしまいましたね
ジル:申し訳ありません
吉琳:いえ、違うんです
ジルの言葉に慌てて首を横に振り、私は想いをはっきり告げる。
吉琳:悲しかったというより…少し寂しかったのかもしれません
吉琳:……理由を詳しく話してもらえなかったことが
ジル:……
(私では、まだ頼りないかもしれないけれど)
(ジルの恋人として、どんなことでも言ってもらえる相手でいたい)
そう心の中で言いながら、見つめると、
ジルがぽつりと声をこぼした。
ジル:隠しては、余計に心を乱してしまいますね…
吉琳:えっ
(『余計に』って…どういう意味だろう?)
不思議に思っていると、ジルが真剣な瞳を向けて…―
ジル:…分かりました。貴女がよければ、当日デートをしましょうか
=====
(『余計に』って…どういう意味だろう?)
不思議に思っていると、ジルが真剣な瞳を向けて…
ジル:…分かりました。貴女がよければ、当日デートをしましょうか
吉琳:っ…いいんですか?
ジル:ええ。ただしどこへ行くかは、
ジル:三日後の会食を無事に終えてからお話します
ジルの言葉に、他国の王族との会食を控えていることを思い出す。
(会食後というのは少し気になるけれど、)
(きっと何か考えがあって、こう言っているんだよね)
(…まずは目の前の公務にしっかり集中しよう)
ジル:今日はもう遅いのでお休みください。寝不足では、公務に差し障ります
吉琳:はい
私はベッドから立ち上がり、扉に向かうジルを見送ろうとすると、
耳元にいたずらっぽい囁きが落とされた。
ジル:お休みくださいと言ったはずですよ
ジル:それとも…お仕置きをお望みですか?
吉琳:っそういうわけでは…
一気に熱が頬に灯るのを感じていると、ジルがからかうように笑う。
ジル:それでは、また明日
そう言うジルを見送りながらも、しばらく胸の音は高鳴り続けた。
***
それから三日後…―
第2話:
それから三日後…―
(少し緊張したけれど、無事に終えられてよかった)
会食が終わった後、王族の方々を見送り、
ほっと息をついた私に、ジルが優しい笑みを向けてくれる。
ジル:お疲れさまでした。マナーも受け答えも、お見事でしたよ
吉琳:ジルがレッスンをしてくれたお陰です
吉琳:ありがとうございます
(ジルに褒められたことが、何よりも嬉しいな…)
にっこりと笑みを返すと、ジルは微笑みながら、あることを告げた。
ジル:さて、会食も無事に終わりましたし…約束を果たさなくてはいけませんね
そう言われて、明日に迫った休日のことを思い出す。
(でも…)
吉琳:その前に聞かせてもらいたいんです
ジル:ええ、何ですか
頷くジルに、心に引っ掛かっていたことを訊ねる。
吉琳:明日の行き先のことなのですが…
吉琳:どうして会食が終わるまで伝えられない、と言っていたんですか?
一瞬の沈黙の後、ジルは口を開いた。
ジル:それは…
=====
吉琳:どうして会食が終わるまで伝えられない、と言っていたんですか?
一瞬の沈黙の後、ジルは口を開いた。
ジル:それは…
ジル:行き先を伝えたら、貴女の心を乱してしまうと思ったんですよ
ジル:私の過去に関わる場所なので
吉琳:えっ
(ジルの過去に関わる場所…)
思いもよらない言葉に驚く私に、ジルは穏やかな声色で告げる。
ジル:公務に真剣に取り組む貴女を、邪魔したくはありませんから
〝ジル:隠しては、余計に心を乱してしまいますね…〞
(だから、『余計に』って言っていたんだ)
その優しさを嬉しく感じていると、ジルは言葉を続けた。
ジル:明日向かうのは…城下にある墓地です
***
その翌日…―
私は、ジルと共に城下の墓地を訪れていた。
ジル:こちらです
ジルはある墓石の前に立ち、
持ってきていた、貝殻のあしらわれたリースをその前に置く。
墓標に書かれていた名前は…―
=====
ジルはある墓石の前に立ち、
持ってきていた、貝殻のあしらわれたリースをその前に置く。
墓標に書かれていた名前は…
(レナルド=カロン…)
それは、ジルの前に国王側近を務めていた方のものだった。
吉琳:今日が命日だったんですね
ジル:ええ
ジルは墓標を見つめ、記憶の糸を手繰るように語った。
ジル:レナルド様は、
ジル:私が城の仕事をこなせるようになった矢先に、亡くなりました
(え…)
ジル:後で知ったことですが、彼も病を抱えていたようです
吉琳:そうだったんですね…
『彼も』という言葉から、ジルの持病が頭をかすめる。
(自分と同じように病を抱えていたと知った時、)
(ジルは…どう思ったんだろう)
その気持ちを汲み取りたくて、思わず手を伸ばしてジルの頬に触れた。
ジル:吉琳…?
(あっ)
驚いたように見開かれた瞳に、はっとする。
ジル:私の顔に何かついていますか?
吉琳:いいえ。すみません、つい…
ぱっと手を離そうとすると、ジルにそのまま手をとられ…―
=====
ぱっと手を離そうとすると、ジルにそのまま手をとられ…
吉琳:っ……
手の平に柔らかい唇が触れ、小さな音を立てて離れていく。
吉琳:ジ、ジル…こんな所で…
ジル:貴女が可愛らしいことをしてくださったので
不意打ちのキスに鼓動が乱れるのを感じていると、
ジルは微笑んで口を開いた。
ジル:私の心配ならいりませんよ。…逆に励みとなりました
ジル:病があることが、何の障害にもならない仕事だと示されたので
そう言われてはっとする。
(…確かに、そういう考え方も出来るよね)
(ジルなら、なおさらそう思うのかもしれない)
ジルの言葉通り、いらない心配だったと分かってほっと息をついた。
吉琳:毎年、レナルド様にどんなお話をされているんですか?
ジル:この一年、ウィスタリアで起きた様々なことですよ
ジルは想いを馳せるように墓標を見つめ、穏やかな声で告げる。
ジル:亡くなる直前、彼に言われたんです
=====
ジル:亡くなる直前、彼に言われたんです
ジル:『俺の教えは忘れていい。これからは、お前のやり方で陛下を支えろ』と
吉琳:…レナルド様は、そんなことを語られていたんですね
(前に、ジルが豪快な方だって言っていたけれど、)
(大胆で…力強い言葉だな)
ジル:ええ。そのように言われてしまったので、私のやり方で公務を行い、
ジル:国がどうなっているのかを、報告しているというわけです
吉琳:では今日は、ジルにとって緊張する日でもあるんですね
小さく微笑むと、ジルも苦笑をこぼして頷いた。
ジル:そうなりますね
ジル:以前は迷うこともありましたが…
ジル:今は、レナルド様に誇れる仕事をしたいと思っていますよ
墓標に向かい言葉を続けていたジルは、そこでふと私へ視線を向ける。
ジル:もちろん、大切な貴女を支えるためにも
(そんな風に考えてくれていたんだ…)
真っ直ぐな瞳で語られる芯の通った言葉に、胸の奥が熱くなる。
その時、私は心に湧きあがったあることを告げた。
吉琳:ジル…―
第3話-プレミア(Premier)END:
吉琳:ジル…
吉琳:来年もまた、一緒に来てもいいでしょうか
そう告げると、ジルの瞳が微かに見開かれる。
ジル:……
(私も、きちんと報告がしたい)
(ジルに支えてもらいながら、)
(レナルド様の大事にしていた国を守っていますって)
わずかな沈黙の後、ジルはすぐにふっと笑みをこぼした。
ジル:ええ。もちろん
(よかった…)
ジル:むしろ、私からもお願いします
ジル:毎年、私とここへ来てくれますか?
吉琳:はい
笑顔で返事をして、
墓標へと向き直るジルと同じように、私もすっと背筋を伸ばす。
ジル:また来ます、レナルド様。…吉琳と一緒に
ジルは真摯な眼差しで墓標を見つめ、誓いを立てるように告げる。
その時、穏やかに吹き抜けた風が、貝殻であしらわれたリースを揺らした。
(ジルの言葉に返事をしてくれたような気がするな…)
そうして顔を上げたジルは、にこやかにある提案をした。
ジル:さて、この後ですが…
=====
ジル:さて、この後ですが…
吉琳:えっ…後、ですか?
ジル:ええ。デートに誘ったのは貴女の方ですよ
(嬉しい…まだジルと二人きりで過ごせるんだ)
ジル:少し、城下を見て回りましょうか
吉琳:はい…!
私の想いを汲んでそう言ってくれるジルに、嬉しさが広がった。
***
その後…―
高台から城下を見渡した後、私たちは城へ戻るため階段を下りていた。
吉琳:とても綺麗な夕焼けでしたね
ジル:ええ。一緒に見たのが吉琳でしたから、
ジル:よりいっそう美しく感じられました
吉琳:もう、ジル……
ジル:本心ですよ
私の反応を楽しむように囁かれ、胸の音がうるさく騒ぎだす。
そんな心を落ち着かせながら、私は改めて今日のことを振り返った。
(ジルの過去や想いを知れて、二人でデートも出来て、)
(楽しくて心に残る一日だったな)
心の中で呟いたその時、ふと足に痛みを感じて立ち止まってしまう。
吉琳:っ……
ジル:吉琳?
足元を見ると、ふくらはぎにかすり傷が出来ていた。
(飛び出ていた枝に引っかけてしまったのかもしれない)
(…深い傷じゃないけれど、少し歩きにくいかも)
月明かりのみに照らされる薄暗い道を振り返っていると、
ふんわりとジルに手を取られ…―
=====
(飛び出ていた枝に引っかけてしまったのかもしれない)
(…深い傷じゃないけれど、少し歩きにくいかも)
月明かりのみに照らされる薄暗い道を振り返っていると、
ふんわりとジルに手を取られ…
ジル:吉琳。こちらに
ジル:ひとまず応急処置をしましょう
吉琳:いえ、そんな…かすり傷ですから
ジル:私が心配なんですよ
ジル:ですから、言うことを聞いて頂けますね
(優しいな…)
吉琳:はい
ジルは足元に気を配りながら、腰ほどまである花壇の縁に導いてくれる。
そうして、すぐにポケットからハンカチを取り出すと、
私の足元に跪いて、傷のある場所に優しく巻いていった。
ジル:痛みますか?
吉琳:少しだけ…。ですが、深い傷ではないので大丈夫です
微笑んで答えると、ジルは少し考えるようにしてから口を開いた。
ジル:念のため、少し休んでいきましょうか
吉琳:ですが、それでは帰りが遅くなってしまうんじゃ…
ジル:痛みがあるうちは動かない方がいいですよ
ジル:それに…―
=====
ジル:それに…
ジル:遅くなったとしても、私が側にいるので大丈夫ですよ
私を気遣うように、穏やかに告げられるジルの言葉が、
胸の奥を淡くときめかせていく。
(確かに、ジルと一緒なら大丈夫だよね)
(それに、無理に歩いて酷くなってしまったら、)
(もっとジルに心配をかけてしまう)
吉琳:はい。…すみません
ジル:いいえ。私も注意が足りませんでした
立ち上がったジルは、
薄暗い散策路を振り返り、思案するように眉を寄せた。
ジル:この道も、レナルド様が整備されてから時間が経っていますし、
ジル:そろそろ点検をした方がよさそうですね
吉琳:えっ…この道はレナルド様が…?
わずかな驚きをもって散策路を見ると、ジルが言葉を続ける。
ジル:ええ。昔はもっと登りにくい道だったそうですよ
ジル:それをレナルド様が見つけ、陛下に進言し、今のようになりました
(こんな何気ない場所にも、)
(レナルド様のウィスタリアを想う気持ちが表れているんだ)
吉琳:素敵な方ですね…。直接お話してみたかったです
ぽつりと呟くと、ジルはそっと隣に腰かける。
そして、自然な手つきで私の肩を抱き寄せて…―
=====
吉琳:素敵な方ですね…。直接お話してみたかったです
ぽつりと呟くと、ジルはそっと隣に腰かける。
そして、自然な手つきで私の肩を抱き寄せて…
ジル:直接話すことはもう叶いませんが…
ジル:今日のように、貴女と共にレナルド様の元へ行きたいと思っていました
吉琳:そう、なんですか…?
ジル:ええ。私の一番の誇りを、彼に見せたかったので
(あっ…)
〝ジル:今は、レナルド様に誇れる仕事をしたいと思っていますよ〞
ジル:私にとって一番の誇りは、貴女という存在です
(そんな風に思ってくれていたなんて…)
何にも代えられない喜びが、身体中に広がっていくのを感じる。
私は、とめどなく溢れる想いをジルへ告げた。
吉琳:私をプリンセスに選んでくれて…心から愛してくれているジルが、
吉琳:これからも誇りに思ってくれる人でいられるように、頑張ります
ジル:また思いがけず嬉しいことを聞けました
するとジルは柔らかく微笑んで、私の顎をすくい上げる。
そうして優しい口づけを落とし、吐息が触れる距離のまま囁いた…―
ジル:今夜は可愛いことばかり言いますね
ジル:せっかくですから、もっと貴女の想いを伝えて頂けますか?
fin.
第3話-スウィート(Sweet)END:
吉琳:ジル…
吉琳:海に、行きませんか?
そう告げると、ジルは驚いたように瞳を瞬かせる。
ジル:どうされたんですか、突然
吉琳:以前聞いたレナルド様の話を思い出したんです
吉琳:海の向こうまで流通を広げようとしていたと聞いたので、
吉琳:目指していたものを、改めて見たいなと思ったのですが…
(恩師であるレナルド様の軌跡を辿って、)
(もっとジルのことも知れたら…)
ジル:……
吉琳:ダメ…でしょうか?
(やっぱり…少し急だったかな)
そう思っていると、驚いたように私を見つめていたジルが目を細めて…
ジル:…それも、いいかもしれませんね
ふっとおかしそうに笑った。
***
その後、ジルと私は海のある隣国を訪れていた。
心地よい潮風を感じながら並んで海辺を歩き、ふと空を見上げる。
吉琳:すっかり夜になってしまいましたね
ジル:ええ。ですが…
ジル:むしろ夜の方が都合がいいかもしれません
=====
吉琳:すっかり夜になってしまいましたね
ジル:ええ。ですが…
ジル:むしろ夜の方が都合がいいかもしれません
吉琳:え…どうしてですか?
問い返すと、ジルは私の顔を覗きこみ、楽しげに告げた。
ジル:こうして並んで歩いていても、気に留める人がいませんからね
(あっ…いつもは堂々と二人で歩いたり出来ないから)
(誰の目も気にせず、ジルとデート出来るのは嬉しいな)
ジル:貴女のお誘い、嬉しかったですよ。ありがとうございます
吉琳:はい
笑みをこぼして頷くと、
ジルは歩く足を止めて、自分の腕をわずかに持ちあげた。
ジル:せっかくのデートですから
腕を組むように促されているのだと気づき、小さく鼓動が跳ねる。
(そっか…。)
(こうやって恋人らしく歩くことも出来るんだよね)
心が甘くくすぐられるのを感じていると、ジルが楽しげに問いかける。
ジル:どうされたのですか?
吉琳:あ、いえ…っ
からかうような眼差しに、顔が熱くなってしまう。
すると、唇に笑みを乗せたジルが距離を近づけて…―
=====
すると、唇に笑みを乗せたジルが距離を近づけて…
ジル:見ている人がいないのですから、もっと側へ来て下さい。吉琳
わざとらしく低められた声で囁いた。
吉琳:っ…はい
胸を高鳴らせてジルの言葉に頷き、そっと腕を絡める。
そうして、レナルド様が求めた海の向こうへ視線を向けた。
吉琳:今はまだ、近隣国との貿易が中心ですが、
吉琳:レナルド様は、この先まで流通を広げようとしていたなんて…
(それだけでも、広い視野を持っていた方だって分かる)
尊敬を込めて告げると、ジルは懐かしそうに瞳を細める。
ジル:ええ。貿易を実現させようと、よく一人で異国へ視察に出ていましたよ
吉琳:お一人で異国を?
わずかな驚きをもって見上げると、ジルは小さく苦笑をこぼした。
ジル:そのたびに、私へ甘いものを買ってきていました
ジル:自分への土産は酒ばかりでしたが
吉琳:ジルの好きなもの、よくご存知だったんですね
微笑ましい話に、心がふんわりと温かくなる。
ジル:ええ、そうですね
頷いたジルは、ふと愛しげな眼差しをこちらへ向けて…―
=====
頷いたジルは、ふと愛しげな眼差しをこちらへ向けて…
ジル:亡くなってからは、
ジル:彼に私の好きなものを話すこともありませんでしたが…
ジル:今日、私が心から愛するものを伝えられました
(えっ、それって……)
期待から胸をときめかせると、ジルがからかうように問いかけた。
ジル:何だと思いますか?
吉琳:…っ
(…自分で言うのは少し恥ずかしいけれど……)
頬を熱くしながら、いたずらっぽく微笑む瞳に小さく答えを返す。
吉琳:私…ですか
ジル:ええ
ジル:貴女以上に愛しているものなどありませんよ
吉琳:ジル…
(大切に想ってもらえて嬉しいな…)
ジルの低い声が静かな海岸に響いて、身体中が火照っていく。
ジル:もし彼が生きていて、相手がプリンセスだと知ったら、
ジル:きっと大変驚かれるでしょう
吉琳:そうですよね。…プリンセスと教育係の恋愛は、本来禁止されているから…
(だからこそ、こうしてジルと過ごせることが、とても特別なことに感じる)
ジル:…ええ。ですが…―
=====
吉琳:そうですよね。…プリンセスと教育係の恋愛は、本来禁止されているから…
(だからこそ、こうしてジルと過ごせることが、とても特別なことに感じる)
ジル:…ええ。ですが…
ジル:彼なら認めるだろうとも思います。レナルド様は、そういう方ですから
ジルの言葉から、レナルド様への信頼の気持ちが伝わってくる。
(そうだったらいいな)
(ジルの大切な方には、やっぱり認めてもらいたいから)
ジル:まあ…もし反対されても、この想いを諦めるつもりはありませんが
ジルは慈しむように私を見つめ、潮風に揺れる髪をそっと撫でた。
ジル:もう引き返せないほど、貴女を愛しています
吉琳:ジル……
告げられた大きな愛が、身体全体を優しく包み込んでいく。
(私も…もうジルへの気持ちを消すことなんて出来ない)
吉琳:私も諦めません。…一生、ジルの側にいます
揺るぎない想いを込めてそう告げると、ジルは笑顔で私を抱き寄せる。
(この想いを貫き通して、二人で幸せになりたい)
優しい潮風に包まれ、寄せては返す波の音を聞きながら、
背中に回した手の平に、私はそっと力をこめた…―
fin.
エピローグEpilogue:
彼の思い出を知った夜、温かな想いに包まれながら、
その腕に抱かれて…―
ジル:このまま眠らせることは、出来そうにありません
ジルの淡い触れ方に、どうしようもないほど鼓動が高鳴って…
ジル:私の願いは、あなたの望みを叶えることです
ジル:ですから…次は、どうして欲しいですか?
彼の優しく深い愛情に満たされて、身も心も一つになる…―
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